説明

インクセット、インクジェット記録方法、インクカートリッジ、記録ユニット、インクジェット記録方法、及び水性インク

【課題】 記録媒体の種類によらずに、ブリーディングを抑制できるインクセットを提供すること。
【解決手段】 染料を含有する水性インクを複数有するインクセットであって、前記インクセットが少なくとも、染料を含有する第1の水性インクを有してなり、前記第1の水性インクの寿命時間50m秒における動的表面張力及び寿命時間500m秒における動的表面張力の差が、7mN/m以上であり、前記第1の水性インク、及び、前記インクセットが有する前記第1の水性インク以外の少なくとも1種の水性インクのうち、明度が相対的に高いインクAの寿命時間500m秒における動的表面張力γ(mN/m)、明度が相対的に低いインクBの寿命時間500m秒における動的表面張力γ(mN/m)が、−5≦(γ−γ)≦3の関係を満たすことを特徴とするインクセット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性インク、インクセット、インクジェット記録方法、インクカートリッジ、記録ユニット、及びインクジェット記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インクジェット記録方法で記録媒体、特には普通紙に形成した画像における画質、具体的には、画像の階調性や色の均一性を向上することが求められている。例えば、記録媒体上において、インクが形成する1つのドットあたりの面積を小さくすることで、階調性を向上することができる。逆に、1つのドットあたりの面積が大きいと、複数のドットがつながりやすくなるため、単位面積あたりのインクの付与量を増減しても、記録媒体の表面をインクが被覆する面積を厳密に制御することができない場合がある。又、複数のドットがつながりやすくなるため、記録媒体上におけるインクのにじみが発生しやすくなる場合がある。
【0003】
このような課題に対して、インクの静的表面張力(所謂「表面張力」)を大きくすることによって、記録媒体上におけるインクのにじみを抑制することに関する提案がある。例えば、20℃におけるインクの表面張力を45mN/m以上にすることで、にじみを抑制することに関する提案がある(特許文献1参照)。又、インクの表面張力を40mN/m以上にすることにより、にじみを抑制することに関する提案がある(特許文献2参照)。
【0004】
又、記録媒体へのインクのにじみや浸透等をコントロールする技術として、インクの動的表面張力に着目した提案がなされている。例えば、気泡周期T(秒/気泡)≦0.2における表面張力を40mN/m以上とすることでにじみを抑制し、気泡周期T(秒/気泡)>1における表面張力を50mN/m未満とすることで吐出信頼性を向上することに関する提案がある(特許文献3参照)。
【0005】
又、インクの乾燥粘度を100mPa・s以下とすることで吐出信頼性を向上し、特定の寿命時間における動的表面張力の特性を規定することに関する提案がある(特許文献4参照)。具体的には、寿命時間10m秒における動的表面張力を45mN/m以上にすることでにじみを抑制し、寿命時間1000msにおける動的表面張力を35mN/m以下にすることで速乾性を向上することが記載されている。
【0006】
更に、普通紙上での、異なる色同士のにじみや浸透等をコントロールする技術として、インクセットを構成する複数のインクにおける動的表面張力の関係に着目した提案がなされている(特許文献5参照)。即ち、ブラック、イエロー、マゼンタ、及びシアンの各インクからなるインクセットにおいて、最大泡圧法による、温度25℃、ライフタイム30m秒乃至1000m秒の範囲内での同一ライフタイムにおける各インクの動的表面張力を以下のように規定している。(1)イエローインクがブラックインク以上である。(2)イエローインクとブラックインクとの差が5mN/m以下である。(3)イエローインクとマゼンタインクとの差及びイエローインクとシアンインクとの差が共に3mN/m以上である。(4)マゼンタインク及びシアンインクがブラックインクより低い。これらの規定により、普通紙上での異なる色同士の境界部分で混ざり合いを防止することが記載されている。
【特許文献1】特開昭63−213581号公報
【特許文献2】特開2004−83621号公報
【特許文献3】特開平9−296139号公報
【特許文献4】特開2003−231838号公報
【特許文献5】特開2006−63322号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記で挙げた特許文献1や特許文献2に記載された発明のように、単にインクの静的表面張力を大きくするだけでは、にじみを抑制できない場合や、記録媒体の表面を均一に濡らすことができないため、画像における色の均一性が低下する場合がある。又、インクの静的表面張力を大きくすると、インクの記録媒体への浸透性が小さくなるため、インクが記録媒体に浸透し終わるまでの時間が長くかかるようになり、インク移り等が生じる場合がある。
【0008】
又、上記で挙げた特許文献3乃至5に記載された発明においては、インクの動的表面張力の変化に着目して、にじみや浸透をコントロールする試みがなされている。しかし、本発明者らの検討の結果、特許文献3乃至5に記載された動的表面張力の規定では、記録媒体として普通紙等を用いる場合に、画像における色の均一性を保ちながら階調性を向上することはできなかった。つまり、記録媒体として普通紙等を用いる場合に、インクの横方向への広がり(階調性)と色の均一性(記録媒体の表面に対するインクの均一な濡れ)とが適切にコントロールされた、理想的なドットを形成できるインクは存在していなかった。
【0009】
そこで、本発明者らは、記録媒体として普通紙等を用いる場合に、インクの動的表面張力を適切に制御することで、インクが記録媒体に付与されてから浸透が終了するまでの挙動に着目して、前記課題を解決することができるインクについて検討を行った。その結果、記録媒体として普通紙等を用いる場合には優れた画像を与えるインクであっても、前記インクを含むインクセットを用いる場合に、新たな課題が発生することがわかった。具体的には、前記インクを含むインクセットを用いてインク受容層を有する記録媒体等に画像を形成すると、普通紙等の記録媒体においては発生しなかったブリーディングが、予期しないほど顕著な状態で生じることがわかった。
【0010】
従って、本発明の第1の目的は、動的表面張力が制御されたインクを含むインクセットにおいて、インク受容層を有する記録媒体等におけるブリーディングを抑制できるインクセットを提供することにある。又、本発明の第2の目的は、普通紙等を記録媒体として用いる場合に色の均一性を保ちながら階調性を向上できる水性インクを含むインクセットにおいて、インク受容層を有する記録媒体等におけるブリーディングを抑制できるインクセットを提供することにある。又、本発明の別の目的は、前記インクセットを構成する水性インクを用いたインクジェット記録方法、インクカートリッジ、記録ユニット、及びインクジェット記録方法を提供することにある。又、本発明の別の目的は、インク受容層を有する記録媒体等におけるブリーディングを抑制できるインクセットに用いる水性インクを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的は、下記の本発明によって達成される。即ち、本発明の第1の実施態様にかかるインクセットは、染料を含有する水性インクを複数有するインクセットであって、前記インクセットが少なくとも、染料を含有する第1の水性インクを有してなり、前記第1の水性インクの寿命時間50m秒における動的表面張力及び寿命時間500m秒における動的表面張力の差が、7mN/m以上であり、前記第1の水性インク、及び、前記インクセットが有する前記第1の水性インク以外の少なくとも1種の水性インクのうち、明度が相対的に高いインクAの寿命時間500m秒における動的表面張力γ(mN/m)、明度が相対的に低いインクBの寿命時間500m秒における動的表面張力γ(mN/m)が、−5≦(γ−γ)≦3の関係を満たすことを特徴とする。
【0012】
又、本発明の第2の実施態様にかかるインクセットは、染料を含有する水性インクを複数有するインクセットであって、前記インクセットが少なくとも、染料を含有する第1の水性インクを有してなり、前記第1の水性インクが、下記の(1)乃至(3)の条件を満たしてなり、前記第1の水性インク、及び、前記インクセットが有する前記第1の水性インク以外の少なくとも1種の水性インクのうち、明度が相対的に高いインクAの寿命時間500m秒における動的表面張力γ(mN/m)、明度が相対的に低いインクBの寿命時間500m秒における動的表面張力γ(mN/m)が、−5≦(γ−γ)≦3の関係を満たすことを特徴とする。(1)寿命時間50m秒における動的表面張力が、42mN/m以上49mN/m未満。(2)寿命時間500m秒における動的表面張力が、28mN/m以上38mN/m以下。(3)寿命時間50m秒における動的表面張力及び寿命時間500m秒における動的表面張力の差が、7mN/m以上。
【0013】
又、本発明の第3の実施態様にかかるインクセットは、染料を含有する水性インクを少なくとも3種有するインクセットであって、前記インクセットが少なくとも、染料を含有する第1の水性インクを有してなり、前記第1の水性インクが、下記の(1)乃至(3)の条件を満たしてなり、前記インクセットを構成する少なくとも3種の水性インクから任意に選んだ2種の水性インクのうち、明度が相対的に高いインクAの寿命時間500m秒における動的表面張力γ(mN/m)、明度が相対的に低いインクBの寿命時間500m秒における動的表面張力γ(mN/m)が、前記インクセットを構成する少なくとも3種の水性インクから任意の2種の水性インクを選ぶ全ての組み合わせにおいて、−5≦(γ−γ)≦3の関係が成り立つことを特徴とする。(1)寿命時間50m秒における動的表面張力が、42mN/m以上49mN/m未満。(2)寿命時間500m秒における動的表面張力が、28mN/m以上38mN/m以下。(3)寿命時間50m秒における動的表面張力及び寿命時間500m秒における動的表面張力の差が、7mN/m以上。
【0014】
又、本発明の別の実施態様にかかるインクジェット記録方法は、インクをインクジェット方法で吐出するインクジェット記録方法において、前記インクが、前記のインクセットを構成する水性インクであることを特徴とする。
【0015】
又、本発明の別の実施態様にかかるインクカートリッジは、インクを収容するインク収容部を備えたインクカートリッジにおいて、前記インク収容部に収容されたインクが、前記のインクセットを構成する水性インクであることを特徴とする。
