説明

インクジェット記録装置、および記録物

【課題】より高精度で極細な線の描画を実現するインクジェット記録装置を提供する。
【解決手段】インクジェット記録装置は、一つ以上の第1液体噴射ノズルから噴射する第1インク組成物により記録媒体に画像を記録するインクジェット記録装置であって、第1液体噴射ノズル9の開口面と、記録媒体10を載置するプラテン8の表面との距離PGが、0.5ミリメートル<PG<2.5ミリメートルであり、第1インク組成物は、第1液体噴射ノズルから噴射された後に、飛翔速度がVmのメイン滴と、飛翔速度がVsのサテライト滴を含む一つ以上のサテライト滴とに分裂して飛翔し、Vm−Vs<3メートル/秒である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録装置、およびその記録物に関する。
【背景技術】
【0002】
ビジネスユース向けのプリンターは、その用途により様々な機能や性能が求められる。特に、CAD(Computer Aided Design)図面の出力を目的としたプリンターは、その画質として、描画誤差を抑えた寸法精度、微細な線種や細かな文字の再現、大判に対応した高速出力などが求められる。
インクジェット方式のプリンターは、これらのニーズに適したプリンターであるが、更に高精度で極細な線の描画を実現していくために、インク滴の吐出方向をばらつかせる吐出曲がりの抑制や、インク滴の分裂による画質低下の抑制が必要である。これらの課題に応える技術として、例えば、特許文献1では、インクに含有させる色材の粒径を70nm以下にすることで、ノズル近傍に色材が析出することを抑制し、この析出物の影響によるインクの吐出曲がりの発生を抑える技術が提案されている。また、特許文献2では、ノズル開口部の形状を変更することで、分裂するインク滴の飛翔方向を制御し、描画のバンディング(分裂したインク滴が、ノズルが走査される方向に連なって筋となる現象)を抑える技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−1360号公報
【特許文献2】特開2006−272649号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、インクジェット方式のプリンターにおいて、更に高精細で高速の描画を行うためには、より少量のインク滴をより高速に吐出する必要があり、上述した従来の方法では、分裂するインク滴の影響によって、更なる画質の向上が妨げられるという問題があった。具体的には、特許文献1に記載の方法では、吐出曲がりの抑制はされるものの、そもそも分裂するインク滴の飛翔方向の分散は抑制できていないという問題である。また、特許文献2に記載の方法では、描画のバンディングを抑えることはできるが、更に細線化を進めた場合、分裂したインク滴を連ならないように制御した結果として、一本の細線が二重線として描画される場合があるという問題である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0006】
[適用例1]本適用例にかかるインクジェット記録装置は、一つ以上の第1液体噴射ノズルから噴射する第1インク組成物により記録媒体に画像を記録するインクジェット記録装置であって、第1液体噴射ノズルの開口面と、記録媒体を載置するプラテンの表面との距離PGが、0.5ミリメートル<PG<2.5ミリメートルであり、第1インク組成物は、第1液体噴射ノズルから噴射された後に、飛翔速度がVmのメイン滴と、飛翔速度がVsのサテライト滴を含む一つ以上のサテライト滴とに分裂して飛翔し、Vm−Vs<3メートル/秒であることを特徴とする。
【0007】
本適用例によれば、第1液体噴射ノズルの開口面と、記録媒体を載置するプラテンの表面との距離PGが、0.5ミリメートル<PG<2.5ミリメートルであることから、飛翔する液滴がメイン滴と、サテライト滴とに分裂した場合であっても、記録媒体に着弾する液滴の位置が分散する度合いを所定の範囲に抑えることが可能である。また、噴射した第1インク組成物が飛翔速度Vmのメイン滴と、飛翔速度Vsのサテライト滴を含む一つ以上のサテライト滴とに分裂した場合であっても、Vm−Vs<3メートル/秒であることから、記録媒体に着弾する液滴(第1インク組成物)の位置が分散する度合いを小さく抑えることが可能である。これによって、より高精細でより高速の描画を行うインクジェット記録装置を提供することができる。
【0008】
[適用例2]上記適用例にかかるインクジェット記録装置において、メイン滴の飛翔速度Vmが、7メートル/秒<Vmであることを特徴とする。
【0009】
本適用例によれば、メイン滴の飛翔速度Vmが、7メートル/秒<Vmと、より高速とすることで、第1液体噴射ノズルの開口面と、記録媒体を載置するプラテンの表面との距離PGを短くした場合と同様の効果が得られる。つまり、記録媒体に着弾する液滴の位置が分散する度合いをより小さく抑えることが可能であり、また高速の記録を行うことができる。
【0010】
[適用例3]上記適用例にかかるインクジェット記録装置において、第1液体噴射ノズルが33インチ/秒以上の速度で走査されることを特徴とする。
【0011】
本適用例によれば、第1液体噴射ノズルは、33インチ/秒以上の速度で走査するため、より高精細でより高速の描画を行うインクジェット記録装置を提供することができる。
【0012】
[適用例4]上記適用例にかかるインクジェット記録装置において、第1液体噴射ノズルは、圧電素子の発生する圧力により液体を噴射する圧電型噴射ノズルであって、複数の第1液体噴射ノズルが配列されたインクジェットヘッドを備え、複数の第1液体噴射ノズルが配列される間隔は、インクジェットヘッドの走査方向に交差する方向において、85μm以下であることを特徴とする。
【0013】
本適用例によれば、複数の圧電型噴射ノズルが配列される間隔(ピッチ)が、インクジェットヘッドの走査方向に交差する方向において85μm以下であることから、より細密な記録を高速に行うことができる。
【0014】
[適用例5]上記適用例にかかるインクジェット記録装置において、第1インク組成物は、1、2―ヘキサンジオールを3質量%未満含有することを特徴とする。
【0015】
