説明

インクジェット記録装置

【課題】記録精度の低下や騒音発生など性能低下が生じることを抑制することが可能なインクジェット記録装置を提供すること。
【解決手段】インクミストが多く生じる箇所の近傍にダクト入口を設けてインクミストを含んだ気体を吸引し、ダクト内部の捕捉手段で気体に含まれたインクミストを捕捉する。そして、インクミストが捕捉された気体をダクトの出口から吹き出して、吹き出した気体でエンコーダコードストリップが包み込まれるように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録媒体にインクを吐出して記録を行うインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット方式の記録装置において、インクミストの飛散を抑制するために、インクミストを含む気体をファンで吸引してダクトを経て装置外部に排出する構成が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1に開示されている装置では、筐体内のインクミストを回収する為に、一端部の側壁に吸引ファン、他端部の側壁に給気口を設けている。そして、その間にインクミスト回収部材と循環ダクトを配置し、吸引ファンからの排出空気をインクミストを除去した後、循環ダクト及び給気口を通して筐体内へ循環させる構成になっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−331283号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示の装置は、装置内の空気を循環させ、その循環の途中でインクミストを回収し、ミストの絶対量を下げようとするものである。しかし、装置内のインクミスト量が減っても部分的に空気がよどむ等により、インクミストが付着し、誤動作を発生する場合がある。特に、移動するキャリッジ位置情報を検出するエンコーダで読み取るためのエンコーダコードストリップに多量のインクミストが付着すると、コードを正確に読み取ることができなくなる。すると、記録ヘッドからインクを吐出すべき位置での吐出が出来なくなったり、キャリッジの移動速度制御の精度が低下したりして、記録精度の低下が生じる虞がある。
【0006】
本発明は、インクミストが装置内部、特にエンコーダコードストリップに付着して記録精度の低下を引き起こすことを抑制したインクジェット記録装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のインクジェット記録は、記録のためにインクを吐出する記録ヘッドと、前記記録ヘッドを搭載して往復移動するキャリッジと、往復移動する前記キャリッジの位置情報を検出するために用いられるエンコーダコードストリップと、前記記録ヘッドからインクを吐出した際に発生するインクミストを除去する除去機構とを備え、前記除去機構は、両端に入口と出口を有するダクトと、前記ダクトを流れる気体に含まれるインクミストを捕捉する捕捉手段を有し、前記入口は往復移動する前記キャリッジの一方の移動端部の近傍に設けられ、前記出口は前記キャリッジの他方の移動端部の近傍に設けられ、前記入口から前記ダクトに取り込まれた気体は前記捕捉手段を通過して前記出口から排出され、前記出口から排出された気体は前記エンコーダコードストリップに沿って流れて再び前記入口から前記ダクトに取り込まれることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、インクミストが装置内部、特にエンコーダコードストリップに付着して記録精度の低下を引き起こすことを抑制したインクジェット記録装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施形態に係るインクジェット記録装置を示した斜視図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るインクジェット記録装置の中央断面図である。
【図3】記録装置におけるミスト除去機構のメインダクトユニットを示した斜視図である。
【図4】図3のミスト除去機構のメインダクトの内部構造を示した断面図である。
【図5】図3のミスト除去機構のダクトユニットの全体斜視図である。
【図6】本発明の一実施形態に係る記録装置を示した平面図である。
【図7】ファンにより気体を循環させた時の気流の流れを示した図である。
【図8】(a)、(b)は、装置内の気流を解析した結果を示した図である。
【図9】記録装置内に浮遊しているインクミストの体積をグラフに示した図である。
