説明

インクジェット記録媒体

【課題】 高い印字濃度とインク吸収性を有し、商業用途のインク打ち込み量の少ないプリンター適性も良好なインクジェット用記録媒体を提供する。
【解決手段】 透気性を含有する紙支持体の少なくても一方の面に、合成非晶質シリカとポリビニルアルコールを含有する塗工量が3〜8g/mのインク受理層を凝固キャストコート法により設けたインクジェット用記録媒体において、前記インク受理層面側のJIS P 8140で規定する蒸留水に対するコッブ吸水度(30秒)を15g/m以上30g/m以下とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録方式に好適な光沢を有するインクジェット用記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は、各種の方法により飛翔させたインクの微小液滴を、紙などの記録用紙に付着させて画像や文字を形成させる記録方式である。この記録方式は高速化、フルカラー化が容易であり、さらに記録時の騒音が低く、装置が低価格であることから、家庭用として広く普及している。
【0003】
一方、商業用途の分野においても、従来は電子写真方式のノンインパクトプリンター(NIP)を用いて可変情報(公共料金やクレジットの請求書、領収書、配送用伝票、広告など)が印字されてきたが、近年、印字速度に優れる、ラインヘッドを有する高速インクジェットプリンターによる印字に置き換えられている。商業用途のプリンターは高速印字されることから、インクの打ち込み量が少ないため、紙の物性で一定量のインクの広がりが必要となる。
【0004】
ところで、インクジェット記録用紙は、顔料を含むインク受容層を設けた塗工紙タイプと顔料を含むインク受容層を設けない普通紙タイプに大別される。デジタルカメラの画像出力には高精細画像を再現できる塗工紙タイプが主に用いられ、一方、ビジネスレポートや公共料金の明細書や振込み用紙などの印字には安価な普通紙タイプが主に用いられる。
【0005】
その塗工紙タイプのうち、近年、高級志向から光沢紙が求められている。
【0006】
これまでに光沢を有するインクジェット用記録媒体は、家庭用として広く普及し、製造コストの点からキャストコーターを用いるキャストコート法で製造するのが一般的である。
【0007】
キャストコート法は、顔料と結着剤とを主成分とする塗工液を支持体上に塗工して塗工層を設け、その塗工層にキャストドラムを用いて光沢仕上げする方法であり、この光沢塗工層が上記インク受理層となる。キャストコート法としては、(1)塗工層が湿潤状態にある間に鏡面仕上げした加熱ドラムに圧着して乾燥するウェットキャスト法(直接法)、(2)湿潤状態の塗工層を一旦乾燥又は半乾燥した後に再湿潤液により膨潤可塑化させ、鏡面仕上げした加熱ドラムに圧着し乾燥するリウェット法、(3)湿潤状態の塗工層を凝固処理によりゲル状態にして、鏡面仕上げした加熱ドラムに圧着し乾燥するゲル化キャスト法(凝固法)、の3種類が一般に知られている。各方法の原理は、湿潤状態の塗工層を鏡面仕上げの面に押し当てて、塗工層表面に光沢を付与するという点では同一である。
【0008】
そして、このような光沢インクジェット用記録媒体に要求される品質特性としては、記録媒体表面の光沢感が高いこと、印字濃度が高いこと、インクの溢れや滲みがないこと、印字ムラ(濃淡ムラ)がないこと、耐候性が優れること等が挙げられ、これらの特性を満たした高画質のインクジェット記録用紙を、キャストコート法により製造する方法は既に提案されている(特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4等)
【特許文献1】特開平2−274587号公報
【特許文献2】特開平9−263039号公報
【特許文献3】特開2005−35169号公報
