説明

インクジェット記録装置

【課題】記録後に排出された被記録媒体の変形、特に被記録媒体の湾曲(排紙カール)を抑制することが可能なフェイスダウン方式のインクジェット記録装置を提供する。
【解決手段】インク組成物を用いて被記録媒体101の主面に記録を行う記録部と、主面を下方に向けて被記録媒体101を排出する排出部150と、排出部150から排出された被記録媒体101の裏面を下方に向けて押圧し、被記録媒体101を矯正すると共に、被記録媒体101をガイドする矯正ガイド301と、被記録媒体101の湾曲量に応じて、矯正ガイド301の被記録媒体101に対する押圧力を制御する制御部111と、を備えてなるインクジェット記録装置100である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置は、インクジェットヘッドからインクの液滴を飛翔させ、紙等の被記録媒体に着弾させて記録を行う記録装置である。近年のインクジェット記録技術の革新的な進歩により、これまで写真やオフセット記録の分野であった高精細な画像記録にもインクジェット記録装置が用いられるようになってきている。このようなインクジェット記録装置では、記録を施された紙等の被記録媒体を排出する際に諸々の問題が生じるため、それを解決すべく検討が行われている。例えば、特定の構造を有するインクジェット記録装置において、記録が完了した被記録物の排出中に次の被記録物を高速で給送した場合、排出される被記録物のスタック性が確保できないという課題を解決することを意図して、排出ローラから排出される時の被記録物の搬送速度を低速で行わせる方法が提案されている。(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、複数の被記録媒体を排出した際に記録した順に積層する等、特にオフィス用途における取扱い性を重視して、記録された面を排出トレイ等の載置手段に向けて排出する、いわゆるフェイスダウン方式のプリンタが、レーザプリンタの分野で知られている。近年では、インクジェット記録装置においても、そのようなオフィス用途の利点を重視して、フェイスダウン方式の研究が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−322590号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、紙等の吸湿性及び可撓性を有する被記録媒体に対して、フェイスダウン方式のインクジェットプリンタを採用すると、下記の点で問題が生じることが知られている。即ち、インク組成物を用いて記録面(以下、「主面」という)に記録を施された被記録媒体は、その記録を施された主面から水等の溶媒が完全に除去されないうちは、その主面が膨張する。このため、被記録媒体は、その状態で排出されると、排出トレイ等の載置手段に載置される直前において、排出ローラ等の拘束手段から拘束されなくなり、被記録媒体は、膨張した主面とは反対側の面(以下、「裏面」という)の搬送方向から見た両側(搬送方向と垂直な両端部)が内側に巻回(湾曲)するカール(以下、このカールを「排紙カール」という)という現象等の変形を引き起こし、積層が困難となる。なお、排紙カールという現象は、記録を施された主面を載置手段とは反対側に向けて排出する、いわゆるフェイスアップ方式のプリンタでは、載置手段側に巻回するため、排出トレイ等の載置手段に載置されることで解消されやすい。
【0006】
そこで、本発明は、このような事情に鑑みなされたものであり、記録後に排出された被記録媒体の変形、特に被記録媒体の湾曲(排紙カール)を抑制することが可能なフェイスダウン方式のインクジェット記録装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的を達成するため、本発明は、主面と前記主面とは反対側の面である裏面とを有する被記録媒体の前記主面に、インク組成物を用いて記録を行う記録部と、前記主面を下方に向けて前記被記録媒体を排出する排出部と、前記排出部から排出中の前記被記録媒体の前記裏面を下方に向けて押圧し、当該被記録媒体を矯正する矯正ガイドと、前記排出部から排出された前記被記録媒体の湾曲量を取得する湾曲量取得部と、前記湾曲量取得部が取得した前記湾曲量に応じて、前記矯正ガイドの押圧力を制御する押圧制御部と、を備えてなるインクジェット記録装置を提供するものである。
【0008】
この構成を備えたインクジェット記録装置は、フェイスダウン方式であるが、排出部から排出された被記録媒体の湾曲量に応じて被記録媒体を矯正することができるため、被記録媒体の湾曲(排紙カール)を抑制することができ、前記被記録媒体を排出トレイ上に良好に積層することができる。
【0009】
前記湾曲量取得部は、前記被記録媒体の種類、前記被記録媒体のサイズ、前記被記録媒体の厚さ、インク組成物の吐出量及び吐出位置、記録装置内の内部環境の少なくとも一つを含む条件から前記湾曲量を推定して取得することができる。
【0010】
また、本発明に係るインクジェット記録装置は、予め登録された複数の被記録媒体の種類とサイズの中から各々一つを選択することをユーザに要求する選択画面を表示すると共に、ユーザによる前記選択結果を受け取るユーザインターフェイスをさらに備え、前記湾曲量取得部は、前記条件が前記被記録媒体の種類及びサイズを含む際に、前記ユーザインターフェイスが受け取った情報を使用することができる。この構成により、記録に使用される被記録媒体の種類とサイズを検出する必要がなく、ユーザがユーザインターフェイスの選択画面に表示された被記録媒体の種類(例えば、普通紙、再生紙、薄紙、厚紙、はがき等)と、サイズ(例えば、A4、A3、B5、B4、はがきサイズ等)を選択することで、記録に使用される被記録媒体の種類とサイズにかかる情報を取得することができる。
【0011】
そしてまた、本発明に係るインクジェット記録装置は、前記被記録媒体の種類、前記被記録媒体のサイズ、前記被記録媒体の厚さ、インク組成物の吐出量及び吐出位置、記録装置内の内部環境の少なくとも一つを含む条件から、前記湾曲量が最大となる位置を取得する湾曲位置取得部をさらに備え、前記押圧制御部は、前記湾曲位置取得部が取得した位置に、前記矯正ガイドを幅方向に移動させるよう制御することができる。このように構成することで、被記録媒体の湾曲量が最大となる位置を矯正ガイドにより押圧することができるため、さらに効率よく排紙カールを抑制することができる。
