説明

インクジェット記録用紙

【課題】 印字中又は印字後の紙支持体収縮による波打ちを抑制し、インクジェット記録適性としての染料、顔料インクでのにじみがなく、インク吸収性に優れ、印字濃度が高く、高精細の画像を鮮明に印字できるインクジェット記録用紙を提供する。
【解決手段】 紙支持体上に、顔料と接着剤からなるインク溶媒吸収遅延層とインク受容層を順次設けた2層以上からなるインクジェット記録用紙において、該インクジェット記録用紙の王研式透気度が500〜10000秒であることを特徴とするインクジェット記録用紙。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印字中又は印字後の紙支持体収縮による波打ち(以下、コックリングともいう。)を抑制し、インクジェット記録適性としての染料、顔料インクでのにじみがなく、インク吸収性に優れ、印字濃度が高く、高精細の画像を鮮明に印字できるインクジェット記録用紙に関する。
【背景技術】
【0002】
水性インクを微細なノズルからインクジェット記録用紙に向かって噴出し、インクジェット記録用紙表面上に画像を形成させるインクジェット記録方式は、記録時の騒音が少ないこと、フルカラー画像の形成が容易であること、高速記録が可能であること、及び、他の印刷装置より記録コストが安価であることなどの理由により、端末プリンタ、ファクシミリ、プロッタ、あるいは帳票印刷等で広く利用されている。
【0003】
プリンタの急速な普及と高精細・高速化にともなって、インク吸収速度の向上とともに、銀塩方式の写真、製版方式の多色印刷に匹敵する画像の鮮明性の実現が強く求められている。また、記録画像の品質のために、画像記録濃度や鮮明性の更なる向上が望まれている。
【0004】
一方で、画像保存性を実現するために、インク自体の改良も提案されており、従来の主流であった親水性の高い着色剤を使用した水性染料インク(以下、染料インクともいう。)とともに、耐水性や耐光性が優れる、疎水性の着色顔料を分散したインク(以下、顔料インクともいう。)も多用化されるようになっている。
【0005】
また、銀塩写真と同等の画像を実現するために、インク吐出量も増しており、紙支持体を使用したインクジェット記録用紙では、インクの溶媒である水が紙支持体まで浸透することでコックリングが発生し、印字中に記録ヘッドと擦れて画像が乱れるといった問題が生じたり、画像記録後もコックリングが残って印字物の見栄えを損なうといった問題も生じている。このような問題を解決するために、ポリエチレンのような合成樹脂を両面にラミネートした樹脂被覆紙が常用されてきたが、樹脂被覆紙を古紙として回収しようとすると皮膜化した樹脂が残り、古紙回収時にトラブルを起こす可能がある。
【0006】
上記問題を解決し、インク吸収速度や画像記録濃度、鮮明性の向上させるために、透気性基材上に、顔料及び接着剤を含有する少なくとも1層のインクジェット記録層と、前記インクジェット記録層上に、顔料及び接着剤を含有する塗工液を塗工し、該塗工液が湿潤状態或いは再湿潤状態にある間に加熱された鏡面ドラムに圧接、乾燥して形成されたキャスト塗被層とを有するキャスト型インクジェット記録用紙において、JIS−Z−8741によるキャスト塗被層表面の20°光沢度を35%以上、JIS−K−7105に準拠し、60°の角度で測定した像鮮明度を55%以上、且つ、王研式透気度を60〜200秒/100ccにする方法(例えば、特許文献1参照)、また、顔料と接着剤を含有する下塗り塗被層を設けた原紙に、水性ウレタン樹脂を含有する塗被液を塗被してキャスト用塗被層を形成し、加熱された鏡面ドラムに圧接、乾燥して仕上げて、JIS−P−8117に準拠した透気度を300秒/100cc以下にする方法(例えば、特許文献2参照)が提案されている。
【0007】
また、印字後のコックリング抑制では、インクジェット記録用紙の紙支持体表面に、熱可塑性樹脂の分散液を塗工して透水性中間層を形成し、次いで、該透水性中間層の表面に、顔料と結着剤を含む塗工液を塗工してインク受容層を形成する方法(例えば、特許文献3参照)、また、パルプの繊維間結合を少なくして紙の空隙を増すような低密度化薬品を含む基材を用いる方法(例えば、特許文献4参照)が提案されている。しかし、これらのインクジェット記録用紙では、インク吸収速度、画像記録濃度、鮮明性の向上と印字後のコックリング抑制を両立させるものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−195795号公報
【特許文献2】特開平08−246392号公報
【特許文献3】特開2002−103787号公報
