説明

インクジェット記録方法及び装置

【課題】加湿空気により記録ヘッドのノズル乾燥を抑制する手法を提供する。
【解決手段】搬送されるシートに対して第1の供給口から第1の加湿空気を供給してシートの水分含有量を高める。これと同時に、第1の供給口よりも前記インクジェット記録ヘッドに近い位置に設けられた第2の供給口からインクジェット記録ヘッドのノズルが露出する空間に第2の加湿空気を供給して空間の雰囲気湿度を高める。水分含有量が高められたシートの部位を、雰囲気湿度が高められた空間に進入させて、インクジェット記録ヘッドで記録を行う。空間でシートが水分を吸着しないので空間の湿度が維持されノズルの保湿が確実に行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録ヘッドのインクの乾燥を抑制することができる、インクジェット記録方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、複数のインクジェット記録ヘッドがシート搬送方向に沿って並べて配置されたプリンタにおいて、上流側から記録ヘッドのノズルの近傍に加湿空気を供給して流すことで記録ヘッドを保湿しインク乾燥を抑制する手法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−255053号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
紙などの材質からなるシートは、湿度に応じた平衡水分を有しており(シートの水分がこれ以上変化しない状態)、湿度が高ければ空気中の水分を吸着し、湿度が低ければシート中の水分を放出する。加湿空気が送り込まれて湿度が高くなった状態の記録ヘッド近傍にシートが供給されると、シートによる水分の吸着が起きる。そのため、雰囲気の湿度低下が起きて、記録ヘッドを適切に保湿できなくなる畏れがある。とくに、複数の記録ヘッドが加湿空気の導入方向に沿って並べて設けられている構成では、上流から供給された加湿空気が下流側に伝わるまでには時間を要し、その間に水分がシートに吸着されると、下流側の記録ヘッドの保湿が不十分になりがちである。保湿が不十分であると、インクが吐出不能になったり吐出方向が乱れたりなど、インク吐出不良の原因となる。
【0005】
本発明は、上述の課題の認識に基づいてなされたものである。本発明の目的は、記録ヘッドの保湿を適切に維持することができ、記録ヘッドの吐出不良を抑制することができる記録装置の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の形態は、ノズルが形成されたインクジェット記録ヘッドを含む記録手段でシートに記録を行う記録方法であって、搬送されるシートに対して第1の供給口から第1の加湿空気を供給してシートの水分含有量を高める第1ステップと、前記第1の供給口よりも前記インクジェット記録ヘッドに近い位置に設けられた第2の供給口から、前記ノズルが露出する空間に第2の加湿空気を供給して前記空間の雰囲気湿度を高める第2ステップと、前記第1ステップで水分含有量が高められたシートの部位を、前記第2ステップで雰囲気湿度が高められた空間に進入させて、前記インクジェット記録ヘッドで記録を行う第3ステップとを有することを特徴とする。
【0007】
本発明の第2の形態は、ノズルが形成されたインクジェット記録ヘッドを含む記録手段と、搬送されるシートに対して第1の加湿空気を供給するための、前記第1の加湿空気を噴き出す第1の供給口を備えた第1の加湿部と、前記ノズルが露出する空間に第2の加湿空気を供給するための、前記第1の供給口よりも前記インクジェット記録ヘッドに近い位置に設けられ前記第2の加湿空気を噴き出す第2の供給口を備えた第2の加湿部とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、シートを事前に加湿することでシートによる水分の吸着が抑制され、記録ヘッドの保湿を適切に維持することができ、インクの吐出不良を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】シートのヒステリシス特性を示す図である。
【図2】インクジェット記録装置の実施形態の構成図である。
【図3】記録手段をA方向からみた図である。
