説明

インクジェット記録方法

【課題】吐出安定性が良好であり、かつ、白色度の良好な画像を記録できるインクジェット記録方法を提供すること。
【解決手段】本発明に係るインクジェット記録方法は、白色インク組成物の液滴を膨潤型の被記録媒体に吐出する吐出工程を有し、前記白色インク組成物は、フルオレン系樹脂、スチレンアクリル系樹脂、二酸化チタン粒子および水を含有し、前記フルオレン系樹脂は、前記白色インク組成物の全質量に対して、1質量%以上16質量%以下含まれ、前記被記録媒体は、親水性樹脂を含有する樹脂層を備え、前記吐出工程において、前記白色インク組成物の液滴を前記樹脂層に吐出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、白色インク組成物を用いたインクジェット記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、二酸化チタン、酸化亜鉛、シリカ、アルミナ、酸化マグネシウム等の金属酸化物、硫酸バリウムまたは炭酸カルシウム等の白色顔料を含有する白色インク組成物が、様々な記録方式に用いられている。
【0003】
例えば、特許文献1には、インクジェット記録装置に用いる二酸化チタンを含有する白色インク組成物が開示されている。このようなインクジェット記録装置に用いられる白色インク組成物は、他のカラーインク組成物と同様に、記録ヘッドから吐出されることにより被記録媒体に付着して、被記録媒体上に画像を形成する。そのため、白色インク組成物は、インクジェット式記録ヘッドからの吐出安定性が良好であること等が要求される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−322306号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の白色インク組成物によって画像を記録すると、用いられる被記録媒体の種類によっては、白色度の不十分な画像が記録される場合があった。
【0006】
本発明のいくつかの態様にかかる目的の一つは、吐出安定性が良好であり、かつ、白色度の良好な画像を記録できるインクジェット記録方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の態様または適用例として実現することができる。
【0008】
[適用例1]
本発明に係るインクジェット記録方法の一態様は、
白色インク組成物の液滴を膨潤型の被記録媒体に吐出する吐出工程を有し、
前記白色インク組成物は、フルオレン系樹脂、スチレンアクリル系樹脂、二酸化チタン粒子および水を含有し、
前記フルオレン系樹脂は、前記白色インク組成物の全質量に対して、1質量%以上16質量%以下含まれる。
【0009】
適用例1に記載の態様によれば、白色インク組成物の吐出安定性に優れ、白色度に優れた画像を記録できる。
【0010】
[適用例2]
適用例1において、
前記被記録媒体は、親水性樹脂を含有する樹脂層を備え、
前記吐出工程において、前記白色インク組成物の液滴を前記樹脂層に吐出することができる。
【0011】
[適用例3]
適用例2において、
前記親水性樹脂は、ウレタン系樹脂またはセルロース系樹脂であることができる。
【0012】
[適用例4]
適用例2において、
前記親水性樹脂は、ウレタン系樹脂であることができる。
【0013】
[適用例5]
適用例3において、
前記ウレタン系樹脂は、カチオン性ウレタン樹脂であることができる。
【0014】
[適用例6]
適用例3において、
前記樹脂層の構成成分のうち80質量%以上がウレタン系樹脂またはセルロース系樹脂であることができる。
【0015】
[適用例7]
適用例2ないし適用例6のいずれか1例において、
前記被記録媒体は、支持層を備え、
前記樹脂層は、前記支持層の少なくとも一方の側に形成され、
前記支持層の吸水性は、前記樹脂層の吸水性よりも低いことができる。
【0016】
[適用例8]
適用例1ないし適用例7のいずれか1例において、
前記スチレンアクリル系樹脂は、白色インク組成物の全質量に対して、1質量%以上10質量%以下含まれることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明の好適な実施の形態について説明する。以下に説明する実施の形態は、本発明の一例を説明するものである。また、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される各種の変形例も含む。
【0018】
1.白色インク組成物
