説明

インクジェット記録装置

【課題】本発明は、記録媒体への前処理液の塗布量が均一に制御できることにより記録媒体の波打ちを抑え、高画質な記録が可能となる。
【解決手段】本発明のインクジェット記録装置は、前処理液を記録媒体に塗布する塗布ローラ(25)と、該塗布ローラと対向するカウンタローラ(26)と、記録媒体に記録を行うインクジェットヘッドとを具備し、塗布ローラとカウンタローラとの間で前処理液が塗布された記録媒体に画像を記録する、本発明のインクジェット記録装置において、記録媒体を塗布ローラとカウンタローラとの間へと案内する第1のガイド部(51)を有し、該第1のガイド部はカウンタローラ側に向けて記録媒体を案内する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインクジェット記録装置に関し、詳細にはインクジェット方式の画像記録法に有効な、記録媒体の前処理手段に関するものであり、具体的には画像品質を向上させるための前処理液を塗布する前処理液塗布装置を具備したインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インクジェットプリンタは低騒音、低ランニングコスト、カラー化が容易といった利点から急速に普及してきている。しかしながら、普通紙に記録すると、にじみ、濃度、色調や裏写り等といった初期品質問題に加え、耐水性、耐候性といった画像の堅牢性に関わる問題を抱えていたため、これらの問題を解決する様々な提案が成されてきた。
【0003】
それらの解決手段として、インクによる画像が形成された際に、普通紙などの被記録材表面にインク中の染料を定着するための材料を予め塗工した被記録材、又は表面に白色顔料や水溶性高分子を塗工した被記録材を使用することが、特許文献1〜4等に開示されている。しかし、この方法では、予め塗工処理した専用紙を購入しなければならないため、身近にある紙を自由に使えるというわけにはいかないという不便さがあり、また鉛筆やペンによる加筆性の問題があった。
【0004】
また、2色重ね部分等の色境界での滲みを抑えるために、インクに界面活性剤などを添加することにより、インクの浸透性を高めることが特許文献5等に開示されている。この方法は、インクが記録紙に高速に浸透するため、2色重ね部分等の色境界での滲みの解決やスメア(印字後の接触による画像汚れ)に対しては効果的だが、滲みや裏写りは解決できない。更に、インクに揮発性溶剤を添加する方法が特許文献6に開示されているが、上記浸透性インクと同様の効果が得られるがノズルが目詰まりを起こしやすい。また、耐水性、耐光性を向上させるために色剤として顔料を含有するインクの使用も増加してきているが、顔料を含有するインクでは目詰まり等ノズル周りの信頼性を維持するのが難しく、また写真画像やCG等の高い色再現性を要求される場合にはシアンやマゼンタ色の発色が不十分となり満足な画像が得られないという問題がある。
【0005】
そこで、このような問題を解決するために、特許文献7には、被記録材上に予めカルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル等のポリマー溶液を噴射し、ついでそのポリマー溶液が付着した部分にインクを噴射して印字するインクジェット記録方法が提案されている。しかし、この方法では印字画像のシャープネスの向上は得られるが、印字画像の乾燥性の向上に効果が得られずカラー画像での画質改善効果があまり認められない。また、インク中の染料を不溶化する化合物を含む画像記録促進液を被記録材上にインクジェット方法により付着した後にその画像記録促進液が付着した部分にインクを噴射して印字するインクジェット記録方法が特許文献8〜10等に開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、画像記録促進液を被記録材上にインクジェット方法により付着する方法では、2色重ね部での水分付着量が大きいため、色境界での滲みを十分に抑えることができず、またインクの裏写りが大きいという問題がある。さらに、被記録材のコックリング(波打ち)が発生するという問題がある。また、画像記録促進液をインクジェットヘッドで吹き付けるため、噴射を安定的に得るためには液の粘度や表面張力に制約があり、さらに目詰まりを起こさないためにノズルの径や液の組成に制約条件が加わり自由度が著しく小さくなるという問題があった。一方、記録速度の高速化へのニーズはますます高まってきており、ライン走査型のインクジェットヘッドによる高速システムの開発も盛んになってきている。しかし、ライン走査型のインクジェットヘッドによる記録速度はヘッドのインク噴射性能からすれば100ppm以上も可能であるが、実際には用紙によるインクの吸収が追いつかず、画像が滲んだり、用紙の波打ちが発生して高画質で高速化を達成することが困難な状況である。