【0012】
また、前記矯正ガイドは、前記排出中の前記被記録媒体の前記裏面に対し傾斜し、前記裏面を下方に向けて押圧して当該被記録媒体を矯正する傾斜部を有し、前記押圧制御部は、前記湾曲量取得部が取得した前記湾曲量に応じて、前記傾斜部の前記被記録媒体の前記裏面に対する傾斜角度を制御する構成を有することができる。
【0013】
そしてまた、前記矯正ガイドは、前記被記録媒体の排出方向に対応する長さの変更が可能であり、前記押圧制御部は、前記湾曲量取得部が取得した前記湾曲量に応じて、前記矯正ガイドの前記長さを制御する構成を有することができる。
【0014】
さらにまた、前記矯正ガイドを、鉛直方向に移動させ、前記排出中の前記被記録媒体の裏面との間隔を変更可能であり、前記押圧制御部は、前記湾曲量取得部が取得した前記湾曲量に応じて、前記矯正ガイドの前記移動量を制御する構成を有することができる。
【0015】
また、前記矯正ガイドは、弾性部材を有し、当該弾性部材の付勢力により前記被記録媒体を矯正する構成を有することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態に係るインクジェット記録装置の一部を概略的に示す斜視図である。
【図2】図1に示すインクジェット記録装置の側面図である。
【図3】本発明の実施形態に係るインクジェット記録装置を模式的に示す概略図である。
【図4】図2に示すインクジェット記録装置の一部を拡大して示す図である。
【図5】本発明の他の実施形態に係るインクジェット記録装置の一部を拡大して示す図である。
【図6】本発明の他の実施形態に係るインクジェット記録装置の一部を拡大して示す図である。
【図7】本発明の他の実施形態に係るインクジェット記録装置の一部を拡大して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本発明の実施形態に係るインクジェット記録装置について図面を参照して説明する。なお、以下に記載される実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をこれらの実施形態にのみ限定するものではない。したがって、本発明は、その要旨を逸脱しない限り、様々な形態で実施することができる。
【0018】
図1は、本実施形態に係るインクジェット記録装置の一部を概略的に示す斜視図、図2は、図1に示すインクジェット記録装置の側面図、図3は、本発明の実施形態に係るインクジェット記録装置を模式的に示す概略図、図4は、図2に示すインクジェット記録装置の一部を拡大して示す図である。なお、前記各図では、説明を判り易くするため、各部材の厚さやサイズ、拡大・縮小率等は、実際のものとは一致させずに記載した。
【0019】
なお、本実施形態に係るインクジェット記録装置は、一般に高速及び高密度の記録が可能なライン型インクジェット記録装置であり、記録された面を下にして排出トレイに被記録媒体が積層されるフェイスダウン方式が採用されている。
【0020】
図1〜図4に示すように、本実施形態に係るインクジェット記録装置100は、インクジェット記録装置100の筐体102内に配設され、インク組成物を用いて被記録媒体101の主面に記録を行う記録部としてのインクジェットヘッドユニット190と、主面を下方に向けて被記録媒体101を筐体102から外部に排出する排出部150と、排出部150から排出された被記録媒体101の裏面を下方に向けて押圧して被記録媒体101を矯正し且つ被記録媒体101をガイドする矯正ガイド301と、矯正ガイド301を被記録媒体101の排出方向と垂直な方向であって鉛直方向に垂直な方向である幅方向(以下、単に「幅方向」と記す)に移動させる幅方向移動部350と、排出部150から排出された被記録媒体101を載置する排出トレイ106と、ユーザインターフェイス400と、各種制御を行う制御部111と、給送される被記録媒体101の位置検出をする位置検出センサ109と、を備えて構成されている。
【0021】
被記録媒体101は、吸湿性及び可撓性を有するものが好ましく、例えば、電子写真複写用紙等の普通紙、シリカ、アルミナ、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン(PVP)等を含む水溶性インク吸収層を備えたインクジェット用紙、再生紙、はがき等が挙げられる。また、水溶性インクの浸透速度が比較的小さなタイプの吸収性被記録媒体として一般のオフセット記録に用いられるアート紙、コート紙、キャスト紙等が挙げられる。
【0022】
本実施形態において、「普通紙」とは、一般に、パルプを主原料としプリンタ等に使用される紙をいい、JIS P 0001 番号6139で定義されている。具体的には、例えば、上質紙、PPCコピー紙、非塗工記録紙等を挙げることができる。普通紙は各社から市販されているものを利用することもでき、例えば、Xerox 4200(Xerox社製)、GeoCycle(Gerogia−Pacific社製)等、種々のものを利用することができる。
【0023】
インクジェットヘッドユニット190は、紙等の被記録媒体101に、インク組成物の液滴(以下、「インク滴」ともいう)を吐出し画像を記録するものであり、インクの種類に対応した複数のインクジェットヘッド110及びそれらを搭載するキャリッジ(図示せず)を備え、各インクジェットヘッド110は、被記録媒体101の幅方向に亘って全幅に対応する多数のインク吐出ノズルが各々配列されている、所謂ラインヘッドで構成されている。但し、本発明では、インクジェットヘッド110はラインヘッドに限定されず、シリアルヘッドであってもよい。
【0024】
インクジェットヘッドユニット190の下方には、記録前の被記録媒体101を収納する収納カセット104と、収納カセット104から被記録媒体101を給送する給送ローラ105と、被記録媒体101を搬送するための一対の搬送ローラ(ゲートローラ)140と、被記録媒体101を搬送する搬送ベルト130が順に配設されている。また、搬送ベルト130の下方には、搬送ベルト130の開口部(図示せず)を介して被記録媒体101を減圧吸引する減圧吸引部210が配設されている。