【図10】エンコーダコードストリップに付着したインクミスト付着面積の測定結果である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。なお、各図面を通して同一符号は同一又は対応部分を示す。図1は、本発明の一実施形態に係るインクジェット記録装置を示した斜視図であり、図2は本発明の一実施形態に係るインクジェット記録装置の中央断面図である。インクジェット記録装置(以下、単に記録装置ともいう)1は、操作部を有しており、その操作部に設置された各種のスイッチ等により、紙サイズ、オンライン/オフライン、コマンドなどを指示することができる。この記録装置1には、不図示の給紙トレイの内部に、複数枚の記録媒体Sを積載可能な給紙圧板16が設けられており、分離ローラ17が、給送トレイの給紙圧板16に積載された記録媒体Sを1枚ずつ分離して搬送経路に給送する。記録媒体Sは、分離ローラ17によって搬送ローラ18とピンチローラ19との間に送られ、搬送ローラ18が、図2において時計周り方向へと回転することによって、記録媒体Sはプラテン7の上を搬送され、記録部3まで搬送される。記録部3には記録手段を構成する記録ヘッド4が備えられている。記録ヘッド4は所定数のインク吐出用のノズルを配設したインクジェットヘッドであり、この記録ヘッド4が図2の紙面と垂直方向に走査する間に、記録データに従ってノズルから記録媒体Sの記録面に対してインク滴を吐出して記録を行う。この記録動作と搬送ローラ18による記録媒体Sの所定量の搬送動作とを交互に繰り返しながら、記録媒体Sに画像を形成していく。この画像形成動作とともに、記録媒体Sの搬送路において記録ヘッド4の走査領域の下流側に設けられた、排紙ローラ20と排紙拍車21によって記録媒体Sが挟持され、排紙ローラ20の回転によって排紙トレイ22上に排紙される。
【0011】
以下、記録部3について説明する。記録部3は、記録ヘッド4、キャリッジ5、キャリッジ5の駆動モータ(不図示)、プラテン7を有する。記録ヘッド4はインクを吐出するノズル部を一体に有する。インクタンクは記録装置1内の記録部3と離れた位置に設置されており、チューブ23を介して記録ヘッド4のノズル部にインクを供給する構造になっている。キャリッジシャフト11は、キャリッジ5を保持するとともに移動ガイド材として備えられている。キャリッジ5は、記録ヘッド4を搭載してキャリッジシャフト11に沿って左右(図2の紙面と垂直方向)に移動する構成になっている。キャリッジシャフト11の上部近傍には、等間隔のラインが記録された、透明記録媒体材で構成されたエンコーダコードストリップ12がキャリッジシャフト11に平行に備えられている。キャリッジユニット内の基板にはエンコーダコードストリップを読み取るためのエンコーダ(位置確認手段)が備えられている。キャリッジ5の移動に伴い、エンコーダがエンコーダコードストリップ12(位置決めガイド部材)に等ピッチで形成されたマーク(ライン)を読み取り、キャリッジ5の位置情報を検出する。エンコーダコードストリップ12、キャリッジシャフト11をキャリッジ5の移動範囲外で保持するため、コの字形状をした左右側板を有する筺体部材であるシャーシ14が備えられている。すなわち、シャーシ14の両側板でエンコーダコードストリップ12、キャリッジシャフト11は保持、固定され、そのキャリッジシャフト11に沿ってキャリッジ5は左右に移動する。その際、エンコーダコードストリップ12のスリット数をカウントすることでキャリッジユニットの移動距離を検出し、適切な位置でキャリッジ5に取り付けられた記録ヘッド4のノズル部からインクを吐出して記録する。装置の小型化のためにシャーシ14左右側板をつないでいるコの字形をした中央板は、キャリッジ5の移動に支障がない範囲でキャリッジシャフト近傍に配置されている。本実施形態では、シャーシ14とキャリッジシャフト11との距離は約10mmになっている。
【0012】
また、キャリッジ5の駆動機構として、駆動モータと、その回転を直線運動に変換してキャリッジを直線移動させるためのプーリとベルトからなる伝達機構が設けられている。記録は、記録ヘッド4から記録媒体Sに向けてインクを吐出することで行なわれる。本実施形態の記録装置は、記録媒体Sの副走査方向(図1の矢印−Y方向)への搬送とキャリッジ5の主走査方向(矢印X方向)の往復移動とを交互に行なって記録媒体S上に二次元画像を形成する所謂シリアルプリンタである。なお、本発明はシリアルプリンタには限定されず、固定されたライン記録ヘッドに対して記録媒体を移動させながら二次元画像を形成するラインプリンタにも適用可能である。
【0013】
