説明

インクセット及びそれを用いたインクジェット記録方法

【課題】 ビヒクル成分の記録媒体への浸透・拡散を制御し、滲みを抑制することで、高品質の画像を得ることができると共に、ノズル詰まりを防止することの可能なインクセット、及び該インクセットを用いたインクジェット記録方法を提供すること。
【解決手段】 アニオン性色材と低分子有機アニオン性物質とを含むインク、及び、該アニオン性色材と反応する反応剤を含む反応液からなることを特徴とするインクセット、及び該インクセットを用いたインクジェット記録方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録方式に用いるインクセット、及び該インクセットを用いて記録を行うインクジェット記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式の原理は、ノズル、スリット、或いは多孔質フィルム等から液体或いは溶融固体インクを吐出し、紙、布、フィルム等に記録を行うものである。インクを吐出する方法については、静電誘引力を利用してインクを吐出させる、いわゆる電荷制御方式、ピエゾ素子の振動圧力を利用してインクを吐出させる、いわゆるドロップオンデマンド方式(圧力パルス方式)、高熱により気泡を形成、成長させることにより生じる圧力を利用してインクを吐出させる、いわゆる熱インクジェット方式等、各種の方式が提案されており、これらの方式により、極めて高精細の画像を得ることができる。
【0003】
現在、インクジェット記録方式を用いたインクジェットプリンターでは普通紙における高速化及び高画質化が重要な課題の一つとして挙げられている。この目標を達成すべく、インクの噴射に先立って記録媒体上に画像を良好にする液体を付着させる技術が知られている。例えば、カチオン性基を有する化合物を含む液体を記録媒体上に付着させた後、その液体が記録媒体に浸透し、媒体中に存在し、かつ、媒体表面から無くなった直後に、アニオン染料を含むインクを付着させて、カチオン性基とアニオン性基を結合させて画像を形成する技術である(例えば、特許文献1参照)。
また、顔料を凝集させる、又は、顔料を含むインクを増粘させる反応剤を含む反応液を記録媒体上に付与し、その後、顔料を含むインクを付与して画像を形成する技術も知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
しかしながら、これら、記録媒体上に画像を良好にする液体を先に付与し、その後、インクを付与する記録方法では、顔料等の色材が凝集又は増粘させられることで、光学濃度(OD値)は向上するものの、画像の滲みの抑制に関しては不充分であった。この滲みは、インク液中に含まれる顔料や樹脂成分などが反応液と作用するよりも早く、ビヒクル成分が記録媒体表面に浸透・拡散してしまうため発生するものである。
一方、インクに着目すると、インクをノズルから吐出させる際、ノズル先端のメニスカス部分において顔料等の色材の濃度が局所的に上昇して、ノズル詰まりが発生するという問題をも有していた。
【特許文献1】特許2667401号明細書
【特許文献2】特開平11−343435号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明は、前記従来における問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。
すなわち、本発明は、ビヒクル成分の記録媒体への浸透・拡散を制御し、滲みを抑制することで、高品質の画像を得ることができると共に、ノズル詰まりを防止することの可能なインクセット、及び該インクセットを用いたインクジェット記録方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を達成するために、以下の本発明を見出した。
すなわち、本発明は、
<1> アニオン性色材と低分子有機アニオン性物質とを含むインク、及び、該アニオン性色材と反応する反応剤を含む反応液からなることを特徴とするインクセットである。
【0007】
<2> 前記低分子有機アニオン性物質の重量平均分子量が1000以下であることを特徴とする<1>に記載のインクセットである。
【0008】
<3> 前記低分子有機アニオン性物質のHLBが20〜40であることを特徴とする<1>又は<2>に記載のインクセットである。
【0009】
<4> 前記低分子有機アニオン性物質が構造中にカルボキシル基を少なくとも1つ有することを特徴とする<1>〜<3>のいずれか1に記載のインクセットである。
【0010】
<5> 前記低分子有機アニオン性物質が下記一般式(1)で表わされる構造を有することを特徴とする<1>〜<4>のいずれか1に記載のインクセットである。
