説明

インクジェット記録用水分散体の製造方法

【課題】ヘッドの撥液性に優れたインクジェット記録用顔料水分散体の製造方法、その方法により得られる水分散体を含有するインクジェット記録用水系インク、及びその水系インクを用いるインクジェット記録方法を提供する。
【解決手段】〔1〕顔料含有ポリマー粒子を含む水分散体にエポキシ架橋剤を2回以上又は連続して添加する工程を有する水分散体の製造方法であって、(i)顔料含有ポリマー粒子が、カルボキシ基を有するポリマーに顔料が含有されたポリマー粒子であり、(ii)エポキシ架橋剤が水への溶解率が30%以下のものであり、(iii)エポキシ架橋剤の全添加量がカルボキシ基に対して10〜90モル%であり、(iv)〔エポキシ架橋剤の全添加量の80モル%が添加された時点のpH(B)−エポキシ架橋剤を添加する前のpH(A)〕>0.2である、インクジェット記録用水分散体の製造方法、〔2〕それを含有する水系インク、及び〔3〕その水系インクを用いるインクジェット記録方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録用水分散体の製造方法、その方法により得られる水分散体を含有するインクジェット記録用水系インク、及びその水系インクを用いるインクジェット記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は、非常に微細なノズルからインク液滴を記録部材に直接吐出し、付着させて、文字や画像を得る記録方式である。この方式は、フルカラー化が容易で、かつ安価であり、記録部材として普通紙が使用可能、被印字物に対して非接触、という数多くの利点があるため普及が著しい。
最近では、印刷物に耐候性や耐水性を付与するために、顔料として顔料を用いるインクが広く用いられており、その分散剤である高分子や樹脂を架橋して安定性等を向上する試みがなされている。
【0003】
たとえば、特許文献1には、彩度と保存安定性を向上させることを目的として、2種以上のキナクリドン系化合物を含むキナクリドン固溶体顔料を含有する架橋ポリマー粒子であって、架橋ポリマー1g当たり塩基で中和されたカルボキシ基を有する基を0.2mmol/g以上含有するインクジェット記録用架橋ポリマー顔料含有ポリマー粒子、及びそれを含有する水分散体及び水系インクが開示されている。
特許文献2には、再分散等の工程がなく、短い工程で製造することを目的として、架橋性官能基と酸性基とを有する疎水性樹脂中の酸性基を中和してなる水溶性樹脂、顔料及び架橋剤を反応させることにより、又は自己架橋性官能基と酸性基とを有する疎水性樹脂中の酸性基を中和してなる水溶性樹脂及び顔料を架橋反応させることにより、顔料の周囲に水溶性樹脂の架橋物を析出させる水性顔料分散体の製造方法が開示されている。
また、特許文献3には、安定性、耐候性等を向上させることを目的として、疎水性ビニル系単量体と、アニオン性基又はカチオン性基を有するビニル系単量体と、ノニオン性親水基を有するビニル系単量体とからなる混合体を重合して得られるビニル系樹脂、及び色剤からなり、表面に架橋構造が形成されている色剤内包樹脂微粒子が水系媒体中に分散されてなる着色樹脂エマルジョン、並びにそのエマルジョンを含有するインクジェットインクが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−46595号公報
【特許文献2】特開平11−152424号公報
【特許文献3】特開2002−356602号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
インクジェットプリンターのインクを吐出するインクジェットヘッドには、インク吐出面を有するノズルプレートが装着されている。このノズルプレートには、ノズルからインクを吐出し易くしたり、吐出後に残留するインクをノズル内に引き込んだりして、水系インクを安定に吐出させるための撥水処理が施されている。しかしながら、顔料を用いた水系インクには界面活性剤や樹脂等の分散剤が添加されるため、水系インクを用いて印刷するとインク吐出面の撥水効果が低下し易く、その結果、吐出安定性が低下したり、インクヘッドの吐出面に残留するインクのために、記録媒体やプリンター部材が汚れて、印刷品位が低下するという問題がある。
本発明は、ヘッドの撥液性に優れたインクジェット記録用顔料水分散体の製造方法、その方法により得られる水分散体を含有するインクジェット記録用水系インク、及びその水系インクを用いるインクジェット記録方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、顔料を用いた水系インクで撥液性が低下する原因は、分散剤であるポリマーが撥水処理されたヘッド表面に付着するためと考えて検討を行った。その結果、カルボキシ基を有するポリマーに顔料が含有されたポリマー粒子を含む水分散体に、水に対する溶解率が低いエポキシ架橋剤を特定条件下で複数回又は連続して添加して得られた水分散体を用いた水系インクが、上記課題を解決しうることを見出した。
すなわち、本発明は、次の〔1〕〜〔3〕を提供する。
〔1〕顔料含有ポリマー粒子を含む水分散体にエポキシ架橋剤を2回以上又は連続して添加する工程を有する水分散体の製造方法であって、下記条件(i)〜(iv)を満たすインクジェット記録用水分散体の製造方法。
(i)顔料含有ポリマー粒子が、カルボキシ基を有するポリマーに顔料が含有されたポリマー粒子である。
(ii)エポキシ架橋剤が、25℃の純水90部に該エポキシ架橋剤10部を添加したときの溶解率が30%以下のものである。
(iii)エポキシ架橋剤の全添加量がカルボキシ基に対して10〜90モル%(エポキシ基換算)である。
(iv)エポキシ架橋剤の全添加量の80モル%(エポキシ基換算)が添加された時点の25℃におけるpH(B)と、エポキシ架橋剤を添加する前の25℃におけるpH(A)の差〔pH(B)−pH(A)〕が0.2を超える。
〔2〕前記〔1〕の製造方法により得られる水分散体を含有する、インクジェット記録用水系インク。
〔3〕前記〔2〕の水系インクを、吐出面がニッケル−フッ素系樹脂メッキされたインクジェットノズルプレートを有するインクジェット記録装置から吐出する、インクジェット記録方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ヘッドの撥液性に優れたインクジェット記録用水分散体の製造方法、その方法により得られる水分散体を含有するインクジェット記録用水系インク、及びその水系インクを用いるインクジェット記録方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明のインクジェット記録用水分散体の製造方法は、顔料含有ポリマー粒子を含む水分散体にエポキシ架橋剤を2回以上又は連続して添加する工程を有する水分散体の製造方法であって、下記条件(i)〜(iv)を満たすことを特徴とする。