【特許文献4】特開2002−103791号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記の問題を解決し、紙支持体を使用したインクジェット記録用紙であって、印字後のコックリングを抑制し、インクジェット記録適性としての染料インク、顔料インクでのにじみがなく、インク吸収性に優れ、印字濃度が高く、高精細の画像を鮮明に印字できるインクジェット記録用紙を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決すべく、インクジェット記録用紙の透気度とコックリングの関係に着目し、鋭意研究を行った結果、ある特定の数値範囲にすることで、印字後のコックリング抑制と優れたインクジェット記録特性を両立させることを見出したものである。
【0011】
(1)紙支持体上に、顔料と接着剤からなるインク溶媒吸収遅延層とインク受容層を順次設けた2層以上からなるインクジェット記録用紙において、該インクジェット記録用紙の王研式透気度が500〜10000秒であることを特徴とするインクジェット記録紙。
(2)前記インク溶媒吸収遅延層の顔料がモンモリロナイトを主成分としたベントナイトである(1)に記載のインクジェット記録用紙。
(3)前記インク溶媒吸収遅延層の顔料として、更に、シリカを含有し、接着剤がラテックスである(1)又は(2)に記載のインクジェット記録用紙。
(4)前記インク溶媒吸収遅延層のベントナイトの配合量が、ラテックス100質量部に対して、20〜100質量部である(2)又は(3)のいずれかに記載のインクジェット記録用紙
(5)前記インク溶媒吸収遅延層のシリカの配合量が、ラテックス100質量部に対して、5〜60質量部である(3)又は(4)に記載のインクジェット記録用紙。
(6)前記インク溶媒吸収遅延層の塗布量が0.5〜6g/mである(1)〜(5)のいずれかに記載のインクジェット記録用紙。
(7)前記インク溶媒吸収遅延層中に、架橋剤を含有する(1)〜(6)のいずれかに記載のインクジェット記録用紙。
【発明の効果】
【0012】
従来の紙基材を使用したインクジェット記録用紙は、インク吸収性や画像鮮明性を向上させるために、記録用紙の透気度は、本発明のインクジェット記録用紙より低い数値範囲で調節されていた。本発明のインクジェット記録用紙は、従来のインクジェット記録用紙とは異なる、ある特定の数値範囲に透気度が調節されていることにより、染料インク及び顔料インクのどちらで印字しても優れた印字適性を有し、更に、インク量の多い大判用インクジェットプロッタ等で印字しても、印字後のコックリングが抑制されていることにより、印字中のヘッド擦れによる印字障害がなく、従来のインクジェット記録用紙より印字後の見栄えが優れている。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明のインクジェット記録用紙について、詳細に説明する。
【0014】
(紙支持体)
本発明のインクジェット記録用紙の支持体としては、上質紙、アート紙、コート紙、キャスト塗被紙、箔紙、クラフト紙、バライタ紙、含浸紙、蒸着紙、水溶性紙等の紙支持体が適宜使用される。 紙支持体は、木材パルプと必要に応じ含有する填料を主成分として構成される。
木材パルプは、各種化学パルプ、機械パルプ、再生パルプ等を使用することができ、これらのパルプは、紙力、抄紙適性等を調整するために、叩解機により叩解度を調整できる。パルプの叩解度(フリーネス)は特に限定しないが、一般に250〜550ml(CSF:JIS P8121)である。紙支持体の平滑性を高めるためには叩解度を進めるほうが望ましいが、用紙に記録した場合にインク中の水分によって起こる用紙のボコツキや記録画像のにじみは、叩解を進めないほうが良好な結果を得る場合が多い。従って、フリーネスは300〜500ml程度が好ましい。
【0015】
填料は、不透明性等を付与したり、インク吸収性を調整する目的で配合し、炭酸カルシウム、焼成カオリン、シリカ、酸化チタン等が使用できる。特に炭酸カルシウムを使用すると、白色度が高い基材となり、インクジェット記録体の光沢感が高まるので好ましい。
紙支持体中の填料の含有率(灰分)は1〜20質量%程度が好ましく、多すぎると紙力が低下するおそれがある。逆に少ないと紙支持体の透気性が悪くなるので、好ましい填料の含有率は7〜20質量%である。この範囲にすると、平滑度、透気度、紙力のバランスがとれているので、結果として平滑感が優れたインクジェット記録用紙が得られ易くなる。
【0016】
紙支持体には、助剤としてサイズ剤、定着剤、紙力増強剤、カチオン化剤、歩留り向上剤、染料、蛍光増白剤等を添加することができる。さらに、抄紙機のサイズプレス工程において、デンプン、ポリビニルアルコール類、カチオン樹脂等を塗布・含浸させ、表面強度、サイズ度等を調整できる。ステキヒトサイズ度(100g/mの紙として)は1〜200秒が好ましい。サイズ度が高いとインク吸収性が低下し、印字後のカールが著しくなる場合がある。より好ましいサイズ度の範囲は5〜120秒である。
