説明

インクジェット記録装置

【課題】インクジェット記録装置においてキャリッジの移動時にキャリッジや記録ヘッドが記録媒体と接触することによる負荷の異常をリアルタイムで正確に判断し、記録ヘッドおよび記録媒体の損傷を軽減する。
【解決手段】記録媒体が存在しない状態における予め定めたタイミングでキャリッジを移動させたときの負荷に基づいて基準負荷を定め、その基準負荷と記録媒体が存在する状態でキャリッジを移動させたときの負荷とを比較する。基準負荷は記録媒体が存在しない状態における予め定めたタイミングで更新される。負荷が基準負荷を超えたときにキャリッジの移動を停止させるよう制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録ヘッドを搭載したキャリッジを、記録媒体に対して移動させつつ記録ヘッドからインクを吐出することにより記録媒体に記録を行うインクジェット記録装置およびその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置として、インクを吐出可能な吐出口を備えた記録ヘッドをキャリッジに搭載し、キャリッジと共に記録ヘッドを記録媒体に対して移動させつつ記録を行う、所謂シリアル型の記録装置が知られている。このシリアル型のインクジェット記録装置では、記録ヘッドを搭載したキャリッジの移動(主走査)に際し、紙ジャム(紙詰まり)が発生することがある。この紙ジャムが発生した状態で記録ヘッドの移動が行われると、吐出口が形成されている吐出口面と記録媒体との接触により、吐出口面が損傷する可能性がある。
【0003】
このような問題に対して、下記特許文献1に記載されている記録装置では、キャリッジを移動させるための駆動源である主走査モータの駆動電流値が一定値を超えたときに紙ジャムが発生したと判断する。そして、紙ジャムが発生した場合には、記録媒体を主走査方向と直交する方向に搬送する搬送モータを逆転移動させ、記録媒体を記録装置本体の上流側に排出し、紙ジャムを解除する処置を行うようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−178268号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に、シリアル型のインクジェット記録装置では、キャリッジの軸受けの磨耗、キャリッジやその移動経路へのインクミストの付着などの経時変化による要因によって、主走査モータの電流値、つまり負荷量は殆どの場合変動する。このため、主走査モータの駆動電流値が一定値を超えたときに紙ジャムであると判断する特許文献1では、主走査モータの駆動電流の変動が紙ジャムに起因するのか、上記のような経時変化による要因によるものかを区別できない。このため、特許文献1では、紙ジャムを適切に検出できない場合があり、その場合にはキャリッジや記録ヘッドが記録媒体と接触したままキャリッジが移動してしまい、記録ヘッドの吐出口面や記録媒体が損傷されるという問題が生じている。本発明は、キャリッジの移動時にキャリッジや記録ヘッドが記録媒体と接触することによる負荷の異常をリアルタイムに判断し、記録ヘッドおよび記録媒体の損傷を防止することができるインクジェット記録装置およびその制御方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明は以下の構成を有するものとなっている。
すなわち、本発明の第1の形態は、記録ヘッドを搭載したキャリッジを、所定の位置に搬送された記録媒体に対して移動させつつ前記記録ヘッドからインクを吐出することにより前記記録媒体に記録を行うインクジェット記録装置であって、前記キャリッジを移動させる駆動手段と、前記キャリッジの駆動時の負荷を検出する負荷検出手段と、前記所定の位置に記録媒体が存在しない状態で前記キャリッジを移動させたときの前記負荷に基づいて基準負荷を定める基準負荷設定処理を行う設定手段と、前記設定手段により設定された基準負荷と前記所定の位置に記録媒体が存在する状態で前記キャリッジを移動させたときに前記負荷検出手段によって検出された負荷とを比較する比較手段と、前記負荷検出手段によって検出された負荷が前記基準負荷を超えたときに前記キャリッジの移動を停止させるよう前記駆動手段を制御する制御手段と、を備え、前記設定手段は、前記所定の位置に前記記録媒体が存在しない状態における予め定めたタイミングで前記基準負荷設定処理を実施することにより前記基準負荷を更新することを特徴とする。
【0007】
