インクジェット記録方法およびインクジェット記録装置
【課題】安定したインク滴の吐出が可能なインクジェット記録方法を提供することを目的とする。
【解決手段】
印加する信号の波形に応じて圧力発生手段が発生する圧力によって被着媒体に対しインク滴を吐出するインク滴吐出ヘッドを有するインクジェット記録装置におけるインクジェット記録方法では、1印字周期内にインク滴吐出ヘッドから複数のインク滴を吐出させ、複数のインク滴がグループ毎にそれぞれ合体して複数の合体滴となり、その後複数の合体滴同士が更に合体して飛翔中に一つの最終合体滴となるような波形の信号を生成して圧力発生手段に印加する。
【解決手段】
印加する信号の波形に応じて圧力発生手段が発生する圧力によって被着媒体に対しインク滴を吐出するインク滴吐出ヘッドを有するインクジェット記録装置におけるインクジェット記録方法では、1印字周期内にインク滴吐出ヘッドから複数のインク滴を吐出させ、複数のインク滴がグループ毎にそれぞれ合体して複数の合体滴となり、その後複数の合体滴同士が更に合体して飛翔中に一つの最終合体滴となるような波形の信号を生成して圧力発生手段に印加する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録方法及びインクジェット記録装置に関し、インク滴吐出ヘッドを用いて行うインクジェット記録方法及びインク滴吐出ヘッドを備えたインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置としては、画像を形成するドロップオンデマンド型のインクジェット記録装置等が知られている。ドロップオンデマンド型のインクジェット記録装置は、例えばインク滴吐出ヘッドをキャリッジに搭載して往復移動させながら印刷するシリアル方式の印刷装置、インク滴吐出ヘッドをライン上に設置した状態で印刷するラインヘッド方式の印刷装置などに用いられる。
【0003】
このようなインクジェット記録装置では、階調印刷を行なう場合、例えば1印字周期内(又は1駆動周期内)に複数の駆動パルスを含む共通駆動波形を生成する。そして共通駆動波形の内から1又は複数の駆動パルスを選択し、インク滴吐出ヘッドにおいてインク滴を吐出する圧力発生手段(アクチュエータ手段)に対して印加する。このようにしてインク滴吐出ヘッドから滴サイズが同じ又は異なるインク滴を吐出させ、飛翔中にインク滴同士を合体させ、あるいは同じ着弾位置に複数のインク滴を打ち込むことにより、大きさの異なるドットを形成する。
【0004】
ところで、このようなインクジェット記録装置では、環境温度が変化すると、それに伴い使用するインクの濃度が変化し、記録濃度が変化する傾向がある。そこで従来から環境温度の変化に関わらず記録濃度を一定に維持することが求められており、そのための開発が行われている。
【0005】
例えば、特許文献1に記載されたインクジェット記録装置では、温度範囲をいくつかに分け、その所定範囲ごとに異なる複数の駆動波形を対応させる。又、一つの温度範囲内においては、温度変化に対して電圧を変える。このようにして温度の変化に関わらずほぼ一定の記録濃度で記録が行われるようにしている。
【0006】
また、特許文献2に記載されたインクジェット記録装置は、吐出滴数を補正して1画素ドットの大きさを補正するドット径補正手段を備えており、周囲環境によって吐出滴数を補正することで1画素ドットの大きさを揃えるようにしている。
【0007】
特許文献1に記載されたインクジェット記録装置では、温度範囲をいくつかに分けた各所定範囲内については、電圧を変更することで容易に駆動波形を得ることができる。しかし、各温度範囲に割り当てられる波形を求めるためには細かな波形調整が必要であり、かなりの時間を要する場合が想定され得る。
【0008】
また、特許文献2には、吐出滴の後ろに吐出滴を追加する方法が例示されている。この方法では複数のインク滴を一つのインク滴に合体させるが、このため後ろに行く程インク滴の速度を高くすることが考えられる。しかしながらこのように後ろに行く程インク滴の速度を高くすると、特に合体させるインク滴数が多い場合、最終滴の速度をかなり高くすることになる。その結果インク滴吐出ヘッドにおけるインクのメニスカスが乱れやすくなり、安定したインク滴の吐出を得ることが困難になる場合が想定され得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、インクジェット記録方法又はインクジェット記録装置における従来の問題点に鑑みてなされたものであって、その目的は、安定した最終合体滴(後述)が容易に得られるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一実施形態は、印加する信号の波形に応じて圧力発生手段が発生する圧力によって被着媒体に対しインク滴を吐出するインク滴吐出ヘッドを有するインクジェット記録装置におけるインクジェット記録方法であって、1印字周期内にインク滴吐出ヘッドから複数のインク滴を吐出させ、複数のインク滴が所定のインク滴のグループ毎にそれぞれ合体して複数の合体滴となり、その後複数の合体滴同士が更に合体して飛翔中に一つのインク滴(「最終合体滴」と称する)となるような波形の信号を生成して圧力発生手段に印加することを特徴とするインクジェット記録方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一実施形態によれば、インクジェット記録方法又はインクジェット記録装置において安定したインク滴の吐出を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態に係るインクジェット記録装置の機構部の全体構成を説明する側面図である。
【図2】図1の機構部の平面図である。
【図3】本実施形態のインクジェット記録方法及びインクジェット記録装置で用いられるインク滴吐出ヘッドの一例の断面図である。
【図4】本実施形態のインクジェット記録装置の制御部の概要を示すブロック図である。
【図5】図4に示す制御部の印刷制御部及びヘッドドライバの一例を示すブロック図である。
【図6】本実施形態のインク滴吐出ヘッドで用いる環境温度が所定の低温(15℃)のときの共通駆動波形の例を示す図である。
【図7】本実施形態において飛翔中のインク滴が合体する手順の例を説明する図である。
【図8】本実施形態と比較するために一般的に考えられるインク滴の合体手順の例を示す図である。
【図9】本実施形態のインク滴吐出ヘッドで用いる環境温度が所定の高温(35℃)のときの共通駆動波形の例を示す図である。
【図10】本実施形態のインク滴吐出ヘッドで用いる環境温度が所定の高温(35℃)のときの別の共通駆動波形の例を示す図である。
【図11】(A)は本実施形態のインク滴吐出ヘッドに用いる環境温度が20℃のときの共通駆動波形の例を示す図であり、(B)は15℃のときの共通駆動波形の例(15℃波形)と20℃のときの共通駆動波形の例(20℃波形)の各吐出パルスの立上り電圧と、その両者の電圧の比を表す図である。
【図12】環境温度とインク滴量との関係の例を説明する図である。
【図13】本実施形態のインク滴吐出ヘッドで用いる駆動波形の例を示す図である。
【図14】本実施形態のインク滴吐出ヘッドで用いる他の駆動波形の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、添付図面を参照して説明する。先ず、本発明の一実施形態に係るインクジェット記録装置の機構部について、図1及び図2を参照して説明する。図1は同機構部の全体構成を説明する側面図、図2は同機構部の平面図である。
【0014】
このインクジェット記録装置では、図示しない左右の側板に横架したガイド部材であるガイドロッド1とガイドレール2とでキャリッジ3を主走査方向に摺動自在に保持する。又主走査モータ4で駆動プーリ6Aと従動プーリ6Bとの間に張架したタイミングベルト5を駆動することにより、キャリッジ3を図2で矢示方向(主走査方向)に移動するように駆動する(すなわち走査動作を行う)。
【0015】
このキャリッジ3には、例えば、それぞれイエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、ブラック(K)のインク滴を吐出する4個のインク滴吐出ヘッド7y、7c、7m、7kを配列する。その際、複数のインク吐出口を主走査方向と交叉する方向に向けて配列し、インク滴吐出方向を下方に向けてインク滴吐出ヘッド7y、7c、7m、7kをキャリッジ3に装着する。なおこれらインク滴吐出ヘッド7y、7c、7m、7kは、特に色を区別しないときは「インク滴吐出ヘッド7」と称する。
【0016】
キャリッジ3には、インク滴吐出ヘッド7に各色のインクを供給するための各色のサブタンク8を搭載する。このサブタンク8には、インク供給チューブ9を介して図示しないメインタンク(インクカートリッジ)からインクが供給され補充される。
【0017】
一方、給紙カセット10などの用紙積載部(圧板)11上に積載された用紙(被着媒体)12を給紙するための給紙部は以下の構成を有する。すなわち用紙積載部11から用紙12を1枚ずつ分離して給送する半月コロ(給紙ローラ)13および給紙ローラ13に対向し摩擦係数の大きな材質からなる分離パッド14を備える。この分離パッド14は給紙ローラ13側に付勢されている。
【0018】
この給紙部から給紙された用紙12をインク滴吐出ヘッド7の下方側に搬送するため、以下の構成が設けられる。すなわち用紙12を静電吸着して搬送するための搬送ベルト21と、給紙部からガイド15を介して送られる用紙12を搬送ベルト21との間で挟んで搬送するためのカウンタローラ22とが設けられる。更に、略鉛直上方に送られる用紙12を略90°方向転換させて搬送ベルト21上に沿わせるための搬送ガイド23と、押さえ部材24で搬送ベルト21側に付勢された押さえコロ25とが設けられる。また、搬送ベルト21の表面を帯電させるための帯電手段である帯電ローラ26が設けられる。
【0019】
ここで、搬送ベルト21は無端状のベルトであり、搬送ローラ27とテンションローラ28との間に掛け渡されている。副走査モータ31によってタイミングベルト32が駆動されるとタイミングローラ33を介して搬送ローラ27が回転される(図2参照)。その結果搬送ベルト21が図2のベルト搬送方向(副走査方向)に周回するように駆動される。なお、搬送ベルト21の裏面側には、インク滴吐出ヘッド7によって画像が形成される画像形成領域に対応してガイド部材29が配置されている(図1参照)。また、帯電ローラ26は搬送ベルト21の表層に接触し、搬送ベルト21が回動されると、これに従動して回転するように配置される。
【0020】
また、図2に示すように、搬送ローラ27の軸にはスリット円板34が取り付けられている。又このスリット円板34のスリットを検知するエンコーダセンサ35が設けられている。これらのスリット円板34及びエンコーダセンサ35によってロータリエンコーダ36が形成される。
【0021】
さらに、インク滴吐出ヘッド7で記録がなされた用紙12を排紙するための排紙部が備えられる。この排紙部には、搬送ベルト21から用紙12を分離するための分離爪51と、排紙ローラ52及び排紙コロ53と、排紙される用紙12をストックする排紙トレイ54とが含まれる。
【0022】
また、背部には両面給紙ユニット61が着脱自在に装着されている(図1参照)。この両面給紙ユニット61は、搬送ベルト21の逆方向の回転によって戻される用紙12を取り込んで反転させ、再度カウンタローラ22と搬送ベルト21との間に給紙する。
【0023】
さらに、図2に示すように、キャリッジ3の走査方向の一方側の非印字領域には、インク滴吐出ヘッド7のノズルの状態を維持し、回復するための維持回復機構56が配置される。
【0024】
この維持回復機構56には、インク滴吐出ヘッド7の各ノズル面をキャッピングするための各キャップ57と、ノズル面をワイピングするためのブレード部材であるワイパーブレード58とが含まれる。又、増粘したインクを排出するために記録に寄与しないインク滴を吐出させる空吐出を行なうときにインク滴を受ける空吐出受け59なども含まれている。
【0025】
このような構成を有するインクジェット記録装置では、給紙部から用紙12が1枚ずつ分離されて給紙される。又略鉛直上方に給紙された用紙12はガイド15で案内され、搬送ベルト21とカウンタローラ22との間に挟まれて搬送される。更に用紙21の先端が搬送ガイド23で案内され、用紙12は押さえコロ25で搬送ベルト21に押し付けられる。このようにして用紙12の搬送方向が略90°転換される。
【0026】
このとき、後述する制御部200(図4)によってACバイアス供給部から帯電ローラ26に対しプラス出力とマイナス出力とが交互に繰り返すように、すなわち交番する電圧が印加される。その結果、搬送ベルト21には交番する帯電電圧パターンが形成される。この交番する帯電パターンは、周回方向である副走査方向に沿ってプラスとマイナスにそれぞれの帯電された部分が所定の幅で帯状に交互に配置されたパターンである。このプラスとマイナスに交互に帯電された搬送ベルト21上に用紙12が給送されると、用紙12が搬送ベルト21に静電力で吸着され、搬送ベルト21が周回するように移動されることにより、用紙12が副走査方向に搬送される。
【0027】
