説明

インクジェット記録装置およびインクジェット記録方法

【課題】複数のヘッド基板の温度を高精度且つリアルタイムに取得し、適切で安定したヘッド駆動を実行することが可能なインクジェット記録装置および記録方法を提供する。
【解決手段】温度変化が殆ど懸念されないヘッド基板に対しては、温度検出のために無駄な時間を消費しないようにする一方、大きな温度変化が懸念されるヘッド基板に対しては、限られた時間内に複数回のサンプリングを実行する。これにより、限られたサンプリング時間の間に、高精度で信頼性の高い温度検知を実現することが出来る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクを吐出して画像を記録するインクジェット記録装置に関する。特に、記録中の記録ヘッドの温度に応じて記録制御を行なう構成において、複数のヘッド基板の温度をリアルタイム且つ高精度に検出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、複数色のインクを吐出して記録媒体に画像を記録するカラーインクジェット記録装置が普及している。インクジェット記録装置では、画像データに従って、記録ヘッドに設けられた個々の記録素子に対し電圧パルスを印加し、インクを吐出する。このとき、記録素子から吐出されるインクの吐出量は、インクの種類や記録素子に備えられているヒータの抵抗値、あるいは記録素子が形成されているヘッド基板の温度に応じて変化する。よって多くのインクジェット記録装置では、インクの種類、ヒータの抵抗値、ヘッド基板の温度等に応じて記録素子に印加する駆動パルスを調整し、吐出量を安定させている。
【0003】
ここで、インクの種類やヒータの抵抗値は記録中に変化することは無いが、ヘッド基板の温度は、記録ヘッドの記録量(吐出回数)や環境温度に応じて変化する。中でも記録量は、画像データに応じて各色の記録ヘッドで異なり、夫々のヘッド基板の温度ひいては吐出量に大きくに影響する。よって、各色でバランスを崩さず安定した吐出量を維持するためには、各色のヘッド基板の温度を高精度且つリアルタイムに取得し、駆動パルスによる調整を適切に実行することが求められる。
【0004】
このような課題に対し、例えば特許文献1には、ヘッド基板の温度検出を所定の時間間隔で複数回行い、これら複数の検出温度の平均値に基づいてヘッド通電時間を制御する構成が開示されている。特許文献1のように温度検出を複数回行えば、より信頼性の高い基板温度を取得することが出来る。その結果、ヘッド温度が急激に変化するような状況においても、ヘッド通電時間を必要以上に増減させることなく、適切で安定したヘッド駆動を行うことが出来る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−338249号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の方法では、記録量が少なく基板温度が変化しない記録ヘッドでは、複数回の温度検出のために必要以上の時間が費やされてしまっていることになる。その一方で、記録量の変動が多く温度の変化が激しい記録ヘッドについては、定められたサンプリング回数では不十分な場合も懸念される。そして、このような温度検出のために必要な時間は、インク色の種類すなわち記録ヘッドやヘッド基板の個数に応じて増大する。ヘッド基板の数が増えても温度検出のための時間を増大させないためには、記録ヘッドの温度検出の周期や回数を減らすことが考えられるが、記録量の増減が激しい記録ヘッドの温度検出精度が低下してしまい、特許文献1本来の効果が得られなくなってしまう。
【0007】
本発明は上記問題点を解決するためになされたものである。よって、その目的とするところは、複数のヘッド基板の温度を高精度且つリアルタイムに取得し、適切で安定したヘッド駆動を実行することが可能なインクジェット記録装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そのために本発明は、熱エネルギによってインクを吐出する記録素子が配列されたヘッド基板を複数用い、記録媒体に画像を記録するインクジェット記録装置において、前記複数のヘッド基板それぞれについて、所定時間当たりの吐出回数および該吐出回数の変化量を取得する取得手段と、前記取得手段によって取得された前記吐出回数および変化量に基づいて、前記所定時間に前記複数のヘッド基板それぞれの温度を