説明

インクジェット記録装置およびインクジェット記録方法

【課題】インクジェット記録装置において、記録ヘッドの吐出不良の原因となるインク流路内の気泡を、インク消費量を抑えつつ記録ヘッドの吐出不良の原因となる気泡を排除することができるようにする。
【解決手段】インクタンク内のインクは流路17及びフィルタ48を介して記録ヘッド22に供給される。流路17及び記録ヘッド22内に存在する気泡を、記録ヘッドの吐出口に負圧を付与することによって排出させる。このとき、インクタンクとフィルタとの間に設けた開閉弁を閉じた状態で第1の負圧を前記吐出口に付与した後、開閉弁を開いて吐出口からインクを排出させる。さらにその後、フィルタを気泡が通過できない第2の負圧を吐出口に付与して吐出口からフィルタより記録ヘッド側に存在する気泡をインクと共に排出させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクを吐出する吐出口を配列した記録ヘッドを用いて記録を行うインクジェット記録装置およびインクジェット記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクを収容するインクタンクからインク供給路を通して記録ヘッドにインクを供給し、記録ヘッドに配置されたノズルからインクを吐出して記録を行うインクジェット記録装置が知られている。このインクジェット記録装置では、インク供給路や記録ヘッド内などに気泡が溜まり、記録ヘッドにおいて吐出不良が発生する原因となることがある。
【0003】
この気泡を除去する方法の一つとして、キャッピング手段により記録ヘッドのノズルの吐出口の形成面を封止し、吸引ポンプからの負圧により吐出口からインクに混入している気泡をインクと共に吸引排出するクリーニング処理が行われる。
【0004】
一般に、記録ヘッドへのインク流路の途中には、インクタンクから供給されるインクに混入している異物の進入を防止するため、フィルタ部材が配置されている。このフィルタ部材の上流側(インクタンク側)のインク流路内の気泡は、クリーニング処理時に速いインクの流れを発生させることにより排出可能である。このように速いインクの流れを発生させるクリーニング処理として、チョーククリーニングというクリーニング処理が提案されている。
【0005】
チョーククリーニングでは、まず、キャッピング手段を介してインクの吸引を開始する際にインクタンクとフィルタとの間にある開閉弁(以下、チョーク弁)を閉じ、キャッピング手段内を所定の負圧にした後にチョーク弁を開くという操作を行う。これによれば、記録ヘッド内のインクの流速を瞬間的に高めることができ、フィルタ部材より上流側の気泡をフィルタ部材を通過させて外部へ排出することができる。
【0006】
しかし、上記のチョーク吸引を行った場合、キャッピング手段側に蓄積された負圧も流入するインクにより即座に低下するため、気泡を十分排除するまでには至らないことがあるという問題がある。この場合、気泡が記録ヘッド内のインク流路にとどまり吐出不良の原因となることがある。
【0007】
上記課題を改善するためのチョーククリーニングとして、特許文献1には、チョーククリーニング実行時において、流路内を減圧し、チョーク弁を開いた後も吸引ポンプを止めずに吸引を続行するシーケンスが提案されている。これは、継続したインクの流れに乗せて気泡を記録ヘッド内から排出することを企図するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−98959号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら上記先行文献1に開示のシーケンスでチョーククリーニングにあっては、チョーク弁を開いてから吸引ポンプを停止させるまでの過程において、フィルタより上流側に気泡が存在する限り、気泡がフィルタを通過して記録ヘッドに流入する可能性がある。すなわち、フィルタより上流側の気泡が完全になくなるまで吸引動作を継続しない限り、気泡が記録ヘッドに混入して吐出不良を引き起こす可能性がある。このため、フィルタよりも上流の気泡を完全に無くそうとする場合、大量のインクを消費しなければならず、ランニングコストが増大するという課題がある。
【0010】
本発明は、記録ヘッドの吐出不良の原因となるインク流路内の気泡を、インク消費量を抑えつつ記録ヘッドの吐出不良の原因となる気泡を排除することが可能なインクジェット記録装置およびインクジェット記録方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明は以下の構成を有する。
