説明

インクジェット記録装置

【課題】 長期間の使用においても記録ヘッド及びキャリッジのクリープ変形が少なく、これらの電気的接触を確実に行うことができるインクジェット記録装置を提供する。
【解決手段】 インクを吐出して記録を行う記録ヘッドが搭載されるキャリッジと、該キャリッジに取り付けられ、記録ヘッドを制御回路に接続する圧接コネクタとを有するインクジェット記録装置において、圧接コネクタと記録ヘッドの圧接面との圧接を、記録ヘッドを移動させることにより解除することができる圧接解除手段を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャリッジに搭載された記録ヘッドから被記録材へインクを吐出して記録を行うインクジェット記録装置に関し、より詳細には、長期使用に耐えることができるようにしたインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のインクジェット記録装置のキャリッジ構成は、記録ヘッドと記録装置本体との電気的な結合を行うために、記録ヘッド側にレジストを行っていない導体露出部を有するヘッド基板もしくはFPC(Flexible printed circuit の略)を設け、記録ヘッドを搭載するためのキャリッジには、該記録ヘッドの導体露出部と電気的な結合を行うための圧接コネクタを設ける場合が多かった。この圧接コネクタは、通常、金属にメッキを施し、該金属の弾性変形を用いて記録ヘッドの導体露出部に圧接されるものである。さらに、この圧接コネクタは、キャリッジ上に搭載されたキャリッジ基板に半田付けされており、また、キャリッジ基板は、FFC(Flexible flat cable の略)もしくはFPCなどを介して装置本体側の制御回路を構成する回路基板に電気的に結合されている。
【0003】
図19は、従来のインクジェット記録装置のキャリッジ構成(従来例1)を例示する模式的縦断面図である。図19において、500は、記録ヘッドを示し、510は、キャリッジを示す。記録ヘッド500のキャリッジ側には、導体露出部500Aが設けられている。キャリッジ510には、記録ヘッド搭載用のポケット部510Aが形成され、記録ヘッド500は、該ポケット部510A内に挿入され、不図示のレバーによってキャリッジ510上の所定の位置に位置決めされる。また、キャリッジ510には、圧接コネクタ用の穴510Bが形成されている。圧接コネクタ520には、記録ヘッド500と電気的接触を確保するための金属弾性体である圧接ピン520Aが設けられている。
【0004】
図19に示されるキャリッジ構成では、圧接コネクタ520は、キャリッジ基板530に取り付けられており、このキャリッジ基板530は、キャリッジ510の外側壁面、すなわち、キャリッジ510の記録ヘッド500と対面する側とは反対側の壁面にビス550によって締結固定されている。図示の例では、キャリッジ基板530は、記録ヘッド500と対面する側とは反対側の壁面に形成されたビス固定部510Cを利用して締結固定されている。なお、圧接コネクタ520の圧接ピン520Aは、キャリッジ基板530の反対側の面で半田付けされ、キャリッジ基板530及びFFC540を介して、装置本体側の回路基板と電気的に接続される。
【0005】
図20は、従来のインクジェット記録装置の他のキャリッジ構成(従来例2)を例示する模式的縦断面図であり、特許文献1に詳細が開示されている。図20において、500は、記録ヘッドを示し、510は、キャリッジを示す。記録ヘッド500のキャリッジ側に導体露出部500Aが設けられている。キャリッジ510には、記録ヘッド搭載用のポケット部510Aが形成され、記録ヘッド500は、このポケット部510A内に挿入され、不図示のレバーによってキャリッジ510上の所定の位置に位置決めされる。圧接コネクタ520には、記録ヘッド500と電気的接触を確保するための金属弾性体である圧接ピン520Aが設けられている。
【0006】
図20のキャリッジ構成では、圧接コネクタ520は、キャリッジ基板530に取り付けられており、該キャリッジ基板530は、キャリッジ510の内側壁面、すなわち、キャリッジ510の記録ヘッド500と対面する側に取り付けられている。その結果、この従来例2は、図19で示した従来例1に比べ、強度面で有利である。
【0007】
