説明

インクセット、記録物の製造方法および記録物

【課題】保存安定性に優れ、光沢感に優れたパターン(印刷部)の形成に好適に用いることのできるインクセットを提供すること、光沢感に優れたパターンを有する記録物を提供すること、また、当該記録物を効率よく製造することができる製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明のインクセットは、インクジェット方式により吐出されるインクを複数種備えるものであって、鱗片状の金属粉末が分散した第1のインクと、前記第1のインクよりも高い含有率で重合可能な官能基を有する重合性化合物を含む第2のインクとを備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクセット、記録物の製造方法および記録物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、光沢感のある外観を呈する装飾品の製造方法として、金属めっきや、金属箔を用いた箔押し印刷、金属箔を用いた熱転写等が用いられてきた。
しかし、これらの方法では、微細なパターンを形成することや、曲面部への適用が困難であるといった問題があった。
他方、顔料または染料を含む組成物による記録媒体への記録方法として、インクジェット法による記録方法が用いられている。インクジェット法では、微細なパターンの形成や、曲面部への記録にも好適に適用できるという点で優れている。また、近年、インクジェット法において、耐擦性、耐水性、耐溶剤性等を特に優れたものとするため等に、紫外線を照射すると硬化する組成物(紫外線硬化型インクジェット用インク)が用いられている(例えば、特許文献1参照)。
しかしながら、硬化型インクジェットインクでは、顔料や染料の代わりに、金属粉末を適用しようとした場合、当該金属が本来有している光沢感等の特性を十分に発揮させることができないという問題点があり、また、組成物の安定性に劣り、ゲル化による粘度上昇による吐出安定性の低下等の問題を引き起こす。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−57548号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、保存安定性に優れ、光沢感に優れたパターン(印刷部)の形成に好適に用いることのできるインクセットを提供すること、光沢感に優れたパターンを有する記録物を提供すること、また、当該記録物を効率よく製造することができる製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このような目的は、下記の本発明により達成される。
本発明のインクセットは、インクジェット方式により吐出されるインクを複数種備えるインクセットであって、
鱗片状の金属粉末が分散した第1のインクと、
重合可能な官能基を有する重合性化合物を、前記第1のインクよりも高い含有率で含む第2のインクとを備えることを特徴とする。
これにより、保存安定性に優れ、光沢感に優れたパターン(印刷部)の形成に好適に用いることのできるインクセットを提供することができる。
【0006】
本発明のインクセットでは、前記重合性化合物は、紫外線の照射により重合するものであることが好ましい。
これにより、光沢感に優れたパターン(印刷部)を有する記録物の生産性を特に優れたものとすることができる。
本発明のインクセットでは、前記第1のインクは、前記金属粉末として、少なくとも表面がAlで構成された粉末を含むものであることが好ましい。
Alは、本来、各種金属材料の中でも特に優れた光沢感を呈するものであるが、硬化型インクジェット用インクに、Alで構成された粉末を適用しようとした場合に、インクの保存安定性は特に低いものとなり、ゲル化による粘度上昇による吐出安定性の低下等の問題が特に顕著に発生することを本発明者は見出していた。これに対し、本発明では、表面がAlで構成された粉末を用いた場合であっても、上記のような問題の発生を確実に防止することができる。すなわち、金属粉末として少なくとも表面がAlで構成された粉末を含む第1のインクを備えることにより、本発明の効果は特に顕著に発揮される。
【0007】
本発明のインクセットでは、前記第1のインクは、揮発性の溶剤を含むものであることが好ましい。
これにより、第1のインクの保存安定性等を特に優れたものとすることができる。
本発明のインクセットでは、前記金属粉末の平均粒径は、500nm以上2.0μm以下であることが好ましい。
これにより、インクセットを用いて形成される印刷部の光沢感、高級感をさらに優れたものとすることができる。また、第1のインクの保存安定性、吐出安定性をさらに優れたものとすることができる。
【0008】
本発明のインクセットでは、前記第1のインクは、紫外線の照射により重合する重合性化合物として、フェノキシエチルアクリレートを含むものであることが好ましい。
これにより、第1のインクの保存安定性を優れたものとしつつ、インクジェット法による吐出後の第1のインクの反応性を特に優れたものとし、記録物の生産性を特に優れたものとすることができるとともに、形成されるパターンの耐擦性等を特に優れたものとすることができる。
【0009】
本発明のインクセットでは、前記第1のインクは、前記重合性化合物として、前記フェノキシエチルアクリレートに加え、アクリル酸2−(2−ビニロキシエトキシ)エチル、ジプロピレングリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、および、4−ヒドロキシブチルアクリレートよりなる群から選択される少なくとも1種を含むものであることが好ましい。
これにより、第1のインクの保存安定性を優れたものとしつつ、インクジェット法による吐出後の第1のインクの反応性を特に優れたものとし、記録物の生産性を特に優れたものとすることができるとともに、形成されるパターンの耐擦性等を特に優れたものとすることができる。
【0010】
本発明のインクセットでは、前記第1のインクは、紫外線の照射により重合する重合性化合物として、ジメチロールトリシクロデカンジアクリレートおよび/またはアミノアクリレートを含むものであることが好ましい。
これにより、第1のインクの保存安定性をより優れたものとしつつ、形成されるパターンの耐擦性等をさらに優れたものとすることができる。
本発明の記録物の製造方法は、インクジェット方式により、重合可能な官能基を有する重合性化合物を含む第2のインクを記録媒体に付与する第2のインク付与工程と、
インクジェット方式により、前記記録媒体の前記第2のインクが付与された領域に、金属粉末が分散した第1のインクを付与する第1のインク付与工程と、
前記第2のインクを構成する前記重合性化合物を硬化させる硬化工程とを有することを特徴とする。
これにより、光沢感に優れたパターンを有する記録物を効率よく製造することができる製造方法を提供することができる。
【0011】
本発明の記録物の製造方法では、前記第1のインクは、揮発性の溶剤を含むものであり、
前記第1のインク付与工程の後であって前記硬化工程が完了する前に、前記溶剤を除去する乾燥工程を有することが好ましい。
これにより、第1のインクの保存安定性、吐出安定性等を特に優れたものとしつつ、製造される記録物中に溶剤が残存することによる不都合の発生を確実に防止することができる。
