説明

インクジェット記録装置

【課題】ワイパー部材に付着して増粘したインクが記録ヘッドのノズル面に再付着するのを抑制できるインクジェット記録装置を提供する。
【解決手段】インクジェット記録装置1は、複数のノズルが形成されたノズル面31を有する記録ヘッド30と、ノズル面31に沿う方向に記録ヘッド30に対して相対移動してノズル面31のクリーニングを行うワイパー部材41と、前記クリーニングによってインクが付着したワイパー部材41に、沸点200℃以上、溶解度パラメータ9.5以上13.7以下の水溶性有機溶剤を接触させてワイパー部材41から前記インクを除去可能なインク除去手段と、を備えている。インク除去手段は、ワイパーケース40、ワイパー回動駆動機構45、及び多孔質部材71を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノズルからインクを吐出して、用紙などの記録媒体上に記録を行うインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置における記録ヘッドは、インクを吐出する複数のノズルが形成されたノズル面を有する。このノズル面においては、ノズル付近に付着したインクや塵埃等の異物によりインクが吐出されにくくなったり、インクの吐出方向が変化したりすることを防止するために、クリーニングが行われる。
【0003】
ノズル面のクリーニングに関して、ワイパー部材によりノズル面のクリーニング(拭き掃除)を行い、ノズル面に付着したインクを除去する技術が知られている。ノズル面のクリーニングの後には、ワイパー部材にインクが付着している。インクが付着した状態でワイパー部材を放置すると、インクが増粘する(粘度が増加する)。増粘したインクが付着した状態で、ワイパー部材によりノズル面のクリーニングを再度行うと、ワイパー部材に付着し増粘しているインクが記録ヘッドに再付着して、インクの吐出が乱れやすい。このようなインクの増粘に起因する吐出の乱れを防止するために、ワイパー部材に付着したインクを除去することが一般に行われている。
【0004】
特許文献1には、記録ヘッドに取り付けたインク吸収体により、増粘したインクを記録ヘッドから除去する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−216496号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、ワイパー部材からインクを完全に除去することは困難であり、少量のインクが膜状となってワイパー部材に残存し、その残存した少量のインクが更に増粘し、乾燥する。このようなインクの増粘や乾燥が繰り返し発生すると、ワイパー部材には、増粘又は乾燥したインクが多く付着した状態になる。この増粘したインクが記録ヘッドのノズル面に再付着すると、インクの吐出が乱れる原因となることがある。
【0007】
そこで、本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、ワイパー部材に付着して増粘したインクが記録ヘッドのノズル面に再付着するのを抑制できるインクジェット記録装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のインクジェット記録装置は、複数のノズルが形成されたノズル面を有する記録ヘッドと、前記ノズル面に沿う方向に前記記録ヘッドに対して相対移動して前記ノズル面のクリーニングを行うワイパー部材と、前記クリーニングによってインクが付着した前記ワイパー部材に、沸点200℃以上、溶解度パラメータ9.5以上13.7以下の水溶性有機溶剤を接触させて前記ワイパー部材から前記インクを除去可能なインク除去手段と、を備えている。
【0009】
この構成では、前記物性を有する水溶性有機溶剤(樹脂可溶化剤)をワイパー部材に接触させてワイパー部材に付着したインクを除去するので、除去後にワイパー部材にインクが残りにくい。前記物性を有する前記水溶性有機溶剤は、後述する実施例にも示されているように、インクの増粘を抑制する効果に優れている。言い換えると、前記水溶性有機溶剤は、インクの粘度を低下させる効果に優れている。したがって、ワイパー部材に付着したインクは、前記水溶性有機溶剤が接触すると粘度が低下して除去されやすくなる。これにより、ワイパー部材に残って増粘したインクがノズル面に再付着するのを抑制することができる。
【0010】
また、前記水溶性有機溶剤としては、例えば水溶性エーテル系溶剤又は水溶性ジオール系溶剤を用いることができる。
【0011】
また、前記インクが色材として顔料を含有する場合には、前記水溶性有機溶剤は、顔料分散体に含まれる樹脂(例えばスチレンアクリル樹脂など)との相溶性に優れている。
【0012】
また、前記記録ヘッドが、用紙の搬送方向に交わる方向に前記複数のノズルがライン状に配列されたラインヘッド型は、増粘しやすい状況に記録ヘッドが長時間放置されることが多く、インクが増粘しやすいので、本発明が効果的である。
【0013】
また、前記インク除去手段は、前記ワイパー部材を回動可能に支持する支持部材と、前記ワイパー部材により前記クリーニングが行われるクリーニング位置と前記クリーニングが行われないときに前記ワイパー部材を待機させる待機位置との間で前記ワイパー部材を回動させる駆動手段と、前記ワイパー部材の回動中に前記ワイパー部材が接触可能な位置に設けられ、前記水溶性有機溶剤が含浸された溶剤吸収体と、を有しているのが好ましい。
【0014】
