説明

インクジェット記録用インク及びインクジェット記録方法

【課題】 インクジェット記録方法によって印字した場合に、インクの定着性と発一性が共に良好なインクジェット記録用インクを提供すること。
【解決手段】 水と、色材と、ノニオン性界面活性剤とを含有するインクジェット記録用インクであって、さらに1,2,5−ペンタントリオールを、インク全量の7.5質量%以上、25.0質量%以下含有しており、インク全量に対して、前記1,2,5−ペンタントリオールの含有量をa質量%、前記ノニオン性界面活性剤の含有量をb質量%としたときに、前記aとbが、14.0≦a/b≦25.0の関係を満たすことを特徴とするインクジェット記録用インク。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録用インク及びインクジェット記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方法により、コピー用紙、レター紙等のいわゆる普通紙や、コート紙、光沢紙等に印字する場合、インク中にノニオン性界面活性剤を含有させることで定着性に優れた画像が得られることが知られている(特許文献1、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開昭55−65269号公報
【特許文献2】特開平07−286113号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1及び2に記載のインクは、画像の定着向上には一定の効果が見られる。しかし、本発明者らの検討によれば、これらのインクは、一定期間記録ヘッドを印字させない状態で大気中に曝露すると、大気中に曝露されている非印字ノズル部において、インク中の揮発成分が蒸発しやすい。この結果、ノニオン性界面活性剤を含有しているためインクの粘度が高くなりやすく、近年要求されるようなインクジェット吐出特性が得られない場合がある。このように吐出特性が劣化することを、発一性が劣化するという。逆に、一定期間記録ヘッドを印字させない状態で大気中に曝露した場合でも、記録ヘッドの吐出特性が良好な場合を、発一性が良好であるという。
【0004】
従って、本発明の目的は、インクジェット記録方法によって印字した場合に、インクの定着性と発一性が共に良好なインクジェット記録用インクを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の目的は、以下の構成により達成される。
【0006】
上記の目的は、下記の本発明によって達成される。
【0007】
即ち、本発明は、水と、色材と、ノニオン性界面活性剤とを含有するインクジェット記録用インクであって、さらに1,2,5−ペンタントリオールを、インク全量の7.5質量%以上、25.0質量%以下含有しており、インク全量に対して、前記1,2,5−ペンタントリオールの含有量をa質量%、前記ノニオン性界面活性剤の含有量をb質量%としたときに、前記aとbが、14.0≦a/b≦25.0の関係を満たすことを特徴とするインクジェット記録用インクである。
【0008】
また、本発明の別の態様は、前記インクを記録媒体に向けて吐出し、記録媒体に付着させる工程を有することを特徴とするインクジェット記録方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、インクの定着性と発一性が共に良好なインクジェット記録用インク及びインクジェット記録方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、好ましい実施の形態を挙げて、本発明を更に詳細に説明する。
【0011】
本発明のインクに用いる色材としては、染料及び顔料が挙げられる。
【0012】
染料としては、下記のような染料を用いることが好ましい。例えば、C.I.ダイレクトブラック17、19、32、51、62、71、108、146、154。C.I.ダイレクトブルー6、22、25、71、86、90、106、199。C.I.ダイレクトレッド1、4、17、28、83。C.I.ダイレクトイエロー12、24、26、44、86、98、100、132、142。C.I.ダイレクトオレンジ34、39、44、46、60。C.I.ダイレクトバイオレット47、48。C.I.ダイレクトブラウン109。C.I.ダイレクトグリーン59等の直接染料。C.I.アシッドブラック2、7、24、26、31、52、63、112、118。C.I.アシッドブルー9、22、40、59、93、102、104、113、117、120、167、229、234、254。C.I.アシッドレッド1、6、8、32、37、51、52、80、85、87、92、94、115、180、256、317、315。C.I.アシッドイエロー11、17、23、25、29、42、49、61、71。C.I.アシッドオレンジ7、19。C.I.アシッドバイオレット49等の酸性染料。C.I.リアクティブイエロー2、3、13、15、17、18、23、24、37、42、57、58、64、75、76、77、79、81、84、85、87、88、91、92、93、95。