【0016】
又、本発明の別の実施態様にかかる記録ユニットは、インクを収容するインク収容部と、インクを吐出する記録ヘッドとを備えた記録ユニットにおいて、前記インク収容部に収容されたインクが、前記のインクセットを構成する水性インクであることを特徴とする。
【0017】
又、本発明の別の実施態様にかかるインクジェット記録装置は、インクを収容するインク収容部と、インクを吐出する記録ヘッドとを備えたインクジェット記録装置において、前記インク収容部に収容されたインクが、前記のインクセットを構成する水性インクであることを特徴とする。
【0018】
又、本発明の別の実施態様にかかる水性インクは、染料を含有する水性インクを複数有するインクセットに用いる、染料を含有する第1の水性インクであって、前記第1の水性インクの寿命時間50m秒における動的表面張力及び寿命時間500m秒における動的表面張力の差が、7mN/m以上であり、前記第1の水性インク、及び、前記インクセットが有する前記第1の水性インク以外の少なくとも1種の水性インクのうち、明度が相対的に高いインクAの寿命時間500m秒における動的表面張力γ(mN/m)、明度が相対的に低いインクBの寿命時間500m秒における動的表面張力γ(mN/m)が、−5≦(γ−γ)≦3の関係を満たすことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、動的表面張力が制御されたインクを含むインクセットにおいて、インク受容層を有する記録媒体等におけるブリーディングを抑制できるインクセットを提供することができる。又、本発明によれば、普通紙等を記録媒体として用いる場合に色の均一性を保ちながら階調性を向上できる水性インクを含むインクセットにおいて、インク受容層を有する記録媒体等におけるブリーディングを抑制できるインクセットを提供することができる。又、本発明によれば、前記インクセットを構成する水性インクを用いたインクジェット記録方法、インクカートリッジ、記録ユニット、及びインクジェット記録方法を提供することができる。又、本発明によれば、インク受容層を有する記録媒体等におけるブリーディングを抑制できるインクセットに用いる水性インクを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下に、発明を実施するための最良の形態を挙げて本発明を更に詳細に説明する。尚、以下の記載において、水性インクのことを「インク」、第1の水性インクのことを「第1のインク」と呼ぶことがある。又、本発明におけるブリーディングとは、水性インクセットのうち、染料を含有する複数のインクを用いて形成した画像が隣接する場合に、これらの画像の境界部分において生じる、意図せぬにじみを指すものである。
【0021】
先ず、本発明において動的表面張力の測定に用いている最大泡圧法について説明する。最大泡圧法とは、測定する液体中に浸したプローブ(細管)の先端部分で形成された気泡を放出するために必要な最大圧力を測定して、この最大圧力から動的表面張力を求める方法である。又、寿命時間とは、最大泡圧法において、プローブの先端部分で気泡を形成する際に、気泡が先端部分から離れた後に新しい気泡の表面が形成された時点から、最大泡圧時(気泡の曲率半径とプローブ先端部分の半径が等しくなる時点)までの時間である。又、本発明における動的表面張力は、25℃において測定した値である。
【0022】
先ず、本発明の第1の課題、即ち、動的表面張力が制御されたインクを含むインクセットを用いて、インク受容層を有する記録媒体等に画像を形成する場合に顕著に発生するブリーディングを抑制することについて、以下に説明する。本発明者らは、上記ブリーディングについて検討を行うため、動的表面張力が変化する特性が異なる種々のインクを調製し、これらのインクを用いて検討を行った。その結果、インクの動的表面張力の特性によっては、前記インクを含むインクセットを用いてインク受容層を有する記録媒体等に画像を形成すると、顕著にブリーディングが起きることがわかった。具体的には、寿命時間50m秒及び寿命時間500m秒における動的表面張力の差が7mN/m以上となるような、動的表面張力が大きく変化するインクを含むインクセットにおいて、予期しないほど顕著な状態でブリーディングが生じることがわかった。
【0023】
従来から、記録媒体への浸透性を揃えるために、複数のインクにおける静的表面張力を揃えることが一般的に知られており、実際に、これによりブリーディングを抑制することができる。しかし、動的表面張力が大きく変化するインクと、静的表面張力を揃えたインクとをインクセットとして用いる場合、インク受容層を有する記録媒体に画像を形成すると、ブリーディングが顕著に発生する。そこで、本発明者らは、インク受容層を有する記録媒体等において特に顕著にブリーディングが起きる理由について検討を行った。
【0024】
先ず、ブリーディングが起きるメカニズムについて考察する。普通紙には比較的大きな空隙が多く存在するため、インクが付与されて普通紙の表面が濡れることで、前記空隙にインクが取り込まれ、インクの動きがある程度制約される。このため、記録媒体として普通紙等を用いる場合には、ブリーディングに対して複数のインクにおける物性の関係が及ぼす影響は限定的である。つまり、記録媒体として普通紙等を用いる場合には、複数のインクで構成されるインクセットにおいて、各インクと普通紙との濡れ性、及び前記各インクにおけるにじみの程度を適切に決定することが、ブリーディングを抑制するために非常に重要な要素である。
【0025】
一方で、インク受容層を有する記録媒体は空隙が非常に小さく、前記空隙は細孔として存在するため、インクのインク受容層を有する記録媒体への浸透は毛管現象により起こる。このため、記録媒体として普通紙等を用いる場合とは現象が大きく異なってくる。
【0026】
本発明者らは、インク受容層を有する記録媒体等を用いる場合に、インクが前記記録媒体に付与されてから浸透するまでの挙動についての検討を行った。上記で述べたように、インク受容層を有する記録媒体へのインクの浸透は毛管現象により起こる。又、一般に、液体が毛管の壁面に対して充分な濡れ性を有する場合、毛管力は液体の表面張力に比例することが知られている。これらのことから、インク受容層を有する記録媒体等を用いる場合に顕著に発生するブリーディングを抑制するためには、従来の知見の通り、インクセットを構成する複数のインクの静的表面張力を揃えればよいことになる。しかし、動的表面張力が大きく変化するインクを含むインクセットにおいては、上記で述べた通り、予期しないほど顕著な状態でブリーディングが生じることから、このモデルが当てはまらないことがわかる。
【0027】
この現象に対して、本発明者らは以下のように考えた。インクが、インク受容層を有する記録媒体の空隙に浸透する際には、インクの気液界面と記録媒体の空隙の壁面とが接触する箇所、つまり毛管力が発現する箇所は、インクが移動している間は常に更新される。このため、毛管力を発現する表面張力は、静的表面張力ではなく、ある寿命時間における動的表面張力に対応する可能性があると考えられる。このような仮説のもとで本発明者らは、動的表面張力が変化する特性が異なるインクを含む種々のインクセットを用いて、インク受容層を有する記録媒体の空隙をインクが移動している間における毛管力に影響を与える動的表面張力の寿命時間の検討を行った。その結果、この際のインクの挙動に与える影響は、インクの静的表面張力よりも、寿命時間500m秒における動的表面張力の方が支配的であることがわかった。より具体的には、2種のインクにおいて、寿命時間500m秒における動的表面張力が低いインクから、寿命時間500m秒における動的表面張力が高いインクの方向に向かってインクが流れ込み、ブリーディングが発生することがわかった。
【0028】
つまり、インク受容層を有する記録媒体への浸透が終わっていない状態で、複数のインクが互いに接触すると、以下のような現象が起こる。具体的には、浸透性、即ち寿命時間500m秒における動的表面張力が相対的に高いインクが、浸透性が低い、即ち寿命時間500m秒における動的表面張力が相対的に低いインクを「引き込む」ような現象が起こる。このようにして、ブリーディングが発生する。
【0029】
このため、ブリーディングを抑制するためには、2種のインクの寿命時間500m秒における動的表面張力を同等とすることが理想的である。ただし、2種のインクの寿命時間500m秒における動的表面張力の差がごく小さい場合、実質的に目視で確認できる程度のブリーディングは発生しないと考えられる。
【0030】
そこで、本発明者らは、種々のインクセットを用いて寿命時間500m秒における動的表面張力の差の閾値とブリーディングの程度との関係について検討を行った。その結果、実質的に目視で確認できる程度のブリーディングを抑制するためには、2種のインクの寿命時間500m秒における動的表面張力の差を3mN/m以下にすればよいことがわかった。更に本発明者らが検討を行ったところ、インク間の色味の関係もブリーディングの発生に関係しており、色味を定量的に表す色の3属性(色相、明度、彩度)の中でも、明度が大きく関係することがわかった。具体的には、明度が相対的に高いインクAの寿命時間500m秒における動的表面張力γ(mN/m)、明度が相対的に低いインクBの寿命時間500m秒における動的表面張力γ(mN/m)とする。このとき、前記γ(mN/m)及び前記γ(mN/m)が、−5≦(γ−γ)≦3の条件を満たすことで、ブリーディングを抑制できることがわかった。尚、本発明においては、−3≦(γ−γ)≦3とすることがより好ましく、更には−3<(γ−γ)<3とすることが特に好ましい。
【0031】
このことは、2種のインクにおける明度の相対的な関係によって、ブリーディングを抑制できる2種のインクの寿命時間500m秒における動的表面張力の差の閾値が異なることを意味する。これは、明度が相対的に高いインクが、明度が相対的に低いインクに向かって流れ込むことで生じるブリーディングは、目視で認識されづらいので、寿命時間500m秒における動的表面張力の差がやや大きくなっても許容されるためである。逆に、明度が相対的に低いインクが、明度が相対的に高いインクに向かって流れ込むことで生じるブリーディングは、目視で容易に認識されやすいため、寿命時間500m秒における動的表面張力の差が小さくなるように制御する必要があるためである。
【0032】