(i)顔料含有ポリマー粒子が、カルボキシ基を有するポリマーに顔料が含有されたポリマー粒子である。
(ii)エポキシ架橋剤が、25℃の純水90部に該エポキシ架橋剤10部を添加したときの溶解率が30%以下のものである。
(iii)エポキシ架橋剤の全添加量がカルボキシ基に対して10〜90モル%(エポキシ基換算)である。
(iv)エポキシ架橋剤の全添加量の80モル%(エポキシ基換算)が添加された時点の25℃におけるpH(B)と、エポキシ架橋剤を添加する前の25℃におけるpH(A)の差〔pH(B)−pH(A)〕が0.2を超える。
【0009】
本発明により得られる水分散体、及びそれを含有する水系インクが、インクジェットヘッドの撥液性に優れる理由は定かではないが、以下のように考えられる。
インク吐出面の撥水効果に影響を与えるものとして、水分散体中に溶解したポリマー分子が考えられる。本発明の水分散体においては、まず、水への溶解率が低いエポキシ架橋剤を用いることにより、エポキシ架橋剤がポリマー分子の疎水基部分と相互作用し、一体となってポリマー粒子の疎水表面に吸着しやすくなると考えられる。その結果、水分散体中に溶解したポリマー分子を効率よくポリマー粒子表面に局在化させることができ、そのポリマー分子のカルボキシ基と架橋剤のエポキシ基との反応により架橋が始まり、pHが0.2を越える程度に架橋が進行した後に、更に架橋剤を添加することで、わずかに残存したポリマー分子までも十分にポリマー粒子表面に吸着させ、強固に固定することができる。このように、得られた水分散体及び水系インクは、溶解したポリマー分子が極めて少なく、ポリマー分子はポリマー粒子表面に強固に固定されているため、ヘッドの撥液性に優れると考えられる。
以下、本発明に用いられる各成分、各工程について説明する。
【0010】
[顔料含有ポリマー粒子]
本発明で用いられる顔料含有ポリマー粒子は、カルボキシ基を有するポリマーに顔料が含有されたポリマー粒子である。顔料含有ポリマー粒子は、カルボキシ基を有するポリマーを用いて分散処理等を施すことによって、所望の粒径としたものであり、好ましくは顔料を含有する該ポリマーの固体分が水を主媒体とする中に分散している態様で存在する。ここで、顔料含有ポリマー粒子の形態は特に制限はなく、少なくとも顔料とカルボキシ基を有するポリマーにより粒子が形成されていればよい。例えば、該ポリマーに顔料が内包された粒子形態、該ポリマー中に顔料が均一に分散された粒子形態、該ポリマー粒子表面に顔料が露出された粒子形態等が含まれ、これらの混合物も含まれる。
本発明において、顔料含有ポリマー粒子の平均粒径は、インクの印字濃度の観点から、好ましくは10〜300nm、より好ましくは40〜200nm、より好ましくは50〜150nm、更に好ましくは60〜100nm、更に好ましくは60〜90nmである。なお、平均粒径は、実施例記載の方法により測定される。
【0011】
〔顔料〕
本発明に用いられる顔料は、無機顔料及び有機顔料のいずれであってもよいが、印字濃度を向上させる効果を十分に発揮させる観点から、有機顔料が好ましい。また、必要に応じて、それらと体質顔料を併用することもできる。
無機顔料としては、例えば、カーボンブラック、金属酸化物、金属硫化物、金属塩化物等が挙げられる。特に黒色水分散体においては、カーボンブラックが好ましい。カーボンブラックとしては、ファーネスブラック、サーマルランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等が挙げられる。
【0012】
有機顔料としては、例えば、アゾ顔料、ジアゾ顔料、フタロシアニン顔料、キナクリドン顔料、イソインドリノン顔料、ジオキサジン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、チオインジゴ顔料、アントラキノン顔料、キノフタロン顔料等が挙げられる。
色相は特に限定されず、赤色、黄色、青色、オレンジ、グリーン等の有彩色顔料をいずれも用いることができる。
好ましい有機顔料の具体例としては、C.I.ピグメント・イエロー、C.I.ピグメント・レッド、C.I.ピグメント・オレンジ、C.I.ピグメント・バイオレット、C.I.ピグメント・ブルー、及びC.I.ピグメント・グリーンからなる群から選ばれる1種以上の各品番製品が挙げられる。また、キナクリドン固溶体顔料等の固溶体顔料を用いることができる。
キナクリドン固溶体顔料は、β型、γ型等の無置換キナクリドンと、2,9−ジクロルキナクリドン、3,10−ジクロルキナクリドン、4,11−ジクロルキナクリドン等のジクロロキナクリドンからなる。キナクリドン固溶体顔料としては、無置換キナクリドン(C.I.ピグメント・バイオレット19)と2,9−ジクロルキナクリドン(C.I.ピグメント・レッド202)との組合せからなる固溶体顔料が好ましい。
【0013】
本発明においては、自己分散型顔料を用いることもできる。自己分散型顔料とは、親水性官能基(カルボキシ基やスルホン酸基等のカルボキシ基を有する親水基、又は第4級アンモニウム基等のカチオン性親水基)の1種以上を直接又は他の原子団を介して顔料の表面に結合することで、界面活性剤や樹脂を用いることなく水系媒体に分散可能である無機顔料や有機顔料を意味する。ここで、他の原子団としては、炭素数1〜12のアルカンジイル基、フェニレン基又はナフチレン基等が挙げられる。
顔料を自己分散型顔料とするには、例えば、親水性官能基の必要量を、常法により顔料表面に化学結合させればよい。より具体的には、硝酸、硫酸、ペルオキソ二硫酸、次亜塩素酸、クロム酸等の酸類等により液相酸化する方法やカップリング剤を用いて親水基を結合する方法が好ましい。
親水性官能基の量は特に限定されないが、自己分散型顔料1g当たり100〜3,000μmolが好ましく、親水性官能基がカルボキシ基の場合は、自己分散型顔料1g当たり200〜700μmolが好ましい。
カルボキシ基を有する自己分散型顔料の市販品としては、CAB−O−JET200、同300、同352K、同250C、同260M、同270Y、同450C、同465M、同470Y、同480V(キャボット社製)やBONJET CW−1、同CW−2(オリヱント化学工業株式会社製)、Aqua−Black 162(東海カーボン株式会社製)等が挙げられる。
上記の顔料は、単独で又は2種以上を任意の割合で混合して用いることができる。
【0014】
〔カルボキシ基を有するポリマー〕
本発明に用いられる顔料含有ポリマー粒子には、カルボキシ基を有するポリマーが用いられるが、カルボキシ基は該粒子を水系媒体に分散させる役割とエポキシ架橋剤と反応させる架橋点としての役割を有する。