本発明の第2の形態は、記録ヘッドを搭載したキャリッジを、所定の位置に搬送された記録媒体に対して移動させつつ前記記録ヘッドからインクを吐出することにより前記記録媒体に記録を行うインクジェット記録装置の制御方法であって、前記キャリッジの駆動時の負荷を検出する負荷検出工程と、前記所定の位置に記録媒体が存在しない状態で前記キャリッジを移動させたときの前記負荷に基づいて基準負荷を定める基準負荷設定処理を行う基準負荷設定工程と、前記基準負荷設定工程により設定された基準負荷と前記所定の位置に記録媒体が存在する状態で前記キャリッジを移動させたときに前記負荷検出工程で検出された負荷とを比較する工程と、前記負荷検出工程によって検出された負荷が前記基準負荷を超えたときに前記キャリッジの移動を停止させるよう前記キャリッジの駆動を制御する制御工程と、を備え、前記基準負荷設定工程は、前記所定の位置に前記記録媒体が存在しない状態における予め定めたタイミングで前記基準負荷設定処理を実施することにより前記基準負荷を更新することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、移動時にキャリッジや記録ヘッドが記録媒体と接触することによって生じる負荷の異常をリアルタイムで判断することができ、異常が発生した場合にはキャリッジの移動を停止させることができる。このため、記録ヘッドやキャリッジが記録媒体と接触した状態でキャリッジが移動することによる記録ヘッドや記録媒体の損傷を防止することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】第1の実施形態におけるインクジェット記録装置のキャリッジ周辺の構成を模式的に示す図である。
【図2】第1の実施形態におけるインクジェット記録装置の制御部の構成例を示すブロック図である。
【図3】第1の実施形態における制御動作を示すフローチャートであり、(a)はEEPROMへの閾値の保存を、(b)はキャリッジモータの駆動制御をそれぞれ示している。
【図4】第1の実施形態におけるキャリッジの累積駆動時間に基づいた基準電流値の一例を示す図である。
【図5】(a)は図2に示した電流検出器及び比較演算器の回路構成例を、(b)は比較演算器の入力波形例を、(c)比較演算器の出力波形例をそれぞれ示す図である。
【図6】第2の実施形態におけるインクジェット記録装置の制御部の構成例を示すブロック図である。
【図7】本発明の第2の実施形態における制御動作を示すフローチャートであり、(a)は不揮発性メモリへの電流値の保存を、(b)はキャリッジモータの駆動制御をそれぞれ示している。
【図8】第2の実施形態におけるキャリッジ位置に基づいた主走査モータの基準電流値の算出方法例を説明するための図である。
【図9】第2の実施形態における不揮発性メモリへのデータ保存形式の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照しつつ詳細に説明する。
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態におけるインクジェット記録装置のキャリッジ周辺の構成を模式的に示す図である。図1において、キャリッジ103は、駆動源としての主走査モータ210の駆動によって移動する無端ベルト105に固定されており、無端ベルと105と共にX方向(主走査方向)に沿って往復移動可能となっている。また、搬送モータ107の駆動力によって回転する搬送ローラ106によって記録媒体108が主走査方向と交差する方向に搬送される。この実施形態では、記録媒体108は主走査方向(X方向)と直交する方向である搬送方向(Y方向)に搬送され、プラテン110上で支持される。
【0011】
また、キャリッジ103にはインクを吐出可能な記録ヘッド102が着脱可能に搭載されている。記録ヘッド102には、キャリッジ103に搭載された状態で、記録媒体108を支持するプラテン110と所定の間隙を介して対向する面に、インクを吐出するための吐出口が形成されている。なお、この吐出口が形成されている記録ヘッドの面を以下の説明において吐出口面と称す。キャリッジ103に搭載された記録ヘッド102は、キャリッジ103と共に主走査方向に移動しつつ吐出口からインクを記録媒体に向けて吐出することにより、記録ヘッドの幅に対応する画像を記録する。さらに、記録ヘッド102は、記録ヘッド102の主走査方向の移動幅に対応する画像を記録する。この記録動作中、記録媒体は停止している。主走査が行われ、キャリッジが停止している間に、搬送方向(Y方向)に沿って所定の距離だけ記録媒体108の搬送動作(副走査)が行われる。この主走査と、副走査とを繰り返し実行することにより、記録媒体全体に画像を記録することが可能になる。
【0012】
