説明

インクジェット記録用油性インク組成物、インクジェット記録用インクセット、インクカートリッジ、インクジェット記録方法、および記録物

【課題】耐水性の記録面を有する記録媒体への浸透速度が大きく、しかも臭気が抑制されたインクジェット記録用油性インク組成物を提供すること。
【解決手段】本発明にかかるインクジェット記録用油性インク組成物は、コート紙、アート紙、およびキャストコート紙から選択される1種の記録媒体上にインクジェット記録装置を用いて画像を記録するための油性インク組成物であって、少なくとも色材と、分散剤と、下記一般式(1)で示される芳香族化合物と、を含有する。
【化4】


(式中、nは自然数であり、mは0以上の整数であり、n+mは、8≦n+m≦18の関係を満たす。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録用油性インク組成物、インクジェット記録用インクセット、インクカートリッジ、インクジェット記録方法、および記録物に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方法は、インク組成物の小滴を飛翔させ、紙等の記録媒体に付着させて印刷を行う印刷方法である。この記録方法は、高解像度、高品位な画像を高速で印刷することができるという特徴を有する。インクジェット記録方法に使用されるインク組成物は、溶媒に着色成分や、分散安定剤などを配合したものが主流である。
【0003】
インクジェット記録方法に用いられるインクには、主溶媒として水を用いる水性インクと、主溶媒として有機溶媒を用いる油性インクとがある。水性インクを用いた印刷画像はは、一般的に耐水性に劣る。これに対して、油性インクは、耐水性に優れた印刷画像を提供することができる。一般に、耐水性に優れた印刷画像をインクジェット記録方法にて製造する場合には、耐水性の記録面を有する記録媒体に、油性インクを塗布して行われる(たとえば、特開2008−001853号公報参照)。
【0004】
ところが、耐水性を有する記録面に対して、インクジェット記録方法によって印刷を行う場合、水性インクはもちろん、従来の油性インクを用いて印刷しても、記録面へのインク滴の吸収速度が小さかった。特に、コート紙、アート紙およびキャストコート紙と呼ばれる記録媒体に対しては、インクのしみ込みが遅く印刷速度を高めることが難しかった。また、従来の油性インクは、臭気が強かった。
【特許文献1】特開2008−001853号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的の1つは、耐水性の記録面を有する記録媒体への浸透速度が大きく、しかも臭気が抑制されたインクジェット記録用油性インク組成物、インクセット、インクカートリッジ、これを用いたインクジェット記録方法、および記録物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明にかかるインクジェット記録用油性インク組成物は、
コート紙、アート紙、およびキャストコート紙から選択される1種の記録媒体上にインクジェット記録装置を用いて画像を記録するための油性インク組成物であって、
少なくとも色材と、分散剤と、下記一般式(1)で示される芳香族化合物と、を含有する。
【0007】
【化2】

【0008】
(式中、nは自然数であり、mは0以上の整数であり、n+mは、8≦n+m≦18の関係を満たす。)
このようなインクジェット記録用油性インク組成物は、耐水性の記録面を有する記録媒体への浸透速度が大きく、しかも臭気が抑制されたものである。
【0009】
本発明にかかるインクジェット記録用油性インク組成物において、
前記芳香族化合物は、ドデシルベンゼンおよび2−エチルヘキシルベンゼンから選択される少なくとも1種であることができる。
【0010】
本発明にかかるインクジェット記録用油性インク組成物において、
前記分散剤は、ポリエステル樹脂およびアルキッド樹脂から選択される少なくとも1種であることができる。
【0011】
本発明にかかるインクジェット記録用油性インク組成物において、
さらに、界面活性剤を含むことができる。
【0012】
本発明にかかるインクジェット記録用油性インク組成物において、
さらに、有機溶剤を含むことができる。
【0013】
本発明にかかるインクジェット記録用インクセットは、
上述のインクジェット記録用油性インク組成物を備えている。
