説明

インクジェット記録装置

【課題】従来の記録ヘッドのノズルを封止するキャップは、発生するキャップとノズルプレート間の隙間により外気が往来しノズル内のインクに増粘を発生している。
【解決手段】インクジェット記録装置は、記録ヘッドの非駆動時に、近接して配置された記録ヘッドのノズルプレートとキャップ内のインクガイドとの間にインク液柱を形成し、そのインク液柱によりノズルを密閉し、ノズル内の貯留するインクの増粘を抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録ヘッドのノズル内に貯留されるインクの増粘を抑制するインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に普及しているインクジェット記録装置は、使用するインクの性状に適合するように構成されている。特に、記録ヘッドのメンテナンス系は、使用するインクが水性インク等の水などの揮発成分を含むインクであった場合、記録ヘッドのノズル部を密封するためのキャップを備えることが必須となっている。これは、例えば、水性インクは、主要成分である水分の蒸発によって、インクの粘度が増大する、増粘と呼ばれる現象が発生する。このインク増粘は、記録ヘッドに設けられているインクを吐出するための多数の微細な孔で構成されるノズル内部で発生すると、ノズルが詰まりインク液滴の適正な吐出が妨げられて、インク液滴の不吐出や飛行曲がりが発生する。
【0003】
このインク増粘に対応するために、不吐出時にはノズル部分をキャップで覆うことにより、水分の蒸発を抑制している。このキャップは、ゴム等の弾性体で構成され、記録ヘッドに多数設けられたノズルを含むノズルプレート周辺部や、さらにその周辺に配置されるマスク部に密着させて、増粘を発生させる箇所を密閉して、水分の蒸発を抑制している。
【0004】
しかしながら、剛体からなるノズルプレートやマスクプレートに対して、弾性体のゴムを当接させて完全な密閉度を確保するのは、装着面の形状やゴムの弾性劣化を原因として難しく、僅かな隙間から空気が出入りすると、その隙間から水分がキャップ外部へ抜けていってしまう。また、その密閉性が確実でないために、キャップの装着経過時間により保湿量が変わり、印字開始時の画像品質のばらつきが発生したりしてしまう。
【0005】
これらの問題を改良するために幾つかの手法が提案されている。例えば、特許文献1には、記録ヘッドの長期時間に亘る不吐出時には、内部にインクが充填されたキャップを記録ヘッドのノズル形成面に宛がい、封止する技術が提案されている。このキャップ内のインクによりノズル周辺のインクの保湿が維持され、増粘を防止している。尚、キャップを外した際に、ノズル周辺に付着したインクの付着量が少なければ、そのまま画像形成に移行できるが、その付着量が多ければ、ワイピングや吸引により除去する必要がある。
【0006】
これとは異なる従来技術として、例えば、特許文献2には、記録ヘッドのノズル周辺部にインク液膜を形成するガイド部によって、ノズル部を封止してノズル部の増粘を防止する例が記載されている。さらに、特許文献3には、キャップ内部にリブを設け、底部のインク排出口との隙間を小さくすることで、毛細管現象によって排出口をインクで塞ぎ、これにより増粘を防止することが記載されている。
【特許文献1】特開2003−291359号公報
【特許文献2】特開2002−254665号公報
【特許文献3】特許第2878214号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述したように、水性インクに対しては、ノズルやその周辺を密封することにより、揮発成分の減少を防止し、インク増粘を抑制する手法は、種々提案されているが、いずれにおいても、外気との通気を防止するように密閉性を確保することが重要ある。
【0008】
キャップ内をインクで充填する手法は、キャップ装着の都度、行われるため、多量の無駄なインクが発生する。従って、固定型の長尺ラインヘッドを多数使用した高速カラーインクジェット記録装置等に用いると、相当量のインク消費となるため、ランニングコストを上昇させる要因になってしまう。
【0009】
特許文献2で提案される技術は、記録ヘッドに特殊な構造を設けているため、採用できる記録ヘッドに選択の制限や構造的な制限が発生する。また、ノズル周辺に突起物を設けているため、通常のワイピング処理は使用できない。これに対処するように、ノズルプレートに撥水性を持たせたとしても、長期にわたって確保することは技術的に難しく、交換で対応すると、ランニングコストに影響を与える。
【0010】
また、特許文献3で提案された技術においては、キャップ内部にリブを設けて毛細管現象によって排出口をインクで塞ぐ手法は、キャップ内の温度変化が影響して圧力変動が生じると、毛細管現象を利用してインク薄膜を長期にわたり確保するのが困難であることが予想される。また、キャップの密着性については、従来の課題を含むままとなっている。