【0025】
給送ローラ105は、収納カセット104内部の被記録媒体101を搬送ローラ140へ送り出すためのローラであり、後に詳述する制御部111により駆動制御されるモータ118により駆動される。
【0026】
搬送ローラ140は、制御部111により駆動制御されるモータ116により駆動するローラユニットとしての駆動ローラ140Aと、駆動ローラ140Aに接触することにより従動する従動ローラ140Bとを備えている。
【0027】
搬送ベルト130は、環状に配設されており、被記録媒体101をインクジェットヘッドユニット190(記録領域)まで搬送する。この搬送ベルト130は、搬送ベルト130を駆動する駆動ローラ180と、搬送ベルト130をインクジェットヘッドユニット190の吐出口に対向させながら従動する従動ローラ170に掛け渡されており、これらのローラによって循環(移動)するようになっている。なお、駆動ローラ180は、制御部111により駆動制御されるモータ115により駆動される。但し、本発明においては、被記録媒体101の搬送に搬送ベルト130を用いなくてもよく、所謂ローラ搬送方式であってもよい。
【0028】
減圧吸引部210は、吸引ファン210Aと、それを包囲する筐体210Bとで構成されている。吸引ファン210Aは、制御部111により駆動制御されるモータ211により駆動し、搬送ベルト130上の被記録媒体101を減圧吸引する。
【0029】
排出部150は、インクジェットヘッドユニット190の下流側に配設されており、被記録媒体101を排出するための一対の排出ローラ151、152及び154と、排出ローラ151及び152間並びに排出ローラ152及び154間で被記録媒体101を搬送するための搬送路156と、を備えている。排出ローラ151は、制御部111により駆動制御されるモータ117により駆動される駆動ローラ151Aと、駆動ローラ151Aに接触することにより従動する従動ローラ151Bから構成されている。また、排出ローラ152は、制御部111により駆動制御されるモータ153により駆動される駆動ローラ152Aと、駆動ローラ152Aに接触することにより従動する従動ローラ152Bから構成されている。また、排出ローラ154は、制御部111により駆動制御されるモータ155により駆動される駆動ローラ154Aと、駆動ローラ154Aに接触することにより従動する従動ローラ154Bから構成されている。そして、排出ローラ154は、筐体102の内部と外部との境界となる位置に配設されており、この位置が被記録媒体101の排出口となっている。
【0030】
矯正ガイド301は、筐体102の被記録媒体101が排出される側の外壁の幅方向両側且つ駆動ローラ154Aの上方に、後に詳述する幅方向移動部350を介して、各々取り付けられており、排出部150から排出された被記録媒体101の裏面を下方に向けて押圧することで被記録媒体101を矯正すると共に、被記録媒体101の進路を排出トレイ106に向けてガイドするものである。この各々の矯正ガイド301は、幅方向移動部350に移動可能に取付けられた板状の支持部301Aと、支持部301Aの下端に配設された角度調整機構302を介して接続され、被記録媒体101の搬送方向前方の斜め下方に向けて傾斜する傾斜部301Bとを、各々備えている。
【0031】
角度調整機構302は、互いに噛み合う一対の歯車(図示せず)と、制御部111により駆動制御され、この一対の歯車のうち一方の歯車を駆動させるモータ305とを備えている。
【0032】
傾斜部301Bは、モータ305によって一方の歯車を駆動させることで変更される一対の歯車の噛み合わせ位置に応じて、支持部301Aとの傾斜角度αが変更されるようになっている。この傾斜部301Bは、支持部301Aとの傾斜角度αによって、被記録媒体101を押圧する押圧力を調整することが可能となっている。
【0033】
筐体102の被記録媒体101が排出される側の外壁に配設された矯正ガイド301と矯正ガイド301との間には、媒体押さえ部303が配設されている。この媒体押さえ部303は、筐体102の外壁から搬送方向前方に延びる板状の部材であり、その下方に搬送される被記録媒体101の厚み方向から見た形状は、搬送方向前方の先端に向かうにつれて先細りとなっている。また、媒体押さえ部303の先端付近には、垂下する板状の部分が設けられており、その板状の部分は更に先端に向かうにつれて下方に広がる三角形状を有している。但し、媒体押さえ部303の形状は、その機能を果たすのに適した形状であれば特に限定されない。即ち、媒体押さえ部303は、被記録媒体101の幅方向両端が多少上方に湾曲して浮き上がっていても、排出トレイ106と共に、積層した複数の被記録媒体101を挟み込むことができ、それにより被記録媒体101の積層状態を整えるものであればよい。
【0034】
幅方向移動部350は、筐体102の外壁の幅方向に長く配設されたラック351と、ラック351に噛み合って幅方向に移動するピニオン352と、制御部111により駆動制御され、ピニオン352を駆動させるモータ353と、を備えている。ピニオン352には、矯正ガイド301の支持部301Aが取付けられており、ピニオン352が幅方向に移動することにより、矯正ガイド301が筐体102の幅方向に移動するようになっている。
【0035】
ユーザインターフェイス400は、制御部111に接続されており、予め登録された複数の被記録媒体の種類とサイズの中から各々一つを選択することをユーザに要求する選択画面を表示すると共に、表示された内容からユーザが所望条件を入力可能な入力部と、入力部に入力された情報を制御部111に出力する出力部を備えている。
【0036】
制御部111は、記録処理や矯正ガイド301による被記録媒体101の矯正処理等の各種処理を実行するCPU(Central Processing Unit)、ホストコンピュータ等からインタフェイスを介して入力される記録データや、ユーザインターフェイス400に入力されたデータ等の各種データをデータ格納領域に格納する、あるいは各種データを一時的に格納するRAM(Random Access Memory)、各部を制御する制御プログラム等を格納するPROM(Programmable Read-Only Memory)、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read-Only Memory)等を備えている。
