インクジェット記録装置およびインクジェット記録方法
【課題】インクジェット記録における画像の光沢ムラの低減。
【解決手段】複数種類のインクを吐出する記録ヘッドを有するインクジェット記録装置であって、記録媒体の所定領域に対して記録ヘッドを複数回走査させて記録ヘッドから複数種類のインクを吐出させる吐出データに基づいて、記録ヘッドから複数種類のインクを所定領域に対して吐出して画像を記録する吐出手段を備え、複数種類のインクは、接触角が相対的に大きい第1インクと、接触角が相対的に小さい第2インクとに分類され、吐出データは、吐出手段により所定領域に対して吐出されるべき第1インクおよび第2インクの付与量の差が所定の値より大きい場合に、付与量が少ない方のインクが複数回の走査のうちの後半の走査で吐出される割合が高くなる、吐出データであるインクジェット記録装置。
【解決手段】複数種類のインクを吐出する記録ヘッドを有するインクジェット記録装置であって、記録媒体の所定領域に対して記録ヘッドを複数回走査させて記録ヘッドから複数種類のインクを吐出させる吐出データに基づいて、記録ヘッドから複数種類のインクを所定領域に対して吐出して画像を記録する吐出手段を備え、複数種類のインクは、接触角が相対的に大きい第1インクと、接触角が相対的に小さい第2インクとに分類され、吐出データは、吐出手段により所定領域に対して吐出されるべき第1インクおよび第2インクの付与量の差が所定の値より大きい場合に、付与量が少ない方のインクが複数回の走査のうちの後半の走査で吐出される割合が高くなる、吐出データであるインクジェット記録装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数種類のインクを吐出する記録手段を記録媒体に対し走査しながら画像を記録するマルチパス方式のインクジェット記録装置およびインクジェット記録方法に関する。詳細には、本発明は、画像の光沢ムラ、干渉色ムラを軽減させるインクジェット記録装置およびインクジェット記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の製造技術の進歩により、顔料インクについて、染料インクに比べて優れた従来からの長期保存性能と、染料インクに匹敵する高発色性と、の両立が可能になった。そのため、記録した画像を長期に亘って保存する要求の高い写真やポスターなどの用途を中心に、顔料インクを用いたインクジェット記録が普及している。
【0003】
しかし、顔料インクを用いる場合、画像の光沢性が不均一であることにより生じる光沢ムラなど、銀塩写真には無かった画像品位の問題が重要になりつつある。また、ポスターなどの展示用途が増すにつれ、画像の強度や長期保存性などを示す画像堅牢性がオフセット印刷物と比較して低いことも、新たな問題として掲げられている。
【0004】
光沢ムラ、堅牢性等の問題を解決するために、特許文献1は、画像記録後に、画像を転写フィルムによる透明樹脂層で覆うラミネート方式を用いる構成を開示している。また、特許文献2は、樹脂を含有する透明な処理液を画像表面の全体に付与する処理方式を用いる構成を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−153677号公報
【特許文献2】特開2004−1446号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、画像を記録した後に画像の表面を転写フィルムによる樹脂層で覆う方式では、作業工程が複雑で、かつ、記録装置の他にラミネート装置も必要など作業スペースも装置も大掛かりなものになってしまう。また、画像を記録した後に画像の表面を透明な処理液により全体的に覆う方式では、透明層の表面が鏡面に仕上がり光沢ムラが軽減され均一な光沢感を得られるが、同時に薄膜干渉現象による干渉色ムラが現れて画像品位を損ねてしまうおそれがある。
【0007】
ここで「薄膜干渉現象」とは、膜の表面で反射された光と膜の表面を通過して膜の裏側で反射された光とが干渉しあって強め合ったり打ち消しあったりし、干渉色が発現してしまう現象のことである。膜の厚みにより干渉色が異なることが知られている。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、光沢ムラ、干渉色ムラの問題を、大掛かりな装置や作業スペースを用いずに、単純な作業工程で、解決することが可能なインクジェット記録装置およびインクジェット記録方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための本発明のインクジェット記録装置は、複数種類のインクを吐出する記録ヘッドを有するインクジェット記録装置であって、記録媒体の所定領域に対して前記記録ヘッドを複数回走査させて前記記録ヘッドから前記複数種類のインクを吐出させる吐出データに基づいて前記記録ヘッドから前記複数種類のインクを前記所定領域に対して吐出して画像を記録する吐出手段を備え、前記複数種類のインクは、接触角が相対的に大きい第1インクと、接触角が相対的に小さい第2インクとに分類され、前記吐出データは、前記吐出手段により前記所定領域に対して吐出されるべき前記第1インクおよび前記第2インクの付与量の差が所定の値より大きい場合に、付与量が少ない方のインクが前記複数回の走査のうちの後半の走査で吐出される割合が高くなる、吐出データであることを特徴とする。
【0010】
また、上記課題を解決するための本発明のインクジェット記録装置は、複数種類のインクを吐出する吐出口と、画像の性能を向上させる特性を有する処理液を吐出する吐出口と、を備える記録ヘッドを有するインクジェット記録装置であって、記録媒体の所定領域に対して前記記録ヘッドを複数回走査させて前記記録ヘッドから前記複数種類のインクを吐出させる吐出データに基づいて、前記記録ヘッドから前記複数種類のインクを前記所定領域に対して吐出して画像を記録し、および、前記所定領域に対して前記記録ヘッドを走査させて前記記録ヘッドから前記処理液を吐出させる吐出データに基づいて、前記複数種類のインクにより記録された画像の上に前記記録ヘッドから前記処理液を吐出することによって、前記画像を前記処理液により被覆するする吐出手段を備え、前記複数種類のインクは、接触角が相対的に大きい第1インクと、接触角が相対的に小さい第2インクとに分類され、前記複数種類のインクを吐出させる吐出データは、前記吐出手段により前記所定領域に対して吐出されるべき前記第1インクおよび前記第2インクの付与量の差が所定の値より大きい場合に、付与量が少ない方のインクが前記複数回の走査のうちの後半の走査で吐出される割合が高くなるようにして、前記複数種類のインクにより記録されるべき前記画像の表面粗さを所定の範囲とする、吐出データであることを特徴とする。
【0011】
また、上記課題を解決するための本発明のインクジェット記録方法は、複数種類のインクを吐出する記録ヘッドを有するインクジェット記録装置によるインクジェット記録方法であって、記録媒体の所定領域に対して前記記録ヘッドを複数回走査させて前記記録ヘッドから前記複数種類のインクを吐出させる吐出データに基づいて、前記記録ヘッドから前記複数種類のインクを前記所定領域に対して吐出して画像を記録する吐出工程を含み、前記複数種類のインクは、接触角が相対的に大きい第1インクと、接触角が相対的に小さい第2インクとに分類され、前記吐出データは、前記吐出手段により前記所定領域に対して吐出されるべき前記第1インクおよび前記第2インクの付与量の差が所定の値より大きい場合に、付与量が少ない方のインクが前記複数回の走査のうちの後半の走査で吐出される割合が高くなる、吐出データであることを特徴とする。
【0012】
また、上記課題を解決するための本発明のインクジェット記録方法は、複数種類のインクを吐出する吐出口と、画像の性能を向上させる特性を有する処理液を吐出する吐出口と、を備える記録ヘッドを有するインクジェット記録装置によるインクジェット記録方法であって、記録媒体の所定領域に対して前記記録ヘッドを複数回走査させて前記記録ヘッドから前記複数種類のインクを吐出させる吐出データに基づいて、前記記録ヘッドから前記複数種類のインクを前記所定領域に対して吐出して画像を記録し、および、前記所定領域に対して前記記録ヘッドを走査させて前記記録ヘッドから前記処理液を吐出させる吐出データに基づいて、前記複数種類のインクにより記録された画像の上に前記記録ヘッドから前記処理液を吐出することによって、前記画像を前記処理液により被覆する吐出工程を含み、前記複数種類のインクは、接触角が相対的に大きい第1インクと、接触角が相対的に小さい第2インクとに分類され、前記複数種類のインクを吐出させる吐出データは、前記吐出手段により前記所定領域に対して吐出されるべき前記第1インクおよび前記第2インクの付与量の差が所定の値より大きい場合に、付与量が少ない方のインクが前記複数回の走査のうちの後半の走査で吐出される割合が高くなるようにして、前記複数種類のインクにより記録されるべき前記画像の表面粗さを所定の範囲とする、吐出データであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、インクジェット記録において、画像を記録するインクの接触角の相対的な大小関係によって、インクの付与順序を比較的簡単な構成で最適化することが可能となる。詳細には、接触角が相対的に大きいインク(濡れ性の低いインク)の付与量と接触角が相対的に小さいインク(濡れ性の高いインク)の付与量との差が、所定の値より大きい場合、付与量が少ない方のインクを複数回の走査のうち後半の走査で付与されるようにする。これにより、所定領域において光沢ムラを均一化させた画像性能を実現させることができる。また、本発明によれば、インクで記録された画像に対して性能向上のための処理液をさらに付与した際の干渉色ムラを軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態のインクジェット記録装置の要部を示した斜視図である。
【図2】(a)は、本発明の第1の実施形態において用いられる記録ヘッドを吐出口側から見た図であり、(b)は、第2の実施形態において用いられる記録ヘッドを吐出口側から見た図である。
【図3】本発明の代表的な実施形態のインクジェット記録装置の概略構成を示す図である。
【図4】(a)は、本発明の第1の実施形態の画像処理部のフローチャートであり、(b)は、第2の実施形態の画像処理部のフローチャートである。
【図5】(a)および(b)は、接触角が異なるブラックインクおよびライトシアンインクにより記録された画像の表面形状の違いを説明するための図であり、(c)は、処理液を用いて透明層を形成した記録画像の断面を模式的に示した図である。
【図6】本発明の第1の実施形態における記録方法の説明図である。
【図7】(a)および(b)は、固体表面上の液滴の接触角の測定法について説明するための図である。
【図8】(a)および(b)は、ブラックインクおよびライトシアンインクの接触角と、これらのインクにより記録された画像の表面粗さ、光沢度、ヘイズ値とを示した表である。
【図9】(a)および(b)は、接触角が異なるブラックインクおよびライトシアンインクをポリエチレン(PE)シートの上に滴下した場合の接触角の違いを説明するための図である。
【図10】表面粗さ(Ra)を説明するための図である。
【図11】本発明の実施形態に用いられる顔料インクを付与する場合のマスクパターンを説明するための図である。
【図12】(a)および(b)は、後半の走査で記録する場合のマスクパターンを説明するための図である。
【図13】干渉色のメカニズムを説明するための図である。
【図14】(a)は、本発明の第2の実施形態における表面粗さ(Ra)と干渉色(色度)との関係を表す図であり、(b)は、表面粗さ(Ra)と処理液の付与量(デューティー(%))との関係を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本明細書における「接触角が相対的に大きいインク」とは、画像堅牢性や画像品位といった画像性能を向上させたインクである。また、「処理液」とは、インクと接触させることによって、画像堅牢性や画像品位といった画像性能を向上させる液体(画像性能向上液)である。
【0016】
ここで、「画像堅牢性を向上させる」とは、耐擦過性、耐候性、耐水性、耐アルカリ性の少なくとも1つを向上させて、インク画像の堅牢性を向上させる意である。一方、「画像品位を向上させる」とは、光沢性、ヘイズ性、ブロンズ性の少なくとも1つを向上させて、インク画像の品位を向上させる意である。
【0017】
ここで、「耐擦過性」は、JIS K 5600−5−5に定められた方法に準じて測定される最小負荷値により評価するものである。そして、「耐擦過性を向上させる」とは、「最小負荷値の値を高くする」ことを意味する。
【0018】
また、「耐候性」は、JIS K 5600−7に定められた方法に準じて測定される変化の程度(等級)により評価するものである。例えば、色の変化の程度の評価には、色差を用いたりする。そして、「耐候性を向上させる」とは、「変化の程度(等級)の値を低くする」ことを意味する。
【0019】
また、「耐水性」、「耐アルカリ性」は、JIS K 5600−6−1に定められた方法に準じて測定される損傷の兆候の観察により評価するものである。そして、「耐水性を向上させる」とは、「損傷の兆候を小さくする」ことを意味する。
【0020】
また、「光沢性」は、JIS K 5600−4−7に定められた方法に準じて測定される光沢度により評価するものである。そして、「光沢性を向上させる」とは、「光沢度の値を高くする」ことを意味する。
【0021】
また、「ヘイズ性」は、JIS K 7374に定められた方法に準じて測定されるヘイズ値により評価するものである。そして、「ヘイズ性を向上させる」とは、「ヘイズ値の値を低くする」ことを意味する。
【0022】
また、「ブロンズ性」は、JIS K 0115に定められた方法に準じて測定される色度により評価するものである。そして、「ブロンズ性を向上させる」とは、「色度の値を無彩色化する」ことを意味する。
【0023】
本実施形態では、「接触角が相対的に大きいインク」を、画像堅牢性のうちの耐擦過性を向上させるために「接触角が相対的に小さいインク」に比べて樹脂を多く添加したインクを例に説明する。すなわち、「接触角が相対的に小さいインク」には、「接触角が相対的に大きいインク」に対するよりも少ない量で樹脂を添加しているか、または、樹脂を添加していなくてもよい。また、「処理液」は、画像堅牢性のうちの耐擦過性、および画像品位のうちの光沢性、ヘイズ性を向上させる処理液を例に説明する。
【0024】
<第1の実施形態>
図面を参照して、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。以下、本発明の第1の実施形態を、(全体的構成)、(インクの組成)、(特徴的構成)、(画像処理システムの構成例)、(画像処理)、(記録動作)の項目に分けて説明する。
【0025】
(全体的構成)
本発明の第1の実施形態のインクジェット記録装置の全体の構成について説明する。図1は、本実施形態のインクジェット記録装置の要部を示した斜視図である。
【0026】
記録ヘッド22は、ブラック(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、ライトシアン(LC)およびライトマゼンタ(LM)のインクをそれぞれ吐出する6つの記録ヘッド22K、22C、22M・・・22LMから構成される。これらの記録ヘッドが備えた吐出口から記録媒体1に対してインクが吐出されることで記録が行われる。また、インクタンク21は、記録ヘッド22K、22C、22M・・・22LMのそれぞれに供給する、対応する色のインクを貯蔵する6つのインクタンク21K、21C、21M・・・21LMから構成される。そして、これらの記録ヘッド22およびインクタンク21は、主走査方向(矢印X方向)に移動可能になっている。ここで用いる記録ヘッド22およびインクタンク21は、記録ヘッドとインクタンクとが一体的に構成されているものであっても良いし、それぞれが分離可能な構成のものでも良い。記録媒体1は、搬送ローラー3により、記録ヘッドの主走査方向Xの移動の前後において、必要に応じて、主走査方向Xと交差する副走査方向(矢印Y方向)に搬送される。
【0027】
キャップ20は、6つの記録ヘッドそれぞれのインク吐出面(吐出口の形成面)をキャップするために、6つのキャップ20K、20C、20M・・・20LMから構成されている。記録ヘッド22およびインクタンク21は、記録を行なわないときにはキャップ20のあるホームポジションに戻って待機する。そして、記録ヘッド22のホームポジションでの待機が一定時間に達した場合には、記録ヘッド22のインク吐出面が乾燥するのを防止するために、記録ヘッド22はキャップされる。
【0028】
本明細書においては、これらの記録ヘッドやインクタンクを個別的に言及する場合にはそれぞれに付された参照番号を用い、包括的に言及する場合には総称的な参照番号として、記録ヘッドには「22」、インクタンクには「21」、キャップには「20」を用いる。
【0029】
図2(a)は、記録ヘッド22を吐出口側から見た図である。この記録ヘッド22K、22C、22M・・・22LMには、主走査方向Xと直交する方向に沿って1200dpiの密度で1280個の吐出口23が配列されて、各色の吐出口列を形成している。各吐出口23から一度に吐出されるインクの吐出量は約4.5ngである。
【0030】
(インクの組成)
次に、本実施形態で用いるインクの組成について説明する。後述する通り、ライトシアン、ライトマゼンタのインクは接触角が相対的に大きいインクであり、耐擦過性を向上させるための樹脂を多く含有する。一方、ブラック、シアン、マゼンタ、イエローのインクは接触角が相対的に小さいインクであり、耐擦過性を向上させるための樹脂を含有しない。以下、「部」および「%」とあるのは、特に断りのない限り、質量基準である。
【0031】
1.ブラックインク
(1)分散液の作製
まず、アニオン系高分子P−1[スチレン/ブチルアクリレート/アクリル酸共重合体(重合比(重量比)=30/40/30)、酸価202、重量平均分子量6500]を準備した。これを、水酸化カリウム水溶液で中和し、イオン交換水で希釈して、均質な10質量%ポリマー水溶液を作製した。
【0032】
上記ポリマー水溶液を600g、カーボンブラックを100gおよびイオン交換水を300g、を混合し、機械的に所定時間撹拌した後、遠心分離処理によって、粗大粒子を含む非分散物を除去してブラック分散液とする。得られたブラック分散液は、その顔料濃度が10質量%であった。
【0033】
(2)インクの作製
インクの作製は、上記ブラック分散液を使用し、これに以下の成分を加えて所定の濃度にする。そして、これらの成分を十分に混合撹拌した後、ポアサイズ2.5μmのミクロフィルター(富士フイルム製)にて加圧濾過し、顔料濃度5質量%の顔料インクを調製した。
上記ブラック分散液 50部
グリセリン 10部
トリエチレングリコール 10部
アセチレングリコールEO付加物(川研ファインケミカル株式会社製) 0.5部
イオン交換水 29.5部
【0034】
2.シアンインク
(1)分散液の作製
まず、ベンジルアクリレートとメタクリル酸とを原料として、常法により、酸価250、数平均分子量3000のAB型ブロックポリマーを作り、水酸化カリウム水溶液で中和し、イオン交換水で希釈して均質な50質量%ポリマー水溶液を作成した。
【0035】
上記のポリマー水溶液を200g、C.I.ピグメントブルー15:3を100gおよびイオン交換水を700g、を混合し、機械的に所定時間撹拌した後、遠心分離処理によって、粗大粒子を含む非分散物を除去してシアン分散液とした。得られたシアン分散液は、その顔料濃度が10質量%であった。
【0036】
(2)インクの作製
インクの作製は、上記シアン分散液を使用し、これに以下の成分を加えて所定の濃度にする。そして、これらの成分を十分に混合撹拌した後、ポアサイズ2.5μmのミクロフィルター(富士フイルム製)にて加圧濾過し、顔料濃度2質量%の顔料インクを調製した。
