説明

インクジェット記録装置およびインクジェット記録方法

【課題】インクジェット記録装置において、顔料インクによる記録物の光沢性、特に写像性を向上させる。
【解決手段】1回目のクリアインク付与によってクリアインクの層904を形成する。これを皮膜化した後、その層の上に、2回目のクリアインクの付与を行う。これにより、一度クリアインクが付与された後に2度目に付与されるクリアインクの浸透速度は遅くなるとともに、記録物においてほぼ均一な速度となる。すなわち、一度皮膜化したクリアインク表面に2回目のクリアインクを付与すると、そのクリアインクは浸透速度がほぼ均一の浸透をして定着する。この結果、2回目に付与されるクリアインクは浸透速度に差が無いことから凹凸を生じることがなく、平滑な記録物表面を形成することができる。これにより、記録物の光沢感、特に写像性を向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録装置およびインクジェット記録方法に関し、詳しくは、インクで記録された記録物の光沢を向上させるための構成に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水性分散系顔料を使用したインク(以下「顔料インク」と称する)を使用することにより、高い画像堅牢性を実現するインクジェット記録装置が提供されている。しかし、顔料インクで記録した記録物は、一般に、画像の耐水性および耐光性即ち画像の堅牢性は優れるものの、画像の光沢性は比較的低いという特性を有している。顔料インクは、記録媒体の内部まで浸透しにくく表面で定着して記録媒体の表面に凹凸を形成しやすく、画像表面の平滑性を損なわせるからである。
【0003】
顔料インクによる画像の光沢性を改善するインクジェット記録技術として、特許文献1には、クリアインクを記録物上に付与することにより、顔料インクによる記録物上の光沢感の不均一性を改善することが記載されている。すなわち、顔料インクの付与量に応じてクリアインクの付与量を調整することにより顔料インクの濃度による光沢感の変化を小さくし、顔料インク記録物上の光沢感を均一にしている。
【0004】
また、特許文献2には、樹脂エマルジョンと水から成るトップコート液を記録物表面に噴射してトップコート層を形成させることにより、顔料インクによる記録物の光沢性を向上させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−149514号公報
【特許文献2】特開2001−39006号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、記録物の光沢度を表す指標として、記録物上での反射像の鮮鋭性を示す「写像性」と、記録物上での反射像の明るさを示す「鏡面光沢度」がよく用いられている。銀塩写真やオフセット印刷並みの高光沢を実現するには、写像性と鏡面光沢度の両方が高いことが望ましい。
【0007】
鏡面光沢度は、記録物表面の材料の屈折率で決まる反射率や表面粗さが支配的であり、樹脂のような高屈折率材料を記録物表面に付与すれば、向上させることが可能である。一方、写像性は記録物表面の平滑性が支配的であり、顔料インク記録物では、記録物表面に出来る凹凸を平滑にすることで向上させることができる。
【0008】
特許文献1は、元々光沢感を均一にすることを目的としたクリアインクの付与方法を開示したものであり、不均一な光沢感による画像の違和感を改善する効果は高い。しかし、光沢感を均一にするものの光沢自体を高くするものではなく、そのため、銀塩写真やオフセット印刷のような高光沢を実現することは困難である。
【0009】
特許文献2に記載の技術は、記録物の被覆層として樹脂を用いることで鏡面光沢度を向上させることはできる。しかしながら、特許文献2に記載のように、トップコート液ないしクリアインクを単に記録物上に付与する構成では、記録物表面の凹凸を平滑にすることができない場合がある。この場合は、写像性を向上させることはできず、従って、高い光沢を実現することは困難となる。
【0010】
すなわち、顔料インクによる記録物上では、付与されている顔料インクの種類や濃度によって、クリアインクの浸透速度が異なる。このようにクリアインクの浸透速度にムラがある場合、クリアインクの樹脂は、浸透速度が速い方に流れ込み堆積するため、クリアインク樹脂の堆積量にもムラを生じる。このように、クリアインクを単に付与するだけでは、その堆積量のムラを生じ結果としてクリアインクを付与しても記録物表面が凹凸となる場合がある。
【0011】
本発明の目的は、顔料インクによる記録物の光沢性、特に写像性を向上させることが可能なインクジェット記録装置およびインクジェット記録方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
そのために本発明では、着色剤として顔料を含有する顔料インクと、着色剤を含まないクリアインクを吐出する記録ヘッド用いて、該記録ヘッドから記録媒体にインクを吐出して記録を行うインクジェット記録装置であって、記録ヘッドから記録媒体に顔料インクを吐出して画像を記録する記録手段と、前記記録手段によって記録が行われた、記録媒体における前記画像の少なくとも一部の領域に、記録ヘッドからクリアインクを吐出することによって当該少なくとも一部の領域にクリアインクを付与する第1付与手段と、前記第1付与手段によるクリアインクの付与の後に、前記第1付与手段によってクリアインクが付与された領域に記録ヘッドからクリアインクを吐出して当該領域にクリアインクを付与する第2付与手段と、を具え、前記第1および第2付与手段によるクリアインクの付与が少なくとも1回ずつ行われることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
