説明

インクジェット記録装置およびインクジェット記録方法

【課題】処理系に対する負荷を増大させること無く、キャリッジの加減速領域においても主走査方向における紙間距離の変動に対応した記録位置制御を行うことが可能なインクジェット記録装置および記録方法を提供する。
【解決手段】主走査方向における紙間距離の変動量から第1の補正量を取得し、記録ヘッドの絶対位置に対応づけて第1テーブルに格納する。また、キャリッジの走査速度に関する情報から第2の補正量を取得し、キャリッジの走査開始位置からの相対位置に対応づけて第2テーブルに格納する。各走査の開始前には、走査開始位置を取得して第1テーブルの絶対位置と第2テーブルの相対位置の位置合わせを行い、その上で第1の補正量と前記第2の補正量から第3の補正量を算出して、第3テーブルに格納する。走査中は、第3テーブルに格納された第3の補正量に従って、記録ヘッドからインクを吐出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録ヘッドをキャリッジによって走査させながら記録媒体にインクを吐出して記録を行なうインクジェット記録装置およびインクジェット記録方法に関する。特に、記録ヘッドから吐出されるインクの記録媒体における記録位置ずれの補正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリアル型のインクジェット記録装置では、インクを吐出する記録ヘッドを搭載したキャリッジが記録媒体に対して走査する主走査と、記録主走査とは交差する方向に、記録媒体を搬送する搬送動作とを繰り返すことにより、記録媒体に段階的に画像を記録する。このようなインクジェット記録装置の利点の一つは、様々なサイズの記録媒体に記録を行うことが出来ることである。昨今では、名刺サイズからB0以上のポスターサイズに至るまで、インクジェット記録装置が活用する範囲は拡大している。
【0003】
インクジェット記録装置では、記録媒体に対し記録ヘッドが移動しながらインクを吐出するので、実際にインクが吐出される位置と吐出されたインクが記録媒体に着弾する位置とでは、主走査方向にずれが生じている。そしてこのずれの量は、記録ヘッドからのインクの吐出速度、キャリッジの走査速度、記録ヘッドと記録媒体の距離(以下、紙間距離と称す)などに応じて変化する。
【0004】
紙間距離については、記録媒体の厚みによって変わるが、ページ内で一定であれば画像上問題は起こらない。しかし、例えば、撓みや巻き癖などによって記録中の記録媒体に凹凸が生じていると、紙間距離は記録ヘッドの主走査方向に対し一定ではなくなり、上記ずれ量が主走査方向の位置によって変化する。その結果、インクが記録媒体に着弾する位置に粗密が生じ、記録された画像において濃度むらのような画像弊害が確認される場合がある。
【0005】
特許文献1には、上記問題を解決するために、紙間距離を検出する手段をキャリッジに設け、実際に記録媒体を給紙した状態で記録領域の紙間距離を実測する構成が開示されている。そして、得られた紙間距離の変動に応じてインクの吐出タイミングを調整し、記録媒体における記録位置ずれを補正するような方法が開示されている。
【0006】
一方、キャリッジの走査速度によっても上記ずれ量は変化することから、キャリッジの加減速領域と定速領域での間で上記ずれ量が異なる問題が生じる。記録領域に対してキャリッジの走査可能領域が十分大きい場合は、加減速領域においてインクの吐出を行わない様にすることも出来るが、近年のように記録装置の高速化、小型化が求められる状況では、加減速領域で吐出を行わないようにすることは難しい。
【0007】
このような状況を鑑み、特許文献2では、所定の走査速度と加減速中の速度との差に基づいてインクの吐出タイミングを制御することにより、記録媒体でのインクの着弾位置を制御する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−331315号公報