尚、本発明においては、明度の測定は、インクセットを構成する各インクにおいて、記録媒体及び記録デューティを統一して行う必要がある。記録媒体は、通常のインクジェット記録装置に適用することができる、インク受容層を有する記録媒体であれば何れのものも用いることができる。そして、インクセットを構成する各インクを用いて、記録媒体にインクの付与量を統一したベタ画像を形成し、画像の部分を分光光度計等で測色することで、明度の値を得ることができる。前記ベタ画像を形成する際には、記録媒体の表面の全体を被覆するのに充分なインクの付与量とすることが好ましい。本発明においては、インク受容層を有する記録媒体は、例えば、PR−101(キヤノン製)等を用いることができる。又、測色は、例えば、分光光度計(商品名:Spectrolino;Gretag Macbeth製)を用いて行うことができる。更に、インクの付与量は、例えば、解像度600ppiにおける1ピクセルあたりのインクの付与量を10ng程度とすることが好ましい。勿論、本発明はこれらの記録媒体や分光光度計、インクの付与量に限られるものではない。
【0033】
本発明者らは、本発明でブリーディングを抑制するために規定している条件について検討を行った。具体的には、インクセットを構成する複数のインクのうち、インクA及びインクBの2種のインクにおいて規定している、明度の相対的な関係、及び寿命時間500m秒における動的表面張力の相対的な関係について、以下のことを確認した。即ち、本発明が規定する条件を満たす限り、インクA及びインクBの各インクの、単位面積あたりのインクの付与量や、インクA及びインクBを記録媒体に付与する順序や記録パス数には、ブリーディングの性能は依存しないことを確認した。
【0034】
尚、2種のインクの付与量が大きく異なる場合、例えば、明度が相対的に低いインクBの付与量が、明度が相対的に高いインクAの付与量よりも少ない場合には、インクA及びインクBで形成した各画像間の明度の関係が逆転する場合がある。しかし、上記所定の条件で形成した各画像における明度の関係からインクA及びインクBに相当するインクを決定しているにもかかわらず、インクの付与量の大小により明度の関係が逆転するような場合、目視で確認できるようなブリーディングは発生しない。これは、一方のインクの付与量が十分に少ないため、かかるインクの記録媒体への浸透が終了するまでの時間も十分に短く、そもそもブリーディングが起き難い条件であるためである。そのため、−5≦(γ−γ)≦3の条件を満たしていれば、やはり許容できないほどのブリーディングは発生しないといえる。
【0035】
上記で述べた通り、複数のインク間の寿命時間500m秒における動的表面張力及び明度の関係が、ブリーディングの発生に関して支配的であるため、複数のインクの色相や彩度の関係は考慮しなくてもよい。つまり、本発明がブリーディングを抑制するために規定している複数のインク間の寿命時間500m秒における動的表面張力及び明度の関係は、様々なインクに対して同様に適用できる。即ち、通常のインクジェット記録方式で用いられるシアン、マゼンタ、及びイエローの各インクに加えて、ブラック、レッド、グリーン、ブルー、淡シアン、淡マゼンタ、及びグレー等の各インクに対しても本発明の規定を適用できる。更に、画像の光沢性や堅牢性等を向上するために用いられるクリアインク等に対しても、本発明の規定を適用できる。これらの各インクに関する実施例はここでは挙げていないが、本発明に包含される。尚、本発明においては、上記で説明したインクAがマゼンタインクであり、インクBがシアンインクであることがより好ましい。勿論、本発明はこれに限られるものではない。
【0036】
これまでに述べてきたことをまとめると、本発明の第1の実施態様にかかるインクセットは、以下の構成を有する。即ち、染料を含有するインクを複数有するインクセットが、少なくとも、寿命時間50m秒における動的表面張力及び寿命時間500m秒における動的表面張力の差が、7mN/m以上であるインク(以下、「第1のインク」とする)を有する。そして、前記第1のインク、及び、前記インクセットが有する前記第1の水性インク以外の少なくとも1種のインクのうち、明度が相対的に高いインクをインクA、明度が相対的に低いインクをインクBとする。このとき、前記インクAの寿命時間500m秒における動的表面張力γ(mN/m)、前記インクBの寿命時間500m秒における動的表面張力γ(mN/m)が、−5≦(γ−γ)≦3の関係を満たすことが必要である。
【0037】
本発明者らは、本発明の第1の課題について更に検討を行った。その結果、寿命時間50m秒における動的表面張力及び寿命時間500m秒における動的表面張力の差が、7mN/m以上である第1のインクを用いた場合のブリーディングの問題は、インクの明度をポイントとして技術的にまとめられるという結論に至った。
【0038】
即ち、本発明の別の実施態様にかかるインクは、以下の構成を有する。即ち、前記インクは、染料を含有するインクを複数有するインクセットに用いる、寿命時間50m秒における動的表面張力及び寿命時間500m秒における動的表面張力の差が7mN/m以上である、染料を含有する第1のインクである。そして、前記第1のインク、及び、前記インクセットが有する前記第1の水性インク以外の少なくとも1種のインクのうち、明度が相対的に高いインクをインクA、明度が相対的に低いインクをインクBとする。このとき、前記インクAの寿命時間500m秒における動的表面張力γ(mN/m)、前記インクBの寿命時間500m秒における動的表面張力γ(mN/m)が、−5≦(γ−γ)≦3の関係を満たすことが必要である。
【0039】
次に、本発明の第2の課題、即ち、上記ブリーディングを抑制し、且つ、普通紙等を記録媒体として用いる場合に色の均一性を保ちながら階調性を向上することについて、以下に説明する。
【0040】
上記第2の課題を解決するための技術思想のひとつには、以下のことが挙げられる。1つのドットあたりの面積を適正なものとなるよう制御することで画像の階調性を向上するために、インクを記録媒体に付与した直後のインクの広がりを抑制し、更にインクの広がりを抑制したままインクを速やかに記録媒体に浸透させることにある。又、上記第2の課題を解決するための別の技術思想は、画像における色の均一性を向上するために、記録媒体を構成する繊維間に存在する空隙に対する、充分なインクの濡れ性を付与することにある。
【0041】
本発明者らは、記録媒体上においてインクが広がる状態ついて、以下のような検討を行った。先ず、寿命時間により動的表面張力が変化する特性が異なる種々のインクを調製し、これらのインクをそれぞれ用いて、種々の普通紙等の記録媒体に1ドットの罫線を記録した。そして、前記罫線の線幅と、寿命時間10m秒から寿命時間5000m秒までのインクの動的表面張力及び静的表面張力との関係を調べた。その結果、検討を行った全ての種類の記録媒体において、前記罫線の線幅とインクの寿命時間50m秒における動的表面張力との相関が最も大きいことがわかった。又、寿命時間50m秒を中心にして、寿命時間がその前後に離れるほど、この相関関係は連続的に小さくなっていくことがわかった。このことから、本発明者らは、インクの寿命時間50m秒における動的表面張力を検討することで、前記罫線の線幅、即ち、記録媒体上においてインクが広がる状態を規定することができるという知見を得た。尚、上記の検討において、罫線の線幅は、記録を行った後、記録物を一晩放置してから測定したものである。
【0042】
このことから、本発明者らは、インクの寿命時間50m秒における動的表面張力の特性に着目して、更に検討を行った。具体的には、寿命時間50m秒における動的表面張力を種々に変えたインクを調製して、これらのインクを用いてそれぞれ画像を形成して、得られた画像における階調性と、インクの寿命時間50m秒における動的表面張力の関係を調べた。その結果、インクの寿命時間50m秒における動的表面張力を42mN/m以上とすれば、記録媒体上における過度なインクの広がりを抑制することができるという知見を得た。
【0043】
記録媒体上においてインクが広がる状態と寿命時間50m秒の動的表面張力との間に、高い相関関係が見られた理由を、本発明者らは以下のように考えている。即ち、インクが記録媒体に付与されてから50m秒の時点では、インクの少なくとも一部は記録媒体の表面近傍の領域に浸透しており、この領域が、記録媒体上においてインクが形成する1つのドットの面積を決定するひとつの重要な要素であると考えられる。又、インクが記録媒体に付与されてからインクの動的表面張力の値が変化することによって、インクと記録媒体との接触角が変化することも、記録媒体上においてインクが形成する1つのドットの面積を決定する要素であると考えられる。更に、記録媒体の厚さの方向に浸透した状態のインクと比較して、記録媒体上に付与された直後のインクにおいては、インク中の水分等の蒸発が相対的に多く起こる。寿命時間50m秒における動的表面張力にも、記録媒体の厚さの方向へインクが浸透する量が依存すると考えられ、このことも、記録媒体上においてインクが形成する1つのドットの面積を決定するもうひとつの重要な要素であると考えられる。
【0044】
しかし、インクが高い表面張力を長時間保ちつづけていると、記録媒体の厚さ方向へのインクの浸透が進まず、その結果、記録媒体の表面上においてインクが広がり、階調性が低下する場合がある。本発明者らが検討を行った結果、階調性の低下を抑制するためには、以下のようにすればよいという知見を得た。先ず、インクの寿命時間50m秒における動的表面張力を高くすることで、記録媒体上における過度なインクの広がりを抑制する。その後、インクの動的表面張力を急激に下げて記録媒体の厚さ方向へのインクの浸透を促進することで、記録媒体の表面上におけるインクの広がりを更に抑制する。このようにすることで、記録媒体上においてインクが形成する1つのドットあたりの面積を適切にすることができる。本発明者らの検討の結果、このような現象を起こすためには、具体的には、寿命時間50m秒から500m秒の間に、インクの動的表面張力を7以上下げればよいことがわかった。
【0045】
この結果、本発明者らは、寿命時間50m秒における動的表面張力が42mN/m以上であり、且つ、寿命時間50m秒及び寿命時間500m秒における動的表面張力の差が7mN/m以上であるインクが、優れた画像の階調性を与えることを見出した。更に、寿命時間50m秒及び寿命時間500m秒における動的表面張力の差が10mN/m以上であることで、階調性を特に向上することができる。
【0046】