以上の構成によれば、1回目に付与されたクリアインクが皮膜化したあとにその表面に2回目のクリアインクの付与が行われる。これにより、2回目のクリアインクは浸透速度がほぼ均一の浸透をして定着する。この結果、2回目に付与されるクリアインクは浸透速度に差が無いことから凹凸を生じることがなく、平滑な記録物表面を形成することができる。これにより、記録物の光沢感、特に写像性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の原理を説明する為の図である。
【図2】クリアインクの記録物上での表面被覆率と写像性の関係を示す図である。
【図3】1段階目のクリアインクと2段階目のクリアインクとの付与時間差と写像性の関係を示す図である。
【図4】本発明の実施形態で使用可能なラインヘッド型インクジェット記録装置の記録部の概要を示す斜視図である。
【図5】本発明の実施形態で使用可能なシリアル型インクジェット記録装置の記録部の概要を示す斜視図である。
【図6】本発明の実施形態で使用可能な記録ヘッドを吐出面から観察した場合の概略図である。
【図7】本発明の実施形態で使用可能な記録ヘッドにおけるマルチパスのノズルブロックを説明する図である。
【図8】本発明の実施形態に係る、カラーインクによる記録と2段階のクリアインク付与を行う第1の方法の記録動作を示すフローチャートである。
【図9】本発明の実施形態に係る、カラーインクによる記録と2段階のクリアインク付与を行う第2の方法の記録動作を示すフローチャートである。
【図10】本発明の実施形態に係る、カラーインクによる記録と2段階のクリアインク付与を行う第3の方法の記録動作を示すフローチャートである。
【図11】図10に示した方法における11パスのマルチパス記録の複数回の走査で記録を完成する領域の幅に対応したノズルブロックを示す図である。
【図12】インクジェット記録装置の制御系の構成を示すブロック図である。
【図13】本発明の実施形態と比較例の鏡面光沢度および写像性の計測結果を説明する為の図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0016】
本発明の実施形態は、画像を記録するための顔料インクと着色剤を含まないクリアインクを用いる。顔料インクは有色顔料を含有したカラーインクである。モノカラーでもよいが、シアン、マゼンタ、イエローあるいはブラックなど複数の種類が用意されていてもよい。クリアインクは、ビニル樹脂(スチレンアクリル系樹脂、酸価170)を水に溶解し、有機溶剤、界面活性剤を含有させた無色のインクである。
【0017】
本発明は、前述したように、クリアインクを単に付与する場合には、それによって記録物の平滑性を得られない場合があるという問題を解決するものである。この問題は、より詳しくは以下のように説明することができる。
【0018】
例えば、隣接する2つの領域A、Bのうち、領域Aの顔料インク層の厚さが領域Bの顔料インク層の厚さと比べて厚く、かつ領域Aの顔料インク層へのクリアインクの浸透速度の方が領域Bと比べて速い場合、クリアインク樹脂は領域Aに多く堆積する。その結果、元々顔料インク層が厚かった領域Aは更に厚みを増し、記録物表面の凹凸は増加することになる。一方、領域Aの顔料インク層の厚さが領域Bの顔料インク層の厚さと比べて薄く、かつ領域Aの顔料インク層へのクリアインクの浸透速度の方が領域Bと比べて速い場合、この場合もクリアインク樹脂は領域Aに多く堆積する。しかし、元々顔料インク層が薄かった領域Aは厚みを増すことで領域Bとの凹凸を低減することになる。
【0019】
一般的に、顔料インク層の膜厚は主にインクに含まれる固形分量で決まり、クリアインクの浸透速度は顔料インク層にできる細孔の大きさと表面エネルギーによって決まる。何れも材料の物性に依る所が大きく、色ごとに材料が異なる顔料インクでは、色ごとに堆積する膜厚やクリアインクの浸透速度が異なる。結果として、付与されたクリアインクは、顔料インク層の膜厚やクリアインクの浸透速度によっては、凹凸を増加させたり、減少させたりすることになる。つまり、クリアインクの付与によって必ずしも平滑な表面を得ることができない場合がある。このように、様々な種類もしくは色の顔料インクによって構成される、写真などの記録物上にクリアインクを付与すると、一部では凹凸を低減し、一部では凹凸が増大するなど、結果的に記録物表面の凹凸を生じ、平滑な表面を得ることができない場合がある。
【0020】
図1(a)〜(d)は、上述の問題を解決する本発明の原理を説明するための模式図である。上述したように、顔料インクによる記録物では、顔料インクの種類ごとに膜厚やクリアインクの浸透速度が異なることがある。図1(a)において、901は膜厚が厚く、クリアインクの浸透が速い顔料インク、902は膜厚が薄く、クリアインクの浸透が遅い顔料インクをそれぞれ示す。これらのインク層の上にクリアインク903を付与すると、顔料インクに対する浸透速度の差によって、クリアインクの樹脂は偏って堆積する。図1(b)はこの状態を示す。同図に示すように、基本的には、クリアインクの浸透が速い部分には多くの樹脂が、浸透が遅い部分には少ない樹脂が堆積する。このように、顔料インク層においてクリアインクの浸透速度差が生じると、クリアインク付与によって凹凸を生じる場合がある。この場合、記録物表面が平滑にならないため、光沢感、特に写像性を向上させることができない。
【0021】
