説明

インクジェット記録装置及び液滴吐出手段の回復方法

【課題】局所的な塗布不足の発生を低減して良好なインク吐出性能を維持することが可能なインクジェット記録装置及び液滴吐出手段の回復方法を提供する。
【解決手段】インクジェット記録装置は、少なくとも1以上の液滴吐出部を設けた少なくとも1以上の液滴吐出手段と、液滴吐出手段の吐出部形成面のワイピングを行う少なくとも2以上のワイピング部材を液滴吐出部配列方向に設けたワイピング手段と、ワイピング手段を液滴吐出部配列方向に対し垂直方向に移動させる移動手段と、を備える。そして、少なくとも2以上のワイピング部材のうち、少なくとも1以上のワイピング部材は、吐出部形成面と当接する面であって液滴吐出部配列方向の中央部に、吐出部形成面との非当接領域を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液滴吐出ヘッドの吐出口形成面に付着したインクを除去するワイピング部材を備えたインクジェット記録装置及び液滴吐出手段の回復方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プリンタ、ファクシミリ、複写装置、これらの複合機、プロッタ等の各種画像形成装置として、記録液の液滴を吐出する液滴吐出ヘッドを用いたインクジェット記録装置を備えるものがある。これらインクジェット記録装置では、例えば、吐出する液体を貯留容器に貯留し、この液体を液滴吐出ヘッドに供給して、液滴吐出ヘッド内の圧力発生室で加圧した液体をノズルから液滴として対象物に向けて吐出させる。しかし、吐出した液滴が対象物に着弾した際の飛沫が、ノズルが形成された面(以下、ノズル形成面という)に付着してしまい、ノズル形成面が汚れてしまうという問題があった。
【0003】
また、ノズルから液滴を吐出する際、対象物に着弾する液滴の他に、その液滴から分離したより微小な液滴(以下、サテライト)が発生することがある。このサテライトは、対象物には到達せずに空気中に漂い、ノズル形成面に付着してしまうという問題もあった。さらに、印刷記録媒体である用紙も用紙パス面との摺動により紙粉を発生させるため、この紙粉がノズル面と印刷用紙の間を浮遊してノズル形成面に付着してしまうという問題があった。
【0004】
上述したように、液滴吐出ヘッドのノズル面に異物が付着した場合には、液滴の吐出方向に曲がりを生じさせて画像品質の低下を招く。また、上記異物がノズル周りに堆積すると、吐出方向の曲がりだけでなく吐出不能にまで発展してしまう。
【0005】
上述した問題を解決するために、近年、ノズル面に付着した汚れの払拭を行うためのワイピング機構を備えたインクジェット記録装置が普及している。
【0006】
ここで、インクジェット記録装置が備えるワイピング機構の例について説明する。ワイピング機構には、例えばゴムやエラストマー等の弾性を有する材料で形成された板状(例えば、短冊状)のワイパブレードが具備されていて、インクジェット記録装置における液滴吐出ヘッドの待機領域であるホームポジション側に配置されている。また、このワイパブレードは、通常状態では、液滴吐出ヘッドに接触しない退避位置に位置しているが、ワイピングを行う際に、ワイパブレードの上部が液滴吐出ヘッドのノズル形成面に接触可能な位置まで移動する。そして、ワイパブレードが液滴吐出ヘッドに接触すると、ブレード全体が弓状に撓み、このブレードの先端部がノズル形成面に接触した状態でワイパブレードを保持する保持部材又は液滴吐出ヘッドが移動してノズル形成面を摺擦することで、ノズル形成面に付着した汚れをワイパブレードによって払拭する。
【0007】
また、インクジェット記録装置においては、液路内のインクがインクに含有される溶媒の蒸発によって増粘してノズル詰まりを生じさせてしまい、吐出の不安定さや、吐出不良を引き起こしてしまうという問題がある。そこで、上記問題を解決するために、インクジェット記録装置はノズル面をキャッピングするキャップを備え、キャップ内を吸引ポンプで吸引してノズルから増粘したインクを吸引した後に、上述したノズル面のワイピングを行うようにしている。
【0008】