【特許文献1】特開2002−240264号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、図19、図20に示すような従来のインクジェット記録装置のキャリッジ構成においては、次のような解決すべき技術的課題があった。すなわち、圧接コネクタ520の圧接ピン520Aのピン数は、約40ピン程度であり、1ピン当たり最大100gの荷重を想定すると、圧接コネクタ520に全体で最大4kgの荷重が加わることになる。一度、記録ヘッド500をキャリッジ510に装着すると、この荷重は、記録ヘッド500及びキャリッジ510の両方に常に加わっている。記録ヘッド500及びキャリッジ510の構造体の主要部は、どちらもプラスチックで形成されているので、常に荷重が加わっていることにより生じるクリープ現象を避けることができない。特に、インクジェット記録装置の電源が切られ使用されていない状態では、環境温度が管理されていない場合が多くさらに厳しい状況におかれる。設計の自由度が小さい記録ヘッドでは、その影響が特に大きく、長期にわたる使用においては、記録ヘッドとキャリッジの間の電気的接触に不良を起こす恐れがある。
【0009】
本発明は、このような従来の技術的課題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、長期間の使用においても記録ヘッド及びキャリッジのクリープ変形が少なく、これらの電気的接触を確実に行うことができるインクジェット記録装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記本発明の目的を達成するために、本発明に係るインクジェット記録装置は、インクを吐出して記録を行う記録ヘッドが搭載されるキャリッジと、該キャリッジに取り付けられ、記録ヘッドを制御回路に接続する圧接コネクタとを有するインクジェット記録装置において、圧接コネクタと記録ヘッドの圧接面との圧接を、記録ヘッドを移動させることにより解除することができる圧接解除手段を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、記録ヘッドがキャリッジに搭載されているとき、該記録ヘッドを圧接コネクタに対して移動可能とすることで、長期間の使用においても、特に、空調のない環境下で長期に放置された場合においても、記録ヘッド及びキャリッジのクリープ変形が少なく、これらの電気的接触をより確実に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を具体的に説明する。なお、各図面を通して同一符号は、同一もしくは対応部分を示すものである。
【0013】
(第1の実施例)
図1は、本発明を適用したインクジェット記録装置の一実施例の要部構成を示す模式的斜視図であり、図2は、図1に示されるインクジェット記録装置の動作を例示する模式的断面側面図である。図1、2において、100は、記録手段としての記録ヘッドであり、本実施例では記録ヘッドとインクタンクが別体である別体タンク方式の記録ヘッド100が使用されている。20は、記録ヘッド100を搭載して主走査方向(X方向)に往復動するキャリッジであり、30は、記録ヘッド100をキャリッジ20上のセット位置へ案内するとともに、キャリッジ20のキャリッジ基板40及び記録ヘッド100のヘッド基板110を目隠しし、これらの基板が露出することを防止するためのキャリッジカバーである。35は、記録ヘッド100の脱着を操作するためのセットレバーである。50は、キャリッジ20の移動を案内、支持するためのガイドシャフトであり、60は、キャリッジ20の駆動源としてのキャリッジモータであり、70は、キャリッジモータ60の駆動力をキャリッジ20に伝達するための伝動手段としてのタイミングベルトである。
【0014】
また、本実施例では、キャリッジモータ60としてDCモータを使用しており、そのため、キャリッジ20に取り付けられるキャリッジ基板40に、キャリッジ20の位置検出のためのリニアエンコーダ45が設けられている(図7参照)。図1において、55は、このリニアエンコーダ45のスケール部となるリニアスケールであり、該リニアスケール55は、装置本体のシャーシ80に取り付けられている。当該シャーシ80には、また、ガイドレール81が一体に形成されている。そして、キャリッジ20の上面に取り付けられた紙間調整レバー90の第1の当接面90A又は第2の当接面90B(図8参照)がガイドレール81と当接した状態で摺動するように構成されている。51は、キャリッジ20が図中右端のホームポジションに位置したとき、セットレバー35の係合部35E(図9参照)と係合し作用するカムであり、61は、カム51を駆動するためのモータであり、いずれも装置本体のシャーシ80に取り付けられている。
【0015】
本実施例に係る記録装置は、シリアル方式のインクジェット記録装置であり、記録ヘッド100を記録情報に基づいて駆動するとともに、これに同期してキャリッジ20の移動で主走査(X方向)しながら、非記録材としての記録紙に記録していく。1回の主走査で1ラインの記録を行うと、記録紙を所定ピッチだけ紙送り(副走査;Y方向)し、次の1ライン分の記録を行う。以下、上記記録動作と紙送り動作を順次繰り返すことにより、記録し全体の記録が行われる。
【0016】
