説明

インクジェット記録装置

【課題】装置の大型化を抑えつつ、インクジェットヘッドの圧力を適切に調整でき、待機中はインクを安定して保持できるインク循環式のインクジェット記録装置を提供する。
【解決手段】インクジェット記録装置1は、インク循環経路19を介してインクの循環を行うための圧力をエアポンプ14により上流タンク6および下流タンク3に付与し、インク循環中は、その圧力を上流タンク圧力調整器16および下流タンク圧力調整器15により維持する。上流タンク6と下流タンク3とは、大気開放状態において、貯留するインクの液面位置が、鉛直方向において略同じ高さで、インクジェットヘッド7のインク吐出面71aよりも低い位置になるように配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットヘッドからインクを吐出して記録媒体に記録を行うインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、インク循環式のインクジェット記録装置が知られている。
【0003】
特許文献1に記載のインク循環式のインクジェット記録装置は、インクジェットヘッドと、その上流側および下流側にそれぞれ配置されたインクタンクとを備える。これらは互いに配管によって接続されている。上流側のインクタンク(上流タンク)からインクジェットヘッドにインクが供給されて、インクの吐出が行われる。インクジェットヘッドで消費されなかったインクは下流側のインクタンク(下流タンク)に回収される。
【0004】
このインクジェット記録装置において、インクジェットヘッドは、下流タンクより高い位置に配置され、上流タンクは、インクジェットヘッドより高い位置に配置されている。この位置関係に基づく水頭差により、上流タンクからインクジェットヘッドへのインクの供給、およびインクジェットヘッドから下流タンクへのインクの回収が行われる。下流タンクに貯留されたインクはポンプで上流タンクに送られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−297961号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ノズルが高密度で配置された高解像度のインクジェットヘッドの場合、インクジェットヘッド内のインクの流路が狭く、流路抵抗が大きくなる。このため、インクジェットヘッドにおいて必要なインク流量を確保するためには、インクジェットヘッドに大きな圧力を加えることが必要となる。
【0007】
上述のようなインク循環式のインクジェット記録装置では、インクジェットヘッドに加える圧力を大きくするには、インクジェットヘッドと上流タンクとの高低差を大きくする必要がある。これは、装置の大型化を招く。高粘度のインクを用いる場合等にも同様の不都合がある。
【0008】
また、上述のようなインク循環式のインクジェット記録装置では、インク循環を行わない待機中は、上流タンクから下流タンクにインクが流れることを防止するため、上流タンクの大気開放弁を閉じて密閉状態にしていた。しかし、待機中に、大気開放弁からのエアリークにより上流タンクから下流タンクにインクが流れ、下流タンクがオーバーフローするおそれがあった。
【0009】
このように、従来のインク循環式のインクジェット記録装置では、インクジェットヘッドの圧力を適切に調整するために装置を大型化しなければならないことがあった。また、待機中において、下流タンクのオーバーフローが発生するなどして、インクを安定して保持できないことがあった。
【0010】
本発明は上記に鑑みてなされたもので、装置の大型化を抑えつつ、インクジェットヘッドの圧力を適切に調整でき、待機中はインクを安定して保持できるインク循環式のインクジェット記録装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明に係るインクジェット記録装置の第1の特徴は、インクを吐出するインクジェットヘッドと、前記インクジェットヘッドに供給するインクを貯留する第1のタンクと、前記インクジェットヘッドで消費されなかったインクを貯留する第2のタンクと、前記第1のタンク、前記インクジェットヘッド、および前記第2のタンクの間でインクの循環を行うためのインク循環経路と、前記インク循環経路を介してインクの循環を行うための圧力を前記第1および第2のタンクに付与する圧力付与部と、インクの循環中に前記第1のタンク内の圧力を調整する第1の圧力調整部と、インクの循環中に前記第2のタンク内の圧力を調整する第2の圧力調整部とを備え、前記第1のタンクと前記第2のタンクとは、大気開放状態において、貯留するインクの液面位置が、鉛直方向において略同じ高さで、前記インクジェットヘッドのインク吐出面よりも低い位置になるように配置されていることにある。