このように、液滴吐出ヘッドを用いるインクジェット記録装置においては、インクを吐出する液滴吐出ヘッドの性能を維持、回復する機構が不可欠になる。この液滴吐出ヘッドの性能維持回復を行うための回復機構は、上述したような、インクに含有される溶媒の自然蒸発によるノズル付近のインクの増粘固着を防止するためにノズル面を高い密閉性を保って覆うための保湿用キャップやノズルから増粘したインクを吸引して排出するための吸引用キャップ(保湿用キャップと兼用されることもある)等のキャップ、ノズル面に付着したインクを拭き取って除去するためのワイピング手段であるワイパブレード、画像形成に寄与しない液滴を吐出する空吐出を行うための空吐出受け等で構成される。
【0009】
しかし、上述したような性能維持回復を行うための回復機構を備えても、ワイピングしきれずにノズル面に液体や紙粉等の異物が残存したまま放置された場合や、長時間の連続印刷でノズル面に付着したサテライトがワイピングされない場合、さらに液体の水分蒸発による増粘が生じ、またこれにより異物が強固に付着堆積するなどして、ワイピングしても容易には除去できなくなる場合等もある。
【0010】
上述した問題を解決するために、ワイパブレードにインクを吐出してワイピングすることで増粘インクを溶解させる技術が開示されている(例えば、特許文献1)。また、溶媒にワイパブレードを接触させてワイピングすることで増粘インクを溶解させる技術も開示されている(例えば、特許文献2)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、上記特許文献1や特許文献2に記載されているように、増粘又は固着したインクを溶解させるため、種々の方法によりインクに含まれる溶媒等をノズル形成面に塗布するような技術では、塗布後すぐにワイパブレードで溶媒等を拭ききってしまうため溶媒等が十分に全体に行き渡らず、所々増粘インクの溶解が不十分なままワイピングしている問題や、ワイパブレード上面に塗布された溶媒等がワイパブレードの後方に回り込んで払拭性が低下してしまうという問題があった。
【0012】
つまり、上記特許文献1や特許文献2の技術では、ワイパブレードの上面にインクまたは溶媒が付着した状態でワイピングした場合、ワイパブレード後方へのインク回り込みが発生しやすく、払拭性が低下してしまうという問題を解決できないという課題があった。さらに、ノズル形成面に増粘もしくは固着したインクが付着した状態でワイピングを行った場合、ワイパブレードの払拭性能が十分に発揮できずに拭き残しが生じたり、増粘インクが剥離したときにノズル形成面を傷めたりして、吐出不良を引き起こしやすくなるという問題を解決できないという課題もあった。
【0013】
本発明はこのような実情を鑑みてなされたものであり、上記課題を解決するために、ノズル形成面に塗布するインクに含まれる溶媒等を均一に延ばすことにより、局所的な塗布不足の発生を低減して良好なインク吐出性能を維持することが可能なインクジェット記録装置及び液滴吐出手段の回復方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明のインクジェット記録装置は、少なくとも1以上の液滴吐出部を設けた少なくとも1以上の液滴吐出手段と、液滴吐出手段の吐出部形成面のワイピングを行う少なくとも2以上のワイピング部材を液滴吐出部配列方向に設けたワイピング手段と、ワイピング手段を液滴吐出部配列方向に対し垂直方向に移動させる移動手段と、を備え、少なくとも2以上のワイピング部材のうち、少なくとも1以上のワイピング部材は、吐出部形成面と当接する面であって液滴吐出部配列方向の中央部に、吐出部形成面との非当接領域を有する第1のワイピング部材であることを特徴とする。
【0015】
本発明の液滴吐出手段の回復方法は、少なくとも1以上の液滴吐出部を設けた少なくとも1以上の液滴吐出手段における吐出部形成面の液滴吐出部配列方向に対して垂直方向に、少なくとも2以上のワイピング部材を液滴吐出部配列方向に設けたワイピング手段を移動させる移動ステップと、吐出部形成面と当接する面であって液滴吐出部配列方向の中央部に、吐出部形成面との非当接領域を有する第1のワイピング部材によりワイピングを行う第1のワイピングステップと、吐出部形成面と当接する面であって液滴吐出部配列方向の中央部に、吐出部形成面との当接領域を有する第2のワイピング部材によりワイピングを行う第2のワイピングステップと、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、良好なインク吐出性能を維持することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本実施形態に係るインクジェット記録装置の全体概略構成例を示す図である。