【図4】加湿装置の一例のシステム図である。
【図5】制御系のブロック図である。
【図6】記録画像の模式図である。
【図7】記録を行ったときの記録画像の書き出し部の拡大概略図である。
【図8】他の実施形態の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施形態の説明に先立ち、記録媒体であるシート、例えばインクジェット光沢紙のヒステリシス特性について説明する。図1は、水分の吸着と脱離に関するヒステリシス特性を示している。インクジェット光沢紙などの紙は、相対湿度の変化による水分の吸着と脱離の関係は線形ではない。相対湿度が低いA点から相対湿度の高いB点へ雰囲気湿度が変化した場合、インクジェット光沢紙が雰囲気中の水分を吸着する。一方、相対湿度のより高いC点から、B点と同じ相対湿度まで相対湿度を下げると、インクジェット光沢紙が含有する水分量は、B点より多いD点の量まで水分を含有している。つまり、インクジェット光沢紙をある相対雰囲気湿度に曝す場合、相対湿度が低い状態から変化させるよりも、相対湿度が高い状態から変化させたほうがより多くの水分をインクジェット光沢紙は含有することができる。さらに、相対湿度のより高いC点から、D点の相対湿度に変化させた場合、インクジェット光沢紙から離脱する水分量が少ない。そのため、C点あるいはそれ以上の相対湿度に再度インクジェット光沢紙が曝される場合、B点から変化させるよりもD点から変化させる方が、インクジェット光沢紙が吸着する水分量は少ない。
【0011】
つまり、シートが記録手段内に搬送される前に意図的にシートに水分を吸着させておけば、記録手段内の相対湿度が高い状態でもシートへの水分の吸着を抑制することができる。そのため、記録ヘッドからインクが蒸発しないように、記録ヘッド周囲の相対湿度を高めておいた場合でも、シートによる水分の吸着が抑制されているので、記録ヘッド周囲の相対湿度を高めた状態を保つことができ、インクの乾燥を抑制できる。本発明はこのような考察を基になされている。
【0012】
図2は本発明の実施形態にかかるインクジェット記録装置の構成図であり、図3は図2のインクジェット記録装置の記録手段9をA方向から見たときの構成図である。図中の黒い矢印は、加湿された加湿空気の流れを示している。なお、本実施形態では加湿空気としているが、空気以外の加湿ガスであってもよい。本明細書で「空気」とは空気および空気以外のガスを総称した意味とする。また、本明細書では、シート搬送経路の任意の位置においてシート供給の側に近い方向を「上流」、その逆側を「下流」という。
【0013】
本例の記録装置はいわゆるロールtoロール方式である。供給ローラ41はロール状に巻かれた連続シートであるシート2を供給する。巻取りローラ42は記録手段9で記録の済んだシートをロール状に巻き取っていく。
【0014】
記録手段9は、図2の点線で示される筐体を有し、筐体の内部に搬送機構と記録部が設けられてユニット化されている。搬送機構は、シート2の支持を補助するプラテン7と、駆動ローラ6および従動ローラ5からなる複数のローラ対を有する。駆動ローラ6は、回転可能な状態でプラテン7に一部が埋め込まれ、駆動源により回転してシートを搬送させる。従動ローラ5は、支持部材8(ホルダ)に支持され、シート2を挟んで駆動ローラ6と対向する位置に配置されている。駆動ローラ6と従動ローラ5とのローラ対同士の間には、記録部を構成する記録ヘッド1が設けられている。記録ヘッド1は、シート2の幅方向で最大記録幅にわたってインクを吐出するノズルが形成された固定式のフルラインタイプのライン型インクジェット記録ヘッドである。インクジェット方式は、本例では発熱体を用いる方式であるが、これに限らず、ピエゾ素子、静電素子、またはMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)素子を用いる方式等にも適用可能である。シートの搬送方向に沿って色数分(図2では6色分)だけ記録ヘッド1が搬送方向に並んでおり、複数の記録ヘッド1は支持部材8に一体的に保持されている。記録ヘッド1には、インクタンクなどのインク供給手段(不図示)からインクが供給される。なお、それぞれの記録ヘッド1は対応する色のインクを貯蔵するインクタンクと一体のユニットとしてもよい。記録手段9は、ラインプリント方式で、移動するシート2に対して各色の記録ヘッド1により各色のインクを付与して画像を形成していく。なお、本例ではシート2としてロール紙を使用したが、単位長さ毎に折りたたまれた連続紙、あるいはカット紙など種類は問わない。