一方、図1(c)は、一度クリアインクを付与して形成されたクリアインクの層904の上に、さらにクリアインクを付与したときの、記録物におけるクリアインクの浸透速度の分布を示す図である。同図に示すように、一度クリアインクが付与された後に2度目に付与されるクリアインクの浸透速度は遅くなるとともに、記録物においてほぼ均一な速度となる。すなわち、クリアインクに用いられる樹脂(溶解性樹脂など)は顔料のように大きな粒子ではないため、1回目に付与されたクリアインクが皮膜化すると細孔の殆ど無い、溶液が浸透し難い膜となる。そして、一度皮膜化したクリアインク表面に2回目のクリアインクを付与すると、そのクリアインクは浸透速度がほぼ均一の浸透をして定着する。この結果、2回目に付与されるクリアインクは浸透速度に差が無いことから凹凸を生じることがなく、図1(d)に示す平滑な記録物表面を形成することができる。これにより、記録物の光沢感、特に写像性を向上させることができる。
【0022】
(付与工程ごとの機能)
本発明は、以上説明したように、クリアインクの付与工程が2段階であることを特徴とする。1段階目の付与は、記録物表面の光沢を得たい領域にクリアインクの皮膜を形成し、クリアインクの記録物への浸透速度を均一化させる役割を果たす。2段階目の付与は、1段階目の付与工程でクリアインクを付与した領域に再度クリアインクを付与する工程であり、記録物表面を平滑化させる役割を果たす。
【0023】
1段階目の付与工程では、記録物表面の光沢を得たい領域にクリアインクを隙間無く付与させる。クリアインク付与後、浸透乾燥しクリアインクが定着することで、記録物表面の光沢を得たい領域にはクリアインクの皮膜が形成される。このとき、クリアインク樹脂は、記録物表面のクリアインクの浸透ムラに従い、凹凸を生じる場合がある。そのため、この1段階目の付与工程では光沢度が向上しない場合が多い。一方で、クリアインク皮膜が記録物上の光沢を得たい領域を覆うことにより、この領域における、次に付与される溶液(クリアインク)の浸透は一律に遅くなり、溶液の浸透速度のムラは殆ど無くなる。以上のように、1段階目の付与工程は、記録物表面の光沢を得たい領域における溶液の浸透速度のムラを無くす役割を果たしている。
【0024】
1段階目の付与工程(第1付与工程)は、上述のとおりクリアインクを隙間無く付与することが望ましい。隙間が空くと、その部分の浸透速度が他と異なることになり、浸透速度を均一にする目的が達成されない。但し、ここで言う「隙間が無い」状態は、微小な隙間が多少あってもよい。具体的には、記録物表面の光沢を得たい領域に対して略均等に80%以上の面積をクリアインク樹脂が被覆していれば問題は無い。「略均等」とは、隙間の分布に著しい偏りが無い状態を意味し、実験によれば、10箇所の被覆率計測の標準偏差σが10%以下の偏りであることをしめすものである。
【0025】
図2は、記録物表面のクリアインク樹脂の被覆率と、光沢度の指標の1つである写像性の関係を示す図である。すなわち、図2は、1回目の付与によるクリアインクによって形成される樹脂層の被覆率と、この被覆率の樹脂層の上に2回目のクリアインクを付与することによって実現される写像性との関係を示している。なお、写像性の計測方法や記録物の作成方法に関しては後述する。また、図2に示す例では、顔料インクとしてキヤノン(株)のPFC−103BKを使用し、この顔料インクを75%の記録デューティーで記録したものを記録物として使用している。ここで、「記録デューティー」は、具体的には、上記のように顔料インクで記録をするときは、その顔料インクの画像データによって定まるものである。例えば、画像データが8ビットで構成される場合、「255」の値の画像データそれぞれに基づいて記録を行うときその記録デューティーを100%とすることができる。この例では、記録デューティーが75%とは約「191」の値の画像データに対応する。この説明は、以下のクリアインクの記録デューティーについても同様である。
【0026】
図2から明らかなように、被覆率が80%以上のとき光沢度を向上させる効果が得られる。つまり、20%程度の隙間に凹凸が生じても、その他の部分が被覆できていれば光沢度を向上させる効果がある。
【0027】
クリアインク樹脂の被覆率の計測には光学顕微鏡を用いる。まず、1段階目のクリアインク付与後の記録物を光学顕微鏡にて撮影する。この計測では、10倍の対物レンズの光学顕微鏡と120万画素のデジタルカメラを用いて撮影を行った。クリアインクが被覆している部分では、クリアインク樹脂の薄膜が堆積しているので、薄膜干渉により色味が変化して見える。この薄膜干渉により変化した色と変化していない色を画像処理ソフト等によって2つの領域に分け、各領域の面積を算出し、クリアインク樹脂の被覆率とする。
【0028】
2段階目の付与工程(第2付与工程)では、1段階目の付与工程でクリアインク層が形成されることによって浸透速度のムラが無くなった領域に対して、クリアインクを付与する。この付与も、1段階目で付与された領域に対して略均等に80%以上の面積をクリアインク樹脂が被覆するものである。
【0029】
2段階目の付与工程は、1段階目の付与工程によるクリアインクが皮膜化されていることが望ましい。皮膜化は、クリアインクの溶剤が記録物へ浸透または乾燥し除かれることによって進行する。最も簡単な皮膜化の方法は、1段階目の付与工程の後に一定時間おくことにより乾燥させる方法である。皮膜化に必要な時間はクリアインクの材料や顔料インクの記録物の種類によって異なる。皮膜化の時間は、1段階目と2段階目の付与工程間の時間を種々変えて、それによる写像性の変化を計測することによって求めることができる。
【0030】
