インクジェット記録装置
【課題】 余白なし凹部で発生するインクミストを低減するとともに、余白なし凹部におけるインクの堆積を防ぐことができるインクジェット記録装置を提供する。
【解決手段】 記録ヘッド120と対向する位置で用紙Pを支持するプラテン30に、余白なし記録の際に用紙をはみ出して吐出されるインクを受けるための余白なし凹部30cHP、30cS、30cLを設ける。インクを着弾させるためのインク着弾部151を各余白なし凹部に設ける。インク着弾部は、用紙に記録するときに記録ヘッドからの距離が小さい第1の位置Mに移動し、記録を行わないときに記録ヘッドからの距離が大きくかつ傾斜面を形成する第2の位置Nに移動する。
【解決手段】 記録ヘッド120と対向する位置で用紙Pを支持するプラテン30に、余白なし記録の際に用紙をはみ出して吐出されるインクを受けるための余白なし凹部30cHP、30cS、30cLを設ける。インクを着弾させるためのインク着弾部151を各余白なし凹部に設ける。インク着弾部は、用紙に記録するときに記録ヘッドからの距離が小さい第1の位置Mに移動し、記録を行わないときに記録ヘッドからの距離が大きくかつ傾斜面を形成する第2の位置Nに移動する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録ヘッドから用紙へインクを吐出して記録を行うインクジェット記録装置に関し、特に、余白なし記録ではみ出したインクを受けるための余白なし凹部を有するプラテンに備えたインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プリンタ、複写機、ファクシミリ等の機能を有する記録装置、あるいはコンピュータ等を含む複合型機器やワークステーションの出力機器として用いられる記録装置は、画像情報に基づいて記録ヘッドにより用紙に画像を記録していく。記録装置の一形態に、記録ヘッドに設けられた吐出口から用紙へインクを吐出して記録を行うインクジェット記録装置がある。記録装置では、記録ヘッドと対向する位置に用紙を支持するための通紙面を形成するプラテンが配されている。インクジェット記録装置の場合、記録ヘッドと用紙との間にインク滴を飛翔させるための距離が必要であり、インク滴を用紙上の正確な位置に着弾させるためにこの距離を適正値に管理することを要請される。
【0003】
インクジェット記録装置においては、プラテンの通紙面に配した吸引孔に負圧を作用させて用紙を吸着させることにより、用紙の浮き上がりを防止して記録ヘッドと用紙との距離を一定つようにした吸引プラテンが使用されている。また、用紙の各辺の端部に余白を設ける通常の記録の他に、余白を設けない余白なし記録も行われている。そして、余白なし記録を行う場合、用紙の端部に対応するプラテン上の位置に、端部をはみ出して吐出されたインクを受けるための余白なし凹部が設設けられる。一般に、余白なし凹部の内部には、インクを着弾させるためのインク着弾部が設けられる。特許文献1には、かかるインク着弾部をインク吸収材で形成することが記載されている。
【0004】
また、用紙の裏面とインク着弾部との間には、接触によるインク汚れを防止するために一定の隙間が設けられている。しかし、インクがインク着弾部に堆積してしまい、これが用紙の裏面に接触する現象が生じることがある。かかる現象は、特に、発色性や色再現性を向上させるために粘性を高めたインクを使用する場合に発生しやすい。そこで、インク着弾部を傾斜面にしてインク流出させることでインクの堆積を回避する構成が特許文献2に開示されている。
【特許文献1】特開2000−118058号公報
【特許文献2】特開2006−231612号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、インクジェット記録装置では、記録ヘッドから吐出されたインクが着弾するまでの距離が大きいほど、インクミスト(浮遊インク)の量が増加し、周辺部にインク汚れが生じやすくなるという傾向がある。このため、上述の余白なし凹部のインク着弾部を傾斜させる構成では、インクが着弾するまでの距離を小さくすることができず、インクミストを一定以下に低減できないという課題があった。
【0006】
本発明はこのような技術的課題に鑑みてなされたものである。本発明の目的は、余白なし凹部で発生するインクミストを低減するとともに、余白なし凹部におけるインクの堆積を防ぐことができるインクジェット記録装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、記録ヘッドから用紙へインクを吐出して記録を行うインクジェット記録装置において、記録ヘッドと対向する位置で用紙を支持するプラテンに、余白なし記録の際に用紙をはみ出して吐出されるインクを受けるための余白なし凹部を設けるとともに、インクを着弾させるためのインク着弾部を前記余白なし凹部に設け、前記インク着弾部は、用紙に記録するときに記録ヘッドからの距離が小さい第1の位置に移動し、記録を行わないときに記録ヘッドからの距離が大きくかつ傾斜面を形成する第2の位置に移動することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、余白なし凹部で発生するインクミストを低減するとともに、余白なし凹部におけるインクの堆積を防ぐことができるインクジェット記録装置が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を具体的に説明する。なお、各図面を通して同一符号は同一または対応部分を示すものである。図3は一実施形態に係るインクジェット記録装置の正面斜視図である。図4は一実施形態に係るインクジェット記録装置の背面斜視図である。図3および図4において、インクジェット記録装置10は、操作部12に配置された各種のスイッチ等により、オンライン・オフラインおよびコマンドなどが指示される。記録媒体としての用紙は、記録装置10の内部で記録された後、排紙口14から矢印A方向に排出される。記録装置10の幅方向一端部にはインクタンクユニット16が装着されている。装置本体には、装置の内部にアクセスするための開閉可能なカバー18が取り付けられている。記録装置の背面には、用紙を挿入するための挿入口20が形成されている。挿入口20には、装置の内部へ用紙を案内するための給紙ガイド22が取り付けられている。本実施形態では、用紙として、ロール状に巻回されたロール紙Pが使用されており、その挿入方向を矢印Bで示す。