【0012】
本発明に係るインクジェット記録装置の第2の特徴は、前記第1の圧力調整部と前記第2の圧力調整部とが一体で構成されていることにある。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るインクジェット記録装置の第1の特徴によれば、圧力付与部が、インクの循環を行うための圧力を第1および第2のタンクに付与し、インクの循環中は、第1および第2の圧力調整部が第1および第2のタンク内の圧力を調整する。これにより、第1のタンクをインクジェットヘッドに対して高い位置に配置する必要がないので、装置の大型化を抑えつつ、インクジェットヘッドの圧力を適切に調整できる。また、第1のタンクと第2のタンクとが、大気開放状態において、貯留するインクの液面位置が、鉛直方向において略同じ高さで、インクジェットヘッドのインク吐出面よりも低い位置になるように配置されている。これにより、待機中において、第1および第2のタンクを大気開放状態としてもタンク間のインクの流れがなく、また、インクジェットヘッドのノズルからインクがあふれることを防止でき、安定してインクを保持することができる。
【0014】
本発明に係るインクジェット記録装置の第2の特徴によれば、第1の圧力調整部と第2の圧力調整部とが一体で構成されているので、装置をより小型化できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施の形態に係るインクジェット記録装置の概略構成図である。
【図2】図1に示すインクジェット記録装置の制御系の構成を示すブロック図である。
【図3】図1に示すインクジェット記録装置で記録を行う際の動作を説明するためのフローチャートである。
【図4】図1に示すインクジェット記録装置の液面維持動作を説明するためのフローチャートである。
【図5】実施の形態の変形例に係るインクジェット記録装置の概略構成図である。
【図6】図5に示すインクジェット記録装置の圧力調整器の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。各図面を通じて同一もしくは同等の部位や構成要素には、同一もしくは同等の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、現実のものとは異なることに留意すべきである。
【0017】
また、以下に示す実施の形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置等を例示するものであって、この発明の技術的思想は、各構成部品の配置等を下記のものに特定するものでない。この発明の技術的思想は、特許請求の範囲において、種々の変更を加えることができる。
【0018】
図1は、本発明の実施の形態に係るインクジェット記録装置の概略構成図である。なお、以下の説明における上下方向は鉛直方向であり、図1において示す上下方向を示すものとする。
【0019】
図1に示すように、本実施の形態に係るインクジェット記録装置1は、インクボトル2と、下流タンク3と、インクポンプ4と、インクフィルタ5と、上流タンク6と、インクジェットヘッド7と、インク用配管8a〜8dと、インク補給弁9と、空気用配管10a〜10eと、エアフィルタ11と、下流タンク大気開放弁12と、上流タンク大気開放弁13と、エアポンプ14と、下流タンク圧力調整器15と、上流タンク圧力調整器16と、圧力計17,18とを備える。
【0020】
インクボトル2は、インクジェット記録装置1で記録に用いるインクを保持している。インクボトル2内のインクは、インク用配管8aを介して下流タンク3に供給される。
【0021】
下流タンク3は、インクボトル2から供給されるインクを貯留するものである。また、下流タンク3は、インクジェットヘッド7による吐出動作で消費されなかったインクを貯留する。下流タンク3は、請求項の第2のタンクに相当する。
【0022】
下流タンク3は、インクボトル2より下方(低い位置)に配置される。また、下流タンク3は、貯留するインクの液面位置が、最も高いときでも、インクジェットヘッド7のインク吐出面71aよりも下方になるように配置される。下流タンク3には、インクボトル2からインク用配管8aを介してインクが供給される。また、下流タンク3には、インクジェットヘッド7で消費されなかったインクがインク用配管8bを介して回収される。下流タンク3は、空気用配管10a,10bを介して大気開放可能となっている。
【0023】