【特許文献2】特開2006−305812号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述した様に、特許文献1では紙間距離の変動に応じて、また特許文献2では加減速中の時々の速度に応じて、記録ヘッドの吐出タイミングを調整することにより、記録位置ずれを補正することは出来た。しかしながら両者の要因が重なった場合、すなわち加減速領域において紙間距離が変動した場合、ドットの記録位置を容易に補正することは出来なかった。
【0010】
その理由の1つは、紙間距離から得られる補正量と、キャリッジの速度から得られる補正量とを単に足し合わせたところで、所望の位置にドットを記録するための適切な補正量を得ることが出来ないことである。また、もうひとつの理由は、リアルタイム処理の困難性である。特許文献2では、リアルタイムですなわち記録走査の最中にキャリッジの速度を検知して、検知結果に基づく吐出タイミングの補正演算を行なっていた。このようなリアルタイムの検知および演算は、処理系に対する負荷を増大させ、複雑化とコスト増大といった問題を招く。紙間距離の変動との兼ね合いも考慮するならば、演算はさらに複雑化し、処理系への負荷も増大する。
【0011】
本発明は上記問題点を解決するためになされたものである。よって、その目的とするところは、処理系に対する負荷を増大させること無く、キャリッジの加減速領域においても主走査方向における紙間距離の変動に対応した記録位置制御を行うことが可能なインクジェット記録装置および記録方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
そのために本発明は、インクを吐出する記録ヘッドを搭載したキャリッジを主走査方向に走査させながら記録媒体に画像を記録するインクジェット記録装置であって、前記記録ヘッドの吐出面と前記記録媒体の距離である紙間距離から第1の補正量を取得し、該第1の補正量を前記主走査方向における前記記録ヘッドの絶対位置に対応づけて第1テーブルに格納する第1テーブル生成手段と、前記キャリッジの走査速度に関する情報から第2の補正量を取得し、該第2の補正量を前記キャリッジの走査開始位置からの相対位置に対応づけて第2テーブルに格納する第2テーブル生成手段と、前記キャリッジの各走査の前に、前記走査開始位置を取得して前記絶対位置における前記相対位置の位置合わせを行い、前記第1の補正量と前記第2の補正量から第3の補正量を算出して、該第3の補正量を前記絶対位置に対応付けて第3テーブルに格納する第3テーブル生成手段と、前記キャリッジを走査させながら、前記第3テーブルに格納された前記第3の補正量に従って、前記記録ヘッドからインクを吐出するタイミングを制御する手段とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、記録走査のたびにキャリッジの速度を実測しなくても、加減速領域の速度変動に対応した補正を行うことが出来る。また、加減速領域に紙間距離の変動が存在する場合であっても、これに対応しながら、高精度のドット記録位置制御を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】(a)および(b)は、記録部の構成要素を示す斜視図および上面図である。
【図2】インクジェット記録装置における制御の構成を示すブロック図である。
【図3】(a)〜(c)は、各種速度と主走査方向の距離Xの関係を示す図である。
【図4】(a)〜(c)は、記録ヘッドの位置と補正テーブルの対応関係を示す図である。
【図5】制御部が記録走査のたびに実行する工程を説明するためのフローチャートである。
【図6】エンコーダセンサが発信する出力信号を示すタイミングチャートである。
【図7】吐出タイミングの補正例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0015】
以下、本発明に係る一実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0016】
図1(a)および(b)は、本発明に使用可能なインクジェット記録装置16の記録部における構成要素を説明するための斜視図および上面図である。キャリッジ1は記録ヘッド9を搭載し、ガイドシャフト4に沿って矢印Aで示す主走査方向に往復移動する。このような1回分の記録走査が行われると、記録ヘッド9のB方向の記録幅に対応した量だけ、記録媒体2が矢印Bで示した副走査方向に搬送される。このような記録主走査と副走査を交互に繰り返すことにより、記録媒体2に段階的に画像が記録されて行く。