【0010】
図5は一実施形態に係るインクジェット記録装置の内部の斜視図である。図6は図5のプラテンおよびその周辺部の拡大斜視図である。次に、図3〜図6を用いて、用紙の搬送経路および記録動作(画像形成)の工程などを説明する。記録装置10では、所定寸法のカット紙およびロ−ル状に巻かれたロール紙のいずれも使用することができる。ここでは、用紙が挿入口20から挿入されるロ−ル紙Pである場合を説明するが、自動給紙や手差しで給送されるカット紙の場合も同様である。
【0011】
ロール紙Pの先端を矢印B方向から挿入口20に挿入する。挿入されたロール紙Pは給紙ガイド22に案内され、走査ローラ24とピンチローラ28のニップに送り込まれる。ピンチローラ28はピンチローラアーム26に軸支され、走査ローラ24に従動回転可能に押圧されている。用紙Pは走査ローラ24の回転によりプラテン30の画像形成部30aに搬送される。プラテン30の画像形成部30aには多数の吸引孔30bが所定の配列で形成されている。全ての吸引孔30bは、プラテン30の下側に形成された密閉空間からなる不図示のダクトを介して、不図示の吸引ファンに接続されている。記録するとき、吸引ファンを作動させることにより、吸引孔30bを通して画像形成部30a上にある用紙Pを吸引し、用紙Pが画像形成部30aから浮かないようにしている。用紙Pは、記録された後、走査ローラ24とピンチローラ28に狭持されながらさらに搬送され、装置前面の排紙口14から矢印A方向に排出される。
【0012】
記録装置には、両矢印C方向に往復移動するキャリッジ40が設けられている。キャリッジ40はヘッドホルダ42を備えており、ヘッドホルダ42には記録ヘッド44が着脱自在に装着されている。プラテン30は記録ヘッド44と対向する位置で用紙を支持するように配されている。記録ヘッド44は、画像情報に基づいて吐出口から用紙にインクを吐出して記録を行うインクジェット記録ヘッドであり、記録ヘッド44と用紙との間には所定の隙間(インク滴の飛翔空間)が設けられている。記録ヘッド44に対しては、インクタンクユニット16からチューブ48を通してインクが供給される。記録装置10はカラー画像を記録可能であり、インクタンクユニット16からは、ブラック、シアン、マゼンタ、イエロー、淡シアン、淡マゼンタの6色のインクが供給可能であり、記録ヘッド44には各インク色ごとのインク吐出部が設けられている。また、記録装置10は、用紙の端部に余白なし記録を行うことができる。このため、プラテン30には、余白なし記録の際に用紙をはみ出して吐出されたインクを受けるための余白なし凹部30cHP、30cS、30cLが設けられている。これらの余白なし凹部は、多数の吸引孔30bとともに、画像形成部30aに形成されている。
【0013】
余白なし凹部30cHPは、用紙Pの基準側の端縁HPを跨ぐ位置に形成されており、用紙の幅サイズにかかわらず一端部HPをはみ出して吐出されるインクを受ける。余白なし凹部30cSは、幅が小さい用紙の他端部をはみ出して吐出されるインクを受けるものであり、余白なし凹部30cLは、幅が大きい用紙の他端部をはみ出して吐出されるインクを受けるものである。キャリッジ40は2本の案内レール54に沿って両矢印C方向に往復移動可能に支持されており、キャリッジ40の移動はキャリッジモータ50によりベルト52を介して駆動される。装置本体にはキャリッジ40の移動方向に沿ってリニアエンコーダスケール56が張架されている。一方、キャリッジ40には、光学または磁気を利用してリニアエンコーダスケール56を読み取るためのセンサ(不図示)が搭載されており、これによりキャリッジ40の位置を検出する。
【0014】
キャリッジ40には、プラテン30に支持された用紙Pの幅方向の端部を検出するための紙端センサ58が搭載されている。紙端センサ58としては、例えば、プラテン30に光を照射し、その反射光によって用紙Pの有無を判定するセンサが使用される。用紙Pが存在するときにキャリッジ40を移動させることにより紙端センサ58で紙端を検出し、このときのキャリッジ40の位置から用紙Pの位置および幅が検出される。
【0015】
用紙Pはキャリッジ40の移動方向と交差する方向に断続的に搬送される。用紙Pをプラテン30上で一時停止させ、キャリッジ40を往復移動させながら記録ヘッド44からインクを吐出することにより、用紙Pの画像形成部30a上の1バンド分の画像を形成する。次いで、所定距離だけ用紙Pを搬送した後、次の1バンド分の画像を形成する。このような動作を繰り返すことにより、全体の画像が記録される。記録された用紙Pは走査ローラ24とピンチロ−ラ28により搬送されながら排紙口14から排出される。用紙がロール紙のような連続紙の場合は、1頁分の画像を記録した後、その後端部をカッターで切断し、切り離された部分を排出する。
【0016】
図1は余白なし記録のときの余白なし凹部の状態を示す正面断面図である。図2は記録をしないときの余白なし凹部の状態を示す正面断面図である。図7はプラテンの用紙基準側端部の斜視図である。次に、余白なし凹部の構成について、用紙基準側の余白なし凹部を例に挙げて説明する。図6および図7中のHPは、プラテン30上の用紙の基準側端部(もしくは基準面)の位置を示す。プラテン30上の用紙Pは吸引孔30bに作用する負圧吸引力によってプラテン30の通紙面に吸着されており、用紙Pの基準側端部は余白なし凹部30cHP上に位置している。なお、用紙Pの基準側と反対側(非基準側)の端部における余白なし凹部は、基準側端部の余白なし凹部30cHPと左右対称であるが、構成自体は同じである。本実施形態では、大きな幅の用紙の非基準側端部に対応する余白なし凹部30cLと小さい幅の用紙の非基準側端部に対応する余白なし凹部30cSが設けられている。そして、これらの余白なし凹部30cL、30cSは以下に説明する余白なし凹部30cHPと左右対称であるが、同じ構成を有しており、それらの動作および作用も以下に説明する余白なし凹部30cHPと同じである。
【0017】