そして制御部200の制御の下、キャリッジ3が主走査方向の往路及び復路方向に交互に移動され、画像信号に応じてインク滴吐出ヘッド7が駆動される。その結果、上記搬送後に停止された用紙12上にインク滴が吐出されて1行分の画像が記録される。そして用紙12が所定量副走査方向に搬送された後、上記同様の動作(記録動作)で次の行の画像の記録が行なわれる。このように用紙12に対し行毎の記録動作が繰り返され、1頁の画像の記録が行われる。その後、記録終了信号又は用紙12の後端が記録領域に到達したことを示す信号の受信により記録動作が終了され、1頁の画像の記録された用紙12が排紙トレイ54に排紙される。
【0028】
また、両面印刷の場合には、用紙12の表面(最初に印刷する面)に対する記録が終了したときに、搬送ベルト21の逆回転により、記録済みの用紙12が両面給紙ユニット61内に送り込まれ、用紙12が反転されて裏面が印刷面となる状態となる。そして用紙12が再度カウンタローラ22と搬送ベルト21との間に給紙される。そしてタイミング制御によって、上記同様の動作で搬送ベル21上に用紙12が搬送され、上記同様の記録動作により用紙12の裏面に1頁の画像の記録がなされ、その後用紙12は排紙トレイ54に排紙される。
【0029】
また、印字(記録)を行わない待機中にはキャリッジ3は維持回復機構56側に移動され、キャップ57でインク滴吐出ヘッド7のノズル面がキャッピングされて、ノズルが湿潤状態に保たれる。このようにしてインクの乾燥による吐出不良が防止される。また、キャップ57でインク滴吐出ヘッド7をキャッピングした状態でノズルからインクを吸引し(「ノズル吸引」又は「ヘッド吸引」という。)、増粘したインクや気泡を排出する回復動作が行われる。又この回復動作によってインク滴吐出ヘッド7のノズル面に付着したインクを清掃して除去するために、ワイパーブレード58でワイピングを行なう。また、記録開始前あるいは記録途中などに、記録に関係しないインクを吐出する空吐出動作が行なわれる。これによってインク滴吐出ヘッド7の安定した吐出性能が維持される。
【0030】
次に、インク滴吐出ヘッド7について説明する。
【0031】
図3は、インク滴吐出ヘッド7の断面図である。
【0032】
インク滴吐出ヘッド7は圧電振動子(圧電素子)161aを使用し、流路基板102とフレーム150と圧力発生手段161とを含む。
【0033】
流路基板102は、ノズル開口111を紙面に対して直交する方向に多数個有するノズルプレート110と、ノズル開口111へ連通する圧力室121とを有する。更に、圧力室121へのインク流入量を制御する流体抵抗部122を有するリストリクタプレート120と、圧力発生手段161の圧力を効率よく圧力室121に伝達するための振動板131が形成されたダイアフラムプレート130とを有する。更に、共通インク室151のインクを各ノズル開口111へ分流させるマニホールドプレート140を有する。
【0034】
フレーム150は、流路基板102を保持し、かつ外部からのインクを導入して貯留する共通インク室151を有し、その開口部がマニホールドプレート140に面している。圧力発生手段161では、導電材料と圧電材料が交互に積層された圧電素子161aの一端が支持部材161bに固着されている。圧電素子161aの他端は接着剤によりダイアフラムプレート130に接着されている。圧電素子161aには電極が形成され、駆動制御部(ヘッドドライバ)208(図4)に電気的に接続されている。又、インク滴吐出ヘッド7の温度(環境温度)を感知するための温度センサ215、例えばサーミスタが設けられている。
【0035】
インクは図示しないインク供給管あるいはヘッド接続管から供給され、共通インク室151に入り、マニホールドプレート140を通過して、流体抵抗部122、圧力室121、ノズル開口111へと順に流れる。後述するヘッドドライバ208(図4)からの所定の駆動パルスの印加によって圧電素子161aが伸縮し、駆動パルスの印加の停止によって圧電素子161aは伸縮前の状態に戻る。このような圧電素子161aの変形により個別液室(圧力室)121内のインクに瞬間的に圧力が加わり、ノズル開口111からインクがインク滴となって吐出され、被着媒体(すなわち用紙12)上に着弾する。
【0036】
以上のような構成を有するインク滴吐出ヘッド7は、固有振動周期Tc、いわゆるヘルムホルツ周期を有している。ヘルムホルツ周期は、ノズル開口111から流体抵抗部122までの、ノズル開口111、圧力室121、流体抵抗部122の形状などにより決まるコンプライアンスやイナータンスに支配される値を有する。コンプライアンスはバネ常数の逆数を意味し、イナータンスはρL/Sを意味する(但し、ρ:気体の密度、L:長さ、S:断面積)。
【0037】
次に、本発明の実施形態に係るインクジェット記録装置の制御部の概要について図4のブロック図を参照して説明する。
【0038】
この制御部200は、このインクジェット記録装置全体の制御を行うCPU201と、CPU201が実行するプログラム、その他の固定データを格納するROM202とを有する。更に、画像データ等を一時的に格納するRAM203と、インクジェット記録装置の電源が遮断されている間もデータを保持するための書き換え可能な不揮発性メモリ(NVRAM)204とを有する。更に、画像データに対する各種信号処理、並び替え等を行なう画像処理やその他インクジェット記録装置全体を制御するための入出力信号を処理するASIC205を有する。
【0039】
また、この制御部200は、図示せぬホスト側とのデータ、信号の送受を行なうためのホストI/F206を有する。更に、図5とともに後述する、インク滴吐出ヘッド7を駆動制御するためのデータ転送部302および駆動波形を生成する駆動波形生成部301を含む印刷制御部207を有する。更に、キャリッジ3に設けた、インク滴吐出ヘッド7を駆動するためのヘッドドライバ(ドライバIC)208と、主走査モータ4及び副走査モータ31を駆動するためのモータ駆動部210とを有する。更に、帯電ローラ26にACバイアスを供給するACバイアス供給部212、エンコーダセンサ43、35からの各検出信号、環境温度を検出する温度センサ215などの各種センサからの検出信号を入力するためのI/O213などを備えている。また、この制御部200には、このインクジェット記録装置に必要な情報の入力及び表示を行なうための操作パネル214が接続されている。
【0040】
ここで、制御部200は、パーソナルコンピュータ等の情報処理装置、イメージスキャナなどの画像読み取り装置、デジタルカメラなどの撮像装置などの上記ホスト側からの印刷データ等をケーブル或いは通信網を介してホストI/F206で受信する。
【0041】
そして、制御部200のCPU201は、ホストI/F206に含まれる図示せぬ受信バッファ内の印刷データを読み出して解析し、ASIC205にて必要な画像処理、データの並び替え処理等を行なう。そしてこのようにして印刷データから得られた画像データは印刷制御部207からヘッドドライバ208に転送される。なお、画像を出力するためのドットパターンデータの生成はホスト側のプリンタドライバ(図示を省略)で行なっている。
【0042】
印刷制御部207は、上述した画像データをシリアルデータとして転送するデータ転送部302(図5と共に後述する)を有する。又データ転送部302は、この画像データの転送及び転送の確定などに必要な転送クロックやラッチ信号、滴制御信号(マスク信号)などをヘッドドライバ208に出力する。
【0043】
印刷制御部207は更に、ROM202に格納されている共通駆動波形のパターンデータをD/A変換するD/A変換器及び電圧増幅器、電流増幅器等を含む駆動波形生成部301(図5と共に後述する)を有する。駆動波形生成部301はヘッドドライバ108に与える共通駆動波形を生成する。
【0044】
駆動波形生成部301は、ヘッドドライバ108に与える共通駆動波形を得るための共通駆動波形のパターンデータを、ROM202に格納された複数のパターンデータから選択する駆動波形選択手段を含む。駆動波形生成部301は、駆動波形選択手段が選択した共通駆動波形のパターンデータに基づいて1の駆動パルス或いは複数の駆動パルスを有する共通駆動波形を生成し、ヘッドドライバ108に対し出力する。
【0045】
なお、上記駆動波形選択手段は、吐出パルス数を削減(図9、図10と共に後述)するパルス数調整手段としても機能する。
【0046】
ヘッドドライバ208には、印刷制御部207のデータ転送部302から、インク滴吐出ヘッド7の1列分に相当する画像データがシリアルに入力される。この画像データに基づき、印刷制御部207の駆動波形生成部301から与えられる共通駆動波形に含まれる駆動パルスを選択的にインク滴吐出ヘッド7に印加する。
【0047】
このようにしてヘッドドライバ108は上記駆動パルスをインク滴吐出ヘッド7の駆動素子(図3の例では圧電素子161a)に印加してインク滴吐出ヘッド7を駆動する。駆動素子はインク滴を吐出させるエネルギーを発生する素子である。ヘッドドライバ108は共通駆動波形に含まれる駆動パルスを適宜選択することにより、例えば、「大滴」、「中滴」、「小滴」など、大きさの異なるドットを打ち分けることができる。
【0048】
また、CPU201はモータ駆動部210を介して主走査モータ4を駆動する。より具体的には、CPU201は、リニアエンコーダに含まれるエンコーダセンサ43からの検出パルスをサンプリングして速度検出値及び位置検出値を得る。そしてこれら速度検出値及び位置検出値と、予め格納した速度・位置プロファイルから得られる速度目標値及び位置目標値とに基づいて主走査モータ4に対する駆動出力値(制御値)を算出する。そして算出した駆動出力値により、モータ駆動部210を介して主走査モータ4を駆動する。
【0049】
同様に、上記ロータリエンコーダ36(図2)に含まれるエンコーダセンサ35からの検出パルスをサンプリングして速度検出値及び位置検出値を得る。そしてこれら速度検出値及び位置検出値と、予め格納した速度・位置プロファイルから得られる速度目標値及び位置目標値とに基づいて副走査モータ31に対する駆動出力値(制御値)を算出する。そして算出した駆動出力値によってモータ駆動部210を介して副走査モータ31を駆動する。
【0050】
次に、印刷制御部207及びヘッドドライバ208の一例について図5を参照して説明する。
【0051】
印刷制御部207は、所定の1印字周期に対し、複数の駆動パルスを含む共通駆動波形を生成して出力する駆動波形生成部301を有する。印刷制御部207は更に、印刷画像に応じた2ビットの画像データ(階調信号0、1)、クロック信号、ラッチ信号(LAT)、滴制御信号M0〜M3を出力するデータ転送部302を有する。
【0052】
なお、滴制御信号M0〜M3は、ヘッドドライバ208のスイッチ手段であるアナログスイッチ315の開閉を滴毎に指示する2ビットの信号である。又この滴制御信号M0〜M3は、共通駆動波形の印字周期に合わせ、選択すべき駆動パルスのタイミングでHレベル(ON)に状態遷移し、非選択時にはLレベル(OFF)に状態遷移する。
【0053】
ヘッドドライバ208は、データ転送部302からの転送クロック(シフトクロック)及びシリアル画像データ(階調データ:2ビット/CH)を入力するシフトレジスタ311を有する。又、シフトレジスタ311の各レジスタの値をラッチ信号によってラッチするラッチ回路312と、滴制御信号M0〜M3を使用して階調データをデコードするデコーダ313とを有する。更に、デコーダ313のロジックレベルの電圧信号をアナログスイッチ315が動作可能なレベルへレベル変換するレベルシフタ314を有する。更に、レベルシフタ314を介して与えられるデコーダ313の出力でオン/オフ(開閉)されるアナログスイッチ315を有する。
【0054】
このアナログスイッチ315は、各圧電素子161aの選択電極(個別電極)に接続され、駆動波形生成部301からの共通駆動波形が入力される。そしてシリアル転送された画像データ(階調データ)が滴制御信号M0〜M3を使用してデコーダ313でデコードされた結果に応じてアナログスイッチ315がオンされる。その結果、共通駆動波形に含まれる所要の駆動パルスがアナログスイッチ315によって通過されて(選択されて)圧電素子161aに印加される。
【0055】
次に、本実施形態のインクジェット記録装置を用いて行う、環境温度の変化に対して、最終合体滴のインク滴量を略一定に維持するためのインク吐出制御について説明する。
【0056】
このインク吐出制御はインク滴吐出ヘッド7に印加される駆動波形を環境温度に応じて変化させることで実現する。
【0057】
図6は、本実施形態のインク滴吐出ヘッド7で用いる共通駆動波形の一例を示す図で、環境温度が所定の低温(15℃)のときの共通駆動波形の例を示す。
【0058】
インク滴吐出ヘッド7のヘルムホルツ周期Tcは、一般にヘッドの個別液室(圧力室)121の構造によって決まるが、本実施形態で使用されるインク滴吐出ヘッド7のヘルムホルツ周期Tcは約3μsと仮定する。また、本実施形態のインクジェッ記録装置におけるインク滴吐出ヘッド7には、図6に示す例では、1印刷(又は1印字)周期内に計7個の駆動パルスSP1,P1,P2,P3,SP2,P4,P5が印加される。これら7個の駆動パルスは、P1〜P5の5個の吐出パルスと、インク滴の吐出を伴わないSP1、SP2の2個の微振動パルスとを含む。