【0017】
プラテン3は、記録ヘッド9によって記録が行われる領域の記録媒体2を下方から支える平板である。プラテン9が記録媒体を支えることにより、記録ヘッド9の吐出面と記録媒体の記録面の距離(紙間距離)がほぼ一定に保たれる様になっている。プラテン3において、キャリッジ1の移動可能領域の両端には、記録ヘッド9から予備的に吐出されるインクを収容するための予備吐孔5a、5bが設けられている。
【0018】
両端部に配備された側板8aおよび8bは、キャリッジ1の走査方向における移動可能領域を規定している。キャリッジ1に搭載されたエンコーダセンサ6は、ガイドシャフト4と平行して側板8a、8bの間に張られているリニアスケール7を検出することにより、キャリッジ1の現在位置や速度を取得することが出来るようになっている。本実施例では、図1(b)に示すように、キャリッジ1が側板8aに突き当たった位置をキャリッジ1の原点としている。
【0019】
キャリッジ1の側部には、給紙された記録媒体と記録ヘッドとの紙間距離を実測するための光学センサ10が備えられている。本実施例では記録媒体が給紙された際、記録ヘッド9からの吐出動作を行うことなしに、キャリッジ1を1回主走査しながら、光学センサ10が各主走査位置における記録媒体表面までの距離を測定する。これにより、これから記録を行おうとしている記録媒体について、主走査方向の各位置における紙間距離を取得することが出来る。
【0020】
図2は、本実施例のインクジェット記録装置における制御の構成を説明するためのブロック図である。制御部50は、中央演算処理装置であるCPU51、制御プログラムや変数初期値を記憶するROM52、ワークエリアとして使用されるRAM53、クロックタイマー60を備え、装置内の各種機構を駆動して記録装置全体を制御する。例えば制御部50は、インターフェイスI/F54を介して外部に接続されたホスト装置から画像データを受信し、ROM52に記憶されている制御プログラムに従って画像データをRAM53に展開する。その後、RAM53に展開された画像データに従って、記録動作を実行する。具体的には、ヘッドドライバ55を介して記録ヘッド9を駆動し、記録ヘッド9のノズルからインクを吐出させる。また、エンコーダセンサ6から得られる情報を基に、モータドライバ58を介してキャリッジモータ59を駆動し、キャリッジ1の移動制御を行う。更にモータドライバ56を介して搬送モータ57を駆動し、記録中の記録媒体2を搬送する。
【0021】
また、制御部50は、キャリッジモータ59を駆動させながら光学センサ10から得られた紙間情報をRAM53に記憶したり、RAM53に格納された各種テーブルを用いて、後述する各種演算処理を行ったりする。
【0022】
図3(a)〜(c)は、走査中の記録ヘッド9からインクが吐出される際の、インク吐出速度Vd、キャリッジ走査速度Vs、紙間距離D、および吐出位置から着弾位置までの主走査方向の距離Xの関係を説明するための図である。吐出されたインク滴は、走査方向にはキャリッジ走査速度Vsを有し、吐出方向にはインク吐出速度Vdを有する。この場合、インク滴が記録媒体に着弾するまでの時間tは、t=D/Vdで表すことが出来る。この間、インク滴は走査方向にも移動しているので、吐出位置から着弾位置までの距離Xは、
X=(D/Vd)×Vs=D×Vs/Vd 式(1)
となる。
【0023】
ここで、図3(a)は、紙間距離が基準値Dに対してΔDだけ変動した場合の記録位置ずれ量ΔXdを示している。紙間距離がΔDだけ変動した場合、距離Xのずれ量ΔXdは、
ΔXd=ΔD×Vs/Vd 式(2)
となる。
【0024】
また、図3(b)は、キャリッジ走査速度が基準値Vsに対してΔVsだけ変動した場合の記録位置ずれ量ΔXvを示している。キャリッジ走査速度がΔVsだけ変動した場合、距離Xのずれ量ΔXvは、
ΔXv=D×ΔVs/Vd 式(3)
となる。
【0025】