図1および図2において、余白なし凹部30cHPには、用紙の端部をはみ出して吐出されるインクを受けるためのインク着弾部151を有する可動部材102と、可動部材102を移動させるための伝動機構103とが設けられている。可動部材102は、その内側の端部を軸110で支持することにより、プラテン30に対し回動可能に取り付けられている。可動部材102の上面には、用紙の端部をはみ出して吐出されるインクを着弾させるためのインク着弾部151が形成されている。伝動機構103は、可動部材102の下に配され、矢印L方向および矢印K方向に移動可能に支持されるとともに、連結部153を介して可動部材102に連結されている。可動部材102は弾性部材104aを介して余白なし凹部内に支持されており、伝動機構103は弾性部材104b、104cを介して余白なし凹部内に支持されている。これらの弾性部材は、ゴム状弾性体もしくはバネ部材で構成することができる。
【0018】
プラテン30の下側には排気孔113を通して不図示の吸引ファンに接続された第1のダクト500と排気孔114を通して不図示の吸引ファンに接続された第2のダクト501(図10)が構成されている。プラテン30の各吸引孔30bはダクト500、501に連通している。上記吸引ファン、ダクト500、501、吸引孔30bによって、用紙をプラテン30に吸着させるための負圧吸引力を発生する吸引手段が構成されている。そして、伝動機構103の伝動部材103aの一端部は通孔155を通してダクト500へ突出している。このため、伝動機構103は、ダクト500内の負圧吸引力が一定値以上になると弾性部材104b、104cの弾性力に抗してダクト500内へ移動する(図1中の矢印L)。一定値以下になると弾性部材104b、104cの復元力により余白なし凹部30cHP内へ戻される(図2中の矢印K)。
【0019】
図1の余白なし記録のときは、記録ヘッド44はプラテン30に吸着された用紙Pの端部を記録している。ダクト500、501内の空気は排気孔113、114から吸引ファン等により排気される。このとき、用紙Pが存在するダクト500の内部の負圧吸引力が強くなる。ダクト500内の吸引負圧が強くなると、伝動機構103が矢印L方向に移動し、支持部153を介して可動部材102を矢印F方向に押し上げる。これにより、可動部材102が弾性部材104aに抗して図示の水平位置に回動し、可動部材102上のインク着弾部151は記録ヘッド44からの距離が小さい第1の位置Mに移動する。この第1の位置Mでは、インク着弾部151は余白なし記録のインクを着弾させるのに好適な姿勢をしている。
【0020】
次に、図2を用いて、記録をしないときの余白なし凹部30cHの状態を示す説明する。記録をしないとき、あるいは記録終了後では、プラテン30上に用紙が存在しないため、吸引孔30bが開放され、ダクト500の内部の負圧吸引力が低下する(弱くなる)。そのため、伝動機構103は、弾性部材104b、104cの復元力により矢印K方向に戻される。これにより支持部153が下降し、可動部材102が弾性部材104aの復元力により軸110を中心に時計方向に回動させられ、可動部材102上のインク着弾部151は矢印J方向に下降して記録ヘッド44からの距離が大きい第2の位置Nに移動する。この第2の位置Nでは、インク着弾部151は先端が下降した傾斜面となる。このため、着弾したインク101を自重によりインク着弾部151から流出させて落下させ、余白なし凹部30cHPの下方から排出することができる。つまり、第2の位置Nはインクを排出する位置である。
【0021】
図8はプラテン30上に用紙がない状態で記録ヘッドから余白なし凹部30cHPへインクを吐出する状態を示す正面断面図である。図8の状態は、記録ヘッド44から記録を目的としないインクを余白なし凹部に吐出するときに相当し、例えば、インク着弾部151に固着したインクを流動化させて排出したり、吐出口内のインクをリフレッシュするための予備吐出に相当する。ここでは、前者について説明する。図8において、インク着弾部151に着弾したインク101は記録をしないときに水分等の蒸発により増粘して固着することがある。その場合、インク着弾部151が第2の位置Nにある状態で、記録ヘッド44を余白なし凹部30cHP上へ移動させてインクを吐出する。すると、吐出インク108によって固着インク101aが流動化され、これを吐出インク108と共に傾斜したインク着弾部151から洗い落として排出することができる。さらに、傾斜した第2の位置Nにある可動部材102の上面をメカ的に拭き取ることにより、インク着弾部151に付着したインクを一層容易に除去することができる。
【0022】
図9は幅が大きい用紙に記録を行うときのプラテンの平面図である。図10は幅が大きい用紙に記録を行うときのプラテンの正面断面図である。図11は幅が小さい用紙に記録を行うときのプラテンの平面図である。図12は幅が小さい用紙に記録を行うときのプラテンの正面断面図である。図13は記録を行わないときのプラテンの正面断面図である。図9ないし図13を用いて、用紙Pの幅が異なる場合の複数の余白なし凹部の構成および動作について説明する。プラテン30上には、用紙の基準側端部の位置に余白なし凹部30cHPが、幅が小さい用紙の非基準側端部の位置に余白なし凹部30cSが、幅が大きい用紙の非基準側端部の位置に余白なし凹部30cLが、それぞれ設けられている。プラテン30の下側であってこれらの余白なし凹部の間に対応する位置に密閉空間からなるダクト500およびダクト501が設けられており、各ダクトは排気孔113および排気孔114を通して不図示の吸引ファンに接続されている。プラテン30上の用紙は、所定配列で形成された吸引孔30bにより吸引され、通紙面に吸着されている。
【0023】
幅が大きい用紙に記録する場合は、用紙基準側のダクト500および非基準側のダクト501の内部に生じる吸引負圧はいずれもPHとなる。そして、3箇所の余白なし凹部30cHP、30cS、30cLでインク着弾部151は上昇して水平な第1の位置Mにある。これらを第1の位置Mに移動させるためには、各ダクト内の負圧吸引力によって各余白なし凹部の伝動機構103を移動させるための駆動力Fcが必要である。そこで、ダクト500、501の負圧吸引力PHと伝動機構103の駆動力Fcの強さ関係は、弾性部材104a、104b、104c等によりPH>Fcになるように設定される。この設定は、ダクトの排気孔113、114からの吸引量を不図示の吸引ファンにより調整して行うことも可能である。この場合、ダクトの吸引負圧PHは、例えば500Paないし400Pa程度である。こうして、各余白なし凹部とも、伝動機構103が吸引され、インク着弾部151はインクを着弾させるのに好適な上昇して水平な第1の位置Mに保持される。