下流タンク3には、下流タンク液面センサ31が設けられている。下流タンク液面センサ31は、下流タンク3内のインクの液面の高さが下限値である高さH1以上である場合に「ON」を示す信号を出力し、高さH1未満である場合に「OFF」を示す信号を出力する。
【0024】
インクポンプ4は、インク用配管8cを介して下流タンク3から上流タンク6にインクを送るものである。インクポンプ4は、インク用配管8cの途中に設けられている。
【0025】
インクフィルタ5は、インク用配管8cを流れるインク中のごみや気泡等を除去するものである。インクフィルタ5は、インク用配管8cの途中に設けられている。
【0026】
上流タンク6は、インクジェットヘッド7に供給するインクを貯留するものである。上流タンク6のインクは、インク用配管8dを介してインクジェットヘッド7に供給される。上流タンク6には、下流タンク3からインクポンプ4の駆動によりインク用配管8cを介してインクが供給される。上流タンク6は、請求項の第1のタンクに相当する。
【0027】
上流タンク6は、鉛直方向において下流タンク3と略同じ高さに設けられ、貯留するインクの液面位置が、最も高いときでも、インクジェットヘッド7のインク吐出面71aよりも下方になるように配置される。上流タンク6は、空気用配管10bを介して大気開放可能となっている。
【0028】
上流タンク6には、上流タンク液面センサ61が設けられている。上流タンク液面センサ61は、上流タンク6内のインクの液面の高さが下限値である高さH2以上である場合に「ON」を示す信号を出力し、高さH2未満である場合に「OFF」を示す信号を出力する。
【0029】
上流タンク6および下流タンク3は、インク非循環時(待機中)において大気開放されるが、この大気開放状態において上流タンク6および下流タンク3のインクの液面位置が略同じ高さとなるように配置されている。
【0030】
インクジェットヘッド7は、上流タンク6から供給されるインクを用紙等の記録媒体に吐出して画像を記録するものである。インクジェットヘッド7は、複数の単位ヘッド71と、分配器72と、集合器73とを備える。
【0031】
単位ヘッド71は、複数のノズルと、インク室と、インク吐出機構(いずれも図示せず)とを備える。インク吐出機構は、例えば、ピエゾ素子を用いてインク室を変形させることによりノズルからインクを吐出させるものである。
【0032】
分配器72は、インク用配管8dを介して上流タンク6から供給されるインクを各単位ヘッド71に分配するものである。
【0033】
集合器73は、各単位ヘッド71でインク吐出動作により消費されなかったインクを集めるものである。集合器73で集められたインクは、インク用配管8bを介して下流タンク3へと流れる。
【0034】
インクジェットヘッド7は、単位ヘッド71のインク吐出面(ノズル面)71aが、下流タンク3および上流タンク6において貯留されるインクの液面位置よりも上方(高い位置)になるように配置されている。
【0035】
インク用配管8aは、インクボトル2と下流タンク3とを接続する。インク用配管8aには、インクボトル2から下流タンク3に向かってインクが流れる。
【0036】
インク用配管8bは、インクジェットヘッド7の集合器73と下流タンク3とを接続する。インク用配管8bには、集合器73から下流タンク3に向かってインクが流れる。
【0037】
インク用配管8cは、下流タンク3と上流タンク6とを接続する。インク用配管8cには、インクポンプ4の駆動により、下流タンク3から上流タンク6に向かってインクが流れる。
【0038】
インク用配管8dは、上流タンク6とインクジェットヘッド7の分配器72とを接続する。インク用配管8dには、上流タンク6から分配器72に向かってインクが流れる。
【0039】
インク用配管8b〜8dは、上流タンク6、インクジェットヘッド7、および下流タンク3の間でインクの循環を行うためのインク循環経路19を構成する。このインク循環経路19において、インクは矢印Aで示す方向に流れる。
【0040】
インク補給弁9は、インク用配管8aに設けられ、インク用配管8a内のインクの流路を開閉するものである。インク補給弁9が開かれるとインクボトル2から下流タンク3へとインクが供給される。
【0041】
空気用配管10aは、一端が下流タンク3に接続され、他端が空気用配管10bに接続されている。空気用配管10a,10bを介して下流タンク3が大気開放可能になっている。
【0042】
空気用配管10bは、一端が上流タンク6に接続され、他端(開放端)がエアフィルタ11を介して大気に通じている。
【0043】