【0011】
【化1】

【0012】
〔一般式(1)中、R1は水素原子又は炭素数1〜12のアルキル基を表わし、Qは単結合又は2価の連結基を表わし、Ar1は芳香族基を表わす。(X11)及び(X21)はいずれもアニオン性の親水性基を表わし、X1はCO2-を表わし、X2はSO3-、又はPO32-を表わし、M1はH+、Na+、K+、NH4+、又は有機アミン類を表わす。nは1〜3の整数を表わし、mは0〜2の整数を表わす。但し、nが2又は3である場合は、X1の少なくとも1つがCO2-であり、その他がSO3-、又はPO32-であってもよい。〕
【0013】
<6> 前記低分子有機アニオン性物質が下記一般式(2)で表わされる構造を有することを特徴とする<1>〜<5>のいずれか1に記載のインクセットである。
【0014】
【化2】

【0015】
〔一般式(2)中、R1は水素原子又は炭素数1〜12のアルキル基を、Ar1は芳香族基を表わす。また、(X11)はアニオン性の親水性基を表わし、X1はCO2-を表わし、M1はH+、Na+、K+、NH4+、又は有機アミン類を表わす。nは1〜3の整数を表わす。但し、nが2又は3である場合は、X1の少なくとも1つがCO2-であり、その他がSO3-、又はPO32-であってもよい。〕
【0016】
<7> 前記低分子有機アニオン性物質が下記一般式(3)で表わされる構造を有することを特徴とする<1>〜<4>のいずれか1に記載のインクセットである。
【0017】
【化3】

【0018】
〔一般式(3)中、R1は水素原子又は炭素数1〜12のアルキル基を表わす。また、(X11)はアニオン性の親水性基を表わし、X1はCO2-を表わし、M1はH+、Na+、K+、NH4+、又は有機アミン類を表わす。〕
【0019】
<8> 前記アニオン性色材の対イオンと、前記低分子有機アニオン性物質の対イオンと、が同じであることを特徴とする<1>〜<7>のいずれか1の記載のインクセットである。
【0020】
<9> アニオン性色材と低分子有機アニオン性物質とを含むインク、及び、該アニオン性色材と反応する反応剤を含む反応液からなるインクセットを用い、前記インクと前記反応液とが互いに接触するように記録媒体上に付与して、画像を形成することを特徴とするインクジェット記録方法である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、ビヒクル成分の記録媒体への浸透・拡散を制御し、滲みを抑制することで、高品質の画像を得ることができると共に、ノズル詰まりを防止することの可能なインクセット、及び該インクセットを用いたインクジェット記録方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明を詳細に説明する。
<インクセット>
本発明のインクセットは、アニオン性色材と低分子有機アニオン性物質とを含むインク、及び、該アニオン性色材と反応する反応剤を含む反応液からなることを特徴とする。
以下、本発明のインクセットを構成するインク及び反応液について説明する。
【0023】
〔インク〕
本発明に係るインクは、アニオン性色材と低分子有機アニオン性物質とを含んでいればよく、その他、水及び水溶性有機溶媒を基本成分として含有する。また、必要に応じて、種々の添加剤を含んでいてもよい。以下、本発明に係るインクを構成する各成分について説明する。
【0024】
[アニオン性色材]
本発明において、「アニオン性色材」とは、少なくとも表面がアニオン性を示す色材、アニオン性の樹脂により分散されている色材、又は、表面にアニオン性の樹脂が結合している色材を指す。
【0025】
(自己分散型顔料)
本発明におけるアニオン性色材の1つである、少なくとも表面がアニオン性を示す色材としては、表面にアニオン性の親水性官能基を有する自己分散型顔料が挙げられる。
ここで、自己分散型顔料とは、表面に親水性官能基を有し、所謂高分子分散剤を用いることなく、自身で溶媒中に分散可能な顔料である。本発明において、顔料が「自己分散性」を有するか否かは、以下の試験により確認することができる。
【0026】
まず、水中に測定対象となる顔料を添加し、超音波ホモジナイザー、ナノマイザー、マイクロフルイダイザー、ボールミル等を用いて分散剤無しで分散させ、初期の顔料濃度が約5%になるように水で希釈して分散体を調製する。初期の顔料濃度と、前記分散体100gを径40mmのガラスビンに入れて1日静置後、その上層部(液の深さ方向に、液面から10%の分散液)の顔料濃度を測定する。そして、初期の顔料濃度に対する1日静置後の顔料濃度の割合(以下、「自己分散性指標」と称する。)が98%以上である場合、「自己分散性」を有すると評価した。