又、普通紙等を記録媒体として用いる場合、色の均一性を向上するためには、インク中の染料を記録媒体に均一に定着させる必要がある。尚、均一に定着した状態とは、記録媒体である普通紙等に存在する比較的大きな空隙にインク中の染料が取り込まれて局在化した状態ではなく、記録媒体を構成する繊維にインク中の染料が均一に染着した状態のことを指す。そして、インク中の染料を均一に定着させるためには、インクが、繊維間の空隙等の細孔に対して濡れを発現する必要がある。本発明者らが、インクが前記細孔に対して濡れ性を有するのに必要な物性について検討を行ったところ、インクの寿命時間500m秒における動的表面張力を適切に決定する必要があることがわかった。具体的には、インクの寿命時間500m秒における動的表面張力が38mN/m以下である必要があることを見出した。即ち、本発明者らは、色の均一性を向上することと、階調性を向上することを両立するためには、インクが以下に述べる動的表面張力の特性を有することが必要であるという知見を得た。即ち、寿命時間50m秒における動的表面張力が42mN/m以上であり、寿命時間50m秒及び500m秒における動的表面張力の差が7mN/m以上であり、寿命時間500m秒における動的表面張力が38mN/m以下であるインクとすることが好ましい。
【0047】
尚、インクの寿命時間50m秒における動的表面張力が49mN/m以上であると、その後の動的表面張力の低下の度合いがたとえ大きくても、記録媒体の厚さ方向へのインクの浸透よりも、記録媒体の表面上でのインクの広がりが優先する。このため、1つのドットあたりの面積が大きくなり、階調性が得られない場合がある。このため、インクの寿命時間50m秒における動的表面張力は、42mN/m以上49mN/m未満であることが好ましい。
【0048】
又、インクの寿命時間500m秒における動的表面張力が低すぎる、具体的には28mN/m未満であると、繊維間の空隙に対する濡れよりも、前記インクの記録媒体への浸透が優先する。この結果、記録媒体の内部(記録媒体の厚さの方向)へインクが容易に浸透するため、記録媒体の裏面までインクが抜ける、即ち、裏抜けが発生する場合がある。このため、インクの寿命時間500m秒における動的表面張力は、28mN/m以上38mN/m以下であることが好ましい。本発明においては更に、インクの寿命時間500m秒における動的表面張力が、32mN/m以上38mN/m以下であることが特に好ましい。
【0049】
又、寿命時間50m秒及び500m秒における動的表面張力の差は、寿命時間50m秒においてインクが記録媒体に浸透する領域がある程度決定した後に、インクの記録媒体への浸透を促進するという観点からは、大きくすることが好ましい。しかし、上記で述べた通り、インクの寿命時間500m秒における動的表面張力を28mN/m以上とする必要がある。このため、寿命時間50m秒及び寿命時間500m秒における動的表面張力の差は、(寿命時間50m秒における動的表面張力の値(mN/m)−28(mN/m))以下とすることが好ましい。更には、寿命時間50m秒及び寿命時間500m秒における動的表面張力の差は21mN/m未満であることがより好ましい。
【0050】
以上のことから、普通紙等を記録媒体として用いる場合に色の均一性を保ちながら階調性を向上することができるインク(以下、「第1のインク」とする)は、下記の(1)乃至(3)の条件を満たすことが必要である。(1)寿命時間50m秒における動的表面張力が、42mN/m以上49mN/m未満である。(2)寿命時間500m秒における動的表面張力が、28mN/m以上38mN/m以下である。(3)寿命時間50m秒における動的表面張力及び寿命時間500m秒における動的表面張力の差が、7mN/m以上である。
【0051】
これまでに述べてきたことをまとめると、本発明の第2の実施態様にかかるインクセットは、以下の構成を有する。即ち、染料を含有するインクを複数有するインクセットが、少なくとも、上記で説明した(1)乃至(3)の条件を満たす第1のインクを有する。そして、前記第1のインク、及び、前記インクセットが有する前記第1の水性インク以外の少なくとも1種のインクのうち、明度が相対的に高いインクをインクA、明度が相対的に低いインクをインクBとする。このとき、前記インクAの寿命時間500m秒における動的表面張力γ(mN/m)、前記インクBの寿命時間500m秒における動的表面張力γ(mN/m)が、−5≦(γ−γ)≦3の関係を満たすことが必要である。
【0052】
更に、本発明の第3の実施態様にかかるインクセットは、以下の構成を有する。即ち、染料を含有するインクを少なくとも3種有するインクセットが、少なくとも、上記で説明した(1)乃至(3)の条件を満たす第1のインクを有する。そして、前記インクセットを構成する少なくとも3種のインクから任意に選んだ2種のインクのうち、明度が相対的に高いインクをインクA、明度が相対的に低いインクをインクBとする。更に、前記インクAの寿命時間500m秒における動的表面張力をγ(mN/m)、前記インクBの寿命時間500m秒における動的表面張力をγ(mN/m)とする。このとき、前記インクセットを構成する少なくとも3種のインクから任意の2種のインク選ぶ全ての組み合わせにおいて、−5≦(γ−γ)≦3の関係が成り立つことが必要である。
【0053】
尚、前記第3の実施態様にかかるインクセットにおいては、インクセットを構成する少なくとも3種のインクから任意の2種のインク選ぶ全ての組み合わせにおいて、−5≦(γ−γ)≦3の関係が成り立つことが必要である。このとき、2種のインクの組み合わせのうち、一部の組み合わせは第1のインクを含まなくても良いことになる。この場合、第1のインクを含まない組み合わせにおいては、従来のインクセットと同様に、静的表面張力を揃えることでブリーディングの発生を抑制することができる。しかし、本発明においては、第1のインクを含まない組み合わせにおいても、より精度良く記録媒体へのインクの浸透性を揃えるために、寿命時間500m秒における動的表面張力が上記の関係を満たすことが好ましい。
【0054】
上記で述べた本発明のインクセットは、染料を含有する複数のインクを有してなるものであり、少なくとも、上記で説明した第1のインクを有することを特徴とする。
【0055】
本発明におけるインクセットとは、複数のインクをそれぞれ独立に収容してなるインクカートリッジの状態や、複数のインクをそれぞれ収容してなる複数のインク収容部を組み合わせて一体的に構成したインクカートリッジの状態、を含むものである。尚、前記インクカートリッジは、更に記録ヘッドが一体的に形成された構成を有するものであっても良い。又は、前記複数のインクをそれぞれ独立に収容してなるインクカートリッジが、インクジェット記録装置に対して着脱可能に構成されてなる状態も、本発明のインクセットに含まれるものとする。いずれにしても、本発明のインクセットは、少なくとも第1のインクとそれ以外の染料を含有するインクとを組み合わせて用いることができるように構成されていれば良く、上記形態に限られるものではなく、どのような形態であっても良い。
【0056】
尚、本発明のインクセットは、染料を含有するインクの他に、顔料を含有するインクを含んでもよい。一般に、顔料を含有するインクは、インク受容層を有する記録媒体に記録を行う際には用いられないため、上記で述べたような動的表面張力の特性を有さないものであってもよい。
【0057】
<インク>
本発明の第1の実施態様においては、第1のインクは、上記で説明した動的表面張力の特性を有するように調節されていることが必要である。又、本発明の第2及び第3の実施態様においては、第1のインクは、上記で説明した(1)乃至(3)の動的表面張力の特性を持つように調節されていることが必要である。更に、本発明においては、インクセットを構成する複数のインクから、上記で述べたようにインクA及びインクBを決定して、これらのインクが上記で説明した動的表面張力の特性を有するように調節されていることが必要である。それ以外は、従来のインクと同様の構成とすればよい。下記に、本発明のインクを構成する各成分について説明する。
【0058】
(界面活性剤)
本発明のインクセットを構成する各インクは、浸透剤として界面活性剤を含有することが好ましい。そして、配合されたインクが、上記で説明した動的表面張力変化を持つように調節されていることが必要である。このような界面活性剤は、例えば、以下のものを用いることができる。下記に挙げる界面活性剤は、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0059】
〔ノニオン性界面活性剤〕
ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロック共重合体等。脂肪酸ジエタノールアミド、アセチレングリコールエチレンオキサイド付加物、アセチレングリコール系界面活性剤等。
【0060】
〔アニオン性界面活性剤〕
ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルスルフォン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルスルフォン酸塩等。アルファスルホ脂肪酸エステル塩、アルキルベンゼンスルフォン酸塩、アルキルフェノールスルフォン酸塩、アルキルナフタリンスルフォン酸塩、アルキルテトラリンスルフォン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩等。
【0061】
〔カチオン性界面活性剤〕
アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウムクロリド等。
【0062】
〔両性界面活性剤〕
アルキルカルボキシベタイン等。
【0063】
〔その他の界面活性剤〕
フッ素系化合物、シリコーン系化合物等。
【0064】
本発明の第1の実施態様においては、第1のインクは、上記で説明した動的表面張力の特性を有するように調節されていることが必要である。又、本発明の第2及び第3の実施態様においては、第1のインクは、上記で説明した(1)乃至(3)の動的表面張力の特性を持つように調節されていることが必要である。第1のインクが、それぞれ上記で説明した動的表面張力の特性を有するようにするためには、上記に挙げた界面活性剤の1種又は2種以上を用いてインクの動的表面張力を調整することで達成することができる。
【0065】
本発明においては特に、上記の界面活性剤の中でも、ポリオキシエチレンアルキルエーテルやアセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物を用いて、第1のインクの動的表面張力を調整することが特に好ましい。
【0066】
又、本発明においては、前記ポリオキシエチレンアルキルエーテルが、下記一般式(1)で表される界面活性剤及び一般式(2)で表される界面活性剤から選ばれる少なくとも1種であることが特に好ましい。かかる界面活性剤を含有するインクは、寿命時間の変化に対する動的表面張力の変化が大きいため、記録媒体として普通紙等を用いる場合の階調性と色の均一性を両立するのに特に好適である。
【0067】
一般式(1)
【0068】
【化1】

(一般式(1)中、m、n、aはそれぞれ独立に1以上の整数であり、m+nは14乃至20の整数である。)
【0069】
