説明

インクジェット記録媒体

【課題】ピットやトラレ等の表面欠陥がない、キャスト処理により製造されるインクジェット記録媒体を提供することである。
【解決手段】透気性の支持体上に少なくとも1層のインク受理層を設け、最上のインク受理層が再湿潤液を用いてキャスト処理をして製造されるインクジェット記録媒体において、再湿潤液が保水性改良剤を含むインクジェット記録媒体により達成できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はピットやトラレ等の表面欠陥がない、キャスト処理により製造されるインクジェット記録媒体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、インクジェットプリンターやプロッターの目覚ましい進歩により、フルカラーでしかも高精細な画像が容易に得られるようになってきた。
【0003】
インクジェット記録方式は、種々の動作原理によりインクの微小液滴を飛翔させて紙等の記録媒体に付着させ、画像・文字等の記録を行うものである。インクジェットプリンターやプロッターはコンピューターにより作成した文字や各種図形等の画像情報のハードコピー作成装置として、種々の用途において近年急速に普及している。特に多色インクジェット記録方式により形成されるカラー画像は製版方式による多色印刷やカラー写真方式による印画に比較しても遜色のない記録を得ることが可能であり、さらに作成部数が少ない用途においては、印刷技術や写真技術よりも安価で済むことから広く応用されている。特に近年の急速なデジタル化、デジタルカメラの普及に伴い、インクジェット記録方式はそのデジタルデータの出力用途、すなわち銀塩写真方式の代替として使用されるようになってきている。
【0004】
特に、近年のインクジェットプリンター技術進展に伴い、インクジェット記録が銀塩写真方式の代替として使用されるようなってきたことを受け、光沢感が付与され、良好な面質を有するインクジェット記録媒体が多用されるようになってきた。光沢感を有する主なインクジェット記録媒体として、キャスト塗被紙が提案されている(例えば、特許文献1および2参照)。しかし、この技術により製造されたインクジェット記録媒体は、高光沢感を有するものの、塗工層表面にはピット(微小なピンホール状の凹み欠陥)やトラレ(キャストドラム表面に塗工層の一部が付着する剥離不良)等の表面欠陥がない良好な面質を有するものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平2−274587号公報
【特許文献2】特開2008−246964号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、ピットやトラレ等の表面欠陥がない、キャスト処理により製造されるインクジェット記録媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この課題を解決するために検討を行った結果、透気性の支持体上に少なくとも1層のインク受理層を設け、支持体からみて最上のインク受理層が再湿潤液を用いたキャスト処理によって製造されるインクジェット記録媒体において、再湿潤液が保水性改良剤を含有することを特徴とするインクジェット記録媒体によって達成される。
【0008】
好ましくは、再湿潤液がコロイダルシリカを含有する。
【0009】
また好ましくは、保水性改良剤がアルカリ増粘型アクリル系樹脂である。
【発明の効果】
【0010】
本発明により従来得ることができなかったピットやトラレ等の表面欠陥がないインクジェット記録媒体が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明のインクジェット記録媒体を詳細に説明する。
【0012】