この時、顔料濃度の測定方法は、特に限定されず、サンプルを乾燥させて固形分を測定する方法や、適当な濃度に希釈して透過率から求める方法等いずれでもよく、他に顔料濃度を正確に求める方法があれば、もちろんその方法によってもよい。
【0027】
自己分散型顔料の表面に存在するアニオン性の親水性官能基としては、カルボキシル基、水酸基、スルホン酸基、リン酸基等が挙げられ、これらを単独若しくは2種以上組み合わせてもよい。これらの中でも、カルボキシル基を単独で有する、又は、カルボキシル基と他の基との2種以上を組み合わせて有する態様の顔料が好ましい。
【0028】
表面にカルボキシル基、スルホン酸基、或いはリン酸基を有する場合、そのまま遊離酸の状態でも使用できるが、一部又は全てが塩を形成している場合が分散性の点で有利であり、好ましい。このとき、塩を形成する物質としては、各種の塩基性物質が挙げられるが、アルカリ金属、アンモニア、有機アミン、或いは有機オニウム化合物の単独又は2種以上の組み合わせが好ましい。顔料表面のアニオン性の親水性官能基の数は、その官能基の種類や、塩を形成している場合はその塩を形成する物質の種類によって異なり一概には言えないが、例えば、−COONaの場合は0.8〜4mmol/gが好ましい。
【0029】
アニオン性の親水性官能基が導入される顔料としては、無機及び有機顔料のいずれも使用できる。黒色顔料としては、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等のカーボンブラック顔料が好ましく、例えば、Raven7000、Raven5750、Raven5250、Raven5000ULTRAII、Raven3500、Raven2500ULTRA、Raven2000、Raven1500、Raven1250、Raven1200、Raven1190ULTRAII、Raven1170、Raven1255、Raven1080ULTRA、Raven1060ULTRA、Raven790ULTRA、Raven780ULTRA、Raven760ULTRA(以上コロンビア社製)、Regal 400R、Regal 330R、Regal 660R、Mogul L、Black Pearls L、Black Pearls 1300、Monarch 700、Monarch 800、Monarch 880、Monarch 900、Monarch 1000、Monarch 1100、Monarch 1300、Monarch 1400(以上キャボット社製)、Color Black FW1、Color Black FW2、Color Black FW2V、Color Black 18、Color Black FW200、Color Black S150、Color Black S160、Color Black S170、Printex35、PrintexU、PrintexV、Printex140U、Printex140V、Special Black 6、Special Black 5、Special Black 4A、Special Black 4(以上デグッサ社製)、No.25、No.33、No.40、No.47、No.52、No.900、No.2300、MCF−88、MA600、MA7、MA8、MA100(以上三菱化学社製)等を使用することができるが、これらに限定されるものではない。また、マグネタイト、フェライト等の磁性体微粒子やチタンブラック等を黒色顔料として用いてもよい。
【0030】
シアン顔料としては、C.I.Pigment Blue−1、C.I.Pigment Blue−2、C.I.Pigmet Blue−3、C.I.Pigmet Blue−15、C.I.Pigment Blue−15:1、C.I.Pigment Blue−15:3、C.I.Pigment Blue−15:34、C.I.Pigment Blue−16、C.I.Pigment Blue−22、C.I.Pigment Blue−60等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0031】
マゼンタ顔料としては、C.I.Pigment Red−5、C.I.Pigment Red−7、C.I.Pigment Red−12、C.I.Pigment Red−48、C.I.Pigment Red−48:1、C.I.Pigment Red−57、C.I.Pigment Red−112、C.I.Pigment Red−122、C.I.Pigment Red−123、C.I.Pigment Red−146、C.I.Pigment Red−168、C.I.Pigment Red−184、C.I.Pigment Red−202等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0032】
