説明

インクジェット記録装置及びそのインクジェット記録装置におけるインク吐出制御方法

【課題】静電吸着により記録媒体を搬送する構成において、インク滴の着弾乱れを防ぐインクジェット記録装置を提供する。
【解決手段】無端のベルトを駆動させるローラとベルトを帯電する帯電部とを有し、記録媒体をベルトの表面に静電気力により吸着させて記録媒体を搬送方向に搬送するインクジェット記録装置は、記録ヘッドからインクを記録媒体上に吐出してテストデータに基づく記録を行う際に、記録ヘッドの直下に搬送された記録媒体の表面電位を取得すると、その表面電位に予め対応付けられたインクの吐出速度を求め、記録ヘッドの走査速度と、記録ヘッドから記録媒体までの距離と、インクの吐出速度とに基づき、インクの記録媒体への着弾位置の変動量を決定する。決定された変動量を打ち消すように、記録ヘッドからインクを吐出するタイミングを補正し、その補正されたタイミングで、画像データに基づく記録を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷データに基づき記録ヘッドのノズルからインク滴を吐出させて、記録媒体上に記録を行うインクジェット記録装置及びそのインクジェット記録装置におけるインク吐出制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、市場からの更なる高画質化と高速化の要求を実現するために、インクジェット記録装置において、多色化、高密度、小ドロップ化、多ノズル化が進められている。その結果、普通紙でのWebやテキストの印刷用途の他、特殊メディアに印刷した場合には、銀円写真と比べても遜色のない写真画像をユーザに提供できるようになっている。一方では、レーザビームプリンタ並に印刷速度を上げたビジネスユースや、産業向けのインクジェット記録装置も市場で広く知られている。
【0003】
そのようなビジネスユースや産業向けのインクジェット記録装置は、印刷速度を上げるために、記録ヘッドのノズルを長尺にしているものが多い。また、そのようなインクジェット記録装置においては、記録ヘッドのノズル面と記録媒体との間の距離(以下、紙間距離という)を一定に保つことが難しい。これは、記録ヘッドの上流にある記録媒体を支持するピンチローラから、下流側にある記録媒体を支持する排紙ローラまでの距離が長くなってしまうからである。従って、記録媒体の搬送機構において無端状ベルトを用いて、そのベルト表面に静電気を発生させ、記録媒体を吸着搬送する静電気吸着搬送システムが実現されている。
【0004】
上記の静電気吸着搬送システムを搭載したインクジェット記録装置においては、記録媒体の種類や、湿度等の使用環境条件、記録媒体の搬送速度、無端状ベルトの汚れ等により、記録媒体の吸着力が変化してしまう。急激な吸着力の変化は、インクジェット記録装置における記録媒体の搬送の安定性を損なってしまう。
【0005】
無端状ベルトに記録媒体を吸着させて安定した搬送を行うために、特許文献1には、記録媒体の種類によって、無端状ベルトに静電気を与える給電ローラに印加するAC(+、−)の周期を制御することについて記載されている。また、特許文献2には、無端状ベルトの表面電位を検知して、その検知結果に応じて無端状ベルトに静電気を与える給電手段への印加電圧を制御することについて記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−262557号公報
【特許文献2】特開2008−110853号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記のようなインクジェット記録装置においては、記録媒体の安定した搬送は実現することができるものの、一方では、無端状ベルトに付与した静電気が、記録ヘッドから吐出されるインク滴の吐出速度に影響を及ぼしてしまう。その結果、インク的の着弾乱れが発生してしまう。
【0008】
例えば、特許文献1においては、無端状ベルト上の電荷と記録媒体の電荷とによって発生した電界に対して、記録ヘッドから吐出されたインク滴が有する電荷により、そのインク滴にクーロン力が作用する。即ち、記録媒体上で測定した表面電位と、記録ヘッドから吐出されたインク滴の電荷とによってインク滴の振舞が決まることになり、そのことがインク滴の着弾乱れを引き起こしてしまう。
【0009】
また、特許文献2においては、記録ヘッド直下でのベルト上の平均的な帯電分布は、表面電位が「0」となり一様となるが、記録媒体の搬送方向においては、正帯電部と負帯電部とそれらの境界部とにおける表面電位が微視的に異なっている。従って、特に、インク滴の速度が遅い場合に、クーロン力によって引き付けられるインク滴の吐出速度の変動によって、インク滴の着弾が一定にならない。その結果、給電ローラから無端状ベルトに印加する正、負の切り替わり部分において(正、負の帯電周期の半分のピッチ)スジを生じさせてしまう。
【0010】
本発明の目的は、このような従来の問題点を解決することにある。そこで、上記の点に鑑み、本発明は、静電吸着により記録媒体を搬送する構成において、インク滴の着弾乱れを防ぐインクジェット記録装置及びそのインクジェット記録装置におけるインク吐出制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明に係るインクジェット記録装置は、記録媒体の搬送方向と交差する方向に記録ヘッドを走査し、前記記録ヘッドからインクを前記記録媒体上に吐出して、画像データに基づく記録を行うインクジェット記録装置であって、
無端のベルトを駆動させるローラと、前記ベルトを帯電する帯電部とを有し、前記記録媒体を前記ベルトの表面に静電気力により吸着させて前記ローラにより前記ベルトが駆動されることにより前記記録媒体を前記搬送方向に搬送する搬送手段と、
前記記録ヘッドからインクを前記記録媒体上に吐出してテストデータに基づく記録を行う際に、前記搬送手段により前記記録ヘッドの直下に搬送された前記記録媒体の表面電位を取得する取得手段と、
前記取得手段により取得された前記表面電位に予め対応付けられた前記インクの吐出速度を求め、前記記録ヘッドの走査速度と、前記記録ヘッドから前記記録媒体までの距離と、前記インクの吐出速度とに基づき、前記インクの前記記録媒体への着弾位置の変動量を決定する決定手段と、