検出する回数を設定する設定手段と、前記設定された回数に従って前記複数のヘッド基板それぞれの温度を前記所定時間内に検出する検出手段と、該検出手段の検出結果に基づいて前記複数のヘッド基板それぞれに配列された前記記録素子に与える熱エネルギを調整するエネルギ調整手段とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、限られたサンプリング時間の間に、高精度で信頼性の高い温度検知を実現することが出来、適切で安定したヘッド駆動を実行することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】(a)〜(c)は本発明に適用可能な記録ヘッドの模式図である。
【図2】本発明で使用可能なインクジェット記録装置の制御構成を示すブロック図である。
【図3】第1の実施形態における記録ヘッドの駆動制御の構成を示すブロック図である。
【図4】コントローラが実行する記録時のサンプリング工程を示すフローチャートである。
【図5】第1の実施形態におけるサンプリング回数の設定例を具体的に説明する図である。
【図6】ヘッド基板の拡大図である。
【図7】第2の実施形態における記録ヘッドの駆動制御の構成を示すブロック図である。
【図8】第2の実施形態におけるサンプリング回数の設定例を具体的に説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明の構成を具体的に説明する。
(第1の実施形態)
図1(a)〜(c)は本発明に適用可能な記録ヘッドの模式図である。図1(a)は、記録ヘッド9の斜視図である。本実施形態の記録ヘッド9は、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)およびブラック(Bk)の4色のインクを吐出するため、4つのヘッド基板100が備えられている。ヘッド基板100のそれぞれには、不図示のインクタンクから供給部23を介して対応する色のインクが供給される。
【0012】
図1(b)は、1つのヘッド基板100の拡大図である。ここでは、インクを吐出する複数の吐出口104と、3つの温度センサ101〜103が配備されている。1つのヘッド基板には、640個の吐出口104(記録素子)が600dpiのピッチで配列してなるOdd列とEven列とがあり、これら2列はy方向に半ピッチずれながらx方向に並列している。このような構成の記録ヘッド9をx方向に移動させながら個々の吐出口よりインクを吐出することにより、y方向には1200dpiでドットを記録することが出来る。
【0013】
温度センサ101〜103は同型のダイオードセンサであり、定電流印加時のVfの変化によって、温度検知を行う構成になっている。これら3つの温度センサ101〜103は、ヘッド基板の両端および中央部に配置されており、本実施形態では、これらから得られる検出温度の平均値から、ヘッド基板全体の温度を取得する。なお、温度センサとしてダイオードセンサを用いることは、本発明や本実施形態を限定するものではない。温度を計測できる素子であれば他の構成の素子を温度センサとして用いることも出来る。
【0014】
図1(c)は、図1(b)のA−A’に沿った切断図である。本実施形態のヘッド基板100は、トランジスタ等の駆動素子を備えたシリコンからなる基体1の上に、絶縁材料である熱酸化層2と蓄熱層4とが設けられている。蓄熱層4の上には、通電により発熱する材料からなる発熱抵抗層6が設けられ、発熱抵抗層6上に導電材料で一対の電極7が設けられている。具体的には、発熱抵抗層の材料としてはタンタルシリコンナイトライド(TaSiN)や、タングステンシリコンナイトライド(WSiN)等の高融点材料を用いることができる。また、一対の電極7の材料としては、アルミニウム、銅、銀等の発熱抵抗層の材料より低抵抗な、導電性を有する材料を用いることができる。この一対の電極7の間に通電することで、発熱抵抗層6の一対の電極7の間に位置する発熱抵抗層6の部分が発熱するため、この部分がエネルギ発生素子12となる。発熱抵抗層6と一対の電極7は、絶縁性材料からなる絶縁層8で被覆され、さらにその上には耐キャビテーション層として用いられる保護層10が設けている。
【0015】
エネルギ発生素子12に対向する位置には、流路形成部材14で形成された液路13が吐出口104まで延在している。このように、図1(b)における個々の吐出口には、液路13およびエネルギ発生素子12が1対1で配備されており、これら1組の吐出口14、流路13およびエネルギ発生素子12によって、1つの記録素子が構成されている。