本発明の記録物は、本発明の方法を用いて製造されたこと特徴とする。
これにより、光沢感に優れたパターンを有する記録物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の記録物の製造方法の一例を模式的に示す断面図である。
【図2】記録物の製造に用いる液滴吐出装置を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
[インクセット]
まず、本発明のインクセットについて説明する。
本発明のインクセットは、インクジェット方式により吐出されるインク(インクジェット用インク)を複数種備えるものである。
【0014】
ところで、従来から、光沢感のある外観を呈する装飾品の製造方法として、金属めっきや、金属箔を用いた箔押し印刷、金属箔を用いた熱転写等が用いられてきた。
しかし、これらの方法では、微細なパターンを形成することや、曲面部への適用が困難であるといった問題があった。また、これらの方法では、デジタルオンデマンドへの対応ができず、多品目生産には適していない。
【0015】
他方、顔料または染料を含む組成物による記録媒体への記録方法として、インクジェット法による記録方法が用いられている。インクジェット法では、微細なパターンの形成や、曲面部への記録にも好適に適用できるという点で優れている。また、近年、インクジェット法において、耐擦性、耐水性、耐溶剤性等を特に優れたものとするため等に、紫外線を照射すると硬化する組成物(紫外線硬化型インクジェット用インク)が用いられている。
しかしながら、硬化型インクジェットインクでは、顔料や染料の代わりに、金属粉末を適用しようとした場合、当該金属が本来有している光沢感等の特性を十分に発揮させることができないという問題点があり、また、組成物の安定性に劣り、ゲル化による粘度上昇による吐出安定性の低下等の問題を引き起こす。
【0016】
そこで、発明者は、上記のような問題を解決する目的で鋭意研究を行った結果、本発明に至った。すなわち、本発明のインクセットは、インクジェット方式により吐出されるインクを複数種備えるものであって、鱗片状の金属粉末が分散した第1のインクと、第1のインクよりも高い含有率で重合可能な官能基を有する重合性化合物を含む第2のインクとを備えるものである。
【0017】
このように、鱗片状の金属粉末が分散した第1のインクとともに、第1のインクよりも高い含有率で重合可能な官能基を有する重合性化合物を含む第2のインクを備えることにより、第1のインク中の重合性化合物の含有率を低いものとすることができ、結果として、パターン(印刷部)の形成に用いるインク(第1のインクおよび第2のインク)の保存安定性を優れたものとし、形成されるパターン(印刷部)の光沢感を優れたものとすることができる。
【0018】
《第1のインク》
本発明のインクセットを構成する第1のインクは、インクジェット方式により吐出されるものであり、鱗片状の金属粉末を含むものである。
<金属粉末>
上述したように、本発明のインクセットを構成する第1のインクは、鱗片状の金属粉末を含むものである。
【0019】
金属粉末が鱗片形状を有するものであることにより、インクジェット法により第1のインクが付与される記録媒体上で、当該金属粉末の主面が記録媒体の表面形状に沿うように、金属粉末を配置することができる。その結果、金属粉末を構成する金属材料が本来有している光沢感等を、得られる記録物においても十分に発揮させることができ、インクセット全体として、金属色を含めた多様な色を表現することができることとなる。これに対し、金属粉末が鱗片状以外の形状である場合には、金属粉末は、記録媒体上で、入射した光を乱反射してしまうこととなり、記録物の光沢感を十分に優れたものとすることができず、金属色を含めた多様な色を表現することができない。
【0020】
本発明において、鱗片状とは、平板状、湾曲板状等のように、所定の角度から観察した際(平面視した際)の面積が、当該観察方向と直交する角度から観察した際の面積よりも大きい形状のことをいい、特に、投影面積が最大となる方向から観察した際(平面視した際)の面積S[μm]と、当該観察方向と直交する方向のうち観察した際の面積が最大となる方向から観察した際の面積S[μm]に対する比率(S/S)が、好ましくは2以上であり、より好ましくは5以上であり、さらに好ましくは8以上である。この値としては、例えば、任意の10個の粒子について観察を行い、これらの粒子についての算出される値の平均値を採用することができる。
【0021】
第1のインクは、金属粉末として、少なくとも表面付近が金属材料を含む材料で構成されたものを含むものであればよいが、少なくとも表面がAlで構成された粉末を含むものであるのが好ましい。Alは、本来、各種金属材料の中でも特に優れた光沢感を呈するものであるが、硬化型インクジェット用インクに、Alで構成された粉末を適用しようとした場合に、インクの保存安定性は特に低いものとなり、ゲル化による粘度上昇による吐出安定性の低下等の問題が特に顕著に発生することを本発明者は見出していた。これに対し、本発明では、表面がAlで構成された粉末を用いた場合であっても、上記のような問題の発生を確実に防止することができる。すなわち、金属粉末として少なくとも表面がAlで構成された粉末を含む第1のインクを備えることにより、本発明の効果は特に顕著に発揮される。
【0022】
金属粉末の平均粒径は、500nm以上2.0μm以下であるのが好ましく、800nm以上1.8μm以下であるのがより好ましい。これにより、インクセットを用いて形成される印刷部の光沢感、高級感をさらに優れたものとすることができる。また、第1のインクの保存安定性、吐出安定性をさらに優れたものとすることができる。なお、本発明において、平均粒径とは、個数基準の平均粒径のことを指し、投影面積が最大となる方向から観察した際の面積Sと同一の面積を有する真円の直径の平均値のことを指す。
【0023】
また、金属粉末は、いかなる方法で製造されたものであってもよいが、気相成膜法によりAlで構成された膜を形成し、その後、当該膜を粉砕することにより得られたものであるのが好ましい。これにより、インクセットを用いて形成されるパターン(印刷部)において、Alが本来有している光沢感等をより効果的に表現させることができる。また、各粒子間での特性のばらつきを抑制することができる。また、当該方法を用いることにより、比較的薄い金属粉末であっても好適に製造することができる。
このような方法を用いて金属粉末を製造する場合、例えば、基材上に、Alで構成された膜の形成(成膜)を行うことにより、金属粉末を好適に製造することができる。前記基材としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート等のプラスチックフィルム等を用いることができる。また、基材は、成膜面に離型剤層を有するものであってもよい。
【0024】
また、前記粉砕は、液体中において、前記膜に超音波振動を付与することにより行われるものであるのが好ましい。これにより、上述したような粒径の金属粉末を容易かつ確実に得ることができるとともに、各粒子間での大きさ、形状、特性のばらつきの発生を抑制することができる。
