説明

インクジェット記録装置

【課題】インクジェット記録装置の構成を簡便にし、相転移型インクの出射安定性を向上させること。
【解決手段】インク吐出面を有するインクジェットヘッドと、待機状態で、該インク吐出面に接近して吐出面と対向プレートとの間隙に相転移型インクを保持する機能を有する対抗プレートとを有し、該対抗プレートが加熱手段を有することを特徴とするインクジェット記録装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は相転移型のインク(常温では固体であり、加熱することにより溶融するインク)を用い、使用時に加熱溶融させたインクを吐出させるインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は、基本的には、インクジェットヘッドよりインクジェットインクの微小液滴を吐出し、記録媒体に着弾して画像を形成する方法であるため、インクジェットヘッドより安定に吐出させるためには、インクジェットインクに対して、グラビア印刷、オフセット印刷、スクリーン印刷等で使用されるインクより低粘度であることが要求されている。しかし、インクジェットインクが低粘度化すると、記録媒体上で複数のインクジェットインクを着弾させた場合には、ブリードと呼ばれる色混ざりの現象が発生し易くなる。逆に、このブリードを抑えるために、粘度の高いインクジェットインクを用いると、インクジェットヘッドからの安定した出射が出来なくなるというジレンマを抱えている。
【0003】
これを解決するため、いくつかの方法が提案されている。その一例として相転移型のインク(常温では固体であり、加熱することにより溶融するインク)方法がある。相転移型のインクは、吐出前はインクジェットヘッド内で吐出に適する粘度になるまで加熱されており、吐出されて記録媒体に着弾すると、温度が下がって、急速に粘度が上昇するため、ブリードを防止できる。
【0004】
しかし、相転移型のインクは、装置の電源を切り、インクの温度が低下すると、固化する際に、インクが体積収縮しノズルから圧力室内に空気が侵入してしまう。これにより、再度装置を運転するときに、吐出が不安定になるという問題があった。
【0005】
特許文献1には、相転移型インクを用いるインクジェット記録装置を停止する際に、圧力室のノズル側を最初に冷却し、順次圧力室のインク供給口側に向かって冷却を進めることにより、圧力室内への空気の侵入を防止できることが記載されている。しかし、冷却によるインクの収縮力が大きいため、完全には空気の侵入を防止できていない。
【0006】
また、特許文献2には、装置を停止する際に、ノズル開口部を封止液に接触させることにより、インクの収縮により封止液が圧力室内に進入するが空気の侵入を防止する技術が記載されている。しかし、封止液を用いるため、封止液の供給装置などの特別な装置を備えなければならず、プリンターのコストやランニングコストが上昇するという問題があった。また、空気の侵入ほどではないが、圧力室へインクと性質が大きく異なる封止液が侵入することにより、プリントの初期に出射が不安定になり、改善が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭62−73953号公報
【特許文献2】特開平3−132356号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような背景に基づいてなされたものであり、その目的はインクジェット記録装置の構成を簡便にし、相転移型インクの出射安定性を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題は下記の手段により解決された。
【0010】
1.インク吐出面を有するインクジェットヘッドと、待機状態で該インク吐出面に接近して吐出面と対向プレートとの間隙に相転移型インクを保持する機能を有する対抗プレートとを有し、該対抗プレートが加熱手段を有することを特徴とするインクジェット記録装置。
【0011】
2.前記対向プレートが冷却手段を有することを特徴とする前記1に記載のインクジェット記録装置。
【0012】
3.前記間隙が50〜1500μmであることを特徴とする前記1または2に記載のインクジェット記録装置。
【0013】
4.前記対向プレートを冷却または加熱することにより、前記間隙に保持した相転移型インクの流動性を変化させる手段を有することを特徴とする前記1〜3のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【0014】
5.前記対抗プレートを内包する被覆部材を有し、待機状態において、該被覆部材は、前記インクジェットヘッドと密着して、前記インク吐出面を覆い、該被覆部材と該インクジェットヘッドにより囲まれた空間を外気から遮断する機能を有することを特徴とする前記1〜4のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【0015】
6.前記被覆部材はポンプに接続され、前記空間を大気圧より低い圧力に保持する機能を有することを特徴とする前記5に記載のインクジェット記録装置。
【発明の効果】
【0016】
インクジェット記録装置のコストを上昇させずに、相転移型インクの出射安定性を向上させることができた。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】インクジェットヘッドのインク吐出面と対向プレートとの間にインクを保持した状態を示す模式図である。
【図2】対向プレートを示す斜視図である。
【図3】対向プレートとそれを内包した被覆部材を示す斜視図である。
【図4】対向プレートとそれを内包した被覆部材の断面図である。
【図5】インクジェットヘッドのインク吐出面と対向プレートとの間にインクを保持した状態を示す断面図である。
【図6】共通インク室に内蔵されたヒーターによりインクを加熱可能なインクジェットヘッドである。
【図7】熱交換器によりインクを加熱可能なインクジェットヘッドである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の形態を図面を用いて説明する。
【0019】
対向プレートとは、待機状態(非印刷時)で、インクジェットヘッドのインク吐出面に接近し、そのときインク突出面と平行で対向する面を有する部材である。インクジェットヘッドのインク吐出面と該対向プレートが接近した時の、その間隙はインクを保持する機能を有する。
【0020】
図1は待機状態のインクジェットヘッド1のインク吐出面2と対向プレート3との間にインク4が保持された状態を示している。本発明において該待機状態とは、インクジェットヘッドが被記録媒体上のプリント位置から外れ、対向プレートと接近した状態を言う。このとき被覆部材5はインクジェットヘッド1と密着してインク吐出面2、対向プレート3およびインク4を外気から遮断している。
【0021】
インクはインクタンク6からインクチューブ7を通ってインクジェットヘッド1に導入される。インクは加熱することにより流動性となり、冷却することにより非流動性となる性質を有することが好ましく、常温で非流動性であることが好ましい。このようなインクをインク吐出面まで導くためにインクタンク6およびインクジェットヘッド1およびインクチューブ7には保温装置が備えられていることが好ましい。