イエロー顔料としては、C.I.Pigment Yellow−1、C.I.Pigment Yellow−2、C.I.Pigment Yellow−3、C.I.Pigment Yellow−12、C.I.Pigment Yellow−13、C.I.Pigment Yellow−14、C.I.Pigment Yellow−16、C.I.Pigment Yellow−17、C.I.Pigment Yellow−73、C.I.Pigment Yellow−74、C.I.Pigment Yellow−75、C.I.Pigment Yellow−83、C.I.Pigment Yellow−93、C.I.Pigment Yellow−95、C.I.Pigment Yellow−97、C.I.Pigment Yellow−98、C.I.Pigment Yellow−114、C.I.Pigment Yellow−128、C.I.Pigment Yellow−129、C.I.Pigment Yellow−151、C.I.Pigment Yellow−154等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0033】
また、アニオン性の親水性官能基が導入される顔料としては、本発明のために、新たに合成した顔料でもよいし、2種類以上の顔料を混合して使用してもよい。
黒色と、シアン、マゼンタ、イエローの3原色顔料のほか、赤、緑、青、茶、白等の特定色顔料や、金、銀色等の金属光沢顔料、無色の体質顔料、プラスチックピグメント等を使用してもよい。顔料として特に好ましいものはカーボンブラックである。
【0034】
これらの顔料に対し、顔料の表面にアニオン性の親水性官能基を導入する方法(表面改質処理)は公知の方法や新たに発明されたいずれの方法も使用できる。例えば、酸化剤(例えば、硝酸、過マンガン酸塩、重クロム酸塩、次亜塩素酸塩、過硫酸アンモニウム、過酸化水素、オゾン等)による酸化処理、シラン化合物等のカップリング剤による処理、ポリマーグラフト化処理、プラズマ処理等公知の方法の他、新たに開発した方法も使用でき、またこれらの方法を組み合わせてもよい。
【0035】
得られたアニオン性の親水性官能基が導入された顔料は、残余の酸化剤等の不純物、その他の無機不純物や有機不純物を除去し、精製することが望ましい。特に、インク中のカルシウム、鉄、珪素をそれぞれ10ppm以下、好ましくは5ppm以下にすることが望ましい。なお、本発明において、これらの無機不純物含有量は高周波誘導結合プラズマ発光分析法により測定した。これら不純物の除去は、例えば、水洗浄や、逆浸透膜、限外ろ過膜、イオン交換法等の方法、活性炭、ゼオライト等による吸着の方法を、単独又は組み合わせて行うことができる。
【0036】
これらアニオン性の親水性官能基が導入された自己分散型顔料は、本発明のために新たに作製されたものの他、市販の自己分散可能な親水処理顔料も使用することができる。市販の自己分散可能な親水処理顔料としては、例えば、MICROJET BLACK CW−1(オリエント化学工業(株)製)、MICROJET BLACK CW−2(オリエント化学工業(株)製)、CAB−O−JET200(キャボット社製)、CAB−O−JET300(キャボット社製)等が挙げられる。これら市販の自己分散可能な親水処理顔料は、いずれも自己分散性指標が100%である。
【0037】
上記アニオン性を示す自己分散型顔料は、インク全質量に対し2〜15質量%の範囲で含まれることが好ましく、3〜10質量%が更に好ましく、4〜8質量%が特に好ましい。この顔料の含有量が15質量%より多くなると、ノズル詰まりを発生する可能性が高くなる。一方、2質量%未満では、印字濃度が低くなってしまう場合がある。
【0038】
(アニオン性の樹脂によって分散された顔料)
また、本発明におけるアニオン性色材の1つである、アニオン性の樹脂により分散されている色材としては、アニオン性の樹脂により分散された顔料が挙げられる。
これに用いられる顔料は、前記「自己分散型顔料」の記載中に列挙した、親水性官能基を導入する以前の顔料と同一である。
【0039】
本発明において、上記顔料を分散するための分散剤として機能する樹脂としては、アニオン性の水溶性樹脂を用いることができる。このアニオン性の水溶性樹脂としては、重合反応により得られる重合体や天然由来の樹脂等公知の水溶性樹脂が使用でき、(共)重合体が好ましく使用される。共重合体としては、アニオン性の親水性部を構成する少なくとも1種のα,β−エチレン性不飽和基を有する単量体と疎水性部を構成する少なくとも1種のα,β−エチレン性不飽和基を有する単量体とを共重合したものが好ましく使用される。また、親水性部を有するα,β−エチレン性不飽和基を有するモノマーの単独重合体も用いることができる。
