説明

インクジェット記録媒体

【課題】コックリングや裏抜けを抑制すると共に、強度とインク吸収性が低下しないインクジェット記録媒体を提供する。
【解決手段】木材パルプを抄紙してなる基紙の両面に中空粒子の水分散液を含浸させることによって、木材パルプ間に中空粒子を分散させた紙支持体を得、その少なくとも片面にインク受容層を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインクジェット記録媒体に関し、特にコックリングやインクの裏抜けの少ないインクジェット記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式はフルカラー化が容易で印字騒音が少なく、その印字性能も急速に向上している。このようなことから、インクジェット記録方式は多方面に利用されている。例えば、文書作成ソフトからの文書記録、デジタル写真などのデジタル画像の記録の他、銀塩写真や書籍などの美麗な印刷体をスキャナで取り込んで複製したり、ポスターなどの比較的少枚数の展示用画像作成にもインクジェット記録方式が適用されている。
そして、これらの用途に応じた構成のインクジェット記録媒体が提案されている。例えば、文書記録の場合は基紙上に直接記録する記録媒体が用いられる。又、デジタル画像記録や美麗な印刷体の複製等、銀塩写真に匹敵する解像度と色再現性が要求される場合は、インク受容層(塗工層)を有する塗工紙タイプの記録媒体が用いられる。特に、画像品質と共に光沢が要求される場合は、塗工層をキャスト方式で作成したキャスト紙タイプの記録媒体が用いられる。さらに、ポスターや展示用途の場合は、厚手の塗工層を有するロール状タイプの記録媒体が用いられる。
【0003】
ところで、インクジェット記録媒体は、プリンターより吐出されたインクを吸収することが必要である。インクの吐出量は、画像の色再現性が要求されるにつれて多くなるため、上記した塗工紙タイプの記録媒体が開発されている。しかしながら、インクの一部は実際にはインク受容層より内部の基紙中に浸透し、インク量が多くなるに従って、コックリングや、裏抜け(印字画像が紙の裏面から透けて見えること)などの問題が生じることがある。又、塗工層のない記録媒体の場合は、コックリングがさらに生じ易くなる。
コックリングとは、記録媒体の印字部に存在する水性インク中の溶媒や親水性成分によって紙の主成分であるセルロース繊維の繊維間水素結合が切断され、又はセルロース繊維自体が膨潤することにより、記録媒体の印字部分のみが伸長して波打つ現象である。又、コックリングが生じると、画像品質の低下や、インクジェット記録媒体の搬送性低下などの二次的な問題を引き起こす可能性がある。
【0004】
このようなことから、基紙の繊維間水素結合を減らして空隙を多くし嵩高とした技術が開示されている(例えば、特許文献1、2参照)。この技術によれば、基紙の空隙にインクが保持され、インクの裏抜けやコックリングが低減されると考えられる。
又、形状記憶樹脂である熱可塑性エラストマーを基紙に含浸させてコックリングを防止する技術が開示されている(例えば、特許文献3参照)。熱可塑性エラストマーはガラス転移温度(Tg)以上の温度でゴム弾性を示す。そのため、Tg以上の温度で紙を平坦化させて形状を記憶させれば、Tg以下で紙が変形してもTg以上に再加熱することで元の形状に戻すことができる。
一方、インク受容層に吸水性、インク吸収性の中空顔料を含有させる塗工紙タイプの記録媒体が開示されている(例えば、特許文献4参照)。
【0005】
【特許文献1】特開2002−103791号公報
【特許文献2】特開2004−066492号公報
【特許文献3】特開2002−219851号公報
【特許文献4】特許第3246061号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記した特許文献1、2記載の技術の場合、空隙が多く、紙表面の平滑度が低下すると共に、繊維間結合が減少した分、紙の強度が低下するという問題がある。