【図2】本実施形態に係るインクジェット記録装置の概略構成例を示す図である。
【図3】本実施形態に係るインクジェット記録装置の液滴吐出ヘッドの例を示す図である。
【図4】本実施形態に係るインクジェット記録装置の概略構成例を示す図である。
【図5】本実施形態に係るインクジェット記録装置のワイピング機構の概略構成例を示す図である。
【図6】本実施形態に係るインクジェット記録装置のワイピング機構の概略構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に本発明の実施形態の例について、図面を用いて詳細に説明する。尚、本実施形態では、インクジェット記録装置が吐出する液滴としてインクを例に挙げて説明するが、これに限定されるものではない。
【0019】
まず、本実施形態に係るインクジェット記録装置の例について、図1を参照して説明する。図1は、本実施形態に係るインクジェット記録装置の全体概略構成例を示す。
【0020】
インクジェット記録装置は、インクジェット記録装置本体1の内部に画像形成部2等を有し、装置本体1の下方側に多数枚の記録媒体である用紙3を積載可能な給紙トレイ4を備えている。この給紙トレイ4から給紙される用紙3を取り込み、用紙搬送機構5によって用紙3を搬送しながら画像形成部2によって所要の画像を記録した後、装置本体1の側方に装着された排紙トレイ6に用紙3を排紙する。尚、以下、本実施形態では記録媒体として用紙3を適用する場合を例に挙げて説明するが、これに限定されるものではない。
【0021】
また、このインクジェット記録装置は、インクジェット記録装置本体1に対して着脱可能な両面ユニット7を備え、両面印刷を行うときには、表面印刷終了後、用紙搬送機構5によって用紙3を逆方向に搬送しながら両面ユニット7内に取り込み、反転させて裏面を印刷可能面として再度用紙搬送機構5に送り込み、裏面印刷終了後排紙トレイ6に用紙3を排紙する。尚、両面ユニット7は備えていなくてもかまわない。
【0022】
ここで、画像形成部2は、ガイドシャフトにキャリッジ13を摺動可能に保持し、図示しない主走査モータでキャリッジ13を用紙3の搬送方向と直交する方向に移動(主走査)させる。このキャリッジ13には、液滴を吐出する複数の吐出口であるノズルを配列した液滴吐出ヘッド14を搭載し、また、この液滴吐出ヘッド14に液体を供給するインクカートリッジ15を着脱自在に搭載している。尚、インクカートリッジ15に代えてサブタンクを搭載し、メインタンクからインクをサブタンクに補充供給する構成とすることもできる。
【0023】
給紙コロ(半月コロ)21と図示しない分離パッドは、給紙トレイ4の用紙3を1枚ずつ分離し、インクジェット記録装置本体1内に給紙して、用紙搬送機構5に送り込む。
【0024】
用紙搬送機構5は、搬送ガイド部23、搬送ローラ24、加圧コロ25、ガイド部材26、27、押し付けコロ28、を有している。搬送ガイド部23は、給紙された用紙3をガイド面23aに沿って上方にガイドし、また両面ユニット7から送り込まれる用紙3をガイド面23bに沿ってガイドする。搬送ローラ24は、用紙3を搬送する。加圧コロ25は、搬送ローラ24に対して用紙3を押し付ける。ガイド部材26は、用紙3を搬送ローラ24側にガイドする。ガイド部材27は、両面印刷時に戻される用紙3を両面ユニット7にガイドする。押し付けコロ28は、搬送ローラ24から送り出す用紙3を押圧する。
【0025】
さらに、用紙搬送機構5は、液滴吐出ヘッド14で用紙3の平面性を維持したまま搬送するために、駆動ローラ31と従動ローラ32との間に掛け渡した搬送ベルト33と、この搬送ベルト33を帯電させるための帯電ローラ34と、帯電ローラ34に対向するガイドローラ35と、図示しないが、搬送ベルト33を画像形成部2に対向する部分で案内するガイド部材と、搬送ベルト33に付着した記録液を除去するためのクリーニング手段である多孔質体等からなるクリーニングローラ等を有している。
【0026】
ここで、搬送ベルト33は、無端状ベルトであり、駆動ローラ31と従動ローラ32との間に掛け渡されて、図1の矢示方向、つまり用紙搬送方向に周回するように構成している。
【0027】
この搬送ベルト33は、単層構成又は2層構成あるいは3層以上の構成とすることができる。例えば、この搬送ベルト33は、抵抗制御を行っていない純粋な厚さ40μm程度の樹脂材、例えばETFEピュア材で形成した用紙吸着面となる表層と、この表層と同材質でカーボンによる抵抗制御を行った裏層(中抵抗層、アース層)とで構成することができる。