上記シアン分散液 20部
グリセリン 10部
ジエチレングリコール 10部
アセチレングリコールEO付加物(川研ファインケミカル株式会社製) 0.5部
イオン交換水 59.5部
【0037】
3.マゼンタインク
(1)分散液の作製
まず、ベンジルアクリレートとメタクリル酸とを原料として、常法により、酸価300、数平均分子量2500のAB型ブロックポリマーを作り、水酸化カリウム水溶液で中和し、イオン交換水で希釈して均質な50質量%ポリマー水溶液を作成した。
【0038】
上記ポリマー水溶液を100g、C.I.ピグメントレッド122を100gおよびイオン交換水を800g、を混合し、機械的に所定時間撹拌した後、遠心分離処理によって、粗大粒子を含む非分散物を除去してマゼンタ分散液とした。得られたマゼンタ分散液は、その顔料濃度が10質量%であった。
【0039】
(2)インクの作製
インクの作製は、上記マゼンタ分散液を使用し、これに以下の成分を加えて所定の濃度にする。そして、これらの成分を十分に混合撹拌した後、ポアサイズ2.5μmのミクロフィルター(富士フイルム製)にて加圧濾過し、顔料濃度4質量%の顔料インクを調製した。
上記マゼンタ分散液 40部
グリセリン 10部
ジエチレングリコール 10部
アセチレングリコールEO付加物(川研ファインケミカル株式会社製) 0.5部
イオン交換水 39.5部
【0040】
4.イエローインク
(1)分散液の作製
まず、前記アニオン系高分子P−1を、水酸化カリウム水溶液で中和し、イオン交換水で希釈して均質な10質量%ポリマー水溶液を作成した。
【0041】
上記ポリマー水溶液を300g、C.I.ピグメントイエロー74を100gおよびイオン交換水を600g、を混合し、機械的に所定時間攪拌した後、遠心分離処理によって、粗大粒子を含む非分散物を除去してイエロー分散液とした。得られたイエロー分散液は、その顔料濃度が10質量%であった。
【0042】
(2)インクの作製
以下の成分を混合し、十分に攪拌して溶解・分散後、ポアサイズ1.0μmのミクロフィルター(富士フィルム製)にて加圧濾過して、顔料濃度4質量%の顔料インクを調製した。
上記イエロー分散液 40部
グリセリン 9部
エチレングリコール 10部
アセチレングリコールEO付加物(川研ファインケミカル株式会社製) 1部
イオン交換水 40部
【0043】
5.ライトマゼンタインク
(1)分散液の作製
前記マゼンダインクについて説明したのと同様の原料および作製方法により、顔料濃度が10質量%のマゼンダ分散液を作製した。
【0044】
(2)インクの作製
インクの作製は、上記マゼンタ分散液を使用し、これに以下の成分を加えて所定の濃度にする。そして、これらの成分を十分に混合撹拌した後、ポアサイズ2.5μmのミクロフィルター(富士フイルム製)にて加圧濾過し、顔料濃度0.8質量%の顔料インクを調製した。
【0045】
なお、耐擦過性を向上させるための樹脂として、市販のアクリルシリコーン共重合体を用いる。
上記マゼンタ分散液 8部
アクリルシリコーン共重合体(商品名:サイマックUS−450;東亞合成株式会社製) 5部
グリセリン 10部
ジエチレングリコール 10部
アセチレングリコールEO付加物(川研ファインケミカル株式会社製) 0.5部
イオン交換水 66.5部
【0046】
6.ライトシアンインク
(1)分散液の作製
前記シアンインクについて説明したのと同様の原料および作製方法により、顔料濃度が10質量%のシアン分散液を作製した。
【0047】
(2)インクの作製
インクの作製は、上記シアン分散液を使用し、これに以下の成分を加えて所定の濃度にする。そして、これらの成分を十分に混合撹拌した後、ポアサイズ2.5μmのミクロフィルター(富士フイルム製)にて加圧濾過し、顔料濃度0.4質量%の顔料インクを調製した。
【0048】
なお、耐擦過性を向上させるための樹脂として、市販のアクリルシリコーン共重合体を用いる。
上記シアン分散液 4部
アクリルシリコーン共重合体(商品名:サイマックUS−450;東亞合成株式会社製) 5部
グリセリン 10部
ジエチレングリコール 10部
アセチレングリコールEO付加物(川研ファインケミカル株式会社製) 0.5部
イオン交換水 70.5部
【0049】
本実施形態のライトシアンインク、ライトマゼンタインクには、記録画像の耐擦過性を向上させるための樹脂材料を含有させる。このため、樹脂材料を含有させないブラックインク、シアンインク、マゼンタインク、イエローインク(「接触角が相対的に小さいインク」)に対し、ライトシアンインク、ライトマゼンタインクは「接触角が相対的に大きいインク」となっている。このような樹脂材料としては、ポリジメチルシロキサン成分を共重合した樹脂材料があり、これを用いると、インク画像に爪などの外力が加わっても、滑り性が生じ動摩擦係数を効率的に下げることが可能となる。本実施形態では、市販のポリジメチルシロキサン成分を共重合した透明樹脂材料(上述したアクリルシリコーン共重合体:サイマックUS−450)を用いる。なお、本実施形態においては、画像堅牢性のうちの耐擦過性を向上させることが可能な樹脂材料であればいかなる材料も使用することができる。
【0050】
(特徴的構成)
本実施形態では、顔料インクの接触角(濡れ性)の違いに着目して、接触角の異なる顔料インクの付与順序を最適化することを図っている。以下にこの接触角(濡れ性)について説明する。
【0051】
図7(a)および(b)は、固体表面上の液滴の接触角の測定法について説明するための図である。一般に、図7(a)に示すように、固体表面100上に、液滴101を乗せ、ある状態で平衡になっているとき、以下のような式が成り立つ。
γS=γLcosθ+γSL・・・・・・・・(式1)
γS :固体表面張力
γSL :固液境界張力
γL :液体表面張力
この式1を「Youngの式」と言い、式1が成り立つときに液体表面と固体表面とのなす角度が「接触角」である。この接触角が小さいほど「濡れ性が高い」、接触角が大きいほど「濡れ性が低い」と一般的に言われている。
【0052】
接触角を測定する方法として、一般的には「θ/2法」が用いられている。この「θ/2法」は、図7(b)に示すように、液滴の左右端点と頂点とを結ぶ直線の、固体表面に対する角度θ1から接触角θを求める方法である。液滴形状を円の一部と仮定することで、幾何の定理より以下の式が成り立つ。
2θ1=θ・・・・・・・・・・・・・(式2)
【0053】
しかし、「θ/2法」は、前述したように、液滴が球の一部であることを前提としているため、重力の影響によりつぶれた液滴を測定すると誤差を生じる。そのため、接線法やカーブフィット法などによる解析を行うこともある。これら接線法やカーブフィット法の詳細の説明は省略する。
【0054】
本明細書において、インクの「接触角」は、次のように定義される。すなわち、ポリエチレン(PE)シート表面を固体表面100に見立て、その上に顔料インクを滴下(吐出)してできる液滴を液滴101とし、その液滴101とポリエチレンシートとの接触部分が成す角度θを測定したものを、顔料インクの接触角とする。なお、ポリエチレン(PE)の他に、ガラス、ポリエチレンテレフタラート(PET)、アクリル樹脂(PMMA)、記録媒体などを用いることもできる。測定には、協和界面科学株式会社製のDropMasterを使用した。なお、顔料インクの接触角を測定できるのであれば、測定器は上記例示したものに限定されるものではない。
【0055】
次に、本実施形態で用いた顔料インクのうち、前述の測定器で測定した接触角の値に大きく差があったブラックインクとライトシアンインクとを例に挙げて、接触角(濡れ性)の違いによりインクの付与順序を最適化することの有効性について説明する。
【0056】
図8(a)は、ブラックインクおよびライトシアンインクそれぞれのポリエチレン(PE)に対する接触角の値を示した表である。本実施形態に用いた顔料インクの中で、相対的に小さい接触角の値を示したブラックインクの接触角は33度、相対的に大きい接触角の値を示したライトシアンインクの接触角は57度であった。
【0057】
図9(a)および(b)は、上述の定義に従う接触角が異なる顔料インクをポリエチレン(PE)シートの上に滴下した場合の、接触角の違いを説明するための図である。図9(a)はブラックインクを滴下した状態を示しており、図9(b)はライトシアンインクを滴下した状態を示している。
【0058】
この接触角の値は、顔料インクによる画像記録時のドット広がり面積やドット高さと深く関係する。つまり、顔料インクの接触角の値が小さいほど(濡れ性が高いほど)、その顔料インクの広がり面積は大きくなり、そのためドット高さは低くなる。一方、顔料インクの接触角の値が大きいほど(濡れ性が低いほど)、その顔料インクの広がり面積は小さくなり、そのためドット高さは高くなる。
【0059】
本実施形態は、このような顔料インクの接触角の違いによるドット広がり度合いおよびドット高さの違いに着目し、接触角が異なる顔料インク間で、顔料インクの付与順序を最適化させた点に特徴がある。すなわち、マルチパス記録方式においては、顔料インクの吐出を複数回の走査に分配して、所定領域に顔料インクを吐出させて画像を記録する。このとき、接触角の小さい顔料インクでは、顔料インクが記録媒体上でぬれ広がりやすいため、吐出された顔料インクのドットとドットとは接することが多くなる。図5(a)は、記録媒体1上の接触角が相対的に小さい顔料インク層25の画像表面の状態を示している。滴下された顔料インクのドットは、ぬれ広がるため、同時に滴下した周囲のドットと接して繋がり、低いドット高さで乾燥する。これにより、接触角が相対的に小さい顔料インク層25の画像表面は、別の走査で吐出されたドットが積み重なっても平坦形状(平滑形状)に仕上がっている。これに対して、接触角が相対的に大きい顔料インクでは、ぬれ広がりにくいため、吐出されたドットとドットとは接することが少なくなる。図5(b)は、記録媒体1上の接触角が相対的に大きい顔料インク層25の画像表面の状態を示している。滴下された顔料インクのドットは、記録媒体上でぬれ広がらないため、同時に滴下した周囲の他のドットと接して繋がることなく、高いドット高さのまま乾燥する。これにより、接触角が相対的に大きい顔料インク層25の画像表面は、別の走査で吐出されたドットが積み重なって凹凸形状に仕上がっている。
【0060】
図8(b)は、ブラックインクおよびライトシアンインクのそれぞれについて光沢紙に約100%デューティーで画像を記録した場合の表面形状(表面粗さ)の値を示した表である。なお、ここでデューティーとは、所定の領域に対するインクドットの付与割合(%)をいう。例えば、本明細書では、1/1200インチ四方(以下「1200dpi四方」と呼ぶ)の領域にインクドットを1ドット付与することを100%デューティーとする。
【0061】
接触角が相対的に小さいブラックインクで記録された画像の表面粗さ(Ra)は79nmであり、表面形状は平滑であった。また、接触角が相対的に大きいライトシアンインクで記録された画像の表面粗さは145nmであり、ブラックインクと比べて凹凸の程度が大きい表面形状であった。
【0062】
本明細書で用いる表面粗さについて、図10を用いて説明する。本明細書における表面粗さ(Ra)とは、中心線平均粗さと呼ばれ、粗さ曲線を中心線から折り返し、その粗さ曲線と中心線とによって得られた面積を中心線方向の測定長さLで割った値を長さの単位で表わしたものである。測定には、株式会社キーエンス製のNANOSCALE HYBRID MICROSCOPEを使用した。なお、顔料インク画像表面の表面粗さを測定できるのであれば、測定器は上記例示したものに限定されるものではない。
【0063】
図8(b)は、さらに、ブラックインクおよびライトシアンインクのそれぞれについて、光沢紙に約100%デューティーで画像を記録した場合の光沢度およびヘイズ値を示す。接触角が相対的に小さいブラックインクで記録された画像は平滑な表面形状により光沢性が良い。これに対し、接触角が相対的に大きいライトシアンインクで記録された画像は凹凸な表面形状により散乱反射光が強くなったり正反射像が不鮮明になったりすることによる光沢性の低下が生じた。この画像の表面形状における差が光沢性の差として現れ、光沢ムラなどの画像性能の問題となる。
【0064】
ここで、本明細書において、「光沢性」とは、物の表面に一定の入射角度より当たった光が正反射したときの明るさ(光の比率)を示す光沢度と、表面に映り込む他の物の像が見える程度を示すヘイズ値とを言う。光沢度は、値が大きいほど反射した正反射光の比率が高くなり、光沢が高い、光沢が良いと言われている。また、ヘイズ値は、値が大きいほど映り込む像がぼんやりとボケて見え、値が小さいほどハッキリと見える。実際の人の目には、光沢性は、光沢度とヘイズ値とが関連した結果として見えている。例えば、ヘイズ値が同じであるならば、光沢度の高いほうが光沢性が良いと感じる。これらの測定には、Gardner社製micro−haze plus(20°)を用いた。なお、顔料インクの光沢性を測定できるのであれば、測定器は上記例示したものに限定されるものではない。
【0065】
本実施形態では、上記顔料インクの接触角の違いによるドット広がりの違いを利用し、接触角の異なる顔料インクの付与順序を最適化することで、顔料インクで記録された画像の表面形状を所定領域に亘って同程度に揃えて該所定領域における光沢ムラを軽減させる。ここで、所定領域とは、例えば、記録画像の全体であってもよく、また、その一部であってもよい。すなわち、使用する複数種類の顔料インクの接触角の相対的な大小関係と、それらの顔料インクの付与量の関係とに着目し、インク吐出の制御を行う。接触角が相対的に大きい顔料インクの付与量が多い場合には、より凹凸の程度が大きい表面形状になりやすいため、接触角が相対的に小さい顔料インクを後半の走査で付与するように制御して、記録画像の表面を平滑化させる。また、接触角が相対的に小さい顔料インクの付与量が多い場合には、より平滑な表面形状になりやすいため、接触角が相対的に大きい顔料インクを後半の走査で付与するように制御して、画像表面に凹凸形状を提供する。このように、接触角の異なる顔料インクの所定領域に対する付与順序を最適化することにより、所定領域における光沢ムラなどの画像性能を改善することができる。
【0066】
本実施形態の特徴的な制御では、使用する複数種類の顔料インクは、濡れ性(接触角)の違いにより、接触角が相対的に大きい接触角大グループインク(第1インク)と、接触角が相対的に小さい接触角小グループインク(第2インク)とにあらかじめ分類される。本例ではライトシアン(LC)インク、ライトマゼンタ(LM)インクは接触角大グループ(第1インク)に分類され、ブラック(K)インク、シアン(C)インク、マゼンタ(M)インク、イエロー(Y)インクは接触角小グループ(第2インク)に分類される。本実施形態の記録方法では、これらのグループのそれぞれに対応した制御を行う。
【0067】
(画像処理システムの構成例)
図3は、本発明の代表的な実施形態であるインクジェット記録装置における制御系の構成を示すブロック図である。ホストコンピュータ(画像入力部)28は、ハードディスク等の各種記憶媒体に保存されているRGB形式の多値画像データを、インクジェット記録装置内の画像処理部に送信する。画像処理部は、後述するMPU302、ASIC303等を含んで構成されている。多値画像データは、ホストコンピュータ28に接続されたスキャナやデジタルカメラ等の画像入力機器からも受け取ることができる。画像処理部は、入力された多値画像データに後述する画像処理を施して2値画像データに変換する。これにより、複数種類の顔料インクを記録ヘッドから吐出するための2値画像データ(吐出データ)が生成される。インクジェット記録装置(画像出力部)30は、画像処理部で生成された少なくとも2種類以上の顔料インクの2値画像データに基づいて、顔料インクを記録媒体に付与することで画像を記録する。画像出力部30自体は、ROM304に記録されたプログラムにしたがって、MPU(Micro Processeor Unit)302により制御される。RAM305は、MPU302の作業領域や一時データ保存領域として利用される。MPU302は、ASIC303を介して、キャリッジの駆動系308、記録媒体の搬送駆動系309、記録ヘッドの回復駆動系310、および記録ヘッドの駆動系311の制御を行う。また、MPU302はASIC303から読み書き可能なプリントバッファ306への読み書きが可能な構成になっている。プリントバッファ306は、記録ヘッドへ転送できる形式に変換された画像データを一時保管する。マスクバッファ307は、画像データがプリントバッファ306から記録ヘッドへ転送される際に該画像データを必要に応じてアンド処理する所定のマスクパターンを、一時的に保管する。なお、後述する付与順序の異なるマルチパス記録のための複数組のマスクパターンはROM304内に用意され、実際の記録時に、該当するマスクパターンがROM304から読み出されてマスクバッファ307に格納される。本実施形態では、画像処理部はインクジェット装置30に存在していたが、画像処理部がホストコンピュータ28に存在していてもよい。
【0068】
(画像処理)
次に、本実施形態の接触角の異なる顔料インクを吐出するための吐出データの生成方法を、図4(a)を用いて説明する。図4(a)は、前述の画像処理部のフローチャートであって、この画像処理部において、顔料インクの吐出データが生成される。
【0069】
具体的には、まず、ホストコンピュータ(画像入力部)28からRGB形式の多値画像データが入力される。RGB形式の多値画像データは、ステップS31の色変換により、画像記録に用いる複数種類のインク(K、C、M、Y、LC、LM)のそれぞれに対応した多値画像データに変換される。次いで、ステップS32の2値化処理において、記憶されていたパターンにしたがって、各種インクに対応した多値画像データは各種インクの2値の画像データに展開される。これにより、複数種類の顔料インクのそれぞれを付与するための2値画像データが生成される。
【0070】
ステップS34では、生成された顔料インクの2値画像データに基づき、所定領域における接触角大グループのインクの付与量の総和と接触角小グループのインクの付与量の総和との差が、あらかじめ定められた所定値より大きいかどうか判定を行う。差が所定値より大きい場合は、ステップS35に進み、付与量の総和が少ない方の接触角グループのインクについては、後述する「後半マスクパターン」を用いるように設定される。他方の接触角のグループのインク、すなわち付与量の総和が多い方の接触角グループのインクについては、後続のステップS36において、後述する「通常マスクパターン」が用いられる。一方、ステップS34において差が所定値より小さかった場合には、ステップS36に進み、そこで、接触角大グループのインクおよび接触角小グループのインクの両方について、「通常マスクパターン」が用いられる。ステップS36においては、複数種類の顔料インクの2値画像データは、2値画像データを複数回の走査に分配するための通常または後半マスクパターンを用いたマスクパターン処理により、記録ヘッドへ転送できる形式の吐出データへと生成される。
【0071】
上述のフローをより具体的に説明する。例えば、ステップS32において2値化処理された所定領域の画像が、接触角大グループのライトシアンインク約100%デューティーと接触角小グループのブラックインク約10%デューティーとで構成されていたとする。この場合、各インクのドット付与に用いられるデューティー(%)、すなわち所定の領域に対するインクドットの付与割合(%)の差は、約90%ポイントとなる。ここで、本実施形態において使用される記録ヘッドの吐出口から一度に吐出されるインクの吐出量は、図2で説明したように、約4.5ngであって各色について同一である。したがって、インク付与量の差は付与割合すなわちデューティーの差に相当し約90%ポイントとなる。あらかじめ設定されているインク付与量の差の所定値が40%ポイントであったならば、ステップS34で付与量の差は所定値より大きいと判定される。したがって、付与量の少ない接触角大グループのライトシアンインクについては、ステップS35にて後半マスクパターンを用いるように設定され、次いでステップS36にて後半マスクパターンを用いたマスクパターン処理が行われて吐出データが生成される。一方、接触角小グループのブラックインクについては、ステップS36にて通常マスクパターンを用いたマスクパターン処理が行われて、吐出データが生成される。