又、特許文献3記載の技術の場合、特殊な樹脂を基紙に含浸させた後、Tg以上の温度で長時間加熱し続けるため(例えば、70℃以上で30分以上)、生産性に難があり、又、樹脂を含浸するために基紙の空隙が埋まり、インク吸収性が劣る。
特許文献4記載の技術の場合、インク受容層より基紙側にインクが浸透した際に、やはりコックリングが生じるおそれがある。
従って、本発明の目的は、コックリングや裏抜けを抑制すると共に、強度とインク吸収性が低下しないインクジェット記録媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは種々検討した結果、基紙の木材パルプ繊維間に中空粒子又はお椀型粒子を分散させることにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。その理由は、基紙に浸透したインクの溶媒や親水性成分が基紙中の中空粒子やお椀型粒子の空隙に保持され、パルプ繊維間結合の切断や、繊維自体の膨潤が低減されるため、コックリングが防止されるものと考えられる。また、基紙に浸透したインクの溶媒や親水性成分は上記空隙に保持され、インクが基紙の裏面近傍まで浸透しなくなるため、裏抜けが抑制されると考えられる。
【0008】
すなわち、上記の目的を達成するために、本発明のインクジェット記録媒体は、木材パルプを抄紙してなる基紙の少なくとも片面にインク受容層を有し、該基紙の木材パルプの繊維間に中空粒子又はお椀型粒子が分散していることを特徴とする。
【0009】
前記中空粒子又はお椀型粒子の粒径が0.1μm以上20μm未満であることが好ましい。前記中空粒子又はお椀型粒子の空隙率が15%以上90%未満であることが好ましい。前記中空粒子又はお椀型粒子がプラスチックピグメントであることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、コックリングや裏抜けを抑制すると共に、強度とインク吸収性が低下しないインクジェット記録媒体が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態に係るインクジェット記録媒体について説明する。本発明の実施形態に係るインクジェット記録媒体は、木材パルプを抄紙してなる基紙の少なくとも片面にインク受容層を有し、該基紙の木材パルプの繊維間に中空粒子又はお椀型粒子が分散している記録媒体である。
【0012】
<基紙>
基紙に用いる木材パルプとしては、化学パルプ(針葉樹の晒または未晒クラフトパルプ、広葉樹の晒または未晒クラフトパルプ等)、機械パルプ(グラウンドパルプ、サーモメカニカルパルプ、ケミカルサーモメカニカルパルプ等)、脱墨パルプ等を単独で使用し又は任意の割合で混合して使用することができる。
基紙の抄紙方法は特に限定されず、公知の方法を用いることができる。又、抄紙時のpHは、酸性、中性、アルカリ性のいずれでもよい。また、基紙中に填料を含有させると、紙の不透明度が向上する傾向があるため、紙中に填料を含有させることが好ましい。填料としては、水和珪酸、ホワイトカーボン、タルク、カオリン、クレー、炭酸カルシウム、酸化チタン、合成樹脂填料等の公知の填料を使用することができる。さらに基紙に、必要に応じて硫酸バンド、サイズ剤、紙力増強剤、歩留まり向上剤、着色剤、染料、消泡剤、pH調整剤等の助剤を含有してもよい。なお基紙の坪量は特に制限されない。
【0013】
<中空粒子又はお椀型粒子>
図1は、基紙の木材パルプの繊維間に、以下に述べる中空粒子が分散している状態を示す。この図において、木材パルプの繊維2,2が交差しており、繊維2,2間に多数の中空粒子4が分散している。
中空粒子は、有機物又は無機物がほぼ球形の外殻を形成し、内部が空孔となっているものであり、外殻の一部が開口するものや、外殻の一部が凹んだものも含まれる。又、お椀型粒子は有機物又は無機物がほぼ球形の外殻を形成するが、外殻が大きく欠損して開口し、お椀のような形状となっているものをいい、例えば、中空重合体粒子の一部を平面で断裁して得られるような開口部を有する構造を持つ。