【0012】
すなわち、本発明の第1の形態は、インクタンク内のインクを流路及び該流路内に設けたフィルタを介して記録ヘッドに供給し、前記記録ヘッドの吐出口からインクを吐出させて記録を行うインクジェット記録装置において、前記流路内の前記フィルタよりも前記インクタンク側に設けられた開閉弁と、前記吐出口に付与する負圧を発生させるための負圧発生手段と、前記開閉弁および前記負圧発生手段の動作を制御する制御手段と、を備え、前記負圧発生手段は、前記フィルタよりも前記インクタンク側の流路にある気泡が前記フィルタを通過することが可能である第1の負圧と、該第1の負圧よりも絶対値が小さく気泡が前記フィルタを通過することができない第2の負圧と、を前記吐出口に付与することが可能であり、前記制御手段は、前記開閉弁を閉じた状態で前記負圧発生手段に前記吐出口に前記第1の負圧を付与させ、その後、前記開閉弁を開いた後に、前記負圧発生手段に前記吐出口に前記第2の負圧を付与させることを特徴とする。
【0013】
本発明の第2の形態は、インクタンク内のインクを流路及び該流路内に設けたフィルタを介して記録ヘッドに供給し、前記記録ヘッドの吐出口からインクを吐出させて記録を行うことを可能とすると共に、前記記録ヘッドの吐出口に外部から負圧を付与することによって前記記録ヘッド及び前記記録ヘッド内に存在する気泡を前記記録ヘッドの吐出口からインクと共に排出させることを可能にするインクジェット記録装置であって、前記流路内に設けられた開閉弁と、前記記録ヘッドの吐出口に付与する負圧を発生させる負圧発生手段と、前記負圧発生手段を制御する制御手段と、を備え、前記制御手段は、前記開閉弁を閉じた状態で前記負圧発生手段により第1の負圧を前記吐出口に付与させた後、前記開閉弁を開く第1のクリーニング動作と、前記フィルタを気泡が通過できない第2の負圧を前記負圧発生手段により前記吐出口に付与させる第2のクリーニング動作と、を実行させることを特徴とする。
【0014】
本発明の第3の形態は、インクタンク内のインクを流路及び該流路内に設けたフィルタを介して記録ヘッドに供給し、前記記録ヘッドの吐出口からインクを吐出させて記録を行うインクジェット記録方法において、前記フィルタよりも前記インクタンク側の流路にある気泡が前記フィルタを通過することが可能である第1の負圧を、前記インクタンクと前記フィルタとの間に設けた開閉弁を閉じた状態で前記吐出口に付与する工程と、前記開閉弁を開いた後に、前記第1の負圧よりも絶対値が小さく気泡が前記フィルタを通過することができない第2の負圧を前記吐出口に付与する工程と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、記録ヘッドの吐出不良の原因となるインク流路内の気泡を、インク消費量を抑えつつ排除することが可能であり、ランニングコストを抑えつつインク流路内のインクを排除することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施形態におけるインクジェット記録装置の概略構成を示す平面図である。
【図2】(a)は実施形態におけるサブタンクの縦断側面図であり、(b)は供給制限弁の開弁時の拡大図、(c)は閉弁時の状態をそれぞれ示している。
【図3】実施形態におけるフィルタにメニスカスが形成された状態を示す断面図である。
【図4】実施形態における制御系の概略構成を示すブロック図である。
【図5】第1の実施形態におけるクリーニング処理のフローチャートである。
【図6】第1の実施形態におけるクリーニング処理を行った際のサブタンク内の様子を示す縦断側面図である。
【図7】第1の実施形態におけるチョーククリーニング処理を行った場合のキャップ内の圧力プロファイルを示したグラフである。
【図8】第2の実施形態におけるクリーニング処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
【0018】
(第1の実施形態)
まず、図1ないし図7に基づき本発明の第1の実施形態を説明する。
【0019】
図1に示すように、キャリッジ21にはインクを液滴として吐出させるためのノズル49を複数備えた記録ヘッド22が搭載されている。また、キャリッジ21には、記録ヘッド22に供給されるインクを一時貯留するサブタンク23が搭載されている。記録ヘッド22のノズルには、ノズルからインクを吐出させるための吐出エネルギー発生素子を駆動させる信号などを授受するコネクタが設けられている。コネクタは不図示のASICと電気的に接続されている。なお、吐出エネルギー発生素子としては、ヒータなどの電気熱変換素子あるいはピエゾなどの電機機械変換素子を用いることが可能である。