空気用配管10cは、一端が空気用配管10aに接続され、他端が空気用配管10bに接続されている。エアポンプ14の駆動により、空気用配管10cを介して空気が空気用配管10aから空気用配管10bに送られる。空気用配管10cの一端は、下流タンク大気開放弁12より下流タンク3側において空気用配管10aに接続されている。空気用配管10cの他端は、上流タンク大気開放弁13より上流タンク6側において空気用配管10bに接続されている。
【0044】
空気用配管10dは、一端が空気用配管10aに接続され、他端が下流タンク圧力調整器15に接続されている。空気用配管10dの一端は、下流タンク大気開放弁12より下流タンク3側において空気用配管10aに接続されている。
【0045】
空気用配管10eは、一端が空気用配管10bに接続され、他端が上流タンク圧力調整器16に接続されている。空気用配管10eの一端は、上流タンク大気開放弁13より上流タンク6側において空気用配管10bに接続されている。
【0046】
エアフィルタ11は、空気用配管10bの開放端に設けられ、外部の空気中のごみ等の進入を防止するものである。
【0047】
下流タンク大気開放弁12は、空気用配管10aに設けられ、空気用配管10a内の空気の流路を開閉するものである。下流タンク大気開放弁12が開かれると下流タンク3が大気開放される。インク循環中(記録動作中)は、下流タンク大気開放弁12は閉じられており、インク非循環時(待機中)は、下流タンク大気開放弁12は開かれている。
【0048】
上流タンク大気開放弁13は、空気用配管10bに設けられ、空気用配管10b内の空気の流路を開閉するものである。上流タンク大気開放弁13が開かれると上流タンク6が大気開放される。インク循環中(記録動作中)は、上流タンク大気開放弁13は閉じられており、インク非循環時(待機中)は、上流タンク大気開放弁13は開かれている。
【0049】
エアポンプ14は、空気用配管10cの途中に設けられ、インク循環経路19を介してインクの循環を行うための圧力を上流タンク6および下流タンク3に付与するためのものである。具体的には、エアポンプ14は、インク循環開始時に、下流タンク大気開放弁12および上流タンク大気開放弁13がともに閉じられた状態で駆動され、下流タンク3側(空気用配管10a側)から上流タンク6側(空気用配管10b側)に向けて空気を送る。これにより、エアポンプ14は、下流タンク3を減圧し、上流タンク6を加圧する。これにより、上流タンク6内のインクがインク用配管8dを介してインクジェットヘッド7に送られる。エアポンプ14は、請求項の圧力付与部に相当する。
【0050】
下流タンク圧力調整器15は、インク循環中(記録動作中)に下流タンク3内の圧力が一定となるように調整するためのものである。下流タンク圧力調整器15は、請求項の第2の圧力調整部に相当する。下流タンク圧力調整器15は、ベローズ151と、錘152とを備える。
【0051】
ベローズ151は、上端の開口部が空気用配管10dの他端に接続され、ベローズ151の内部空間は、空気用配管10d,10aを介して下流タンク3内部に連通している。ベローズ151の下端は封止されている。ベローズ151は、弾性部材からなり、上下方向に伸縮可能であり、伸縮に応じて内部空間の体積が変動する。
【0052】
錘152は、ベローズ151の下端に取り付けられている。錘152は、インク非循環時(待機中)においては所定の初期位置にあり、ベローズ151を所定の長さに伸長させている。インク循環開始時において、下流タンク3内およびこれに連通するベローズ151内が減圧されることにより、錘152は初期位置から浮上する。インク循環中は、錘152は初期位置から浮上した状態であり、ベローズ151内および下流タンク3内の圧力(負圧)により錘152に作用する上向きの力が、錘152の重力と釣り合うように維持される。下流タンク3のインクの液面位置が上下動して下流タンク3内の空気の体積が変動しても、ベローズ151が伸縮してその変動を吸収することで、ベローズ151内および下流タンク3内の圧力変動が抑えられる。
【0053】
上流タンク圧力調整器16は、インク循環中(記録動作中)に上流タンク6内の圧力が一定となるように調整するためのものである。上流タンク圧力調整器16は、請求項の第1の圧力調整部に相当する。上流タンク圧力調整器16は、ベローズ161と、錘162とを備える。
【0054】
ベローズ161は、下端の開口部が空気用配管10eの他端に接続され、ベローズ161の内部空間は、空気用配管10e,10bを介して上流タンク6内部に連通している。ベローズ161の上端は封止されている。ベローズ161は、弾性部材からなり、上下方向に伸縮可能であり、伸縮に応じて内部空間の体積が変動する。
【0055】