なお、図1において、104は主走査方向に沿って延在するリニアスケールである。このリニアスケールの長手方向と直交する方向に設けられたストライプ状の多数の被検出部を光学的または磁気的にキャリッジ102に設けたセンサによって検出することにより、キャリッジ103のX方向における位置を検出することが可能になっている。なお、キャリッジの位置を検出する位置検出手段としては、リニアスケールを用いたものに限らず、その他の構成を用いることも可能である。例えば、キャリッジを駆動するモータのモータシャフトの回転に応じてパルス信号を出力するロータリエンコーダなども適用可能である。また、主走査モータとしてパルスモータを用いる場合には、その駆動パルス数をカウントすることによってキャリッジの位置を検出することが可能である。
【0013】
次に、第1の実施形態におけるインクジェット記録装置の制御部の構成例を図2に示すブロック図を用いて説明する。
図2において、CPU201はインクジェット記録装置の全体を制御するプロセッサであり、演算、判別、制御などの処理を実行する。このCPU201には制御プログラムを格納したROM202や、プログラム作業用及び一時記憶用のメモリであるRAM203や、各種制御に必要なプログラムやデータが格納されているEEPROM204などに接続されている。また、このCPU201には、方向検出・位置カウンタ213が接続されている。方向検出・位置カウンタ213は、前述のリニアスケール104およびセンサにより構成されたキャリッジエンコーダ211から出力されるパルス信号に基づいてキャリッジの移動方向(主走査モータの回転方向)および位置に関する情報を出力する。そして、この方向検出・位置カウンタから得られるキャリッジの位置情報を基に、CPU201は、PWM信号生成部212及びモータドライバ208を制御する。これにより、主走査モータ210の駆動が制御される。また、CPU201は、主走査モータ210の駆動時に負荷検出手段としての電流検出器209(電流/電圧変換器(I/V変換器))より検出された電流値をADコンバータ(ADC)205を介してEEPROM204に保存させる。さらにCPU201は、比較演算器207の閾値となる基準電流値(基準負荷)をEEPROM204から抽出し、DAコンバータ(DAC)206に送信する。なお、上記主走査モータ210とモータドライバ208とによって駆動手段が構成されている。
【0014】
PWM信号生成部212はCPU201の制御下でモータドライバ208へPWM信号を送信する。モータドライバ208はPWM信号生成部212から送信されるPWM信号に応じて主走査モータ210を駆動させる。本実施形態における主走査モータ210はDCモータであり、キャリッジ103の移動制御にはキャリッジエンコーダ211からの位置情報に基づいたフィードバック制御が用いられる。
【0015】
電流検出器209は主走査モータ210に供給されている電流を検出するための回路である。主走査モータ210の電流値は、キャリッジ103とこれを支持する支持部材(例えば、不図示のガイドシャフト)との間に生じる摺動負荷にほぼ比例して出力される。この電流検出器209は、モータドライバ208から入力された電流(負荷電流)を対応する電圧レベルに変換し、比較手段としての比較演算器207およびADコンバータ205へ変換した電圧レベルを出力する。
【0016】
比較演算器207はCPU201よりDAコンバータ206を介して得られた閾値としての基準電流値と電流検出器209から得られる電流値とをリアルタイムに比較演算し、その結果をモータドライバ208に送信する。
【0017】
キャリッジエンコーダ211は主走査モータ210のフィードバック制御に使われるリニアスケール104に基づいてパルス信号を出力する。方向検出・位置カウンタ213は上記キャリッジエンコーダ211からのA相、B相の90度位相のずれたパルス信号を受けて、主走査モータ210の回転方向を検出すると共に、エンコーダの出力パルスをカウントしてキャリッジの相対移動量を検出する。そしてこの検出結果はCPU201に送信される。
【0018】
キャリッジ103を移動させるべく主走査モータ210を回転させるためには、CPU201からPWM信号生成部212へ回転指令を出力し、これに応答してPWM信号生成部212がPWM信号をモータドライバ208へ出力する。このPWM信号に応じて、モータドライバ208が主走査モータ210へ電流を供給することで、主走査モータ210が回転する。
【0019】
ところで、図2に示したこの第1の実施形態における制御装置では、比較演算器207による比較演算に用いる閾値を、後述のようにキャリッジ103の一定の累積駆動時間毎に算出する。これにより紙詰まり(紙ジャム)等のキャリッジ103の移動に異常を来たす状態を正確に判断することが可能になっている。
【0020】