本適用例によれば、噴射する第1インク組成物は、1、2−ヘキサンジオールを3質量%未満含有するインク組成物からなるため、該インク組成物からなる微細な液滴を高速に噴射した場合に、飛翔する液滴が分裂しにくい。また分裂した場合においても、分裂した液滴の速度差をより小さく抑えることができる。これによって、より高精細でより高速の描画を行うインクジェット記録装置を提供することができる。
【0016】
[適用例6]上記適用例にかかるインクジェット記録装置において、第1インク組成物は、更にグリセリンを10質量%以上含有していることを特徴とする。
【0017】
本適用例によれば、噴射する第1インク組成物は、更にグリセリンを10質量%以上含有していることから、飛翔する液滴が更に分裂しにくくなる。また分裂した場合においても、分裂した液滴の速度差をより小さく抑えることができる。これによって、記録媒体に着弾する液滴の位置が分散する度合いを小さく抑えることが可能であり、より高精細でより高速の描画を行うインクジェット記録装置を提供することができる。
【0018】
[適用例7]上記適用例にかかるインクジェット記録装置において、第1インク組成物が記録する最小線幅が、250μm以下であることを特徴とする。
【0019】
本適用例によれば、図面などの記録において、250μm以下の線幅の記録が行えるため、より細密な画像の記録を行うことができる。
【0020】
[適用例8]上記適用例にかかるインクジェット記録装置において、第1インク組成物によって記録する目的の画像が図面であることを特徴とする。
【0021】
本適用例によれば、記録の目的とする画像が図面であることから、より高精細でより高速の図面の描画を行うことができる。
【0022】
[適用例9]上記適用例にかかるインクジェット記録装置において、更に、色材と、1、2―ヘキサンジオールとを含有し、1、2−ヘキサンジオールの含有量が3質量%以上である第2インク組成物と、前記第2インク組成物を噴射する第2液体噴射ノズルとを備えることを特徴とする。
【0023】
本適用例によれば、色材と、含有量が3質量%以上の1、2−ヘキサンジオールとを含有する第2インク組成物による記録を行うことができるため、細密で高精度の描画に加え、それほどの精度や最密度を必要としない部分の画質を向上させることができる。例えば、1、2―ヘキサンジオールを3質量%以上含有する光輝性のインクを使用することで、光沢度などの質感をより高く表現する部分の記録も合わせて行うことができる。
【0024】
[適用例10]上記に記載のインクジェット記録装置によって記録された記録物。
【0025】
本適用例によれば、図面など、より高精度、高精細な記録物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】実施形態に係るインクジェット記録装置の構成を示す斜視図。
【図2】吐出したインク滴の飛翔の様子を説明する側断面図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に、本発明を具体化した実施形態としてのインクジェット記録装置、インク組成物およびそれらによる記録物について、図表を参照して説明する。なお、図においては、説明を分かりやすくするため、実際とは異なる尺度で記載している場合がある。
1.実施形態
1.1インクジェット記録装置
図1は、実施形態に係る一例としてのインクジェット記録装置1の構成を示す斜視図である。インクジェット記録装置1は、インクジェット式記録ヘッドによって、インク(インク組成物)を吐出させ、記録媒体に付着させることにより文字や図面、画像などを記録する装置である。インクジェット式記録ヘッドの方式としては、好適例としてピエゾ方式を用いている。ピエゾ方式は、インクに圧電素子(ピエゾ素子)により印刷情報信号に応じた圧力を加え、インク滴を噴射し記録する方式である。
【0028】
なお、インクジェット式記録ヘッドの方式はこれに限定するものではなく、インクを液滴状に噴射させ、記録媒体上にドット群を形成する他の記録方式であってもよい。例えば、液体噴射ノズル(以下ノズル)とノズルの前方に置いた加速電極間の強電界でノズルからインクを液滴状に連続噴射させ、インク滴が飛翔する間に偏向電極から印刷情報信号を与えて記録する方式、またはインク滴を偏向することなく印刷情報信号に対応して噴射させる方式(静電吸引方式)、小型ポンプでインクに圧力を加え、ノズルを水晶振動子などで機械的に振動させることにより、強制的にインク滴を噴射させる方式、インクを印刷情報信号に従って微小電極で加熱発泡させ、インク滴を噴射し記録する方式(サーマルジェット方式)などであってもよい。
【0029】
図1において、インクジェット記録装置1は、略水平なX−Y平面に設置されている。
インクジェット記録装置1は、主としてCAD図面の出力を目的としており、インクジェット式記録ヘッド2(以下ヘッド2)、キャリッジ3、キャリッジ駆動機構4、コントロールボード5、インクカートリッジ6、記録媒体供給排出機構(図示省略)、プラテン8などを備えている。
キャリッジ3は、配列された複数のヘッド2、およびインクカートリッジ6を搭載し、キャリッジ駆動機構4によって記録媒体10の表面上を走査(図1におけるX方向の往復動作)しながら略鉛直方向(図1におけるZ方向)にインクの吐出を行う。
コントロールボード5は、キャリッジ駆動機構4やインク吐出の制御、また記録媒体10の供給排出などの制御を行う。
インクカートリッジ6は、複数の収容部に分かれ、後述する複数のインク組成物を収容している。
記録媒体供給排出機構は、キャリッジ3の走査方向と交差する方向(図1におけるY方向)に記録媒体10を移動させる。
プラテン8は、記録媒体10を載置し、ヘッド2の第1液体噴射ノズルとしてのノズル9(図2にて後述)の開口面と、記録媒体10との間隔を規定している。
インクジェット記録装置1の描画精度に係る詳細仕様については後述する。
【0030】
1.2.記録媒体
記録媒体10には、好適例として普通紙を用いている。