この構成では、駆動手段によるワイパー部材の回動中にワイパー部材を溶剤吸収体に接触させることができる。このように簡単な構造で水溶性有機溶剤をワイパー部材に確実に接触させることができる。しかも、ワイパー部材を前記クリーニング位置から前記待機位置に回動させてワイパー部材を待機させるときにワイパー部材を溶剤吸収体に接触させることができるだけでなく、前記待機位置から前記クリーニング位置に回動させてワイパー部材を復帰させるときにもワイパー部材を溶剤吸収体に接触させることができる。
【0015】
また、前記支持部材が、前記ワイパー部材及び前記溶剤吸収体を収容する収容部、及び前記クリーニング時に前記ワイパー部材の少なくとも一部を前記収容部の外部に突出可能な開口部を有するワイパーケースである場合には、本発明のインクジェット記録装置は、前記クリーニングが行われないときに前記ワイパーケースの前記開口部を塞ぐワイパーキャップ部材をさらに備えているのが好ましい。
【0016】
この構成では、ワイパー部材を収容し支持するワイパーケースの開口部をワイパーキャップ部材によって塞ぐことができる。したがって、溶剤吸収体によりワイパー部材のインクが除去された後に、仮に、ワイパー部材にインクが残っていたとしても、ワイパー部材をワイパーケースとワイパーキャップ部材に囲まれた密閉空間に収容できるので、ワイパー部材に付着した前記インクが増粘するのを抑制することができる。また、前記クリーニングが行われないときには、前記溶剤吸収体も前記密閉空間に収容できるので、前記溶剤吸収体に付着しているインクの増粘を抑制できるとともに、水溶性有機溶剤の揮発を抑制することができる。
【0017】
また、本発明では、前記水溶性有機溶剤が貯留され、前記溶剤吸収体に前記水溶性有機溶剤を補給可能なカートリッジをさらに備えているのが好ましい。
【0018】
この構成では、カートリッジから溶剤吸収体に水溶性有機溶剤を補給することができる。また、このカートリッジが空になった場合には、別のカートリッジと交換するだけで継続的に溶剤吸収体に水溶性有機溶剤を補給することができる。
【発明の効果】
【0019】
以上説明したように、本発明によれば、ワイパー部材に付着して増粘したインクが記録ヘッドのノズル面に再付着するのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】第1実施形態のインクジェット記録装置の概要を模式的に示す平面図である。
【図2】第1実施形態のインクジェット記録装置の概要を模式的に示す右側面図である。
【図3】第1実施形態のインクジェット記録装置による記録時の状態の概要を模式的に示す正面図である。
【図4】第1実施形態におけるキャップユニットを示す平面図である。
【図5】第1実施形態におけるキャップユニットを示す右側面図である。
【図6】第1実施形態におけるキャップユニットを示す正面図である。
【図7】第1実施形態におけるクリーニングユニットのワイパー開口部をワイパーキャップ部材が塞いだ状態を示す縦断面図である。
【図8】第1実施形態におけるクリーニングユニットを第2方向Y2に視た縦断面図である。
【図9】第1実施形態におけるクリーニングユニットをZ方向に視た平面図である。
【図10】第1実施形態におけるクリーニングユニットのワイパー開口部からワイパーキャップ部材が離れた状態を示す縦断面図である。
【図11】第1実施形態におけるクリーニングユニットの移動範囲を示す平面図である。
【図12】第1実施形態におけるクリーニングユニットの移動範囲を示す右側面図である。
【図13】第1実施形態におけるクリーニングユニットが第1方向Y1へ往行移動して記録ヘッドのノズル面をクリーニングする過程を説明する右側面図である。
【図14】第1実施形態におけるクリーニングユニットが第2方向Y2へ復行移動して記録ヘッドのノズル面をクリーニングする過程を説明する右側面図である。
【図15】第1実施形態におけるキャップユニットの移動範囲を示す平面図である。
【図16】第1実施形態におけるキャップユニットの移動範囲を示す右側面図である。
【図17】第1実施形態におけるノズルキャップ部材が記録ヘッドのノズル面を覆った状態を示す正面図である。
【図18】第2実施形態におけるクリーニングユニットのワイパー開口部をワイパーキャップ部材が塞いだ状態を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
【0022】
<第1実施形態>
図1〜図3に示すように、本実施形態のインクジェット記録装置1は、搬送ユニット2と、ノズルユニット3と、クリーニングユニット4と、キャップユニット5と、ワイパーキャップ部材6とを、備えている。
【0023】
搬送ユニット2は、駆動ローラ20と、従動ローラ21と、駆動ローラ20及び従動ローラ21に掛け渡される搬送ベルト22と、搬送ベルト22のテンションを調整するテンションローラ23と、吸引ユニット24とを有している。搬送ベルト22には、吸引用の貫通孔(図示せず)が多数設けられている。搬送ベルト22の上面部分は、搬送面22Aを形成している。搬送ベルト22の搬送面22Aは、駆動ローラ20により、水平面内のX方向の一方から他方に向けて水平移動される。なお、X方向を「搬送方向X」ともいう。吸引ユニット24は、搬送ベルト22の搬送面22Aの下側(反対側)に配置される。
【0024】
図3に示すように、所定の記録時には、記録媒体としての記録用紙Tは、搬送ベルト22の搬送面22Aの上に、搬送方向Xの一方側から導入される。搬送面22Aには、吸引ユニット24の動作に伴って、前記吸引用の貫通孔(図示せず)を介して搬送ベルト22に作用する吸引力が生じている。搬送ベルト22の搬送面22A上に導入された記録用紙Tは、前記吸引力により搬送面22Aに吸着されて、搬送方向Xの他方側に向けて搬送される。このように搬送ベルト22の搬送面22Aに吸着された状態で搬送される記録用紙Tに向けて、後述するノズルユニット3のインク吐出用の記録ヘッド30から、インクが吐出されることにより、記録用紙Tに画像等が記録される(印刷される)。
