インクジェット記録装置およびインクジェット記録方法
【課題】画像の位置によって濃度が異なる加増であっても、走査間の画像ムラを低減する。
【解決手段】インクを吐出する複数の記録素子が記録媒体の搬送方向に配列された記録ヘッドを記録媒体の所定の領域を複数回往復走査させて記録を行うインクジェット記録装置であって、所定の領域の記録データを、複数のブロックに分割し、それぞれのブロックの記録データから記録ドット数をそれぞれ検出し、検出された記録ドット数からインクが定着するのに要する定着時間をブロック毎に算出し、算出された定着時間と、定着時間が算出された記録走査の前に行う記録走査の記録媒体の搬送方向上流側に位置するブロックからの経過時間とに基づき、待機時間をブロック毎に決定し、定着時間が算出された記録走査の前に行う記録走査が終了してから定着時間が算出された記録走査を行う前に、決定しているブロック毎のうち一番長い待機時間、待機してから記録走査を行う。
【解決手段】インクを吐出する複数の記録素子が記録媒体の搬送方向に配列された記録ヘッドを記録媒体の所定の領域を複数回往復走査させて記録を行うインクジェット記録装置であって、所定の領域の記録データを、複数のブロックに分割し、それぞれのブロックの記録データから記録ドット数をそれぞれ検出し、検出された記録ドット数からインクが定着するのに要する定着時間をブロック毎に算出し、算出された定着時間と、定着時間が算出された記録走査の前に行う記録走査の記録媒体の搬送方向上流側に位置するブロックからの経過時間とに基づき、待機時間をブロック毎に決定し、定着時間が算出された記録走査の前に行う記録走査が終了してから定着時間が算出された記録走査を行う前に、決定しているブロック毎のうち一番長い待機時間、待機してから記録走査を行う。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録装置およびインクジェット記録方法に関し、特に、所定の領域を複数回走査することにより画像を完成するインクジェット記録装置およびインクジェット記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置では、記録ヘッドからインクを吐出させながら主走査方向に記録ヘッドを走査させる動作と、副走査方向へ記録媒体を搬送させる動作を交互に行い記録を実行する方式がある。このような記録方法により、所定の領域の複数回の走査を往復走査の双方向で行うマルチパス記録を行った場合、記録媒体の記録位置によっては各スキャン間で記録時間差が発生する。
【0003】
例えば所定の領域を双方向の走査を用いて4回で記録を行う記録の場合、記録媒体の主走査方向の記録開始位置に近い領域Aでは第1回目の主走査で主走査開始直後にインクが記録され、記録ヘッドは記録媒体の第1回目の走査の記録開始位置と反対側で停止する。そして第2回目の主走査では第1回目の記録開始位置と反対側から近い位置から走査を開始するため、領域Aでは主走査終了間際でインクが記録され、記録ヘッドは元の記録開始位置で停止する。同様に第3回目の主走査では主走査開始直後に領域Aにインクが記録され、第4回目の主走査では主走査終了間際でインクが記録される。このように領域Aでは前回の主走査でのインクの記録から次の主走査でのインクの記録までの時間が短い、長い、短い、長い、の繰り返しとなる。
【0004】
一方、走査の中間に位置する記録媒体の領域では、中間に位置しているため第1回目から第4回目の主走査全てで主走査開始からほぼ同じ時間が経過後にインクが記録される。したがって、走査の中間に位置している領域では前回の主走査でのインクの記録から次の主走査でのインクの記録までの時間がほぼ等しくなる。
【0005】
インクが記録されてからすぐに次の走査でインクが記録された場合、後から記録されたインクが溢れて記録媒体表層に定着せず内部に浸透する傾向がある。一方、インクが記録されてから次の走査まで十分に時間をとって記録された場合には、後から記録されたインクも記録媒体表層に定着する。そのため、各記録走査間で記録時間差がある場合、インクの定着状態が異なることにより、走査方向の両端の領域では、走査間で濃度ムラが発生してしまう。
【0006】
より多パス記録にすると1回の記録走査で記録するインク量が減少するため、この時間差ムラは軽減する。すなわち、4パス記録の場合と比較して8パス記録の場合の時間差ムラは目立ちにくくなる。しかしながら、多パス化した場合、画像を完成するのに要する記録走査回数が倍増するため記録速度は遅くなってしまう。高速記録を行うためには、より記録回数の少ない低パス記録を行うことが必要であるが、低パス記録では時間差ムラが顕著に現われる。
【0007】
このような記録時間差による時間差ムラに対して、各記録走査間にそれぞれ所定の待機時間を設け、インクが十分に定着してから次の記録を行うことで時間差ムラを低減する記録方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平07−047695号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
各記録走査間に一定の待機時間を設ける技術では、走査間で必ず記録が開始前に所定の時間待機するため、先に付与されたインクが乾燥してから次のインクが付与されるため、記録走査間の時間差によるムラを解消することができる。
【0010】
しかしながら、例えば、画像と文字が混在する画像や、1つの絵であっても場所により濃度が異なる画像である場合など、画像の位置によって使用されるインクの量は異なることがある。このような画像の位置によって濃度が異なる画像を記録する場合、上述の技術によりそれぞれの走査においてインクの量に寄らず一律に所定の時間待機すると、インク量が少なく乾燥時間が短くすむような走査の後であっても、所定の時間待機しなければならない。
【0011】
このように、画像の位置によって濃度が異なる画像であってもそれぞれの走査間で必ず待機時間を設けるとすれば、インクを乾燥させるために待機する必要がない走査がある場合には、生産性が損なわれてしまう。
【0012】
本発明は以上の点を鑑みてなされたものであり、画像の位置によって濃度が異なる加増であっても、生産性を損なうことなく走査間の画像ムラを低減するインクジェット記録装置およびインクジェット記録方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
そのために本発明では、インクを吐出する複数の記録素子が記録媒体の搬送方向に配列された記録ヘッドを前記記録媒体の所定の領域を複数回往復走査させて記録を行うインクジェット記録装置であって、前記所定の領域の記録データを、複数のブロックに分割し、該複数のブロックのそれぞれのブロックの記録データから記録ドット数をそれぞれ検出する検出手段と、前記検出手段により検出された記録ドット数からインクが定着するのに要する定着時間をブロック毎に算出する定着時間算出手段と、前記定着時間算出手段により算出された定着時間と、該定着時間が算出された記録走査の前に行う記録走査の前記記録媒体の搬送方向上流側に位置するブロックからの経過時間とに基づき、待機時間を前記ブロック毎に決定する待機時間決定手段と、を備え、前記定着時間が算出された記録走査の前に行う記録走査が終了してから前記定着時間が算出された記録走査を行う前に、前記待機時間決定手段により決定された前記ブロック毎の待機時間のうち一番長い前記待機時間、待機してから前記定着時間が算出された記録走査を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
以上の構成によれば、記録データを複数のブロックに分割して、乾燥時間を求めることで、それぞれの記録走査ごとに待機時間を求めることができる。これにより、
本発明は以上の点を鑑みてなされたものであり、画像の位置によって濃度が異なる加増であっても、生産性を損なうことなく走査間の画像ムラを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】第1の実施形態のインクジェット記録装置の構成を示す概略斜視図である。
【図2】図1に示した記録装置の記録制御系回路の概略構成を示すブロック図である。
【図3】第1の実施形態の記録装置におけるデータ処理の流れを示すブロック図である。
【図4】第1の実施形態の各記録走査を行う処理の流れを示すフローチャートである。
【図5】図4に示した待機時間判定処理の流れを示すフローチャートである。
【図6】図5に示したドットカウントのブロックを説明するための模式図である。
【図7】第1の実施形態における4パス記録の記録方法を説明するための模式図である。
【図8】第1の実施形態の検出されたドット数と定着時間の関係を示す図である。
【図9】第1の実施形態の記録時間差を算出するための模式図である。
【図10】図9の走査間の時間差をまとめた表である。
【図11】第1の実施形態の待機時間決定の方法を説明するための図である。
【図12】図11に示す第2記録走査の待機時間の算出方法を説明するための図である。
【図13】第3記録走査における待機時間の算出方法を説明するための図である。
【図14】第4記録走査における待機時間の算出方法を説明するための図である。
【図15】各記録走査における決定された待機時間を示す図である。
【図16】第2の実施形態のドット数と定着時間の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。
(第1の実施形態)