普通紙とは、インクジェットプリンター、レーザープリンター、コピー機などの記録に広く用いられる用紙であり、例えば商品名として「普通紙」として表示されている用紙や、「普通紙」という呼称にて認識されている用紙などが挙げられ、セルロース繊維などによって主に構成されウレタン樹脂などの樹脂による膨潤層やシリカ、アルミナなどの無機粒子による空隙層が実質的に設けられていない用紙である。普通紙の代表例としては、両面上質普通紙<再生紙>(セイコーエプソン株式会社製)、XeroxP(富士ゼロックス社製)、キヤノン普通紙・ホワイト(キヤノン株式会社製)、画彩普通紙仕上げ(富士フイルム株式会社製)、BROTHER専用A4上質普通紙(ブラザー株式会社製)、KOKUYO KB用紙(共用紙)(コクヨ株式会社製)などが挙げられる。
なお、記録媒体10はこれに限定するものではなく、例えば、コート紙、アート紙、キャストコート紙などの表面加工紙、および、透明、不透明に限らず、塩化ビニルシートやPETフィルムなどの樹脂フィルム、布、木材、プラスチック材、金属材などであってもよい。
【0031】
1.3.インク組成物
本実施形態に係るインクジェット記録装置1に用いるインク組成物(以下インク)には、フルカラー印刷に対応するインク(例えばシアン、マゼンタ、イエローなど)や、ブラックインク、白色インク、光輝性インクなどがある。また、インクジェット記録装置1に用いるインクの内、第1インク組成物には、描画精度を向上させるために、1,2−ヘキサンジオールおよびグリセリンを適量含んでいる。描画精度に係るそれぞれの含有量などの詳細については後述する。以下では、まず、インクジェット記録装置1に使用するインク全般について説明する。
【0032】
本実施形態に係るインクジェット記録装置1に用いるインクは、複数種の有機溶媒を含有することが好ましい。有機溶媒の機能の一つとしては、ヘッドのノズル面でのインクの乾燥固化を抑制して目詰まりや吐出不良等を防止することが挙げられる。なお、有機溶媒は後述する界面活性剤とは異なる溶媒である。
【0033】
(1)多価アルコール
有機溶媒としては、例えば、多価アルコール類が挙げられる。多価アルコール類としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、グリセリン等が挙げられる。
【0034】
(2)1,2−アルカンジオール
本実施形態に係るインクジェット記録装置1に用いるインクは、1,2−アルカンジオールを含有することが好ましい。1,2−アルカンジオール類は、記録媒体に対して濡れ性や浸透性等を高めて、記録媒体上に優れた画像を形成することができる。
1,2−アルカンジオール類としては、例えば、1,2−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,2−オクタンジオール等が挙げられる。
【0035】
(3)ピロリドン誘導体
本実施形態に係るインクジェット記録装置1に用いるインクは、ピロリドン誘導体を含有することが好ましい。ピロリドン誘導体は、記録媒体の良好な溶解剤として作用し、記録媒体に対するインクの定着性を向上させることができる。ピロリドン誘導体として、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン、N−ビニル−2−ピロリドン、2−ピロリドン、N−ブチル−2−ピロリドン、5−メチル−2−ピロリドン等が挙げられる。
【0036】
(4)界面活性剤
本実施形態に係るインクジェット記録装置1に用いるインクは、界面活性剤を含有することが好ましい。本実施形態のインクに好適な界面活性剤としては、公知のフッ素系界面活性剤、アセチレングリコール系界面活性剤およびシリコン系界面活性剤の少なくとも一種が挙げられる。これらの界面活性剤がインクに配合されると、記録媒体への濡れ性が高まり、インクの記録媒体への浸透性を更に向上させることができる。
【0037】
アセチレングリコール系界面活性剤としては、例えば、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オール、2,4−ジメチル−5−ヘキシン−3−オール等が挙げられる。また、アセチレングリコール系界面活性剤は、市販品を利用することもでき、例えばオルフィンE1010、STG、Y(以上、日信化学株式会社製)、サーフィノール104、82、465、485、TG(以上、Air Products and Chemicals Inc.製)が挙げられる。
【0038】
シリコン系界面活性剤としては、ポリシロキサン系化合物等が好ましく用いられ、例えば、ポリエーテル変性オルガノシロキサン等が挙げられる。より詳しくは、BYK−306、BYK−307、BYK−333、BYK−341、BYK−345、BYK−346、BYK−348(以上商品名、ビックケミー・ジャパン株式会社製)、KF−351A、KF−352A、KF−353、KF−354L、KF−355A、KF−615A、KF−945、KF−640、KF−642、KF−643、KF−6020、X−22−4515、KF−6011、KF−6012、KF−6015、KF−6017(以上商品名、信越化学株式会社製)等が挙げられる。シリコン系界面活性剤は、記録媒体上で白色インクの濃淡ムラや滲みを生じないように均一に広げる作用を有するという観点から好ましく用いることができる。
【0039】
更に、本実施形態のインク組成物には、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、両性界面活性剤等のその他の界面活性剤を添加してもよい。
【0040】
(5)色材
本実施形態に係るインクジェット記録装置1に用いるインクは、色材として顔料、染料、金属酸化物および中空構造を有する粒子から選択される少なくとも1種を含有することが好ましい。
【0041】
(5−1)顔料
本実施形態において使用可能な顔料としては、特に制限されないが、無機顔料や有機顔料が挙げられる。
無機顔料としては、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャネルブラック等のカーボンブラック(C.I.ピグメントブラック7)類、酸化鉄、酸化チタンを使用することができる。
【0042】