【0040】
アニオン性の親水性部を構成するα,β−エチレン性不飽和基を有する単量体としては、カルボキシル基、スルホン酸基、水酸基、ポリオキシエチレン等を有するモノマー等が使用でき、好ましくは、カルボキシル基含有モノマー、スルホン酸基含有モノマー(例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、イタコン酸モノエステル、マレイン酸、マレイン酸モノエステル、フマル酸、フマル酸モノエステル、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、スルホン化ビニルナフタレン等)が使用される。この中でも、カルボキシル基含有モノマーが特に好ましく、具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、クロトン酸、イタコン酸、イタコン酸モノエステル、マレイン酸、マレイン酸モノエステル、フマル酸、フマル酸モノエステル等が好ましいものとして挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0041】
疎水性部を構成するα,β−エチレン性不飽和基を有する単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等のスチレン誘導体、ビニルナフタレン、ビニルナフタレン誘導体、アクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸アルキルエステル、クロトン酸アルキルエステル、イタコン酸ジアルキルエステル、マレイン酸ジアルキルエステル等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0042】
これらのアニオン性の水溶性樹脂として使用される上記(共)重合体の重量平均分子量は、制限はないが、好ましくは3000〜15000、より好ましくは4000〜7000の範囲である。この範囲より分子量が低いと、分散安定に劣り、15000を超えるとインクの粘度が高くなり、インクの吐出性が悪化する問題が生じやすい。(共)重合体の重量平均分子量の測定方法は各種の方法が知られているが、本発明においてはGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィ)法で測定される値として定義する。
【0043】
本発明において、アニオン性の水溶性樹脂からなる分散剤は、(共)重合体又はその中和塩として使用されることが好ましい。中和は各種の塩基性物質により中和されるが、好ましくは、少なくとも1種のアルカリ金属の水酸化物を含む塩基性物質により中和される。アルカリ金属の水酸化物としては、NaOH、KOH、LiOHが使用できるが、NaOHが好ましい。その他、アンモニア、有機アミン、或いは有機オニウム化合物により中和されてもよい。
【0044】
アニオン性の水溶性樹脂の酸価は100〜300であることが好ましく、130〜200が更に好ましい。この範囲より酸価が低いと、インクの安定性が劣化しやすく、一方、高すぎると、画像濃度が低くなりやすい。
【0045】
このように、アニオン性の樹脂によって分散された顔料を用いる場合、インク中における顔料の含有量は、前記「自己分散型顔料」の場合と同様の理由から、2〜15質量%の範囲が好ましく、3〜10質量%が更に好ましく、4〜8質量%が特に好ましい。
また、インク中における樹脂(分散剤)の含有量は、0.1〜3質量%の範囲内であることが好ましい。添加量が3質量%を超える場合には、インク粘度が高くなり、インクの噴射特性が不安定となる場合がある。一方、添加量が0.1質量%未満の場合には、顔料の分散安定性が低下する場合がある。更に、0.15〜2.5質量%の範囲がより好ましく、0.2〜2質量%の範囲が特に好ましい。
【0046】
本発明において、ブラックインクとカラーインクとを用いたインクジェット記録装置に本発明のインクセットを用いる場合、自己分散型顔料を含んだブラックインクと、アニオン性の樹脂によって分散された顔料を含んだカラーインクと、組み合せて用いることが特に好ましい。なお、上記カラーインクは、シアン、マゼンタ、イエローインク等から1色を用いたものであっても、複数色用いたものであっても構わない。
【0047】
(表面にアニオン性の樹脂が結合している顔料)
本発明におけるアニオン性色材の1つである、表面にアニオン性の樹脂が結合している色材としては、表面にアニオン性の樹脂が結合している顔料が挙げられる。かかる顔料は、顔料表面と、アニオン性の樹脂と、が化学結合しているもので、主として、化学結合しているものが挙げられる。