図1は、本実施形態のインクジェット記録装置の構成を示す概略斜視図である。本実施形態のインクジェット記録装置はカラーインクを使用して記録を行う記録装置である。インクタンク211〜214は、4色のインク(ブラック、シアン、マゼンダ、イエロー:K、C、M、Y)をそれぞれ収容しており、これら4色のインクを記録ヘッド201〜204に対して供給可能に構成されている。記録ヘッド201〜204は、4色のインクに対応して設けられ、インクタンク211〜214から供給されるインクを吐出できるように構成されている。
【0017】
搬送ローラ104は、補助ローラ103とともに記録媒体(記録用紙)107を挟持しながら回転して記録媒体107を搬送するとともに、記録媒体107を保持する役割も担っている。キャリッジ106は、インクタンク211〜214および記録ヘッド201〜204を搭載可能であって、これら記録ヘッドおよびインクタンクを搭載しながら主走査方向(X方向)に沿って往復移動可能に構成されている。このキャリッジ106の往復移動中に記録ヘッドの記録素子からインクが吐出され、これにより記録媒体に画像が記録される。記録ヘッド201〜204の回復動作時等の非記録動作時には、このキャリッジ106は図中の点線で示したホームポジション位置hに待機するように制御される。
【0018】
記録開始前にキャリッジ106と共に図1に示すホームポジションhに位置する記録ヘッド201〜204は、記録開始命令が入力されると、図中のX方向に移動しつつ、インクを吐出して記録媒体107上に画像を記録する。記録ヘッド201〜204には各々128個のノズル(吐出口)が75dpiの間隔で等間隔に備えられている。この記録ヘッドの1回の移動によって、記録ヘッドのノズルの配列範囲に対応した幅を有する領域に対して記録が行われる。記録走査が終了してから、続く記録走査が始まる前には搬送ローラ104が回転して、搬送方向(図中のY方向)に記録媒体が搬送される。続いてホームポジジョンhに向かって−X方向に移動しつつ、インクを吐出して記録媒体107上に画像を記録する。このように記録ヘッドの記録走査と記録媒体の搬送とを繰り返すことにより記録媒体107上への記録が完成する。なお、本実施形態の記録の詳細動作については後述する。また、記録ヘッド201〜204からインクを吐出する記録動作は、後述の制御手段による制御に基づいて行われる。
【0019】
図2は、図1に示したカラーインクジェット記録装置の記録制御系回路の概略構成を示すブロック図である。本実施形態の記録装置の記録制御回路は、記録信号や記録に関連する制御信号を入力するインターフェ−ス400、MPU401を有する。また、ROM402は、MPU401が実行する制御プログラム等を格納するメモリである。ダイナミック型のRAM(DRAM)403は、各種データ(記録ヘッド201〜204に供給される記録信号や記録のための制御信号等)を保存する。また、RAM403には、記録ドット数や記録ヘッド201〜204の交換回数等も記憶が可能である。ゲートアレイ404は、記録ヘッド201〜204に対する記録データの供給制御を行い、インターフェース400、MPU401、RAM403間のデータの転送制御も行う。RAM403は、CMYK夫々の2値の記録データを格納するためのプリントバッファを含む。各色のプリントバッファ夫々には、吐出を示す2値データと非吐出を示す2値データとで構成される各色の2値の記録データが格納される。プリントバッファに格納された各色の2値データはMPU401によって読み出され、読み出された各色の2値データは記録ヘッドへ送信される。記録ヘッドは、こうして送信された各色の2値データに基づいて記録を行う。以上が記録制御部500を構成している。
【0020】
また、キャリッジモータ406は、記録ヘッド201〜204を搭載するキャリッジ106を往復移動させるためのモータである。搬送モータ405は、記録媒体107の搬送のために搬送ローラ104を回転させる。モータドライバ408および407は、搬送モータ405およびキャリッジモータ406をそれぞれ駆動するためのドライバである。ヘッドドライバ409は、記録ヘッド201〜204を駆動し、記録ヘッドの数に対応して複数設けられている。また、ヘッド種別信号発生回路410は、キャリッジ106に相当するヘッド部501に搭載されている記録ヘッド201〜204の種類や数を示す信号をMPUに与える。
【0021】
図3は、本実施形態の記録装置1201におけるデータ処理の流れを示すブロック図である。まず、ホストPC1200からインターフェース400を介して入力多値RGBデータ601が転送される。プリンタ1201では、多値RGBデータ601から多値のK、C、M、Yデータ603への変換処理602が行われる。多値K、C、M、Yデータ603は所定の量子化方法で2値のK、C、M、Yデータ604に量子化される。そして、量子化された2値のCMYデータ603に基づいて、記録ヘッド201〜204にて記録が実行される。
【0022】
次に、本実施形態の記録方法について説明をする。本実施形態の記録方法では、画像を複数の領域に分割し、分割されたそれぞれの領域毎のインク使用量および記録走査間の記録時間差に基づきそれぞれの走査について次の記録走査開始までの待機時間を決定する。そして、それぞれの走査について決定された待機時間分、その走査を行うまで待機し、記録を実行する。次の走査を行う前に決定された待機時間分待機することにより、インクが定着しない間に次のインクが付与されることによる色ムラを回避し、高品質の画像を提供することができる。なお、本実施形態では所定の領域を第1回目の走査から第4回目の走査の4回の記録走査で記録を完了する4パス記録の場合を例にとって説明を行う。
【0023】
図4は、本実施形態の各記録走査を行うときの処理の流れを示すフローチャートである。本処理は前の記録走査が終了し、次の記録走査を開始する際に実行する処理である。前の記録走査が終了すると、後述する待機時間判定処理を行い、次の記録走査を開始するまでの待機時間を決定する(ステップS101)。そして、次の記録走査開始まで決定された待機時間分待機し(ステップS102)、待機後に記録を実行する(ステップS103)。
【0024】
図5は、図4に示した待機時間判定処理(ステップS101)の流れを示すフローチャートである。まず、判定を行う記録走査が、記録媒体に対して第1回目の走査か否かの判定を行う(ステップS201)。第1回目の走査であれば記録媒体に対して初めての記録であるため待機する必要がないので判定処理を終了する。
【0025】
第1回目の走査でない場合、後述する記録領域を分割した領域であるブロック毎に記録ドット数のドットカウントを行い、ドット数を検出する(ステップS202)。ドットカウントは次の記録走査で記録を行う記録ヘッドの記録媒体の搬送方向の長さ(記録ヘッド幅)に相当する領域に対して行う。
【0026】
次に、ドットカウント値および各ブロックへの記録回数情報から、各ブロックの定着時間(Tdz)を算出する(ステップS203)。また、各ブロックの記録時間差(Ttz)を算出する(ステップS204)。そして、ステップS203で算出した定着時間(Tdz)と、ステップS204で求めた記録時間差(Ttz)に基づき、各ブロックの待機時間(Twz)を算出する(ステップS205)。算出されたブロック毎の待機時間(Twz)のうち最も大きい値を待機時間(Tw)とし(ステップS206)、処理を終了する。
【0027】
図6は、図5に示したドットカウント(ステップS202)のブロックを説明するための模式図であり、C、M、Y、K用プリントバッファの内部の様子を示している。このプリントバッファには記録ヘッドの1回の走査で記録可能な領域に対応する各色に対応した記録データが格納される。この各色用記録データは各色インクの吐出を示す2値データと非吐出を示す2値データとで構成される。1つのブロックの大きさは、副走査方向32dot×主走査方向1200dot(75dpi)の領域に対応する各色用記録データに対応するものとする。
【0028】
本実施形態では、記録ヘッドのノズルの配列記録幅分(本実施形態では128dot)×主走査方向の記録範囲幅(本実施形態では1200dot)を有する記録領域を副走査および主走査方向に向かって4個に分割することにより得られる単位領域を、ドットカウント単位である「ブロック」として定めている。本実施形態ではこのように、ノズルの配列および記録幅をそれぞれ4分割にしたそれぞれの領域を1つのブロックとしているが、本発明のブロックのサイズはこのような大きさに限定されるものではない。すなわち、記録走査の幅や使用する装置の使用等、使用するインクに応じてブロックのサイズや分割数を設定すればよい。
【0029】
記録ヘッドの記録走査1回分のデータ、すなわち、(ノズル数)×(走査方向のドット数)分のデータは、記録媒体搬送方向(副走査方向)および主走査方向に16個のブロックに分割される。各ブロックにおける縦32dot×横300dotの領域には画素に対して、吐出“1”を示すデータあるいは非吐出“0”を示すデータが対応付けられている。
【0030】
記号L1、L2、L3、L4(搬送方向)およびK1、K2、K3、K4(主走査方向)は以下の説明のために各ブロックの位置を表すために割り振ったものである。例えば、紙送り方向にL1、主走査方向にK1に位置するブロックはL1K1というように定義して以下の説明で用いていく。
【0031】