まず、本発明の一実施形態に係るインクジェット記録方法に用いる白色インク組成物について説明する。本実施形態に係る白色インク組成物は、フルオレン系樹脂と、スチレンアクリル系樹脂と、白色顔料と、水と、を含有する。
【0019】
1.1.フルオレン系樹脂
本実施形態に係る白色インク組成物は、フルオレン系樹脂を含有する。フルオレン系樹脂の機能の一つとしては、白色インク組成物が後述する被記録媒体に吐出された際に、二酸化チタン粒子の凝集を促進させることにより、被記録媒体に形成された画像の白色度を向上させることが挙げられる。
【0020】
フルオレン系樹脂は、フルオレン骨格を有する樹脂であれば特に制限されるものではなく、例えば下記のモノマー単位(a)ないし(d)を共重合することにより得ることができる。
(a)イソホロンジイソシアネート(CAS No.4098−71−9)
(b)4,4’−(9−フルオレニリデン)ビス[2−(フェノキシ)エタノール](CAS No.117344−32−8)
(c)3−ヒドロキシ−2−(ヒドロキシメチル)−2−メチルプロピオン酸(CAS No.4767−03−7)
(d)トリエチルアミン(CAS No.121−44−8)
【0021】
本発明に用いられるフルオレン系樹脂は、4,4’−(9−フルオレニリデン)ビス[2−(フェノキシ)エタノール](CAS No.117344−32−8)で示されるようなフルオレン骨格を有するモノマーを含有する樹脂であれば特に制限されない。
【0022】
フルオレン系樹脂の含有量(固形分)は、白色インク組成物の全質量に対して、1質量%以上16質量%以下であり、好ましくは10質量%以上16質量%以下である。フルオレン系樹脂の含有量が上記範囲内にあると、インクジェット式記録ヘッドの吐出安定性が良好であり、白色度の高い良好な画像を記録することができる。一方、フルオレン系樹脂の含有量が上記範囲を超えると、インクジェット式記録ヘッドの吐出安定性が低下する場合がある。また、フルオレン系樹脂の含有量が上記範囲未満であると、白色度の不十分な画像が形成される場合がある。
【0023】
1.2.スチレンアクリル系樹脂
本実施形態に係る白色インク組成物は、スチレンアクリル系樹脂を含有する。スチレンアクリル系樹脂の機能の一つとしては、白色顔料の分散性を向上させることが挙げられる。また、本実施形態に係る白色インク組成物に、スチレンアクリル系樹脂およびフルオレン系樹脂の両方が含まれていると、これらの成分の相乗効果によって、被記録媒体に形成される画像の白色度をより一層向上させることができる。
【0024】
スチレンアクリル系樹脂としては、例えば、スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−α―メチルスチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−α―メチルスチレン−アクリル酸−アクリル酸エステル共重合体等が挙げられる。なお、共重合体の形態としては、ランダム共重合体、ブロック共重合体、交互共重合体、グラフト共重合体のいずれの形態でも用いることができる。
【0025】
なお、スチレンアクリル系樹脂としては、市販されているものを利用してもよい。スチレンアクリル系樹脂の市販品としては、具体例には、ジョンクリル62J(BASFジャパン株式会社製)等が挙げられる。
【0026】
スチレンアクリル系樹脂の含有量(固形分)は、白色インク組成物の全質量に対して、好ましくは1質量%以上10質量%以下であり、より好ましくは3質量%以上7質量%以下であり、特に好ましくは4質量%以上6質量%以下である。スチレンアクリル系樹脂の含有量が上記範囲内にあると、白色インク組成物に含まれる白色顔料の分散性が良好になり、インジェット式記録ヘッドの吐出安定性をより一層向上させることができる。一方、スチレンアクリル系樹脂の含有量が上記範囲を超えると、白色インク組成物の粘度が上昇して、インクジェット式記録ヘッドからインクを吐出しにくくなる場合がある。また、スチレンアクリル系樹脂の含有量が上記範囲未満であると、白色インク組成物に含まれる白色顔料の分散性が低下してインクジェット式記録ヘッドの吐出安定性が低下したり、白色度の不十分な画像が形成される場合がある。
【0027】
1.3.白色顔料