【0020】
キャリッジ21はガイドシャフト26によって支持されており、ガイドシャフト26に沿って往復移動が可能となっている。キャリッジ21の往復移動は、主走査モータ(CRモータ)29、モータプーリ30、従動プーリ37及びこれらのプーリに掛け渡されたタイミングベルト40等の駆動機構を介して行われる。
【0021】
記録開始が指示される前の段階において、記録媒体43は自動給紙装置42上に積載されている。記録開始が指示されると、後述の制御系によって給紙モータ27が駆動され、その駆動力がギアを介してピックアップローラ41に伝達される。これによりピックアップローラ41が回転し、自動給紙装置42に積載されている記録媒体の中から一枚ずつ記録装置本体へ供給される。
【0022】
オートシートフィーダ42から給紙された記録媒体43は、搬送ローラ38の回転力によって搬送される。搬送ローラ38の回転は、搬送モータ28の回転力がギアを介して伝達されることによって行われる。また、搬送ローラ38と従動ローラ35はベルト部材32により連結され、搬送ローラ38が回転することで従動ローラ35も回転する。搬送ローラ38の回転量と回転速度は、搬送ローラ38に取り付けられたコードホイール31のスリットを不図示の回転角センサで検出し、その検出情報を搬送モータ28の制御用ドライバにフィードバックすることで制御される。搬送ローラ38の回転によって記録媒体43はプラテン36によって平坦な状態で支持されつつ移動する。記録媒体43が吐出口面の下部を通過する際、記録ヘッド22は、記録媒体43に対し所定の画像信号に従ってインクを吐出する。なお、ピンチローラ39と拍車ローラ34が記録媒体43の保持力を高めるための補助ローラとして設けられている。
【0023】
一方、インクタンク内に収納されているインクは、流路プレート18に形成された流路19とこれに連結されたチューブ19とからなるインク供給路を経て、キャリッジ21に保持されたサブタンク23に供給される。インク供給路には、後述の制御系によって開閉を制御可能な開閉弁17(以降チョーク弁と呼ぶ)が設けられている。インクタンク1からサブタンク23へのインク供給は、空気加圧ユニット11によってインクタンク1へ加圧空気を供給することにより行う。空気加圧ユニット11は、加圧ポンプ12と、圧力センサ13と、加圧制限弁14と、大気開放弁15とからなる。この空気加圧ユニット11において、加圧ポンプ12を駆動し、加圧空気供給路16内に空気を供給すると、加圧空気がインクタンク1内に供給される。この加圧空気により、インクタンク1内のインクは流路20へ送り出され、サブタンク23へ供給される。加圧制限弁13はインクタンク1に過大な圧力がかかるのを防ぐため、ある一定以上の圧力で大気に対し開弁される弁である。また、大気開放弁15は加圧空気供給路16と大気との連通または遮断を切換可能な電磁弁であり、この電磁弁の切換えによって加圧空気供給路16内の加圧空気の維持または解放を可能としている。なお、本実施形態におけるインクジェット記録装置10では、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、ブラック(K)、の4色のインクタンク1およびサブタンク23が設けられており、いずれの色も同様の構成を有している。
【0024】
また、キャリッジ21のホームポジションには、記録ヘッドの吐出性能を維持するための処理を行うメンテナンスユニットが配設されている。このメンテナンスユニットには、記録ヘッド22に設けられたノズル49内のインクの増粘、乾燥を防ぐために非印刷時に、吐出口面に当接して吐出口を外気から遮断するキャッピング部材24が設けられている。キャッピング部材24は吸引ポンプ25に連結されており、キャッピング部材24を吐出口面に当接させ吸引ポンプ25を駆動することにより、キャッピング部材24を介してノズル内のインクを強制的に外部へ排出させることができる。
【0025】
図2(a)はサブタンク23の内部構造を示す縦断面図である。サブタンク23には、チューブ内などで発生した気泡を一時的に保持し、記録時などにノズル49に気泡が流れ込むことを防ぐための泡バッファ44が形成されている。この泡バッファ44には、流入口44aと流出口44bとが形成されており、流入口44aはチューブ19に連通し、流出口44bは流路44cを介して負圧室50に連通している。負圧室50は、サブタンクの骨格をなす支持体23aと、この支持体23aの一側面に弾性変形可能に設けられた側面部材23bと、この側面部材23bに固定された圧力板47とにより構成されている。