各ブロックのドットカウントは、ブロック毎にC、M、Y、K各色データに対して実行し、Dc、Dm、Dy、Dkを算出する。例えばCデータのうち吐出“1”のCデータのみをカウントして得られるそのブロックの記録を示すCデータ数(駆動回数)の総和がCのドットカウント値Dcとなる。同様にM、Y、Kに対してもブロック毎に記録を示すデータ(吐出“1”を示すデータ)をカウントする。最後にカウントした各色ドットカウント値を合計し、Dtを算出する。こうしてカウントされた各ブロックにおけるドットカウント数の結果は、各ブロックに記録されるインク量に相当する。
【0032】
図7は、本実施形態における4パス記録の記録方法を説明するための模式図である。本図において、記録媒体上の斜線部分の記録領域を記録する場合を例にとって説明する。斜線部分の領域は第2記録走査(第1回目の走査)から第5記録走査(第2回目の走査)までの4回の記録走査で記録を完了する。まず、第2記録走査(第1回目の走査)で記録ヘッドの下側1/4に対応する斜線の部分のノズルを使用して主走査方向と逆方向に向かって記録を行い、32ノズル幅分紙送り方向に記録媒体を搬送する。次に第3記録走査(第2回目の走査)において記録ヘッドの中心から下側1/4の斜線の部分のノズルを使用して主走査方向に向かって記録を行い、32ノズル幅分紙送り方向に記録媒体を搬送する。続いて第4録走査(第3回目の走査)において記録ヘッドの中心から上側1/4の斜線の部分のノズルを使用して主走査方向と逆方向に向かって記録を行い、32ノズル幅分紙送り方向に記録媒体を搬送する。最後に第5記録走査(第4回目の走査)において記録ヘッドの上端側1/4に対応する斜線の部分を使用して主走査方向に向かって記録を完了する。ここでは斜線の部分の領域の記録方法について説明したが、その他の領域についても同様の方法で記録を行う。
【0033】
図8は、本実施形態の検出されたドット数と定着時間の関係を示す図である。本図にも続いて、定着時間(Tdz)の算出方法について説明する。
【0034】
縦方向に各ブロックでカウントされたドットカウントの値Dtを、横方向に定着時間(Tdz)を示している。図7を用いて説明したように、4パス記録では第1回目の走査から第4回目の走査の4回の記録走査で記録を完了する。第2記録走査から記録する際、この走査は第1回目の走査のため斜線部分の領域に対する最初の記録となる。そのため、第1回目の走査では、定着時間を設定する必要はない。第3〜第5記録走査、すなわち第2回目の走査から第4回目の走査では、斜線部分の記録において、その前の記録走査で記録が行われている。そのため、次の記録走査で記録を行う前にインクがメディアに定着する時間を設定する必要がある。ドットカウント値および各ブロックへの記録回数情報から、各ブロックの定着時間算出を行う際には、処理を行うブロックが4パス記録の4回の記録走査の中で、第1回目の走査であれば図8の第1回目の走査の欄を参照し、定着時間算出を行う。一方、第2〜4回目の走査であれば第2〜第4回目の走査の欄を参照し、定着時間算出を行う。
【0035】
例えばドット数Dtが3000、第3回目の走査に該当するブロックの場合、0≦Dt<4800、第2〜第4回目の走査の欄を参照し、定着時間は0となる。この条件では記録されるインク量が少ないためインクは記録媒体上に短時間で定着する。そのためすぐに次の記録走査で記録を行っても時間差ムラは発生しない。
【0036】
別の例として、ドット数Dtが10000、第2回目の走査に該当するブロックの場合、9600≦Dt<14400、第2〜第4回目の走査の欄を参照し、定着時間は1.2秒となる。この条件では記録されるインク量が多くなるため、記録媒体上にインクが定着するまでに時間が必要となる。この場合、すぐに次の記録走査で記録を行うと時間差ムラが発生してしまう。
【0037】
さらに別の例として、ドット数Dtが15000、第1回目の走査に該当するブロックの場合、14400≦Dt、第1回目の走査の欄を参照し、定着時間は0秒となる。この条件ではインク量は多いが、第1回目の走査であるため、定着時間を設定する必要はない。
【0038】
以上のように、各ブロックのドットカウント結果と記録回数からブロック毎に定着時間(Tdz)を算出することができる。
【0039】
次に、記録時間差(Ttz)の算出方法について説明する。
【0040】
図9は、本実施形態の記録時間差を算出するための模式図である。すなわち、図9では、搬送方向上流側のブロックの記録を行ってからのそれぞれのブロックの経過時間を算出するための図である。
【0041】
図9(a)は、第1回目の走査と第2回目の走査を、図9(b)は、第2回目の走査と第3回目の走査について示している。本実施形態の記録ヘッドの主走査速度は8inch/s、記録開始前、記録終了後の記録ヘッドの加速及び減速時間は0.25秒である。副走査方向への記録媒体の搬送は各記録走査間のヘッドの加速、減速時間内に行う。
【0042】
図9(a)において、記録ヘッド201〜204は、第1回目の走査で主走査方向に向かって記録を終了後、図示する位置に停止している。第2回目の走査開始前の時点を基準に考えると、走査速度と加速、減速時間の関係からK1L1ブロックの中心を第1回目の走査において2.0秒前に記録されていることが分かる。同様にK2L1ブロックの中心は1.5秒前、K3L1ブロックの中心は1.0秒前、K4L1ブロックの中心は0.5秒前に記録されている。また、第2回目の走査をすぐに開始した場合、走査速度および加速、減速時間の関係からK1L1ブロックの中心は2.0秒後に記録されることになる。同様にK2L1ブロックの中心は1.5秒後、K3L1ブロックの中心は1.0秒後、K4L1ブロックの中心は0.5秒後に記録されることになる。このように第2回目の走査をすぐに開始した場合、第1第2回目の走査間でK1L1ブロックは第1記録走査で記録されてから4.0秒後に第2記録走査で記録されることになる。同様にK2L1ブロックは3.0秒、K3L1ブロックは2.0秒、K4L1ブロックは1.0秒の記録時間差で記録されることになる。
【0043】
図9(b)において、記録ヘッド201〜204は、第2回目の走査で主走査方向と逆方向に向かって記録を終了後、図示する位置に停止している。第3回目の走査開始前の時点を基準に考えると、走査速度と加速、減速時間の関係からK1L1ブロックの中心を第2回目の走査において0.5秒前に記録されていることが分かる。同様にK2L1ブロックの中心は1.0秒前、K3L1ブロックの中心は1.5秒前、K4L1ブロックの中心は2.0秒前に記録されている。また、第3回目の走査で記録走査をすぐに開始した場合、走査速度および加速、減速時間の関係からK1L1ブロックの中心は0.5秒後に記録されることになる。同様にK2L1ブロックの中心は1.0秒後、K3L1ブロックの中心は1.5秒後、K4L1ブロックの中心は2.0秒後に記録されることになる。このように第2回目の走査をすぐに開始した場合、第2第3回目の走査間でK1L1ブロックは第2回目の走査で記録されてから1.0秒後に第3回目の走査で記録されることになる。同様にK2L1ブロックは2.0秒、K3L1ブロックは3.0秒、K4L1ブロックは4.0秒の記録時間差で記録されることになる。
【0044】
図10は、図9を用いて説明した各ブロックの第1第2回目の走査間の時間差および第2第3回目の走査間の時間差をまとめた表である。本図に示すように、ブロックの位置および主走査方向が記録走査毎に異なるために記録時間差もブロックの位置および記録走査方向によって変化する。以上のように走査速度と、加速、減速時間の関係からブロック毎に記録時間差を算出する。
【0045】
次に待機時間(Twz)の算出方法および待機時間(Tw)の決定方法について説明する。
【0046】
図11は、本実施形態の待機時間決定の方法を説明するための図である。本図では、それぞれの走査のブロック毎にドットカウント値(Dt)を示している。
【0047】
図12は、図11に示す第2記録走査における待機時間(Twz)の算出方法を説明するための図である。第2記録走査では、図12(a)に示す斜線で塗りつぶされた領域が待機時間判定処理の対象となる。図12(b)は、第1記録走査における定着時間(Tdz)を示している。ここで、L2K1、L2K2、L2K3、L2K4ブロックは4パス記録の第1回目の走査から第4回目の走査の4回の記録走査のうち第1回目の記録にあたる。そのため定着時間(Tdz)は図8の第1記録の欄を参照し、算出する。
【0048】
図8に示す第1回目の記録の欄を参照すると、ドットカウント値(Dt)の数に関わらず0秒となる。
【0049】
また、第1記録走査において、L1K1、L1K2、L1K3、L1K4ブロックは2回目の記録にあたるため、定着時間(Tdz)は図8の第2〜第4記録の欄を参照し、Dtの値に応じて算出する。
【0050】
図12(c)は、第2回目の走査における記録時間差(Ttz)を示している。各ブロックの待機時間(Twz)は下記式で算出する。
Twz=Tdz−Ttz 式(1)
但し、Twzがマイナスの場合はTwz=0である。
【0051】
図12(d)は、式(1)にて算出された第2回目の走査における各ブロックの待機時間(Twz)である。最後に算出された各ブロックの待機時間(Twz)の値を全て比較し、最も大きい値を待機時間Twに決定する(ステップS206)。第2回目の走査の場合、全て0秒のためTwは0秒となる。
【0052】