【0015】
記録手段9よりも、シートの搬送経路の上流側には、第1の加湿空気供給手段4(第1の加湿部)が設けられている。第1の加湿空気供給手段4は、シート2が記録手段9に搬送されるのに先立ち、シート2への加湿を行う。第1の加湿空気供給手段4は、記録手段9に進入する前のシート2に加湿空気(第1の加湿空気)を供給し、シートの水分含有量を高めるものである。第1の加湿空気供給手段4は、加湿装置、送風装置、供給口43(第1の供給口)及び、吸気口44を有している。加湿装置によって加湿された第1の加湿空気供給手段4内の空気(第1の加湿空気)は、送風装置により供給口43から噴き出して記録手段9に進入する前のシート2に供給される。吸気口44は、第1の加湿空気供給手段4内に空気を取り入れることができれば、どの位置に設けても良い。シート2に沿って供給口43とは間隔をおいた位置に吸気口44を設け、図示しないが供給口43が加湿された空気をシート2に対して平行に近い方向から供給するような向きに供給口43を設けることがより好ましい。このようにすることで、供給口43から供給された空気を吸気口44から吸気できるため、加湿した空気を循環させることができ、加湿装置で使用される水の量を減らすことができる。
【0016】
第1の加湿空気供給手段4とは別に、記録手段9内の記録ヘッド1のノズルが露出する狭空間を加湿するための第2の加湿空気供給手段3(第2の加湿部)が設けられている。第2の加湿空気供給手段3により、記録手段9のシート導入口から加湿空気(第2の加湿空気)を送り込んで、複数の記録ヘッド1のノズルが露出する狭空間の雰囲気湿度を高めることができる。これにより、複数の記録ヘッドのノズルが保湿され乾燥が抑制される。第2の加湿空気供給手段3には、加湿装置、送風装置及び吸気口が設けられている。第2の加湿空気供給手段3には、供給ダクト46が接続されており、供給ダクト46の先端は加湿空気を噴き出す供給口45(第2の供給口)となっている。供給口45は、記録手段9のシート導入口の付近に設けられており、供給口45から記録手段9内の狭空間に加湿された空気(第2の加湿空気)を供給する。第1の加湿空気供給手段4の供給口43及び吸気口44は、第2の加湿空気供給手段3の供給口45よりも、記録手段9からみて上流側に位置している。第2の加湿空気供給手段3で生成した加湿空気は供給ダクト46を通して供給口45まで導入するので、第2の加湿空気供給手段3の加湿空気生成部は、記録手段9と第1の加湿空気供給手段4との間に位置していなくてもよい。
【0017】
第2の加湿空気供給手段3により供給された加湿空気は、記録手段9の、シート2の搬送経路およびその付近の狭空間を上流から下流に流れる。具体的には、記録ヘッド1の位置では、記録ヘッド1の先端(ノズルが形成された面)とシート2との隙間(以下、「記録ギャップ」と称す)を通過する。また、隣り合う記録ヘッド1同士の間では、加湿空気は支持部材8とシート2との間に形成される隙間を通過する。つまり、2種類の隙間を通過しながら加湿空気が下流側の記録ヘッド1まで伝達される。インクジェット方式においては記録ギャップが通常1mm前後と狭い。加湿した空気が記録ギャップを通過するときには、加湿した空気の流速が上がることとなり、記録を行うときに記録ヘッド1から吐出される吐出液滴(主滴、及びサテライト滴)の着弾精度に悪影響を及ぼす場合がある。したがって、第2の加湿空気供給手段3から供給される加湿空気は、記録ギャップにおける流速が1m/秒以下となるよう設定することが望ましい。
【0018】