本実施形態に係る白色インク組成物は、白色顔料を含有する。白色顔料としては、例えば金属酸化物、硫酸バリウム、炭酸カルシウム等が挙げられる。金属酸化物としては、例えば二酸化チタン、酸化亜鉛、シリカ、アルミナ、酸化マグネシウム等が挙げられる。本実施形態の白色インク組成物に含有される白色顔料としては、これらの中でも、白色度に優れるという点から、二酸化チタンが好ましい。白色顔料の含有量(固形分)は、白色インク組成物の全質量に対して、好ましくは1質量%以上20質量%以下であり、より好ましくは5質量%以上15質量%以下である。白色顔料の含有量が上記範囲を超えると、インクジェット式記録ヘッドの目詰まりが発生して信頼性を損なうことがある。一方、白色顔料の含有量が上記範囲未満であると、白色度等の色濃度が不足する傾向がある。
【0028】
白色顔料として二酸化チタン粒子を用いる場合には、体積基準の平均粒子径(以下、「平均粒子径」という。)として、二酸化チタン粒子は好ましくは30nm以上600nm以下であり、より好ましくは200nm以上400nm以下である。二酸化チタン粒子の平均粒子径が上記範囲を超えると、二酸化チタン粒子が沈降するなどして分散安定性を損なったり、インクジェット式記録ヘッドの目詰まり等が発生して信頼性を損なったりする場合がある。一方、二酸化チタン粒子の平均粒子径が上記範囲未満であると、白色度が不足する傾向にある。
【0029】
二酸化チタン粒子の平均粒子径は、レーザー回折散乱法を測定原理とする粒度分布測定装置により測定することができる。粒度分布測定装置としては、例えば、動的光散乱法を測定原理とする粒度分布計(例えば、「マイクロトラックUPA」日機装株式会社製)が挙げられる。
【0030】
なお、本発明において「白色インク組成物」とは、エプソン純正写真用紙<光沢>(セイコーエプソン社製)に、duty100%以上で吐出されたインクの明度(L)および色度(a、b)が、分光測光器Spectrolino(商品名、GretagMacbeth社製)を用いて、測定条件をD50光源、観測視野を2°、濃度をDIN NB、白色基準をAbs、フィルターをNo、測定モードをReflectance、として設定して計測した場合に、70≦L≦100、−4.5≦a≦2、−6≦b≦2.5、の範囲を示すものをいう。
【0031】
また、本明細書において、「duty値」とは、下式で算出される値である。
【0032】
duty(%)=実吐出ドット数/(縦解像度×横解像度)×100
(式中、「実吐出ドット数」は単位面積当たりの実吐出ドット数であり、「縦解像度」および「横解像度」はそれぞれ単位面積当たりの解像度である。)
【0033】
1.4.水
本実施形態に係る白色インク組成物は、水を含有する。白色インク組成物中の水は、後述する膨潤型の被記録媒体の樹脂層を膨潤させることができる。これにより、膨潤型の被記録媒体に定着性の優れた画像を記録することができる。
【0034】
水の含有量は、白色インク組成物の全質量に対して、好ましくは50質量%以上である。これにより、膨潤型の被記録媒体の樹脂層を容易に膨潤させることができる。
【0035】
なお、水を主溶媒とする水系インクは、非水系(溶剤系)インク(例えば、記録物に用いるインクとしては特開2007−16103号公報に記載されたインクを参照)に比べて、インクジェット式記録ヘッドに用いられているピエゾ素子等への反応性が弱いので、これを溶かしたり、腐食させたりすることを低減できる場合がある。また、水系インクは、高沸点・低粘度の溶剤を多く含有する非水系インクに比べて、乾燥性に優れた画像を形成することができる場合がある。さらに、水系インクは、溶剤系インクに比べて、臭気も抑えられているという利点がある。
【0036】
1.5.その他の成分
本実施形態に係る白色インク組成物は、有機溶媒を含有することができる。白色インク組成物には、複数種の有機溶媒が含有されていてもよい。白色インク組成物に用いる有機溶媒としては、1,2−アルカンジオール類、多価アルコール類、ピロリドン誘導体等が挙げられる。
【0037】
1,2−アルカンジオール類としては、例えば、1,2−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,2−オクタンジオール等が挙げられる。1,2−アルカンジオール類は、被記録媒体に対する白色インク組成物の濡れ性を高めて均一に濡らす作用に優れているため、被記録媒体に良好な画像を形成することができる。1,2−アルカンジオール類を含有する場合には、その含有量が、白色インク組成物の全質量に対して、1質量%以上20質量%以下であることが好ましい。
【0038】
