説明

インクジェット記録方法

【課題】プリンタに対する侵食性が改善されたインクジェット記録方法を提供する。
【解決手段】インクが接する部材の少なくとも一部に酸化シリコン層又はシランカップリング処理層を有するインクジェットプリンタとエチレンオキシ基及びプロピレンオキシ基から選択される基の少なくとも1つを含む重合体を含有するインクジェット用インクとを用いて、インクジェット記録媒体上に画像を記録することを特徴とするインクジェット記録方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインクジェット記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、コンピューターの普及に伴いインクジェットプリンターがオフィスだけでなく家庭で紙、フィルム、布等に印字・描画するために広く利用されている。
インクジェット記録方法には、ピエゾ素子により圧力を加えて液滴を吐出させる方式、熱によりインク中に気泡を発生させて液滴を吐出させる方式、超音波を用いた方式、あるいは静電力により液滴を吸引吐出させる方式がある。これらのインクジェット記録用インクとしては、水性インク、油性インク、あるいは固体(溶融型)インクが用いられる。
これらのインクのうち、水性インクは、製造・取り扱い性・臭気・安全性等の点を両立させ得る可能性の点では油性インクや固体(溶融型)インクよりは比較的優っているので、現用インクジェット記録用インクの主流となっている。
【0003】
これらのインクジェット記録用インクに用いられる色素に対しては、溶剤(インク媒体)に対する溶解性が高いこと、高濃度記録が可能であること、色相が良好であること、光、熱、空気、水や薬品に対する堅牢性に優れていること、受像材料に対して定着性が良く滲みにくいこと、インクとしての保存性に優れていること、毒性がないこと、純度が高いこと、さらには、安価に入手できることが要求されている。
【0004】
上記問題の吐出安定性を解決する手段として、アルキレンオキシ基を有する重合体を含むインク組成物を用いるインクジェット記録方法が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−298744号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、上記問題に応えるために様々なインクジェット記録用インクが検討される中、インクジェットプリンタの流路やヘッド部材を侵食、劣化する問題が生じて来ている。
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、プリンタに対する侵食性が改善され、かつ、良好な吐出性が得られるたインクジェット記録方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
<1>
インクが接する部材の少なくとも一部に酸化シリコン層又はシランカップリング処理層を有するインクジェットプリンタと、エチレンオキシ基及びプロピレンオキシ基から選択される基の少なくとも1つを含む重合体を含有するインクジェット用インクとを用いて、インクジェット記録媒体上に画像を記録する工程を備えるインクジェット記録方法。
<2>
前記インクジェット用インクが、更に、分子内に芳香族ヘテロ環を有する水溶性染料、水、及び水溶性有機溶媒を含有することを特徴とする上記<1>に記載のインクジェット記録方法。
<3>
分子内に芳香族ヘテロ環を有する水溶性染料が、一般式(M−I)で示される染料を少なくとも含むことを特徴とする上記<1>又は<2>に記載のインクジェット記録方法。
【0008】
一般式(M−I):
【0009】
【化1】

【0010】
(前記一般式(M−I)中、Aは、5員ヘテロ環ジアゾ成分A−NHの残基を表す。BおよびBは、各々−CR13=及び−CR14=を表すか、あるいはいずれか一方が窒素原子,他方が−CR13=または−CR14=を表す。R11、R12は、各々独立に、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アラルキル基、アリール基、ヘテロ環基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、カルバモイル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、またはスルファモイル基を表わす。各基は更に置換基を有していてもよい。G、R13、R14は、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アラルキル基、アリール基、ヘテロ環基、シアノ基、カルボキシル基、カルバモイル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシル基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、シリルオキシ基、アシルオキシ基、カルバモイルオキシ基、ヘテロ環オキシ基、アルコキシカルボニルオキシ基、アリールオキシカルボニルオキシ基、アルキル基またはアリール基またはヘテロ環基で置換されたアミノ基、アシルアミノ基、ウレイド基、スルフアモイルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、アルキルおよびアリールスルホニルアミノ基、ニトロ基、アルキルおよびアリールチオ基、アルキルおよびアリールスルホニル基、アルキルおよびアリールスルフィニル基、スルファモイル基、ヘテロ環チオ基、またはイオン性親水性基を表す。各基は更に置換されていてもよい。また、R13とR11、あるいはR11とR12が結合して5〜6員環を形成してもよい。但し、一般式(M−I)は、少なくとも一つのイオン性親水性基を有する。)
<4>
前記エチレンオキシ基及びプロピレンオキシ基から選択される基の少なくとも1つを有する重合体の重量平均分子量が、5000以上30000以下であることを特徴とする上記<1>〜<3>のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
<5>
前記シランカップリング処理層を形成するシランカップリング剤がフッ素原子を含有し、かつ、前記シランカップリング処理層は前記インクジェットプリンタのインクジェットヘッドのノズルプレート表面に形成されていることを特徴とする上記<1>〜<4>のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
【0011】
<6>
前記インクジェット記録媒体は、前記支持体上に無機顔料粒子を含有するインク受容層を有することを特徴とする上記<1>〜<5>のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、プリンタに対する侵食性が改善され、かつ、良好な吐出性が得られるインクジェット記録方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のインクジェット記録方法は、インクが接する部材の少なくとも一部に酸化シリコン層又はシランカップリング処理層を有するインクジェットプリンタと、
エチレンオキシ基及びプロピレンオキシ基から選択される基の少なくとも1つを含む重合体を含有するインクジェット用インクとを用いて、インクジェット記録媒体上に画像を記録する画像を記録する工程を備える。
本発明は、上記構成とすることにより、プリンタに対する侵食性が改善され、かつ、良好な吐出性を得たインクジェット記録が可能となる。
本発明のインクジェット記録方法は、上記構成とすることにより、インクジェットプリンタに対する侵食性が改善されたインクジェット記録が可能となる。
【0014】
具体的には、例えば、インクジェットプリンタヘッドにおける酸化シリコン層の層厚み減少やインクジェットプリンタヘッドのノズルプレート表面のシランカップリング処理層のインクに対する接触角の低下を抑制することができ、その結果、インクジェット用インクの均一な吐出性により鮮明が画像を得ることができ、更には、インクジェットプリンタヘッドの耐久性をも向上させることができる。
以下、インクジェット用インクについて説明し、引き続きインクジェットプリンタ等について説明する。
【0015】
≪インクジェット用インク≫
本発明におけるインクジェット用インクは、エチレンオキシ基及びプロピレンオキシ基から選択される基の少なくとも1つを含む重合体(以下、「特定の重合体」ともいう。)を含有して構成され、更に、分子に芳香族ヘテロ環を有する水溶性染料、水、及び水溶性有機溶媒を含有する構成とすることが好ましく、更に、必要に応じて、その他の添加剤を含有してもよい。
本発明におけるインクジェット用インクは、特定の重合体を含有することによりインクジェットプリンタに対する侵食性が改善されたインクジェット用インクとなる。
【0016】
<エチレンオキシ基及びプロピレンオキシ基から選択される基の少なくとも1つを含む重合体>
本発明におけるインクジェット用インクは、
前記エチレンオキシ基及びプロピレンオキシ基から選択される基の少なくとも1つを有する重合体(以下、「特定の重合体」ともいう。)を含有するが、プリンタに対する侵食性改善向上の観点から、前記特定の重合体の重量平均分子量は5000以上30000以下であることが好ましく、更に、8000を超えて25000以下であるとより好ましく、更に、10000を超えて20000以下であることが特に好ましい態様である。
前記特定の重合体の重量平均分子量が5000以上とすることにより、インクジェット受像紙上に印字した際に、良好な印字濃度が得られる点で好ましく、また、30000以下とすることにより、水に対して十分な溶解性を付与できるため、ノズル詰まり等による吐出不良を回避できる点で好ましい。
【0017】
前記特定の重合体は、前記エチレンオキシ基及びプロピレンオキシ基から選択される基の少なくとも1つを有する重合体であれば、特に限定されるものではなく、単一のアルキレンオキシ基を含むものであっても、2種以上のアルキレンオキシ基を含むものであっても良い。また、前記特定の重合体が2種以上のアルキレンオキシ基を含む場合、ランダムポリマーであってもブロックポリマーであってもよい。
【0018】
前記特定の重合体の好ましい具体例としては、例えば三洋化成(株)製PEG−6000P、PEG−6000S、PEG−20000、PEG−20000P、ニューポールPE−68、ニューポールPE78、ニューポールPE−108、ニューポールPE−128、旭硝子(株)製プレミノール、エクセノール等が挙げられる。
【0019】
本発明におけるインクジェット用インク中の前記特定の重合体の含有量は、インクジェットプリントに対する侵食性の改善及びインク吐出性の点で、0.1質量%〜5質量%であることが好ましく、0.2質量%〜3質量%であることがより好ましく、0.5質量%〜2質量%であることが特に好ましい。
【0020】
<水溶性染料>
本発明におけるインクジェット用インクは、水溶性染料の少なくとも1種を含み、更に、前記水溶性染料の少なくとも1種が分子内に芳香族ヘテロ環を有する水溶性染料(以下、「特定の水溶性染料」ともいう。)であることがより好ましい。
本発明において、特に、前記特定の重合体と特定の水溶性染料を用いることにより、インクジェットプリンタに対する侵食性が改善され、インク吐出性も良好となるインクジェット記録方法とすることができ、その結果、鮮明な画像を得ることができる。
【0021】
前記特定の水溶性染料が、後述の水溶性アゾ染料である一般式(M−I)で表される化合物、一般式(Y)で表される化合物、一般式(C−1)で表される化合物、又は一般式(B−1)で表される化合物であることが好ましく、中でも一般式(M−I)で表される化合物であるとき、本発明の効果であるインクジェットプリンタに対する侵食性改善、及び良好なインク吐出性の効果を奏する点で好ましい。
本発明において、特に断らない限り、一般式で表される化合物はその塩も含むものとする。
【0022】
(水溶性マゼンタ染料)
前記分子内に芳香族ヘテロ環を有する水溶性染料は、下記一般式(M−I)で表される化合物及びその塩からなる群より選ばれる水溶性アゾ染料の少なくとも1種であることが好ましい。
本発明におけるインクジェット用インクは、前記特定の重合体と共に、下記一般式(M−I)に示される染料を含むことによりマゼンタインクを調製することができ、インクジェットプリンタに対する侵食性の抑制効果を奏することができる。
この水溶性アゾ染料は、色再現性に優れ、光、熱、湿度、及び環境中の活性ガスに対する堅牢性に優れるマゼンタ系の染料である。
なお、「水溶性」とは、水100g(25℃)に1g以上溶解することをいう。
【0023】
一般式(M−I):
【化2】