【0072】
また、例えば、接触角大グループのライトシアンインク約40%デューティーと接触角小グループのブラックインク約5%デューティーとで画像が構成されていたとする。この場合、付与量の差は約35%ポイントとなる。あらかじめ設定されているインク付与量の差の所定値が40%ポイントであったならば、ステップS34で所定値より小さいと判定される。したがって、接触角大グループのライトシアンインクおよび接触角小グループのブラックインクは共に、ステップS36にて通常マスクパターンを用いたマスクパターン処理が行われて、吐出データが生成される。
【0073】
また、例えば、接触角大グループのライトシアンインク約10%デューティーと接触角小グループのブラックインク約100%デューティーとで画像が構成されていたとする。この場合、付与量の差は約90%ポイントとなる。あらかじめ設定されているインク付与量の差の所定値が40%ポイントであったならば、ステップS34で付与量の差は所定値より大きいと判定される。ステップS35にて、付与量の少なかった接触角大グループのライトシアンインクについては後半マスクパターンを用いるように設定され、ステップS36にて後半マスクパターンを用いたマスクパターン処理が行われて吐出データが生成される。一方、接触角小グループのブラックインクについては、ステップS36にて通常マスクパターンを用いたマスクパターン処理が行われて、吐出データが生成される。
【0074】
このようにして生成された吐出データに基づき、インクジェット記録装置(画像出力部)30の記録ヘッドから後述するマルチパス記録方式で顔料インクの吐出を行い、所定領域に対して画像を記録する。
【0075】
(記録動作)
以上の構成の記録装置における本実施形態の前述した特徴的な制御を行う記録動作について説明する。ここで「特徴的な制御」とは、接触角の大きい顔料インクの付与量と接触角の小さい顔料インクの付与量との差が、所定値より大きい場合には、付与量の少ない方の接触角の顔料インクを後半の走査で付与するように、顔料インクの付与順序を制御することである。本実施形態においては、合計8回の走査によって、所定領域毎に顔料インクによる画像を記録するマルチパス記録方式を採用する。
【0076】
図11に、本実施形態で用いた「通常マスクパターン」、すなわち、合計8回の記録ヘッド走査において均等に12.5%ずつにインクの付与量を分配するマスクパターンを示す。また、図12(a)に、本実施形態で用いた「後半マスクパターン」を示す。この「後半マスクパターン」は、合計8回の走査のうち最初の4回の走査ではインクを吐出せず、最後の走査を含む後半の4回の走査だけで全ての画素に対してインクを吐出するマスクパターンである。すなわち、この例では、記録ヘッドを複数回走査したうちの前半4回の各走査のインク付与量の分配割合は0%であり、後半4回の各走査のインク付与量の分配割合は25%である。 例えば、所定領域の画像が、接触角大グループのライトシアンインク約10%デューティーと接触角小グループのブラックインク約100%デューティーとで構成されて、付与量の差は約90%ポイントとなる前述の例を用いる。所定値が40%ポイントであるとすると、前記ステップS34で付与量の差は所定値より大きいと判定される。ステップS35にて、付与量の少ない接触角大グループのライトシアンインクについて後半マスクパターンを用いるように設定される。一方、接触角小グループのブラックインクについては、ステップS36にて、通常マスクパターンを用いるように設定される。このように、ブラックインクの付与量が多いため平滑な表面形状になりやすいのを、付与量の少ないライトシアンインクについての吐出を走査の後半4回に集中させることで、表面形状を凹凸化させる効果を上げている。以下においては、この実施形態に沿って説明する。
【0077】
図6は、前述の実施形態における、通常マスクパターンで吐出させるブラックインクと後半マスクパターンで吐出させるライトシアンインクとで記録される画像領域の記録方法の説明図である。ブラック(K)インク吐出用の記録ヘッド22K、およびライトシアン(LC)インク吐出用の記録ヘッド22LCは、それぞれ1280個の吐出口を有し、それらが160個ずつ8つのブロックB1、B2、B3、B4、B5、B6、B7、B8に8等分される。記録ヘッド22Kには、ブロックB1〜B8の範囲α(図2(a)参照)における1280個の吐出口が用いられる。以下においては、それらのブロックB1〜B8の吐出口をA、B、C、D、E、F、G、H領域の吐出口ともいう。記録ヘッド22LCには、ブロックB5〜B8の範囲β(図2(a)参照)における640個の吐出口が用いられる。以下においては、それらのブロックB5〜B8の吐出口をe、f、g、h領域の吐出口ともいう。図6において50−1、50−2、50−3・・・は、記録ヘッドの1つのブロックに相当する記録媒体1上の記録領域である。
【0078】
まずは、第1走査において、記録領域50−1の第1走査時の吐出データに基づいて、記録ヘッド22KのA領域の吐出口からインクを吐出する。
【0079】
次に、記録媒体1を、記録ヘッドの1/8の長さ分だけ副走査方向(矢印Y方向)に搬送する。図6においては、記録媒体1に対して記録ヘッドが副走査方向と交差する方向である主走査方向(矢印X方向)に相対移動するものとして現されている。その後の第2走査においては、記録領域50−1の第2走査時の吐出データに基づいて、記録ヘッド22KのB領域の吐出口からインクを吐出する。この第2走査時には、記録領域50−2に対する第1走査が行なわれる。
【0080】
次に、記録媒体1を、記録ヘッドの1/8の長さ分だけ副走査方向に搬送する。その後の第3走査においては、記録領域50−1の第3走査時の吐出データに基づいて、記録ヘッド22KのC領域の吐出口からインクを吐出する。この第3走査時には、記録領域50−2に対する第2走査と、記録領域50−3に対する第1走査と、が行なわれる。
【0081】
次に、記録媒体1を、記録ヘッドの1/8の長さ分だけ副走査方向に搬送する。その後の第4走査においては、記録領域50−1の第4走査時の吐出データに基づいて、記録ヘッド22KのD領域の吐出口からインクを吐出する。この第4走査時には、記録領域50−2に対する第3走査と、記録領域50−3に対する第2走査と、記録領域50−4に対する第1走査と、が行なわれる。
【0082】
次に、記録媒体1を、記録ヘッドの1/8の長さ分だけ副走査方向に搬送する。その後の第5走査においては、記録領域50−1の第5走査時の吐出データに基づいて、記録ヘッド22KのE領域の吐出口からインクを吐出する。同時に、記録ヘッド22LCのe領域の吐出口からインクを吐出する。この第5走査時には、記録領域50−2に対する第4走査と、記録領域50−3に対する第3走査と、記録領域50−4に対する第2走査と、記録領域50−5に対する第1走査と、が行なわれる。
【0083】
次に、記録媒体1を、記録ヘッドの1/8の長さ分だけ副走査方向に搬送する。その後の第6走査においては、記録領域50−1の第6走査時の吐出データに基づいて、記録ヘッド22KのF領域の吐出口からインクを吐出する。同時に、記録ヘッド22LCのf領域の吐出口からインクを吐出する。この第6走査時には、記録領域50−2に対する第5走査と、記録領域50−3に対する第4走査と、記録領域50−4に対する第3走査と、記録領域50−5に対する第2走査と、記録領域50−6に対する第1走査と、が行なわれる。また、同時に、記録領域50−2に対する記録ヘッド22LCのe領域の吐出口からのインクの吐出が行われる。
【0084】
次に、記録媒体1を、記録ヘッドの1/8の長さ分だけ副走査方向に搬送する。その後の第7走査においては、記録領域50−1の第7走査時の吐出データに基づいて、記録ヘッド22KのG領域の吐出口からインクを吐出する。同時に、記録ヘッド22LCのg領域の吐出口からインクを吐出する。この第7走査時には、前述と同様に、記録領域50−2から50−7に対する第6走査から第1走査が行なわれる。また、同時に、記録領域50−2に対する記録ヘッド22LCのf領域の吐出口からのインクの吐出と、記録領域50−3に対する記録ヘッド22LCのe領域の吐出口からのインクの吐出と、が行われる。
【0085】
次に、記録媒体1を、記録ヘッドの1/8の長さ分だけ副走査方向に搬送する。その後の第8走査においては、記録領域50−1の第8走査時の吐出データに基づいて、記録ヘッド22KのH領域の吐出口からインクを吐出する。同時に、記録ヘッド22LCのh領域の吐出口からインクを吐出する。この第8走査時には、記録領域50−2から50−8に対する第7走査から第1走査が行なわれる。また、同時かつ前述と同様に、記録領域50−2から50−4に対する記録ヘッド22LCのg領域からe領域の吐出口からのインクの吐出が行われる。
【0086】
このような第1から第8走査によって、ブラック(K)インクによる記録領域50−1の画像の記録が終了し、第5から第8走査によって、ライトシアン(LC)インクによる記録領域50−1の画像の記録が終了する。
【0087】
以下、同様の走査を繰り返すことにより、記録領域50−2、50−3・・・に対する画像の記録が順次終了することになる。
【0088】
以上のように、顔料インクの接触角とその付与量に応じて、接触角の異なる顔料インクを付与する記録方法を好適に異ならせることができる。具体的には、まず、接触角が相対的に大きい顔料インク(第1インク)の付与量と接触角が相対的に小さい顔料インク(第2インク)の付与量との差を求める。その差が所定値より大きい場合に、付与量の少ない方の顔料インクを後半の走査で付与するように、顔料インクの付与順序を制御する。これによれば、接触角の異なる顔料インクを用いて画像を記録しても、画像の表面形状を揃えることができるために、光沢ムラなどの画像性能を改善することができる。
【0089】
本実施形態における顔料インクの付与量の差の所定値は、使用する顔料インク、および所望する画像の光沢性および光沢ムラの程度に応じて適宜設定することができる。
【0090】
本実施形態においては、図12(a)に示すマスクパターンを用いて、複数の走査のうち最後の走査を含む4回の走査でライトシアン(LC)インクを吐出して、画像の記録を行った。しかし、本発明では、複数の顔料インクのうち相対的に付与量が少ない方の顔料インクについて、複数の走査のうち後半の走査で付与される付与量の割合が高ければよい。例えば、図12(b)に示すマスクパターンのように、全8回の走査のうちの全ての走査で顔料インクを吐出するが、後半の走査で吐出する付与量の割合が高いマスクパターンを用いてもよい。また、本発明では、所定領域に対して顔料インクを付与する走査回数に制限はない。本実施形態では、少ない走査回数で画像を記録するように顔料インクの吐出データを分配する方法としてマスクパターンを利用したが、他の分配方法でもよい。
【0091】
また、本実施形態では、所定領域の画像は、ライトシアンインクとブラックインクとで構成され、あらかじめ設定されている付与量の差の所定値を40%ポイントとした。しかし、本発明では、顔料インクの種類および付与量の他に、付与量の総和、画像の濃度、画像の階調などに応じて所定値を異ならせてもよい。後半の走査で付与するための付与量の割合や走査回数なども、顔料インクの種類などにより異ならせてもよい。
【0092】
また、本実施形態においては、接触角の異なる顔料インクの付与量の差が、所定値より大きい場合には、付与量の少ない方の接触角の顔料インクを後半の走査で付与することで、光沢ムラが軽減するような表面形状になるように制御した。しかし、複数種類の顔料インクの組み合わせによっては、光沢性の高いインクまたは低いインクのいずれかに光沢性を揃えるようにして光沢ムラを軽減させてもよい。例えば、光沢性が高めなところで光沢ムラを軽減させたいときは、接触角の大きい顔料インクの付与量が接触角の小さい顔料インクの付与量と比べて所定値より大きい場合に、接触角の小さい顔料インクを後半の走査で付与するとよい。一方、光沢性が低めなところで光沢ムラを軽減させたいときは、接触角の小さい顔料インクの付与量が接触角の大きい顔料インクの付与量と比べて所定値より大きい場合に、接触角の大きい顔料インクを後半の走査で付与するとよい。
【0093】
また、本実施形態においては、画像記録に用いる顔料インクのうち画像性能(本実施形態では耐擦過性)を向上させるライトシアンインクやライトマゼンタインクを接触角大インクとして用いた。しかし、インクとは別に、画像性能を向上させる特性を有する無色透明に近い処理液を追加しても良い。その場合、処理液も接触角を持つインクの1つとして付与順序を制御するのが好ましい。本実施形態においては、顔料インクを接触角大グループと接触角小グループとに分類して付与順序を制御したが、顔料インクの他に処理液をも含め、グループ分けしてもよい。処理液が耐擦過性を向上させる処理液の場合、処理液を記録画像全域に亘って付与するのが好ましいが、付与範囲に限りはない。
【0094】
<第2の実施形態>
前述の実施形態では、接触角の異なる顔料インクの付与順序をそれぞれの顔料インクの付与量に応じて最適化し、顔料インクにより記録された画像の表面形状を制御することにより、光沢ムラなどの画像性能を改善した。本実施形態では、顔料インクによる画像の記録後に画像の性能を向上させる特性を有する処理液を付与することでインク画像の被覆を行う構成における、さらなる効果について説明する。
【0095】
接触角の大きい顔料インクと接触角の小さい顔料インクとの付与順序は前述した実施形態と同様のため、本実施形態の顔料インクの記録方法は、前述した実施形態について図6に示した記録方法と同様である。また、本実施形態の処理液の付与量は、顔料インクのドット数に関わらず、顔料インクによる画像全域で均一な付与量とする。また、前述した実施形態と同様の部分については、説明を省略する。
【0096】
(全体的構成)
本発明の第2の実施形態のインクジェット記録装置の全体の構成について説明する。本実施形態では、図1に示した記録ヘッド22は、顔料インクの記録ヘッド22K、22C、22M・・・22LMの他に、図示していない処理液の記録ヘッド22Hをさらに備えて構成される。処理液の記録ヘッド22Hが備えた吐出口から記録媒体1に対して処理液が吐出されることで記録が行われる。同様に、処理液のインクタンク21H、処理液のキャップ20Hをさらに備えている。図2(b)は、記録ヘッド22を吐出口から見た図である。前述の実施形態で用いた記録ヘッドに、主走査方向Xと交差する方向(例えば、副走査方向)にずれるように処理液の記録ヘッド22Hが追加された構成である。記録ヘッド22Hには、顔料インクと同じ1200dpiの密度で640個の吐出口が配列している。
【0097】
(処理液の組成)
次に、本実施形態で用いる処理液の組成について説明する。
[処理液]
(1)処理液の作製
以下の成分を混合し、十分に攪拌して、処理液を調製した。
アクリルシリコーン共重合体(商品名:サイマックUS−450;東亞合成株式会社製)5部
グリセリン 5部
エチレングリコール 15部
アセチレングリコールEO付加物(川研ファインケミカル株式会社製)0.5部
イオン交換水 74.5部
【0098】
本実施形態の処理液には、「接触角が相対的に大きいインク」であるライトシアンインク、ライトマゼンタインクに用いたものと同じ樹脂材料を含有させる。ここでは、滑り性化合物である市販のアクリルシリコーン共重合体(商品名:サイマックUS−450;東亞合成株式会社製)を用いた。顔料インク層の最表面に透明層を形成し、本実施形態においては、画像堅牢性のうちの耐擦過性を向上させることが可能な樹脂材料であればいかなる材料も使用することができる。
【0099】
(特徴的構成)
本実施形態では、画像堅牢性のうちの耐擦過性の向上に極めて効果的である処理液を用いて、顔料インク層の表層に透明層を形成して画像を被覆する構成をとった。しかし、このような処理液による透明層においては前述した薄膜干渉現象による干渉色ムラが生じ得るため、これを軽減させる必要がある。
【0100】
図5(c)は、記録媒体1上の顔料インク層25の上に処理液による透明層26を形成した際の画像断面の模式図である。一般的に透明層は約100nm〜500nm程度の厚さの透明薄膜である。このような透明薄膜は干渉色が発生しやすい。
【0101】
透明薄膜の干渉色とは、透明薄膜の表面で反射された光と、膜の表面を通過して膜の裏側で反射された光が干渉しあって、強め合ったり打ち消しあったりして発現してしまう色のことである。干渉色の発生するメカニズムについて、図13を用いて以下に詳細に説明する。
【0102】
図13は、顔料インクの画像記録後に処理液による透明層を形成した画像の断面模式図である。1は記録媒体、25は顔料インク層、26は透明層を示す。1004は光の入る方向であり、1005と1006は光が反射して出て行く方向を示す1005は表面反射光であり、1006は透明層26と顔料インク層25との間で反射して出て行く光である。
【0103】
この場合、太線1007の光と太線1008の光との間で光路差が発生し、光路差の距離と光の波長との関係により、光が強めあったり弱めあったりする。
この場合一般的に、以下の式が成り立つ。
m*λ=n*2d*cosθ+λ/2 ・・・・・(式2)
【0104】
mは整数、nは透明層の屈折率、dは透明層の厚さ、θは入射角である。この条件を満たす波長λの光が強め合って、強く発色することになる。
【0105】
以下の表はシアンインクを付与した後に処理液を付与した場合の干渉色の様子を示す。ここで、シアンインクの付与量は100%デューティーであり、処理液の付与量は第1表の通りである。本明細書においては、処理液の付与量についても、顔料インクの付与量と同様に、デューティー、すなわち、所定の領域に対する処理液のドットの付与割合(%)で示す。なお、本検討において記録媒体はキヤノン製フォト光沢紙(商品名「フォト光沢紙[薄口]LFM−GP421R」)を使用した。記録動作としては、合計8回の走査のマルチパス記録方式を採用し、まず顔料インクを付与し、その後に処理液を付与した。
【0106】
【表1】
【0107】
第1表に示されるように、処理液の付与量が少ない場合は、干渉色が見られない。式2を満たす波長領域が可視光領域に無いためである。処理液の付与量が増えると、膜厚に応じて、干渉色となる波長が長くなっていく。
【0108】
このように、顔料インク層に入る光は、反射光に色味を帯びることになる。そのため、画像に映りこんだ蛍光灯の光等は自然な白色の反射でなく干渉色となり、これに基づく干渉色ムラが生じることとなる。このような干渉色は透明層の膜厚により色が変化するため、干渉色ムラが生じるだけでなく虹色に映りこむこともあり、画像品位を劣化させてしまう。
【0109】
このような干渉色を抑える有効な手段として、極端に薄い膜からなる透明層を形成する方法がある。しかし、光沢性の向上や耐擦性の向上などの効果が、透明層の膜厚が薄すぎて得られない可能性がある。また、透明層の膜厚を厚くする方法もある。しかし、この方法では、光の多くの波長で干渉が発生し色味を相殺させることができるが、処理液を必要以上に付与しなければならない可能性がある。例えば、処理液を耐擦過性向上のために用いるのであれば、透明層の膜厚は約200nmあれば十分であるのに対して、干渉色が相殺される膜厚は約1μmであり、処理液の付与量は約5倍となってしまう。そこで、本実施形態では、透明層の厚みにばらつきを持たせること、つまり透明層の下側表面の凹凸の程度を大きくする(下側表面を凹凸化させる)ことで、干渉する波長をばらつかせることにより干渉色を抑える手段を用いる。具体的には、顔料インク層の上側表面が平滑な場合(高光沢な場合)には、透明層の厚みが一定となるので特定の干渉色が生じてしまう。これに対して、顔料インク層の上側表面が凹凸な場合(低光沢な場合)には、透明層の厚みにばらつきが生じるため干渉色が抑えられる。したがって、顔料インク層の上側表面の凹凸の程度を所定の範囲に設定することで、画像の光沢ムラを軽減させるとともに、透明層に起因する干渉色をも抑えることができるのである。