【0016】
流路形成部材14は、全記録素子に共通してインクを供給する共通流路46の壁面14aも画成している。供給部23から供給されたインクは、基体1を貫通する供給口47を介して共通流路46に供給され、その後、エネルギ発生素子12の発生する熱エネルギによって吐出口から吐出される。
【0017】
このように熱エネルギを利用してインクを吐出する本実施形態の記録ヘッドでは、記録素子の吐出回数に応じてヘッド基板100の温度が上昇する。そして、個々の記録素子が吐出するインクの吐出量は、ヘッド基板の温度に応じて変動することが知られている。よって、本実施形態では、検出されたヘッド基板の温度に基づいて、当該ヘッド基板がインクを吐出する際にエネルギ発生素子12に印加する電圧パルスを異ならせ、熱エネルギ調整を行う。
【0018】
図2は、本実施形態で使用可能なインクジェット記録装置の制御の構成を示すブロック図である。コントローラ600は主制御部であり、例えばマイクロコンピュータ形態のASIC601、ROM603、RAM605を有する。ROM603は、各種シーケンスのためのプログラムのほか、記録ヘッドを駆動するための駆動パルスや、これを設定するためのテーブル等、様々な固定データを格納している。RAM605は、画像データを展開する領域や作業用の領域等を設けている。
【0019】
ホスト装置610は、記録装置が記録する画像のデータ供給源である。画像データ、その他のコマンド、ステータス信号等は、インタフェース(I/F)112を介してコントローラ600と送受信される。ホスト装置610から受信した画像データは、コントローラ600によって記録ヘッドが記録可能な2値のドットデータに変換される。
【0020】
ヘッドドライバ640は、コントローラ600によって処理されたドットデータに従って、記録ヘッド9を駆動する。このとき、コントローラ600の制御のもと、記録ヘッド9から受信するヘッド基板の温度情報に応じて、記録ヘッド9への駆動パルスを調整する。ヘッドドライバ640における詳細な構成については後述する。
【0021】
モータドライバ650は、キャリッジモータ61を駆動することにより、記録ヘッド9を搭載したキャリッジを記録媒体に対して走査させる。モータドライバ63は、搬送モータ13を駆動することにより、キャリッジの走査方向と交差する方向に記録媒体を搬送させる。キャリッジに搭載された記録ヘッド9がドットデータに従ってインクを吐出しながら移動する記録走査と、記録ヘッド9の記録幅に応じた分だけ記録媒体を搬送する搬送動作を交互に繰り返すことにより、記録媒体に段階的に画象が記録される。
【0022】
図3は、コントローラ600の制御の下、本実施形態のヘッドドライバ640における記録ヘッドの駆動制御の構成を説明するためのブロック図である。各色のヘッド基板100には、それぞれ3つのダイオードセンサ101〜103が配備されており、これらが検出した温度は、それぞれ別々にパラレルデータ215として制御基板200上の制御IC201に入力される。制御IC201は、このようなパラレルデータ215を、上部ダイオードシリアルデータ216a、中部ダイオードシリアルデータ216b、下部ダイオードシリアルデータ216cに変換し、制御基板202のヘッド温度制御手段203に発信する。
【0023】
ヘッド温度制御手段203にはA/D変換器204が搭載されており、アナログ値であるシリアルデータ216a〜216cをデジタル信号217に変換する。変換後のデジタル信号217は、吐出回数比較部501およびサンプリング回数設定部502を経て、平均化処理部205に送信される。吐出回数比較部501には個々のヘッド基板ごとのドットデータ503も入力されており、吐出回数比較部501は、これらドットデータから各色の吐出回数をカウントしこれを比較する。そして、サンプリング回数設定部502は、吐出回数比較部501による比較結果に基づいて、個々のヘッド基板の温度のサンプリング回数の設定を行う。吐出回数比較部501およびサンプリング回数設定部502の具体的な作用については後述する。
【0024】