【0059】
各駆動パルスはいわゆる「引き打ち波形」であり、電圧の立下り部で圧力室121の体積を膨張させ、所定時間その状態を保持した後、電圧の立上り部で圧力室121の体積を収縮させることで、圧力室121内のインクをインク滴として吐出させる。
【0060】
ここで、インク滴吐出ヘッド7へ印加する駆動パルスの電圧を調整することによりインク滴の速度を変更することができる。例えば、駆動パルスの電圧を上げることでインク滴の速度を上げることができる。又、隣接する駆動パルス間の時間間隔をヘルムホルツ周期Tcに近づけることにより、ノズル開口111におけるインクのメニスカス(以下単に「インクメニスカス」と称する場合がある)を共振させてインク滴の速度を上げることもできる。
【0061】
したがって、駆動パルスの電圧と各駆動パルス間の時間間隔とを調整することにより、先行して吐出されたインク滴が用紙12などの被着媒体に到達(着弾)する前に、後行して吐出されたインク滴が先行して吐出されたインク滴に追いつくようにして両者を合体させることができる。
【0062】
本実施形態では、例えば図6に示される、1印字周期内の各駆動パルスの電圧及び各駆動パルス間の時間間隔は、図7に示すようにインク滴同士の合体が飛翔中に行なわれるように、調整される。
【0063】
図7を用い、インク滴吐出ヘッド7によって吐出されたインク滴の合体の手順の例を説明する。
(i)まず、図6に示す駆動パルスP1により1滴目のインク滴がインク滴吐出ヘッド7から吐出される。
(ii)次に駆動パルスP2により、2滴目のインク滴がインク滴吐出ヘッド7から吐出される。2滴目のインク滴は1滴目のインク滴よりも速度が高い。
(iii)その結果、飛翔中に1滴目のインク滴と2滴目のインク滴とが合体する(「1−2合体滴」)。また、さらに、駆動パルスP3により、1、2滴目のそれぞれのインク滴よりも高い速度で3滴目のインク滴が吐出される。その結果、「1−2合体滴」に3滴目のインク滴が追いついて1−2合体滴と3滴目のインク滴とが合体する(「1−3合体滴(先行滴グループ)」)。
(iv)続いて、駆動パルスP4で、4滴目のインク滴が吐出される。ここで4滴目のインク滴の速度は、3滴目のインク滴の速度よりも低い。
(v)続いて、4滴目のインク滴が「1−3合体滴」と合体する前に、駆動パルスP5により5滴目のインク滴が吐出される。
(vi)その結果、5滴目のインク滴は4滴目のインク滴と合体して「4−5合体滴(後行滴グループ)」となる。
(vii)本実施形態によれば、以上のように、まず、「1−3合体滴」が「先行滴グループ」として形成され(iii)、その後、「4−5合体滴」が「後行滴グループ」として形成される(vi)。
(viii)続いて、この「先行滴グループ」(1−3合体滴)と「後行滴グループ」(4−5合体滴)とが合体する。
(ix)そして、この「1−5合体滴」(最終合体滴)が被着媒体に着弾する。
【0064】
ここで、図6において駆動パルスP1とP2とを比較すると、駆動パルスP2の方が駆動パルスの電圧が高い。その結果、上記の如く、1滴目のインク滴よりも2滴目のインク滴の速度を高くすることができる。
【0065】
次に駆動パルスP2とP3とを比較すると、駆動パルスP2の方が駆動パルスP2よりも駆動パルスの電圧が低い。しかしながら、直前の駆動パルス間の時間間隔を比較すると、駆動パルスP3の直前の駆動パルス間の時間間隔(3.75μs)の方が駆動パルスP2の直前の駆動パルス間の時間間隔(4.25μs)よりも、ヘルムホルツ周期Tc(約3μs)に近い。その結果、上記の如く、2滴目のインク滴よりも3滴目のインク滴の速度を高くすることができる。
【0066】
又、微振動パルスSP1を、駆動パルスP1に先行して、略Tcの時間間隔(3.25μs)で配置することにより、駆動パルスP1による1滴目のインク滴の速度を効果的に高めることができる。
【0067】
次に、駆動パルスP3とP4とを比較すると、駆動パルスP4の方が駆動パルスの電圧が低い。又、駆動パルスP3とP4との間の時間間隔は2.75μs+3.25μs=6μsと長く、その間でインクメニスカスの振動が収まる。その結果、上記の如く、3滴目のインク滴よりも4滴目のインク滴の速度を低くすることができる。
【0068】
次に駆動パルスP4とP5とを比較すると、駆動パルスP5の電圧の立下りは略5Vであり、駆動パルスP4の電圧の立下がりの略12.5Vよりも低い。しかしながら駆動パルスP5の電圧の立上がりは略17Vであり、駆動パルスP4の電圧の立下がりの略12.5Vよりもかなり高い。その結果、上記の如く、4滴目のインク滴よりも5滴目のインク滴の速度を高くすることができる。特に駆動パルス(吐出パルス)の電圧の立上り部によってインク滴の吐出エネルギーが生成されるため、駆動パルス(吐出パルス)の電圧の立上り部の電圧を高めることによって効果的にインク滴の速度を高めることができる。
【0069】
又、駆動パルスP3とP5とを比較すると、駆動パルスP5の電圧の立下りは略5Vであり、駆動パルスP3の電圧の立下がりの略13.5Vよりも低い。しかしながら駆動パルスP5の電圧の立上がりは略17Vであり、駆動パルスP3の電圧の立下がり略13.5Vよりもかなり高い。その結果、3滴目のインク滴よりも5滴目のインク滴の速度を高くすることができるとともに、「先行滴グループ」(1−3合体滴)よりも「後行滴グループ」(4−5合体滴)の速度を高くすることができる。このようにして、「先行滴グループ」(1−3合体滴)に「後行滴グループ」(4−5合体滴)を追いつかせ、両者を合体(図7中、(viii))させることができる。
【0070】
又、微振動パルスSP1同様、微振動パルスSP2を、駆動パルスP4に先行して、略Tcの時間間隔(3.25μs)で配置することにより、駆動パルスP4による4滴目のインク滴の速度を効果的に高めることができる。
【0071】
本実施形態の図7に示すインク滴が吐出されてから合体を繰り返し被着媒体に着弾するまでの手順の例と比較するため、図8に、一般的に考えられるインク滴の合体手順の例を示す。
【0072】
本実施形態では、図8に示すように後のインク滴ほど速度を高くする、という手順を採らない。このため、最後の方に吐出するインク滴の速度を、図8に示す例の場合ほど、上げなくても済む。そのため、図8に示す手順を採った場合に比してインクメニスカスの大きな振動が発生せず、よって安定してインク滴を吐出させることができるようになる。
【0073】
図8に示すインク滴の合体手順では、図示のように、先に吐出されたインク滴に対し、後から吐出されるインク滴が、順次、合体していく。
(i)この手順によれば、まず最初の駆動パルスで1滴目のインク滴が吐出される。
(ii)次の駆動パルスで2滴目のインク滴が吐出される。2滴目のインク滴は1滴目のインク滴よりも速度を高くすることで、飛翔中に1滴目のインク滴と2滴目のインク滴とが合体する。
(iii)さらに、1、2滴目のインク滴よりも高い速度で3滴目のインク滴が吐出され、1−2合体滴に3滴目のインク滴が追いついて1−2合体滴と3滴目のインク滴とが合体する。
(iv)さらに速度の高い4滴目のインク滴が吐出され、1−3合体滴に4滴目のインク滴が追いついて1−3合体滴と4滴目のインク滴とが合体する。
(v)続いて最も速度が高い5滴目のインク滴が吐出される。
(vi)1−4合体滴に5滴目のインク滴が追いつき、1−4合体滴と5滴目のインク滴とが合体する。
(vii)1−5合体滴は1つの大きなサイズのインク滴となる。
(viii)1−5合体滴が被着媒体に着弾する。
【0074】
図8に示すインク滴の合体手順では、後のインク滴を先に吐出したインク滴よりも高いい速度で吐出することで飛翔中にインク敵同士を合体させている。そのため、合体させるインク滴の個数が多くなると、最後の方に吐出するインク滴の速度を非常に高くしなければならず、インクメニスカスが不安定となり、インク滴を安定して吐出させることが難しくなる場合が想定され得る。
【0075】
これに対し、本実施形態では、図7に示すように、合体前のインク滴を2つ以上のグループに分け、「先行滴グループ」と「後行滴グループ」とを、それぞれグループ毎に合体させる。そして、その後、このようにしてグループ毎に合体した合体滴同士を合体させ、最終的に一つのインク滴(「最終合体滴」)が得られるようにしている。このため、図8に示す手順でインク滴を合体する場合に生じると考えられる「インクメニスカスが不安定となる」等の問題点が生ずる可能性を効果的に低減できる。
【0076】
ところで、環境温度が変わるとインクの粘度が変わるので、同じインク滴の速度を得るためには、環境温度に応じて、例えば駆動パルスの電圧を変える必要がある。例えば、図6に示す共通駆動波形を所定の低温のとき用の共通駆動波形とした場合、これに対し所定の高温のときには、例えば駆動パルスの電圧を下げることで、所定の低温のときとの間で、インク滴の速度を合わせる必要がある。
【0077】
しかし、環境温度が上がるに従い、同じインク滴の速度でもインク滴量は増加する。そのため、仮に上記の如くの方法によって高温のときのインク滴の速度を低温のときに合わせても、インク滴量は高温のときほど多くなる。例えば、環境温度が15℃に対して環境温度が35℃の場合には、吐出パルス1個分に相当する2pl程度インク滴量が多くなる。
【0078】
そこで、本実施形態では、例えば図9に示すように、図6に示す吐出パルスP3を削除し、吐出パルス数をP1、P2、P4、P5の4個とする。その結果、環境温度が異なる15℃のときと35℃のときの両方の場合に対し、ほぼ同じインク滴量を得ることができる。
【0079】
図9は、本実施形態のインク滴吐出ヘッド7で用いる環境温度が所定の高温35℃のときの共通駆動波形の例を示す図である。ここで、吐出パルスP3を削除する理由は、吐出パルスP3が先行滴グループ(1〜3滴目のインク滴)の最後尾のインク滴に対応する吐出パルスであるからである。すなわち先行滴グループの最後尾のインク滴に対応する吐出パルスP3の有無による、先行滴グループの合体滴の速度に対する影響が小さいからである。また、後行滴グループ(4〜5滴目のインク滴)は先行滴グループとの関係において、夫々に属する吐出パルスP3,P4間の時間間隔が空いており、その間に微振動パルスSP2が介在している。又、後行滴グループは先行滴グループに対し独立して飛翔し、最終的に先行滴グループと合体するので、後行滴グループへの影響も小さいからである。
【0080】
図9に示す環境温度が高温35℃のときの共通駆動波形の例においては、上記の如く、先行滴グループの最後尾の吐出パルスP3を削除した。しかしながら、この吐出パルスを削除した位置(時間軸における位置)に、図10に示すように、インク滴を吐出しない程度にインクメニスカスを搖動させる微振動パルスSP3を配置することが望ましい。
【0081】
図10は、本実施形態のインク滴吐出ヘッド7で用いる環境温度が高温35℃のときの別の共通駆動波形の例を示す図である。この場合、微振動パルスSP3は、以下に述べる周期(配置)とすることが望ましい。すなわち、微振動パルスSP3と後行滴グループの先頭の微振動パルスSP2との時間間隔が、インク滴吐出ヘッド7のヘルムホルツ周期Tc(3μs)とほぼ同じ時間(ここでは2.75μs)となるように配置することが望ましい。その結果、後行滴グループのインク滴の速度を効果的に高めることができ、先行滴グループとの合体を確実に果たすことができる。
【0082】
その理由は以下の通りである。すなわち、先の吐出パルスによる残留振動は徐々に小さくなっていくが、殆ど影響がなくなるのは、インク滴の吐出から3Tc(9μs)以上経過してからである。
【0083】
本実施形態のように駆動パルスの時間間隔がほぼヘルムホルツ周期Tcに等しい場合、先の駆動パルスによるインクメニスカスの振動に、後行滴グループの1発目の駆動パルスP4による振動が重畳される。したがって図10に示される微振動パルスSP3を配置することにより、後行滴グループの1発目の駆動パルスP4の電圧として実質的に高い電圧を印加した場合と同様の効果が得られるからである。
【0084】
なおこの微振動パルスSP3による効果は、上記微振動パルスSP1,SP2の各々によっても同様に得られる。
【0085】
最終合体滴のインク滴量に対する要求精度が吐出パルス1個分程度の場合は、以上のように、先行滴グループの最後尾の吐出パルスを使用しない(削除する)ことでインク滴量の調整が達成できる。しかしながら、さらに細かい精度が要求される場合には、先行滴グループとして使用する吐出パルスのうち、最後尾の吐出パルスの波形を調整することでインク滴量の調整が達成できる。
【0086】
例えば環境温度が20℃の場合は、15℃波形に対する最終合体滴のインク滴量の増加量が、吐出パルス1個分よりもかなり小さい。そのため、吐出パルスを1個減らしてしまうと、インク滴量が足りなくなってしまう。そこで、図11に示すように、先行滴グループの最後尾の吐出パルスであるP3の波形を変更することによって最終合体滴のインク滴量を調整する。
【0087】
図11の(A)は、本実施形態のインク滴吐出ヘッド7に用いる環境温度が20℃のときの共通駆動波形(20℃波形)の例を示す図である。この共通駆動波形について、図6に示す15℃のときの共通駆動波形(15℃波形)と、各対応する吐出パルスについて電圧比を比較すると、図11の(B)のようになる。
【0088】