【0014】
本発明にかかるインクカートリッジは、
上述のインクジェット記録用インクセットを備えている。
【0015】
本発明にかかるインクジェット記録方法は、インクジェット記録装置を用いて、上述のインクジェット記録用油性インク組成物を記録媒体上に吐出して塗膜を形成するものである。
【0016】
本発明にかかる記録物は、
上述のインクジェット記録方法により、記録媒体の記録面に画像が形成されてなる。
【0017】
本発明にかかる記録物において、
前記記録媒体は、前記記録面にインク受容層を有することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の好適な実施形態について、詳細に説明する。
【0019】
1.インクジェット記録用油性インク組成物
本実施形態にかかるインクジェット記録用油性インク組成物は、コート紙、アート紙、およびキャストコート紙から選択される1種の記録媒体上にインクジェット記録装置を用いて画像を記録するための油性インク組成物であって、少なくとも色材と、分散剤と、下記一般式(1)で示される芳香族化合物と、を含有する。
【0020】
【化3】

【0021】
(式中、nは自然数であり、mは0以上の整数であり、n+mは、8≦n+m≦18の関係を満たす。)
1.1.記録媒体
本実施形態にかかるインクジェット記録用油性インク組成物は、コート紙、アート紙、およびキャストコート紙から選択される1種の記録媒体上にインクジェット記録装置を用いて塗布される。
【0022】
コート紙の例としては、たとえば、上質紙または中質紙をベースに少なくとも片面に7g/mないし20g/mの白色の塗料を塗布したものを挙げることができる。これらは、上質コート紙または中質コート紙などと呼ばれることがある。また、コート紙の種類としては、白色塗料の塗工量の小さい(たとえば、片面あたり7g/m程度)軽量コート紙や光沢を抑えたマットコート紙、表面光沢の高いミラーコート紙などを挙げることができる。
【0023】
アート紙の例としては、たとえば、上質紙に白色の塗料が片面あたり20g/m程度塗工され、ロール等によって、高圧が加えられ表面が滑らかになっている紙を挙げることができる。本実施形態では、アート紙には、つや消しアート紙、上質アート紙、並アート紙などが含まれる。キャストコート紙の例としては、たとえば、上質紙に白色の塗料が片面あたり少なくとも22g/m塗工され、ロール等によって、高圧が加えられ表面が滑らかになっている紙を挙げることができる。
【0024】
上述した記録媒体は、グロス系、マット系、ダル系のいずれであってもよい。本実施形態のインクジェット記録用油性インク組成物が塗布される上述の記録媒体は、記録面に白色の塗料などのインク受容層を有する。パールコート紙(三菱製紙株式会社から入手可能。)や、オーロラコート紙(日本製紙株式会社から入手可能。)などの商品名で市販されている紙は、本実施形態で用いられる記録媒体に該当する。
【0025】
1.2.色材
本実施形態にかかるインクジェット記録用油性インク組成物に用いられる色材は、染料または顔料のいずれであってもよい。
【0026】
本実施形態において使用可能な染料としては、直接染料、酸性染料、食用染料、塩基性染料、反応性染料、分散染料、建染染料、可溶性建染染料、などの通常のインクジェット記録に使用される各種染料を挙げることができる。
【0027】
本実施形態において使用可能な顔料としては、特別な制限はなく、無機顔料、有機顔料を挙げることができる。無機顔料としては、酸化チタン、および酸化鉄に加え、コンタクト法、ファーネス法、サーマル法などの公知の方法によって製造されたカーボンブラックを使用することができる。また、有機顔料としては、アゾ顔料(アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料などを含む)、多環式顔料(たとえば、フタロシアニン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、アントラキノン顔料、キノフラロン顔料など)、染料キレート(たとえば、塩基性染料型キレート、酸性染料型キレートなど)、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラックなどを使用することができる。
【0028】