【0007】
本発明はこのような問題点を解決するためのものであり、記録媒体への前処理液の塗布量が均一に制御できることにより記録媒体の波打ちを抑え、高画質な記録が可能なインクジェット記録装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記問題点を解決するために、前処理液を記録媒体に塗布する塗布ローラと、該塗布ローラと対向するカウンタローラと、記録媒体に記録を行うインクジェットヘッドとを具備し、塗布ローラとカウンタローラとの間で前処理液が塗布された記録媒体に画像を記録する、本発明のインクジェット記録装置において、記録媒体を塗布ローラとカウンタローラとの間へと案内する第1のガイド部を有し、該第1のガイド部はカウンタローラ側に向けて記録媒体を案内することに特徴がある。
【0009】
また、塗布ローラとカウンタローラとの間から排出された記録媒体を案内する第2のガイド部を有し、該第2のガイド部の塗布ローラとカウンタローラとの間に向かう先端部は、塗布ローラ側に向けて設けられている。
【0010】
更に、塗布ローラとカウンタローラとを2つのローラの軸方向からみて鉛直方向から傾けて設置した。
【0011】
また、前処理液は色材凝集剤を含む液体である。
【0012】
更に、前処理液は、水または湿潤性有機溶剤とカチオン性樹脂を10〜80重量%含有する。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、記録媒体をカウンタローラ側に向けて案内する第1のガイド部を有することにより、適切な圧力の印加された塗布ローラとカウンタローラとの挟持位置で記録媒体がはじめて前処理液と接触するために、前処理液の塗布量を均一に制御でき、記録媒体の波打ちを抑え、高画質な記録を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施の形態に係るインクジェット記録装置の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は本発明の一実施の形態に係るインクジェット記録装置の構成を示す断面図である。同図において、本実施の形態のインクジェット記録装置1は、主に、用紙供給ユニット10、前処理液塗布ユニット20、そして画像記録ユニット30を含んで構成されている。用紙供給ユニット10は用紙11を送り出す給紙ローラ12を有する。前処理液塗布ユニット20は、色剤と、該色剤を分散または溶解する溶媒からなる記録液中の色剤を不溶化する化合物とを含有する液体である前処理液22を収納すると共に、用紙11を後述するカウンタローラ26側に案内する第1のガイド部51及び後述する塗布ローラ25とカウンタローラ26の排出側に配置され前処理液が塗布された下面への塗布直後の接触を避けるように塗布ローラ25側であってローラ挟持部よりも下方に向けて設けられている第2のガイド部52を含む前処理液タンク21と、前処理液22を攪拌して汲み上げる汲上げローラ23と、汲み上げられた前処理液を塗布ローラ25に均一な膜厚に制御する膜厚制御ローラ24と、塗布ローラ25とによって搬送されてくる用紙11に前処理液22を塗工するカウンタローラ26を含んで構成されている。そして、画像記録ユニット30は、ベルト駆動ローラ32,33の間に渡され、当該ベルト駆動ローラ32,33が回動することによって、搬送されてきた用紙11を副走査方向である図中矢印方向に一定速度で連続的に搬送する用紙搬送ベルト31と、用紙搬送ベルト31の上に用紙11を案内する搬送ローラ34と、記録終了後の用紙11を押し出す搬送ローラ35と、用紙11の幅だけ記録可能なノズルを具備した、ライン走査型のブラック用インクジェットヘッド36、シアン用インクジェットヘッド37、マゼンタ用インクジェットヘッド38及びイエロー用インクジェットヘッド39とを含んで構成されている。なお、ライン走査型のブラック用インクジェットヘッド36、シアン用インクジェットヘッド37、マゼンタ用インクジェットヘッド38及びイエロー用インクジェットヘッド39は一定間隔で配置されており、用紙11の送り速度と同期して画像を記録していく。記録された用紙11は排出ローラ40,41によって排出部に排出される。インクは各色のタンク46が配置され、チューブ(図示せず)でそれぞれのヘッドに供給される。前処理液も同様の位置に配置されチューブ(図示せず)で前処理液タンク21に供給され、液面21−1が一定の高さに保たれるようになっている。