【0024】
幅が小さい用紙に記録する場合は、用紙は余白なし凹部30cHPと余白なし凹部30cSとの間の吸引孔30bによりプラテン30に吸着されており、ダクト500の内部の負圧吸引力はPHとなる。一方、用紙が存在しない領域では吸引孔30bが開放されているため、非基準側のダクト501の内部の負圧吸引力P0は小さな値となる。つまり、負圧吸引力の強さはPH>P0である。そして、インク着弾部151を第1の位置Mへ移動させるための力Fcの強さは、弾性部材104a、104b、104c等により、PH>Fc>P0の関係となるように設定される。この関係は、ダクトの排気孔113もしくは114からの吸引量を不図示の吸引ファンにより調整して設定することも可能である。こうして、幅が小さい用紙に記録する場合は、用紙基準側端部の余白なし凹部30cHPと幅が小さい用紙の非基準側端部の余白なし凹部30cSとにおいて、伝動機構103が吸引される。これによって、インク着弾部151が記録ヘッド44に接近した第1の位置Mに移動させられる。また、幅が大きい用紙の非基準側端部の余白なし凹部30cLでは、インク着弾部151は移動することなく記録ヘッド120から離れて傾斜した第2の位置Nに保持されたままである。
【0025】
記録を行わない場合はプラテン30上に用紙が存在しないので、各排気孔113、114からの吸引の有無に関係なく、各ダクト500、501の負圧吸引力は弱く、P0以下となっている。従って、全ての余白なし凹部30cHP、30cS、30cLにおいて、伝動機構103は吸引されることがなく、インク着弾部151は傾斜したインク排出位置(第2の位置)Nに保持される。
【0026】
以上説明した実施形態によれば、専用の駆動機構を必要とせず、用紙の幅に応じて必要な余白なし凹部のみでインク着弾部151を記録ヘッド44に近く、インクを着弾させるのに好適な第1の位置Mに移動させることができる。同時に、使用されない余白なし凹部では、インク着弾部151を傾斜してインクを排出することが可能な第2の位置Nに移動させることができる。従って、余白なし記録の際に余白なし凹部で発生するインクミストを低減するとともに、余白なし凹部におけるインクの堆積を防ぐことができ、高品位の余白なし記録が可能なインクジェット記録装置が提供される。
【0027】
以上の実施形態では、用紙として連続紙であるロール紙を使用する場合を例に挙げたが、本発明は、自動給紙または手差しで供給されるカット紙など、他の形態の用紙および給紙装置を使用する場合にも同様に適用可能である。また、本発明は、用紙のサイズ、余白なし凹部の数、記録ヘッドの数、使用するインクの種類や性状、記録媒体である用紙の材質などに関わらず同様に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】余白なし記録のときの余白なし凹部の状態を示す正面断面図である。
【図2】記録をしないときの余白なし凹部の状態を示す正面断面図である。
【図3】一実施形態に係るインクジェット記録装置の正面斜視図である。
【図4】一実施形態に係るインクジェット記録装置の背面斜視図である。
【図5】一実施形態に係るインクジェット記録装置の内部の斜視図である。
【図6】図5のプラテンおよびその周辺部の拡大斜視図である。
【図7】プラテンの用紙基準側端部の斜視図である。
【図8】用紙がないときに記録ヘッドから余白なし凹部へインクを吐出する状態を示す正面断面図である。
【図9】幅が大きい用紙に記録を行うときのプラテンの平面図である。
【図10】幅が大きい用紙に記録を行うときのプラテンの正面断面図である。
【図11】幅が小さい用紙に記録を行うときのプラテンの平面図である。
【図12】幅が小さい用紙に記録を行うときのプラテンの正面断面図である。
【図13】記録を行わないときのプラテンの正面断面図である。
【符号の説明】
【0029】
30 プラテン
30b 吸引孔
30cHP、30cS、30cL 余白なし凹部
40 キャリッジ
44 記録ヘッド
102 可動部材
103 伝動部材
104a、104b、104c 弾性部材
113、114 排気孔
151 インク着弾部
500、501 ダクト
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録ヘッドから用紙へインクを吐出して記録を行うインクジェット記録装置に関し、特に、余白なし記録ではみ出したインクを受けるための余白なし凹部を有するプラテンに備えたインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プリンタ、複写機、ファクシミリ等の機能を有する記録装置、あるいはコンピュータ等を含む複合型機器やワークステーションの出力機器として用いられる記録装置は、画像情報に基づいて記録ヘッドにより用紙に画像を記録していく。記録装置の一形態に、記録ヘッドに設けられた吐出口から用紙へインクを吐出して記録を行うインクジェット記録装置がある。記録装置では、記録ヘッドと対向する位置に用紙を支持するための通紙面を形成するプラテンが配されている。インクジェット記録装置の場合、記録ヘッドと用紙との間にインク滴を飛翔させるための距離が必要であり、インク滴を用紙上の正確な位置に着弾させるためにこの距離を適正値に管理することを要請される。
【0003】
インクジェット記録装置においては、プラテンの通紙面に配した吸引孔に負圧を作用させて用紙を吸着させることにより、用紙の浮き上がりを防止して記録ヘッドと用紙との距離を一定つようにした吸引プラテンが使用されている。また、用紙の各辺の端部に余白を設ける通常の記録の他に、余白を設けない余白なし記録も行われている。そして、余白なし記録を行う場合、用紙の端部に対応するプラテン上の位置に、端部をはみ出して吐出されたインクを受けるための余白なし凹部が設設けられる。一般に、余白なし凹部の内部には、インクを着弾させるためのインク着弾部が設けられる。特許文献1には、かかるインク着弾部をインク吸収材で形成することが記載されている。