錘162は、ベローズ161の上端に取り付けられている。錘162は、インク非循環時(待機中)においてはベローズ161を圧縮する所定の初期位置にある。インク循環開始時において、上流タンク6内およびこれに連通するベローズ161内が加圧されることにより、錘162は初期位置から浮上する。インク循環中は、錘162は初期位置から浮上した状態であり、ベローズ161内および上流タンク6内の圧力(正圧)により錘152に作用する上向きの力が、錘152の重力と釣り合うように維持される。上流タンク6のインクの液面位置が上下動して上流タンク6内の空気の体積が変動しても、ベローズ161が伸縮してその変動を吸収することで、ベローズ161内および上流タンク6内の圧力変動が抑えられる。
【0056】
圧力計17,18はそれぞれ、下流タンク3内、上流タンク6内の圧力を測定するためのものである。圧力計17は、下流タンク大気開放弁12より下流タンク3側において、空気用配管10aに設けられている。圧力計18は、上流タンク大気開放弁13より上流タンク6側において、空気用配管10bに設けられている。インク循環開始時は、下流タンク大気開放弁12および上流タンク大気開放弁13が閉じられるので、空気用配管10a内、空気用配管10b内の圧力を、それぞれ下流タンク3内、上流タンク6内の圧力として計測することができる。なお、圧力計17,18は、下流タンク3内、上流タンク6内の圧力を測定できる場所であればどこに設けられていてもよい。
【0057】
図2は、インクジェット記録装置1の制御系の構成を示すブロック図である。図2に示すように、インクジェット記録装置1は、制御部20を備える。
【0058】
制御部20は、CPU、ROM、RAM(いずれも図示せず)等を備えて構成される。制御部20は、インクポンプ4、インクジェットヘッド7、インク補給弁9、下流タンク大気開放弁12、上流タンク大気開放弁13、およびエアポンプ14の動作を制御する。制御部20には、下流タンク液面センサ31、上流タンク液面センサ61、および圧力計17,18の出力が導かれている。
【0059】
次に、インクジェット記録装置1の動作について説明する。
【0060】
図3は、インクジェット記録装置1で記録を行う際の動作を説明するためのフローチャートである。
【0061】
まず、ステップS10において、制御部20は、液面維持動作を開始する。この液面維持動作については後述する。
【0062】
次いで、ステップS20において、制御部20は、下流タンク大気開放弁12と上流タンク大気開放弁13とをともに閉じるよう制御する。
【0063】
次いで、ステップS30において、制御部20は、エアポンプ14の駆動を開始させる。これにより、下流タンク3から上流タンク6へと空気が送られることで、下流タンク3が減圧され、上流タンク6が加圧される。この結果、下流タンク3と上流タンク6との間に圧力差が生じ、上流タンク6からインク用配管8d、インクジェットヘッド7、インク用配管8bを介して下流タンク3へと向かうインクの流れが生じ始める。また、下流タンク3に連通する下流タンク圧力調整器15のベローズ151内が減圧され、上流タンク6に連通する上流タンク圧力調整器16のベローズ161内が加圧される。これにより、下流タンク圧力調整器15の錘152および上流タンク圧力調整器16の錘162が、それぞれ初期位置から浮上する。
【0064】
次いで、ステップS40において、制御部20は、圧力計17,18の出力に基づき、下流タンク3内の圧力P1が所定の負圧PAになり、かつ、上流タンク6内の圧力P2が所定の正圧PBになったか否かを判断する。負圧PA、正圧PBは、インク循環経路19を介してインクを循環しつつ、インクジェットヘッド7から安定してインクの吐出を行うために適切な圧力として予め設定された値である。制御部20は、「P1=PAかつP2=PB」にはなっていないと判断した場合(ステップS40:NO)、ステップS40の処理を繰り返す。
【0065】
制御部20は、「P1=PAかつP2=PB」になっていると判断した場合(ステップS40:YES)、ステップS50において、エアポンプ14を停止させる。以上により、インク循環経路19を介してインクが循環される循環状態となる。なお、圧力計17,18を用いず、予め設定した所定時間だけエアポンプ14を駆動させるようにしてもよい。
【0066】
次いで、ステップS60において、制御部20は、画像データに基づいてインクジェットヘッド7からインクを吐出する動作を開始させる。インクジェットヘッド7には、インク用配管8dを介して上流タンク6からインクが供給され、単位ヘッド71のインク吐出動作で消費されなかったインクが、インク用配管8bを介して下流タンク3へと流れる。
【0067】