【0016】
次に、このような構成を有する本実施の形態のインクジェット記録装置における一連の画像記録動作について説明する。
用紙給紙ユニット10に収納されている用紙11は給紙ローラ12によって送り出される。一方、前処理液塗布ユニット20の前処理液タンク21内の前処理液22は汲上げローラ23によって汲み上げられ、塗布ローラ25のローラ面に膜厚制御ローラ24によって均一な膜厚に制御される。そして、給紙ローラ12によって搬送された用紙11は第1のガイド部51によりカウンタローラ26側に案内されてカウンタローラ26に接し、その後用紙11は2つのローラで挟まれる部位で始めて塗布ローラ25と接することになり、よって塗布ローラ25とカウンタローラ26によって前処理液22が用紙11の記録領域に均一に薄く塗布される。そして、前処理液が塗布された用紙11は第2のガイド部52に沿って案内されるので、前処理液が塗布された下面への塗布直後の接触を避けられる。次に、用紙11は、用紙ガイド44に沿って搬送ローラ42,43によって搬送され、更に用紙ガイド45に沿って用紙搬送ベルト31上に送られる。その後、前処理液が塗布された用紙11は用紙搬送ベルト31によって一定速度で連続的に副走査方向に搬送され、順次ライン走査型のブラック用インクジェットヘッド36、シアン用インクジェットヘッド37、マゼンタ用インクジェットヘッド38及びイエロー用インクジェットヘッド39によって画像が記録される。記録が終了した用紙11は排出ローラ40,41によって排出部に排出される。
【0017】
ここで、用紙11上に印写されたインク滴が前処理液22の作用で定着する時間t(sec)は隣接するドットを打ったとき、インクの色間の滲み(ブリーディング)の領域が0.1mm以下であるものと定義する。インクの色間の滲み(ブリーディング)の領域が0.1mm以下であれば官能検査の結果目視的にはシャープな境界画像として実質的に問題がない。即ち、本実施の形態のインクジェット記録装置においては、用紙11上に印写されたインク滴が前処理液22の作用で定着する時間t(sec)とは、ある色のべた画像を記録し、隣接した次のラインから別の色でべた画像を記録する場合でも色の境界における滲み、混色が0.1mm以下に収まる時間である。色の境界地点における印写時間間隔は、各色のインクジェットヘッド間の距離をs(mm)とし、用紙の速度をV(mm/sec)とすると、s/Vである。この時間間隔が、インク滴が前処理液の作用で定着する時間t(sec)より長ければ境界における色にじみが1ドットライン以下に収まるから、s/V(sec)はt(sec)以上、即ちV(mm/sec)はs/t(mm/sec)以下であれば良い。よって、V=s/tにすることにより、画質が許容される範囲内で、最も高速記録が達成できることとなる。
【0018】
以上は色の境界におけるブリーディングの解決を図ったものだが、同じ色で図形や文字を描く場合でも隣接する次のドットの印写タイミングが早すぎると滲みやボケの原因となる。滲みのない極めてシャープな画像を必要とする場合は、用紙の送り速度Vを次のように設定することで達成される。用紙の送り方向の記録密度をDd(dpi)、1ドットピッチを送る時間は(25.4/Dd)/Vであるから、これがインク滴が前処理液の作用で定着する時間t(sec)以上であれば良い。即ち、Vは(25.4/Dd)/t(mm/sec)以下であれば滲みやボケのない極めてシャープな画像が得られる。そして、V=(25.4/Dd)/t(mm/sec)のときが記録速度は最も速い。なお、この場合のインクジェットヘッドの噴射の最大周波数は、(V/25.4)×Dd(Hz)である。
【0019】
また、前処理液22としては、色材凝集剤を含む液体は水または湿潤性有機溶剤と下記一般化学式(1)〜(8)に示すようなカチオン性樹脂を10〜80重量%含有したものである場合では、tが150μsec程度であり、用紙11の送り方向の記録密度を600dpi、インクジェットヘッドの噴射周波数は約6.7kHzで、80ppm相当の速度(用紙サイズA4の横送りに相当する)で良好な画像が実験的に得られた。
【0020】
【化1】

【0021】
【化2】

【0022】
【化3】

【0023】
【化4】

【0024】
【化5】

【0025】
【化6】

【0026】
【化7】

【0027】
【化8】

【0028】