また、有機顔料としては、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、アゾレーキ、キレートアゾ顔料等のアゾ顔料、フタロシアニン顔料、ペリレンおよびペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロン顔料等の多環式顔料、染料キレート(例えば、塩基性染料型キレート、酸性染料型キレート等)、染色レーキ(塩基性染料型レーキ、酸性染料型レーキ)、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック、昼光蛍光顔料が挙げられる。上記顔料は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0043】
更に詳しくは、ブラック用として使用される無機顔料としては、以下のカーボンブラック、例えば、三菱化学製のNo.2300、No.900、MCF88、No.33、No.40、No.45、No.52、MA7、MA8、MA100、またはNo2200B等;コロンビア社製のRaven5750、Raven5250、Raven5000、Raven3500、Raven1255、またはRaven700等;キャボット社製のRegal 400R、Regal 330R、Regal 660R、Mogul L、Monarch 700、Monarch 800、Monarch 880、Monarch 900、Monarch 1000、Monarch 1100、Monarch 1300、またはMonarch 1400等;あるいは、デグッサ社製のColor Black FW1、Color Black FW2、Color Black FW2V、Color Black FW18、Color Black FW200、Color Black S150、Color Black S160、Color Black S170、Printex 35、Printex U、Printex V、Printex 140U、Special Black 6、Special Black 5、Special Black 4A、またはSpecial Black 4等が挙げられる。
【0044】
イエロー有機顔料としては、C.I.ピグメントイエロー1、2、3、4、5、6、7、10、11、12、13、14、16、17、24、34、35、37、53、55、65、73、74、75、81、83、93、94、95、97、98、99、108、109、110、113、114、117、120、124、128、129、133、138、139、147、151、153、154、155、167、172、180、185、213等が挙げられる。
【0045】
マゼンタ有機顔料としては、C.I.ピグメントレッド1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、14、15、16、17、18、19、21、22、23、30、31、32、37、38、40、41、42、48(Ca)、48(Mn)、57(Ca)、57:1、88、112、114、122、123、144、146、149、150、166、168、170、171、175、176、177、178、179、184、185、187、202、209、219、224、245、254、264またはC.I.ピグメントバイオレット19、23、32、33、36、38、43、50等が挙げられる。
【0046】
シアン有機顔料としては、C.I.ピグメントブルー1、2、3、15、15:1、15:2、15:3、15:4、15:6、15:34、16、18、22、25、60、65、66、C.I.バットブルー4、60等が挙げられる。
【0047】
また、マゼンタ、シアンおよびイエロー以外の有機顔料としては、例えば、C.I.ピグメントグリーン7、10、C.I.ピグメントブラウン3、5、25、26、C.I.ピグメントオレンジ2、5、7、13、14、15、16、24、34、36、38、40、43、63等が挙げられる。更に、二酸化チタン、中空粒子、酸化亜鉛などの白色系の顔料を用いることが出来る。
【0048】
自己分散型顔料は、顔料粒子表面に少なくとも1つのイオン性基が直接若しくは他の原子団を介して結合していることを特徴とするものであり、この条件を満たす限りであれば、特に限定されない。例えば、ジアゾカップリング法を用いてイオン性基を有する化合物を顔料粒子表面に結合させた顔料、次亜塩素酸ソーダや水中オゾン処理等による表面酸化処理でイオン性基を顔料粒子表面に導入した顔料等が使用可能である。これらの顔料は、単独では勿論のこと、2種類以上を混合して用いることも可能である。自己分散型顔料は、顔料の表面に−COOH、−CHO、−OH、−SO3Hおよびこれらの塩からなる群より選ばれる1種または2種以上の官能基(分散性付与基)を有するように処理された顔料であって、分散剤を別途配合せずとも、水系インク組成物中で均一に分散し得るものであることが好ましい。なお、ここでいう「分散」とは、自己分散型顔料が分散剤なしに水中に安定に存在している状態をいい、分散している状態のもののみならず、溶解している状態のものも含むものとする。
【0049】
第1インク組成物に含まれる色材は、自己分散顔料であることが好ましいが、着弾ズレは自己分散顔料の方が他の色材と比較して顕著に起こりうることから、本発明は良好に効果を発揮する。
【0050】
樹脂分散顔料は、顔料を樹脂分散剤によって分散した顔料を示す。樹脂分散剤としては、スチレンおよびその誘導体、ビニルナフタレンおよびその誘導体、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸の脂肪族アルコールエステル等、アクリル酸およびその誘導体、マレイン酸およびその誘導体、イタコン酸およびその誘導体、フマール酸およびその誘導体、酢酸ビニル、ビニルアルコール、ビニルピロリドン、アクリルアミド、およびその誘導体等から選ばれた少なくとも2つの単量体(このうち少なくとも1つは親水性単量体)からなるブロック共重合体、ランダム共重合体およびグラフト共重合体、並びにこれらの塩等を挙げることができる。
【0051】
また、高分子分散剤と共に、下記に挙げるような分散剤または界面活性剤を併用してもよい。例えば、アニオン系、ノニオン系のものを好適に使用できる。アニオン系のものとしては、例えば、脂肪酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、アルキルリン酸エステル塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩、およびこれらの置換誘導体等; ノニオン系のものとしては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、グリセリン脂肪酸エステル、オキシエチレンオキシプロピレンブロックポリマー、およびこれらの置換誘導体等が挙げられる。