本実施形態で使用可能な顔料の具体例のうち、カーボンブラックとしては、C.I.ピグメントブラック7が挙げられ、たとえば、三菱化学株式会社から入手可能なNo.2300、No.900、MCF88、No.33、No.40、No.45、No.52、MA7、MA8、MA100、No.2200B等が、コロンビアケミカルカンパニー社から入手可能なRaven5750、同5250、同5000、同3500、同1255、同700等が、また、キャボット社から入手可能なRegal400R、同330R、同660R、MogulL、同700、Monarch800、同880、同900、同1000、同1100、同1300、同1400等が、さらに、デグッサ社から入手可能なColorBlackFW1、同FW2、同FW2V、同FW18、同FW200、ColorBlackS150、同S160、同S170、Printex35、同U、同V、同140U、SpecialBlack6、同5、同4A、同4等が挙げられる。
【0029】
また、本実施形態にかかるインクジェット記録用油性インク組成物をイエローインクとする場合に使用しうる顔料としては、たとえば、C.I.ピグメントイエロー1、2、3、12、13、14、16、17、73、74、75、83、93、95、97、98、109、110、114、120、128、129、138、150、151、154、155、180、185、213等が挙げられる。
【0030】
また、本実施形態にかかるインクジェット記録用油性インク組成物をマゼンダインクとする場合に使用される顔料としては、たとえば、C.I.ピグメントレッド5、7、12、48(Ca)、48(Mn)、57(Ca)、57:1、112、122、123、168、184、202、209、C.I.ピグメントバイオレット19等が挙げられる。
【0031】
また、また、本実施形態にかかるインクジェット記録用油性インク組成物をシアンインクとする場合に使用される顔料としては、たとえば、C.I.ピグメントブルー1、2、3、15:3、15:4、60、16、22が挙げられる。本実施形態にかかるインクジェット記録用油性インク組成物をシアンインクとする場合に使用される顔料としては、より具体的には、商品名TGR−SD(大日本インキ化学工業株式会社から入手可能。)などの市販品が例示できる。
【0032】
本実施形態で使用可能な顔料の平均粒子径は、好ましくは10nmないし200nmの範囲であり、より好ましくは50nmないし150nmの範囲である。
【0033】
本実施形態のインクジェット記録用油性インク組成物に添加しうる顔料の添加量は、好ましくは0.1質量%ないし25質量%であり、より好ましくは0.5質量%ないし15質量%である。
【0034】
さらに、本実施形態にかかるインクジェット記録用油性インク組成物は、複数の色材を混合して作製することができる。インクジェット記録用油性インク組成物に使用可能な色材としては、例えば、上記のイエロー、マゼンタおよびシアンの顔料を挙げることができる。ここで、たとえば、イエロー、マゼンタおよびシアンから選択される2種の顔料を適量混合してもよいが、印刷結果におけるブラックの色調をより高めるために、イエロー、マゼンタ、シアンの3色の顔料を混合して配合することもできる。また、上記のイエロー、マゼンタ、シアンの3色の顔料のほかに、ライトマゼンタ、ライトシアン等の同系列の淡色顔料を加えることもできる。
【0035】
1.3.分散剤
本実施形態のインクジェット記録用油性インク組成物は、分散剤を含む。本実施形態のインクジェット記録用油性インク組成物において、分散剤は、主に色材の良好な分散を得るために含有される。本実施形態のインクジェット記録用油性インク組成物に用いられる分散剤としては、一般的な油性インクに用いられる任意の分散剤を用いることができる。本実施形態のインクジェット記録用油性インク組成物に用いられる分散剤の好ましい例としては、ポリエステル系高分子化合物や、アルキッド系高分子化合物が挙げられる。具体例としては、武生ファインケミカル株式会社から入手可能なヒノアクトKF1−M,T−6000,T−7000,T−8000,T−8350P,T−8000E、アビシア株式会社から入手可能なソルスパース20000,24000,32000,32500,33500,34000,35200、ビック・ケミー株式会社から入手可能なDISPERBYK−161,162,163,164,166,180,190,191,192、共栄社化学株式会社から入手可能なフローレンDOPA−17,22,33,G−700、味の素株式会社から入手可能なアジスパーPB821,PB711、EFKAケミカルズ社から入手可能なLP4010,LP4050,LP4055,POLYMER400,401,402,403,450,451,453を挙げることができる。
