説明

インクジェット記録用水性インクおよびインクカートリッジ

【課題】自己分散型顔料を含むインクジェット記録用水性インクであって、耐擦性に優れるインクジェット記録用水性インクを提供する。
【解決手段】着色剤、水および水溶性有機溶剤を含むインクジェット記録用水性インクであって、前記着色剤が、自己分散型顔料を含み、前記水性インクが、さらに、化学式(1)で表されるリン脂質化合物を含み、前記リン脂質化合物の固形分配合量が、前記水性インク全量に対して、0.2重量%〜1.3重量%であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録用水性インクおよびインクカートリッジに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録用水性インクにおいて、自己分散型顔料が使用されることがある。前記自己分散型顔料は、高分子顔料分散剤を必要としないことから、水性インクの粘度上昇を防止でき、取り扱い性に優れる。また、自己分散型顔料は、顔料に、スルホン酸基、カルボン酸基またはリン酸基のような親水基またはその塩を少なくとも一種結合させるように処理をすることによって得ることができる(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2008−524400号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、自己分散型顔料を用いた水性インクには、耐擦性が良好ではないという問題がある。
【0005】
そこで、本発明は、自己分散型顔料を含む水性インクであって、耐擦性に優れるインクジェット記録用水性インクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために、本発明のインクジェット記録用水性インクは、着色剤、水および水溶性有機溶剤を含むインクジェット記録用水性インクであって、
前記着色剤が、自己分散型顔料を含み、
前記水性インクが、さらに、化学式(1)で表されるリン脂質化合物を含み、
前記リン脂質化合物の固形分配合量が、前記水性インク全量に対して、0.2重量%〜1.3重量%であることを特徴とする。
【化1】

化学式(1)において、
およびRは、それぞれ、水素原子またはメチル基であり、RおよびRは同一でも異なっていてもよく、
、RおよびRは、それぞれ、水素原子、炭素原子数1〜6のアルキル基またはヒドロキシアルキル基であり、R、RおよびRは同一でも異なっていてもよく、
pは、1〜10の整数であり、
qは、1〜4の整数であり、
は、疎水基であり、
mおよびnは、それぞれ、正の整数である。
【発明の効果】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明者等は、一連の研究を重ねたところ、自己分散型顔料を着色剤として用いた場合、さらに、前記所定量の化学式(1)で表されるリン脂質化合物を含ませれば、耐擦性に優れることを見出し本発明に想到した。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は、インクジェット記録装置の構成の一例を示す概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のインクジェット記録用水性インク(以下、単に「水性インク」または「インク」と言うことがある)について説明する。本発明の水性インクは、着色剤、水および水溶性有機溶剤を含む。前述のとおり、前記着色剤は、自己分散型顔料を含む。前記自己分散型顔料は、例えば、顔料粒子にスルホン酸基、カルボン酸基、リン酸基等の親水性官能基およびそれらの塩の少なくとも一種が、直接または他の基を介して化学結合により導入されていることによって、分散剤を使用しなくても水に分散可能なものである。本発明の水性インクは、自己分散型顔料を使用しているため、高分子顔料分散剤に起因する粘度上昇の問題が無く、かつ、取り扱い性に優れる。
【0010】
前記自己分散型顔料は、スルホン酸基により修飾された自己分散型顔料(以下、「スルホン酸基修飾自己分散型顔料」と言うことがある)であることが好ましい。一般的に、スルホン酸基修飾自己分散型顔料を用いた水性インクは、耐擦性が良好でないことに加え、光学濃度(OD)値が低く、耐水性にも劣る。これに対し、後述のリン脂質化合物を含む本発明の水性インクは、スルホン酸基修飾自己分散型顔料を用いた場合においても、耐擦性に優れ、かつ、光学濃度(OD)値が高く、耐水性にも優れる。
【0011】