記録装置本体には、記録ヘッド4のメンテナンス処理を行うメンテナンス部15(図6参照)が装置の一端(本実施形態では装置右端)に備えられている。メンテナンス処理は、記録ヘッド4のノズル面をワイパでふき取るワイピング処理、ノズルからインクを外部に吸引して目詰まり回復させる吸引処理、すべてのノズルからインクを吐出させる予備吐出処理などである。記録ヘッド4は、記録媒体への記録開始前に、メンテナンス部15で予備吐出などの処理を行なう。記録媒体への記録中には常に全ノズルを使用して記録を行なうわけではない。記録に使用していないノズルは乾燥して吐出不良を起こす虞がある。そこで、ノズルの乾燥防止のために定期的にメンテナンス部15の近傍で使用頻度が低いノズルから予備吐出を行ない、ノズルの吐出信頼性を保つ。ここでは、往復移動するキャリッジ5の移動端部のうち、メンテナンス部15がある側をホーム側(待機位置側)、もう一方(逆側)の移動端部の側をアウェイ側と呼ぶことにする。非移動時にキャリッジ5が静止するのはホーム側の待機位置である。待機位置にメンテナンス部15がある。
【0014】
次に主に図3〜図6を用いてインクミスト除去機構について説明する。図3は、本実施形態の記録装置におけるミスト除去機構を構成するメインダクトユニットを示した斜視図であり、図4は図3のメインダクトの内部構造を示した断面図である。また、図5は図3のダクトユニットの全体斜視図であり、図6は本発明の一実施形態に係る記録装置を示した平面図である。インクミスト除去機構は、記録部3の側面部に設けられた吸引部と、循環ダクト33からなる。吸引部はファン30とメインダクト31を有しており、ファン30は回転して気流を発生させるもので、本実施形態では高効率のシロッコファンを使用している。記録部3の空間とファン30との間にはメインダクト31が設けられている。これはファン30の上流側にメインダクト31を配置し、気体に含まれるインクミスト(空気中に浮遊する微小なインク粒子)の多くがファン30に到達する前にメインダクト31で除去され、ファン30へのインクミスト付着を抑制するためである。メインダクト31はダクトカバー32で覆われており、密閉された気体流路となっている。特にメンテナンス部15の近傍では、前述したように記録動作以外での予備吐出、乾燥防止の為の吐出等を行っているために、他の部分よりインクミストの発生が多い。その為、インクを吐出した際に発生するインクミストを多く含んでいる。
【0015】
インクジェット記録装置内のインクミストを多く含む回復手段周囲の気体は、ファン30の回転による吸引力でメインダクト31のダクト入口(吸入口)31a1から引き込まれて、メインダクト31の内部に導入される(図4矢印B)。そして、メインダクト31の流路を通過した気体は、ダクト出口31a2からファン30に吸い込まれ、そしてファン30の排出口30bから排出される。この排出口30bには、循環ダクト33の一方の端部である入口33aが接続されている。循環ダクト33は上方が記録装置本体の上部外装部品であるメインケース10の内面で覆われ、密閉された気体流路となっている。循環ダクト33は、入口33aから筐体2の前面部に回り込んだ中間部33bを経由してダクト出口33cまで、一本の密閉された気体経路となっている。循環ダクト33の他方の端部であるダクト出口33c(図5参照)は、循環ダクト33の入口33aから中間部33bを経由した後、装置後ろ側(シャーシ側)に回り込んだ位置に装置内側(ポンプ側)に向けて開放された開口部である。ファン30の手前でインクミストが除去され、循環ダクト33内を流れてきた空気は、ダクト出口33cからホーム側に向けて排出される。ダクト出口31a2から排出された気体(図6矢印C)は、循環ダクト33を通過して(図6矢印D、E)、記録部3の近傍に再導入される(図6矢印F)。
【0016】
ミスト除去機構は、入口(ダクト入口31a1)と出口(ダクト出口33c)を有するダクト(メインダクト31、循環ダクト33)と、ダクトを流れる気体に含まれるインクミストを捕捉するミスト捕捉手段(ダクト内部面に形成されたダクトリブ)からなる。そして、ダクトの出口から排出された気体はエンコーダコードストリップに沿って流れて再びダクトの入口からダクトに取り込まれる。
【0017】
制御部9(図6参照)は記録装置全体の各種制御を行なうコントローラであり、CPU、メモリおよび各種のI/Oインターフェースを備えている。制御部9は筐体2内に内蔵したものであっても外付けであってもよい。外付けの場合は記録装置に接続したコンピュータに制御ソフトウェアを組み込んだものを制御部9としてもよい。
【0018】