基材の坪量は、特に限定されないが、20〜400g/m程度である。特に印刷用途には50〜250g/mの範囲が好ましい。60〜200g/mの範囲が最も好ましい。
【0017】
本発明のインクジェット記録用紙は、王研式透気度を500〜10000秒の範囲に調節する。好ましくは、700〜8000秒であり、更に好ましくは1000〜7000秒である。透気度が500秒未満では、印字後のコックリング抑制が不十分であり、10000秒を超えるとインク吸収性が低下するおそがある。尚、本発明の王研式透気度はJ.TAPPI No.5Bに準じて測定した値である。
【0018】
(インク溶媒吸収遅延層の顔料)
本発明のインクジェット記録用紙の透気度は、接着剤と顔料を含有したインク溶媒吸収遅延層を紙基材上に設けることで調節することができる。顔料としては、バリアー性、膨潤性の高いベントナイトが好ましい。また、前記ベントナイト以外の顔料を含有することもでき、シリカ、コロイダルシリカ、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、アルミナ、サチンホワイト、珪酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、カオリン、雲母類、各種板状顔料類、スチレン系プラスチックピグメント、アクリル系プラスチックピグメント、スチレン−アクリル系プラスチックピグメント、尿素樹脂系プラスチックピグメント、塩化ビニル、ポリウレタン、アクリル、酢酸ビニル、ポリカーボネート、ナイロン、及びこれらの共重合体の有機高分子微粒子等が挙げられるが、インク溶媒吸収性の観点からシリカが好ましい。また、シリカとベントナイトを併用することで、印字後のコックリング抑制と優れたインクジェット記録適性を両立させることが可能となるため、特に好ましい。
【0019】
(インク溶媒吸収遅延層の接着剤)
インク溶媒吸収遅延層の接着剤としては、スチレン−ブタジエン共重合体、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体等の共役ジエン系共重合体ラテックス、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルの重合体又は共重合体等のアクリル系重合体ラテックス、エチレン−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体等のビニル系重合体ラテックス、或はこれら各種重合体のカルボキシ基等の官能基含有単量体による官能基変性重合体ラテックス、ポリウレタン樹脂系ラテックス、カチオン性澱粉、両性澱粉、酸化澱粉、酵素変性澱粉、熱化学変性澱粉、エステル化澱粉、エーテル化澱粉などの澱粉類、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース誘導体、ゼラチン、カゼイン、大豆蛋白、天然ゴム、ポリビニルアルコール等の水溶性高分子等などが挙げられるが、耐水性が良好で、折割れによる塗工層の亀裂が生じにくいためにラテックスが好ましく、更にスチレン−ブタジエン共重合体ラテックスがより好適である。また、本発明のコックリング抑制とインクジェット適性を損なわない範囲で、2種以上併用してもよい。
【0020】
顔料として、シリカとベントナイトを併用して配合する場合、それぞれの配合割合は、シリカは、ラテックス100質量部に対してシリカ5〜60質量部が好ましい。特に好ましくは、10〜50質量部である。シリカ配合割合が5質量部未満では、インク吸収性が低下する可能性があり、60質量部を超えると本発明の透気度の範囲から外れ、コックリング抑制が不十分となるおそれがある。ベントナイトは、ラテックス100質量部に対してベントナイト20〜100質量部が好ましい。特に好ましくは、30〜80質量部である。ベントナイト配合割合が20質量部未満では、本発明の透気度の範囲から外れ、コックリング抑制が不十分となるし、100質量部を超えると本発明の透気度の範囲から外れ、インク吸収性が低下するおそれがある。
【0021】
インク溶媒吸収遅延層には、さらに一般の塗被紙製造において使用される架橋剤、増粘剤、消泡剤、湿潤剤、界面活性剤、着色剤、帯電防止剤、耐光性助剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、防腐剤等の各種助剤が適宜添加される。特にインク受容層がポリビニルアルコールを含んでいる場合、それと反応する架橋剤であるホウ酸やホウ酸塩等を添加することにより、インク受容層の塗膜強度が向上するため、大型プリンターの内蔵カッターによる断裁時に発生する紙粉量を大幅に低減することができる。