上記一般化学式(1)〜(8)に示されるカチオン性樹脂は、重量平均分子量が1000から10万の範囲のものが好ましく、さらに好ましくは、2000から5万、より一層好ましくは2000から3万のものが好ましい。重量平均分子量が10万よりも大きいと、溶媒に溶けにくいため、前処理液が不均一になり、画質のむらを生じ易くなる。逆に、重量平均分子量が1000よりも小さい場合、にじみ防止や耐水性向上の効果が小さく、好ましくない。また、アニオン性成分と高い反応性を得るためには、カチオン性樹脂のpH3におけるカチオン度は3meq/g以上、更に好ましくは3.5meq/gであることが好ましい。カチオン度とは、ポリビニル硫酸カリウム試薬を用いたコロイド滴定により求められる。詳しくは、以下の手順にて求めることができる。すなわち、コニカルビーカーに脱イオン水90mlをとり、試料(乾品換算)の500ppm水溶液を10ml加えて塩酸水溶液でpH4.0とし、約1分間攪拌する。次にトルイジンブルー指示薬を2〜3滴加え、N/400ポリビニル硫酸カリウム試薬(N/400PVSK)で滴定する。滴定速度は、2ml/分とし、検水が青から赤紫色に変色して10秒間以上保持する時点を終点とする。カチオン度(meq/g)=(N/400PVSK滴定量)×(N/400PVSKの力価)/2により求めることができる。カチオン度が高いものほど、カチオン性が強く、記録液中のアニオン性成分と効率よく反応することができ、よって、前処理液の必要量を低減でき、被記録材のカールやコックリングを起こさずに、高画質の画像を得ることが可能になる。
【0029】
カチオン樹脂のカウンターイオンは、ハロゲンイオン、硝酸イオン、亜硝酸イオン、酢酸イオン、燐酸イオン、硫酸イオン等の無機系陰イオンならびに蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、グリコール酸、グルコン酸、乳酸等の有機酸由来の有機系陰イオンなど任意のものでよいが、記録液中のアニオン性成分との反応性を考慮すれば、前処理液中で高い割合でイオン的に解離していることが好ましく、よって、ハロゲンイオン、硝酸イオン、亜硝酸イオン、酢酸イオンから選ばれる一価の陰イオンが特に好ましい。
【0030】
これらのカチオン樹脂は、市販のものも利用できる。具体的には、 PAA−HCl−3L、PAA−HCl−10L(ポリアリルアミン塩酸塩)、PAA−10C(ポリアリルアミン)(以上日東紡績製) Q−101(ポリアミン系)、Q−311(ポリアミン系)、Q−501(ポリアミン系)、(以上ハイモ株式会社製)、アコフロックC567、C573、C577、C581(ポリアミン系)、(以上三井サイテック株式会社製)、などがあげられる。これらのカチオン樹脂は、単独で用いても、2種以上を混合して用いても構わない。
【0031】
この前処理液を被記録材に当接して付与する手段とは、ローラ塗布や、ワイヤーバーやブレードによる塗工方法などが含まれる。これらの方法では、これまでインクジェット方式により液滴として付与できなかった高粘度の被記録材の前処理液を被記録材に均一に塗布することができる。更に、この当接付与手段により付与される被記録材の前処理液には、前述の従来方法では配合することのできなかった数々の添加剤をも配合することができ、被記録材の前処理液の処方を組む自由度を大きく拡げることができる。
【0032】
特に、被記録材に当接して前処理液を付与する手段が、ローラ塗布手段であると、高粘度の前処理液をごく少量付与することが可能であり、また簡素な構成のため、付与手段を低コストで、かつコンパクトに作製することが可能になるため、好ましい。
【0033】
前述したように、インクジェット方式により液滴として吐出させる前処理方法では使えなかった高粘度の前処理液が使用可能である。すなわち、前処理液には、高濃度でカチオン性樹脂を含有させることができる。高濃度で薄い層にて付着させることにより、付着量が少なくてすみ、表面近傍にカチオン性樹脂がとどまるので、画質が著しく良くなり、被記録材のカール、コックリング等を抑えることができる。具体的に、前処理液に含まれる上記カチオン性樹脂の含有量は、10〜80重量%であることが好ましい。10重量%未満である場合は、細線の再現性、フェザリングや色境界にじみの低減、画像濃度の向上、裏抜け濃度の低減等の画質改善効果が十分には得られず、また80重量%よりも多い場合は、溶媒成分の蒸発等による物性変化が著しく変化し、所定量を均一に付与することが困難となりやすい。
【0034】