図13は、第3記録走査における待機時間(Twz)の算出方法を説明するための図である。第3記録走査では、図13(a)に示す斜線で塗りつぶされた領域が待機時間判定処理の対象となる。図13(b)は、第3記録走査における定着時間(Tdz)、図13(c)は、記録時間差(Ttz)である。ここで、L3K1、L3K2、L3K3、L3K4ブロックは4パス記録の4回の記録走査のうち1回目の記録にあたる。そのため定着時間(Tdz)は図8の第1記録の欄を参照し、算出する。この場合全て0秒となる。L2K1、L2K2、L2K3、L2K4ブロックは2回目の記録にあたるため、定着時間(Tdz)は図8の第2〜第4記録の欄を参照し、Dtの値に応じて算出する。同様に、L1K1、L1K2、L1K3、L1K4ブロックは3回目の記録にあたるため、定着時間(Tdz)は図8の第2〜第4記録の欄を参照し、Dtの値に応じて算出する。
【0053】
図13(d)は、式(1)を用いて算出した第3記録走査における各ブロックの待機時間(Twz)である。最後に、第2回目の走査の場合と同様に、算出された各ブロックの待機時間(Twz)の値を全て比較し、最も大きい値を第3回目の走査における待機時間Twに決定する(ステップS206)。第3回目の走査の場合、全て0秒のためTwは0秒となる。
【0054】
図14は、第4記録走査における待機時間(Twz)の算出方法を説明するための図である。第4記録走査では、図14(a)に示す斜線で塗りつぶされた領域が待機時間判定処理の対象となる。図14(b)は、第4回目の走査における定着時間(Tdz)、図14(c)は、記録時間差(Ttz)である。ここで、L4K1、L4K2、L4K3、L4K4ブロックは4パス記録の4回の記録走査のうち1回目の記録にあたる。そのため定着時間(Tdz)は図8の第1記録の欄を参照し、算出する。この場合全て0秒となる。L3K1、L3K2、L3K3、L3K4ブロックは2回目の記録にあたるため、定着時間(Tdz)は図8の第2〜第4記録の欄を参照し、Dtの値に応じて算出する。同様に、L2K1、L2K2、L2K3、L2K4ブロックは3回目の記録にあたるため、定着時間(Tdz)は図8の第2〜第4記録の欄を参照し、Dtの値に応じて算出する。同様に、L1K1、L1K2、L1K3、L1K4ブロックは4回目の記録にあたるため、定着時間(Tdz)は図8の第2〜第4記録の欄を参照し、Dtの値に応じて算出する。
【0055】
図14(d)は、式(1)を用いて算出した第3記録走査における各ブロックの待機時間(Twz)である。最後に、算出された各ブロックの待機時間(Twz)の値を全て比較し、ブロック毎の待機時間のうち一番長い時間を第4記録走査における待機時間Twに決定する(ステップS206)。第4記録走査の場合、図14(c)において斜線で塗りつぶしたL3K4ブロックの1.0秒が最も大きい値のため待機時間Twは1.0秒となる。
【0056】
第5から第7記録走査も同様に記録走査毎に判定処理を行い、待機時間(Tw)を決定する。
【0057】
図15は、各記録走査における決定された待機時間(Tw)を示すである。待機時間が必要と判定されたのは第4記録走査と第6記録走査であって、それぞれ待機時間(Tw)は1.0秒である。
【0058】
以上が待機時間判定処理(ステップS101)の内容に関する説明である。待機時間判定処理(ステップS101)が終わると、各記録走査毎に決定された待機時間(Tw)に基づき、記録走査開始前に待機時間(Tw)分待機し(ステップS102)、記録走査を実行する(ステップS103)。このように本実施形態に示す処理を行うことで時間差ムラ低減のために必要かつ最低限の待機時間設定ができる。
【0059】
なお、本実施形態において、ドットカウントを行うブロックは説明を簡単にするために300ドット×32ドットの大きさとしたが、本発明はこのサイズに限定されるものではない。精度を高めるために例えば32×32ドットなど、より小さいサイズに設定しても構わない。時間差ムラ低減の効果と処理能力の観点から最適なサイズを設定すればよい。
【0060】
また、上述した実施形態に示したように、本実施形態の構成によれば同じ記録データであっても直前の記録走査の方向と判定処理を実行する記録走査の方向によって決定される待機時間は異なる。例えば、同じ記録データであっても、直前の記録走査が主走査方向、待機時間の判定を行う記録走査が主走査と逆方向の場合に決定される待機時間がAとする。一方、直前の記録走査が主走査と逆方向、待機時間の判定を行う記録走査が主走査方向の場合には待機時間はAとは異なる値Bと決定されることもある。但し、条件によっては同じ値に決定される場合もある。つまり本実施形態によれば、記録データによって一律に待機時間を決定するのではなく、記録走査方向によって必要かつ最適な待機時間を決定することができる。
【0061】
また、本実施形態においてドットカウント値(Dt)は、各色毎にカウントを行い、そのまま全色を合算している。しかしながらインクの種類、物性によって時間差ムラの発生程度は異なることがある。そのため、例えば、Yインクのドットカウント値に係数を乗算してから合算するというようにムラに大きく影響を与える特定のインクに重み付けをするようにしてもよい。
【0062】
また、本実施形態において、定着時間(Tdz)はドットカウント値(Dt)に応じて一律に決まる構成となっている。しかし、インクまたは記録メディアの種類、物性によって時間差ムラの程度が異ることがある。このようなムラの程度に対して、インクやメディアによって時間差ムラが発生しない最適な定着時間(Tdz)を適時設定するようにしてもよい。
【0063】
また、本実施形態では4パス記録を例にとって説明したが、本実施形態では所定の領域を複数回往復走査させて記録を行うものであればよい。例えば2パス、8パス、16パスといったパス数においても同様の考えで記録走査毎に判定処理を行い必要な場合のみ待機動作を行うことができる。
【0064】
(第2の実施形態)
第1の実施形態では、各ブロックのドット数から定着時間を算出するためのドット数(Dt)と定着時間(Tdz)の関係を示すテーブルは、4回の記録のうち1回目の記録走査と2回から4回目の記録走査に分けてドット数から定着時間を算出した。しかしながら、本実施形態では、ドット数(Dt)と定着時間(Tdz)の関係を示すテーブルは、1回目の記録走査から4回目の記録走査のそれぞれに分けてドット数から定着時間を算出するものである。
【0065】
図16は、本実施形態のドット数(Dt)と定着時間(Tdz)の関係を示す図である。各ブロックでカウントされたドットカウントの値Dtによって必要となる定着時間を表している。それぞれの記録回数で算出方法を変更するのは、既に記録されているインク量が多いほど、後から記録されるインクはメディアに浸透できなくなるため、より長い定着時間が必要となるためである。
【0066】
例えばドット数(Dt)が6000、2回目の記録走査に該当するブロックの場合、4800≦Dt<9600、第2記録の欄を参照し、定着時間(Tdz)は0.5秒となる。一方ドット数(Dt)が同じく6000、4回目の記録走査に該当するブロックの場合、4800≦Dt<9600、第4記録の欄を参照し、定着時間(Tdz)は0.8秒となる。
【0067】
また別の例として、ドット数(Dt)が15000、1回目の記録走査に該当するブロックの場合、14400≦Dt、第1記録の欄を参照し、定着時間(Tdz)は0秒となる。一方、ドット数(Dt)が同じく15000、3回目の記録走査に該当するブロックの場合、14400≦Dt、第3記録の欄を参照し、定着時間(Tdz)は2.4秒となる。
【0068】
以上のように各ブロックのドットカウント結果と記録回数からブロック毎に定着時間(Tdz)を算出する。このように記録回数に応じて算出する定着時間(Tdz)を変更することで、記録回数によって定着時間が大きく異なるような特性を持ったメディアであっても本実施形態に示す処理を行うことで必要かつ最低限の待機時間設定が可能となる。
【符号の説明】
【0069】
106 キャリッジ
107 記録媒体
201〜204 記録ヘッド
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録装置およびインクジェット記録方法に関し、特に、所定の領域を複数回走査することにより画像を完成するインクジェット記録装置およびインクジェット記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置では、記録ヘッドからインクを吐出させながら主走査方向に記録ヘッドを走査させる動作と、副走査方向へ記録媒体を搬送させる動作を交互に行い記録を実行する方式がある。このような記録方法により、所定の領域の複数回の走査を往復走査の双方向で行うマルチパス記録を行った場合、記録媒体の記録位置によっては各スキャン間で記録時間差が発生する。
【0003】
例えば所定の領域を双方向の走査を用いて4回で記録を行う記録の場合、記録媒体の主走査方向の記録開始位置に近い領域Aでは第1回目の主走査で主走査開始直後にインクが記録され、記録ヘッドは記録媒体の第1回目の走査の記録開始位置と反対側で停止する。そして第2回目の主走査では第1回目の記録開始位置と反対側から近い位置から走査を開始するため、領域Aでは主走査終了間際でインクが記録され、記録ヘッドは元の記録開始位置で停止する。同様に第3回目の主走査では主走査開始直後に領域Aにインクが記録され、第4回目の主走査では主走査終了間際でインクが記録される。このように領域Aでは前回の主走査でのインクの記録から次の主走査でのインクの記録までの時間が短い、長い、短い、長い、の繰り返しとなる。
【0004】
一方、走査の中間に位置する記録媒体の領域では、中間に位置しているため第1回目から第4回目の主走査全てで主走査開始からほぼ同じ時間が経過後にインクが記録される。したがって、走査の中間に位置している領域では前回の主走査でのインクの記録から次の主走査でのインクの記録までの時間がほぼ等しくなる。