【0028】
帯電ローラ34は、搬送ベルト33の表層に接触し、搬送ベルト33の回動に従動して回転するように配置されている。この帯電ローラ34には図示しない高圧回路から高電圧が所定のパターンで印加される。
【0029】
また、用紙搬送機構5から下流側には画像が記録された用紙3を排紙トレイ6に送り出すための排紙ローラ38を備えている。
【0030】
このように構成したインクジェット記録装置において、搬送ベルト33は矢示方向に周回し、高電位の印加電圧が印加される帯電ローラ34と接触することで正に帯電される。この場合、帯電ローラ34は、所定の時間間隔で極性を切り替えることによって、所定の帯電ピッチで搬送ベルト33を帯電する。
【0031】
ここで、この高電位に帯電した搬送ベルト33上に用紙3を給送すると、用紙3内部が分極状態になり、搬送ベルト33上の電荷と逆極性の電荷が用紙3の搬送ベルト33と接触している面に誘電され、搬送ベルト33上の電荷と搬送される用紙3上に誘電された電荷同士が互いに静電的に引っ張り合い、用紙3は搬送ベルト33に静電的に吸着される。このようにして、搬送ベルト33に強力に吸着した用紙3は反りや凹凸が校正され、高度に平らな面が形成される。
【0032】
そこで、搬送ベルト33を周回させて用紙3を移動し、キャリッジ13を片方向又は双方向に移動走査しながら画像信号に応じて液滴吐出ヘッド14を駆動し、液滴吐出ヘッド14から液滴を吐出して、停止している用紙3に液滴を着弾してドットを形成することにより、1行分を記録し、用紙3を所定量搬送後、次の行の記録を行う。記録終了信号又は用紙3の後端が記録領域に到達した信号を受けることにより、記録動作を終了する。
【0033】
上述したような方法により、画像が記録された用紙3は排紙ローラによって排紙トレイ6に排紙される。
【0034】
次に、図2〜図6を参照して、本実施形態に係るインクジェット記録装置の回復機構の例について、説明する。
【0035】
図2は、本実施形態に係るインクジェット記録装置の概略構成例を示す。図2では、図示しない複数の液滴吐出ヘッドを有するキャリッジ13によって、用紙3に液滴を吐出することでドットマトリックスの形で画像、文字を記録している例を示している。用紙3は、図示しない用紙搬送機構により搬送されている。
【0036】
また、液滴吐出ヘッド14には、液滴を吐出する孔(ノズル)が用紙搬送方向に対して垂直に等間隔で配置されていて、このノズル形成面14aはノズル付近にインクが溜まることによる液滴の曲がり、不吐出の発生を抑えるために撥水処理がされている。さらに、キャリッジ13の後方には、液滴吐出ヘッド14のインク吐出性能を良好な状態に保つための回復機構40が配置されていて、非印刷時にキャリッジ13はモータ41を駆動源として用紙搬送方向に対してガイドレール42に沿って垂直方向に退避するようになっている。
【0037】
上記回復機構40は、インクジェット記録装置本体の所定の位置に固定されており、吸引回復機構と、ワイピング機構と、これらの機構を昇降および用紙搬送方向に水平移動させる機構と、画像形成に寄与しない液滴を回収する空吐出受け等を備えている。
【0038】
ここで、本実施形態に係るインクジェット記録装置の液滴吐出ヘッド14としては、例えば、図3に示すように、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(Bk)の各色のインク滴を吐出する液滴吐出ヘッドである独立した4個のインクジェットヘッド14y、14m、14c、14kとすることができる。また、各色のインク滴を吐出する複数のノズル列を有する1又は複数のヘッドを用いる構成とすることもできる。尚、色の数や種類、配列順はこれに限ったものではない。
【0039】
次に、本実施形態に係る回復機構40が備える各機構について説明する。
【0040】
<吸引回復機構>
吸引回復機構は、回復処理の一形態である吸引回復処理を行う。ここで、吸引回復処理とは、液滴吐出ヘッド14から強制的にインクを吸引することによって、液滴吐出ヘッド14内のインクを吐出に適した状態のインクに置き換える処理である。具体的には、図4に示すような液滴吐出ヘッド14のノズル形成面14aを、カム45によって昇降可能に構成されたキャップ43を上昇させて覆うと共に、そのキャップ43に連通する図示していないポンプによってキャップ43内に負圧を発生させ、その負圧によってノズルからインクを強制的に吸引する処理である。