前処理液の粘度は、B型粘度計で10から10000mPa・s(25℃、ローターNO.4、回転数30rpm)であることが好ましく、さらに好ましくは、10から1000mPa・sの範囲であることが好ましい。前処理液は、被記録材表面にあって、記録液中のアニオン性成分とのイオン的な相互作用により、細線の再現性、耐水性向上、にじみ防止などの画質改善効果が得られる。ところが、前処理液の粘度が10mPa・s未満であると、前処理液が被記録材内部へ浸透してしまい、フェザリングや色境界にじみ防止効果が小さい。この場合、十分な画質改善効果を得るために、多量の前処理液を付与すると、前処理液が被記録材内部に浸透してしまい、着色剤も被記録材内部に浸透してしまうために画像濃度の低下をもたらす。また、前処理液に含まれる溶媒成分により被記録材のカール、コックリングを引き起こしやすい。逆に、前処理液の粘度が10000mPa・sよりも大きいと、被記録材への均質な付与が困難となり、好ましくない。
【0035】
所望の粘度に調節するために、前処理液は、各種溶媒を含有することができる。溶媒としては、上記カチオン性樹脂の溶解性に優れ、前処理液の安全性、コストの点から水が特に好ましい。水の含有量は5〜80重量%であることが好ましい。5重量%未満では、カチオン性樹脂が安定に溶解しにくく、80重量%よりも大きいと、画像滲みが生じ易くなり、また、被記録材のカール、コックリングが生じ易くなり、好ましくない。
【0036】
また、前処理液中の水などの溶媒成分が蒸発することにより粘度が変化すると、被記録材への付与量も変化してしまい、一定の画像品質を確保することができない。乾燥防止以外に、被記録材の前処理液を所望の物性にするため、記録液中の着色剤を不溶化する化合物やその他添加剤の溶解安定性を向上させるため、また被記録材の前処理液の塗工特性を安定にするため等の目的で下記の水溶性有機溶媒を使用することができる。水溶性有機溶剤の含有量は、5〜70重量%の範囲が好ましい。5重量%未満では、蒸発抑制による粘度安定化効果ならびに溶解助剤としての効果が不十分であり、また70重量%よりも多い場合には、裏抜けや画像にじみを誘発するため好ましくない。
【0037】
すなわち、水溶性有機溶媒としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコーノレ、ポリプロピレングリコール、1,5ペンタンジオール、1,6へキサンジオール、グリセロール、1,2,6−へキサントリオール、1,2,4−ブタントリオール、1,2,3−ブタントリオール、ペトリオール等の多価アルコール類、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等の多価アルコールアルキルエーテル類、エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノベンジルエーテル等の多価アルコールアリールエーテル類、N−メチル−2−ピロリドン、N−ヒドロキシエチル−2−ピロリドン、2−ピロリドン、1,3−ジメチルイミダゾリジノン、ε−カプローラクタム等の含窒素複素環化合物、ホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド等のアミド類、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン等のアミン類、ジメチルスルホキシド、スルホラン、チオジエタノール等の含硫黄化合物類、プロピレンカーボネート、炭酸エチレン、γ−ブチローラクトン等を用いることができる。これらの溶媒は、水とともに単独もしくは、複数混合して使用することができる。
【0038】
これらの中で特に好ましいものはジエチレングリコール、チオジエタノール、ポリエチレングリコール200〜600、トリエチレングリコール、グリセロール、1,2,6−へキサントリオール、1,2,4−ブタントリオール、ペトリオール、1,5−ペンタンジオール、N−メチル−2−ピロリドン、N−ヒドロキシエチルピロリドン、2−ピロリドン、1,3−ジメチルイミダゾリジノンであり、これらを用いることにより記録液中の着色剤を不溶化する化合物やその他の添加剤の高い溶解性と水分蒸発による塗工不良の防止に対して優れた効果が得られる。
【0039】
更に、被記録材の前処理液には一価アルコールを含有させることが好ましく、それにより被記録材の前処理液の泡立ちによる塗布むらなどの発生を防止することができ、その被記録材の前処理液を被記録材に当接して付与した後、記録液を液滴として吐出して被記録材に付着させることより画像を形成すると、均一な濃度を有する画像を得ることができる。
【0040】