さらに、負圧室50は、フィルタ48を介して記録ヘッド22のノズル49に連通している。また、負圧室50と泡バッファ44とを連通させる流路44cには、以下に説明する供給制限弁46が設けられ、これが負圧室50内の圧力を負圧に保つようになっている。
【0026】
図2(b)、図2(c)は供給制限弁43とその周辺の構成を示す拡大縦断側面図である。図示のように、負圧室50を構成する圧力板47は、ばね52によって支持体23aから離間する方向に付勢されており、負圧室50の負圧が一定に保たれている場合には、ばね52の付勢力によって所定の容積を保つようになっている。負圧室50が一定の負圧に保たれている場合、供給制御弁43は弁ホルダ54との間に設けたばね53の付勢力によって支持体23aに密接し、流路を遮断した状態となるため、泡バッファ44側から負圧室50側へのインクの流入は遮断される。また、図2(c)は負圧室50の負圧が増大した場合には、圧力板47がばね52の付勢力に抗して支持体23a側へ移動するため、負圧室50の容積は縮小する。また、供給制限弁46は移動する圧力板47に押圧されて支持体23aから離間した開状態となるため、泡バッファ44側から負圧室50側へインクが流入することができる。なお、本実施形態ではフィルタ48直上にも気泡を保持する泡バッファ55が形成されている。
【0027】
フィルタ48はSUS線を編みこんだメッシュ構造をしている。図3はフィルタ48がインクで濡れている場合のフィルタ48の断面を示している。この場合、SUS線の隙間にはインクと気体の界面であるメニスカスが形成されており、気体が通り抜けるためにはメニスカスを破らなければならない。メニスカスを破るために必要な圧力差は、インクの表面張力に比例し、メニスカスの周長に反比例する。本実施形態で使用したインクとフィルタ48では、メニスカスを破るために必要な圧力差、すなわちフィルタを気体が通過するのに必要な圧力差は25KPaである。また、メニスカスは一度破られても毛管力によりすぐに再生されるため、継続的に気体を通過させるためには上記の圧力差を保つ必要がある。
【0028】
次に、図4に基づいて本実施形態におけるインクジェット記録装置10の制御系の概略構成を説明する。
【0029】
インクジェット記録装置10の制御系には、CPU58、ROM59、RAM60、及び画像形成エンジン制御回路62としてのASICが設けられており、これらのデバイスはバス57によって互いに接続されている。CPU58はROM59に格納された各種制御プログラムに基づき制御を行うようになっている。画像形成エンジン制御回路62は、操作パネル72、外部入力端末73、エンコーダ65,67及び圧力センサ69等からの信号を受けて、ROM59内に格納されたプログラムに基づき所定期間毎に後述のクリーニング処理を行う。また、画像エンジン駆動回路62は、制御プログラムに基づき、弁駆動回路70を介してチョーク弁17の開閉制御を行うと共に、モータ駆動回路63を介して各種モータの駆動制御を行う。なお、64はPGモータ、66はCRモータ、68はISモータ、61はUSBインターフェース(I/F)である。
【0030】
次に、上記構成を有する本実施形態のインクジェット記録装置により実施されるクリーニング処理を説明する。
【0031】
本実施形態では、第1の吸引としてチョーククリーニングを行った後に、インクの加圧供給を継続した状態のまま、第2の吸引として泡がフィルタを通過しないような負圧での吸引動作を行う。以下、このクリーニング処理を図5のフローチャート、図6の説明図、及び図7のグラフを参照しつつより具体的に説明する。なお、図6(a)〜(e)はチョーククリーニング処理を行った場合の記録ヘッド22内の気泡の状態を示す図、図7はチョーククリーニング処理を行った場合のキャッピング部材24内の圧力プロファイルを示したグラフである。図7のグラフ内に記されている(a)〜(e)の記号は図6の(a)〜(e)の各段階との対応を示している。
【0032】
図5のフローチャートにおいて、クリーニング処理の実行命令が出されると、上記制御系に設けられたCPU58は、ステップS1〜S13の処理を実行する。なお、サブタンク23及び記録ヘッド22の初期状態は、図6(a)のように泡バッファ44とフィルタ48に気泡が存在する状態とする。