【0022】
また、対向プレート3は冷却または加熱手段を有する。インクジェットヘッドが待機状態になり、インクジェットヘッド1と被覆部材によりインク吐出面と対向プレートが外気から遮断されると、図示されていないポンプにより、インクジェットヘッドと被覆部材により覆われた空間の空気を吸引する。それによりインクがインク吐出面に設けられたインク吐出孔より流れ出し、インク吐出面2と対向プレート3の間隙を満たす。そこで、対向プレートが冷却されることにより、該間隙に満たされたインクが非流動性になる。
【0023】
また、プリントを再開する場合は、対向プレートの加熱手段が働きインクを流動性にすることが出来る。
【0024】
図2は対向プレートの斜視図である。対向プレート3には冷却のために空気を導入する開口8を有する管10(図1では省略している)および空気を排出する開口8′を有する管10′(図1では省略している)が設けられており、また、ヒーターに電圧を印加するための電極9(図1では省略している)が設けられている。
【0025】
また、対向プレート3はインクに対して不活性な材料を用いればよく、金属、セラミックス、プラスチック、ゴム材料等を用いることができ、間隙に満たされたインクの温度を効率良く変化させるために、熱伝導性の良い材料で構成されていることが好ましく、特にインク突出面と対向する面は、ステンレスなどの金属やセラミックスにより構成されることが好ましい。金属やセラミックスを用いる場合、表面を樹脂や塗料で被覆したものを用いることが出来る。なお、対向プレートが金属で構成されている場合は、ヒーターは樹脂などの絶縁性の材料で被覆されていることが好ましい。
【0026】
図3は対向プレート3が被覆部材5に内蔵されている状態の斜視図である。被覆部材5はインク吐出面と対向プレートとの間隙からあふれたインクを受け止める機能を有する。またインクジェットヘッドと密着して、対向プレート3を外部の空気から遮断可能とするために、上部は柔軟な弾性材料から形成されることが好ましい。また、強度を持たせるために、ゴム等の弾性材料を内側の金属骨格で支える構造であってもよい。このように外部の空気からインク吐出面を遮断することにより、インク吐出面を塵埃による汚染から保護することが出来る。
【0027】
管10と管10′は被覆部材5を貫通し、開口8および8′は被覆部材の外に露出しており、空気を送るチューブと接続することができる。電極9も被覆部材5を貫通し、先端が被覆部材の外に露出しており、外部電源と接続可能となっている。また被覆部材5には吸引口11(図1では省略している)が設けられており、吸引ポンプを接続することにより被覆部材の内部の空気を排出することが出来、また、あふれたインクを排出することができる。
【0028】
図3において、開口8、開口8′および吸引口11の中心を通る平面で切断したときの断面図を図4に示す。
【0029】
図4において、対向プレート3の内部は冷却用の空気の流路12が設けられおり、開口8から送られてきた空気は流路12を通って開口8′から排出される。また、流路12の壁面には加熱手段であるヒーター13(発熱抵抗体)が設けられており、電極9に電圧を印加することにより、対向プレート3を加熱することが出来る。
【0030】
図5は被覆部材5がインクジェットヘッド1と密着し状態で、開口8、開口8′および吸引口11の中心を通る平面で切断した断面図である。このとき、インク吐出面と対向プレートの間隙は50〜1500μmに保たれるように、インクジェットヘッド、対向プレートおよび被覆部材のサイズが決められていることが好ましい。インクジェットヘッド1が待機モードとなり、被覆部材5と密着した直後は、インクジェットヘッド1が加熱されており、インクジェットヘッド内のインクは流動性である。
【0031】
その後、インクを前記間隙に満たして、インクを非流動性にし、インクジェットヘッドの加熱を終了することにより、インクジェットヘッドを保管する。
【0032】
前記インクジェットヘッドの加熱装置の例を図6および図7を用いて説明する。図6は共通インク室を加熱するためのヒーターを内蔵したインクジェットヘッドの正面図と側面図であり、図7は熱交換器によりインクが共通インク室にインクの温度を制御可能なインクジェットヘッドの正面図と側面図である。
【0033】
図6において、基板14に、共通インク室16、アクチュエーター20、被覆カバー接板19および電装部22が固定されている。インクはインク供給口15を通って共通インク室16に導入され、共通インク室からアクチュエーター内の各圧力室に分配される。共通インク室内のインクを加熱するために、共通インク室にはヒーターが設けられている。
【0034】
共通インク室は2つのインク供給口を有し、一方をインク流入用、他方をインク流出用とし、インクタンクとチューブで接続することにより、共通インク室とインクタンクとの間でインクを循環させることにより、インクチューブ内のインクの温度が低下して非流動性になるのを防止できることから、共通インク室は2つのインク供給口を有することが好ましい。
【0035】
アクチュエーター20の先端には、圧力室からインクが吐出するインク吐出孔を有するノズルプレート21が接着されている。この場合、前記インク吐出面はノズルプレート21の外面となる。インク吐出孔よりインクを吐出させるための駆動信号は、電装部22により発生させられ、信号接合部23を通って、アクチュエーター20に印加される。駆動信号が印加されるとアクチュエーターが変形し、圧力室内のインクに圧力が生じて、インク吐出孔よりインクを吐出させる。
【0036】
インクジェットヘッドが待機状態となり、保管される場合は共通インク室およびアクチュエーター内のインクは非流動性になるが、プリントを再開する場合は、共通インク室のヒーターによりインクを加熱するとともに、アクチュエーターに駆動信号を印加することにより、インクを加熱し流動性にすることが出来る。
【0037】
図7のインクジェットヘッドは、図示されていないインクタンクと共通インク室16の間のインク流路に熱交換器17を有し、熱交換器には温媒供給口18を通して温水などの温媒が循環され、熱交換器を通るインクを加熱することが出来る。インクは図6のインクジェットヘッドと同様にインクタンクとの間を循環することは、チューブ内のインクの流動性を保つことができることから好ましい。
【0038】
前記温媒としては、水、シリコーンオイル等が用いられる。
【0039】
プリントを終了または休止してからインクジェットヘッドを保管するまでの動作例を以下に示す。
【0040】
(動作例1)
プリントが終了または休止したとき、インクジェットヘッドは待避場所に移動し、インクジェットヘッドのインク吐出面と対向プレートが50〜1500μmの間隙を形成するように対向プレートが接近する。インクジェットヘッドを駆動することによりインクジェットヘッドからインクを吐出し、該間隙をインクで満たす。この動作ではインクはインクジェットヘッドの駆動により吐出され、吐出面の周囲を減圧してインクを吸引する必要が無いので、必ずしも被覆部材を必要としない。インクが前記間隙に満たされたら、対向プレートを冷却してインクを非流動性にする。インクジェットヘッドの加熱を終了し、インクジェットヘッドをこのまま保管する。