【0005】
インクが記録されてからすぐに次の走査でインクが記録された場合、後から記録されたインクが溢れて記録媒体表層に定着せず内部に浸透する傾向がある。一方、インクが記録されてから次の走査まで十分に時間をとって記録された場合には、後から記録されたインクも記録媒体表層に定着する。そのため、各記録走査間で記録時間差がある場合、インクの定着状態が異なることにより、走査方向の両端の領域では、走査間で濃度ムラが発生してしまう。
【0006】
より多パス記録にすると1回の記録走査で記録するインク量が減少するため、この時間差ムラは軽減する。すなわち、4パス記録の場合と比較して8パス記録の場合の時間差ムラは目立ちにくくなる。しかしながら、多パス化した場合、画像を完成するのに要する記録走査回数が倍増するため記録速度は遅くなってしまう。高速記録を行うためには、より記録回数の少ない低パス記録を行うことが必要であるが、低パス記録では時間差ムラが顕著に現われる。
【0007】
このような記録時間差による時間差ムラに対して、各記録走査間にそれぞれ所定の待機時間を設け、インクが十分に定着してから次の記録を行うことで時間差ムラを低減する記録方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平07−047695号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
各記録走査間に一定の待機時間を設ける技術では、走査間で必ず記録が開始前に所定の時間待機するため、先に付与されたインクが乾燥してから次のインクが付与されるため、記録走査間の時間差によるムラを解消することができる。
【0010】
しかしながら、例えば、画像と文字が混在する画像や、1つの絵であっても場所により濃度が異なる画像である場合など、画像の位置によって使用されるインクの量は異なることがある。このような画像の位置によって濃度が異なる画像を記録する場合、上述の技術によりそれぞれの走査においてインクの量に寄らず一律に所定の時間待機すると、インク量が少なく乾燥時間が短くすむような走査の後であっても、所定の時間待機しなければならない。
【0011】
このように、画像の位置によって濃度が異なる画像であってもそれぞれの走査間で必ず待機時間を設けるとすれば、インクを乾燥させるために待機する必要がない走査がある場合には、生産性が損なわれてしまう。
【0012】
本発明は以上の点を鑑みてなされたものであり、画像の位置によって濃度が異なる加増であっても、生産性を損なうことなく走査間の画像ムラを低減するインクジェット記録装置およびインクジェット記録方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
そのために本発明では、インクを吐出する複数の記録素子が記録媒体の搬送方向に配列された記録ヘッドを前記記録媒体の所定の領域を複数回往復走査させて記録を行うインクジェット記録装置であって、前記所定の領域の記録データを、複数のブロックに分割し、該複数のブロックのそれぞれのブロックの記録データから記録ドット数をそれぞれ検出する検出手段と、前記検出手段により検出された記録ドット数からインクが定着するのに要する定着時間をブロック毎に算出する定着時間算出手段と、前記定着時間算出手段により算出された定着時間と、該定着時間が算出された記録走査の前に行う記録走査の前記記録媒体の搬送方向上流側に位置するブロックからの経過時間とに基づき、待機時間を前記ブロック毎に決定する待機時間決定手段と、を備え、前記定着時間が算出された記録走査の前に行う記録走査が終了してから前記定着時間が算出された記録走査を行う前に、前記待機時間決定手段により決定された前記ブロック毎の待機時間のうち一番長い前記待機時間、待機してから前記定着時間が算出された記録走査を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
以上の構成によれば、記録データを複数のブロックに分割して、乾燥時間を求めることで、それぞれの記録走査ごとに待機時間を求めることができる。これにより、
本発明は以上の点を鑑みてなされたものであり、画像の位置によって濃度が異なる加増であっても、生産性を損なうことなく走査間の画像ムラを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】第1の実施形態のインクジェット記録装置の構成を示す概略斜視図である。
【図2】図1に示した記録装置の記録制御系回路の概略構成を示すブロック図である。
【図3】第1の実施形態の記録装置におけるデータ処理の流れを示すブロック図である。
【図4】第1の実施形態の各記録走査を行う処理の流れを示すフローチャートである。
【図5】図4に示した待機時間判定処理の流れを示すフローチャートである。
【図6】図5に示したドットカウントのブロックを説明するための模式図である。
【図7】第1の実施形態における4パス記録の記録方法を説明するための模式図である。
【図8】第1の実施形態の検出されたドット数と定着時間の関係を示す図である。
【図9】第1の実施形態の記録時間差を算出するための模式図である。
【図10】図9の走査間の時間差をまとめた表である。
【図11】第1の実施形態の待機時間決定の方法を説明するための図である。
【図12】図11に示す第2記録走査の待機時間の算出方法を説明するための図である。
【図13】第3記録走査における待機時間の算出方法を説明するための図である。
【図14】第4記録走査における待機時間の算出方法を説明するための図である。
【図15】各記録走査における決定された待機時間を示す図である。
【図16】第2の実施形態のドット数と定着時間の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。
(第1の実施形態)
図1は、本実施形態のインクジェット記録装置の構成を示す概略斜視図である。本実施形態のインクジェット記録装置はカラーインクを使用して記録を行う記録装置である。インクタンク211〜214は、4色のインク(ブラック、シアン、マゼンダ、イエロー:K、C、M、Y)をそれぞれ収容しており、これら4色のインクを記録ヘッド201〜204に対して供給可能に構成されている。記録ヘッド201〜204は、4色のインクに対応して設けられ、インクタンク211〜214から供給されるインクを吐出できるように構成されている。
【0017】
搬送ローラ104は、補助ローラ103とともに記録媒体(記録用紙)107を挟持しながら回転して記録媒体107を搬送するとともに、記録媒体107を保持する役割も担っている。キャリッジ106は、インクタンク211〜214および記録ヘッド201〜204を搭載可能であって、これら記録ヘッドおよびインクタンクを搭載しながら主走査方向(X方向)に沿って往復移動可能に構成されている。このキャリッジ106の往復移動中に記録ヘッドの記録素子からインクが吐出され、これにより記録媒体に画像が記録される。記録ヘッド201〜204の回復動作時等の非記録動作時には、このキャリッジ106は図中の点線で示したホームポジション位置hに待機するように制御される。
【0018】
記録開始前にキャリッジ106と共に図1に示すホームポジションhに位置する記録ヘッド201〜204は、記録開始命令が入力されると、図中のX方向に移動しつつ、インクを吐出して記録媒体107上に画像を記録する。記録ヘッド201〜204には各々128個のノズル(吐出口)が75dpiの間隔で等間隔に備えられている。この記録ヘッドの1回の移動によって、記録ヘッドのノズルの配列範囲に対応した幅を有する領域に対して記録が行われる。記録走査が終了してから、続く記録走査が始まる前には搬送ローラ104が回転して、搬送方向(図中のY方向)に記録媒体が搬送される。続いてホームポジジョンhに向かって−X方向に移動しつつ、インクを吐出して記録媒体107上に画像を記録する。このように記録ヘッドの記録走査と記録媒体の搬送とを繰り返すことにより記録媒体107上への記録が完成する。なお、本実施形態の記録の詳細動作については後述する。また、記録ヘッド201〜204からインクを吐出する記録動作は、後述の制御手段による制御に基づいて行われる。
【0019】
図2は、図1に示したカラーインクジェット記録装置の記録制御系回路の概略構成を示すブロック図である。本実施形態の記録装置の記録制御回路は、記録信号や記録に関連する制御信号を入力するインターフェ−ス400、MPU401を有する。また、ROM402は、MPU401が実行する制御プログラム等を格納するメモリである。ダイナミック型のRAM(DRAM)403は、各種データ(記録ヘッド201〜204に供給される記録信号や記録のための制御信号等)を保存する。また、RAM403には、記録ドット数や記録ヘッド201〜204の交換回数等も記憶が可能である。ゲートアレイ404は、記録ヘッド201〜204に対する記録データの供給制御を行い、インターフェース400、MPU401、RAM403間のデータの転送制御も行う。RAM403は、CMYK夫々の2値の記録データを格納するためのプリントバッファを含む。各色のプリントバッファ夫々には、吐出を示す2値データと非吐出を示す2値データとで構成される各色の2値の記録データが格納される。プリントバッファに格納された各色の2値データはMPU401によって読み出され、読み出された各色の2値データは記録ヘッドへ送信される。記録ヘッドは、こうして送信された各色の2値データに基づいて記録を行う。以上が記録制御部500を構成している。