前記決定手段により決定された前記着弾位置の前記変動量を打ち消すように、前記記録ヘッドから前記インクを吐出するタイミングを補正する補正手段と、
前記補正手段により補正された前記タイミングで前記記録ヘッドからインクを前記記録媒体上に吐出して、前記画像データに基づく記録を行う記録手段とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、静電吸着により記録媒体を搬送する場合にでも、インク滴の着弾乱れを防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】インクジェット記録装置の構成の概要を示す外観斜視図である。
【図2】インクジェット記録装置の制御構成を示すブロック図である。
【図3】第1の実施例におけるインクジェット記録装置の記録媒体搬送部分の構成を示す図である。
【図4】吐出されたインク滴の帯電について説明するための図である。
【図5】表面電位に対するインク滴の吐出速度の変化を示す図である。
【図6】本実施例における双方向レジ調整値の補正の手順を示すフローチャートである。
【図7】表面電位と吐出速度との対応を示す図である。
【図8】着弾変動量の算出を説明するための図である。
【図9】3種類の記録媒体における粒状感の結果を示す図である。
【図10】第2の実施例におけるインクジェット記録装置の記録媒体構造部分の構成を示す図である。
【図11】本実施例における双方向レジ調整値の補正の手順を示すフローチャートである。
【図12】記録媒体の種類と給電条件と湿度と表面電位との対応を示す図である。
【図13】各記録媒体における粒状感の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照して本発明の好適な実施例を詳しく説明する。尚、以下の実施例は特許請求の範囲に係る本発明を限定するものでなく、また本実施例で説明されている特徴の組み合わせの全てが本発明の解決手段に必須のものとは限らない。なお、同一の構成要素には同一の参照番号を付して、説明を省略する。
【0015】
[実施例1]
なお、この明細書において、「記録」(「プリント」という場合もある)とは、文字、図形等有意の情報を形成する場合のみならず、有意無意を問わず、また人間が視覚で知覚し得るように顕在化したものであるか否かを問わず、広く記録媒体上に画像、模様、パターン等を形成する、または媒体の加工を行う場合も表すものとする。
【0016】
また、「記録媒体」とは、一般的な記録装置で用いられる紙のみならず、広く、布、プラスチック・フィルム、金属板、ガラス、セラミックス、木材、皮革等、インクを受容可能なものも表すものとする。
【0017】
さらに、「インク」(「液体」と言う場合もある)とは、上記「記録(プリント)」の定義と同様広く解釈されるべきもので、記録媒体上に付与されることによって、画像、模様、パターン等の形成または記録媒体の加工、或いはインクの処理(例えば記録媒体に付与されるインク中の色剤の凝固または不溶化)に供され得る液体を表すものとする。
【0018】
またさらに、「ノズル」とは、特にことわらない限り吐出口ないしこれに連通する液路およびインク吐出に利用されるエネルギーを発生する素子を総括して言うものとする。
【0019】
[インクジェット記録装置の説明(図1)]
図1は、本実施例におけるインクジェット記録装置の構成の概要を示す外観斜視図である。
【0020】
図1に示すように、インクジェット記録装置100(単に、記録装置ともいう)は、インクジェット方式に従ってインクを吐出して記録を行なう記録ヘッド103を搭載したキャリッジ102にキャリッジモータM1によって発生する駆動力を伝達機構104より伝え、キャリッジ102を矢印A方向に往復移動させるとともに、例えば、記録紙などの記録媒体Pを給紙機構105を介して給紙し、記録位置まで搬送し、その記録位置において記録ヘッド103から記録媒体Pにインクを吐出することで記録を行なう。
【0021】
また、記録ヘッド103の状態を良好に維持するためにキャリッジ102を回復装置110の位置まで移動させ、間欠的に記録ヘッド103の吐出回復処理を行う。
【0022】
記録装置100のキャリッジ102には記録ヘッド103を搭載するのみならず、記録ヘッド103に供給するインクを貯留するインクカートリッジ106を装着する。インクカートリッジ106はキャリッジ102に対して着脱自在になっている。
【0023】
図1に示した記録装置100はカラー記録が可能であり、そのためにキャリッジ102にはマゼンタ(M)、シアン(C)、イエロ(Y)、ブラック(K)のインクを夫々、収容した4つのインクカートリッジを搭載している。これら4つのインクカートリッジは夫々独立に着脱可能である。
【0024】
さて、キャリッジ102と記録ヘッド103とは、両部材の接合面が適正に接触されて所要の電気的接続を達成維持できるようになっている。記録ヘッド103は、記録信号に応じてエネルギーを印加することにより、複数の吐出口からインクを選択的に吐出して記録する。特に、この実施例の記録ヘッド103は、熱エネルギーを利用してインクを吐出するインクジェット方式を採用し、熱エネルギーを発生するために電気熱変換体を備え、その電気熱変換体に印加される電気エネルギーが熱エネルギーへと変換され、その熱エネルギーをインクに与えることにより生じる膜沸騰による気泡の成長、収縮によって生じる圧力変化を利用して、吐出口よりインクを吐出させる。この電気熱変換体は各吐出口のそれぞれに対応して設けられ、記録信号に応じて対応する電気熱変換体にパルス電圧を印加することによって対応する吐出口からインクを吐出する。
【0025】
図1に示されているように、キャリッジ102はキャリッジモータM1の駆動力を伝達する伝達機構104の駆動ベルト107の一部に連結されており、ガイドシャフト113に沿って矢印A方向に摺動自在に案内支持されるようになっている。従って、キャリッジ102は、キャリッジモータM1の正転及び逆転によってガイドシャフト113に沿って往復移動する。また、キャリッジ102の移動方向(矢印A方向)に沿ってキャリッジ102の絶対位置を示すためのスケール108が備えられている。この実施例では、スケール108は透明なPETフィルムに必要なピッチで黒色のバーを印刷したものを用いており、その一方はシャーシ109に固着され、他方は板バネ(不図示)で支持されている。
【0026】