【0033】
ステップS1では、キャッピング部材24が記録ヘッド22の吐出口面を覆っている状態(キャップクローズ状態)か、吐出口面を覆っていない状態(キャップオープン状態)かの判断を行う。ここで、キャップオープン状態の場合はステップS2へ進み、キャップクローズ動作を行った後、ステップS3へ進み、キャップクローズ状態の場合はそのままステップS3へ進む。この後、ステップS3〜ステップS8では、記録ヘッド22のノズルからインクを吸引する第1の吸引動作を行わせる。この第1の吸引動作では、まず、ステップS3において弁駆動回路70を制御し、チョーク弁17を閉弁させる。これにより、チョーク弁17から流路20、サブタンク23及び記録ヘッド22を経て吸引ポンプ25に至る経路が密閉される。
【0034】
この後、ステップS4ではモータ駆動回路63を制御し、PGモータ64を駆動して吸引ポンプを駆動させる。これにより、キャッピング部材24と記録ヘッド22の吐出口面とで形成される空間の減圧が開始される。このステップS4は図7の「吸引ポンプ駆動開始」の段階にあたる。この減圧動作は、吸引ポンプの駆動を開始してから所定時間T1の間継続する(ステップS5)。所定時間T1の間減圧し続けることにより、チョーク弁17より下流側(吸引ポンプ側)が高い減圧状態になり、フィルタ48より上流側(インクタンク側)にある気泡Bが減圧膨張することにより、その気泡Bの一部がフィルタ48を通過することが可能となる。チョーク弁17より下流側が十分に減圧された状態のとき、サブタンク及びヘッドは図6(b)のように、ほぼ気泡で満たされた状態となる。ここで、所定時間T1は想定されている条件下で目標の圧力(第1の負圧)まで減圧するのに必要な時間である。本実施形態では、キャッピング部材24内の目標の圧力を−80KPaとしている。なお、上記の目標とする第1の負圧を吐出口に付与する第1の負圧発生手段としての機能は、上記チョーク弁17、吸引ポンプ25及びキャッピング部材24によって実現される。
【0035】
次に、ステップS6ではモータ駆動回路63を制御して吸引ポンプを停止させ、ステップS7では弁駆動回路70を制御してチョーク弁17を開き、チョーク弁17より下流側へのインクの供給が開始される。このステップS7は図7の「吸引ポンプ停止、チョーク弁開」の段階にあたる。チョーク弁17が開かれ、インク供給が開始されると減圧状態が急に開放され、インクの速い流れが発生する。このインクの速い流れによりフィルタ48より上流に残っている気泡Bの一部とフィルタ48より下流にある気泡Bの一部が記録ヘッド22のノズルの吐出口から排出される。
【0036】
チョーク弁17を開いてから所定時間T2の間「吸引ポンプ停止、チョーク弁開」の状態を維持する(ステップS8)。これは、キャッピング部材24内の圧力が、気泡Bがフィルタを通過できない程度の圧力まで戻るのを待つためである。よって、所定時間T2は、チョーク弁17が開いてから気泡Bがフィルタ48を通過できない程度の圧力まで戻るのに十分な時間に設定する。ステップS8で所定時間T2が経過した時点におけるサブタンク23及び記録ヘッド22の中に気泡Bが残留する状態は、図6(c)のように、記録ヘッド22内の流路に気泡が、多少残っている状態となる。ここまでを第1の吸引動作(第1のクリーニング動作)とする。
【0037】
続いて第2の吸引を開始する。第2の吸引動作は、チョーク弁17が開いた状態にあり、連続的にインクが供給される状態で行われる。まず、ステップS9でモータ駆動回路63を制御してPGモータ64を駆動することにより吸引ポンプ25の駆動を開始する。このステップS9は図7の2回目の「吸引ポンプ駆動開始」の段階にあたる。この吸引ポンプ25の駆動は、所定時間T3の間継続して行われる(ステップS10)。この吸引動作は、気泡Bがフィルタ48を通過しないように、キャッピング部材24内の圧力を第1の負圧より絶対値が小さい負圧(第2の負圧)にして行う。本実施形態では例えば、吸引ポンプ25によって吐出口に−20KPa程度の負圧を付与することによって行う。その結果、図6(c)の段階でフィルタ48より下流に存在していた気泡のみが、図6(d)に示すように移動し、記録ヘッド22のノズルの吐出口から排出される。ここで、所定時間T3は、吐出不良を引き起こす原因となる、フィルタ48より下流の気泡が記録ヘッド22の内部から排出されきるのに必要な時間とする。その後、ステップS11では、モータ駆動回路63を制御してPGモータ64を停止させ、吸引ポンプ25の駆動を停止させて第2の吸引動作(第2のクリーニング動作,第3の工程)を終了する。なお、本実施形態において、第2の負圧を発生させて吐出口に付与する第2の負圧発生手段としての機能は、吸引ポンプ25およびキャッピング部材24によって実現される。