【0020】
また、キャリッジモータ406は、記録ヘッド201〜204を搭載するキャリッジ106を往復移動させるためのモータである。搬送モータ405は、記録媒体107の搬送のために搬送ローラ104を回転させる。モータドライバ408および407は、搬送モータ405およびキャリッジモータ406をそれぞれ駆動するためのドライバである。ヘッドドライバ409は、記録ヘッド201〜204を駆動し、記録ヘッドの数に対応して複数設けられている。また、ヘッド種別信号発生回路410は、キャリッジ106に相当するヘッド部501に搭載されている記録ヘッド201〜204の種類や数を示す信号をMPUに与える。
【0021】
図3は、本実施形態の記録装置1201におけるデータ処理の流れを示すブロック図である。まず、ホストPC1200からインターフェース400を介して入力多値RGBデータ601が転送される。プリンタ1201では、多値RGBデータ601から多値のK、C、M、Yデータ603への変換処理602が行われる。多値K、C、M、Yデータ603は所定の量子化方法で2値のK、C、M、Yデータ604に量子化される。そして、量子化された2値のCMYデータ603に基づいて、記録ヘッド201〜204にて記録が実行される。
【0022】
次に、本実施形態の記録方法について説明をする。本実施形態の記録方法では、画像を複数の領域に分割し、分割されたそれぞれの領域毎のインク使用量および記録走査間の記録時間差に基づきそれぞれの走査について次の記録走査開始までの待機時間を決定する。そして、それぞれの走査について決定された待機時間分、その走査を行うまで待機し、記録を実行する。次の走査を行う前に決定された待機時間分待機することにより、インクが定着しない間に次のインクが付与されることによる色ムラを回避し、高品質の画像を提供することができる。なお、本実施形態では所定の領域を第1回目の走査から第4回目の走査の4回の記録走査で記録を完了する4パス記録の場合を例にとって説明を行う。
【0023】
図4は、本実施形態の各記録走査を行うときの処理の流れを示すフローチャートである。本処理は前の記録走査が終了し、次の記録走査を開始する際に実行する処理である。前の記録走査が終了すると、後述する待機時間判定処理を行い、次の記録走査を開始するまでの待機時間を決定する(ステップS101)。そして、次の記録走査開始まで決定された待機時間分待機し(ステップS102)、待機後に記録を実行する(ステップS103)。
【0024】
図5は、図4に示した待機時間判定処理(ステップS101)の流れを示すフローチャートである。まず、判定を行う記録走査が、記録媒体に対して第1回目の走査か否かの判定を行う(ステップS201)。第1回目の走査であれば記録媒体に対して初めての記録であるため待機する必要がないので判定処理を終了する。
【0025】
第1回目の走査でない場合、後述する記録領域を分割した領域であるブロック毎に記録ドット数のドットカウントを行い、ドット数を検出する(ステップS202)。ドットカウントは次の記録走査で記録を行う記録ヘッドの記録媒体の搬送方向の長さ(記録ヘッド幅)に相当する領域に対して行う。
【0026】
次に、ドットカウント値および各ブロックへの記録回数情報から、各ブロックの定着時間(Tdz)を算出する(ステップS203)。また、各ブロックの記録時間差(Ttz)を算出する(ステップS204)。そして、ステップS203で算出した定着時間(Tdz)と、ステップS204で求めた記録時間差(Ttz)に基づき、各ブロックの待機時間(Twz)を算出する(ステップS205)。算出されたブロック毎の待機時間(Twz)のうち最も大きい値を待機時間(Tw)とし(ステップS206)、処理を終了する。
【0027】
図6は、図5に示したドットカウント(ステップS202)のブロックを説明するための模式図であり、C、M、Y、K用プリントバッファの内部の様子を示している。このプリントバッファには記録ヘッドの1回の走査で記録可能な領域に対応する各色に対応した記録データが格納される。この各色用記録データは各色インクの吐出を示す2値データと非吐出を示す2値データとで構成される。1つのブロックの大きさは、副走査方向32dot×主走査方向1200dot(75dpi)の領域に対応する各色用記録データに対応するものとする。
【0028】
本実施形態では、記録ヘッドのノズルの配列記録幅分(本実施形態では128dot)×主走査方向の記録範囲幅(本実施形態では1200dot)を有する記録領域を副走査および主走査方向に向かって4個に分割することにより得られる単位領域を、ドットカウント単位である「ブロック」として定めている。本実施形態ではこのように、ノズルの配列および記録幅をそれぞれ4分割にしたそれぞれの領域を1つのブロックとしているが、本発明のブロックのサイズはこのような大きさに限定されるものではない。すなわち、記録走査の幅や使用する装置の使用等、使用するインクに応じてブロックのサイズや分割数を設定すればよい。
【0029】
記録ヘッドの記録走査1回分のデータ、すなわち、(ノズル数)×(走査方向のドット数)分のデータは、記録媒体搬送方向(副走査方向)および主走査方向に16個のブロックに分割される。各ブロックにおける縦32dot×横300dotの領域には画素に対して、吐出“1”を示すデータあるいは非吐出“0”を示すデータが対応付けられている。
【0030】
記号L1、L2、L3、L4(搬送方向)およびK1、K2、K3、K4(主走査方向)は以下の説明のために各ブロックの位置を表すために割り振ったものである。例えば、紙送り方向にL1、主走査方向にK1に位置するブロックはL1K1というように定義して以下の説明で用いていく。
【0031】
各ブロックのドットカウントは、ブロック毎にC、M、Y、K各色データに対して実行し、Dc、Dm、Dy、Dkを算出する。例えばCデータのうち吐出“1”のCデータのみをカウントして得られるそのブロックの記録を示すCデータ数(駆動回数)の総和がCのドットカウント値Dcとなる。同様にM、Y、Kに対してもブロック毎に記録を示すデータ(吐出“1”を示すデータ)をカウントする。最後にカウントした各色ドットカウント値を合計し、Dtを算出する。こうしてカウントされた各ブロックにおけるドットカウント数の結果は、各ブロックに記録されるインク量に相当する。
【0032】
図7は、本実施形態における4パス記録の記録方法を説明するための模式図である。本図において、記録媒体上の斜線部分の記録領域を記録する場合を例にとって説明する。斜線部分の領域は第2記録走査(第1回目の走査)から第5記録走査(第2回目の走査)までの4回の記録走査で記録を完了する。まず、第2記録走査(第1回目の走査)で記録ヘッドの下側1/4に対応する斜線の部分のノズルを使用して主走査方向と逆方向に向かって記録を行い、32ノズル幅分紙送り方向に記録媒体を搬送する。次に第3記録走査(第2回目の走査)において記録ヘッドの中心から下側1/4の斜線の部分のノズルを使用して主走査方向に向かって記録を行い、32ノズル幅分紙送り方向に記録媒体を搬送する。続いて第4録走査(第3回目の走査)において記録ヘッドの中心から上側1/4の斜線の部分のノズルを使用して主走査方向と逆方向に向かって記録を行い、32ノズル幅分紙送り方向に記録媒体を搬送する。最後に第5記録走査(第4回目の走査)において記録ヘッドの上端側1/4に対応する斜線の部分を使用して主走査方向に向かって記録を完了する。ここでは斜線の部分の領域の記録方法について説明したが、その他の領域についても同様の方法で記録を行う。
【0033】
図8は、本実施形態の検出されたドット数と定着時間の関係を示す図である。本図にも続いて、定着時間(Tdz)の算出方法について説明する。
【0034】
縦方向に各ブロックでカウントされたドットカウントの値Dtを、横方向に定着時間(Tdz)を示している。図7を用いて説明したように、4パス記録では第1回目の走査から第4回目の走査の4回の記録走査で記録を完了する。第2記録走査から記録する際、この走査は第1回目の走査のため斜線部分の領域に対する最初の記録となる。そのため、第1回目の走査では、定着時間を設定する必要はない。第3〜第5記録走査、すなわち第2回目の走査から第4回目の走査では、斜線部分の記録において、その前の記録走査で記録が行われている。そのため、次の記録走査で記録を行う前にインクがメディアに定着する時間を設定する必要がある。ドットカウント値および各ブロックへの記録回数情報から、各ブロックの定着時間算出を行う際には、処理を行うブロックが4パス記録の4回の記録走査の中で、第1回目の走査であれば図8の第1回目の走査の欄を参照し、定着時間算出を行う。一方、第2〜4回目の走査であれば第2〜第4回目の走査の欄を参照し、定着時間算出を行う。
【0035】
例えばドット数Dtが3000、第3回目の走査に該当するブロックの場合、0≦Dt<4800、第2〜第4回目の走査の欄を参照し、定着時間は0となる。この条件では記録されるインク量が少ないためインクは記録媒体上に短時間で定着する。そのためすぐに次の記録走査で記録を行っても時間差ムラは発生しない。
【0036】
別の例として、ドット数Dtが10000、第2回目の走査に該当するブロックの場合、9600≦Dt<14400、第2〜第4回目の走査の欄を参照し、定着時間は1.2秒となる。この条件では記録されるインク量が多くなるため、記録媒体上にインクが定着するまでに時間が必要となる。この場合、すぐに次の記録走査で記録を行うと時間差ムラが発生してしまう。