また、記録装置100には、記録ヘッド103の吐出口(不図示)が形成された吐出口面に対向してプラテン(不図示)が設けられており、キャリッジモータM1の駆動力によって記録ヘッド103を搭載したキャリッジ102が往復移動されると同時に、記録ヘッド103に記録信号を与えてインクを吐出することによって、プラテン上に搬送された記録媒体Pの全幅にわたって記録が行われる。
【0027】
さらに、図1において、114は記録媒体Pを搬送するために搬送モータM2によって駆動される搬送ローラ、115はバネ(不図示)により記録媒体Pを搬送ローラ114に当接するピンチローラ、116はピンチローラ115を回転自在に支持するピンチローラホルダ、117は搬送ローラ114の一端に固着された搬送ローラギアである。そして、搬送ローラギア117に中間ギア(不図示)を介して伝達された搬送モータM2の回転により、搬送ローラ114が駆動される。
【0028】
またさらに、120は記録ヘッド103によって画像が形成された記録媒体Pを記録装置外ヘ排出するための排出ローラであり、搬送モータM2の回転が伝達されることで駆動されるようになっている。なお、排出ローラ120は記録媒体Pをバネ(不図示)により圧接する拍車ローラ(不図示)により当接する。122は拍車ローラを回転自在に支持する拍車ホルダである。
【0029】
またさらに、記録装置100には、図1に示されているように、記録ヘッド103を搭載するキャリッジ102の記録動作のための往復運動の範囲外(記録領域外)の所望位置(例えば、ホームポジションに対応する位置)に、記録ヘッド103の吐出不良を回復するための回復装置110が配設されている。
【0030】
回復装置110は、記録ヘッド103の吐出口面をキャッピングするキャッピング機構111と記録ヘッド103の吐出口面をクリーニングするワイピング機構112を備えており、キャッピング機構111による吐出口面のキャッピングに連動して回復装置内の吸引構成(吸引ポンプ等)により吐出口からインクを強制的に排出させ、それによって、記録ヘッド103のインク流路内の粘度の増したインクや気泡等を除去するなどの吐出回復処理を行う。
【0031】
また、非記録動作時等には、記録ヘッド103の吐出口面をキャッピング機構111によるキャッピングすることによって、記録ヘッド103を保護するとともにインクの蒸発や乾燥を防止することができる。一方、ワイピング機構112はキャッピング機構111の近傍に配され、記録ヘッド103の吐出口面に付着したインク液滴を拭き取るようになっている。
【0032】
これらキャッピング機構111及びワイピング機構112により、記録ヘッド103のインク吐出状態を正常に保つことが可能となっている。
【0033】
[インクジェット記録装置の制御構成(図2)]
図2は、図1に示した記録装置の制御構成を示すブロック図である。図2に示すように、制御部1は、MPU601、後述する制御シーケンスに対応したプログラム、所要のテーブル、その他の固定データを格納したROM602、キャリッジモータM1の制御、搬送モータM2の制御、及び、記録ヘッド103の制御のための制御信号を生成する特殊用途集積回路(ASIC)603、画像データの展開領域やプログラム実行のための作業用領域等を設けたRAM604、MPU601、ASIC603、RAM604を相互に接続してデータの授受を行うシステムバス605、以下に説明するセンサ群からのアナログ信号を入力してA/D変換し、デジタル信号をMPU601に供給するA/D変換器606などで構成される。また、制御部1は、後述する制御シーケンス(フローチャート)に示される各処理を実行する。
【0034】
また、図2において、610は画像データの供給源となるコンピュータ(或いは、画像読取り用のリーダやデジタルカメラなど)でありホスト装置と総称される。ホスト装置610と記録装置100との間ではインタフェース(I/F)611を介して画像データ、コマンド、ステータス信号等を送受信する。
【0035】
さらに、620はスイッチ群であり、電源スイッチ621、プリント開始を指令するためのプリントスイッチ622、及び記録ヘッド103のインク吐出性能を良好な状態に維持するための処理(回復処理)の起動を指示するための回復スイッチ623など、操作者による指令入力を受けるためのスイッチから構成される。630はホームポジションhを検出するためのフォトカプラなどの位置センサ631、環境温度を検出するために記録装置の適宜の箇所に設けられた温度センサ632等から構成される装置状態を検出するためのセンサ群である。
【0036】
さらに、640はキャリッジ102を矢印A方向に往復走査させるためのキャリッジモータM1を駆動させるキャリッジモータドライバ、642は記録媒体Pを搬送するための搬送モータM2を駆動させる搬送モータドライバである。
【0037】
ASIC603は、記録ヘッド103による記録走査の際に、ROM602の記憶領域に直接アクセスしながら記録ヘッドに対して記録素子(吐出ヒータ)の駆動データ(DATA)を転送する。
【0038】
なお、図1に示す構成は、インクカートリッジ106と記録ヘッド103とが分離可能な構成であるが、これらが一体的に形成されて交換可能なヘッドカートリッジを構成しても良い。
【0039】
さらに、以下の実施例において、記録ヘッドから吐出される液滴はインクであるとして説明し、さらにインクタンクに収容される液体はインクであるとして説明したが、その収容物はインクに限定されるものではない。例えば、記録画像の定着性や耐水性を高めたり、その画像品質を高めたりするために記録媒体に対して吐出される処理液のようなものがインクタンクに収容されていても良い。
【0040】
以下の実施例は、特にインクジェット記録方式の中でも、インク吐出を行わせるために利用されるエネルギーとして熱エネルギーを発生する構成(例えば電気熱変換体やレーザ光等)を備え、熱エネルギーによりインクの状態変化を生起させる方式を用いることにより記録の高密度化、高精細化が達成できる。
【0041】
さらに、記録装置が記録できる最大記録媒体の幅に対応した長さを有するフルラインタイプの記録ヘッドとしては、上述した明細書に開示されているような複数記録ヘッドの組み合わせによってその長さを満たす構成や、一体的に形成された1個の記録ヘッドとしての構成のいずれでもよい。
【0042】
加えて、上記の実施例で説明した記録ヘッド自体に一体的にインクタンクが設けられたカートリッジタイプの記録ヘッドのみならず、装置本体に装着されることで、装置本体との電気的な接続や装置本体からのインクの供給が可能になる交換自在のチップタイプの記録ヘッドを用いてもよい。