多価アルコール類としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、グリセリン等が挙げられる。多価アルコール類は、白色インク組成物をインクジェット式記録ヘッドのノズル面でのインクの乾燥固化を抑制して目詰まりや吐出不良等を低減できるという観点から好ましく用いることができる。多価アルコール類を含有する場合には、その含有量が、白色インク組成物の全質量に対して、2質量%以上20質量%以下であることが好ましい。
【0039】
ピロリドン誘導体として、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン、N−ビニル−2−ピロリドン、2−ピロリドン、N−ブチル−2−ピロリドン、5−メチル−2−ピロリドン等が挙げられる。ピロリドン誘導体は、スチレンアクリル樹脂等の樹脂成分の良好な溶解剤として作用することができる。ピロリドン誘導体を含有する場合には、その含有量が、白色インク組成物の全質量に対して、3質量%以上25質量%以下であることが好ましい。
【0040】
また、本実施形態に係る白色インク組成物は、界面活性剤を含有することができる。界面活性剤としては、シリコン系界面活性剤、アセチレングリコール系界面活性剤等が挙げられる。
【0041】
シリコン系界面活性剤としては、ポリシロキサン系化合物等が好ましく用いられ、例えば、ポリエーテル変性オルガノシロキサン等が挙げられる。より詳しくは、BYK−306、BYK−307、BYK−333、BYK−341、BYK−345、BYK−346、BYK−348(以上商品名、ビックケミー・ジャパン株式会社製)、KF−351A、KF−352A、KF−353、KF−354L、KF−355A、KF−615A、KF−945、KF−640、KF−642、KF−643、KF−6020、X−22−4515、KF−6011、KF−6012、KF−6015、KF−6017(以上商品名、信越化学株式会社製)等が挙げられる。シリコン系界面活性剤は、被記録媒体上で白色インクの濃淡ムラや滲みを生じないように均一に広げる作用を有するという観点から好ましく用いることができる。シリコン系界面活性剤を含有する場合には、その含有量が、白色インク組成物の全質量に対して、0.1質量%以上1.5質量%以下であることが好ましい。
【0042】
アセチレングリコール系界面活性剤として、例えば、サーフィノール104、104E、104H、104A、104BC、104DPM、104PA、104PG−50、104S、420、440、465、485、SE、SE−F、504、61、DF37、DF110D、CT111、CT121、CT131、CT136、TG、GA(以上全て商品名、Air Products and Chemicals. Inc.社製)、オルフィンB、Y、P、A、STG、SPC、E1004、E1010、PD−001、PD−002W、PD−003、PD−004、EXP.4001、EXP.4036、EXP.4051、AF−103、AF−104、AK−02、SK−14、AE−3(以上全て商品名、日信化学工業株式会社製)、アセチレノールE00、E00P、E40、E100(以上全て商品名、川研ファインケミカル株式会社製)等が挙げられる。アセチレングリコール系界面活性剤は、他の界面活性剤と比較して、表面張力および界面張力を適正に保つ能力に優れており、かつ起泡性がほとんどないという特性を有する。アセチレン系界面活性剤を含有する場合には、その含有量は、白色インク組成物の全質量に対して、0.1質量%以上1.0質量%以下であることが好ましい。
【0043】
また、本実施形態に係る白色インク組成物は、糖類を含有することができる。糖類としては、単糖類、オリゴ糖類および多糖類が挙げられ、例えば、グルコース、マンノース、ガラクトース、フコース、リボース、フルクトース、キシロース、アラビノース、マルトース、セロビオース、ラクトース、スクロース、トレハロース、ラフィノース、パノース、イルマルトース、スタキオース、ゲンチオビース、ゲンチアノース等が挙げられる。糖類は、インクジェット式記録ヘッドのノズル面でのインクの乾燥固化を抑制して目詰まりや吐出不良等を防止する作用を有する点から好ましく用いることができる。糖類を含有する場合には、その含有量が、白色インク組成物の全質量に対して、1質量%以上20質量%以下であることが好ましい。
【0044】
本実施形態に係る白色インク組成物は、さらに、pH調整剤、防腐剤・防かび剤、防錆剤、キレート化剤等を含有することができる。本実施形態に係る白色インク組成物は、これらの化合物を含有していると、その特性がさらに向上する場合がある。
【0045】