【0041】
対向プレートを冷却する方法としては、そのまま放置して自然に放熱させる方法、および、冷却手段を働かせて冷却する方法があるが、冷却手段を働かせるほうが短時間で確実に相転移型インクを非流動性に出来るので好ましい。
【0042】
インクは吐出面と対抗面との間隙に十分な量があり、冷却によりインクがインクジェットヘッドの内部に引き込まれる力に耐えられる強度を有する。その後インクジェットヘッドの加熱を終了すると、内部のインクが非流動性に成ると共に収縮して、インクに負の応力が働くが、吐出孔の外のインク幕が非流動性であるために、インク吐出孔からインクジェットヘッドの圧力室内に空気が侵入することを防止できる。
【0043】
(動作例2)
前記動作例1において、インクジェットヘッドが対比場所に移動したら、対向プレートの加熱手段を起動し所定の温度に上げ、インクジェットヘッドと対向プレートが前記間隙を形成する他は同様に動作を行う。対抗プレートの加熱はインクジェットヘッドのインク吐出面に対向プレートが接近する前に行われてもよく、または接近してから行われても良い。加熱はインクが前記間隙に満たされるまで行うことが好ましく、間隙にインクが満たされた後、加熱を終了する。対向プレートを加熱することにより、間隙に吐出されたインクの流動性を高く保つことが出来、対向プレートが冷却されてインクがゲル化温度より低くなったときに、より均一で強固なインクの膜が間隙に形成される。そのためインクジェットヘッドの内部のインクが収縮して負の応力が掛かってもより強力に空気の侵入を防止できる。
【0044】
(動作例3)
対向プレートは図3に示すように被覆部材で覆われている。インクジェットヘッドは待避場所に移動したら、対向プレートの加熱手段を起動し所定の温度に上げる。
【0045】
インクジェットヘッドのインク吐出面と対向プレートが50〜1500μmの間隙を形成するように対向プレートが接近したときに、被覆部材が図5で示すようにインクジェットヘッドと密着し、インクジェットヘッドと被覆部材により囲まれた空間を外気から遮断する。被覆部材に接続されたポンプにより空気を排出し該空間を減圧させることにより、前記インク吐出孔よりインクを流出させ、前記間隙をインクで満たした。減圧を中止し、対向プレートの加熱を中止し、冷却手段を起動し、インクを非流動性にする。インクジェットヘッドの加熱を終了し、インクジェットヘッドをこのまま保管する。
【0046】
前記空間を減圧してインクジェットヘッドよりインクを流出させることにより、吐出によるインクの圧力振動でインクジェットヘッドの圧力室内に空気が巻き込まれて侵入することが無く、また、短時間で間隙をインクで満たすことが出来るので更に好ましい。
【0047】
上記により保管されたインクジェットヘッドを保管状態からプリント可能な状態に立ち上げる動作例を以下に示す。
【0048】
(動作例4)
保管状態のインクジェットヘッドの加熱装置を働かせ、インクジェットヘッド内のインクを流動性にし、内部応力をゼロにした後、対向プレートを加熱して前記間隙を満たしていたインクを流動性にする。これにより前記間隙のインクが流動性になったときに、空気と共にインクジェットヘッド内に吸い込まれるのを防止することが出来る。次に、対向プレートを離間させ、吐出面をワイピングによりクリーニングして、インクジェットヘッドをプリント可能な状態にする。上記動作においては、必ずしも図3に示した被覆部材を必要とせず、図2に示した対向プレートを用いればよい。
【0049】
(動作例5)
保管状態においては、対向プレートは図5に示すように被覆部材に覆われていて、インクジェットヘッドのインク吐出面と対向プレートが形成する50〜1500μmの間隙は、非流動性となったインクに満たされている。
【0050】
動作例4と同様に、保管状態のインクジェットヘッドの加熱装置を働かせ、インクジェットヘッド内のインクを流動性にし、内部応力をゼロにした後、対向プレートを加熱して前記間隙を満たしていたインクを流動性にする。その後、前記空間を減圧し、圧力室内の微小な気泡と共にインクをインクジェットヘッドより流出させる。被覆部材と対抗プレートをインクジェットヘッドから離間させ、吐出面をワイピングによりクリーニングして、インクジェットヘッドをプリント可能な状態にする。
【0051】
これにより、更に圧力室内の気泡を無くすことが出来る。
【0052】
以上の動作例において、対向プレートの加熱温度は50〜120℃であることが好ましく、冷却温度は0〜30℃がこのましい。特に冷却温度は装置の簡便性の点から、室温であることが好ましい。
【0053】
(加熱手段・冷却手段)
前記加熱手段および冷却手段は、各種手段により付与することができる。前記加熱手段を付与する手段としては発熱抵抗体、ペルチェ素子、温媒等が挙げられ、特に発熱抵抗体が低コストで簡便に設けられるので好ましい。前記冷却手段を付与する手段としては、ペルチェ素子、冷媒、外気による放熱等が挙げられ、特に外気を導入して放熱する手段が、簡便で低コストであることから好ましい。
【0054】
(被覆部材)
前記被覆部材は、ヘッドと密着するために、特にヘッドと接する部分は弾力性を有する材料であることが好ましい。該弾力性を有する材料としてはシリコーンゴム、EPDM等のゴム系の高分子が好ましく用いられる。また、強度を持たせるために、ゴム等の弾性材料を内側の金属骨格で支える構造であってもよい。
【0055】
(流動性・非流動性)
(インク)
本発明で用いられるインクは相転移型インクがブリードを防止できることから用いられる。相転移型インクは温度の変化により流動性の状態と非流動性の状態の間を移動する。ゲル化温度はインクが流動性から非流動性に変わる温度であり、中でも光硬化性のインクが画像の擦過性、耐久性等の点から好ましい。
【0056】
インクのゲル化温度の測定方法は、例えば、ガラス管に封じ込めた小鉄片を膨張計の中にいれ、温度変化に対してインク液中を自然落下しなくなった時点を相転移点とする方法(J.Polym.Sci.,21,57(1956))、インク上にアルミニウム製シリンダーを置き、ゲル温度を変化させた時に、アルミニウム製シリンダーが自然落下する温度を、相転移温度として測定する方法(日本レオロジー学会誌 Vol.17,86(1989))が挙げられ、該相転移点をゲル化温度とする。また、簡便な方法としては、ヒートプレート上にゲル状の試験片を置き、ヒートプレートを加熱していき、試験片の形状が崩れる温度を測定し、これをゲル化温度として求めることができる。
【0057】
インクをインク吐出面と対向プレートとの間隙で非流動性にするためには対向プレートの冷却手段により対向プレートをインクのゲル化温度より低い温度にすることが必要である。また、インクをインク吐出面と対向プレートとの間隙で非流動性から流動性にするためには対向プレートの加熱手段により対向プレートの温度をゲル化温度より高くことが必要である。
【0058】
本発明のインクジェット記録装置に用いられるインクは、インクをゲル化するために、外気による冷却といった低コストな冷却手段を採用できるようにするために、インクのゲル化温度が常温以上であることが好ましい。
【0059】
また、出射するときは、インクジェットヘッド内のインクはゲル化温度以上であり、流動性であるが、特に粘度が4〜20mPa・sであると、出射が安定で好ましい。