なお、ここで、用いられる顔料は、前記「自己分散型顔料」の記載中に列挙した、親水性官能基を導入する以前の顔料と同一である。
また、この顔料の表面に結合する顔料は、前記「アニオン性の樹脂により分散された顔料」にて分散剤として記載したアニオン性の水溶性樹脂を用いることができる。
【0048】
(染料)
本発明におけるアニオン性色材の1つである、少なくとも表面がアニオン性を示す色材として染料を用いる場合は、公知のもの、或いは新規に合成したものを用いることができ、又前記顔料と併用することもできる。中でも、鮮やかな色彩の得られる、直接染料或いは酸性染料が好ましい。具体的には次のようなものが挙げられる
【0049】
染料としては、特に限定されないが、好ましくは水溶性染料である。水溶性染料としては、酸性染料、直接染料として、例えば、C.I.ダイレクトブラック−2、−4、−9、−11、−17、−19、−22、−32、−80、−151、−154、−168、−171、−194、−195、C.I.フードブラック−1、−2、C.I.アシッドブラック−1、−2、−7、−16、−24、−26、−28、−31、−48、−52、−63、−107、−112、−118、−119、−121、−156、−172、−194、−208、C.I.ダイレクトブルー−1、−2、−6、−8、−22、−34、−70、−71、−76、−78、−86、−112、−142、−165、−199、−200、−201、−202、−203、−207、−218、−236、−287、−307、C.I.ダイレクトレッド−1、−2、−4、−8、−9、−11、−13、−15、−20、−28、−31、−33、−37、−39、−51、−59、−62、−63、−73、−75、−80、−81、−83、−87、−90、−94、−95、−99、−101、−110、−189、−227、C.I.ダイレクトバイオレット−2、−5、−9、−12、−18、−25、−37、−43、−66、−72、−76、−84、−92、−107、C.I.ダイレクトイエロー−1、−2、−4、−8、−11、−12、−26、−27、−28、−33、−34、−41、−44、−48、−58、−86、−87、−88、−132、−135、−142、−144、−173、C.I.アシッドレッド−1、−4、−8、−13、−14、−15、−18、−21、−26、−35、−37、−52、−110、−144.−180、−249、−257、C.I.アシッドイエロー−1、−3、−4、−7、−11、−12、−13、−14、−18、−19、−23、−25、−34、−38、−41、−42、−44、−53、−55、−61、−71、−76、−78、−79、−122等を挙げることができる。
特に好ましい染料は、C.I.フードブラック−2、C.I.ダイレクトブラック−154、−168、−195である。
【0050】
染料を用いる場合、インク中における含有量は、0.1〜10質量%が好ましく、0.5〜8質量%がより好ましく、0.8〜6質量%が特に好ましい。10質量%より多く含有させると記録ヘッド先端での目詰まりが発生しやすく、また0.1質量%より少ないと十分な画像濃度を得ることができない。
【0051】
[低分子有機アニオン性物質]
本発明における低分子有機アニオン性物質は、有機物質であることに起因する疎水性と、アニオン性を示す構造に起因する親水性と、を有する低分子化合物である。つまり、低分子有機アニオン性物質は、界面活性能を有する。このため、低分子有機アニオン性物質を含むインクを吐出すると、低分子有機アニオン性物質がインク液滴の最表面に配向することになる。その結果、このインク液滴の最表面に存在する低分子有機アニオン性物質と反応液とが優位に反応することになるため、ビヒクル成分の記録媒体への浸透・拡散の速度が低下し、滲みの発生が抑制されることになり、高品質の画像を得ることができる。また、同時に、インク中のアニオン性色材が反応液と反応するため、色材を記録媒体上に留める作用と固着させる作用とが発現し、画像の高濃度化及び高定着性が得られる。
更に、低分子有機アニオン性物質を含むインクを用いて画像形成する際、ノズル先端のメニスカス部分では、低分子有機アニオン性物質成分の濃度が上昇する。これにより、低分子有機アニオン性物質と、色材や樹脂のアニオン性基と、反発が発生し、メニスカス部分での色材や樹脂の濃度が低減されることから、ノズル詰まりを防止することができる。
【0052】
本発明における低分子有機アニオン性物質において、低分子とは、モビリティの観点から、重量平均分子量が1000以下であることを示す。好ましくは、低分子有機アニオン性物質の重量平均分子量が150〜800の範囲である。さらに好ましくは重量平均分子量が200〜600の範囲である。
また、低分子有機アニオン性物質のHLBは、インク中の安定性の観点から、20〜40であることが好ましく、20〜30であることがより好ましい。