カルボキシ基を有するポリマーは、インクの印字濃度向上の観点から、水不溶性ポリマーであることが好ましい。ここで、水不溶性ポリマーとは、105℃で2時間乾燥させ、恒量に達したポリマーを、25℃の水100gに溶解させたときに、その溶解量が10g以下であるポリマーをいい、その溶解量は好ましくは5g以下、更に好ましくは1g以下である。カルボキシ基を有するポリマーの場合、溶解量は、ポリマーのカルボキシ基を有する基を水酸化ナトリウムで100%中和した時の溶解量である。
用いるポリマーとしては、ポリエステル、ポリウレタン、ビニル系ポリマー等が挙げられるが、カルボキシ基を有する顔料含有ポリマー粒子の分散安定性の観点から、ビニル単量体(ビニル化合物、ビニリデン化合物、ビニレン化合物)の付加重合により得られるビニル系ポリマーが好ましい。
ビニル系ポリマーとしては、(a)カルボキシ基を有するモノマー(以下「(a)成分」ともいう)と、(b)疎水性モノマー(以下「(b)成分」ともいう)及び/又は(c)マクロマー(以下「(c)成分」ともいう)とを含むモノマー混合物(以下、単に「モノマー混合物」ともいう)を共重合させてなるビニル系ポリマーが好ましい。このビニル系ポリマーは、(a)成分由来の構成単位と、(b)成分由来の構成単位及び/又は(c)成分由来の構成単位を有する。中でも(a)成分由来の構成単位、(b)成分由来の構成単位、(c)成分由来の構成単位を全て含有するものが好ましい。
【0015】
〔(a)カルボキシ基を有するモノマー〕
(a)カルボキシ基を有するモノマーは、顔料含有ポリマー粒子を水分散体中で安定に分散させ、エポキシ架橋剤との反応を十分に行うために、カルボキシ基を有するポリマーのモノマー成分として用いられる。
カルボキシ基を有するモノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、2−メタクリロイルオキシメチルコハク酸等が挙げられる。
上記カルボキシ基を有するモノマーの中では、顔料含有ポリマー粒子の水分散体中での分散安定性の観点から、アクリル酸及びメタクリル酸が好ましい。
【0016】
〔(b)疎水性モノマー〕
(b)疎水性モノマーは、水分散体及びその水分散体を含むインクの印字濃度の向上の観点から、カルボキシ基を有するポリマーのモノマー成分として用いられる。
疎水性モノマーとしては、アルキル(メタ)アクリレート、芳香族基含有モノマー等が挙げられる。
アルキル(メタ)アクリレートとしては、炭素数1〜22、好ましくは炭素数6〜18のアルキル基を有するものが好ましく、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、(イソ)プロピル(メタ)アクリレート、(イソ又はターシャリー)ブチル(メタ)アクリレート、(イソ)アミル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、(イソ)オクチル(メタ)アクリレート、(イソ)デシル(メタ)アクリレート、(イソ)ドデシル(メタ)アクリレート、(イソ)ステアリル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
なお、本明細書において、「(イソ又はターシャリー)」及び「(イソ)」は、これらの基が存在する場合としない場合の双方を意味し、これらの基が存在しない場合には、ノルマルを示す。また、「(メタ)アクリレート」は、アクリレート及び/又はメタクリレートを示す。
【0017】
芳香族基含有モノマーとしては、ヘテロ原子を含む置換基を有していてもよい、炭素数6〜22の芳香族基を有するビニルモノマーが好ましく、スチレン系モノマー及び芳香族基含有(メタ)アクリレートがより好ましく、芳香族基含有(メタ)アクリレートが更に好ましい。また、スチレン系モノマー及び芳香族基含有(メタ)アクリレートを併用することも好ましい。
スチレン系モノマーとしてはスチレン、2−メチルスチレン、及びジビニルベンゼンが好ましく、スチレンがより好ましい。
また、芳香族基含有(メタ)アクリレートとしては、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート等が好ましく、ベンジル(メタ)アクリレートがより好ましい。
【0018】
〔(c)マクロマー〕
(c)マクロマーは、片末端に重合性官能基を有する数平均分子量500〜100,000の化合物であり、顔料含有ポリマー粒子の水分散体中での保存安定性の観点から、カルボキシ基を有するポリマーのモノマー成分として用いられる。片末端に存在する重合性官能基としては、アクリロイルオキシ基又はメタクリロイルオキシ基が好ましく、メタクリロイルオキシ基がより好ましい。
(b)マクロマーの数平均分子量は500〜100,000が好ましく、1,000〜10,000がより好ましい。なお、数平均分子量は、溶媒として1mmol/Lのドデシルジメチルアミンを含有するクロロホルムを用いたゲルクロマトグラフィー法により、標準物質としてポリスチレンを用いて測定される。
(c)マクロマーとしては、アニオン性ポリマー粒子のインク中での分散安定性の観点から、芳香族基含有モノマー系マクロマー及びシリコーン系マクロマーが好ましく、芳香族基含有モノマー系マクロマーがより好ましい。
芳香族基含有モノマー系マクロマーを構成する芳香族基含有モノマーとしては、前記(b)疎水性モノマーで記載した芳香族基含有モノマーが挙げられ、スチレン及びベンジル(メタ)アクリレートが好ましく、スチレンがより好ましい。
スチレン系マクロマーの具体例としては、AS−6(S)、AN−6(S)、HS−6(S)(東亞合成株式会社の商品名)等が挙げられる。
シリコーン系マクロマーとしては、片末端に重合性官能基を有するオルガノポリシロキサン等が挙げられる。
【0019】
〔(d)ノニオン性モノマー〕
モノマー混合物には、更に、(d)ノニオン性モノマー(以下「(d)成分」ともいう)が含有されていてもよい。
(d)成分としては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(n=2〜30、nはオキシアルキレン基の平均付加モル数を示す。以下同じ)(メタ)アクリレート等のポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(1〜30)(メタ)アクリレート等のアルコキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシ(エチレングリコール・プロピレングリコール共重合)(1〜30、その中のエチレングリコール:1〜29)(メタ)アクリレート等が挙げられ、なかでもポリプロピレングリコール(n=2〜30)(メタ)アクリレート、フェノキシ(エチレングリコール・プロピレングリコール共重合)(メタ)アクリレートが好ましく、これらを併用することがより好ましい。