【0011】
そこで本発明は、記録ヘッドのノズル部におけるインク増粘を抑制し、常に高画質の画像形成を得ることができるインクジェット記録装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記目的を達成するために、記録媒体にインクを吐出し画像形成する複数のノズルが列状に形成されたノズルプレートを備える記録ヘッドと、昇降機能を有し、前記ノズルプレートを封止して前記ノズル内部のインク増粘を防止するためのキャップと、前記キャップ内に設けられ、前記ノズルプレートへの密着時に前記ノズルと対向し且つ近接して配置されるインクガイド部と、を有し、前記ノズルから流出された前記インクにより前記ノズルプレートと前記インクガイドとの間に、前記ノズルを密閉するインク液柱を形成する画像形成装置を提供する。
【0013】
さらに、前記インク液柱は、前記ノズルと対向する前記インクガイド上に点在するように形成され、インク量により隣接する前記インク液柱どうしが連結し、インク液壁を形成する。また、前記インク液柱が形成されているときには、前記ノズルプレートが前記キャップにより封止されている。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、記録ヘッドのノズル内部のインク増粘を、少量のインクで安定して抑制することが可能であって、常に高画質の画像形成を実施するインクジェット記録装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態に係るインクジェット記録装置における記録ヘッド及びキャップの概略構成を示した透視図である。図2は、その記録ヘッド及びキャップの断面構成を示した図である。尚、本実施形態においては、通常の画像形成装置の構成部(記録媒体の供給機構、搬送機構、排出機構及びメンテナンス機構等)は搭載しているものとして、本発明の特徴部分であるキャップと、キャップに関わる記録ヘッドを図示し説明する。
【0016】
本実施形態における記録ヘッド1は、金属材料又は樹脂材料により形成される内部が空洞で矩形形状のヘッド本体10と、多数の微細な孔からなりインクを吐出するノズル11が列状(ノズル列)に形成され記録媒体(図示せず)と対向する面に設けられたノズルプレート12と、ヘッド本体10内に設けられた空洞でインクを貯留し各ノズル11にインクを供給する共通インク室13と、後述するインク供給系からインク3を共通インク室13内に供給するインク供給口14と、画像形成に使用されなかったインク3を共通インク室13から排出しインク供給系にリターンさせるインク排出口15と、それぞれのノズル11に設けられるピエゾ部6と、で構成される。
本実施形態の記録ヘッド1には、インク供給口14とインク排出口15とを設けた例であるが、2つともインク供給口14として用いてもよい。後述する共通インク室13のインク3への加圧は、インク排出口15のインク経路を閉じる又は、後述する戻しインクタンク52の大気開放バルブを閉じ且つポンプを停止させる。
【0017】
この記録ヘッド1は、例えば、記録媒体の幅以上の長さを有し、図示しない画像形成装置のフレーム等に固定され、搬送されてノズル前方を通過する記録媒体にインク3を吐出して画像を形成する。また、記録媒体の幅よりは短い短尺記録ヘッドを複数用いて、記録媒体の幅以上の長さになるように配列してもよい。
【0018】
キャップ2は、ゴム等の弾性部材からなり外装を構成するキャップ外装部21と、キャップ外装部21内部に設けられ、ノズル11から吐出されたパージ用インクを受領するY形状のインクガイド22と、インクガイド22に一体的に設けられ、パージ用インクを外部の廃液ボトル(図示せず)へ排出するインク排出管24とで構成される。キャップ2は、記録ヘッド1にキャップ外装部21を密着させた際に、キャップ内部空間23となる密閉空間が形成される。
【0019】
図2に示すように、図示しないインク供給系から供給されたインク3は、記録ヘッド1のインク供給口14を経て共通インク室13を満たしている。ノズルプレート12は、共通インク室13下面を塞ぐように設けられ、各ノズル11にはピエゾ部6が配置される。このピエゾ部6に開口された孔によるチャネル7が形成され、ノズル11を構成している。本実施形態では、図2に示すように、一例として2列のノズル列が形成されている。各ノズル11内には、インク3によるメニスカスが形成される。画像形成時には、ピエゾ6の駆動によって、加圧されたインク3は、ノズル11からインク液滴として直線的に飛翔し、記録媒体に着弾する。
【0020】
キャップ2内のインクガイド22は、ノズル11のインク吐出方向(図2においては直下)で近接した位置に配置される。このインクガイド22は、2列のノズル11と対向できるように、配置されており、本実施形態においては、横断面から見たときに略Y形状で対称形を成している。