インク吐出動作中は、上流タンク6から下流タンク3にインクが移動し、また、単位ヘッド71からの吐出によりインクが消費されることや、後述する液面維持動作により、下流タンク3および上流タンク6のインクの液面位置が変動する。これに対し、インクジェット記録装置1では、下流タンク圧力調整器15および上流タンク圧力調整器16により、インクの液面位置が変動しても、下流タンク3内および上流タンク6内の圧力が、それぞれ負圧PA、正圧PBで一定に維持される。これにより、下流タンク3と上流タンク6との圧力差が維持される。
【0068】
ステップS70では、制御部20は、画像データに基づくインク吐出が終了したか否かを判断する。インク吐出が終了していないと判断した場合(ステップS70:NO)、制御部20は、ステップS70の処理を繰り返す。
【0069】
インク吐出が終了したと判断した場合(ステップS70:YES)、ステップS80において、制御部20は、下流タンク大気開放弁12と上流タンク大気開放弁13とをともに開くよう制御する。これにより、下流タンク3および上流タンク6が大気開放され、インクの循環状態が終了する。
【0070】
そして、ステップS90において、制御部20は、液面維持動作を終了する。以上により、インクジェット記録装置1の記録動作は終了し、待機状態となる。
【0071】
ここで、インクジェット記録装置1が循環状態から待機状態に移行した時点で下流タンク3と上流タンク6とでインクの液面位置に差がある場合、インクがインク用配管8b,8dおよびインクジェットヘッド7を介して徐々に移動する。そして、最終的に両タンクのインクの液面は略同じ高さとなる。
【0072】
次に、液面維持動作について説明する。液面維持動作は、記録動作中に、下流タンク液面センサ31および上流タンク液面センサ61の出力に基づき、インクポンプ4の駆動やインクの補給を行って、両タンクの液面の高さおよび循環されるインク量を維持するために行われる。
【0073】
図4は、インクジェット記録装置1の液面維持動作を説明するためのフローチャートである。まず、ステップS110において、制御部20は、上流タンク液面センサ61の出力が「ON」であるか否かを判断する。
【0074】
上流タンク液面センサ61の出力が「ON」であると判断した場合(ステップS110:YES)、制御部20は、ステップS120において、液面維持動作を終了するか否かを判断する。制御部20は、前述した図3のステップS80までが終了した場合、液面維持動作を終了すると判断する。制御部20は、液面維持動作を終了すると判断した場合(ステップS120:YES)、そのまま処理を終了し、液面維持動作を終了しないと判断した場合(ステップS120:NO)、ステップS110に戻る。
【0075】
上流タンク液面センサ61の出力が「OFF」であると判断した場合(ステップS110:NO)、ステップS130において、制御部20は、下流タンク液面センサ31の出力が「ON」であるか否かを判断する。
【0076】
下流タンク液面センサ31の出力が「ON」であると判断した場合(ステップS130:YES)、ステップS140において、制御部20は、インクポンプ4の駆動を開始させる。これにより、インク用配管8cを介して下流タンク3から上流タンク6にインクが供給される。
【0077】
次いで、ステップS150において、上流タンク液面センサ61の出力が「ON」であるか否かを判断する。上流タンク液面センサ61の出力が「OFF」であると判断した場合(ステップS150:NO)、制御部20は、ステップS150の処理を繰り返す。
【0078】
上流タンク液面センサ61の出力が「ON」であると判断した場合(ステップS150:YES)、ステップS160において、制御部20は、インクポンプ4を停止させる。これにより、下流タンク3から上流タンク6へのインクの供給が停止する。その後、制御部20は、ステップS110に戻り、以降の処理を繰り返す。
【0079】
一方、ステップS130において、下流タンク液面センサ31の出力が「OFF」であると判断した場合(ステップS130:NO)、ステップS170において、制御部20は、インク補給弁9を開くよう制御する。これにより、インクボトル2からインク用配管8aを介して下流タンク3へのインクの補給が開始される。
【0080】
次いで、ステップS180において、下流タンク液面センサ31の出力が「ON」であるか否かを判断する。下流タンク液面センサ31の出力が「OFF」であると判断した場合(ステップS180:NO)、制御部20は、ステップS180の処理を繰り返す。
【0081】
下流タンク液面センサ31の出力が「ON」であると判断した場合(ステップS180:YES)、ステップS190において、制御部20は、インク補給弁9を閉じるよう制御する。これにより、インクボトル2から下流タンク3へのインクの補給が停止される。その後、制御部20は、ステップS110に戻り、以降の処理を繰り返す。