【0060】
また、前記インクは、色材、重合性化合物、光開始剤を含有することが好ましく、更にゲル化剤を含有することが好ましい。
【0061】
(色材)
インクを構成する色材としては、染料あるいは顔料を制限なく用いることができるが、インク成分に対し良好な分散安定性を有し、かつ耐候性に優れた顔料を用いることが好ましい。顔料としては、特に限定されるわけではないが、本発明には例えばカラーインデックスに記載される下記の番号の有機又は無機顔料が使用できる。
【0062】
赤或いはマゼンタ顔料としては、Pigment Red 3、5、19、22、31、38、43、48:1、48:2、48:3、48:4、48:5、49:1、53:1、57:1、57:2、58:4、63:1、81、81:1、81:2、81:3、81:4、88、104、108、112、122、123、144、146、149、166、168、169、170、177、178、179、184、185、208、216、226、257、Pigment Violet 3、19、23、29、30、37、50、88、Pigment Orange 13、16、20、36、
青又はシアン顔料としては、pigment Blue 1、15、15:1、15:2、15:3、15:4、15:6、16、17−1、22、27、28、29、36、60、
緑顔料としては、Pigment Green 7、26、36、50、
黄顔料としては、Pigment Yellow 1、3、12、13、14、17、34、35、37、55、74、81、83、93、94,95、97、108、109、110、137、138、139、153、154、155、157、166、167、168、180、185、193、
黒顔料としては、Pigment Black 7、28、26、
などが目的に応じて使用できる。
【0063】
また、顔料を予め水、溶剤、重合性モノマー等に高濃度分散した分散液を使用することもできる。
【0064】
本発明に係るインクにおいては、顔料を分散するための顔料分散剤を用いることが好ましい。本発明で用いることのできる分散剤としては、例えば、高級脂肪酸塩、アルキル硫酸塩、アルキルエステル硫酸塩、アルキルスルホン酸塩、スルホコハク酸塩、ナフタレンスルホン酸塩、アルキルリン酸塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸塩、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、グリセリンエステル、ソルビタンエステル、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、アミンオキシド等の活性剤、あるいは、スチレン、スチレン誘導体、ビニルナフタレン誘導体、アクリル酸、アクリル酸誘導体、マレイン酸、マレイン酸誘導体、イタコン酸、イタコン酸誘導体、フマル酸、フマル酸誘導体から選ばれた2種以上の単量体からなるブロック共重合体、ランダム共重合体およびこれらの塩を挙げることができる。
【0065】
顔料の分散には、ボールミル、サンドミル、アトライター、ロールミル、アジテータ、ヘンシェルミキサ、コロイドミル、超音波ホモジナイザー、パールミル、湿式ジェットミル、ペイントシェーカー等を用いることができる。又、顔料の分散を行う際に分散剤を添加することも可能である。
【0066】
本発明においては、顔料分散剤の添加量としては、顔料に対し10〜100質量%であることが好ましい。
【0067】
上記方法で得られる顔料の平均分散粒子径は、50nm以上、150nm以下であることが好ましい。顔料の平均分散粒子径が上記で規定する範囲であれば、インクの分散安定性を向上させることができ、その結果、ヘッドノズルの詰まりを抑制し、出射安定性がより一層向上させるとともに、インク透明性の向上に伴い、後述する活性光線硬化型組成物を含有させた際の活性光線の硬化効率を高めることができる。
【0068】
本発明に係るインクにおいて、顔料の平均分散粒子径を上記で規定する範囲に調整する手段としては、例えば、顔料、分散剤、分散媒体の選定、分散条件、ろ過条件を適宜選択あるいは組み合わせることにより達成することができる。
【0069】
また、本発明に係るインクにおいては、従来公知の染料、好ましくは油溶性染料も必要に応じて用いることができる。
【0070】
本発明で用いることのできる油溶性染料として、以下にその具体例を挙げるが、本発明はこれらにのみ限定されるモノではない。
【0071】
〈マゼンタ染料〉
MS Magenta VP、MS Magenta HM−1450、MS Magenta HSo−147(以上、三井東圧社製)、AIZENSOT Red−1、AIZEN SOT Red−2、AIZEN SOTRed−3、AIZEN SOT Pink−1、SPIRON Red GEH SPECIAL(以上、保土谷化学社製)、RESOLIN Red FB 200%、MACROLEX Red Violet R、MACROLEX ROT5B(以上、バイエルジャパン社製)、KAYASET Red B、KAYASET Red 130、KAYASET Red 802(以上、日本化薬社製)、PHLOXIN、ROSE BENGAL、ACID Red(以上、ダイワ化成社製)、HSR−31、DIARESIN Red K(以上、三菱化成社製)、Oil Red(BASFジャパン社製)。
【0072】
〈シアン染料〉
MS Cyan HM−1238、MS Cyan HSo−16、Cyan HSo−144、MS Cyan VPG(以上、三井東圧社製)、AIZEN SOT Blue−4(保土谷化学社製)、RESOLIN BR.Blue BGLN 200%、MACROLEX Blue RR、CERES Blue GN、SIRIUS SUPRATURQ.Blue Z−BGL、SIRIUS SUPRA TURQ.Blue FB−LL 330%(以上、バイエルジャパン社製)、KAYASET Blue FR、KAYASET Blue N、KAYASET Blue 814、Turq.Blue GL−5 200、Light Blue BGL−5 200(以上、日本化薬社製)、DAIWA Blue 7000、Oleosol Fast Blue GL(以上、ダイワ化成社製)、DIARESIN Blue P(三菱化成社製)、SUDAN Blue 670、NEOPEN Blue 808、ZAPON Blue 806(以上、BASFジャパン社製)。
【0073】
〈イエロー染料〉
MS Yellow HSm−41、Yellow KX−7、Yellow EX−27(三井東圧)、AIZEN SOT Yellow−1、AIZEN SOT YelloW−3、AIZEN SOT Yellow−6(以上、保土谷化学社製)、MACROLEX Yellow 6G、MACROLEX FLUOR.Yellow 10GN(以上、バイエルジャパン社製)、KAYASET Yellow SF−G、KAYASET Yellow2G、KAYASET Yellow A−G、KAYASET Yellow E−G(以上、日本化薬社製)、DAIWA Yellow 330HB(ダイワ化成社製)、HSY−68(三菱化成社製)、SUDAN Yellow 146、NEOPEN Yellow 075(以上、BASFジャパン社製)。