以下、この第1の実施形態におけるインクジェット記録装置の制御動作を図3のフローチャートにより説明する。
まず、記録装置の電源が投入されると、CPU201はキャリッジエンコーダ211から送信されるキャリッジ103の位置情報に基づき、主走査モータ210の駆動指令信号を、PWM信号生成部212を介してモータドライバ208へ送信する。主走査モータ210はモータドライバ208からの駆動信号を受けて、キャリッジ103を一方向に向けて加速、等速、減速させつつ移動させる移動制御を行う(S201)。このときモータドライバ208から得られた電流値Icrが電流検出器209を介してCPU201に送信され、EEPROM204に基準電流値(基準負荷)Ithとして保存される(S203)。なお、電流検出器209とCPU201とにより、EEPROM204への基準電流値の設定処理(基準負荷設定処理)を行う設定手段が構成されている。
【0021】
次に、記録用紙搬送時および記録動作時の主走査モータ210の電流値を電流検出器209にて検出し、その電流値を比較手段としての比較演算器207へ送信する。その後、比較演算器207によりEEPROM204に保存された基準電流値Ithと上記キャリッジ移動中の主走査モータ210の電流値Icrとの比較演算処理Icr−Ithが行われる(S206)。この比較結果により、現在の電流値Icrが基準電流値Ithを超えていた場合には、紙ジャム等によりキャリッジの駆動に異常を来す可能性があると判断する(S207)。この場合、モータドライバ208を制御して主走査モータ210を瞬時に停止させる(S209)。その後、主走査モータ210をモータドライバ208により逆転駆動させる。これにより、紙ジャムなどの異常事態によってキャリッジ103の移動に異常を来たす可能性があると判定した位置(異常検出位置)から退避させる(S209)。このようにキャリッジ103を走査させることで、紙ジャム等のキャリッジ103の移動(走査)に異常を来たす可能性がある状態を即座に判断することができ、記録ヘッド102の吐出口面や記録媒体の損傷を防ぐことができる。
【0022】
次に、この第1の実施形態における主走査モータ101の累積駆動時間に基づいた基準電流値(基準負荷)の算出方法の一例を、図4を参照しつつ説明する。
図4における横軸は前記キャリッジの位置Xを示しており、縦軸は主走査モータ210のモータドライバ208から検出される電流値Icrを示している。今、インクジェット記録装置の工場出荷時をt0とすると、このとき主走査モータ210から検出される電流値はIcr(t0)となっており、この値がEEPROM204に保存される。この電流値Icrは比較演算器207の時刻t0における基準電流値(閾値)Ith(t0)として使用される。このとき実際のIcrはキャリッジ位置X毎に微小に変動しているが、基準電流値Ithは記録ヘッドの記録領域幅(記録ヘッドにより記録媒体に記録される領域のX方向における幅)を移動する際に検出される電流値Icrの平均値をCPU201が算出することにより設定される。
【0023】
次に、キャリッジ103の累積駆動時間がある所定の時間に達した時をt1とすると、このときモータドライバ208から検出される電流値は、Icr(t1)となる。この値は上記と同様に前記EEPROM204に保存され、前記比較演算器207の時刻t1における基準電流値(閾値)Ith(t1)として使用される。
以上の基準電流Ithの設定処理は、キャリッジの累積駆動時間が所定の時間に達する毎に行われ、これが、前記キャリッジの寿命時間または前記主走査モータの寿命時間に達するまで繰り返される。なお、累積駆動時間が所定の時間に達したか否かは、CPU201により判断する。
【0024】
次に、電流検出器209及び比較演算器(コンパレータ)207の回路構成例を図5により説明する。
電流検出器209は主走査モータ210に供給されている電流を検出するための回路である。この電流検出器209には、モータドライバ208から出力されるキャリッジ103の移動時にこれを支持する部材との間で発生する摩擦負荷に殆ど比例した電流Icrが入力される。電流検出器209は、この電流Icrを抵抗により電圧レベルVcrに変換する。ここで変換された電圧レベルVcrは、図5(a)に示すように、後段の比較演算器207の一方の入力端子207aに入力される。また、比較演算器207の他方の入力端子207bには、前述の基準電流Ithに対応する基準電圧レベルVthがCPU201からDAC206を介して入力される(図5(a)参照)。
【0025】