次に、ミスト除去機構のより詳細な構造と働きについて説明する。メインダクト31のダクト入口31a1より吸引された気体は、メインダクト31の流路に導入される(図4矢印B)。導入された気体は非直線の流路に沿って流れる(図4矢印H、J、K)。そして、ダクト出口31a2から排出されて(図4矢印L)、ファン30を経て循環ダクト33に排出される。メインダクト31の流路は直線部と非直線部との組み合わせになっており、ダクト入口31a1からダクト出口31a2までの流路には、非直線の曲線(略円弧)断面形状が3ヶ所ある。図4の断面で見たとき、流路の円弧形状部分は、円弧の外周側(経路距離が長い側)のダクト外周壁31bと内周側(経路距離が短い側)のダクト内周壁31cで挟まれた空間が流路となっている。また、図4の紙面垂直方向においては、流路における奥側は平板で閉ざされ、手前側は平板のダクトカバー32(図3参照)で閉ざされた構造である。従って、気体の流れ方向に沿った流路の断面形状は矩形形状である。本実施形態では製造上の容易性から矩形断面形状としたが、その他の形状(円形、多角形、その他任意の形状)の断面形状を持つ流路でもよい。
【0019】
メインダクト31の内部、ここでは内側面の一部であるダクト外周壁31bの表面には、気体に含まれるインクミストを捕捉する捕捉手段として、複数個の突起が非直線部に気体の流れ方向に沿って略等ピッチで設けられている。すなわち、流路の矩形の断面形状の4辺のうちでも、円弧の外周側に多数の突起が設けられている。突起は所定の高さを有する直線状の壁からなるダクトリブ31dで、これがダクト内部面に流路に沿って複数設けられている。隣り合うダクトリブ31d同士の間にはダクトポケット31eが形成される。流路内の図4矢印Jの区間を気体が流れる際に、複数のダクトポケット31eそれぞれの小空間において、局所的な気流の渦Iが生じる。この渦Iは一旦ダクトポケット31eに入ると、比較的長い時間渦巻いて留まる。そのため気体に含まれるインクミストの多くは、気流がポケット31e内で渦巻いている間にダクトポケット31eの3面(前後のダクトリブ31dの面とダクト外周壁31bの面)からなるポケット面に衝突して付着する。付着した分だけ気体中のインクミストは減少する。この作用により、気体が流路を通過する間に徐々にインクミストは減少する。すなわち、複数のダクトリブ31は流れる気体に含まれるインクミストを効果的に捕捉する働きをする。図4矢印Hおよび矢印Kの領域でも同様な仕組みにより気流に含まれるインクミストは減少する。その後、インクミストが減少した気体(第2の気体)は矢印Lの方向に流れ、ダクト出口31a2からから排出される。排出されたインクミストが減少した気体は、循環ダクト33を経て再び筐体2内部の記録部3に供給される。
【0020】
ダクトリブ31dは、外周壁31bに設けるのが最もインクミストの捕捉効率が高い。これは、円弧状の外周側のダクトポケット31eのほうが遠心力によって気流が流れ込みやすく、局所的な渦が生じやすいからである。更には、外周壁31bは他よりも距離が長い分だけ、より多くのダクトリブ31dを設けることができる。ダクトリブ31dの数が多いほどインクミストを捕捉する機会は多くなる。ダクトリブ31dは、更にメインダクト31の内側面の他の壁面、例えばダクト内周壁31c、奥側の平板、手前側の平板(ダクトカバー32)の1つ以上に形成するようにしてもよい。以上の構成により、メインダクト31はダクト入口31a1からダクト出口31a2までの流路が短くてもインクミストの捕捉効率を高めることができる。実際には、流路抵抗も考慮して、ダクトリブ31dの位置、数、高さを設定することが望ましい。
【0021】
以上の構成により、記録中に記録部3で発生したインクミストは、ミスト発生源の近くに設けられたミスト除去機構で吸引されて、ミスト捕捉手段であるダクトリブ31dで捕捉されるので、筐体2の内部へのインクミストの拡散は効果手的に抑制される。機内に若干拡散したインクミストも、ミスト除去機構が非記録中に動作し続けることで徐々に回収されていく。このようにして、インクミストによる機内の汚れを抑制することができる。
【0022】
次に、循環ダクト33に排出された気体の流れについて説明する。前述したようにインクミストが除去された気体の経路である循環ダクト33は、装置左右方向(図6矢印X方向)はホーム側からアウェイ側まで、装置前後方向(図6矢印Y方向)はシャーシ14に対してダクト出口33cよりも離れた位置に配置されている。循環ダクト33は、記録媒体の搬送に支障がなく、かつ、装置の小型化を目指すために記録媒体搬送パスの上部に配置され、基本的にほぼ同一高さで構成されている。また、シャーシ14に対してダクト出口33cよりも離れた中間部33bは、シャーシ14に平行な直線的な形状で、同一面の流路面によって構成されている。これらにより、循環ダクト内の圧力損失を少なくすることが可能になっている。循環ダクト33の排出側端部33cは、装置内側(ホーム側)に向けて開口されている。メインダクト31によりインクミストが除去された気体は、循環させるためのファン30で循環ダクト33を経由して、アウェイ側のダクト出口33cまで運ばれ、シャーシ14に向けて排出される。