【0025】
ノズルユニット3は、ノズルユニットベース部材32と、記録ヘッド30とを有している。ノズルユニットベース部材32は、記録ヘッド30を支持するベース部材である。
【0026】
記録ヘッド30は、ノズルユニットベース部材32に支持され、搬送方向Xに等間隔をあけて互いに平行な列状に、複数(本実施形態では4個)設けられている。記録ヘッド30は、水平面内で、搬送方向Xと直交する方向Y(以下「横方向」ともいう)に延びている。
【0027】
記録ヘッド30は、その下端部にノズル面31を有している。ノズル面31は、搬送ベルト22の搬送面22Aに対向している。ノズル面31には、インク吐出用ノズル(図示せず)の吐出口(図示せず)が形成されている。また、インク吐出用ノズルは、ノズル面31における横方向Yの略全域に亘って設けられている。なお、インク吐出用ノズルは、ノズル面31の周縁部には設けられていない。
【0028】
搬送ユニット2は、第1昇降機構(図示せず)により、ノズルユニット3に対して水平面に垂直な方向Z(以下「上下方向Z」ともいう)に昇降(移動)可能に構成されている。この上下方向Zへの搬送ユニット2の移動により、搬送ベルト22の搬送面22Aは、搬送面22Aに対向する記録ヘッド30のノズル面31に対して相対的に接近又は離間可能とされている。
【0029】
図2及び図4〜図6に示すように、キャップユニット5は、ノズルキャップ部材50と、軸部材51と、ノズルキャップベース部材52と、ストッパー53と、コイルバネ54と、を備えている。
【0030】
ノズルキャップベース部材52は、軸部材51などを介して、ノズルキャップ部材50を支持する板状のベース部材である。ノズルキャップベース部材52は、軸部材51に対応する位置に、貫通孔52Aを備えている。ノズルキャップ部材50は、ノズルユニット3における記録ヘッド30のノズル面31を覆う部材であり、記録ヘッド30と同数(本実施形態では4個)設けられている。ノズルキャップ部材50は、横方向Yに延びている。
【0031】
軸部材51は、各ノズルキャップ部材50における横方向Yの両端部近傍の下側に、にそれぞれ(計2個)固定されて連結されている。軸部材51は、ノズルキャップベース部材52の貫通孔52Aに挿通されていると共に、ストッパー53を備えている。ストッパー53は、軸部材51の下端部(ノズルキャップベース部材52側の端部)に連結され、貫通孔52Aの直径より大きい外径を有している。
【0032】
コイルバネ54は、軸部材51の外周を取り巻く状態で、ノズルキャップ部材50とノズルキャップベース部材52との間に配置されている。これにより、ノズルキャップ部材50は、ノズルキャップベース部材52に対してコイルバネ54の弾性力を介して上下方向Zの上向きに付勢され、記録ヘッド30のノズル面31を覆うときに、ノズル面31に弾性的に密着する。
【0033】
キャップユニット5は、搬送ユニット2及びノズルユニット3に対して横方向Yの一方
の側(図1において上側及び図2において右側)に配置されている。この状態のキャップユニット5から搬送ユニット2及びノズルユニット3に向かう向きを「第2方向Y2」ともいう。キャップユニット5は、搬送ユニット2が上下方向Zの下方へ移動し、搬送面22Aがノズルユニット3のノズル面31から十分に離間した離間状態(図16参照)において、第2水平移動機構(図示せず)により、第2方向Y2へ移動し、ノズル面31と搬送面22Aとの間の搬送空間A(図16参照)に配置可能に構成される。この第2水平移動機構の動作により、キャップユニット5は、図1及び図2の実線並びに図15及び図16の仮想線に示す退避位置P1と、図15及び図16の実線に示すノズルキャップ位置P2との間を、移動可能に構成されている。
【0034】
次に、クリーニングユニット4について詳細に説明する。
【0035】
図7〜図10に示すように、クリーニングユニット4は、ワイパーケース40と、ワイパー部材41と、クリーニングユニットベース部材44と、軸部材46と、ワイパー回動駆動機構(駆動手段)45と、溶剤吸収体としての多孔質部材71とを備えている。ワイパーケース40、ワイパー回動駆動機構45、及び多孔質部材71は、ワイパー部材41に付着したインクを除去可能なインク除去手段を構成している。
【0036】
クリーニングユニットベース部材44は、ワイパーケース40を支持するベース部材である。ワイパーケース40は、ワイパー収容部42及びワイパー開口部43を有する。ワイパーケース40は、ワイパー部材41を支持する支持部材である。ワイパー収容部42は、ワイパー部材41を収容可能な部位である。ワイパー開口部43は、ワイパーケース40の上部に位置する開口部である。図1に示すように、ワイパーケース40は、記録ヘッド30のノズル面31と同数(本実施形態では4個)設けられる。ワイパーケース40は、ノズルキャップ部材50と同様に、搬送方向Xに等間隔をあけて配置され、クリーニングユニットベース部材44上に固定される。
【0037】
ワイパーケース40の底壁部40Aには、クリーニングユニットベース部材44を貫通して上下方向Zの下向きに開口する排出口40Cが形成されている。この排出口40Cは、ワイパー部材41によりノズル面31からクリーニングされたインクを、ワイパー収容部42の外部に排出する。
【0038】