【0043】
さらに加えて、本実施例における記録装置の形態としては、コンピュータ等の情報処理機器の画像出力端末として一体または別体に設けられるものの他、リーダ等と組み合わせた複写装置、さらには送受信機能を有するファクシミリ装置の形態を取るものであっても良い。
【0044】
[インクジェット記録装置の搬送部分の構成]
図3は、インクジェット記録装置100における記録媒体搬送部分の構成を示す図である。本実施例においては、記録媒体は、無端状ベルトに静電気力により吸着して搬送される。また、図3は、記録ヘッドを搭載したキャリッジの走査方向断面の模式図を示している。キャリッジは、図3の手前から奥側に向かって、記録媒体の搬送方向と交差する方向に、走査する。記録媒体と無端状ベルトは、記録ヘッド直下において、図3中の左側から右側に動き、1周して戻るように構成されている。
【0045】
帯電部として機能する給電ローラ31から−2KVの電圧を無端状ベルトに印加した場合、給電ローラ31から下流側で、接地された駆動ローラ32の直上において無端状ベルト33の表面電位を測定したところ、−1.5KVであった。この結果から、図3に示すように、給電ローラ31から無端状ベルト33の表面に負の電荷が移動して存在していることが分かる。その後、記録媒体は、無端状ベルト33上を、無端状ベルト33と、接地されたピンチローラ34とに挟まれて移動する。このとき、接地されたピンチローラ34には、GNDから無端状ベルト33の表面の電荷と反対側の極性を持った電荷を集めることになり、記録媒体表面には、無端状ベルト33表面の電荷の極性と反対の極性を持つ電荷が付与される。図3に示すように、無端状ベルト33に負の電荷が存在しているので、反対の極性である正の電荷が記録媒体表面に存在することになる。
【0046】
無端状ベルト33上にある記録媒体には、非印刷面には、無端状ベルト33上の負の電荷が存在し、印刷面には、正の電荷が存在するので、それらが引き合うクーロン力によって記録媒体と無端状ベルト33とが静電吸着する。無端状ベルト33に吸着された記録媒体は、駆動ローラ32の回転により、記録ヘッドの直下まで移動して、印刷が行われる。このとき、記録ヘッド直下の表面電位は、無端状ベルト33裏側の電荷と表面側の電荷と記録媒体上の電荷とによってほぼ決定される。その表面電位を検出するために、本実施例においては、記録媒体が記録ヘッドに入る直前の位置に、表面電位測定器36が構成されている。表面電位測定器36の構成位置については、特に限定されず、記録ヘッド直下の表面電位を検出する位置であれば、例えば、記録ヘッド近傍、例えばノズル位置に構成されても良い。また、無端状ベルト33を支えるプラテン37をGNDに接地して、半周して存在している無端状ベルトの表面電位をキャンセルするようにしても良い。
【0047】
[インク滴の帯電と吐出速度]
ここで、記録ヘッドのノズルから吐出されたインク滴の帯電について説明する。図4は、記録ヘッドのノズルから吐出されるインク滴を示す模式図である。図4に示すように、鉛直下側方向にインクの吐出が行われる。図4(a)に示すように、発泡タイミングでインクがノズル前方に押出される。その後、図4(b)に示すように、インク粘性や表面張力の作用によって滴形成が行われる。大きな主滴以外に、第1サテライト、第2サテライト、・・・と複数の微小なインク滴が形成される。
【0048】
次に、吐出されたインク滴が直下の表面電位によって、どのように振舞うかを説明する。図4(c)に示すように、インク滴に対向して約2.0mmの位置に、平板電極40をノズルの吐出口と平行に置き、その状態で吐出口からの距離1.0mm付近でのインク滴の吐出速度の変化を調べた。ここで、使用したインク種は、顔料系のシアンインクである。吐出口面及び吐出口素子は0KV(GND)に接続し、平行電極には−1.5KV〜+1.5KVまで、0.5KVずつ印加していった。
【0049】
その結果を図5に示す。横軸は、平板電極40の表面電位を示し、縦軸は、平板電極40の表面電位が0KV時の吐出速度を100%とした場合に、印加電圧によって変化する表面電位に対応して測定したインク滴の吐出速度の変化率を示す。ここで、平板電極40の表面電位が0KV時の吐出速度は、主滴について14[m/sec]であった。
【0050】
図5に示すように、主滴は、平板電極40の表面電位の極性(+、−)によらず、吐出速度は増加していく。また、線形近似を適応すると、+側でΔV=0.5KVに対して約20%の速度増加、−側でΔV=0.5KVに対して約18%の速度増加があることが分かった。不図示であるが、記録媒体に着弾する第1サテライトも主滴と同様に、表面電位の極性(+、−)によらず吐出速度が増加していくことが分かった。また、その速度増加率も主滴とほぼ同様の傾向であった。記録媒体に着弾する主滴と第1サテライトとが、外部電界が+の場合も−の場合も吐出速度が増加するという結果から次のようなことが推察される。つまり、インク滴形成時に、インク滴が外部電界に対して反対の極性の初期電荷を持ち、その後に外部電界により、インク滴にクーロン力(F=qE:qは電荷、Eは電界)が働き、インク滴は、その飛翔する速度を増加して平板電極40に引き付けられる(吐出方向に対して速度が増加する)ということである。
【0051】
以上のように、記録ヘッドのノズルから吐出されたインク滴は、記録ヘッド直下の表面電位に応じて、吐出速度が変化するということが分かった。
【0052】
[表面電位と双方向レジ調整補正値のつながり]
上述のように、記録ヘッド直下の無端状ベルト上に吸着された記録媒体上の表面電位に応じて、記録ヘッドから吐出されたインク滴の吐出速度が変化してしまう。シリアル系のインクジェット記録装置において、インク滴の吐出速度が変化すると、双方向レジが一致しないという画像弊害が生じてしまう。
【0053】
ここで、双方向レジについて説明する。搬送方向に伸びた1本の罫線を画像形成する際には、同じノズルから吐出されるインク滴についてキャリッジを往方向と復方向とに走査して完成させる。双方向レジとは、走査方向それぞれ(往復)に対して吐出タイミングを調整して、きれいな1本の罫線を完成させるための吐出タイミング制御をいう。従来では、インク滴の吐出速度を一定として、基準となるキャリッジ移動速度と、記録ヘッドの吐出口部から記録媒体までの紙間距離とに応じて、キャリッジの往方向と復方向で罫線パターンやパッチパターンをテスト印刷して双方向レジ調整を実施していた。