【0041】
<ワイピング機構>
ワイピング機構は、各液滴吐出ヘッド14のノズル形成面14aのワイピング動作を行うものであり、用紙搬送方向と垂直方向に複数の板状の部材からなるワイパブレード44a、44bと、このワイパブレード44a、44bを昇降させるカム45と、用紙搬送方向に水平移動させるワイパブレード移動機構46と、を備える。
【0042】
ワイピング処理は、ワイパブレード44a、44bをカム45により上昇させてワイパブレード44a、44bがノズル形成面14aに接触可能な位置としてから、ワイパブレード移動機構46により水平方向に移動させることでワイパブレード44a、44bをノズル形成面14aに接触させながらワイピングして、ノズル形成面14aに付着している余剰インクや異物を払拭してノズル部が良好な吐出性能を維持できるようにするものである。
【0043】
しかし、回復機構においてキャップ43内を負圧にしてノズル内のインクを吸引する吸引回復処理の後にワイピング処理を行うとすると、長時間の連続記録を行った場合には、液滴を吐出する際に、用紙3にドットマトリックスとして画像を形成する液滴とは別に発生する微小なサテライトが浮遊しながらノズル形成面14aに付着してしまう。このノズル形成面14aに付着した液滴は増粘あるいは固化してしまうため、通常のワイピング処理では、ワイパブレード本来のインク除去機能が十分に働かず、ノズル形成面14aから十分にインクを除去することができないという問題があった。あるいは、ノズル形成面14aに付着している増粘または固化したインクをノズル内に運ぶことがあり、このとき、ノズルは吐出不良を起こしインクジェット記録装置は正常な印刷ができなくなるという問題があった。
【0044】
上述した問題に対して本実施形態に係るインクジェット記録装置1では、吸引回復処理でノズルより溢れたインクをノズル形成面14a全体に拡散する専用ワイパブレード44aを設置している。これにより、ワイピング処理の前にインクをノズル形成面14a全体に拡散する動作が追加され、増粘及び固化インクを溶解してワイパブレード44b本来のインク除去機能を確保するとともに、増粘及び固化インクのノズル内への進入を防ぐことができる。
【0045】
具体的には、キャリッジ13を退避位置に移動させた後、回復機構40のキャップ43を上昇させてノズル形成面14aに密着させる。この状態でキャップ43内を負圧として液滴吐出ヘッド14内のインクを吸引排出させて、ノズル近傍をノズルから溢れたインクで浸した状態とする。この状態でワイピングしてしまうとノズル近傍のみ増粘あるいは固着インクが溶解された状態でのワイピングとなってしまう。しかし、本実施形態に係るインクジェット記録装置1では、図4に示すように、ワイピング機構に複数のワイパブレード44a、44bが備えられていて、少なくとも1つは、吸引インクをノズル形成面全体に拡散させる専用ワイパブレード44aとなっている。尚、本実施形態では吸引インクをノズル形成面全体に拡散させる専用ワイパブレード44aとインク除去するためのワイパブレード44bとの2つを備える例を挙げて説明するが、これに限定されるものではなく、各々1以上設けられていればよい。
【0046】
図5の(a)及び図5の(b)は、ワイピング処理を行っていない際の専用ワイパブレード44aの例を示す。図5の(c)及び図5の(d)は、ワイピング処理を行っている際の専用ワイパブレード44aの例を示す。以下、本実施形態に係るインクジェット記録装置が備えるワイパブレードについて、説明する。
【0047】
図5の(a)に示すように、専用ワイパブレード44aにおけるノズル形成面14aと接触する側の面の両端部には突起が設けられている。この専用ワイパブレード44aの両端部に設けられた突起は、0.3mm程度であることが好ましいが、これに限定されるものではなく、適宜変更可能である。また、ワイピング処理を行っていない際には、図5の(b)に示すように、専用ワイパブレード44aはカム45によって下降された位置にあるため、ノズル形成面14aとは当接しない。
【0048】