【0020】
商業的に入手しうる(d)成分の具体例としては、新中村化学工業株式会社のNKエステルM−20G、同40G、同90G等、日油株式会社のブレンマーPE−90、同200、同350、PME−100、同200、同400等、PP−500、同800等、AP−150、同400、同550等、50PEP−300、50POEP−800B、43PAPE−600B等が挙げられる。
【0021】
ビニル系ポリマー製造時における、上記(a)〜(c)成分のモノマー混合物中における含有量(未中和量としての含有量。以下同じ)又はビニル系ポリマー中における(a)〜(c)成分に由来する構成単位の含有量は、次のとおりである。
(a)成分の含有量は、顔料含有ポリマー粒子を水分散体中で安定に分散させ、エポキシ架橋剤との反応を十分に行う観点から、好ましくは3〜40重量%、より好ましくは4〜30重量%、特に好ましくは5〜25重量%である。
(b)成分の含有量は、水分散体及びその水分散体を含むインクの印字濃度向上の観点から、好ましくは5〜98重量%、より好ましくは10〜80重量%である。
(c)成分の含有量は、顔料含有ポリマー粒子の水分散体中での分散安定性の観点から、好ましくは1〜25重量%、より好ましくは5〜20重量%である。
また、〔(a)成分/[(b)成分+(c)成分]〕の重量比は、顔料含有ポリマー粒子の水分散体中での分散安定性、及び水分散体及びその水分散体を含むインクの印字濃度の観点から、好ましくは0.01〜1、より好ましくは0.02〜0.67、更に好ましくは0.03〜0.50である。
【0022】
(カルボキシ基を有するポリマーの製造)
前記カルボキシ基を有するポリマーは、モノマー混合物を公知の重合法により共重合させることによって製造される。重合法としては溶液重合法が好ましい。
溶液重合法で用いる溶媒に制限はないが、炭素数1〜3の脂肪族アルコール、ケトン類、エーテル類、エステル類等の極性有機溶媒が好ましく、具体的にはメタノール、エタノール、アセトン、メチルエチルケトンが挙げられ、メチルエチルケトンが好ましい。
重合の際には、重合開始剤や重合連鎖移動剤を用いることができるが、重合開始剤としては、2,2'−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)が好ましく、重合連鎖移動剤としては、2−メルカプトエタノールが好ましい。
好ましい重合条件は、重合開始剤の種類等によって異なるが、重合温度は50〜80℃が好ましく、重合時間は1〜20時間であることが好ましい。また、重合雰囲気は、窒素ガス雰囲気、アルゴン等の不活性ガス雰囲気であることが好ましい。
重合反応の終了後、反応溶液から再沈澱、溶媒留去等の公知の方法により、生成したポリマーを単離することができる。また、得られたポリマーは、再沈澱、膜分離、クロマトグラフ法、抽出法等により、未反応のモノマー等を除去することができる。
本発明で用いられるカルボキシ基を有するポリマーの重量平均分子量は、顔料含有ポリマー粒子の水分散体中での分散安定性と、水分散体及びその水分散体を含むインクの印字濃度の観点から、5,000〜50万が好ましく、1万〜40万がより好ましく、1万〜30万がより好ましく、2万〜20万が更に好ましい。なお、重量平均分子量は、実施例記載の方法により測定される。
【0023】
[カルボキシ基を有するポリマーに顔料が含有されたポリマー粒子の製造]
カルボキシ基を有するポリマーに顔料が含有されたポリマー粒子は、下記の工程(1)及び(2)を有する方法により、それを含む水分散体として効率的に製造することができる。
工程(1):カルボキシ基を有するポリマー、有機溶媒、顔料、及び水を含有する混合物を分散処理して、カルボキシ基を有するポリマーに顔料が含有されたポリマー粒子の分散体を得る工程
工程(2):工程(1)で得られた分散体から前記有機溶媒を除去して、カルボキシ基を有するポリマーに顔料が含有されたポリマー粒子の水分散体を得る工程
【0024】
工程(1)
工程(1)では、まず、カルボキシ基を有するポリマーを有機溶媒に溶解させ、次に顔料、水、及び必要に応じて中和剤、界面活性剤等を加えて混合し、水中油型の分散体を得る方法が好ましい。添加順序に制限はないが、中和剤、水、顔料の順に加えることが好ましい。
カルボキシ基を有するポリマーを溶解させる有機溶媒に制限はないが、炭素数1〜3の脂肪族アルコール、ケトン類、エーテル類、エステル類等が好ましく、メチルエチルケトンが好ましい。カルボキシ基を有するポリマーを溶液重合法で合成した場合には、重合で用いた溶媒をそのまま用いてもよい。
中和剤を用いる場合、pHが7〜11であるように中和することが好ましい。中和剤としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、各種アミン等の塩基が挙げられる。また、カルボキシ基を有するポリマーを予め中和しておいてもよい。
カルボキシ基を有するポリマーのカルボキシ基の中和度は、分散安定性の観点から、10〜300%であることが好ましく、20〜200%がより好ましく、30〜150%が更に好ましい。
ここで中和度とは、中和剤のモル当量をカルボキシ基を有するポリマーのカルボキシ基のモル量で除したものである。
前記混合物中、顔料は、5〜50重量%が好ましく、10〜40重量%がより好ましく、有機溶媒は、10〜70重量%が好ましく、10〜50重量%がより好ましく、カルボキシ基を有するポリマーは、2〜40重量%が好ましく、3〜20重量%がより好ましく、水は、10〜70重量%が好ましく、20〜70重量%がより好ましい。
前記カルボキシ基を有するポリマーの量に対する顔料の量の重量比〔顔料/カルボキシ基を有するポリマー〕は、分散安定性の観点から、50/50〜90/10であることが好ましく、70/30〜85/15であることがより好ましい。
【0025】
工程(1)における混合物の分散方法に特に制限はない。本分散だけでカルボキシ基を有する顔料含有ポリマー粒子の平均粒径を所望の粒径となるまで微粒化することもできるが、好ましくは予備分散させた後、さらに剪断応力を加えて本分散を行い、顔料含有ポリマー粒子の平均粒径を所望の粒径とするよう制御することが好ましい。
工程(1)の分散における温度は、5〜50℃が好ましく、10〜35℃がより好ましく、分散時間は1〜30時間が好ましく、2〜25時間がより好ましい。
混合物を予備分散させる際には、アンカー翼、ディスパー翼等の一般に用いられている混合撹拌装置、なかでも高速撹拌混合装置が好ましい。