一般式(2)
【0070】
【化2】

(一般式(2)中、x、y、bはそれぞれ独立に1以上の整数であり、x+yは15乃至21の整数である。)
【0071】
更に、本発明においては、上記の界面活性剤のグリフィン法によるHLB値が、12.0以上16.5以下であることが特に好ましい。ここで、グリフィン法とは、界面活性剤の親水基の式量と分子量を元に、下記式(1)を用いてHLB値を計算する方法である。
HLB=20×(界面活性剤の親水基の式量)/(界面活性剤の分子量) (1)
HLBが12.0未満であると、界面活性剤の親水性が低すぎるため、インクを保存する場合等に、界面活性剤がインク中に溶解した状態を保てない場合がある。一方、HLBが16.5より大きいと、界面活性剤の親水性が高すぎるため、寿命時間500m秒における動的表面張力を下げることが難しい場合がある。
【0072】
第1のインク中の界面活性剤の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.30質量%以上2.0質量%以下、更には、0.30質量%以上1.5質量%以下であることが好ましい。含有量が0.30質量%未満であると、インクジェット記録装置のインク流路を構成する部材に対するインクの濡れが十分に得られず、吐出安定性が低下する場合がある。又、含有量が2.0質量%を越えると、記録ヘッドの吐出口近傍でインク中の水分等が蒸発した場合に、界面活性剤の含有量が高くなりすぎて、局所的にインクの粘度が高くなり、インクの吐出安定性が低下する場合がある。更に、記録媒体として普通紙等を用いる場合に優れた画質を得るためには、第1のインク中の界面活性剤の含有量(質量%)の下限が、インク全質量を基準として、0.30質量%以上、更には、0.75質量%以上であることが好ましい。含有量が0.30質量%未満である場合、普通紙に対するインクの濡れ性が十分に得られず、色の均一性が低下する場合がある。インク中の界面活性剤の含有量を上記の範囲とすることで、優れた吐出安定性と、記録媒体として普通紙等を用いる場合に優れた画質、特には優れた色の均一性とを両立することができる。
【0073】
又、インクセットを構成する第1のインク以外のインク中における界面活性剤の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.10質量%以上2.0質量%以下、更には、0.30質量%以上1.5質量%以下であることが好ましい。勿論、界面活性剤の構造やHLB値によって範囲は変化するため、上記範囲に限られるものではない。
【0074】
更に、本発明においては、上記で述べたようにインクA及びインクBを決定して、これらのインクが上記で説明した寿命時間500m秒における動的表面張力の特性を有するように調節されていることが必要である。これらのインクA及びインクBが、上記で説明した動的表面張力の特性を有するようにするためには、上記に挙げた界面活性剤の1種又は2種以上を用いて動的表面張力を調整することで行うことができる。これらのインクA及びインクB中における界面活性剤の含有量(質量%)は、上記と同様に、吐出安定性の観点から、インク全質量を基準として、0.10質量%以上2.0質量%以下、更には、0.30質量%以上1.5質量%以下であることが好ましい。
【0075】
(水性媒体)
本発明のインクセットを構成する各インクは、水及び水溶性有機化合物の混合溶媒である水性媒体を含有することが好ましい。水は脱イオン水(イオン交換水)を用いることが好ましい。インク中の水の含有量(質量%)は、インクを安定して吐出するために適切な粘度を有し、且つ、ノズル先端における目詰まりが抑制されたインクとするために、インク全質量を基準として、30.0質量%以上90.0質量%以下であることが好ましい。
【0076】
又、水溶性有機化合物は、本発明のインクが上記で説明した動的表面張力の特性を有するように調節されていれば、何れの水溶性有機化合物も用いることができる。インク中の水溶性有機化合物の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、1.0質量%以上50.0質量%以下、更には3.0質量%以上40.0質量%以下であることが好ましい。水溶性有機化合物は、具体的には、例えば、以下のものを用いることができる。
【0077】
エタノール、イソプロパノール、2−プロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、ペンタノール、ヘキサノール等の炭素原子数1乃至6のアルコール類。N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のカルボン酸アミド類。アセトン、メチルエチルケトン、2−メチル−2−ヒドロキシペンタン−4−オン等のケトン類又はケトアルコール類。テトラヒドロフラン、ジオキサン等の環状エーテル類。エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,2−又は1,3−プロピレングリコール、1,2−又は1,4−ブチレングリコール、ポリエチレングリコール等のアルキレングリコール類。グリセリン、1,3−ブタンジオール、1,2−又は1,5−ペンタンジオール、1,2−又は1,6−ヘキサンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,2,6−ヘキサントリオール等の多価アルコール類。エチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、ジエチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、トリエチレングリコールモノエチル(又はブチル)エーテル等の多価アルコールのアルキルエーテル類。2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N−メチルモルホリン等の複素環類。ジメチルスルホキシド、チオジグリコール等の含硫黄化合物類。
【0078】
上記の中でも、水性媒体の表面張力を適切に調節するために、浸透性が高い水溶性有機化合物を用いることが特に好ましい。具体的には、エタノール、2−プロパノール、1,2−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール等のアルコール類を用いることが特に好ましい。
【0079】
本発明の第1の実施態様においては、第1のインクは、上記で説明した動的表面張力の特性を有するように調節されていることが必要である。又、本発明の第2及び第3の実施態様においては、第1のインクは、上記で説明した(1)乃至(3)の動的表面張力の特性を持つように調節されていることが必要である。第1のインクが、上記で説明した動的表面張力の特性を有するようにするためには、上記に挙げた水溶性有機化合物の1種又は2種以上を用いて動的表面張力を調整することでも達成することができる。更に、記録媒体として普通紙等を用いる場合に特に優れた階調性を得るためには、第1のインク中の水性媒体の静的表面張力が、45mN/m以上57mN/m以下であることが好ましい。尚、本発明における「インク中の水性媒体」とは、インク中の色材及び界面活性剤を除いた水性媒体、即ち、水及び水溶性有機化合物のことを意味する。水性媒体の静的表面張力が57mN/mより高い場合や、45mN/m未満である場合、記録媒体として、普通紙の中でも表面エネルギーのムラが比較的大きいものを用いる場合に、階調性が十分に得られない場合がある。水性媒体の静的表面張力が57mN/mより高いと、前記記録媒体における、インクを付与した部分の近傍に存在する表面エネルギーが高い部分と低い部分の中で、表面エネルギーが高い部分に向かってインクが選択的に流れ込みやすくなる。その結果、フェザリングが生じやすくなり、各ドットあたりの面積のばらつきが大きくなるため、階調性が十分に得られない場合がある。一方で、水性媒体の静的表面張力45mN/m未満であると、前記記録媒体におけるインクを付与した部分の近傍と比較して、インク中の水性媒体の表面張力が低いため、急速にインクの広がりが生じ、その結果、階調性が低下する場合がある。
【0080】
又、本発明においては、インクセットを構成する複数のインクから、上記で述べたようにインクA及びインクBを決定して、これらのインクが上記で説明した寿命時間500m秒における動的表面張力の特性を有するように調節されていることが必要である。これらのインクA及びインクBが、上記で説明した動的表面張力の特性を有するようにするためには、上記に挙げた水溶性有機化合物の1種又は2種以上を用いて動的表面張力を調整することでも達成することができる。
【0081】
(色材)
本発明のインクセットを構成する各インクに用いる色材は染料である。インク中の染料の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.1質量%以上15.0質量%以下、更には1.0質量%以上10.0質量%以下であることが好ましい。
【0082】
染料は、一般のインクジェット用インクの色材として用いることのできる染料であれば、特に限定されるものではなく、例えば、直接染料、酸性染料、反応性染料、塩基性染料の何れのものも用いることができる。以下に、色調別に、本発明において用いることができる染料をカラーインデックスナンバーで示すと、例えば、以下のものが挙げられる。又、カラーインデックスに記載のないものでも、水溶性染料であれば用いることができる。
【0083】
〔イエロー色材〕
C.I.ダイレクトイエロー:8、11、12、27、28、33、39、44、50、58、85、86、87、88、89、98、100、110、132、173等。C.I.アシッドイエロー:1、3、7、11、17、23、25、29、36、38、40、42、44、76、98、99等。
【0084】
〔マゼンタ色材〕
C.I.ダイレクトレッド:2、4、9、11、20、23、24、31、39、46、62、75、79、80、83、89、95、197、201、218、220、224、225、226、227、228、229、230等。C.I.アシッドレッド:6、8、9、13、14、18、26、27、32、35、42、51、52、80、83、87、89、92、106、114、115、133、134、145、158、198、249、265、289等。C.I.フードレッド:87、92、94等。C.I.ダイレクトバイオレット:107等。
【0085】
〔シアン色材〕
C.I.ダイレクトブルー:1、15、22、25、41、76、77、80、86、90、98、106、108、120、158、163、168、199、226、307等。C.I.アシッドブルー:1、7、9、15、22、23、25、29、40、43、59、62、74、78、80、90、100、102、104、112、117、127、138、158、161、203、204、221、244等。