平均化処理部205では、インク色毎にサンプリング回路218C、218M,218Y、218Bkが備えられている。個々のサンプリング回路は、該当するインク色について、サンプリング回数設定部502によって設定された回数だけ入力信号値をサンプリングし、これらの平均値をとって、駆動パルス制御部206C、206M,206Y、206Bkへ送信する。駆動パルス制御部206は、受信したデジタル値に応じて、記録ヘッドに印加する電圧パルスのパルス形状を調整する。具体的には、受信したデジタル値すなわちヘッド基板の温度が高いほど、記録ヘッドに印加する電圧パルスのパルス幅を短くする。このような制御により、ヘッド基板の温度変化やインク色によらず、記録ヘッドの吐出量を安定させることが出来る。
【0025】
従来のヘッド温度制御手段では、吐出回数比較部501やサンプリング回数設定部502を備えておらず、サンプリング回路218C、218M、218Y、218Bkはそれぞれ同数ずつのサンプリングを行い、夫々の平均値を算出していた。例えば、温度検出の結果を4msおきに1回発信可能であるとすると、4色分を1回ずつ発信するのに16msかかる。また、各インク色についてn回ずつサンプリングして平均する場合は、サンプリングのためにn×16msだけかかることになる。
【0026】
このように、各色についてサンプリング数を統一した場合、既に課題の項でも説明したように、サンプリングのために必要な時間は、インク色の種類すなわち記録ヘッドの個数に応じて増大する。また、記録量が少なく基板温度が殆ど変化しない記録ヘッドについては、複数回の温度検出のために必要以上の時間が費やされてしまっていることになる。その一方で、記録量の変動が多く基板温度の変化が激しい記録ヘッドについては、上記サンプリング回数が不十分である場合も懸念される。
【0027】
よって本実施形態では、全インク色のサンプリングのために要する時間は所定時間(16ms)に固定しておきながら、インク色間でサンプリングの回数を調整可能な構成とする。すなわち、所定時間内で実行可能な4回のサンプリングを4つのインク色に不均等に振り分けることが出来るようにする。このとき、記録量の変動が大きくヘッド基板の温度変化も大きいと予想されるインク色ではサンプリング回数を多く設定し、記録量の変動が小さくヘッド基板の温度変化も小さいと予想されるインク色ではサンプリング数を少なく設定する。
【0028】
図4は、コントローラ600が実行する記録時のサンプリング工程を説明するためのフローチャートである。記録処理が開始されると、コントローラ600は、ステップS302において、記録ヘッドが吐出動作を行う領域にあるか否かを判断する。そして、吐出動作を行う領域に達するまでは、ステップS303にてヘッド基板の保温制御を繰り返す。具体的には、温度センサ101〜103を用いて各色のヘッド基板100の温度を検出し、ヘッド基板が吐出動作に適した温度を維持するように、吐出に至らない程度の電圧パルスを記録素子に印加し、これを保温する。
【0029】
ステップS302で記録ヘッドが吐出動作を行う領域にあると判断すると、コントローラ600はステップS304に進み、各インク色について1回の記録走査分のドットデータを保存する。
【0030】
続くステップS305では、次のサンプリングが記録走査開始時に行われるのか記録走査の途中で行われるのかを判断する。記録走査開始時である場合はステップS306に進み、記録走査の途中である場合はステップS309へ進む。
【0031】
ステップS306において、コントローラ600は、ステップS304で記憶したドットデータのうち、16msの間に吐出されるドットデータを吐出回数比較部501に送り、吐出回数をインク色ごと(ヘッド基板ごと)にカウントする。そして、ステップS307では、カウントした値をインク色毎に比較し、比較結果をサンプリング回数設定部502に送り、4回のサンプリング回数を4つのヘッド基板に分配する。このとき、吐出回数が0のインク色に対してはサンプリング回数を0回に設定する。また、吐出回数の高いインク色に対してより多くのサンプリング回数を設定し、吐出回数の低いインク色に対しては少ないサンプリング回数を設定する。その後、ステップS308において、コントローラ600は、ステップS307で設定したサンプリング回数に従って、サンプリング回路218に各ヘッド基板のサンプリングを実行させ、サンプリング結果に基づいて平均温度を算出し記録ヘッドを駆動する。以上のような、16ms分のサンプリングおよび記録動作が実行されると、次の16ms分の制御のためにステップS309へ進む。
【0032】