ここで、駆動パルスP1は最初の吐出パルスであるため速度が遅く、かつ対応するインク滴のインク滴量が少ないので、合体滴の速度にほとんど影響を与えない。他方、吐出パルスP2、P4、P5は合体滴の速度に影響を与える。そこで吐出パルスP2、P4、P5のそれぞれにおいて、20℃波形の場合の合体滴の速度が15℃波形の場合とほぼ同じとなるように、図11の(B)に示すように、20℃波形の駆動電圧を15℃波形の92〜94%にしている。
【0089】
他方、吐出パルスP3も上記同様の比率(92〜94%)とすると、20℃波形の場合の環境温度が高いため、20℃波形の場合の最終合体滴のインク滴量が多くなってしまう。このため図11の(B)に示すように20℃波形における吐出パルスP3の15℃波形に対する電圧比を他の吐出パルスよりも小さく(78%)して20℃波形の場合の吐出パルスP3によるインク滴のインク滴量を減らす。その結果20℃波形の場合の最終合体滴のインク滴量を15℃波形の場合とほぼ同じにすることができる。このように吐出パルスP3をインク滴量調整用に用いる。
【0090】
なお、このように吐出パルスP3をインク滴量調整用に用いる理由は以下の通りである。すなわち、図9とともに上述した吐出パルスP3を削除する場合ついて述べたように、吐出パルスP3は合体滴の速度への影響が小さい。その結果、例えば上記の如く、20℃波形の場合の最終合体滴のインク滴量を減らす目的で20℃波形における吐出パルスP3の15℃波形に対する電圧比を小さくしても、合体滴の速度への影響が小さくすむからである。
【0091】
以上、各環境温度に対し、対応する本実施形態の共通駆動波形を採用することにより、環境温度によらず最終合体滴のインク滴量を略一定にすることができる。すなわち図12に示すように、所定の評価温度範囲内において最終合体滴のインク滴量が15.2pl±0.2plというように、環境温度の変化に対しほぼ一定の最終合体滴のインク滴量を得ることができる。
【0092】
本実施形態では、図9とともに上述したように、所定の高温(35℃)のときには、例えば吐出パルスを1個減らすようにした。しかしながら、このような方法に限定されることはなく、他の方法も可能である。例えば、最終合体滴のインク滴量を30plとし、このインク滴量を、所定の低温(15℃)のときは吐出パルス10個を使用して吐出させるものとする。このような場合、図9の例の場合と同じ割合(1個/5個)で吐出パルス数を減らすものとすると、所定の高温(35℃)のときは吐出パルスを2個(10×(1/5)=2)減らすことになる。又その間の温度(例えば20℃)のときは、吐出パルスを1個減らすことができる。このような場合、吐出パルスを順に減らしていく位置としては、先行滴グループの最後尾の吐出パルスから順に減らす。また、逆に環境温度が低下した場合に、それに伴って吐出パルスを増やすことができる。
【0093】
また、図11に示した実施形態の例では、最終合体滴の細かなインク滴量の調整を、先行滴グループの最後尾の吐出パルスの電圧値を変更することによって行なう。この方法は、先行滴グループの最後尾の吐出パルスの波形を変更することによって最終合体滴の細かなインク滴量の調整を行う方法の一例である。先行滴グループの最後尾の吐出パルスの波形を変更することによって最終合体滴の細かなインク滴量の調整を行う方法の他の例として、以下の例が挙げられる。すなわち、最終合体滴の細かなインク滴量の調整を、先行滴グループの最後尾の吐出パルスの電圧の立下り時間を変更することによって行なってもよい。あるいは、先行滴グループの最後尾の吐出パルスの電圧の立下り後の保持時間を変更することによって行なってもよい。あるいは、先行滴グループの最後尾の吐出パルスの電圧の立上り時間を変更することによって行なってもよい。
【0094】
また、図6,9,10および11のそれぞれに示す共通駆動波形の例において、最終駆動パルスP5は単純な「引き打ち波形」ではなく、電圧の立下り部およびこれに引き続く電圧の立上り部に加え、更に電圧の立下り部を最後に設けている。この最後の電圧の立下り部は、圧力室121(図3参照)の収縮を行ってインク滴を吐出させた後、その際に発生する残留振動を抑えるため、その振動を打ち消す「制振部」となるようなタイミングで圧力室121を膨張させるためのものである。
【0095】
図13に示す駆動波形の例は、図6に示す共通駆動波形の全てを使用する場合の駆動波形の例である。この駆動波形によって得られる最終合体滴を「大滴」とした場合、図14に示すように、後行滴グループに対応する駆動パルスSP2、P4、P5だけを使用(選択)することで、駆動波形を長くすることなく、「大滴」とは異なるサイズの合体滴として「中滴」を得ることができる。ここで「中滴」とは、「大滴」よりもインク滴量が少ない合体滴をいう。
【0096】
また、図14の駆動波形の場合、図6,9,10,11の場合同様、駆動波形の最終駆動パルスとして、「制振部」となる最後の電圧の立下り部を有する駆動パルスP5を使用している。その結果、図6,9,10,11の場合同様の制振効果も期待でき、最高駆動周波数を下げることなく、安定した「中滴」を得ることができる。
【0097】
なお、1印字周期当たりの吐出パルス数は印刷密度、用紙の種類等によって変わるが、上述した共通駆動波形の環境温度に伴う選択は、例えば以下のようにして実現することができる。すなわち、制御部200(図4参照)の不揮発性メモリ204内に、例えば環境温度が20℃のときは図11の(A)の共通駆動波形を使用し、35℃のときは図10の共通駆動波形を使用し、...、というような、各環境温度と共通駆動波形との対応関係を表したテーブルを記憶させておく。そして印刷制御部207の駆動波形生成部301の上記駆動波形選択手段が共通駆動波形のパターンデータを上記の如くROM202から選択する。この場合駆動波形選択手段は、上記サーミスタなどの温度センサ215によって検出した環境温度に基づき、当該検出環境温度に対応した共通駆動波形を生成するための共通駆動波形のパターンデータを上記の如くROM202から選択する。駆動波形生成部301は当該選択された共通駆動波形のパターンデータに基づいて上記の如く共通駆動波形を生成し、ヘッドドライバ108に供給する。
【0098】
上記の各環境温度と共通駆動波形との対応関係を表したテーブル、駆動波形選択手段等の機能によって、具体的に以下の如くの制御を実現することができる。例えば、600×600dpi、普通紙印字の場合、環境温度が24℃のときに1印字周期当たりの吐出パルス数を5個とし、これを基準とすることができる。そして環境温度が30℃のときは1印字周期当たりの吐出パルス数を4個とし、10℃のときは6個とする、というように、環境温度によって共通駆動波形に含まれる吐出パルス数を増減することができる。
【0099】
また、本発明の実施形態は、液晶ディスプレイのカラーフィルタに用いられる色材液や、有機ELディスプレイ等の電極膜形成に用いられる電極材料液などの特殊な液体を吐出するインクジェット記録装置にも応用が可能である。
【0100】
以上、本実施形態について説明したが、本実施形態によれば、以下の作用効果が得られる。
(1)合体前のインク滴を2つ以上のグループに分け、先行滴グループと後行滴グループとをそれぞれグループ毎に合体させてから、最終的に一つのインク滴(最終合体滴)に合体させるようにする。かつ、環境温度が低温のときの吐出パルス数に対し、環境温度が高温になるほど吐出パルスの数を減らし、かつ、その減らす吐出パルスの位置は先行滴グループの最後尾の吐出パルスから減らすようにする。その結果、環境温度によらず、最終合体滴のインク滴量をほぼ同じとし、かつ、異なる環境温度に対し、ほぼ同等の最終合体滴の速度と安定性を得ることができる。
(2)吐出パルス1個分に相当するインク滴の体積より少ない体積差の最終合体滴のインク滴量の調整は、先行滴グループの最後尾の吐出パルスの波形の変更によって行なう。その結果、インク滴の吐出特性に対する影響がほとんどなく、かつ、より精度良く最終合体滴のインク滴量を調整することができる。
(3)インク滴吐出ヘッドの流路によって決まる固有振動周期をTcとした場合、上記の如くに吐出パルスを減らした位置には、後行滴グループの1番目の駆動パルスとの時間間隔がほぼTcとなる位置に微振動パルスを配置する。なお微振動パルスとは、インク滴を吐出しない程度にインクメニスカスを搖動させるための駆動パルスをいう。その結果、先行滴グループが合体した合体滴と後行滴グループが合体した合体滴とを合体させる際の後行滴グループの速度を高めることができ、より確実に先行滴グループの合体滴と後行滴グループの合体滴とを合体させることができる。
(4)後行滴グループは、先行滴グループの合体滴と後行滴グループの合体滴との合体滴(最終合体滴)(大滴)よりサイズの小さなドット(中滴)を被着媒体上に形成するインク滴を得るために単独で使用することができる。その場合、当該サイズの小さなドット(中滴)を形成するインク滴の被着媒体上での着弾位置が、大滴の場合と略一致するような駆動波形を使用する。その結果、駆動波形を長くすることなく、大滴とは大きさの異なるドット(中滴)を被着媒体上に形成することができる。
【符号の説明】
【0101】
3・・・キャリッジ
7、7k、7c、7m、7y・・・インク滴吐出ヘッド
161a・・・圧電素子
200・・・制御部
207・・・印刷制御部
208・・・ヘッドドライバ
215・・・温度センサ
301・・・駆動波形生成部
302・・・データ転送部
【先行技術文献】
【特許文献】
【0102】
【特許文献1】特許第3674248号公報
【特許文献2】特開2002−211011号公報
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録方法及びインクジェット記録装置に関し、インク滴吐出ヘッドを用いて行うインクジェット記録方法及びインク滴吐出ヘッドを備えたインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置としては、画像を形成するドロップオンデマンド型のインクジェット記録装置等が知られている。ドロップオンデマンド型のインクジェット記録装置は、例えばインク滴吐出ヘッドをキャリッジに搭載して往復移動させながら印刷するシリアル方式の印刷装置、インク滴吐出ヘッドをライン上に設置した状態で印刷するラインヘッド方式の印刷装置などに用いられる。
【0003】
このようなインクジェット記録装置では、階調印刷を行なう場合、例えば1印字周期内(又は1駆動周期内)に複数の駆動パルスを含む共通駆動波形を生成する。そして共通駆動波形の内から1又は複数の駆動パルスを選択し、インク滴吐出ヘッドにおいてインク滴を吐出する圧力発生手段(アクチュエータ手段)に対して印加する。このようにしてインク滴吐出ヘッドから滴サイズが同じ又は異なるインク滴を吐出させ、飛翔中にインク滴同士を合体させ、あるいは同じ着弾位置に複数のインク滴を打ち込むことにより、大きさの異なるドットを形成する。
【0004】
ところで、このようなインクジェット記録装置では、環境温度が変化すると、それに伴い使用するインクの濃度が変化し、記録濃度が変化する傾向がある。そこで従来から環境温度の変化に関わらず記録濃度を一定に維持することが求められており、そのための開発が行われている。
【0005】
例えば、特許文献1に記載されたインクジェット記録装置では、温度範囲をいくつかに分け、その所定範囲ごとに異なる複数の駆動波形を対応させる。又、一つの温度範囲内においては、温度変化に対して電圧を変える。このようにして温度の変化に関わらずほぼ一定の記録濃度で記録が行われるようにしている。
【0006】
また、特許文献2に記載されたインクジェット記録装置は、吐出滴数を補正して1画素ドットの大きさを補正するドット径補正手段を備えており、周囲環境によって吐出滴数を補正することで1画素ドットの大きさを揃えるようにしている。
【0007】
特許文献1に記載されたインクジェット記録装置では、温度範囲をいくつかに分けた各所定範囲内については、電圧を変更することで容易に駆動波形を得ることができる。しかし、各温度範囲に割り当てられる波形を求めるためには細かな波形調整が必要であり、かなりの時間を要する場合が想定され得る。
【0008】
また、特許文献2には、吐出滴の後ろに吐出滴を追加する方法が例示されている。この方法では複数のインク滴を一つのインク滴に合体させるが、このため後ろに行く程インク滴の速度を高くすることが考えられる。しかしながらこのように後ろに行く程インク滴の速度を高くすると、特に合体させるインク滴数が多い場合、最終滴の速度をかなり高くすることになる。その結果インク滴吐出ヘッドにおけるインクのメニスカスが乱れやすくなり、安定したインク滴の吐出を得ることが困難になる場合が想定され得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、インクジェット記録方法又はインクジェット記録装置における従来の問題点に鑑みてなされたものであって、その目的は、安定した最終合体滴(後述)が容易に得られるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一実施形態は、印加する信号の波形に応じて圧力発生手段が発生する圧力によって被着媒体に対しインク滴を吐出するインク滴吐出ヘッドを有するインクジェット記録装置におけるインクジェット記録方法であって、1印字周期内にインク滴吐出ヘッドから複数のインク滴を吐出させ、複数のインク滴が所定のインク滴のグループ毎にそれぞれ合体して複数の合体滴となり、その後複数の合体滴同士が更に合体して飛翔中に一つのインク滴(「最終合体滴」と称する)となるような波形の信号を生成して圧力発生手段に印加することを特徴とするインクジェット記録方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一実施形態によれば、インクジェット記録方法又はインクジェット記録装置において安定したインク滴の吐出を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態に係るインクジェット記録装置の機構部の全体構成を説明する側面図である。