【0086】
〔オレンジ色材〕
C.I.アシッドオレンジ:7、8、10、12、24、33、56、67、74、88、94、116、142等。C.I.アシッドレッド:111、114、266、374等。C.I.ダイレクトオレンジ:26、29、34、39、57、102、118等。C.I.フードオレンジ:3等。C.I.リアクティブオレンジ:1、4、5、7、12、13、14、15、16、20、29、30、84、107等。C.I.ディスパースオレンジ:1、3、11、13、20、25、29、30、31、32、47、55、56等。
【0087】
〔グリーン色材〕
C.I.アシッドグリーン:1、3、5、6、9、12、15、16、19、21、25、28、81、84等。C.I.ダイレクトグリーン:26、59、67等。C.I.フードグリーン:3等。C.I.リアクティブグリーン:5、6、12、19、21等。C.I.ディスパースグリーン:6、9等。
【0088】
〔ブルー色材〕
C.I.アシッドブルー:62、80、83、90、104、112、113、142、203、204、221、244等。C.I.リアクティブブルー:49等。C.I.アシッドバイオレット:17、19、48、49、54、129等。C.I.ダイレクトバイオレット:9、35、47、51、66、93、95、99等。C.I.リアクティブバイオレット:1、2、4、5、6、8、9、22、34、36等。C.I.ディスパースバイオレット:1、4、8、23、26、28、31、33、35、38、48、56等。
【0089】
〔ブラック色材〕
C.I.ダイレクトブラック:17、19、22、31、32、51、62、71、74、112、113、154、168、195等。C.I.アシッドブラック:2、48、51、52、110、115、156等。C.I.フードブラック:1、2等。
【0090】
〔ブラウン色材〕
C.I.リアクティブブラウン1、2、7,8,9、11、17、18、21、31、32、33、46、47等。
【0091】
(その他の成分)
本発明のインクセットを構成する各インクは、上記成分以外にも必要に応じて、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン等の常温で固体の有機化合物や、尿素、エチレン尿素等の含窒素化合物を含有してもよい。更に本発明のインクは、所望の物性値を有するインクとするために、上記成分以外にも、pH調整剤、防錆剤、防腐剤、防カビ剤、酸化防止剤、還元防止剤、蒸発促進剤、キレート化剤等の種々の添加剤を含有してもよい。
【0092】
<インクジェット記録方法>
本発明のインクは、インクジェット記録方式でインクを吐出して記録媒体に記録を行うインクジェット記録方法に用いることが特に好ましい。インクジェット記録方法は、インクに力学的エネルギーを付与することによりインクを吐出する方法や、インクに熱エネルギーを付与することによりインクを吐出する方法等がある。特に、本発明のインクは、熱エネルギーを利用するインクジェット記録方法に用いた場合に、顕著な効果を得ることができる。
【0093】
<インクカートリッジ>
本発明のインクカートリッジは、本発明のインクを収容するインク収容部を備えたものであることを特徴とする。
【0094】
<記録ユニット>
本発明の記録ユニットは、本発明のインクを収容するインク収容部と、前記インクを吐出する記録ヘッドとを備えたものであることを特徴とする。特に、記録ヘッドが、熱エネルギーをインクに付与することにより、インクを吐出する記録ユニットである場合に、顕著な効果を得ることができる。
【0095】
<インクジェット記録装置>
本発明のインクジェット記録装置は、本発明のインクを収容するインク収容部と、インクを吐出する記録ヘッドとを備えたものであることを特徴とする。特に、記録ヘッドが、熱エネルギーをインクに付与することにより、インクを吐出するインクジェット記録装置である場合に、顕著な効果を得ることができる。
【0096】
以下に、インクジェット記録装置の機構部の概略構成を説明する。インクジェット記録装置は、各機構の役割から、給紙部、搬送部、キャリッジ部、排紙部、クリーニング部、及びこれらを保護し、意匠性を持たせる外装部で構成される。以下、これらの概略を説明する。
【0097】
図2は、インクジェット記録装置の斜視図である。又、図3及び図4は、インクジェット記録装置の内部機構を説明するための図であり、図3は右上部からの斜視図、図4はインクジェット記録装置の側断面図をそれぞれ示したものである。
【0098】
給紙を行う際には、先ず、給紙トレイM2060を含む給紙部において所定枚数の記録媒体が、給紙ローラM2080と分離ローラM2041から構成されるニップ部に送られる(図2及び図4参照)。記録媒体はニップ部で分離され、最上位の記録媒体のみが搬送される。搬送部に送られた記録媒体は、ピンチローラホルダM3000及びペーパーガイドフラッパーM3030に案内されて、搬送ローラM3060とピンチローラM3070とのローラ対に送られる。搬送ローラM3060とピンチローラM3070とからなるローラ対は、LFモータE0002の駆動により回転され、この回転により記録媒体がプラテンM3040上を搬送される(以上、図3及び図4参照)。
【0099】
画像を形成する際には、キャリッジ部は記録ヘッドH1001(図5参照)を目的の画像形成位置に配置して、電気基板E0014(図3参照)からの信号に従って記録媒体にインクが吐出される。尚、記録ヘッドH1001についての詳細な構成は後述する。記録ヘッドH1001により記録を行いながらキャリッジM4000(図3参照)が列方向に走査する主走査と、搬送ローラM3060(図3及び図4参照)が記録媒体を行方向に搬送する副走査とを交互に繰り返すことにより、記録媒体に画像を形成する。
【0100】
最後に、記録媒体は、排紙部で第1の排紙ローラM3110と拍車M3120とのニップに挟まれ(図4参照)、搬送されて排紙トレイM3160(図2参照)に排出される。
【0101】
クリーニング部は、記録ヘッドH1001のクリーニングを行う。クリーニング部は、キャップM5010(図3参照)を記録ヘッドH1001の吐出口に密着させた状態で、ポンプM5000(図3参照)を作動すると、記録ヘッドH1001からインク等を吸引する。又、キャップM5010を開いた状態で、キャップM5010に残っているインクを吸引すると、インクの固着やその他の弊害が起こらないようになっている。
【0102】
(記録ヘッドの構成)
ヘッドカートリッジH1000の構成について説明する(図5参照)。ヘッドカートリッジH1000は、記録ヘッドH1001と、インクカートリッジH1900を搭載する手段、及びインクカートリッジH1900から記録ヘッドにインクを供給する手段を有する。そして、ヘッドカートリッジH1000は、キャリッジM4000(図3参照)に対して着脱可能に搭載される。
【0103】
図5は、ヘッドカートリッジH1000にインクカートリッジH1900を装着する様子を示した図である。インクジェット記録装置は、例えば、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラック、淡マゼンタ、淡シアン、及びグリーンの各インクで画像を形成する。従って、インクカートリッジH1900も7色分が独立に用意されている。そして、図5に示すように、それぞれのインクカートリッジは、ヘッドカートリッジH1000に対して着脱可能となっている。尚、インクカートリッジH1900の着脱は、キャリッジM4000(図3参照)にヘッドカートリッジH1000が搭載された状態で行うことができる。
【0104】
図6は、ヘッドカートリッジH1000の分解斜視図である。ヘッドカートリッジH1000は、記録素子基板、プレート、電気配線基板H1300、カートリッジホルダーH1500、流路形成部材H1600、フィルターH1700、シールゴムH1800等で構成される。記録素子基板は第1の記録素子基板H1100及び第2の記録素子基板H1101で構成され、プレートは第1のプレートH1200及び第2のプレートH1400で構成される。
【0105】
第1の記録素子基板H1100及び第2の記録素子基板H1101はSi基板であり、その片面にインクを吐出するための複数の記録素子(ノズル)がフォトリソグラフィ技術により形成されている。各記録素子に電力を供給するAl等の電気配線は、成膜技術により形成されており、個々の記録素子に対応した複数のインク流路も又、フォトリソグラフィ技術により形成されている。更に、複数のインク流路にインクを供給するためのインク供給口が裏面に開口するように形成されている。
【0106】
図7は、第1の記録素子基板H1100及び第2の記録素子基板H1101の構成を説明する正面拡大図である。H2000〜H2600は、それぞれ異なるインクを供給する記録素子の列(以下ノズル列ともいう)である。第1の記録素子基板H1100には、イエローインクのノズル列H2000、マゼンタインクのノズル列H2100、及びシアンインクのノズル列H2200の3色分のノズル列が形成されている。第2の記録素子基板H1101には、淡シアンインクのノズル列H2300、ブラックインクのノズル列H2400、グリーンインクのノズル列H2500、及び淡マゼンタインクのノズル列H2600、の4色分のノズル列が形成されている。
【0107】
各ノズル列は、記録媒体の搬送方向に1,200dpi(dot/inch;参考値)の間隔で並ぶ768個のノズルによって構成され、約2ピコリットルのインクを吐出する。各吐出口における開口面積は、およそ100μmに設定されている。
【0108】
以下、図5及び図6を参照して説明する。前記第1の記録素子基板H1100及び第2の記録素子基板H1101は第1のプレートH1200に接着固定されている。ここには、第1の記録素子基板H1100及び第2の記録素子基板H1101にインクを供給するためのインク供給口H1201が形成されている。更に、第1のプレートH1200には、開口部を有する第2のプレートH1400が接着固定されている。この第2のプレートH1400は、電気配線基板H1300と第1の記録素子基板H1100及び第2の記録素子基板H1101とが電気的に接続されるように、電気配線基板H1300を保持する。
【0109】