【0004】
また、用紙の裏面とインク着弾部との間には、接触によるインク汚れを防止するために一定の隙間が設けられている。しかし、インクがインク着弾部に堆積してしまい、これが用紙の裏面に接触する現象が生じることがある。かかる現象は、特に、発色性や色再現性を向上させるために粘性を高めたインクを使用する場合に発生しやすい。そこで、インク着弾部を傾斜面にしてインク流出させることでインクの堆積を回避する構成が特許文献2に開示されている。
【特許文献1】特開2000−118058号公報
【特許文献2】特開2006−231612号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、インクジェット記録装置では、記録ヘッドから吐出されたインクが着弾するまでの距離が大きいほど、インクミスト(浮遊インク)の量が増加し、周辺部にインク汚れが生じやすくなるという傾向がある。このため、上述の余白なし凹部のインク着弾部を傾斜させる構成では、インクが着弾するまでの距離を小さくすることができず、インクミストを一定以下に低減できないという課題があった。
【0006】
本発明はこのような技術的課題に鑑みてなされたものである。本発明の目的は、余白なし凹部で発生するインクミストを低減するとともに、余白なし凹部におけるインクの堆積を防ぐことができるインクジェット記録装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、記録ヘッドから用紙へインクを吐出して記録を行うインクジェット記録装置において、記録ヘッドと対向する位置で用紙を支持するプラテンに、余白なし記録の際に用紙をはみ出して吐出されるインクを受けるための余白なし凹部を設けるとともに、インクを着弾させるためのインク着弾部を前記余白なし凹部に設け、前記インク着弾部は、用紙に記録するときに記録ヘッドからの距離が小さい第1の位置に移動し、記録を行わないときに記録ヘッドからの距離が大きくかつ傾斜面を形成する第2の位置に移動することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、余白なし凹部で発生するインクミストを低減するとともに、余白なし凹部におけるインクの堆積を防ぐことができるインクジェット記録装置が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を具体的に説明する。なお、各図面を通して同一符号は同一または対応部分を示すものである。図3は一実施形態に係るインクジェット記録装置の正面斜視図である。図4は一実施形態に係るインクジェット記録装置の背面斜視図である。図3および図4において、インクジェット記録装置10は、操作部12に配置された各種のスイッチ等により、オンライン・オフラインおよびコマンドなどが指示される。記録媒体としての用紙は、記録装置10の内部で記録された後、排紙口14から矢印A方向に排出される。記録装置10の幅方向一端部にはインクタンクユニット16が装着されている。装置本体には、装置の内部にアクセスするための開閉可能なカバー18が取り付けられている。記録装置の背面には、用紙を挿入するための挿入口20が形成されている。挿入口20には、装置の内部へ用紙を案内するための給紙ガイド22が取り付けられている。本実施形態では、用紙として、ロール状に巻回されたロール紙Pが使用されており、その挿入方向を矢印Bで示す。
【0010】
図5は一実施形態に係るインクジェット記録装置の内部の斜視図である。図6は図5のプラテンおよびその周辺部の拡大斜視図である。次に、図3〜図6を用いて、用紙の搬送経路および記録動作(画像形成)の工程などを説明する。記録装置10では、所定寸法のカット紙およびロ−ル状に巻かれたロール紙のいずれも使用することができる。ここでは、用紙が挿入口20から挿入されるロ−ル紙Pである場合を説明するが、自動給紙や手差しで給送されるカット紙の場合も同様である。
【0011】
ロール紙Pの先端を矢印B方向から挿入口20に挿入する。挿入されたロール紙Pは給紙ガイド22に案内され、走査ローラ24とピンチローラ28のニップに送り込まれる。ピンチローラ28はピンチローラアーム26に軸支され、走査ローラ24に従動回転可能に押圧されている。用紙Pは走査ローラ24の回転によりプラテン30の画像形成部30aに搬送される。プラテン30の画像形成部30aには多数の吸引孔30bが所定の配列で形成されている。全ての吸引孔30bは、プラテン30の下側に形成された密閉空間からなる不図示のダクトを介して、不図示の吸引ファンに接続されている。記録するとき、吸引ファンを作動させることにより、吸引孔30bを通して画像形成部30a上にある用紙Pを吸引し、用紙Pが画像形成部30aから浮かないようにしている。用紙Pは、記録された後、走査ローラ24とピンチローラ28に狭持されながらさらに搬送され、装置前面の排紙口14から矢印A方向に排出される。
【0012】
記録装置には、両矢印C方向に往復移動するキャリッジ40が設けられている。キャリッジ40はヘッドホルダ42を備えており、ヘッドホルダ42には記録ヘッド44が着脱自在に装着されている。プラテン30は記録ヘッド44と対向する位置で用紙を支持するように配されている。記録ヘッド44は、画像情報に基づいて吐出口から用紙にインクを吐出して記録を行うインクジェット記録ヘッドであり、記録ヘッド44と用紙との間には所定の隙間(インク滴の飛翔空間)が設けられている。記録ヘッド44に対しては、インクタンクユニット16からチューブ48を通してインクが供給される。記録装置10はカラー画像を記録可能であり、インクタンクユニット16からは、ブラック、シアン、マゼンタ、イエロー、淡シアン、淡マゼンタの6色のインクが供給可能であり、記録ヘッド44には各インク色ごとのインク吐出部が設けられている。また、記録装置10は、用紙の端部に余白なし記録を行うことができる。このため、プラテン30には、余白なし記録の際に用紙をはみ出して吐出されたインクを受けるための余白なし凹部30cHP、30cS、30cLが設けられている。これらの余白なし凹部は、多数の吸引孔30bとともに、画像形成部30aに形成されている。
【0013】