【0024】
前記一般式(M−I)中、Aは、5員ヘテロ環ジアゾ成分A−NHの残基を表す。
およびBは、各々−CR13=及び−CR14=を表すか、あるいはいずれか一方が窒素原子、他方が−CR13=または−CR14=を表す。
11およびR12は、各々独立して、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アラルキル基、アリール基、ヘテロ環基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、カルバモイル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、またはスルファモイル基を表わす。各基は更に置換基を有していてもよい。
G、R13、R14は、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アラルキル基、アリール基、ヘテロ環基、シアノ基、カルボキシル基、カルバモイル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシル基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、シリルオキシ基、アシルオキシ基、カルバモイルオキシ基、ヘテロ環オキシ基、アルコキシカルボニルオキシ基、アリールオキシカルボニルオキシ基、アルキル基もしくはアリール基もしくはヘテロ環基で置換されたアミノ基、アシルアミノ基、ウレイド基、スルフアモイルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、アルキルもしくはアリールスルホニルアミノ基、ニトロ基、アルキルもしくはアリールチオ基、アルキルもしくはアリールスルホニル基、アルキルもしくはアリールスルフィニル基、スルファモイル基、ヘテロ環チオ基、またはイオン性親水性基を表す。各基は更に置換されていてもよい。また、R13とR11、R14とR11あるいはR11とR12が結合して5〜6員環を形成してもよい。但し、一般式(M−I)は、少なくとも一つのイオン性親水性基を有する。

【0025】
本発明においては、上記一般式(M−I)における好ましいAとしては、ヘテロ原子としてN、O、およびSから選ばれる少なくとも1種を含む5員ヘテロ環を挙げることができる。より好ましくは含窒素5員ヘテロ環である。また、ヘテロ環に脂肪族環、芳香族環または他のヘテロ環が縮合していてもよい。Aの好ましいヘテロ環の具体例には、ピラゾール環、イミダゾール環、トリアゾール環、チアゾール環、イソチアゾール環、チアジアゾール環、ベンゾチアゾール環、ベンゾオキサゾール環、またはベンゾイソチアゾール環を挙げることができる。各ヘテロ環基は更に置換基を有していてもよい。なかでも、下記一般式(a)から(i)のいずれかで表されるヘテロ環が好ましい。
【0026】
【化3】

【0027】
上記一般式(a)から(i)において、Rm〜Rm20は一般式(M−I)におけるR13またはR14と同義である。
【0028】
上記一般式(M−I)中、BおよびBは、各々、-CR13=及び-CR14=を表すか、またはいずれか一方が窒素原子、他方が-CR13=もしくは-CR14=を表すが、BおよびBが、各々、-CR13=及び-CR14=を表す場合が、より優れた性能を発揮できる点で好ましい。
【0029】
上記一般式(M−I)中、R11およびR12は、各々独立に、水素原子、置換または無置換のシクロアルキル基、置換または無置換のアリール基、置換または無置換のヘテロ環基、置換または無置換のアシル基、置換または無置換のアルキルスルホニル基、置換または無置換のアリールスルホニル基が好ましく、更に水素原子、置換アリール基、置換ヘテロ環基が好ましく、その中でも置換アリール基、置換ヘテロ環基が特に好ましい。但し、R11およびR12が同時に水素原子であることはない。
【0030】
上記一般式(M−I)中、Gは、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アラルキル基、アリール基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシルオキシ基、ヘテロ環オキシ基、アルキル基またはアリール基またはヘテロ環基で置換されたアミノ基、アシルアミノ基、ウレイド基、スルフアモイルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、アルキルおよびアリールスルホニルアミノ基、アルキルおよびアリールチオ基、ヘテロ環チオ基またはイオン性親水性基が好ましい。各基は更に置換されていてもよい。
【0031】
更に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシルオキシ基、アルキル基またはアリール基またはヘテロ環基で置換されたアミノ基、アシルアミノ基が好ましい。
【0032】
その中でも、水素原子、アリール基またはヘテロ環基で置換されたアミノ基、アシルアミノ基が特に好ましく、置換基を有するアリール基で置換されたアミノ基が最も好ましい。
【0033】
上記一般式(M−I)中、R13およびR14は、各々独立に、水素原子、アルキル基、シアノ基、カルボキシル基、カルバモイル基、アルコキシカルボニル基が好ましい。各基は更に置換されていてもよい。
【0034】
更に詳しくは、水素原子、アルキル基、シアノ基、カルボキシル基が好ましく、その中でもR13が水素原子であって、R14がアルキル基であることが好ましく、特にR13が水素原子であって、R14がメチル基であることが最も好ましい。
【0035】
前記一般式(M−I)で表される化合物の好ましい置換基の組み合わせについては、種々の置換基の少なくとも1つが前記の好ましい基である化合物が好ましく、より多くの種々の置換基が前記好ましい基である化合物がより好ましく、全ての置換基が前記好ましい基である化合物が最も好ましい。
【0036】
本発明では、上記一般式(M−I)で表される化合物のうち、下記一般式(M−1)で表される化合物が好ましい。
【0037】
一般式(M−1):
【0038】
【化4】

【0039】
一般式(M−1)中、A、B1、B2、R11およびR12は、前記一般式(M−I)中のA、B1、B2、R11およびR12と同義である。
【0040】
aおよびeは各々独立に、アルキル基、アルコキシ基またはハロゲン原子を表すが、aおよびeが共にアルキル基である時は、そのアルキル基を構成する炭素数の合計が3以上であって、それらはさらに置換されていてもよい。
【0041】
b、c、dは、各々独立にR、Rと同義であり、aとb、または、eとdで互いに縮環していてもよい。但し、一般式(M−1)は、少なくとも一つのイオン性親水性基を有する。
【0042】
本発明においては、上記一般式(M−1)において、Aは、前記一般式(M−I)中のAと同義であり、好ましい例も同じである。
【0043】
本発明においては、上記一般式(M−1)において、B、Bは、前記一般式(M−I)中のB、Bと同義であり、好ましい例も同じである。
【0044】
本発明においては、上記一般式(M−1)において、R11、R12は、前記一般式(M−I)中のR11、R12と同義であり、好ましい例も同じである。
【0045】
本発明においては、上記一般式(M−1)において、aおよびeは各々独立に、アルキル基、アルコキシ基またはハロゲン原子を表すが、aおよびeが共にアルキル基である時は、そのアルキル基を構成する炭素数の合計が3以上であって、それらはさらに置換されていてもよい。
【0046】
更に好ましくは、aおよびeは各々独立にメチル基、エチル基、イソプロピル基が好ましく、その中でもエチル基、イソプロピル基が好ましく、特にa=e=エチル基またはイソプルピル基が最も好ましい。
【0047】
b、c、dは、各々独立に前記一般式(M−I)中のR13、R14と同義であり、aとb、または、eとdで互いに縮環していてもよい。但し、一般式(M−1)は、少なくとも一つのイオン性親水性基を有する。
【0048】
更に好ましくは、cは、水素原子、アルキル基が好ましく、その中でも水素原子、メチル基が特に好ましい。
【0049】
b、dは、水素原子、イオン性親水性基が好ましく、その中でも水素原子、スルホ基、カルボキシル基が好ましく、特にbとdの組み合わせが水素原子とスルホ基であるのが最も好ましい。
【0050】
前記一般式(M−1)で表される化合物の好ましい置換基の組み合わせについては、種々の置換基の少なくとも1つが前記の好ましい基である化合物が好ましく、より多くの種々の置換基が前記好ましい基である化合物がより好ましく、全ての置換基が前記好ましい基である化合物が最も好ましい。
【0051】
本発明では、上記一般式(M−1)で表される化合物のうち、下記一般式(M−2)で表される化合物が好ましい。
【0052】
一般式(M−2):
【0053】
【化5】

【0054】
一般式(M−2)中、Z11は、ハメットの置換基定数σp値が0.20以上の電子吸引性基を表す。Z12は、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アラルキル基、アリール基、ヘテロ環基またはアシル基を表す。R11、R12、R13、R14、a、b、c、d及びeは、各々上記一般式(M−1)の場合と同義である。Qは、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アラルキル基、芳香族基またはヘテロ環基を表す。上記Z11、Z12及びQの各基は、更に置換基を有していてもよい。但し、一般式(M−2)は、少なくとも一つのイオン性親水性基を有する。