また、ワイパーケース40の側壁部40Bの内側には、ストッパー部40Sが設けられる。ストッパー部40Sは、後述するワイパー部材41の支持部材41Bに当接して、ワイパー部材41の回動を制限する。
【0039】
図7に示すように、ワイパー部材41は、拭き部分41Aと、この拭き部分41Aを支持する支持部材41Bとを有する。
【0040】
拭き部分41Aは、例えば、ウレタンゴムやEPDM(エチレン−プロピレン−ジエンゴム)等のゴムから構成される。
【0041】
軸部材46は、支持部材41Bを貫通し、ワイパーケース40に回動可能に支持される。軸部材46の一端部は、ワイパーケース40の外面から突出している。
【0042】
ワイパー部材41は、ワイパーケース40のワイパー収容部42に収容され、且つ、軸部材46を介してワイパーケース40に回動可能に支持される。これによって、ワイパー部材41は、支持部材41Bが軸部材46を支点として回動することにより、拭き部分41Aがワイパー開口部43を介してワイパー収容部42の外部に突出可能に構成されている。
【0043】
図7,図8に示すように、ワイパー回動駆動機構45は、大径歯車48Aと、小径歯車48Bと、駆動モータ49と、から構成される。大径歯車48Aは、軸部材46Aにおけるワイパーケース40の外面から突出した部分に取り付けられる歯車である。小径歯車48Bは、大径歯車48Aに噛合する歯車である。駆動モータ49は、その回転軸に小径歯車48Bが取り付けられるモータである。
【0044】
このワイパー回動駆動機構45によって、軸部材46を支点としてワイパー部材41を正方向又は逆方向に回動させることができる。これにより、ワイパー部材41は、ワイパー収容部42に収容される状態(待機位置)と、ワイパー開口部43を介してワイパー収容部42の外部に突出して起立する状態(クリーニング位置)とに、切り換え可能(移動可能)に構成されている。ワイパー回動駆動機構45の回動駆動量を変更することで、ワイパー部材41の回動角度を調整することが可能である。
【0045】
クリーニングユニット4は、搬送ユニット2及びノズルユニット3に対して横方向Yの他方の側(図1において下側及び図2において左側)に配置される。この状態のクリーニングユニット4から搬送ユニット2及びノズルユニット3に向かう向きを「第1方向Y1」ともいう。クリーニングユニット4は、搬送ユニット2が上下方向Zの下方に移動して、搬送面22Aがノズルユニット3のノズル面31から十分に離間した離間状態(図12参照)において、第1水平移動機構(図示せず)により、第1方向Y1へ移動し、ノズル面31と搬送面22Aとの間の搬送空間A(図12参照)に配置可能に構成される。この第1水平移動機構の動作により、クリーニングユニット4は、図1及び図2の実線並びに図11及び図12の仮想線に示す退避位置P3と、図11及び図12の実線に示す折り返し位置P4との間を、移動可能に構成されている。
【0046】
図7及び図10に示すように、ワイパーキャップ部材6は、内側部61と、フランジ部62とを備えている。内側部61は、ワイパーケース40のワイパー収容部42に嵌合してワイパー開口部43を塞ぐ部位である。フランジ部62は、内側部61がワイパー収容部42に嵌合したときに、ワイパーケース40の側壁部40Bの上端縁40Eに当接する部位である。
【0047】
ワイパーキャップ部材6は、クリーニングユニット4の退避位置P3の上下方向Zの上方に配置され、第2昇降機構(図示せず)を介して、上下方向Zに昇降(移動)可能に構成される。この第2昇降機構の昇降により、ワイパーキャップ部材6は、図7に示すワイパーケース40のワイパー開口部43を塞ぐ閉塞位置P5と、図10に示す退避位置P6との間を、移動可能に構成されている。
【0048】
多孔質部材71は、クリーニングによってインクが付着したワイパー部材41に、後述する水溶性有機溶剤を接触させてワイパー部材41から前記インクを除去するためのものである。
【0049】
図7及び図9に示すように、多孔質部材71は、基端部71bがワイパーケース40の底面に固定され、Z方向(上下方向)に立設され、方向Yの厚みが薄い扁平な板状の部材である。図9に示すように、多孔質部材71は、ワイパーケース40の方向Yの一方側の側壁に沿って配置されている。
【0050】
図7に示すように、多孔質部材71のワイパー部材41側の側面は、円弧状に湾曲している。多孔質部材71は、上部の厚みが大きく、下方に向かうにつれて厚みが小さくなっている。この円弧状の側面は、ワイパー部材41の回動中にワイパー部材41の拭き部分41Aの先端付近が接触する円弧状接触部71aである。
【0051】
円弧状接触部71aは、軸部材46を中心としたワイパー部材41の回動軌道にほぼ沿った形状を有している。多孔質部材71の幅(方向Xの長さ)は、ワイパー部材41の幅(方向Xの長さ)よりも大きい。これにより、ワイパー部材41の拭き部分41Aの先端の全体が多孔質部材71の円弧状接触部71aに接触可能である。これにより、クリーニング時にワイパー部材41に付着した異物91は、図7に示すように円弧状接触部71aにおいて除去(捕捉)される。
【0052】
多孔質部材71は、その基端部(下端部)が排出口40Cに隣接して設けられている。多孔質部材71に捕捉された異物91は、水溶性有機溶剤によって粘度が低下し、流動性が高まると、その一部又は全部が多孔質部材71に沿って下方に流れ、排出口40Cを通じて回収される。したがって、多孔質部材71においてインクが増粘して固着するのを抑制できる。
【0053】