【0037】
さらに別の例として、ドット数Dtが15000、第1回目の走査に該当するブロックの場合、14400≦Dt、第1回目の走査の欄を参照し、定着時間は0秒となる。この条件ではインク量は多いが、第1回目の走査であるため、定着時間を設定する必要はない。
【0038】
以上のように、各ブロックのドットカウント結果と記録回数からブロック毎に定着時間(Tdz)を算出することができる。
【0039】
次に、記録時間差(Ttz)の算出方法について説明する。
【0040】
図9は、本実施形態の記録時間差を算出するための模式図である。すなわち、図9では、搬送方向上流側のブロックの記録を行ってからのそれぞれのブロックの経過時間を算出するための図である。
【0041】
図9(a)は、第1回目の走査と第2回目の走査を、図9(b)は、第2回目の走査と第3回目の走査について示している。本実施形態の記録ヘッドの主走査速度は8inch/s、記録開始前、記録終了後の記録ヘッドの加速及び減速時間は0.25秒である。副走査方向への記録媒体の搬送は各記録走査間のヘッドの加速、減速時間内に行う。
【0042】
図9(a)において、記録ヘッド201〜204は、第1回目の走査で主走査方向に向かって記録を終了後、図示する位置に停止している。第2回目の走査開始前の時点を基準に考えると、走査速度と加速、減速時間の関係からK1L1ブロックの中心を第1回目の走査において2.0秒前に記録されていることが分かる。同様にK2L1ブロックの中心は1.5秒前、K3L1ブロックの中心は1.0秒前、K4L1ブロックの中心は0.5秒前に記録されている。また、第2回目の走査をすぐに開始した場合、走査速度および加速、減速時間の関係からK1L1ブロックの中心は2.0秒後に記録されることになる。同様にK2L1ブロックの中心は1.5秒後、K3L1ブロックの中心は1.0秒後、K4L1ブロックの中心は0.5秒後に記録されることになる。このように第2回目の走査をすぐに開始した場合、第1第2回目の走査間でK1L1ブロックは第1記録走査で記録されてから4.0秒後に第2記録走査で記録されることになる。同様にK2L1ブロックは3.0秒、K3L1ブロックは2.0秒、K4L1ブロックは1.0秒の記録時間差で記録されることになる。
【0043】
図9(b)において、記録ヘッド201〜204は、第2回目の走査で主走査方向と逆方向に向かって記録を終了後、図示する位置に停止している。第3回目の走査開始前の時点を基準に考えると、走査速度と加速、減速時間の関係からK1L1ブロックの中心を第2回目の走査において0.5秒前に記録されていることが分かる。同様にK2L1ブロックの中心は1.0秒前、K3L1ブロックの中心は1.5秒前、K4L1ブロックの中心は2.0秒前に記録されている。また、第3回目の走査で記録走査をすぐに開始した場合、走査速度および加速、減速時間の関係からK1L1ブロックの中心は0.5秒後に記録されることになる。同様にK2L1ブロックの中心は1.0秒後、K3L1ブロックの中心は1.5秒後、K4L1ブロックの中心は2.0秒後に記録されることになる。このように第2回目の走査をすぐに開始した場合、第2第3回目の走査間でK1L1ブロックは第2回目の走査で記録されてから1.0秒後に第3回目の走査で記録されることになる。同様にK2L1ブロックは2.0秒、K3L1ブロックは3.0秒、K4L1ブロックは4.0秒の記録時間差で記録されることになる。
【0044】
図10は、図9を用いて説明した各ブロックの第1第2回目の走査間の時間差および第2第3回目の走査間の時間差をまとめた表である。本図に示すように、ブロックの位置および主走査方向が記録走査毎に異なるために記録時間差もブロックの位置および記録走査方向によって変化する。以上のように走査速度と、加速、減速時間の関係からブロック毎に記録時間差を算出する。
【0045】
次に待機時間(Twz)の算出方法および待機時間(Tw)の決定方法について説明する。
【0046】
図11は、本実施形態の待機時間決定の方法を説明するための図である。本図では、それぞれの走査のブロック毎にドットカウント値(Dt)を示している。
【0047】
図12は、図11に示す第2記録走査における待機時間(Twz)の算出方法を説明するための図である。第2記録走査では、図12(a)に示す斜線で塗りつぶされた領域が待機時間判定処理の対象となる。図12(b)は、第1記録走査における定着時間(Tdz)を示している。ここで、L2K1、L2K2、L2K3、L2K4ブロックは4パス記録の第1回目の走査から第4回目の走査の4回の記録走査のうち第1回目の記録にあたる。そのため定着時間(Tdz)は図8の第1記録の欄を参照し、算出する。
【0048】
図8に示す第1回目の記録の欄を参照すると、ドットカウント値(Dt)の数に関わらず0秒となる。
【0049】
また、第1記録走査において、L1K1、L1K2、L1K3、L1K4ブロックは2回目の記録にあたるため、定着時間(Tdz)は図8の第2〜第4記録の欄を参照し、Dtの値に応じて算出する。
【0050】
図12(c)は、第2回目の走査における記録時間差(Ttz)を示している。各ブロックの待機時間(Twz)は下記式で算出する。
Twz=Tdz−Ttz 式(1)
但し、Twzがマイナスの場合はTwz=0である。
【0051】
図12(d)は、式(1)にて算出された第2回目の走査における各ブロックの待機時間(Twz)である。最後に算出された各ブロックの待機時間(Twz)の値を全て比較し、最も大きい値を待機時間Twに決定する(ステップS206)。第2回目の走査の場合、全て0秒のためTwは0秒となる。
【0052】
図13は、第3記録走査における待機時間(Twz)の算出方法を説明するための図である。第3記録走査では、図13(a)に示す斜線で塗りつぶされた領域が待機時間判定処理の対象となる。図13(b)は、第3記録走査における定着時間(Tdz)、図13(c)は、記録時間差(Ttz)である。ここで、L3K1、L3K2、L3K3、L3K4ブロックは4パス記録の4回の記録走査のうち1回目の記録にあたる。そのため定着時間(Tdz)は図8の第1記録の欄を参照し、算出する。この場合全て0秒となる。L2K1、L2K2、L2K3、L2K4ブロックは2回目の記録にあたるため、定着時間(Tdz)は図8の第2〜第4記録の欄を参照し、Dtの値に応じて算出する。同様に、L1K1、L1K2、L1K3、L1K4ブロックは3回目の記録にあたるため、定着時間(Tdz)は図8の第2〜第4記録の欄を参照し、Dtの値に応じて算出する。
【0053】
図13(d)は、式(1)を用いて算出した第3記録走査における各ブロックの待機時間(Twz)である。最後に、第2回目の走査の場合と同様に、算出された各ブロックの待機時間(Twz)の値を全て比較し、最も大きい値を第3回目の走査における待機時間Twに決定する(ステップS206)。第3回目の走査の場合、全て0秒のためTwは0秒となる。
【0054】
図14は、第4記録走査における待機時間(Twz)の算出方法を説明するための図である。第4記録走査では、図14(a)に示す斜線で塗りつぶされた領域が待機時間判定処理の対象となる。図14(b)は、第4回目の走査における定着時間(Tdz)、図14(c)は、記録時間差(Ttz)である。ここで、L4K1、L4K2、L4K3、L4K4ブロックは4パス記録の4回の記録走査のうち1回目の記録にあたる。そのため定着時間(Tdz)は図8の第1記録の欄を参照し、算出する。この場合全て0秒となる。L3K1、L3K2、L3K3、L3K4ブロックは2回目の記録にあたるため、定着時間(Tdz)は図8の第2〜第4記録の欄を参照し、Dtの値に応じて算出する。同様に、L2K1、L2K2、L2K3、L2K4ブロックは3回目の記録にあたるため、定着時間(Tdz)は図8の第2〜第4記録の欄を参照し、Dtの値に応じて算出する。同様に、L1K1、L1K2、L1K3、L1K4ブロックは4回目の記録にあたるため、定着時間(Tdz)は図8の第2〜第4記録の欄を参照し、Dtの値に応じて算出する。
【0055】
図14(d)は、式(1)を用いて算出した第3記録走査における各ブロックの待機時間(Twz)である。最後に、算出された各ブロックの待機時間(Twz)の値を全て比較し、ブロック毎の待機時間のうち一番長い時間を第4記録走査における待機時間Twに決定する(ステップS206)。第4記録走査の場合、図14(c)において斜線で塗りつぶしたL3K4ブロックの1.0秒が最も大きい値のため待機時間Twは1.0秒となる。
【0056】
第5から第7記録走査も同様に記録走査毎に判定処理を行い、待機時間(Tw)を決定する。
【0057】
図15は、各記録走査における決定された待機時間(Tw)を示すである。待機時間が必要と判定されたのは第4記録走査と第6記録走査であって、それぞれ待機時間(Tw)は1.0秒である。
【0058】
以上が待機時間判定処理(ステップS101)の内容に関する説明である。待機時間判定処理(ステップS101)が終わると、各記録走査毎に決定された待機時間(Tw)に基づき、記録走査開始前に待機時間(Tw)分待機し(ステップS102)、記録走査を実行する(ステップS103)。このように本実施形態に示す処理を行うことで時間差ムラ低減のために必要かつ最低限の待機時間設定ができる。
【0059】
なお、本実施形態において、ドットカウントを行うブロックは説明を簡単にするために300ドット×32ドットの大きさとしたが、本発明はこのサイズに限定されるものではない。精度を高めるために例えば32×32ドットなど、より小さいサイズに設定しても構わない。時間差ムラ低減の効果と処理能力の観点から最適なサイズを設定すればよい。