【0110】
図14(a)は、透明層の下側表面にどの程度の表面粗さ(Ra)があれば干渉色が抑制されるのか、をシミュレーションした結果である。透明層の下側表面の表面粗さを振ったときに、干渉色の強さ(色度)がどのように変化するかをグラフに示した。ここで、本実施形態においては、透明層の下側表面の表面粗さ(Ra)とは、その直下に設けられる顔料インク層の上側表面の表面粗さ(Ra)である。色度の数値が小さいほど干渉色は無彩色化し、干渉色の色度が約5以下になれば視覚的に問題無しと判断した。透明層の膜厚を300、700、1500μmとしたとき、表面粗さ(Ra)が約90nm以上になれば、干渉色の色度が約5以下となることが分かった。なお、干渉色の測定として、本検討では、コニカミノルタ製SPECTRORADIOMETER CS−2000Aにより色度を測定した。なお、透明層の干渉色を測定できるのであれば、測定器は上記例示したものに限定されるものではない。
【0111】
また、図14(b)は、透明層の下側表面がどの程度の表面粗さ(Ra)までならば透明層表面(上側表面)の平滑化が可能なのか、つまり、高光沢性が可能なのかをシミュレーションした結果である。透明層の下側表面の表面粗さを振ったときに、透明層の上側表面が平滑になる処理液の付与量をグラフに示した。本実施形態においては、プロットされた線の上側領域に入る条件ならば、透明層の上側表面は平滑であるといえるレベルである。例えば、処理液の付与量が100%デューティーのとき、透明層の下側表面の表面粗さ(Ra)が約150nm以下であれば透明層の上側表面は平滑であり、高光沢となることが分かった。
【0112】
以上より、今回のシミュレーションでは、透明層の下側表面が約90〜約150nmの範囲の表面粗さ(Ra)の場合に、干渉色が無く、かつ高光沢な透明層が得られることが分かった。なお、透明層の下側表面の好適な表面粗さ(Ra)は、処理液の種類や表面粗さを形成する形状などにより変化するものであるため、上記数値範囲に限定されるものではない。
【0113】
このように、顔料インクの接触角の違いによるドット広がりの違いを利用し、接触角の異なる顔料インクの付与順序を最適化することで、顔料インク画像の表面形状に適切な凹凸をつけ、それにより、処理液による透明層の干渉色ムラを軽減させることができる。
【0114】
本実施形態で用いるライトシアンインクの場合、図8(b)に示すように、顔料インク層の上側表面、すなわち透明層の下側表面の表面粗さ(Ra)は145nmである。この表面粗さの値は、前述のシミュレーションで得られた干渉色の無い高光沢な透明層を形成できる所定の表面粗さの範囲(Raが約90〜約150nm)に入っている。しかし、ブラックインクの場合、表面粗さ(Ra)は79nmであり、前述の範囲未満であるため、干渉色を生じる可能性がある。したがって、ブラックインクについてはそれにより記録される画像の表面の凹凸の程度を大きくする(表面を凹凸化させる)必要がある。そのために、接触角の大きいライトシアンインクの付与量と接触角の小さいブラックインクの付与量との差によって、インクの付与順序を変動させる。接触角の大きいライトシアンインクの付与量が多い場合には、顔料インク層の上側表面は凹凸な形状になる。このとき、透明層の干渉色ムラ軽減のための顔料インク層の上側表面の凹凸化の必要はなく、第1の実施形態で示したようなインク付与順序のままとする。また、接触角の小さいブラックインクの付与量がある程度多い場合には、顔料インク層の上側表面は平滑な表面になる。そのため、透明層の干渉色ムラ軽減のために、接触角の大きいライトシアンインクを後半の走査で付与するように制御して、顔料インク層の上側表面の形状を凹凸化させる。このように、顔料インクの付与順序を最適化することで、光沢ムラに加えて干渉色ムラなどの画像性能を改善することができる。
【0115】
(画像処理)
次に、本実施形態の吐出データの生成方法を、図4(b)を用いて説明する。特に説明のない限り、図4(b)中の各ステップは、図4(a)で説明したものと同様である。
【0116】
顔料インクにより記録された画像を被覆する処理液の2値画像データは、ステップS32の2値化処理において生成された顔料インクの2値画像データに基づくことなく生成される。本実施形態では、処理液の付与量を、顔料インクにより記録された画像に対して望ましい擦過性を得ることのできる均一な約100%デューティーと設定する。
【0117】
ステップS33では、複数種類の顔料インクの2値画像データに基づき、記録媒体上の所定領域における接触角小グループのインクの付与量が接触角大グループのインクの付与量と比べて所定値より大きいかどうか判定を行う。所定値より大きい場合は、ステップS37により、接触角大グループのインクについては、後述する「後半マスクパターン」を用いるように設定される。なお、他方の接触角のグループのインク、すなわち接触角小グループのインクについては、後続のステップS36において、後述する「通常マスクパターン」が用いられる。一方、ステップS33において所定値より小さかった場合には、ステップS36に進み、接触角大グループのインクおよび接触角小グループのインクの両方について、「通常マスクパターン」が用いられる。
【0118】
具体的には、ステップS36において、複数種類の顔料インクの2値画像データと処理液の2値画像データとは、2値画像データを複数回の走査に分配するためのマスクパターン処理により、記録ヘッドへ転送できる形式の吐出データへと生成される。このとき使用されるマスクパターンは、前述のように設定された「通常マスクパターン」および「後半マスクパターン」である。
【0119】
(記録動作)
本実施形態の特徴的な制御を行う記録動作について説明する。ここで「特徴的な制御」とは、接触角の小さい顔料インクの付与量が接触角の大きい顔料インクの付与量よりも所定値より大きい場合には、接触角の大きいインクを後半の走査で付与するように顔料インクの付与順序を制御することである。本実施形態においても、第1の実施形態と同様に、合計8回の走査によって所定領域毎に顔料インクによる画像を記録するマルチパス記録方式を採用する。なお、顔料インク画像の表面を被覆するための処理液は、顔料インクによる画像の記録が終了した後の走査によって行われる。ここでは、処理液を付与するために、続けて合計4回の走査を採用した。なお、処理液の記録方式は、1回の走査でも良く、走査回数や付与方法に限りはない。
【0120】
本実施形態で用いる「通常マスクパターン」および「後半マスクパターン」は、第1の実施形態の場合と同様である。すなわち、「通常マスクパターン」は、合計8回の走査において均等に12.5%ずつにインクの付与量を分配するマスクパターンである(図11参照)。また、「後半マスクパターン」は、合計8回の走査のうち最初の4回の走査ではインクを吐出せず、最後の走査を含む後半の4回の走査だけで全ての画素に対してインクを吐出するマスクパターンである(図12(a)参照)。記録ヘッドを複数回走査したうちの前半の各走査のインク付与量の分配割合は0%であり、後半の各走査のインク付与量の分配割合は25%である。具体的な記録方法は、前述の記録方法を用いるため、説明を省略する。以上のように、本実施形態においては、第1の実施形態と同様に、顔料インクの接触角の相対的な大小関係と、インク付与量とに着目する。接触角が相対的に小さい顔料インクの付与量が、接触角が相対的に大きい顔料インクの付与量と比べて所定値より大きい場合には、接触角が相対的に大きいインクを後半の記録走査で付与するように、顔料インクの付与順序を制御する。これによれば、接触角の異なる顔料インクを用いて画像を記録しても、画像の表面に好適な凹凸形状を提供することができる。そのため、この画像に対して処理液による被覆を行っても、干渉色ムラが生じにくく、画像性能を改善することができる。
【0121】
本実施形態では、接触角が小さい顔料インクの付与量が接触角が大きい顔料インクの付与量より所定値より大きい場合に、接触角が大きいインクを後半の走査で付与することで顔料インクによる画像表面の形状を制御して、処理液による干渉色ムラを軽減させた。このとき、顔料インク層の表面粗さは、制御しない場合と比べて大きい。しかし、複数種類の顔料インクと処理液との組み合わせによっては、顔料インク層の表面粗さを小さく制御することによって、干渉色ムラを軽減させてもよい。例えば、顔料インク層の表面粗さを小さく制御して干渉色ムラを軽減させたいときであって、接触角が大きい顔料インクの付与量が接触角が小さい顔料インクの付与量と比べて所定値より大きい場合には、接触角が小さい顔料インクを後半の走査で付与するとよい。適切な顔料インク層の表面粗さは、使用する顔料インクおよび記録媒体等に依存する。
【0122】
また、本実施形態においては、画像の記録に用いる顔料インクの他に、これら顔料インクにより記録される画像の性能(前述の例では耐擦過性)を向上させるための処理液を別に用いた。したがって、処理液は、基本的には、画像記録とは別使用なので、無色透明に近い状態が好ましい。しかし、処理液は、有色であってもよい。例えば、ライトシアンインクやライトマゼンタインク、ライトグレーインクなど画像記録に用いる顔料インクの一部、または全てに耐擦過性などの機能を向上させる材料を追加し、顔料インクに画像記録と画質性能向上との両方の役割を担わせても良い。この場合、インクタンクや記録ヘッドなどの1色分の追加部品が要らないので、小型化や低コスト化に大いに貢献できる。もちろん、画像記録に用いる顔料インクのうちの濃色の顔料インクの一部もしくは全てを、同様にして、処理液を兼ねさせても良い。
【0123】
<その他の実施形態>
前述の実施形態においては、顔料インクを吐出するためのノズルを構成する吐出口と、処理液を吐出するためのノズルを構成する吐出口と、が主走査方向と交差する方向(例えば、副走査方向)にずれるように記録ヘッドが構成されている(図2(b)参照)。しかし、それらの吐出口が主走査方向に並ぶように、構成された記録ヘッドを用いることもできる。また、処理液吐出用のノズルの数が顔料インク吐出用のノズルよりも多くて、前者のノズルの列が後者のノズルの列よりも長くてもよい。
【0124】
また、記録ヘッドは、画像を記録するためのインクとして異なる複数のインクを吐出するものであってもよく、また、1種類のインクを吐出する記録ヘッドを複数用いてもよい。
【0125】
また、本発明は、インクと処理液とを吐出可能な記録ヘッドの複数回の走査によって、記録媒体上の所定領域に対して、インクによる画像の記録と処理液による被覆とを行う種々のインクジェット記録装置に対して、広く適用することができる。したがって、記録ヘッドの構成や配備数などは、前述した実施形態のみに限定されない。
【0126】
また、前述の実施形態では、耐擦過性の機能を向上させるための顔料インクや耐擦過性の機能を向上させるための処理液を具体例として例示した。しかし、本発明で適用可能な顔料インク、および処理液は、このような液体に制限されるものではない。上記機能だけに限らず、光沢性、ヘイズ性、ブロンズ性等の画像品位や、耐水性、耐アルカリ性、耐候性等の画像堅牢性など、画像について何らかの性能を向上させる顔料インク、および処理液であればよい。例えば、そのようなインク、処理液には、水溶性樹脂や水分解性樹脂の他、シリコーンオイル等の材料を使用することができる。
【0127】
また、前述の実施形態では、画像を記録する顔料インクを、接触角の違いにより、接触角小グループと接触角大グループとの2つに分類したが、分類する数はこの限りではない。接触角の程度に合わせて、インク毎にさらに多くのグループ(例えば、3グループ、4グループ等)に分類してもよい。この場合であっても、複数の所定値や複数のマスクパターンなどを用意して、前述した実施形態と同様にして顔料インクの付与順序を制御することにより、本発明の効果が得られる。
【0128】
また、前述の実施形態では、ブラックインクおよびライトシアンインクの2種類のインクを用いた。3種類以上の複数種類のインクを使用する場合は、このように、例えば接触角大グループインクではブラックインクの付与量、接触角小グループインクではライトシアンインクの付与量のように、あるインクに注目して所定値との差を判定してもよい。あるいはまた、接触角大グループインクの付与量の総和および接触角小グループインクの付与量の総和により所定値との差を判定してもよい。
【0129】
また、前述の実施形態では、処理液は、画像記録が終了した後に吐出されて顔料インク層(画像)の最表面に存在する場合が、最も効果を発揮する。しかし、画像記録を行っている最中に一部の処理液が顔料インクと共に吐出され顔料インク層の内部に存在してもよい。このように本発明において、処理液と顔料インクとの付与順番や処理液の存在位置などは限定されるものではない。
【0130】
また、前述の実施形態では、画像を記録する顔料インクを、濡れ性(接触角)の値の違いにより分類し、その画像に対応する付与量の差が所定値より大きいかどうかにより顔料インクの付与方法を決定するようにした。しかし、所定値および顔料インクの付与方法は、顔料インクの他の物性、例えば、組成に基づく顔料インク固有の光沢度等に応じて決定してもよい。さらに記録媒体の種類(高吸収受容層など受容層の種類や、光沢紙・マット紙など用途別種類)に応じて、所定値を変更し付与方法を変更する形態であってもよい。また、さらに記録モードの種類(ドラフトモードや高精細モードなど)に応じて、所定値を変更し付与方法を変更する形態であってもよい。
【0131】
また、本発明は、紙や布、不織布、OHPフィルム等の記録媒体を用いる記録装置全てに適用が可能であり、具体的な適用装置としては、プリンタ、複写機、ファクシミリなどの事務機や大量生産機等を挙げることができる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数種類のインクを吐出する記録手段を記録媒体に対し走査しながら画像を記録するマルチパス方式のインクジェット記録装置およびインクジェット記録方法に関する。詳細には、本発明は、画像の光沢ムラ、干渉色ムラを軽減させるインクジェット記録装置およびインクジェット記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の製造技術の進歩により、顔料インクについて、染料インクに比べて優れた従来からの長期保存性能と、染料インクに匹敵する高発色性と、の両立が可能になった。そのため、記録した画像を長期に亘って保存する要求の高い写真やポスターなどの用途を中心に、顔料インクを用いたインクジェット記録が普及している。
【0003】
しかし、顔料インクを用いる場合、画像の光沢性が不均一であることにより生じる光沢ムラなど、銀塩写真には無かった画像品位の問題が重要になりつつある。また、ポスターなどの展示用途が増すにつれ、画像の強度や長期保存性などを示す画像堅牢性がオフセット印刷物と比較して低いことも、新たな問題として掲げられている。
【0004】
光沢ムラ、堅牢性等の問題を解決するために、特許文献1は、画像記録後に、画像を転写フィルムによる透明樹脂層で覆うラミネート方式を用いる構成を開示している。また、特許文献2は、樹脂を含有する透明な処理液を画像表面の全体に付与する処理方式を用いる構成を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−153677号公報
【特許文献2】特開2004−1446号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、画像を記録した後に画像の表面を転写フィルムによる樹脂層で覆う方式では、作業工程が複雑で、かつ、記録装置の他にラミネート装置も必要など作業スペースも装置も大掛かりなものになってしまう。また、画像を記録した後に画像の表面を透明な処理液により全体的に覆う方式では、透明層の表面が鏡面に仕上がり光沢ムラが軽減され均一な光沢感を得られるが、同時に薄膜干渉現象による干渉色ムラが現れて画像品位を損ねてしまうおそれがある。
【0007】
ここで「薄膜干渉現象」とは、膜の表面で反射された光と膜の表面を通過して膜の裏側で反射された光とが干渉しあって強め合ったり打ち消しあったりし、干渉色が発現してしまう現象のことである。膜の厚みにより干渉色が異なることが知られている。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、光沢ムラ、干渉色ムラの問題を、大掛かりな装置や作業スペースを用いずに、単純な作業工程で、解決することが可能なインクジェット記録装置およびインクジェット記録方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための本発明のインクジェット記録装置は、複数種類のインクを吐出する記録ヘッドを有するインクジェット記録装置であって、記録媒体の所定領域に対して前記記録ヘッドを複数回走査させて前記記録ヘッドから前記複数種類のインクを吐出させる吐出データに基づいて前記記録ヘッドから前記複数種類のインクを前記所定領域に対して吐出して画像を記録する吐出手段を備え、前記複数種類のインクは、接触角が相対的に大きい第1インクと、接触角が相対的に小さい第2インクとに分類され、前記吐出データは、前記吐出手段により前記所定領域に対して吐出されるべき前記第1インクおよび前記第2インクの付与量の差が所定の値より大きい場合に、付与量が少ない方のインクが前記複数回の走査のうちの後半の走査で吐出される割合が高くなる、吐出データであることを特徴とする。
【0010】
また、上記課題を解決するための本発明のインクジェット記録装置は、複数種類のインクを吐出する吐出口と、画像の性能を向上させる特性を有する処理液を吐出する吐出口と、を備える記録ヘッドを有するインクジェット記録装置であって、記録媒体の所定領域に対して前記記録ヘッドを複数回走査させて前記記録ヘッドから前記複数種類のインクを吐出させる吐出データに基づいて、前記記録ヘッドから前記複数種類のインクを前記所定領域に対して吐出して画像を記録し、および、前記所定領域に対して前記記録ヘッドを走査させて前記記録ヘッドから前記処理液を吐出させる吐出データに基づいて、前記複数種類のインクにより記録された画像の上に前記記録ヘッドから前記処理液を吐出することによって、前記画像を前記処理液により被覆するする吐出手段を備え、前記複数種類のインクは、接触角が相対的に大きい第1インクと、接触角が相対的に小さい第2インクとに分類され、前記複数種類のインクを吐出させる吐出データは、前記吐出手段により前記所定領域に対して吐出されるべき前記第1インクおよび前記第2インクの付与量の差が所定の値より大きい場合に、付与量が少ない方のインクが前記複数回の走査のうちの後半の走査で吐出される割合が高くなるようにして、前記複数種類のインクにより記録されるべき前記画像の表面粗さを所定の範囲とする、吐出データであることを特徴とする。
【0011】
また、上記課題を解決するための本発明のインクジェット記録方法は、複数種類のインクを吐出する記録ヘッドを有するインクジェット記録装置によるインクジェット記録方法であって、記録媒体の所定領域に対して前記記録ヘッドを複数回走査させて前記記録ヘッドから前記複数種類のインクを吐出させる吐出データに基づいて、前記記録ヘッドから前記複数種類のインクを前記所定領域に対して吐出して画像を記録する吐出工程を含み、前記複数種類のインクは、接触角が相対的に大きい第1インクと、接触角が相対的に小さい第2インクとに分類され、前記吐出データは、前記吐出手段により前記所定領域に対して吐出されるべき前記第1インクおよび前記第2インクの付与量の差が所定の値より大きい場合に、付与量が少ない方のインクが前記複数回の走査のうちの後半の走査で吐出される割合が高くなる、吐出データであることを特徴とする。
【0012】