【0021】
このインクガイド22は、下方に向かって狭められており、下部には少なくとも1つの排出管24が連結される。ノズル11から収容したインク3は、インクガイド22内壁上を流れ落ち、中央に集まりインク排出管24から図示しない廃インクに排出される。
【0022】
本実施形態におけるインクガイド22の面は、傾きが2段階になっており、上段は、パージ用インクが保持されやすいようにツバ形状で、緩やかな傾きを有し、下段は、インクが流れ落ちやすいように急な傾きを有している。
【0023】
本実施形態において、キャップ2を記録ヘッド1に宛がい当接するように装着させた際に、ノズル11とインクガイド22が近接状態となる。ここで、インク3は、ノズル11から流出され、ノズル11とインクガイド22とを橋絡させて液柱状又は、複数の液柱が連結して壁状となり保持された状態となる。従って、ノズル11は、キャップ内の雰囲気とは、インクにより遮断されることとなる。ノズル11とインクガイド22との間の距離の上限は、インクの特性(例えば、粘度等)により異なるが3mm以下程度であればインク液柱が形成でき、好ましくは、2mm以下程度である。また、距離の下限は、当接しない距離であればよく、機械的精度を勘案すれば0.05mm程度となる。従って、ノズル11とインクガイド22との間の距離は、0.05〜3mm程度。好ましくは0.05〜2mm程度となる。また、近接する距離は、近い方がパージ用のインクの使用量を少なくすることができるが、パージ用のインクは少なくともキャップ内の雰囲気とは接するため、僅かながら粘度が上がることを考慮して、その距離(インク量)を調整すればよい。
【0024】
尚、インクガイド22において、ノズル11と対向し、インク液柱状(又はインク液壁)を形成する位置(領域)については、親水性の加工(又は、非撥水加工)を行い、インクが保持され易くし、他の部分には撥水性を持たせてインクが流れ落ち易いように表面加工してもよい。または、インク液柱状(又はインク液壁)を形成する位置(領域)について、逆に撥水加工を施してインクの接触角を大きくし、インクを球状に近い液滴になるようにして、ノズル11と接触し易くしてもよい。さらに、本実施形態では、ノズル11とインクガイド22との距離は、固定された例を示しているが、これに限定されるものではない。例えば、キャップ2内でインクガイド22のみを昇降する昇降機構を設けて、画像形成の停止時間、例えば、一時間程度の停止時間と、一日程度の停止時間と、数日程度の停止時間などに応じて、選択的にノズル11とインクガイド22との距離を変えて、保持されるインク量を変えることも可能である。勿論、この時のキャップ2は、ノズルプレート12に密着した状態である。
【0025】
次に、図3(a)乃至(c)を参照して、記録ヘッド1とキャップ2との間にインク液柱又はインク液壁を形成する手順について説明する。
図3(a)に示すように、画像形成の終了と共に、キャップ2の外装となるキャップ外装部21を、図示しない昇降機構により記録ヘッド1のノズルプレート12に当接させて装着し、密閉空間23を形成する。この時、キャップ2内でノズル11は、インクガイド22と近接するように対向する。
【0026】
次に、密閉用のインク3をノズル11から流出する。この密閉用のインク3の流出は、図示しない加圧源によって共通インク室13内部への加圧、若しくは、図示しない負圧源をキャップ2に接続して、キャップ2の内部空間23を負圧にすることで、ノズル11からインク3を排出させる吸引のいずれでも良い。
【0027】
次に流出されたインク31は、ノズル11直下にて近接するインクガイド22に受容される。インク31は、対称形のツバ部から、流れ落ちてその中央に集中し、キャップ2の内部空間23には溢れ出ず、若しくはほとんど溢れ出ず、インク排出管24に集中し、図示しない廃液インクタンクヘ貯蔵される。この時のキャップ2の内部空間23内の圧力は、図示しないポンプ等により負圧である方がインクの飛散による汚れ防止の観点では望ましい。しかし、流出されたインクの排出能力が高く、またキャップ2の外部に零れ出ないのであれば、内部空間23が大気圧状態でもかまわない。
【0028】
その後、図示しない加圧源、又は負圧源による記録ヘッドへの圧力供給を停止し、画像形成時と同じ水頭値に設定し直し、記録ヘッド1から密閉用のインク31の流出が停止される。図3(b)は、インク31の流出が停止した後のインク液柱33によるノイズ密閉状態を示したものである。
【0029】
流出された密閉用のインク31のほとんどは、排出管24を通じて排出され、ノズル11直下とインクガイド22間に橋絡したインクのみが柱状に残留している状態となる。これらはインクの表面張力によって柱状となり、インク液柱33が形成される。インクガイド22とノズルプレート12間の距離は、ノズル列に亘って十分に小さく、また、隣接ノズル間隔が狭いため、インク液柱33はノズル列11に沿って伸びて列状に点在する状態になる。この時、インク量が多い場合には、隣同士のインク液柱33が繋がり、壁状態(インク液壁)となる。