【0037】
さらに制御部111は、ユーザがユーザインターフェイス400で選択した被記録媒体101の種類及びサイズ、ホストコンピュータから入手した記録データから算出されるインクの吐出量及び吐出位置、予めRAMに格納されている記録インクデータ、後述する図示しない温度センサが検出した温度から、被記録媒体101の幅方向で最も湾曲する位置を推定し、その位置を取得する湾曲位置取得部と、排出部150から排出された被記録媒体101の湾曲量を取得する湾曲量取得部と、この湾曲量取得部が取得した湾曲量に応じて、矯正ガイド301の押圧力を制御する押圧制御部を備えており、これらを制御する制御プログラムは、PROMまたはEEPROMに格納されている。この制御部111は、被記録媒体101の湾曲量と、被記録媒体101の湾曲(排紙カール)を適切に矯正するために必要な矯正ガイド301の押圧力との関係を示すマップデータを有している。
【0038】
なお、本実施形態の場合、この押圧力は、矯正ガイド301の傾斜部301Bの支持部301Aに対する傾斜角度α(図4参照)に応じて調整される。即ち、傾斜角度αが大きくなると、傾斜部301Bの下端が下がり、被記録媒体101に対する押圧力が強くなり、傾斜角度αが小さくなると、傾斜部301Bの下端が上がり、被記録媒体101に対する押圧力が弱くなるため、被記録媒体101の矯正に必要な押圧力と、この押圧力を付与するために必要な傾斜角度αとの関係を予め取得しておくことで、傾斜角度αを調整することにより、最適な矯正を行うことができる。
【0039】
位置検出センサ109は、例えば発光素子の赤外発光ダイオードと受光素子のフォトトランジスタを組み合わせた反射型フォトセンサを用いている。位置検出センサ109は、給送ローラ105と搬送ローラ140との間の用紙搬送部に配置され、搬送される被記録媒体101の先端位置(被記録媒体101の有無)を検出し、その検出信号は制御部111に入力される。制御部111では、被記録媒体101の先端位置の検出信号に基づいて搬送ローラ140の駆動制御処理が行われる。
【0040】
なお、インクジェット記録装置100には、内部温度を検出する図示しない温度センサが配設されており、制御部111は、この温度センサで検出された温度をモニタするようになっている。
【0041】
次に、上述した構成のインクジェット記録装置100の具体的動作について説明する。先ず、記録を行う際、ユーザは、ユーザインターフェイス400の選択画面に表示されたメニューから、記録すべき被記録媒体101の種類及びサイズを選択する。このユーザが選択した情報は、制御部111のRAMに格納される。
【0042】
次に、ホストコンピュータ等からインタフェイスを介してインクジェット記録装置100の制御部111に記録データが入力されると、制御部111からの駆動信号によりモータ118が駆動し、給送ローラ105が回転して収納カセット104から被記録媒体101が給送される。
【0043】
次に、被記録媒体101は、制御部111からの駆動信号によりモータ116が駆動することにより回転する搬送ローラ140に到達し、被記録媒体101先端が搬送ローラ140に接触することにより被記録媒体101の先端面並びに方向が整えられ、駆動ローラ140Aと従動ローラ140Bとの間に挟まれて紙送りされ、搬送ベルト130上に送り出される。そして、搬送ベルト130によってインクジェットヘッドユニット190の下方に位置する記録領域に搬送された被記録媒体101は、搬送ベルト130上で搬送移動されながら、インクジェットヘッドユニット190のノズルから吐出されたインク滴をその主面上に着弾させることにより、記録データに基づく記録が行われる。
【0044】
この被記録媒体101への記録は、制御部111において、インタフェイスを介してホストコンピュータから入手し、RAMに格納された記録データを、CPUにおいて所定の処理を実行して、この処理データに基づいてヘッドドライバに駆動信号が出力され、ヘッドドライバを介して駆動信号がインクジェットヘッドユニット190に入力され、駆動信号が入力された静電アクチュエータの駆動により、これに対応するノズルから、被記録媒体101にインク滴が吐出されて記録データに基づく画像の記録が行われる。
【0045】
但し、被記録媒体101への記録は、上述の静電アクチュエータを用いた静電吸引方式に限定されない。つまり、本実施形態におけるインクジェット記録方式は、インク組成物を微細なノズルより液滴(インク滴)として吐出して、その液滴を被記録媒体に着弾、付着させる方式であればよい。具体的には、例えば、静電吸引方式、小型ポンプで液状のインク組成物に圧力を加え、ノズルを水晶振動子等で機械的に振動させることにより、強制的にインクの液滴を噴射させる方式、圧電素子を用いる方式、熱エネルギーの作用により液状のインク組成物を急激に体積膨張させる方式等が挙げられる。
【0046】
主面に記録が行われた被記録媒体101は、搬送ベルト130により排出ローラ151に搬送される。被記録媒体101が排出ローラ151に到達すると、制御部111からの駆動信号によりモータ117が駆動されて駆動ローラ151Aが回転し、駆動ローラ151Aに接触して従動する従動ローラ151Bとの間に挟まれて紙送りされる。さらに、そこから、搬送路156に沿って搬送された被記録媒体101が排出ローラ152及び154に到達すると、排出ローラ151に到達した時と同様に、それぞれ、制御部111からの駆動信号によりモータ153及び155が順次駆動されて駆動ローラ152A及び154Aが順に回転し、駆動ローラ152A及び154Aに接触して従動する従動ローラ152B及び154Bとの間に挟まれて、紙送りされる。この時、上記記録時には、被記録媒体101の主面は上方、即ち、インクジェットヘッドユニット190側を向いていたが、排出ローラ151、152及び154により排出トレイ106に向かって搬送されるのに従い、被記録媒体101は上下逆になるよう転回される。そして、最も後段の排出ローラ154から排出される被記録媒体101は、主面が下方、即ち、排出トレイ106側を向き、記録されていない裏面が上方を向く。
【0047】