以下、本実施例の記録ヘッド100及びキャリッジ20の構成について、詳細に説明する。
【0017】
図3は、図1に示される記録ヘッド100を前側、より正確には、図1に示される記録ヘッド100を右上斜め方向から見た模式的斜視図であり、図4は、図3の記録ヘッド100を後側、より正確には、図3の視点と正反対の側から見た模式的斜視図である。
【0018】
図3及び図4において、180は、カラーインクタンクであり、本実施例のカラーインクタンク180においては、Y(イエロー)、M(マゼンダ)、及びC(シアン)の3色のインクが同一の筐体内に仕切って個別に貯留されている。190は、Bk(ブラックインク)が貯留されているブラックインクタンクである。カラーインクタンク180及びブラックインクタンク190は、ともに、別々に交換可能であり、インクがなくなった場合には、記録ヘッド100を記録装置本体から取り外すことなく、カラーインクタンク180又はブラックインクタンク190を、個々に、あるいは両方とも、自由に交換することができる。
【0019】
記録ヘッド100の上部の左右両側には、この記録ヘッド100をキャリッジ20にセットするために、セットレバー35の第2のカム面35C(図9参照)と係合するためのボス101が設けられている。左右両側のボス101は、左右対称形状で突出形成されている。また、記録ヘッド100の下部の左右両側には、記録ヘッド100をキャリッジ20にセットする際に、キャリッジカバー30の左右両側に形成された案内部としての溝部30A(図10、11参照)とスライド係合するための長丸ボス102が形成されている。左右両側の長丸ボス102も、左右対称形状で突出形成されている。
【0020】
103は、記録ヘッド100をキャリッジ20にセットする際に、該記録ヘッド100をX方向(左右方向すなわち主走査方向)に位置決めするための第1の突き当て面であり、この第1の突き当て面103は、記録ヘッド100の下部の片側(本実施例では、前側から見て右側)にのみ設けられている。
【0021】
さらに、記録ヘッド100の下部の左右両側には、キャリッジ20の第3の当接面20F(図8参照)に当接してY(+)方向(前方向すなわち副走査方向)の位置決めを行うための第2の突き当て面104と、キャリッジ20の第2の当接面20Eと当接してZ方向(上下方向)の位置決めを行うための第3の突き当て面105が設けられている。また、記録ヘッド100の上部には、キャリッジ20の板バネ21(図8参照)により掛止されるためのリブ112が形成されている。このリブ112は、板バネ21が該リブ112に掛止、係合することにより、記録ヘッド100をキャリッジ20の所定位置に保持するためのものである。
【0022】
図3及び図4において、記録ヘッド100の後側の面の上部の左右2箇所には、キャリッジ20の対応する2つの第1の当接面20Dに当接してY(−)方向(後方向)の位置決めを行うための第4の突き当て面106が設けられている。さらに、記録ヘッド100の後側の面には、キャリッジ20に固定されているキャリッジ基板40(図2、図6など参照)との電気的接続のためのヘッド基板110が設けられている。このヘッド基板110は、レジストされていない導体露出部(以下「コンタクト面」という。)111を有している。なお、このコンタクト面111には、例えば、40個のコンタクト(外部端子)が配列されている。
【0023】
記録ヘッド100に対しては、カラーインクタンク180及びブラックインクタンク190内に貯留されたインクが供給される。本実施例における記録ヘッド100は、記録信号に応じて供給されてきたインクにエネルギーを印加することにより、複数の吐出口(不図示)からインクを選択的に吐出して記録するインクジェット記録ヘッドである。この記録ヘッド100は、熱エネルギーを利用してインクを吐出するインクジェット記録手段であって、熱エネルギーを発生するための電気熱変換体を備えたものである。さらに、本実施例における記録ヘッドは、電気熱変換体によって印加される熱エネルギーにより生じる膜沸騰による気泡の成長、収縮によって生じる圧力変化を利用して、吐出口からインクを吐出させ、記録を行うものである。電気熱変換体は、各吐出口のそれぞれに対応して設けられ、記録信号に応じて対応する電気熱変換体にパルス電圧を印加することによって、対応する吐出口からインクを吐出するものである。
【0024】