【0036】
本実施形態のインクジェット記録用油性インク組成物において、分散剤の含有量は、分散すべき色材の量や性質によって適宜せんたくすることができる。分散剤の含有量は、本実施形態のインクジェット記録用油性インク組成物中の色材(特には顔料)100重量部に対して、好ましくは5ないし200重量部、より好ましくは30ないし120重量部である。
【0037】
1.4.芳香族化合物
本実施形態のインクジェット記録用油性インク組成物に含まれる芳香族化合物は、前記一般式(1)で示される。
【0038】
本実施形態の芳香族化合物は、ベンゼン環にアルキル基が1個または2個結合した化合物である。ベンゼン環にアルキル基が2個結合した化合物の場合は、1つのアルキル基に対して、もう1つのアルキル基は、オルト位(o−)、メタ位(m−)、およびパラ位(p−)のいずれに結合していてもよい。すなわち、一般式(1)の−C2m+1で示される基は、−C2n+1で示される基に対して、オルト位(o−)、メタ位(m−)、およびパラ位(p−)のいずれの位置に結合していてもよい。本実施形態の芳香族化合物のアルキル基が有する炭素数の合計は、前記括弧書きで述べたように、8ないし18である。本実施形態の芳香族化合物に結合可能なアルキル基は、炭素数1ないし炭素数18までのアルキル基であり、炭素数3以上のアルキル基については、その異性体の基を含む。具体的には、炭素数1のメチル基、炭素数2のエチル基、炭素数3の1−プロピル基、その異性体である2−プロピル基を含み、さらには、炭素数4の1−n−ブチル基、その異性体である2−n−ブチル基、イソブチル基、tert−イソブチル基が含まれ、これに続き、炭素数5ないし炭素数18のアルキル基についても各異性体の基が含まれる。
【0039】
本実施形態の芳香族化合物の具体例としては、mが0である場合は、オクタデシルベンゼン(1−フェニルオクタデカン)、2−オクタデシルベンゼン(2−フェニルオクタデカン)、ヘキサデシルベンゼン(1−フェニルヘキサデカン)(セチルベンゼン)、テトラデシルベンゼン(1−フェニルテトラデカン)、ドデシルベンゼン(1−フェニルドデカン)、2−ドデシルベンゼン(2−フェニルドデカン)、2−エチルデシルベンゼン、デシルベンゼン(1−フェニルデカン)、オクチルベンゼン(1−フェニルオクタン)、2−オクチルベンゼン(2−フェニルオクタン)、2−エチルヘキシルベンゼン(3−エチル−1−フェニルヘキサン)など、mが1である場合は、o−メチルヘキサデシルベンゼン、m−メチルヘキサデシルベンゼン、p−メチルヘキサデシルベンゼン、o−メチルドデシルベンゼン、m−メチルドデシルベンゼン、p−メチルドデシルベンゼン、o−メチルヘプチルベンゼン、m−メチルヘプチルベンゼン、p−メチルヘプチルベンゼンなど、mが2である場合は、o−エチルヘキサデシルベンゼン、m−エチルヘキサデシルベンゼン、p−エチルヘキサデシルベンゼン、o−エチルドデシルベンゼン、m−エチルドデシルベンゼン、p−エチルドデシルベンゼン、o−エチルヘキシルベンゼン、m−エチルヘキシルベンゼン、p−エチルヘキシルベンゼンなど、mが3である場合は、o−プロピルテトラデシルベンゼン、m−プロピルテトラデシルベンゼン、p−プロピルテトラデシルベンゼン、o−プロピルドデシルベンゼン、m−プロピルドデシルベンゼン、p−プロピルドデシルベンゼン、o−プロピルペンチルベンゼン、m−プロピルペンチルベンゼン、p−プロピルペンチルベンゼンなど、mが4である場合は、o−ブチルテトラデシルベンゼン、m−ブチルテトラデシルベンゼン、p−ブチルテトラデシルベンゼン、o−ブチルドデシルベンゼン、m−ブチルドデシルベンゼン、p−ブチルドデシルベンゼン、o−ジブチルベンゼン、m−ジブチルベンゼン、p−ジブチルベンゼンなど、mが5である場合は、o−ペンチルドデシルベンゼン、m−ペンチルドデシルベンゼン、p−ペンチルドデシルベンゼン、o−ジペンチルベンゼン、m−ジペンチルベンゼン、p−ジペンチルベンゼンなど、mが6である場合は、o−ヘキシルドデシルベンゼン、m−ヘキシルドデシルベンゼン、p−ヘキシルドデシルベンゼン、o−ジヘキシルベンゼン、m−ジヘキシルベンゼン、p−ジヘキシルベンゼンなど、mが7である場合は、o−ヘプチルデシルベンゼン、m−ヘプチルデシルベンゼン、p−ヘプチルデシルベンゼン、o−ジヘプチルベンゼン、m−ジヘプチルベンゼン、p−ジヘプチルベンゼンなど、mが8の場合は、o−オクチルデシルベンゼン、m−オクチルデシルベンゼン、p−オクチルデシルベンゼン、o−ジオクチルベンゼン、m−ジオクチルベンゼン、p−ジオクチルベンゼンなど、mが9である場合は、o−ジノニルベンゼン、m−ジノニルベンゼン、p−ジノニルベンゼンなど、を挙げることができる。