【0054】
例えば、従来では、上記の双方レジ調整を行うと、種種の記録媒体についての厚みの変動に起因する紙間距離を、ユーザから指定された印刷モード等から推定し、予め対応付けられた双方向レジ調整補正値を決定する。そして、その双方向レジ調整補正値を往方向と復方向の吐出方向の吐出タイミングに反映する。
【0055】
図6(a)は、従来における双方向レジの調整処理の手順の一例を示すフローチャートである。従来においては、まず、カラーパターン等のテストデータが印刷される(S601)。そのカラーパターンが印刷された際の、紙間距離とキャリッジ速度(走査速度)とから、双方向レジ調整値が決定される(S602)。次に、ユーザにより選択された印刷モードにおいて用いられる記録媒体の基準の記録媒体の厚みとの差から求められる紙間距離とキャリッジ速度とから双方向レジ調整補正値が決定される(S603)。
【0056】
このように、従来の双方向レジ調整方法においては、例えば、紙間距離とキャリッジ速度とから双方向レジ調整補正値を決定している。つまり、記録ヘッド直下の記録媒体上の表面電位に応じて変化するインク滴の吐出速度変化を全く考慮していない。その結果、従来の方法により決定された双方向レジ調整補正値によっても、双方向レジ調整が適切に行われずに着弾位置のずれが生じて画像弊害を引き起こしてしまう。例えば、基準となるレジ調整パターンを印刷する処理において、記録媒体上の表面電位が−500Vであるとする。従来の双方向レジ調整の方法においては、同じ厚みで別の種類の記録媒体に印刷した場合の記録媒体上の表面電位が−1000Vであるとすると、たとえ−500Vの場合と同じキャリッジ移動速度であっても、実際には無端状ベルト33上にある記録媒体上の表面電位の影響による吐出速度の増加分があるので、その決定された双方向レジ調整補正値では、適切に双方向レジ調整を行うことができない。
【0057】
そこで、本実施例において、インクジェット記録装置は、図3に示すように、記録ヘッド直下の無端状ベルト33に吸着している記録媒体上の表面電位を表面電位測定器36で検出できる構成を備えている。そして、図6(b)に示すように、従来と同様のS611,S612の処理後、双方向レジ調整補正値を決定する処理(S613)において、表面電位測定器36により表面電位を検出し、キャリッジ速度および紙間距離とともに、双方向レジ調整補正値を決定する。
【0058】
[レジ調整補正値の具体的な数値と妥当性]
以下、記録媒体上の表面電位とから、双方向レジ調整補正値を決定する処理について説明する。図7は、記録媒体の表面電位を0V、−500V、−1000Vと変化させ、各表面電位に対応した吐出速度を示す図である。吐出速度は、記録媒体の表面電位から図5を参照することにより求められる。図7はさらに、記録ヘッドから記録媒体表面までの紙間距離を1.2mm、キャリッジ速度を50[inch/sec]一定とし、記録媒体上でのキャリッジ走査方向に対する着弾変動量を示している。記録媒体上でのキャリッジ走査方向に対する着弾変動量は、図8に示すように次式(1)により算出される。
【0059】
着弾変動量 = キャリッジ速度×紙間距離÷吐出速度 ・・・(1)
記録媒体上の表面電位が−500Vの場合に、双方向レジ調整パターンの印刷を行うとする。その場合に、記録媒体上でのキャリッジ走査方向に対する着弾変動量を基準として、その基準からのX方向の着弾位置差をずれ量X(レジ調整補正値の具体的な数値に対応する)で示している。記録媒体上の表面電位が0Vの場合には、ずれ量Xは、−16.5[μm]となり、−1000Vの場合には、+12.15[μm]となる。双方向レジ調整の場合には、そのX方向のずれ量の値が往復方向それぞれで加算されるので、往方向と復方向とで罫線を印刷すると、記録媒体上では2倍のずれ量となる。
【0060】
2400dpi単位での吐出タイミングを補正可能な装置において、各ずれ量Xを双方向レジ調整補正値で表すと、0Vでは−3単位(−3.1)、−1000Vでは+2単位(2.3)となる。ここで、「−」とは、−500V時の吐出タイミングを0として本来の吐出タイミングより早める方向を表し、反対に、「+」とは本来の吐出タイミングより遅くする方向を表している。
【0061】
本実施例においてはまず、記録媒体上の表面電位が−500V時に基準レジ調整パターンを印刷して双方向レジ調整値を決定する。表面電位が0Vとー1000Vとに変化した場合において、紙間距離とキャリッジ速度は、基準レジ調整パターン印刷時(つまり、表面電位が−500V時)と同じ条件であるとする。表面電位測定器36により記録媒体上の表面電位が0Vであることを検出した場合には、本来の吐出タイミングより早める方向に2400dpi×3単位分(約7.8×3μsec相当)吐出タイミングをずらすように双方向レジ調整補正値を決定する。その結果、キャリッジ走査方向の双方向ずれが補正される。同様に、表面電位測定器36により記録媒体上の表面電位が−1000Vであることを検出した場合には、本来の吐出タイミングより遅める方向に2400dpi×2単位分(約7.8×2μsec相当)吐出タイミングをずらすように双方向レジ調整補正値を決定する。その双方向レジ調整補正値に従ってインク吐出制御が行われて、その結果、キャリッジ走査方向の双方向ずれが補正される。
【0062】
[効果の説明]
記録ヘッド直下の無端状ベルト33上にある記録媒体上の表面電位を検出して、双方向レジ調整補正値として反映するための構成から生じる効果について説明する。図3に示すような構成を有するインクジェット記録装置において、同じ厚みで材料の異なる記録媒体A〜Cの3種類を用いて、4パスのマルチパス印刷でグレーパターンを印刷した際の粒状感の評価を行った。図9は、3種類の記録媒体におけるグレーパターンを印刷した際の粒状感の各結果を示す図である。
【0063】
図9に示すプリンタ1は、従来のインクジェット記録装置を示す。即ち、表面電位測定器36は構成されていない。また、双方向レジ調整補正値も3種類の記録媒体においてキャリッジ速度と紙間距離とから決定される(即ち、従来の方法により決定される)双方向レジ調整補正値を使用している。図9に示すプリンタ2は、本実施例におけるインクジェット記録装置を示す。即ち、表面電位測定器36が構成されている。プリンタ1とプリンタ2も、記録媒体Bに対して、基準となる双方向レジ調整を行った。