【0074】
〈ブラック染料〉
MS Black VPC(三井東圧社製)、AIZEN SOT Black−1、AIZEN SOT Black−5(以上、保土谷化学社製)、RESORIN Black GSN 200%、RESOLIN BlackBS(以上、バイエルジャパン社製)、KAYASET Black A−N(日本化薬社製)、DAIWA Black MSC(ダイワ化成社製)、HSB−202(三菱化成社製)、NEPTUNE Black X60、NEOPEN Black X58(以上、BASFジャパン社製)等である。
【0075】
顔料あるいは油溶性染料の添加量は0.1〜20質量%が好ましく、更に好ましくは0.4〜10質量%である。0.1質量%以上であれば、良好な画像品質を得ることができ、20質量%以下であれば、インク出射における適正なインク粘度を得ることができる。又、色の調整等で2種類以上の着色剤を適時混合して使用できる。
【0076】
(重合性化合物)
本発明においては、重合性化合物としては、特に制限なく用いることができるが、中でもカチオン重合性化合物またはラジカル重合性化合物を用いることができる。
【0077】
(カチオン重合性化合物)
カチオン重合性モノマーとしては、各種公知のカチオン重合性のモノマーが使用できる。例えば、特開平6−9714号、特開2001−31892、特開2001−40068、特開2001−55507、特開2001−310938、特開2001−310937、特開2001−220526に例示されているエポキシ化合物、ビニルエーテル化合物、オキセタン化合物などが挙げられる。
【0078】
芳香族エポキシドとして好ましいものは、少なくとも1個の芳香族核を有する多価フェノールあるいはそのアルキレンオキサイド付加体とエピクロルヒドリンとの反応によって製造されるジまたはポリグリシジルエーテルであり、例えばビスフェノールAあるいはそのアルキレンオキサイド付加体のジまたはポリグリシジルエーテル、水素添加ビスフェノールAあるいはそのアルキレンオキサイド付加体のジまたはポリグリシジルエーテル、ならびにノボラック型エポキシ樹脂等が挙げられる。ここでアルキレンオキサイドとしては、エチレンオキサイドおよびプロピレンオキサイド等が挙げられる。
【0079】
脂環式エポキシドとしては、少なくとも1個のシクロヘキセンまたはシクロペンテン環等のシクロアルカン環を有する化合物を、過酸化水素、過酸等の適当な酸化剤でエポキシ化することにより得られる、シクロヘキセンオキサイドまたはシクロペンテンオキサイド含有化合物が好ましい。
【0080】
脂肪族エポキシドの好ましいものとしては、脂肪族多価アルコールあるいはそのアルキレンオキサイド付加体のジまたはポリグリシジルエーテル等があり、その代表例としては、エチレングリコールのジグリシジルエーテル、プロピレングリコールのジグリシジルエーテルまたは1,6−ヘキサンジオールのジグリシジルエーテル等のアルキレングリコールのジグリシジルエーテル、グリセリンあるいはそのアルキレンオキサイド付加体のジまたはトリグリシジルエーテル等の多価アルコールのポリグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールあるいはそのアルキレンオキサイド付加体のジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールあるいはそのアルキレンオキサイド付加体のジグリシジルエーテル等のポリアルキレングリコールのジグリシジルエーテル等が挙げられる。ここでアルキレンオキサイドとしては、エチレンオキサイドおよびプロピレンオキサイド等が挙げられる。
【0081】
これらのエポキシドのうち、速硬化性を考慮すると、芳香族エポキシドおよび脂環式エポキシドが好ましく、特に脂環式エポキシドが好ましい。本発明では、上記エポキシドの1種を単独で使用してもよいが、2種以上を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0082】
ビニルエーテル化合物としては、例えば、エチレングリコールジビニルエーテル、ジエチレングリコールジビニルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、プロピレングリコールジビニルエーテル、ジプロピレングリコールジビニルエーテル、ブタンジオールジビニルエーテル、ヘキサンジオールジビニルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテル、トリメチロールプロパントリビニルエーテル等のジ又はトリビニルエーテル化合物、エチルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、オクタデシルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテル、2−エチルヘキシルビニルエーテル、シクロヘキサンジメタノールモノビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、イソプロペニルエーテル−O−プロピレンカーボネート、ドデシルビニルエーテル、ジエチレングリコールモノビニルエーテル、オクタデシルビニルエーテル等のモノビニルエーテル化合物等が挙げられる。
【0083】
これらのビニルエーテル化合物のうち、硬化性、密着性、表面硬度を考慮すると、ジ又はトリビニルエーテル化合物が好ましく、特にジビニルエーテル化合物が好ましい。本発明では、上記ビニルエーテル化合物の1種を単独で使用してもよいが、2種以上を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0084】
オキセタン化合物とは、オキセタン環を有する化合物のことであり、特開2001−220526、特開2001−310937に紹介されているような公知のあらゆるオキセタン化合物を使用できる。
【0085】
オキセタン環を有する各化合物の製造方法は、特に限定されず、従来知られた方法に従えばよく、例えば、パティソン(D.B.Pattison, J.Am.Chem.Soc.,3455,79(1957))が開示している、ジオールからのオキセタン環合成法等がある。
【0086】
(ラジカル重合性化合物)
次いで、ラジカル重合性化合物について説明する。
【0087】
本発明に係るインクにおいては、ラジカル重合性化合物の使用を制限するものではなく、ラジカル重合性化合物としては、例えば、特開平7−159983号、特公平7−31399号、特開平8−224982号、特開平10−863号の各公報に記載されている光重合性組成物を用いた光硬化型材料と、カチオン重合系の光硬化性樹脂が知られており、最近では可視光以上の長波長域に増感された光カチオン重合系の光硬化性樹脂も例えば、特開平6−43633号公報、特開平8−324137公報等に公開されている。
【0088】
ラジカル重合性化合物は、ラジカル重合可能なエチレン性不飽和結合を有する化合物であり、分子中にラジカル重合可能なエチレン性不飽和結合を少なくとも1つ有する化合物であればどの様なものでもよく、モノマー、オリゴマー、ポリマー等の化学形態をもつものが含まれる。ラジカル重合性化合物は1種のみ用いてもよく、また目的とする特性を向上するために任意の比率で2種以上を併用してもよい。