ここで、被記録媒体101は、排出ローラ154からフェイスダウン方式で排出される際に、その主面に記録されたインク組成物から溶媒が除去される前に排出されるため、主面側が膨張した状態で排出される。特に、被記録媒体101が、搬送方向に繊維(例えばセルロース)が配向した普通紙等であると、繊維間の水素結合が溶媒(水性溶媒)により切断されて主面が膨張するため、被記録媒体101は幅方向両端から上方に巻回するように湾曲して排紙カールを形成しようとしながら排出トレイ106に向けて排出される。
【0048】
次に、制御部111の湾曲位置取得部は、ユーザがユーザインターフェイス400で選択した被記録媒体101の種類及びサイズ、ホストコンピュータから入手した記録データから算出されるインクの吐出量及び吐出位置、予めRAMに格納されている記録インクデータ、前述した図示しない、湿度センサや温度センサが検出した湿度、温度から、被記録媒体101の幅方向で最も湾曲する位置を推定する。次いで、制御部111は、モータ353を駆動し、2つの幅方向移動部350の各々のピニオン352を回転させ、各々の矯正ガイド301を、被記録媒体101の最も湾曲すると推定される位置に移動させる。なお、ユーザからデータが選択される手段は、ホストコンピュータから選択される手段に限定されず、入力手段を記録装置に直接設け、そこから選択されるようにしてもよい。
【0049】
また、制御部111の湾曲量取得部は、前述した被記録媒体101の種類及びサイズ、被記録媒体の厚さ、インクの吐出量及び吐出位置、記録インクデータ、記録装置内の内部環境(湿度、温度等)から、被記録媒体101の矯正ガイド301が位置した領域の最大湾曲量を算出(取得)する。
【0050】
次に、制御部111の押圧制御部は、被記録媒体101の湾曲を適切に矯正するために必要な矯正ガイド301の押圧力を、前述した湾曲量と押圧力との関係を示すマップデータから取得する。なお、前述したが、本実施形態の場合、この必要な押圧力は、傾斜部301Bの支持部301Aに対する傾斜角度αで示される。次いで、押圧制御部は、モータ305を駆動させ、角度調整機構302を作動させて、矯正ガイド301の傾斜部301Bの支持部301Aに対する傾斜角度αを、被記録媒体101を矯正するために必要な角度に変更させる。この時、押圧制御部は、モータ305の駆動を制御することで、傾斜角度αが必要な角度となるように角度調整機構302の作動を制御する。この制御により、排出部150から排出された被記録媒体101は、傾斜部301Bに下方に向けて押圧され、排紙カール(湾曲)が矯正されると共に、媒体押さえ部303によりその積層状態を整えられながら排出トレイ106に積層される。
【0051】
このように、本実施形態では、被記録媒体101が排出された直後の位置に配設されている2つの矯正ガイド301が、制御部111の湾曲位置取得部が推定した位置(湾曲量が大きい位置)に移動し、湾曲量取得部が取得した湾曲量(本実施形態では、矯正ガイド301が移動した位置の湾曲量)に応じて、押圧制御部が矯正ガイド301の被記録媒体101に対する押圧力を制御するため、被記録媒体101は、排紙カール等の変形を形成するよりも前に、あるいは排紙カール等を多少形成したところで、矯正ガイド301にその先端が衝突し、さらに、搬送方向前方に排出されることで、強制的にカール部分(湾曲部分)が適切な押圧力で押さえつけられ、これらの部分が平面となるように矯正される。この際、円滑に矯正させるには、被記録媒体101の先端が矯正ガイド301に衝突した後にすぐさま排出トレイ106側に向くようにすることが好ましい。そのような観点から、被記録媒体101が矯正ガイド301に衝突した時の、被記録媒体101と矯正ガイド301とがなす角度θ1が100〜160°であると好ましく、120〜150°であるとより好ましい。
【0052】
被記録媒体101のカール部分(湾曲部分)が平面になるように押さえつけると、本実施形態では、排紙カールにおける湾曲に対して交差する方向に湾曲しようとし、且つ、排紙カールにおける主面を凸面にした湾曲に対して、逆に主面を凹面にした湾曲となるため、排紙カールの形成に対する抑止力が働き、特に排紙カールの形成が抑制される。この状態で被記録媒体101が排出されることにより、その間に主面から溶媒が除去され、主面の膨張が低減する。したがって、その後に、被記録媒体101が排出ローラ154から完全に排出されて、矯正ガイド301による下方への湾曲作用がなくなっても、排紙カール等の形成は防止または軽減されることになる。なお、排紙カールにおける湾曲に対して交差する方向に湾曲させるのが好ましいが、排紙カールにおける湾曲に対して交差する方向に湾曲させずに、主面を凹面にした湾曲とさせるよう幅方向に対して傾斜させて矯正ガイド301を配置してもよい。
【0053】
また、媒体押さえ部303は、排出トレイ106と共に、複数の被記録媒体101をその積層方向から挟み込む。これにより、被記録媒体101に多少の変形が残っていても、複数の被記録媒体101を良好に積層(積載)することができる。この媒体押さえ部303がないと、被記録媒体101に多少の変形が残存した場合、その変形に起因して、積層した被記録媒体101が部分的に浮き上がったりして、被記録媒体101を安定的に積層できないため、例えば積層した被記録媒体が互いに異なる方向に向いて積層されたり、一部の被記録媒体101が排出トレイ106からはみ出たり、落下したりして、良好な積層状態を維持し難くなる傾向にある。この観点から、媒体押さえ部303は、それを排出トレイ106側に付勢する機構を備えることが好ましい。これにより、媒体押さえ部303は、排出トレイ106と共に、複数の被記録媒体101をその積層方向により確実に狭持することができるので、一層揃った状態で複数の被記録媒体101を積層することができる。
【0054】
媒体押さえ部303は、前述したが、図1及び図2に示すような形状、特に先細りの形状及び先端付近で垂下する板状の部分が設けられている形状を有することにより、上記機能をより有効に示すことができる。さらには、その板状の部分が更に先端に向かうにつれて下方に広がる三角形状を有していることで、媒体押さえ部303は、被記録媒体101が湾曲してその幅方向の両端が浮き上がった状態で排出されても、排出トレイ106上に複数の被記録媒体101を更に揃った状態で積層することができる。また、媒体押さえ部303は、上記機能をより効果的に示す観点から、被記録媒体101の幅方向中心付近に、その先端が位置するよう設けられることが好ましい。