【0030】
このインク液柱33によってノズル11は密閉され、キャップ内雰囲気(空気)とは隔絶された状態となり、ノズル11内のインク増粘が抑制される。このインク液柱33は、本実施形態で用いている水性インクの場合には、主要成分である水の表面張力は非常に大きいため強固であり、簡単にノズルプレート12とインクガイド22間から垂れ落ちたりして消失することはない。
【0031】
また、インク液柱33も限られたキャップ内雰囲気に露呈しているだけであるため、密閉用インクの水分が消失するほどの蒸発も無く、長時間に亘ってインク液柱は簡単に破壊(消失)されることはない。
【0032】
従って、インク液柱33内に閉塞されているノズル11は、キャップ2及びインク液柱33との2重に閉塞されているため、さらに増粘が抑制されている状態となっている。またさらに、ノズルプレート12とインクガイド22間は非常に近接して配置されているために、インク液柱33を形成するインク量は、従来のキャップにインクを充填するために用いられているインク量と比較すると僅かな量である。
【0033】
図3(c)は、画像形成を開始(又は、再開)するにあたって、キャップ22は下降して、装着状態から離脱する。インク液柱33は、この離脱により、破壊され、インクガイド22側の残留インク35と、ノズルプレート12側の残留インク34とに分割されて残留する。インクガイド22上の残留インク35は、インク排出管24を経て、図示しない廃液ボトルに回収される。尚、そのまま残留したインク35は、次回の密閉用のインク31の流出により洗い流される。また、ノズルプレート12上に残留したインク34は、記録ヘッド1内の水頭値である負圧によって除々に記録ヘッド1内に回収され消失する。この時、記録ヘッド1内のインク3に掛かる圧力をインク3の吐出時(画像形成時)よりも小さくする。即ち、記録ヘッド1内の圧力を水頭値より絶対値として、小さくすることによって、さらに残留インク34のノズル11への吸引速度が高くなり、ノズルプレート12上の残留時間は短くすることができる。
【0034】
さらに、記録ヘッド1内の負圧を大きくすることによって、キャップ状態のまま、インク液柱33をノズル11内に吸引除去することも可能である。図2に示したように、記録ヘッド1のノズル11にメニスカスが形成され、画像形成可能状態に迅速に復帰することができる。インク液柱33の形成や消失が自由自在に可能となる。
【0035】
本実施形態によれば、ノズル11を塞ぐように形成したインク液柱33によって、ノズル11は密閉され、キャップ内雰囲気(空気)とは隔絶された状態となり、ノズル11内のインク増粘を抑制することが可能となる。また、インク液柱33は、限られたキャップ内雰囲気に露呈しているだけであるため、インクの水分蒸発も極僅かであり、長時間に亘ってインク液柱は維持することができる。また、キャップ2によりインク液柱33が外気と遮断されているため、ノズル11は、キャップ2及びインク液柱33との2重に閉塞され、さらに増粘が抑制されている。さらに、ノズルプレート12とインクガイド22間は非常に近接して配置されているために、インク液柱33を形成するインク量は、従来のキャップにインクを充填するために用いられているインク量と比較すると僅かな量の消費となる。
【0036】
次に、第2の実施形態について説明する。
図4(a)は、本実施形態に係るインクジェット記録装置における記録ヘッド及びキャップの装着した状態の断面構成を示した図、図4(b)、キャップ2の概略構成を示した透視図である。本実施形態において、前述した第1の実施形態と同等の構成部位には同じ参照符号を付して、その説明は省略する。尚、本実施形態においても通常の画像形成装置の構成部(記録媒体の供給機構、搬送機構、排出機構及びメンテナンス機構等)は搭載しているものとして、本発明の特徴部分であるキャップ内のインクガイドと、キャップに関わる記録ヘッドを図示して説明する。
【0037】
本実施形態のインクガイド25は、形状が前述した第1の実施形態のものと異なっている。第1の実施形態のインクガイド22は、2段の傾きを持ち、上段側のツバ部分でノズル11から受けたインクを面で液柱に形成していた。これに対して、本実施形態のインクガイド25は、図4(a),(b)に示すように、一様な傾きの一面を持ち、上端部(線断面形状部)でノズル11から流出された密閉用のインク3を受容して、インク液柱(インク液壁)33を形成する。
【0038】