【図2】図1の機構部の平面図である。
【図3】本実施形態のインクジェット記録方法及びインクジェット記録装置で用いられるインク滴吐出ヘッドの一例の断面図である。
【図4】本実施形態のインクジェット記録装置の制御部の概要を示すブロック図である。
【図5】図4に示す制御部の印刷制御部及びヘッドドライバの一例を示すブロック図である。
【図6】本実施形態のインク滴吐出ヘッドで用いる環境温度が所定の低温(15℃)のときの共通駆動波形の例を示す図である。
【図7】本実施形態において飛翔中のインク滴が合体する手順の例を説明する図である。
【図8】本実施形態と比較するために一般的に考えられるインク滴の合体手順の例を示す図である。
【図9】本実施形態のインク滴吐出ヘッドで用いる環境温度が所定の高温(35℃)のときの共通駆動波形の例を示す図である。
【図10】本実施形態のインク滴吐出ヘッドで用いる環境温度が所定の高温(35℃)のときの別の共通駆動波形の例を示す図である。
【図11】(A)は本実施形態のインク滴吐出ヘッドに用いる環境温度が20℃のときの共通駆動波形の例を示す図であり、(B)は15℃のときの共通駆動波形の例(15℃波形)と20℃のときの共通駆動波形の例(20℃波形)の各吐出パルスの立上り電圧と、その両者の電圧の比を表す図である。
【図12】環境温度とインク滴量との関係の例を説明する図である。
【図13】本実施形態のインク滴吐出ヘッドで用いる駆動波形の例を示す図である。
【図14】本実施形態のインク滴吐出ヘッドで用いる他の駆動波形の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、添付図面を参照して説明する。先ず、本発明の一実施形態に係るインクジェット記録装置の機構部について、図1及び図2を参照して説明する。図1は同機構部の全体構成を説明する側面図、図2は同機構部の平面図である。
【0014】
このインクジェット記録装置では、図示しない左右の側板に横架したガイド部材であるガイドロッド1とガイドレール2とでキャリッジ3を主走査方向に摺動自在に保持する。又主走査モータ4で駆動プーリ6Aと従動プーリ6Bとの間に張架したタイミングベルト5を駆動することにより、キャリッジ3を図2で矢示方向(主走査方向)に移動するように駆動する(すなわち走査動作を行う)。
【0015】
このキャリッジ3には、例えば、それぞれイエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、ブラック(K)のインク滴を吐出する4個のインク滴吐出ヘッド7y、7c、7m、7kを配列する。その際、複数のインク吐出口を主走査方向と交叉する方向に向けて配列し、インク滴吐出方向を下方に向けてインク滴吐出ヘッド7y、7c、7m、7kをキャリッジ3に装着する。なおこれらインク滴吐出ヘッド7y、7c、7m、7kは、特に色を区別しないときは「インク滴吐出ヘッド7」と称する。
【0016】
キャリッジ3には、インク滴吐出ヘッド7に各色のインクを供給するための各色のサブタンク8を搭載する。このサブタンク8には、インク供給チューブ9を介して図示しないメインタンク(インクカートリッジ)からインクが供給され補充される。
【0017】
一方、給紙カセット10などの用紙積載部(圧板)11上に積載された用紙(被着媒体)12を給紙するための給紙部は以下の構成を有する。すなわち用紙積載部11から用紙12を1枚ずつ分離して給送する半月コロ(給紙ローラ)13および給紙ローラ13に対向し摩擦係数の大きな材質からなる分離パッド14を備える。この分離パッド14は給紙ローラ13側に付勢されている。
【0018】
この給紙部から給紙された用紙12をインク滴吐出ヘッド7の下方側に搬送するため、以下の構成が設けられる。すなわち用紙12を静電吸着して搬送するための搬送ベルト21と、給紙部からガイド15を介して送られる用紙12を搬送ベルト21との間で挟んで搬送するためのカウンタローラ22とが設けられる。更に、略鉛直上方に送られる用紙12を略90°方向転換させて搬送ベルト21上に沿わせるための搬送ガイド23と、押さえ部材24で搬送ベルト21側に付勢された押さえコロ25とが設けられる。また、搬送ベルト21の表面を帯電させるための帯電手段である帯電ローラ26が設けられる。
【0019】
ここで、搬送ベルト21は無端状のベルトであり、搬送ローラ27とテンションローラ28との間に掛け渡されている。副走査モータ31によってタイミングベルト32が駆動されるとタイミングローラ33を介して搬送ローラ27が回転される(図2参照)。その結果搬送ベルト21が図2のベルト搬送方向(副走査方向)に周回するように駆動される。なお、搬送ベルト21の裏面側には、インク滴吐出ヘッド7によって画像が形成される画像形成領域に対応してガイド部材29が配置されている(図1参照)。また、帯電ローラ26は搬送ベルト21の表層に接触し、搬送ベルト21が回動されると、これに従動して回転するように配置される。
【0020】
また、図2に示すように、搬送ローラ27の軸にはスリット円板34が取り付けられている。又このスリット円板34のスリットを検知するエンコーダセンサ35が設けられている。これらのスリット円板34及びエンコーダセンサ35によってロータリエンコーダ36が形成される。
【0021】
さらに、インク滴吐出ヘッド7で記録がなされた用紙12を排紙するための排紙部が備えられる。この排紙部には、搬送ベルト21から用紙12を分離するための分離爪51と、排紙ローラ52及び排紙コロ53と、排紙される用紙12をストックする排紙トレイ54とが含まれる。
【0022】
また、背部には両面給紙ユニット61が着脱自在に装着されている(図1参照)。この両面給紙ユニット61は、搬送ベルト21の逆方向の回転によって戻される用紙12を取り込んで反転させ、再度カウンタローラ22と搬送ベルト21との間に給紙する。
【0023】
さらに、図2に示すように、キャリッジ3の走査方向の一方側の非印字領域には、インク滴吐出ヘッド7のノズルの状態を維持し、回復するための維持回復機構56が配置される。
【0024】
この維持回復機構56には、インク滴吐出ヘッド7の各ノズル面をキャッピングするための各キャップ57と、ノズル面をワイピングするためのブレード部材であるワイパーブレード58とが含まれる。又、増粘したインクを排出するために記録に寄与しないインク滴を吐出させる空吐出を行なうときにインク滴を受ける空吐出受け59なども含まれている。
【0025】
このような構成を有するインクジェット記録装置では、給紙部から用紙12が1枚ずつ分離されて給紙される。又略鉛直上方に給紙された用紙12はガイド15で案内され、搬送ベルト21とカウンタローラ22との間に挟まれて搬送される。更に用紙21の先端が搬送ガイド23で案内され、用紙12は押さえコロ25で搬送ベルト21に押し付けられる。このようにして用紙12の搬送方向が略90°転換される。
【0026】
このとき、後述する制御部200(図4)によってACバイアス供給部から帯電ローラ26に対しプラス出力とマイナス出力とが交互に繰り返すように、すなわち交番する電圧が印加される。その結果、搬送ベルト21には交番する帯電電圧パターンが形成される。この交番する帯電パターンは、周回方向である副走査方向に沿ってプラスとマイナスにそれぞれの帯電された部分が所定の幅で帯状に交互に配置されたパターンである。このプラスとマイナスに交互に帯電された搬送ベルト21上に用紙12が給送されると、用紙12が搬送ベルト21に静電力で吸着され、搬送ベルト21が周回するように移動されることにより、用紙12が副走査方向に搬送される。
【0027】
そして制御部200の制御の下、キャリッジ3が主走査方向の往路及び復路方向に交互に移動され、画像信号に応じてインク滴吐出ヘッド7が駆動される。その結果、上記搬送後に停止された用紙12上にインク滴が吐出されて1行分の画像が記録される。そして用紙12が所定量副走査方向に搬送された後、上記同様の動作(記録動作)で次の行の画像の記録が行なわれる。このように用紙12に対し行毎の記録動作が繰り返され、1頁の画像の記録が行われる。その後、記録終了信号又は用紙12の後端が記録領域に到達したことを示す信号の受信により記録動作が終了され、1頁の画像の記録された用紙12が排紙トレイ54に排紙される。
【0028】
また、両面印刷の場合には、用紙12の表面(最初に印刷する面)に対する記録が終了したときに、搬送ベルト21の逆回転により、記録済みの用紙12が両面給紙ユニット61内に送り込まれ、用紙12が反転されて裏面が印刷面となる状態となる。そして用紙12が再度カウンタローラ22と搬送ベルト21との間に給紙される。そしてタイミング制御によって、上記同様の動作で搬送ベル21上に用紙12が搬送され、上記同様の記録動作により用紙12の裏面に1頁の画像の記録がなされ、その後用紙12は排紙トレイ54に排紙される。
【0029】
また、印字(記録)を行わない待機中にはキャリッジ3は維持回復機構56側に移動され、キャップ57でインク滴吐出ヘッド7のノズル面がキャッピングされて、ノズルが湿潤状態に保たれる。このようにしてインクの乾燥による吐出不良が防止される。また、キャップ57でインク滴吐出ヘッド7をキャッピングした状態でノズルからインクを吸引し(「ノズル吸引」又は「ヘッド吸引」という。)、増粘したインクや気泡を排出する回復動作が行われる。又この回復動作によってインク滴吐出ヘッド7のノズル面に付着したインクを清掃して除去するために、ワイパーブレード58でワイピングを行なう。また、記録開始前あるいは記録途中などに、記録に関係しないインクを吐出する空吐出動作が行なわれる。これによってインク滴吐出ヘッド7の安定した吐出性能が維持される。
【0030】
次に、インク滴吐出ヘッド7について説明する。
【0031】
図3は、インク滴吐出ヘッド7の断面図である。
【0032】
インク滴吐出ヘッド7は圧電振動子(圧電素子)161aを使用し、流路基板102とフレーム150と圧力発生手段161とを含む。
【0033】
流路基板102は、ノズル開口111を紙面に対して直交する方向に多数個有するノズルプレート110と、ノズル開口111へ連通する圧力室121とを有する。更に、圧力室121へのインク流入量を制御する流体抵抗部122を有するリストリクタプレート120と、圧力発生手段161の圧力を効率よく圧力室121に伝達するための振動板131が形成されたダイアフラムプレート130とを有する。更に、共通インク室151のインクを各ノズル開口111へ分流させるマニホールドプレート140を有する。
【0034】
フレーム150は、流路基板102を保持し、かつ外部からのインクを導入して貯留する共通インク室151を有し、その開口部がマニホールドプレート140に面している。圧力発生手段161では、導電材料と圧電材料が交互に積層された圧電素子161aの一端が支持部材161bに固着されている。圧電素子161aの他端は接着剤によりダイアフラムプレート130に接着されている。圧電素子161aには電極が形成され、駆動制御部(ヘッドドライバ)208(図4)に電気的に接続されている。又、インク滴吐出ヘッド7の温度(環境温度)を感知するための温度センサ215、例えばサーミスタが設けられている。
【0035】
インクは図示しないインク供給管あるいはヘッド接続管から供給され、共通インク室151に入り、マニホールドプレート140を通過して、流体抵抗部122、圧力室121、ノズル開口111へと順に流れる。後述するヘッドドライバ208(図4)からの所定の駆動パルスの印加によって圧電素子161aが伸縮し、駆動パルスの印加の停止によって圧電素子161aは伸縮前の状態に戻る。このような圧電素子161aの変形により個別液室(圧力室)121内のインクに瞬間的に圧力が加わり、ノズル開口111からインクがインク滴となって吐出され、被着媒体(すなわち用紙12)上に着弾する。
【0036】
以上のような構成を有するインク滴吐出ヘッド7は、固有振動周期Tc、いわゆるヘルムホルツ周期を有している。ヘルムホルツ周期は、ノズル開口111から流体抵抗部122までの、ノズル開口111、圧力室121、流体抵抗部122の形状などにより決まるコンプライアンスやイナータンスに支配される値を有する。コンプライアンスはバネ常数の逆数を意味し、イナータンスはρL/Sを意味する(但し、ρ:気体の密度、L:長さ、S:断面積)。
【0037】
次に、本発明の実施形態に係るインクジェット記録装置の制御部の概要について図4のブロック図を参照して説明する。
【0038】