【0064】
図9に示すように、プリンタ1では、双方向レジ調整を実施した記録媒体Bのみ粒状感がない滑らかな画像であったが、記録媒体Aでは、粒状感が悪くザラザラした画像になった。これは、記録媒体の材料がBとは異なることにより、レジ調整をした記録媒体Bに比べて、無端状ベルト33における記録媒体上の電荷の状態が異なり(正の電荷が多く存在していると想定される)、記録媒体上の表面電位が大きく異なっているからである。その結果、インク滴の吐出速度が記録媒体Bの時に比べて大きく変わり、着弾位置のずれを生じ、双方向レジのずれを生じてしまったということである。記録媒体Cの粒状感の劣化は、記録媒体Aに比べて小さい。その原因は、基準とした記録媒体Bの表面電位と、吐出速度との関係からインク滴の吐出速度の変化量が記録媒体Aに比べて小さいからであると想定される。つまり、同じ厚みを持った記録媒体でも、記録ヘッド直下の無端状ベルト33上の記録媒体上の表面電位が異なり、インク滴の吐出速度が3種類の記録媒体それぞれにおいて変化し、その結果、出力画像の粒状感に差が現れてしまうことが分かる。
【0065】
一方、無端状ベルト33上の記録媒体上の表面電位を検出する表面電位測定器36を有するプリンタ2では、3種類の記録媒体のいずれにおいてもほぼ同様に粒状感のない滑らかなグレー画像を出力することができている。これは、プリンタ1と同様に、3種類の記録媒体において、記録ヘッド直下の無端状ベルト33上の記録媒体上の表面電位が異なったとしても、その結果から生じるインク滴の吐出速度分の着弾ずれ量を吐出タイミングとして正しく補正しているからである。
【0066】
以上の結果、本実施例における記録ヘッド直下の無端状ベルト33上にある記録媒体上の表面電位を検出して、双方向レジ補正値として反映する構成による効果が示された。
【0067】
本実施例においては、無端状ベルト33として、2層ベルト(記録媒体吸着面側:1×10^15Ωcm以上、記録媒体非吸着面側:1×10^7[Ωcm]以上)を用いている。しかしながら、単層ベルトを用いても良く、2層ベルトの場合とほぼ同等の原理で無端状ベルト33に対して記録媒体は吸着される。また、図3に示すように、給電ローラ31から無端状ベルト33に印加した電圧は−極性であるが、+極性としても良い。図5において説明したように、インク滴の吐出速度は、無端状ベルト33上の記録媒体上の表面電位に応じて変化するので、+極性で印加した場合においても、記録媒体上の表面電位に対して双方向レジ調整補正値を決定することができる。
【0068】
本実施例においては、表面電位測定器36により記録媒体上の表面電位を取得しているが、例えば、記録媒体の種類と給電ローラ31のベルト33への給電条件とから求めるようにしても良い。または、それらの値と表面電位とが対応付けられたテーブルを予め記憶部等に格納しておき、双方向レジ調整処理において用いられる記録媒体の種類と給電条件とから表面電位を取得するようにしても良い。
【0069】
上述のように本実施例においては、無端状ベルト33をDC帯電し、無端状ベルト33上の記録媒体上の表面電位を検出して、その結果に応じて双方向レジ調整補正値を選択する。そして、その選択された双方向レジ調整補正値を用いてインク滴を吐出するタイミングを制御することで、記録媒体上の表面電位に応じて変化する吐出速度変化分による着弾ずれを補正する。その結果、双方向レジ調整のずれによる画像劣化を防止することができる。
【0070】
[実施例2]
次に、実施例2におけるインクジェット記録装置の例を説明する。図10は、本実施例におけるインクジェット記録装置の静電吸着による搬送構造部付近の構成を示す図である。本実施例におけるインクジェット記録装置は、表面電位測定器36を構成していない点において、図3に示すインクジェット記録装置と異なる。
【0071】
記録ヘッド直下の無端状ベルト83上の記録媒体上の表面電位は、無端状ベルト83に給電する電荷量と、GNDに接地されたピンチローラ84から記録媒体上に付与される反対の極性の電荷量とによって決定する。図10に示すように、給電ローラ81に−2KVを印加しているので、放電現象により無端状ベルト83上には負の電荷が存在し、GNDに接地されたピンチローラ84から記録媒体上に、反対の極性である正の電荷が付与されることになる。
【0072】
無端状ベルト83の抵抗率、給電ローラ81の抵抗値、駆動ローラ82の抵抗値などは、無端状ベルト83に給電する電荷量に影響するがインクジェット記録装置の使用条件により変動しない要因である。しかしながら、給電ローラ81の給電条件は、インクジェット記録装置の使用条件により変動する要因である。
【0073】
例えば、記録媒体Aの体積抵抗率が他の2種類(B、C)の記録媒体に比べて大きいとする。ここで、記録媒体Aについて、他の2種類の記録媒体の場合と同じ給電電圧で給電ローラ81を駆動すると、無端状ベルト83上に付与される電荷量は同じであっても、記録媒体Aの表面上の電荷量は、体積抵抗率が大きいために少なくなり、結果として無端状ベルト83と記録媒体Aの吸着力が低下してしまう。そのまま吸着力が低い状態で記録媒体Aを搬送すると、記録媒体Aが無端状ベルト83から剥れたり、ずれたりして搬送の安定性を欠く。従って、他の2種類の記録媒体と同等の搬送信頼性を実現するためには、給電電圧を高くして、吸着力に寄与する負の電荷と正の電荷の両方を増加させることが必要である。このように、搬送信頼性の点から、各記録媒体の体積抵抗率に応じて、給電条件が変更される。これが、給電条件がインクジェット記録装置の使用条件により変動する要因である理由である。
【0074】
一方、GNDに接地したピンチローラ84の抵抗は、GNDに接地されたピンチローラ84から記録媒体上に付与される反対の極性の電荷量に影響するがインクジェット記録装置の使用条件により変動しない要因である。しかしながら、記録媒体の種類は、インクジェット記録装置の使用条件により変動する要因である。つまり、記録媒体の種類は、各種類について主に材料や密度による体積抵抗率や表面抵抗率が異なっているからである。
【0075】