【0055】
本発明においては、上記一般式(M−2)において、R13、R14は、前記一般式(M−I)中のR13、R14と同義であり、好ましい例も同じである。
【0056】
本発明においては、上記一般式(M−2)において、R11、R12は、前記一般式(M−I)中のR11、R12と同義であり、好ましい例も同じである。
【0057】
本発明においては、上記一般式(M−2)において、a、b、c、dおよびeは、前記一般式(M−1)中のa、b、c、dおよびeと同義であり、好ましい例も同じである。
【0058】
本発明においては、上記一般式(M−2)において、Z11の上記電子吸引性基は、ハメットの置換基定数σp値が0.20以上、好ましくは0.30以上の電子吸引性基である。σp値の上限としては、好ましくは1.0以下である。
【0059】
σp値が0.20以上の電子吸引性基の具体例としては、アシル基、アシルオキシ基、カルバモイル基、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、シアノ基、ニトロ基、ジアルキルホスホノ基、ジアリールホスホノ基、ジアリールホスフィニル基、アルキルスルフィニル、アリールスルフィニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、スルホニルオキシ基、アシルチオ基、スルファモイル基、チオシアネート基、チオカルボニル基、ハロゲン化アルキル基、ハロゲン化アルコキシ基、ハロゲン化アリールオキシ基、ハロゲン化アルキルアミノ基、ハロゲン化アルキルチオ基、ヘテロ環基、ハロゲン原子、アゾ基、セレノシアネート基およびσp値が0.20以上の他の電子吸引性基で置換されたアリール基が挙げられる。
【0060】
11として好ましくはシアノ基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、ニトロ基、またはハロゲン原子であり、シアノ基、アルキルスルホニル基、またはアリールスルホニル基がより好ましく、シアノ基が最も好ましい。
【0061】
12としては水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アラルキル基、アリール基、ヘテロ環基、またはアシル基が好ましく、アルキル基がより好ましい。各置換基はさらに置換されていてもよい。
【0062】
更に詳しくは、Z12としてのアルキル基には、置換基を有するアルキル基および無置換のアルキル基が含まれる。前記アルキル基は、置換基の炭素原子を除いた炭素原子数が1〜12のアルキル基が好ましく、より好ましくは炭素原子数1〜6のアルキル基が好ましい。
【0063】
置換基の例には、ヒドロキシル基、アルコキシ基、シアノ基、ハロゲン原子、およびイオン性親水性基が含まれる。
【0064】
アルキル基の例には、メチル、エチル、ブチル、イソプロピル、t−ブチル、ヒドロキシエチル、メトキシエチル、シアノエチル、トリフルオロメチル、3−スルホプロピルおよび4−スルホブチルが含まれ、その中でもメチル、エチル、イソプロピル、t−ブチルが好ましく、特にイソプロピル、t−ブチルが好ましく、特にt−ブチルが最も好ましい。
【0065】
12としてのシクロアルキル基には、置換基を有するシクロアルキル基および無置換のシクロアルキル基が含まれる。前記シクロアルキル基としては、置換基の炭素原子を除いた炭素原子数が5〜12のシクロアルキル基が好ましい。置換基の例には、イオン性親水性基が含まれる。シクロアルキル基の例には、シクロヘキシル基が含まれる。
【0066】
12としてのアラルキル基としては、置換基を有するアラルキル基および無置換のアラルキル基が含まれる。アラルキル基としては、置換基の炭素原子を除いた炭素原子数が7〜12のアラルキル基が好ましい。前記置換基の例には、イオン性親水性基が含まれる。前記アラルキル基の例には、ベンジル基、および2−フェネチル基が含まれる。
【0067】
12としてのアリール基には、置換基を有するアリール基および無置換のアリール基が含まれる。アリール基としては、置換基の炭素原子を除いた炭素原子数が6〜12のアリール基が好ましい。置換基の例には、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子、アルキルアミノ基、アミド基、カルバモイル基、スルファモイル基、スルホンアミド基、水酸基、エステル基およびイオン性親水性基が含まれる。アリール基の例には、フェニル、p−トリル、p−メトキシフェニル、o−クロロフェニルおよびm−(3−スルホプロピルアミノ)フェニルが含まれる。
【0068】
12としてのヘテロ環基には、置換基を有する複素環基および無置換の複素環基が含まれる。複素環基としては、5員または6員環の複素環基が好ましい。置換基の例には、アミド基、カルバモイル基、スルファモイル基、スルホンアミド基、水酸基、エステル基およびイオン性親水性基が含まれる。複素環基の例には、2−ピリジル基、2−チエニル基、2−チアゾリル基、2−ベンゾチアゾリル基および2−フリル基が含まれる。
【0069】
12としてのアシル基には、置換基を有するアシル基および無置換のアシル基が含まれる。前記アシル基としては、置換基の炭素原子を除いた炭素原子数が1〜12のアシル基が好ましい。置換基の例には、イオン性親水性基が含まれる。アシル基の例には、アセチル基およびベンゾイル基が含まれる。
【0070】
本発明においては、上記一般式(M−2)において、Qは、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アラルキル基、芳香族基またはヘテロ環基を表す。これら各置換基はさらに置換されていてもよい。これらの置換基の詳細は上記R13、R14の場合と同じである。
【0071】
Qは、電子吸引性基で置換された、アリール基またはヘテロ環基が好ましい。Qの置換基となる電子吸引性基は、ハメットの置換基定数σp値が0.20以上、好ましくは0.30以上の電子吸引性基である。σp値の上限としては、好ましくは1.0以下である。
【0072】
σp値が0.20以上の電子吸引性基の具体例としては、上記一般式(M−2)中のZ11と同義である。
【0073】
更に詳しくは、Qの電子吸引性基で置換されたヘテロ環基が好ましく、その中でもスルホ基、置換または無置換のカルバモイル基、置換または無置換のスルファモイル基で置換されたベンズオキサゾール環、ベンゾチアゾール環が好ましく、特にスルホ基、置換スルファモイル基で置換されたベンゾチアゾール環が最も好ましい。
【0074】
前記一般式(M−2)で表される化合物の好ましい置換基の組み合わせについては、種々の置換基の少なくとも1つが前記の好ましい基である化合物が好ましく、より多くの種
々の置換基が前記好ましい基である化合物がより好ましく、全ての置換基が前記好ましい基である化合物が最も好ましい。
【0075】
本発明における一般式(M−I)で表される化合物として特に好ましい組み合わせは、以下の(イ)〜(ニ)を含むものである。
【0076】
(イ)Aの好ましいヘテロ環の例には、ピラゾール環、イミダゾール環、トリアゾール環、チアゾール環、イソチアゾール環、チアジアゾール環、ベンゾチアゾール環、ベンゾオキサゾール環、またはベンゾイソチアゾール環が好ましく、更にピラゾール環、イミダゾール環、トリアゾール環、チアゾール環、イソチアゾール環、チアジアゾール環が好ましく、その中でもピラゾール環、トリアゾール環、チアゾール環、イソチアゾール環、チアジアゾール環が好ましく、ピラゾール環が最も好ましい。
【0077】
(ロ)BおよびBは、各々、-CR13=もしくは-CR14=を表すか、またはいずれか一方が窒素原子、他方が-CR13=もしくは-CR14=を表すが、BおよびBが、-CR13=または-CR14=を表す場合が好ましく、更にR13が水素原子(Bが無置換炭素原子)、R14が水素原子またはアルキル基(Bが無置換またはアルキル基で置換された炭素原子)が好ましく、特にR13が水素原子(Bが無置換炭素原子)、R14がメチル基(Bがメチル基で置換された炭素原子)が最も好ましい。
【0078】
(ハ)R11、R12は、各々独立に、水素原子、置換または無置換のシクロアルキル基、置換または無置換のアリール基、置換または無置換のヘテロ環基、置換または無置換のアシル基、置換または無置換のアルキルスルホニル基、置換または無置換のアリールスルホニル基が好ましく、更に水素原子、置換アリール基、置換ヘテロ環基が好ましく、その中でも置換アリール基、置換ヘテロ環基が好ましく、特にスルホ基で置換されたアリール基、及び、スルホ基で置換されたヘテロ環基が最も好ましい。
【0079】
(ニ)Gは、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アラルキル基、アリール基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシルオキシ基、ヘテロ環オキシ基、アルキル基またはアリール基またはヘテロ環基で置換されたアミノ基、アシルアミノ基、ウレイド基、スルフアモイルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、アルキルおよびアリールスルホニルアミノ基、アルキルおよびアリールチオ基、ヘテロ環チオ基またはイオン性親水性基が好ましく、更に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシルオキシ基、アルキル基またはアリール基またはヘテロ環基で置換されたアミノ基、アシルアミノ基が好ましく、その中でも水素原子、アリール基またはヘテロ環基で置換されたアミノ基、アシルアミノ基が特に好ましく、置換を有するアリール基で置換されたアミノ基が最も好ましい。
【0080】
一般式(M−I)中、一般式(M−1)の場合が特に好ましい。
【0081】
本発明における一般式(M−1)で表される化合物として特に好ましい組み合わせは、以下の(イ)〜(ニ)を含むものである。
【0082】
(イ)Aのヘテロ環の例には、上記一般式(M−I)中のAと同義であり、好ましい例も同じである。
【0083】
(ロ)BおよびBは、上記一般式(M−I)中のBおよびBと同義であり、好ましい例も同じである。
【0084】
(ハ)R11、R12は、上記一般式(M−I)中のR11、R12と同義であり、好ましい例も同じである。
【0085】
(ニ)aおよびeは、アルキル基またはハロゲン原子が好ましく、aおよびeが共にアルキル基の時は無置換アルキル基であって、aおよびeの炭素数の合計が3以上(好ましくは5以下)であり、a、b、c、dは、各々水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、イオン性親水性基(好ましくは各々水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、イオン性親水性基)の場合が好ましい。更に好ましくは、aおよびeは各々独立にメチル基、エチル基、イソプロピル基が好ましく、その中でもエチル基、イソプロピル基が好ましく、特にa=b=エチル基またはイソプルピル基が最も好ましい。更に、cは、水素原子、アルキル基が好ましく、その中でも水素原子、メチル基が特に好ましい。b、dは、水素原子、イオン性親水性基が好ましく、その中でも水素原子、スルホ基、カルボキシ基が好ましく、特にbとdの組み合わせが水素原子とスルホ基であるのが最も好ましい。
【0086】
一般式(M−1)中、一般式(M−2)の場合が特に好ましい。
【0087】
本発明における一般式(M−2)で表される化合物として特に好ましい組み合わせは、以下の(イ)〜(ヘ)を含むものである。
【0088】
(イ)Z11は、ハメットの置換基定数σp値が0.20以上、好ましくは0.30以上の電子吸引性基である。σp値の上限としては、好ましくは1.0以下である。Z11として更に好ましくはシアノ基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、ニトロ基、またはハロゲン原子であり、シアノ基、アルキルスルホニル基、またはアリールスルホニル基がより好ましく、その中でもシアノ基が最も好ましい。
【0089】
(ロ)Z12としては水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アラルキル基、アリール基、ヘテロ環基、またはアシル基が好ましく、アルキル基がより好ましい。各置換基はさらに置換されていてもよい。更に詳しくは、Z12としてのアルキル基には、置換基を有するアルキル基および無置換のアルキル基が含まれる。前記アルキル基は、置換基の炭素原子を除いた炭素原子数が1〜12のアルキル基が好ましく、より好ましくは炭素原子数1〜6のアルキル基が好ましい。置換基の例には、ヒドロキシル基、アルコキシ基、シアノ基、ハロゲン原子、およびイオン性親水性基が含まれる。その中でもメチル、エチル、ブチル、イソプロピル、t−ブチル、ヒドロキシエチル、メトキシエチル、シアノエチル、トリフルオロメチル、3−スルホプロピルおよび4−スルホブチルが好ましく、特にイソプロピル、t−ブチルが好ましく、t−ブチルが最も好ましい。
【0090】
(ハ)Qは、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アラルキル基、芳香族基またはヘテロ環基を表す。これら各置換基はさらに置換されていてもよい。更にQ、は、電子吸引性基で置換された、アリール基またはヘテロ環基が好ましい。Q、の置換基となる電子吸引性基は、ハメットの置換基定数σp値が0.20以上、好ましくは0.30以上の電子吸引性基である。σp値の上限としては、好ましくは1.0以下である。更に詳しくは、Q電子吸引性基で置換されたヘテロ環基が好ましく、その中でもスルホ基、置換または無置換のカルバモイル基、置換または無置換のスルファモイル基で置換されたベンズオキサゾール環、ベンゾチアゾール環が好ましく、特にスルホ基、置換スルファモイル基で置換されたベンゾチアゾール環が最も好ましい。
【0091】
(ニ)a、b、c、d及びeは、上記一般式(M−1)中のa、b、c、d及びeと同義であり、好ましい例も同じである。
【0092】
(ホ)R13およびR14は、上記一般式(M−1)中のR13およびR14と同義であり、好ましい例も同じである。
【0093】
(ヘ)R11、R12は、上記一般式(M−1)中のR11、R12と同義であり、好ましい例も同じである。
【0094】
一般式(M−I)、(M−1)及び(M−2)で表される化合物(アゾ色素)はその分子内にイオン性親水性基を少なくとも1つ(好ましくは3つ以上6つ以下)を有する。イオン性親水性基には、スルホ基、カルボキシル基、ホスホノ基および4級アンモニウム基等が含まれる。前記イオン性親水性基としては、カルボキシル基、ホスホノ基、およびスルホ基が好ましく、中でもカルボキシル基、スルホ基が好ましい。特に少なくとも1つはスルホ基である事が最も好ましい。カルボキシル基、ホスホノ基およびスルホ基は塩の状態であってもよく、塩を形成する対イオンの例には、アンモニウムイオン、アルカリ金属イオン(例、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン)および有機カチオン(例、テトラメチルアンモニウムイオン、テトラメチルグアニジウムイオン、テトラメチルホスホニウム)が含まれる。対イオンの中でもアルカリ金属塩が好ましい。アルカリ金属塩の中でも、カリウムイオン、ナトリウムイオン、リチウムイオンが好ましく、リチウムイオンが最も好ましい。特に、溶解性向上及びインクジェット印刷におけるブロンズ抑制の観点から、イオン性親水性基がスルホ基で、且つその対イオンがリチウムイオンの組み合わせが最も好ましい。
【0095】
上記アゾ色素はその分子内にイオン性親水性基を3つ以上6つ以下有することが好ましく、スルホ基を3つ以上6つ以下有することがより好ましく、スルホ基を3つ以上5つ以下有することが更に好ましい。
【0096】
一般式(M−I)に示される染料の好ましい具体例としては、特開2007−138124号公報の[0489]〜[0563]に記載の化合物が挙げられる。
【0097】
本発明におけるマゼンタインクは、上記特定の重合体を用いて、上記一般式(M−I)で表される水溶性アゾ染料を水性媒体に溶解させて作製することができる。また、必要に応じてその他の添加剤を、本発明の効果を害しない範囲内において含有される。
【0098】
(水溶性イエロー染料)
前記分子内に芳香族ヘテロ環を有する水溶性染料は、下記一般式(Y−1)で表される化合物及びその塩からなる群より選ばれる水溶性アゾ染料の少なくとも1種であることが好ましい。
【0099】
【化6】