【0040】
本実施形態のインクジェット記録用油性インク組成物に含まれる芳香族化合物は、上述した芳香族化合物から選ばれる少なくとも2種の化合物の混合物であってもよい。なお、本実施形態のインクジェット記録用油性インク組成物に含まれる芳香族化合物は、常温常圧下で液体であることが望ましいが、インクジェット記録方法において、加熱等を行うことで芳香族化合物の融点よりも高い温度で使用することができるため、および、他の化合物を混合することにより凝固点を降下させることができるため、常温常圧下で固体の芳香族化合物を含んでいてもよい。
【0041】
本実施形態のインクジェット記録用油性インク組成物において、芳香族化合物の含有量は、好ましくは、50質量%ないし99.9質量%、より好ましくは、60質量%ないし95質量%である。
【0042】
1.5.その他の化合物
本実施形態のインクジェット記録用油性インク組成物は、上記の色材、分散剤および芳香族化合物の他に、各種の化合物を含むことができる。
【0043】
1.5.1.界面活性剤
本実施形態のインクジェット記録用油性インク組成物に使用可能な界面活性剤としては、シリコン系界面活性剤、非イオン性界面活性剤などを例示できる。
【0044】
本実施形態で使用可能なシリコン系界面活性剤としては、ポリエステル変性シリコーンやポリエーテル変性シリコーンが例示できる。シリコン系界面活性剤の具体例としては、BYK−347,BYK−348,BYK−UV3500,3510,3530,3570(いずれもビック・ケミー株式会社から入手可能。)を挙げることができる。
【0045】
本実施形態で使用可能な非イオン系界面活性剤としては、ポリオキシエチレン誘導体が挙げられ、たとえば、アセチレングリコール系界面活性剤を用いることができる。本実施形態で使用可能なアセチレングリコール系界面活性剤の具体例としては、サーフィノール104,82,465,485,サーフィノールTG(いずれもAir Products and Chemicals Inc.社の商品名であり、同社から入手可能。)、オルフインSTG,オルフインE1010(いずれも日信化学工業株式会社から入手可能。)、ニッサンノニオンA−10R,A−13R(いずれも日本油脂株式会社から入手可能。)、ノイゲンCX−100(第一工業製薬株式会社から入手可能。)、フローレンTG−740W,D−90(共栄社化学株式会社から入手可能。)、エマルゲンA−90,A−60(花王株式会社から入手可能。)を挙げることができる。
【0046】
本実施形態で使用するポリオキシエチレン誘導体は、常温常圧下で液体の化合物が好ましい。本実施形態で用いうるポリオキシエチレン誘導体としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、たとえば、ポリオキシエチレンセチルエーテル(たとえば、ニッサンノニオンP−208;日本油脂株式会社から入手可能。)、ポリオキシエチレンオレイルエーテル(たとえば、ニッサンノニオンE−202S,E−205S;日本油脂株式会社から入手可能。)、ポリオキシエチレンラウリルエーテル(たとえば、エマルゲン106,108;花王株式会社から入手可能。)、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル(たとえば、ニッサンノニオンHS−204.5,HS−206,HS−208;日本油脂株式会社から入手可能。)、ソルビタンモノエステル、たとえば、ソルビタンモノラウレート(たとえば、ニッサンノニオンLP−20R;日本油脂株式会社から入手可能。)、ポリオキシエチレンソルビタンモノエステル、たとえば、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート(たとえば、ニッサンノニオンOT−221;日本油脂株式会社から入手可能。)、ポリオキシエチレン高級アルコールエーテル(たとえば、エマルゲン707,709;花王株式会社から入手可能。)