【0052】
第2インク組成物(1、2−ヘキサンジオールを3質量%以上含む)は、樹脂分散顔料が好ましい。このようなインクを更に備えることで、光沢のある画像を記録可能となる。
【0053】
(5−2)染料
染料としては、直接染料、酸性染料、食用染料、塩基性染料、反応性染料、分散染料、建染染料、可溶性建染染料、反応分散染料等の通常インクジェット記録に使用する各種染料を使用することができる。
【0054】
イエロー系染料としては、C.I.アシッドイエロー1、3、11、17、19、23、25、29、36、38、40、42、44、49、59、61、70、72、75、76、78、79、98、99、110、111、127、131、135、142、162、164、165、C.I.ダイレクトイエロー1、8、11、12、24、26、27、33、39、44、50、58、85、86、87、88、89、98、110、132、142、144、C.I.リアクティブイエロー1、2、3、4、6、7、11、12、13、14、15、16、17、18、22、23、24、25、26、27、37、42、C.I.フードイエロー3、4、C.I.ソルベントイエロー15、19、21、30、109等が挙げられる。
【0055】
マゼンタ系染料としては、C.I.アシッドレッド1、6、8、9、13、14、18、26、27、32、35、37、42、51、52、57、75、77、80、82、85、87、88、89、92、94、97、106、111、114、115、117、118、119、129、130、131、133、134、138、143、145、154、155、158、168、180、183、184、186、194、198、209、211、215、219、249、252、254、262、265、274、282、289、303、317、320、321、322、C.I.ダイレクトレッド1、2、4、9、11、13、17、20、23、24、28、31、33、37、39、44、46、62、63、75、79、80、81、83、84、89、95、99、113、197、201、218、220、224、225、226、227、228、229、230、231、C.I.リアクティブレッド1、2、3、4、5、6、7、8、11、12、13、15、16、17、19、20、21、22、23、24、28、29、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、45、46、49、50、58、59、63、64、C.I.ソルビライズレッド1、C.I.フードレッド7、9、14等が挙げられる。
【0056】
シアン系染料としては、C.I.アシッドブルー1、7、9、15、22、23、25、27、29、40、41、43、45、54、59、60、62、72、74、78、80、82、83、90、92、93、100、102、103、104、112、113、117、120、126、127、129、130、131、138、140、142、143、151、154、158、161、166、167、168、170、171、182、183、184、187、192、199、203、204、205、229、234、236、249、C.I.ダイレクトブルー1、2、6、15、22、25、41、71、76、77、78、80、86、87、90、98、106、108、120、123、158、160、163、165、168、192、193、194、195、196、199、200、201、202、203、207、225、226、236、237、246、248、249、C.I.リアクティブブルー1、2、3、4、5、7、8、9、13、14、15、17、18、19、20、21、25、26、27、28、29、31、32、33、34、37、38、39、40、41、43、44、46、C.I.ソルビライズバットブルー1、5、41、C.I.バットブルー4、29、60、C.I.フードブルー1、2、C.I.ベイシックブルー9、25、28、29、44等が挙げられる。
【0057】
また、マゼンタ、シアンおよびイエロー以外の染料としては、例えば、C.I.アシッドグリーン7、12、25、27、35、36、40、43、44、65、79、C.I.ダイレクトグリーン1、6、8、26、28、30、31、37、59、63、64、C.I.リアクティブグリーン6、7、C.I.アシッドバイオレット15、43、66、78、106、C.I.ダイレクトバイオレット2、48、63、90、C.I.リアクティブバイオレット1、5、9、10、C.I.ダイレクトブラック154等が挙げられる。
【0058】
(6)その他の成分
本実施形態のインクに顔料を含有させる際には、顔料を分散させるための分散剤を添加してもよい。好ましい分散剤としては、顔料分散液を調製するのに慣用されている分散剤、例えば高分子分散剤を使用することができる。このような分散剤としては、通常のインクにおいて用いられている任意の分散剤を用いることができる。
【0059】
また、本実施形態に係るインクジェット記録装置1に用いるインクは、更に、pH調整剤、ポリオレフィンワックス等の樹脂、防腐剤・防かび剤、防錆剤、キレート化剤等を含有することが好ましい。これらの材料を添加すると、インクの有する特性を更に向上させる点から好ましい。
【0060】
pH調整剤としては、例えば、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム、アンモニア、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等が挙げられる。
【0061】