【特許文献4】特開2002−166645号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記した特許文献1〜4記載の技術の場合、家庭用のインクジェットプリンターを対象としていることから、商業用途のインク打ち込み量の少ないプリンターではインクの広がりが足らずに印字部に白く抜けた部分が発生するという問題がある。
【0010】
従って、本発明は光沢感に優れ、高い印字濃度を得ながら、商業用途のプリンターでの適性なインクの広がりを確保したインクジェット記録媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は種々検討した結果、凝固キャストコート法でインク受理層を設ける際、塗工量でインクの吸収を調整し、高い光沢度および印字濃度を維持することで上記課題を解決できることを見出し、本発明に至った。
【0012】
また、商業用途のプリンターでの適性なインクの広がりの評価方法についても種々調査した結果、JIS P 8140で規定されるコッブ吸水度(30秒)で評価できることを見出した。
【0013】
すなわち、本発明のインクジェット記録媒体は、透気性を含有する紙支持体の少なくても一方の面に、合成非晶質シリカとポリビニルアルコールを含有する塗工量が3〜8g/mのインク受理層を凝固キャストコート法により設けたインクジェット用記録媒体において、かつインク受理層面側のJIS P 8140で規定する蒸留水に対するコッブ吸水度(30秒)が15g/m以上30g/m以下に調整したものである。
【0014】
また、インク受理層中に平均粒子径が5nm〜80nmのカチオン性コロイダルシリカ、を含有することが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、光沢感に優れ、商業用プリンタの染料インクを用いてインクジェット記録を行った際の印字濃度が高く、さらに適性なインク吸収性を確保し操業性に優れるインクジェット記録媒体が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下本発明の実施形態について説明する。本発明のインクジェット記録媒体は、透気性を有する支持体の少なくとも一方の面に、顔料及び結着剤を含む塗工層を形成した後、該塗工層の表面に前記結着剤と凝固する凝固剤を塗布して凝固キャストコート法によりインク受理層を設けてなるものである。
【0017】
(基紙)
本発明に使用される基紙は、キャストコート時にキャストドラムで発生する水蒸気を透過できる程度の透気性を有すれば、いずれの物を用いることが可能であり、塗工紙、未塗工紙等の紙が好ましく用いられる。基紙は、パルプ繊維や填料から構成され、原料パルプとしては、化学パルプ(針葉樹の晒または未晒クラフトパルプ、広葉樹の晒または未晒クラフトパルプ等)、機械パルプ(グランドパルプ、サーモメカニカルパルプ、ケミサーモメカニカルパルプ等)、脱墨パルプ等を単独または任意の割合で混合して使用することが可能である。原料パルプとして針葉樹パルプが含有されることが好ましい。基紙中に針葉樹パルプを配合すると、原紙の強度が向上するほか、インク受理層の光沢感が向上する傾向にある。但し、針葉樹パルプの含有量が多くなると基紙の表面性が低下する傾向にあるため、針葉樹パルプの含有量は全パルプ中30質量%以下であることが好ましい。尚、前記基紙のpHは、酸性、中性、アルカリ性のいずれでも良い。また、填料は、水和珪酸、ホワイトカーボン、タルク、カオリン、クレー、炭酸カルシウム、酸化チタン、合成樹脂微粒子等の公知の填料の中から適宜選択できる。
【0018】
インクジェット記録媒体の生産効率の点から、基紙の透気度は500秒以下であることが好ましく、又、塗工性の点から基紙のステキヒトサイズ度は30秒以上であることが望ましい。
【0019】
また、上記支持体には、水溶性高分子添加剤をはじめとする各種の添加剤を含有する液を、タブサイズ、サイズプレス、ゲートロールコーター又はフィルムトランスファーコーター等を用い、オンマシン又はオフマシンで塗工することが可能である。