多孔質部材71としては、例えば、内部に細かな多数の孔が開いた多孔質の柔らかいスポンジ状の部材を用いることができる。このような多孔質部材71は、以下に例示するような水溶性有機溶剤を吸収して保持可能であり、また、外部からの力で容易に水溶性有機溶剤を放出可能である。多孔質部材71の材料としては、例えば合成樹脂、合成ゴムなどを用いることができる。多孔質部材71は、合成樹脂、合成ゴムなどを発泡成形して作製することができる。
【0054】
前記水溶性有機溶剤としては、沸点200℃以上、溶解度パラメータ(SP値)9.5以上13.7以下のものが用いられる。沸点が上記範囲であることにより、記録装置1の使用中において水溶性有機溶剤の揮発が抑制される。また、SP値が上記範囲であることによって、インクに含まれる樹脂の固化が抑制され、インクの増粘を抑制できる。言い換えると、インクに含まれる樹脂を溶解させる効果が高いので、インクの粘度を低下させることができる。
【0055】
前記水溶性有機溶剤は、水溶性エーテル系溶剤又は水溶性ジオール系溶剤であるのが好ましい。具体的には、水溶性エーテル系溶剤としては、例えばジエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテルなどが挙げられる。また、水溶性ジオール系溶剤としては、例えば2,5-ヘキサンジオール、1,5-ペンタジオール、1,6-へキサンジオール、2-エチル-3-へキサンジオール、2-メチル‐1,3‐へキサンジオール、2,4‐ジエチル‐1,5‐ペンタンジオールなどが挙げられる。
【0056】
水性のインクの色材として顔料を用いる場合には、インクに含まれる顔料分散樹脂の酸価は、安定性及び顔料分散性の点で、一般に150〜250程度のものが用いられる。
【0057】
次に、第1実施形態のインクジェット記録装置1の動作について説明する。
【0058】
図1〜図3に示す状態において、駆動ローラ20を介して搬送ベルト22の搬送面22A上に導入された記録用紙Tは、吸引ユニット24の動作に伴って搬送ベルト22に作用する吸引力により搬送面22Aに吸着されて、搬送方向Xの一方から他方に向けて搬送される。この搬送面22Aを搬送される記録用紙Tに向けて、ノズルユニット3の記録ヘッド30からインクが吐出され、これにより、記録用紙Tに所定の画像等が記録される(印刷される)。
【0059】
この記録時において、図1及び図2に示すように、キャップユニット5は退避位置P1に待機し、クリーニングユニット4は退避位置P3に待機している。また、ワイパーキャップ部材6は、閉塞位置P5に配置されており、クリーニングユニット4におけるワイパーケース40のワイパー開口部43を塞いでいる。
【0060】
所定の画像等の記録が終了した後、前記第1昇降機構が動作する。この第1昇降機構の動作によって、搬送ユニット2は、上下方向Zの下方へ向けて移動する。この搬送ユニット2の移動により、図12〜図14に示すように、搬送ベルト22の搬送面22Aが記録ヘッド30のノズル面31に対して十分に離間された状態となり、搬送面22Aとノズル面31との間に搬送空間Aが形成される。
【0061】
次に、前記第2昇降機構が動作する。この第2昇降機構の動作により、図12〜図14に示すように、ワイパーキャップ部材6が上下方向Zの上方へ移動し、退避位置P6に配置される。クリーニングユニット4におけるワイパー部材41は、ワイパー回動駆動機構45により軸部材46を支点として回動する。その後、図10に示すように、ワイパー部材41が略垂直な状態まで起立したときに、ワイパー回動駆動機構45が停止され、ワイパー部材41は、略垂直に起立した状態に保持される。
【0062】
続いて、第1水平移動機構が動作する。この第1水平移動機構の動作により、図13に示すように、クリーニングユニット4は、第1方向Y1へ移動し、搬送空間Aに配置される。即ち、図1及び図2の実線及び図11及び図12の仮想線に示す退避位置P3から、図11及び図12の実線に示す折り返し位置P4に向けて第1方向Y1に往行移動する。このクリーニングユニット4の往行移動時において、ワイパー部材41は、ワイパー回動駆動機構45により回動が制限されて略垂直に起立した状態に保持されるため、掃き部分41Aの弾性に抗して撓み、拭き部分41Aの先端が記録ヘッド30のノズル面31に弾性的に接触する。この状態で、ワイパー部材41が第1方向Y1に往行移動することにより、記録ヘッド30のノズル面31がクリーニング(拭き掃除)される。
【0063】
そして、クリーニングユニット4が折り返し位置P4まで移動し、停止した後、第1水平移動機構は、逆転動作する。この第2水平移動機構の逆転動作により、図14に示すように、クリーニングユニット4は、折り返し位置P4から退避位置P3に向けて第2方向Y2に復行移動する。
【0064】
このクリーニングユニット4の復行移動時においては、ワイパー部材41は、ワイパー回動駆動機構45による回動の制限がされて略垂直に起立した状態に保持されるため、掃き部分41Aの弾性に抗して撓み、拭き部分41Aの先端が記録ヘッド30のノズル面31に弾性的に接触する。この状態で、ワイパー部材41が第2方向Y2に復行移動することによって、記録ヘッド30のノズル面31がクリーニングされる。
【0065】
上述のように、クリーニングユニット4のワイパー部材41は、クリーニングユニット4の往復移動時(第1方向Y1及び第2方向Y2の移動時)のいずれにおいても、記録ヘッド30のノズル面31のクリーニングを行う。そして、クリーニングが終わったクリーニングユニット4は、退避位置P3まで移動する。
【0066】