樹脂としては、例えば、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、アクリル酸−アクリロニトリル共重合体、酢酸ビニル−アクリル酸エステル共重合体、アクリル酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−アクリル酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−メタクリル酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−α−メチルスチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−α−メチルスチレン−アクリル酸一アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、ビニルナフタレン−マレイン酸共重合体、酢酸ビニル−エチレン共重合体、酢酸ビニル−脂肪酸ビニルエチレン共重合体、酢酸ビニル−マレイン酸エステル共重合体、酢酸ビニル−クロトン酸共重合体、酢酸ビニル−アクリル酸共重合体が挙げられる。樹脂としてのワックスとしては、例えば、エチレン、プロピレン、ブチレン等のオレフィンまたはその誘導体から製造したワックスおよびそのコポリマー、具体的には、ポリエチレン系ワックス、ポリプロピレン系ワックス、ポリブチレン系ワックス等が挙げられる。ポリオレフィンワックスとしては、市販されているものを利用することができ、具体的には、ノプコートPEM17(商品名、サンノプコ株式会社製)、ケミパールW4005(商品名、三井化学株式会社製)、AQUACER515、AQUACER593(以上商品名、ビックケミー・ジャパン株式会社製)等を用いることができる。
【0062】
防腐剤・防かび剤としては、例えば、安息香酸ナトリウム、ペンタクロロフェノールナトリウム、2−ピリジンチオール−1−オキサイドナトリウム、ソルビン酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、1,2−ジベンジソチアゾリン−3−オン等が挙げられる。市販品では、プロキセルXL2、プロキセルGXL(以上商品名、アビシア社製)や、デニサイドCSA、NS−500W(以上商品名、ナガセケムテックス株式会社製)等が挙げられる。
【0063】
防錆剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール等が挙げられる。
【0064】
キレート化剤としては、例えば、エチレンジアミン四酢酸およびそれらの塩類(エチレンジアミン四酢酸二水素二ナトリウム塩等)等が挙げられる。
【0065】
2.実施形態の詳細仕様
2.1.描画精度
次に、上述したインクジェット記録装置、インク組成物および記録媒体を使用した場合の描画精度について説明する。
図2は、吐出したインク滴の飛翔の様子を説明する側断面図である。図2において、XYZ方向は、それぞれ図1のXYZ方向に対応しており、図2は、ヘッド2のノズル9を含むX−Z面による断面を示している。
【0066】
図2において、プラテン8の表面は、X−Y平面方向に延在し、記録媒体10を載置している。ノズル9の開口面は、プラテン8の表面から−Z方向に距離PG(プラテンギャップPG)の間隔を空けて位置している。ノズル9は、X方向の往復運動による走査をしながら、Z方向にインク滴を吐出する。図2は、ノズル9が、速度VcでX方向に移動している様子を示している。
【0067】
ノズル9から吐出するインク滴は、図2に示すように、吐出後に、メイン滴と一つ以上のサテライト滴とに分裂する場合が多い。メイン滴とサテライト滴の飛翔速度は異なり、メイン滴の飛翔速度をVm、サテライト滴の飛翔速度をVsとした場合に、Vm>Vsとなる。また、ノズル9は速度VcでX方向に移動しているため、実際のメイン滴とサテライト滴の速度ベクトルは、Vm’、Vs’となる。その結果、メイン滴とサテライト滴が記録媒体10に着弾する位置は、Pm、Psとなり、ズレdが発生する。このズレdの影響によって、描画する線幅を太くしてしまったり、二重線化してしまったりする。
【0068】
一方、高精度の描画を行うには、所望の位置に所望の太さの線を描けるようにする必要がある。従って、そのためには、ズレdをできるだけ小さくすることが望まれる。つまり、吐出するインク滴が、メイン滴とサテライト滴とに分裂しないようにする、あるいは、分裂した場合でも、VmとVsとの速度差を小さくすることが望まれる。また、ノズル9の走査速度Vcに比較して、Vm、Vsの速度を充分に早くすることによっても、その効果を得ることができる。
【0069】
2.2.インクジェット記録装置1の詳細仕様
以下、より高精細な描画で高速に出力することのできるインクジェット記録装置1の詳細仕様について説明する。
【0070】
(1)キャリッジ速度
キャリッジ3は、キャリッジ駆動機構4によって33インチ/秒以上の速度で走査を行う。つまり、330cps(character per second)以上、より好ましくは360cps以上の記録速度を有する。ノズル9は、33インチ/秒以上の速度で走査されるため、高速に記録(描画)を行うことができる。
【0071】
(2)VmとVsとの関係
また、噴射したインク(第1インク組成物)が飛翔速度Vmのメイン滴と、飛翔速度Vsのサテライト滴を含む一つ以上のサテライト滴とに分裂した場合に、Vm−Vs<3メートル/秒であることが好ましい。より好ましくは、Vm−Vs<2.6メートル/秒であり、一層好ましくは、Vm−Vs<2.3メートル/秒であり、更に一層好ましくは、Vm−Vs<2.2メートル/秒である。この関係を満たすことで、記録媒体10に着弾する液滴の位置が分散する度合いを小さく抑えることが可能である。これによって、より高精細でより高速の描画を行うインクジェット記録装置を提供することができる。
本実施形態に係る一実施例としてのインクジェット記録装置1は、後述する第1インク組成物の組成の作用と合わせ、Vm−Vs<2メートル/秒を実現している。
【0072】
更に、メイン滴の飛翔速度Vmが、7メートル/秒<Vmであるとより好ましい。一層好ましくは、7.5メートル/秒<Vmであり、更に一層好ましくは、8メートル/秒<Vmである。これを満たすことで、ノズル9の開口面と、記録媒体10を載置するプラテン8の表面との距離PGを短くした場合と同様の効果が得られる。つまり、記録媒体10に着弾する液滴の位置が分散する度合いをより小さく抑えることが可能であり、また高速の記録を行うことができる。