図5は、記録手段としての記録ヘッド100のインク吐出部(一つの吐出口列)の構造を模式的に示す部分斜視図である。図5において、記録紙などの被記録材と所定の隙間(例えば、約0.3〜2.0ミリ程度)をおいて、対面する吐出口面81には、所定のピッチで複数の吐出口82が形成され、共通液室83と各吐出口82とを連通する各液路84の壁面に沿ってインク吐出用のエネルギーを発生するための電気熱変換体(発熱抵抗体など)85が配設されている。本実施例においては、記録ヘッド100は、複数の吐出口82からなる一つの吐出口列がキャリッジ20の移動する方向、すなわち、主走査方向と交差する方向に配置されるように、キャリッジ20に位置決めされ、固定される。このようして、画像信号又は吐出信号に基づいて、対応する電気熱変換体85を駆動(パルス信号を印加)して、液路84内のインクを膜沸騰させ、そのときに発生する圧力によって吐出口82からインクを吐出させる記録ヘッド100が構成される。
【0025】
図6は、キャリッジ20に取り付けられるキャリッジ基板40を、該キャリッジ20に搭載された記録ヘッド100側、すなわち、前側から(図1と同じ視点で)見た模式的斜視図であり、図7は、図6のキャリッジ基板40を後側から(図6と正反対の視点で)見た模式的斜視図である。図6及び図7において、キャリッジ基板40は、キャリッジ20のヘッド取り付け面側、すなわち、記録ヘッド100と隣接する前壁面に取り付けられ、また、該キャリッジ基板40の記録ヘッド取り付け面側には、圧接コネクタ41が取り付けられている。
【0026】
圧接コネクタ41には、金属で形成され、ヘッド基板110の外部接点との接触側を弾性変形可能に構成されている圧接ピン42がその内部を貫通する状態で設けられ、各圧接ピン42は、圧接面42Aと反対側の面でキャリッジ基板40に半田付けされている。各圧接ピン42の圧接面42Aは、ヘッド基板110のコンタクト面111に圧接され、記録装置本体側と記録ヘッド100との電気的結合が可能な接続状態を実現している。
【0027】
さらに、圧接コネクタ41には、キャリッジ基板40に対する位置決めのためのボス41B(本実施例では2つ)及びキャリッジ20との位置決めのための位置決め用孔41C(同じく、本実施例では2つ)が設けられている。ボス41Bの頂面41D及び位置決め用孔41Cの端面41Eは、記録ヘッド100に圧接される圧接ピン42の反力をキャリッジ20に伝えるための面(圧接力伝達面)である。例えば、本実施例の圧接ピン42のピン数は40ピンであり、記録ヘッド100をキャリッジ20にセットした際、1ピン当たり最大で約100gの加重(押圧力)が加わり、合計で約4kgの押圧加重が圧接コネクタ41のボス41Bの頂面41D及び位置決め用孔41Cの端面41Eに作用することになる。また、キャリッジ基板40には、図6に示されるように、FFC44が挿入結合されるFFCコネクタ43が配設されている。さらに、図7に示されるように、キャリッジ基板40の記録ヘッド100に対面する面と反対側の面には、図1に示されるリニアスケール55と協働してキャリッジ20の位置を検出するためのリニアエンコーダ45が半田付け等で取り付けられている。
【0028】
図8は、キャリッジ20の詳細を示す模式的斜視図である。図8において、キャリッジ20の上面には、記録ヘッド100の上部のリブ112に掛止して、該記録ヘッド100を固定するための弾性部材としての板バネ21が取り付けられている。すなわち、セットレバー35の操作によって該板バネ21を退避方向へ弾性変形させ、記録ヘッド100をキャリッジ20に引き込んだ後、該板バネ21を解放して記録ヘッド100のリブ112に掛止することで記録ヘッド100をキャリッジ20に固定するように構成されている。
【0029】
キャリッジ20の上端面に設けられているボス部20Cは、紙間調整レバー90を回転可能に軸支するためのボス部である。言い換えれば、紙間調整レバー90は、ボス部20Cに回転可能に軸支されている。図8に示されるように、紙間調整レバー90は、矢印V方向に回転可能であり、紙間調整レバー90をV1の位置に回転させると、該紙間調整レバー90の第1の面90Aがシャーシ80のガイドレール81に沿って摺動するようになり、逆にV2の位置に回転させると、紙間調整レバー90の第2の面90Bがガイドレール81に沿って摺動するようになる。第1の摺動面90Aと第2の摺動面90Bとでは、ボス部20Cの中心からの距離が異なるので、紙間調整レバー90を回転させることにより、ガイドシャフト50を中心にキャリッジ20が回転し、その結果として、キャリッジ20に搭載された記録ヘッド100の吐出口面81と記録紙の表面との間隔(紙間距離)を変化させることができる。
【0030】
キャリッジ20に形成された第1の当接面20Dは、Y(−)方向の位置決めをするために、記録ヘッド100の上部に設けられた第4の突き当て面106と圧接する面であり、キャリッジ20に形成された第2の当接面20Eは、Z方向の位置決めをするために、記録ヘッド100の下部に設けられた第3の突き当て面105と圧接する面であり、キャリッジ20に形成された第3の当接面20Fは、Y(+)方向の位置決めをするために、記録ヘッド100の下部に設けられた第2の突き当て面104と圧接する面であり、キャリッジ20に形成された第4の当接面20Gは、X方向の位置決めをするために、記録ヘッド100の下部に設けられた第1の突き当て面103と圧接する面である。また、キャリッジ20の左右に形成された孔20Hは、セットレバー35の左右のボス部35Aを回転可能に軸支するための軸受け孔であり、該軸受け孔20Hの下方に位置し、キャリッジ20の左右に形成された孔20Iは、該孔20Iにキャリッジカバー30の左右のボス部30Bが嵌合することで該キャリッジカバー30がキャリッジ20に固定されるためのカバー取り付け孔である。