【0020】
上記水溶性高分子添加剤としては、例えば澱粉、カチオン化澱粉、酸化澱粉、エーテル化澱粉、リン酸エステル化澱粉等の澱粉誘導体;ポリビニルアルコール、カルボキシ変性ポリビニルアルコール等のポリビニルアルコール誘導体;カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、セルロースサルフェート等のセルロース誘導体;ゼラチン、カゼイン、大豆蛋白等の水溶性天然高分子;ポリアクリル酸ナトリウム、スチレン−無水マレイン酸共重合体ナトリウム塩、ポリスチレンスルフォン酸ナトリウム等、無水マレイン酸樹脂等の水溶性高分子;メラミン樹脂、尿素樹脂等の熱硬化性合成樹脂等の水性高分子接着剤等が用いられる。その他の添加剤としては、サイズ剤として石油樹脂エマルション、スチレン−無水マレイン酸共重合体アルキルエステルのアンモニウム塩、アルキルケテンダイマー乳化物、スチレン−ブタジエン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリエチレン、ポリ塩化ビニリデン等のディスパーションが挙げられる。その他の添加剤としては、帯電防止剤として、無機電解質である塩化ナトリウム、塩化カルシウム、ボウ硝等が、吸湿性物質としてグリセリン、ポリエチレングリコール等が挙げられる。その他の添加剤としては、顔料としてクレー、カオリン、タルク、硫酸バリウム、酸化チタン等が挙げられる。その他の添加剤としては、pH調節剤として塩酸、苛性ソーダ、炭酸ソーダ等が用いられ、その他染料、蛍光増白剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の添加剤を組み合わせて使用することも可能である。
【0021】
(インク受理層の顔料)
インク受理層(塗工層を凝固キャストコート法によりインク受理層とするが、便宜上、塗工層とインク受理層とを区別せずに用いる)の顔料としては、公知の無機微粒子や有機微粒子を用いることができる。顔料としては、例えば、合成非晶質シリカ、コロイダルシリカ、水酸化アルミニウム、アルミナ水和物(アルミナゾル、コロイダルアルミナ、擬ベーマイト等)、アルミナ(α型結晶のアルミナ、θ型結晶のアルミナ、γ型結晶のアルミナ等)、カオリン、タルク、炭酸カルシウム、二酸化チタン、クレー、酸化亜鉛等を用いることができる。これらの1種または2種以上を混合して用いることができるが、印字濃度およびインク吸収性の点から合成非晶質シリカを顔料に含むことが必須である。
【0022】
(インク受理層の結着剤)
インク受理層の結着剤としては、塗工層強度の面より水系バインダー樹脂のポリビニルアルコールは必須である。その他の水系バインダー樹脂も塗工層強度の確保から必要に応じて配合する。なお、「水系」とは、水又は水と少量の有機溶剤からなる媒体中で樹脂が溶解又は分散し、安定化すること(水溶性又は/及び水分散性の樹脂エマルジョン)を意味する。又、水系バインダー樹脂とは水溶性樹脂及び水分散性樹脂を意味する。水系バインダー樹脂は、支持体に塗工する塗工液中では溶解又は粒子となって分散しているが、塗工し乾燥した後に顔料の結着剤となり、インク受理層を形成する。
【0023】
その他の水系バインダー樹脂としては、例えば、ポリビニルピロリドン;ウレタン樹脂エマルジョン由来のウレタン樹脂;酸化澱粉、エステル化澱粉等の澱粉類;カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース誘導体;カゼイン;ゼラチン;大豆タンパク;スチレン−アクリル樹脂及びその誘導体;スチレン−ブタジエン樹脂ラテックス;アクリル樹脂エマルジョン、酢酸ビニル樹脂エマルジョン、塩化ビニル樹脂エマルジョン、尿素樹脂エマルジョン、アルキッド樹脂エマルジョン及びこれらの誘導体等があげられる。これらの水系バインダー樹脂をポリビニルアルコールと混合して用いることができる。
【0024】