本発明のインクジェット記録媒体は、透気性の支持体上に少なくとも1層のインク受理層を設け、再湿潤液により最上のインク受理層を再湿潤させ、キャスト処理をして製造される。本発明に用いるキャスト処理とは、透気性の支持体に塗布されたインク受理層の塗工組成物を一旦乾燥、または半ば乾燥した後、再湿潤液をインク受理層に接触させることにより再び可塑性を有した状態に戻した後、加熱されたキャストドラムに圧着し、インク受理層表面にキャストドラムの鏡面を写し取るいわゆるリウェット法である。リウェット法は、塗工組成物を塗布後そのままキャスト処理する所謂直接法に比べて製造安定性に優れるものの、一旦乾燥または半ば乾燥したインク受理層を再び可塑性を有した状態にさせる液量と、かつインク受理層がキャストドラムに焦げ付かないようにする表面水の液量を制御することが重要である。
【0013】
透気性の支持体としては、例えば、上質紙、中質紙、コート紙、アート紙、キャストコート紙、箔紙、クラフト紙、バライタ紙、含浸紙、蒸着紙、水溶性紙等の紙基材であることが好ましい。また、透気性を有する樹脂シート類も用いることができる。
【0014】
前記紙基材は、木材パルプを主成分とし、必要に応じて填料を含有することにより形成される。木材パルプは、各種化学パルプ、機械パルプ、再生パルプ等を使用することができる。これらのパルプは、叩解機で叩解度(フリーネス)を調整することにより、紙力、抄紙適性等を制御することができる。パルプの叩解度は、特に限定しないが、平滑性を高めるためには叩解度を進める方が望ましい。また、ECF、TCFパルプ等の塩素フリーパルプを好ましく使用できる。
【0015】
前記填料は、不透明性の付与やインク吸収性等を調整する目的で配合され、シリカ、焼成カオリン、ゼオライトなどの多孔質顔料や、炭酸カルシウム、クレー、タルク、カオリン、二酸化チタン等が使用できる。中でも、特に炭酸カルシウムは白色度が高い紙基材となり好ましい。
【0016】
前記紙基材には、助剤としてサイズ剤、定着剤、紙力増強剤、カチオン化剤、歩留り向上剤、染料、蛍光増白剤等を添加することができる。さらに、抄紙機のサイズプレス工程において、顔料、デンプン、ポリビニルアルコール類、カチオン樹脂、アニオン樹脂等を塗布・含浸させ、表面強度、サイズ度等を調整できる。紙基材の坪量は、特に限定しないが、60〜230g/mが好ましい。
【0017】
なお、前記紙基材の片面または両面には必要に応じて、一般の塗工紙用塗工組成物を、予備塗工しておいても良く、その場合の塗工量は片面当り固形分で5〜30g/m程度が望ましい。さらに、必要に応じてこの予備塗工した紙基材をインク受理層の塗工前にマシンカレンダー、TGカレンダー、ソフトカレンダー等のカレンダー装置を使用して平坦化仕上げを行ってもよい。
【0018】
本発明は、少なくとも1層のインク受理層を設ける。支持体からみて最上のインク受理層は、顔料およびバインダーを主成分とする塗工組成物により形成される。
【0019】
最上のインク受理層の塗工組成物に含有される顔料としては、特に限定されるものではないが、例えば軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、カオリン、タルク、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、硫化亜鉛、炭酸亜鉛、サチンホワイト、珪酸アルミニウム、ケイソウ土、珪酸カルシウム、珪酸マグネシウム、合成非晶質シリカ、コロイダルシリカ、アルミナ、アルミナ水和物、コロイダルアルミナ、水酸化アルミニウム、リトポン、ゼオライト、加水ハロイサイト、水酸化マグネシウム等の無機顔料、スチレン系プラスチックピグメント、アクリル系プラスチックピグメント、ポリエチレン、尿素樹脂、メラミン樹脂等の有機顔料が挙げられる。支持体からみて最上のインク受理層の塗工組成物に含有される顔料は、特に高い光沢感を得られることから合成非晶質シリカ、コロイダルシリカ、アルミナ、アルミナ水和物、コロイダルアルミナが好ましい。
【0020】