pH調整剤としては、例えば、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム、アンモニア、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等が挙げられる。
【0046】
防腐剤・防かび剤としては、例えば、安息香酸ナトリウム、ペンタクロロフェノールナトリウム、2−ピリジンチオール−1−オキサイドナトリウム、ソルビン酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、1,2−ジベンジソチアゾリン−3−オン等が挙げられる。市販品では、プロキセルXL2、プロキセルGXL(以上商品名、アビシア社製)や、デニサイドCSA、NS−500W(以上商品名、ナガセケムテックス株式会社製)等が挙げられる。
【0047】
防錆剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール等が挙げられる。
【0048】
キレート化剤としては、例えば、エチレンジアミン四酢酸およびそれらの塩類(エチレンジアミン四酢酸二水素二ナトリウム塩等)等が挙げられる。
【0049】
本実施形態に係る白色インク組成物は、従来公知の装置、例えば、ボールミル、サンドミル、アトライター、バスケットミル、ロールミルなどを使用して、従来の顔料インクと同様に調製することができる。調製に際しては、メンブランフィルターやメッシュフィルター等を用いて粗大粒子を除去することが好ましい。
【0050】
1.6.白色インク組成物の物性
本実施形態に係る白色インク組成物の20℃における粘度は、2mPa・s以上10mPa・s以下であることが好ましく、3mPa・s以上6mPa・s以下であることがより好ましい。白色インク組成物は、20℃における粘度が上記範囲内にあると、ノズルから適量吐出され、飛行曲がりを起こすことや飛散することを一層低減できるので、インクジェット式記録装置に好適に使用することができる。白色インク組成物の粘度は、振動式粘度計VM−100AL(山一電機株式会社製)を用いて、白色インク組成物の温度を20℃に保持することで測定できる。
【0051】
1.7.作用効果
本実施形態に係るインクジェット記録方法に用いる白色インク組成物は、上記の成分を含有することによって、空隙型の被記録媒体に対して、従来の白色インク組成物と同等レベルの白色度を備えた画像を形成できるだけでなく、膨潤型の被記録媒体に対しても、空隙型の被記録媒体に記録された画像と同等レベルの白色度を備えた画像を記録できる。このように、本実施形態に係るインクジェット記録方法に用いる白色インク組成物は、多様なタイプの被記録媒体に対して、白色度の良好な画像を記録することができる。
【0052】
なお、本発明において、空隙型の被記録媒体とは、インクの吐出される面が親水性樹脂を主成分としておらず、無機粒子を主成分として構成され、無機粒子間または無機粒子に設けられた孔の空隙に液体が浸透するように構成されたもののことをいう。また、本発明において、膨潤型の被記録媒体とは、膨潤する樹脂層を構成する成分のうち7割以上が樹脂であり、樹脂層がインクの溶媒により膨潤し、それによって開いた孔に溶媒が浸透するよう構成されている層のことをいう。
【0053】
2.被記録媒体
次に、本発明の一実施形態に係るインクジェット記録方法に用いる被記録媒体について説明する。本実施形態に係るインクジェット記録方法に用いる被記録媒体は、膨潤型である。
【0054】
本実施形態に係る被記録媒体は、親水性樹脂を含有する樹脂層を備えていてもよい。被記録媒体が樹脂層を備える場合には、白色インク組成物の液滴は、被記録媒体の樹脂層に吐出されてもよい。樹脂層に含有される親水性樹脂は、白色インク組成物に含まれる水分によって膨潤して、白色インク組成物を取り込むことができる。このようにして、白色インク組成物は、樹脂層に保持されて被記録媒体に定着する。
【0055】
親水性樹脂としては、公知の親水性樹脂を利用出来るが、例えば、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、ポリエステル系ウレタン樹脂、ポリエーテル系ウレタン樹脂、ポリカーボネート系ウレタン樹脂等のウレタン系樹脂、およびカルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース系樹脂などを挙げることができる。これらの中でも、親水性樹脂は、好ましくはセルロース系樹脂又はウレタン系樹脂であり、より好ましくはウレタン系樹脂であり、さらに好ましくはカチオン性ウレタン樹脂である。これによって、一層白色度の高い画像を記録することができる。