(ポリビニルアルコール)
本発明においては、ポリビニルアルコールは部分鹸化のポリビニルアルコールが好ましい。ポリビニルアルコールの添加量は、インク受理層中の全顔料100質量部に対して5質量部から30質量部であることが好ましい。但し、必要な塗工層強度が得られる限り、結着剤の種類は特に限定されるものではない。
【0025】
(合成非晶質シリカ)
上記合成非晶質シリカはその製造法により、湿式法シリカと気相法シリカとに大別できる。湿式法で製造された合成非晶質シリカは、顔料の透明性が気相法シリカに劣るが、ポリビニルアルコールと併用した場合の塗料安定性に優れる。さらに、湿式法シリカは、内部空隙の無い気相法シリカに比べて分散性が良好であり、塗料濃度を高くすることが可能である。そのため、インク受理層中の(結着剤に対する)顔料の割合を高くすることができ、インク受理層の吸収性を高くできるので、インク吸収性を向上できると共に染料インクの発色性を向上できる。高い光沢感を得るという点から上記湿式法シリカの平均二次粒子径は1〜5μmであることが好ましく、BET比表面積は100〜400m/gであることが好ましい。また、透明度の高い塗工層を得るという点から、上記気相法シリカの平均一次粒子径が4nm〜30nmであることが好ましく、BET比表面積は100〜400m/gであることが好ましい。
【0026】
なお、インク受理層の顔料として平均粒子径の異なる2種類以上の顔料を用いる場合、「顔料の平均粒子径」とは、各顔料の平均粒子径を各顔料の含有割合で加重平均した値とする。インク受理層の顔料の平均粒子径は1〜5μmであることが好ましい。1μmより小さいとインク吸収性が劣り、5μmを超えると光沢感が低下する傾向にある。
【0027】
インク受理層は、上記した顔料と結着剤を含むが、その他の成分、例えば、増粘剤、消泡剤、抑泡剤、顔料分散剤、離型剤、発泡剤、pH調整剤、表面サイズ剤、着色染料、着色顔料、蛍光染料、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定化剤、防腐剤、耐水化剤、染料定着剤、界面活性剤、湿潤紙力増強剤、保水剤、カチオン性高分子電解質等を、本発明の効果を損なわない範囲内で、インク受理層となる塗工層に適宜添加することができる。
【0028】
支持体上にインク受理層となる塗工液を塗布する方法としては、ブレードコーター、エアナイフコーター、ロールコーター、ブラッシュコーター、キスコーター、スクイズコーター、カーテンコーター、ダイコーター、バーコーター、グラビアコーター、ゲートロールコーター、ショートドウェルコーター等の公知の塗工機をオンマシン、又はオフマシンで用いた塗工方法の中から適宜選択して使用することができる。
【0029】
(インク受理層の塗工量)
インク受理層の塗工量は、支持体の表面を覆いために3g/m以上が必要となり、かつ商業用途のプリンタで適性なインクの広がりを持たせてベタ印字部で白く抜けた部分がなく、インクが溢れないように調整するために適宜変更する。但し、生産性を加味すると8g/m以下であることが好ましい。8g/mを超えると乾燥負荷が大きくなり、塗工速度ダウンの原因となり、生産性が低下する。なお、商業用途向けには一般塗工紙と競合する価格になるため、塗料費の面でも8g/mを超える塗工量では競争力低下に繋がる。従って、インク受理層の塗工量は3g/m以上8g/m以下であることが必須である。
【0030】
(インク受理層の形成)
本発明においては、最表面のインク受理層を凝固キャストコート法で形成することによって光沢を付与する。凝固キャストコート法は、例えば以下のようにして行う。まず、インク受理層となる塗工液を支持体に塗布する。次に、塗工液中の結着剤(特に水系結着剤)を凝固させる作用を有する凝固用水溶液を未乾燥の塗工層に塗布してゲル化させてから、加熱した鏡面仕上げ面に圧着、乾燥する。凝固キャストコート法は、銀塩写真に匹敵する面感、光沢をインク受理層に付与することが可能である。