図4は、第1の加湿空気供給手段4と第2の加湿空気供給手段3に加湿空気を供給する加湿装置のシステム図である。外気51と、乾燥ユニット52から供給される乾燥空気とが混合器53内で混ぜられ、加湿空気として適する温度を備えた混合空気となる。乾燥ユニット52は記録手段9で記録されインクで濡れているシートを、巻取りローラ42に巻き取る前に強制乾燥させるためのユニットである(図2では不図示)。乾燥ユニット52からは高湿度で且つ高温の空気が排出され、このエネルギの一部が加湿空気の生成に利用される。加湿器55で混合器53から送られてくる混合空気と水タンク54から供給される水が混合され、シート2への加湿空気の供給に必要な温度と湿度を備えた加湿空気が作られる。加湿器55で作られた加湿空気は加湿空気タンク56に一旦貯蔵される。そして、記録時に必要な量の加湿空気が第1の加湿空気供給手段4と第2の加湿空気供給手段3とへそれぞれ送り込むまれ、シート2が必要な加湿性能を得るよう、加湿空気供給手段が動作される。なお、混合器53と加湿器55の中にはヒータが配置されており、混合空気および加湿空気を最適な温度に微調整することができる。
【0019】
第1の加湿空気供給手段4から供給される第1の加湿空気と、第2の加湿空気供給手段3から供給される第2の加湿空気の湿度について説明する。記録ヘッド1の周囲の雰囲気は、記録ヘッド1からインクが蒸発しにくい雰囲気にする必要がある。例えば、温度が30〜40℃であるならば、相対湿度が60〜70%程度である。そのため、第2の加湿空気供給手段3においては、相対湿度として60〜70%程度に設定することが好ましいが、記録ヘッド1からインクが蒸発することを抑制することができれば、この限りではない。第1の加湿空気供給手段4では、平衡水分量になるようにシート2に水分を吸着させることが好ましい。シート2の種類によって吸着できる水分量は変化するので、目安としては、第2の加湿空気供給手段3から供給される加湿空気の絶対湿度と同程度か、それ以上の絶対湿度に加湿した空気を第1の加湿空気供給手段4からシート2に供給すればよい。
【0020】
図5は、本例のインクジェット記録装置の制御系のブロック図である。ホストコンピュータ10から記録すべき文字や画像のデータがインクジェット記録装置の受信バッファ11に入力される。また、正しくデータが転送されているかなどを確認するデータや、インクジェット記録装置の動作状態を知らせるデータがインクジェット記録装置からホストコンピュータ10に出力される。受信バッファ11のデータは制御部であるCPU12の管理のもとで、メモリ部13に転送されRAMに一時的に記憶される。メカコントロ一ル部14はCPU12からの指令により、ラインヘッドキャリッジ、キャップおよびワイパ等の機構部(メカ部)15を駆動する。センサ/SW(スイッチ)コントロール部16は、各種センサやSW(スイッチ)からなるセンサ/SW部17からの信号をCPU12に送る。表示素子コントロール部18は、CPU12からの指令により、表示パネルのLEDや液晶表示素子等からなる表示素子部19を制御する。加湿コントロール部20は、CPU12からの指令により加湿空気供給部(第1の加湿空気供給手段4、第2の加湿空気供給手段3)21を制御する。この時、CPU12では、様々な情報、例えば、環境温度、シート2の種類や厚み、ラインヘッドの温度、および記録される画像データの打ち込み量等から、シート2へ供給する水分量を決定し、加湿空気供給部21の加湿条件の設定が行われている。記録ヘッドコントロール部22はCPU12からの指令により記録ヘッド1を駆動制御するとともに、記録ヘッド1の状態を示す温度情報等を検出してこれらをCPU12に伝える。
【0021】
以上の構成において、第1の加湿空気供給手段4は、記録手段9よりもシートの搬送経路の上流側に設けられ、記録手段9に進入する前のシートに第1の加湿空気を供給する。これにより、記録手段9に進入する前にシートの水分含有量が高められる。第2の加湿空気供給手段3は、記録手段9の搬送経路を加湿空気が上流から下流に流れるようにシート導入口から第2の加湿空気を供給する。記録手段9では、シートが導入される前に予め第2の加湿空気が送り込まれて記録ヘッド1のノズルが露出する狭空間の雰囲気湿度が高められ、記録ヘッドの保湿がなされる。また、動作として捉えると、第1ステップでは、搬送されるシートに対して第1の供給口から第1の加湿空気を供給してシートの水分含有量を高める。同時に、第2ステップでは、第1の供給口よりも記録ヘッドに近い位置に設けられた第2の供給口から、ノズルが露出する狭空間に第2の加湿空気を供給して狭空間の雰囲気湿度を高め、ノズルの保湿を行う。そして、第3ステップでは、第1ステップで水分含有量が高められたシートの部位を、第2ステップで雰囲気湿度が高められた狭空間に進入させて、インクジェット記録ヘッドで記録を行う。