【0056】
樹脂層が親水性樹脂としてウレタン系樹脂又はセルロース系樹脂を含有する場合に、樹脂層を構成する成分のうち80質量%以上がウレタン系樹脂又はセルロース系樹脂であることが好ましい。これによって、一層白色度の高い画像を記録することができる。
【0057】
本実施形態に係る被記録媒体は、支持層を備えていてもよい。支持層は、少なくとも一方の側に樹脂層を備えていてもよい。また、支持層は、樹脂層よりも吸水性の低い材料からなることできる。支持層の吸水性が樹脂層の吸水性よりも低いと、被記録媒体の一方の面に付着したインク組成物が他方の面の表面にしみ出すことを低減することができる。
【0058】
支持層としては、例えば、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)等のプラスチック類のフィルムやプレート、鉄、銀、銅、アルミニウム等の金属類のプレート、またはそれら各種金属を蒸着により製造した金属プレートやプラスチック製のフィルム、ステンレスや真鋳等の合金のプレート等が挙げられる。また、支持層は、紙等の基材を上記材料でコーティングすることにより形成されたものであってもよい。
【0059】
3.記録方法
本実施形態に係るインクジェット記録方法は、白色インク組成物の液滴を膨潤型の被記録媒体に吐出する吐出工程を有する。本実施形態に係るインクジェット記録方法は、従来公知のインクジェット記録装置を用いて行うことができる。
【0060】
被記録媒体上に吐出された白色インク組成物は、被記録媒体を膨潤させて、被記録媒体の内部に入り込み定着する。このようにして、被記録媒体に白色インク組成物からなる画像を記録することができる。
【0061】
白色インク組成物を用いた記録において、膨潤型の被記録媒体に記録される白色画像は、空隙型の被記録媒体に記録される白色画像よりも、白色度が低下する傾向がみられる。しかしながら、本実施形態に係るインクジェット記録方法は、上述した成分を含有する白色インク組成物を用いることによって、白色度の不十分な画像が記録されやすい膨潤型の被記録媒体に対しても、白色度の低下が抑制された良好な画像を記録することができる。
【0062】
4.実施例
以下、本発明を実施例および比較例によってさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0063】
4.1.白色インク組成物の調製
表1〜表3に示す配合量で、顔料、樹脂成分、界面活性剤、有機溶媒、およびその他の成分を混合撹拌し、孔径5μmの金属フィルターにてろ過、真空ポンプを用いて脱気処理をして、実施例1〜8、比較例1〜6、および参考例1の各白色インク組成物を得た。なお、表1〜表3に記載されている単位は、質量%であり、二酸化チタン粒子および樹脂成分についてはいずれも固形分換算した値である。
【0064】
表1〜表3に記載の成分は、以下のものを用いた。
(顔料)
・二酸化チタン粒子(シーアイ化成株式会社製、商品名「NanoTek(R) Slurry」、平均粒子径300nmの二酸化チタン粒子を固形分濃度15%の割合で含むスラリー)
(樹脂成分)
・スチレンアクリル系樹脂(BASFジャパン株式会社製、商品名「ジョンクリル62J」)
・ウレタン系樹脂(大日精化株式会社製、商品名「レザミンD−1060」)
・塩化ビニル系樹脂(日信化学工業株式会社製、商品名「ビニブラン700」)
(界面活性剤)
・ポリシロキサン系界面活性剤(ビックケミー・ジャパン株式会社製、商品名「BYK−348」)
(有機溶媒)
・1,2−ヘキサンジオール(三菱ガス化学株式会社製)
(その他の成分)
・糖類(林原商事株式会社製、商品名「HS−500」)
・トリエタノールアミン(ナカライテスク株式会社製、pH調整剤)
・イオン交換水
【0065】
また、表1〜表3に記載したフルオレン系樹脂としては、以下のようにして合成したものを用いた。フルオレン系樹脂は、イソホロンジイソシアネート30質量部、4,4’−(9−フルオレニリデン)ビス[2−(フェノキシ)エタノール]50質量部、3−ヒドロキシ−2−(ヒドロキシメチル)−2−メチルプロピオン酸100質量部、トリエチルアミン30質量部を量りとり十分に混合した後、触媒存在下120℃で5時間撹拌することにより合成した。得られたフルオレン系樹脂は、4,4’−(9−フルオレニリデン)ビス[2−(フェノキシ)エタノール]をモノマー構成比率略50質量%含有する、分子量3300の樹脂であった。
【0066】
4.2.白色度の評価
4.2.1.白色度評価用サンプルの作製