本実施の形態の前処理液は、特許文献11に記載されるシリコーン化合物とカチオン性化合物を含有する無色の液体組成物を用いた場合に比べ、高速記録に適している。すなわち、シリコーン化合物が付着した部分はインクの浸透性が著しく低いため画像部の乾燥が遅く、また、この画像形成方法で高速印字を行うと、低浸透に加え記録媒体への濡れ性が悪いので隣接ドットの合一を生じ、べた画像部等にヘッド主走査方向に沿って白筋が発生するなど、著しく画質が悪化するという問題を生じていた。本実施の形態の前処理液は、水ならびに水溶性溶媒を主溶媒としているため、前処理液の付与された被記録材と記録液との濡れ性や浸透性に悪影響を及ぼすことがない。よって、高速記録を行っても、良好な画像品質を得ることができる。また、本実施の形態の前処理液を構成する各種成分は、安定であり、長期に保存した後でもその特性になんら変化を生じない。
【0041】
更に、本実施の形態の前処理液には、0.1〜5重量%の防腐・防かび剤を含有することが好ましい。被記録材と接触させながら前処理液を付与するため、たとえば紙粉のような汚染原因物質が混じり込みやすく、前処理液を変質させ、変質による付着量変化や画質改善効果自体の低下を及ぼすことがある。そこで、0.1〜5重量%の防腐・防かび剤を添加することにより、長期間安定に作用することのできる前処理を得ることができる。防腐防黴剤としては安息香酸ナトリウム、ペンタクロロフェノールナトリウム、2−ピリジンチオール−1−オキサイドナトリウム、ソルビン酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、1,2−ジベンジソチアゾリン−3−オン(アビシャ社のプロキセルCRL、プロキセルBDN、プロキセルGXL)等が使用できる。添加量は、0.1重量%未満では、防腐・防かび効果が不十分であり、5重量%よりも多い場合、画像品質を低下させる。
【0042】
また、本実施の形態の被記録材の前処理液には、定着性向上のためバインダー樹脂を添加することが好ましい。バインダー樹脂としては、アクリル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、スチレン−ブタジエン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、アクリル−スチレン系樹脂、ブタジエン系樹脂、スチレン系樹脂などが挙げられる。
【0043】
更に、本実施の形態の被記録材の前処理液には、界面活性剤を含有することができる。カチオン性樹脂と界面活性剤とを含有する前処理液を普通紙などの被記録材に付与した後に記録液を被記録材に付着させると、被記録材の表面サイズ剤の分布による不規則な濡れが少なくなるため、フェザリングが少なく細線等の再現性に優れ色境界にじみのない高画質で、且つ画像濃度の高い画像が得られる。これは、記録液が被記録材に均一に浸透するとともに色材が不溶化し被記録材の表面近傍に留まるためであると考えられる。界面活性剤としては、例としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリル酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテルサルフェートのアンモニウム塩等のアニオン性界面活性剤、塩化ジステアリルジメチルアンモニウム、塩化ステアリルジメチルベンジルアンモニウム、塩化ステアリルジメチルベンジルアンモニウム、塩化ステアリルトリメチルアンモニウム、塩化セチルトリメチルアンモニウム、塩化ミリスチルジメチルベンジルアンモニウム、塩化ベンザルコニウム、エチル硫酸ラノリン脂肪酸アミノプロピルエチルジメチルアンモニウム、塩化ジデシルジメチルアンモニウム等のカチオン系界面活性剤、イミダゾリン誘導体等の両性界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミド、ポリエキシエチレンプロピレンブロックポリマー、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、アセチレンアルコールのエチレンオキサイド添加物等のノニオン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤等が挙げられる。界面活性剤以外の溶剤の具体的としては、ジエチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノアリルエーテル、ジエチレングリコールモノフェニルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールクロロフェニルエーテル等の多価アルコールのアルキル及びアリールエーテル類、エタノール、2−プロパノール等の低級アルコール類、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールなどの低水溶性多価アルコール類が挙げられるが、前処理液中に溶解し、所望の物性に調整できるものであれば、これに限らない。