また、最上のインク受理層の塗工組成物に含有されるバインダーとしては、例えば、カゼイン、ゼラチン、大豆蛋白、エーテル化澱粉、リン酸エステル化澱粉等の澱粉誘導体、カルボキシルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース誘導体の天然高分子またはその誘導体、各種鹸化度のポリビニルアルコールまたはそのシラノール変性体、カルボキシル変性体、カチオン変性体等の各種誘導体、ポリエチレングリコール、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン、水溶性メラミン樹脂、尿素樹脂、ポリ尿素ポリアミド樹脂等の各種水溶性合成高分子またはそのカルボキシル変性体、アミド変性体、カチオン変性体等の誘導体、並びにスチレン−ブタジエン系、アクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステル系、エチレン−酢酸ビニル系、ポリウレタン系等の合成高分子エマルジョン、ラテックスまたはそのカルボキシル、アミド、各種アミン基による変性体等の変性誘導体が挙げられる。特に、高い光沢感を得ることができる前記顔料に対して混和性に優れるポリビニルアルコールまたはそのシラノール変性体、カルボキシル変性体、カチオン変性体等の各種誘導体が好ましい。
【0021】
最上のインク受理層の塗工組成物におけるバインダーの配合割合は、顔料100質量部に対し、5〜70質量部、好ましくは5〜50質量部である。顔料100質量部に対するバインダーの配合割合が5質量部未満であると、インク受理層の塗膜強度が不足することがある。一方、上記の配合割合が70質量部を超えると、インク吸収性が低下して良好な画像品質が得られないことがある。
【0022】
なお、支持体上に設けるインク受理層の層数は、必要に応じて適宜に決定することができる。その際、最上のインク受理層から支持体側に位置するインク受理層は、最上のインク受理層と異なる配合でもよく、前記最上の塗工層に用いることができる顔料やバインダーから適宜選択できる。
【0023】
インク受理層の塗工組成物には、例えば、染料定着剤、顔料分散剤、増粘剤、流動性改良剤、消泡剤、抑泡剤、離型剤、発泡剤、浸透剤、着色染料、着色顔料、蛍光増白剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、防腐剤、防バイ剤、耐水化剤、湿潤紙力増強剤、乾燥紙力増強剤などの各種添加剤を適宜配合することができる。
【0024】
インク受理層の塗工組成物の塗工には、例えば、各種ブレードコーター、ロールコーター、エアーナイフコーター、バーコーター、ロッドブレードコーター、カーテンコーター、ショートドウェルコーター、サイズプレス、スプレーなどの各種装置をオンマシンあるいはオフマシンで用いることができる。
【0025】
インク受理層の塗工組成物の塗工量は、要求される光沢、支持体の種類等により異なるので一概には言えないが、通常は各層がそれぞれ固形分で5g/m以上30g/m以下、合計では5g/m以上40g/m以下が好ましい。またインク受理層の塗工後に、例えば、マシンカレンダー、TGカレンダー、ソフトカレンダー等のカレンダー装置を使用してインク受理層の平坦化仕上げを行ってもよい。
【0026】
本発明において、インク受理層の乾燥を行う場合には、例えば、熱風ドライヤー、エアーホイルドライヤー、エアーキャップドライヤー、シリンダードライヤー、赤外線ドライヤー等の各種乾燥装置を使用して常法に従って行なえばよい。
【0027】
本発明の再湿潤液は、保水性改良剤を含有する。保水性改良剤とは再湿潤液中で水分を保持し、再湿潤液からの水分の移動を抑制するものである。本発明において再湿潤液の保水性は、AA−GWR Water Retention Meter(Kaltec Scientific社製)を用い、孔径0.05μmのミリポアフィルター上に内径面積8cmの筒を置き、筒内の滴下した10ccの再湿潤液に50kPaの圧力を60秒間かけ、ミリポアフィルター下に用意した濾紙に吸水された水分量から算出される数値(g/m)である。この数値が低いほど、再湿潤液の保水性が高いことを示す。再湿潤液の保水性が過小である場合(数値が高い場合)、再湿潤液の塗工後に再湿潤液中の水分が支持体からみて最上のインク受理層表面でとどまらず、インク受理層や支持体へ浸透、移動し、インク受理層の再び可塑性を有した状態が過度に起こりキャスト処理前に塗工表面の平滑性が損なわれ、キャスト処理後にピットやトラレが発生する。また、支持体が紙基材であった場合、再湿潤液の水分が過度に支持体に浸透すると支持体がぼこつき、結果塗工表面の平滑性が損なわれピットやトラレの発生原因になることもある。一方、再湿潤液の保水性が過大である場合(数値が低い場合)、インク受理層の再び可塑性を有した状態が十分に起こらずキャストドラムに焦げ付き、キャスト処理できない。本発明は、再湿潤液が保水性改良剤を含有することで、再湿潤液に適度な保水性を持たせてインク受理層に対する再湿潤液の浸透を制御することにより、ピットやトラレ等の表面欠陥の発生を抑制したインクジェット記録媒体を得ることができる。