前記自己分散型顔料は、例えば、特開平8−3498号公報、特表2000−513396号公報、特表2009−515007号公報等に記載の方法によって処理された自己分散型顔料を用いることができる。前記自己分散型顔料の原料として用いることができる顔料としては、例えば、カーボンブラック、無機顔料および有機顔料等があげられる。前記カーボンブラックとしては、例えば、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等があげられる。前記無機顔料としては、例えば、酸化チタン、酸化鉄系無機顔料およびカーボンブラック系無機顔料等をあげることができる。前記有機顔料としては、例えば、アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料等のアゾ顔料;フタロシアニン顔料、ペリレンおよびペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロン顔料等の多環式顔料;塩基性染料型レーキ顔料、酸性染料型レーキ顔料等の染料レーキ顔料;ニトロ顔料;ニトロソ顔料;アニリンブラック昼光蛍光顔料;等があげられる。また、これら以外の顔料として、例えば、C.I.ピグメントブラック1、6および7;C.I.ピグメントイエロー1、2、3、12、13、14、15、16、17、55、78、150、151、154、180、185および194;C.I.ピグメントオレンジ31および43;C.I.ピグメントレッド2、3、5、6、7、12、15、16、48、48:1、53:1、57、57:1、112、122、123、139、144、146、149、166、168、175、176、177、178、184、185、190、202、221、222、224および238;C.I.ピグメントバイオレット196;C.I.ピグメントブルー1、2、3、15、15:1、15:2、15:3、15:4、16、22および60;C.I.ピグメントグリーン7および36等もあげられる。特に、前記処理を行うのに適した顔料としては、例えば、三菱化学(株)製の「MA8」および「MA100」、デグサ社製の「カラーブラックFW200」等のカーボンブラックがあげられる。
【0012】
前記自己分散型顔料は、例えば、市販品を用いてもよい。前記市販品としては、例えば、キャボット・スペシャルティ・ケミカルズ社製の「CAB−O−JET(登録商標)200」、「CAB−O−JET(登録商標)250C」、「CAB−O−JET(登録商標)260M」、「CAB−O−JET(登録商標)270Y」、「CAB−O−JET(登録商標)300」、「CAB−O−JET(登録商標)400」、「CAB−O−JET(登録商標)450C」、「CAB−O−JET(登録商標)465M」および「CAB−O−JET(登録商標)470Y」;オリエント化学工業(株)製の「BONJET(登録商標)BLACK CW−2」および「BONJET(登録商標)BLACK CW−3」;東洋インキ製造(株)製の「LIOJET(登録商標)WD BLACK 002C」;等があげられる。
【0013】
前記水性インク全量に対する前記自己分散型顔料の固形分配合量(顔料割合;顔料固形分量)は、特に限定されず、例えば、所望の光学濃度または色彩等により、適宜決定できる。前記顔料割合は、例えば、0.1重量%〜20重量%であり、好ましくは、1重量%〜10重量%であり、より好ましくは、2重量%〜8重量%である。
【0014】
前記着色剤は、前記自己分散型顔料に加え、さらに他の顔料および染料等を含んでもよい。
【0015】
前記水は、イオン交換水または純水であることが好ましい。前記水性インク全量に対する前記水の配合量(水割合)は、例えば、10重量%〜90重量%であり、好ましくは、40重量%〜80重量%である。前記水割合は、例えば、他の成分の残部としてもよい。
【0016】
前記水溶性有機溶剤としては、例えば、インクジェットヘッドのノズル先端部における水性インクの乾燥を防止する湿潤剤および記録媒体上での乾燥速度を調整する浸透剤があげられる。
【0017】
前記湿潤剤は、特に限定されず、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール等の低級アルコール;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド;アセトン等のケトン;ジアセトンアルコール等のケトアルコール;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル;ポリアルキレングリコール、アルキレングリコール、グリセリン等の多価アルコール;2−ピロリドン;N−メチル−2−ピロリドン;1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等があげられる。前記ポリアルキレングリコールは、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等があげられる。前記アルキレングリコールは、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、チオジグリコール、ヘキシレングリコール等があげられる。これらの湿潤剤は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。これらの中で、アルキレングリコール、グリセリン等の多価アルコールが好ましい。