この制御部200は、このインクジェット記録装置全体の制御を行うCPU201と、CPU201が実行するプログラム、その他の固定データを格納するROM202とを有する。更に、画像データ等を一時的に格納するRAM203と、インクジェット記録装置の電源が遮断されている間もデータを保持するための書き換え可能な不揮発性メモリ(NVRAM)204とを有する。更に、画像データに対する各種信号処理、並び替え等を行なう画像処理やその他インクジェット記録装置全体を制御するための入出力信号を処理するASIC205を有する。
【0039】
また、この制御部200は、図示せぬホスト側とのデータ、信号の送受を行なうためのホストI/F206を有する。更に、図5とともに後述する、インク滴吐出ヘッド7を駆動制御するためのデータ転送部302および駆動波形を生成する駆動波形生成部301を含む印刷制御部207を有する。更に、キャリッジ3に設けた、インク滴吐出ヘッド7を駆動するためのヘッドドライバ(ドライバIC)208と、主走査モータ4及び副走査モータ31を駆動するためのモータ駆動部210とを有する。更に、帯電ローラ26にACバイアスを供給するACバイアス供給部212、エンコーダセンサ43、35からの各検出信号、環境温度を検出する温度センサ215などの各種センサからの検出信号を入力するためのI/O213などを備えている。また、この制御部200には、このインクジェット記録装置に必要な情報の入力及び表示を行なうための操作パネル214が接続されている。
【0040】
ここで、制御部200は、パーソナルコンピュータ等の情報処理装置、イメージスキャナなどの画像読み取り装置、デジタルカメラなどの撮像装置などの上記ホスト側からの印刷データ等をケーブル或いは通信網を介してホストI/F206で受信する。
【0041】
そして、制御部200のCPU201は、ホストI/F206に含まれる図示せぬ受信バッファ内の印刷データを読み出して解析し、ASIC205にて必要な画像処理、データの並び替え処理等を行なう。そしてこのようにして印刷データから得られた画像データは印刷制御部207からヘッドドライバ208に転送される。なお、画像を出力するためのドットパターンデータの生成はホスト側のプリンタドライバ(図示を省略)で行なっている。
【0042】
印刷制御部207は、上述した画像データをシリアルデータとして転送するデータ転送部302(図5と共に後述する)を有する。又データ転送部302は、この画像データの転送及び転送の確定などに必要な転送クロックやラッチ信号、滴制御信号(マスク信号)などをヘッドドライバ208に出力する。
【0043】
印刷制御部207は更に、ROM202に格納されている共通駆動波形のパターンデータをD/A変換するD/A変換器及び電圧増幅器、電流増幅器等を含む駆動波形生成部301(図5と共に後述する)を有する。駆動波形生成部301はヘッドドライバ108に与える共通駆動波形を生成する。
【0044】
駆動波形生成部301は、ヘッドドライバ108に与える共通駆動波形を得るための共通駆動波形のパターンデータを、ROM202に格納された複数のパターンデータから選択する駆動波形選択手段を含む。駆動波形生成部301は、駆動波形選択手段が選択した共通駆動波形のパターンデータに基づいて1の駆動パルス或いは複数の駆動パルスを有する共通駆動波形を生成し、ヘッドドライバ108に対し出力する。
【0045】
なお、上記駆動波形選択手段は、吐出パルス数を削減(図9、図10と共に後述)するパルス数調整手段としても機能する。
【0046】
ヘッドドライバ208には、印刷制御部207のデータ転送部302から、インク滴吐出ヘッド7の1列分に相当する画像データがシリアルに入力される。この画像データに基づき、印刷制御部207の駆動波形生成部301から与えられる共通駆動波形に含まれる駆動パルスを選択的にインク滴吐出ヘッド7に印加する。
【0047】
このようにしてヘッドドライバ108は上記駆動パルスをインク滴吐出ヘッド7の駆動素子(図3の例では圧電素子161a)に印加してインク滴吐出ヘッド7を駆動する。駆動素子はインク滴を吐出させるエネルギーを発生する素子である。ヘッドドライバ108は共通駆動波形に含まれる駆動パルスを適宜選択することにより、例えば、「大滴」、「中滴」、「小滴」など、大きさの異なるドットを打ち分けることができる。
【0048】
また、CPU201はモータ駆動部210を介して主走査モータ4を駆動する。より具体的には、CPU201は、リニアエンコーダに含まれるエンコーダセンサ43からの検出パルスをサンプリングして速度検出値及び位置検出値を得る。そしてこれら速度検出値及び位置検出値と、予め格納した速度・位置プロファイルから得られる速度目標値及び位置目標値とに基づいて主走査モータ4に対する駆動出力値(制御値)を算出する。そして算出した駆動出力値により、モータ駆動部210を介して主走査モータ4を駆動する。
【0049】
同様に、上記ロータリエンコーダ36(図2)に含まれるエンコーダセンサ35からの検出パルスをサンプリングして速度検出値及び位置検出値を得る。そしてこれら速度検出値及び位置検出値と、予め格納した速度・位置プロファイルから得られる速度目標値及び位置目標値とに基づいて副走査モータ31に対する駆動出力値(制御値)を算出する。そして算出した駆動出力値によってモータ駆動部210を介して副走査モータ31を駆動する。
【0050】
次に、印刷制御部207及びヘッドドライバ208の一例について図5を参照して説明する。
【0051】
印刷制御部207は、所定の1印字周期に対し、複数の駆動パルスを含む共通駆動波形を生成して出力する駆動波形生成部301を有する。印刷制御部207は更に、印刷画像に応じた2ビットの画像データ(階調信号0、1)、クロック信号、ラッチ信号(LAT)、滴制御信号M0〜M3を出力するデータ転送部302を有する。
【0052】
なお、滴制御信号M0〜M3は、ヘッドドライバ208のスイッチ手段であるアナログスイッチ315の開閉を滴毎に指示する2ビットの信号である。又この滴制御信号M0〜M3は、共通駆動波形の印字周期に合わせ、選択すべき駆動パルスのタイミングでHレベル(ON)に状態遷移し、非選択時にはLレベル(OFF)に状態遷移する。
【0053】
ヘッドドライバ208は、データ転送部302からの転送クロック(シフトクロック)及びシリアル画像データ(階調データ:2ビット/CH)を入力するシフトレジスタ311を有する。又、シフトレジスタ311の各レジスタの値をラッチ信号によってラッチするラッチ回路312と、滴制御信号M0〜M3を使用して階調データをデコードするデコーダ313とを有する。更に、デコーダ313のロジックレベルの電圧信号をアナログスイッチ315が動作可能なレベルへレベル変換するレベルシフタ314を有する。更に、レベルシフタ314を介して与えられるデコーダ313の出力でオン/オフ(開閉)されるアナログスイッチ315を有する。
【0054】
このアナログスイッチ315は、各圧電素子161aの選択電極(個別電極)に接続され、駆動波形生成部301からの共通駆動波形が入力される。そしてシリアル転送された画像データ(階調データ)が滴制御信号M0〜M3を使用してデコーダ313でデコードされた結果に応じてアナログスイッチ315がオンされる。その結果、共通駆動波形に含まれる所要の駆動パルスがアナログスイッチ315によって通過されて(選択されて)圧電素子161aに印加される。
【0055】
次に、本実施形態のインクジェット記録装置を用いて行う、環境温度の変化に対して、最終合体滴のインク滴量を略一定に維持するためのインク吐出制御について説明する。
【0056】
このインク吐出制御はインク滴吐出ヘッド7に印加される駆動波形を環境温度に応じて変化させることで実現する。
【0057】
図6は、本実施形態のインク滴吐出ヘッド7で用いる共通駆動波形の一例を示す図で、環境温度が所定の低温(15℃)のときの共通駆動波形の例を示す。
【0058】
インク滴吐出ヘッド7のヘルムホルツ周期Tcは、一般にヘッドの個別液室(圧力室)121の構造によって決まるが、本実施形態で使用されるインク滴吐出ヘッド7のヘルムホルツ周期Tcは約3μsと仮定する。また、本実施形態のインクジェッ記録装置におけるインク滴吐出ヘッド7には、図6に示す例では、1印刷(又は1印字)周期内に計7個の駆動パルスSP1,P1,P2,P3,SP2,P4,P5が印加される。これら7個の駆動パルスは、P1〜P5の5個の吐出パルスと、インク滴の吐出を伴わないSP1、SP2の2個の微振動パルスとを含む。
【0059】
各駆動パルスはいわゆる「引き打ち波形」であり、電圧の立下り部で圧力室121の体積を膨張させ、所定時間その状態を保持した後、電圧の立上り部で圧力室121の体積を収縮させることで、圧力室121内のインクをインク滴として吐出させる。
【0060】
ここで、インク滴吐出ヘッド7へ印加する駆動パルスの電圧を調整することによりインク滴の速度を変更することができる。例えば、駆動パルスの電圧を上げることでインク滴の速度を上げることができる。又、隣接する駆動パルス間の時間間隔をヘルムホルツ周期Tcに近づけることにより、ノズル開口111におけるインクのメニスカス(以下単に「インクメニスカス」と称する場合がある)を共振させてインク滴の速度を上げることもできる。
【0061】
したがって、駆動パルスの電圧と各駆動パルス間の時間間隔とを調整することにより、先行して吐出されたインク滴が用紙12などの被着媒体に到達(着弾)する前に、後行して吐出されたインク滴が先行して吐出されたインク滴に追いつくようにして両者を合体させることができる。
【0062】
本実施形態では、例えば図6に示される、1印字周期内の各駆動パルスの電圧及び各駆動パルス間の時間間隔は、図7に示すようにインク滴同士の合体が飛翔中に行なわれるように、調整される。
【0063】
図7を用い、インク滴吐出ヘッド7によって吐出されたインク滴の合体の手順の例を説明する。
(i)まず、図6に示す駆動パルスP1により1滴目のインク滴がインク滴吐出ヘッド7から吐出される。
(ii)次に駆動パルスP2により、2滴目のインク滴がインク滴吐出ヘッド7から吐出される。2滴目のインク滴は1滴目のインク滴よりも速度が高い。
(iii)その結果、飛翔中に1滴目のインク滴と2滴目のインク滴とが合体する(「1−2合体滴」)。また、さらに、駆動パルスP3により、1、2滴目のそれぞれのインク滴よりも高い速度で3滴目のインク滴が吐出される。その結果、「1−2合体滴」に3滴目のインク滴が追いついて1−2合体滴と3滴目のインク滴とが合体する(「1−3合体滴(先行滴グループ)」)。
(iv)続いて、駆動パルスP4で、4滴目のインク滴が吐出される。ここで4滴目のインク滴の速度は、3滴目のインク滴の速度よりも低い。
(v)続いて、4滴目のインク滴が「1−3合体滴」と合体する前に、駆動パルスP5により5滴目のインク滴が吐出される。
(vi)その結果、5滴目のインク滴は4滴目のインク滴と合体して「4−5合体滴(後行滴グループ)」となる。
(vii)本実施形態によれば、以上のように、まず、「1−3合体滴」が「先行滴グループ」として形成され(iii)、その後、「4−5合体滴」が「後行滴グループ」として形成される(vi)。
(viii)続いて、この「先行滴グループ」(1−3合体滴)と「後行滴グループ」(4−5合体滴)とが合体する。
(ix)そして、この「1−5合体滴」(最終合体滴)が被着媒体に着弾する。
【0064】
ここで、図6において駆動パルスP1とP2とを比較すると、駆動パルスP2の方が駆動パルスの電圧が高い。その結果、上記の如く、1滴目のインク滴よりも2滴目のインク滴の速度を高くすることができる。
【0065】
次に駆動パルスP2とP3とを比較すると、駆動パルスP2の方が駆動パルスP2よりも駆動パルスの電圧が低い。しかしながら、直前の駆動パルス間の時間間隔を比較すると、駆動パルスP3の直前の駆動パルス間の時間間隔(3.75μs)の方が駆動パルスP2の直前の駆動パルス間の時間間隔(4.25μs)よりも、ヘルムホルツ周期Tc(約3μs)に近い。その結果、上記の如く、2滴目のインク滴よりも3滴目のインク滴の速度を高くすることができる。
【0066】
又、微振動パルスSP1を、駆動パルスP1に先行して、略Tcの時間間隔(3.25μs)で配置することにより、駆動パルスP1による1滴目のインク滴の速度を効果的に高めることができる。
【0067】
次に、駆動パルスP3とP4とを比較すると、駆動パルスP4の方が駆動パルスの電圧が低い。又、駆動パルスP3とP4との間の時間間隔は2.75μs+3.25μs=6μsと長く、その間でインクメニスカスの振動が収まる。その結果、上記の如く、3滴目のインク滴よりも4滴目のインク滴の速度を低くすることができる。
【0068】
次に駆動パルスP4とP5とを比較すると、駆動パルスP5の電圧の立下りは略5Vであり、駆動パルスP4の電圧の立下がりの略12.5Vよりも低い。しかしながら駆動パルスP5の電圧の立上がりは略17Vであり、駆動パルスP4の電圧の立下がりの略12.5Vよりもかなり高い。その結果、上記の如く、4滴目のインク滴よりも5滴目のインク滴の速度を高くすることができる。特に駆動パルス(吐出パルス)の電圧の立上り部によってインク滴の吐出エネルギーが生成されるため、駆動パルス(吐出パルス)の電圧の立上り部の電圧を高めることによって効果的にインク滴の速度を高めることができる。
【0069】