【0028】
本発明において、再湿潤液に含まれる保水性改良剤の含有量については特に限定されない。ピットやトラレ等の表面欠陥のないインクジェット記録媒体を得るために、再湿潤液の保水性が150g/m以上500g/m以下の範囲となる含有量が好ましく、インク吸収性の点でより少ない含有量でこの範囲になることがより好ましい。再湿潤液の保水性が前記範囲にあれば、保水性改良剤の含有量は再湿潤液の塗工方式等の条件に合わせて適宜最適化することができる。再湿潤液の保水性は、より好ましくは200g/m以上400g/m以下の範囲である。保水性が500g/m超であると、再湿潤液の水分が急激に支持体へ浸透し、平滑性が損なわれ、ピットやトラレ等が発生する場合がある。また、保水性が150g/m未満であると、インク受理層の再び可塑性を有した状態が十分に起こらず良質な面感が得られないことがある。
【0029】
本発明に用いることができる保水性改良剤としては、例えば、アルギン酸ナトリウム、カルボキシルメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリエーテル系樹脂、ウレタン変性ポリエーテル系樹脂、ポリアクリルアミドや、ポリアクリル酸、変性ポリアクリル酸、変性ポリアクリル酸ナトリウム等のアクリル系樹脂などの親水性樹脂が挙げられる。好ましくは、アルカリ増粘型アクリル系樹脂である。アルカリ増粘型アクリル系樹脂は、再湿潤液をインク受理層に供給した後、少ない含有量で再湿潤液の保水性をより高めるために好ましい。
【0030】
本発明にかかるアルカリ増粘型アクリル系樹脂とは、pH7以上13以下において増粘する効果のある樹脂であり、(メタ)アクリル酸またはその塩、並びに(メタ)アクリル酸エステルの単量体を主体とし、カチオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤およびアニオン性界面活性剤から選択される少なくとも1種の存在下で乳化重合あるいは界面重合して得られたエマルジョンを主成分とする。アルカリ増粘型アクリル系樹脂には、非架橋型アルカリ可溶性エマルジョンや架橋型アルカリ膨潤性エマルジョンがあり、アンモニア水や水酸化ナトリウム等のアルカリ添加によって溶解や膨潤を起こし、樹脂と水分子との化学的な結合(水素結合)による作用や樹脂が水分子を含包する物理的な作用によって、液の粘度や保水性を高める効果を発揮する樹脂である。中でも、非架橋型のアルカリ可溶性エマルジョンを主成分とする非架橋型アルカリ増粘型アクリル系樹脂は再湿潤液の粘度が安定で、保水性が高く好ましい。
【0031】
これらアルカリ増粘型アクリル系樹脂は、例えばサンノプコ株式会社よりSNシックナー、アクゾノーベル株式会社よりアルコガムなどの名称で種々市販されており、各種入手することが可能である。
【0032】
本発明の再湿潤液はコロイダルシリカを含有することが好ましい。再湿潤液がコロイダルシリカを含有することにより、最上のインク受理層表面近傍に効率良くコロイダルシリカが分布し、より高い光沢感および良好な面感を得ることができる。
【0033】
本発明の再湿潤液に用いられるコロイダルシリカは、湿式法で合成された平均一次粒子径が5nm以上40nm以下の合成シリカであり、その形状は、一般的に球状または球状に近い形状をしているものが好ましい。平均一次粒子径が5nm以上40nm以下であるが、好ましくは5nm以上35nm以下、さらに好ましくは15nm以上30nm以下である。平均一次粒子径が40nmを超える場合はインクジェット記録媒体の光沢が低下し、良好な面質が得られないことがある。また平均一次粒子径が5nm未満の場合はインク吸収性が低下することがある。なお、コロイダルシリカの平均一次粒子径は、動的散乱法を用いて測定された値である。
【0034】