得られた白色インク組成物をインクジェットプリンター(セイコーエプソン株式会社製、商品名「PX−G930」)の専用カートリッジのインク室にそれぞれ充填した。そして、インクカートリッジをプリンターに装着し、複数種の被記録媒体に対してベタパターン画像の記録を行った。ベタパターン画像の記録は、解像度1440×1440dpi、100%dutyの条件で行った。
【0067】
なお、実施例8のみ、下記に記載の被記録媒体3〜5の吐出限界(白色インク組成物があふれて滲みが発生する量)まで、解像度1440×1440dpiでベタパターン画像の記録を行った。その際の吐出限界は、被記録媒体3が200%duty、被記録媒体4が100%duty、被記録媒体5が150%dutyであった。
【0068】
上記のベタパターン画像の記録に用いた被記録媒体は、次の通りである。
【0069】
・被記録媒体1(サンワサプライ株式会社製、商品名「JP−OHP10A」、空隙型の被記録媒体)
・被記録媒体2(セイコーエプソン株式会社製、「OHPシート」、空隙型の被記録媒体)
・被記録媒体3(親水性のカチオン性ウレタン系樹脂層を有する膨潤型の被記録媒体)
・被記録媒体4(コクヨ株式会社製、商品名「VF−1100N」、親水性のウレタン系樹脂層を有する膨潤型の被記録媒体)
・被記録媒体5(日本ヒューレッド・パッカード株式会社製、商品名「C3875A」、親水性のセルロース樹脂層を有する膨潤型の被記録媒体)
【0070】
なお、上記の被記録媒体3は、以下のようにして作製したものを用いた。まず、カチオン性ウレタン樹脂(DIC株式会社製、商品名「ハイドラン CP−7020」、不揮発分40質量%)95質量%、およびカチオン化コロイダルシリカ(日産化学工業株式会社製、商品名「ST−AK−L」)5質量%を混合攪拌して、コート液を作製した。そして、得られたコート液をPETフィルム(リンテック株式会社製、商品名「PET50A」)上に塗布した後、乾燥させた。このようにして、コート液からなる硬化塗膜の厚みが20μmである被記録媒体3を得た。
【0071】
4.2.2.白色度の測定
分光測光器Spectrolino(商品名、GretagMacbeth社製)を用いて、D50光源、視野角2度の条件の下、各被記録媒体に記録された白色画像のL値(白色度)を測定した。評価結果を下記表1〜表3に併せて示す。評価結果のうちL値が74以上であると、白色度の良好な画像を形成できたと判断できる。
【0072】
なお、上記の分光測光器を用いた測定は、サンプルの測定面とは反対側の面を黒色台紙で覆って行った。黒色台紙は以下のように作成した。まず、フォトブラックインク(ICBK33、セイコーエプソン株式会社製)をインクジェットプリンター(セイコーエプソン株式会社製、商品名「PX−G930」)の専用カートリッジのブラックインク室に充填して、インクカートリッジをプリンターに装着した。次いで、プリンターに接続されたPCのソフトウェア上の画像入力データを「(R,G,B)=(0,0,0)」、「色補正なし」の条件に設定した。そして、被記録媒体(「写真用紙<光沢>」セイコーエプソン株式会社製)に対してベタパターン画像の記録を行った。記録は、解像度1440×1440dpiで、100%dutyで行った。このようにして得られた黒色台紙を分光測光器を用いた白色度の測定に使用した。なお、黒色台紙を用いた場合は、白色台紙を用いた場合に比べてL値は低い値を示すこととなる。
【0073】
4.3.吐出安定性の評価
「4.2.1.白色度評価用サンプルの作製」で被記録媒体3に記録された画像について、吐出欠陥(ノズル抜け)の有無を目視観察し、下記の評価基準に従って吐出安定性を評価した。なお、「ノズル抜け」とは、通常プリントヘッドについているノズルから吐出されるはずのインクがノズルの詰まりによって吐出されず、記録結果に影響を与えることをいう。吐出安定性の評価基準は、以下の通りである。評価基準のうち「A」および「B」が実用上許容される基準である。評価結果を下記表1および表2に併せて示す。
【0074】
「A」:吐出欠陥(ノズル抜け)の発生が認められない。
【0075】
「B」:ベタ画像の一部が埋まっていない個所がある。
【0076】
「C」:ノズルからインクを吐出できなかった。
【0077】
【表1】

【0078】
【表2】

【0079】
【表3】

【0080】
4.4.評価結果
表1に示すように、実施例1〜実施例7のインクジェット記録方法によれば、吐出安定性が良好であり、かつ、空隙型および膨潤型のいずれの被記録媒体に対しても白色度の良好な画像を記録した。
【0081】