【0053】
以下、低分子有機アニオン性物質の具体的な構造について説明する。
本発明における低分子有機アニオン性物質は、構造中にカルボキシル基を少なくとも1つ有することが好ましい。
より具体的には、低分子有機アニオン性物質は、下記一般式(1)で表わされる構造を有することが好ましい。
【0054】
【化4】

【0055】
〔一般式(1)中、R1は水素原子又は炭素数1〜12のアルキル基を表わし、Qは単結合又は2価の連結基を表わし、Ar1は芳香族基を表わす。(X11)及び(X21)はいずれもアニオン性の親水性基を表わし、X1はCO2-を表わし、X2はSO3-、又はPO32-を表わし、M1はH+、Na+、K+、NH4+、又は有機アミン類を表わす。nは1〜3の整数を表わし、mは0〜2の整数を表わす。但し、nが2又は3である場合は、X1の少なくとも1つがCO2-であり、その他がSO3-、又はPO32-であってもよい。〕
【0056】
一般式(1)において、R1は水素原子又は炭素数1〜12のアルキル基を表わし、アルキル基としては、炭素数2〜10のものが好ましい。具体的には、n−ブチル基、n−ヘキシル基、2−メチルヘキシル基、ドデシル基等が挙げられる。その中でも、n−ブチル基、2−メチルヘキシル基が好ましい。
また、このアルキル基は更に置換基を有していてもよく、導入可能な置換基としては、メチル基やエチル基等のアルキル基が挙げられる。
【0057】
一般式(1)において、Qは単結合又は2価の連結基を表わす。Qが2価の連結基である場合、その連結基として、具体的には、−OCO−、−CH2−、−O−、−OSO−、−S−等が挙げられる。その中でも、−OCO−、−CH2−、−O−が好ましい。
【0058】
一般式(1)において、Ar1は芳香族基を表わす。この芳香族基は、一般式(1)におけるR1又はQと、(X11)や(X21)の親水性基と、の間を連結する。そのため、一般式(1)におけるnやmの値によって、連結するための価数が変化する。
Ar1で表わされる芳香族基としては、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン等が挙げられる。その中でも、ベンゼン、ナフタレンが好ましい。
なお、この芳香族基は更に置換基を有していてもよく、導入可能な置換基としては、−OH(水酸基)等が挙げられる。
【0059】
一般式(1)において、(X11)及び(X21)はいずれもアニオン性の親水性基を表わす。この親水性基中、X1はCO2-を表わし、X2はSO3-、PO32-を表わし、M1はH+、Na+、K+、NH4+、又は有機アミン類を表わす。ここで、M1で表わされる有機アミン類としては、モノメチルアンモニウム、ジメチルアンモニウム、トリメチルアンモニウム、モノエチルアンモニウム、ジエチルアンモニウム、トリエチルアンモニウム、モノメタノールアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等が挙げらる。
また、nは1〜3の整数を表わし、mは0〜2の整数を表わす。但し、nが2又は3である場合は、X1の少なくとも1つがCO2-であり、その他がSO3-、又はPO32-であってもよい。
つまり、一般式(1)で表わされる低分子有機アニオン性物質は、その構造内に、少なくとも1つのカルボキシル基又はその塩を有する。
【0060】
一般式(1)で表わされる低分子有機アニオン性物質は、下記一般式(2)で表わされる構造であることがより好ましい。
【0061】
【化5】

【0062】
〔一般式(2)中、R1は水素原子又は炭素数1〜12のアルキル基を、Ar1は芳香族基を表わす。また、(X11)はアニオン性の親水性基を表わし、X1はCO2-を表わし、M1はH+、Na+、K+、NH4+、又は有機アミン類を表わす。nは1〜3の整数を表わす。但し、rが2又は3である場合は、X1の少なくとも1つがCO2-であり、その他がSO3-、又はPO32-であってもよい。〕
【0063】
なお、一般式(2)における、R1、Ar1、X1、M1、及びnは、いずれも、一般式(1)におけるR1、Ar1、X1、M1、及びnと同義であり、好ましい例も同様である。
【0064】
以下、一般式(1)及び一般式(2)で表わされる低分子有機アニオン性物質の具体例を示すが、これに限定されるものではない。
即ち、安息香酸、テレフタル酸、トリメリット酸、及びこれらのナトリウム塩、2−ブチルナフタレンカルボン酸ナトリウム、2−エチルナフタレンカルボン酸ナトリウム、2−ヘキシルナフタレンカルボン酸ナトリウム等が挙げられる。
【0065】
また、本発明における低分子有機アニオン性物質は、下記一般式(3)で表わされる構造を有することが好ましい。