一方、図3(c)は、紙間距離がΔDだけ変動し、且つキャリッジ走査速度がΔVsだけ変動した場合の記録位置ずれ量ΔXを示している。紙間距離がΔDだけ変動してD´=D+ΔDとなり、キャリッジ走査速度がΔVsだけ変動してVs´=Vs+ΔVsとなると、式(1)のD、およびVsにD´、およびVs´を代入すると、距離X´は、
X´=D´×Vs´/Vd
=(D+ΔD)×(Vs+ΔVs)/Vd
=DVs/Vd+DΔVs/Vd+ΔDVs/Vd+ΔDΔVs/Vdとなる。ここで、式(2)および式(3)を代入すると、上式は
X´=ΔXd+ΔXv+(DVs+ΔDΔVs)/Vd
=ΔXd+ΔXv+(ΔXd/Vs×ΔXv×Vd/D)+DVs/Vd
=ΔXd+ΔXv+ΔXd×ΔXv×Vd/(Vs×D)+DVs/Vd
と表すことができる。紙間距離DがΔDだけ変動し、且つキャリッジ走査速度VsがΔVsだけ変動した場合の記録位置ずれ量ΔXは、ΔX=X´−Xであるから、
ΔX=ΔXd+ΔXv+ΔXd×ΔXv×Vd/(Vs×D)+DVs/Vd−D×Vs/Vd
=ΔXd+ΔXv+ΔXd×ΔXv×Vd/(Vs×D) 式(4)
と表すことが出来る。
【0026】
このように、紙間距離D且つキャリッジ走査速度Vsの両方が変動した場合のずれ量ΔXは、紙間距離Dだけが変動した場合のずれ量ΔXdと、キャリッジ走査速度Vsだけが変動した場合のずれ量ΔXvの単なる和では得られず、両者の積も含めた関数となる。すなわち、特許文献1の方法を採用して紙間距離Dの変動に伴う補正量が求められ、特許文献2の方法を採用してキャリッジ走査速度Vsの変動に伴う補正量が求められたとしても、これら補正量を単純に加算したところで適切な補正量を取得することは出来ない。
【0027】
本発明ではこのような状況を鑑み、特許文献1の様に紙間距離Dの変動量ΔDから得られるずれ量ΔXdと、特許文献2の様にキャリッジ走査速度Vsの変動量ΔVsから得られるずれ量ΔXvとから、上記関数を用いて実際のずれ量ΔXを算出する。そして、これを補正するために、記録走査中の記録ヘッドからインクを吐出するタイミングを適切に調整する。そのために、紙間距離Dの変動量ΔDに対応した記録位置ずれ量ΔXdを記憶するテーブルと、キャリッジ走査速度Vsの変動量ΔVsに対応した記録位置ずれ量ΔXvを記憶するテーブルとを用意する。そして、ΔXdとΔXvの関数である式(4)を用いて記録位置ずれ量ΔXを算出し、記録ヘッドの記録位置と記録位置ずれ量ΔXを対応付けたテーブルを1回の記録走査ごとに更新する。更に、各記録位置において更新されたテーブルに基づいた吐出タイミングで、インクを吐出する。
【0028】
図4(a)〜(c)は、主走査方向における記録ヘッド9の記録位置と各位置に対応する吐出タイミングの補正値を格納する補正テーブルの対応関係を説明するための模式図である。
【0029】
図4(a)は、記録装置内の主走査方向(A方向)の位置(絶対位置)と、各位置における紙間距離Dの変動および記録位置の補正量ui(i=1、2、・・・、N)の関係を示している。本実施例では、キャリッジ1の端部が側板8aに突き当たった位置を原点(基準端)とし、ここからの印刷の範囲をN個の区間に等分割している。そして、個々の区間(i)の補正量uiを、第1テーブルとなる距離補正テーブル11の別々の領域に、格納できるようになっている。図4(a)の例では、記録媒体2がプラテン3に対し浮き上がった箇所があり、紙間距離Dは、区間(i)に応じて変化する。既に説明したが、本実施例の記録装置では、記録媒体2を装置内に給紙したタイミングにおいて、記録を伴わないキャリッジ走査を1回分行い、光学センサ10によって各区間(i)に対応する紙間距離の変動量ΔDiを実測する。そして、式(2)を用いて各区間(i)に対応するずれ量ΔXdを算出し、これを第1の補正量uiとして距離テーブル11に格納する(第1テーブル生成工程)。
【0030】
なお、図4(a)では、キャリッジ1がその可動範囲全域を移動してするような記録を行うような記録媒体2の例で示したが、どのようなサイズの記録媒体であっても、その一端がプラテン3の基準端に揃うように位置決めされ、原点の位置は変わらない。記録媒体の幅が小さい場合、印刷の範囲はN個よりも小さい数の区間に分割されて管理されればよい。
【0031】