、テトラグリセリンオレート(たとえば、ポエムJ−4581;理研ビタミン株式会社から入手可能。)、ノニルフェノールエトキシエート(たとえば、アデカトールNP−620,NP−650,NP−660,NP−675,NP−683,NP−686;株式会社ADEKAから入手可能。)、脂肪族リン酸エステル(たとえば、アデカコールCS−141E,TS−230E;株式会社ADEKAから入手可能。)、ソルビタンセスキオレート(たとえば、ソルゲン30;第一工業製薬株式会社から入手可能。)、ポリエチレングリコールソルビタンモノラウレート(たとえば、ソルゲンTW−20;第一工業製薬株式会社から入手可能。)ポリエチレングリコールソルビタンモノオレート(たとえば、ソルゲンTW−80;第一工業製薬株式会社から入手可能。)などを挙げることができる。
【0047】
本実施形態のインクジェット記録用油性インク組成物に上記の界面活性剤を用いる場合、界面活性剤の含有量は、付与すべき再溶解性によって適宜選択することができるが、インク組成物の色材(特には顔料)の含有量100重量部に対し、好ましくは5ないし200重量部、より好ましくは30ないし120重量部である。
【0048】
1.5.2.有機溶媒
本実施形態のインクジェット記録用油性インク組成物は、さらに、有機溶媒を含有することができる。本実施形態で使用可能な有機溶媒としては、好ましくは、極性有機溶媒、たとえば、アルコール類(たとえば、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコール、または、フッ化アルコール等)、ケトン類(たとえば、アセトン、メチルエチルケトン、または、シクロヘキサノン等)、カルボン酸エステル類(たとえば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、または、プロピオン酸エチル等)、エーテル類(たとえば、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、または、ジオキサン等)などである。
【0049】
1.5.3.その他の化合物
本実施形態にかかるインクジェット記録用油性インク組成物は、その他の成分として、公知公用の湿潤剤、浸透溶剤、pH調整剤、防腐剤、防黴剤等を添加してもよい。さらに、必要に応じて、レベリング添加剤、マット剤、記録物の物性を調整するためのポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ビニル系樹脂、アクリル系樹脂、ゴム系樹脂、ワックス類を添加することができる。
【0050】
以上説明した本実施形態にかかるインクジェット記録用油性インク組成物は、前記一般式(1)で示される芳香族化合物を含有している。そのため、記録媒体にインクジェット記録方法によって記録する際のが組成物の浸透速度が大きい。これにより、コート紙、アート紙、およびキャストコート紙などのインク受容層を有する記録媒体に対して塗布した場合において、塗布した組成物のべたつきが抑制され、記録物を指で擦ったときの記録物の汚れを抑制することができる。さらに、本実施形態のインクジェット記録用油性インク組成物による記録物は、臭気が抑えられている。
【0051】
2.インクジェット記録方法および記録物
本実施形態にかかるインクジェット記録方法は、記録媒体上にインクジェット記録用油性インク組成物を吐出し、記録媒体上に画像を形成するものである。
【0052】
本実施形態にかかるインクジェット記録方法では、インクジェットプリンタを用いて、記録媒体上にインクジェット記録用油性インク組成物を吐出することができる。インクジェットプリンタは、主にインクジェット式記録ヘッド、本体、トレイ、ヘッド駆動機構、およびキャリッジを備えている。インクジェット式記録ヘッドは、少なくともシアン、マゼンタ、イエロー、ブラックの4色のインクカートリッジを備えており、フルカラー印刷ができるように構成されている。この少なくとも1つのインクカートリッジに、本実施形態にかかるインクジェット記録用油性インク組成物を充填し、設置する。また、このインクジェットプリンタは、内部に専用のコントローラボード等を備えており、インクジェット式記録ヘッドのインクの吐出タイミングおよびヘッド駆動機構の走査を制御することができる。
【0053】