【0060】
また、上述した実施形態に示したように、本実施形態の構成によれば同じ記録データであっても直前の記録走査の方向と判定処理を実行する記録走査の方向によって決定される待機時間は異なる。例えば、同じ記録データであっても、直前の記録走査が主走査方向、待機時間の判定を行う記録走査が主走査と逆方向の場合に決定される待機時間がAとする。一方、直前の記録走査が主走査と逆方向、待機時間の判定を行う記録走査が主走査方向の場合には待機時間はAとは異なる値Bと決定されることもある。但し、条件によっては同じ値に決定される場合もある。つまり本実施形態によれば、記録データによって一律に待機時間を決定するのではなく、記録走査方向によって必要かつ最適な待機時間を決定することができる。
【0061】
また、本実施形態においてドットカウント値(Dt)は、各色毎にカウントを行い、そのまま全色を合算している。しかしながらインクの種類、物性によって時間差ムラの発生程度は異なることがある。そのため、例えば、Yインクのドットカウント値に係数を乗算してから合算するというようにムラに大きく影響を与える特定のインクに重み付けをするようにしてもよい。
【0062】
また、本実施形態において、定着時間(Tdz)はドットカウント値(Dt)に応じて一律に決まる構成となっている。しかし、インクまたは記録メディアの種類、物性によって時間差ムラの程度が異ることがある。このようなムラの程度に対して、インクやメディアによって時間差ムラが発生しない最適な定着時間(Tdz)を適時設定するようにしてもよい。
【0063】
また、本実施形態では4パス記録を例にとって説明したが、本実施形態では所定の領域を複数回往復走査させて記録を行うものであればよい。例えば2パス、8パス、16パスといったパス数においても同様の考えで記録走査毎に判定処理を行い必要な場合のみ待機動作を行うことができる。
【0064】
(第2の実施形態)
第1の実施形態では、各ブロックのドット数から定着時間を算出するためのドット数(Dt)と定着時間(Tdz)の関係を示すテーブルは、4回の記録のうち1回目の記録走査と2回から4回目の記録走査に分けてドット数から定着時間を算出した。しかしながら、本実施形態では、ドット数(Dt)と定着時間(Tdz)の関係を示すテーブルは、1回目の記録走査から4回目の記録走査のそれぞれに分けてドット数から定着時間を算出するものである。
【0065】
図16は、本実施形態のドット数(Dt)と定着時間(Tdz)の関係を示す図である。各ブロックでカウントされたドットカウントの値Dtによって必要となる定着時間を表している。それぞれの記録回数で算出方法を変更するのは、既に記録されているインク量が多いほど、後から記録されるインクはメディアに浸透できなくなるため、より長い定着時間が必要となるためである。
【0066】
例えばドット数(Dt)が6000、2回目の記録走査に該当するブロックの場合、4800≦Dt<9600、第2記録の欄を参照し、定着時間(Tdz)は0.5秒となる。一方ドット数(Dt)が同じく6000、4回目の記録走査に該当するブロックの場合、4800≦Dt<9600、第4記録の欄を参照し、定着時間(Tdz)は0.8秒となる。
【0067】
また別の例として、ドット数(Dt)が15000、1回目の記録走査に該当するブロックの場合、14400≦Dt、第1記録の欄を参照し、定着時間(Tdz)は0秒となる。一方、ドット数(Dt)が同じく15000、3回目の記録走査に該当するブロックの場合、14400≦Dt、第3記録の欄を参照し、定着時間(Tdz)は2.4秒となる。
【0068】
以上のように各ブロックのドットカウント結果と記録回数からブロック毎に定着時間(Tdz)を算出する。このように記録回数に応じて算出する定着時間(Tdz)を変更することで、記録回数によって定着時間が大きく異なるような特性を持ったメディアであっても本実施形態に示す処理を行うことで必要かつ最低限の待機時間設定が可能となる。
【符号の説明】
【0069】
106 キャリッジ
107 記録媒体
201〜204 記録ヘッド
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを吐出する複数の記録素子が記録媒体の搬送方向に配列された記録ヘッドを前記記録媒体の所定の領域を複数回往復走査させて記録を行うインクジェット記録装置であって、
前記所定の領域の記録データを、複数のブロックに分割し、該複数のブロックのそれぞれのブロックの記録データから記録ドット数をそれぞれ検出する検出手段と、
前記検出手段により検出された記録ドット数からインクが定着するのに要する定着時間をブロック毎に算出する定着時間算出手段と、
前記定着時間算出手段により算出された定着時間と、該定着時間が算出された記録走査の前に行う記録走査の前記記録媒体の搬送方向上流側に位置するブロックからの経過時間とに基づき、待機時間を前記ブロック毎に決定する待機時間決定手段と、
を備え、
前記定着時間が算出された記録走査の前に行う記録走査が終了してから前記定着時間が算出された記録走査を行う前に、前記待機時間決定手段により決定された前記ブロック毎の待機時間のうち一番長い前記待機時間、待機してから前記定着時間が算出された記録走査を行うことを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
インクを吐出する複数の記録素子が記録媒体の搬送方向に配列された記録ヘッドを前記記録媒体の所定の領域を複数回往復走査させて記録を行うインクジェット記録方法であって、
前記所定の領域の記録データを、複数のブロックに分割し、該複数のブロックのそれぞれのブロックの記録データから記録ドット数をそれぞれ検出する検出工程と、
前記検出工程により検出された記録ドット数からインクが定着するのに要する定着時間をブロック毎に算出する定着時間算出工程と、
前記定着時間算出工程により算出された定着時間と、該定着時間が算出された記録走査の前に行う記録走査の前記記録媒体の搬送方向上流側に位置するブロックからの経過時間とに基づき、待機時間を前記ブロック毎に決定する待機時間決定工程と、
を備え、
前記定着時間が算出された記録走査の前に行う記録走査が終了してから前記定着時間が算出された記録走査を行う前に、前記待機時間決定工程により決定された前記ブロック毎の待機時間のうち一番長い前記待機時間、待機してから前記定着時間が算出された記録走査を行うことを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項1】
インクを吐出する複数の記録素子が記録媒体の搬送方向に配列された記録ヘッドを前記記録媒体の所定の領域を複数回往復走査させて記録を行うインクジェット記録装置であって、
前記所定の領域の記録データを、複数のブロックに分割し、該複数のブロックのそれぞれのブロックの記録データから記録ドット数をそれぞれ検出する検出手段と、
前記検出手段により検出された記録ドット数からインクが定着するのに要する定着時間をブロック毎に算出する定着時間算出手段と、
前記定着時間算出手段により算出された定着時間と、該定着時間が算出された記録走査の前に行う記録走査の前記記録媒体の搬送方向上流側に位置するブロックからの経過時間とに基づき、待機時間を前記ブロック毎に決定する待機時間決定手段と、
を備え、
前記定着時間が算出された記録走査の前に行う記録走査が終了してから前記定着時間が算出された記録走査を行う前に、前記待機時間決定手段により決定された前記ブロック毎の待機時間のうち一番長い前記待機時間、待機してから前記定着時間が算出された記録走査を行うことを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
インクを吐出する複数の記録素子が記録媒体の搬送方向に配列された記録ヘッドを前記記録媒体の所定の領域を複数回往復走査させて記録を行うインクジェット記録方法であって、
前記所定の領域の記録データを、複数のブロックに分割し、該複数のブロックのそれぞれのブロックの記録データから記録ドット数をそれぞれ検出する検出工程と、
前記検出工程により検出された記録ドット数からインクが定着するのに要する定着時間をブロック毎に算出する定着時間算出工程と、
前記定着時間算出工程により算出された定着時間と、該定着時間が算出された記録走査の前に行う記録走査の前記記録媒体の搬送方向上流側に位置するブロックからの経過時間とに基づき、待機時間を前記ブロック毎に決定する待機時間決定工程と、
を備え、
前記定着時間が算出された記録走査の前に行う記録走査が終了してから前記定着時間が算出された記録走査を行う前に、前記待機時間決定工程により決定された前記ブロック毎の待機時間のうち一番長い前記待機時間、待機してから前記定着時間が算出された記録走査を行うことを特徴とするインクジェット記録方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2013−86410(P2013−86410A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−230534(P2011−230534)
【出願日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
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