図4(b)は、キャリッジ1の走査開始位置からの主走査方向(A方向)の相対位置と、各位置におけるキャリッジ速度Vs(速度指令値)および速度補正テーブル12に格納される第2の補正量vi(i=1、2、・・・、M)の関係を示している。この場合は、キャリッジ1の走査開始位置を原点としているので、この原点は図4(a)で示した主走査方向(A方向)の原点に対して固定ではない。区間の個数となるMはキャリッジ1の移動距離に応じて変動するが、各区間が有する主走査方向における幅は、図4(a)の各区間と等しく、記録位置補正量uiとviは1:1で対応するようになっている。なお、本実施例では、キャリッジ1が実際の記録走査を行う以前に速度補正テーブル12における補正量viを設定するため、補正量viを求めるためにキャリッジ1の速度をエンコーダなどから実測することはない。実際の記録走査時には、制御部50がモータドライバ58に出力する位置指令値や速度指令値より、これに対応する補正量viが速度補正テーブル12より読み出される様になっている。
【0032】
キャリッジ1が等速で移動する状態において補正量viは0であり、加速中と減速中についてのみ、補正量viは0でなくなる。このときの補正量viは、式(3)を用いることにより算出され、第2の補正量として速度補正テーブル12に格納される。
【0033】
図4(c)は、図4(a)で説明した補正量uiの距離補正テーブル11と、図4(b)で説明した補正量viの速度補正テーブル12と、本実施例において実際の補正に用いるための第3の補正量wiの対応関係を説明するための図である。ここでは、距離補正テーブル11の区間i=1が速度補正テーブル12の区間i=2と一致し、u2がv2に対応付けられている状態を示している。第3の補正量wiの連成補正テーブル13については、距離補正テーブル11と同様の区間(i=1・・・N)を有することとなる。このような原点合わせ即ちテーブル間の位置合わせは、キャリッジ1の走査開始位置をエンコーダセンサ6で検出することにより行われる。原点および各区間の対応付けが行われた後、連成補正テーブル13の個々の補正量wi(ΔX)は、既に説明した式(4)を用いることにより、補正量ui(ΔXd)と補正量vi(ΔXv)から算出される。
【0034】
図5は、本実施例の制御部50が各走査のたびに実行する工程を説明するためのフローチャートである。本処理が開始されると、まず制御部50は、ステップS1において、次の走査のためにキャリッジ1が待機状態となって停止しているか否かを判定する。待機状態であると判断すればステップS2に進み、まだ待機状態となっていない場合は、待機状態となるまでステップS1を繰り返す。
【0035】
ステップS2では次の記録走査のための位置指令値と速度指令値を取得し、ステップS3では取得した位置指令値および速度指令値から速度補正テーブル12の各パラメータvi(i=1・・・M)を算出し更新する(第2テーブル生成工程)。
【0036】
続くステップS4では、次の記録走査のためのキャリッジ1の走査開始位置(すなわち現在停止している位置)を、エンコーダセンサ6より取得し、ステップS5において、これを原点に設定する。そして、ステップS6では、ステップS5で取得した原点を基準として、予め保存されている距離補正テーブル11より個々の区間の補正量uiを読み出す。
【0037】
ステップS7では、ステップS3で生成した補正量viとステップS6で読み出した補正量uiとから式(4)に従って各区間の補正量wiを算出し、連成補正テーブル13を更新する(第3テーブル生成工程)。
【0038】
ステップS8では、次の記録走査のためにキャリッジ1の移動(加速動作)を開始する。更に、ステップS9において、制御部50は、ステップS7で更新された連成補正テーブルに従って、インクの吐出タイミングを補正しながら、記録ヘッド9により実際の吐出動作を実行する。以上で本処理が終了する。
【0039】
図6は、本実施例において、エンコーダセンサ6がリニアスケール7を検出することによって発信する出力信号を説明するためのタイミングチャートである。エンコーダセンサ6からは、リニアスケール7のスリットを通過する度に、位相が1/4周期分ずれているA相とB相の2つのパルス信号が出力されるようになっている。一般に、印刷の分解能(すなわち記録解像度)は、リニアスケールの空間分解能よりも高いことが多い。よって、A相の出力信号においてパルス周期Tを測定し、これを空間分解能と記録分解能との比(n)で分割し(Tp=T/n)、これを1画素分の吐出領域とする。すなわち、Tp=間隔T/n周期で記録ヘッドからインクを吐出することにより、リニアスケール7に形成されたスリットのn倍の解像度でドットを記録することが出来る。