また、上記課題を解決するための本発明のインクジェット記録方法は、複数種類のインクを吐出する吐出口と、画像の性能を向上させる特性を有する処理液を吐出する吐出口と、を備える記録ヘッドを有するインクジェット記録装置によるインクジェット記録方法であって、記録媒体の所定領域に対して前記記録ヘッドを複数回走査させて前記記録ヘッドから前記複数種類のインクを吐出させる吐出データに基づいて、前記記録ヘッドから前記複数種類のインクを前記所定領域に対して吐出して画像を記録し、および、前記所定領域に対して前記記録ヘッドを走査させて前記記録ヘッドから前記処理液を吐出させる吐出データに基づいて、前記複数種類のインクにより記録された画像の上に前記記録ヘッドから前記処理液を吐出することによって、前記画像を前記処理液により被覆する吐出工程を含み、前記複数種類のインクは、接触角が相対的に大きい第1インクと、接触角が相対的に小さい第2インクとに分類され、前記複数種類のインクを吐出させる吐出データは、前記吐出手段により前記所定領域に対して吐出されるべき前記第1インクおよび前記第2インクの付与量の差が所定の値より大きい場合に、付与量が少ない方のインクが前記複数回の走査のうちの後半の走査で吐出される割合が高くなるようにして、前記複数種類のインクにより記録されるべき前記画像の表面粗さを所定の範囲とする、吐出データであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、インクジェット記録において、画像を記録するインクの接触角の相対的な大小関係によって、インクの付与順序を比較的簡単な構成で最適化することが可能となる。詳細には、接触角が相対的に大きいインク(濡れ性の低いインク)の付与量と接触角が相対的に小さいインク(濡れ性の高いインク)の付与量との差が、所定の値より大きい場合、付与量が少ない方のインクを複数回の走査のうち後半の走査で付与されるようにする。これにより、所定領域において光沢ムラを均一化させた画像性能を実現させることができる。また、本発明によれば、インクで記録された画像に対して性能向上のための処理液をさらに付与した際の干渉色ムラを軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態のインクジェット記録装置の要部を示した斜視図である。
【図2】(a)は、本発明の第1の実施形態において用いられる記録ヘッドを吐出口側から見た図であり、(b)は、第2の実施形態において用いられる記録ヘッドを吐出口側から見た図である。
【図3】本発明の代表的な実施形態のインクジェット記録装置の概略構成を示す図である。
【図4】(a)は、本発明の第1の実施形態の画像処理部のフローチャートであり、(b)は、第2の実施形態の画像処理部のフローチャートである。
【図5】(a)および(b)は、接触角が異なるブラックインクおよびライトシアンインクにより記録された画像の表面形状の違いを説明するための図であり、(c)は、処理液を用いて透明層を形成した記録画像の断面を模式的に示した図である。
【図6】本発明の第1の実施形態における記録方法の説明図である。
【図7】(a)および(b)は、固体表面上の液滴の接触角の測定法について説明するための図である。
【図8】(a)および(b)は、ブラックインクおよびライトシアンインクの接触角と、これらのインクにより記録された画像の表面粗さ、光沢度、ヘイズ値とを示した表である。
【図9】(a)および(b)は、接触角が異なるブラックインクおよびライトシアンインクをポリエチレン(PE)シートの上に滴下した場合の接触角の違いを説明するための図である。
【図10】表面粗さ(Ra)を説明するための図である。
【図11】本発明の実施形態に用いられる顔料インクを付与する場合のマスクパターンを説明するための図である。
【図12】(a)および(b)は、後半の走査で記録する場合のマスクパターンを説明するための図である。
【図13】干渉色のメカニズムを説明するための図である。
【図14】(a)は、本発明の第2の実施形態における表面粗さ(Ra)と干渉色(色度)との関係を表す図であり、(b)は、表面粗さ(Ra)と処理液の付与量(デューティー(%))との関係を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本明細書における「接触角が相対的に大きいインク」とは、画像堅牢性や画像品位といった画像性能を向上させたインクである。また、「処理液」とは、インクと接触させることによって、画像堅牢性や画像品位といった画像性能を向上させる液体(画像性能向上液)である。
【0016】
ここで、「画像堅牢性を向上させる」とは、耐擦過性、耐候性、耐水性、耐アルカリ性の少なくとも1つを向上させて、インク画像の堅牢性を向上させる意である。一方、「画像品位を向上させる」とは、光沢性、ヘイズ性、ブロンズ性の少なくとも1つを向上させて、インク画像の品位を向上させる意である。
【0017】
ここで、「耐擦過性」は、JIS K 5600−5−5に定められた方法に準じて測定される最小負荷値により評価するものである。そして、「耐擦過性を向上させる」とは、「最小負荷値の値を高くする」ことを意味する。
【0018】
また、「耐候性」は、JIS K 5600−7に定められた方法に準じて測定される変化の程度(等級)により評価するものである。例えば、色の変化の程度の評価には、色差を用いたりする。そして、「耐候性を向上させる」とは、「変化の程度(等級)の値を低くする」ことを意味する。
【0019】
また、「耐水性」、「耐アルカリ性」は、JIS K 5600−6−1に定められた方法に準じて測定される損傷の兆候の観察により評価するものである。そして、「耐水性を向上させる」とは、「損傷の兆候を小さくする」ことを意味する。
【0020】
また、「光沢性」は、JIS K 5600−4−7に定められた方法に準じて測定される光沢度により評価するものである。そして、「光沢性を向上させる」とは、「光沢度の値を高くする」ことを意味する。
【0021】
また、「ヘイズ性」は、JIS K 7374に定められた方法に準じて測定されるヘイズ値により評価するものである。そして、「ヘイズ性を向上させる」とは、「ヘイズ値の値を低くする」ことを意味する。
【0022】
また、「ブロンズ性」は、JIS K 0115に定められた方法に準じて測定される色度により評価するものである。そして、「ブロンズ性を向上させる」とは、「色度の値を無彩色化する」ことを意味する。
【0023】
本実施形態では、「接触角が相対的に大きいインク」を、画像堅牢性のうちの耐擦過性を向上させるために「接触角が相対的に小さいインク」に比べて樹脂を多く添加したインクを例に説明する。すなわち、「接触角が相対的に小さいインク」には、「接触角が相対的に大きいインク」に対するよりも少ない量で樹脂を添加しているか、または、樹脂を添加していなくてもよい。また、「処理液」は、画像堅牢性のうちの耐擦過性、および画像品位のうちの光沢性、ヘイズ性を向上させる処理液を例に説明する。
【0024】
<第1の実施形態>
図面を参照して、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。以下、本発明の第1の実施形態を、(全体的構成)、(インクの組成)、(特徴的構成)、(画像処理システムの構成例)、(画像処理)、(記録動作)の項目に分けて説明する。
【0025】
(全体的構成)
本発明の第1の実施形態のインクジェット記録装置の全体の構成について説明する。図1は、本実施形態のインクジェット記録装置の要部を示した斜視図である。
【0026】
記録ヘッド22は、ブラック(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、ライトシアン(LC)およびライトマゼンタ(LM)のインクをそれぞれ吐出する6つの記録ヘッド22K、22C、22M・・・22LMから構成される。これらの記録ヘッドが備えた吐出口から記録媒体1に対してインクが吐出されることで記録が行われる。また、インクタンク21は、記録ヘッド22K、22C、22M・・・22LMのそれぞれに供給する、対応する色のインクを貯蔵する6つのインクタンク21K、21C、21M・・・21LMから構成される。そして、これらの記録ヘッド22およびインクタンク21は、主走査方向(矢印X方向)に移動可能になっている。ここで用いる記録ヘッド22およびインクタンク21は、記録ヘッドとインクタンクとが一体的に構成されているものであっても良いし、それぞれが分離可能な構成のものでも良い。記録媒体1は、搬送ローラー3により、記録ヘッドの主走査方向Xの移動の前後において、必要に応じて、主走査方向Xと交差する副走査方向(矢印Y方向)に搬送される。
【0027】
キャップ20は、6つの記録ヘッドそれぞれのインク吐出面(吐出口の形成面)をキャップするために、6つのキャップ20K、20C、20M・・・20LMから構成されている。記録ヘッド22およびインクタンク21は、記録を行なわないときにはキャップ20のあるホームポジションに戻って待機する。そして、記録ヘッド22のホームポジションでの待機が一定時間に達した場合には、記録ヘッド22のインク吐出面が乾燥するのを防止するために、記録ヘッド22はキャップされる。
【0028】
本明細書においては、これらの記録ヘッドやインクタンクを個別的に言及する場合にはそれぞれに付された参照番号を用い、包括的に言及する場合には総称的な参照番号として、記録ヘッドには「22」、インクタンクには「21」、キャップには「20」を用いる。
【0029】
図2(a)は、記録ヘッド22を吐出口側から見た図である。この記録ヘッド22K、22C、22M・・・22LMには、主走査方向Xと直交する方向に沿って1200dpiの密度で1280個の吐出口23が配列されて、各色の吐出口列を形成している。各吐出口23から一度に吐出されるインクの吐出量は約4.5ngである。
【0030】
(インクの組成)
次に、本実施形態で用いるインクの組成について説明する。後述する通り、ライトシアン、ライトマゼンタのインクは接触角が相対的に大きいインクであり、耐擦過性を向上させるための樹脂を多く含有する。一方、ブラック、シアン、マゼンタ、イエローのインクは接触角が相対的に小さいインクであり、耐擦過性を向上させるための樹脂を含有しない。以下、「部」および「%」とあるのは、特に断りのない限り、質量基準である。
【0031】
1.ブラックインク
(1)分散液の作製
まず、アニオン系高分子P−1[スチレン/ブチルアクリレート/アクリル酸共重合体(重合比(重量比)=30/40/30)、酸価202、重量平均分子量6500]を準備した。これを、水酸化カリウム水溶液で中和し、イオン交換水で希釈して、均質な10質量%ポリマー水溶液を作製した。
【0032】
上記ポリマー水溶液を600g、カーボンブラックを100gおよびイオン交換水を300g、を混合し、機械的に所定時間撹拌した後、遠心分離処理によって、粗大粒子を含む非分散物を除去してブラック分散液とする。得られたブラック分散液は、その顔料濃度が10質量%であった。
【0033】
(2)インクの作製
インクの作製は、上記ブラック分散液を使用し、これに以下の成分を加えて所定の濃度にする。そして、これらの成分を十分に混合撹拌した後、ポアサイズ2.5μmのミクロフィルター(富士フイルム製)にて加圧濾過し、顔料濃度5質量%の顔料インクを調製した。
上記ブラック分散液 50部
グリセリン 10部
トリエチレングリコール 10部
アセチレングリコールEO付加物(川研ファインケミカル株式会社製) 0.5部
イオン交換水 29.5部
【0034】
2.シアンインク
(1)分散液の作製
まず、ベンジルアクリレートとメタクリル酸とを原料として、常法により、酸価250、数平均分子量3000のAB型ブロックポリマーを作り、水酸化カリウム水溶液で中和し、イオン交換水で希釈して均質な50質量%ポリマー水溶液を作成した。
【0035】
上記のポリマー水溶液を200g、C.I.ピグメントブルー15:3を100gおよびイオン交換水を700g、を混合し、機械的に所定時間撹拌した後、遠心分離処理によって、粗大粒子を含む非分散物を除去してシアン分散液とした。得られたシアン分散液は、その顔料濃度が10質量%であった。
【0036】
(2)インクの作製
インクの作製は、上記シアン分散液を使用し、これに以下の成分を加えて所定の濃度にする。そして、これらの成分を十分に混合撹拌した後、ポアサイズ2.5μmのミクロフィルター(富士フイルム製)にて加圧濾過し、顔料濃度2質量%の顔料インクを調製した。
上記シアン分散液 20部
グリセリン 10部
ジエチレングリコール 10部
アセチレングリコールEO付加物(川研ファインケミカル株式会社製) 0.5部
イオン交換水 59.5部
【0037】
3.マゼンタインク
(1)分散液の作製
まず、ベンジルアクリレートとメタクリル酸とを原料として、常法により、酸価300、数平均分子量2500のAB型ブロックポリマーを作り、水酸化カリウム水溶液で中和し、イオン交換水で希釈して均質な50質量%ポリマー水溶液を作成した。
【0038】
上記ポリマー水溶液を100g、C.I.ピグメントレッド122を100gおよびイオン交換水を800g、を混合し、機械的に所定時間撹拌した後、遠心分離処理によって、粗大粒子を含む非分散物を除去してマゼンタ分散液とした。得られたマゼンタ分散液は、その顔料濃度が10質量%であった。
【0039】
(2)インクの作製
インクの作製は、上記マゼンタ分散液を使用し、これに以下の成分を加えて所定の濃度にする。そして、これらの成分を十分に混合撹拌した後、ポアサイズ2.5μmのミクロフィルター(富士フイルム製)にて加圧濾過し、顔料濃度4質量%の顔料インクを調製した。
上記マゼンタ分散液 40部
グリセリン 10部
ジエチレングリコール 10部
アセチレングリコールEO付加物(川研ファインケミカル株式会社製) 0.5部
イオン交換水 39.5部
【0040】
4.イエローインク
(1)分散液の作製
まず、前記アニオン系高分子P−1を、水酸化カリウム水溶液で中和し、イオン交換水で希釈して均質な10質量%ポリマー水溶液を作成した。
【0041】
上記ポリマー水溶液を300g、C.I.ピグメントイエロー74を100gおよびイオン交換水を600g、を混合し、機械的に所定時間攪拌した後、遠心分離処理によって、粗大粒子を含む非分散物を除去してイエロー分散液とした。得られたイエロー分散液は、その顔料濃度が10質量%であった。
【0042】
(2)インクの作製
以下の成分を混合し、十分に攪拌して溶解・分散後、ポアサイズ1.0μmのミクロフィルター(富士フィルム製)にて加圧濾過して、顔料濃度4質量%の顔料インクを調製した。
上記イエロー分散液 40部
グリセリン 9部
エチレングリコール 10部
アセチレングリコールEO付加物(川研ファインケミカル株式会社製) 1部
イオン交換水 40部
【0043】
5.ライトマゼンタインク
(1)分散液の作製
前記マゼンダインクについて説明したのと同様の原料および作製方法により、顔料濃度が10質量%のマゼンダ分散液を作製した。
【0044】
(2)インクの作製
インクの作製は、上記マゼンタ分散液を使用し、これに以下の成分を加えて所定の濃度にする。そして、これらの成分を十分に混合撹拌した後、ポアサイズ2.5μmのミクロフィルター(富士フイルム製)にて加圧濾過し、顔料濃度0.8質量%の顔料インクを調製した。
【0045】
なお、耐擦過性を向上させるための樹脂として、市販のアクリルシリコーン共重合体を用いる。
上記マゼンタ分散液 8部
アクリルシリコーン共重合体(商品名:サイマックUS−450;東亞合成株式会社製) 5部
グリセリン 10部
ジエチレングリコール 10部
アセチレングリコールEO付加物(川研ファインケミカル株式会社製) 0.5部
イオン交換水 66.5部
【0046】
6.ライトシアンインク
(1)分散液の作製
前記シアンインクについて説明したのと同様の原料および作製方法により、顔料濃度が10質量%のシアン分散液を作製した。
【0047】
(2)インクの作製
インクの作製は、上記シアン分散液を使用し、これに以下の成分を加えて所定の濃度にする。そして、これらの成分を十分に混合撹拌した後、ポアサイズ2.5μmのミクロフィルター(富士フイルム製)にて加圧濾過し、顔料濃度0.4質量%の顔料インクを調製した。
【0048】
なお、耐擦過性を向上させるための樹脂として、市販のアクリルシリコーン共重合体を用いる。
上記シアン分散液 4部
アクリルシリコーン共重合体(商品名:サイマックUS−450;東亞合成株式会社製) 5部
グリセリン 10部
ジエチレングリコール 10部
アセチレングリコールEO付加物(川研ファインケミカル株式会社製) 0.5部
イオン交換水 70.5部
【0049】
本実施形態のライトシアンインク、ライトマゼンタインクには、記録画像の耐擦過性を向上させるための樹脂材料を含有させる。このため、樹脂材料を含有させないブラックインク、シアンインク、マゼンタインク、イエローインク(「接触角が相対的に小さいインク」)に対し、ライトシアンインク、ライトマゼンタインクは「接触角が相対的に大きいインク」となっている。このような樹脂材料としては、ポリジメチルシロキサン成分を共重合した樹脂材料があり、これを用いると、インク画像に爪などの外力が加わっても、滑り性が生じ動摩擦係数を効率的に下げることが可能となる。本実施形態では、市販のポリジメチルシロキサン成分を共重合した透明樹脂材料(上述したアクリルシリコーン共重合体:サイマックUS−450)を用いる。なお、本実施形態においては、画像堅牢性のうちの耐擦過性を向上させることが可能な樹脂材料であればいかなる材料も使用することができる。
【0050】
(特徴的構成)
本実施形態では、顔料インクの接触角(濡れ性)の違いに着目して、接触角の異なる顔料インクの付与順序を最適化することを図っている。以下にこの接触角(濡れ性)について説明する。
【0051】
図7(a)および(b)は、固体表面上の液滴の接触角の測定法について説明するための図である。一般に、図7(a)に示すように、固体表面100上に、液滴101を乗せ、ある状態で平衡になっているとき、以下のような式が成り立つ。
γS=γLcosθ+γSL・・・・・・・・(式1)
γS :固体表面張力
γSL :固液境界張力
γL :液体表面張力
この式1を「Youngの式」と言い、式1が成り立つときに液体表面と固体表面とのなす角度が「接触角」である。この接触角が小さいほど「濡れ性が高い」、接触角が大きいほど「濡れ性が低い」と一般的に言われている。
【0052】
接触角を測定する方法として、一般的には「θ/2法」が用いられている。この「θ/2法」は、図7(b)に示すように、液滴の左右端点と頂点とを結ぶ直線の、固体表面に対する角度θ1から接触角θを求める方法である。液滴形状を円の一部と仮定することで、幾何の定理より以下の式が成り立つ。
2θ1=θ・・・・・・・・・・・・・(式2)
【0053】
しかし、「θ/2法」は、前述したように、液滴が球の一部であることを前提としているため、重力の影響によりつぶれた液滴を測定すると誤差を生じる。そのため、接線法やカーブフィット法などによる解析を行うこともある。これら接線法やカーブフィット法の詳細の説明は省略する。
【0054】
本明細書において、インクの「接触角」は、次のように定義される。すなわち、ポリエチレン(PE)シート表面を固体表面100に見立て、その上に顔料インクを滴下(吐出)してできる液滴を液滴101とし、その液滴101とポリエチレンシートとの接触部分が成す角度θを測定したものを、顔料インクの接触角とする。なお、ポリエチレン(PE)の他に、ガラス、ポリエチレンテレフタラート(PET)、アクリル樹脂(PMMA)、記録媒体などを用いることもできる。測定には、協和界面科学株式会社製のDropMasterを使用した。なお、顔料インクの接触角を測定できるのであれば、測定器は上記例示したものに限定されるものではない。
【0055】
次に、本実施形態で用いた顔料インクのうち、前述の測定器で測定した接触角の値に大きく差があったブラックインクとライトシアンインクとを例に挙げて、接触角(濡れ性)の違いによりインクの付与順序を最適化することの有効性について説明する。
【0056】
図8(a)は、ブラックインクおよびライトシアンインクそれぞれのポリエチレン(PE)に対する接触角の値を示した表である。本実施形態に用いた顔料インクの中で、相対的に小さい接触角の値を示したブラックインクの接触角は33度、相対的に大きい接触角の値を示したライトシアンインクの接触角は57度であった。