そして、中空粒子又はお椀型粒子は、通常は溶媒に分散された状態で取り扱われ、溶媒中では粒子の中空部分(空隙)に溶媒が充填されているが、溶媒が蒸発すると粒子内部が空洞となるため、液体に対する吸収能を有する。なお、中空粒子の外殻は密ではなく、外殻のわずかな孔や隙間から粒子内の空洞に液体を吸収できる。
【0014】
なお、中空粒子又はお椀型粒子の存在は、基紙の断面の電子顕微鏡写真において、空孔を有する粒子、または穴の開いた粒子として確認することができる。図2は、基紙の木材パルプの繊維間に分散している中空粒子を示す拡大図である。この図において、中空粒子4の中央部に凹み4aが存在することがわかる。
【0015】
一般的な中空粒子又はお椀型粒子としては、中空プラスチックピグメント;お椀型プラスチックピグメント;無機粒子であるバテライト、ゾノトライト、アルミナ中空粒子、セラミック中空粒子、シリカ系中空粒子;等が挙げられる。安定した品質のものが容易に入手しやすいという点で、中空粒子又はお椀型粒子として、中空又はお椀型のプラスチックピグメントを用いることが好ましい。有機物系の中空またはお椀型のプラスチックピグメントとしては、スチレン−アクリル系共重合体を外殻とするものが挙げられる。プラスチックピグメントのうち、中空粒子の具体的な商品名としては、ニッポールMH5055(日本ゼオン株式会社製)、ローペイクHP1055(ローム・アンド・ハース社製)が挙げられる。お椀型粒子の具体的な商品名としては、ニッポールV1005(日本ゼオン株式会社製)が挙げられる。
【0016】
外殻が無機物である中空粒子又はお椀型粒子のうち、ゾノトライトは石灰と珪石を主原料とし、水熱合成して得られる珪酸カルシウムであり、日本インシュレーション社が商品を提供している。外殻がセラミックである中空粒子又はお椀型粒子は、例えば球状PMMA(ポリメタクリル酸メチル)の外面に、シリカ粉体を少量含むアルミナ粉体をコーティングした後、PMMAを熱分解することで形成することができる(特開2004-285394号公報、特開2004-284864号公報に製造方法が記載されている)。外殻が炭酸カルシウムである中空粒子又はお椀型粒子は、炭酸カリウム溶液を油相に加えてW/Oエマルションを作製し、このエマルションを塩化カルシウム水溶液に注ぐことにより、界面反応によって形成することができる(江前ら、第66回紙パルプ研究発表会(盛岡)講演要旨集、紙パルプ技術協会、p.142-147(1999年11月))。
【0017】
中空粒子又はお椀型粒子の粒子径は0.1μm以上20μm未満であることが好ましく、粒子径が0.3μm以上10μm未満であることがさらに好ましい。0.1μm未満であると、後述する中空粒子又はお椀型粒子の空隙率が非常に小さくなり、吸収能が劣るため、コックリングや裏抜けの抑制が不充分となる場合がある。一方、粒子径が20μmを超えると、粒子のサイズが大きくなり過ぎて基紙の平滑度が著しく低下するため、インクジェット記録の印字品質が劣化する場合がある。なお、中空粒子又はお椀型粒子が中空プラスチックピグメントやお椀型プラスチックピグメントの場合は、粒子径が5μm以下であることが好ましい。
中空粒子又はお椀型粒子の空隙率は15%以上90%未満であることが好ましく、空隙率が20%以上70%未満であることがさらに好ましい。空隙率が15%未満であると、空孔の容積が非常に小さくなり、吸収能が低下するため、コックリングや裏抜けの防止が不充分となる場合がある。一方、空隙率が90%を超えると、粒子の外殻が非常に弱くなって外殻の破壊や変形が起こりやすくなり、結果として空孔が減少するので、コックリングや裏抜けの防止が不充分となる場合がある。