インクジェット記録装置1は、後述する第1インク組成物の組成の作用と合わせ、8メートル/秒<Vmを実現している。
【0073】
(3)プラテンギャップ
ノズル9の開口面と、記録媒体10を載置するプラテン8の表面との距離PGが、0.5ミリメートル<PG<2.5ミリメートルであると好ましい。より好ましくは1.1ミリメートル<PG<2ミリメートルである。この関係を満たすことで、飛翔する液滴がメイン滴と、サテライト滴とに分裂した場合であっても、記録媒体10に着弾する液滴の位置が分散する度合いを所定の範囲に抑えることが可能である。これによって、より高精細でより高速の描画を行うインクジェット記録装置を提供することができる。
なお、実施例1〜8においてのインクジェット記録装置1は、PG=約1.6ミリメートルである。
【0074】
(4)ノズル解像度
複数のノズル9が配列される間隔(ピッチ)が、インクジェットヘッドの走査方向に交差する方向(副走査方向)において85μm以下であることが好ましい。85μm以下のピッチであることから約300dpi以上のノズル密度となり、より細密な記録を高速に行うことができる。従来のインクジェット記録装置は、記録媒体の走査方向(Y方向、副走査方向)の記録精度が主走査方向の記録精度と比較して劣る傾向にあり、詳細な細線が描かれた画像であれば着弾精度が劣る部分が顕著に視認されてしまう場合がある。つまり、副走査方向に非常に高密度に配列されていれば、より細線を記録する装置であってもより高精細に記録を行うことが出来る。
インクジェット記録装置1は、ノズル9の口径は、15〜25μmが好ましく、より好ましくは21〜23μmである。
【0075】
(5)その他
最小線幅が、250μm以下の記録のできることが好ましい。このような微小な線幅で記録が出来るインクジェット記録装置に本願発明は効果的である。
インクジェット記録装置1は、平均吐出液滴量(例えば一つの画像の記録開始から記録終了後までに吐出された液適量の平均値)が26ng以下、より好ましくは1ng以上26ng以下、さらに好ましくは3ng以上26ng以下、最も好ましくは3ng以上21ng以下の平均吐出液滴量のインクジェットヘッドを用いると良い。これによって、上述した仕様および後述する第1インク組成物の組成の作用と合わせ、最小線幅が、250μmの描画を実現している。図面などの記録において、最小線幅が、250μmの線幅の記録が行えるため、より細密な画像の記録を行うことができる。
また、本発明は図面用途用のインクジェット記録装置に好ましく適用できる。図面用途用とは、CAD等を始めとする図面を想定して設計された記録装置であり、CAD等の図面に効果的である旨を広告している記録装置のことを示す。
【0076】
2.3.インク組成物の詳細仕様
(1)1、2―ヘキサンジオール
インクジェット記録装置1に用いるインク組成物(第1インク組成物)は、1,2−ヘキサンジオールを必須として含む。第1インク組成物中に含ませる1,2−ヘキサンジオールの量は3質量%未満が好ましく、より好ましくは、0.5質量%以上2質量%以下である。また、一層好ましくは0.5質量%以上1.7質量%以下であり、更に一層好ましくは、0.5質量%以上1.5質量%以下である。
【0077】
ノズルから吐出され飛翔する液滴は、その表面張力によって表面積が最小となる方向に形状が変化する。その際に複数の液滴に分裂する場合がある。1,2−ヘキサンジオールは、通常浸透剤や難水溶性溶剤の可溶化剤として用いられるが、上記の含有量にすることで、液滴が分裂して着弾した場合のズレdの値を小さく抑えることができる。これは、1,2−ヘキサンジオールが、複数の液滴に分裂してしまう際の表面張力の影響の度合いを下げることによるものが一つの要因ではないかと推察される。具体的には、1,2−ヘキサンジオールが持つ水酸基の親和性により、微少量の液滴を高周波(例えば10kHz以上)で吐出する際の、動的表面張力を低減する効果があると推察される。その結果、飛翔する液滴が分裂しにくくなることで、着弾ズレdを小さく抑えることができると考えられる。
なお、1,2−ヘキサンジオールは、過剰に入れすぎると反って着弾ズレ量を大きくしてしまう。
【0078】
(2)グリセリン
また、インク組成物(第1インク組成物)は、グリセリンを必須として含む。第1インク組成物中に含ませるグリセリンの量は、10質量%以上が好ましく、より好ましくは、12質量%以上であり、より一層好ましくは、14質量%以上である。グリセリンを含有させることにより目詰まり性に優れたインク組成物となるが、このような含有量にすることで、飛翔する液滴が更に分裂しにくくなる。また分裂した場合においても、分裂した液滴の速度差をより小さく抑えることができる。これによって、記録媒体10に着弾する液滴の位置が分散する度合いを小さく抑えることが可能である。
【0079】
(3)第2インク組成物
また、インクジェット記録装置1は、高精細を目的とする第1インク組成物の他に、1,2−ヘキサンジオールを3質量%以上含有する第2インク組成物を噴射する第2液体噴射ノズルによる記録を行うことができる。第2インク組成物を使用することで、第1インク組成物による細密で高精度で光沢感のある描画に加え、それほどの精度や精密度を必要としない部分の画質を向上させることができる。例えば、1、2―ヘキサンジオールを3質量%以上含有するインク組成物の顔料は、樹脂分散顔料や光輝性顔料(銀、アルミニウム、パール等)を使用できる。これにより光沢度などの質感をより高く表現する部分の記録も合わせて行うことができる。
【0080】
以上述べたように、本実施形態によるインクジェット記録装置、インク組成物および記録物によれば、より高精細でより高速の画像(特に図面等)の描画を行うことができる。
【0081】
3.実施例
以下に、具体的な実施例を説明する。
インクジェット記録装置1としては、PX‐H10000(セイコーエプソン株式会社製)に所定の改造を施したものを使用した。プラテンギャップPGは、約1.6ミリメートル、キャリッジ速度は、約33インチ/秒とした。なお、ヘッドのノズル径は約20μmであった。
第1インク組成物は、グリセリン、1,2−ヘキサンジオール、トリメチロールプロパン、プロピレングリコール、サーフィノール104PG50(界面活性剤、日信化学工業社製)、純水で構成した。
記録媒体10としては、PXマット紙ロール<薄手>(セイコーエプソン社製)を用いた。