図3は、1段階目の付与と2段階目の付与の間の時間と、写像性との関係を示す図である。この例では、顔料インクとしてキヤノン(株)のPFC−101Cを使用し、75%デューティーで記録したものを記録物として用いている。図3から分かるように、1段階目と2段階目の付与工程間の時間を約4秒以上空けることにより、写像性の向上効果が得られる。つまり、1段階目の付与工程でクリアインクが皮膜化するのに約4秒以上をかかるということである。皮膜化の方法には、この他にヒータを用いて乾燥を促進させる方法等もある。
【0031】
なお、各付与工程は、その役割を果たすために、複数回実施してもよい。例えば、クリアインクに使用する材料によっては、1段階目の付与を1回行っただけでは、クリアインク皮膜が薄く、浸透ムラの低減効果が小さい場合も考えられる。この場合、1段階目の付与工程を2回またはそれ以上行うことが望ましい。同じように、2段階目の付与も、クリアインク材料によっては、1回行っただけでは記録物表面の凹凸が低減するものの、まだ凹凸が残る場合も考えられる。その場合は、2段階目の付与工程を2回またはそれ以上行うことが望ましい。
【0032】
(ラインヘッド型インクジェット記録装置の実施形態)
図4は、上述した顔料インクの記録およびその後の複数段階のクリアインクの記録を行うことができるラインヘッド型のインクジェット記録装置の概要を示す斜視図である。記録媒体Pは給紙モータを駆動力源とした不図示の給送部によって搬送路上に給紙される。この搬送路に沿って、搬送ローラ301とこれに従動するピンチローラ302、および搬送路においてより下流側の排紙ローラ307とこれに従動する拍車308が設けられている。給紙された記録媒体Pは、上記搬送ローラの対と上記排紙ローラの対によって図中の搬送方向に搬送される。プラテン303は、上記2つの対のローラ間で、記録ヘッド304、305、306の吐出口が形成された面(吐出面)と対向する記録位置に設けられる。これにより、搬送される記録媒体Pを裏面から支持し記録媒体Pと記録ヘッド304、305、306それぞれの吐出面との距離を一定に維持することができる。プラテン303上の記録部で記録ヘッドからのインクおよびクリアインクの吐出によって記録が行われた記録媒体Pは、排紙ローラ307と拍車308の対によって搬送方向に搬送され、不図示の排紙トレイに排出される。
【0033】
記録ヘッド304、305、306は記録媒体Pの幅と同等またはそれ以上の範囲にわたって吐出口を配列した、いわゆるフルラインタイプの記録ヘッドであり、1度の記録媒体Pの搬送でその全面に記録を行うことができる。記録ヘッド304は、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、ブラック(K)のインクをそれぞれ吐出する記録ヘッドである。また、記録媒体Pの搬送方向下流側には、クリアインクを吐出する同様の2つのフルラインタイプの記録ヘッド305、306が設けられている。
【0034】
この記録ヘッドの配置によって、搬送される記録媒体Pに対し、記録データに従い記録ヘッド304からC、M、Y、Kのインクが吐出されることにより画像が記録される。この記録媒体上の画像は搬送によって記録ヘッド305、306に順次対向し、その画像に対してクリアインクが吐出される。すなわち、記録ヘッド305により、クリアインクの1段階目の付与工程が行われる。その後、記録ヘッド306により、クリアインクの2段階目の付与工程が行われる。ここで、記録ヘッド305と記録ヘッド306の搬送方向における間隔は、1段階目の付与工程で付与されたクリアインクが、上述した皮膜化する時間に相当する距離が開いている。これによって、記録媒体Pは一定速度で搬送されながら、C、M、Y、Kインクによる記録工程、クリアインクによる1段階目の付与工程、クリアインクの皮膜化、クリアインクによる2段階目の付与工程を順に実行さすることができる。なお、記録ヘッド305のノズル列(第1のノズル列)と記録ヘッド306のノズル列(第2のノズル列)との間に皮膜化を促進する機構としてヒータを配置し、これにより、2つの記録ヘッドの距離を縮めても良い。
【0035】
(シリアル型インクジェット記録装置の実施形態)
本発明に係る記録方法を実現する別の形態として、シリアルタイプのインクジェット記録装置を用いることもできる。図5は、シリアルタイプのインクジェット記録装置の概要を示す斜視図である。記録媒体Pは、給紙モータを駆動源とした不図示の自動給送部によって搬送経路上に配置された搬送ローラ401とこれに従動するピンチローラ402とのニップ部に給送される。その後、搬送ローラ401の対と、排紙ローラ405とピンチローラ406との対によって、図に示す副走査方向(搬送方向)に間欠的に搬送される。プラテン403は、記録ヘッド404の吐出面と対向する搬送路に沿って設けられ、これにより、記録媒体Pを裏面側から支持し、記録媒体Pと記録ヘッド404の吐出面との距離を一定に維持することができる。プラテン403上の記録部において記録が行われた記録媒体Pは、排紙ローラ405とピンチローラ406との対によって副走査方向に搬送され、不図示の排紙トレイに排出される。
【0036】
記録ヘッド404は、キャリッジ408に着脱可能に搭載されている。キャリッジ408は、キャリッジモータの駆動力により2本のガイドレール409及び410に沿って主走査方向に往復移動することができ、その移動の過程で記録ヘッド404から記録データに従ってインクまたはクリアインクを吐出して記録を行う。このような記録ヘッド404による記録走査と、記録媒体の搬送動作とを交互に繰り返すことにより、記録媒体Pに段階的に画像が形成されて行く。
【0037】