本実施形態にかかるインクジェット記録方法は、コート紙、アート紙、およびキャストコート紙などのインク受容層を有する記録媒体に、インクジェット記録用油性インク組成物を用いて画像を記録する方法である。本実施形態にかかるインクジェット記録方法は、コート紙、アート紙、およびキャストコート紙などのインク受容層を有する記録媒体への適用において特に優れた効果を発揮することができる。
【0054】
本実施形態にかかるインクジェット記録方法によって得られる記録物は、上述したインクジェット記録用油性インク組成物を用いて、コート紙、アート紙、およびキャストコート紙などのインク受容層を有する記録媒体に記録されたものであるため、塗布されたインク組成物のべたつきが抑制され、記録物を指で擦ったときの記録物の汚れ、および臭気が抑制されたものである。
【0055】
3.インクセット
本実施形態にかかるインクセットは、少なくとも1種類の上記インクジェット記録用油性インク組成物を備えたものである。
【0056】
上記のインクジェット記録用油性インク組成物をそれぞれ単独または複数備えたインクセットとしてもよいし、さらに一または複数の他のインク組成物を備えたインクセットとしてもよい。インクジェット記録用インクセットに備えることができる他のインク組成物としては、シアン、マゼンタ、イエロー、ライトシアン、ライトマゼンタ、ダークイエロー、レッド、グリーン、ブルー、オレンジ、バイオレット等のカラーインク組成物、ブラックインク組成物、ライトブラックインク組成物等が挙げられる。
【0057】
4.インクカートリッジ
本実施形態にかかるインクカートリッジは、上記のインクセットを備えている。これによれば、上記のインクジェット記録用油性インク組成物を備えたインクセットを容易に運搬することができる。
【0058】
5.実施例および比較例
実施例を参照して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0059】
5.1.実施例1
2Lビーカーにドデシルベンゼン(東京化成株式会社製)1000gを入れ、そこに分散剤としてソルスパース24000(アビシア株式会社製)50gを添加して、攪拌機(プライミクス社製T.K.ロボミックス)で攪拌し均一な液状になるまで溶解した。その溶液にシアン顔料(TGR−SD;大日本インキ化学工業株式会社製)50gを添加し、同じ攪拌機を用い、回転速度10000rpmで30分間攪拌してミルベースを作製した。当該ミルベースを、横型湿式分散機(シンマルエンタープライゼス社製DYNO−MILL/MULTI−LAB)を用い、ジルコニアビーズ(φ0.1mm、充填率80%)を共存させて周速20m/sec、液流速20g/min、循環運転の条件で1時間の間分散させた。これをメンブレンフィルタ(ロキテクノ社製サートンポアフィルターカートリッジCTAタイプ/目開き1μm)でろ過し、実施例1のインクジェット記録用油性インク組成物を得た。
【0060】
5.2.実施例2
実施例1で用いたドデシルベンゼンを、2−エチルヘキシルベンゼン(東京化成株式会社製)に換え、その他の化合物および製造の条件を同様にして実施例2のインクジェット記録用油性インク組成物を得た。
【0061】
5.3.比較例1
実施例1で用いたドデシルベンゼンを、ヘキシルベンゼン(東京化成株式会社製)に換え、その他の化合物および製造の条件を同様にして比較例1のインク組成物を得た。
【0062】
5.4.比較例2
実施例1で用いたドデシルベンゼンを、オクタデカン(東京化成株式会社製)に換え、その他の化合物および製造の条件を同様にして比較例2のインク組成物を得た。
【0063】
5.5.比較例3
エコソルインク(ローランドDG社製ESL3)を比較例3のインク組成物とした。
【0064】
5.6.記録物の評価
べたつき、汚れ、および臭気の評価は、以下のように行った。まず、セイコーエプソン株式会社製のインクジェットプリンタ(PX−V−780)のインクカートリッジに上記各実施例および各比較例のインク組成物を充填した。これを用いて、パールコート紙(三菱製紙株式会社製)、およびオーロラコート紙(日本製紙株式会社製)にそれぞれ5cm×5cmの矩形のベタパターンを記録した。そして、各実施例および各比較例の記録物を、つぎのような指標で評価した。べたつき、汚れの評価は、記録した直後に、指で擦って行い、表1に結果を示した。評価の指標は、べたつきがない物に○、べたつきがある物には×、指にインクが付着しない場合を○、指にインクが付着した場合を×とした。臭気の評価は、記録した直後に、においをかいで行い、表1に結果を示した。評価の指標は、臭気がない場合を○、臭気がある場合を×とした。