【0023】
図7は、ファン30により気体を循環させた時の気流の流れを示した図である。循環ダクト33は前述したように、装置のホーム側からアウェイ側まで延び、その後アウェイ側では手前側から奥側に延びている。その為、循環ダクト33のダクト出口33cの開口部が装置内側(ホーム側)に向いているにも関わらず、ダクト出口33cから排出された気体の水平面の流れは、真直ぐにホーム側に流れるのではなく、シャーシ14の方に斜めに流れているのがわかる。また、シャーシ14まで到達した気体は、装置左右方向(矢印X方向)としては、シャーシ面に沿ってホーム側に流れていき、上下方向(矢印Z方向)としては、緩やかに下方(矢印−Z方向)に移動している。その結果として、シャーシ14面に沿ってやや斜め下方に流れることがわかる。図7で明らかなようにエンコーダコードストリップ12はちょうどこの流れの中に配置されているため、メインダクト31でインクミストが除去された気体によってエンコーダコードストリップ12は包み込まれる位置に配置されている。
【0024】
図8(a)、(b)は、キャリッジ5が往復移動した時の装置内の気流を解析した結果を示した図である。図8(a)はキャリッジ5がホーム側へ移動した際の結果であり、図8(b)はキャリッジ5がアウェイ側へ移動した際の結果である。ここでは、エンコーダコードストリップ12へのインクミスト付着防止の観点からエンコーダコードストリップ12の近傍の気体の流れを把握する為に、エンコーダコードストリップ12の高さにおける解析結果を示す。
【0025】
以下、この2つの解析結果を検証する。まず、キャリッジ移動方向の前後の気体の流れを見てみる。キャリッジがアウェイ側からホーム側、ホーム側からアウェイ側に移動している解析結果共に、キャリッジの移動に伴いキャリッジの後方ではキャリッジに向かう流れが、キャリッジの前方ではキャリッジに押し出される流れが発生している。しかしながら、エンコーダコードストリップ12、シャーシ14の近傍では、キャリッジの移動方向に関わらず、常にアウェイ側からホーム側へほぼ定常流の気体の流れが発生している。これはキャリッジ5の移動に伴い発生した、装置内のインクミストを多く含む気体の攪拌された流れではなく、それとは別の循環ダクト33から排出された気体がアウェイ側からホーム側に流れているものであると考えられる。エンコーダコードストリップ12は、ダクト33出口33cから排出された気体がダクト入口31a1へ向かう流れの中に配置されている。そのため、エンコーダコードストリップ12はインクミストが除去されたクリーンな気体で周りを包み込まれた状態となり、インクミストがエンコーダコードストリップ12に付着することが抑制される。つまり、エンコーダコードストリップ12を包み込むクリーンな気体の流れシールドの役割を果たすことで、装置内のインクミストを多量に含んだ気体がエンコーダコードストリップ12に触れる可能性を小さくしているのである。
【0026】
図9は、本実施形態インクジェット記録装置で、ファン30を動作させた状態で記録した場合とファン30を停止させた状態で記録した場合の記録装置内に浮遊しているインクミストの体積をグラフに示した図である。横軸にインクミストの粒径、縦軸に各粒径におけるインクミスト体積を示している。本実施形態の優位性を示すため、記録中の記録部3中央上部の気体を取り出し、その中に含まれるインクミスト量の測定を行ないインクミスト除去効果について検証を行なった。インクミスト量の計測には、APS(Aerodynamic Particle Sizer)測定装置を用いる。同一条件で記録する為、ファン30の動作、停止によらず発生インクミスト量はほぼ同じとする。ファン30を停止した状態で記録させた場合の浮遊ミスト体積から、ファン30を動作した状態で記録した場合の浮遊ミスト体積を引いたものが、ファン30の動作で回収できたインクミスト体積と考えられる。これを見ても明らかなように、全域でファン30を動作させることで大幅なインクミストの軽減が計れることがわかる。特に、インクミスト粒径:2.5μm〜7μm付近の回収率が大きい。
【0027】