【0082】
以上説明したように、本実施の形態のインクジェット記録装置1では、インク循環開始時にエアポンプ14により下流タンク3および上流タンク6に圧力を付与し、インク循環中は、その圧力を下流タンク圧力調整器15および上流タンク圧力調整器16により維持する。下流タンク圧力調整器15、上流タンク圧力調整器16のベローズ151,161の材質、錘152,162の重さ等を調整することで、インクジェットヘッド7の圧力を所望の圧力に設定することが可能である。従来のインク循環式のインクジェット記録装置では、上流タンクをインクジェットヘッドより高い位置に設置して両者の水頭差によりインクジェットヘッドに圧力を加えていた。このため、インクジェットヘッドの圧力を大きくするためには、上流タンクとインクジェットヘッドとの高低差を大きくする必要があり、装置の大型化を招いていた。これに対し、本実施の形態のインクジェット記録装置1では、インクジェットヘッド7に対して上流タンク6を高い位置に配置する必要がないので、装置の大型化を抑えつつ、インクジェットヘッドの圧力を適切に調整できる。
【0083】
また、従来のインク循環式のインクジェット記録装置では、待機中は、上方にある上流タンクから下方にある下流タンクにインクが流れることを防止するため、上流タンクの大気開放弁を閉じて密閉状態にしていた。しかし、大気開放弁からのエアリークにより上流タンクから下流タンクにインクが流れ、下流タンクがオーバーフローするおそれがあった。これに対し、本実施の形態のインクジェット記録装置1では、下流タンク3と上流タンク6とを、大気開放したときにインクの液面位置が略同じ高さとなるように配置しているので、待機中において、両タンクを大気開放できる。これにより、上記のような、下流タンクにインクが流れることによるオーバーフローを防止できる。
【0084】
また、本実施の形態のインクジェット記録装置1では、下流タンク3および上流タンク6のインクの液面位置がインク吐出面71aよりも低い位置になるようにしている。このため、待機中に両タンクを大気開放しても、インクジェットヘッド7の単位ヘッド71のノズルからインクがあふれることを防止できる。下流タンク3および上流タンク6のインクの液面位置がインク吐出面71aよりも高い位置にあると、大気開放すると両タンクからインクジェットヘッド7にインクが流れ、ノズルからインクがあふれるおそれがある。
【0085】
このように、上流タンク6と下流タンク3とが、インクの液面位置が、大気開放状態において略同じ高さで、インク吐出面71aよりも低い位置になるように配置されていることで、インクジェット記録装置1は、待機中も安定してインクを保持することができる。
【0086】
ただし、下流タンク3および上流タンク6のインクの液面位置がインク吐出面71a対して低すぎると、待機中、水頭差により単位ヘッド71のノズルにかかる負圧が大きくなすぎ、ノズルのメニスカスが壊れてノズルに空気が入るおそれがある。このため、下流タンク3および上流タンク6の上下方向の位置は適度に設定する必要がある。
【0087】
(変形例)
図5は、本発明の実施の形態の変形例に係るインクジェット記録装置の概略構成図である。
【0088】
図5に示すように、本変形例に係るインクジェット記録装置1Aは、図1のインクジェット記録装置1に対し、下流タンク圧力調整器15および上流タンク圧力調整器16を省略し、圧力調整器21を備えた構成である。
【0089】
図6は、圧力調整器21の構成を示す断面図である。図6は、圧力調整器21の中心軸に沿う断面を示す。圧力調整器21は、インク循環中(記録動作中)に上流タンク6内の圧力を調整する第1の圧力調整部としての機能と、下流タンク3内の圧力を調整する第2の圧力調整部としての機能とを有する。つまり、圧力調整器21は、第1の圧力調整部と第2の圧力調整部とが一体で構成されたものである。圧力調整器21は、ベローズカバー211と、ベローズ212と、錘213とを備える。
【0090】
ベローズカバー211は、筒状の胴部214と、胴部214の上端を塞ぐ天板215と、胴部214の下端を塞ぐ底板216とを備えた密閉容器状に構成されている。天板215には空気用配管10dの他端が接続され、底板216には空気用配管10eの他端が接続されている。ベローズカバー211の内部空間217は、空気用配管10e,10bを介して上流タンク6内部に連通している。
【0091】