【0065】
上記実施例および比較例の結果の参考にするために、記録物の反りの評価を行った。記録物の反りの評価は、上述のプリンタを用い、NPI上質紙(日本製紙株式会社製)に各実施例および各比較例のインク組成物を用いて15cm×25cmの矩形のベタパターンを記録して、記録した後の紙のカール(反り)の有無を調べた。反りが無い場合を○、反りがある場合を×として、表1に結果を記した。
【0066】
【表1】

【0067】
表1に見られるように、各実施例のインクジェット記録用油性インク組成物は、比較例のインク組成物と比べて、べたつきが少なく、汚れを生じず、かつ臭気を生じない点において優れていた。この結果から、本発明にかかるインクジェット記録用油性インク組成物は、コート紙、アート紙、およびキャストコート紙などのインク受容層を有する記録媒体への浸透速度が大きく、かつ記録後の記録媒体の臭気を抑制することができるものであることが判明した。なお、参考までに各実施例のインク組成物をインク受容層を有さない紙に対して塗布した結果、実施例の記録物には、カールが生じないことも判明した。
【0068】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、さらに種々の変形が可能である。たとえば、本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成(たとえば、機能、方法および結果が同一の構成、あるいは目的および効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成または同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コート紙、アート紙、およびキャストコート紙から選択される1種の記録媒体上にインクジェット記録装置を用いて画像を記録するための油性インク組成物であって、
少なくとも色材と、分散剤と、下記一般式(1)で示される芳香族化合物と、を含有する、インクジェット記録用油性インク組成物。
【化1】

(式中、nは自然数であり、mは0以上の整数であり、n+mは、8≦n+m≦18の関係を満たす。)
【請求項2】
請求項1において、
前記芳香族化合物は、ドデシルベンゼンおよび2−エチルヘキシルベンゼンから選択される少なくとも1種である、インクジェット記録用油性インク組成物。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、
前記分散剤は、ポリエステル樹脂およびアルキッド樹脂から選択される少なくとも1種である、インクジェット記録用油性インク組成物。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項において、
さらに、界面活性剤を含む、インクジェット記録用油性インク組成物。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項において、
さらに、有機溶剤を含む、インクジェット記録用油性インク組成物。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載のインクジェット記録用油性インク組成物を備えた、インクジェット記録用インクセット。
【請求項7】
請求項6に記載されたインクジェット記録用インクセットを備えた、インクカートリッジ。
【請求項8】
インクジェット記録装置を用いて、請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載のインクジェット記録用油性インク組成物を記録媒体上に吐出して塗膜を形成する、インクジェット記録方法。
【請求項9】
請求項8に記載のインクジェット記録方法により、記録媒体の記録面に画像が形成されてなる、記録物。
【請求項10】
請求項9において、
前記記録媒体は、前記記録面にインク受容層を有する、記録物。

【公開番号】特開2009−227757(P2009−227757A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−72906(P2008−72906)
【出願日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】