【0022】
インクジェット記録用紙の透気度を500〜10000秒の範囲にすることで、コックリングが抑制され、優れたインクジェット適性を備えたものとなっている理由としては、定かではないが、前記透気度の範囲にすることで、吸収されたインク溶媒が紙基材まで殆ど浸透せず、紙基材上に設けた塗工層のみで吸収、保持されるため、コックリングが抑制されるものと考えられる。また、インク色素についても、塗工層内部又は、紙基材まで落ち込むことを防ぐことができ、インクジェット記録用紙記録面の表面に近い位置に存在させることが可能となっているため、優れたインクジェット記録適性を有していると考えられる。
【0023】
インク溶媒吸収遅延層の塗工量は、特に限定はしないが、0.5〜6g/mが好ましい。更に好ましくは、1〜5g/mであり、特に好ましくは2〜4g/mである。塗工量が0.5g/mより少ないと、コックリングが悪化し、6g/mより多いと、塗膜強度の低下が起きる場合がある。
【0024】
このインク溶媒吸収遅延層は、ブレードコーター、エアーナイフコーター、ロールコーター、バーコーター、グラビアコーター、ロッドブレードコーター、リップコーター、カーテンコーター、ダイコーター等の各種公知の塗工装置で形成することができる。
【0025】
<インク受容層>
本発明のインクジェット記録用紙におけるインク受容層は、インクジェット記録用紙用のインク受容層として知られている顔料とバインダーを主たる成分として含有する層とすることができる。
【0026】
(インク受容層の顔料)
顔料としては、特に限定されるものではないが、発色性、インク吸収性の点から、無定形シリカが好ましい。
無定形シリカの製法は特に限定されるものではなく、電弧法、乾式法、湿式法(沈降法、ゲル法)のいずれの方法で製造されてもよいが、染料インク、顔料インクの吸収性の観点から、湿式法シリカが特に好ましい。
【0027】
無定形シリカの2次粒子の平均粒子径は2〜12μmが好ましく、4〜10μmがより好ましい。平均粒子径が2μm未満であると、染料インク用インクジェット記録用紙に用いた場合、染料インクの吸収性が低下し、また、光透過性がより高くなるので、染料インクによる記録の耐光性が低下し、塗膜強度も低下する。また、顔料インク用インクジェット記録用紙に用いた場合は、顔料インクの定着性が低下するといった悪影響が生じる。一方、無定形シリカの2次粒子径が12μmを超えると、染料インク用インクジェット記録用紙、顔料インク用インクジェット記録用紙共に、画像の鮮明性の低下や、表面の粗さが目立ち、印字ムラが生じやすいといった問題を生じる。
なお、本発明において、シリカの平均粒子径とは、コールターカウンタ法によるもので、シリカを蒸留水中にて30秒間超音波分散したものを試料として測定される体積平均粒子径を表すものである。
【0028】
無定形シリカは、他の顔料に比べ、発色性、インク吸収性に優れているので好ましいが、従来からインクジェット記録用紙の塗工層、インク受容層に用いられる顔料と混合して使用してもよい。例えば、シリカ、軽質炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、硫化亜鉛、炭酸亜鉛、サチンホワイト、珪酸アルミニウム、珪酸カルシウム、珪酸マグネシウム、水酸化アルミニウム、アルミナ、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウムなどの無機顔料;アクリル系或いはメタクリル系樹脂、塩化ビニル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂、スチレン−アクリル系樹脂、スチレン−ブタジエン系樹脂、スチレン−イソプレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、シリコーン系樹脂、尿素樹脂、メラミン系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、ジアリルフタレート系樹脂等の樹脂からなる有機顔料が挙げられ、これらの顔料は真球状でも不定形でもよく、これらの顔料を無定形シリカと1種又は2種以上混合して用いてもよいが、印字適性を害さない範囲で調整する必要がある。
【0029】
(インク受容層のバインダー)