本実施形態においては、線断面形状でインク液柱33を保持させているため、インクは容易に流れ落ちてしまう虞がある。しかし連続的に滲出させることによって、インクの表面張力により、図4(a)に示すように、インクガイド25先端の線形状部材とノズルプレート12間でインク液柱33を生成することができる。尚、本実施形態のインクガイド25上端でインクを保持する構成であるため、不要となったインクがインクガイド25の内面と外面の両面側を伝わって流下するため、インクガイド25の外面から内面に貫通するインク排出孔28を開口する。尚、キャップ外装部21の内面底部にザグリ(流出路)を入れて、インク排出孔28にインクが入りやすいように構成してもよい。
【0039】
本実施形態によれば、密閉用のインクをインクガイド25上端の線断面形状部上にインク液柱(インク液壁)を形成することにより、さらに少ないインクの消費量で実現できる。このように形成されたインク液柱33により、第1の実施形態と同様に、ノズル11を外気から遮断するように密封することできる。さらに本実施形態は、インクガイド25を収容するキャップ外装部21がノズルプレートに当接することにより密閉空間23が形成され、インク液柱33の蒸発等が抑制され、ノズル11内のインクを長時間に亘って、増粘を抑制することが可能となる。
【0040】
次に、第3の実施形態について説明する。
図5(a)は、第3の実施形態に係るインクジェット記録装置における記録ヘッド及びキャップの装着した状態の断面構成を示した図、図5(b)、キャップ2の概略構成を示した透視図である。本実施形態において、前述した第1の実施形態と同等の構成部位には同じ参照符号を付して、その説明は省略する。尚、本実施形態においても通常の画像形成装置の構成部(記録媒体の供給機構、搬送機構、排出機構及びメンテナンス機構等)は搭載しているものとして、本発明の特徴部分であるキャップ内のインクガイドと、キャップに関わる記録ヘッドを図示して説明する。
【0041】
本実施形態は、前述した第1の実施形態とは、インクガイド26の形状が異なっている。インクガイド26は、図5(b)に示すように、例えば金属ワイヤからなるインクガイド26である。ノズル11から滲出するインクに対して、図5(a)に示すように、断面から見ると点断面形状部材で受容する。
【0042】
またインク液柱33によりノズル11の閉塞効果は、前述した各実施形態と同等であり、さらに、ごく僅かなインク量で、ノズル11内のインクを長時間にわたり、増粘を抑制することができる。インク液柱33の形成の際に、余分なインク3はインクガイド26からキャップ外装部21底部に滴下し、滴下したインク3は、排出管24から図示しない廃液ボトルへ排出される。
【0043】
尚、インクガイド26を構成するワイヤは、金属製に限定されるものではなく、張力が満たせば、樹脂やその他の材料により形成することができる。またワイヤは、単芯であっても、多数の細い線材をより線に多芯のものでもよい。但し、多芯ワイヤの方が、張力を大きく取れる上に、インクの保持性を高めることもできる。
【0044】
本実施形態によれば、前述した第2の実施形態と同様に、近接配置されたノズルプレート12との間で、ごく僅かの密閉用のインク量でインク液柱33を形成することができる。
【0045】
次に、第4の実施形態について説明する。
図6は、第4の実施形態に係るインクジェット記録装置におけるインク供給系と、記録ヘッド及びキャップの断面構成を示した図である。本実施形態において、前述した第1の実施形態と同等の構成部位には同じ参照符号を付して、その説明は省略する。尚、本実施形態においても通常の画像形成装置の構成部(記録媒体の供給機構、搬送機構、排出機構及びメンテナンス機構等)は搭載しているものとして、本発明の特徴部分であるキャップ内のインクガイドと、キャップに関わる記録ヘッドを図示して説明する。
【0046】
図6には、記録ヘッド1、キャップ2、インク供給機構4及びブレード機構5を示している。本実施形態のインク供給機構4は、大別して記録ヘッドにインク3を供給するための供給インクタンク51と、画像形成に使用しなかったインクを回収する戻しインクタンク52と、循環ポンプ45とで構成され、これらがインク経路4で接続されてインク循環経路を形成している。経路の詳細は、供給インクタンク51と記録ヘッド1のインク供給口14とは、インク供給経路43により接続される。記録ヘッド1のインク排出口15と戻しインクタンク52とは、インク戻り経路44により接続される。インク戻り経路44と供給インクタンク51とは、循環ポンプ45を挟んでインク循環経路46により接続される。
【0047】
供給インクタンク51、戻しインクタンク52には、それぞれ大気開放口53、54とインク液面検知55、56が装備され、図示しない制御装置によって、検知及び制御が行われている。本実施形態におけるインク経路4は、循環インク経路であって、記録ヘッド1のインク供給口14は、インク入口41となり、インク排出口15はインク出口42となっている。
【0048】
本実施形態におけるインク経路4の動作について説明する。
インク経路4は、インク循環しない時には、供給インクタンク51及び戻しインクタンク52のそれぞれの大気開放口53,54を閉じて、ノズル11からインク3が漏洩しない状態となっている。又は、戻しインクタンク52の大気開放口54のみ開けて、記録ヘッド1内部に水頭値が印加されている状態となっている。