又、駆動パルスP3とP5とを比較すると、駆動パルスP5の電圧の立下りは略5Vであり、駆動パルスP3の電圧の立下がりの略13.5Vよりも低い。しかしながら駆動パルスP5の電圧の立上がりは略17Vであり、駆動パルスP3の電圧の立下がり略13.5Vよりもかなり高い。その結果、3滴目のインク滴よりも5滴目のインク滴の速度を高くすることができるとともに、「先行滴グループ」(1−3合体滴)よりも「後行滴グループ」(4−5合体滴)の速度を高くすることができる。このようにして、「先行滴グループ」(1−3合体滴)に「後行滴グループ」(4−5合体滴)を追いつかせ、両者を合体(図7中、(viii))させることができる。
【0070】
又、微振動パルスSP1同様、微振動パルスSP2を、駆動パルスP4に先行して、略Tcの時間間隔(3.25μs)で配置することにより、駆動パルスP4による4滴目のインク滴の速度を効果的に高めることができる。
【0071】
本実施形態の図7に示すインク滴が吐出されてから合体を繰り返し被着媒体に着弾するまでの手順の例と比較するため、図8に、一般的に考えられるインク滴の合体手順の例を示す。
【0072】
本実施形態では、図8に示すように後のインク滴ほど速度を高くする、という手順を採らない。このため、最後の方に吐出するインク滴の速度を、図8に示す例の場合ほど、上げなくても済む。そのため、図8に示す手順を採った場合に比してインクメニスカスの大きな振動が発生せず、よって安定してインク滴を吐出させることができるようになる。
【0073】
図8に示すインク滴の合体手順では、図示のように、先に吐出されたインク滴に対し、後から吐出されるインク滴が、順次、合体していく。
(i)この手順によれば、まず最初の駆動パルスで1滴目のインク滴が吐出される。
(ii)次の駆動パルスで2滴目のインク滴が吐出される。2滴目のインク滴は1滴目のインク滴よりも速度を高くすることで、飛翔中に1滴目のインク滴と2滴目のインク滴とが合体する。
(iii)さらに、1、2滴目のインク滴よりも高い速度で3滴目のインク滴が吐出され、1−2合体滴に3滴目のインク滴が追いついて1−2合体滴と3滴目のインク滴とが合体する。
(iv)さらに速度の高い4滴目のインク滴が吐出され、1−3合体滴に4滴目のインク滴が追いついて1−3合体滴と4滴目のインク滴とが合体する。
(v)続いて最も速度が高い5滴目のインク滴が吐出される。
(vi)1−4合体滴に5滴目のインク滴が追いつき、1−4合体滴と5滴目のインク滴とが合体する。
(vii)1−5合体滴は1つの大きなサイズのインク滴となる。
(viii)1−5合体滴が被着媒体に着弾する。
【0074】
図8に示すインク滴の合体手順では、後のインク滴を先に吐出したインク滴よりも高いい速度で吐出することで飛翔中にインク敵同士を合体させている。そのため、合体させるインク滴の個数が多くなると、最後の方に吐出するインク滴の速度を非常に高くしなければならず、インクメニスカスが不安定となり、インク滴を安定して吐出させることが難しくなる場合が想定され得る。
【0075】
これに対し、本実施形態では、図7に示すように、合体前のインク滴を2つ以上のグループに分け、「先行滴グループ」と「後行滴グループ」とを、それぞれグループ毎に合体させる。そして、その後、このようにしてグループ毎に合体した合体滴同士を合体させ、最終的に一つのインク滴(「最終合体滴」)が得られるようにしている。このため、図8に示す手順でインク滴を合体する場合に生じると考えられる「インクメニスカスが不安定となる」等の問題点が生ずる可能性を効果的に低減できる。
【0076】
ところで、環境温度が変わるとインクの粘度が変わるので、同じインク滴の速度を得るためには、環境温度に応じて、例えば駆動パルスの電圧を変える必要がある。例えば、図6に示す共通駆動波形を所定の低温のとき用の共通駆動波形とした場合、これに対し所定の高温のときには、例えば駆動パルスの電圧を下げることで、所定の低温のときとの間で、インク滴の速度を合わせる必要がある。
【0077】
しかし、環境温度が上がるに従い、同じインク滴の速度でもインク滴量は増加する。そのため、仮に上記の如くの方法によって高温のときのインク滴の速度を低温のときに合わせても、インク滴量は高温のときほど多くなる。例えば、環境温度が15℃に対して環境温度が35℃の場合には、吐出パルス1個分に相当する2pl程度インク滴量が多くなる。
【0078】
そこで、本実施形態では、例えば図9に示すように、図6に示す吐出パルスP3を削除し、吐出パルス数をP1、P2、P4、P5の4個とする。その結果、環境温度が異なる15℃のときと35℃のときの両方の場合に対し、ほぼ同じインク滴量を得ることができる。
【0079】
図9は、本実施形態のインク滴吐出ヘッド7で用いる環境温度が所定の高温35℃のときの共通駆動波形の例を示す図である。ここで、吐出パルスP3を削除する理由は、吐出パルスP3が先行滴グループ(1〜3滴目のインク滴)の最後尾のインク滴に対応する吐出パルスであるからである。すなわち先行滴グループの最後尾のインク滴に対応する吐出パルスP3の有無による、先行滴グループの合体滴の速度に対する影響が小さいからである。また、後行滴グループ(4〜5滴目のインク滴)は先行滴グループとの関係において、夫々に属する吐出パルスP3,P4間の時間間隔が空いており、その間に微振動パルスSP2が介在している。又、後行滴グループは先行滴グループに対し独立して飛翔し、最終的に先行滴グループと合体するので、後行滴グループへの影響も小さいからである。
【0080】
図9に示す環境温度が高温35℃のときの共通駆動波形の例においては、上記の如く、先行滴グループの最後尾の吐出パルスP3を削除した。しかしながら、この吐出パルスを削除した位置(時間軸における位置)に、図10に示すように、インク滴を吐出しない程度にインクメニスカスを搖動させる微振動パルスSP3を配置することが望ましい。
【0081】
図10は、本実施形態のインク滴吐出ヘッド7で用いる環境温度が高温35℃のときの別の共通駆動波形の例を示す図である。この場合、微振動パルスSP3は、以下に述べる周期(配置)とすることが望ましい。すなわち、微振動パルスSP3と後行滴グループの先頭の微振動パルスSP2との時間間隔が、インク滴吐出ヘッド7のヘルムホルツ周期Tc(3μs)とほぼ同じ時間(ここでは2.75μs)となるように配置することが望ましい。その結果、後行滴グループのインク滴の速度を効果的に高めることができ、先行滴グループとの合体を確実に果たすことができる。
【0082】
その理由は以下の通りである。すなわち、先の吐出パルスによる残留振動は徐々に小さくなっていくが、殆ど影響がなくなるのは、インク滴の吐出から3Tc(9μs)以上経過してからである。
【0083】
本実施形態のように駆動パルスの時間間隔がほぼヘルムホルツ周期Tcに等しい場合、先の駆動パルスによるインクメニスカスの振動に、後行滴グループの1発目の駆動パルスP4による振動が重畳される。したがって図10に示される微振動パルスSP3を配置することにより、後行滴グループの1発目の駆動パルスP4の電圧として実質的に高い電圧を印加した場合と同様の効果が得られるからである。
【0084】
なおこの微振動パルスSP3による効果は、上記微振動パルスSP1,SP2の各々によっても同様に得られる。
【0085】
最終合体滴のインク滴量に対する要求精度が吐出パルス1個分程度の場合は、以上のように、先行滴グループの最後尾の吐出パルスを使用しない(削除する)ことでインク滴量の調整が達成できる。しかしながら、さらに細かい精度が要求される場合には、先行滴グループとして使用する吐出パルスのうち、最後尾の吐出パルスの波形を調整することでインク滴量の調整が達成できる。
【0086】
例えば環境温度が20℃の場合は、15℃波形に対する最終合体滴のインク滴量の増加量が、吐出パルス1個分よりもかなり小さい。そのため、吐出パルスを1個減らしてしまうと、インク滴量が足りなくなってしまう。そこで、図11に示すように、先行滴グループの最後尾の吐出パルスであるP3の波形を変更することによって最終合体滴のインク滴量を調整する。
【0087】
図11の(A)は、本実施形態のインク滴吐出ヘッド7に用いる環境温度が20℃のときの共通駆動波形(20℃波形)の例を示す図である。この共通駆動波形について、図6に示す15℃のときの共通駆動波形(15℃波形)と、各対応する吐出パルスについて電圧比を比較すると、図11の(B)のようになる。
【0088】
ここで、駆動パルスP1は最初の吐出パルスであるため速度が遅く、かつ対応するインク滴のインク滴量が少ないので、合体滴の速度にほとんど影響を与えない。他方、吐出パルスP2、P4、P5は合体滴の速度に影響を与える。そこで吐出パルスP2、P4、P5のそれぞれにおいて、20℃波形の場合の合体滴の速度が15℃波形の場合とほぼ同じとなるように、図11の(B)に示すように、20℃波形の駆動電圧を15℃波形の92〜94%にしている。
【0089】
他方、吐出パルスP3も上記同様の比率(92〜94%)とすると、20℃波形の場合の環境温度が高いため、20℃波形の場合の最終合体滴のインク滴量が多くなってしまう。このため図11の(B)に示すように20℃波形における吐出パルスP3の15℃波形に対する電圧比を他の吐出パルスよりも小さく(78%)して20℃波形の場合の吐出パルスP3によるインク滴のインク滴量を減らす。その結果20℃波形の場合の最終合体滴のインク滴量を15℃波形の場合とほぼ同じにすることができる。このように吐出パルスP3をインク滴量調整用に用いる。
【0090】
なお、このように吐出パルスP3をインク滴量調整用に用いる理由は以下の通りである。すなわち、図9とともに上述した吐出パルスP3を削除する場合ついて述べたように、吐出パルスP3は合体滴の速度への影響が小さい。その結果、例えば上記の如く、20℃波形の場合の最終合体滴のインク滴量を減らす目的で20℃波形における吐出パルスP3の15℃波形に対する電圧比を小さくしても、合体滴の速度への影響が小さくすむからである。
【0091】
以上、各環境温度に対し、対応する本実施形態の共通駆動波形を採用することにより、環境温度によらず最終合体滴のインク滴量を略一定にすることができる。すなわち図12に示すように、所定の評価温度範囲内において最終合体滴のインク滴量が15.2pl±0.2plというように、環境温度の変化に対しほぼ一定の最終合体滴のインク滴量を得ることができる。
【0092】
本実施形態では、図9とともに上述したように、所定の高温(35℃)のときには、例えば吐出パルスを1個減らすようにした。しかしながら、このような方法に限定されることはなく、他の方法も可能である。例えば、最終合体滴のインク滴量を30plとし、このインク滴量を、所定の低温(15℃)のときは吐出パルス10個を使用して吐出させるものとする。このような場合、図9の例の場合と同じ割合(1個/5個)で吐出パルス数を減らすものとすると、所定の高温(35℃)のときは吐出パルスを2個(10×(1/5)=2)減らすことになる。又その間の温度(例えば20℃)のときは、吐出パルスを1個減らすことができる。このような場合、吐出パルスを順に減らしていく位置としては、先行滴グループの最後尾の吐出パルスから順に減らす。また、逆に環境温度が低下した場合に、それに伴って吐出パルスを増やすことができる。
【0093】
また、図11に示した実施形態の例では、最終合体滴の細かなインク滴量の調整を、先行滴グループの最後尾の吐出パルスの電圧値を変更することによって行なう。この方法は、先行滴グループの最後尾の吐出パルスの波形を変更することによって最終合体滴の細かなインク滴量の調整を行う方法の一例である。先行滴グループの最後尾の吐出パルスの波形を変更することによって最終合体滴の細かなインク滴量の調整を行う方法の他の例として、以下の例が挙げられる。すなわち、最終合体滴の細かなインク滴量の調整を、先行滴グループの最後尾の吐出パルスの電圧の立下り時間を変更することによって行なってもよい。あるいは、先行滴グループの最後尾の吐出パルスの電圧の立下り後の保持時間を変更することによって行なってもよい。あるいは、先行滴グループの最後尾の吐出パルスの電圧の立上り時間を変更することによって行なってもよい。
【0094】
また、図6,9,10および11のそれぞれに示す共通駆動波形の例において、最終駆動パルスP5は単純な「引き打ち波形」ではなく、電圧の立下り部およびこれに引き続く電圧の立上り部に加え、更に電圧の立下り部を最後に設けている。この最後の電圧の立下り部は、圧力室121(図3参照)の収縮を行ってインク滴を吐出させた後、その際に発生する残留振動を抑えるため、その振動を打ち消す「制振部」となるようなタイミングで圧力室121を膨張させるためのものである。
【0095】
図13に示す駆動波形の例は、図6に示す共通駆動波形の全てを使用する場合の駆動波形の例である。この駆動波形によって得られる最終合体滴を「大滴」とした場合、図14に示すように、後行滴グループに対応する駆動パルスSP2、P4、P5だけを使用(選択)することで、駆動波形を長くすることなく、「大滴」とは異なるサイズの合体滴として「中滴」を得ることができる。ここで「中滴」とは、「大滴」よりもインク滴量が少ない合体滴をいう。
【0096】