また、上記のような方法で、粉砕を行う場合、前記液体としては、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールn−ブチルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテルおよびジエチレングリコールジエチルエーテルよりなる群から選択される1種または2種以上を含むものを用いるのが好ましい。これにより、金属粉末の不本意な酸化等を防止しつつ、金属粉末の生産性を特に優れたものとし、また、各粒子間での大きさ、形状、特性のばらつきを特に小さいものとすることができる。
第1のインク中における金属粉末の含有率は、0.5質量%以上5.5質量%以下であるのが好ましく、1.0質量%以上5.0質量%以下であるのがより好ましい。
【0025】
<溶剤>
第1のインクは、上述した金属粉末を含むものであり、インクジェット方式による液滴吐出が可能であればよく、金属粉末以外の構成成分は特に限定されるものでないが、揮発性の溶剤を含むものであるのが好ましい。これにより、第1のインク中における重合性化合物の含有率を特に低いもの(例えば、重合性化合物を含有しないものを含む)とすることができ、第1のインクの保存安定性を特に優れたものとすることができる。また、溶剤を含むことにより、第1のインクの低粘度化を図ることができ、第1のインクの吐出安定性を特に優れたものとすることができる。
【0026】
溶剤としては、例えば、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールn−ブチルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル等の極性のあるグリコールエーテル、アセテート、ジオール類等の各種有機溶剤、水、四塩化炭素等の各種無機溶剤等を用いることができる。
このような溶剤は、第1のインクにおいて、金属粉末を分散する分散媒として機能するものである。
【0027】
溶剤の沸点は、50℃以上180℃以下であるのが好ましく、60℃以上150℃以下であるのがより好ましい。これにより、第1のインクの保存安定性、吐出安定性を特に優れたものとしつつ、インクセットを用いた記録物の生産性を特に優れたものとすることができる。
第1のインクがこのような溶剤を含むものである場合、第1のインク中における溶剤の含有率は、5.0質量%以上25.0質量%以下であるのが好ましく、8.0質量%以上15.0質量%以下であるのがより好ましい。これにより、第1のインクの保存安定性、吐出安定性を特に優れたものとしつつ、インクセットを用いた記録物の生産性を特に優れたものとすることができる。
【0028】
<重合性化合物>
本発明のインクセットは、鱗片状の金属粉末を含有する第1のインクに加え、第1のインクよりも高い含有率で重合可能な官能基を有する重合性化合物を含む第2のインクを備えるものである。したがって、第1のインクは、重合性化合物を含有するものでなくてもよいが、重合性化合物を含有するものであってもよい。
【0029】
第1のインクが重合性化合物を含むものである場合、第1のインクは、重合性化合物として、第2のインクを構成する重合性化合物と同一の化合物を含むものであるのが好ましい。これにより、第1のインクを用いて形成されるパターンと、第2のインクを用いて形成されるパターンとの密着性を特に優れたものとすることができ、最終的に得られる記録物の耐久性、信頼性を特に優れたものとすることができる。
【0030】
第1のインクが重合性化合物を含有するものである場合、第1のインク中における重合性化合物の含有率は、50.0質量%以上85.0質量%以下であるのが好ましく、55.0質量%以上80.0質量%以下であるのがより好ましい。これにより、第1のインクの保存安定性、吐出安定性、記録物の生産効率を特に優れたものとしつつ、第1のインクを用いて形成されるパターンと、第2のインクを用いて形成されるパターンとの密着性をさらに優れたものとすることができ、最終的に得られる記録物の耐久性、信頼性をさらに優れたものとすることができる。また、第1のインクの硬化性も特に優れたものとすることができる。
【0031】
第1のインクが重合性化合物を含有するものである場合、当該重合性化合物は、液状をなすものであり、第1のインクにおいて、金属粉末を分散する分散媒として機能するものであるのが好ましい。これにより、別途、記録物の製造過程において除去される(蒸発する)分散媒(溶剤)の含有率を低くすることができるため、分散媒を除去する工程を簡略なものとすることができ、記録物の生産性を特に優れたものとすることができる。
【0032】
重合性化合物としては、例えば、加熱により重合するもの、可視光の照射により重合するもの、紫外線の照射により重合するものを用いることができ、また、各種モノマー、各種オリゴマー(ダイマー、トリマー等を含む)等を用いることができる。
重合性化合物としてのモノマーとしては、例えば、イソボニルアクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、ラウリルアクリレート、2−メトキシエチルアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、イソオクチルアクリレート、ステアリルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、2−エトキシエチルアクリレート、ベンジルアクリレート、1H,1H,5H−オクタフルオロペンチルアクリレート、1H,1H,5H−オクタフルオロペンチルメタアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、イソブチルアクリレート、t−ブチルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、エチルカルビトールアクリレート、2,2,2−トリフルオロエチルアクリレート、2,2,2−トリフルオロエチルメタアクリレート、2,2,3,3−テトラフルオロプロピルアクリレート、メトキシトリエチレングリコールアクリレート、メトキシトリエチレングリコールアクリレート、PO変性ノニルフェノールアクリレート、EO変性ノニルフェノールアクリレート、EO変性2エチルヘキシルアクリレート、EO変性ノニルフェノールアクリレート、フェニルグリシジルエーテルアクリレート、フェノキシジエチレングリコールアクリレート、EO変性フェノールアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、EO変性フェノールアクリレート、EO変性クレゾールアクリレート、メトキシポリエチレングリコールアクリレート、ジプロピレングリコールアクリレート、ジシクロペンテニルアクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチルアクリレート、2−n−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、1.9−ノナンジオールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、ビスフェノールA