図6は、記録ヘッド404を吐出面側から見た図である。図6において、502は、C、M、Y、Kそれぞれのカラー顔料を含有する顔料インクを吐出するためのノズル(吐出口)列であり、503は無彩色のクリアインクを吐出するためのノズル列である。各ノズル列の副走査方向の幅はdであり、1回の走査によって記録媒体に幅dの記録を行うことができる。各ノズル列において、インクまたはクリアインクを滴として吐出するためのノズル501が、副走査方向に所定のピッチで配列している。
【0038】
本実施形態の記録装置はマルチパス記録を実行するモードを有している。マルチパス記録は、記録ヘッド404の記録走査の間に上記幅dよりも短い幅の記録媒体Pの搬送を行うことによって、この短い幅の記録領域に対して記録ヘッドの複数回の走査を行うものである。これにより、この領域に対する各走査で異なるノズルを対応付けて記録を行うことができ、個々のノズルのばらつきに起因する濃度むらやスジを低減することが可能となる。一般に、M回の記録走査によって画像を完成させるMパス記録であれば、各記録走査の間にはd/Mの幅の搬送動作が行われる。以後、このようなマルチパス記録において、同じ記録走査によって画像が完成される幅d/Mを有する画像領域を、同一画像領域と称する。主に顔料インクを用いた記録工程ではマルチパス記録を用いる。一方、1段階目および2段階目のクリアインクの付与は画像を形成する目的ではないので、必ずしもマルチパス記録を用いる必要は無い。
【0039】
本実施形態では、クリアインクを付与するモードと、クリアインクを付与しないモードがあり、それらの間で異なる記録方法を用いる。クリアインクを付与しないモードについて、図6と同様の図である図7を参照して説明する。このモードでは、カラーの顔料インクを吐出するためのノズル列502とクリアインクを吐出するための503のうち、クリアインクのノズル列503は使用せず、ノズル列502のみを用いてマルチパス記録を行う。図7は、9パスのマルチパス記録を行う場合の、上述の記録媒体の搬送量d/9に対応したノズルブロックを示している。
【0040】
クリアインクを付与するモードでは、以下に示すような3つの記録方法のいずれかを用いることができる。
【0041】
1つ目の方法は、カラーインクによる記録工程完了後に、1段階目のクリアインク付与を行い、その完了後に2段階目のクリアインク付与を順次行うものである。
【0042】
図8は、この記録動作を示すフローチャートである。図8において、先ず、記録工程1101で、カラーインクのノズル列502でマルチパス記録を用い、所定量、例えば1ページ分の画像を記録する。この際、クリアインクのノズル列503は使用しない。このマルチパス記録では、走査と走査の間の1回の記録媒体搬送では図7に示す幅d/9に相当する距離だけ搬送を行う。これにより、この幅d/9の同一画像領域は、9回の走査でノズル列502の第1ブロックから第9ブロックまでが順次対応付けられてそれぞれのノズルによって記録が完成する。次に、1段階目の付与工程1102では、上記のように記録工程を完了した後、搬送ローラ401および排紙ローラ405を逆回転させ、記録媒体Pを副走査方向とは逆方向に間欠的に搬送する。そして、この搬送の間にノズル列503を用いて、記録工程で記録した画像に対して、1段階目のクリアインクを吐出してクリアインクの付与を行う。このときの記録媒体の搬送量はノズル列503のノズル配列範囲の幅dとすることができる。1段階目のクリアインク付与が完了した後、クリアインクの皮膜化の時間が必要な場合は待ち時間を設ける。しかし、一般的にシリアル型インクジェットプリンタでは、キャリッジの主走査方向の移動や、記録媒体Pの搬送方向の逆転に数秒かかるため、待ち時間は無くても済む場合が多い。いずれにしろ、皮膜化のための時間を確保した後、2段階目の付与工程1103では、搬送ローラ401および排紙ローラ405を正方向に回転させて記録媒体Pを副走査方向に間欠的に搬送する。そして、この搬送の間にノズル列503を用いて2段階目のクリアインク付与を行う。このときの記録媒体の搬送量も、ノズル列503のノズル配列範囲の幅dとすることができる。以上の工程によって記録物が完成する。なお、記録媒体Pを副走査方向とは逆に搬送しながら1段階目のクリアインクを付与したが、記録工程完了後、記録媒体Pを再度給紙させ、副走査方向に搬送する通常の記録方法でクリアインクを付与しても構わない。
【0043】
2つ目の方法は、1回の副走査方向への搬送で記録工程と1段階目のクリアインク付与を完了し、その完了後に2段階目のクリアインク付与を行うものである。
【0044】
図9は、この記録動作を示すフローチャートである。図9において、記録工程および1段階目の付与工程1201では、記録ヘッドの複数回の記録走査によりマルチパスを記録する際に、所定回数の記録走査で顔料インクによる記録工程を行い、前記所定回数の記録走査の後にクリアインクの1段階目の付与工程を行う。具体的には、9パスのマルチパス記録を実行し、同一画像領域に対する1〜8回目の記録走査で顔料インクによる記録工程を行い、9回目の記録走査で1段階目のクリアインク付与工程を行う。9パスのマルチパス記録の場合、それぞれノズル列は、図7に示すように第1〜9のブロックに分割して用いられる。そして、1回の記録走査が行われるごとに副走査方向にd/9ずつ搬送される記録媒体の同一画像領域には、ノズル列502の第1〜第8のブロックによる1回目〜8回目の記録走査と、ノズル列503の第9ブロックによる9回目の記録走査によって記録が行われる。ここで、クリアインクの皮膜化の時間が必要な場合は待ち時間を設けるが、前述したように無くても済む場合も多い。
【0045】