本分散の剪断応力を与える手段としては、例えば、ロールミル、ニーダー等の混練機、マイクロフルイダイザー(Microfluidics 社、商品名)等の高圧ホモジナイザー、ペイントシェーカー、ビーズミル等のメディア式分散機が挙げられる。市販のメディア式分散機としては、ウルトラ・アペックス・ミル(寿工業株式会社製、商品名)、ピコミル(浅田鉄工株式会社製、商品名)等が挙げられる。これらの装置は複数を組み合わせることもできる。これらの中では、顔料をカルボキシ基を有するポリマーで分散した顔料含有ポリマー粒子を小粒子径化する観点から、高圧ホモジナイザーが好ましい。
【0026】
工程(2)
工程(2)では、工程(1)で得られた分散体から、公知の方法で有機溶媒を除去することで、カルボキシ基を有するポリマーに顔料が含有されたポリマー粒子(顔料含有ポリマー粒子)の水分散体を得ることができる。得られた顔料含有ポリマー粒子を含む水分散体中の有機溶媒は実質的に除去されていることが好ましいが、本発明の目的を損なわない限り、残存していてもよく、架橋工程を後に行う場合は、必要により架橋後に再除去すればよい。残留有機溶媒の量は0.1重量%以下が好ましく、0.01重量%以下であることがより好ましい。
また必要に応じて、有機溶媒を留去する前に分散体を加熱撹拌処理することもできる。
得られた顔料含有ポリマー粒子の水分散体は、顔料を含有する該ポリマーの固体分が水を主媒体とする中に分散しているものである。
【0027】
[インクジェット記録用水分散体の製造]
(エポキシ架橋剤)
本発明の製造方法で用いられるエポキシ架橋剤は、ポリマー、特に水不溶性ポリマーの表面を効率よく架橋する観点から、25℃の純水90部にエポキシ架橋剤10部を添加したときの溶解率(%)(以下、「水への溶解率」ともいう)が30%以下のものである。該水への溶解率は、添加したエポキシ架橋剤10部のうち水に溶解した部分を百分率で表した値である。該水への溶解率は、好ましくは20%以下、より好ましくは10%以下、更に好ましくは5%以下である。
また、エポキシ架橋剤の分子量は、反応のし易さ及び水分散体の保存安定性の観点から、好ましくは120〜2000、より好ましくは150〜1500、更に好ましい150〜1000である。
水への溶解率が30%以下のエポキシ架橋剤としては、その分子中に、ポリオール構造と、カルボキシ基を有するポリマーのカルボキシ基と主として反応するエポキシ基を2以上有する化合物が好ましい。エポキシ基の数は、2〜6個がより好ましく、2〜3個が更に好ましく、2個が特に好ましい。
【0028】
水への溶解率が30%以下のエポキシ架橋剤の好適例としては、ポリオール構造と2以上のグリシジル基を有するエポキシ化合物が挙げられる。
具体的には、トリメチロールプロパン構造と2以上のグリシジル基を有するエポキシ化合物、及び水添ビスフェノールA構造と2個のグリシジル基を有するエポキシ化合物が好ましく、水添ビスフェノールA構造と2個のグリシジル基を有するエポキシ化合物がより好ましい。
これらの市販品としては、ナガセケムテックス株式会社製のデナコールEX622(ソルビトールポリグリシジルエーテル、エポキシ当量191、水への溶解率0%)、同EX411(ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、エポキシ当量229、水への溶解率0%)、同EX321(トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、エポキシ当量140、水への溶解率27%)、同EX321L(トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、エポキシ当量129、水への溶解率27%)、同EX201(レゾルシノールジグリシジルエーテル、エポキシ当量117、水への溶解率0%)、同EX211(ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、エポキシ当量138、水への溶解率0%)、同EX212(1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、エポキシ当量151、水への溶解率0%)、同EX252(水添ビスフェノールAジグリシジルエーテル、エポキシ当量213、水への溶解率0%)、同EX931(ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、エポキシ当量471、水への溶解率0%)等が挙げられる。これらの中でも、デナコールEX321L及びEX252が好ましく、デナコールEXEX252がより好ましい。
【0029】
架橋剤の使用量は、水分散体の保存安定性の観点から、〔架橋剤/カルボキシ基を有するポリマー〕の重量比で0.3/100〜50/100が好ましく、1/100〜40/100がより好ましく、2/100〜30/100が更に好ましく、5/100〜25/100が特に好ましい。
また、架橋剤の使用量は、該カルボキシ基を有するポリマー1g当たりのカルボキシ基量換算で、該ポリマーのカルボキシ基0.1〜20mmolと反応する量であることが好ましく、0.5〜15mmolと反応する量であることがより好ましく、1〜10mmolと反応する量であることが更に好ましい。
【0030】
(架橋工程)
本発明の製造方法においては、顔料含有ポリマー粒子を含む水分散体に、水への溶解率が30%以下のエポキシ架橋剤を2回以上又は連続して添加する工程を有することによって、カルボキシ基を有する架橋ポリマーに顔料が含有されたポリマー粒子を含む水分散体とすることができる。
カルボキシ基を有するポリマーの架橋処理は、前記工程(2)の有機溶媒を除去する前又は後に行うことができるが、有機溶媒を除去した後に行うことがより好ましい。
架橋工程においては、エポキシ架橋剤の全添加量が該カルボキシ基に対してエポキシ基換算で10〜80モル%であり、かつエポキシ架橋剤の全添加量の80モル%(エポキシ基換算)が添加された時点における、25℃におけるpH(B)と、エポキシ架橋剤を添加する前の25℃におけるpH(A)の差〔pH(B)−pH(A)〕が0.2を超える、すなわち下記式(1)を満たすようにエポキシ架橋剤を添加する。
〔pH(B)−pH(A)〕>0.2 (1)
【0031】
本発明において、前記式(1)の条件を満たすように架橋を行うための具体的な操作方法を以下に示す。ただし、いずれも全添加量がカルボキシ基に対してエポキシ基換算で10〜80モル%である必要がある。
(1)エポキシ架橋剤を徐々に添加し、架橋反応を進行させながら、顔料含有ポリマー粒子を含有する水分散体のpHを追跡する方法。ポリマーのカルボキシ基と架橋剤のエポキシ基が反応するため、徐々にpHが上昇する。pHが、架橋剤添加前のpHに比べて、0.2を越えた時点を全添加量の80モル%とし、残り20モル%を添加する方法。