EO変性ジアクリレート、1.6−ヘキサンジオールジアクリレート、ポリエチレングリコール200ジアクリレート、ポリエチレングリコール300ジアクリレート、ネオペンチルグリコールヒドロキシピパレートジアクリレート、2−エチル−2−ブチル−プロパンジオールジアクリレート、ポリエチレングリコール400ジアクリレート、ポリエチレングリコール600ジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、1.9−ノナンジオールジアクリレート、1.6−ヘキサンジオールジアクリレート、ビスフェノールA EO変性ジアクリレート、ビスフェノールA EO変性ジアクリレート、ビスフェノールA EO変性ジアクリレート、PO変性ビスフェノールAジアクリレート、EO変性水添ビスフェノールAジアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、トリメチロールプロパンEO変性トリアクリレート、グリセリンPO付加トリアクリレート、トリスアクリロイルオキシエチルフォスフェート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、PO変性トリメチロールプロパントリアクリレート、PO変性トリメチロールプロパントリアクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、アクリル酸2−(2−ビニロキシエトキシ)エチル等が挙げられる。中でも、4−ヒドロキシブチルアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、ジシクロペンテニルアクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチルアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパンEO変性トリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、アクリル酸2−(2−ビニロキシエトキシ)エチルが好ましい。
【0033】
第1のインクが重合性化合物を含有するものである場合、第1のインクは、紫外線の照射により重合する重合性化合物として、フェノキシエチルアクリレートを含むものであるのが好ましい。これにより、第1のインクの保存安定性を優れたものとしつつ、インクジェット法による吐出後の第1のインクの反応性を特に優れたものとし、記録物の生産性を特に優れたものとすることができるとともに、形成されるパターンの耐擦性等を特に優れたものとすることができる。
【0034】
また、この場合、第1のインクは、紫外線の照射により重合する重合性化合物として、フェノキシエチルアクリレートに加え、アクリル酸2−(2−ビニロキシエトキシ)エチル、ジプロピレングリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、および、4−ヒドロキシブチルアクリレートよりなる群から選択される少なくとも1種を含むものであるのが好ましい。これにより、第1のインクの保存安定性を優れたものとしつつ、インクジェット法による吐出後の第1のインクの反応性を特に優れたものとし、記録物の生産性を特に優れたものとすることができるとともに、形成されるパターンの耐擦性等を特に優れたものとすることができる。
【0035】
第1のインクが重合性化合物を含有するものである場合、第1のインクは、紫外線の照射により重合する重合性化合物として、ジメチロールトリシクロデカンジアクリレートおよび/またはアミノアクリレートを含むものであるのが好ましい。これにより、第1のインクの保存安定性をより優れたものとしつつ、形成されるパターンの耐擦性等をさらに優れたものとすることができる。
【0036】
<その他の成分>
第1のインクは、上述した以外の成分(その他の成分)を含むものであってもよい。このような成分としては、例えば、光重合開始剤、スリップ剤(レベリング剤)、分散剤、重合促進剤、重合禁止剤、浸透促進剤、湿潤剤(保湿剤)、着色剤、定着剤、防黴剤、防腐剤、酸化防止剤、キレート剤、増粘剤、増感剤(増感色素)等が挙げられる。
【0037】
光重合開始剤は、紫外線照射によってラジカルやカチオン等の活性種を発生し、上記重合性化合物の重合反応を開始させるものであれば特に制限されない。光重合開始剤としては、光ラジカル重合開始剤や光カチオン重合開始剤を使用することができるが、光ラジカル重合開始剤を使用することが好ましい。光重合開始剤を用いる場合、当該光重合開始剤は、紫外線領域に吸収ピークを有していることが好ましい。
【0038】
光ラジカル重合開始剤としては、例えば、芳香族ケトン類、アシルホスフィンオキサイド化合物、芳香族オニウム塩化合物、有機過酸化物、チオ化合物(チオキサントン化合物、チオフェニル基含有化合物等)、ヘキサアリールビイミダゾール化合物、ケトオキシムエステル化合物、ボレート化合物、アジニウム化合物、メタロセン化合物、活性エステル化合物、炭素ハロゲン結合を有する化合物、アルキルアミン化合物等が挙げられる。
これらの中でも、重合性化合物への溶解性および硬化性の観点から、アシルホスフィンオキサイド化合物およびチオキサントン化合物から選択される少なくとも1種が好ましく、アシルホスフィンオキサイド化合物およびチオキサントン化合物を併用することがより好ましい。
【0039】
光ラジカル重合開始剤の具体例としては、アセトフェノン、アセトフェノンベンジルケタール、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、キサントン、フルオレノン、べンズアルデヒド、フルオレン、アントラキノン、トリフェニルアミン、カルバゾール、3−メチルアセトフェノン、4−クロロベンゾフェノン、4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、ミヒラーケトン、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンジルジメチルケタール、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、チオキサントン、ジエチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノ−プロパン−1−オン、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド、2,4−ジエチルチオキサントン、およびビス−(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキシド等が挙げられ、これらのうちから選択される1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0040】
第1のインク中における光重合開始剤の含有量は、0.5質量%以上10質量%以下であるのが好ましい。光重合開始剤の含有量が前記範囲であると、紫外線硬化速度が十分大きく、且つ、光重合開始剤の溶け残りや光重合開始剤に由来する着色がほとんどない。
第1のインクがスリップ剤を含むものであると、レベリング作用により記録物の表面が平滑になり、耐擦性が向上する。
【0041】
スリップ剤としては、特に限定されないが、例えば、ポリエステル変性シリコーンやポリエーテル変性シリコーン等のシリコーン系界面活性剤を用いることができ、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンまたはポリエステル変性ポリジメチルシロキサンを用いることが好ましい。