【0018】
前記水性インク全量に対する前記湿潤剤の配合量(湿潤剤割合)は、例えば、0重量%〜95重量%であり、好ましくは、5重量%〜80重量%であり、さらに好ましくは、5重量%〜50重量%である。
【0019】
前記浸透剤は、例えば、グリコールエーテルがあげられる。前記グリコールエーテルは、例えば、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコール−n−プロピルエーテル、ジエチレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルエーテル、ジエチレングリコール−n−プロピルエーテル、ジエチレングリコール−n−ブチルエーテル、ジエチレングリコール−n−ヘキシルエーテル、トリエチレングリコールメチルエーテル、トリエチレングリコールエチルエーテル、トリエチレングリコール−n−プロピルエーテル、トリエチレングリコール−n−ブチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールエチルエーテル、プロピレングリコール−n−プロピルエーテル、プロピレングリコール−n−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテル、ジプロピレングリコールエチルエーテル、ジプロピレングリコール−n−プロピルエーテル、ジプロピレングリコール−n−ブチルエーテル、トリプロピレングリコールメチルエーテル、トリプロピレングリコールエチルエーテル、トリプロピレングリコール−n−プロピルエーテルおよびトリプロピレングリコール−n−ブチルエーテル等があげられる。前記浸透剤は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0020】
前記水性インク全量に対する前記浸透剤の配合量(浸透剤割合)は、例えば、0重量%〜20重量%である。前記浸透剤割合を前記範囲とすることで、前記水性インクの記録媒体への浸透性を、より好適なものとできる。前記浸透剤割合は、好ましくは、0.1重量%〜15重量%であり、より好ましくは、0.5重量%〜10重量%である。
【0021】
前述のとおり、前記水性インクは、さらに、化学式(1)で表されるリン脂質化合物を含む。前記リン脂質化合物の固形分配合量(リン脂質化合物割合;リン脂質化合物固形分量)は、前記水性インク全量に対して、0.2重量%〜1.3重量%である。前記リン脂質化合物割合を0.2重量%以上とすることで、耐擦性に優れた水性インクを得ることができる。また、前記リン脂質化合物割合を1.3重量%以下とすることで、保存安定性に優れた水性インクを得ることができる。前記リン脂質化合物割合は、好ましくは、0.25重量%〜1.0重量%である。
【0022】
化学式(1)において、RおよびRは、それぞれ、水素原子またはメチル基であり、RおよびRは同一でも異なっていてもよい。
【0023】
化学式(1)において、R、RおよびRは、それぞれ、水素原子、炭素原子数1〜6のアルキル基またはヒドロキシアルキル基であり、R、RおよびRは同一でも異なっていてもよい。炭素原子数1〜6のアルキル基またはヒドロキシアルキル基は、直鎖であってもよく、分岐鎖であってもよい。前記炭素原子数1〜6のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等があげられる。前記炭素原子数1〜6のヒドロキシアルキル基としては、例えば、ヒドロキシメチル基、2−ヒドロキシエチル基、3−ヒドロキシプロピル基、2−ヒドロキシプロピル基、4−ヒドロキシブチル基、2−ヒドロキシブチル基、5−ヒドロキシペンチル基、2−ヒドロキシペンチル基、6−ヒドロキシヘキシル基、2−ヒドロキシヘキシル基等があげられる。
【0024】
化学式(1)において、pは、1〜10の整数であり、好ましくは、1〜5の整数であり、より好ましくは、2である。また、化学式(1)において、qは、1〜4の整数であり、好ましくは、2である。さらに、化学式(1)において、mおよびnは、それぞれ、正の整数である。