【0055】
なお、インクジェット記録装置100に具備される上記以外の構成は、従来公知の構成であってもよい。
【0056】
また、記録工程において、被記録媒体101の主面上に着弾させる(打ち込む)インク組成物の量は、インク組成物に含まれる水が被記録媒体101の面積に対して10mg/inch2以下となる量であることが好ましい。これにより、被記録媒体101の変形を一層抑制することができる。
【0057】
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。例えば、本実施形態では、制御部111の湾曲位置取得部が、被記録媒体101の湾曲量が大きい位置を推定し、この推定した位置に矯正ガイド301を移動させるよう制御する場合について説明したが、これに限らず、被記録媒体101は、幅方向両側となる端部(即ち、搬送方向と平行な両端部)が最もカールし易いことから、被記録媒体101のサイズに応じて、被記録媒体101の幅方向両側となる端部に矯正ガイド301を移動させるように制御してもよい。また、推定された湾曲量の大きい位置に移動しなくとも、それに近い位置に移動させるようにしてもよい。それとは別に、湾曲量が所定の量より大きいと判断した場合のみ、矯正ガイド301を移動させてもよい。
【0058】
さらに、湾曲量取得部は、被記録媒体の種類等で推定される構成に必ずしも限定されず、ユーザの湾曲量又は湾曲の大きさの設定で湾曲量を取得してもよいし、搬送工程中に光学センサ等を設け直接湾曲量を計測してもよい。
【0059】
また、本実施形態では、2つの矯正ガイド301を配設した場合について説明したが、これに限らず、矯正ガイド301の個数は、それに限定されない。但し、被記録媒体101を有効且つ確実に排出トレイ106側に湾曲させる観点から、矯正ガイド301は、幅方向に2個以上設けられることが好ましい。
【0060】
そしてまた、矯正ガイド301の形状や、被記録媒体101に対する押圧力の調整方法等は、その機能を発揮するために適していれば、本実施形態に示すものに限定されるものではない。具体的には、矯正ガイド301の代わりに、例えば図5に示す矯正ガイド401を採用してもよい。この矯正ガイド401は、幅方向移動部350に移動可能に取付けられた略L字状の支持部401Aと、支持部401Aの下端に支持部401Aに対して入れ子式に配設された傾斜部401Bと、傾斜部401Bの下端に支持部401Aに対して入れ子式に配設された傾斜部401Cとを備えていてもよい。
【0061】
この構成の場合、傾斜部401B及び傾斜部401Cの内部には、図示しないボールネジが配設されており、このホールネジには、ネジ軸を回転駆動させるモータを接続し、制御部111が、このモータの駆動を制御することで、ネジ軸の回転を制御し、支持部401Aに対する傾斜部401Bの進退運動と、傾斜部401Bに対する傾斜部401Cの進退運動を制御するよう構成することができる。このように構成することで、傾斜部401B及び傾斜部401Cの延出長さLを変更することができ、この延出長さLによって、被記録媒体101を押圧する押圧力を調整することが可能となる。
【0062】
図5に示す構成の場合、矯正ガイド401が被記録媒体101を押圧する押圧力は、延出長さLに応じて調整される。即ち、延出長さLが長くなると、傾斜部401Cの下端が下がり、被記録媒体101に対する押圧力が強くなり、延出長さLが短くなると、傾斜部401Cの下端が上がり、被記録媒体101に対する押圧力が弱くなるため、被記録媒体101の矯正に必要な押圧力と、この押圧力を付与するために必要な延出長さLとの関係を予め取得しておくことで、延出長さLを調整することにより、最適な矯正を行うことができる。なお、この場合も、被記録媒体101の矯正に必要な押圧力は、前述したマップデータから取得することができる。
【0063】
なお、例えば、矯正ガイド301(401)の屈曲した部分から搬送方向前方の先端までの長さ(以下、「先端部長さ」という)は、A4サイズの被記録媒体の搬送方向の長さに対して1/20〜1/2であることが好ましく、1/11〜1/4であることがより好ましい。先端部長さが、被記録媒体の幅に対して1/20以下であると、排紙カールの湾曲に対して交差する方向に強制的に押圧する長さが短くなるため、排紙カールの抑制が低減する傾向にある。また、先端部長さが、被記録媒体の幅に対して1/2を超えると、排紙カールの抑制効果がそれ以上向上せず、印字が終了した後に積み重ねられる被記録媒体101にその矯正ガイド301(401)が接触してしまう結果、被記録媒体の積層可能な数が減少する傾向にある。したがって、延出長さLは、これらを加味して決定することが好ましい。
【0064】
また、矯正ガイド301の代わりに、例えば図6に示す矯正ガイド501を採用してもよい。この矯正ガイド501は、幅方向移動部350に移動可能に取付けられた略L字状を有しており、矯正ガイド301とは異なり、角度の調整機能を有していない。この構成の場合、幅方向移動部350は、幅方向移動部350を上下方向に移動させるための上下方向移動部450に取付けられている。
【0065】
上下方向移動部450は、互いに間隔をおいて筐体102に配設された2つのラック451と、各々のラック451に噛み合って上下方向に移動するピニオン452と、制御部111により駆動制御され、各々のピニオン452を駆動させる図示しないモータとを備えている。2つのラック451は、幅方向移動部350のラック351の長手方向両側が配置される位置に、上下方向に長く配設されている。各々のピニオン452は、ラック351長手方向両側にそれぞれ取付けられており、ピニオン452が上下方向に移動することにより、幅方向移動部350が筐体102の上下方向に移動するようになっている。
【0066】
図6に示す構成の場合、制御部111が図示しないモータの駆動を制御することで、各々のピニオン452の回転を制御し、ラック451に対するピニオン452の上下位置を制御することで、幅方向移動部350の上下方向の位置を制御するようになっている。このように構成することで、幅方向移動部350の上下方向の位置を変更する(即ち、被記録媒体101の裏面との間隔を変更する)ことができ、この上下方向の位置によって、被記録媒体101を押圧する押圧力を調整することが可能となる。