また、図14の駆動波形の場合、図6,9,10,11の場合同様、駆動波形の最終駆動パルスとして、「制振部」となる最後の電圧の立下り部を有する駆動パルスP5を使用している。その結果、図6,9,10,11の場合同様の制振効果も期待でき、最高駆動周波数を下げることなく、安定した「中滴」を得ることができる。
【0097】
なお、1印字周期当たりの吐出パルス数は印刷密度、用紙の種類等によって変わるが、上述した共通駆動波形の環境温度に伴う選択は、例えば以下のようにして実現することができる。すなわち、制御部200(図4参照)の不揮発性メモリ204内に、例えば環境温度が20℃のときは図11の(A)の共通駆動波形を使用し、35℃のときは図10の共通駆動波形を使用し、...、というような、各環境温度と共通駆動波形との対応関係を表したテーブルを記憶させておく。そして印刷制御部207の駆動波形生成部301の上記駆動波形選択手段が共通駆動波形のパターンデータを上記の如くROM202から選択する。この場合駆動波形選択手段は、上記サーミスタなどの温度センサ215によって検出した環境温度に基づき、当該検出環境温度に対応した共通駆動波形を生成するための共通駆動波形のパターンデータを上記の如くROM202から選択する。駆動波形生成部301は当該選択された共通駆動波形のパターンデータに基づいて上記の如く共通駆動波形を生成し、ヘッドドライバ108に供給する。
【0098】
上記の各環境温度と共通駆動波形との対応関係を表したテーブル、駆動波形選択手段等の機能によって、具体的に以下の如くの制御を実現することができる。例えば、600×600dpi、普通紙印字の場合、環境温度が24℃のときに1印字周期当たりの吐出パルス数を5個とし、これを基準とすることができる。そして環境温度が30℃のときは1印字周期当たりの吐出パルス数を4個とし、10℃のときは6個とする、というように、環境温度によって共通駆動波形に含まれる吐出パルス数を増減することができる。
【0099】
また、本発明の実施形態は、液晶ディスプレイのカラーフィルタに用いられる色材液や、有機ELディスプレイ等の電極膜形成に用いられる電極材料液などの特殊な液体を吐出するインクジェット記録装置にも応用が可能である。
【0100】
以上、本実施形態について説明したが、本実施形態によれば、以下の作用効果が得られる。
(1)合体前のインク滴を2つ以上のグループに分け、先行滴グループと後行滴グループとをそれぞれグループ毎に合体させてから、最終的に一つのインク滴(最終合体滴)に合体させるようにする。かつ、環境温度が低温のときの吐出パルス数に対し、環境温度が高温になるほど吐出パルスの数を減らし、かつ、その減らす吐出パルスの位置は先行滴グループの最後尾の吐出パルスから減らすようにする。その結果、環境温度によらず、最終合体滴のインク滴量をほぼ同じとし、かつ、異なる環境温度に対し、ほぼ同等の最終合体滴の速度と安定性を得ることができる。
(2)吐出パルス1個分に相当するインク滴の体積より少ない体積差の最終合体滴のインク滴量の調整は、先行滴グループの最後尾の吐出パルスの波形の変更によって行なう。その結果、インク滴の吐出特性に対する影響がほとんどなく、かつ、より精度良く最終合体滴のインク滴量を調整することができる。
(3)インク滴吐出ヘッドの流路によって決まる固有振動周期をTcとした場合、上記の如くに吐出パルスを減らした位置には、後行滴グループの1番目の駆動パルスとの時間間隔がほぼTcとなる位置に微振動パルスを配置する。なお微振動パルスとは、インク滴を吐出しない程度にインクメニスカスを搖動させるための駆動パルスをいう。その結果、先行滴グループが合体した合体滴と後行滴グループが合体した合体滴とを合体させる際の後行滴グループの速度を高めることができ、より確実に先行滴グループの合体滴と後行滴グループの合体滴とを合体させることができる。
(4)後行滴グループは、先行滴グループの合体滴と後行滴グループの合体滴との合体滴(最終合体滴)(大滴)よりサイズの小さなドット(中滴)を被着媒体上に形成するインク滴を得るために単独で使用することができる。その場合、当該サイズの小さなドット(中滴)を形成するインク滴の被着媒体上での着弾位置が、大滴の場合と略一致するような駆動波形を使用する。その結果、駆動波形を長くすることなく、大滴とは大きさの異なるドット(中滴)を被着媒体上に形成することができる。
【符号の説明】
【0101】
3・・・キャリッジ
7、7k、7c、7m、7y・・・インク滴吐出ヘッド
161a・・・圧電素子
200・・・制御部
207・・・印刷制御部
208・・・ヘッドドライバ
215・・・温度センサ
301・・・駆動波形生成部
302・・・データ転送部
【先行技術文献】
【特許文献】
【0102】
【特許文献1】特許第3674248号公報
【特許文献2】特開2002−211011号公報
【特許請求の範囲】
【請求項1】
印加する信号の波形に応じて圧力発生手段が発生する圧力によって被着媒体に対しインク滴を吐出するインク滴吐出ヘッドを有するインクジェット記録装置におけるインクジェット記録方法であって、
1印字周期内に前記インク滴吐出ヘッドから複数のインク滴を吐出させ、前記複数のインク滴が所定のインク滴のグループ毎にそれぞれ合体して複数の合体滴となり、その後前記複数の合体滴同士が更に合体して飛翔中に一つの最終合体滴となるような波形の信号を生成して前記圧力発生手段に印加することを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項2】
前記複数の合体滴のうち合体して第1の合体滴となる第1の複数のインク滴の最後尾のインク滴の速度よりも、合体して前記第1の合体滴に続く第2の合体滴となる第2の複数のインク滴の先頭のインク滴の速度の方が低く、且つ前記第1の複数のインク滴の前記最後尾のインク滴の速度よりも前記第2の複数のインク滴の前記先頭のインク滴に続く2番目のインク滴の速度の方が高いことを特徴とする請求項1記載のインクジェット記録方法。
【請求項3】
前記インク滴吐出ヘッドに前記複数のインク滴を吐出させるために前記圧力発生手段に印加する信号の波形は、前記複数のインク滴にそれぞれ対応する複数の吐出パルスと、インクを吐出せず前記インク滴吐出ヘッドにおけるインクのメニスカスを搖動させる微振動パルスとを含み、前記インク滴吐出ヘッドの流路によって決まる固有振動周期をTcとするとき、前記所定のインク滴のグループにそれぞれ対応する所定の吐出パルスのグループ毎に、当該グループの先頭の吐出パルスとの間隔が略Tcとなる位置に先行して前記微振動パルスを設けることを特徴とする請求項1又は2記載のインクジェット記録方法。
【請求項4】
前記インク滴吐出ヘッドに前記複数のインク滴を吐出させるために前記圧力発生手段に印加する信号の波形は、前記複数のインク滴にそれぞれ対応する複数の吐出パルスを含み、環境温度の上昇に応じて、前記所定の複数のインク滴のグループにそれぞれ対応する所定の複数の吐出パルスのグループのうち、先行する吐出パルスのグループの最後尾の吐出パルスから順に吐出パルスを削減することを特徴とする請求項1乃至3のうちのいずれか一項記載のインクジェット記録方法。
【請求項5】
前記インク滴吐出ヘッドの流路によって決まる固有振動周期をTcとするとき、前記吐出パルスを削減した位置であって、前記先行する吐出パルスのグループに続く2番目の吐出パルスのグループの先頭のパルスとの間隔が略Tcとなる位置に、インクを吐出せず前記インク滴吐出ヘッドにおけるインクのメニスカスを搖動させる微振動パルスを設けることを特徴とする請求項4記載のインクジェット記録方法。
【請求項6】
前記インク滴吐出ヘッドに前記複数のパルスを吐出させるために前記圧力発生手段に印加する信号の波形は、前記複数のインク滴にそれぞれ対応する複数の吐出パルスを含み、環境温度の上昇に応じて、前記所定のインク滴のグループにそれぞれ対応する所定の吐出パルスのグループのうち、先行する吐出パルスのグループの最後尾の吐出パルスの波形を変更することによって、当該先行する吐出パルスのグループの最後尾の吐出パルスに対応するインク滴のインク滴量を減らすことを特徴とする請求項1乃至5のうちのいずれか一項記載のインクジェット記録方法。
【請求項7】
印加する信号の波形に応じて圧力発生手段が発生する圧力によって被着媒体に対しインク滴を吐出するインク滴吐出ヘッドと、
1印字周期内に前記インク滴吐出ヘッドから複数のインク滴を吐出させ、前記複数のインク滴が所定のインク滴のグループ毎にそれぞれ合体して複数の合体滴となり、その後前記複数の合体滴同士が更に合体して飛翔中に一つの最終合体滴となるような波形の信号であって前記圧力発生手段に印加する信号を生成する駆動波形生成手段と
を有することを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項1】
印加する信号の波形に応じて圧力発生手段が発生する圧力によって被着媒体に対しインク滴を吐出するインク滴吐出ヘッドを有するインクジェット記録装置におけるインクジェット記録方法であって、
1印字周期内に前記インク滴吐出ヘッドから複数のインク滴を吐出させ、前記複数のインク滴が所定のインク滴のグループ毎にそれぞれ合体して複数の合体滴となり、その後前記複数の合体滴同士が更に合体して飛翔中に一つの最終合体滴となるような波形の信号を生成して前記圧力発生手段に印加することを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項2】
前記複数の合体滴のうち合体して第1の合体滴となる第1の複数のインク滴の最後尾のインク滴の速度よりも、合体して前記第1の合体滴に続く第2の合体滴となる第2の複数のインク滴の先頭のインク滴の速度の方が低く、且つ前記第1の複数のインク滴の前記最後尾のインク滴の速度よりも前記第2の複数のインク滴の前記先頭のインク滴に続く2番目のインク滴の速度の方が高いことを特徴とする請求項1記載のインクジェット記録方法。
【請求項3】
前記インク滴吐出ヘッドに前記複数のインク滴を吐出させるために前記圧力発生手段に印加する信号の波形は、前記複数のインク滴にそれぞれ対応する複数の吐出パルスと、インクを吐出せず前記インク滴吐出ヘッドにおけるインクのメニスカスを搖動させる微振動パルスとを含み、前記インク滴吐出ヘッドの流路によって決まる固有振動周期をTcとするとき、前記所定のインク滴のグループにそれぞれ対応する所定の吐出パルスのグループ毎に、当該グループの先頭の吐出パルスとの間隔が略Tcとなる位置に先行して前記微振動パルスを設けることを特徴とする請求項1又は2記載のインクジェット記録方法。
【請求項4】
前記インク滴吐出ヘッドに前記複数のインク滴を吐出させるために前記圧力発生手段に印加する信号の波形は、前記複数のインク滴にそれぞれ対応する複数の吐出パルスを含み、環境温度の上昇に応じて、前記所定の複数のインク滴のグループにそれぞれ対応する所定の複数の吐出パルスのグループのうち、先行する吐出パルスのグループの最後尾の吐出パルスから順に吐出パルスを削減することを特徴とする請求項1乃至3のうちのいずれか一項記載のインクジェット記録方法。
【請求項5】
前記インク滴吐出ヘッドの流路によって決まる固有振動周期をTcとするとき、前記吐出パルスを削減した位置であって、前記先行する吐出パルスのグループに続く2番目の吐出パルスのグループの先頭のパルスとの間隔が略Tcとなる位置に、インクを吐出せず前記インク滴吐出ヘッドにおけるインクのメニスカスを搖動させる微振動パルスを設けることを特徴とする請求項4記載のインクジェット記録方法。
【請求項6】
前記インク滴吐出ヘッドに前記複数のパルスを吐出させるために前記圧力発生手段に印加する信号の波形は、前記複数のインク滴にそれぞれ対応する複数の吐出パルスを含み、環境温度の上昇に応じて、前記所定のインク滴のグループにそれぞれ対応する所定の吐出パルスのグループのうち、先行する吐出パルスのグループの最後尾の吐出パルスの波形を変更することによって、当該先行する吐出パルスのグループの最後尾の吐出パルスに対応するインク滴のインク滴量を減らすことを特徴とする請求項1乃至5のうちのいずれか一項記載のインクジェット記録方法。
【請求項7】
印加する信号の波形に応じて圧力発生手段が発生する圧力によって被着媒体に対しインク滴を吐出するインク滴吐出ヘッドと、
1印字周期内に前記インク滴吐出ヘッドから複数のインク滴を吐出させ、前記複数のインク滴が所定のインク滴のグループ毎にそれぞれ合体して複数の合体滴となり、その後前記複数の合体滴同士が更に合体して飛翔中に一つの最終合体滴となるような波形の信号であって前記圧力発生手段に印加する信号を生成する駆動波形生成手段と
を有することを特徴とするインクジェット記録装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2013−56529(P2013−56529A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−155412(P2012−155412)
【出願日】平成24年7月11日(2012.7.11)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年7月11日(2012.7.11)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】
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