この皮膜化の後、2段階目の付与工程1202では、搬送ローラ401および排紙ローラ405を逆回転させ、記録媒体Pを副走査方向とは逆方向に搬送しながらノズル列503を用いて2段階目のクリアインク付与を行う。このときの記録媒体の搬送量も、ノズル列503のノズル配列範囲の幅dとすることができる。なお、記録媒体Pを副走査方向とは逆方向に搬送しながら2段階目のクリアインクを付与したが、記録工程完了後、記録媒体Pを再度給紙させ、副走査方向に搬送する通常の記録方法でクリアインクを付与してもよい。
【0046】
3つ目の方法は、1回の副走査方向への搬送で、記録工程と1段階目のクリアインク付与、および2段階目のクリアインク付与を行うものである。
【0047】
図10は、この記録動作を示すフローチャートである。また、図11は、本方法における11パスのマルチパス記録の複数回の走査で記録を完成する領域の幅d/11に対応したノズルブロックを示す図である。本方法では、複数回の記録走査によりマルチパス記録を行う際に、所定回数の記録走査で顔料インクによる記録工程(図10における1301)を行い、前記所定回数の記録走査の後にクリアインクの1段階目の付与工程(図10における1302)を行う。必要に応じてクリアインクの皮膜化の時間を得るための何も付与しない走査(図10における1303)を行い、最後の記録走査でクリアインクの2段階目の付与工程(図10における1304)を行う。より具体的には、11パスのマルチパス記録を実行する。その際、同一画像領域に対する1〜8回目の記録走査で顔料インクによる記録工程を行う(1301)。さらに、9回目の記録走査で1段階目のクリアインク付与工程を行う(1302)。そして、10回目の記録走査ではクリアインク皮膜化の時間を得るためにインクを吐出しない工程とし(1303:以下、乾燥工程とする)、11回目の記録走査で2段階目のクリアインク付与工程を行う(1304)。11パスのマルチパス記録の場合、それぞれのノズル列は、図11に示すように第1〜11のブロックに分割して用いる。そして、1回の記録走査が行われるごとに副走査方向にd/11ずつ搬送される記録媒体の同一画像領域には、ノズル702の第1〜第8のブロックによる1回目〜8回目の記録走査と、ノズル703の第9ブロックによる9回目の記録走査が行われる。また、10回目の走査で、第10ブロックは総てのノズル列がインクまたはクリアインクの吐出を行わず、ノズル703の第11ブロックによる11回目の記録走査が行われ、画像が記録される。クリアインクの皮膜化のための時間が1回の走査時間内で済む場合には乾燥工程は必要ない。その場合は10パスのマルチパス記録となる。逆に、クリアインクの皮膜化のための時間が2回の走査時間を超える場合は、乾燥工程を2パス分以上用意することが望ましい。
【0048】
(インクジェット記録装置の制御系の構成)
図10は、上述した本実施形態に係るインクジェット記録装置の制御系の構成を示すブロック図である。図において、31は画像データ入力部を示し、スキャナやデジタルカメラ等から入力された画像データや、パーソナルコンピュータのハードディスク等に保存されている画像データを入力する。本実施形態では、ここで画像上の位置と光沢度(高光沢にする/しないの2値データ)を示す光沢度データも併せて入力する。光沢度データの入力方法は主に2種類ある。1つはユーザに、画像データと共に光沢度データを作らせ、併せて画像データ入力部に入力させる方法である。もう1つはユーザに、画質として、通常光沢、高光沢を選択させ、高光沢選択時は予め用意しておいた画像全面を高光沢にする旨のデータを光沢度データとして画像データ入力部に入力する方法である。この場合、通常光沢選択時は予め用意しておいた画像全面を高光沢にしないというデータを光沢度データとして画像データ入力部に入力する。32は操作部を示し、オペレータが各種パラメータの設定および記録の開始等を指示するための各種キーを備えている。33は中央処理装置であるCPUを示し、CPU33は、図8〜図10にて上述した処理などを、記憶媒体34から読み出したプログラムに従って制御を行う。
【0049】
記憶媒体34には、ROM、FD、CD―ROM、HD、メモリカードおよび光磁気ディスクなどを適用することができる。記憶媒体34に格納される記憶内容としては、記録媒体の種類に関する情報34a、インクに関する情報34bが含まれる。また、不良ノズルの有無および位置に関する情報34c、記録時の温度や湿度などの環境に関する情報34d、および各種の制御プログラム34eなども含まれる。35はRAMを示し、記憶媒体34に格納された各種プログラムを実行する際のワークエリアとして、またエラー処理時における所要データの一時退避エリアとして利用される。前述した画像全面を高光沢にする/しないという光沢度データもここに格納される。更にRAM35には、記憶媒体34に格納された各種データを一時コピーしておくこともできる。CPU33は、記憶媒体34内におけるこのコピー済みのデータ内容を変更したり、更に変更後のデータを参照しながら画像処理を進めることもできる。
【0050】