他方、ワイピング処理時は、図5の(c)及び図5の(d)に示すように、カム45により上昇された専用ワイパブレード44aは、ノズル形成面14aと当接する。その際、専用ワイパブレード44aの両端部の突起のみがノズル形成面14aに接触し、中央部に好ましくは0.1〜0.3mmの隙間を生じながらワイピングする。これにより、ノズル形成面14a全体に吸引インクを拡散することができる。尚、本実施形態では、中央部に0.1〜0.3mmの隙間を生じながらワイピング処理を行う例を挙げて説明するが、これに限定されるものではない。
【0049】
さらに、このワイパブレード44aはワイピング機構の移動方向の先頭に配置されているため、図6の(a)及び図6の(b)に示すように、ノズル形成面14aのクリーニング前にノズル近傍に溢れているインクをワイピング方向に拡散することができ、さらにワイピング方向を前後させることでノズル形成面14a全体に吸引インクが拡散される。その後、図6の(c)及び図6の(d)に示すように、ノズル形成面14aに当接するワイパブレード44bにより、ノズル形成面14aのクリーニングを行う。これにより、ノズル形成面14a全体の増粘及び固化インクを溶解することが可能となり、安定したインク除去機能を確保することができる。
【0050】
また、本実施形態では、付着している増粘または固化インクを溶解するためのワイパブレード44aとノズル形成面14aをクリーニングするためのワイパブレード44bとを別個の専用ブレードとして備えているため、ワイパブレード上面に付着したインクによるワイパブレード後方へのインクの回り込みを減少させることができ、拭き残しを防止することがでる。
【0051】
更に、ワイパブレード44aによってノズル形成面14a上にインクを拡散し、ノズル形成面14a上にある増粘及び固化インクを溶解した後、ワイパブレード7bにてノズル形成面5a上の全てのインクをワイピングすることにより、拭き残しのないワイピングを行うこともできる。
【0052】
尚、本実施形態では、吸引インクをノズル形成面全体に拡散させる専用ワイパブレード44aの形状として、ノズル形成面14aと接触する側の面であってノズル配列方向の両端部に突起が設けられているものを例に挙げて説明したが、これに限定されるものではなく、適宜変更可能である。
【0053】
また、例えば増粘あるいは固化してノズル形成面に付着した液滴を溶解しやすくするために、ワイピング処理前に上記付着した液滴を溶解する液体をノズル形成面に塗布するようにしてもよい。
【0054】
本実施形態により、ノズル形成面とワイピングブレードとの当接面の間に隙間がある状態でワイピング処理を行うため、吸引インクをノズル形成面に残しながら均一に拡散させることが可能となる。これにより、局所的な塗布不足の発生を低減して良好なインク吐出性能を維持すことが可能となる。
【0055】
また、ノズル形成面をクリーニングする前に、ノズル形成面とワイパブレードの当接部の中央部に隙間があるワイパブレードでワイピングするため、残存インクを有効に活用することが可能となる。さらに、ノズル形成面とワイパブレードの間に隙間があるワイパブレードで前後方向にワイピングするため、ワイピング方向によらずノズル形成面全体に吸引インクを拡散することが可能となる。これにより、効率的に良好なインク吐出性能を維持すことが可能となる。
【0056】
尚、各処理を、CPUが実行するためのプログラムは本発明によるプログラムを構成する。このプログラムを記録するコンピュータ読み取り可能な記録媒体としては、半導体記憶部や光学的及び/又は磁気的な記憶部等を用いることができる。このようなプログラム及び記録媒体を、前述した各実施形態とは異なる構成のシステム等で用い、そこのCPUで上記プログラムを実行させることにより、本発明と実質的に同じ効果を得ることができる。
【0057】
以上好適な実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は上述したインクジェット記録装置及び液滴吐出手段の回復方法に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であるということは言うまでもない。
【符号の説明】
【0058】
1 インクジェット記録装置
2 画像形成部
3 用紙
4 給紙トレイ
5 用紙搬送機構
6 排紙トレイ
7 両面ユニット
13 キャリッジ
14 液滴吐出ヘッド
14a ヘッドノズル形成面
15 インクカートリッジ
21 給紙コロ
23 搬送ガイド部
24 搬送ローラ
25 加圧コロ
26 ガイド部材
27 ガイド部材
28 押し付けコロ
31 駆動ローラ
32 従動ローラ
33 搬送ベルト