【0031】
キャリッジ20に形成された左右2箇所のボス部20Bは、圧接コネクタ41の位置決め用孔41Cに嵌合するためのボス部であり、キャリッジ20に対する圧接コネクタ41のX方向及びZ方向の位置決めを行う。キャリッジ20に形成された左右2箇所の上下に細長く形成されている細長面20Aは、圧接コネクタ41に設けられたボス部41Bの頂面41D及び位置決め用孔41Cの端面41Eを突き当てるための面である。頂面41Dと端面41E及び細長面20Aは、圧接ピン42の記録ヘッド100との圧接反力によって互に圧接され、キャリッジ20に対する圧接コネクタ41のY方向の位置決めを行う突き当て面として構成される。
【0032】
図9は、セットレバー35の詳細を示す模式的斜視図である。図9において、セットレバー35の左右には、キャリッジ20の左右に形成された軸受け孔20Hに嵌合するボス部35Aが形成されている。したがって、セットレバー35は、キャリッジ20に対して該キャリッジ20の軸受け孔20Hを中心として回転可能に軸支される。また、セットレバー35の左右には、該セットレバー35がボス部35A周りに回転したとき、板バネ21を退避方向へ弾性変形させるための第1のカム面35Bと、同じくセットレバー35がボス部35A周りに回転したとき、記録ヘッド100の左右のボス部101に摺動係合することで該記録ヘッド100をキャリッジ20へ引き込んでセットするための第2のカム面35Cが、さらに、第1のカム面35Bの端部には、キャリッジ20に取り付けられた板バネ21の凸部が係合可能な凹部35Dが形成されている。上記ボス部35A、第1及び第2のカム面35B、35C、及び凹部35Dは、いずれもセットレバー35の両側に形成され、これらは、ハンドル部35Hを介して一体化されている。図9においてセットレバー35の右側には、カム51(図2参照)と係合するための出っ張りである係合部35Eがさらに形成されている。
【0033】
図10は、キャリッジ20に取り付けられるキャリッジカバー30を前側から(図1と同じ視点で)見た模式的斜視図であり、図11は、図10のキャリッジカバー30を後側から(図10と正反対の視点で)見た模式的斜視図である。図10及び図11を参照してキャリッジカバー30の詳細を説明する。図10及び図11において、キャリッジカバー30の内面の両側には、記録ヘッド100の左右に形成された長丸ボス102が係合し、該長丸ボス102をガイドするための案内部としての溝部30Aが形成されている。また、キャリッジカバー30の両側には、キャリッジ20の左右に形成されたカバー取り付け孔20Iに嵌合することで該キャリッジカバー30をキャリッジ20に固定するためのボス部30Bが形成されている。さらに、キャリッジカバー30には、キャリッジ基板40、FFC44及びヘッド基板110の部位を目隠しするとともに露出防止する、すなわちこれらの部位を保護するための壁面状の目隠し部30Cが一体に形成されている。また、キャリッジカバー30の片側(本実施例では、前側から見て左側)の下部には、記録ヘッド100装着時に、該記録ヘッド100をX方向の一方向(本実施例では左から右)へ押すための弾性部30Dが一体で形成されている。該弾性部30Dが記録ヘッド100をX方向の一方向に押すことで、記録ヘッド100の第1の突き当て面103がキャリッジ20の第4の当接面20Gに押し付けられ、それにより記録ヘッド100のX方向の位置決めがなされる。
【0034】
図12〜図15は、記録ヘッド100をキャリッジ20にセットする際の各部の動作を順を追って示す模式的側面図であり、図12は、記録ヘッド100をキャリッジ20に挿入する直前にセットレバー35を上方へ退避させたときの状態を示し、図13は、記録ヘッド100をキャリッジカバー30の案内部30Aをガイドとして挿入したときの状態を示し、図14は、セットレバー35を下方へ回転させて記録ヘッド100をキャリッジ20のセット位置へ引き込むときの状態を示し、図15は、記録ヘッド100がキャリッジ20上のセット位置に位置決め、装着された状態を示す。
【0035】
以下に、図12〜図15を参照して、記録ヘッド100をキャリッジ20にセットする動作について説明する。
【0036】