電気配線基板H1300は、第1の記録素子基板H1100及び第2の記録素子基板H1101に形成されている各ノズルからインクを吐出するための電気信号を印加する。この電気配線基板H1300は、第1の記録素子基板H1100及び第2の記録素子基板H1101に対応する電気配線と、この電気配線端部に位置し、インクジェット記録装置からの電気信号を受け取るための外部信号入力端子H1301とを有する。外部信号入力端子H1301は、カートリッジホルダーH1500の背面側に位置決め固定されている。
【0110】
インクカートリッジH1900を保持するカートリッジホルダーH1500には、流路形成部材H1600が、例えば、超音波溶着により固定され、インクカートリッジH1900から第1のプレートH1200に通じるインク流路H1501を形成する。インクカートリッジH1900と係合するインク流路H1501のインクカートリッジ側端部には、フィルターH1700が設けられており、外部からの塵埃の侵入を防止し得るようになっている。又、インクカートリッジH1900との係合部にはシールゴムH1800が装着され、係合部からのインクの蒸発を防止し得るようになっている。
【0111】
更に、カートリッジホルダー部と記録ヘッド部H1001とを接着等で結合することで、ヘッドカートリッジH1000が構成される。尚、カートリッジホルダー部は、カートリッジホルダーH1500、流路形成部材H1600、フィルターH1700、及びシールゴムH1800から構成される。又、記録ヘッド部H1001は、第1の記録素子基板H1100及び第2の記録素子基板H1101、第1のプレートH1200、電気配線基板H1300及び第2のプレートH1400から構成される。
【0112】
尚、ここでは記録ヘッドの一形態として、電気信号に応じた膜沸騰をインクに生じさせるための熱エネルギーを生成する電気熱変換体(記録素子)を用いて記録を行うサーマルインクジェット方式の記録ヘッドについて述べた。この代表的な構成や原理については、例えば、米国特許第4,723,129号明細書、同第4,740,796号明細書に開示されている基本的な原理を用いて行うものが好ましい。この方式は、いわゆる、オンデマンド型、コンティニュアス型の何れにも適用することができる。
【0113】
サーマルインクジェット方式は、オンデマンド型に適用することが特に有効である。オンデマンド型の場合には、インクを保持する液流路に対応して配置されている電気熱変換体に、記録情報に対応していて核沸騰を超える急速な温度上昇を与える少なくとも一つの駆動信号を印加する。このことによって、電気熱変換体に熱エネルギーを発生せしめ、インクに膜沸騰を生じさせて、結果的にこの駆動信号に一対一で対応したインク内の気泡を形成できる。この気泡の成長及び収縮により吐出口を介してインクを吐出することで、少なくともひとつの滴を形成する。駆動信号をパルス形状とすると、即時、適切に気泡の成長及び収縮が行われるので、特に応答性に優れたインクの吐出が達成でき、より好ましい。
【0114】
又、本発明のインクは、前記のサーマルインクジェット方式に限らず、下記に述べるような、力学的エネルギーを利用したインクジェット記録装置においても好ましく用いることができる。かかる形態のインクジェット記録装置は、複数のノズルを有するノズル形成基板と、ノズルに対向して配置される圧電材料と導電材料からなる圧力発生素子と、この圧力発生素子の周囲を満たすインクを備えてなる。そして、印加電圧により圧力発生素子を変位させ、インクをノズルから吐出する。
【0115】
インクジェット記録装置は、記録ヘッドとインクカートリッジとが別体となったものに限らず、それらが分離不能に一体になったものを用いてもよい。更に、インクカートリッジは記録ヘッドに対して分離可能又は分離不能に一体化されてキャリッジに搭載されるもの、又、インクジェット記録装置の固定部位に設けられて、チューブ等のインク供給部材を介して記録ヘッドにインクを供給するものでもよい。又、記録ヘッドに対して、好ましい負圧を作用させるための構成をインクカートリッジに設ける場合には、以下の構成とすることができる。即ち、インクカートリッジのインク収容部に吸収体を配置した形態、又は可撓性のインク収容袋とこれに対してその内容積を拡張する方向の付勢力を作用するばね部とを有した形態等とすることができる。又、インクジェット記録装置は、シリアル型の記録方式を採るもののほか、記録媒体の全幅に対応した範囲にわたって記録素子を整列させてなるラインプリンタの形態をとるものであってもよい。
【実施例】
【0116】
次に実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、下記実施例によって限定されるものではない。尚、文中「部」及び「%」とあるのは、特に断りのない限り質量基準である。
【0117】
<界面活性剤のHLB値及び構造>
界面活性剤のHLB値を求めた。具体的には、各界面活性剤の主成分について、グリフィン法(下記式(1))を用いて、HLB値を計算した。結果を表1に示す。
HLB=20×(界面活性剤の親水基の式量)/(界面活性剤の分子量) (1)
又、表1には、各界面活性剤の主成分の構造、及び、かかる界面活性剤の構造が一般式(1)又は一般式(2)に該当する場合は、m、n、a、及びm+nの値、又はx、y、b、及びx+yの値も併せて示した。表1中、EMALEX 1615は日本エマルジョン製の界面活性剤であり、アセチレノール E100は川研ファインケミカル製の界面活性剤である。又、エマルミン CO−50、及びエマルミン NL90は三洋化成工業製の界面活性剤であり、NIKKOL BT−7は日光ケミカルズの界面活性剤である。
【0118】
【表1】

【0119】
<インクの調製>
表2〜表4に示す各成分を混合して、十分撹拌した後、ポアサイズ0.2μmのミクロフィルター(ポール製)にて加圧ろ過して、シアンインク(C1〜C5)、マゼンタインク(M1〜M8)、イエローインク(Y1〜Y3)を調製した。表2〜表4中、EMALEX 1615は日本エマルジョン製の界面活性剤であり、アセチレノール E100は川研ファインケミカル製の界面活性剤である。又、エマルミン CO−50、及びエマルミン NL90は三洋化成工業製の界面活性剤であり、NIKKOL BT−7は日光ケミカルズの界面活性剤である。
【0120】
【表2】

【0121】
【表3】

【0122】
【表4】

【0123】
<評価>
(動的表面張力の測定)
上記で得られた各インクについて、(1)寿命時間50m秒及び(2)500m秒におけるインクの動的表面張力を測定した。又、(1)及び(2)における動的表面張力の差△γ[(1)−(2)]を求めた。測定には、最大泡圧法により動的表面張力の測定を行う装置(Bubble Pressure Tensiometer BP2;KRUSS製)を用いた。又、動的表面張力の測定は、25℃において行った。動的表面張力の評価結果を表5に示す。
【0124】
(明度の測定)
上記で得られた各インクをそれぞれインクカートリッジに充填して、熱エネルギーの作用により記録ヘッドからインクを吐出するインクジェット記録装置iP3100(キヤノン製)を改造したものに搭載した。その後、記録媒体(PR−101;キヤノン製)に、解像度600ppiにおける1ピクセルあたりのインクの付与量が10ngとなるように記録を行った。得られた画像の明度を、Spectrolino(Gretag Macbeth製)で、光源D65、視野2度の条件で測定した。明度の測定結果を表5に示す。
【0125】
【表5】

【0126】
表5から明らかであるように、本発明における第1のインクに該当するインクは、C1〜C5、M2、及びY1の各インクである。第1のインクに該当するこれらのインクを用いて普通紙に記録デューティを100%として形成した画像は、色の均一性に優れていた。尚、この際に使用した記録装置はインクジェット記録装置iP3100(キヤノン製)であり、記録媒体はPPC用紙オフィスプランナー(キヤノン製)である。
【0127】
(2種のインクを有するインクセットにおけるブリーディング)
上記で得られたC1〜C5、M1〜M8、Y1〜Y3の各インクを、下記表6に示す2種のインクの組み合わせで用いて、インクセットとした。そして、表6に示すように、インクセットを構成する2種のインクの中で、明度が相対的に高いインクをインクA、明度が相対的に低いインクをインクBとした。表6には、インクA及びインクBの明度、並びに、インクAの寿命時間500m秒における動的表面張力γ、インクBの寿命時間500m秒における動的表面張力γ、及びこれらの差(γ−γ)の値を示した。
【0128】
インクセットを構成する複数のインクをそれぞれインクカートリッジに充填して、熱エネルギーの作用により記録ヘッドからインクを吐出するインクジェット記録装置iP3100(キヤノン製)を改造したものに搭載した。その後、記録媒体(PR−101;キヤノン製)に、図1に示す画像を4パスで形成した。得られた記録物を目視で確認して、ブリーディングの評価を行った。ブリーディングの評価基準は下記の通りである。評価結果を表6に示す。
【0129】
A:画像の全体にわたってブリーディングがない
B:画像の一部分に軽度のブリーディングがあるが、許容できるレベルである
C:画像の全体にわたってブリーディングがある
【0130】
【表6】

【0131】
表6から明らかであるように、γ−γの値が−3以上3以下である実施例1〜3、5、6、8〜11、13〜15、17、18、及び20〜22では、画像の全体にわたってブリーディングがなく、優れたレベルであった。又、γ−γの値が−5以上−3未満である実施例4、7、12、16、及び19では、画像の一部分にブリーディングがあるものの、ブリーディングの程度は軽度であり、許容できるレベルであった。一方で、γ−γの値が3を上回る、又は5未満である比較例1〜4では、画像の全体にわたってブリーディングがあり、許容できないレベルであった。
【0132】
インクの中で、M8、C1、及びY1に着目すると、M8は500m秒における動的表面張力が41mN/m、C1及びY1は何れも500m秒における動的表面張力が37mN/mである。M8及びC1の組み合わせ(比較例2)では、画像の全体にわたってブリーディングがあり、好ましくないレベルであった。これに対して、M8及びY1の組み合わせで(実施例16)では、画像の一部分に軽度のブリーディングがあるが、許容できるレベルであった。M8及びC1の組み合わせ、並びに、M8及びY1の組み合わせでは、インク間の500m秒における動的表面張力の差の絶対値は何れも4で等しいが、インク間の明度の関係から、生じるブリーディングの程度に差が生じていた。
【0133】
尚、2種のインクの組み合わせにおけるのγ−γの値と、ブリーディングとの関係は、インクに用いる浸透剤(界面活性剤及び/又は水溶性有機化合物)の種類や含有量には依存していなかった。
【0134】
(3種のインクを有するインクセットにおけるブリーディング)