ここで、図5(b)に示すように、比較演算器207の電圧レベルVcrが基準電圧レベルVthを上回っている場合(Vcr>Vthの場合)には、比較演算器207の出力端子207cからは図5(c)に示すように高レベルの検出信号Voutが出力される。本実施形態では、検出信号Voutとして電源電圧レベル(例えば5V)の信号が出力される。この電源電圧レベルの検出信号Voutはモータドライバ208へと送信され、これを受けたモータドライバ208は主走査モータ210に逆起電力を発生させるように動作し、キャリッジ103を瞬時に停止させる。つまり、主走査モータ210にかかる負荷が増大し、駆動電流Icrが前述の基準電流Ithを上回る場合には、主走査モータ210の回転を瞬時に停止させる。上記高レベルの検出信号は、後述する低レベルの検出信号よりも高いものであればよく、上述のものに限定されない。
【0026】
一方、電圧レベルVcrが基準電圧レベルVth以下であった場合には、比較演算器207からは低レベル(例えば0レベル)の出力電圧Voutが出力される。このため、モータドライバ208は、主走査モータ210をPWM信号に従って駆動させ、これによってキャリッジ102と共に記録ヘッドが記録媒体に対して走査しつつ記録動作を行う。
【0027】
第1の実施形態における以上の制御動作をまとめると、以下のようになる。すなわち、キャリッジ103の移動にかかる負荷を、主走査モータ210に流れる電流値によって検出し、電流値が予め設定された閾値である基準電流値を超えた場合には、紙ジャム等の異常が発生していることを判断する。この基準電流値は、紙ジャムが生じていないときにキャリッジ103が移動したときの主走査モータの電流値であり、これは負荷検出手段である電流検出器209によって求める。求めた基準電流値は記憶手段であるEEPROM204に保存する。なお、基準電流値を求めるために行うキャリッジ103の移動は、キャリッジ103に紙ジャム等による異常が起こり得ない状態、つまり搬送モータにより記録媒体をキャリッジ移動範囲外に退避させた状態で行うことが望ましい。主走査モータ210の電流値は、負荷検出手段により検出されるのと同時に、電圧レベルへと変換される。
【0028】
本実施形態において記憶手段であるEEPROM204に保存された閾値は、キャリッジ103の累積駆動時間が所定の時間に達する度に最新の閾値として更新される。但し、この閾値の更新のタイミングは、必ずしも上記のタイミングに限定されない。例えばインクジェット記録装置の電源が投入されてキャリッジ103が初期化動作を行うタイミングまたは記録枚数をカウントし所定のカウント数に達したタイミングなど、記録媒体がプラテン上に存在しない状態における予め定めたタイミングで定めることができる。このように閾値を更新しながら負荷の検出を行うことにより、例え、キャリッジ103の摺動負荷が経時変化などによって出荷当初よりもキャリッジの負荷が増大していたとしても、紙ジャムの発生などに起因する負荷の異常を確実に検出することができる。すなわち本実施形態では、経時変化によって増大した負荷に基づいて算出した閾値と記録動作時の負荷とを比較するため、紙ジャムなどの異常事態によって発生した負荷の増大を確実に検出することができる。そして、異常事態の発生により負荷が増大した場合には、瞬時に主走査モータ130を停止させることができ、記録ヘッド102の吐出口面および記録媒体108の損傷を確実に防ぐことが可能となる。また、負荷が増大しても、その原因が上記のような経時的変化によるものである場合には、主走査モータの駆動を停止させずに、記録動作を実行させる。これにより、無意味にキャリッジを停止させることがなくなり、良好なスループットを維持することができる。
【0029】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態におけるインクジェット記録装置を説明する。
この第2の実施形態においても上記第1の実施形態と同様に図1に示す構成を有する。但し、この第2の実施形態は図6に示すような制御部を有しており、この制御部の構成及び動作が上記第1の実施形態における制御部(図2参照)とは異なる。従ってここでは、上記第1の実施形態と異なる点を中心に説明を行う。
【0030】
この第2の実施形態におけるインクジェット記録装置は、上記第1のインクジェット記録装置における閾値の算出を、キャリッジの走査範囲内の位置に基づいて行うことを特徴としている。以下、図6ないし図8に基づいて詳細に説明する。
【0031】
まず、図6に示すブロック図を用いて、第2の実施形態で使用する制御部の構成を説明する。なお、図6中、図2に示したものと同一もしくは相当部分には同一符号を付す。