図12に示すように、ユーザーは、先ず、セットレバー35のハンドル部35Hを手でもって該セットレバー35を上方向(矢印方向)に回動させる。そうすると、セットレバー35の第1のカム面35Bによって、キャリッジ20に取り付けられている板バネ21が退避方向(上方向)へ弾性変形する。セットレバー35を矢印方向にさらに回転すると、セットレバー35は、第1のカム面35Bの端部に形成された凹部35Dが、図示されるように、板バネ21の凸部と係合するため、セットレバー35から手を離しても、該セットレバー35を図12の上昇位置に停止すなわち保持させておくことができる。この図12の状態で、記録ヘッド100を挿入するが、その際、該記録ヘッド100の左右の長丸ボス102がキャリッジカバー30の左右の案内部としての溝部30Aでガイドされながら、記録ヘッド100は、図13に示されるように、手を添える必要なしに自重で落下して下方位置まで挿入される。
【0037】
次いで、図14に示すように、セットレバー35を下に押し下げていく、すなわち矢印方向に回動させると、該セットレバー35の左右の第2のカム面35Cが記録ヘッド100の上部左右両側に設けられた左右のボス101を引き込む形となり、それにより記録ヘッド100は、キャリッジ20方向へ移動する。これと同時に、セットレバー35の左右の第1のカム面35Bによって、キャリッジ20の左右に取り付けられている板バネ21の先端凸部がその弾性力によって徐々に下向きに復帰し始める。そして、記録ヘッド100の上端部のリブ112が該板バネ21の先端凸部を通過したときに、図15に示されるように、今度は、板バネ21が記録ヘッド100のリブ112に圧接し、該記録ヘッド100を下向きに押圧することになる。このとき、板バネ21は、セットレバー35の第1のカム面35Bから離間した状態になっている。
【0038】
以上の動作により、記録ヘッド100は、図15に示すように、キャリッジ20に位置決め状態で装着される。また、記録ヘッド100をキャリッジ20から取り外すには、以上の操作を逆に行なえばよいことが理解される。この意味で、セットレバー35及び板バネ21は、記録ヘッド100をキャリッジ20に装着し(取り付ける)、取り外すための着脱手段を構成しているといえる。図15の状態では、図に示されるように、記録ヘッド100は、板バネ21から外力Fを受けるとともに、圧接コネクタ41から圧接反力Fを受けている。外力F及び圧接反力Fの作用方向は、ほぼ図15に示されるような方向になる。そして、記録ヘッド100とキャリッジ20の各位置決め面すなわち各付き当て面では、X方向(左右方向)、Y方向(前後方向)、Z方向(上下方向)に次のような状態で圧接されて位置決めされる。
【0039】
すなわち、記録ヘッド100は、Y方向(前後方向)には、記録ヘッド100の第2の付き当て面104がキャリッジ20の第3の当接面20Fと当接し、記録ヘッド100の第4の付き当て面106がキャリッジ20の第1の当接面20Dと当接することによってキャリッジ20に対して位置決めされる。同様に、記録ヘッド100は、Z方向(上下方向)には、記録ヘッド100の第3の付き当て面105がキャリッジ20の第2の当接面20Eと当接することによってキャリッジ20に対して位置決めされる。また、記録ヘッド100は、X方向(左右方向)には、記録ヘッド100を装着するためにセットレバー35を回動させたとき、キャリッジカバー30の弾性部30Dが記録ヘッド100をX方向の一方向に押し付けることで、該記録ヘッド100の片側に設けられた第1の付き当て面103がキャリッジ20に形成されている第4の当接面20Gに突き当たることによりキャリッジ20に対して位置決めされる。
【0040】
以上のようにして記録ヘッド100がキャリッジ20にセットされることで、制御回路からの信号により記録媒体への記録が可能となる。一度セットされた記録ヘッド100は、何らかのトラブルがない限りその寿命まで取り外されることはない。
【0041】
次に、図1、2に戻って、インクジェット記録装置が動作をしない待機状態になる場合や、インクジェット記録装置の電源が切られている場合における記録ヘッド100とキャリッジ20との状態について述べる。
【0042】
通常、印字を行っていない場合、キャリッジ20は、図1において右端のホームポジションに位置する。このホームポジションにおいて、セットレバー35は、カム51と係合している。該カム51は、図1に示されるように、セットレバー35の係合部35Eと係合する凹部51Aを有するとともに、孔51Bの周りに回転可能に形成されている。さらに、カム51には、モータ61からの駆動力を受け取るための歯51Cが、孔51Bを挟んで凹部51Aと反対側に設けられている。なお、カム51の孔51Bは、記録装置本体に形成される軸(不図示)に軸支されている。
【0043】