【0067】
即ち、図6に示す構成の場合、幅方向移動部350が下方に移動すると矯正ガイド501の下端が下がり、被記録媒体101に対する押圧力が強くなり、幅方向移動部350が上方に移動すると矯正ガイド501の下端が上がり、被記録媒体101に対する押圧力が弱くなるため、被記録媒体101の矯正に必要な押圧力と、この押圧力を付与するために必要な矯正ガイド501の上下方向の位置との関係を予め取得しておくことで、幅方向移動部350の上下方向の位置を調整することにより、最適な矯正を行うことができる。なお、この場合も、被記録媒体101の矯正に必要な押圧力は、前述したマップデータから取得することができる。
【0068】
また、他の実施態様としては、矯正ガイドを弾性部材から構成し、この弾性部材の付勢力により被記録媒体101を矯正するようにしてもよい。また、上述の記載の通り湾曲量に対して、この矯正ガイドを幅方向に移動させたり、鉛直方向に移動させたり、この矯正ガイドの傾斜角度を変更させたり、この矯正ガイドの延出長さを変更させたりしてもよい。
【0069】
さらに、矯正ガイドの延出の長さを変更する際に、矯正ガイドを構成する弾性部材の厚みを矯正ガイドの先端に近づくにつれて徐々に薄くさせたり、先端に近づくつれて徐々に厚くさせたりするのも好ましい。前者の場合は、延出させている長さが短い場合は、薄い弾性部材の影響により微弱な付勢力が加わり、延出させている長さを長くしていくことで、弾性部材の厚みも増加し、付勢力が大きく増大する。つまり、被記録媒体101に対する付勢力を一層幅広く制御できる。一方後者の場合は、延出させている長さが短い場合でも、厚い弾性部材の影響により比較的強い付勢力が加わり、延出させている長さを長くしていくことで、弾性部材は薄手になっていくので、付勢力の強さは緩やかに上昇する。つまり、被記録媒体101に対しての付勢力を一層精密に制御できる。
【0070】
なお、本実施形態において矯正ガイドは図6等のように傾斜部を有しているが、特にこれに限定されず、図7に示すように下方向に直線的に延びている形状であり、この矯正ガイド上下方向に移動可能に構成されていてもよい。また、上述のようにこの矯正ガイドが幅方向に移動可能に構成されていてもよいし、被記録媒体の裏面に対して傾斜するように角度を変更できるように構成されていてもよしいし、矯正ガイドが延出ができるように構成されていてもよい。また、その矯正ガイドは上述と同様に弾性部材で構成されていてもよいし、その弾性部材の厚みを先端に近づくにつれて変化させてもよい。
【0071】
そしてまた、本実施形態では、ユーザインターフェイス400として、予め登録された複数の被記録媒体の種類とサイズの中から各々一つを選択することをユーザに要求するように設定されたものを使用した場合について説明したが、これに限らず、例えば、被記録媒体の厚さ(例えば、薄紙モード、厚紙モード等)や、記録濃度(例えば、くっきり記録モード、うっすら記録モード等)等、任意の条件の選択することをユーザに要求するように設定することもできる。
【実施例】
【0072】
以下、実施例を用いて本発明に係るインクジェット記録装置100で記録した記録物について説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0073】
[着色剤の準備]
(顔料分散液M1)
有機溶媒(メチルエチルケトン)20質量部、重合連鎖移動剤(2−メルカプトエタノール)0.03質量部、重合開始剤、及び表1に示す各モノマーを用い、窒素ガス置換を十分に行った反応容器内に入れて75℃攪拌下で重合し、モノマー成分100質量部に対してメチルエチルケトン40質量部に溶解した2,2'−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル0.9質量部を加え、80℃で1時間熟成させ、ポリマー溶液を得た。
【0074】
【表1】

【0075】
得られたポリマー溶液を減圧乾燥させて得られたうちの5質量部をメチルエチルケトン15質量部に溶かし、水酸化ナトリウム水溶液を用いてポリマーを中和した。さらに、C.I.ピグメントレッド122を15質量部加え、更に水を加えながら分散機で混練した。得られた混練物にイオン交換水100質量部を加え攪拌した後、減圧下、60℃でメチルエチルケトンを除去し、さらに一部の水を除去することにより、固形分濃度が20質量%のマゼンタ顔料の水分散体(顔料分散液M1)を得た。
この分散液の顔料の体積平均粒子径をMicrotrac UPA150(Microtrac社製)の粒度分布測定により測定したところ、140nmであった。
【0076】
[樹脂エマルジョンの調製]
最低造膜温度が20℃未満の樹脂エマルジョン(ポリマー1)は、水中で、アクリルアミド20gにメチルメタクリレート600g、n−ブチルアクリレート125g、メタクリル酸30g、トリエチレングリコールジアクリレート5gを乳化重合することにより製造した。エマルジョン中の樹脂粒子の体積平均粒子径は50nm、最低造膜温度は10℃であった。なお、樹脂粒子の体積平均粒子径は、コールターカウンターN4(コールター社製、商品名)を用いて測定し、最低造膜温度は上述のようにして測定した。
【0077】
[インク組成物の調製]
表2に示す割合で各成分を混合し、室温にて2時間攪拌した後、孔径5μmのメンブランフィルターにて濾過して、製造例1〜7の各インク組成物を調製した。但し、表2中に示す添加量は全て質量%の濃度として表されており、顔料分散液の()内の数字は顔料の固形分濃度(質量%)を示し、樹脂エマルジョンの()内の数字は樹脂粒子濃度(質量%)を示す。またイオン交換水の「残量」とは、インク組成物の全量が100質量%となるようにイオン交換水を加えることを意味する。
【0078】
【表2】

【0079】
[排紙カール(湾曲量)、積層状態評価]
(発明品)