【0100】
式中、Gはヘテロ環基を表し、nは1〜3の整数を表す。nが1の時は、R、X、Y、Z、Q、Gは一価の基を表す。nが2の時は、R、X、Y、Z、Q、Gは一価または2価の置換基を表し、少なくとも1つは2価の置換基を表す。nが3の時は、R、X、Y、Z、Q、Gは一価、2価または3価の置換基を表し、少なくとも二つが2価の置換基を表すかまたは少なくとも1つが3価の置換基を表す。
【0101】
一般式(Y−1)に示される染料の好ましい具体例としては、特開2007−63520号公報の[0046]〜[0310]に記載の化合物が挙げられる。
【0102】
また、上記一般式(Y−1)の染料は、特開2007−63520号公報の[0311]〜[0367]に記載の方法により合成することが可能である。
【0103】
(水溶性シアン染料)
前記分子内に芳香族ヘテロ環を有する水溶性染料は、下記一般式(C−1)で表される化合物(水溶性シアン染料)であることも好ましい。
本発明におけるインクジェット用インクは、前記特定の重合体と共に、下記一般式(C−1)に示される染料を含むことによりシアンインクを調製することができ、インクジェットプリンタに対する侵食性の抑制効果を奏することができる。
【0104】
一般式(C−1):
【0105】
【化7】

【0106】
前記一般式(C−1)中、X、X、X及びXは、それぞれ独立に、−SO−Z、−SO−Z、−SONV、−CONV、−COZ、−CO−Z及びスルホ基のいずれかを表す。ここで、Zは、それぞれ独立に、置換若しくは無置換のアルキル基、置換若しくは無置換のシクロアルキル基、置換若しくは無置換のアルケニル基、置換若しくは無置換のアルキニル基、置換若しくは無置換のアラルキル基、置換若しくは無置換のアリール基、又は置換若しくは無置換のヘテロ環基を表す。V,Vは、同一または異なっていてもよく、水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のシクロアルキル基、置換もしくは無置換のアルケニル基、置換もしくは無置換のアルキニル基、置換もしくは無置換のアラルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のヘテロ環基を表す。
、Y、Y及びYは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アラルキル基、アリール基、ヘテロ環基、シアノ基、ヒドロキシ基、ニトロ基、アミノ基、アルキルアミノ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アミド基、アリールアミノ基、ウレイド基、スルファモイルアミノ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルコキシカルボニルアミノ基、スルホンアミド基、カルバモイル基、スルファモイル基、アルコキシカルボニル基、ヘテロ環オキシ基、アゾ基、アシルオキシ基、カルバモイルオキシ基、シリルオキシ基、アリールオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニルアミノ基、イミド基、ヘテロ環チオ基、ホスホリル基、アシル基、又はイオン性親水性基を表し、各々の基はさらに置換基を有していてもよい。
〜a及びb〜bは、それぞれX〜X及びY〜Yの置換基数を表す。
そして、a〜aは、それぞれ独立に、0〜4の整数であり、すべてが同時に0になることはない。b〜bは、それぞれ独立に、0〜4の整数を表す。
Mは、水素原子、金属原子又はその酸化物、水酸化物若しくはハロゲン化物である。ただし、X、X、X、X、Y、Y、Y及びYの内の少なくとも1つは、イオン性親水性基であるか又はイオン性親水性基を置換基として有する基である。
【0107】
一般式(C−1)に示される染料の好ましい具体例としては、特開2008−101173号公報の[0133]〜[0140]に記載の化合物が挙げられる。また、一般式(C−1)に示される染料は、上記公開公報の[0141]に引用されている各公開公報に従って合成することが可能である。
【0108】
(水溶性ブラック染料)
前記分子内に芳香族へテロ環を有する水溶性染料は、下記一般式(B−1)で表される化合物(水溶性ブラック染料)であることも好ましい。
本発明におけるインクジェット用インクは、前記特定の重合体と共に、下記一般式(B−1)で表される化合物を含むことによりブラックインクを調製することができ、インクジェットプリンタに対する侵食性の抑制効果を奏することができる。
【0109】
【化8】