いま、インクジェット記録装置に一定時間t以上印字の命令が来ないために制御回路が待機状態と判断した場合や、インクジェット記録装置の電源OFFの命令を制御回路が認識した場合を説明する。制御回路は、モータ61に一定のパルスを送り、一定の回転数を与える。すると、図2に示すように、カム51は、角度θだけ回転し、それに伴い、カム51と係合しているセットレバー35も角度θだけ回転する。この回転により、記録ヘッド100をキャリッジ20に装着するときとは逆に、セットレバー35の第1のカム面35Bは、板バネ21を押し上げ、該板バネ21と記録ヘッド100のリブ112との係合を解除し、同時に、セットレバー35の第2のカム面35Cは、記録ヘッド100のボス101を引き込んでいる状態、すなわち記録ヘッド100をキャリッジ20に向けて押圧している状態を解除する。したがって、記録ヘッド100は、キャリッジ20の圧接コネクタ41から離れる方向にSだけ移動する。その結果、圧接ピン42が記録ヘッド100のヘッド基板110へ作用していた押し付け力(圧接力)が解除される。この意味で、セットレバー35、板バネ21及びカム51は、記録ヘッド100と圧接コネクタ41との間の圧接を解除する圧接解除手段を構成しているといえる。
【0044】
(第2の実施例)
図16は、本発明を適用したインクジェット記録装置の別の実施例の要部構成を示す模式的斜視図であり、図17は、図16に示されるインクジェット記録装置の動作を例示する模式的断面側面図である。図16、17において図1、2と同一記号のものは、第1の実施例と同じ構成要素を示す。図18は、本実施例におけるセットレバー36の詳細を示している。
【0045】
図18において、36A〜36D及び36Hは、第1の実施例におけるセットレバー35の35A〜35D及び35Hにそれぞれ対応し、全く同じ形状及び機能を備える。本実施例と第1の実施例は、本実施例においては、第1の実施例において設けられていた係合部35Eに代えて、セットレバー36のハンドル部36Hにボス36Fが設けられている点で大きく異なる。
【0046】
また、本実施例においては、図16に示されるように、キャリッジ20は、図16の右端の吸引・キャッピング等を行うホームポジションよりさらに右端の待機位置まで移動可能とし、この待機位置への移動に伴い、記録装置本体に設けられているカム体37のカム溝37Eにセットレバー36のボス36Fが係合するように構成される。
【0047】
インクジェット記録装置が動作をしない待機状態になる場合や、インクジェット記録装置の電源が切られる場合には、キャリッジ20がキャッピングされた状態でさらに待機状態まで移動する。このとき、セットレバー36のボス36Fがカム体37のカム溝37Eに誘導され、図17に示されるように、セットレバー36は、角度θだけ回転する。この回転により、第1の実施例のときと同様に、結果として、記録ヘッド100は、キャリッジ20の圧接コネクタ41から離れる方向にSだけ移動するので、圧接ピン42が記録ヘッド100のヘッド基板110へ作用していた押し付け力が解除される。この意味で、セットレバー36、板バネ21及びカム体37は、記録ヘッド100と圧接コネクタ41との間の圧接を解除する第1の実施例とは異なる圧接解除手段を構成しているといえる。
【0048】
以上、本発明の実施例に付き説明してきたが、本発明は、以上の第1及び第2の実施例で示した記録ヘッド100及びインクタンク180、190を有する構成に限定されるものではない。例えば、本発明は、1個の記録ヘッドを用いる記録装置、異なる色のインクで記録する複数の記録ヘッドを用いるカラー記録装置、あるいは、同一色彩で異なる濃度で記録する複数の記録ヘッドを用いる諧調記録装置、さらには、これらを組み合わせた記録装置の場合にも、同様に適用することができ、同様の効果を達成し得るものである。
【0049】
さらに、本発明は、記録ヘッドとインクタンクを一体化した交換可能なインクカートリッジを用いる構成、記録ヘッドとインクタンクを別体にし、その間をインク供給用のチューブ等で接続する構成など、記録ヘッドとインクタンクの配置構成がどのような場合にも同様に適用することができ、同様の効果が得られるものである。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明を適用したインクジェット記録装置の一実施例の要部構成を示す模式的斜視図である。
【図2】本発明を適用したインクジェット記録装置の一実施例の動作を例示する模式的断面側面図である。
【図3】記録ヘッドを前側から見て示す模式的斜視図である。
【図4】図3の記録ヘッドを後側から見て示す模式的斜視図である。
【図5】図3の記録ヘッドのインク吐出部の一部を模式的に示す部分斜視図である。
【図6】キャリッジに取り付けられるキャリッジ基板を、記録ヘッド側から見た模式的斜視図である。
【図7】図6のキャリッジ基板40を、図6の視点と逆の側から見た模式的斜視図である。
【図8】キャリッジの構造を示す模式的斜視図である。