次に、本実施形態に係るインクジェット記録装置100を用い、記録時の打ち込み量、紙送り、インクジェットヘッドユニットに備えられるキャリッジの移動を外部コントローラーにより、制御できるようにしたものを使用し、普通紙であるゼロックスP(富士ゼロックス社製)に対して12mg/inch2の打ち込み量で上記各インク組成物により記録(印字)し、排出部150から排出された記録物(被記録媒体)に発生した排紙カール(湾曲)を矯正ガイド301により矯正した後、排出トレイ106に積層させた。この排出トレイ106に積層された記録物(被記録媒体)の最大湾曲部の湾曲量を測定した。この結果を表3に示す。
[湾曲量評価基準]
A:湾曲量5mm未満
B:湾曲量5mm以上20mm未満
C:湾曲量20mm以上
【0080】
また、上記の条件で、排出トレイ106に記録物を積層させる場合に、既に積層されている記録物の排紙カールの影響で、次に積層させる記録物が押し出され良好に排出トレイに積層できなくなる状態まで連続記録を行い、以下の基準で評価をした。
[積層状態評価基準]
A:連続記録100枚以上しても積層に影響が無い。
B:連続記録20枚以上100枚未満で積層に影響が出る。
C:連続印字5枚以上20枚未満でで積層に影響が出る。
D:連続印字5枚未満で積層に影響が出る。
この結果も合わせて表3に示す。
【0081】
(比較品)
インクジェット記録装置として、矯正ガイドを有していない以外は、本実施形態に係るインクジェット記録装置100と同様の構成を備えた装置を用い、発明品と同様の記録を行い、排出トレイ106に積層された記録物(被記録媒体)の最大湾曲部の湾曲量を測定した。この結果を表3に示す。また、排出トレイ106に積層された記録物(被記録媒体)の積層状態を上記と同様の評価基準で判定した。この結果を表3に示す。
【0082】
【表3】

【0083】
表3から、発明品は比較品に比べ、最大湾曲部の湾曲量が小さく、排紙カールが適切に矯正されていることが確認された。また、発明品は比較品に比べ、積層状態も良好であることが確認された。
【符号の説明】
【0084】
100…インクジェット記録装置、101…被記録媒体、102…筐体、106…排出トレイ、110…インクジェットヘッド、111…制御部、150…排出部、190…インクジェットヘッドユニット、301、401、501…矯正ガイド、301A、401A…支持部、301B、401B、401C…傾斜部、302…角度調整機構、303…媒体押さえ部、350…幅方向移動部、400…ユーザインターフェイス、450…上下方向移動部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主面と前記主面とは反対側の面である裏面とを有する被記録媒体の前記主面に、インク組成物を用いて記録を行う記録部と、
前記主面を下方に向けて前記被記録媒体を排出する排出部と、
前記排出部から排出中の前記被記録媒体の前記裏面を下方に向けて押圧し、当該被記録媒体を矯正する矯正ガイドと、
前記排出部から排出された前記被記録媒体の湾曲量を取得する湾曲量取得部と、
前記湾曲量取得部が取得した前記湾曲量に応じて、前記矯正ガイドの押圧力を制御する押圧制御部と、を備えてなるインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記湾曲量取得部は、前記被記録媒体の種類、前記被記録媒体のサイズ、前記被記録媒体の厚さ、インク組成物の吐出量及び吐出位置、記録装置内の内部環境の少なくとも一つを含む条件から、前記湾曲量を推定して取得する請求項1記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
予め登録された複数の被記録媒体の種類とサイズの中から各々一つを選択することをユーザに要求する選択画面を表示すると共に、ユーザによる前記選択結果を受け取るユーザインターフェイスをさらに備え、
前記湾曲量取得部は、前記条件が前記被記録媒体の種類及びサイズを含む際に、前記ユーザインターフェイスが受け取った情報を使用する請求項1又は2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記被記録媒体の種類、前記被記録媒体のサイズ、前記被記録媒体の厚さ、インク組成物の吐出量及び吐出位置、記録装置内の内部環境の少なくとも一つを含む条件から、前記湾曲量が最大となる位置を取得する湾曲位置取得部をさらに備え、
前記押圧制御部は、前記湾曲位置取得部が取得した位置へ、前記矯正ガイドを幅方向に移動させるよう制御する請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
前記矯正ガイドは、前記排出部から排出中の前記被記録媒体の前記裏面に対し傾斜し、前記裏面を下方に向けて押圧して当該被記録媒体を矯正する傾斜部を有し、
前記押圧制御部は、前記湾曲量取得部が取得した前記湾曲量に応じて、前記傾斜部の前記被記録媒体の前記裏面に対する傾斜角度を制御する請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項6】
前記矯正ガイドは、前記被記録媒体の排出方向に対応する長さの変更が可能であり、
前記押圧制御部は、前記湾曲量取得部が取得した前記湾曲量に応じて、前記矯正ガイドの前記長さを制御する請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項7】
前記矯正ガイドは、上下方向に移動して、前記排出部から排出中の前記被記録媒体の前記裏面との間隔を変更が可能であり、
前記押圧制御部は、前記湾曲量取得部が取得した前記湾曲量に応じて、前記矯正ガイドの前記移動量を制御する請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項8】
前記矯正ガイドは、弾性部材を有し、当該弾性部材の付勢力により前記被記録媒体を矯正する請求項1ないし請求項8のいずれか一項に記載のインクジェット記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−25110(P2012−25110A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−168271(P2010−168271)
【出願日】平成22年7月27日(2010.7.27)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】