【0025】
化学式(1)において、Rは、疎水基である。前記疎水基としては、例えば、メチル基、エチル基、ブチル基、2−エチルヘキシル基、ラウリル基、ステアリル基、ベンジル基、フェノキシエチル基、シクロへキシル基、グリシジル基(エポキシ基)、2−ヒドロキシブチル基、4−ヒドロキシブチル基、アミノエチル基、ジメチルアミノメチル基等があげられる。
【0026】
前記リン脂質化合物は、化学式(2)で表されるリン脂質化合物であることが好ましい。
【化2】

【0027】
化学式(2)で表されるリン脂質化合物は、化学式(1)において、R、R、R、RおよびRが、それぞれ、メチル基であり、pおよびqが、それぞれ、2である態様である。化学式(2)において、Rは、化学式(1)におけるのと同様であり、ステアリル基であることが好ましい。
【0028】
前記リン脂質化合物の重量平均分子量は、1,000〜1,000,000であることが好ましい。この観点から、化学式(1)および化学式(2)において、mは、1〜6,000であることが好ましく、nは、1〜15,000であることが好ましい。
【0029】
前記リン脂質化合物は、例えば、市販品を用いてもよい。前記市販品としては、例えば、日油(株)製の「Lipidure(登録商標)−NS−PW」等があげられる。
【0030】
前記水性インクは、必要に応じて、さらに、従来公知の添加剤を含んでもよい。前記添加剤としては、例えば、界面活性剤、pH調整剤、粘度調整剤、表面張力調整剤、防黴剤等があげられる。前記粘度調整剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、セルロース、水溶性樹脂等があげられる。
【0031】
前記水性インクは、例えば、着色剤、水、水溶性有機溶剤および前記リン脂質化合物と、必要に応じて他の添加成分とを、従来公知の方法で均一に混合し、フィルタ等で不溶解物を除去することにより調製できる。
【0032】
つぎに、本発明のインクカートリッジについて説明する。本発明のインクカートリッジは、インクジェット記録用水性インクを含むインクカートリッジであって、前記水性インクが、本発明のインクジェット記録用水性インクであることを特徴とする。前記インクカートリッジの本体としては、例えば、従来公知のものを使用できる。
【0033】
本発明の水性インクを用いた記録は、例えば、つぎのようにして実施できる。本例の記録は、一般的なインクジェット記録装置を用いて実施する。一般的なインクジェット記録装置は、インク収容部およびインク吐出手段を含む。前記インクジェット記録装置のインク収容部に、本発明の水性インクを収容し、前記インク収容部に収容された本発明の水性インクを前記インク吐出手段によって吐出して記録を行う。すなわち、本発明によれば、インク収容部およびインク吐出手段を含み、前記インク収容部に収容されたインクを前記インク吐出手段によって吐出するインクジェット記録装置であって、前記インク収容部に、本発明の水性インクが収容されていることを特徴とするインクジェット記録装置が提供される。本発明の水性インクを用いた記録は、前記インクジェット記録装置のインク収容部に、本発明のインクカートリッジを収容し、本発明のインクカートリッジに含まれる本発明の水性インクを前記インク吐出手段によって吐出することで実施してもよい。前記記録は、印字、印画、印刷等を含む。
【0034】
前述のとおり、本発明の水性インクは、前記リン脂質化合物割合が0.2重量%以上である。このため、前記記録により得られる記録物は、耐擦性に優れ、記録部分が擦られてもインク擦れを生じることが少ない。また、本発明の水性インクは、前記リン脂質化合物割合が1.3重量%以下であり、保存安定性に優れる。このため、前記記録において、吐出安定性が向上する。
【0035】
また、本発明の水性インクが、スルホン酸基修飾自己分散型顔料を含む場合、耐擦性が優れることに加え、光学濃度(OD)値が高く、耐水性にも優れる。このため、前記記録により得られる記録物は、画像が鮮明であり、水で濡れても滲みを生じにくい。
【0036】
図1に示すインクジェット記録装置を用いた場合を例にとり、本発明のインクジェット記録用水性インク(本発明のインクカートリッジ)を用いたインクジェット記録方法について説明する。図1に示すインクジェット記録装置1は、4つのインクカートリッジ2と、インク吐出手段(インクジェットヘッド)3と、ヘッドユニット4と、キャリッジ5と、駆動ユニット6と、プラテンローラ7と、パージ装置8とを主要な構成部材として含む。
【0037】