【0089】
ラジカル重合可能なエチレン性不飽和結合を有する化合物の例としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、マレイン酸等の不飽和カルボン酸及びそれらの塩、エステル、ウレタン、アミドや無水物、アクリロニトリル、スチレン、更に種々の不飽和ポリエステル、不飽和ポリエーテル、不飽和ポリアミド、不飽和ウレタン等のラジカル重合性化合物が挙げられる。具体的には、ノルボルネンアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、ブトキシエチルアクリレート、カルビトールアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、ベンジルアクリレート、ビス(4−アクリロキシポリエトキシフェニル)プロパン、ネオペンチルグリコールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールテトラアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、オリゴエステルアクリレート、N−メチロールアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、エポキシアクリレート等のアクリル酸誘導体、メチルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、アリルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、ジメチルアミノメチルメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレート、トリメチロールエタントリメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、2,2−ビス(4−メタクリロキシポリエトキシフェニル)プロパン等のメタクリル誘導体、その他、アリルグリシジルエーテル、ジアリルフタレート、トリアリルトリメリテート等のアリル化合物の誘導体が挙げられ、更に具体的には、山下晋三編、「架橋剤ハンドブック」、(1981年大成社);加藤清視編、「UV・EB硬化ハンドブック(原料編)」(185年、高分子刊行会);ラドテック研究会編、「UV・EB硬化技術の応用と市場」、79ページ、(1989年、シーエムシー);滝山栄一郎著、「ポリエステル樹脂ハンドブック」、(1988年、日刊工業新聞社)等に記載の市販品もしくは業界で公知のラジカル重合性ないし架橋性のモノマーオリゴマー及びポリマーを用いることができる。上記カチオン重合性化合物及びラジカル重合性化合物の添加量は好ましくは1〜97質量%であり、より好ましくは30〜95質量%である。
【0090】
〔光開始剤〕
〈ラジカル重合開始剤〉
ラジカル重合開始剤としては、特公昭59−1281号、特公昭61−9621号、及び特開昭60−60104号等の各公報記載のトリアジン誘導体、特開昭59−1504号及び特開昭61−243807号等の各公報に記載の有機過酸化物、特公昭43−23684号、特公昭44−6413号、特公昭44−6413号及び特公昭47−1604号等の各公報並びに米国特許第3,567,453号明細書に記載のジアゾニウム化合物、米国特許第2,848,328号、同第2,852,379号及び同2,940,853号各明細書に記載の有機アジド化合物、特公昭36−22062号、特公昭37−13109号、特公昭38−18015号、特公昭45−9610号等の各公報に記載のオルト−キノンジアジド類、特公昭55−39162号、特開昭59−14023号等の各公報及び「マクロモレキュルス(Macromolecules)、第10巻、第1307頁(1977年)に記載の各種オニウム化合物、特開昭59−142205号公報に記載のアゾ化合物、特開平1−54440号公報、ヨーロッパ特許第109,851号、ヨーロッパ特許第126,712号等の各明細書、「ジャーナル・オブ・イメージング・サイエンス」(J.Imag.Sci.)」、第30巻、第174頁(1986年)に記載の金属アレン錯体、特許第2711491号及び特許第2803454号明細書に記載の(オキソ)スルホニウム有機ホウ素錯体、特開昭61−151197号公報に記載のチタノセン類、「コーディネーション・ケミストリー・レビュー(Coordination Chemistry Review)」、第84巻、第85〜第277頁(1988年)及び特開平2−182701号公報に記載のルテニウム等の遷移金属を含有する遷移金属錯体、特開平3−209477号公報に記載の2,4,5−トリアリールイミダゾール二量体、四臭化炭素や特開昭59−107344号公報記載の有機ハロゲン化合物等が挙げられる。これらの重合開始剤はラジカル重合可能なエチレン不飽和結合を有する化合物100質量部に対して0.01から10質量部の範囲で含有されるのが好ましい。
【0091】
ラジカル重合開始剤の具体的な化合物としては、
1)ベンゾフェノン、ヒドロキシベンゾフェノン、ビス−N,N−ジメチルアミノベンゾフェノン、ビス−N,N−ジエチルアミノベンゾフェノン、4−メトキシ−4′−ジメチルアミノベンゾフェノン等のベンゾフェノン類、及びそれらの塩、
2)チオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、イソプロピルチオキサントン、クロロチオキサントン、イソプロポキシクロロチオキサントン等のチオキサントン類、及びそれらの塩、
3)エチルアントラキノン、ベンズアントラキノン、アミノアントラキノン、クロロアントラキノン等のアントラキノン類、
4)アセトフェノン類、
5)ベンゾインメチルエーテル等のベンゾインエーテル類、
6)2,4,6−トリハロメチルトリアジン類、
7)1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−(o−クロロフェニル)−4,5−ジフェニルイミダゾール2量体、2−(o−クロロフェニル)−4,5−ジ(m−メトキシフェニル)イミダゾール2量体、2−(o−フルオロフェニル)−4,5−フェニルイミダゾール2量体、2−(o−メトキシフェニル)−4,5−フェニルイミダゾール2量体、2−(p−メトキシフェニル)−4,5−ジフェニルイミダゾール2量体、2−(2,4−ジメトキシフェニル)−4,5−ジフェニルイミダゾール2量体、2,4,5−トリアリールイミダゾール2量体等のイミダゾール類、
8)ベンジルジメチルケタール、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)ブタン−1−オン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノ−1−プロパノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン、フェナントレンキノン、9,10−フェナンスレンキノン、メチルベンゾイン、エチルベンゾイン等のベンゾイン類、