図6に示す制御部では、CPU201とモータドライバ208との間にASIC401が設けられている。ASIC401は、コントローラ403と、PWM信号生成部212と、方向検出・位置カウンタ213とを内臓している。PWM信号発生部212及び方向検出・位置カウンタ213は、上記第1の実施形態と略同一内容の処理を行う。また、コントローラ403はADコンバータ(ADC)205から受信される主走査モータ210の電流値を取り込むと同時に、方向検出・位置カウンタ213から受信されるキャリッジ位置情報を取込む。そして、キャリッジ103の位置毎に主走査モータ210の電流値を演算する。コントローラ403を内蔵させたASIC401を設けることで、より正確かつリアルタイムな制御を実現することができる。
【0032】
ここで、ASIC401の機能を説明すると次のようである。すなわち、ASIC401はCPU201の制御下でPWM信号生成部212の制御を行う。また、ASIC401は、キャリッジエンコーダ211から送信されたA相、B相のエンコーダ信号を方向検出・位置カウンタ213で受信して、キャリッジ位置情報を取得した後、その位置情報をCPU201へ送信する。さらに、ASIC401は、電流検出器209からADコンバータ(ADC)205を通して得られた基準電流値(基準負荷)を、上記キャリッジ位置情報に対応付けて不揮発性メモリ402に保存させる。また、ASIC401は、記録動作時のキャリッジの移動に伴って記憶手段としての不揮発性メモリ402に保存された基準電流値を、キャリッジエンコーダ211より受信されるキャリッジ位置情報毎に応じて読み出す。そして、読み出された基準電流値は、DAコンバータ206を介して比較演算器207へ送信される。
【0033】
以上のように、この第2の実施形態では、ASIC401が、比較演算器207へ送信される基準電流値を、キャリッジエンコーダ211から得られるキャリッジ位置情報毎に設定することができる。すなわち、キャリッジ103の動作に応じて主走査モータ210の電流値の比較演算処理を行うことで、キャリッジ103の位置毎に主走査モータ210の負荷が変化したとしても、全てのキャリッジ位置においてリアルタイムに主走査モータ210の検出電流値の比較演算を行うことが可能になる。
【0034】
次に、本発明の第2の実施形態におけるインクジェット記録装置の制御動作を図7(a),(b)のフローチャートにより詳細に説明する。
まず、第1の実施形態と同様に、電源投入直後にキャリッジ103の駆動によって得られた電流値Icrを検出する(S701)。同時に、キャリッジエンコーダ211から方向検出・位置カウンタ213を介して得られるキャリッジ位置情報Xを検出し(S703)、そのキャリッジ位置情報に対応付けて前記の電流値Icrを不揮発性メモリ402に保存させる(S704)。
【0035】
次に、第1の実施形態と同様に、記録媒体搬送時および記録動作時の主走査モータ210の電流値Icrを検出する(S709)。このとき、キャリッジエンコーダ211から得られるキャリッジ位置情報Xを、方向検出・位置カウンタ213を通して取得する(S706)。これと同時にASIC401内部のコントローラ403でキャリッジ103の位置範囲XmおよびXnにおける基準電流値Icr(Xm)およびIcr(Xn)を前記不揮発性メモリ402より取出す(S707)。ASIC401はコントローラ403によって不揮発性メモリ402より取出した値Icr(Xm)、Icr(Xn)に基づき、キャリッジ103の位置範囲Xm〜Xnに対応する基準電流値Ith(m−n)を算出し(S708)、比較演算器207へ送信する。比較演算器207はASIC401より受信した基準電流値Ith(m−n)と、キャリッジ103が位置XmからXnへと移動している間のモータドライバ208から取り出した電流値Icr(m−n)との比較演算処理を行う。処理された判定結果は検出信号Voutとしてモータドライバ208へ出力される(S711)。このとき比較演算結果がIcr(m−n)>Ith(m−n)であった場合には、第1の実施形態と同様に、比較検出器207から電源電圧レベルの検出信号Voutが出力される。この検出信号Voutを受けたモータドライバ208は即座に主査モータ210に逆起電力を発生させるように動作し、キャリッジ103を瞬時に停止させる(S712)。その後は主走査モータ210を逆転駆動させて、キャリッジ103を退避させる(S713)。
【0036】
以上のようにキャリッジ103を動作させることで、キャリッジ103の位置によって変動する主走査モータの負荷にかかわらず、より正確かつリアルタイムにキャリッジ103の移動の異常を判定することが可能となる。
【0037】
次に、この第2の実施形態におけるキャリッジ位置に対応した主走査モータ210の基準電流値の算出方法例を図8より説明する。