【0049】
一方、インク循環時には、まず、戻しインクタンク52の大気開放口54を閉じて、循環ポンプ45を動作させてインク3を供給インクタンク51に送り、戻しインクタンク52内部の負圧を増大させる。この負圧により、記録ヘッド1の共通インク室13からインク3が引き出され、共通インク室13内部が負圧になる。さらに供給インクタンク51の大気開放口53を開くことで、記録ヘッド1のインク入口41とインク出口42間に圧力差が生じて、インク循環が開始される。インク循環量は、循環ポンプ45による戻しインクタンク52内の負圧の大きさで決まり、負圧が大きくなるほどインク循環量が増大する。インク循環することによる効果は、インク液柱33を消失するためにキャップ2を下げてノズルプレート12上の残留インク34をノズル11内に回収するときに、通常の水頭値を静的に印加する場合よりも早く完了することができる。これは、インク循環によって記録ヘッド1内部の圧力分布をより均一にする作用がインク循環の方が高いためである。
【0050】
またインク循環ポンプ45の回転数Rをより高くして、戻りインクタンク52内部負圧をより大きくすることで、記録ヘッド1内部の負圧も大きくなり、さらにノズルプレート12上の残留インク34は、さらに早くノズル11に流れ込み、回収される。但し、残留インク回収速度を高めるために、戻しインクタンク52の負圧を大きくし過ぎると、記録ヘッド1内部の負圧が大きくなり、ノズル11から気泡36を吸入するため、負圧の大きさは、経験的に設定する必要がある。
【0051】
図7は、インク出口42側の負圧が大きすぎるためにノズル11から気泡36を巻込んでいる様子を示している。ノズル11の上流側であるインク入口41側は正正方向、下流側のインク出口42側は負圧方向となっており、負圧側のメニスカス保持力以上の負圧が印加されることで気泡の吸入が発生する。尚、本実施形態においては、インク循環のインク経路であるため、気泡はインク出口42からインク戻り経路44を経て戻りインクタンク52に回収され除去されるため発生したとしても、大きな問題とはならない。
【0052】
従って、本実施形態によれば、インク循環によるインク経路4を使用したインクジェット記録装置では、より早く画像形成状態に移行することができる。
【0053】
さらに、残留インク35が早く、確実にノズル11内部に吸引除去され、ノズルプレート12上の残留液滴34がごく少なくなることによって、記録ヘッド1のノズルプレート12全面をインクに浸潰した場合のように多量の残留液滴によって画像形成ができない状態を回避できる。従って、ブレード機構6によるノズルプレート12上の残留液滴除去のためのワイプ動作を省略することができ、さらに早く画像形成状態に移行することも可能である。
【0054】
次に、第5の実施形態について説明する。
【0055】
図8(a)は、第5の実施形態に係るインクジェット記録装置における記録ヘッド及びキャップの装着した状態の断面構成を示す図、図8(b)は、キャップの透視図である。
【0056】
本実施形態は、キャップ2内に設けられたインクガイド27がノズルプレートと近接し且つ対向する平板皿形状となった例である。このインクガイド27は、前述した第1の実施形態の同じ材料により形成され、キャップ外装部21内の底部に設けられた支持部材30により固定されている。
【0057】
インクガイド27は、平板の周囲に縁を設けた皿形状であり、中央裏面に少なくとも1つのインク集合管29が設けられて、開口している。インク集合管29は、図8(a)に示すように、キャップ外装部21内に取り付けられた際に、キャップ外装部21の底部に達しない長さを有している。インクを効率よく排出するために、インク集合管29と、キャップ外装部21の底部に設けられたインク排出管24と同軸であることが望ましく、インク排出管24の内径がインク集合管29の内径よりも大きいことが望ましい。
【0058】
この構成において、前述した手法により共通インク室13内が加圧され、ノズル11から密閉用のインク3が垂らし落とされ、インクガイド27に到達する。このインク3は、近接するノズル11とインクガイド27との間に、インク液柱33(又は、インク液壁)を形成する。余分なインク3は、インクガイド27表面を流れて、開口からインク集合管29に流れ込み、インク排出管24を経て図示しない廃液ボトルに収容される。尚、インクガイド27から溢れ落ちたインク3は、キャップ外装部21の底部に受容され、底部に開口されるインク排出管24を経て同様に、廃液ボトルに収容される。
【0059】
本実施形態によれば、前述した第1の実施形態と同等の作用効果を得ることができる。また、インク液柱33が平板のインクガイド27に形成されているため、インクガイド27に斜度を有する他の実施形態に比べて、外部からの衝撃があってもインク液柱33の移動が発生しにくくなる。