36は画像データ処理部を示す。この画像データ処理部36は、画像データ入力部31から入力された多値の画像データを、記録ヘッドが記録可能なより低レベル値の吐出データに変換する量子化処理等を行う。例えば、画像データ入力部31から入力されてきたデータが、8bit(256階調)×3色(RGB)で表現される多値画像データであった場合に、画像データ処理部36においてはまずこれを4枚(C、M、Y、K)のグレースケールデータに分解する処理を行う。次に、分解された各色のグレースケールデータに基づいて、対応する記録ヘッドが記録可能なドット配置データに変換する。ここで、記録ヘッドが吐出と不吐出の2つの情報でのみ記録可能な場合は、記録及び非記録のどちらか一方に定義付けされたパターンに従って、データを2値に変換する。また、記録ヘッドが複数段階に分けて吐出量の制御が可能である場合には、記録可能な段階数までデータ値を低減する。このとき、適用される減色の方法としては、一般的に知られている多値誤差拡散法を用いてもよい。またこの他にも平均濃度保存法やディザマトリックス法等、任意の中間調処理方法を適用することができる。光沢度データに関しては、画像上の位置と,高光沢にする/しないの2値データに従い、対応する記録ヘッドが記録可能なドット配置データに変換する。変換手段は画像データと同様であるが、高光沢にする部分では、クリアインクの付与量を前述したように、光沢を得たい領域に対して80%以上の面積をクリアインク樹脂が被覆する量となるようにドット配置データを作成する。すなわち、記録デューティーが80%となる画像データを設定し、それに基づき上記ドット配置データを作成する。なお、高光沢にしない部分に関してはドット配置をなしとするデータとする。
【0051】
上記構成のうちシリアル型インクジェット記録装置を用いてマルチパス記録を行う場合や記録ヘッドが同一色のノズル列を複数有する場合には、画像データ処理部36において、これらの走査ないしノズル列に画像を分割する処理が行われる。すなわち、マルチパス記録の場合には複数の記録走査に、複数ノズルを有する場合にはそのノズル列に、吐出を分散する。その方法は、前記グレースケールデータを作成する際により多くの(濃度の低い)データに分割する場合や、前記ドット配置データに対してパス毎・ノズル列毎に定めたマスクを積算する方法などがある。
【0052】
37は画像出力を行う画像記録部を示し、画像データ処理部36で作成された吐出パターンに従って記録ヘッドを駆動するためのパルスを発生し、記録ヘッドの吐出口からインクを吐出させる。38は各種データを転送するバスを示し、記録装置内のアドレス信号、データおよび制御信号などを伝送する。
【0053】
(実施例)
以下、上述した構成のうちシリアル型インクジェット記録装置を用いた1つ目のクリアインク付与方法で出力した記録物について、光沢性を検証する為の検討内容と結果を説明する。
【0054】
先ず、クリアインクは,下記組成にて調合した後、水酸化カリウム溶液でpHが9となるように調整したものを用いた。
【0055】
・スチレンアクリル系樹脂(酸価170) 4部
・グリセリン 7.5部
・界面活性剤(アセチレノール) 1部
・界面活性剤(BYK333) 1部
・純水 残部
【0056】
また、顔料インクにはキヤノン(株)のPFI−101C(以下、シアン)、PFI−101M(以下、マゼンタ)、PFI−101Y(以下、イエロー)、PFI−103BK(以下、ブラック)を使用した。記録装置は、キヤノン(株)のインクジェットプリンタiPF−5100を使用し、記録時の解像度は副走査方向を1200dpi(ドット/インチ)、主走査方向を2400dpiに設定した。更に、記録媒体はキヤノン(株)のLFM−GP101Rを用いた。インクの1滴当たりの体積は4.8ピコリットルである。
【0057】
光沢度の評価には以下の2種類の方法を用いた。鏡面光沢度は(株)村上色彩技術研究所製のGMX−203を用い20度光沢値を鏡面光沢度とした。20度光沢度の値が高い程、鏡面光沢度が高いことを意味する。
【0058】
写像性に関しては、QEA社製のDIAS DOI Image Analysis Systemを用い、計測したシャープネスの値を写像性の値とした。シャープネス値は以下の様に定義される。白色LEDを光源とし、光源と計測サンプル間にナイフエッジがあり、サンプルに映るナイフエッジの反射像をCCDカメラ(30万画素:1画素あたり5μm)で撮影する。画素視野は2.4mm角である。この反射像のナイフエッジ部分の輝度分布を一次微分し、その半値幅の逆数をSharpness値と定義する。従って、Sharpness値は大きい程、鮮鋭な反射像が得られていることになり、写像性が高いことを意味する。
【0059】
図13(a)〜(d)は、本実施形態と比較例の光沢度計測の結果を説明するための図である。図13(a)に示す比較例Aは、クリアインクを用いず、顔料インクのみを使用してブラック、シアン、イエロー、マゼンタの75%デューティーの記録物と、2次色レッド(イエロー+マゼンタ)、2次色グリーン(シアン+イエロー)、2次色ブルー(シアン+マゼンタ)の120%デューティー(各色60%デューティー)の記録物それぞれの光沢度を示している。図において、横軸は写像性、縦軸は鏡面光沢度を示している。プロットされた数値は記録物の色に対応しており、(1)ブラック、(2)イエロー、(3)マゼンタ、(4)シアン、(5)2次色レッド、(6)2次色グリーン、(7)2次色ブルーである。
【0060】
図13(b)に示す比較例Bは、比較例Aに対してクリアインクを50%デューティーで付与した記録物の光沢度を示している。図13(c)に示す比較例Cは、比較例Aに対してクリアインクを100%デューティーで付与した記録物の光沢度である。図13(d)に示す本実施形態Dは、比較例Aに対して本実施形態の記録方法でクリアインクを記録した記録物の光沢度である。このとき、1段階目のクリアインク付与、2段階目のクリアインク付与の両方とも50%記録デューティーで付与したものである。
なお、「デューティー」とは、デューティー(%)=実記録ドット数/(縦画素数×横画素数)×100の式で算出される値である。式中、「実記録ドット数」は、単位領域あたりの実記録ドット数である。また「縦画素数」及び「横画素数」はそれぞれ単位領域あたりの縦画素数及び横画素数である。
【0061】