図8において横軸はキャリッジ103の位置Xを示し、縦軸は横軸に示されるキャリッジ103の位置Xに対応した、主走査モータ210への電流値Icrを示している。今、キャリッジ103が位置Xaから位置Xbへ移動している場合、位置Xa、位置Xbの主走査モータ210の電流値をそれぞれIcr(Xa)、Icr(Xb)とする。この場合、このキャリッジ103の移動範囲における閾値としての基準電流値Ith(a−b)は以下のように算出される。
・Ith(a−b)=(((Icr(Xa)−Icr(Xb))/2)の絶対値)+Icr(Xa)
このとき、主走査モータ210の基準電流値は、キャリッジ103が主走査方向における所定の範囲を移動する毎に上記と同様に以下のようにして算出されるものとする。
・Ith((m−1)−(n−1))=(((Icr(Xm−1)−Icr(Xn−1))/2)の絶対値)+Icr(Xm−1)
・Ith(m−n)=(((Icr(Xm)−Icr(Xn))/2)の絶対値)+Icr(Xm)
上記のようにして算出された基準電流値Ith(m−n)は、比較演算器207へと送信され、キャリッジ位置範囲Xm−Xnにおける主走査モータの検出電流値Icr(m−n)と比較演算される。
【0038】
次に、第2の実施形態における不揮発性メモリ402への主走査モータ210の電流値保存形式の一例を図9により説明する。
図9において、不揮発性メモリ402のアドレスには、キャリッジ位置情報を割り当てるものとする。具体的にはキャリッジエンコーダ211より得られるパルス信号が方向検出・位置カウンタ213に入力される。方向検出・位置カウンタ213は、キャリッジ起動位置X0から所定位置Xaまでにキャリッジエンコーダ211より出力されるパルス信号をカウントし、そのカウント値を不揮発性メモリ402の所定アドレスに変換する。またこれと同時に、主走査モータ210から検出される電流値Icr(Xa)を、上記変換された所定のアドレスに保存させる。このような形式でキャリッジ103がキャリッジ停止位置Xmaxへと移動するまで、上記キャリッジ位置のアドレス変換と電流値の保存を順次行っていく。
【0039】
上記のような不揮発性メモリ402に保存する電流値は、上記第1の実施形態における閾値の更新と同様に、キャリッジ103の累積駆動時間が所定の時間に達する毎に最新の電流値として更新される。また、更新のタイミングは、インクジェット記録装置の電源が投入されたとき、キャリッジが初期化動作を行うタイミング、あるいは記録枚数をカウントし所定のカウント数に達したタイミングなど、他の任意のタイミングに定めることも可能である。
【0040】
このように、不揮発性メモリ402に保存する電流値を更新し、その電流値に基づいて閾値を定めるため、キャリッジおよびその支持部材などの経時変化に伴ってキャリッジの負荷が変動した場合にも、正確にキャリッジの駆動負荷の異常を判断することができる。しかも、この第2の実施形態では、キャリッジの位置毎に閾値を求め、その閾値とキャリッジの負荷との比較演算を行う。このため、キャリッジの負荷がキャリッジの位置毎に異なっている場合でも、リアルタイムでより正確に紙ジャム等によるキャリッジの移動の異常を判断することが可能となる。そして、キャリッジの移動が異常であると判断された場合には、上記実施形態と同様に直ちに主走査モータの駆動を停止させるため、記録ヘッドの吐出口面および記録媒体の損傷を軽減することができる。
【0041】
(他の実施形態)
上記第1の実施形態では、記録媒体が所定の搬送位置であるプラテン上に存在しない状態における予め定めたタイミングで、キャリッジを移動させ、その移動時における主走査モータの電流値の平均値を基準負荷として定める場合を示した。しかし基準負荷は検出された電流値の平均値に限定されない。例えば、記録媒体がプラテン上に存在しない状態でキャリッジを移動させたときの主走査モータの電流値の中の最小値より大きく、かつ最大値以下となる一定の値を基準負荷(基準電流)として定めても良い。
【0042】
また、上記各実施形態では、基準負荷を検出する場合にキャリッジを一方向に沿って移動させた場合を例に採り説明したが、キャリッジを2回以上移動させ、その移動時に得られた主走査モータの電流値の平均値を基準負荷として設定しても良い。
【符号の説明】
【0043】
102 記録ヘッド
103 キャリッジ
104 リニアスケール
108 記録媒体
201 CPU
202 ROM
203 RAM
204 EEPROM
207 比較演算器(コンパレータ)
208 モータドライバ
209 電流検出器(I/V変換器)
210 主走査モータ
211 キャリッジエンコーダ
212 PWM信号生成部
213 方向検出・位置カウンタ
401 ASIC
402 不揮発性メモリ