【0057】
図9(a)および(b)は、上述の定義に従う接触角が異なる顔料インクをポリエチレン(PE)シートの上に滴下した場合の、接触角の違いを説明するための図である。図9(a)はブラックインクを滴下した状態を示しており、図9(b)はライトシアンインクを滴下した状態を示している。
【0058】
この接触角の値は、顔料インクによる画像記録時のドット広がり面積やドット高さと深く関係する。つまり、顔料インクの接触角の値が小さいほど(濡れ性が高いほど)、その顔料インクの広がり面積は大きくなり、そのためドット高さは低くなる。一方、顔料インクの接触角の値が大きいほど(濡れ性が低いほど)、その顔料インクの広がり面積は小さくなり、そのためドット高さは高くなる。
【0059】
本実施形態は、このような顔料インクの接触角の違いによるドット広がり度合いおよびドット高さの違いに着目し、接触角が異なる顔料インク間で、顔料インクの付与順序を最適化させた点に特徴がある。すなわち、マルチパス記録方式においては、顔料インクの吐出を複数回の走査に分配して、所定領域に顔料インクを吐出させて画像を記録する。このとき、接触角の小さい顔料インクでは、顔料インクが記録媒体上でぬれ広がりやすいため、吐出された顔料インクのドットとドットとは接することが多くなる。図5(a)は、記録媒体1上の接触角が相対的に小さい顔料インク層25の画像表面の状態を示している。滴下された顔料インクのドットは、ぬれ広がるため、同時に滴下した周囲のドットと接して繋がり、低いドット高さで乾燥する。これにより、接触角が相対的に小さい顔料インク層25の画像表面は、別の走査で吐出されたドットが積み重なっても平坦形状(平滑形状)に仕上がっている。これに対して、接触角が相対的に大きい顔料インクでは、ぬれ広がりにくいため、吐出されたドットとドットとは接することが少なくなる。図5(b)は、記録媒体1上の接触角が相対的に大きい顔料インク層25の画像表面の状態を示している。滴下された顔料インクのドットは、記録媒体上でぬれ広がらないため、同時に滴下した周囲の他のドットと接して繋がることなく、高いドット高さのまま乾燥する。これにより、接触角が相対的に大きい顔料インク層25の画像表面は、別の走査で吐出されたドットが積み重なって凹凸形状に仕上がっている。
【0060】
図8(b)は、ブラックインクおよびライトシアンインクのそれぞれについて光沢紙に約100%デューティーで画像を記録した場合の表面形状(表面粗さ)の値を示した表である。なお、ここでデューティーとは、所定の領域に対するインクドットの付与割合(%)をいう。例えば、本明細書では、1/1200インチ四方(以下「1200dpi四方」と呼ぶ)の領域にインクドットを1ドット付与することを100%デューティーとする。
【0061】
接触角が相対的に小さいブラックインクで記録された画像の表面粗さ(Ra)は79nmであり、表面形状は平滑であった。また、接触角が相対的に大きいライトシアンインクで記録された画像の表面粗さは145nmであり、ブラックインクと比べて凹凸の程度が大きい表面形状であった。
【0062】
本明細書で用いる表面粗さについて、図10を用いて説明する。本明細書における表面粗さ(Ra)とは、中心線平均粗さと呼ばれ、粗さ曲線を中心線から折り返し、その粗さ曲線と中心線とによって得られた面積を中心線方向の測定長さLで割った値を長さの単位で表わしたものである。測定には、株式会社キーエンス製のNANOSCALE HYBRID MICROSCOPEを使用した。なお、顔料インク画像表面の表面粗さを測定できるのであれば、測定器は上記例示したものに限定されるものではない。
【0063】
図8(b)は、さらに、ブラックインクおよびライトシアンインクのそれぞれについて、光沢紙に約100%デューティーで画像を記録した場合の光沢度およびヘイズ値を示す。接触角が相対的に小さいブラックインクで記録された画像は平滑な表面形状により光沢性が良い。これに対し、接触角が相対的に大きいライトシアンインクで記録された画像は凹凸な表面形状により散乱反射光が強くなったり正反射像が不鮮明になったりすることによる光沢性の低下が生じた。この画像の表面形状における差が光沢性の差として現れ、光沢ムラなどの画像性能の問題となる。
【0064】
ここで、本明細書において、「光沢性」とは、物の表面に一定の入射角度より当たった光が正反射したときの明るさ(光の比率)を示す光沢度と、表面に映り込む他の物の像が見える程度を示すヘイズ値とを言う。光沢度は、値が大きいほど反射した正反射光の比率が高くなり、光沢が高い、光沢が良いと言われている。また、ヘイズ値は、値が大きいほど映り込む像がぼんやりとボケて見え、値が小さいほどハッキリと見える。実際の人の目には、光沢性は、光沢度とヘイズ値とが関連した結果として見えている。例えば、ヘイズ値が同じであるならば、光沢度の高いほうが光沢性が良いと感じる。これらの測定には、Gardner社製micro−haze plus(20°)を用いた。なお、顔料インクの光沢性を測定できるのであれば、測定器は上記例示したものに限定されるものではない。
【0065】
本実施形態では、上記顔料インクの接触角の違いによるドット広がりの違いを利用し、接触角の異なる顔料インクの付与順序を最適化することで、顔料インクで記録された画像の表面形状を所定領域に亘って同程度に揃えて該所定領域における光沢ムラを軽減させる。ここで、所定領域とは、例えば、記録画像の全体であってもよく、また、その一部であってもよい。すなわち、使用する複数種類の顔料インクの接触角の相対的な大小関係と、それらの顔料インクの付与量の関係とに着目し、インク吐出の制御を行う。接触角が相対的に大きい顔料インクの付与量が多い場合には、より凹凸の程度が大きい表面形状になりやすいため、接触角が相対的に小さい顔料インクを後半の走査で付与するように制御して、記録画像の表面を平滑化させる。また、接触角が相対的に小さい顔料インクの付与量が多い場合には、より平滑な表面形状になりやすいため、接触角が相対的に大きい顔料インクを後半の走査で付与するように制御して、画像表面に凹凸形状を提供する。このように、接触角の異なる顔料インクの所定領域に対する付与順序を最適化することにより、所定領域における光沢ムラなどの画像性能を改善することができる。
【0066】
本実施形態の特徴的な制御では、使用する複数種類の顔料インクは、濡れ性(接触角)の違いにより、接触角が相対的に大きい接触角大グループインク(第1インク)と、接触角が相対的に小さい接触角小グループインク(第2インク)とにあらかじめ分類される。本例ではライトシアン(LC)インク、ライトマゼンタ(LM)インクは接触角大グループ(第1インク)に分類され、ブラック(K)インク、シアン(C)インク、マゼンタ(M)インク、イエロー(Y)インクは接触角小グループ(第2インク)に分類される。本実施形態の記録方法では、これらのグループのそれぞれに対応した制御を行う。
【0067】
(画像処理システムの構成例)
図3は、本発明の代表的な実施形態であるインクジェット記録装置における制御系の構成を示すブロック図である。ホストコンピュータ(画像入力部)28は、ハードディスク等の各種記憶媒体に保存されているRGB形式の多値画像データを、インクジェット記録装置内の画像処理部に送信する。画像処理部は、後述するMPU302、ASIC303等を含んで構成されている。多値画像データは、ホストコンピュータ28に接続されたスキャナやデジタルカメラ等の画像入力機器からも受け取ることができる。画像処理部は、入力された多値画像データに後述する画像処理を施して2値画像データに変換する。これにより、複数種類の顔料インクを記録ヘッドから吐出するための2値画像データ(吐出データ)が生成される。インクジェット記録装置(画像出力部)30は、画像処理部で生成された少なくとも2種類以上の顔料インクの2値画像データに基づいて、顔料インクを記録媒体に付与することで画像を記録する。画像出力部30自体は、ROM304に記録されたプログラムにしたがって、MPU(Micro Processeor Unit)302により制御される。RAM305は、MPU302の作業領域や一時データ保存領域として利用される。MPU302は、ASIC303を介して、キャリッジの駆動系308、記録媒体の搬送駆動系309、記録ヘッドの回復駆動系310、および記録ヘッドの駆動系311の制御を行う。また、MPU302はASIC303から読み書き可能なプリントバッファ306への読み書きが可能な構成になっている。プリントバッファ306は、記録ヘッドへ転送できる形式に変換された画像データを一時保管する。マスクバッファ307は、画像データがプリントバッファ306から記録ヘッドへ転送される際に該画像データを必要に応じてアンド処理する所定のマスクパターンを、一時的に保管する。なお、後述する付与順序の異なるマルチパス記録のための複数組のマスクパターンはROM304内に用意され、実際の記録時に、該当するマスクパターンがROM304から読み出されてマスクバッファ307に格納される。本実施形態では、画像処理部はインクジェット装置30に存在していたが、画像処理部がホストコンピュータ28に存在していてもよい。
【0068】
(画像処理)
次に、本実施形態の接触角の異なる顔料インクを吐出するための吐出データの生成方法を、図4(a)を用いて説明する。図4(a)は、前述の画像処理部のフローチャートであって、この画像処理部において、顔料インクの吐出データが生成される。
【0069】
具体的には、まず、ホストコンピュータ(画像入力部)28からRGB形式の多値画像データが入力される。RGB形式の多値画像データは、ステップS31の色変換により、画像記録に用いる複数種類のインク(K、C、M、Y、LC、LM)のそれぞれに対応した多値画像データに変換される。次いで、ステップS32の2値化処理において、記憶されていたパターンにしたがって、各種インクに対応した多値画像データは各種インクの2値の画像データに展開される。これにより、複数種類の顔料インクのそれぞれを付与するための2値画像データが生成される。
【0070】
ステップS34では、生成された顔料インクの2値画像データに基づき、所定領域における接触角大グループのインクの付与量の総和と接触角小グループのインクの付与量の総和との差が、あらかじめ定められた所定値より大きいかどうか判定を行う。差が所定値より大きい場合は、ステップS35に進み、付与量の総和が少ない方の接触角グループのインクについては、後述する「後半マスクパターン」を用いるように設定される。他方の接触角のグループのインク、すなわち付与量の総和が多い方の接触角グループのインクについては、後続のステップS36において、後述する「通常マスクパターン」が用いられる。一方、ステップS34において差が所定値より小さかった場合には、ステップS36に進み、そこで、接触角大グループのインクおよび接触角小グループのインクの両方について、「通常マスクパターン」が用いられる。ステップS36においては、複数種類の顔料インクの2値画像データは、2値画像データを複数回の走査に分配するための通常または後半マスクパターンを用いたマスクパターン処理により、記録ヘッドへ転送できる形式の吐出データへと生成される。
【0071】
上述のフローをより具体的に説明する。例えば、ステップS32において2値化処理された所定領域の画像が、接触角大グループのライトシアンインク約100%デューティーと接触角小グループのブラックインク約10%デューティーとで構成されていたとする。この場合、各インクのドット付与に用いられるデューティー(%)、すなわち所定の領域に対するインクドットの付与割合(%)の差は、約90%ポイントとなる。ここで、本実施形態において使用される記録ヘッドの吐出口から一度に吐出されるインクの吐出量は、図2で説明したように、約4.5ngであって各色について同一である。したがって、インク付与量の差は付与割合すなわちデューティーの差に相当し約90%ポイントとなる。あらかじめ設定されているインク付与量の差の所定値が40%ポイントであったならば、ステップS34で付与量の差は所定値より大きいと判定される。したがって、付与量の少ない接触角大グループのライトシアンインクについては、ステップS35にて後半マスクパターンを用いるように設定され、次いでステップS36にて後半マスクパターンを用いたマスクパターン処理が行われて吐出データが生成される。一方、接触角小グループのブラックインクについては、ステップS36にて通常マスクパターンを用いたマスクパターン処理が行われて、吐出データが生成される。
【0072】
また、例えば、接触角大グループのライトシアンインク約40%デューティーと接触角小グループのブラックインク約5%デューティーとで画像が構成されていたとする。この場合、付与量の差は約35%ポイントとなる。あらかじめ設定されているインク付与量の差の所定値が40%ポイントであったならば、ステップS34で所定値より小さいと判定される。したがって、接触角大グループのライトシアンインクおよび接触角小グループのブラックインクは共に、ステップS36にて通常マスクパターンを用いたマスクパターン処理が行われて、吐出データが生成される。
【0073】
また、例えば、接触角大グループのライトシアンインク約10%デューティーと接触角小グループのブラックインク約100%デューティーとで画像が構成されていたとする。この場合、付与量の差は約90%ポイントとなる。あらかじめ設定されているインク付与量の差の所定値が40%ポイントであったならば、ステップS34で付与量の差は所定値より大きいと判定される。ステップS35にて、付与量の少なかった接触角大グループのライトシアンインクについては後半マスクパターンを用いるように設定され、ステップS36にて後半マスクパターンを用いたマスクパターン処理が行われて吐出データが生成される。一方、接触角小グループのブラックインクについては、ステップS36にて通常マスクパターンを用いたマスクパターン処理が行われて、吐出データが生成される。
【0074】
このようにして生成された吐出データに基づき、インクジェット記録装置(画像出力部)30の記録ヘッドから後述するマルチパス記録方式で顔料インクの吐出を行い、所定領域に対して画像を記録する。
【0075】
(記録動作)
以上の構成の記録装置における本実施形態の前述した特徴的な制御を行う記録動作について説明する。ここで「特徴的な制御」とは、接触角の大きい顔料インクの付与量と接触角の小さい顔料インクの付与量との差が、所定値より大きい場合には、付与量の少ない方の接触角の顔料インクを後半の走査で付与するように、顔料インクの付与順序を制御することである。本実施形態においては、合計8回の走査によって、所定領域毎に顔料インクによる画像を記録するマルチパス記録方式を採用する。
【0076】
図11に、本実施形態で用いた「通常マスクパターン」、すなわち、合計8回の記録ヘッド走査において均等に12.5%ずつにインクの付与量を分配するマスクパターンを示す。また、図12(a)に、本実施形態で用いた「後半マスクパターン」を示す。この「後半マスクパターン」は、合計8回の走査のうち最初の4回の走査ではインクを吐出せず、最後の走査を含む後半の4回の走査だけで全ての画素に対してインクを吐出するマスクパターンである。すなわち、この例では、記録ヘッドを複数回走査したうちの前半4回の各走査のインク付与量の分配割合は0%であり、後半4回の各走査のインク付与量の分配割合は25%である。 例えば、所定領域の画像が、接触角大グループのライトシアンインク約10%デューティーと接触角小グループのブラックインク約100%デューティーとで構成されて、付与量の差は約90%ポイントとなる前述の例を用いる。所定値が40%ポイントであるとすると、前記ステップS34で付与量の差は所定値より大きいと判定される。ステップS35にて、付与量の少ない接触角大グループのライトシアンインクについて後半マスクパターンを用いるように設定される。一方、接触角小グループのブラックインクについては、ステップS36にて、通常マスクパターンを用いるように設定される。このように、ブラックインクの付与量が多いため平滑な表面形状になりやすいのを、付与量の少ないライトシアンインクについての吐出を走査の後半4回に集中させることで、表面形状を凹凸化させる効果を上げている。以下においては、この実施形態に沿って説明する。
【0077】
図6は、前述の実施形態における、通常マスクパターンで吐出させるブラックインクと後半マスクパターンで吐出させるライトシアンインクとで記録される画像領域の記録方法の説明図である。ブラック(K)インク吐出用の記録ヘッド22K、およびライトシアン(LC)インク吐出用の記録ヘッド22LCは、それぞれ1280個の吐出口を有し、それらが160個ずつ8つのブロックB1、B2、B3、B4、B5、B6、B7、B8に8等分される。記録ヘッド22Kには、ブロックB1〜B8の範囲α(図2(a)参照)における1280個の吐出口が用いられる。以下においては、それらのブロックB1〜B8の吐出口をA、B、C、D、E、F、G、H領域の吐出口ともいう。記録ヘッド22LCには、ブロックB5〜B8の範囲β(図2(a)参照)における640個の吐出口が用いられる。以下においては、それらのブロックB5〜B8の吐出口をe、f、g、h領域の吐出口ともいう。図6において50−1、50−2、50−3・・・は、記録ヘッドの1つのブロックに相当する記録媒体1上の記録領域である。
【0078】
まずは、第1走査において、記録領域50−1の第1走査時の吐出データに基づいて、記録ヘッド22KのA領域の吐出口からインクを吐出する。
【0079】
次に、記録媒体1を、記録ヘッドの1/8の長さ分だけ副走査方向(矢印Y方向)に搬送する。図6においては、記録媒体1に対して記録ヘッドが副走査方向と交差する方向である主走査方向(矢印X方向)に相対移動するものとして現されている。その後の第2走査においては、記録領域50−1の第2走査時の吐出データに基づいて、記録ヘッド22KのB領域の吐出口からインクを吐出する。この第2走査時には、記録領域50−2に対する第1走査が行なわれる。
【0080】
次に、記録媒体1を、記録ヘッドの1/8の長さ分だけ副走査方向に搬送する。その後の第3走査においては、記録領域50−1の第3走査時の吐出データに基づいて、記録ヘッド22KのC領域の吐出口からインクを吐出する。この第3走査時には、記録領域50−2に対する第2走査と、記録領域50−3に対する第1走査と、が行なわれる。
【0081】
次に、記録媒体1を、記録ヘッドの1/8の長さ分だけ副走査方向に搬送する。その後の第4走査においては、記録領域50−1の第4走査時の吐出データに基づいて、記録ヘッド22KのD領域の吐出口からインクを吐出する。この第4走査時には、記録領域50−2に対する第3走査と、記録領域50−3に対する第2走査と、記録領域50−4に対する第1走査と、が行なわれる。
【0082】
次に、記録媒体1を、記録ヘッドの1/8の長さ分だけ副走査方向に搬送する。その後の第5走査においては、記録領域50−1の第5走査時の吐出データに基づいて、記録ヘッド22KのE領域の吐出口からインクを吐出する。同時に、記録ヘッド22LCのe領域の吐出口からインクを吐出する。この第5走査時には、記録領域50−2に対する第4走査と、記録領域50−3に対する第3走査と、記録領域50−4に対する第2走査と、記録領域50−5に対する第1走査と、が行なわれる。
【0083】
次に、記録媒体1を、記録ヘッドの1/8の長さ分だけ副走査方向に搬送する。その後の第6走査においては、記録領域50−1の第6走査時の吐出データに基づいて、記録ヘッド22KのF領域の吐出口からインクを吐出する。同時に、記録ヘッド22LCのf領域の吐出口からインクを吐出する。この第6走査時には、記録領域50−2に対する第5走査と、記録領域50−3に対する第4走査と、記録領域50−4に対する第3走査と、記録領域50−5に対する第2走査と、記録領域50−6に対する第1走査と、が行なわれる。また、同時に、記録領域50−2に対する記録ヘッド22LCのe領域の吐出口からのインクの吐出が行われる。
【0084】