【0060】
次に、第6の実施形態について説明する。
本実施形態は、インクガイドに昇降及び密閉機能を持たせて、キャップ2を省略した簡易型のインクガイド61である。図9に示すように、上面が開放された楔形状を成し、インクガイド61のツバ部61aの先端周囲に、弾性部材からなる密着用フチ部材62を設けた構成となっている。インクガイド61は、単体で用いるためインクが零れ出ないように、例えば、図1に示したインクガイド22の側面を塞ぎ、ツバ部を延長した形状である。
【0061】
本実施形態においても、インクガイド61の面は、傾きが2段階になっており、上段は、パージ用インクが保持されやすいように形状で、緩やかな傾きを有し、下段は、インクが流れ落ちやすいように急な傾きを有している。
【0062】
また、受容したインク3は、前述した実施形態と同様に、図示しない廃液ボトルに収容される。密着用縁部材62は、ノズルプレート12と当接する際に、ストッパ及びノズルプレート12とインクガイド61との距離を規定するように作用する。さらに、密着用縁部材62のノズルプレート12と当接する面の中央に溝を形成することにより、インクガイド外部にインクが漏れ出ることを防止させている。また、溝を設けたことにより、当接面が細くなり、より密着させることができる。
【0063】
本実施形態においては、図示しない昇降機構により、前述した第1の実施形態におけるキャップ外装部21が当接した記録ヘッド1の箇所にフチ部材62が当接して、インクガイド22が記録ヘッド1のノズルプレートに密着する。この状態において、インク液柱(インク液壁)を形成して、ノズル11を密閉する。
【0064】
本実施形態によれば、インク液柱を形成してノズルを密閉することにより、インク増粘を抑制することができる。また、キャップ外装部を外した簡易な構成であり、ツバ部を延長し、その周囲に密着用縁部材62を設けたため、外部へのインクの飛散を防止するキャップ外装部と同様な効果を得ることができる。キャップ外装部を不要とするため、さらに小型化が実現でき、インク液柱が露呈する空間がインクガイド内部空間となり、密閉空間を小さくすることができる。
【0065】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変形実施が可能であるのは勿論である。前述した各実施形態では、水性インクの例で説明したが、これに限られるものではなく、他の種類のインクであっても良い。また記録ヘッドは、ピエゾタイプを例として説明したが、同様にこれに限定されるものではない。またさらに記録ヘッド及びキャップの構造及び形状もこれに限定されない。
【0066】
尚、この記録ヘッドは、固定ヘッドに限定されるものではなく、少量のインクを収納するインクタンクを着脱可能に搭載し又は、インクの充填可能な機能を有するインク室を搭載して、走査移動する走査型記録ヘッドでも適用することは可能である。
【0067】
さらに、上述した実施形態には種々の段階の発明が含まれており、開示される複数の構成要件の適当な組合せにより種々の発明が抽出され得る。例えば、実施形態に示される全構成要件から幾つかの構成事件が削除されても、発明が解決しようとする課題の欄で述べた課題が解決でき、発明の効果の欄で述べられている効果が得られる場合には、この構成要件が削除された構成も発明として抽出され得る。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るインクジェット記録装装置に用いられる記録ヘッド及びキャップ部の透視図である。
【図2】図1に示された第1の実施形態の記録ヘッド及びキャップの断面構成を示す図である。
【図3】図3(a)乃至(c)は、第1の実施形態の記録ヘッド及びキャップのインク液柱を形成する手順について説明するための図である。
【図4】第2の実施形態に係るインクジェット記録装装置に用いられる記録ヘッド及びキャップ部の透視図である。
【図5】第3の実施形態に係るインクジェット記録装装置に用いられる記録ヘッド及びキャップ部の透視図である。
【図6】第4の実施形態に係るインクジェット記録装装置に用いられる記録ヘッド、キャップ部及びインク供給路の構成を示す図である。
【図7】記録ヘッド内に気泡が吸入した状態を示す図である。
【図8】図8(a)は、第5の実施形態に係るインクジェット記録装置における記録ヘッド及びキャップの装着した状態の断面構成を示す図であり、図8(b)は、キャップの透視図である。
【図9】図9(a)は、第6の実施形態に係るインクジェット記録装置におけるインクガイドの外観構成を示す図であり、図9(b)は、記録ヘッド及びキャップの断面構成を示す図である。
【符号の説明】
【0069】