本発明の再湿潤液に用いるコロイダルシリカのイオン性はアニオン性であることが好ましい。インクジェットインクはアニオン性の色材を用いることが多く、インク定着性の点でインク受理層はカチオン性である場合が多い。コロイダルシリカとしてアニオン性コロイダシリカを用いることにより、コロイダルシリカがインク受理層と静電気的に結合し、トラレ等の表面欠陥のない良好な面質が得られ易くなる。
【0035】
再湿潤液に用いるコロイダルシリカの含有量は、インクジェット記録媒体が高い光沢感を有する良好な面質を得るために、再湿潤液中に総固形分に対して0.01質量%以上10質量%以下が好ましく、0.2質量%以上5質量%以下の範囲がさらに好ましい。0.01質量%未満の場合はコロイダルシリカが塗工面に十分に行き渡らず、ピットのある面質となる。あるいは十分な光沢感が得られないことがある。また10質量%を超える場合はコロイダルシリカの脱離が起こり、面質が悪化することがある。
【0036】
より良好な面質を得るためには、再湿潤液が保水性改良剤とコロイダルシリカの両方を含有することが好ましい。
【0037】
再湿潤液の塗工には、例えば、各種ブレードコーター、ロールコーター、エアーナイフコーター、バーコーター、ロッドブレードコーター、カーテンコーター、ショートドウェルコーター、サイズプレス、スプレーなどの各種装置を用いることができる。
【0038】
本発明における再湿潤液の塗工量は、固形分として0.01g/m以上3g/m以下であると、高い光沢感のある良好な面質のインクジェット記録媒体が得られ好ましい。より好ましくは0.1g/m以上1.5g/m以下である。
【0039】
本発明において、再湿潤液は界面活性剤を含有することが好ましい。再湿潤液に界面活性剤を添加することで、再湿潤液のインク受理層への付着が均一となり、最終的に形成される面の光沢感の均一性が格段に向上する。ここで用いられる界面活性剤は、コロイダルシリカと保水性改良剤との混和性に問題がなければ特に制限はなく、通常一般的な界面活性剤、例えば、ビス(2−エチルヘキシル)スルホコハク酸ナトリウム等のジアルキルスルホコハク酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルサルフェートのアンモニウム塩、ドデシルベンゼルスルホン酸ナトリウム、ラウリン酸ナトリウムなどの陰イオン界面活性剤、脂肪酸アミン塩、第四級アンモニウム塩、スルホニウム塩、ホスホニウム塩などの陽イオン界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、アセチレングリコールなどの非イオン性界面活性剤などが使用できる。特にアセチレングリコールは、再湿潤液が起泡することなく、インク受理層表面に均一に付着せしめ、適切な可塑化効果を付与することが可能であることから好ましい。
【0040】
キャストドラムからの剥離性を向上することを目的に油性物質または油性物質の水性分散物等の離型剤を、本発明のインク受理層の塗工組成物や再湿潤液に添加するあるいはキャスト処理に先立ち塗工するなどでインク受理層に含有させることができる。離型剤が含有することにより長時間にわたり安定した製造が可能になり、好ましい。本発明において離型剤として用いることができる物質の例としては、ジメチルオクチルアミン、ジメチルオクタデシルアミン等の高級アルキルアミンまたはそれらの塩、トリメチルオクチルアンモニウムクロリド、トリメチルオクタデシルアンモニウムクロリドなどの高級アルキル四級アンモニウム塩、オレイン酸、ステアリン酸、カプリル酸などの高級カルボン酸またはそれらの塩、オクチルアルコール、オクタデシルアルコールなどの高級アルコール、流動パラフィン、ポリエチレンワックス、シリコーン油などが挙げられる。
【実施例】
【0041】
以下に本発明を、実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。実施例において示す「部」および「%」は特に明示しない限り質量部および質量%を示す。
【0042】
(実施例1)
[インク受理層塗工組成物1の調製]
水350部に四ホウ酸ナトリウム十水和物6部(HBO換算で0.97部)を溶解し、ここに湿式合成シリカ(トクヤマ社製ファインシールX−37B)100部を添加した後ノコギリ型ブレードを有する分散機を用いて十分に分散した。次いで固形分48%のスチレン−ブタジエン(SBR)ラテックス(JSR社製0623N)83.3部(固形分40部)を添加・混合してインク受理層塗工組成物1を得た。