102、111、115、116、130、131、132、133、135、136、137、139、140、142、143、144、145、146、147、148、151、162、163。C.I.リアクティブオレンジ5、7、11、12、13、15、16、35、45、46、56、62、70、72、74、82、84、87、91、92、93、95、97、99。C.I.リアクティブレッド3、13、16、21、22、23、24、29、31、33、35、45、49、55、63、85。106、109、111、112、113、114、118、126、128、130、131、141、151、170、171、174、176、177、183、184、186、187、188、190、193、194、195、196。200、201、2022.04、206、218、221。C.I.リアクティブバイオレット1、4、5、6、22、24、33、36、38。C.I.リアクティブブルー2、3、5、8、10、13、14、15、18、19、21、25、27、28、38、39、40、41、49、52、63、71、72、74、75、77、78、78、89。100、101、104、105、119、122、147、158、160、162、166、169、170、171、172、173、174、176、179、184、190、191、194、195、198。204、211、216、217。C.I.リアクティブグリーン5、8、12、15、19、23。C.I.リアクティブブラウン2、7、8、9、11、16、17、18、21、24、26、31、32、33。C.I.リアクティブブラック1、5、8、13、14、23、31、34、39等の反応性染料。C.I.ベーシックブラック2。C.I.Inkjet Black286。C.I.ベーシックブルー1、3、5、7、9、24、25、26、28、29。C.I.ベーシックレッド1、2、9、12、13、14、37。C.I.ベーシックバイオレット7、14、27。C.I.フードブラック1、2。この中でも、直接染料、酸性染料、反応性染料を用いることが好ましい。
【0013】
顔料としては、下記のような顔料を用いることが好ましい。ブラックインクに使用される顔料としては、例えば、No.2300、No.900、MCF88、No.40、No.52、MA7、MA8、No.2200B(以上、三菱化成製)。RAVEN 1255(コロンビア製)。REGAL 400R、REGAL 660R、MOGUL L(以上、キヤボット製)。Color Black FW1、18、Color Black S170、150、Printex 35、U(以上、デグッサ製)等。イエローインクに使用される顔料としては、例えば、C.I.Pigment Yellow 1、2、3、13、16、74、83、93、128、134、144等。マゼンタインクに使用される顔料としては、例えば、C.I.Pigment Red 5、7、12、48(Ca)、48(Mn)、57(Ca)、112、122、C.I.Pigment Violet 19等。シアンインクに使用される顔料としては、例えば、C.I.Pigment Blue 1、2、3、15:3、16、22、C.I.Vat Blue 4、6等。
【0014】
前記いずれの色の顔料に関しても、水中における分散性が十分確保された形で用いることが好ましい。このような形としては、例えば、顔料の表面にカルボン酸塩等の親水性基が付与されていることが挙げられる。或は、重量平均分子量が1,000〜30,000の範囲の水溶性樹脂、例えば、スチレン、スチレン誘導体、ビニルナフタレン、ビニルナフタレン誘導体。α,β−エチレン性不飽和カルボン酸の脂肪族アルコールエステル等の疎水性単量体。アクリル酸、アクリル酸誘導体。マレイン酸、マレイン酸誘導体。イタコン酸、イタコン酸誘導体。フマル酸、フマル酸誘導体。以上から選ばれる二つ以上の単量体からなるブロック共重合体、グラフト共重合体或いはランダム共重合体、またはこれらの塩等が、付着もしくは結合していることが挙げられる。
【0015】
本発明のインクに含まれる前記色材の量は、インク全量に対して3.0質量%以上、9.0質量%以下であることが好ましい。
【0016】
本発明のインクジェット記録用インクは、1,2,5−ペンタントリオールを、インク全量の7.5質量%以上、25.0質量%以下含有している。より好ましくは、インク全量の10.0質量%以上、20.0質量%以下含有している。
【0017】
本発明のインクジェット記録用インクは、1,2,5−ペンタントリオールを上記の範囲で含有することで、吐出が安定し、発一性が良好となる。この理由は不明であるが、本発明者らの検討によると、1,2,5−ペンタントリオールを含有すると、インク中での色材の濃縮が抑制され、吐出が安定し、発一性が良好になるのではないかと考えられる。1,2,5−ペンタントリオールが、インク全量に対して7.5質量%未満であると、インク中の溶存空気により気泡が発生し、吐出が不安定になり、発一性が劣化する傾向となる。また、25.0質量%を超えると、ノズル内にインクが固着し、吐出が不安定になり、発一性が劣化する傾向となる。
【0018】