本発明のインクジェット記録用紙におけるインク受容層中のバインダーとしては特に限定するものではないが、インクジェット記録用紙用のバインダーとして公知のものを使用することができる。公知のバインダーとしては、カゼイン、大豆蛋白、合成蛋白等の蛋白質類、澱粉や酸化澱粉等の各種澱粉類、ポリビニルアルコール及びその誘導体、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロースやメチルセルロース等のセルロース誘導体、スチレン−ブタジエン樹脂、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体等の共役ジエン系樹脂、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル等の重合体又は共重合体であるアクリル系樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体等のビニル系樹脂、ポリビニルアルコールを保護コロイドとして有するアクリル酸エステル系共重合体、ポリウレタン系樹脂、ポリアミド系樹脂等があり、これらは1種のみを使用してもよく、2種以上のバインダーを併用してもよい。
【0030】
シリカとバインダーの配合割合は、シリカ100質量部に対し、バインダー10〜70質量部、好ましくは30〜60質量部である。バインダーの量が70質量部より多いと、インクが溢れ、にじみが発生し、10質量部より少ないとインク受容層の層強度が弱くなる傾向にある。
【0031】
(その他)
インク受容層に、インク定着剤を使用することができる。使用されるインク定着剤は特に限定するものではないが、インクジェット記録用紙用のインク定着剤として公知のカチオン性化合物を使用することができる。公知のカチオン性化合物として、1)ポリエチレンアミンやポリプロピレンなどのポリアルキレンアミン類、又はその誘導体、2)3級アミン基、4級アンモニウム基を有するアクリル樹脂、4)ジシアンジアミド−ホルマリン重縮合物に代表されるジシアン系カチオン樹脂、5)ジシアンジアミド−ジエチレントリアミン重縮合物に代表されるポリアミン系カチオン樹脂、6)ジメチルアミン−エピクロルヒドリン付加重合物、7)ジアリルアミン塩−SO共重合物、8)ジメチルジアリルアンモニウムクロライド重合物、9)アリルアミン塩の重合物、10)ビニルベンジルトリアリルアンモニウム塩の単独重合体又は共重合体、11)ジアルキルアミノエチル(メタ)アクリレート4級塩共重合物、12)アクリルアミド−ジアリルアミン塩共重合物、13)ポリ塩化アルミニウム、ポリ酢酸アルミニウムなどのアルミニウム塩、カチオン性界面活性剤等の一般市販されているものが挙げられ、単独で用いられるかあるいは数種類が併用される。
【0032】
カチオン性化合物の配合割合は、特に限定されるものではないが、顔料100質量部に対し、1〜60質量部が好ましく、より好ましくは5〜50質量部である。
カチオン性化合物が1質量部未満であると、画像の発色性の低下や、印字部の保存性の低下が起こりやすくなり、60質量部を超えると、インク吸収性の低下、印字ムラ、画像の鮮明性の低下が起こりやすくなる。
【0033】
インク受容層には、さらに一般の塗被紙製造において使用される増粘剤、消泡剤、湿潤剤、界面活性剤、着色剤、帯電防止剤、耐光性助剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、防腐剤等の各種助剤が適宜添加される。
【0034】
インク受容層の塗工量は特に限定されるものではないが、0.5〜30g/mとするのが好ましく、2〜20g/mとするのがより好ましい。塗工量が0.5g/mより少ないと、インク吸収性、画像の鮮明性、印字保存性が低下しやすく、塗工量が30g/mより多いと、塗膜強度や画像の鮮明性が低下しやすい。なお、インク受容層は複数層積層してもよく、その場合、層間でインク受容層組成が異なっていてもよい。
【0035】
このインク受容層は、ブレードコーター、エアーナイフコーター、ロールコーター、バーコーター、グラビアコーター、ロッドブレードコーター、リップコーター、カーテンコーター、ダイコーター等の各種公知の塗工装置で形成することができる。
【0036】
インク受容層の乾燥条件は、インク受容層塗工液の濃度などによって調節されるが、乾燥条件によっても、吸収速度の挙動が変動する。できるだけ強い乾燥条件で処理することが好ましいが、過剰の乾燥は発色性を低下させる傾向がある。
なお、塗工後に、マシンカレンダー、スーパーカレンダー、ソフトカレンダー等のカレンダーを用いて仕上げ処理を行ってもよいが、かかる処理もインク受容層表面の空隙を潰すことになるので、印字適性を害さない範囲で調整する必要がある。
【0037】
(層構成)