ステップS309〜S311では、記録走査の途中でのサンプリングおよび記録動作を実行する。ステップS309では、ステップS306と同様、ステップS304で記憶したドットデータのうち、16msの間に吐出されるドットデータ503を吐出回数比較部501に送り、吐出回数をインク色ごと(ヘッド基板ごと)にカウントする。続くステップS310では、ステップS309でカウントした吐出回数と前回の16msでの吐出回数の差を算出し、その結果およびステップS309でカウントした吐出回数を各インク色で比較する。更に、比較した結果をサンプリング回数設定部502に送り、4回のサンプリング回数を4つのヘッド基板に分配する。すなわち、記録走査の途中でのサンプリング回数を決定する場合は、次の16msでの吐出回数だけでなく、前回の16msからの吐出回数の変化量も考慮に入れて、4つのヘッド基板に対するサンプリング回数を振り分ける。このとき、サンプリング回数の大小関係が、
吐出回数大で変化量大>吐出回数小で変化量大>吐出回数大で変化量小>吐出回数小で変化量小
となるように、各ヘッド基板のサンプリング回数を振り分ける。その後、ステップS311において、コントローラ600は、サンプリング回路218に各ヘッド基板のサンプリングを実行させ、サンプリング結果に基づいて平均温度を算出し記録ヘッドを駆動する。以上のような、16ms分のサンプリングおよび記録動作が実行されると、ステップS312へ進み、今回のサンプリングで1回分の記録走査が終了したか否かを判断する。
【0033】
1回分の記録走査が終了したと判断した場合、次の記録走査の制御に移行するため、ステップS302へ戻る。一方、まだ記録走査の途中であると判断した場合は、次の16msのサンプリングおよび駆動制御のためにステップS309へ戻る。
【0034】
図5は、本実施形態におけるサンプリング回数の設定例を具体的に説明する図である。横軸は、キャリッジの進行方向を示し、左から右に向けて記録が進行するものとする。縦軸は各記録ヘッドの記録デューティ(記録率)を示し、値が高いほど吐出回数が多いことを意味する。ここでは、説明を簡単にするため、記録デューティを4段階で表している。
【0035】
最初の16msに相当する区間1は、記録走査開始時に相当するので、ステップS307では、各色の吐出回数のみを比較して、サンプリング回数を振り分ける。図5によれば、区間1における各色の吐出回数は、Bk(ブラック)>Y(イエロー)>C(シアン)>M(マゼンタ)=0となる。よって、ステップS307では、サンプリングの順番を、Bk→Bk→Y→Cに設定する。その結果ステップS308では、16msのうち、まず、最初の4msでブラックのヘッド基板に搭載された2つの温度センサ101〜103による検出結果を取得し、ブラックインクのヘッド基板の平均温度Tbkを算出する。
TBk=(Bk101+Bk102+Bk103)/3
そして、次の4msでもブラックのヘッド基板に搭載された2つの温度センサ101〜103による検出結果を取得し、ブラックインクのヘッド基板の平均温度TBkを再度算出する。更に、これら2回分のサンプリング結果の平均値を用いて、ブラックヘッドを駆動するための電圧パルスを設定し、吐出動作を実行する。
【0036】
続く4msでは、イエローのヘッド基板に搭載された2つの温度センサ101〜103による検出結果を取得し、イエローインクのヘッド基板の平均温度
TY=(Y101+Y102+Y103)/3を算出する。そして、この値TYを用いてイエローヘッドを駆動するための電圧パルスを設定し、吐出動作を実行する。
【0037】
最後の4msではシアンのヘッド基板に搭載された2つの温度センサ101〜103による検出結果を取得し、シアンインクのヘッド基板の平均温度
TC=(C101+C102+C103)/3を算出する。そして、この値TYを用いてイエローヘッドを駆動するための電圧パルスを設定し、吐出動作を実行する。
【0038】
一方、マゼンタヘッドについては、ステップS303で最後に検出したヘッド基板の温度に基づいて、マゼンタヘッドを駆動するための電圧パルスを設定し、吐出動作を実行する。
【0039】
このように、区間1では、最も記録量が多くヘッド基板の温度変化が大きいことが予想されるブラックのために2回のサンプリングを行う。その一方で、記録量が0でヘッド基板の温度が殆ど変化しないことが予想されるマゼンタのためにはサンプリングを行わない。
【0040】