【0044】
前処理液における上記化合物の含有量としては、0.1〜50重量%が好ましい。前処理液の均一性を確保するためには、界面活性剤のうち特にカチオン性界面活性剤が好ましい。これにより、記録液と被記録材表面との濡れ性を向上させるとともに、高画質で、且つ画像濃度の高い耐水性に優れた画像が得られる。カチオン性界面活性剤としては、イオネットD46、イオネットLEC、セクリルVN、サンスタット1200、サンスタットKT−305C、カチオンG−50、イオネットRK−15(以上三洋化成工業株式会社製)等が挙げられる。
【0045】
具体的に、着色剤を不溶化するカチオン性化合物の種類として、本実施の形態のジシアンジアミド・ホルマリン重縮物、ジシアンジアミド・ジエチレントリアミン重縮物、エピクロルヒドリン・ジメチルアミン付加重合物、ジメチルジアリルアンモニウムクロライド・SO共重合物、アリルアミン塩の重合物、ジアルキルアミノエチル(メタ)アクルレート4級塩重合物、ジメチルジアリルアンモニウムクロライド重合物、ジアリルアミン塩・SO共重合物等の他に、ポリアリルアミン、カチオンエポキシ樹脂、ポリエチレンイミン、ポリアクリルアミド、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、ポリビニルホルムアミド、アミノアセタール化ポリビニルアルコール、ポリビニルピリジン、ポリビニルベンジルホスホニウム、カチオンエマルジョン等や、多価金属塩などを含有することも可能である。
【0046】
これらカチオン性樹脂は市販のものを用いることが可能で、具体的には、サンスタットE−818、サンフィックス70、サンフィックス555C、サンフィックスLC−55、サンフックスPAC−700コンク、サンヨウエリオンA−3、サンフィックス414、サンフィックス555、サンフィックスPRO−100、サンフィックス555US、セロポールYM−500(以上三洋化成工業株式会社製)、#675、#FR−2P、#1001(以上住友化学工業株式会社製)、LUPASOL SC61B(BASF社製)等が挙げられる。また、ZP−700(ビニルホルムアミド系)、MP−184(ポリアクリル酸エステル系)、MP−173H(ポリメタクリル酸エステル系)、MP−180(ポリメタクリル酸エステル系)、MX−0210(ポリメタクリル酸エステル系)、MX−8130(ポリアクリル酸エステル系)、E−395(ポリアクリル酸エステル系)、E−305(ポリアクリル酸エステル系)、 Q−105H(ジシアンジアミド系)、Neo−600(ポリアクリルアミド系)、(以上ハイモ株式会社製)、スーパーフロック2490(ポリアクリル酸塩系)、スーパーフロック3180、3380、3580、3880、3390、3590、3500、SD2081(ポリアクリルアミド)、アコフロックC498T、C498Y(ポリアクリル酸エステル系)、スーパーフロック1500、1600、アコフロックC481、C483、C485、C488、C480 (ポリメタアクリル酸エステル)、(以上三井サイテック株式会社製)、 PAS−A−1、PAS−A−5、PAS−A−120L、PAS−A−120S、PSA−J−81、PAS−880、PAS−92(ジアリルジメチルアンモニウム塩系共重合物)、PAS−H−5L、 PAS−H−10L、PAS−M−1(ジアリルジメチルアンモニウム塩系重合物)、(以上日東紡績製)、等が挙げられる。
【0047】
カチオン性エマルジョンとして、アクリットUW319−SX、アクリットRKW−460、アクリットRKW−400SX、アクリットRKW−450SX、アクリットRKW−450(以上大成化工株式会社製)等が挙げられる。
【0048】
多価金属塩としては、硝酸マグネシウム・六水和物、酢酸マグネシウム・四水和物、硝酸カルシウム・四水和物、酢酸カルシウム・一水和物、塩化カルシウム・無水物、乳酸カルシウム・五水和物、蟻酸カルシウム・無水物、安息香酸マグネシウム・三水和物、硫酸マグネシウム・七水和物等が挙げられる。
【0049】
前処理液中のカチオン性樹脂と記録液中のアニオン性成分との反応性は、液相でもっとも効率的であることから、前処理液を当接する付与手段で被記録材に対して付与した後、前処理液が乾燥する前に記録液により印字することが好ましい。高い反応性を確保できれば、より一層前処理液使用量が少なくてすみ、被記録材のカール、コックリングを生じさせずに画質を向上させることが可能になる。