前記4つのインクカートリッジ2は、イエロー、マゼンタ、シアンおよびブラックの4色の水性インクを、それぞれ1色ずつ含む。例えば、前記水性ブラックインクを含むインクカートリッジが、本発明のインクカートリッジである。前記インクジェットヘッド3は、記録紙等の記録媒体Pに記録を行う。前記ヘッドユニット4は、前記インクジェットヘッド3を備えている。前記キャリッジ5には、前記4つのインクカートリッジ2および前記ヘッドユニット4が搭載される。前記駆動ユニット6は、前記キャリッジ5を直線方向に往復移動させる。前記駆動ユニット6としては、例えば、従来公知のものを使用できる(例えば、特開2008−246821号公報参照)。前記プラテンローラ7は、前記キャリッジ5の往復方向に延び、前記インクジェットヘッド3と対向して配置されている。
【0038】
前記記録媒体Pは、このインクジェット記録装置1の側方又は下方に設けられた給紙カセット(図示せず)から給紙される。前記記録媒体Pは、前記インクジェットヘッド3と、前記プラテンローラ7との間に導入される。すると、前記記録媒体Pに、前記インクジェットヘッド3から吐出されるインクにより所定の記録がなされる。前記記録媒体Pは、その後、前記インクジェット記録装置1から排紙される。図1においては、前記記録媒体Pの給紙機構及び排紙機構の図示を省略している。
【0039】
前記パージ装置8は、前記インクジェットヘッド3の内部に溜まる気泡等を含んだ不良インクを吸引する。前記パージ装置8としては、例えば、従来公知のものを使用できる(例えば、特開2008−246821号公報参照)。
【0040】
前記パージ装置8の前記プラテンローラ7側の位置には、前記パージ装置8に隣接してワイパ部材20が配設されている。前記ワイパ部材20は、へら状に形成されており、前記キャリッジ5の移動に伴って、前記インクジェットヘッド3のノズル形成面を拭うものである。図1において、キャップ18は、インクの乾燥を防止するため、記録が終了すると前記リセット位置に戻される前記インクジェットヘッド3の複数のノズルを覆うものである。
【0041】
前記インクジェット記録装置において、前記4つのインクカートリッジは、複数のキャリッジに搭載されていてもよい。また、前記インクカートリッジは、前記キャリッジには搭載されず、インクジェット記録装置内に配置、固定されていてもよい。この態様においては、例えば、前記インクカートリッジと、前記キャリッジに搭載された前記ヘッドユニットとが、チューブ等により連結され、前記インクカートリッジから前記ヘッドユニットに前記インクが供給される。
【0042】
本例では、本発明の水性インク(本発明のインクカートリッジ)を、シリアル型インクジェット記録装置に適用した例を示したが、本発明の水性インク(本発明のインクカートリッジ)は、ライン型インクジェット記録装置に適用してもよい。
【0043】
本発明によれば、インク吐出手段からインクを吐出して記録を行うインクジェット記録方法であって、前記インクとして、本発明のインクジェット記録用水性インクを用いることを特徴とするインクジェット記録方法が提供される。前記インクジェット記録方法は、例えば、図1に示すインクジェット記録装置を用いることで実施可能である。
【0044】
また、本発明によれば、自己分散型顔料を含むインクジェット記録用水性インクを用いて記録した記録物の耐擦性向上方法であって、前記水性インクが、さらに、化学式(1)で表されるリン脂質化合物を含み、前記リン脂質化合物の固形分配合量が、前記水性インク全量に対して、0.2重量%〜1.3重量%であることを特徴とする記録物の耐擦性向上方法が提供される。
【0045】
前記インクジェット記録方法および前記記録物の耐擦性向上方法において、着色剤、リン脂質化合物等の各種成分の種類、配合量および形態等は、本発明のインクジェット記録用水性インクと同様とすることができる。
【実施例】
【0046】
つぎに、本発明の実施例について比較例と併せて説明する。なお、本発明は、下記の実施例および比較例により限定および制限されない。
【0047】
[実施例1〜10および比較例1〜6]
水性インク組成(表1)における、自己分散型カーボンブラック分散体を除く成分を、均一に混合しインク溶媒を得た。つぎに、自己分散型カーボンブラック分散体に前記インク溶媒を加え、均一に混合した。その後、得られた混合物を、東洋濾紙(株)製のセルロースアセテートタイプメンブレンフィルタ(孔径3.00μm)でろ過することで、実施例1〜10および比較例1〜6のインクジェット記録用水性インクを得た。なお、表1において、Lipidure(登録商標)−CF72は、化学式(3)で表されるカチオン性リン脂質化合物(日油(株)製)である。
【化3】

【0048】