【0031】
凝固用水溶液を塗布する際に塗工層が乾燥状態であると鏡面ドラム表面を写し取ることが難しく、得られたインク受理層表面に微小な凹凸が多くなり、銀塩写真並の光沢感を得にくい。前記塗工層が湿潤状態にある間に凝固用水溶液を塗布した後、前記塗工層の表面を加熱された鏡面仕上げ表面に接触させて光沢を有する。特に水系結着剤としてポリビニルアルコールを用いた場合には、凝固剤としてホウ素化合物を用いて凝固させることで、インク受理層に良好な光沢感を付与でき、操業性も良好となる。但し、カチオン性コロイダルシリカを添加する場合には、ホウ酸塩とショックを起し、凝集するため、ホウ酸塩を使用することができない。
【0032】
(凝固方法)
本発明において凝固方法は、インク受理層用塗工液中のポリビニルアルコールと凝固用水溶液中のホウ素化合物(ホウ酸)による凝固とインク受理層用塗工液の高いpHと凝固用水溶液の低いpHによる凝集反応による凝固によって、高い光沢を有するインク受理層を付与し、安定操業が可能となる。凝固用水溶液を塗布する方法は、塗工層に塗布できる限り特に制限されず、公知の方法(例えばロール方式、スプレー方式、カーテン方式等)の中から適宜選択して用いることができる。
【0033】
(凝固用水溶液の成分)
本発明に用いる凝固剤は、上記ホウ素化合物の他、カチオン性樹脂とカチオン性コロイダルシリカと離型剤とを共に含む。
【0034】
(カチオン性コロイダルシリカ)
凝固剤中にカチオン性コロイダルシリカを含むと、キャストコートによってインク受理層の表面にカチオン性コロイダルシリカが付着(存在)する。コロイダルシリカは平均粒子径が比較的小さいため、染料インクの印字濃度が向上する。又、平均粒子径が小さいコロイダルシリカがインク受理層の最表面に存在するため、インク受理層の表面が平滑になり、光沢度が向上する。
【0035】
さらに、コロイダルシリカをカチオン性としているため、凝固剤中に後述するカチオン性樹脂とカチオン性コロイダルシリカが共存しても、両者が凝集することがなく、凝固剤を安定して塗布することができる。
【0036】
カチオン性コロイダルシリカは、その粒子表面が高い陽性電荷を帯びているコロイダルシリカである。カチオン性コロイダルシリカは、例えばケイ酸ナトリウムの酸などによる複分解やイオン交換樹脂層を通して得られるシリカゾルを加熱熟成して得られるコロイダルシリカにアルミニウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、ジルコニウムイオン等の多価金属イオンを反応させて得られる。例えば、特公昭47−26959号公報にはアルミニウム処理によるカチオン性コロイダルシリカが開示されている。
【0037】
市販されているカチオン性コロイダルシリカとしては、グレース社のLUDOX CL、LUDOX CL−P等があげられる。本発明では2種以上のカチオン性コリダルシリカを混合して使用してもよい。
【0038】
インク受理層の光沢性、透明度を向上させる観点から、カチオン性コロイダルシリカの平均粒子径は5nm〜80nmの範囲のものが好ましい。カチオン性コロイダルシリカの平均粒子径が5nmより小さいと、塗工層の光沢感は優れるが、染料インクの吸収性が劣る場合がある。一方、カチオン性コロイダルシリカの平均粒子径が80nmより大きいと、塗工層の透明度が低下し、染料インクの印字濃度が低下する場合がある。さらに平均粒子径の異なる2種類以上のカチオン性コロイダルシリカを併用してもよい。
【0039】
又、インク受理層の最表面を平滑にし、光沢度を向上させる観点から、カチオン性コロイダルシリカの平均一次粒子径が、インク受理層の顔料の平均粒子径(加重平均粒子径)より小さいことが好ましい。このようにすると、インク受理層の最表面を微細なカチオン性コロイダルシリカが覆うため、光沢度が向上する。
【0040】