【0110】
上記一般式(B−1)中、A、Bは、各々独立に、置換されていてもよい芳香族基または置換されていてもよいヘテロ環基を表す(Aは一価の基であり、Bは二価の基である)。
およびTは、各々=CR43−および−CR44=を表すか、あるいはいずれか一方が窒素原子、他方が=CR43−または−CR44=を表す。
、R43およびR44は、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アラルキル基、アリール基、ヘテロ環基、シアノ基、カルボキシル基、カルバモイル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、複素環オキシカルボニル基、アシル基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、ヘテロ環オキシ基、シリルオキシ基、アシルオキシ基、カルバモイルオキシ基、アルコキシカルボニルオキシ基、アリールオキシカルボニルオキシ基、アミノ基(アルキルアミノ基、アリ−ルアミノ基、ヘテロ環アミノ基を含む)、アシルアミノ基、ウレイド基、スルファモイルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、アルキルもしくはアリールスルホニルアミノ基、ヘテロ環スルホニルアミノ基、ニトロ基、アルキル及びアリールチオ基、ヘテロ環チオ基、アルキル及びアリールスルホニル基、ヘテロ環スルホニル基、アルキル及びアリールスルフィニル基、ヘテロ環スルフィニル基、スルファモイル基、またはスルホ基を表し、各基は更に置換されていても良い。
41、R42は、各々独立に、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アラルキル基、アリール基、ヘテロ環基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、カルバモイル基、アルキルまたはアリールスルホニル基、スルファモイル基を表し、各基は更に置換基を有していても良い。但し、R41、R42が同時に水素原子であることはない。また、R43とR41、あるいはR41とR42が結合して5乃至6員環を形成しても良い。
【0111】
一般式(B−1)に示される染料の好ましい具体例としては、特開2008−101173号公報の[0152]〜[0166]に記載の化合物が挙げられる。
【0112】
上記水溶性マゼンタ染料、水溶性イエロー染料、水溶性シアン染料、水溶性ブラック染料に対して、色相の調整や退色速度の調整等の目的で、他の染料を併用しても良い。併用する上で好適な染料の具体例としては、例えば特開2007−138124号公報の[0473]〜[0481](イエロー染料の併用染料)、[0570]〜[0578](マゼンタ染料の併用染料)、[0660]〜[0664](シアン染料の併用染料)、[0779]〜[0792](ブラック染料の併用染料)に記載の化合物が挙げられる。
【0113】
本発明のインクジェット用インクは、前記特定の水溶性染料を全質量中、0.5質量%〜15質量%の範囲で含有することが好ましい。
前記特定の水溶性染料を上記範囲で含む本発明のインクジェット用インクは、インクジェットプリンタに対する侵食性が低減され、かつ、急激な褪色によるカラーバランスの低下を回避でき、長期での保存性に優れた画像を得ることができる。
なお、本発明における一般式(M−I)で表される化合物を含むマゼンタインクは、前記一般式(M−I)で表される化合物及びその塩に加え、さらに他のマゼンタ染料を併用することができる。他のマゼンタ染料には、特に制限はなく、公知の染料を任意に選択して用いることができる。
【0114】
前記特定の水溶性染料が、前記一般式(C−1)で表される化合物及びその塩である場合、本発明において、シアンインク中に含まれる水溶性シアン染料の含有量は、一般式(C−1)で表されるシアン染料の合計量が、シアンインク中に、シアンインクの総質量に対して1〜10質量%含まれることが好ましく、1.5〜8質量%含まれることがさらに好ましい。
【0115】
シアンインク中に含まれる一般式(C−1)の染料の合計量を1質量%以上にすることで、印刷したときの記録媒体上におけるインクの発色性を良好にでき、かつ必要とされる画像濃度を確保できる。また、シアンインク中に含まれる一般式(C−1)の染料の合計量を10質量%以下にすることで、インクジェット記録方法に用いた場合にシアンインクの吐出性を良好にでき、しかもインクジェットノズルが目詰まりしにくい等の効果が得られる。
更に、水溶性シアン染料の50質量%以上が、一般式(C−1)であることが画像の保存安定性の観点で好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上であることが特に好ましい。
なお、本発明における一般式(C−1)で表される化合物を含むシアンインクは、一般式(C−1)で表される化合物及びその塩に加え、さらに他のシアン染料を併用することができる。他のシアン染料には、特に制限はなく、公知の染料を任意に選択して用いることができる。
【0116】
本発明のインクジェット用インクの前記特定の水溶性染料が、一般式(Y−1)で表される化合物及びその塩である場合、インク中の染料濃度は、0.5質量%〜15質量%が好ましく、1.0〜8質量%の範囲がより好ましく、1.5質量%〜7質量%の範囲が特に好ましい。前記イエローインクのインク中の染料濃度を0.5質量%以上に多くすると、受像紙上に大量のインクを吐出する必要がなく、高湿条件下での滲みや染料に対する有機溶剤量の過多によるインクの乾燥不良を防いで、経時での画像のカラーバランスをより保つことができる。
前記特定の水溶性染料が、一般式(Y−1)で表される化合物及びその塩である場合、インク中の全染料の50質量%以上の範囲で含有することが好ましい。一般式(Y−1)で表される化合物及びその塩のインク中における含有量が前記範囲内であると、急激な褪色によるカラーバランスの低下を回避でき、長期での保存性に優れた画像を得ることができる。
一般式(Y−1)で表される化合物及びその塩のインク中における含有量としては、前記同様の理由から、全染料量に対して、70質量%以上の範囲がより好ましく、80質量%以上の範囲が特に好ましい。
なお、本発明における一般式(Y−1)で表される化合物を含むイエローインクは、前記一般式(Y)で表される化合物及びその塩に加え、さらに他のイエロー染料を併用することができる。他のイエロー染料には、特に制限はなく、公知の染料を任意に選択して用いることができる。
【0117】
前記特定の水溶性染料が、一般式(B−1)で表される化合物及びその塩である場合、一般式(B−1)で表される化合物及びその塩に加え、さらに他のブラック染料を併用することができる。他のブラック染料には、特に制限はなく、公知の染料を任意に選択して用いることができる。
【0118】
(水溶性有機溶媒)
本発明におけるインクジェット用インクは水溶性有機溶媒を少なくとも1種含有する。
水溶性有機溶媒としては、特に限定されず用いることができ、具体的な例としては、アルコール(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノール、t−ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、ベンジルアルコール)、多価アルコール類(例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキサンジオール、ペンタンジオール、グリセリン、ヘキサントリオール)、グリコール誘導体(例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングルコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングルコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジアセテート、エチレングルコールモノメチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノプロピルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル)、アミン(例えば、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、モルホリン、N−エチルモルホリン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ポリエチレンイミン、テトラメチルプロピレンジアミン)、尿素、尿素誘導体およびその他の極性溶媒(例えば、ホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、N−ビニル−2−ピロリドン、2−オキサゾリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、アセトニトリル、アセトン)が挙げられる。尚、前記水溶性有機溶媒は、25℃において液体でも固体でもよい化合物であり、2種類以上を併用してもよい。
水溶性有機溶媒の使用量は、本発明における前記インク中、好ましくは10〜80質量%、より好ましくは20〜60質量%である。また本発明でいう水溶性とは、25℃の水に対する溶解度が、1g/100g以上であることを意味する。
【0119】
(水)
本発明において、インクジェット用インクは少なくとも水を含有する。水は、水もしくは水と前記水溶性有機溶媒との混合溶媒である形態で用いてもよい。
本発明において、含有する水の量には特に制限はないが、水の好ましい含有量は10〜99質量%であり、より好ましくは30〜80質量%であり、更に好ましくは50〜70質量%である。
【0120】
(ベタイン化合物)
本発明におけるインクジェット用インクは、更に、ベタイン化合物の少なくとも1種を含有することが好ましい。 特に、上記インクジェット用インクが水溶性染料としてマゼンタ染料を含有するマゼンタインクにおいては、色素の堅牢性を維持して記録画像のニジミを防止する効果が顕著となる点で好ましい。
【0121】
ここで言うベタイン化合物とは、その分子中にカチオン性の部位とアニオン性の部位を両方とも有し、かつ界面活性を有する化合物を表す。カチオン性の部位としてはアミン性の窒素原子、ヘテロアリール環の窒素原子、炭素との結合を4つ有するホウ素原子、リン原子などを挙げることができる。この中で好ましくはアンモニウム構造の窒素原子もしくはヘテロアリール環(好ましくはイミダゾリウム構造)の窒素原子である。中でも特に第4級の窒素原子であることが好ましい。アニオン性の部位としては、水酸基、チオ基、スルホンアミド基、スルホ基、カルボキシル基、イミド基、リン酸基、ホスホン酸基などを挙げることができる。この中でも特にカルボキシル基、スルホ基が好ましい。好ましくは、カルボキシル基又はスルホ基含有化合物である。分子全体としての荷電は、カチオン、アニオン、中性のいずれでもよいが、好ましくは中性である。
【0122】
本発明において、前記ベタイン化合物は、アルキルアミノベタイン化合物が好ましく、アルキルアミノベタイン化合物が下記一般式(B)で表される化合物であることが特に好ましい。
【0123】
一般式(B):
【化9】