【0022】
これにより、記録の際にシートが空間を通過する際には、シートは事前に第1の加湿空気により水分含有量が高められた状態であるので、シートが第2の加湿空気の水分を吸着することが抑制される。そのため、上流側の記録ヘッドから下流側の記録ヘッドに至るまでの狭空間は高い湿度が維持され続けて、ノズルは確実に保湿される。その結果、インクが吐出不能になったり吐出方向が乱れたりなどの、インク吐出不良の発生が抑制される。
【0023】
(他の実施形態)
図8を用いて他の実施形態について説明する。なお、上述の実施形態と同一の構成については、説明を省略する。本実施形態では、シート2を供給する供給ローラ41と記録手段9との間に、デカール手段23が設けられている。つまり、第1の加湿空気供給手段4はデカール手段23よりも、記録手段9の近くに位置している。デカール手段23はシートを加熱するヒータを備える。シートをデカール手段23のヒータで加熱しながら搬送することで、供給ローラ41に巻かれてできるシートのカールを矯正する。ヒータにより加熱することでデカールはより効果的になされる。
【0024】
仮に、デカール手段23と供給ローラ41の間に第1の加湿空気供給手段4を配置すると、第1の加湿空気供給手段4から加湿空気によってシート表面に水分を供給した後に、シートがデカール手段23を通過することになる。シートはデカール手段23のヒータで加熱されて、せっかく吸着させたシートの水分の多くが蒸発して、シートは多くの水分を吸着することが可能な状態に戻っている。記録手段9をシートが通過する際には狭空間の水分をシートが多量に吸着して雰囲気湿度が低下する。そのため、記録ヘッド1の保湿が不完全になり、特に最も下流側の記録ヘッド1の先端付近ではその傾向が著しくなる。
【0025】
このような事態を避けるべく、第1の加湿空気供給手段4はデカール手段23と記録手段9との間に配置する。つまり、第1の加湿空気供給手段4の第1の供給口43よりもシート搬送経路の上流側に、デカール手段23が設けられた配置関係とする。図8に示すように、第1の加湿空気供給手段4は記録手段9の直前になるべく隣接するように配置することが好ましい。シート2が第1の加湿空気供給手段4で水分を吸着してから、記録手段9に到達するまでの時間が短縮され、水分蒸発が少なく抑えることができるからである。
【0026】
以下に、上述の構成のインクジェット記録装置を用いて実験した例を説明する。
【0027】
(実施例1)
記録ヘッド1は、6インチの記録幅を有するブラック,シアン,フォトシアン、マゼンタ、フォトマゼンタ、イエローの6色とする。シート2として、幅5インチのインクジェット用光沢ロール紙をセットし、画像サイズ5×7インチの連続画像記録を行った。この時、インクジェット記録装置の周囲の雰囲気は温度25℃、相対湿度55%であった。シート2であるロール紙の含有水分率に関して株式会社サンコウ電子研究所製の電気式水分計(本体:MR−200、プローブ:KG−PA)を用いてロール紙の含有水分率を計測したところ、約6%であった。画像の記録に先立ち、記録ヘッド1の「捨て吐出」をキャップ内に行うことでノズル内のインクをリフレッシュさせた後、キャップを退避させ、記録ヘッド1を画像記録位置に移動させた。
【0028】
上記一連の動作と並行して、第2の加湿空気供給手段3により、温度30℃、相対湿度85%の空気を秒速0.2mで記録手段9内に送り出し始めた。この時、記録ヘッド1の下の風速は秒速0.9mであり、主滴の着弾精度悪化や、サテライト滴が主滴と分離して着弾することによる画像に対する弊害と言った問題が生じない流速であった。なお、温度30℃、相対湿度85%の空気の露点は27℃であるため、インクジェット記録装置の運転開始後に記録装置内の温度が27℃を超えてから、第2の加湿空気供給手段3による加湿空気の供給を開始した。具体的な記録装置内の雰囲気は、温度32℃、相対湿度37%であった。インクジェット記録装置内では、記録ヘッド1の温度調節や乾燥機等の使用により装置内の温度が上昇するが、冬場など装置外部の温度が低い場合、装置が温まるまでに時間を要するため、装置内に別途ヒータなどによる加温手段を設けても良い。
【0029】