一般的に、湿度は静電気に敏感に影響する。低湿度環境では、相対的に記録ヘッド直下における無端状ベルト83上にある記録媒体上の表面電位の絶対値は高くなる。反対に、湿度が75%以上の高湿度環境では、表面電位の絶対値が低くなる。これは、一般的に、湿度が高くなるにつれて、無端状ベルト83上の電荷と、反対極性を持つ記録媒体表面の電荷とが減少していくからである。このように、インクジェット記録装置内の湿度は、無端状ベルト83に給電される電荷量と、GNDに接地されたピンチローラ84から記録媒体上に付与される反対の極性の電荷量とに影響する。湿度は、インクジェット記録装置の使用条件によって変動する要因であるといえる。
【0076】
以上のように、インクジェット記録装置内において、記録ヘッド直下の無端状ベルト83上の記録媒体上の表面電位に影響する要因は、インクジェット記録装置の使用条件により変動しない要因と変動する要因とに分けることができる。つまり、記録ヘッド直下の無端状ベルト83上の記録媒体上の表面電位に影響し、かつ、インクジェット記録装置の使用条件により変動する要因には、湿度、記録媒体の種類、給電ローラの給電条件がある。そこで、本実施例においては、それらの情報に基づき、記録ヘッド直下の無端状ベルト83上の記録媒体上の表面電位を取得する。
【0077】
以下、湿度や記録媒体の種類、給電ローラの給電条件の情報を取得する構成と、それらの情報から、記録ヘッド直下の無端状ベルト83上の記録媒体上の表面電位を取得し、その取得結果から、双方向レジ調整補正値を決定する処理について説明する。
【0078】
一般的に、ユーザは、インクジェット記録装置を用いて記録媒体に印刷を行う際に、プリンタドライバ上で記録媒体や記録品位等の設定を含む印刷モードを指定する。つまり、インクジェット記録装置は、ユーザにより指定された印刷モードから、記録媒体の種類や記録品位などの情報を取得することができる。また、ユーザが指定できる記録媒体の種類毎に、搬送速度や無端状ベルト83と記録媒体との吸着力や、印刷時間について最適化されたパラメータが予め設定されている。そのパラメータには、給電ローラ81に給電される給電条件も含まれている。つまり、インクジェット記録装置は、給電ローラ81に給電される給電条件についても取得することができる。また、図10においては不図示であるが、本実施例におけるインクジェット記録装置は、内部に湿度センサを搭載している。従って、インクジェット記録装置は、任意のタイミングにおいて、インクジェット記録装置内の湿度情報を取得することができる。
【0079】
[シーケンス]
図11は、湿度や記録媒体の種類や給電ローラへの給電条件の情報に基づいた双方向レジ調整処理の手順の一例を示すフローチャートである。まず、記録ヘッドから吐出されるインク滴の着弾について調整を行う目的で、例えばカラーパターンを印刷する(S1101)。次に、印刷されたカラーパターンに基づき、双方向レジ調整値が決定される(S1102)。双方向レジ調整値を決定するための処理は、従来の方法に従う。
【0080】
ここで、インクジェット記録装置は、図12に示すような、記録媒体の種類(厚みと紙間距離に対応)および給電条件および湿度と、表面電位とが予め対応付けられたテーブルを格納している。次に、記憶媒体の種類と給電条件と、湿度センサにより検出された湿度情報とから表面電位を取得する。
【0081】
次に、ユーザにより選択された印刷モードにおける記録媒体の種類とキャリッジ速度と表面電位とから双方向レジ調整補正値を決定する。S1103における双方向レジ調整補正値決定後に、選択された印刷モードで印刷を行う(S1104)。
【0082】
湿度や記録媒体の種類及び給電ローラの給電条件などの情報を得る実施例の一つとして図10に示すような構成を説明した。しかしながら、湿度や記録媒体の種類や給電ローラ81の給電条件などの情報を取得することができ、記録ヘッド直下の無端状ベルト83上の記録媒体上の表面電位を取得できるのであれば、別の構成を用いても良い。例えば、記録媒体の種類を検知するセンサを備えるようにして、その検出結果から記録媒体の種類の情報を取得するようにしても良い。
【0083】
[効果の説明]
本実施例における構成による効果について説明する。3種類の記録媒体(基準媒体、記録媒体A及びB)について、湿度50%と80%の環境下において、記録ヘッド直下の無端状ベルト83上の記録媒体上の表面電位を、湿度や記録媒体の種類や給電ローラ81の給電条件から取得し、各粒状感の評価を行った。図13は、その結果を示す図である。ここでは、4パスのマルチパス印刷でグレーパターンを印刷している。
【0084】
図13に示すプリンタ1は、従来のインクジェット記録装置であり、記録ヘッド直下の無端状ベルト83上の記録媒体上の表面電位について、湿度や記録媒体の種類や給電ローラ81の給電条件に基づいて取得していない。双方向レジ調整補正値についても、従来の方法のように、キャリッジ速度と紙間距離から決定される双方向レジ調整補正値を使用している。一方、プリンタ2では、記録ヘッド直下の無端状ベルト83上の記録媒体上の表面電位を、湿度や記録媒体の種類や給電ローラ81の給電条件に基づいて取得し、それに応じて双方向レジ調整補正値を決定している。また、プリンタ1、プリンタ2のいずれも、湿度50%の環境で、基準となる双方向レジ調整処理を、基準媒体で実行した。
【0085】
図13に示すように、プリンタ1については、双方向レジ調整を実行した基準媒体と湿度80%環境での記録媒体Aのみ、粒状感がない滑らかな画像となったが、それ以外では程度差はあっても粒状感が劣化してザラザラした画像となった。湿度80%での記録媒体Aは、湿度50%環境下において基準媒体で双方向レジ調整を行った場合と、湿度80%環境下での記録媒体Aを記録した時の記録ヘッド直下の記録媒体上の表面電位がたまたま同じであったために、同じ結果(二重丸)となっている。つまり、記録ヘッドから吐出されるインク滴の吐出速度がたまたま同じになり、双方向レジ調整値にずれが生じなかったということである。しかしながら、他の場合では、異なる結果(一重丸や三角)となっている。これは、湿度や記録媒体の種類や給電ローラ81の給電条件が異なることにより記録ヘッド直下の記録媒体上の表面電位が異なるにも関わらず、湿度50%で基準媒体を印刷した際に決定したままの双方向レジ調整値を使用しているからである。従って、粒状感の評価に差が生じてしまっている。
【0086】