第1のインクが分散剤を含むものであると、金属粉末の分散性を優れたものとすることができ、第1のインクの保存安定性、吐出安定性を特に優れたものとすることができる。分散剤としては、特に限定されないが、例えば、ポリオキシアルキレンポリアルキレンポリアミン、ビニル系ポリマーおよびコポリマー、アクリル系ポリマーおよびコポリマー、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリウレタン、アミノ系ポリマー、含珪素ポリマー、含硫黄ポリマー、含フッ素ポリマー、エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0042】
第1のインクの室温(20℃)での粘度は、20mPa・s以下であるのが好ましく、3mPa・s以上15mPa・s以下であるのがより好ましい。これにより、インクジェット法による液滴吐出を好適に行うことができる。
なお、本発明のインクセットは、後に詳述する第2のインクとともに、少なくとも1種の第1のインクを備えるものであればよいが、複数種の第1のインクを備えるものであってもよい。
【0043】
《第2のインク》
本発明のインクセットを構成する第2のインクは、インクジェット方式により吐出されるものであり、前述した第1のインクよりも高い含有率で、重合可能な官能基を有する重合性化合物を含み、金属粉末を含まないものである。
このような第2のインクを備えることにより、第1のインク中における重合性化合物の含有率を低いもの(重合性化合物を含有しないものも含む)とすることができ、インクの保存性の低下等の問題の発生を確実に防止することができる。
【0044】
また、第2のインクが重合性化合物を含むことにより、様々な記録媒体(基材)に対する、インクセットを用いて形成される印刷部の密着性を優れたものとすることができる。すなわち、第2のインクが重合性化合物を含むことにより、インクセットは、メディア対応性に優れたものとなる。
第2のインク中の重合性化合物の含有率は、第1のインク中の重合性化合物の含有率よりも高いものであればよいが、第1のインク中における重合性化合物の含有率をX1P[質量%]、第2のインク中における重合性化合物の含有率をX2P[質量%]としたとき、1.2≦X2P−X1P≦95.0の関係を満足するのが好ましく、1.4≦X2P−X1P≦90.0の関係を満足するのがより好ましい。これにより、上述したような効果がより顕著に発揮される。
【0045】
また、第2のインク中における重合性化合物の含有率は、51.2質量%以上90.0質量%以下であるのが好ましく、56.4質量%以上83.3質量%以下であるのがより好ましい。
第2のインクを構成する重合性化合物としては、例えば、加熱により重合するもの、可視光の照射により重合するもの、紫外線の照射により重合するものを用いることができるが、紫外線の照射により重合するものを用いるのが好ましい。これにより、光沢感に優れたパターン(印刷部)を有する記録物の生産性を特に優れたものとすることができる。
【0046】
また、第2のインクを構成する重合性化合物としては、例えば、各種モノマー、各種オリゴマー(ダイマー、トリマー等を含む)等を用いることができるが、第2のインクは、重合性化合物として、少なくともモノマー成分を含むものであるのが好ましい。モノマーは、オリゴマー成分等に比べて、一般に、低粘度の成分であるため、第2のインクの吐出安定性を特に優れたものとする上で有利である。
【0047】
第2のインクを構成する重合性化合物としては、第1のインクの構成成分として用いることのできるものとして例示した重合性化合物等を用いることができる。
第2のインクは、上述した以外の成分(その他の成分)を含むものであってもよい。このような成分としては、例えば、第1のインクの構成材料として説明したもの(その他の成分)を用いることができる。このような成分を用いることにより、上述したの同様の効果が得られる。
【0048】
また、第2のインクは、第1のインクの構成成分として説明したような溶剤を含まないものであるのが好ましい。これにより、製造される記録物中に溶剤が残存することによる不都合の発生を確実に防止することができる。
第2のインクの室温(20℃)での粘度は、20mPa・s以下であるのが好ましく、3mPa・s以上15mPa・s以下であるのがより好ましい。これにより、インクジェット法による液滴吐出を好適に行うことができる。
【0049】
なお、本発明のインクセットは、前述した第1のインクとともに、少なくとも1種の第2のインクを備えるものであればよいが、複数種の第2のインクを備えるものであってもよい。
また、本発明のインクセットは、第1のインク、第2のインクに加え、それ以外の第3のインクを少なくとも1種以上備えるものであってもよい。
【0050】
[記録物の製造方法]
次に、本発明の記録物の製造方法について説明する。
図1は、本発明の記録物の製造方法の一例を模式的に示す断面図、図2は、記録物の製造に用いる液滴吐出装置を示す斜視図である。
本実施形態の記録物の製造方法は、インクジェット方式により、重合可能な官能基を有する重合性化合物を含む第2のインク2Bを記録媒体1に付与する第2のインク付与工程(1a)と、インクジェット方式により、記録媒体1の第2のインク2Bが付与された領域に、金属粉末21および揮発性の溶剤を含む第1のインク2Aを付与する第1のインク付与工程(1b)と、第1のインク2Aを構成する揮発性の溶剤を除去する乾燥工程(1c)と、第2のインク2Bを構成する重合性化合物を硬化させる硬化工程(1d)とを有する。このような本発明の製造方法によれば、光沢感に優れたパターンを有する記録物を効率よく製造することができる製造方法を提供することができる。
特に、本実施形態のように、第1のインク付与工程の後であって硬化工程が完了する前に、第1のインク2Aを構成する溶剤を除去する乾燥工程を有することにより、第1のインク2Aの保存安定性、吐出安定性等を特に優れたものとしつつ、製造される記録物中に溶剤が残存することによる不都合の発生を確実に防止することができる。
【0051】
<第2のインク付与工程>
まず、インクジェット方式により、上述したような第2のインク2Bを記録媒体1に付与する(1a)。
インクジェット法の方式(液滴吐出方式)としては、例えば、ピエゾ方式や、インクを加熱して発生した泡(バブル)によりインクを吐出させる方式等を用いることができるが、第2のインク2Bの変質のし難さ等の観点から、ピエゾ方式が好ましい。
【0052】
以下の説明では、第2のインク2Bの吐出は、図2に示すような液滴吐出装置を用いて行うものとして説明する。
図2に示すように、本工程で用いる液滴吐出装置100は、第2のインク2Bを保持するタンク101と、チューブ110と、チューブ110を介してタンク101から第2のインク2Bが供給される吐出走査部102とを備える。吐出走査部102は、複数の液滴吐出ヘッド(インクジェットヘッド)をキャリッジに搭載してなる液滴吐出手段103と、液滴吐出手段103の位置を制御する第1位置制御装置104(移動手段)と、記録媒体(基材)1を保持するステージ106と、ステージ106の位置を制御する第2位置制御装置108(移動手段)と、制御手段112とを備えている。タンク101と、液滴吐出手段103における複数の液滴吐出ヘッドとは、チューブ110で連結されており、タンク101から複数の液滴吐出ヘッドのそれぞれに第2のインク2Bが圧縮空気によって供給される。