次に、この退避位置P3において、ワイパー部材41に付着しているインクの除去が行われる。すなわち、ワイパー部材41は、ワイパー回動駆動機構45によって、図10に示すワイパー部材41が起立した状態のクリーニング位置から、図7に示すワイパー部材41が略水平方向に向いた待機位置まで回動される。この回動の過程において、ワイパー部材41が多孔質部材71の円弧状接触部71aに接触(摺接)すると、ワイパー部材41の拭き部分41Aの先端拭きに付着しているインク(異物91)は、円弧状接触部71aとの摩擦によって多孔質部材71に捕捉される(図7)。
【0067】
ワイパー部材41の回動は、クリーニング位置から待機位置まで連続的に行ってもよいが、例えばワイパー部材41の拭き部分41Aが多孔質部材71の円弧状接触部71aに接触した時点で停止又は減速してもよい。このように制御することによって、拭き部分41A及びこれに付着した異物91に多孔質部材71に含浸された水溶性有機溶剤を十分に接触させ、拭き部分41Aと異物91の界面に水溶性有機溶剤を浸透させることができる。これにより、拭き部分41Aから異物91を除去する効果をより高めることができる。
【0068】
多孔質部材71に捕捉された異物91は、水溶性有機溶剤によって粘度が低下し、流動性が高まると、その一部又は全部が多孔質部材71に沿って下方に流れ、排出口40Cを通じて回収される。
【0069】
なお、次にクリーニングが行われる際には、上記と逆の動作、すなわち待機位置からクリーニング位置へワイパー部材41が回動される。この回動時にもワイパー部材41の拭き部分41Aは多孔質部材71に接触する。したがって、ワイパー部材41にインクが残存している場合には、この接触によりそのインクの一部又は全部が除去される。
【0070】
次に、第2昇降機構を逆転動作させる。この第2昇降機構の逆転動作により、退避位置P6に位置していたワイパーキャップ部材6は、上下方向Zの下方に移動して、閉塞位置P5(図16参照)に配置される。閉塞位置P5に配置されるワイパーキャップ部材6により、ワイパーケース40のワイパー開口部43が塞がれる。
【0071】
次に、記録ヘッド30のノズル面31のクリーニングユニット4によるクリーニングが完了した後において、キャップユニット5のノズルキャップ部材50が記録ヘッド30のノズル面31を覆う動作について説明する。
【0072】
図15〜図17に示すように、クリーニングユニット4によるクリーニングが完了した状態においても、搬送ユニット2は、上下方向Zの下方に配置した状態に保持されている。従って、図16及び図17に示すように、搬送ベルト22の搬送面22Aは、記録ヘッド30のノズル面31に対して十分に離間した状態であり、搬送面22Aとノズル面31との間には、搬送空間Aが形成されている。
【0073】
この状態で、第2水平移動機構が動作する。この第2駆動移動機構の動作により、キャップユニット5は、図15〜図17に示すように、第2方向Y2へ移動し、搬送空間A
に配置される。即ち、キャップユニット5は、図1及び図2の実線並びに図15及び図16の仮想線に示す退避位置P1から、図15〜図17の実線に示すノズルキャップ位置P2に向けて、第2方向Y2に移動する。
【0074】
キャップユニット5がノズルキャップ位置P2まで移動すると、ノズルキャップ部材50は、上下方向Zの上方へ移動し、記録ヘッド30のノズル面31に弾性的に密着する。これにより、記録ヘッド30のインク吐出用ノズルが閉塞され、インクの流れ落ちが抑制されると共に、浮遊塵埃や紙屑等がノズル面31に付着することが抑制される。
【0075】
以上の動作によって、画像等の記録、ノズル面31のクリーニング及びノズル面31のキャッピングという一連の動作が終了する。そして、次に、画像等の記録を行なう場合には、以下に示す動作を行う。即ち、第2水平移動機構により、ノズルキャップ部材50を記録ヘッド30のノズル面31から離間させるように、キャップユニット5を第1方向Y1へ移動させ、退避位置P1に配置させる。次に、第1昇降機構により、搬送ユニット2を上昇させて搬送ベルト22の搬送面22Aを記録ヘッド30のノズル面31に接近させる。これにより、図1〜図3に示す初期状態に復元し、次の画像等の記録を行うことができる。
【0076】
第1実施形態のインクジェット記録装置1によれば、次の効果が奏される。
【0077】
第1実施形態では、前記物性を有する水溶性有機溶剤をワイパー部材41に接触させてワイパー部材41に付着したインクを除去するので、除去後にワイパー部材41にインクが残りにくい。前記物性を有する前記水溶性有機溶剤は、後述する実施例にも示されているように、インクの増粘を抑制する効果に優れている。言い換えると、前記水溶性有機溶剤は、インクの粘度を低下させる効果に優れている。したがって、ワイパー部材41に付着したインクは、前記水溶性有機溶剤が接触すると粘度が低下して除去されやすくなる。これにより、ワイパー部材41に残って増粘したインクがノズル面31に再付着するのを抑制することができる。
【0078】
また、第1実施形態では、前記インク除去手段は、ワイパー部材41を回動可能に支持するワイパーケース40と、ワイパー部材41により前記クリーニングが行われるクリーニング位置と前記クリーニングが行われないときに前記ワイパー部材を待機させる待機位置との間でワイパー部材41を回動させるワイパー回動駆動機構45と、ワイパー部材41の回動中にワイパー部材41が接触可能な位置に設けられ、前記水溶性有機溶剤が含浸された多孔質部材71と、を有している。したがって、ワイパー回動駆動機構45によるワイパー部材41の回動中にワイパー部材41を多孔質部材71に接触させることができる。このように簡単な構造で水溶性有機溶剤をワイパー部材41に確実に接触させることができる。
【0079】