上記で得られたC1、C2、M1、M2、M4、Y1〜Y3の各インクを、下記表7に示す3種のインクの組み合わせで用いて、インクセットとした。そして、表7に示すように、インクセットを構成する3種のインクの中から、2種のインクを選ぶ全て組み合わせ(3通り)について、明度が相対的に高いインクをインクA、明度が相対的に低いインクをインクBとした。表7には、インクA及びインクBの明度、並びに、インクAの寿命時間500m秒における動的表面張力γ、インクBの寿命時間500m秒における動的表面張力γ、及びこれらの差(γ−γ)の値を示した。
【0135】
インクセットを構成する複数のインクのうち、インクA及びインクBをそれぞれインクカートリッジに充填して、熱エネルギーの作用により記録ヘッドからインクを吐出するインクジェット記録装置iP3100(キヤノン製)を改造したものに搭載した。その後、記録媒体(PR−101;キヤノン製)に、図1に示す画像を4パスで形成した。インクセットを構成する3種のインクの中から、2種のインクを選ぶ全て組み合わせ(3通り)で得られたそれぞれの記録物を目視で確認して、ブリーディングの評価を行った。ブリーディングの評価基準は下記の通りである。評価結果を表7に示す。
【0136】
A:画像の全体にわたってブリーディングがない
B:画像の一部分に軽度のブリーディングがあるが、許容できるレベルである
C:画像の全体にわたってブリーディングがある
【0137】
又、インクセットを構成する3種のインクの中から、2種のインクを選ぶ全て組み合わせ(3通り)で得られたそれぞれの記録物を目視で確認して、各インクセットにおけるブリーディングの総合評価を行った。ブリーディングの総合評価の基準は下記の通りである。評価結果を表7に示す。
【0138】
A:何れのインクの組み合わせにおいても、画像の全体にわたってブリーディングがない
B:インクの組み合わせによっては、画像の一部分に軽度のブリーディングがあるが、許容できるレベルである
C:インクの組み合わせによっては、画像の全体にわたってブリーディングがある
【0139】
【表7】

【0140】
表7から明らかであるように、3種のインクを有するインクセットから選ばれる2種のインクの全ての組み合わせについて、上記の2種のインクを有するインクセットの場合と同様の評価を行えばよい。インクセットを構成する2種のインクの全ての組み合わせにおいて、γ−γの値が−3以上3以下である実施例23及び24では、画像の全体にわたってブリーディングがなく、優れたレベルであった。又、インクセットを構成する3種のインクのうち、γ−γの値が−4となる2種のインクの組み合わせを含む実施例25では、以下のブリーディングの性能を有していた。即ち、γ−γの値が−4となる2種のインクの組み合わせでは画像の一部分に軽度のブリーディングがあるが、許容できるレベルであり、その他の2種のインクの組み合わせでは、画像の全体にわたってブリーディングがなかった。そして、この実施例25では、ブリーディングは総合的には許容できるレベルであった。一方、インクセットを構成する3種のインクのうち、γ−γの値が6となる2種のインクの組み合わせを含む参考例1では、前記組み合わせにおいて画像の全体にわたってブリーディングがあり、総合的にも許容できないレベルであった。
【図面の簡単な説明】
【0141】
【図1】ブリーディングを評価するために形成する画像のモデル図である。
【図2】インクジェット記録装置の斜視図である。
【図3】インクジェット記録装置の機構部の斜視図である。
【図4】インクジェット記録装置の断面図である。
【図5】ヘッドカートリッジにインクカートリッジを装着する状態を示す斜視図である。
【図6】ヘッドカートリッジの分解斜視図である。
【図7】ヘッドカートリッジにおける記録素子基板を示す正面図である。
【符号の説明】
【0142】
1 解像度600ppiにおける1ピクセルあたりのインクAの付与量を15ng、及び解像度600ppiにおける1ピクセルあたりのインクBの付与量を15ngとして形成するベタ画像の領域
2 解像度600ppiにおける1ピクセルあたりのインクAの付与量を20ngとして形成するベタ画像の領域
3 解像度600ppiにおける1ピクセルあたりのインクBの付与量を20ngとして形成するベタ画像の領域
M2041 分離ローラ
M2060 給紙トレイ
M2080 給紙ローラ
M3000 ピンチローラホルダ
M3030 ペーパーガイドフラッパー
M3040 プラテン
M3060 搬送ローラ
M3070 ピンチローラ
M3110 排紙ローラ
M3120 拍車
M3160 排紙トレイ
M4000 キャリッジ
M5000 ポンプ
M5010 キャップ
E0002 LFモータ
E0014 電気基板
H1000 ヘッドカートリッジ
H1001 記録ヘッド
H1100 第1の記録素子基板
H1101 第2の記録素子基板
H1200 第1のプレート
H1201 インク供給口
H1300 電気配線基板
H1301 外部信号入力端子
H1400 第2のプレート
H1500 カートリッジホルダー
H1501 インク流路
H1600 流路形成部材
H1700 フィルター
H1800 シールゴム
H1900 インクカートリッジ
H2000 イエローノズル列
H2100 マゼンタノズル列
H2200 シアンノズル列
H2300 淡シアンノズル列
H2400 ブラックノズル列
H2500 グリーンノズル列
H2600 淡マゼンタノズル列

【特許請求の範囲】
【請求項1】
染料を含有する水性インクを複数有するインクセットであって、
前記インクセットが少なくとも、染料を含有する第1の水性インクを有してなり、
前記第1の水性インクの寿命時間50m秒における動的表面張力及び寿命時間500m秒における動的表面張力の差が、7mN/m以上であり、
前記第1の水性インク、及び、前記インクセットが有する前記第1の水性インク以外の少なくとも1種の水性インクのうち、明度が相対的に高いインクAの寿命時間500m秒における動的表面張力γ(mN/m)、明度が相対的に低いインクBの寿命時間500m秒における動的表面張力γ(mN/m)が、−5≦(γ−γ)≦3の関係を満たすことを特徴とするインクセット。
【請求項2】
染料を含有する水性インクを複数有するインクセットであって、
前記インクセットが少なくとも、染料を含有する第1の水性インクを有してなり、
前記第1の水性インクが、下記の(1)乃至(3)の条件を満たしてなり、
前記第1の水性インク、及び、前記インクセットが有する前記第1の水性インク以外の少なくとも1種の水性インクのうち、明度が相対的に高いインクAの寿命時間500m秒における動的表面張力γ(mN/m)、明度が相対的に低いインクBの寿命時間500m秒における動的表面張力γ(mN/m)が、−5≦(γ−γ)≦3の関係を満たすことを特徴とするインクセット。
(1)寿命時間50m秒における動的表面張力が、42mN/m以上49mN/m未満
(2)寿命時間500m秒における動的表面張力が、28mN/m以上38mN/m以下
(3)寿命時間50m秒における動的表面張力及び寿命時間500m秒における動的表面張力の差が、7mN/m以上
【請求項3】
染料を含有する水性インクを少なくとも3種有するインクセットであって、
前記インクセットが少なくとも、染料を含有する第1の水性インクを有してなり、
前記第1の水性インクが、下記の(1)乃至(3)の条件を満たしてなり、
前記インクセットを構成する少なくとも3種の水性インクから任意に選んだ2種の水性インクのうち、明度が相対的に高いインクAの寿命時間500m秒における動的表面張力γ(mN/m)、明度が相対的に低いインクBの寿命時間500m秒における動的表面張力γ(mN/m)が、前記インクセットを構成する少なくとも3種の水性インクから任意の2種の水性インクを選ぶ全ての組み合わせにおいて、−5≦(γ−γ)≦3の関係が成り立つことを特徴とするインクセット。
(1)寿命時間50m秒における動的表面張力が、42mN/m以上49mN/m未満
(2)寿命時間500m秒における動的表面張力が、28mN/m以上38mN/m以下
(3)寿命時間50m秒における動的表面張力及び寿命時間500m秒における動的表面張力の差が、7mN/m以上
【請求項4】
インクをインクジェット方法で吐出するインクジェット記録方法において、前記インクが、請求項1乃至3の何れか1項に記載のインクセットを構成する水性インクであることを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項5】
前記インクジェット方法が、熱エネルギーの作用により記録ヘッドからインクを吐出するインクジェット記録方法である請求項4に記載のインクジェット記録方法。
【請求項6】
インクを収容するインク収容部を備えたインクカートリッジにおいて、前記インク収容部に収容されたインクが、請求項1乃至3の何れか1項に記載のインクセットを構成する水性インクであることを特徴とするインクカートリッジ。
【請求項7】
インクを収容するインク収容部と、インクを吐出する記録ヘッドとを備えた記録ユニットにおいて、前記インク収容部に収容されたインクが、請求項1乃至3の何れか1項に記載のインクセットを構成する水性インクであることを特徴とする記録ユニット。
【請求項8】
インクを収容するインク収容部と、インクを吐出する記録ヘッドとを備えたインクジェット記録装置において、前記インク収容部に収容されたインクが、請求項1乃至3の何れか1項に記載のインクセットを構成する水性インクであることを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項9】
染料を含有する水性インクを複数有するインクセットに用いる、染料を含有する第1の水性インクであって、
前記第1の水性インクの寿命時間50m秒における動的表面張力及び寿命時間500m秒における動的表面張力の差が、7mN/m以上であり、
前記第1の水性インク、及び、前記インクセットが有する前記第1の水性インク以外の少なくとも1種の水性インクのうち、明度が相対的に高いインクAの寿命時間500m秒における動的表面張力γ(mN/m)、明度が相対的に低いインクBの寿命時間500m秒における動的表面張力γ(mN/m)が、−5≦(γ−γ)≦3の関係を満たすことを特徴とする第1の水性インク。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−308665(P2008−308665A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−112758(P2008−112758)
【出願日】平成20年4月23日(2008.4.23)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】