余白なし凹部30cHPは、用紙Pの基準側の端縁HPを跨ぐ位置に形成されており、用紙の幅サイズにかかわらず一端部HPをはみ出して吐出されるインクを受ける。余白なし凹部30cSは、幅が小さい用紙の他端部をはみ出して吐出されるインクを受けるものであり、余白なし凹部30cLは、幅が大きい用紙の他端部をはみ出して吐出されるインクを受けるものである。キャリッジ40は2本の案内レール54に沿って両矢印C方向に往復移動可能に支持されており、キャリッジ40の移動はキャリッジモータ50によりベルト52を介して駆動される。装置本体にはキャリッジ40の移動方向に沿ってリニアエンコーダスケール56が張架されている。一方、キャリッジ40には、光学または磁気を利用してリニアエンコーダスケール56を読み取るためのセンサ(不図示)が搭載されており、これによりキャリッジ40の位置を検出する。
【0014】
キャリッジ40には、プラテン30に支持された用紙Pの幅方向の端部を検出するための紙端センサ58が搭載されている。紙端センサ58としては、例えば、プラテン30に光を照射し、その反射光によって用紙Pの有無を判定するセンサが使用される。用紙Pが存在するときにキャリッジ40を移動させることにより紙端センサ58で紙端を検出し、このときのキャリッジ40の位置から用紙Pの位置および幅が検出される。
【0015】
用紙Pはキャリッジ40の移動方向と交差する方向に断続的に搬送される。用紙Pをプラテン30上で一時停止させ、キャリッジ40を往復移動させながら記録ヘッド44からインクを吐出することにより、用紙Pの画像形成部30a上の1バンド分の画像を形成する。次いで、所定距離だけ用紙Pを搬送した後、次の1バンド分の画像を形成する。このような動作を繰り返すことにより、全体の画像が記録される。記録された用紙Pは走査ローラ24とピンチロ−ラ28により搬送されながら排紙口14から排出される。用紙がロール紙のような連続紙の場合は、1頁分の画像を記録した後、その後端部をカッターで切断し、切り離された部分を排出する。
【0016】
図1は余白なし記録のときの余白なし凹部の状態を示す正面断面図である。図2は記録をしないときの余白なし凹部の状態を示す正面断面図である。図7はプラテンの用紙基準側端部の斜視図である。次に、余白なし凹部の構成について、用紙基準側の余白なし凹部を例に挙げて説明する。図6および図7中のHPは、プラテン30上の用紙の基準側端部(もしくは基準面)の位置を示す。プラテン30上の用紙Pは吸引孔30bに作用する負圧吸引力によってプラテン30の通紙面に吸着されており、用紙Pの基準側端部は余白なし凹部30cHP上に位置している。なお、用紙Pの基準側と反対側(非基準側)の端部における余白なし凹部は、基準側端部の余白なし凹部30cHPと左右対称であるが、構成自体は同じである。本実施形態では、大きな幅の用紙の非基準側端部に対応する余白なし凹部30cLと小さい幅の用紙の非基準側端部に対応する余白なし凹部30cSが設けられている。そして、これらの余白なし凹部30cL、30cSは以下に説明する余白なし凹部30cHPと左右対称であるが、同じ構成を有しており、それらの動作および作用も以下に説明する余白なし凹部30cHPと同じである。
【0017】
図1および図2において、余白なし凹部30cHPには、用紙の端部をはみ出して吐出されるインクを受けるためのインク着弾部151を有する可動部材102と、可動部材102を移動させるための伝動機構103とが設けられている。可動部材102は、その内側の端部を軸110で支持することにより、プラテン30に対し回動可能に取り付けられている。可動部材102の上面には、用紙の端部をはみ出して吐出されるインクを着弾させるためのインク着弾部151が形成されている。伝動機構103は、可動部材102の下に配され、矢印L方向および矢印K方向に移動可能に支持されるとともに、連結部153を介して可動部材102に連結されている。可動部材102は弾性部材104aを介して余白なし凹部内に支持されており、伝動機構103は弾性部材104b、104cを介して余白なし凹部内に支持されている。これらの弾性部材は、ゴム状弾性体もしくはバネ部材で構成することができる。
【0018】
プラテン30の下側には排気孔113を通して不図示の吸引ファンに接続された第1のダクト500と排気孔114を通して不図示の吸引ファンに接続された第2のダクト501(図10)が構成されている。プラテン30の各吸引孔30bはダクト500、501に連通している。上記吸引ファン、ダクト500、501、吸引孔30bによって、用紙をプラテン30に吸着させるための負圧吸引力を発生する吸引手段が構成されている。そして、伝動機構103の伝動部材103aの一端部は通孔155を通してダクト500へ突出している。このため、伝動機構103は、ダクト500内の負圧吸引力が一定値以上になると弾性部材104b、104cの弾性力に抗してダクト500内へ移動する(図1中の矢印L)。一定値以下になると弾性部材104b、104cの復元力により余白なし凹部30cHP内へ戻される(図2中の矢印K)。
【0019】
図1の余白なし記録のときは、記録ヘッド44はプラテン30に吸着された用紙Pの端部を記録している。ダクト500、501内の空気は排気孔113、114から吸引ファン等により排気される。このとき、用紙Pが存在するダクト500の内部の負圧吸引力が強くなる。ダクト500内の吸引負圧が強くなると、伝動機構103が矢印L方向に移動し、支持部153を介して可動部材102を矢印F方向に押し上げる。これにより、可動部材102が弾性部材104aに抗して図示の水平位置に回動し、可動部材102上のインク着弾部151は記録ヘッド44からの距離が小さい第1の位置Mに移動する。この第1の位置Mでは、インク着弾部151は余白なし記録のインクを着弾させるのに好適な姿勢をしている。
【0020】
次に、図2を用いて、記録をしないときの余白なし凹部30cHの状態を示す説明する。記録をしないとき、あるいは記録終了後では、プラテン30上に用紙が存在しないため、吸引孔30bが開放され、ダクト500の内部の負圧吸引力が低下する(弱くなる)。そのため、伝動機構103は、弾性部材104b、104cの復元力により矢印K方向に戻される。これにより支持部153が下降し、可動部材102が弾性部材104aの復元力により軸110を中心に時計方向に回動させられ、可動部材102上のインク着弾部151は矢印J方向に下降して記録ヘッド44からの距離が大きい第2の位置Nに移動する。この第2の位置Nでは、インク着弾部151は先端が下降した傾斜面となる。このため、着弾したインク101を自重によりインク着弾部151から流出させて落下させ、余白なし凹部30cHPの下方から排出することができる。つまり、第2の位置Nはインクを排出する位置である。