実施例および比較例の水性インクについて、(a)保存安定性評価、(b)耐擦性評価、(c)耐水性評価および(d)光学濃度(OD)値評価を、下記方法により評価および測定した。
【0049】
(a)保存安定性評価
実施例および比較例の水性インク10μLを、プレパラート上に滴下した。ついで、前記プレパラートを、温度60℃、相対湿度40%の環境下にて1日保存することで、前記水性インクを蒸発乾固させた。つぎに、前記保存後の固形物上に純水を1mL滴下した。このようにして作製した評価サンプルに粗大粒子や異物が無いかを顕微鏡(倍率200倍)にて観察し、下記評価基準に従って保存安定性を評価した。
【0050】
保存安定性評価 評価基準
A:純水の滴下で前記固形物がすぐに再分散(純水に溶解・分散)し、粗大粒子や異物は無かった
B:前記固形物の再分散には時間がかかったが、粗大粒子や異物は無かった
C:粗大粒子や異物があった
【0051】
(b)耐擦性評価
ブラザー工業(株)製のインクジェットプリンタ搭載デジタル複合機DCP−385Cを使用して、実施例および比較例の水性インクを用いて光沢紙(ブラザー工業(株)製の専用紙 写真光沢紙BP71GA4)上に解像度600dpi×600dpiで黒単色パッチを含む画像を記録し評価サンプルを作製した。前記評価サンプルを、1Nの定荷重にて擦った。ついで、擦り部のインク擦れを、下記評価基準に従って目視評価した。
【0052】
耐擦性評価 評価基準
A:インク擦れは無かった
B:多少のインク擦れはあるものの実用上問題ないレベルであった
C:実用上問題となるレベルのインク擦れがあった
【0053】
(c)耐水性評価
ブラザー工業(株)製のインクジェットプリンタ搭載デジタル複合機DCP−385Cを使用して、実施例および比較例の水性インクを用いて普通紙(Hammer Mill社製のLaser Print 24lb)上に解像度600dpi×600dpiで黒単色パッチを含む画像を記録し評価サンプルを作製した。前記評価サンプルを、純水に3分間浸漬させた後、画像の滲みを、下記評価基準に従って目視評価した。
【0054】
耐水性評価 評価基準
A:滲みは無かった
B:多少の滲みはあるものの実用上問題ないレベルであった
C:実用上問題となるレベルの滲みがあった
【0055】
(d)光学濃度(OD)値評価
ブラザー工業(株)製のインクジェットプリンタ搭載デジタル複合機DCP−385Cを使用して、実施例および比較例の水性インクを用いて普通紙上に解像度600dpi×600dpiで黒単色パッチを含む画像を記録し評価サンプルを作製した。前記評価サンプルの光学濃度(OD)値を、Gretag Macbeth社製の分光測色計Spectrolino(光源:D50、視野角:2°、STATUS T)により測定した。前記普通紙には、富士通コワーコ(株)製のオフィス用紙(普通紙1)、Hammer Mill社製のLaser Print 24lb(普通紙2)およびブラザー工業(株)製の専用紙 上質普通紙BP60PA(普通紙3)を用いた。前記光学濃度(OD)値の測定は、各普通紙について3回行った。
【0056】
実施例および比較例の水性インクのインク組成および評価結果を、表1に示す。なお、表1において、各普通紙の光学濃度(OD)値の測定結果は、3回の測定の平均値であり、「3紙平均」(最下段)は、前記普通紙1〜3のそれぞれの平均値(3回測定)の和を3で除した3紙の測定結果の平均値である。
【0057】
【表1】

【0058】
表1に示すとおり、スルホン酸基修飾自己分散型カーボンブラックを含み、且つ、化学式(2)で表されるリン脂質化合物(Rは、ステアリル基)の固形分配合量が0.20重量%である実施例2では、前記リン脂質化合物を含まないこと以外は同条件とした比較例1と比べて、耐擦性、耐水性に優れ、光学濃度(OD)値が高かった。また、前記リン脂質化合物の固形分配合量が1.30重量%であること以外は実施例2と同条件とした実施例5では、前記リン脂質化合物を含まないこと以外は同条件である比較例1と比べて、保存安定性が若干低下するものの実用上問題となるレベルではなく、耐擦性、耐水性が格段に優れ、光学濃度(OD)値が高かった。さらに、前記リン脂質化合物の固形分配合量が0.25重量%、0.50重量%または1.00重量%であること以外は実施例2および5と同条件とした実施例3、1および4では、前記リン脂質化合物を含まないこと以外は同条件である比較例1と比べて、耐擦性、耐水性が格段に優れ、光学濃度(OD)値が高かった。同様に、実施例1の水溶性有機溶剤および添加剤の配合を変更した実施例6〜8でも、前記リン脂質化合物を含まない比較例1と比べて、耐擦性、耐水性が格段に優れ、光学濃度(OD)値が高かった。一方、スルホン酸基修飾自己分散型カーボンブラックを含み、且つ、化学式(2)で表されるリン脂質化合物(Rは、ステアリル基)の固形分配合量が0.05重量%である比較例2では、耐擦性、耐水性および光学濃度(OD)値の評価結果が、前記リン脂質化合物を含まないこと以外は同条件である比較例1と同等であった。また、スルホン酸基修飾自己分散型カーボンブラックを含み、且つ、化学式(2)で表されるリン脂質化合物(Rは、ステアリル基)の固形分配合量が1.50重量%である比較例3では、前記リン脂質化合物を含まないこと以外は同条件である比較例1と比べて、耐擦性、耐水性および光学濃度(OD)値には向上が見られるものの、保存安定性が劣っていた。