なお、平均粒子径の異なる2種類以上のカチオン性コロイダルシリカを用いる場合、「カチオン性コロイダルシリカの一次粒子径」とは、各カチオン性コロイダルシリカの平均粒子径を各カチオン性コロイダルシリカの含有割合で加重平均した値とする。同様に、インク受理層の顔料として平均粒子径の異なる2種類以上の顔料を用いる場合、「顔料の一次粒子径」とは、各顔料の平均粒子径を各顔料の含有割合で加重平均した値とする。
【0041】
又、コロイダルシリカの一次粒子径は、例えば光強度分布解析型の粒子径分布測定装置により測定できる。
【0042】
また、凝固剤中のカチオン性コロイダルシリカの配合量は0.5質量%〜10質量%とすることが好ましい。カチオン性コロイダルシリカの配合量が0.5質量%より少ないと、光沢度および染料インクの印字濃度改善効果が得られない場合がある。一方、カチオン性コロイダルシリカの配合量が10質量%より多いと、凝集体が発生し、凝固剤の安定性が低下する場合がある。
【0043】
(カチオン性樹脂)
凝固剤中にカチオン性樹脂を含むと、キャストコートによってインク受理層の表面にカチオン性樹脂が付着(存在)する。カチオン性樹脂はインクを定着させ、印字濃度および耐水性が向上する。
【0044】
カチオン性樹脂としては、ポリアミンスルホン、ポリアルキレンポリアミン、ポリアミン縮合物、ポリアリルアミン、ポリジアリルアミン、ポリビニルアミン、ポリエチレンイミン、ジシアンジアミド縮合物、カチオン性アクリル樹脂、カチオン性ウレタン樹脂等が挙げられ、これらを1種又は複数種選沢して用いることができる。
(離型剤)
又、上記塗工層及び/又は凝固剤には、必要に応じて離型剤を添加することが必要である。離型剤の融点は90〜150℃であることが好ましく、特に95〜120℃であることが好ましい。上記の温度範囲においては、離型剤の融点が鏡面仕上げ面の温度とほぼ同等であるため、離型剤としての能力が最大限に発揮される。離型剤は上記特性を有していれば特に限定されるものではないが、ポリエチレン系およびパラフィン系のワックスエマルジョンを用いることが好ましい。
本発明において、一般的な商業用途のプリンターに必要なインクの広がり(インク吸収性)は、JIS P 8140で規定する蒸留水に対するコッブ吸水度(30秒)の測定結果と相関することを見出している。本発明において、コッブ吸水度を15g/m以上30g/m以下にすることが必須である。コッブ吸水度が15g/m未満の場合はインクが溢れてしまい、30g/mを超えるとベタ印字部が白く抜ける現象が発生する。
【0045】
また、コッブ吸水度をこの範囲に調整するには、インク受理層に配合する合成非晶質シリカとポリビニルアルコールの種類および配合量である程度は決まり、塗工量で微調整することが好ましい。
本発明において、反対側にさらにインク吸収性、筆記性、プリンター印字適性他各種機能を有するバックコート層を設けても良い。
【実施例】
【0046】
以下に、実施例によって本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、「部」及び「%」は、特に明示しない限り、それぞれ「質量部」及び「質量%」を表す。
【0047】
[実施例1]
広葉樹晒クラフトパルプ(L−BKP)90部及び針葉樹晒クラフトパルプ(N−BKP)10部からなるカナダ標準濾水度(CSF)400mlのパルプスラリーに対し、填料としてロゼッタ型軽質炭酸カルシウム(商品名:アルバカー5970、SMI社製)を灰分10%となるように添加し、さらに硫酸アルミニウム1.0部、アルキルケテンダイマー(AKD)0.2部、歩留向上剤0.5部を添加した。このスラリーを用いて抄紙機で抄紙し、その際に固形分濃度5%のデンプンと固形分濃度0.2%の表面サイズ剤(AKD)とを含む塗液を、付着量が固形分で1.5g/mとなるように塗布し、180g/mの紙支持体を得た。
この紙支持体に対し、ロールコーターで塗工液Aを固形分で塗工量が3g/mとなるように塗工した。この塗工層が湿潤状態にある間に、凝固剤溶液Bを固形分で付着量が2g/mとなるように塗布して凝固させ、次いでプレスロールを介して加熱された鏡面仕上げ面に圧着して鏡面を写し取り、185g/mのインクジェット記録媒体を得た。