なお、粒子径は、個々の中空粒子又はお椀型粒子の最大粒子径を透過型電子顕微鏡を用いて測定し、200個の粒子の平均値を求めた値である。又、空隙率は、個々の粒子の最大粒子径と空孔の最大径とを透過型電子顕微鏡を用いて測定し、200個の粒子の平均値を求めた値である。
【0018】
基紙中に中空粒子又はお椀型粒子を分散させる方法は特に限定されないが、基紙の表面に、中空粒子又はお椀型粒子を含有した溶液をポンド式サイズプレス等で含浸させることが好ましく、又はゲートロールコーター、ブレードコーター等で基紙の表面に上記溶液を塗布することが好ましい。ここで、上記溶液中に結着剤やサイズ剤等の助剤を任意の割合で混合することができる。なお、上記した含浸又は塗布による場合、基紙の表面側により多くの中空粒子又はお椀型粒子が分散するが、通常、基紙の中心部分には中空粒子又はお椀型粒子がほとんど含まれない。
なお、中空粒子を基紙に内添する場合、紙中に中空粒子をとどめておくことが難しく、製造コストが増大する場合がある。また、中空粒子を内添すると、紙料(パルプの分散液)が泡立ち、生産性が低下する場合がある。従って、上記含浸または塗布を行うことが好ましい。
【0019】
中空粒子又はお椀型粒子は、インクジェット記録媒体に乾燥質量で0.1g/m以上10g/m未満含有されていることが好ましく、0.5g/m以上8g/m未満含有されていることがさらに好ましい。上記した含有量が0.1g/m未満であると、コックリングや裏抜けの防止が不充分となる場合があり、一方、含有量が10g/mを超えると、基紙の吸収能が著しく増大し、均一なインク受容層を設けるのが困難になる。
【0020】
<インク受容層>
基紙の少なくとも片面にインク受容層が形成される。インク受容層はインクを吸収し固定化することにより画像形成する機能を持ち、目的とする画像品質の程度により、公知のインク受容層の構成から適宜選択すればよい。特に、高光沢の写真調の画像再現を目的とする場合、インク受容層をキャスト法によって形成することが好ましい。
インク受容層は、通常、吸油性の高い顔料、結着剤(バインダー)、及びインクを固定化し耐水性を向上させるカチオン性高分子を主な成分として含み、基紙上に塗工することによってインク受容層を設けることができる。
(顔料)
顔料としては、一般に合成非晶質シリカが用いられるが、アルミナやアルミナ水和物(アルミナゾル、コロイダルアルミナ、擬ベーマイト等)も好ましく使用される。これらの顔料に加え、珪酸アルミニウム、珪酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、カオリン、タルク、硫酸カルシウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、炭酸亜鉛、珪酸カルシウム、水酸化アルミニウム、及びプラスチックピグメントから選ばれる1種又は2種以上を併用することもできる。
インク吸収性はインク受容層の塗工量が多い程高くなるが、塗工量が多過ぎると乾燥後に粉落ちが生じる。従って、粉落ちが生じない範囲の塗工量でインク吸収性を確保するためには、顔料の平均吸油量が高いことが好ましく、特に平均吸油量100〜300cc/100gの顔料を使用することが好ましい。平均吸油量とは、吸油量が異なる顔料を複数用いた場合は、それらの加重平均値を採用する。又、吸油量はJIS−K5101の方法で測定する。
【0021】
(結着剤)
結着剤としては、例えばポリビニルアルコール及びその変性物;酸化澱粉やエーテル化澱粉等の澱粉類;カゼイン;ゼラチン;カルボキシメチルセルロース;SBラテックス;NBラテックス;アクリルラテックス;エチレン酢酸ビニル系ラテックス;ポリウレタン;酢酸ビニル;不飽和ポリエステル樹脂等の公知のバインダーの中から1種又は2種以上を適宜選択して使用することができる。
【0022】
(その他の成分)
また、インク受容層には、必要に応じて、顔料分散剤、増粘剤、消泡剤、抑泡剤、離型剤、発泡剤、着色染料、着色顔料、蛍光染料、防腐剤、耐水化剤、界面活性剤、pH調整剤等の助剤を適宜添加することができる。