また、第1実施形態では、ワイパー部材41を収容し支持するワイパーケース40の開口部をワイパーキャップ部材6によって塞ぐことができる。したがって、多孔質部材71によりワイパー部材41のインクが除去された後に、仮に、ワイパー部材41にインクが残っていたとしても、ワイパー部材41をワイパーケース40とワイパーキャップ部材6に囲まれた密閉空間に収容できるので、ワイパー部材41に付着した前記インクが増粘するのを抑制することができる。また、前記クリーニングが行われないときには、多孔質部材71も前記密閉空間に収容できるので、多孔質部材71に付着しているインクの増粘を抑制できるとともに、水溶性有機溶剤の揮発を抑制することができる。
【0080】
また、第1実施形態においては、クリーニングユニット4におけるワイパー部材41によりクリーニングされた後の記録ヘッド30のノズル面31を、ノズルキャップ部材50で覆うようにしている。
【0081】
そのため、クリーニングされたノズル面31に浮遊塵埃や紙屑などが付着することを抑制することが可能である。また、ノズルキャップ部材50により記録ヘッド30のインク吐出用ノズルを閉塞して、記録ヘッド30からのインクの流れ落ちも抑制することが可能である。したがって、所定の記録時におけるインクの吐出不良の発生を一層抑制することができる。
【0082】
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態について説明する。この第2実施形態については、主として、第1実施形態と異なる点を中心に説明し、第1実施形態と同様な構成については同じ符号を付し、詳細な説明を省略する。第2実施形態において、特に説明しない点は、第1実施形態についての説明が適宜適用される。また、第2実施形態においても、第1実施形態と同様な効果が奏される。
【0083】
図18は、第2実施形態におけるクリーニングユニットのワイパー開口部をワイパーキャップ部材が塞いだ状態を示す縦断面図である。
【0084】
図18に示すように、この第2実施形態の記録装置1は、前記水溶性有機溶剤が貯留され、多孔質部材71に前記水溶性有機溶剤を補給可能なカートリッジ81をさらに備えている。このカートリッジ81は、ワイパーケース40の側面に設けられた図略のカートリッジ装着口に着脱自在に装着される。
【0085】
この第2実施形態では、カートリッジ81から多孔質部材71に水溶性有機溶剤を補給することができる。また、このカートリッジ81が空になった場合には、別のカートリッジ81と交換するだけで継続的に多孔質部材71に水溶性有機溶剤を補給することができる。
【0086】
<他の実施形態>
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は、上述した実施形態に限定されることなく、種々の形態で実施することができる。
【0087】
例えば、前記実施形態では、ワイパー部材41を支持する支持部材としてワイパーケース40を用いた場合を例に挙げて説明したが、これに限定されない。支持部材としては、前記実施形態のように箱状のものの他、例えば板状、棒状などの部材を用いてもよい。
【0088】
また、前記実施形態では、溶剤吸収体としてスポンジ状の多孔質部材71を用いた場合を例に挙げて説明したが、これに限定されない。溶剤吸収体としては、前記多孔質部材71の他、布状の部材、不織布などのように溶剤を吸収可能なものを用いてもよい。
【0089】
また、前記実施形態では、キャップユニット5を設けているが、本発明においては、キャップユニット5は必須ではない。
【0090】
また、前記実施形態では、ノズルユニット3に対して搬送ユニット2を移動させることで、搬送面22Aと記録ヘッド30のノズル面31とを相対的に接近又は離間可能にしているが、これに制限されない。例えば、搬送ユニット2を移動させずにノズルユニット3を移動させることで、記録ヘッド30のノズル面31と搬送面22Aとを相対的に接近又は離間可能にしてもよい。また、搬送ユニット2及びノズルユニット3の両方を互いに移動させることで、搬送面22Aと記録ヘッド30のノズル面31とを相対的に接近又は離間可能にしてもよい。
【0091】
さらに、前記実施形態では説明を省略したが、本発明のインクジェット記録装置においては、画像等の記録、ノズル面31のクリーニング及びノズル面31のキャッピングという一連の動作を、予め設定された順序で全て自動的に行う制御プログラムを記憶させたメモリを有する制御装置、例えばコンピュータを用いることが好ましい。
【0092】
なお、前記実施形態で説明した前記インク除去手段は、前記物性を有する水溶性有機溶剤を用いた場合に優れたインク除去効果が得られるのであるが、例えば、前記水溶性有機溶剤以外の溶剤を用いる場合や、水溶性有機溶剤を用いずに溶剤吸収体とワイパー部材41との摩擦によってインクを除去する場合であっても、前記背景技術において述べて従来の技術に比べると良好なインク除去効果を得ることができる。
【実施例】
【0093】
以下では、実施例を挙げて本発明についてさらに具体的に説明する。
【0094】
(顔料分散体の作製)
顔料としてのフタロシアニンブルー、スチレンアクリル樹脂、グリセリン、イオン交換水を表1に示す割合で混合し、メディア型分散機にて混練した。スチレンアクリル樹脂は、酸価が150〜250の範囲のものを用いた。メディア型分散機としは、メディア径が0.2〜1.0mmのジルコニアビーズを使用した場合でも各メディアに最適な分散エネルギーを与える機構を備えた湿式分散機(浅田鉄鋼社製:ナノグレンミル)を用いた。
【0095】