また、本発明のインクは、1,2,5−ペンタントリオールの含有量をa質量%、前記ノニオン性界面活性剤の含有量をb質量%としたときに、aとbが、14.0≦a/b≦25.0の関係を満たしている。より好ましくは、16.0≦a/b≦22.0の関係を満たしている。ノニオン性界面活性剤は、臨界ミセル濃度以上含有させても、さらに定着性が向上するものではない。さらに、1,2,5−ペンタントリオールの含有量に対し、ノニオン性界面活性剤の含有量を増やしすぎると、不揮発成分が増えることにより、発一性が劣化する恐れがある。よって、14.0≦a/bを満たす必要があると考えられる。さらには、16.0≦a/bを満たすことがより好ましい。また、1,2,5−ペンタントリオールの含有量に対し、ノニオン性界面活性剤が少なすぎると良好な定着性を得ることが困難になる。よって、a/b≦25.0を満たす必要があると考えられる。さらには、a/b≦22.0を満たすことがより好ましい。
【0019】
本発明のインクは、ノニオン性界面活性剤を含有している。本発明のインクが含有するノニオン性界面活性剤としては、以下のものが好ましい。
【0020】
例えば、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3オール、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール。アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物(例えば、アセチレノールEH;川研ファインケミカル製)。アセチレンアルコールのエチレンオキサイド付加物(例えば、アセチレノールEL;川研ファインケミカル製)。アセチレンまたはアルカンのエチレンオキサイド付加物(例えば、サーフィノール104、82、465、485;Air Products製)。Tergitol 15−S−5、Tergitol 15−S−7(いずれもユニオンカーバイドカンパニー製)。以上のようなノニオン性界面活性剤が挙げられる。ノニオン性界面活性剤は、インク全量に対して0.1質量%以上含有していることが好ましい。また、10.0質量%以下含有していることが好ましい。
【0021】
さらに、本発明のインクは、水溶性有機溶剤を含有していることが好ましい。水溶性有機溶剤としては、次のものが好ましい。例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール、イソブチルアルコール等の炭素数1〜4のアルキルアルコール類。ジメチルホルムアミド、ジメチルアセドアミド等のアミド類。アセトン、ジアセトンアルコール等のケトンまたはケトンアルコール類。テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類。ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール類。エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2,6−ヘキサントリオール、チオジグリコール、ヘキシレングリコール、ジエチレングリコール等のアルキレングリコール類。グリセリン;エチレングリコールメチル(またはエチル)エーテル、ジエチルレングリコールメチル(またはエチル)エーテル、トリエチレングリコールモノメチル(またはエチル)エーテル等の多価アルコールの低級アルキルエーテル類。N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、トリエタノールアミン、スルホラン等。以上のような水溶性有機溶剤が挙げられる。これらの中でも、ジエチレングリコール等の多価アルコール、トリエチレングリコールモノメチル(またはエチル)エーテル等の多価アルコールの低級アルキルエーテルを含有していることが好ましい。該低級アルコールとは、炭素数が1〜5のアルコールのことをいう。インク中の前記水溶性有機溶剤の含有量は、インク全量に対して20.0質量%以下であることが好ましく、10.0質量%以下であることがより好ましい。
【0022】
また、本発明のインクは、水を含有している。水としては、種々のイオンを含有する一般の水でなく、脱イオン水を使用するのが好ましい。
【0023】
また、本発明のインクは、さらにプロキセル等の防黴剤、pH調整剤等を含んでいても良い。
【実施例】
【0024】
以下、実施例及び比較例を用いてさらに具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、下記実施例により限定されるものではない。なお、以下の記載で、「%」とあるものは、特に断らない限り質量基準である。
【0025】
表1〜6に示す各成分を混合し、ポアサイズが0.20μmのメンブレンフィルタにて加圧濾過して、各インクを調製した。尚、各インクは、合計が100%になるように調製されている。また、表中の「ノニオン性界面活性剤」とは、全て、アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物であるアセチレノールE100(川研ファインケミカル製)である。表1〜4中の「a/b」とは、インク中における、前記1,2,5−ペンタントリオールの含有量をa%、前記ノニオン性界面活性剤の含有量をb%としたときの値である。
【0026】
【表1】