次に、記録媒体1を、記録ヘッドの1/8の長さ分だけ副走査方向に搬送する。その後の第7走査においては、記録領域50−1の第7走査時の吐出データに基づいて、記録ヘッド22KのG領域の吐出口からインクを吐出する。同時に、記録ヘッド22LCのg領域の吐出口からインクを吐出する。この第7走査時には、前述と同様に、記録領域50−2から50−7に対する第6走査から第1走査が行なわれる。また、同時に、記録領域50−2に対する記録ヘッド22LCのf領域の吐出口からのインクの吐出と、記録領域50−3に対する記録ヘッド22LCのe領域の吐出口からのインクの吐出と、が行われる。
【0085】
次に、記録媒体1を、記録ヘッドの1/8の長さ分だけ副走査方向に搬送する。その後の第8走査においては、記録領域50−1の第8走査時の吐出データに基づいて、記録ヘッド22KのH領域の吐出口からインクを吐出する。同時に、記録ヘッド22LCのh領域の吐出口からインクを吐出する。この第8走査時には、記録領域50−2から50−8に対する第7走査から第1走査が行なわれる。また、同時かつ前述と同様に、記録領域50−2から50−4に対する記録ヘッド22LCのg領域からe領域の吐出口からのインクの吐出が行われる。
【0086】
このような第1から第8走査によって、ブラック(K)インクによる記録領域50−1の画像の記録が終了し、第5から第8走査によって、ライトシアン(LC)インクによる記録領域50−1の画像の記録が終了する。
【0087】
以下、同様の走査を繰り返すことにより、記録領域50−2、50−3・・・に対する画像の記録が順次終了することになる。
【0088】
以上のように、顔料インクの接触角とその付与量に応じて、接触角の異なる顔料インクを付与する記録方法を好適に異ならせることができる。具体的には、まず、接触角が相対的に大きい顔料インク(第1インク)の付与量と接触角が相対的に小さい顔料インク(第2インク)の付与量との差を求める。その差が所定値より大きい場合に、付与量の少ない方の顔料インクを後半の走査で付与するように、顔料インクの付与順序を制御する。これによれば、接触角の異なる顔料インクを用いて画像を記録しても、画像の表面形状を揃えることができるために、光沢ムラなどの画像性能を改善することができる。
【0089】
本実施形態における顔料インクの付与量の差の所定値は、使用する顔料インク、および所望する画像の光沢性および光沢ムラの程度に応じて適宜設定することができる。
【0090】
本実施形態においては、図12(a)に示すマスクパターンを用いて、複数の走査のうち最後の走査を含む4回の走査でライトシアン(LC)インクを吐出して、画像の記録を行った。しかし、本発明では、複数の顔料インクのうち相対的に付与量が少ない方の顔料インクについて、複数の走査のうち後半の走査で付与される付与量の割合が高ければよい。例えば、図12(b)に示すマスクパターンのように、全8回の走査のうちの全ての走査で顔料インクを吐出するが、後半の走査で吐出する付与量の割合が高いマスクパターンを用いてもよい。また、本発明では、所定領域に対して顔料インクを付与する走査回数に制限はない。本実施形態では、少ない走査回数で画像を記録するように顔料インクの吐出データを分配する方法としてマスクパターンを利用したが、他の分配方法でもよい。
【0091】
また、本実施形態では、所定領域の画像は、ライトシアンインクとブラックインクとで構成され、あらかじめ設定されている付与量の差の所定値を40%ポイントとした。しかし、本発明では、顔料インクの種類および付与量の他に、付与量の総和、画像の濃度、画像の階調などに応じて所定値を異ならせてもよい。後半の走査で付与するための付与量の割合や走査回数なども、顔料インクの種類などにより異ならせてもよい。
【0092】
また、本実施形態においては、接触角の異なる顔料インクの付与量の差が、所定値より大きい場合には、付与量の少ない方の接触角の顔料インクを後半の走査で付与することで、光沢ムラが軽減するような表面形状になるように制御した。しかし、複数種類の顔料インクの組み合わせによっては、光沢性の高いインクまたは低いインクのいずれかに光沢性を揃えるようにして光沢ムラを軽減させてもよい。例えば、光沢性が高めなところで光沢ムラを軽減させたいときは、接触角の大きい顔料インクの付与量が接触角の小さい顔料インクの付与量と比べて所定値より大きい場合に、接触角の小さい顔料インクを後半の走査で付与するとよい。一方、光沢性が低めなところで光沢ムラを軽減させたいときは、接触角の小さい顔料インクの付与量が接触角の大きい顔料インクの付与量と比べて所定値より大きい場合に、接触角の大きい顔料インクを後半の走査で付与するとよい。
【0093】
また、本実施形態においては、画像記録に用いる顔料インクのうち画像性能(本実施形態では耐擦過性)を向上させるライトシアンインクやライトマゼンタインクを接触角大インクとして用いた。しかし、インクとは別に、画像性能を向上させる特性を有する無色透明に近い処理液を追加しても良い。その場合、処理液も接触角を持つインクの1つとして付与順序を制御するのが好ましい。本実施形態においては、顔料インクを接触角大グループと接触角小グループとに分類して付与順序を制御したが、顔料インクの他に処理液をも含め、グループ分けしてもよい。処理液が耐擦過性を向上させる処理液の場合、処理液を記録画像全域に亘って付与するのが好ましいが、付与範囲に限りはない。
【0094】
<第2の実施形態>
前述の実施形態では、接触角の異なる顔料インクの付与順序をそれぞれの顔料インクの付与量に応じて最適化し、顔料インクにより記録された画像の表面形状を制御することにより、光沢ムラなどの画像性能を改善した。本実施形態では、顔料インクによる画像の記録後に画像の性能を向上させる特性を有する処理液を付与することでインク画像の被覆を行う構成における、さらなる効果について説明する。
【0095】
接触角の大きい顔料インクと接触角の小さい顔料インクとの付与順序は前述した実施形態と同様のため、本実施形態の顔料インクの記録方法は、前述した実施形態について図6に示した記録方法と同様である。また、本実施形態の処理液の付与量は、顔料インクのドット数に関わらず、顔料インクによる画像全域で均一な付与量とする。また、前述した実施形態と同様の部分については、説明を省略する。
【0096】
(全体的構成)
本発明の第2の実施形態のインクジェット記録装置の全体の構成について説明する。本実施形態では、図1に示した記録ヘッド22は、顔料インクの記録ヘッド22K、22C、22M・・・22LMの他に、図示していない処理液の記録ヘッド22Hをさらに備えて構成される。処理液の記録ヘッド22Hが備えた吐出口から記録媒体1に対して処理液が吐出されることで記録が行われる。同様に、処理液のインクタンク21H、処理液のキャップ20Hをさらに備えている。図2(b)は、記録ヘッド22を吐出口から見た図である。前述の実施形態で用いた記録ヘッドに、主走査方向Xと交差する方向(例えば、副走査方向)にずれるように処理液の記録ヘッド22Hが追加された構成である。記録ヘッド22Hには、顔料インクと同じ1200dpiの密度で640個の吐出口が配列している。
【0097】
(処理液の組成)
次に、本実施形態で用いる処理液の組成について説明する。
[処理液]
(1)処理液の作製
以下の成分を混合し、十分に攪拌して、処理液を調製した。
アクリルシリコーン共重合体(商品名:サイマックUS−450;東亞合成株式会社製)5部
グリセリン 5部
エチレングリコール 15部
アセチレングリコールEO付加物(川研ファインケミカル株式会社製)0.5部
イオン交換水 74.5部
【0098】
本実施形態の処理液には、「接触角が相対的に大きいインク」であるライトシアンインク、ライトマゼンタインクに用いたものと同じ樹脂材料を含有させる。ここでは、滑り性化合物である市販のアクリルシリコーン共重合体(商品名:サイマックUS−450;東亞合成株式会社製)を用いた。顔料インク層の最表面に透明層を形成し、本実施形態においては、画像堅牢性のうちの耐擦過性を向上させることが可能な樹脂材料であればいかなる材料も使用することができる。
【0099】
(特徴的構成)
本実施形態では、画像堅牢性のうちの耐擦過性の向上に極めて効果的である処理液を用いて、顔料インク層の表層に透明層を形成して画像を被覆する構成をとった。しかし、このような処理液による透明層においては前述した薄膜干渉現象による干渉色ムラが生じ得るため、これを軽減させる必要がある。
【0100】
図5(c)は、記録媒体1上の顔料インク層25の上に処理液による透明層26を形成した際の画像断面の模式図である。一般的に透明層は約100nm〜500nm程度の厚さの透明薄膜である。このような透明薄膜は干渉色が発生しやすい。
【0101】
透明薄膜の干渉色とは、透明薄膜の表面で反射された光と、膜の表面を通過して膜の裏側で反射された光が干渉しあって、強め合ったり打ち消しあったりして発現してしまう色のことである。干渉色の発生するメカニズムについて、図13を用いて以下に詳細に説明する。
【0102】
図13は、顔料インクの画像記録後に処理液による透明層を形成した画像の断面模式図である。1は記録媒体、25は顔料インク層、26は透明層を示す。1004は光の入る方向であり、1005と1006は光が反射して出て行く方向を示す1005は表面反射光であり、1006は透明層26と顔料インク層25との間で反射して出て行く光である。
【0103】
この場合、太線1007の光と太線1008の光との間で光路差が発生し、光路差の距離と光の波長との関係により、光が強めあったり弱めあったりする。
この場合一般的に、以下の式が成り立つ。
m*λ=n*2d*cosθ+λ/2 ・・・・・(式2)
【0104】
mは整数、nは透明層の屈折率、dは透明層の厚さ、θは入射角である。この条件を満たす波長λの光が強め合って、強く発色することになる。
【0105】
以下の表はシアンインクを付与した後に処理液を付与した場合の干渉色の様子を示す。ここで、シアンインクの付与量は100%デューティーであり、処理液の付与量は第1表の通りである。本明細書においては、処理液の付与量についても、顔料インクの付与量と同様に、デューティー、すなわち、所定の領域に対する処理液のドットの付与割合(%)で示す。なお、本検討において記録媒体はキヤノン製フォト光沢紙(商品名「フォト光沢紙[薄口]LFM−GP421R」)を使用した。記録動作としては、合計8回の走査のマルチパス記録方式を採用し、まず顔料インクを付与し、その後に処理液を付与した。
【0106】
【表1】
【0107】
第1表に示されるように、処理液の付与量が少ない場合は、干渉色が見られない。式2を満たす波長領域が可視光領域に無いためである。処理液の付与量が増えると、膜厚に応じて、干渉色となる波長が長くなっていく。
【0108】
このように、顔料インク層に入る光は、反射光に色味を帯びることになる。そのため、画像に映りこんだ蛍光灯の光等は自然な白色の反射でなく干渉色となり、これに基づく干渉色ムラが生じることとなる。このような干渉色は透明層の膜厚により色が変化するため、干渉色ムラが生じるだけでなく虹色に映りこむこともあり、画像品位を劣化させてしまう。
【0109】
このような干渉色を抑える有効な手段として、極端に薄い膜からなる透明層を形成する方法がある。しかし、光沢性の向上や耐擦性の向上などの効果が、透明層の膜厚が薄すぎて得られない可能性がある。また、透明層の膜厚を厚くする方法もある。しかし、この方法では、光の多くの波長で干渉が発生し色味を相殺させることができるが、処理液を必要以上に付与しなければならない可能性がある。例えば、処理液を耐擦過性向上のために用いるのであれば、透明層の膜厚は約200nmあれば十分であるのに対して、干渉色が相殺される膜厚は約1μmであり、処理液の付与量は約5倍となってしまう。そこで、本実施形態では、透明層の厚みにばらつきを持たせること、つまり透明層の下側表面の凹凸の程度を大きくする(下側表面を凹凸化させる)ことで、干渉する波長をばらつかせることにより干渉色を抑える手段を用いる。具体的には、顔料インク層の上側表面が平滑な場合(高光沢な場合)には、透明層の厚みが一定となるので特定の干渉色が生じてしまう。これに対して、顔料インク層の上側表面が凹凸な場合(低光沢な場合)には、透明層の厚みにばらつきが生じるため干渉色が抑えられる。したがって、顔料インク層の上側表面の凹凸の程度を所定の範囲に設定することで、画像の光沢ムラを軽減させるとともに、透明層に起因する干渉色をも抑えることができるのである。
【0110】
図14(a)は、透明層の下側表面にどの程度の表面粗さ(Ra)があれば干渉色が抑制されるのか、をシミュレーションした結果である。透明層の下側表面の表面粗さを振ったときに、干渉色の強さ(色度)がどのように変化するかをグラフに示した。ここで、本実施形態においては、透明層の下側表面の表面粗さ(Ra)とは、その直下に設けられる顔料インク層の上側表面の表面粗さ(Ra)である。色度の数値が小さいほど干渉色は無彩色化し、干渉色の色度が約5以下になれば視覚的に問題無しと判断した。透明層の膜厚を300、700、1500μmとしたとき、表面粗さ(Ra)が約90nm以上になれば、干渉色の色度が約5以下となることが分かった。なお、干渉色の測定として、本検討では、コニカミノルタ製SPECTRORADIOMETER CS−2000Aにより色度を測定した。なお、透明層の干渉色を測定できるのであれば、測定器は上記例示したものに限定されるものではない。
【0111】
また、図14(b)は、透明層の下側表面がどの程度の表面粗さ(Ra)までならば透明層表面(上側表面)の平滑化が可能なのか、つまり、高光沢性が可能なのかをシミュレーションした結果である。透明層の下側表面の表面粗さを振ったときに、透明層の上側表面が平滑になる処理液の付与量をグラフに示した。本実施形態においては、プロットされた線の上側領域に入る条件ならば、透明層の上側表面は平滑であるといえるレベルである。例えば、処理液の付与量が100%デューティーのとき、透明層の下側表面の表面粗さ(Ra)が約150nm以下であれば透明層の上側表面は平滑であり、高光沢となることが分かった。
【0112】
以上より、今回のシミュレーションでは、透明層の下側表面が約90〜約150nmの範囲の表面粗さ(Ra)の場合に、干渉色が無く、かつ高光沢な透明層が得られることが分かった。なお、透明層の下側表面の好適な表面粗さ(Ra)は、処理液の種類や表面粗さを形成する形状などにより変化するものであるため、上記数値範囲に限定されるものではない。
【0113】
このように、顔料インクの接触角の違いによるドット広がりの違いを利用し、接触角の異なる顔料インクの付与順序を最適化することで、顔料インク画像の表面形状に適切な凹凸をつけ、それにより、処理液による透明層の干渉色ムラを軽減させることができる。
【0114】
本実施形態で用いるライトシアンインクの場合、図8(b)に示すように、顔料インク層の上側表面、すなわち透明層の下側表面の表面粗さ(Ra)は145nmである。この表面粗さの値は、前述のシミュレーションで得られた干渉色の無い高光沢な透明層を形成できる所定の表面粗さの範囲(Raが約90〜約150nm)に入っている。しかし、ブラックインクの場合、表面粗さ(Ra)は79nmであり、前述の範囲未満であるため、干渉色を生じる可能性がある。したがって、ブラックインクについてはそれにより記録される画像の表面の凹凸の程度を大きくする(表面を凹凸化させる)必要がある。そのために、接触角の大きいライトシアンインクの付与量と接触角の小さいブラックインクの付与量との差によって、インクの付与順序を変動させる。接触角の大きいライトシアンインクの付与量が多い場合には、顔料インク層の上側表面は凹凸な形状になる。このとき、透明層の干渉色ムラ軽減のための顔料インク層の上側表面の凹凸化の必要はなく、第1の実施形態で示したようなインク付与順序のままとする。また、接触角の小さいブラックインクの付与量がある程度多い場合には、顔料インク層の上側表面は平滑な表面になる。そのため、透明層の干渉色ムラ軽減のために、接触角の大きいライトシアンインクを後半の走査で付与するように制御して、顔料インク層の上側表面の形状を凹凸化させる。このように、顔料インクの付与順序を最適化することで、光沢ムラに加えて干渉色ムラなどの画像性能を改善することができる。
【0115】
(画像処理)
次に、本実施形態の吐出データの生成方法を、図4(b)を用いて説明する。特に説明のない限り、図4(b)中の各ステップは、図4(a)で説明したものと同様である。
【0116】
顔料インクにより記録された画像を被覆する処理液の2値画像データは、ステップS32の2値化処理において生成された顔料インクの2値画像データに基づくことなく生成される。本実施形態では、処理液の付与量を、顔料インクにより記録された画像に対して望ましい擦過性を得ることのできる均一な約100%デューティーと設定する。
【0117】
ステップS33では、複数種類の顔料インクの2値画像データに基づき、記録媒体上の所定領域における接触角小グループのインクの付与量が接触角大グループのインクの付与量と比べて所定値より大きいかどうか判定を行う。所定値より大きい場合は、ステップS37により、接触角大グループのインクについては、後述する「後半マスクパターン」を用いるように設定される。なお、他方の接触角のグループのインク、すなわち接触角小グループのインクについては、後続のステップS36において、後述する「通常マスクパターン」が用いられる。一方、ステップS33において所定値より小さかった場合には、ステップS36に進み、接触角大グループのインクおよび接触角小グループのインクの両方について、「通常マスクパターン」が用いられる。
【0118】
具体的には、ステップS36において、複数種類の顔料インクの2値画像データと処理液の2値画像データとは、2値画像データを複数回の走査に分配するためのマスクパターン処理により、記録ヘッドへ転送できる形式の吐出データへと生成される。このとき使用されるマスクパターンは、前述のように設定された「通常マスクパターン」および「後半マスクパターン」である。
【0119】
(記録動作)
本実施形態の特徴的な制御を行う記録動作について説明する。ここで「特徴的な制御」とは、接触角の小さい顔料インクの付与量が接触角の大きい顔料インクの付与量よりも所定値より大きい場合には、接触角の大きいインクを後半の走査で付与するように顔料インクの付与順序を制御することである。本実施形態においても、第1の実施形態と同様に、合計8回の走査によって所定領域毎に顔料インクによる画像を記録するマルチパス記録方式を採用する。なお、顔料インク画像の表面を被覆するための処理液は、顔料インクによる画像の記録が終了した後の走査によって行われる。ここでは、処理液を付与するために、続けて合計4回の走査を採用した。なお、処理液の記録方式は、1回の走査でも良く、走査回数や付与方法に限りはない。
【0120】
本実施形態で用いる「通常マスクパターン」および「後半マスクパターン」は、第1の実施形態の場合と同様である。すなわち、「通常マスクパターン」は、合計8回の走査において均等に12.5%ずつにインクの付与量を分配するマスクパターンである(図11参照)。また、「後半マスクパターン」は、合計8回の走査のうち最初の4回の走査ではインクを吐出せず、最後の走査を含む後半の4回の走査だけで全ての画素に対してインクを吐出するマスクパターンである(図12(a)参照)。記録ヘッドを複数回走査したうちの前半の各走査のインク付与量の分配割合は0%であり、後半の各走査のインク付与量の分配割合は25%である。具体的な記録方法は、前述の記録方法を用いるため、説明を省略する。以上のように、本実施形態においては、第1の実施形態と同様に、顔料インクの接触角の相対的な大小関係と、インク付与量とに着目する。接触角が相対的に小さい顔料インクの付与量が、接触角が相対的に大きい顔料インクの付与量と比べて所定値より大きい場合には、接触角が相対的に大きいインクを後半の記録走査で付与するように、顔料インクの付与順序を制御する。これによれば、接触角の異なる顔料インクを用いて画像を記録しても、画像の表面に好適な凹凸形状を提供することができる。そのため、この画像に対して処理液による被覆を行っても、干渉色ムラが生じにくく、画像性能を改善することができる。