【0124】
一般式(B)中、RS4、RS5、RS6は各々独立して、アルキル基、アリール基またはヘテロ環基を表し、それぞれが互いに連結して環状構造を形成してもよい。RS7はカルボキシル基を含有するアルキル基またはスルホ基を含有するアルキル基を表す。
【0125】
一般式(B)のベタイン化合物の好ましい例としては、特開2008−101172号公報の[0159]〜[0170]に記載の化合物が挙げられる。
【0126】
本発明におけるインクは、前記特定の重合体、前記特定の水溶性染料及び前記水溶性有機溶媒と共に、さらに界面活性剤を含有することが好ましい。界面活性剤は、静的表面張力および動的表面張力の調整が行なえる。
界面活性剤としては、ノニオン系、カチオン系、又はアニオン系などの界面活性剤が挙げられる。本発明におけるインクでは、インクの保存安定性や吐出安定性、更に受像紙へのインクの迅速な浸透性の点で、ノニオン系界面活性剤を含有することがより好ましい。
【0127】
前記ノニオン系界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、グリセリン脂肪酸エステル、オキシエチレンオキシプロピレンブロックコポリマー等を挙げることができる。中でも、吐出安定性や受像紙へのインクの迅速な浸透性の点で、アセチレンジオール系界面活性剤が好ましく、好ましい例として、アセチレングリコール系(好ましくはアセチレン系ポリオキシエチレンオキシド)界面活性剤が好ましい。アセチレングリコール系界面活性剤の例として、SURFYNOLS(AirProducts&Chemicals社、サーフィノール465など)やオルフィン(日信化学社、オルフィンE1010など)が挙げられる。
【0128】
前記界面活性剤のインク中における含有量としては、インク全質量に対して、0.001〜15質量%が好ましく、より好ましくは0.005〜10質量%であり、更に好ましくは0.01〜5質量%であり、特に好ましくは0.1〜5質量%である。
界面活性剤(特にノニオン系界面活性剤)の含有量が前記範囲内であると、良好な吐出安定性が得られる点で有利である。
【0129】
本発明におけるインクには、インクの噴射口での乾操による目詰まりを防止するための乾燥防止剤、インクを紙によりよく浸透させるための浸透促進剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、粘度調整剤、表面張力調整剤、分散剤、分散安定剤、防黴剤、防錆剤、pH調整剤、消泡剤、キレート剤等の添加剤を適宜選択して適量使用することができる。これらの各種添加剤の具体例や好ましい使用量は、特開2004−331871号公報に記載の通りである。
【0130】
本発明に使用されるpH調整剤はpH調節、分散安定性付与などの点で好適に使用する事ができ、25℃でのインクのpHが4〜11に調整されていることが好ましい。pHが4未満である場合は染料の溶解性が低下してノズルが詰まりやすく、11を超えると耐水性が劣化する傾向がある。pH調製剤としては、塩基性のものとして有機塩基、無機アルカリ等が、酸性のものとして有機酸、無機酸等が挙げられる。
【0131】
前記有機塩基としてはトリエタノールアミン、ジエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、ジメチルエタノールアミンなどが挙げられる。前記無機アルカリとしては、アルカリ金属の水酸化物(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウムなど)、炭酸塩(例えば、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムなど)、アンモニウムなどが挙げられる。また、前記有機酸としては酢酸、プロピオン酸、トリフルオロ酢酸、アルキルスルホン酸などが挙げられる。前記無機酸としては、塩酸,硫酸、リン酸などが挙げられる。
【0132】
本発明において、前記特定の重合体及び水溶性染料を含有するインクジェット用インクを作製する際には、濾過により固形分であるゴミを除く工程がインクの安定性向上および色相の向上のために重要である。この作業には濾過フィルターを使用するが、このときの濾過フィルターとは、有効径が1μm以下、好ましくは0.05μm以上0.3μm以下、より好ましくは0.20μm以上0.3μm以下のフィルターを用いる。フィルターの材質としては種々のものが使用できるが、特に水溶性染料のインクの場合には、水系の溶媒用に作製されたフィルターを用いるのが好ましい。中でも特にゴミの出にくい、ポリマー材料で作製されたジャケット型のフィルターを用いるのが好ましい。濾過法としては送液によりジャケットを通過させてもよいし、加圧濾過、減圧濾過のいずれの方法も利用可能である。
また、濾過後には溶液中に空気を取り込むことが多い。この空気に起因する泡もインクジェット記録において画像の乱れの原因となることが多いため、本発明では脱泡工程を別途設けることが好ましい。脱泡の方法としては、超音波脱泡や減圧脱泡等種々の方法が利用可能である。
【0133】
本発明におけるインク粘度は、23℃において3〜10mPa・sであることが好ましい。10mPa・sを超えると記録画像の定着速度が遅くなり、吐出性能も低下する傾向となり、3mPa・s未満では、記録画像がにじむために品位が低下する場合がある。
【0134】
粘度の調製は前記水溶性有機溶剤の添加量で任意に調整可能である。また、各種高分子量ポリマーなどの粘度調節剤(増粘剤)等の添加によっても調節可能である。
【0135】
粘度の測定方法は、JISのZ8803に詳細に記載されているが、市販品の粘度計にて簡便に測定することができる。例えば、回転式では東京計器のB型粘度計、E型粘度計がある。本発明では東機産業のE型粘度計TV−22により25℃にて測定した。粘度の単位はパスカル秒(Pa・s)であるが、通常はミリパスカル秒(mPa・s)を用いる。
【0136】
本発明におけるインクは、23℃での静的表面張力が25〜40mN/mであることが好ましい。さらに、23℃での静的表面張力が30〜40mN/mであることが好ましい。インクの静的表面張力が40mN/mを超えると、吐出安定性の低下、混色時の滲みの発生、ひげ発生(例えば、シアンベタ上に黒文字を印字した場合などに、黒文字からヒモ状に滲みが発生することがある)などのように印字品質が著しく低下する場合がある。また、インクの静的表面張力が25mN/mに満たないと、吐出時にハード表面へのインクの付着等が生じ、印字不良となる場合がある。
【0137】
静的表面張力測定法としては、毛細管上昇法、滴下法、吊環法等が知られているが、本発明においては、垂直板法を静的表面張力測定法として用いる。垂直板法の原理を以下に示す。
ガラスまたは白金の薄い板を液体中に一部分浸して垂直に吊るすと、液面と板との接する部分に表面張力が下向きに働く。この表面張力は板を吊るしている上向きの力と釣り合わせることで測定することができる。
本発明で用いるインクの動的表面張力は、23℃において25〜40mN/mであることが好ましく、30〜40mN/mであることがさらに好ましい。動的表面張力が40mN/mを超えると、吐出安定性の低下、混色時の滲みの発生、ひげ発生などのように印字品質が著しく低下する場合がある。また、25mN/mに満たないと、吐出時にハード表面へのインクの付着等が生じ、印字不良となる場合がある。
【0138】
動的表面張力測定方法としては、例えば「新実験化学講座、第18巻、界面とコロイド」[(株)丸善、p.69〜90(1977)]に記載されるように、振動ジェット法、メニスカス落下法、最大泡圧法等が知られており、さらに、特開平3−2064号公報に記載されているような液膜破壊法が知られているが、本発明においては、動的表面張力測定法として、バブルプレッシャー差圧法を用いている。以下、その測定原理と方法を説明する。
界面活性剤を添加した溶液を撹拌して均一とし、溶液中で気泡を生成すると、新たな気−液界面が生成され、溶液中の界面活性剤分子が水の表面に一定速度で集まってくる。バブルレート(気泡の生成速度)を変化させたとき、生成速度が遅くなれば、より多くの界面活性剤が泡の表面に集まってくるため、泡がはじける直前の最大泡圧が小さくなり、バブルレートに対する最大泡圧(表面張力)が検出できる。本発明における動的表面張力測定では、大小2本のプローブを用いて溶液中で気泡を生成させ、2本のプローブの最大泡圧状態での差圧を測定し、動的表面張力を算出する。
【0139】
静的表面張力および動的表面張力の調整は、表面張力調整剤を用いることにより行うことができ、上記範囲とすることが可能である。
表面張力調整剤としては、ノニオン、カチオンあるいはアニオン界面活性剤が挙げられる。例えばアニオン系界面活性剤としては、脂肪酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルアリールスルホン酸塩(例えば、アルキルベンゼンスルホン酸塩、石油スルホン酸塩など)、ジアルキルスルホコハク酸塩、アルキルリン酸エステル塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩等を挙げることができ、ノニオン系界面活性剤としては、アセチレン系ジオール(例えば、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオールなど)、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(例えば、ポリオキシエチレンデシルエーテル、アセチレン系ジオールのエチレンオキシド付加物など)、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、グリセリン脂肪酸エステル、オキシエチレンオキシプロピレンブロックコポリマー等を挙げることができる。
【0140】
また、N,N−ジメチル−N−アルキルアミンオキシドのようなアミンオキシド型の両性界面活性剤等も好ましい。更に、特開昭59−157,636号の第(37)〜(38)頁、リサーチディスクロージャーNo.308119(1989年)記載の界面活性剤として挙げたものも使うことができる。
前記インクからの析出や分離が起こりにくく、発泡性が少なくいことから、疎水性部位が2本鎖あるいは疎水性部位が分岐しているアニオン性界面活性剤や疎水性部位の中央付近に親水性基を有するアニオン性またはノニオン性界面活性剤、疎水性部位が2本鎖あるいは疎水性部位が分岐しているノニオン性界面活性剤が好ましい。
この目的のための界面活性剤の含有量は、インクに対して0.001〜15質量%、好ましくは0.005〜10質量%、更に好ましくは0.01〜5質量である。
【0141】