403 コントローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録ヘッドを搭載したキャリッジを、所定の位置に搬送された記録媒体に対して移動させつつ前記記録ヘッドからインクを吐出することにより前記記録媒体に記録を行うインクジェット記録装置であって、
前記キャリッジを移動させる駆動手段と、
前記キャリッジの駆動における負荷を検出する負荷検出手段と、
前記所定の位置に記録媒体が存在しない状態で前記キャリッジを移動させたときの前記負荷に基づいて基準負荷を定める基準負荷設定処理を行う設定手段と、
前記設定手段により設定された基準負荷と前記所定の位置に記録媒体が存在する状態で前記キャリッジを移動させたときに前記負荷検出手段によって検出された負荷とを比較する比較手段と、
前記負荷検出手段によって検出された負荷が前記基準負荷を超えたときに前記キャリッジの移動を停止させるよう前記駆動手段を制御する制御手段と、を備え、
前記設定手段は、前記所定の位置に前記記録媒体が存在しない状態における予め定めたタイミングで前記基準負荷設定処理を実施することにより前記基準負荷を更新することを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記設定手段は、前記キャリッジを移動させたときに前記負荷検出手段によって検出された前記負荷の平均値を前記基準負荷として定めることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記設定手段は、前記キャリッジを移動させたときに前記負荷検出手段によって検出された負荷の最小値より大きく、かつ最大値以下となる一定の値を前記基準負荷として定めることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記設定手段は、前記記録媒体に対して前記記録ヘッドにより記録動作を行う範囲内で前記キャリッジを移動させたときの前記キャリッジの各位置における負荷を、前記各位置における前記基準負荷として定める基準負荷設定処理を行い、
前記比較手段は、前記設定手段により設定された基準負荷と前記所定の位置に記録媒体が存在する状態で前記キャリッジを移動させたときに前記負荷検出手段により前記キャリッジの各位置において検出される負荷とを比較し、
前記制御手段は、前記負荷検出手段によって検出された負荷が前記基準負荷を超えたときに前記キャリッジの移動を停止させるよう前記駆動手段を制御する請求項1ないし3のいずれかに記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
前記駆動手段は、モータであり、
前記キャリッジの駆動時の負荷は前記モータの駆動電流であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載のインクジェット記録装置。
【請求項6】
前記制御手段は、前記比較手段の負荷が所定の値を超えたときに前記キャリッジの移動を停止させるよう前記モータに逆起電力を発生させて前記モータの駆動を停止させることにより前記キャリッジの移動を瞬時に停止させることを特徴とする請求項4に記載のインクジェット記録装置。
【請求項7】
記録ヘッドを搭載したキャリッジを、所定の位置に搬送された記録媒体に対して移動させつつ前記記録ヘッドからインクを吐出することにより前記記録媒体に記録を行うインクジェット記録装置の制御方法であって、
前記キャリッジの駆動時の負荷を検出する負荷検出工程と、
前記所定の位置に記録媒体が存在しない状態で前記キャリッジを移動させたときの前記負荷に基づいて基準負荷を定める基準負荷設定処理を行う基準負荷設定工程と、
前記基準負荷設定工程により設定された基準負荷と前記所定の位置に記録媒体が存在する状態で前記キャリッジを移動させたときに前記負荷検出工程で検出された負荷とを比較する工程と、
前記負荷検出工程によって検出された負荷が前記基準負荷を超えたときに前記キャリッジの移動を停止させるよう前記キャリッジの駆動を制御する制御工程と、を備え、
前記基準負荷設定工程は、前記所定の位置に前記記録媒体が存在しない状態における予め定めたタイミングで前記基準負荷設定処理を実施することにより前記基準負荷を更新することを特徴とするインクジェット記録装置の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−111144(P2012−111144A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−262501(P2010−262501)
【出願日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【出願人】(000208743)キヤノンファインテック株式会社 (1,218)
【Fターム(参考)】