【0040】
更に、記録位置のずれ量を補正するために、インクの吐出タイミングをずらす本実施例では、1画素分の時間Tpを更にK分割し、Ta=Tp/Kを単位として吐出タイミングを調整することが出来る様になっている。
【0041】
図7は、上述したT、Tp、Taおよび吐出タイミングの補正例を説明するための図である。A段は、エンコーダセンサ6がリニアスケール7のスリットを検出する間隔Tを示している。本例の間隔Tは、1インチ当たり300pulseが発せられるような距離すなわち1/300インチに相当するものとする。
【0042】
B段のTpは、空間分解能と記録分解能との比(スリット解像度と記録解像度の比)がn=8であった場合の、1画素あたりの吐出間隔を示している。記録位置ずれが全く存在しない場合、このTpの周期で吐出動作が行われれば、300×8=2400dot/inchの解像度で記録媒体にドットを記録することが出来る。
【0043】
C段は、吐出タイミングをずらす最小単位Taを示している。本例ではL=8すなわちTa=Tp/8としている。これにより本実施例では、2400dpi(dot/inch)の記録解像度を有する画像を、1/2400×8=1/19200(inch)の誤差で記録することが可能となる。
【0044】
D段およびE段は、主走査方向に並ぶ8つの画素における、実際に吐出タイミングの補正が行なわれる例を示している。ここでは1ドット目および2ドット目が4/8画素分、3ドット目および4ドット目が2/8画素分だけ遅れたタイミングで吐出される様子を示している。また、5ドット目および6ドット目では補正は行なわれないが、7ドット目および8ドット目では、3/8画素分だけ早いタイミングで吐出される様子を示している。このように、本実施例の記録装置は、記録するべきドットを、標準の吐出タイミングに対し、−4Ta〜+4Taの範囲で9段階に調整することが出来る。そして、制御部50は、連成補正テーブル13に記憶された補正量wiを実現するのに最も適した吐出タイミングを、これら9つの吐出タイミングの中から選択し、図5で説明したステップS9では、選択されたタイミングに従って、ヘッドドライバ55を制御する。
【0045】
以上説明したように、本実施例によれば、予め取得された主走査方向における紙間距離の変動量と記録走査ごとに取得されるキャリッジ速度の速度指令値とから、主走査方向の各区間に対応する補正量wiを記録走査ごとに取得する。そして、この補正量wiを補正するような最適なタイミングを複数のタイミングの中から選択し、当該選択したタイミングに従って吐出を行いながら記録主走査を実行する。このような構成により、記録走査のたびにキャリッジの速度を実測しなくても、加減速領域の速度変動に対応した補正を行うことが出来る。また、加減速領域に紙間距離の変動が存在する場合であっても、これに対応しながら、高精度のドット記録位置制御を行うことが可能となる。
【0046】
なお、以上では、距離補正テーブル11、速度補正テーブル12および連成補正テーブル13のそれぞれに格納するパラメータを距離の次元を有する補正量ui、viおよびwiとしたが、本発明はこのような構成に限定されるものではない。補正量は、吐出タイミングのずらし量と比例関係を有していることから、上記テーブルは時間の次元を有するパラメータを格納しても構わない。この場合、連成補正テーブル13に格納されるパラメータが、そのまま吐出タイミングのずらし量(Taの整数倍)に該当する形態とすることも出来る。
【符号の説明】
【0047】
1 キャリッジ
2 記録媒体
6 エンコーダセンサ
7 リニアスケール
9 記録ヘッド
11 距離補正テーブル
12 速度補正テーブル
13 連成補正テーブル
50 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを吐出する記録ヘッドを搭載したキャリッジを主走査方向に走査させながら記録媒体に画像を記録するインクジェット記録装置であって、