【0053】
第1位置制御装置104は、制御手段112からの信号に応じて、液滴吐出手段103をX軸方向、およびX軸方向に直交するZ軸方向に沿って移動させる。さらに、第1位置制御装置104は、Z軸に平行な軸の回りで液滴吐出手段103を回転させる機能も有する。本実施形態では、Z軸方向は、鉛直方向(つまり重力加速度の方向)に平行な方向である。第2位置制御装置108は、制御手段112からの信号に応じて、X軸方向およびZ軸方向の双方に直交するY軸方向に沿ってステージ106を移動させる。さらに、第2位置制御装置108は、Z軸に平行な軸の回りでステージ106を回転させる機能も有する。
【0054】
ステージ106は、X軸方向とY軸方向との双方に平行な平面を有する。また、ステージ106は、第2のインク2Bを付与すべき記録媒体1をその平面上に固定、または保持できるように構成されている。
上述のように、液滴吐出手段103は、第1位置制御装置104によってX軸方向に移動させられる。一方、ステージ106は、第2位置制御装置108によってY軸方向に移動させられる。つまり、第1位置制御装置104および第2位置制御装置108によって、ステージ106に対する液滴吐出ヘッドの相対位置が変わる(ステージ106に保持された記録媒体1と、液滴吐出手段103とが相対的に移動する)。
【0055】
制御手段112は、第2のインク2Bを吐出すべき相対位置を表す吐出データを外部情報処理装置から受け取るように構成されている。
上記のような液滴吐出装置100を用いて、第2のインク2Bを記録媒体1に付与する。上記のような装置を用いることにより、記録媒体1の所望の部位に、効率よくかつ選択的に第2のインク2Bを付与することができる。なお、図示の構成では、液滴吐出装置100は、タンク101、チューブ110等を、1種の第2のインク2Bに対応する1組分しか有していないが、これらの部材を、複数種の第2のインク2Bの分だけ有するものであってもよい。また、記録物10の製造においては、複数種の第2のインク2Bに対応する複数の液滴吐出装置100を用いてもよい。
なお、本発明では、液滴吐出ヘッドは、駆動素子として、ピエゾ素子を用いるものであっても、静電アクチュエータを用いるものであってもよい。また、液滴吐出ヘッドは、駆動素子として電気熱変換素子を用い、この電気熱変換素子による材料の熱膨張を利用してインクを吐出する構成であってもよい。
【0056】
<第1のインク付与工程>
次に、インクジェット方式により、上述したような第1のインク2Aを、記録媒体1の第2のインク2Bが付与された領域に付与する(1b)。
第1のインク2Aの付与は、上述したような液滴吐出装置を用いることにより、好適に行うことができる。なお、図示する液滴吐出装置100は、タンク101、チューブ110等を、第2のインク2Bに対応する1組分しか有していないが、これらの部材を、第1のインク2Aに対応する分だけさらに有するものであってもよい。また、記録物の製造においては、第2のインクの吐出に用いた液滴吐出装置とは、別個の液滴吐出装置を用いてもよい。
【0057】
<乾燥工程>
次に、記録媒体1に付与された第1のインク2Aから揮発性の溶剤を除去する(1c)。これにより、最終的に得られる記録物10中に溶剤が残存すること、これによる不都合の発生を確実に防止することができる。
本工程は、例えば、第2のインク2B、第1のインク2Aが付与された記録媒体1に対して加熱処理を施す方法、第2のインク2B、第1のインク2Aが付与された記録媒体1を減圧環境下に置く方法、これらを組み合わせた方法、自然乾燥する方法等が挙げられるが、特に、第2のインク2B、第1のインク2Aが付与された記録媒体1に対して加熱処理を施すことにより、本工程において、重合性化合物の重合を一部進行させることができるため、記録物10の生産性を特に優れたものとすることができる。
【0058】
<重合工程>
その後、重合性化合物を硬化させ、記録物10を得る(1d)。
重合性化合物の種類に応じて、本工程で行う処理は異なる。
すなわち、重合性化合物が、加熱により重合するものである場合には加熱を行い、可視光の照射により重合するものである場合には可視光の照射を行い、紫外線の照射により重合するものである場合には紫外線の照射を行う。
【0059】
特に、本工程を紫外線の照射により行う場合には、紫外線源としては、例えば、水銀ランプ、メタルハライドランプ、紫外線発光ダイオード(UV−LED)、紫外線レーザダイオード(UV−LD)等を用いることができる。中でも、小型、高寿命、高効率、低コストの観点から、紫外線発光ダイオード(UV−LED)および紫外線レーザダイオード(UV−LD)が好ましい。
【0060】
[記録物]
次に、本発明の記録物について説明する。
本発明の記録物は、上述したような方法(第2のインク付与工程と、第1のインク付与工程と、硬化工程とを有する方法)を用いて製造されたものである。このような記録物は、光沢感、耐擦性に優れたパターン(印刷部)を有するものである。
【0061】
上述したように、本発明に係るインクセットを構成する第2のインクは、重合性化合物を含むものであり、記録媒体に対する密着性に優れるものである。このため、記録媒体は、いかなるものであってもよく、吸収性または非吸収性のいずれを用いてもよく、例えば、紙(普通紙、インクジェット用専用紙等)、プラスチック材料、金属、セラミックス、木材、貝殻、綿、ポリエステル、ウール等の天然繊維・合成繊維、不織布等を用いることができる。
【0062】
本発明の記録物は、いかなる用途のものであってもよく、例えば、装飾品やそれ以外に適用されるものであってもよい。本発明の記録物の具体例としては、コンソールリッド、スイッチベース、センタークラスタ、インテリアパネル、エンブレム、センターコンソール、メーター銘板等の車両用内装品、各種電子機器の操作部(キースイッチ類)、装飾性を発揮する装飾部、指標、ロゴ等の表示物等が挙げられる。
【0063】
以上、本発明について、好適な実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。
例えば、上記の説明では、記録物の製造方法の一例として、乾燥工程を有する方法について、代表的に説明したが、本発明の記録物は、乾燥工程を有さない方法で製造されたものであってもよい。
【実施例】
【0064】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
[1]インクセットの製造
(実施例1)
<第1のインクの製造>
まず、表面が平滑なポリエチレンテレフタレート製のフィルム(表面粗さRaが0.23μm以下)を用意した。次に、このフィルムの一方の面の全体にセルロースブチレートアセテートを塗布した。次に、シリコーンオイルを塗布した面側に、蒸着法により、Alで構成された膜を順次形成した。次に、Al膜が形成されたポリエチレンテレフタレート製のフィルム(基材)を、トリエチレングリコールジエチルエーテルで構成された液体中に入れ、超音波振動を付与した。これにより、Alで構成された鱗片状の金属粉末(Al粉末)が得られた。金属粉末の平均粒径は0.8μmであった。また、金属粉末の平均厚さは、30nmであった。