本発明のインクジェット記録用紙の層構成は、特に限定するものではなく、基材の両面に同様のインク溶媒吸収遅延層及びインク受容層を設けても構わない。この場合、インクジェット記録用紙において両面に鮮明な印字を施すことが可能となる。また、インク受容層は複数層で構成されてもよい。また、インク受容層の印字適性を損なわない範囲で、光沢性を付与するための光沢層、或いは保存性を高めるためのオーバーコート層を設けてもよい。
【0038】
前記光沢層の形成においては、後述する加熱された鏡面ドラムを利用するキャスト方式やフィルム転写方式などのキャスト加工が行われる。
このようなキャスト加工においては、キャストドラムやフィルム等からの離型性を付与する目的で離型剤を用いることができる。
【0039】
離型剤としては、通常の印刷用塗工紙や印刷用キャスト塗工紙製造の際に用いられる離型剤が使用できる。このような離型剤としては、具体的には、ポリエチレンワックス,ポリプロピレンワックス等のポリオレフィンワックス類、ステアリン酸カルシウム,ステアリン酸亜鉛,オレイン酸カリウム,オレイン酸アンモニウム等の高級脂肪酸アルカリ塩類、シリコーンオイル,シリコーンワックス等のシリコーン化合物、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素化合物、レシチン、高級脂肪酸アミド等が挙げられるが、操業の安定性の面から、ノニオン性のポリエチレンワックスを使用することが望ましい。この離型剤は、上記塗工液に添加するなどして使用される。
【実施例】
【0040】
以下に実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、勿論、本発明はこれらに限定されるものではない。また、例中の部及び%は特に断らない限り、水を除いた固形分であり、それぞれ質量部及び質量%を示す。
【0041】
各実施例、比較例で得られたインクジェット記録用紙の王研式透気度、コックリング、にじみ、インク吸収性、印字濃度及び印字部均一性、断裁時の紙粉量を以下に示す方法で評価した。
なお、評価にあたって、インクジェット記録用紙への印字は、市販の顔料インクジェットプリンター(CANON社製、商標:imagePROGRAF W6200、印字モード:厚口コート紙/きれい)、及び市販の染料インクジェットプリンター(CANON社製、商標:PIXUS ip8600、印字モード:マットフォトペーパー/きれい)で行った。
【0042】
[王研式透気度]
J.TAPPI No.5Bに準じて、作製したインクジェット記録用紙の透気度を測定した。
【0043】
[コックリング]
上記imagePROGRAF W6200とPIXUS ip8600の2機種でブラックベタを印字し、印字部分を目視及び質感で評価した。
◎:印字部のうねりが全くなく、銀縁写真並。
○:印字部のうねりが殆どなく、印刷紙並。
△:印字部にうねりが見られるが、実用上問題ないレベル。
×:うねりが目立ち、実用上問題となるレベル。
【0044】
[にじみ]
上記imagePROGRAF W6200とPIXUS ip8600の2機種の印字境界部分から印字のにじみを目視で評価した。
◎:印字のにじみは全く認められず、優れたレベル。
○:印字のにじみはややあるが、実用上問題ないレベル。
△:印字のにじみがあり、実用上問題となるレベル。
×:印字のにじみが著しく、実用上重大な問題となるレベル。
【0045】
[インク吸収性]
インクジェット記録用紙に上記imagePROGRAF W6200とPIXUS ip8600の2機種で、グリーン色及びブルー色のベタ印画を施し、そのインク吸収性を目視観察し、下記の方法で評価した。
○:インク吸収速度が速く、インクの溢れとビーディングなし。
△:多少のビーディングは認められるが、実用上問題ないレベル。
×:インクの溢れとビーディングがあり、実用上問題となるレベル。
【0046】
[印字濃度]
財団法人日本規格協会発行の画像(「高精細カラーディジタル標準画像XYZ/JIS−SCID」、識別記号:S6、画像名称:カラーチャート)を、imagePROGRAF W6200(顔料インク使用)及びPIXUS ip8600(染料インク使用)の2機種で印字し、ブラックの最高色調部を、GuretagMacbeth社製RD−914にて、印字濃度を測定した。
【0047】
[印字部均一性]
imagePROGRAF W6200、PIXUS ip8600の2機種の印字部(ブラック)を目視で観察し、以下の評価基準で評価した。
評価基準:
◎:印字ムラが全くなく、品位が高い。
○:印字ムラが若干見られるが、実用上問題ないレベルである。
△:印字ムラがあり、実用上問題となるレベル。
×:印字ムラが多数あり、実用上重大な問題となるレベル。
【0048】
[紙粉発生量]
カッターナイフで白紙を断裁して発生した紙粉を粘着テープで収集し、その質量を測定した。
○:紙粉の発生がほとんど認められず、優れたレベル