【0021】
図8はプラテン30上に用紙がない状態で記録ヘッドから余白なし凹部30cHPへインクを吐出する状態を示す正面断面図である。図8の状態は、記録ヘッド44から記録を目的としないインクを余白なし凹部に吐出するときに相当し、例えば、インク着弾部151に固着したインクを流動化させて排出したり、吐出口内のインクをリフレッシュするための予備吐出に相当する。ここでは、前者について説明する。図8において、インク着弾部151に着弾したインク101は記録をしないときに水分等の蒸発により増粘して固着することがある。その場合、インク着弾部151が第2の位置Nにある状態で、記録ヘッド44を余白なし凹部30cHP上へ移動させてインクを吐出する。すると、吐出インク108によって固着インク101aが流動化され、これを吐出インク108と共に傾斜したインク着弾部151から洗い落として排出することができる。さらに、傾斜した第2の位置Nにある可動部材102の上面をメカ的に拭き取ることにより、インク着弾部151に付着したインクを一層容易に除去することができる。
【0022】
図9は幅が大きい用紙に記録を行うときのプラテンの平面図である。図10は幅が大きい用紙に記録を行うときのプラテンの正面断面図である。図11は幅が小さい用紙に記録を行うときのプラテンの平面図である。図12は幅が小さい用紙に記録を行うときのプラテンの正面断面図である。図13は記録を行わないときのプラテンの正面断面図である。図9ないし図13を用いて、用紙Pの幅が異なる場合の複数の余白なし凹部の構成および動作について説明する。プラテン30上には、用紙の基準側端部の位置に余白なし凹部30cHPが、幅が小さい用紙の非基準側端部の位置に余白なし凹部30cSが、幅が大きい用紙の非基準側端部の位置に余白なし凹部30cLが、それぞれ設けられている。プラテン30の下側であってこれらの余白なし凹部の間に対応する位置に密閉空間からなるダクト500およびダクト501が設けられており、各ダクトは排気孔113および排気孔114を通して不図示の吸引ファンに接続されている。プラテン30上の用紙は、所定配列で形成された吸引孔30bにより吸引され、通紙面に吸着されている。
【0023】
幅が大きい用紙に記録する場合は、用紙基準側のダクト500および非基準側のダクト501の内部に生じる吸引負圧はいずれもPHとなる。そして、3箇所の余白なし凹部30cHP、30cS、30cLでインク着弾部151は上昇して水平な第1の位置Mにある。これらを第1の位置Mに移動させるためには、各ダクト内の負圧吸引力によって各余白なし凹部の伝動機構103を移動させるための駆動力Fcが必要である。そこで、ダクト500、501の負圧吸引力PHと伝動機構103の駆動力Fcの強さ関係は、弾性部材104a、104b、104c等によりPH>Fcになるように設定される。この設定は、ダクトの排気孔113、114からの吸引量を不図示の吸引ファンにより調整して行うことも可能である。この場合、ダクトの吸引負圧PHは、例えば500Paないし400Pa程度である。こうして、各余白なし凹部とも、伝動機構103が吸引され、インク着弾部151はインクを着弾させるのに好適な上昇して水平な第1の位置Mに保持される。
【0024】
幅が小さい用紙に記録する場合は、用紙は余白なし凹部30cHPと余白なし凹部30cSとの間の吸引孔30bによりプラテン30に吸着されており、ダクト500の内部の負圧吸引力はPHとなる。一方、用紙が存在しない領域では吸引孔30bが開放されているため、非基準側のダクト501の内部の負圧吸引力P0は小さな値となる。つまり、負圧吸引力の強さはPH>P0である。そして、インク着弾部151を第1の位置Mへ移動させるための力Fcの強さは、弾性部材104a、104b、104c等により、PH>Fc>P0の関係となるように設定される。この関係は、ダクトの排気孔113もしくは114からの吸引量を不図示の吸引ファンにより調整して設定することも可能である。こうして、幅が小さい用紙に記録する場合は、用紙基準側端部の余白なし凹部30cHPと幅が小さい用紙の非基準側端部の余白なし凹部30cSとにおいて、伝動機構103が吸引される。これによって、インク着弾部151が記録ヘッド44に接近した第1の位置Mに移動させられる。また、幅が大きい用紙の非基準側端部の余白なし凹部30cLでは、インク着弾部151は移動することなく記録ヘッド120から離れて傾斜した第2の位置Nに保持されたままである。
【0025】
記録を行わない場合はプラテン30上に用紙が存在しないので、各排気孔113、114からの吸引の有無に関係なく、各ダクト500、501の負圧吸引力は弱く、P0以下となっている。従って、全ての余白なし凹部30cHP、30cS、30cLにおいて、伝動機構103は吸引されることがなく、インク着弾部151は傾斜したインク排出位置(第2の位置)Nに保持される。
【0026】
以上説明した実施形態によれば、専用の駆動機構を必要とせず、用紙の幅に応じて必要な余白なし凹部のみでインク着弾部151を記録ヘッド44に近く、インクを着弾させるのに好適な第1の位置Mに移動させることができる。同時に、使用されない余白なし凹部では、インク着弾部151を傾斜してインクを排出することが可能な第2の位置Nに移動させることができる。従って、余白なし記録の際に余白なし凹部で発生するインクミストを低減するとともに、余白なし凹部におけるインクの堆積を防ぐことができ、高品位の余白なし記録が可能なインクジェット記録装置が提供される。
【0027】
以上の実施形態では、用紙として連続紙であるロール紙を使用する場合を例に挙げたが、本発明は、自動給紙または手差しで供給されるカット紙など、他の形態の用紙および給紙装置を使用する場合にも同様に適用可能である。また、本発明は、用紙のサイズ、余白なし凹部の数、記録ヘッドの数、使用するインクの種類や性状、記録媒体である用紙の材質などに関わらず同様に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】余白なし記録のときの余白なし凹部の状態を示す正面断面図である。