次に、得られた金属粉末を、溶剤(分散媒)としてのトリエチレングリコールジエチルエーテルと混合することにより、第1のインクを得た。
【0065】
<第2のインクの製造>
フェノキシエチルアクリレート、アクリル酸2−(2−ヒドロキシエトキシ)エチル、4−ヒドロキシブチルアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、光重合開始剤としてのIrgacure819(チバ・ジャパン社製)、光重合開始剤としてのSpeedcure TPO(ACETO社製)、光重合開始剤としてのSpeedcure DETX(Lambson社製)、レベリング剤としてのUV−3500(ビックケミー社製)、および、重合禁止剤としてのヒドロキノンモノメチルエーテル(関東化学社製)を混合することにより、第2のインクを得た。
以上のようにして、1種の第1のインクと1種の第2のインクとからなるインクセットを得た。
【0066】
(実施例2〜11)
第1のインクの調製に用いる原料の種類・比率、第2のインクの調製に用いる原料の種類・比率を変更することにより、第1のインクの組成、第2のインクの組成が表に示すようなものとなるようにした以外は、前記実施例1と同様にしてインクセットを製造した。
【0067】
(比較例1)
前記実施例1で述べたのと同様にして製造したAl粉末を、フェノキシエチルアクリレート、アクリル酸2−(2−ヒドロキシエトキシ)エチル、4−ヒドロキシブチルアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、光重合開始剤としてのIrgacure819(チバ・ジャパン社製)、光重合開始剤としてのSpeedcure TPO(ACETO社製)、光重合開始剤としてのSpeedcure DETX(Lambson社製)、レベリング剤としてのUV−3500(ビックケミー社製)、および、重合禁止剤としてのヒドロキノンモノメチルエーテルと混合することにより、インクを得た。
【0068】
(比較例2)
本比較例では、前記実施例1と同様にして、第2のインクを製造したが、第1のインクは製造しなかった。
(比較例3)
本比較例では、前記実施例1と同様にして、第1のインクを製造したが、第2のインクは製造しなかった。
【0069】
前記各実施例および比較例について、インクセットを構成する第1のインクの組成、第2のインクの組成等を、表1、表2にまとめて示した。なお、表中、トリエチレングリコールジエチルエーテルを「S1」、ブチルジグリコールを「S2」、ジエチレングリコールジエチルエーテルを「S3」、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートを「S4」、フェノキシエチルアクリレートを「PEA」、アクリル酸2−(2−ヒドロキシエトキシ)エチルを「VEEA」、トリプロピレングリコールジアクリレートを「TPGDA」、ジプロピレングリコールジアクリレートを「DPGDA」、N−ビニルカプロラクタムを「VC」、ベンジルメタクリレートを「BM」、ジメチロールトリシクロデカンジアクリレートを「DMTCDDA」、アミノアクリレートを「AA」、ウレタンアクリレートを「UA」、Irgacure 819(チバ・ジャパン社製)を「ic819」、Speedcure TPO(ACETO社製)を「scTPO」、Speedcure DETX(Lambson社製)を「scDETX」、UV−3500(ビックケミー社製)を「UV3500」、ヒドロキノンモノメチルエーテルを「MEHQ」、4−ヒドロキシブチルアクリレートを「HBA」で示した。なお、比較例については、金属粉末を含むインクの条件を第1のインクの欄に、金属粉末を含まないインクの条件を第2のインクの欄に示した(表3も同様)。また、各第1のインク中に含まれるそれぞれ任意の10個の金属粉末について観察を行い、投影面積が最大となる方向から観察した際(平面視した際)の面積S[μm]と、当該観察方向と直交する方向のうち観察した際の面積が最大となる方向から観察した際の面積S[μm]に対する比率(S/S)を求め、これらの平均値を、表1にあわせて示した。また、振動式粘度計を用いて、JIS Z8809に準拠して測定された前記各実施例のインクセットを構成する各インクの20℃における粘度は、いずれも、3mPa・s以上15mPa・s以下の範囲内の値であった。
【0070】
【表1】

【0071】
【表2】

【0072】
[2]液滴吐出の安定性評価(吐出安定性評価)
前記各実施例および比較例のインクセット(比較例1〜3については、1種のインク。以下同様。)を用いて、下記に示すような試験による評価を行った。
まず、チャンバー(サーマルチャンバー)内に設置した液滴吐出装置および前記各実施例および比較例のインクセットを用意し、ピエゾ素子の駆動波形を最適化した状態で、25℃、55%RHの環境下で、各色のインクについて、液滴吐出ヘッドの各ノズルから、2000000発(2000000滴)の液滴の連続吐出を行った。その後、液滴吐出装置の運転を停止し、液滴吐出装置の流路に各インクが充填された状態で、25℃、55%RHの環境下に、360時間放置した。
【0073】
その後、液滴吐出ヘッドの各ノズルから、25℃、55%RHの環境下で、3000000発(3000000滴)の液滴の連続吐出を行った。上記120時間放置した後の、液滴吐出ヘッドの中央部付近の指定したノズルから吐出された3000000発の液滴について、着弾した各液滴の中心位置の中心狙い位置からのズレ量dの平均値を求め、以下の5段階の基準に従い、評価した。この値が小さいほど飛行曲がりの発生が効果的に防止されていると言える。
【0074】
A:ズレ量dの平均値が0.09μm未満。
B:ズレ量dの平均値が0.09μm以上0.15μm未満。
C:ズレ量dの平均値が0.15μm以上0.18μm未満。
D:ズレ量dの平均値が0.18μm以上0.22μm未満。
E:ズレ量dの平均値が0.22μm以上。
【0075】
[3]保存安定性評価(長期安定性評価)
前記各実施例および比較例のインクセットを構成する各インクについて、40℃の環境下に、10日間放置した後、振動式粘度計を用いて、JIS Z8809に準拠して測定された前記各実施例のインクの20℃における粘度を測定し、製造直後からの粘度の上昇率を求め、以下の基準に従い、評価した。
【0076】
A:粘度の上昇率が3.0%未満。
B:粘度の上昇率が3.0%以上6.0%未満。
C:粘度の上昇率が6.0%以上10.0%未満。
D:粘度の上昇率が10.0%以上15.0%未満。
E:粘度の上昇率が15.0%以上。
【0077】
[4]記録物の製造
各実施例のインクセットを用いて、それぞれ、以下のようにして、記録物としてのインテリアパネルを製造した。
まず、製造直後のインクセットをインクジェット装置に投入した。
次に、ポリカーボネート(旭硝子社製、カーボグラス ポリッシュ 2mm厚)を用いて成形した曲面部を有する基材(記録媒体)上に、所定のパターンで、第2のインクを吐出した(第2のインク付与工程)。
【0078】
次に、記録媒体の第2のインクが付与された部位に選択的に第1のインクを吐出した(第1のインク付与工程)。
次に、第2のインクおよび第1のインクが付与された記録媒体に対して、70℃×30秒の加熱処理を施した(乾燥工程)。