【図9】本発明の第1の実施例におけるセットレバーの構造を示す模式的斜視図である。
【図10】キャリッジに取り付けられるキャリッジカバーを前側から見て示す模式的斜視図である。
【図11】図10のキャリッジカバーを後側から見て示す模式的斜視図である。
【図12】記録ヘッドをキャリッジに挿入する直前にセットレバーを上方へ退避させたときの状態を示す模式的断面側面図である。
【図13】記録ヘッドをキャリッジカバーの案内部をガイドとして挿入したときの状態を示す模式的断面側面図である。
【図14】セットレバーを下方へ回転させて記録ヘッドをキャリッジのセット位置へ引き込むときの状態を示す模式的断面側面図である。
【図15】記録ヘッドがキャリッジ上のセット位置に位置決め、装着された状態を示す模式的断面側面図である。
【図16】本発明を適用したインクジェット記録装置の別の実施例の要部構成を示す模式的斜視図である。
【図17】本発明を適用したインクジェット記録装置の別の実施例の動作を例示する模式的断面側面図である。
【図18】本発明の第2の実施例におけるセットレバーの構造を示している。
【図19】従来のインクジェット記録装置のキャリッジ構成を例示する模式的縦断面図である。
【図20】従来のインクジェット記録装置の別のキャリッジ構成を例示する模式的縦断面図である。
【符号の説明】
【0051】
20 キャリッジ
20A 細長面
20B ボス部
20D 第1の当接面(Y方向)
20E 第2の当接面(Z方向)
20F 第3の当接面(Y方向)
20G 第4の当接面(X方向)
20H 孔(セットレバー軸支用)
20I 孔(キャリッジカバー取り付け用)
21 板バネ
30 キャリッジカバー
30A 溝部
30B ボス部
30C 目隠し部(露出防止部)
30D 弾性部
35 セットレバー
35A ボス部
35B 第1のカム面
35C 第2のカム面
35D 凹部
35E 係合部
36 セットレバー
36A ボス部
36B 第1のカム面
36C 第2のカム面
36D 凹部
36F ボス
37 カム体
37E カム溝
40 キャリッジ基板
41 圧接コネクタ
41B 位置決め用ボス
41C 位置決め用孔
41D 位置決め用ボスの頂面
41E 位置決め用孔の端面
42 圧接ピン
43 FFCコネクタ
44 FFC
45 リニアエンコーダ
50 ガイドシャフト
51 カム
55 リニアスケール
60 キャリッジモータ
61 モータ
70 タイミングベルト
80 シャーシ
81 ガイドレール
90 紙間調整レバー
100 記録ヘッド(記録手段)
101 ボス
102 長丸ボス
103 第1の突き当て面(X方向)
104 第2の突き当て面(+Y方向)
105 第3の突き当て面(Z方向)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを吐出して記録を行う記録ヘッドが搭載されるキャリッジと、該キャリッジに取り付けられ、前記記録ヘッドを制御回路に接続する圧接コネクタとを有するインクジェット記録装置において、
前記圧接コネクタと前記記録ヘッドの圧接面との圧接を、前記記録ヘッドを移動させることにより解除することができる圧接解除手段を備えることを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記記録ヘッドを前記キャリッジに搭載するための着脱手段をさらに備え、
前記圧接解除手段は、前記着脱手段に作用することで前記記録ヘッドを移動させ、圧接を解除することを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記着脱手段は、前記キャリッジに取り付けられている弾性部材及び該キャリッジに回動自在に取り付けられているセットレバーにより構成されていることを特徴とする請求項2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記圧接解除手段は、モータで駆動されるカム機構により動作することを特徴とする請求項2又は3に記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
前記圧接解除手段は、前記キャリッジの移動に連動して動作することを特徴とする請求項2又は3に記載のインクジェット記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2006−159706(P2006−159706A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−356019(P2004−356019)
【出願日】平成16年12月8日(2004.12.8)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】