【0023】
インク受容層を基紙上に設ける方法としては、一般的な塗工装置である、ブレードコーター、ロールコーター、エアーナイフコーター、バーコーター、ゲートロールコーター、カーテンコーター、ショートドゥエルコーター、グラビアコーター、フレキソグラビアコーター、スプレーコーター、サイズプレス等の各種装置を、オンマシンまたはオフマシンで用いる方法が挙げられる。さらに、インク受容層を設けた後にマシンカレンダー、スーパーカレンダー、ソフトカレンダー、シューカレンダー等のカレンダー装置で表面処理することもできる。また、インク受容層をキャスト法によって形成してもよい。
【0024】
<キャスト法>
インク受容層(キャスト層)は以下のキャストコート法により設けられ、これにより高い光沢を有するインクジェット記録媒体を得ることができる。
まず、顔料と結着剤とを主成分とする塗工液を支持体上に塗工してキャスト層となる塗工層を設け、湿潤し可塑状態の塗工層をキャストドラム(鏡面仕上げの面)に押し当て、光沢仕上げしてキャスト層を形成する。キャストコート法としては、(1)塗工層が湿潤状態にある間に鏡面仕上げした加熱ドラムに圧着して乾燥するウェットキャスト法(直接法)、(2)湿潤状態の塗工層を一旦(半)乾燥した後に再湿潤液により膨潤可塑化させ、鏡面仕上げした加熱ドラムに圧着し乾燥するリウェットキャスト法(再湿潤法)、(3)湿潤状態の塗工層を凝固処理によりゲル状態にして、鏡面仕上げした加熱ドラムに圧着し乾燥するゲル化キャスト法(凝固法)、の3種類に分けることができる。
【0025】
本発明においては、上記直接法、凝固法、再湿潤法のうちいずれを用いてもよいが、高い光沢を得られるという点から凝固法が好ましい。
【0026】
<実施例>
以下に本発明を実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。又、実施例において示す「部」及び「%」は特に明示しない限り、質量部及び質量%を示す。
なお、以下の中空粒子又はお椀型粒子は、いずれもスチレンーアクリル系共重合体を組成とする。
【実施例1】
【0027】
<基紙の作製>
広葉樹漂白クラフトパルプ(濾水度480ml)70%と針葉樹漂白クラフトパルプ(濾水度500ml)30%とを混合し、この混合パルプに対してカチオン化澱粉0.5%、アルキルケテンダイマー0.05%、硫酸バンド2%、炭酸カルシウム10%を添加して紙料とした。この紙料を用いて長網抄紙機で紙匹を形成し、3段のウェットプレスを行った後、乾燥して原紙を作製した。
次に、原紙の両面に、以下の水分散液をポンド式サイズプレスにより、中空粒子の乾燥質量が両面合計で1g/mとなるように含浸させ、乾燥した後、マシンカレンダー処理して、坪量80g/mの基紙を得た。
水分散液:中空粒子として粒子径1μm、空隙率55%の中空プラスチックピグメント(ローペイクHP1055:ローム・アンド・ハース社製)5%と、消泡剤(SNデフォーマー480:サンノプコ社製)0.5%を水に分散した。
【0028】
<インク受容層の形成>
上記基紙の片面に、ブレードコーターを用いて以下の塗工液を乾燥塗工量8g/mとなるように塗工した。次に、紙中水分率が5%となるまで乾燥し、線圧100kgf/cmの条件でソフトカレンダー処理してインクジェット記録媒体を得た。
塗工液:合成非晶質シリカ(ファインシールX−60:トクヤマ社製)80部、合成非晶質シリカ(ファインシールX−37B:トクヤマ社製)20部、ポリビニルアルコール(PVA117:クラレ社製)30部、エチレン酢酸ビニルエマルジョン5部、ポリアミン系染料定着剤10部、消泡剤(SNデフォーマー480:サンノプコ社製)0.5部、および希釈水を混合し、固形分15%の塗工液を調製した。
【実施例2】
【0029】
サイズプレスにおける中空粒子の乾燥質量が両面合計で4g/mとなるように含浸したこと以外は、実施例1と全く同様にして、インクジェット記録媒体を得た。