9)9−フェニルアクリジン、1,7−ビス(9,9′−アクリジニル)ヘプタン等のアクリジン誘導体、
10)ビスアシルフォスフィンオキサイド、ビスフェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド、
11)4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル−(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン、及びこれらのエチレンオキシド付加物、
等が挙げられる。また、インクに加える形態は、必要に応じて溶解物または分散物として加えることができる。
【0092】
本発明に係るインクにおいては、光増感剤を用いてもよい。光増感剤の例としては、p−ジメチルアミノ安息香酸エチル、p−ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等が挙げられる。
【0093】
〈カチオン重合開始剤〉
本発明に用いることができるカチオン重合開始剤は、カチオン性化合物、金属化合物及び強酸性化合物の総含有量が500ppm以下、1ppm以上であるカチオン重合開始剤であることが好ましい。
【0094】
本発明で用いることのできるカチオン重合開始剤としては、公知のスルホニウム塩、アンモニウム塩などの他、ジアリールヨードニウム塩、トリアリールスルホニウム塩などが挙げられ、例えば、特開平8−143806号公報、特開平8−283320号公報などに記載のものから適宜選択して使用することができる。また、カチオン重合開始剤は、市販品をそのまま使用することができ、市販品の代表例として、例えば、商品名CI−1370、CI−2064、CI−2397、CI−2624、CI−2639、CI−2734、CI−2758、CI−2823、CI−2855およびCI−5102等の市販品(以上、日本曹達株式会社製)、商品名PHOTOINITIATOR2047等の市販品(ローディア社製)、商品名UVI−6974、UVI−6990等の市販品(以上、ユニオンカーバイト社製)などを挙げることができる。
【0095】
カチオン重合開始剤の使用量は、カチオン重合性組成物中のカチオン重合性化合物100質量部に対して、通常は、0.1〜20質量部、好ましくは1〜10質量部、更に好ましくは3〜5質量部とされる。
【0096】
〔ゲル化剤〕
本発明のインクジェット記録装置に用いられるインクはゲル化剤を含有することが好ましい。
【0097】
ゲル化剤は、高分子化合物であっても、低分子化合物であってもよいが、インクに用いられる観点から低分子化合物であることが好ましい。また、ゲル構造として、オイルゲル化剤自体が繊維状会合体を形成しうる化合物が好ましい。繊維状会合体の形成は透過電子顕微鏡による形態観察で容易に確認できる。具体的化合物としては、例えば、特開2005−126507号公報、2006−193745号公報に記載に化合物を挙げることができる。そのなかでも、好ましくは、分子内に極性基を挟んで少なくとも2つの長鎖アルキル基またはフェニルなどの疎水部があり、分子間で2つ以上の疎水結合が出来る化合物。または長鎖アルキル基またはフェニルなどの疎水部を挟んで少なくとも2つ以上の水酸基、アミド基、カルボン酸基、エーテル基、アミノ基などの水素結合が出来る構造を有する化合物である。これらは、少量でゲル化させる特性を有しているために、光硬化の妨害が少ないなどのインク特性にメリットを与える。
【0098】
以下に、本発明に係るインクで用いることのできるゲル化剤の具体例を示すが、本発明はこれらの化合物にのみ限定されるものではない。
【0099】
【化1】

【0100】
【化2】

【0101】
上記の観点から、上記例示したゲル化剤中で好ましく用いられる化合物は、OG−1、OG−2、OG−3、OG−4、OG−5、OG−9及びOG−15である。
【0102】
また、本発明においては、ゲル化剤としてワックス類も用いてもよい。例えば、石油ワックス、望ましくはペトロラクタムや、植物系ワックス、望ましくはキャンデリラワックス,カルナウバワックス,ライスワックス,木ロウまたはホホバ油や、ホホバ固体ロウや、動物系ワックス、望ましくはミツロウ,ラノリンまたは鯨ロウや、鉱物系ワックス、望ましくはモンタンワックスや、水素化ワックス、望ましくは硬化ヒマシ油または硬化ヒマシ油誘導体や、変性ワックス、望ましくはモンタンワックス誘導体,パラフィンワックス誘導体,マイクロクリスタリンワックス誘導体またはポリエチレンワックス誘導体や、高級脂肪酸、望ましくはベヘン酸,ステアリン酸,パルミチン酸,ミリスチン酸,ラウリン酸またはオレイン酸や、高級アルコール、望ましくはステアリルアルコールまたはベヘニルアルコールや、ヒドロキシステアリン酸、望ましくは12−ヒドロキシステアリン酸または12−ヒドロキシステアリン酸誘導体や、脂肪酸アミド、望ましくはラウリン酸アミド,ステアリン酸アミド,オレイン酸アミド,エルカ酸アミド,リシノール酸アミド,12−ヒドロキシステアリン酸アミド,特殊脂肪酸アミドまたはN−置換脂肪酸アミドや、アミン、望ましくはドデシルアミン,テトラデシルアミンまたはオクタデシルアミンや、エステル、望ましくはグリセリン脂肪酸エステル,ソルビタン脂肪酸エステル,プロピレングリコール脂肪酸エステル,エチレングリコール脂肪酸エステルまたはポリオキシエチレン脂肪酸エステルや、重合ワックス、望ましくはα−オレフィン無水マレイン酸共重合体ワックス等が挙げられる。また、上記の有機物質は、単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。しかしながら、上記ワックス類は、ゲル化剤に比べてゲル化速度が緩慢であるため、ゲル化剤を用いることがより好ましい。
【0103】
本発明に係るインクにおいて、ゲル化剤の含有量は、インク全質量に対し0.1〜30質量%の範囲で用いることができるが、0.3〜15質量%であることが好ましく、3〜15質量%であることが特に好ましい。ゲル化剤の含有量が0.3〜15質量%の範囲であれば、更に安定した出射特性を得ることができると共に、本発明の目的効果をより一層発揮することができる。特に、色材として顔料を用いる場合には、ゲル化剤が顔料の分散安定性を損なう場合があるため、ゲル化剤の含有量を0.3〜15質量%の範囲とすることが好ましい。
【実施例】
【0104】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「部」あるいは「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」あるいは「質量%」を表す。
【0105】
(顔料分散液の調製)
〈イエロー顔料分散液1の調製〉
分散剤:高分子分散剤 Solsperse17000、Avecia製 10部
1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート 70部
上記各化合物をステンレスビーカーに入れ、65℃ホットプレート上で加熱しながら1時間加熱、撹拌して溶解した。次いで、室温まで冷却した後、これに下記顔料20部を加え、直径0.5mmのジルコニアビーズ200gと共にガラス瓶に入れ密栓し、ペイントシェーカーにて10時間分散処理した後、ジルコニアビーズを除去し、イエロー顔料分散液1を調製した。