図13(a)〜(d)からも分かるように、クリアインクを用いていない比較例Aでは、写像性も、鏡面光沢度も低く、また、色毎にばらつきが大きいことが分かる。比較例Bでは、クリアインク付与によって写像性も、鏡面光沢度も比較例Aと比べて向上している。但し、その効果は小さく、色毎のばらつきも大きい。比較例Cは比較例Bの倍のクリアインクを付与しているが、比較例Bと比べてその差が殆ど無い。よって、クリアインクの付与量を増やしても、記録物上の凹凸を低減させる効果は変わらないということである。これは、クリアインクを幾ら付与しても、顔料インク記録物上の浸透速度ムラは変わらないため、浸透速度ムラによる凹凸は付与量に依らず生じてしまうためである。これらに対し、本実施形態の記録方法を採用したDでは、写像性、鏡面光沢度ともに高く、色毎のばらつきも小さい。クリアインクの総合付与量としては比較例Cと同じであるが、Dでは1段階目のクリアインクと2段階目のクリアインクが其々の効果を充分に発揮し、高光沢が実現出来ている。
【0062】
以上説明したように、本実施形態の記録方法によれば、1段階目のクリアインク付与によって記録物表面の浸透速度ムラを低減させ、2段階目のクリアインク付与で記録物上の凹凸を低減でき、鏡面光沢度、写像性の両方を向上させることが可能となる。
【0063】
(その他の実施形態)
以上説明した実施形態では、記録物の光沢を得ることを目的としているが、本発明は記録物上の任意の場所を部分的に高光沢にする付加価値印刷にも有効である。低光沢な顔料インク記録物上に、本発明を用いて絵や文字を記録するとその部分だけ高光沢となり強調することができる。例えば、写真が含まれる文書の写真部分のみを高光沢にする、商品のポスターの商品部分のみ高光沢にする、記録物上に「複写禁止」のような文字を潜像として記録するといった使い方ができる。このような付加価値印刷は電子写真等では既に実用化されているが、顔料インクで記録するインクジェット記録装置では記録物の状態(付与されている顔料インク)に依らず、高光沢を実現する手段が無かったため実用化されていない。本手法を用いる事で、電子写真と比べ安価に付加価値印刷を行う事ができる。
【符号の説明】
【0064】
33 CPU
36 画像でータ処理部
304、305、306 記録ヘッド
502 カラー顔料を含有する顔料インクを吐出するためのノズル列
503 クリアインクを吐出するためのノズル列

【特許請求の範囲】
【請求項1】
着色剤として顔料を含有する顔料インクと、着色剤を含まないクリアインクを吐出する記録ヘッドを用いて、該記録ヘッドから記録媒体にインクを吐出して記録を行うインクジェット記録装置であって、
記録ヘッドから記録媒体に顔料インクを吐出して画像を記録する記録手段と、
前記記録手段によって記録が行われた、記録媒体における前記画像の少なくとも一部の領域に、記録ヘッドからクリアインクを吐出することによって当該少なくとも一部の領域にクリアインクを付与する第1付与手段と、
前記第1付与手段によるクリアインクの付与の後に、前記第1付与手段によってクリアインクが付与された領域に記録ヘッドからクリアインクを吐出して当該領域にクリアインクを付与する第2付与手段と、
を具え、前記第1および第2付与手段によるクリアインクの付与が少なくとも1回ずつ行われることを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記第1付与手段は、付与するクリアインクが記録媒体の前記画像の少なくとも一部の領域の80%以上の面積を覆う付与量で付与を行い、前記第2付与手段は、付与するクリアインクが、前記クリアインクが付与された領域の80%以上の面積を覆う付与量で付与を行うことを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記第1付与手段によるクリアインクの付与の後、付与されたクリアインクを皮膜化する皮膜化手段をさらに具えたことを特徴とする請求項1または2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記記録ヘッドは、
搬送される記録媒体の幅に対応した範囲にノズルを配列した記録ヘッドであり、
記録媒体の搬送路に沿って、顔料インクを吐出するノズル列と、該ノズル列より当該搬送路の下流側に配されたクリアインクを吐出する第1のノズル列と、該第1のノズル列より当該搬送路の下流側に配された、クリアインクを皮膜化する皮膜化手段と、該皮膜化手段より当該搬送路の下流側に配されたクリアインクを吐出する第2のノズル列と、を有する
ことを特徴とする請求項1または2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
着色剤として顔料を含有する顔料インクと、着色剤を含まないクリアインクを吐出する記録ヘッドを用いて、該記録ヘッドから記録媒体にインクを吐出して記録を行うためのインクジェット記録方法であって、
記録ヘッドから記録媒体に顔料インクを吐出して画像を記録する記録工程と、
前記記録工程で記録が行われた、記録媒体における前記画像の少なくとも一部の領域に、記録ヘッドからクリアインクを吐出することによって当該少なくとも一部の領域にクリアインクを付与する第1付与工程と、
前記第1付与工程によるクリアインクの付与の後に、前記第1付与工程によってクリアインクが付与された領域に記録ヘッドからクリアインクを吐出して当該領域にクリアインクを付与する第2付与工程と、
を具え、前記第1および第2付与工程によるクリアインクの付与が少なくとも1回ずつ行われることを特徴とするインクジェット記録方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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