【実施例3】
【0030】
サイズプレスにおける中空粒子の乾燥質量が両面合計で8g/mとなるように含浸したこと以外は、実施例1と全く同様にして、インクジェット記録媒体を得た。
【実施例4】
【0031】
サイズプレスにおける水分散液中の中空粒子として、上記ローペイクHP1055の代わりに、粒子径0.5μm、空隙率55%の中空プラスチックピグメント(ニッポールMH5055:日本ゼオン社製)を用いたこと以外は、実施例2と全く同様にして、インクジェット記録媒体を得た。
【実施例5】
【0032】
サイズプレスにおける水分散液中の中空粒子として、上記ローペイクHP1055の代わりに、粒子径0.35μm、空隙率35%の中空プラスチックピグメントを用いたこと以外は、実施例2と全く同様にして、インクジェット記録媒体を得た。
【実施例6】
【0033】
サイズプレスにおける水分散液中の中空粒子として、上記ローペイクHP1055の代わりに、粒子径0.55μm、空隙率25%の中空プラスチックピグメント(ローペイクOP84J:ローム・アンド・ハース社製)を用いたこと以外は、実施例2と全く同様にして、インクジェット記録媒体を得た。
【実施例7】
【0034】
サイズプレスにおける水分散液中の中空粒子として、上記ローペイクHP1055の代わりに、粒子径1.1μm、空隙率55%の中空プラスチックピグメントを用いたこと以外は、実施例2と全く同様にして、インクジェット記録媒体を得た。
【実施例8】
【0035】
サイズプレスにおける水分散液中の中空粒子である上記ローペイクHP1055の代わりに、お椀型粒子として粒子径0.8μm、空隙率55%相当のお椀型プラスチックピグメント(ニッポールV1005:日本ゼオン社製)を用いたこと以外は、実施例2と全く同様にして、インクジェット記録媒体を得た。
【0036】
<比較例1>
サイズプレスにおける水分散液中の中空粒子である上記ローペイクHP1055の代わりに、密実粒子(内部に空孔がない粒子)として粒子径0.32μmの密実プラスチックピグメント(ニッポールV1004:日本ゼオン社製)を用いたこと以外は、実施例2と全く同様にして、インクジェット記録媒体を得た。
【0037】
<比較例2>
サイズプレスにおける水分散液中の中空粒子である上記ローペイクHP1055の代わりに、密実粒子として粒子径0.25μmの密実プラスチックピグメントを用いたこと以外は、実施例2と全く同様にして、インクジェット記録媒体を得た。
【0038】
<比較例3>
サイズプレスにおける水分散液中の中空粒子である上記ローペイクHP1055の代わりに、密実粒子として粒子径0.20μmの密実プラスチックピグメントを用いたこと以外は、実施例2と全く同様にして、インクジェット記録媒体を得た。
【0039】
<比較例4>
サイズプレスにおける水分散液中に上記ローペイクHP1055を配合しなかったこと以外は、実施例1と全く同様にして、インクジェット記録媒体を得た。
【0040】
<評価>
1.コックリング
各インクジェット記録媒体のコックリングの程度を以下の方法で判定した。まず、表計算ソフト(エクセル)を用いて帯状の緑ベタ画像(幅15mm、長さ150mm)をインクジェットプリンター(セイコーエプソン社製、PM−G820)を用いて各インクジェット記録媒体に印字した。プリンターの印字モードは、「フォトマット紙/高精細」モードとした。
印字後の記録媒体を目視評価し、コックリング(波打ち具合)を判定した。
○:波打ちが小さく、凹凸はほとんどみられない。
×:波打ちが大きく、凹凸が目立つ。
2.裏抜け
上記コックリングの判定に用いた印字後の記録媒体を裏から目視し、インクの透け具合(裏抜け)を判定した。
○:裏抜けが殆どなく、印字画像も見えない。
△:裏抜けが若干あるが、印字画像は見えない。
×:裏抜けがあり、印字画像が透けて見える。
【0041】
3.強度