<塗工液A>
顔料として、コロイダルシリカ(商品名:クォートロンPL−3、扶桑化学工業株式会社製、平均一次粒子径30nm)20部、気相法合成非晶質シリカ(商品名:アエロジル200V、日本アエロジル株式会社製、平均一次粒子径12nm)10部、及び湿式法合成非晶質シリカ(商品名:ファインシールX−37、株式会社トクヤマ製、平均二次粒子径2.3μm)70部、結着剤としてポリビニルアルコール(商品名:PVA217、株式会社クラレ製)12部、蛍光染料(商品名:BLANKOPHOR P liquid01、LANXESS社製)1.5部、離型剤(商品名:メイカテックスHP68、明成化学工業株式会社製)0.5部、消泡剤(商品名:SNデフォーマー480、サンノプコ株式会社製)0.1部を配合して濃度25%でpH8.5の塗工液を調整した。
<凝固剤溶液B>
ホウ酸4%、カチオン性樹脂(商品名:サフトマーST3300、三菱化学株式会社製)1%、カチオン性コロイダルシリカ(商品名:LUDOX CL−P、グレース社製、平均一次粒子径22nm)0.5%、離型剤(商品名:メイカテックスHP68、明成化学工業株式会社製)0.5部、消泡剤(商品名:SNデフォーマー480、サンノプコ株式会社製)0.1%を配合してpH3の凝固剤溶液を調製した。
【0048】
[実施例2]
凝固剤溶液Bのカチオン性コロイダルシリカの配合量を7%に変更したこと以外は、実施例1と同様にしてインクジェット記録媒体を得た。
【0049】
[実施例3]
凝固剤溶液Bのカチオン性コロイダルシリカの配合量を10%に変更したこと以外は、実施例1と同様にしてインクジェット記録媒体を得た。
【0050】
[実施例4]
凝固剤溶液Bのカチオン性コロイダルシリカをLUDOX CL(グレース社製、平均一次粒子径12nm)に変更したこと以外は、実施例1と同様にしてインクジェット記録媒体を得た。
【0051】
[実施例5]
塗工液Aを固形分で塗工量が1g/mに変更したこと以外は、実施例1と同様にしてインクジェット記録媒体を得た。
【0052】
[実施例6]
塗工液Aを固形分で塗工量が6g/mに変更したこと以外は、実施例1と同様にしてインクジェット記録媒体を得た。
【0053】
[比較例1]
塗工液Aを固形分で塗工量が7g/mに変更したこと以外は、実施例1と同様にしてインクジェット記録媒体を得た。
【0054】
[比較例2]
塗工液Aを固形分で塗工量が0.5g/mに変更したこと以外は、実施例1と同様にしてインクジェット記録媒体を得た。
【0055】
[比較例3]
凝固剤溶液Bのカチオン性コロイダルシリカの配合量を12%に変更したこと以外は、実施例1と同様にしてインクジェット記録媒体を得た。
【0056】
[比較例4]
塗工液Aの合成非晶質シリカをカオリン(商品名:カピムDG、リオカピム社製)に変更したこと以外は、実施例1と同様にしてインクジェット記録媒体を得た。
【0057】
[比較例5]
塗工液Aの合成非晶質シリカを軽質炭酸カルシウム(商品名:TP−121、奥多摩工業株式会社製)に変更したこと以外は、実施例1と同様にしてインクジェット記録媒体を得た。
【0058】
[比較例6]
塗工液Aの合成非晶質シリカを無配合とし、コロイダルシリカ(商品名:クォートロンPL−3、扶桑化学工業株式会社製、平均一次粒子径30nm)100部に変更したこと以外は、実施例1と同様にしてインクジェット記録媒体を得た。
【0059】
(評価)
実施例及び比較例で得られたインクジェット記録媒体について、以下の項目について評価を行い、結果を表1に示した。
【0060】
1.印字濃度
得られたインクジェット記録媒体に対し、染料インクジェットプリンター(PM−970C、モード:EPSON写真用紙/きれい、エプソン株式会社製)を用いてシアン、マゼンタ、イエロー、ブラックの4色を印字した。4色合計値が8.5以上であれば実用上問題がない。