【0038】
第2のクリーニング動作後は、ステップS12において、弁駆動回路70を駆動してキャッピング部材24に連通する大気開放弁15を開き、さらにステップS13でキャップオープン状態としてスタンバイ状態とする。以上により、一連のクリーニング処理が終了する。この時点で、図6(e)のようにサブブタンク23内の気泡は初期状態より減少し、記録ヘッド22の流路内の気泡は、排出された状態となる。
【0039】
以上のように、本実施形態では第1の吸引動作でフィルタ48よりも上流にある気泡をフィルタ48より下流に移動させ、第2の吸引動作でフィルタ48よりも下流にある気泡のみを記録ヘッドのノズルの吐出口から排出する。これにより、少ないインク消費量で、吐出不良の原因となる気泡の排出を行うことが可能となり、記録ヘッドの吐出状態を良好に保つことが可能になり、ランニングコストの低減を図ることができる。
【0040】
また、本実施形態では、第1の吸引動作終了後、キャップオープン状態とすることなく、そのまますぐに第2の吸引動作を行うようにしている。このように第1の吸引動作の後、あまり時間を置かずに第2の吸引動作を行えば、記録ヘッド内の流路の気泡が上昇してノズルの吐出口から離れてしまう前に気泡を排出することができる。これにより、クリーニング処理の所要時間を短縮できるだけでなく、廃インクの量を必要最小限に抑えることができる。
【0041】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態を説明する。
【0042】
上記第1の実施形態では、第1の吸引動作において吸引ポンプ25を停止してからチョーク弁17を開いたが、第2の実施形態ではチョーク弁17を開いてから吸引ポンプ25を停止させる構成とする。なお、その他の構成は、上記第1の実施形態他と同様であるので、ここでは第1の実施形態との相違点を中心に、図8のフローチャートに基づいて説明を行う。
【0043】
この第2の実施形態では、第1の実施形態と同様に第1の吸引動作を開始する。第1の吸引動作ではステップS3でチョーク弁17を閉じ、ステップS4で吸引ポンプ25を駆動して減圧を開始する。その後、ステップS5に示すように所定時間T1の間、減圧動作を継続して行う。
【0044】
次に、ステップS6でチョーク弁17を開き、インクの供給を開始する。これにより減圧状態が緩和、開放される。ただし、この時点でも吸引ポンプ25は駆動を継続しており、この点が第1の実施形態と異なる。このように、チョーク弁17を開いた状態で吸引ポンプを駆動させることにより、チョーク弁17を開いた状態で吸引ポンプ25を駆動させない場合に比べ、ヘッド流路内にはより速い流れを発生させることができる。このため、フィルタ48より上流側に付着している気泡をより多く、より強力に、フィルタ48より下流側に移動させることが可能になり、気泡の除去効果はより向上する。なお、所定時間T2は瞬間的に速い流れを発生させるための時間なので、任意の短い時間で良い。
【0045】
その後ステップS8で吸引ポンプ25の動作を停止させ、所定時間T3の間「吸引ポンプ停止、チョーク弁開」の状態を維持する(ステップS8)。これは、キャッピング部材24内の圧力が、気泡Bがフィルタを通過できない程度の圧力まで戻るのを待つためである。所定時間T3はチョーク弁17が開いてから気泡Bがフィルタ48を通過できない程度の圧力まで戻るのに十分な時間に設定する。以上により、第1の吸引動作は終了する。
【0046】
次に、第2の吸引動作を開始する。第2の吸引動作以降の処理は、上記第1の実施形態と同様に行う。これにより、この第2の実施形態においても、第1の吸引動作でフィルタ48より下流側に移動させた気泡だけを、記録ヘッドのノズルの吐出口から排出させることができ、少ないインク消費量で、吐出不良の原因となる気泡の排出を行うことが可能となる。
【符号の説明】
【0047】
1 インクタンク
17 開閉弁(チョーク弁)
20 流路
21 キャリッジ
22 記録ヘッド
23 サブタンク
24 キャッピング部材
25 吸引ポンプ
48 ヘッドフィルタ
58 CPU

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクタンク内のインクを流路及び該流路内に設けたフィルタを介して記録ヘッドに供給し、前記記録ヘッドの吐出口からインクを吐出させて記録を行うインクジェット記録装置において、