(2)架橋剤の一定量を一度に添加し、架橋反応を進行させ、pHが、架橋剤添加前のpHに比べて、0.2を超えたことを確認して、残量の架橋剤を一度に添加する方法。ただし、最初に添加する架橋剤の量は全添加量の80モル%未満である必要がある。
(3)送液ポンプ等により、架橋剤を連続して添加しながら、同時に架橋反応を進行させ、エポキシ架橋剤の全添加量の80モル%が添加される前に、pHが、架橋剤添加前のpHに比べて、0.2を超えたことを確認して、更に残りの架橋剤を連続して添加する方法。
【0032】
一方、前記式(1)を満たさない例を以下に示す。
(1)架橋剤の全添加量全てを一度に添加する場合。この場合には、架橋剤を添加した時点が、架橋剤の全添加量の80モル%が添加された時点であり、pHが、架橋剤添加前のpHと同じであるため、前記式(1)を満たさない。
(2)架橋剤の少量を添加し、架橋反応を進行させたが、pHが架橋剤添加前のpH(A)に比べ、0.2を超えなかった。その時点で残量の架橋剤を一度に後添加する場合。この場合には、後添加の時点で架橋剤の全添加量が添加されるため、後添加の時点が、エポキシ架橋剤の全添加量の80モル%が添加された時点となり、前記式(1)を満たさない。
(3)架橋剤の一定量(全添加量の80モル%未満)を一度に添加し、架橋反応を十分に進行させずに、pHが、架橋剤添加前のpH(A)に比べて、0.2を超えない時点で、残量の架橋剤を一度に後添加する場合。この場合には、後添加の時点で架橋剤の全添加量が添加されるため、後添加の時点が、エポキシ架橋剤の全添加量の80モル%が添加された時点となり、前記式(1)を満たさない。
【0033】
エポキシ架橋剤の添加は、例えば、3回以上に分割して行うこともでき、また、pHを測定しながら継続的に滴下していくこともできる。
エポキシ架橋剤を添加する前の25℃における初期pH(A)は、7〜10であることが好ましく、8〜9であることがより好ましい。
また、エポキシ架橋剤を添加した後の25℃におけるpH(B)のうち、エポキシ架橋剤の全添加量のエポキシ基換算80%の量を添加する時点の25℃におけるpHは、8〜11であることが好ましく、8〜10であることがより好ましい。
式(1)における〔B−A〕の値は0.2を超えるが、0.25以上が好ましく、0.3以上がより好ましく、0.33以上が更に好ましい。その上限は、2.0以下が好ましく、1.5以下がより好ましく、1.2以下が更に好ましい。
【0034】
架橋処理して得られた架橋ポリマーは、架橋ポリマー1g当たり、塩基で中和されたカルボキシ基を0.5mmol以上含有することが好ましい。かかる架橋ポリマーは、水分散体中で解離して、アニオン同士の電荷反発により、顔料を含有する架橋顔料含有ポリマー粒子の安定性に寄与すると考えられる。
ここで、下記式(2)から求められる架橋ポリマーの架橋率(モル%)は、10〜90モル%であり、より好ましくは20〜70モル%、更に好ましくは30〜60モル%である。架橋率は、架橋剤の使用量と反応性基のモル数、ポリマーの使用量と架橋剤の反応性基と反応できるポリマーの反応性基のモル数から計算で求めることができる。
架橋率(モル%)=[架橋剤の反応性基のモル数/ポリマーが有する架橋剤と反応できる反応性基のモル数]×100 (2)
式(2)において、「架橋剤の反応性基のモル数」とは、使用する架橋剤の重量を反応性基の当量で除した値である。即ち、使用する架橋剤のモル数に架橋剤1分子中の反応性基の数を乗じたものである。
【0035】
[インクジェット記録用水分散体]
本発明により得られた水分散体には、乾燥防止のために、保湿剤、有機溶媒を添加することができ、また、水系インクに通常用いられる湿潤剤、浸透剤、分散剤、界面活性剤、粘度調整剤、消泡剤、防腐剤、防黴剤、防錆剤等を添加して、そのまま水系インクとして用いることもできる。
本発明の水分散体中の各成分の含有量は、下記のとおりである。
本発明の製造方法で得られる水分散体に含まれる顔料の水分散体中での含有量は、印字濃度を高める観点から、好ましくは2〜35重量%、より好ましくは3〜30重量%、更に好ましくは5〜25重量%である。
水の含有量は、好ましくは20〜90重量%,より好ましくは30〜80重量%、更に好ましくは40〜70重量%である。
本発明の水分散体の好ましい表面張力(20℃)は、30〜70mN/m、より好ましくは35〜65mN/mである。
本発明の水分散体の20重量%(固形分)の粘度(20℃)は、好ましくは1〜12mPa・s、より好ましくは1〜9mPa・s、より好ましくは2〜6mPa・s、更に好ましくは2〜5mPa・sである。
【0036】
[インクジェット記録用水系インク]
本発明のインクジェット記録用水系インクは、本発明の製造方法で得られた水分散体を含有するものであるが、水系インクに通常用いられる湿潤剤、浸透剤、分散剤、界面活性剤、粘度調整剤、消泡剤、防腐剤、防黴剤、防錆剤等を添加することができる。
本発明の水系インク中の各成分の含有量は、下記のとおりである。
本発明の水系インクに用いられるカルボキシ基を有する有機顔料含有ポリマー粒子に含まれる有機顔料の含有量は、水系インクの印字濃度を高める観点から、水系インク中で、好ましくは1〜25重量%、より好ましくは2〜20重量%、より好ましくは4〜15重量%、更に好ましくは5〜12重量である。
水の含有量は、好ましくは20〜90重量%、より好ましくは30〜80重量%、更に好ましくは40〜70重量%である。
本発明の水系インクの好ましい表面張力(20℃)は、23〜50mN/m、より好ましくは23〜45mN/m、更に好ましくは25〜40mN/mである。
本発明の水系インクの粘度(20℃)は、良好な吐出信頼性を維持するために、好ましくは2〜20mPa・sであり、より好ましくは2.5〜16mPa・s、更に好ましくは2.5〜12mPa・sである。
本発明の水系インクを適用するインクジェットの方式は制限されないが、ピエゾ方式のインクジェットプリンターに特に好適である。
【0037】
[インクジェット記録方法]
本発明のインクジェット記録方法は、前記の製造方法で得られた水分散体を含有するインクジェット記録用水系インクを、吐出面がニッケル−フッ素系樹脂メッキされたインクジェットノズルプレートを有するインクジェット記録装置から吐出することを特徴とする。
インクジェットノズルプレートには、裏面側に大きく開口した漏斗状部分と、表面側に狭く開口したオリフィス部分とからなる複数のノズル孔が設けられている。本発明における「吐出面」とは、このノズル孔とその周囲の部分の吐出面を意味する。
インクジェットノズルプレートは、各種の金属、セラミックス、感光性樹脂等で形成される。その吐出面は、インクの撥液性の観点から、ニッケル−フッ素系樹脂を用いた共析メッキによる撥水処理が施されていることが好ましい。
【0038】