次いで、第1の加湿空気供給手段4により、温度30℃、相対湿度85%(絶対湿度25.8g/m3)に加湿した空気を秒速1.3mで150×40mmの供給口43を介してロール紙表面に供給した。なお、このときのロール紙への水分供給量は約0.2g/secであり、水分供給量が1時間当り約720gと多くなる。このような場合、上述したように、供給口43から供給された空気が、吸気口44に戻ってくるような循環系を構成することが望ましい。第1の加湿空気供給手段4により加湿されたロール紙の含有水分率を計測したところ、約13%となっていた。
【0030】
このように、第1の加湿空気供給手段4と第2の加湿空気供給手段3とから加湿された空気が供給されている状態で、記録ヘッド1の先端付近における温度と相対湿度を測定した。その結果、最も上流側の記録ヘッド1で温度が30℃、相対湿度が80%であり、最も下流側の記録ヘッド1で温度が30℃、相対湿度が75%となっており、記録ヘッド1が配置されている全域にわたり、加湿がなされていることが分かった。
【0031】
そしてこの状態において、シート2である光沢紙ロールの搬送を開始し、図6に示すように、画像サイズ5×7インチの記録画像を含め複数種の記録画像32の記録を行った。記録画像32同士の間においては「捨て吐出31」を行うと共に秒速1.5インチの速度で連続記録を行った。その結果、不使用であったノズルが使用された場合の記録画像32の書き出し部34においても、使用されていたノズルの記録画像32の書き出し部33と同様、記録ドットの1発目から着弾精度と濃度共に問題のない画像が得られていた(図7(a)参照)。
【0032】
(実施例2)
実施例1において、第1の加湿空気供給手段4で加湿される空気を、温度40℃、相対湿度60%(絶対湿度30.6g/m3)とした以外は、実施例1と同様の方法でシート2に記録を行った。なお、このときのロール紙への水分供給量は約0.24g/secである。第1の加湿空気供給手段4により加湿されたロール紙の含有水分率について計測したところ、約15%となっていた。
【0033】
また、第1の加湿空気供給手段4と第2の加湿空気供給手段3とから加湿された空気が供給されている状態で、記録ヘッド1の先端付近における温度と相対湿度を測定した。その結果、最も上流側の記録ヘッド1で温度30℃、相対湿度95%、最も下流側の記録ヘッド1で温度30℃、相対湿度90%となっており、記録ヘッド1が配置されている全域にわたり加湿がなされていることが分かった。
【0034】
この状態において、実施例1と同様に画像の記録を行った。その結果、不使用であったノズルが使用された場合の記録画像32の書き出し部34においても使用していたノズルの記録画像32の書き出し部33と同様、記録ドットの1発目から記録ドットの着弾精度と濃度共に問題のない画像が得られていた(図7(a)参照)。
【0035】
(比較例1)
比較例1では、実施例1と異なり、第1の加湿空気供給手段4によるロール紙に対する加湿空気の供給を行わず、それ以外は、実施例1と同様の方法でロール紙に記録を行った。つまり、従来技術(特許文献1)とほぼ同条件である。
【0036】
第2の加湿空気供給手段3からのみ加湿された空気が供給されている状態で、記録ヘッド1の先端付近における温度と相対湿度を測定した。その結果、最も上流側の記録ヘッド1で温度30℃、相対湿度70%、最も下流側の記録ヘッド1で温度30℃、相対湿度45%であった。
【0037】
比較例1では、第1の加湿空気供給手段3によりロール紙に意図的に水分が供給されていないため、記録手段9内の空気中の水分がロール紙に吸収されてしまい、記録開始前の記録ヘッド1の先端付近の湿度が、実施例1や実施例2よりも低くなる。特に最も下流側の記録ヘッド1の先端付近ではその傾向が著しくなっている。
【0038】
この状態において、実施例1と同様に画像の記録を行った。その結果、使用していたノズルの記録画像32の書き出し部33においては問題のない画像(図7(a)参照)が得られた。しかし、不使用であったノズルが使用された場合の記録画像32の書き出し部34では図7(b)に示すように記録ドットの着弾精度が低下し、濃度も一定ではない画像となった。
【0039】