実施例2、及び比較例4のインクジェット記録媒体の印字前の強度を、フラクチャー・タフネス・テスター(ローレンツェン・アンド・ベットレー社製のSE−064)を用い、JIS−P8113に準拠した引張強度測定法により測定した。
4.白色度
実施例2、及び比較例4のインクジェット記録媒体の白色度を、分光光度計(村上色彩技術研究所製のCMS−35SPX)を用い、JIS−P8148に準拠した白色度測定法により測定した。
5.インク吸収性
実施例2、及び比較例4の各インクジェット記録媒体に対し、インクジェットプリンター(セイコーエプソン社製のPM−G820、「フォトマット紙/高精細」モードで印字)を用いて緑ベタ帯を印字し、印字直後の印字部表面を目視観察した。以下の基準でインク吸収性を評価した。
○:インクが完全に吸収されており、印字部に濡れによる光沢はみられない。
×:インクが吸収されておらず、印字部に濡れによる光沢がみられる。
【0042】
6.印字画質
実施例2、及び比較例4の各インクジェット記録媒体に対し、インクジェットプリンター(セイコーエプソン社製のPM−G820、「フォトマット紙/高精細」モードで印字)を用いて任意の画像を印字し、印字画像の画質を目視観察した。以下の基準で印字画質を評価した。
○:あざやかでにじみがなくはっきりした画像である。
×:濃度が薄くにじみがあり、ぼやけた画像である。
6.不透明度
実施例2、及び比較例4のインクジェット記録媒体の不透明度を、分光光度計(村上色彩技術研究所製のCMS−35SPX)を用い、JIS−P8149に準拠した不透明度測定法により測定した。
不透明度の値が大きいほど、裏抜けが少なくなる。
【0043】
得られた結果を表1に示す。
【0044】
【表1】

【0045】
表1から明らかなように、各実施例の場合、コックリングや裏抜けを抑制すると共に、強度とインク吸収性の低下はみられなかった。又、各実施例の場合、白色度及び不透明度も優れていた。
【0046】
一方、中空粒子の代わりに、粒子内部に空孔のない密実粒子を基紙に含浸させた比較例1〜3の場合、コックリングと裏抜けを抑制できなかった。
又、中空粒子を基紙に含浸させなかった比較例4の場合も、コックリングと裏抜けを抑制できなかった。
【0047】
なお、実施例2の試料は、通常のインクジェット記録用塗工紙である比較例4の試料と同等の強度を有していた。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】基紙の木材パルプの繊維間に中空粒子が分散している状態を示す図である。
【図2】基紙の木材パルプの繊維間に分散している中空粒子を示す拡大図である。
【符号の説明】
【0049】
2 木材パルプの繊維
4 中空粒子
4a 中空粒子の凹み

【特許請求の範囲】
【請求項1】
木材パルプを抄紙してなる基紙の少なくとも片面にインク受容層を有し、該基紙の木材パルプの繊維間に中空粒子又はお椀型粒子が分散していることを特徴とするインクジェット記録媒体。
【請求項2】
前記中空粒子又はお椀型粒子の粒径が0.1μm以上20μm未満であることを特徴とする請求項1記載のインクジェット記録媒体。
【請求項3】
前記中空粒子又はお椀型粒子の空隙率が15%以上90%未満であることを特徴とする請求項1又は2記載のインクジェット記録媒体。
【請求項4】
前記中空粒子又はお椀型粒子がプラスチックピグメントであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のインクジェット記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−90608(P2007−90608A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−281452(P2005−281452)
【出願日】平成17年9月28日(2005.9.28)
【出願人】(000183484)日本製紙株式会社 (981)
【Fターム(参考)】