【0043】
[インク受理層塗工組成物2の調製]
[アルミナ水和物ゾルの調製]
水299部に酢酸1部を混合し、擬ベーマイト構造を有するアルミナ水和物(サソール社製Disperal HP14;平均1次粒子径14nm)100部を添加し、そのまま2時間攪拌して解膠し、固形分濃度25%のアルミナ水和物ゾルを得た。
【0044】
得られたアルミナ水和物ゾルの100部(固形分25部)に、ポリビニルアルコール(クラレ社製PVA235)の10%水溶液50部(固形分5部)を添加し、インク受理層塗工組成物2を調製した。
【0045】
[再湿潤液1の調製]
水に固形分27%のアルカリ増粘型アクリル系樹脂分散液(アクゾノーベル株式会社製アルコガムL−289Hv)を0.2%、固形分100%の水酸化ナトリウムを0.042%、固形分100%の界面活性剤(日信化学工業社製オルフィンE1010)を0.05%に再湿潤液中の各々の固形分濃度がなるように添加、混合して固形分0.292%の再湿潤液1を得た。
【0046】
[インクジェット記録媒体の作製]
坪量157g/mの原紙(三菱製紙社製ダイヤフォーム)上に、インク受理層塗工組成物1を、乾燥後の塗工量が15g/mとなるようにエアーナイフコーターを用いて塗工し、熱風ドライヤーを用いて乾燥させた。次いで得られた塗工紙を、ソフトカレンダーを用いて処理した後、インク受理層塗工組成物2を、乾燥後の塗工量が10g/mとなるようにエアーナイフコーターを用いて塗工し、熱風ドライヤーを用いて乾燥させた。次いで得られた塗工紙を、ソフトカレンダーを用いて処理した後、この塗工紙の塗工面に液の塗工量が30g/mとなるようエアーナイフコーターを用いて再湿潤液1を塗工し、再湿潤液1と10秒間接触させて湿潤した後、温度95℃に加熱したキャスト装置のキャストドラムに、線圧20kN/m、速度25m/minで圧着し、乾燥後にキャストドラムより剥離することで実施例1のインクジェット記録媒体を作製した。
【0047】
(実施例2)
実施例1の再湿潤液1を下記再湿潤液2に変更した以外は実施例1と同様にして実施例2のインクジェット記録媒体を得た。
【0048】
[再湿潤液2の調製]
水に固形分27%のアルカリ増粘型アクリル系樹脂分散液(アクゾノーベル株式会社製アルコガムL−289Hv)を0.1%、固形分100%の水酸化ナトリウムを0.021%、固形分100%の界面活性剤(日信化学工業社製オルフィンE1010)を0.05%に再湿潤液中の各々の固形分濃度がなるように添加、混合して固形分0.171%の再湿潤液2を得た。
【0049】
(実施例3)
実施例1の再湿潤液1を下記再湿潤液3に変更した以外は実施例1と同様にして実施例3のインクジェット記録媒体を得た。
【0050】
[再湿潤液3の調製]
水に固形分27%のアルカリ増粘型アクリル系樹脂分散液(アクゾノーベル株式会社製アルコガムL−289Hv)を0.5%、固形分100%の水酸化ナトリウムを0.105%、固形分100%の界面活性剤(日信化学工業社製オルフィンE1010)を0.05%に再湿潤液中の各々の固形分濃度がなるように添加、混合して固形分0.655%の再湿潤液3を得た。
【0051】
(実施例4)
実施例1の再湿潤液1を下記再湿潤液4に変更した以外は実施例1と同様にして実施例4のインクジェット記録媒体を得た。
【0052】
[再湿潤液4の調製]
水に固形分27%のアルカリ増粘型アクリル系樹脂分散液(アクゾノーベル株式会社製アルコガムL−289Hv)を0.2%、固形分100%の水酸化ナトリウムを0.042%、固形分50%で粒径30nmのコロイダルシリカ分散液(グレース社製LUDOX TM−50)を3.5%、固形分100%の界面活性剤(日信化学工業社製オルフィンE1010)を0.05%に再湿潤液中の各々の固形分濃度がなるように添加、混合して固形分3.792%の再湿潤液4を得た。
【0053】
(実施例5)
実施例1の再湿潤液1を下記再湿潤液5に変更した以外は実施例1と同様にして実施例5のインクジェット記録媒体を得た。
【0054】
[再湿潤液5の調製]