前記流路内の前記フィルタよりも前記インクタンク側に設けられた開閉弁と、
前記吐出口に付与する負圧を発生させるための負圧発生手段と、
前記開閉弁および前記負圧発生手段の動作を制御する制御手段と、を備え、
前記負圧発生手段は、前記フィルタよりも前記インクタンク側の流路にある気泡が前記フィルタを通過することが可能である第1の負圧と、該第1の負圧よりも絶対値が小さく気泡が前記フィルタを通過することができない第2の負圧と、を前記吐出口に付与することが可能であり、
前記制御手段は、前記開閉弁を閉じた状態で前記負圧発生手段に前記吐出口に前記第1の負圧を付与させ、その後、前記開閉弁を開いた後に、前記負圧発生手段に前記吐出口に前記第2の負圧を付与させることを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記開閉弁を閉じた状態で前記負圧発生手段に前記吐出口に前記第1の負圧を付与させ、その後、前記開閉弁を開いた後、前記開閉弁を開いたまま前記第2の負圧を前記吐出口に付与させることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記開閉弁を閉じた状態で前記負圧発生手段に前記吐出口に前記第1の負圧を付与させ、その後、前記開閉弁を開いた後に、前記吐出口に付与される負圧が、前記フィルタを前記気泡が通過できない負圧となってから、前記負圧発生手段に前記吐出口に前記第2の負圧を付与させることを特徴とする請求項1または2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記開閉弁を閉じた状態で前記負圧発生手段に前記吐出口に前記第1の負圧を付与させ、その後、前記開閉弁を開く前に、前記負圧発生手段を停止させることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
前記制御手段は、前記開閉弁を閉じた状態で前記負圧発生手段に前記吐出口に前記第1の負圧を付与させ、その後、前記開閉弁を開いた後も所定時間の間、前記負圧発生手段に前記吐出口に負圧を付与させることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項6】
インクタンク内のインクを流路及び該流路内に設けたフィルタを介して記録ヘッドに供給し、前記記録ヘッドの吐出口からインクを吐出させて記録を行うことを可能とすると共に、前記記録ヘッドの吐出口に外部から負圧を付与することによって前記記録ヘッド及び前記記録ヘッド内に存在する気泡を前記記録ヘッドの吐出口からインクと共に排出させることを可能にするインクジェット記録装置であって、
前記流路内に設けられた開閉弁と、
前記記録ヘッドの吐出口に付与する負圧を発生させる負圧発生手段と、
前記負圧発生手段を制御する制御手段と、を備え、
前記制御手段は、前記開閉弁を閉じた状態で前記負圧発生手段により第1の負圧を前記吐出口に付与させた後、前記開閉弁を開く第1のクリーニング動作と、前記フィルタを気泡が通過できない第2の負圧を前記負圧発生手段により前記吐出口に付与させる第2のクリーニング動作と、を実行させることを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項7】
インクタンク内のインクを流路及び該流路内に設けたフィルタを介して記録ヘッドに供給し、前記記録ヘッドの吐出口からインクを吐出させて記録を行うインクジェット記録方法において、
前記インクタンクと前記フィルタとの間に設けた開閉弁を閉じた状態で、前記フィルタよりも前記インクタンク側の流路にある気泡が前記フィルタを通過することが可能である第1の負圧を前記吐出口に付与する工程と、
前記開閉弁を開いた後に、前記第1の負圧よりも絶対値が小さく気泡が前記フィルタを通過することができない第2の負圧を前記吐出口に付与する工程と、を備えたことを特徴とするインクジェット記録方法。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−51197(P2012−51197A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−194745(P2010−194745)
【出願日】平成22年8月31日(2010.8.31)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】