【0027】
【表2】

【0028】
【表3】

【0029】
【表4】

【0030】
【表5】

【0031】
【表6】

【0032】
<発一性評価>
インクジェット記録装置として、Pixus950i(キヤノン製)を用いた。表1〜6の各インクを該インクジェット記録装置のインクタンクに収納し、記録ヘッド上に600dpiの密度で1列に並んだ128個の吐出口から、インク滴を記録媒体上に1000滴づつ吐出し、付着させた。前記記録媒体としては、プロフェッショナルフォトペーパーPR−101(キヤノン製)を用いた。印字パターンを図1に示す。最初に、前記記録媒体上に長方形パターン11を印字した。このパターンを印字した吐出は予備吐に相当し、ノズル内のインク組成をリフレッシュする作用がある。さらにその直後、前記128本の吐出口からインク滴を1発ずつ吐出し、前記記録媒体上に基準線12を印字した。次に、前記記録媒体を前記ノズルの並び方向(図中の記録媒体搬送方向)に5mmだけ搬送した後、10秒間吐出を休止した。この後に、前記128本のノズルから再びインク滴を1発ずつ吐出し、評価線13を印字した。発一性の評価は、前記基準線と前記評価線に基づき、目視により下記5段階の基準で行った。
5‥基準線と評価線に乱れはない。また、画素は変形しているが目立ってはいない。
4‥評価線が僅かに乱れ、画素は変形しているが、目立ってはいない。
3‥評価線が乱れている。また画素は変形している。
2‥評価線が激しく乱れている。また画素は激しく変形している。
1‥一部のノズルで液滴が吐出されない。
【0033】
以上の評価の結果を表7〜9に示す。尚、気温25℃・湿度50%の環境下での結果である。
【0034】
<定着性評価>
インクジェット記録装置として、Pixus950i(キヤノン製)を用いた。表1〜6の各インクをインクジェット記録装置のインクタンクに収納し、記録媒体上に、5mm四方の正方形のベタパターンが市松模様状になるようにインク滴を吐出した。前記記録媒体としては、ホワイトリサイクルペーパーEW−100(キヤノン製)を用いた。さらに、印字が終了してから10秒後に、前記市松模様状のベタパターンに対し、ろ紙によって擦り試験を行った。前記ろ紙は、No.5c(東洋ろ紙製)を用いた。定着性の評価は、前記擦り試験の結果に基づき、目視により下記5段階の基準で行った。
5‥前記市松模様状のベタパターンはかすれなかった。
4‥前記市松模様状のベタパターンは僅かにかすれたが、目立たなかった。
3‥前記市松模様状のベタパターンはかすれた。
2‥前記市松模様状のベタパターンは激しくかすれた。
1‥一部のノズルで液滴が吐出されない。
【0035】
以上の評価の結果を表7〜9に示す。尚、気温25℃・湿度50%の環境下での結果である。
【0036】
【表7】

【0037】
【表8】

【0038】
【表9】

【0039】
表7〜9から、本発明のインクは、発一性と定着性が共に良好であることが分かる。また、本発明のインクは、色材の種類によらず同様の傾向であることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】発一性評価に用いる印字パターンを示す模式図である。
【符号の説明】
【0041】
10 記録媒体
11 長方形パターン
12 基準線
13 評価線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水と、色材と、ノニオン性界面活性剤とを含有するインクジェット記録用インクであって、
さらに1,2,5−ペンタントリオールを、インク全量の7.5質量%以上、25.0質量%以下含有しており、
インク全量に対して、前記1,2,5−ペンタントリオールの含有量をa質量%、前記ノニオン性界面活性剤の含有量をb質量%としたときに、前記aとbが、
14.0≦a/b≦25.0
の関係を満たす
ことを特徴とするインクジェット記録用インク。
【請求項2】
前記1,2,5−ペンタントリオールの含有量は、インク全量の10.0質量%以上、20.0質量%以下であり、
インク全量に対して、前記1,2,5−ペンタントリオールの含有量をa質量%、前記ノニオン性界面活性剤の含有量をb質量%としたときに、前記aとbが、
16.0≦a/b≦22.0
の関係を満たす
請求項1に記載のインクジェット記録用インク。
【請求項3】
請求項1または2に記載のインクを記録媒体に向けて吐出し、記録媒体に付着させる工程を有することを特徴とするインクジェット記録方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−138322(P2010−138322A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−317271(P2008−317271)
【出願日】平成20年12月12日(2008.12.12)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】