△:多少の紙粉は認められるが、実用上問題ないレベル。
×:紙粉量が多く、実用上問題となるレベル。
【0049】
<実施例1>
[インク溶媒吸収遅延層塗工液の作製]
スチレン−ブタジエン共重合体ラテックス(SBR)(日本ゼオン社製、商品名:LX407S12、エマルジョン型バインダー)100部、シリカ(トクヤマ社製、商品名:ファインシールX−60 平均粒子径5.9μm、吸油量275ml/100g)10部、ベントナイト(黒崎白土工業社製、商品名:オドソルブKH−101、平均粒子径4.7μm)30部、及び水を混合分散して塗工液を調製した。
【0050】
[インク受容層塗工液の作製]
顔料として湿式シリカ(トクヤマ社製、商品名:ファインシールX−45、平均粒子径4.3μm、吸油量275ml/100g)100部と、バインダーとしてシリル変性PVA(クラレ社製、商品名:R−1130)20部、インク定着剤としてアクリルアミド−ジアリルアミン塩共重合物(田岡化学工業社製、商品名:スミレーズレジン1001)20部、及び水を混合分散して塗工液を調製した。
【0051】
[インクジェット記録用紙の作製]
坪量120g/mの上質紙の片面に、インク溶媒吸収遅延層塗工液を、塗工量が2g/mとなるように塗工、乾燥し、インク溶媒吸収遅延層上にインク受容層塗工液を塗工量が10g/mとなるように塗工、乾燥し、インクジェット記録用紙を作製した。
得られたインクジェット記録用紙につき、上記各評価を行った。その結果を表1に示す。
【0052】
<実施例2>
実施例1のインク溶媒吸収遅延層塗工液中のシリカ(トクヤマ社製、商品名:ファインシールX−60 平均粒子径5.9μm、吸油量275ml/100g)10部を、60部に変更した以外は、実施例1と同様にしてインクジェット記録用紙を作製した。
得られたインクジェット記録用紙につき、上記各評価を行った。その結果を表1に示す。
【0053】
<実施例3>
実施例1のインク溶媒吸収遅延層塗工液中のベントナイト(黒崎白土工業社製、商品名:オドソルブKH−101、平均粒子径4.7μm)30部を、80部に変更した以外は、実施例1と同様にしてインクジェット記録用紙を作製した。
得られたインクジェット記録用紙につき、上記各評価を行った。その結果を表1に示す。
【0054】
<実施例4>
実施例1のインク溶媒吸収遅延層塗工液中のベントナイト(黒崎白土工業社製、商品名:オドソルブKH−101)30部を、カオリン(エンゲルハード社製、商品名:ウルトラホワイト90、平均粒子径0.5μm)30部に変更した以外は、実施例1と同様にしてインクジェット記録用紙を作製した。
得られたインクジェット記録用紙につき、上記各評価を行った。その結果を表1に示す。
【0055】
<実施例5>
実施例1のインク溶媒吸収遅延層塗工液中のシリカ(トクヤマ社製、商品名:ファインシールX−60 平均粒子径5.9μm、吸油量275ml/100g)10部を、炭酸カルシウム(米庄石灰工業社製、商品名:PP−2、平均粒子径0.2μm)10部に変更した以外は、実施例1と同様にしてインクジェット記録用紙を作製した。
得られたインクジェット記録用紙につき、上記各評価を行った。その結果を表1に示す。
【0056】
<実施例6>
実施例1のインク溶媒吸収遅延層塗工液中のシリカ(トクヤマ社製、商品名:ファインシールX−60 平均粒子径5.9μm、吸油量275ml/100g)10部を、配合しないに変更した以外は、実施例1と同様にしてインクジェット記録用紙を作製した。
得られたインクジェット記録用紙につき、上記各評価を行った。その結果を表1に示す。
【0057】
<実施例7>
実施例4のインク溶媒吸収遅延層の塗工量を2g/mから6g/mに変更した以外は、実施例1と同様にしてインクジェット記録用紙を作製した。
得られたインクジェット記録用紙につき、上記各評価を行った。その結果を表2に示す。
【0058】
<実施例8>
実施例1のインク溶媒吸収遅延層に硼砂(四ホウ酸ナトリウム十水和物)を10部配合する以外は、実施例1と同様にしてインクジェット記録用紙を作製した。
得られたインクジェット記録用紙につき、上記各評価を行った。その結果を表2に示す。
【0059】
<実施例9>
実施例4のインク溶媒吸収遅延層にホウ酸を7部、硼砂(四ホウ酸ナトリウム十水和物)を7部配合する以外は、実施例1と同様にしてインクジェット記録用紙を作製した。
得られたインクジェット記録用紙につき、上記各評価を行った。その結果を表2に示す。
【0060】
<比較例1>
実施例1において、インク溶媒吸収遅延層を設けない、に変更した以外は、実施例1と同様にしてインクジェット記録用紙を作製した。
得られたインクジェット記録用紙につき、上記各評価を行った。その結果を表1に示す。