実施例8は、実施例2で用いた白色インク組成物と同様の組成のものを用い、被記録媒体3〜5の各被記録媒体の吐出限界における記録を行ったものである。表3に示すように、実施例8のインクジェット記録方法によれば、被記録媒体3が最も高い白色度を備えた画像を記録できる記録媒体であった。このように、被記録媒体3が他の膨潤型の被記録媒体よりも白色度の高い画像を記録できることは、被記録媒体3の吐出限界が高く、高dutyの記録ができるためである。
【0082】
一方、表2に示すように、比較例1のインクジェット記録方法によれば、白色インク組成物にフルオレン系樹脂を含有していないことにより、膨潤型の被記録媒体に対して白色度の不十分な画像を記録した。
【0083】
また、比較例2のインクジェット記録方法によれば、白色インク組成物中のフルオレン系樹脂の含有量が1質量%未満であることにより、膨潤型の被記録媒体に対して白色度の不十分な画像を記録した。
【0084】
比較例3のインクジェット記録方法によれば、白色インク組成物中のフルオレン系樹脂の含有量が16質量%を超えていることにより、インクジェット式記録装置のノズルから白色インク組成物を吐出できなかった。また、比較例3のインクジェット記録方法によれば、白色インク組成物を吐出できなかったため、白色度の評価を実施できなかった。
【0085】
比較例4および比較例5のインクジェット記録方法によれば、白色インク組成物にフルオレン系樹脂を含有していないことにより、膨潤型の被記録媒体に対して白色度の不十分な画像を記録した。
【0086】
比較例6のインクジェット記録方法によれば、白色インク組成物にスチレンアクリル系樹脂を含有していないことにより、膨潤型の被記録媒体に対して白色度の不十分な画像を記録した。
【0087】
参考例1のインクジェット記録方法によれば、白色インク組成物中のスチレンアクリル系樹脂の含有量が増加すると、吐出安定性に優れなくなることが示された。
【0088】
本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。例えば、本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法および結果が同一の構成、あるいは目的および効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成または同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
白色インク組成物の液滴を膨潤型の被記録媒体に吐出する吐出工程を有し、
前記白色インク組成物は、フルオレン系樹脂、スチレンアクリル系樹脂、白色顔料および水を含有し、
前記フルオレン系樹脂は、前記白色インク組成物の全質量に対して、1質量%以上16質量%以下含まれる、インクジェット記録方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記被記録媒体は、親水性樹脂を含有する樹脂層を備え、
前記吐出工程において、前記白色インク組成物の液滴を前記樹脂層に吐出する、インクジェット記録方法。
【請求項3】
請求項2において、
前記親水性樹脂は、ウレタン系樹脂またはセルロース系樹脂である、インクジェット記録方法。
【請求項4】
請求項2において、
前記親水性樹脂は、ウレタン系樹脂である、インクジェット記録方法。
【請求項5】
請求項3において、
前記ウレタン系樹脂は、カチオン性ウレタン樹脂である、インクジェット記録方法。
【請求項6】
請求項3において、
前記樹脂層の構成成分のうち80質量%以上がウレタン系樹脂またはセルロース系樹脂である、インクジェット記録方法。
【請求項7】
請求項2ないし請求項6のいずれか1項において、
前記被記録媒体は、支持層を備え、
前記樹脂層は、前記支持層の少なくとも一方の側に形成され、
前記支持層の吸水性は、前記樹脂層の吸水性よりも低い、インクジェット記録方法。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれか1項において、
前記スチレンアクリル系樹脂は、白色インク組成物の全質量に対して、1質量%以上10質量%以下含まれる、インクジェット記録方法。

【公開番号】特開2012−149184(P2012−149184A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−9480(P2011−9480)
【出願日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】