ノズル吐出面の撥水処理は、例えば、特開平5−116327号公報に記載の方法により行うことができる。すなわち、インク吐出ノズルを形成したニッケル電鋳プレートを、フッ素系樹脂を約20%の濃度で分散させたニッケルメッキ液中で電解メッキすることにより、ニッケル−フッ素系樹脂を用いた共析メッキによる撥水処理を行うことができる。
フッ素系樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリパーフルオロアルコキシブタジェン、ポリフルオロビニリデン、ポリフルオロビニル、ポリジパーフルオロアルキルフマレート等が挙げられるが、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)がより好ましい。
インクジェットノズルの吐出面がニッケル−フッ素系樹脂メッキされていることにより、本発明の撥液効果を十分に発揮することができる。なお、インクジェット記録方法のその他の構成については特に制限はなく、公知の手法を採用することができる。
【実施例】
【0039】
以下の製造例、実施例及び比較例において、「部」及び「%」は特記しない限り「重量部」及び「重量%」である。
なお、ポリマーの重量平均分子量、水分散体の平均粒径及びpHの測定は以下の方法により行い、水系インクについて、以下の方法により撥液性を評価した。
【0040】
(1)カルボキシ基を有するポリマーの重量平均分子量の測定
N,N−ジメチルホルムアミドに、リン酸及びリチウムブロマイドをそれぞれ60mmol/Lと50mmol/Lの濃度となるように溶解した液を溶媒として、ゲルクロマトグラフィー法〔東ソー株式会社製GPC装置(HLC−8120GPC)、東ソー株式会社製カラム(TSK−GEL、α−M×2本)、流速:1mL/min〕により、標準物質としてポリスチレンを用いて測定した。
(2)水分散体中の粒子の平均粒径の測定
大塚電子株式会社のレーザー粒子解析システムELS−8000(キュムラント解析)を用いて測定した。測定する粒子の濃度を、約5×10-3重量%なるよう水で希釈した分散液を用いた。測定条件は、温度25℃、入射光と検出器との角度90°、積算回数100回であり、分散溶媒の屈折率として水の屈折率(1.333)を入力した。
【0041】
(3)水分散体のpHの測定
pHメーター(堀場製作所製、商品名、pH/ION METER F−23、pH電極:6367−10D型)を用いて測定した。測定条件は、温度25℃である。
(4)撥液性の評価
ニッケル−ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)共析メッキ処理して、吐出面に撥水膜を形成したインクジェットノズルプレートを水系インクに浸漬し、60℃で5日保存した。その後、そのノズルプレートを水系インク中から取り出し、撥液時間を測定した。
ここで、撥液時間とは、ノズルプレートをインク中から取り出し、撥水膜面が水平面から60°の角度になるようにして25℃で静置したとき、インクが弾かれて撥水膜面上に存在するインクの80%が露出するまでの、インクから取り出した瞬間からの時間をいう。撥液時間は、数値が小さいほど良好である。
【0042】
調製例1(顔料含有カルボキシ基含有ポリマー粒子の水分散体(A−1)の調製)
(1)カルボキシ基を有するポリマーの合成
ベンジルアクリレート47部、スチレンマクロマー(東亜合成株式会社製、商品名:AS−6S、数平均分子量:6000)20部、メタクリル酸13部、ポリプロピレングリコールモノメタクリレート(プロピレンオキシド平均付加モル数=12、末端水酸基、日油株式会社製、商品名:ブレンマーPP−800)10部、ステアリルメタクリレート8部、2−エチルヘキシルメタクリレート2部、フェノキシポリ(エチレングリコール(n=1〜15)・プロピレングリコール(n=1〜15))(メタ)アクリレート(日油株式会社製、商品名:ブレンマー43PAPE600B)10部を混合し、モノマー混合液を調製した。反応容器内に、メチルエチルケトン29.7部及び重合連鎖移動剤(2−メルカプトエタノール)0.09部、前記モノマー混合液の10%を入れて混合し、窒素ガス置換を十分に行った。
一方、滴下ロートに、モノマー混合液の残りの80%と前記重合連鎖移動剤0.63部とメチルエチルケトン183.6部及び重合開始剤(和光純薬工業株式会社製、商品名:V−65、2,2'−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル))4.8部を入れて混合したものを入れ、窒素雰囲気下、反応容器内の混合溶液を撹拌しながら75℃まで昇温し、滴下ロート中の混合溶液を3時間かけて滴下した。滴下終了後、滴下ロートに、モノマー混合液の残りの20%と前記重合開始剤0.18部をメチルエチルケトン56.7部及び前記重合開始剤1.2部を入れて混合したものを入れ、滴下ロート中の混合溶液を2時間かけて滴下した。更に75℃で、前記重合開始剤0.9部とメチルエチルケトン40.5部の混合溶液を1時間かけて滴下することを3回繰り返した。80℃で2時間熟成させ、ポリマー溶液(固形分濃度:44.5重量%、ポリマーの重量平均分子量:165000)を得た。
(2)顔料含有ポリマー粒子の水分散体(A−1)の調製
上記(1)で得られたポリマー溶液4494部にメチルエチルケトン890部を添加し、得られたポリマーのメチルエチルケトン溶液に、イオン交換水1654部、5N水酸化ナトリウム溶液364部及び25%アンモニア溶液62部を添加し、ディスパー翼で15分間混合した後、更にカーボンブラック顔料(キャボット社製、商品名:モナーク880)3000部を加え、ディスパー翼で20℃で3時間混合した。得られた混合物をマイクロフルイダイザー(Microfluidics 社製、高圧ホモジナイザー、商品名、型式M-140K)で、150MPaの圧力で20パス分散処理した。
得られた分散液を、減圧下35℃でメチルエチルケトンを除去し、更に一部の水を除去し、遠心分離した後、液層部分を孔径5μmのフィルター(Sartorius Stedim Biotech社製)で濾過して、顔料をカルボキシ基を有するポリマーで分散した顔料含有ポリマー粒子の水分散体〔固形分濃度:22%、平均粒径90nm〕を得た。
【0043】
実施例1(インクジェット記録用水分散体の製造)
調製例1で得られた顔料含有ポリマー粒子の水分散体300g(25℃におけるpH:8.04)に、エポキシ架橋剤(トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、商品名:デナコールEX321L、エポキシ当量129、水への溶解率27%、ナガセケムテックス株式会社製)1.4gを加えて(1回目添加)、90℃温浴で、撹拌しながら2時間保持した。冷却後、孔径5μmのフィルター(Sartorius Stedim Biotech社製)で濾過して粗大粒子を除き、平均粒径90nmのインクジェット記録用水分散体(25℃におけるpH:8.40)を得た。得られた水分散体75gに、前記エポキシ架橋剤(デナコールEX321L)0.34gを加えて(2回目添加)、90℃温浴で、撹拌しながら2時間保持した。冷却後、前記孔径5μmのフィルターで濾過して、平均粒径90nmのインクジェット記録用水分散体を得た。