水に固形分27%のアルカリ増粘型アクリル系樹脂分散液(アクゾノーベル株式会社製アルコガムL−289Hv)を0.8%、固形分100%の水酸化ナトリウムを0.168%、固形分50%で粒径30nmのコロイダルシリカ分散液(グレース社製LUDOX TM−50)を3.5%、固形分100%の界面活性剤(日信化学工業社製オルフィンE1010)を0.05%に再湿潤液中の各々の固形分濃度がなるように添加、混合して固形分4.518%の再湿潤液5を得た。
【0055】
(実施例6)
実施例1の再湿潤液1を下記再湿潤液6に変更した以外は実施例1と同様にして実施例6のインクジェット記録媒体を得た。
【0056】
[再湿潤液6の調製]
水に固形分8%のポリビニルアルコール(クラレ社製PVA117)の水溶液を0.2%、固形分100%の界面活性剤(日信化学工業社製オルフィンE1010)を0.05%に再湿潤液中の各々の固形分濃度がなるように添加、混合して固形分0.25%の再湿潤液6を得た。
【0057】
(比較例1)
実施例1の再湿潤液1を下記再湿潤液7に変更した以外は実施例1と同様にして比較例1のインクジェット記録媒体を得た。
【0058】
[再湿潤液7の調製]
水に固形分100%の界面活性剤(日信化学工業社製オルフィンE1010)を0.05%に再湿潤液中の固形分濃度がなるように添加、混合して固形分0.05%の再湿潤液7を得た。
【0059】
(比較例2)
実施例1の再湿潤液1を下記再湿潤液8に変更した以外は実施例1と同様にして比較例2のインクジェット記録媒体を得た。
【0060】
[再湿潤液8の調製]
水に固形分50%で粒径30nmのコロイダルシリカ分散液(グレース社製LUDOX TM−50)を3.5%、固形分100%の界面活性剤(日信化学工業社製オルフィンE1010)を0.05%に再湿潤液中の各々の固形分濃度がなるように添加、混合して固形分3.55%の再湿潤液8を得た。
【0061】
[再湿潤液の保水性評価]
本発明で規定する再湿潤液の保水性は、AA−GWR Water Retention Meter(Kaltec Scientific社製)を用い、孔径0.05μmのミリポアフィルター上に内径面積8cmの筒を置き、筒内の滴下した10cc再湿潤液に50kPaの圧力を60秒間かけ、ミリポアフィルター下に用意した濾紙に吸水された水分量から算出した。
【0062】
[面質の評価]
得られたインクジェット記録媒体について、光沢表面の面質を目視判定した。◎〜△が実用上問題ない評価である。
◎:均一な高い光沢感を持ち、ピットやトラレ等の表面欠陥のない良好な面質。
○:ピットやトラレ等の表面欠陥はないが、光沢感がやや低い。
△:ピットやトラレ等の表面欠陥が散見されるが、実用上使用可能。
×:光沢感がなく、ピットやトラレ等の表面欠陥が非常に多い。
【0063】
各実施例、各比較例で得られた再湿潤液の保水性とインクジェット記録媒体の面質の評価結果を表1に示す。
【0064】
【表1】

【0065】
表1より、再湿潤液に保水性改良剤を含む実施例1〜6は再湿潤液に保水性改良剤を含まない比較例1や2と比較してピットやトラレ等の表面欠陥が改善されていることがわかる。また、実施例4から再湿潤液にコロイダルシリカを含むことで、より面質が良いことがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透気性の支持体上に少なくとも1層のインク受理層を設け、最上のインク受理層が再湿潤液を用いてキャスト処理をして製造されるインクジェット記録媒体において、再湿潤液が保水性改良剤を含むことを特徴とするインクジェット記録媒体。
【請求項2】
再湿潤液がコロイダルシリカを含有する請求項1記載のインクジェット記録媒体。
【請求項3】
保水性改良剤がアルカリ増粘型アクリル系樹脂である請求項1記載のインクジェット記録媒体。

【公開番号】特開2011−212890(P2011−212890A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−81358(P2010−81358)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000005980)三菱製紙株式会社 (1,550)
【Fターム(参考)】