34 帯電ローラ
35 ガイドローラ
40 回復機構
41 モータ
42 ガイドレール
43 キャップ
44a ワイパブレード
44b ワイパブレード
45 カム
46 ワイパブレード移動機構
【先行技術文献】
【特許文献】
【0059】
【特許文献1】特開2006−212863号公報
【特許文献2】特開2007−320164号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1以上の液滴吐出部を設けた少なくとも1以上の液滴吐出手段と、
前記液滴吐出手段の吐出部形成面のワイピングを行う少なくとも2以上のワイピング部材を液滴吐出部配列方向に設けたワイピング手段と、
前記ワイピング手段を前記液滴吐出部配列方向に対し垂直方向に移動させる移動手段と、を備え、
前記少なくとも2以上のワイピング部材のうち、少なくとも1以上のワイピング部材は、前記吐出部形成面と当接する面であって前記液滴吐出部配列方向の中央部に、前記吐出部形成面との非当接領域を有する第1のワイピング部材であることを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記第1のワイピング部材は、前記吐出部形成面と当接する面であって前記液滴吐出部配列方向の両端部に突起部を有し、
前記突起部が前記吐出部形成面と当接することを特徴とする請求項1記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記ワイピング手段は、前記第1のワイピング部材が最初に前記吐出部形成面と当接するように前記少なくとも2以上のワイピング部材を配置することを特徴とする請求項1又は2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記移動手段は、前記ワイピング手段を前記液滴吐出部配列方向に対し垂直方向に前進及び後進させることを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載のインクジェット装置。
【請求項5】
前記液滴吐出部内の液滴を吸引排出させる吸引回復手段をさらに備え、
前記ワイピング手段は、前記吸引回復手段により吸引排出された前記液滴を、前記吐出部形成面全体に拡散させることを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項6】
少なくとも1以上の液滴吐出部を設けた少なくとも1以上の液滴吐出手段における吐出部形成面の液滴吐出部配列方向に対して垂直方向に、少なくとも2以上のワイピング部材を前記液滴吐出部配列方向に設けたワイピング手段を移動させる移動ステップと、
前記吐出部形成面と当接する面であって前記液滴吐出部配列方向の中央部に、前記吐出部形成面との非当接領域を有する第1のワイピング部材によりワイピングを行う第1のワイピングステップと、
前記吐出部形成面と当接する面であって前記液滴吐出部配列方向の中央部に、前記吐出部形成面との当接領域を有する第2のワイピング部材によりワイピングを行う第2のワイピングステップと、を備えることを特徴とする液滴吐出手段の回復方法。
【請求項7】
前記第1のワイピングステップは、前記吐出部形成面と当接する面であって前記液滴吐出部配列方向の両端部に突起部を有する第1のワイピング部材の前記突起部が前記吐出部形成面と当接することを特徴とする請求項6記載の液滴吐出手段の回復方法。
【請求項8】
前記第1のワイピングステップは、前記第1のワイピング部材を、前記液滴吐出部配列方向に対し垂直方向に前進及び後進させることを特徴とする請求項6又は7に記載の液滴吐出手段の回復方法。
【請求項9】
前記液滴吐出部内の液滴を吸引排出させる吸引回復ステップをさらに備え、
前記第1のワイピングステップは、前記吸引回復ステップにより吸引排出された前記液滴を、前記吐出部形成面全体に拡散させることを特徴とする請求項6から8の何れか1項に記載の液滴吐出手段の回復方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−25476(P2011−25476A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−172263(P2009−172263)
【出願日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】