以上の記録装置によれば、シート2が記録手段9内に送り込まれる前に、第1の加湿空気供給手段4でシート2に水分を供給し、第2の加湿空気供給手段3で加湿した空気を記録手段9内に供給し、記録ヘッド1の周囲を加湿しておく。この状態で、シート2を記録手段9内に供給すれば、シート2が記録ヘッド1周囲の水分を吸着することを抑制できる。そのため、記録動作中においても、最も上流側の記録ヘッド1から最も下流側の記録ヘッド1まで高い雰囲気湿度を維持することが可能となる。したがって、記録ヘッド1内からインク中の水分が蒸発することを防止でき、使っていなかったノズルを使用しても記録ドットの着弾精度の低下や色合いの変化も抑制することができる。
【符号の説明】
【0040】
1 記録ヘッド
2 シート
3 第2の加湿空気供給手段
4 第1の加湿空気供給手段
9 記録手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズルが形成されたインクジェット記録ヘッドを含む記録手段でシートに記録を行う記録方法であって、
搬送されるシートに対して第1の供給口から第1の加湿空気を供給してシートの水分含有量を高める第1ステップと、
前記第1の供給口よりも前記インクジェット記録ヘッドに近い位置に設けられた第2の供給口から、前記ノズルが露出する空間に第2の加湿空気を供給して前記空間の雰囲気湿度を高める第2ステップと、
前記第1ステップで水分含有量が高められたシートの部位を、前記第2ステップで雰囲気湿度が高められた空間に進入させて、前記インクジェット記録ヘッドで記録を行う第3ステップと
を有することを特徴とする記録方法。
【請求項2】
前記記録手段では複数の前記インクジェット記録ヘッドがシートが搬送される方向に沿って上流から下流に並べて保持され、
前記第2ステップでは、前記第2の供給口から供給された前記第2の加湿空気の一部が、複数の前記記録ヘッドの前記ノズルとシートとの間を含む狭空間を前記上流から前記下流に向けて流れることを特徴とする、請求項1に記載の記録方法。
【請求項3】
前記第2の加湿空気の流速が、前記シートと前記ノズルのとの間の隙間において1m/秒以下とされることを特徴とする、請求項2に記載の記録方法。
【請求項4】
前記第1の加湿空気の絶対湿度は、前記第2の加湿空気の絶対湿度よりも高いことを特徴とする、請求項1から3のいずれか1項に記載の記録方法。
【請求項5】
前記第1ステップでは、前記第1の加湿空気で平衡水分量になるまでシートを加湿することを特徴とする、請求項1から4のいずれか1項に記載の記録方法。
【請求項6】
シートはロール状に巻かれた連続シートであり、シートに前記第1の加湿空気を供給して前記水分含有量を高める前にシートのデカールを行うステップをさらに有することを特徴とする、請求項1から5のいずれか1項に記載の記録方法。
【請求項7】
ノズルが形成されたインクジェット記録ヘッドを含む記録手段と、
搬送されるシートに対して第1の加湿空気を供給するための、前記第1の加湿空気を噴き出す第1の供給口を備えた第1の加湿部と、
前記ノズルが露出する空間に第2の加湿空気を供給するための、前記第1の供給口よりも前記インクジェット記録ヘッドに近い位置に設けられ前記第2の加湿空気を噴き出す第2の供給口を備えた第2の加湿部と、
を有することを特徴とする記録装置。
【請求項8】
前記記録手段では複数の前記インクジェット記録ヘッドがシートが搬送される方向に沿って上流から下流に並べて保持され、
前記第2の供給口から供給された前記第2の加湿空気の一部は、複数の前記記録ヘッドの前記ノズルとシートとの間を含む狭空間を前記上流から前記下流に向けて流れることを特徴とする、請求項7に記載の記録装置。
【請求項9】
シートはロール状に巻かれた連続シートであり、前記第1の供給口よりも上流でシートのデカールを行うデカール手段が設けられていることを特徴とする、請求項7または8に記載の記録装置。
【請求項10】
前記デカール手段はデカールの際にシートを加熱するためのヒータを備えることを特徴とする、請求項9に記載の記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−121354(P2011−121354A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−106622(P2010−106622)
【出願日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】