なお、インクジェット記録用インクの調製方法については、特開平5−148436号、同5−295312号、同7−97541号、同7−82515号、同7−118584号の各公報に詳細が記載されていて、本発明におけるインクジェット記録用インクの調製にも利用できる。
【0142】
≪インクジェットプリンタ≫
本発明のインクジェット記録方法は、インクが接する部材の少なくとも1部に酸化シリコン層(例えば、SiO層)又はシランカップリング処理層を有するインクジェットプリンタを少なくとも用いて構成される。
前記構成を有するインクジェット用のプリンタであれば特に限定されず、公知のプリントを用いることができる。
ここで、前記「インクが接する部材」とは、インクジェット用インクが接するインクジェットプリンタに設けられた部材をいい、例えば、インクジェットプリンタヘッド(単に、ヘッド)、ノズル(ノズルプレート表面を含む。)、インクタンク、圧力室、インク流路等を挙げることができる。
上記インクが接する部材の中でも、ヘッド又はノズルの一部に、酸化シリコン層又はシランカップリング処理層を有するインクジェットプリンタを用いた場合、特に、インクが接する表面が酸化シリコン層であるインク流路及び/又は表面がシランカップリング処理層であるノズルプレートを備えたインクジェットプリンタを用いた場合に、本発明のインクジェット記録方法はプリンタヘッド及びノズルの侵食の抑制効果、及び均一なインク吐出性効果が顕著となる点で好ましい。
【0143】
前記「インクが接する部材の少なくとも1部に酸化シリコン層又はシランカップリング処理層を有する」とは、前記部材の全体又は一部に酸化シリコン層又はシランカップリング層を有するという意味であり、層とは言えないような酸化シリコンを前記部材の一部に有する又はシランカップリング処理された個所を部材の一部に有することをも含むものとする。
【0144】
前記酸化シリコン層は、何れの方法で形成された層であって特に限定されない。
また、前記シランカップリング処理された層は、何れの方法で形成された層であっても特に限定されないが、シランカップリング剤がフッ素原子を含有し、かつ、前記シランカップリング剤により形成された前記シランカップリング処理層を有するインクジェットプリンタヘッドのノズルプレート表面が撥インク性を有する態様であることが、プリンタヘッド及びノズルの侵食の抑制効果、及び均一なインク吐出性効果が顕著となる点で好ましい。
前記シランカップリング剤としては、例えば信越シリコーン(株)社製のKA−1003、KBM−1003、KBE−1003、KBM−303、KBM−403、KBE−402、KBE−403、KBM−1403、KBM−502、KBM−503、KBE−502、KBE−503、KBM−5103、KBM−602、KBM−603、KBE−603,KBM−903,KBE−903,KBE−9103,KBM−573、KBM−575、KBM−6123、KBE−585、KBM−703、KBM−802、KBM−803、KBE−846、KBE−9007、KBM−04、KBE−04、KBM−13、KBE−13、KBE−22、KBE−103、HMDS−3、KBM−3063、KBM−3103C、KPN−3504、KF−99等が挙げられる。また、フッ素原子を分子内に含有するシランカップリング剤としては、例えば信越シリコーン(株)社製KP−801M、X−24−7890や、T&K(株)社製NANOS−B、NANOS−Y、NANOS−SGなどのNANOSシリーズ等が挙げられる。これらの中で、KP−801MやX−24−7890、NANOS−B、NANOS−SG等を用いると、良好な撥インク性や耐傷性が得られ好ましい。
前記シランカップリング処理された層としては、例えばインクジェットプリンタのインクジェットヘッドノズルプレート表面等が挙げられる。
【0145】
≪インクジェット記録媒体≫
本発明のインクジェット記録方法においては、前記インクジェット用インク及び前記インクジェットプリンタを用いてインクジェット記録媒体に画像を記録する工程を備えるが、記録紙及び記録フィルム等のインクジェット記録媒体としては、特に限定されず、公知の被記録材、すなわち普通紙、樹脂コート紙、例えば特開平8−169172号公報、同8−27693号公報、同2−276670号公報、同7−276789号公報、同9−323475号公報、特開昭62−238783号公報、特開平10−153989号公報、同10−217473号公報、同10−235995号公報、同10−337947号公報、同10−217597号公報、同10−337947号公報等に記載のインクジェット専用紙、フィルム、電子写真共用紙、布帛、ガラス、金属、陶磁器等を用いることができる。
【0146】
記録紙及び記録フィルム等のインクジェット記録媒体における支持体は、LBKP、NBKP等の化学パルプ、GP、PGW、RMP、TMP、CTMP、CMP、CGP等の機械パルプ、DIP等の古紙パルプ等を用い、必要に応じて従来の公知の顔料、バインダー、サイズ剤、定着剤、カチオン剤、紙力増強剤等の添加剤を混合し、長網抄紙機、円網抄紙機等の各種装置で製造されたもの等が使用可能である。支持体としては、これらの支持体の他に合成紙、プラスチックフィルムシートのいずれであってもよく、支持体の厚みは10〜250μm、坪量は10〜250g/mが望ましい。
【0147】
支持体としては、両面をポリオレフィン(例、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリブテン及びこれらのコポリマー)やポリエチレンテレフタレートでラミネートした紙及びプラスチックフイルムがより好ましく用いられる。ポリオレフィン中に、白色顔料(例、酸化チタン、酸化亜鉛)又は色味付け染料(例、コバルトブルー、群青、酸化ネオジウム)を添加することが好ましい。
【0148】
本発明においては、上記インクジェット記録媒体の中でも、支持体上に無機微粒子を含有するインク受容層を有するインクジェット記録媒体が好ましい。以下、支持体上に設けられるインク受容層について説明する。
インク受容層は、多孔質材料や水性バインダーを用いて形成できる。また、インク受容層には、無機微粒子として顔料を含む場合が好ましく、顔料としては、白色顔料が好ましい。白色顔料としては、炭酸カルシウム、カオリン、タルク、クレー、珪藻土、合成非晶質シリカ、珪酸アルミニウム、珪酸マグネシウム、珪酸カルシウム、水酸化アルミニウム、アルミナ、リトポン、ゼオライト、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、二酸化チタン、硫化亜鉛、炭酸亜鉛等の無機白色顔料、スチレン系ピグメント、アクリル系ピグメント、尿素樹脂、メラミン樹脂等の有機顔料等が挙げられる。特に好ましくは、多孔性の白色無機顔料がよく、特に細孔面積が大きい合成非晶質シリカ等が好適である。合成非晶質シリカは、乾式製造法(気相法)によって得られる無水珪酸及び湿式製造法によって得られる含水珪酸のいずれも使用可能である。
【0149】
前記顔料をインク受容層に含有するインクジェット記録媒体としての記録紙としては、具体的には、特開平10−81064号、同10−119423号、同10−157277号、同10−217601号、同11−348409号、特開2001−138621号、同2000−43401号、同2000−211235号、同2000−309157号、同2001−96897号、同2001−138627号、特開平11−91242号、同8−2087号、同8−2090号、同8−2091号、同8−2093号、同8−174992号、同11−192777号、特開2001−301314号などの各公報に記載のものを用いることができる。
【0150】
前記水性バインダーとしては、ポリビニルアルコール、シラノール変性ポリビニルアルコール、デンプン、カチオン化デンプン、カゼイン、ゼラチン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリアルキレンオキサイド、ポリアルキレンオキサイド誘導体等の水溶性高分子、スチレンブタジエンラテックス、アクリルエマルジョン等の水分散性高分子等が挙げられる。これらの水性バインダーは単独又は2種以上併用して用いることができる。中でも特に、ポリビニルアルコール、シラノール変性ポリビニルアルコールが顔料に対する付着性、インク受容層の耐剥離性の点で好適である。
【0151】
インク受容層は、顔料及び水性バインダーのほか、媒染剤、耐水化剤、耐光性向上剤、耐ガス性向上剤、界面活性剤、硬膜剤その他の添加剤を含有することができる。なお、インク受容層中に含まれる媒染剤は、不動化されていることが好ましい。そのためには、ポリマー媒染剤が滲み防止の点で好ましく用いられる。
【0152】
本発明のインクジェット記録方法において、インクジェット用インクの吐出に用いるインクジェット方式には、特に制限はなく、公知の方式、例えば静電誘引力を利用してインクを吐出させる電荷制御方式、ピエゾ素子の振動圧力を利用するドロップオンデマンド方式(圧力パルス方式)、電気信号を音響ビームに変えインクに照射して放射圧を利用してインクを吐出させる音響インクジェット方式、及びインクを加熱して気泡を形成し、生じた圧力を利用するサーマルインクジェット(バブルジェット(登録商標))方式等を適用することができる。インクジェット方式には、フォトインクと称する濃度の低いインクを小さい体積で多数射出する方式、実質的に同じ色相で濃度の異なる複数のインクを用いて画質を改良する方式や無色透明のインクを用いる方式が含まれる。
【実施例】
【0153】
以下に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。尚、特に断りの無い限り、「部」及び「%」は質量基準である。
【0154】
[実施例1]
<ブラックインクK−101の調製>
下記の成分にイオン交換水を加え1000gとした後、30〜40℃で加熱しながら1時間撹拌した。その後、平均孔径0.2μmのミクロフィルターで加圧濾過してブラックインクK−101を調製した。
【0155】
〔ブラックインク K−101処方〕
(固形分)
・ブラック染料(下記構造式で示されるブラック染料K−1のカリウム塩) 30.0g
・尿素 48.0g
・プロキセルXL−2(アーチ・ケミカルズ・ジャパン(株)製) 1.0g
(液体成分)
・グリセリン 84.0g
・トリエチレングリコール 20.0g
・トリエチレングリコールモノブチルエーテル 99.0g
・プロピレングリコール 3.0g
・ニューポールPE−108(三洋化成(株)社製、特定の重合体、重量平均分子量 16250) 10g
(エチレンオキサイド(EO)/プロピレンオキサイド(PO)共重合体)
・イオン交換水 705g(固形分及び液体成分の全体で1000gになるように添加)
【0156】
【化10】