なお、1回目で添加したエポキシ架橋剤は顔料含有ポリマー粒子のカルボキシ基に対して20モル%であり、2回目で添加したエポキシ架橋剤は顔料含有ポリマー粒子のカルボキシ基に対して20モル%であるため、1回目添加ではエポキシ架橋剤の全添加量のエポキシ基換算で50モル%の量、2回目添加ではエポキシ架橋剤のエポキシ基換算で50モル%の量(残量)を添加した。
【0044】
実施例2(インクジェット記録用水分散体の製造)
実施例1の1回目添加において、エポキシ架橋剤(デナコールEX321L)に替えて、エポキシ架橋剤(水添ビスフェノールAジグリシジルエーテル、商品名:デナコールEX252、エポキシ当量213、水への溶解率0%、ナガセケムテックス株式会社製)2.4gを加えた以外は実施例1と同様の操作を行い、インクジェット記録用水分散体を得た。
なお、1回目で添加したエポキシ架橋剤は顔料含有ポリマー粒子のカルボキシ基に対して20モル%であり、2回目で添加したエポキシ架橋剤は顔料含有ポリマー粒子のカルボキシ基に対して20モル%であるため、1回目添加ではエポキシ架橋剤の全添加量のエポキシ基換算で50モル%の量、2回目添加ではエポキシ架橋剤のエポキシ基換算で50モル%の量(残量)を添加した。
【0045】
比較例1(インクジェット記録用水分散体の製造)
調製例1で得られた顔料含有ポリマー粒子の水分散体300g(25℃におけるpH:8.04)に、エポキシ架橋剤(デナコールEX321L)2.8gを加えて、90℃温浴で、撹拌しながら4時間保持した。冷却後、前記孔径5μmのフィルターで濾過して、平均粒径90nmのインクジェット記録用水分散体を得た。
比較例2(インクジェット記録用水分散体の製造)
調製例1で得られた顔料含有ポリマー粒子の水分散体300g(25℃におけるpH:8.04)に、エポキシ架橋剤(デナコールEX252)4.8gを加えて、90℃温浴で、撹拌しながら4時間保持した。冷却後、前記孔径5μmのフィルターで濾過して、平均粒径90nmのインクジェット記録用水分散体を得た。
比較例3(インクジェット記録用水分散体の製造)
調製例1で得られた顔料含有ポリマー粒子の水分散体300g(25℃におけるpH:8.04)に、エポキシ架橋剤(商品名:デナコールEX810、エポキシ当量113、水への溶解率100%、ナガセケムテックス株式会社製)2.5gを加えて、90℃温浴で、撹拌しながら4時間保持した。冷却後、前記孔径5μmのフィルターで濾過して、平均粒径90nmのインクジェット記録用水分散体を得た。
【0046】
実施例3〔水系インクの製造〕
トリエチレングリコールモノブチルエーテル(和光純薬株式会社製)1.5部、2−ピロリドン(和光純薬工業株式会社製)3.0部、トリエタノールアミン(キシダ化学株式会社製)1.0部、グリセリン(花王株式会社製)29.0部、トリメチロールプロパン(和光純薬工業株式会社製)4.0部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム二水和物(シグマアルドリッチ製)0.05部、ベンゾトリアゾール(和光純薬工業株式会社製)0.01部、消泡剤No8(花王株式会社製)1.0部及びイオン交換水をマグネチックスターラーで撹拌しながら混合し、更に室温で15分間撹拌して、混合溶液を得た。ここでイオン交換水の配合量は、混合溶液と実施例1で得られたインクジェット記録用水分散体を加えた全量が100部となるように調整した量である。
次に実施例1で得られたインクジェット記録用水分散体8.4部(顔料分換算4.6部(水系インク中))をマグネチック・スターラーで撹拌しながら、前記混合溶液を添加し、前記孔径5μmのフィルターで濾過し、水系インクを得た。撥液性評価における撥液時間は3秒であった。
【0047】
実施例4、比較例4〜6〔水系インクの製造〕
実施例4、及び比較例4〜6で得られたインクジェット記録用水分散体を用いて、実施例1と同様にして水系インクを得た。撥液性評価における撥液時間の結果を表1に示す。
【0048】
【表1】

【0049】
表1から、実施例の水分散体及び水系インクは、比較例の水分散体及び水系インクに比べて、撥液性が格段に優れていることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料含有ポリマー粒子を含む水分散体にエポキシ架橋剤を2回以上又は連続して添加する工程を有する水分散体の製造方法であって、下記条件(i)〜(iv)を満たすインクジェット記録用水分散体の製造方法。
(i)顔料含有ポリマー粒子が、カルボキシ基を有するポリマーに顔料が含有されたポリマー粒子である。
(ii)エポキシ架橋剤が、25℃の純水90部に該エポキシ架橋剤10部を添加したときの溶解率が30%以下のものである。
(iii)エポキシ架橋剤の全添加量がカルボキシ基に対して10〜90モル%(エポキシ基換算)である。
(iv)エポキシ架橋剤の全添加量の80モル%(エポキシ基換算)が添加された時点の25℃におけるpH(B)と、エポキシ架橋剤を添加する前の25℃におけるpH(A)の差〔pH(B)−pH(A)〕が0.2を超える。
【請求項2】
エポキシ架橋剤が、トリメチロールプロパン構造と2以上のグリシジル基を有するエポキシ化合物、及び水添ビスフェノールA構造と2つのグリシジル基を有するエポキシ化合物から選ばれる1種以上のエポキシ化合物である、請求項1に記載のインクジェット記録用水分散体の製造方法。
【請求項3】
カルボキシ基を有するポリマーが水不溶性ポリマーである、請求項1又は2に記載のインクジェット記録用水分散体の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法により得られる水分散体を含有する、インクジェット記録用水系インク。
【請求項5】
請求項4に記載の水系インクを、吐出面がニッケル−フッ素系樹脂メッキされたインクジェットノズルプレートを有するインクジェット記録装置から吐出する、インクジェット記録方法。

【公開番号】特開2011−137055(P2011−137055A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−296108(P2009−296108)
【出願日】平成21年12月25日(2009.12.25)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】