顔料分散体の分散粒度としては、平均粒子径が100nmになるように調整した。粒度分布測定には、イオン交換水で300倍希釈した溶液をナノ/シスメックス社製のゼータサイザー用いた。
【0096】
【表1】

【0097】
(インクの作成)
上記で得られた顔料分散体と、表2に示す各材料を表2に示す割合で混合し、十分に攪拌した後、孔径5μmのフィルターにて加圧濾過することにより、記録液(インク)を得た。
【0098】
【表2】

【0099】
(インク除去効果の評価)
図7〜図10に示すクリーニングユニット4のワイパーケース40内に多孔質部材71を配置し、この多孔質部材71に表3〜表5に示す各水溶性有機溶剤(樹脂可溶化剤)をそれぞれ含浸させて下記の手順で不吐出ノズルの有無を確認し、各水溶性有機溶剤のインク除去効果について評価した。
【0100】
評価手順は次の通りである。すなわち、各水溶性有機溶剤を多孔質部材71に含浸させて、パージ(ノズルからのインクの吐出)、ワイパー部材41によるノズル面31のクリーニング、及び多孔質部材71によるワイパー部材41のインク除去動作(ワイパー部材41の回動動作)を1セットとして、合計3セット行った後、ワイパーキャップ部材6によりワイパーケース40の開口部を塞いだ。
【0101】
ついで、開口部を塞いでから1日後と1ヶ月後の時点において、再度、上記動作を3セット行った後、チェックパターン(抜けピンチェックパターン)を印字して不吐出ノズルの有無を確認した。評価結果を表6〜表9に示す。なお、表6〜表9中の「無」とは、不吐出ノズル(抜けピン)が無かったことを意味し、「有」とは、不吐出ノズル(抜けピン)が有ったことを意味している。
【0102】
【表3】

【0103】
【表4】

【0104】
【表5】

【0105】
【表6】

【0106】
【表7】

【0107】
【表8】

【0108】
【表9】

【0109】
表6〜表9から、水溶性有機溶剤として、沸点200℃以上、かつ、SP値9.5〜13.7の範囲のものを用いることにより、長期間の使用において、間欠的に複数回のメンテナンスが行われるだけであっても画像欠陥(不吐出ノズル)が生じるのを抑制でき、高い画像品質が得られることがわかる。
【符号の説明】
【0110】
1 インクジェット記録装置
2 搬送ユニット
3 ノズルユニット
4 クリーニングユニット
5 キャップユニット
6 ワイパーキャップ部材
22 搬送ベルト
22A 搬送面
30 記録ヘッド
31 ノズル面
40 ワイパーケース
41 ワイパー部材
42 ワイパー収容部
43 ワイパー開口部
50 ノズルキャップ部材
71 多孔質部材
71a 円弧状接触部
81 カートリッジ
X 搬送方向
Y 横方向
Y1 第1方向
Y2 第2方向
T 記録用紙(記録媒体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のノズルが形成されたノズル面を有する記録ヘッドと、
前記ノズル面に沿う方向に前記記録ヘッドに対して相対移動して前記ノズル面のクリーニングを行うワイパー部材と、
前記クリーニングによってインクが付着した前記ワイパー部材に、沸点200℃以上、溶解度パラメータ9.5以上13.7以下の水溶性有機溶剤を接触させて前記ワイパー部材から前記インクを除去可能なインク除去手段と、を備えているインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記水溶性有機溶剤は、水溶性エーテル系溶剤又は水溶性ジオール系溶剤である、請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記インクは、色材として顔料を含有する、請求項1又は2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記記録ヘッドは、用紙の搬送方向に交わる方向に前記複数のノズルがライン状に配列されたラインヘッド型である、請求項1〜3のいずれかに記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
前記インク除去手段は、
前記ワイパー部材を回動可能に支持する支持部材と、
前記ワイパー部材により前記クリーニングが行われるクリーニング位置と前記クリーニングが行われないときに前記ワイパー部材を待機させる待機位置との間で前記ワイパー部材を回動させる駆動手段と、
前記ワイパー部材の回動中に前記ワイパー部材が接触可能な位置に設けられ、前記水溶性有機溶剤が含浸された溶剤吸収体と、を有している、請求項1〜4のいずれかに記載のインクジェット記録装置。
【請求項6】
前記支持部材は、前記ワイパー部材及び前記溶剤吸収体を収容する収容部、及び前記クリーニング時に前記ワイパー部材の少なくとも一部を前記収容部の外部に突出可能な開口部を有するワイパーケースであり、
前記クリーニングが行われないときに前記ワイパーケースの前記開口部を塞ぐワイパーキャップ部材をさらに備えている、請求項5に記載のインクジェット記録装置。
【請求項7】
前記水溶性有機溶剤が貯留され、前記溶剤吸収体に前記水溶性有機溶剤を補給可能なカートリッジをさらに備えている、請求項5又は6に記載のインクジェット記録装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2011−110837(P2011−110837A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−269974(P2009−269974)
【出願日】平成21年11月27日(2009.11.27)
【出願人】(000006150)京セラミタ株式会社 (13,173)
【Fターム(参考)】