区間2は、記録走査途中時に相当するので、ステップS310では、各色の吐出回数の他、吐出回数の変化量についても考慮し、サンプリング回数を設定する。図5によれば、区間2における各色の吐出回数の大小関係はBk=Y>C=Mであり、吐出回数の変化量の大小関係はC>Y>Bk=Mである。本実施形態では、これら両方を考慮し、サンプリングの優先順位を、C>Y>Bk>Mとする。よって、ステップS310では、サンプリングの順番を、C→C→Y→Bkに設定する。その結果、ステップS311では、最初の4msおよび次の4msにおいてシアンインクのヘッド基板の平均温度TCを算出する。
TC=(C101+C102+C103)/3
そして、これら2回分のサンプリング結果の平均値を用いて、シアンヘッドを駆動するための電圧パルスを設定し、吐出動作を実行する。
【0041】
続く4msでは、イエローのヘッド基板に搭載された2つの温度センサ101〜103による検出結果を取得し、イエローインクのヘッド基板の平均温度
TY=(Y101+Y102+Y103)/3を算出する。そして、この値TYを用いてイエローヘッドを駆動するための電圧パルスを設定し、吐出動作を実行する。
【0042】
最後の4msではブラックのヘッド基板に搭載された2つの温度センサ101〜103による検出結果を取得し、ブラックインクのヘッド基板の平均温度
TBk=(Bk101+ Bk102+Bk103)/3を算出する。そして、この値TBkを用いてブラックヘッドを駆動するための電圧パルスを設定し、吐出動作を実行する。
【0043】
一方、マゼンタヘッドについては、区間2においてもサンプリングを行なわず、ステップS303で検出したヘッド基板の温度に基づいて、マゼンタヘッドを駆動するための電圧パルスを設定し、吐出動作を実行する。
【0044】
このように、区間2では、記録量は少ないが温度変化が大きいことが予想されるシアンのために2回のサンプリングを行う。その一方、記録量が0でヘッド基板の温度が殆ど変化しないことが予想されるマゼンタのためにはサンプリングを行わない。
【0045】
区間3および区間4についても図5に従って区間2と同様の制御を行うと、区間3ではM→M→Y→Bkの順にサンプリングを行い、区間4ではM→M→Bk→Cの順にサンプリングを行うことになる。
【0046】
このように本実施形態によれば、温度変化が殆ど懸念されないヘッド基板に対しては、温度検出のために無駄な時間を消費しないようにする一方、大きな温度変化が懸念されるヘッド基板に対しては、複数回のサンプリングを実行する。これにより、限られたサンプリング時間の間に、高精度で信頼性の高い温度検知を実現することが出来、適切で安定したヘッド駆動を実行することが可能となる。
なお、吐出回数やその変化量に各インク色で差異が確認されない場合は、ヘッド基板の温度変化によって画像弊害が現れやすいインク色を優先してサンプリングするようにすればよい。また、このような差異が確認されない状態が続くような場合には、何回かに1回はその優先順位を逆転してサンプリングを行うようにしてもよい。
【0047】
(第2の実施形態)
本実施形態も第1の実施形態と同様、図1および図2に示したインクジェット記録ヘッドおよびインクジェット記録装置を用いる。但し、本実施形態では、ヘッド基板に配列する1280個の記録素子を4つのブロックに分割し、ブロックごとに所定時間当たりの吐出回数をカウントしヘッド基板のサンプリング回数を決定する。
【0048】
図6は、本実施形態における1つのヘッド基板100の拡大図である。第1の実施形態と同様、インクを吐出する複数の吐出口104と、3つの温度センサ101〜103が配備されている。本実施形態では、1280個の記録素子104を、図のように320個ずつの4つのブロック(領域A〜領域D)に分割し、ブロックごとに吐出回数をカウントする。
【0049】
図7は、コントローラ600の制御の下、本実施形態のヘッドドライバ640における記録ヘッドの駆動制御の構成を説明するためのブロック図である。ここでは、第1の実施形態で説明した図3と異なる点について説明する。
【0050】
本実施形態のヘッド温度制御手段203には、ドットデータをブロック単位でカウントするためのブロックカウント部701が用意されている。ブロックカウント部701は、個々のヘッド基板のドットデータをブロックごとに分類し、そのカウントした結果を吐出回数比較部501に送信する。吐出回数比較部501は、各ブロックのカウント結果を比較し、サンプリング回数設定部502は、吐出回数比較部501の比較結果に基づいて、個々のヘッド基板の温度のサンプリング回数を設定する。