【0121】
本実施形態では、接触角が小さい顔料インクの付与量が接触角が大きい顔料インクの付与量より所定値より大きい場合に、接触角が大きいインクを後半の走査で付与することで顔料インクによる画像表面の形状を制御して、処理液による干渉色ムラを軽減させた。このとき、顔料インク層の表面粗さは、制御しない場合と比べて大きい。しかし、複数種類の顔料インクと処理液との組み合わせによっては、顔料インク層の表面粗さを小さく制御することによって、干渉色ムラを軽減させてもよい。例えば、顔料インク層の表面粗さを小さく制御して干渉色ムラを軽減させたいときであって、接触角が大きい顔料インクの付与量が接触角が小さい顔料インクの付与量と比べて所定値より大きい場合には、接触角が小さい顔料インクを後半の走査で付与するとよい。適切な顔料インク層の表面粗さは、使用する顔料インクおよび記録媒体等に依存する。
【0122】
また、本実施形態においては、画像の記録に用いる顔料インクの他に、これら顔料インクにより記録される画像の性能(前述の例では耐擦過性)を向上させるための処理液を別に用いた。したがって、処理液は、基本的には、画像記録とは別使用なので、無色透明に近い状態が好ましい。しかし、処理液は、有色であってもよい。例えば、ライトシアンインクやライトマゼンタインク、ライトグレーインクなど画像記録に用いる顔料インクの一部、または全てに耐擦過性などの機能を向上させる材料を追加し、顔料インクに画像記録と画質性能向上との両方の役割を担わせても良い。この場合、インクタンクや記録ヘッドなどの1色分の追加部品が要らないので、小型化や低コスト化に大いに貢献できる。もちろん、画像記録に用いる顔料インクのうちの濃色の顔料インクの一部もしくは全てを、同様にして、処理液を兼ねさせても良い。
【0123】
<その他の実施形態>
前述の実施形態においては、顔料インクを吐出するためのノズルを構成する吐出口と、処理液を吐出するためのノズルを構成する吐出口と、が主走査方向と交差する方向(例えば、副走査方向)にずれるように記録ヘッドが構成されている(図2(b)参照)。しかし、それらの吐出口が主走査方向に並ぶように、構成された記録ヘッドを用いることもできる。また、処理液吐出用のノズルの数が顔料インク吐出用のノズルよりも多くて、前者のノズルの列が後者のノズルの列よりも長くてもよい。
【0124】
また、記録ヘッドは、画像を記録するためのインクとして異なる複数のインクを吐出するものであってもよく、また、1種類のインクを吐出する記録ヘッドを複数用いてもよい。
【0125】
また、本発明は、インクと処理液とを吐出可能な記録ヘッドの複数回の走査によって、記録媒体上の所定領域に対して、インクによる画像の記録と処理液による被覆とを行う種々のインクジェット記録装置に対して、広く適用することができる。したがって、記録ヘッドの構成や配備数などは、前述した実施形態のみに限定されない。
【0126】
また、前述の実施形態では、耐擦過性の機能を向上させるための顔料インクや耐擦過性の機能を向上させるための処理液を具体例として例示した。しかし、本発明で適用可能な顔料インク、および処理液は、このような液体に制限されるものではない。上記機能だけに限らず、光沢性、ヘイズ性、ブロンズ性等の画像品位や、耐水性、耐アルカリ性、耐候性等の画像堅牢性など、画像について何らかの性能を向上させる顔料インク、および処理液であればよい。例えば、そのようなインク、処理液には、水溶性樹脂や水分解性樹脂の他、シリコーンオイル等の材料を使用することができる。
【0127】
また、前述の実施形態では、画像を記録する顔料インクを、接触角の違いにより、接触角小グループと接触角大グループとの2つに分類したが、分類する数はこの限りではない。接触角の程度に合わせて、インク毎にさらに多くのグループ(例えば、3グループ、4グループ等)に分類してもよい。この場合であっても、複数の所定値や複数のマスクパターンなどを用意して、前述した実施形態と同様にして顔料インクの付与順序を制御することにより、本発明の効果が得られる。
【0128】
また、前述の実施形態では、ブラックインクおよびライトシアンインクの2種類のインクを用いた。3種類以上の複数種類のインクを使用する場合は、このように、例えば接触角大グループインクではブラックインクの付与量、接触角小グループインクではライトシアンインクの付与量のように、あるインクに注目して所定値との差を判定してもよい。あるいはまた、接触角大グループインクの付与量の総和および接触角小グループインクの付与量の総和により所定値との差を判定してもよい。
【0129】
また、前述の実施形態では、処理液は、画像記録が終了した後に吐出されて顔料インク層(画像)の最表面に存在する場合が、最も効果を発揮する。しかし、画像記録を行っている最中に一部の処理液が顔料インクと共に吐出され顔料インク層の内部に存在してもよい。このように本発明において、処理液と顔料インクとの付与順番や処理液の存在位置などは限定されるものではない。
【0130】
また、前述の実施形態では、画像を記録する顔料インクを、濡れ性(接触角)の値の違いにより分類し、その画像に対応する付与量の差が所定値より大きいかどうかにより顔料インクの付与方法を決定するようにした。しかし、所定値および顔料インクの付与方法は、顔料インクの他の物性、例えば、組成に基づく顔料インク固有の光沢度等に応じて決定してもよい。さらに記録媒体の種類(高吸収受容層など受容層の種類や、光沢紙・マット紙など用途別種類)に応じて、所定値を変更し付与方法を変更する形態であってもよい。また、さらに記録モードの種類(ドラフトモードや高精細モードなど)に応じて、所定値を変更し付与方法を変更する形態であってもよい。
【0131】
また、本発明は、紙や布、不織布、OHPフィルム等の記録媒体を用いる記録装置全てに適用が可能であり、具体的な適用装置としては、プリンタ、複写機、ファクシミリなどの事務機や大量生産機等を挙げることができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数種類のインクを吐出する記録ヘッドを有するインクジェット記録装置であって、
記録媒体の所定領域に対して前記記録ヘッドを複数回走査させて前記記録ヘッドから前記複数種類のインクを吐出させる吐出データに基づいて前記記録ヘッドから前記複数種類のインクを前記所定領域に対して吐出して画像を記録する吐出手段を備え、
前記複数種類のインクは、接触角が相対的に大きい第1インクと、接触角が相対的に小さい第2インクとに分類され、
前記吐出データは、前記吐出手段により前記所定領域に対して吐出されるべき前記第1インクおよび前記第2インクの付与量の差が所定の値より大きい場合に、付与量が少ない方のインクが前記複数回の走査のうちの後半の走査で吐出される割合が高くなる、吐出データである
ことを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記第1インクの付与量が前記第2インクの付与量よりも所定値より大きいことを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記第2インクの付与量が前記第1インクの付与量よりも所定値より大きいことを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記吐出データは、前記複数回の走査のうち前半の少なくとも1回の走査はインクを吐出させない吐出データであることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
前記吐出データは、前記複数種類のインクの吐出を前記記録ヘッドの複数回の走査に分配するための少なくとも2つのマスクパターンを用いて生成されることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項6】
前記第1インクは、画像の性能を向上させる特性を有する樹脂が添加されたインクであり、前記第2インクは、前記樹脂が添加されていないか、または、前記第1インクに添加されたのよりも少ない量で前記樹脂が添加されたインクであることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項7】
前記複数種類のインクのうち少なくとも一つは、前記複数種類のインクにより記録される画像の性能を向上させる特性を有することを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項8】
複数種類のインクを吐出する吐出口と、画像の性能を向上させる特性を有する処理液を吐出する吐出口と、を備える記録ヘッドを有するインクジェット記録装置であって、
記録媒体の所定領域に対して前記記録ヘッドを複数回走査させて前記記録ヘッドから前記複数種類のインクを吐出させる吐出データに基づいて、前記記録ヘッドから前記複数種類のインクを前記所定領域に対して吐出して画像を記録し、および、前記所定領域に対して前記記録ヘッドを走査させて前記記録ヘッドから前記処理液を吐出させる吐出データに基づいて、前記複数種類のインクにより記録された画像の上に前記記録ヘッドから前記処理液を吐出することによって、前記画像を前記処理液により被覆する吐出手段を備え、
前記複数種類のインクは、接触角が相対的に大きい第1インクと、接触角が相対的に小さい第2インクとに分類され、
前記複数種類のインクを吐出させる吐出データは、前記吐出手段により前記所定領域に対して吐出されるべき前記第1インクおよび前記第2インクの付与量の差が所定の値より大きい場合に、付与量が少ない方のインクが前記複数回の走査のうちの後半の走査で吐出される割合が高くなるようにして、前記複数種類のインクによって記録されるべき前記画像の表面粗さを所定の範囲とする、吐出データである
ことを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項9】
前記画像の性能とは、画像の耐擦過性、耐候性、耐水性、耐アルカリ性、光沢性、ヘイズ性、ブロンズ性の少なくとも1つの特性であることを特徴とする請求項6から8のいずれか一項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項10】
複数種類のインクを吐出する記録ヘッドを有するインクジェット記録装置によるインクジェット記録方法であって、
記録媒体の所定領域に対して前記記録ヘッドを複数回走査させて前記記録ヘッドから前記複数種類のインクを吐出させる吐出データに基づいて、前記記録ヘッドから前記複数種類のインクを前記所定領域に対して吐出して画像を記録する吐出工程を含み、
前記複数種類のインクは、接触角が相対的に大きい第1インクと、接触角が相対的に小さい第2インクとに分類され、
前記吐出データは、前記吐出工程により前記所定領域に対して吐出されるべき前記第1インクおよび前記第2インクの付与量の差が所定の値より大きい場合に、付与量が少ない方のインクが前記複数回の走査のうちの後半の走査で吐出される割合が高くなる、吐出データである
ことを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項11】
複数種類のインクを吐出する吐出口と、画像の性能を向上させる特性を有する処理液を吐出する吐出口と、を備える記録ヘッドを有するインクジェット記録装置によるインクジェット記録方法であって、
記録媒体の所定領域に対して前記記録ヘッドを複数回走査させて前記記録ヘッドから前記複数種類のインクを吐出させる吐出データに基づいて、前記記録ヘッドから前記複数種類のインクを前記所定領域に対して吐出して画像を記録し、および、前記所定領域に対して前記記録ヘッドを走査させて前記記録ヘッドから前記処理液を吐出させる吐出データに基づいて、前記画像の上に前記記録ヘッドから前記処理液を吐出することによって、前記画像を前記処理液により被覆する吐出工程を含み、
前記複数種類のインクは、接触角が相対的に大きい第1インクと、接触角が相対的に小さい第2インクとに分類され、
前記複数種類のインクを吐出させる吐出データは、前記吐出工程により前記所定領域に対して吐出されるべき前記第1インクおよび前記第2インクの付与量の差が所定の値より大きい場合に、付与量が少ない方のインクが前記複数回の走査のうちの後半の走査で吐出される割合が高くなるようにして、前記複数種類のインクによって記録されるべき前記画像の表面粗さを所定の範囲とする、吐出データである
ことを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項12】
前記画像の性能とは、画像の耐擦過性、耐候性、耐水性、耐アルカリ性、光沢性、ヘイズ性、ブロンズ性の少なくとも1つの特性であることを特徴とする請求項10または11に記載のインクジェット記録方法。
【請求項1】
複数種類のインクを吐出する記録ヘッドを有するインクジェット記録装置であって、
記録媒体の所定領域に対して前記記録ヘッドを複数回走査させて前記記録ヘッドから前記複数種類のインクを吐出させる吐出データに基づいて前記記録ヘッドから前記複数種類のインクを前記所定領域に対して吐出して画像を記録する吐出手段を備え、
前記複数種類のインクは、接触角が相対的に大きい第1インクと、接触角が相対的に小さい第2インクとに分類され、
前記吐出データは、前記吐出手段により前記所定領域に対して吐出されるべき前記第1インクおよび前記第2インクの付与量の差が所定の値より大きい場合に、付与量が少ない方のインクが前記複数回の走査のうちの後半の走査で吐出される割合が高くなる、吐出データである
ことを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記第1インクの付与量が前記第2インクの付与量よりも所定値より大きいことを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記第2インクの付与量が前記第1インクの付与量よりも所定値より大きいことを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記吐出データは、前記複数回の走査のうち前半の少なくとも1回の走査はインクを吐出させない吐出データであることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
前記吐出データは、前記複数種類のインクの吐出を前記記録ヘッドの複数回の走査に分配するための少なくとも2つのマスクパターンを用いて生成されることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項6】
前記第1インクは、画像の性能を向上させる特性を有する樹脂が添加されたインクであり、前記第2インクは、前記樹脂が添加されていないか、または、前記第1インクに添加されたのよりも少ない量で前記樹脂が添加されたインクであることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項7】
前記複数種類のインクのうち少なくとも一つは、前記複数種類のインクにより記録される画像の性能を向上させる特性を有することを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項8】
複数種類のインクを吐出する吐出口と、画像の性能を向上させる特性を有する処理液を吐出する吐出口と、を備える記録ヘッドを有するインクジェット記録装置であって、
記録媒体の所定領域に対して前記記録ヘッドを複数回走査させて前記記録ヘッドから前記複数種類のインクを吐出させる吐出データに基づいて、前記記録ヘッドから前記複数種類のインクを前記所定領域に対して吐出して画像を記録し、および、前記所定領域に対して前記記録ヘッドを走査させて前記記録ヘッドから前記処理液を吐出させる吐出データに基づいて、前記複数種類のインクにより記録された画像の上に前記記録ヘッドから前記処理液を吐出することによって、前記画像を前記処理液により被覆する吐出手段を備え、
前記複数種類のインクは、接触角が相対的に大きい第1インクと、接触角が相対的に小さい第2インクとに分類され、
前記複数種類のインクを吐出させる吐出データは、前記吐出手段により前記所定領域に対して吐出されるべき前記第1インクおよび前記第2インクの付与量の差が所定の値より大きい場合に、付与量が少ない方のインクが前記複数回の走査のうちの後半の走査で吐出される割合が高くなるようにして、前記複数種類のインクによって記録されるべき前記画像の表面粗さを所定の範囲とする、吐出データである
ことを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項9】
前記画像の性能とは、画像の耐擦過性、耐候性、耐水性、耐アルカリ性、光沢性、ヘイズ性、ブロンズ性の少なくとも1つの特性であることを特徴とする請求項6から8のいずれか一項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項10】
複数種類のインクを吐出する記録ヘッドを有するインクジェット記録装置によるインクジェット記録方法であって、
記録媒体の所定領域に対して前記記録ヘッドを複数回走査させて前記記録ヘッドから前記複数種類のインクを吐出させる吐出データに基づいて、前記記録ヘッドから前記複数種類のインクを前記所定領域に対して吐出して画像を記録する吐出工程を含み、
前記複数種類のインクは、接触角が相対的に大きい第1インクと、接触角が相対的に小さい第2インクとに分類され、
前記吐出データは、前記吐出工程により前記所定領域に対して吐出されるべき前記第1インクおよび前記第2インクの付与量の差が所定の値より大きい場合に、付与量が少ない方のインクが前記複数回の走査のうちの後半の走査で吐出される割合が高くなる、吐出データである
ことを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項11】
複数種類のインクを吐出する吐出口と、画像の性能を向上させる特性を有する処理液を吐出する吐出口と、を備える記録ヘッドを有するインクジェット記録装置によるインクジェット記録方法であって、
記録媒体の所定領域に対して前記記録ヘッドを複数回走査させて前記記録ヘッドから前記複数種類のインクを吐出させる吐出データに基づいて、前記記録ヘッドから前記複数種類のインクを前記所定領域に対して吐出して画像を記録し、および、前記所定領域に対して前記記録ヘッドを走査させて前記記録ヘッドから前記処理液を吐出させる吐出データに基づいて、前記画像の上に前記記録ヘッドから前記処理液を吐出することによって、前記画像を前記処理液により被覆する吐出工程を含み、
前記複数種類のインクは、接触角が相対的に大きい第1インクと、接触角が相対的に小さい第2インクとに分類され、
前記複数種類のインクを吐出させる吐出データは、前記吐出工程により前記所定領域に対して吐出されるべき前記第1インクおよび前記第2インクの付与量の差が所定の値より大きい場合に、付与量が少ない方のインクが前記複数回の走査のうちの後半の走査で吐出される割合が高くなるようにして、前記複数種類のインクによって記録されるべき前記画像の表面粗さを所定の範囲とする、吐出データである
ことを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項12】
前記画像の性能とは、画像の耐擦過性、耐候性、耐水性、耐アルカリ性、光沢性、ヘイズ性、ブロンズ性の少なくとも1つの特性であることを特徴とする請求項10または11に記載のインクジェット記録方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2012−126101(P2012−126101A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−281935(P2010−281935)
【出願日】平成22年12月17日(2010.12.17)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月17日(2010.12.17)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]