なお、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0082】
また、実施例と比較例に記載のインクは顔料としてのカーボンブラックを含有し、その顔料濃度は6.5質量%である。なお、カーボンブラックは以下のように作成した。
市販のカーボンブラックであるカラーブラックS170(デグサ・ヒュルス社製)100gを水1kgに混合して、ジルコニアビーズによるボールミルにて粉砕した。この粉砕原液に次亜塩素酸ナトリウム(有効塩素濃度 12%)1400gを滴下して、ボールミルで粉砕しながら5時間反応させ、さらに攪拌しながら4時間煮沸して湿式酸化を行った。得られた分散原液をガラス繊維ろ紙GA−100(商品名:アドバンテック東洋社製)で濾過して、さらに水で洗浄した。得られたウェットケーキを水5kgに再分散して、逆浸透膜により電導度が2mS/cmになるまで脱塩および精製し、さらに顔料濃度が20重量%になるまで濃縮した。
【0083】
3.1.実施例1〜8
表1に実施例1〜8による記録物の評価結果を示す。
実施例は、表1に示すように、1,2−ヘキサンジオールおよびグリセリンの組成比率を変化させて、実施例1〜8とした。
【0084】
【表1】

【0085】
また、実施結果に対する評価は、着弾ズレdの値により以下のように基準を定めて行った。
◎: d<57μm
○:57μm≦d<61μm
△:61μm≦d<65μm
X:65μm≦d
【0086】
表1の評価結果に示すように、1,2−ヘキサンジオールおよびグリセリンの組成比率を変化させると、サテライト滴の速度Vsが変化した。その結果、メイン滴の速度Vmとの差Vm−Vsを小さくすることができ、1,2−ヘキサンジオールが、1.5質量%以下、グリセリンが13質量%以上の場合において、○あるいは◎の結果が得られた。
【0087】
3.2.実施例9〜11、比較例1
表2は、実施例8に対して、プラテンギャップPGを変えた場合の着弾ズレdの値の推定値を示している。なお、比較例1はヘッドと記録媒体が接触し、着弾ズレでの評価は出来なかった。
つまり、PGが小さいほど、つまりノズル9の開口面とプラテン8の表面との距離が短いほど良好である。ただし、記録媒体10の厚みや撓みを考慮する必要があり、比較例1のようなPGは、記録媒体10と接触する可能性が高く良好ではない。
【0088】
【表2】

【符号の説明】
【0089】
1…インクジェット記録装置、2…インクジェット式記録ヘッド、3…キャリッジ、4…キャリッジ駆動機構、5…コントロールボード、6…インクカートリッジ、8…プラテン、9…ノズル、10…記録媒体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一つ以上の第1液体噴射ノズルから噴射する第1インク組成物により記録媒体に画像を記録するインクジェット記録装置であって、
前記第1液体噴射ノズルの開口面と、前記記録媒体を載置するプラテンの表面との距離PGが、
0.5ミリメートル<PG<2.5ミリメートル
であり、
前記第1インク組成物は、前記第1液体噴射ノズルから噴射された後に、飛翔速度がVmのメイン滴と、飛翔速度がVsのサテライト滴を含む一つ以上のサテライト滴とに分裂して飛翔し、
Vm−Vs<3メートル/秒
であることを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記メイン滴の飛翔速度Vmが、
7メートル/秒<Vm
であることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記第1液体噴射ノズルが33インチ/秒以上の速度で走査されることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記第1液体噴射ノズルは、圧電素子の発生する圧力により液体を噴射する圧電型噴射ノズルであって、
複数の前記第1液体噴射ノズルが配列されたインクジェットヘッドを備え、
前記複数の第1液体噴射ノズルが配列される間隔は、前記インクジェットヘッドの走査方向に交差する方向において、85μm以下であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
前記第1インク組成物は、1、2―ヘキサンジオールを3質量%未満含有することを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項6】
前記第1インク組成物は、更にグリセリンを10質量%以上含有していることを特徴とする請求項5に記載のインクジェット記録装置。
【請求項7】
前記第1インク組成物が記録する最小線幅が、250μm以下であることを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項8】
前記第1インク組成物によって記録する目的の画像が図面であることを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれか一項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項9】
更に、色材と、1、2―ヘキサンジオールとを含有し、前記1、2−ヘキサンジオールの含有量が3質量%以上である第2インク組成物と、前記第2インク組成物を噴射する第2液体噴射ノズルとを備えることを特徴とする請求項1ないし請求項8のいずれか一項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項10】
請求項1ないし請求項9のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置によって記録された記録物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−43424(P2013−43424A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−184476(P2011−184476)
【出願日】平成23年8月26日(2011.8.26)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】