図10は、本実施形態における記録装置でファン30を動作させて記録した場合とファン30を停止させて記録した場合のエンコーダコードストリップ12に付着したインクミスト付着面積を測定した結果である。横軸のA、B、C、Dは、キャリッジ5が移動する範囲で、装置アウェイ側からホーム側に順番に測定ポイントを定め、それぞれの測定ポイントでインク粒の付着面積を測定している。この方法で、通常よりミストが発生しやすい記録条件で130枚記録し、エンコーダコードストリップ12に付着したインクミスト付着面積を測定し比較を行なった。この図を見ても明らかなように、全領域でミスト付着率抑制が達成出来ていることがわかる。特にB、C、Dポイントでは大幅なミスト付着率抑制が成されていることがわかる。また、図10のエンコーダコードストリップ12に付着したインクミスト付着面積測定結果を図9の浮遊ミスト体積軽減率と比較すると、浮遊ミスト体積抑制率以上に大幅なエンコーダコードストリップ12へのインク粒の付着が抑制されることがわかる。これは前述したように、エンコーダコードストリップ12をインクミストが除去された気体の一方向の流れ場の中に置くことで、効率的にエンコーダコードストリップ12へのインクミスト付着を防ぐことが出来るためである。つまり、装置全体のインクミスト除去率以上のインクミスト付着抑制効果がある。
【0028】
以上説明したインクジェット記録装置は、記録ヘッドからインクを吐出した際に発生するインクミストを除去する除去機構を備える。ミスト除去機構は、両端に入口(ダクト入口31a1)と出口(ダクト出口33c)を有するダクト(メインダクト31、循環ダクト33)と、ダクトを流れる気体に含まれるインクミストを捕捉するミスト捕捉手段(ダクトリブ)を有する。ダクトの入口は往復移動するキャリッジの一方の移動端部の近傍に設けられ、ダクトの出口はキャリッジの他方の移動端部の近傍に設けられ、入口からダクトに取り込まれた気体は捕捉手段を通過して出口から排出される。ダクトの出口から排出された気体はエンコーダコードストリップに沿って流れて再びダクトの入口からダクトに取り込まれる。このような構成により、エンコーダコードストリップのインクミストによる汚れの進行が遅い。したがって、キャリッジの位置検出精度の劣化が少なく、長期間にわたって高い記録精度が維持される。
【符号の説明】
【0029】
12 エンコーダコードストリップ
15 メンテナンス部
31 メインダクト
31a1 ダクト入口
31d ダクトリブ(捕捉手段)
33 循環ダクト
33c ダクト出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録のためにインクを吐出する記録ヘッドと、前記記録ヘッドを搭載して往復移動するキャリッジと、往復移動する前記キャリッジの位置情報を検出するために用いられるエンコーダコードストリップと、前記記録ヘッドからインクを吐出した際に発生するインクミストを除去する除去機構とを備え、
前記除去機構は、両端に入口と出口を有するダクトと、前記ダクトを流れる気体に含まれるインクミストを捕捉する捕捉手段を有し、
前記入口は往復移動する前記キャリッジの一方の移動端部の近傍に設けられ、前記出口は前記キャリッジの他方の移動端部の近傍に設けられ、前記入口から前記ダクトに取り込まれた気体は前記捕捉手段を通過して前記出口から排出され、前記出口から排出された気体は前記エンコーダコードストリップに沿って流れて再び前記入口から前記ダクトに取り込まれることを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記記録ヘッドの待機位置側に前記記録ヘッドのメンテナンス処理を行うメンテナンス部が設けられており、前記入口は前記メンテナンス部の近傍に位置することを特徴とする、請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記ダクトの内部に前記入口から前記出口に向けて気流を発生させるためのファンを有し、前記捕捉手段は前記ダクトの内部において前記ファンよりも前記入口に近い側に設けられていることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記捕捉手段は前記ダクトのダクト内部面に前記気流が流れる方向に沿って設けられた複数のリブを有することを特徴とする、請求項3に記載のインクジェット記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−45861(P2012−45861A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−191387(P2010−191387)
【出願日】平成22年8月27日(2010.8.27)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】