【0061】
2.ベタ部の画像(商業用プリンター適性の簡易評価)
得られたインクジェット記録媒体に対し、染料インクジェットプリンター(MJ−6000C、モード:専用光沢紙/標準、エプソン株式会社製)を用いて黒と緑のベタを印字して、ベタ部の白抜けと滲みを評価した。
○:白抜けおよび滲みが無く、綺麗な画像である。
×:白抜けもしくは滲みがある。
【0062】
3.20°光沢度
得られたインクジェット記録媒体のインク受理層表面の未印字部分の20°光沢度をJIS−Z8741に従い、測定した。光沢度計(村上色彩技術研究所製、True GLOSS GM−26PRO)を用いて測定した。20度光沢度が20%以上であれば実用上問題がない。
【0063】
4.インク受理層用塗工液および凝固用水溶液の安定性
調製後24時間静置し、凝集体の発生の有無を目視で評価した。評価が△以上であれば実用上問題がない。
○:凝集体がある。
△:微細な凝集体がある。
×:凝集体がない。
【0064】
5.塗工性
下記の連続操業性が△以上であり、下記の塗工速度が30m/分以上であれば実用上問題がない。
5−1 連続操業性
20,000mの連続塗工後のキャストドラムの曇り状態を目視にて観察し、下記の基準で評価した。
◎:ドラム表面に曇りが、全く無し
○:ドラム表面に僅かに曇りが確認出来るが、ロングラン適性にほぼ問題なし
△:ドラム表面に曇りが確認出来て、問題となるレベル
×:ドラム表面の全面に曇りが多く確認された
5−2 塗工速度
光沢面に欠陥が発生しない最大速度を評価し、30m/分以上であれば実用上問題がない。
【0065】
6.コッブ吸水度(30秒)
インク受理層面をJIS P 8140に従いコッブ吸水度(30秒)測定した。
【0066】
【表1】


表1から明らかなように、実施例1〜6の本発明のインクジェット用紙では光沢度および印字濃度に優れ、コッブ吸水度を15〜30g/mの範囲とすることで商業用途の高速プリンターに対応したインク吸収性が得られた。
一方、コッブ吸水度の範囲から外れた比較例1〜6は商業用途の高速プリンターのいてはインク吸収性が劣り、比較例4〜5は光沢度および印字濃度にも劣っていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透気性を含有する紙支持体の少なくても一方の面に、合成非晶質シリカとポリビニルアルコールを含有する塗工量が3〜8g/mのインク受理層を凝固キャストコート法により設けたインクジェット用記録媒体において、前記インク受理層面側のJIS P 8140で規定する蒸留水に対するコッブ吸水度(30秒)が15g/m以上30g/m以下であるインクジェット用記録媒体。
【請求項2】
前記インク受理層に、平均粒子径が5nm〜80nmのカチオン性コロイダルシリカを含有することを特徴とする請求項1記載のインクジェット用記録媒体。
【請求項3】
透気性を有する支持体の少なくとも一方の面に、合成非晶質シリカとポリビニルアルコールを含有する塗工層を設けた後、該塗工層の表面に平均粒子径が5nm〜80nmのカチオン性コロイダルシリカ、ホウ酸、及びカチオン性樹脂を含有する凝固剤溶液を塗布して凝固キャストコート法によりインク受理層を設けてなるインクジェット用記録媒体であって、前記凝固剤に含まれる前記カチオン性コロイダルシリカ、前記ホウ酸、及び前記カチオン性樹脂が前記インク受理層の表面に存在している請求項1に記載のインクジェット記録媒体。

【公開番号】特開2012−213924(P2012−213924A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−81112(P2011−81112)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000183484)日本製紙株式会社 (981)
【Fターム(参考)】