ブラック染料K−1
【0157】
[比較例1]
<ブラックインクKC−101の調製>
実施例1において、ニューポールPE−108をイオン交換水に置き換えた以外は実施例1と同様にして、ブラックインクKC−101を調製した。
【0158】
[実施例2]
<マゼンタインクM−101の調製>
実施例1において、ブラック染料(ブラック染料K−1のカリウム塩)を、下記構造式のマゼンタ染料M−1に変更し、下記ベタイン化合物W−1を17.0g添加し、イオン交換水の加水量を688gに変更した以外は実施例1と同様に行い、マゼンタインクM−101を調整した。
【0159】
【化11】

【0160】
[実施例3〜8]
実施例2において、ニューポールPE−108 10gを以下の成分に置き換えた以外は実施例2と同様にして、マゼンタインクM−102〜M−107を調製した。なお、成分の添加量が異なる場合は、イオン交換水の添加量を全体量が1000gになるように調節した。

実施例3:ニューポールPE−68(三洋化成(株)製) 15g
実施例4:プレミノール(重量平均分子量:10000)(旭硝子(株)製) 15g
実施例5:ニューポールPE−128(三洋化成(株)製) 10g
実施例6:プレミノール(重量平均分子量:50000)(旭硝子(株)製) 5g
実施例7:PEG−6000(三洋化成(株)製) 15g
実施例8:ニューポールPE−64(三洋化成(株)製) 15g
【0161】
[評価]
<ヘッド部材の侵食性評価>
(A)酸化シリコン表面保護膜(酸化シリコン層)の侵食性評価
熱酸化により酸化シリコン被膜(膜厚100nm)が表面に形成された2cm×2cmの大きさのシリコン基板を、実施例及び比較例で得られたインク50mlに浸漬させて、密封状態で60℃×100時間放置した。
その後、インク中からシリコン基板を取り出し、酸化シリコン被膜の膜厚を自動偏光解析装置エリプソメーター(ハイソル(株)社製)を用いて測定し、酸化シリコン被膜の浸漬処理前後の膜厚の差を算出することにより、酸化シリコン被膜の減少分を求めた。
酸化シリコン被膜の減少分が少ないほど良好である。インクの侵食による酸化シリコン被膜の減少分が多い場合には、予め酸化シリコン被膜を厚く形成する必要が生じるが、その際に酸化シリコン被膜によるストレインなどによる変形等が発生する場合があり、好ましくない。
【0162】
(B)シランカップリング層(撥インク膜)の接触角による侵食性評価
b1)シランカップリング層(撥インク膜)の作製
上記テストで用いた基板と同様に表面に熱酸化シリコン被膜が形成されたシリコン基板の表面を、Ar気体中で酸素ガスでエッチングして表面を活性化した後、フッ素原子を含有したシランカップリング剤(製品名:NANOS−B T&K(株)製)を用いてシランカップリング処理を行う事で、表面にシランカップリング層(撥インク膜)を20nmの厚みで形成した。
【0163】
b2)シランカップリング層(撥インク膜)に対する侵食性(撥インク性低下)の評価
上記で作製された撥インク性シリコン基板の表面に対する上記実施例及び比較例で得られたマゼンタインクの浸漬前の接触角を、接触角計ドロップマスターDM700(協和界面科学(株)製)を用いて算出した。
これとは別に、上記で作製した撥インク性シリコン基板を、2cm×4cmに切断した後、上記実施例及び比較例で得られたインク50mlに浸漬させて、密封状態で45℃×100時間放置した。その後、インク中から撥インク性シリコン基板を取り出し、浸漬前の接触角の測定と同様にインクに対する接触角を求め、接触角の変化(撥インク性の低下)の度合いを評価した。
【0164】
(C)シランカップリング層(撥インク膜)に対するインク切れ評価
上記で作製された撥インク性シリコン基板を、2cm×3cmに切断した後、上記実施例及び比較例で得られたインク50mlに浸漬させて、浸した状態から基板を10cm/sの速度で引き上げ、基板全面に付着したインクが基板から離れるまでの時間(インク切れ時間)を評価した。評価は、以下の基準により行った。
(評価基準)
○:インク切れ時間が3秒未満
△:インク切れ時間が3秒以上〜5秒未満
×:インク切れ時間が5秒以上
【0165】
<インクの吐出性評価>
ノズルプレートの表面が撥インク処理されているフジフイルムディマティックス(株)社製インクジェットプリンタDMP−2831のヘッド部分を、上記で得られた実施例及び比較例のインク100ml中に浸漬させて、密封状態で45℃×100時間放置した。
その後、インク中からヘッド部分を取り出し、イオン交換水で洗浄・乾燥した後、ヘッド部分を前記プリンタに装填し、マゼンタインクをヘッド内に充填した。インクジェット受像紙として、富士フイルム(株)社製「画彩Value」をセットし、テストパターンを印画して評価した。
(評価基準)
○:きれいに印画できた。
△:かすれが一部に発生した。
×:インクの吐出方向がずれ、きれいに印画できなかった。
【0166】
【表1】

【0167】
上記表1結果から、インクが接する部材に酸化シリコン層又はシランカップリング剤により形成されたシランカップリング処理層が使用されているプリンタに、本発明におけるエチレンオキシ基及びプロピオンオキシ基から選択される基の少なくとも1つを含む特定の重合体を添加したインクを用いる事で、ヘッド部材に対するインクの侵食性が改良され、長期間使用しても良好な吐出性が得られる事がわかる。また、実施例1と実施例2の比較により、特定の染料との組み合わせで、さらに好ましい効果が得られる事がわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクが接する部材の少なくとも一部に酸化シリコン層又はシランカップリング処理層を有するインクジェットプリンタと、エチレンオキシ基及びプロピレンオキシ基から選択される基の少なくとも1つを含む重合体を含有するインクジェット用インクとを用いて、インクジェット記録媒体上に画像を記録する工程を備えるインクジェット記録方法。
【請求項2】
前記インクジェット用インクが、更に、分子内に芳香族ヘテロ環を有する水溶性染料、水、及び水溶性有機溶媒を含有することを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録方法。
【請求項3】
分子内に芳香族ヘテロ環を有する水溶性染料が、一般式(M−I)で示される染料を少なくとも含むことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のインクジェット記録方法。
一般式(M−I):
【化1】


(前記一般式(M−I)中、Aは、5員ヘテロ環ジアゾ成分A−NHの残基を表す。BおよびBは、各々−CR13=及び−CR14=を表すか、あるいはいずれか一方が窒素原子,他方が−CR13=または−CR14=を表す。R11、R12は、各々独立に、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アラルキル基、アリール基、ヘテロ環基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、カルバモイル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、またはスルファモイル基を表わす。各基は更に置換基を有していてもよい。G、R13、R14は、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アラルキル基、アリール基、ヘテロ環基、シアノ基、カルボキシル基、カルバモイル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシル基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、シリルオキシ基、アシルオキシ基、カルバモイルオキシ基、ヘテロ環オキシ基、アルコキシカルボニルオキシ基、アリールオキシカルボニルオキシ基、アルキル基またはアリール基またはヘテロ環基で置換されたアミノ基、アシルアミノ基、ウレイド基、スルフアモイルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、アルキルおよびアリールスルホニルアミノ基、ニトロ基、アルキルおよびアリールチオ基、アルキルおよびアリールスルホニル基、アルキルおよびアリールスルフィニル基、スルファモイル基、ヘテロ環チオ基、またはイオン性親水性基を表す。各基は更に置換されていてもよい。また、R13とR11、あるいはR11とR12が結合して5〜6員環を形成してもよい。但し、一般式(M−I)は、少なくとも一つのイオン性親水性基を有する。)
【請求項4】
前記エチレンオキシ基及びプロピレンオキシ基から選択される基の少なくとも1つを有する重合体の重量平均分子量が、5000以上30000以下であることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項5】
前記シランカップリング処理層を形成するシランカップリング剤がフッ素原子を含有し、かつ、前記シランカップリング処理層は前記インクジェットプリンタのインクジェットヘッドのノズルプレート表面に形成されていることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項6】
前記インクジェット記録媒体は、前記支持体上に無機顔料粒子を含有するインク受容層を有することを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。

【公開番号】特開2010−228235(P2010−228235A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−77431(P2009−77431)
【出願日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】