一方、プリンタ2では、記録ヘッド直下の無端状ベルト83上の記録媒体上の表面電位を、湿度や記録媒体の種類や給電ローラ81の給電条件に基づいて図12に示す表から取得し、双方向レジ調整補正値を決定している。プリンタ2では、湿度50%と湿度80%の環境下の記録媒体A、Bにおいても、湿度50%でレジ調整を実施した基準媒体で4パスのマルチパス印刷でグレーパターンを印刷したときとほぼ同様に粒状感のない滑らかなグレー画像を出力することができている。これは、プリンタ1と同様に、3種類の記録媒体それぞれにおいて、記録ヘッド直下の無端状ベルト83上の記録媒体上の表面電位は異なっていても、インク滴の吐出速度の差分に基づき吐出タイミングとして正しく補正しているからである。
【0087】
以上のように、記録ヘッド直下の無端状ベルト83上の記録媒体上の表面電位を、湿度や記録媒体の種類及び給電ローラ81の給電条件に基づいて取得し、双方向レジ調整補正値を決定することによる効果が大きいことが分かった。
【0088】
本実施例においては、無端状ベルト83として、2層ベルト(メディア吸着面側:1×10^15[Ωcm]以上、メディア非吸着面側:1×10^7[Ωcm]以上)を用いている。しかしながら、単層ベルトを用いて、記録ヘッド直下の記録媒体上の表面電位に対して双方向レジ調整補正値を決定するようにしても良い。また、本実施例においては、給電ローラ81から無端状ベルト83に印加した電圧は−極性であるが、+極性で給電するようにしても良い。
【0089】
以上のように、本実施例においては、無端状ベルト83をDC帯電し、記録ヘッド直下の無端状ベルト83上の記録媒体上の表面電位を、湿度や記録媒体の種類や給電ローラ81の給電条件に基づき取得している。そして、それに応じて双方向レジ調整補正値を決定し、インク滴を吐出するタイミングを制御している。その結果、記録媒体上の表面電位の差分に応じて生じる吐出速度の変化を補正することができ、双方向レジ調整のずれによる画像劣化を防止することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録媒体の搬送方向と交差する方向に記録ヘッドを走査し、前記記録ヘッドからインクを前記記録媒体上に吐出して、画像データに基づく記録を行うインクジェット記録装置であって、
無端のベルトを駆動させるローラと、前記ベルトを帯電する帯電部とを有し、前記記録媒体を前記ベルトの表面に静電気力により吸着させて前記ローラにより前記ベルトが駆動されることにより前記記録媒体を前記搬送方向に搬送する搬送手段と、
前記記録ヘッドからインクを前記記録媒体上に吐出してテストデータに基づく記録を行う際に、前記搬送手段により前記記録ヘッドの直下に搬送された前記記録媒体の表面電位を取得する取得手段と、
前記取得手段により取得された前記表面電位に予め対応付けられた前記インクの吐出速度を求め、前記記録ヘッドの走査速度と、前記記録ヘッドから前記記録媒体までの距離と、前記インクの吐出速度とに基づき、前記インクの前記記録媒体への着弾位置の変動量を決定する決定手段と、
前記決定手段により決定された前記着弾位置の前記変動量を打ち消すように、前記記録ヘッドから前記インクを吐出するタイミングを補正する補正手段と、
前記補正手段により補正された前記タイミングで前記記録ヘッドからインクを前記記録媒体上に吐出して、前記画像データに基づく記録を行う記録手段と
を備えることを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記取得手段は、前記記録ヘッド近傍に設けられた電位測定器により、前記搬送手段により前記記録ヘッドの直下に搬送された前記記録媒体の表面電位を取得することを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
湿度を検出する湿度センサをさらに備え、
前記取得手段は、前記湿度センサにより検出された湿度と前記記録媒体の種類と前記帯電部に給電する給電条件とに基づき、前記搬送手段により前記記録ヘッドの直下に搬送された前記記録媒体の表面電位を取得することを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記決定手段は、前記記録ヘッドの走査速度と、前記記録ヘッドから前記記録媒体までの距離と、前記インクの吐出速度とを用いて算出することによって、前記インクの前記記録媒体への着弾位置の変動量を決定することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
無端のベルトを駆動させるローラと、前記ベルトを帯電する帯電部とを有し、記録媒体を前記ベルトの表面に静電気力により吸着させて前記ローラにより前記ベルトが駆動されることにより前記記録媒体を搬送方向に搬送する搬送手段を備え、前記記録媒体の前記搬送方向と交差する方向に記録ヘッドを走査し、前記記録ヘッドからインクを前記記録媒体上に吐出して、画像データに基づく記録を行うインクジェット記録装置において実行されるインク吐出制御方法であって、
前記インクジェット記録装置の取得手段が、前記記録ヘッドからインクを前記記録媒体上に吐出してテストデータに基づく記録を行う際に、前記搬送手段により前記記録ヘッドの直下に搬送された前記記録媒体の表面電位を取得する取得工程と、
前記インクジェット記録装置の決定手段が、前記取得工程において取得された前記表面電位に予め対応付けられた前記インクの吐出速度を求め、前記記録ヘッドの走査速度と、前記記録ヘッドから前記記録媒体までの距離と、前記インクの吐出速度とに基づき、前記インクの前記記録媒体への着弾位置の変動量を決定する決定工程と、
前記インクジェット記録装置の補正手段が、前記決定工程において決定された前記着弾位置の前記変動量を打ち消すように、前記記録ヘッドから前記インクを吐出するタイミングを補正する補正工程と、
前記インクジェット記録装置の記録手段が、前記補正工程において補正された前記タイミングで前記記録ヘッドからインクを前記記録媒体上に吐出して、前記画像データに基づく記録を行う記録工程と
を有することを特徴とするインク吐出制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−126030(P2012−126030A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−279861(P2010−279861)
【出願日】平成22年12月15日(2010.12.15)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】