1…記録ヘッド、2…キャップ、3…インク、4…インク供給機構、5…ブレード機構、6…ピエゾ部、7…チャネル、10…ヘッド本体、11…ノズル、12…ノズルプレート、13…共通インク室、14…インク供給口、15…インク排出口、21…キャップ外装部、22…インクガイド、23…キャップ内部空間、24…インク排出管。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録媒体にインクを吐出し画像形成する複数のノズルが列状に形成されたノズルプレートを備える記録ヘッドと、
昇降機能を有し、前記ノズルプレートを封止して前記ノズル内部のインク増粘を防止するためのキャップと、
前記キャップ内に設けられ、前記キャップが前記ノズルプレートと密着した際に、前記ノズルと対向し且つ近接するように配置されるインクガイド部と、
を有し、前記ノズルから流出された前記インクにより前記ノズルプレートと前記インクガイドとの間に、前記ノズルを密閉するインク液柱を形成することを特徴とする画像形成装置。
【請求項2】
前記インク液柱は、前記ノズルと対向する前記インクガイド上に点在するように形成され、インク量により隣接する前記インク液柱どうしが連結し、インク液壁を形成することを特徴とする請求項1に記載の画像形成装置。
【請求項3】
前記キャップは、前記インク液柱が形成されているときには、前記ノズルプレートが前記キャップにより封止されていることを特徴とする請求項1に記載の画像形成装置。
【請求項4】
前記キャップは、前記ノズルプレートからの離脱時には、前記記録ヘッド内の前記インクに掛かる圧力を、前記インクの吐出時よりも小さくすることを特徴とする請求項1に記載の画像形成装置。
【請求項5】
前記記録ヘッドには、インク供給口及びインク排出口が形成されており、インク供給方法が循環方式であることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項6】
前記インクジェット記録装置において、
前記ノズルプレートに残留するインクをワイプ除去するブレード機構を備え、
記録媒体への画像形成開始前には、ワイプ動作が不実施であることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項7】
記録媒体にインクを吐出し画像形成する複数のノズルが列状に形成されたノズルプレートを備える記録ヘッドと、
昇降機能を有し、前記ノズルプレートを封止して前記ノズル内部のインク増粘を防止するためのキャップと、
前記キャップ内に設けられ、前記キャップが前記ノズルプレートと密着した際に、前記ノズルに線断面形状部が近接するように構成されたインクガイド部と、
を少なくとも有し、
前記ノズルから前記インクを前記インクガイドの前記線断面形状部に垂らし落とすことにより前記ノズルプレートと前記インクガイドとの間に、前記ノズルを密閉するインク液柱を形成することを特徴とする画像形成装置のインク増粘防止方法。
【請求項8】
記録媒体にインクを吐出し画像形成する複数のノズルが列状に形成されたノズルプレートを備える記録ヘッドと、
昇降機能を有し、前記ノズルプレートを封止して前記ノズル内部のインク増粘を防止するためのキャップと、
前記キャップ内に設けられ、前記キャップが前記ノズルプレートと密着した際に、前記ノズルの列と対向するように掛架されるワイヤからなるインクガイド部と、
を少なくとも有し、
前記ノズルから垂らし落とされた前記インクにより前記ノズルプレートと前記インクガイドとの間に、前記ノズルを密閉するインク液柱を形成することを特徴とする画像形成装置のインク増粘防止方法。
【請求項9】
記録媒体にインクを吐出し画像形成する複数のノズルが列状に形成されたノズルプレートを備える記録ヘッドと、
昇降機能を有し、前記ノズルプレートを封止して前記ノズル内部のインク増粘を防止するためのキャップと、
前記キャップ内に設けられ、前記キャップが前記ノズルプレートと密着した際に、前記ノズルプレートと近接し、且つ平行に正対する面を有するインクガイド部と、
を有し、
前記ノズルから垂らし落とされた前記インクにより前記ノズルプレートと前記インクガイドの前記面との間に、前記ノズルを密閉するインク液柱を形成することを特徴とする画像形成装置。
【請求項10】
記録媒体にインクを吐出し画像形成する複数のノズルが列状に形成されたノズルプレートを備える記録ヘッドと、
上面が開放された中空の楔形状を成し、昇降して前記ノズルに近接する対向面を備え、開放端の周囲に弾性縁部が配設されるインクガイド部と、
を有し、
前記ノズルプレートに前記弾性縁部を密着させて、前記ノズルと前記対向面を近接し、 前記ノズルから流出された前記インクを前記対向面で受容し、前記ノズルプレートと前記インクガイドとの間に、前記ノズルを密閉するインク液柱を形成することを特徴とする画像形成装置のインク増粘防止方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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