【図2】記録をしないときの余白なし凹部の状態を示す正面断面図である。
【図3】一実施形態に係るインクジェット記録装置の正面斜視図である。
【図4】一実施形態に係るインクジェット記録装置の背面斜視図である。
【図5】一実施形態に係るインクジェット記録装置の内部の斜視図である。
【図6】図5のプラテンおよびその周辺部の拡大斜視図である。
【図7】プラテンの用紙基準側端部の斜視図である。
【図8】用紙がないときに記録ヘッドから余白なし凹部へインクを吐出する状態を示す正面断面図である。
【図9】幅が大きい用紙に記録を行うときのプラテンの平面図である。
【図10】幅が大きい用紙に記録を行うときのプラテンの正面断面図である。
【図11】幅が小さい用紙に記録を行うときのプラテンの平面図である。
【図12】幅が小さい用紙に記録を行うときのプラテンの正面断面図である。
【図13】記録を行わないときのプラテンの正面断面図である。
【符号の説明】
【0029】
30 プラテン
30b 吸引孔
30cHP、30cS、30cL 余白なし凹部
40 キャリッジ
44 記録ヘッド
102 可動部材
103 伝動部材
104a、104b、104c 弾性部材
113、114 排気孔
151 インク着弾部
500、501 ダクト
【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録ヘッドから用紙へインクを吐出して記録を行うインクジェット記録装置において、 記録ヘッドと対向する位置で用紙を支持するプラテンに、余白なし記録の際に用紙をはみ出して吐出されるインクを受けるための余白なし凹部を設けるとともに、インクを着弾させるためのインク着弾部を前記余白なし凹部に設け、
前記インク着弾部は、用紙に記録するときに記録ヘッドからの距離が小さい第1の位置に移動し、記録を行わないときに記録ヘッドからの距離が大きくかつ傾斜面を形成する第2の位置に移動することを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記インク着弾部に着弾したインクは、記録を行わないときに前記傾斜面から排出されることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記インク着弾部に着弾したインクを、記録を行わないときに前記記録ヘッドから吐出されて着弾したインクとともに前記傾斜面から排出することを特徴とする請求項2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
用紙を前記プラテンに吸着させるための負圧吸引力を発生する吸引手段と、前記負圧吸引力の強さに応じて前記インク着弾部を移動させるための伝動機構と、を備えることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
前記伝動機構は、前記プラテン上に用紙が存在するときに前記インク着弾部を前記第1の位置に移動させ、前記プラテン上に用紙が存在しないときに前記インク着弾部を前記第2の位置に移動させることを特徴とする請求項4に記載のインクジェット記録装置。
【請求項6】
前記伝動機構は、前記プラテン上に用紙が存在しないときに弾性部材により前記第2の位置に保持され、前記プラテン上に用紙が存在するときに前記負圧吸引力により前記弾性部材に抗して前記伝動機構を前記第1の位置に移動させることを特徴とする請求項5に記載のインクジェット記録装置。
【請求項1】
記録ヘッドから用紙へインクを吐出して記録を行うインクジェット記録装置において、 記録ヘッドと対向する位置で用紙を支持するプラテンに、余白なし記録の際に用紙をはみ出して吐出されるインクを受けるための余白なし凹部を設けるとともに、インクを着弾させるためのインク着弾部を前記余白なし凹部に設け、
前記インク着弾部は、用紙に記録するときに記録ヘッドからの距離が小さい第1の位置に移動し、記録を行わないときに記録ヘッドからの距離が大きくかつ傾斜面を形成する第2の位置に移動することを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記インク着弾部に着弾したインクは、記録を行わないときに前記傾斜面から排出されることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記インク着弾部に着弾したインクを、記録を行わないときに前記記録ヘッドから吐出されて着弾したインクとともに前記傾斜面から排出することを特徴とする請求項2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
用紙を前記プラテンに吸着させるための負圧吸引力を発生する吸引手段と、前記負圧吸引力の強さに応じて前記インク着弾部を移動させるための伝動機構と、を備えることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
前記伝動機構は、前記プラテン上に用紙が存在するときに前記インク着弾部を前記第1の位置に移動させ、前記プラテン上に用紙が存在しないときに前記インク着弾部を前記第2の位置に移動させることを特徴とする請求項4に記載のインクジェット記録装置。
【請求項6】
前記伝動機構は、前記プラテン上に用紙が存在しないときに弾性部材により前記第2の位置に保持され、前記プラテン上に用紙が存在するときに前記負圧吸引力により前記弾性部材に抗して前記伝動機構を前記第1の位置に移動させることを特徴とする請求項5に記載のインクジェット記録装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2010−52265(P2010−52265A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−219423(P2008−219423)
【出願日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
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