【0059】
また、カルボン酸基により修飾された自己分散型カーボンブラックおよび化学式(2)で表されるリン脂質化合物(Rは、ステアリル基)を含む実施例9では、前記リン脂質化合物を含まないこと以外は同条件とした比較例4と比べて、耐擦性に優れていた。そして、リン酸基により修飾された自己分散型カーボンブラックおよび化学式(2)で表されるリン脂質化合物(Rは、ステアリル基)を含む実施例10では、前記リン脂質化合物を含まないこと以外は同条件とした比較例5と比べて、耐擦性に優れていた。
【0060】
なお、化学式(3)で表されるカチオン性リン脂質化合物を用いた比較例6では、水性インク中で凝集が生じ、耐擦性、耐水性および光学濃度(OD)値評価を行うことができなかった。これに対し、化合物中で電荷が打ち消され、全体としては電荷を持たない化学式(2)で表されるリン脂質化合物(Rは、ステアリル基)を用いた実施例1〜10では、水性インク中で凝集を生じることはなく、保存安定性に優れていた。
【産業上の利用可能性】
【0061】
以上のように、本発明の水性インクは、耐擦性に優れるものである。本発明の水性インクの用途は、特に限定されず、各種のインクジェット記録に広く適用可能である。
【符号の説明】
【0062】
1 インクジェット記録装置
2 インクカートリッジ
3 インク吐出手段(インクジェットヘッド)
4 ヘッドユニット
5 キャリッジ
6 駆動ユニット
7 プラテンローラ
8 パージ装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
着色剤、水および水溶性有機溶剤を含むインクジェット記録用水性インクであって、
前記着色剤が、自己分散型顔料を含み、
前記水性インクが、さらに、化学式(1)で表されるリン脂質化合物を含み、
前記リン脂質化合物の固形分配合量が、前記水性インク全量に対して、0.2重量%〜1.3重量%であることを特徴とするインクジェット記録用水性インク。
【化1】

化学式(1)において、
およびRは、それぞれ、水素原子またはメチル基であり、RおよびRは同一でも異なっていてもよく、
、RおよびRは、それぞれ、水素原子、炭素原子数1〜6のアルキル基またはヒドロキシアルキル基であり、R、RおよびRは同一でも異なっていてもよく、
pは、1〜10の整数であり、
qは、1〜4の整数であり、
は、疎水基であり、
mおよびnは、それぞれ、正の整数である。
【請求項2】
前記リン脂質化合物が、化学式(2)で表されるリン脂質化合物であることを特徴とする請求項1記載のインクジェット記録用水性インク。
【化2】

【請求項3】
前記自己分散型顔料が、スルホン酸基により修飾された自己分散型顔料、カルボン酸基により修飾された自己分散型顔料およびリン酸基により修飾された自己分散型顔料からなる群から選択される少なくとも一つである請求項1または2記載のインクジェット記録用水性インク。
【請求項4】
前記自己分散型顔料が、スルホン酸基により修飾された自己分散型顔料である請求項1または2記載のインクジェット記録用水性インク。
【請求項5】
前記自己分散型顔料が、自己分散型カーボンブラックであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のインクジェット記録用水性インク。
【請求項6】
インクジェット記録用水性インクを含むインクカートリッジであって、前記水性インクが、請求項1〜5のいずれか一項に記載のインクジェット記録用水性インクであることを特徴とするインクカートリッジ。

【図1】
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【公開番号】特開2011−178860(P2011−178860A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−43356(P2010−43356)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】