【0061】
<比較例2>
実施例1のインク溶媒吸収遅延層塗工液中のスチレン−ブタジエン共重合体ラテックス(SBR)(日本ゼオン社製、商品名:LX407S12、エマルジョン型バインダー)100部、シリカ(トクヤマ社製、商品名:ファインシールX−60 平均粒子径5.9μm、吸油量275ml/100g)10部、ベントナイト(黒崎白土工業社製、商品名:オドソルブKH−101、平均粒子径4.7μm)30部を、スチレン−ブタジエン共重合体ラテックス(SBR)(日本ゼオン社製、商品名:LX407S12、エマルジョン型バインダー)100部、シリカ(トクヤマ社製、商品名:ファインシールX−60 平均粒子径5.9μm、吸油量275ml/100g)100部に変更した以外は、実施例1と同様にしてインクジェット記録用紙を作製した。
得られたインクジェット記録用紙につき、上記各評価を行った。その結果を表1に示す。
【0062】
<比較例3>
実施例1のインク溶媒吸収遅延層塗工液中のスチレン−ブタジエン共重合体ラテックス(SBR)(日本ゼオン社製、商品名:LX407S12、エマルジョン型バインダー)100部、シリカ(トクヤマ社製、商品名:ファインシールX−60 平均粒子径5.9μm、吸油量275ml/100g)10部、ベントナイト(黒崎白土工業社製、商品名:オドソルブKH−101、平均粒子径4.7μm)30部を、スチレン−ブタジエン共重合体ラテックス(SBR)(日本ゼオン社製、商品名:LX407S12、エマルジョン型バインダー)100部のみに変更した以外は、実施例1と同様にしてインクジェット記録用紙を作製した。
得られたインクジェット記録用紙につき、上記各評価を行った。その結果を表1に示す。
【0063】
<比較例4>
実施例1のインク溶媒吸収遅延層の塗工量を2g/mから8g/mに変更した以外は、実施例1と同様にしてインクジェット記録用紙を作製した。
得られたインクジェット記録用紙につき、上記各評価を行った。その結果を表1に示す。
【表1】

【0064】
表1から明らかなように、本発明のインクジェット記録用紙は、コックリングを抑制し、染料インク、顔料インクでのにじみがなく、インク吸収性に優れ、印字濃度が高く、画像鮮明性に優れ、断裁時の紙粉発生量が少ないインクジェット記録用紙である。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明のインクジェット記録用紙は、コックリングが抑制され、染料インク、顔料インクでのにじみがなく、インク吸収性に優れ、印字濃度が高く、高精細の画像を鮮明に印字できるので、多目的のインクジェット記録用紙として実用上極めて有用である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙支持体上に、顔料と接着剤からなるインク溶媒吸収遅延層とインク受容層を順次設けた2層以上からなるインクジェット記録用紙において、該インクジェット記録用紙の王研式透気度が500〜10000秒であることを特徴とするインクジェット記録紙。
【請求項2】
前記インク溶媒吸収遅延層の顔料がモンモリロナイトを主成分としたベントナイトである請求項1に記載のインクジェット記録用紙。
【請求項3】
前記インク溶媒吸収遅延層の顔料として、更に、シリカを含有し、接着剤がラテックスである請求項1又は請求項2に記載のインクジェット記録用紙。
【請求項4】
前記インク溶媒吸収遅延層のベントナイトの配合量が、ラテックス100質量部に対して、20〜100質量部である請求項2又は請求項3に記載のインクジェット記録用紙
【請求項5】
前記インク溶媒吸収遅延層のシリカの配合量が、ラテックス100質量部に対して、5〜60質量部である請求項3又は請求項4に記載のインクジェット記録用紙。
【請求項6】
前記インク溶媒吸収遅延層の塗布量が0.5〜6g/mである請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載のインクジェット記録用紙。
【請求項7】
前記インク溶媒吸収遅延層中に、架橋剤を含有する請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載のインクジェット記録用紙。









【公開番号】特開2010−69866(P2010−69866A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−68106(P2009−68106)
【出願日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【出願人】(000122298)王子製紙株式会社 (2,055)
【Fターム(参考)】