【0106】
〈イエローインクの調製〉
イエロー顔料分散液1 15部
トリメチロールプロパントリアクリレート 35部
1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート 13部
OG−5(ゲル化剤) 7部
N−ビニルカプロラクタム 20部
ノルボルネンアクリレート 5部
イルガキュア651:光開始剤、チバ・ジャパン社製 3部
イルガキュア127:光開始剤、チバ・ジャパン社製 2部
上記各物質を順次添加、混合した後、絶対ろ過精度2μmのフィルターを用いてろ過して、イエローインクを調製した。
【0107】
上記各色インクのゲル化温度を下記の方法に従って測定した結果、70℃であった。
【0108】
融点測定機(アズワン社製 ATM−01)にゲル状の各インクの試験片を置き、昇温速度5℃/分以下で加熱し、試験片が溶融した温度を測定し、この操作を3回繰り返して平均値を求め、その平均値の小数点第一位を四捨五入して、これをインクのゲル化温度とした。
【0109】
(インクジェットヘッド)
PZTによる隔壁と圧力室とを交互に並べたシェアモード型インクジェットヘッド
ノズル数 512
ノズル密度 360dpi
液滴量 4pL
(動作試験)
下記のインクジェットヘッドを用いて動作試験を行った。
【0110】
インクタンクに溶融状態の前記イエローインクを充填した。
【0111】
プリント開始時の昇温プロセスは、ノズル内のインクを溢れさせないために、下記の順で行った。
【0112】
(1)インクタンク加熱保温→(2)インク供給チューブ加熱保温→(3)ヘッド内部加熱
インクタンクおよびヘッドは90℃に加熱保温し、チューブはヒーターを巻いて90℃に加熱保温した。
【0113】
比較例1
下記の1)、2)および3)の動作を順に行った。
【0114】
1)駆動周波数20kHzで全吐出孔より出射を行い、出射液滴を高速ビデオカメラで観察し全吐出孔で出射に異常の無いことを確認し、出射を終了した。
【0115】
2)インクジェットヘッドの吐出面に外気を送風して当て、吐出面から冷却して、表面温度が50℃に下がってから、ヘッド、インクタンクおよびチューブの加熱電源を切り放置して、温度を室温まで下げた。
【0116】
3)インクジェットヘッドおよびインクタンクを90℃に加熱し、チューブのヒーターを加熱して、1)と同様にインクを出射し液滴を観察した。
【0117】
比較例2
比較例1において、2)を、インクジェットヘッドの吐出面を、70℃に保温したシリコーンオイル(沸点が250℃以上)に漬けて、そのままシリコーンオイルの温度を室温まで下げたのち、シリコーンオイルから引き上げることに変えたほかは、同様に動作を行った。
【0118】
実施例1
比較例1において、2)、3)を下記のように変更した以外は、同様に動作を行った。
【0119】
2)図1のように対向プレートとインクジェットヘッドのインク吐出面とを500μmの間隙に接近させ、インクジェットヘッドを駆動しインクを吐出させて該間隙にインクを満たし、対向プレートの開口に空気を送り対向プレートを冷却した。
【0120】
3)インクジェットヘッドを90℃に加熱し、インクが流動性になってから、対向プレートを90℃に加熱して、対向プレートを離間させた。その後、ブレードによるワイピングでインク吐出面に付着していたインクを除去した。
【0121】
(対向プレート)
対向プレートはSUS316を用いて、図2の形状に作製した。電極9とヒーター13を結ぶ導線およびヒーター13は絶縁材料で被覆して、SUS316との絶縁を図った。
【0122】
実施例2
実施例1において、2)で、対向プレートを予め90℃に加熱してから間隙にインクを満たしたほかは、同様に動作をおこなった。
【0123】
実施例3
実施例2において、2)を下記のように変更した以外は同様に動作を行った。
【0124】
2)図3の被覆部材に覆われた対向プレートとインクジェットヘッドのインク吐出面とを500μmの間隙に接近させ、該被覆部材がインクジェットヘッドと密着させた。なお、被覆部材はEPDMにより作製した。インクジェットヘッドと被覆部材とで囲まれた空間の空気をポンプで排出し、減圧することでインクを吐出孔より流出させ間隙にインクを満たした。対向プレートの開口に外気を送り対向プレートを冷却した。
【0125】
比較例1、2、実施例1〜3の3)における出射の観察結果を以下に記す。
【0126】
比較例1 射出欠損発生数26回/検査数100回
比較例2 射出欠損発生数12回/検査数100回
実施例1 射出欠損発生数2回/検査数100回
実施例2 射出欠損発生数1回/検査数100回
実施例3 射出欠損発生数0回/検査数100回
【符号の説明】
【0127】
1 インクジェットヘッド
2 インク吐出面
3 対向プレート
4 インク
5 被覆部材
6 インクタンク
7 インクチューブ
8 開口
9 電極
10 管
11 吸引口
12 冷却用の空気の流路
13 ヒーター
14 基板
15 インク供給口
16 共通インク室
17 熱交換器
18 温媒供給口
19 被覆カバー接板
20 アクチュエーター
21 ノズルプレート
22 電装部
23 信号接合部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インク吐出面を有するインクジェットヘッドと、待機状態で該インク吐出面に接近して吐出面と対向プレートとの間隙に相転移型インクを保持する機能を有する対抗プレートとを有し、該対抗プレートが加熱手段を有することを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記対向プレートが冷却手段を有することを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記間隙が50〜1500μmであることを特徴とする請求項1または2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記対向プレートを冷却または加熱することにより、前記間隙に保持した相転移型インクの流動性を変化させる手段を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
前記対抗プレートを内包する被覆部材を有し、待機状態において、該被覆部材は、前記インクジェットヘッドと密着して、前記インク吐出面を覆い、該被覆部材と該インクジェットヘッドにより囲まれた空間を外気から遮断する機能を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項6】
前記被覆部材はポンプに接続され、前記空間を大気圧より低い圧力に保持する機能を有することを特徴とする請求項5に記載のインクジェット記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−61658(P2012−61658A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−206435(P2010−206435)
【出願日】平成22年9月15日(2010.9.15)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】