【0051】
本実施形態においても、図4のフローチャートに従って、記録時のサンプリング工程を実行することが出来る。すなわち、記録走査開始時であればステップS306〜S308の工程に進み、16msの間に吐出される各ヘッド基板間の吐出回数の比較結果に応じて個々のヘッド基板のサンプリング回数を決定する。一方、記録走査の途中であればステップS309〜S311の工程に進み、16msでの吐出回数および前回の16msの吐出回数からの変化量の比較結果に応じて個々のヘッド基板のサンプリング回数を決定する。
【0052】
図8は、本実施形態におけるサンプリング回数の設定例を具体的に説明する図である。横軸は、キャリッジの進行方向を示し、左から右に向けて記録が進行するものとする。縦軸は各記録ヘッドの記録デューティ(記録率)を示し、値が高いほど吐出回数が多いことを意味する。ここでは、説明を簡単にするため高デューティと低デューティの2値で示している。また、図中、黒く示した領域はそのブロックの記録が高デューティであることを示し、括弧内の数値は各区間の高デューティブロックの数を示している。
【0053】
最初の16msに相当する区間1は、記録走査開始時に相当するので、ステップS307では、各色の吐出回数のみを比較して、サンプリング回数を振り分ける。図8によれば、区間1における各色の吐出回数は、Bk=Y>C>M=0となる。ここで、ブラックとイエローの吐出回数は同等であるが、一般に、同じ吐出量変化でもブラックの方がイエローよりも画像に与える影響は大きい事が知られている。よって、本実施形態では、ブラックのサンプリングをイエローよりも優先し、ステップS308では、Bk→Bk→Y→Cの順にサンプリングを行い、得られた平均温度に基づいて電圧パルスを設定し、吐出動作を実行する。
【0054】
区間2は、記録走査途中時に相当するので、ステップS310では、各色の吐出回数の他、吐出回数の変化量についても考慮し、サンプリング回数を振り分ける。本実施形態では、ヘッド基板自体の吐出回数に変化がなくても、吐出するブロックが変化していればヘッド基板の温度変化が誘発されることに着目している。このため、本実施形態では、記録デューティが大きく変化するブロックの数が多いヘッド基板ほど、サンプリング回数が多くなるような設定が行われている。図8によれば、区間2における各色の吐出回数は、Bk=Y>C=Mである。また、区間1に対する吐出回数の変化量については、C>Bk=Y=Mである。ここで、ブラックとイエローの吐出回数および変化量は同等である。しかし、区間1に対して記録デューティが大きく変化するブロックの数を比較すると、Bk(4ブロック)>C(2ブロック)>Y(0ブロック)=M(0ブロック)となる。よって、本実施形態では、Bk→Bk→C→Yの順にサンプリングを行い、得られた平均温度に基づいて電圧パルスを設定し、吐出動作を実行する。この際、シアンのヘッド基板の温度変化がイエローよりもさらに懸念される場合は、イエローのサンプリングを実行せず、Bk→Bk→C→Cの順に4回のサンプリングを行ってもよい。
【0055】
区間3および区間4についても図8に従って区間2と同様の制御を行うと、区間3ではM→M→Bk→Yの順にサンプリングを行い、区間4ではM→M→Y→Bkの順にサンプリングを行うことになる。
【0056】
このように、本実施形態の区間2以降では、記録デューティが大きく変化するブロックを多数有するヘッド基板ほど、サンプリング回数を多く設定する。これにより、ヘッド基板の温度検出をより高精度に行うことが可能となる。
【0057】
以上説明したように、本実施形態によれば、温度変化が殆ど懸念されないヘッド基板に対しては、温度検出のために無駄な時間を消費しないようにする一方、大きな温度変化が懸念されるヘッド基板に対しては、複数回のサンプリングを実行する。これにより、限られたサンプリング時間の間に、高精度で信頼性の高い温度検知を実現することが出来、適切で安定したヘッド駆動を実行することが可能となる。
【0058】