ベローズ212は、上端の開口部が天板215に接続され、ベローズ212の内部空間218は、空気用配管10d,10aを介して下流タンク3内部に連通している。ベローズ212の下端は封止されている。ベローズ212は、弾性部材からなり、上下方向に伸縮可能であり、伸縮に応じて内部空間218の体積が変動する。ベローズ212および錘213がベローズカバー211内に設けられているので、ベローズ212の伸縮に連動して、ベローズカバー211の内部空間217の体積も変動する。
【0092】
錘213は、ベローズ212の下端に取り付けられている。錘213は、インク非循環時(待機中)においては底板216上に載置されている。インク循環開始時において、下流タンク3内およびこれに連通するベローズ212の内部空間218が減圧され、上流タンク6内およびこれに連通するベローズカバー211の内部空間217が加圧されることにより、錘213は底板216から浮上する。インク循環中は、錘213は底板216から浮上した状態である。そして、ベローズ212の内部空間218および下流タンク3内の圧力(負圧)により錘213に作用する上向きの力と、ベローズカバー211の内部空間217および上流タンク6内の圧力(正圧)により錘213に作用する上向きの力との和が、錘213の重力と釣り合うように維持される。
【0093】
下流タンク3および上流タンク6のインクの液面位置が上下動して両タンク内の空気の体積が変動しても、それに応じてベローズ212が伸縮してベローズ212の内部空間218およびベローズカバー211の内部空間217の体積が変動することで、内部空間217,218、下流タンク3内、上流タンク6内の圧力変動が抑えられる。
【0094】
本変形例のインクジェット記録装置1Aによれば、下流タンク3および上流タンク6の圧力調整を1つの圧力調整器21で行うので、上記実施の形態で説明した図1のインクジェット記録装置1と同様の効果に加えて、装置をより小型化できるという効果が得られる。
【0095】
また、圧力調整器21では、ベローズ212の内部空間218およびベローズカバー211の内部空間217の体積が連動して変動する。このため、両タンク内の圧力差を所定範囲内に保つことが容易にできる。
【0096】
なお、圧力調整器21では、内部空間217,218の体積の変動が連動するため、下流タンク3へインクボトル2からインクが補給されたときのように、一時的に一方のタンクのインクの液面位置が大きく変動した場合、両タンクの圧力差が所定範囲外になることがある。ただし、これは一時的であり、圧力調整器21は、インクの循環状態において全体として、両タンク内の圧力差を所定範囲内に保つことができる。
【符号の説明】
【0097】
1,1A インクジェット記録装置
2 インクボトル
3 下流タンク
4 インクポンプ
6 上流タンク
7 インクジェットヘッド
8a〜8d インク用配管
9 インク補給弁
10a〜10e 空気用配管
12 下流タンク大気開放弁
13 上流タンク大気開放弁
14 エアポンプ
15 下流タンク圧力調整器
16 上流タンク圧力調整器
17,18 圧力計
19 インク循環経路
20 制御部
21 圧力調整器
31 下流タンク液面センサ
61 上流タンク液面センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを吐出するインクジェットヘッドと、
前記インクジェットヘッドに供給するインクを貯留する第1のタンクと、
前記インクジェットヘッドで消費されなかったインクを貯留する第2のタンクと、
前記第1のタンク、前記インクジェットヘッド、および前記第2のタンクの間でインクの循環を行うためのインク循環経路と、
前記インク循環経路を介してインクの循環を行うための圧力を前記第1および第2のタンクに付与する圧力付与部と、
インクの循環中に前記第1のタンク内の圧力を調整する第1の圧力調整部と、
インクの循環中に前記第2のタンク内の圧力を調整する第2の圧力調整部とを備え、
前記第1のタンクと前記第2のタンクとは、大気開放状態において、貯留するインクの液面位置が、鉛直方向において略同じ高さで、前記インクジェットヘッドのインク吐出面よりも低い位置になるように配置されていることを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記第1の圧力調整部と前記第2の圧力調整部とが一体で構成されていることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−152931(P2012−152931A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−11703(P2011−11703)
【出願日】平成23年1月24日(2011.1.24)
【出願人】(000250502)理想科学工業株式会社 (1,191)
【Fターム(参考)】