前記記録ヘッドの吐出面と前記記録媒体の距離である紙間距離から第1の補正量を取得し、該第1の補正量を前記主走査方向における前記記録ヘッドの絶対位置に対応づけて第1テーブルに格納する第1テーブル生成手段と、
前記キャリッジの走査速度に関する情報から第2の補正量を取得し、該第2の補正量を前記キャリッジの走査開始位置からの相対位置に対応づけて第2テーブルに格納する第2テーブル生成手段と、
前記キャリッジの各走査の前に、前記走査開始位置を取得して前記絶対位置における前記相対位置の位置合わせを行い、前記第1の補正量と前記第2の補正量から第3の補正量を算出して、該第3の補正量を前記絶対位置に対応付けて第3テーブルに格納する第3テーブル生成手段と、
前記キャリッジを走査させながら、前記第3テーブルに格納された前記第3の補正量に従って、前記記録ヘッドからインクを吐出するタイミングを制御する手段と
を備えることを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記記録ヘッドから吐出されるインクの吐出速度をVd、前記走査速度の基準値をVs、Vsからの変動量をΔVs、前記紙間距離の基準値をD、Dからの変動量をΔDとして、
前記第1テーブル生成手段は、前記第1の補正量であるΔXdを、ΔXd=ΔD×Vs/Vdによって取得し、
前記第2テーブル生成手段は、前記第2の補正量であるΔXvを、ΔXv=D×ΔVs/Vdによって取得し、
前記第3テーブル生成手段は、前記第3の補正量であるΔXを、ΔX=ΔXd+ΔXv+ΔXd×ΔXv/(D×Vs/Vd)によって取得することを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記キャリッジには前記紙間距離を測定することが可能な光学センサが備えられており、前記第1テーブル生成手段は、前記キャリッジを走査させることによって得られる前記絶対位置に対応する前記紙間距離に基づいて、前記第1の補正量を取得することを特徴とする請求項1または2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記第3テーブル生成手段は、前記記録装置における前記キャリッジの位置を検出することが可能なエンコーダセンサを用いて前記走査開始位置を取得することを特徴とする請求項1または2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
インクを吐出する記録ヘッドを搭載したキャリッジを主走査方向に走査させながら記録媒体に画像を記録するインクジェット記録方法であって、
前記記録ヘッドの吐出面と前記記録媒体の距離である紙間距離から第1の補正量を取得し、該第1の補正量を前記主走査方向における前記記録ヘッドの絶対位置に対応づけて第1テーブルに格納する第1テーブル生成工程と、
前記キャリッジの走査速度に関する情報から第2の補正量を取得し、該第2の補正量を前記キャリッジの走査開始位置からの相対位置に対応づけて第2テーブルに格納する第2テーブル生成工程と、
前記キャリッジの各走査の前に、前記走査開始位置を取得して前記絶対位置における前記相対位置の位置合わせを行い、前記第1の補正量と前記第2の補正量から第3の補正量を算出して、該第3の補正量を前記絶対位置に対応付けて第3テーブルに格納する第3テーブル生成工程と、
前記キャリッジを走査させながら、前記第3テーブルに格納された前記第3の補正量に従って、前記記録ヘッドからインクを吐出するタイミングを制御する工程と
を有することを特徴とするインクジェット記録方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−10196(P2013−10196A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−142873(P2011−142873)
【出願日】平成23年6月28日(2011.6.28)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】