なお、以上説明した2つの実施形態では、1つの記録ヘッドに複数のヘッド基板が配備された構成で説明したが、1つのヘッド基板が配備された記録ヘッドを複数用いる構成であっても本発明は有効である。また、以上では、4つのヘッド基板に対し4回分のサンプリングを行う場合を例に説明したが、無論このような値は本発明を限定するものではない。例えば4つのヘッド基板に対し更に多くのサンプリング回数を用意し、全てのヘッド基板について少なくとも1回ずつサンプリングを行うようにすることも出来る。また、例えばライトシアンやライトマゼンタなど、更に多く種類のインクを吐出するために、更に多くのヘッド基板を有する記録ヘッドを用意し、これら複数のヘッド基板に対し複数のサンプリングを振り分けることも可能である。いずれにせよ、限られたサンプリング回数によって複数のヘッド基板の温度を検出する構成において、サンプリング回数が、個々のヘッド基板の吐出回数に基づいて夫々のヘッド基板に振り分けられれば、本発明の効果を得ることが出来る。
【符号の説明】
【0059】
9 記録ヘッド
100 ヘッド基板
101〜103 温度センサ
104 吐出口
201 制御IC
204 A/D変換器
205 平均化処理部
206 駆動パルス制御部
216a〜c シリアルデータ
217 デジタル信号
218 サンプリング回路
501 吐出回数比較部
502 サンプリング回数設定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱エネルギによってインクを吐出する記録素子が配列されたヘッド基板を複数用い、記録媒体に画像を記録するインクジェット記録装置において、
前記複数のヘッド基板それぞれについて、所定時間当たりの吐出回数および該吐出回数の変化量を取得する取得手段と、
前記取得手段によって取得された前記吐出回数および変化量に基づいて、前記所定時間に前記複数のヘッド基板それぞれの温度を検出する回数を設定する設定手段と、
前記設定された回数に従って前記複数のヘッド基板それぞれの温度を前記所定時間内に検出する検出手段と、
該検出手段の検出結果に基づいて前記複数のヘッド基板それぞれに配列された前記記録素子に与える熱エネルギを調整するエネルギ調整手段と
を備えることを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記取得手段は、前記複数のヘッド基板それぞれについて、前記所定時間当たりの吐出回数およびその変化量を、前記記録素子の配列された領域に対応する複数のブロックごとに取得し、
前記設定手段は前記変化量が大きいブロックの数が多いヘッド基板ほど、前記所定時間に温度を検出する回数を多く設定することを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記エネルギ調整手段は、前記記録素子に印加する電圧パルスのパルス形状を異ならせることにより、前記記録素子に与える熱エネルギを調整することを特徴とする請求項1または2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記取得手段は、前記複数のヘッド基板それぞれに対応するドットデータに基づいて、前記吐出回数およびその変化量を取得することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
前記複数のヘッド基板は、異なる色のインクを吐出することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のインクジェット記録装置。
【請求項6】
熱エネルギによってインクを吐出する記録素子が配列されたヘッド基板を複数用い、記録媒体に画像を記録するインクジェット記録方法において、
前記複数のヘッド基板それぞれについて、所定時間当たりの吐出回数および該吐出回数の変化量を取得する取得工程と、
前記取得工程によって取得された前記吐出回数および変化量に基づいて、前記所定時間に前記複数のヘッド基板それぞれの温度を検出する回数を設定する設定工程と、
前記設定された回数に従って前記複数のヘッド基板それぞれの温度を前記所定時間内に検出する検出工程と、
該検出工程の検出結果に基づいて前記複数のヘッド基板それぞれに配列された前記記録素子に与える熱エネルギを調整するエネルギ調整工程と
を有することを特徴とするインクジェット記録方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−91206(P2013−91206A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−233835(P2011−233835)
【出願日】平成23年10月25日(2011.10.25)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】