その後、365nm、380nm、395nmの波長に極大値を有するスペクトルの紫外線を照射を、照射強度180mW/cmを20秒間照射し、重合性化合物を硬化させ、記録物としてのインテリアパネルを得た。
【0079】
上記のような方法により、各実施例のインクセットを用いて、それぞれ、10個のインテリアパネル(記録物)を製造した。
また、基材として、ポリエチレンテレフタレート(三菱樹脂社製 ダイヤホイル G440E 38μm厚)を用いて成形したもの、低密度ポリエチレン(三井化学東セロ社製 T.U.X(L−LDPE) HC−E #80)を用いて成形したものを用いた以外は、上記と同様にして、各実施例のインクセットを用いて、それぞれ、10個ずつのインテリアパネル(記録物)を製造した。
また、各比較例については、それぞれ、第1のインクの代わりに表1中に示したインクを用い、第2のインクの代わりに表2に示したインクを用いた以外は、上記と同様にして、5種類の基材(記録媒体)について、10個ずつのインテリアパネル(記録物)を製造した。
【0080】
[5]記録物の評価
上記のようにして得られた各記録物について、以下のような評価を行った。
[5.1]記録物の外観評価
前記各実施例および比較例で製造した各記録物を目視により観察し、以下の7段階の基準に従い、評価した。
【0081】
A:高級感に溢れる光沢感を有し、極めて優れた外観を有している。
B:高級感に溢れる光沢感を有し、非常に優れた外観を有している。
C:高級感のある光沢感を有し、優れた外観を有している。
D:高級感のある光沢感を有し、良好な外観を有している。
E:光沢感に劣り、外観がやや不良。
F:光沢感に劣り、外観が不良。
G:光沢感に劣り、外観が極めて不良。
【0082】
[5.2]光沢度
前記各実施例および比較例で製造した各記録物のパターン形成部について、光沢度計(MINOLTA MULTI GLOSS 268)を用い、煽り角度60°での光沢度を測定し、以下の基準に従い評価した。
A:光沢度が320以上。
B:光沢度が210以上320未満。
C:光沢度が100以上210未満。
D:光沢度が100未満。
【0083】
[5.3]耐擦性
前記各実施例および比較例に係る記録物について、記録物の製造から24時間経過した時点で、サウザーランドラブテスターを用い、JIS K5701に準じて耐擦性試験を行い、上記[5.2]で述べたのと同様の方法により、耐擦性試験後の記録物についても光沢度(煽り角度60°)を測定し、耐擦性試験前後での光沢度の低下率を求め、以下の基準に従い評価した。
【0084】
A:光沢度の低下率が10%未満。
B:光沢度の低下率が10%以上20%未満。
C:光沢度の低下率が20%以上30%未満。
D:光沢度の低下率が30%以上40%以下。
E:光沢度の低下率が40%以上。
【0085】
これらの結果を表3に示す。なお、表3中、第1のインクを「I1」、第2のインクを「I2」で示した。また、表3中、ポリカーボネート製の基材を用いて製造された記録物を「M1」、ポリエチレンテレフタレート製の基材を用いて製造された記録物を「M2」、低密度ポリエチレン製の基材を用いて製造された記録物を「M3」、2軸延伸ポリプロピレン製の記録媒体を用いて製造された記録物を「M4」、硬質塩化ビニル製の記録媒体を用いて製造された記録物を「M5」で示した。
【0086】
【表3】

【0087】
表3から明らかなように、本発明のインクセットでは、インクの液滴の吐出安定性および保存安定性に優れるとともに、光沢感、耐擦性に優れたパターン(印刷部)の形成に好適に用いることができた。また、本発明の記録物は、優れた光沢感、外観を有しており、パターン形成部の耐擦性にも優れていた。これに対して、比較例では、満足な結果が得られなかった。
【符号の説明】
【0088】
1…記録媒体(基材) 2A…第1のインク 2B…第2のインク 21…金属粉末 10…記録物 100…液滴吐出装置 101…タンク 102…吐出走査部 103…液滴吐出手段 104…第1位置制御装置(移動手段) 106…ステージ 108…第2位置制御装置(移動手段) 110…チューブ 112…制御手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェット方式により吐出されるインクを複数種備えるインクセットであって、
鱗片状の金属粉末が分散した第1のインクと、
重合可能な官能基を有する重合性化合物を、前記第1のインクよりも高い含有率で含む第2のインクとを備えることを特徴とするインクセット。
【請求項2】
前記重合性化合物は、紫外線の照射により重合するものである請求項1に記載のインクセット。
【請求項3】
前記第1のインクは、前記金属粉末として、少なくとも表面がAlで構成された粉末を含むものである請求項1または2に記載のインクセット。
【請求項4】
前記第1のインクは、揮発性の溶剤を含むものである請求項1ないし3のいずれか一項に記載のインクセット。
【請求項5】
前記金属粉末の平均粒径は、500nm以上2.0μm以下である請求項1ないし4のいずれか一項に記載のインクセット。
【請求項6】
前記第1のインクは、紫外線の照射により重合する重合性化合物として、フェノキシエチルアクリレートを含むものである請求項1ないし5のいずれか一項に記載のインクセット。
【請求項7】
前記第1のインクは、前記重合性化合物として、前記フェノキシエチルアクリレートに加え、アクリル酸2−(2−ビニロキシエトキシ)エチル、ジプロピレングリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、および、4−ヒドロキシブチルアクリレートよりなる群から選択される少なくとも1種を含むものである請求項6に記載のインクセット。
【請求項8】
前記第1のインクは、紫外線の照射により重合する重合性化合物として、ジメチロールトリシクロデカンジアクリレートおよび/またはアミノアクリレートを含むものである請求項1ないし7のいずれか一項に記載のインクセット。
【請求項9】
インクジェット方式により、重合可能な官能基を有する重合性化合物を含む第2のインクを記録媒体に付与する第2のインク付与工程と、
インクジェット方式により、前記記録媒体の前記第2のインクが付与された領域に、金属粉末が分散した第1のインクを付与する第1のインク付与工程と、
前記第2のインクを構成する前記重合性化合物を硬化させる硬化工程とを有することを特徴とする記録物の製造方法。
【請求項10】
前記第1のインクは、揮発性の溶剤を含むものであり、
前記第1のインク付与工程の後であって前記硬化工程が完了する前に、前記溶剤を除去する乾燥工程を有する請求項9に記載の記録物の製造方法。
【請求項11】
請求項9または10に記載の方法を用いて製造されたこと特徴とする記録物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−193261(P2012−193261A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−57674(P2011−57674)
【出願日】平成23年3月16日(2011.3.16)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】