【0050】
被記録材の前処理液の被記録材への付着量としては0.5g/m2〜10g/m2が好ましく、それにより被記録材のカールをよりよく抑えることができる。0.5g/m未満であると、画質改善効果が不十分であり、10g/mより多いと、被記録材がカールやコックリングを生じ、また付着量が多すぎるため裏抜け濃度が増大する。
【0051】
なお、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内の記載であれば多種の変形や置換可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0052】
1;インクジェット記録装置、10;用紙供給ユニット、
11;用紙、12;用紙給紙ローラ、20;前処理液塗布ユニット、
21;前処理液タンク、22;前処理液、23;汲上げローラ、
24;膜厚制御ローラ、25;塗布ローラ、26;カウンタローラ、
30;画像記録ユニット、31;用紙搬送ベルト、
32,33;ベルト駆動ローラ、
34,35,40〜43;搬送ローラ、
36〜39;ライン走査型インクジェットヘッド、
44,45;用紙ガイド、
46;タンク、51;第1のガイド部、52;第2のガイド部。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0053】
【特許文献1】特開昭56−86789号公報
【特許文献2】特開昭55−144172号公報
【特許文献3】特開昭52−53012号公報
【特許文献4】特開昭56−89594号公報
【特許文献5】特開昭55−65269号公報
【特許文献6】特開昭55−66976号公報
【特許文献7】特開昭56−89595号公報
【特許文献8】特開昭64−63185号公報
【特許文献9】特開平8−20159号公報
【特許文献10】特開平8−20161号公報
【特許文献11】特開平8−142500号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前処理液を記録媒体に塗布する塗布ローラと、該塗布ローラと対向するカウンタローラと、前記記録媒体に記録を行うインクジェットヘッドとを具備し、前記塗布ローラと前記カウンタローラとの間で前記前処理液が塗布された前記記録媒体に画像を記録するインクジェット記録装置において、
前記記録媒体を前記塗布ローラと前記カウンタローラとの間へと案内する第1のガイド部を有し、
該第1のガイド部は前記カウンタローラ側に向けて前記記録媒体を案内することを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記塗布ローラと前記カウンタローラとの間から排出された前記記録媒体を案内する第2のガイド部を有し、該第2のガイド部の前記塗布ローラと前記カウンタローラとの間に向かう先端部は、前記塗布ローラ側に向けて設けられていることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記塗布ローラと前記カウンタローラとを2つのローラの軸方向からみて鉛直方向から傾けて設置したことを特徴とする請求項1又は2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記前処理液は色材凝集剤を含む液体である請求項1〜3のいずれかに記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
前記前処理液は、水または湿潤性有機溶剤とカチオン性樹脂を10〜80重量%含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のインクジェット記録装置。

【図1】
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【公開番号】特開2013−49286(P2013−49286A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−258624(P2012−258624)
【出願日】平成24年11月27日(2012.11.27)
【分割の表示】特願2012−167912(P2012−167912)の分割
【原出願日】平成12年6月14日(2000.6.14)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】