【0066】
【化6】

【0067】
〔一般式(3)中、R1は水素原子又は炭素数1〜12のアルキル基を表わす。また、(X11)はアニオン性の親水性基を表わし、X1はCO2-を表わし、M1はH+、Na+、K+、NH4+、又は有機アミン類を表わす。〕
【0068】
なお、一般式(3)における、R1、X1、及びM1は、いずれも、一般式(1)におけるR1、1、及びM1と同義であり、好ましい例も同様である。
【0069】
以下、一般式(3)で表わされる低分子有機アニオン性物質の具体例を示すが、これに限定されるものではない。
即ち、コハク酸、コハク酸ナトリウム、デセニルコハク酸、デセニルコハク酸ナトリウム、デセニルコハク酸カリウム、ドデセニルコハク酸、ドデセニルコハク酸ナトリウム、ドデセニルコハク酸カリウム、オクテニルコハク酸、オクテニルコハク酸ナトリウム、オクテニルコハク酸カリウム、ドデシルコハク酸、ドデシルコハク酸ナトリウム、ドデシルコハク酸カリウム等のアルケニルコハク酸、及びこれらの誘導体等が挙げられる。
【0070】
なお、本発明におけるインクで用いられるアニオン性色材の対イオンと、低分子有機アニオン性物質の対イオンと、は異なっていてもよいし、同じであってもよいが、インク中の安定性の観点から、同じであることが好ましい。
【0071】
このような低分子有機アニオン性物質は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上の併用してもよい。
また、低分子有機アニオン性物質は、インク全質量に対して、0.5〜3質量%の範囲で添加されることが好ましく、より好ましくは、0.6〜2質量%の範囲であり、更に好ましくは、0.7〜1.5質量%の範囲である。低分子有機アニオン性物質の添加量が0.5質量%未満では、反応性が十分ではなく滲みの抑制が不十分となり、3質量%を超えると、浸透作用が強く媒体上での光学濃度が低くなる。
【0072】
なお、電解質効果による色材の目詰まり抑制の観点から、低分子有機アニオン性物質と従来公知のノニオン界面活性剤とを組み合せて用いてもよい。このように、低分子有機アニオン性物質とノニオン界面活性剤とを組み合せて用いる場合、ノニオン界面活性剤の添加量は、低分子有機アニオン性物質に対して、100質量%以下であることが好ましく、70質量%以下であることがより好ましい。
【0073】
[水溶性有機溶媒]
本発明におけるインクを構成する水溶性有機溶媒としては、一般的にインクジェット記録用インクに使用されているものはいずれも使用でき、特に、多価アルコール、グリコールエーテルから選ばれる少なくとも1つを含有することが好ましい。これら水溶性有機溶媒をインクに含有すると、インクの保湿性及び色材の溶解性が更に良好になり、目詰まりや、インクの吐出安定性を維持し、更に長期の保存に対しても色材の凝集・析出を防ぐことができる。特に、記録媒体(紙)への浸透性の観点からは、水溶性有機溶媒としてグリコールエーテルを含むことが好ましい。
【0074】
多価アルコールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ブチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、1,2,6−ヘキサントリオール、トリメチロールプロパン、グリセリン、ポリエチレングリコールなどが挙げられ、更にその中でも、色材の溶解安定性の点から、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、2.2’−チオジエタノールが特に好ましい。
【0075】
グリコールエーテルとしては、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテルなどから適宜選択することができ、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテルが特に好ましい。
【0076】
これらの水溶性有機溶媒は単独で用いても、2種以上混合してもよい。水溶性有機溶媒の含有量は、インクの1〜60質量%、好ましくは、5〜40質量%の範囲である。
【0077】
また、上記の水溶性有機溶媒の他に、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、ベンジルアルコール等のアルコール類、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドンなどを添加することもできる。その場合、これらの溶媒の使用量はインク全質量に対して1〜40質量%が好ましい。
【0078】
[水]
本発明におけるインクを構成する水は、特に、不純物が混入することを防止するため、イオン交換水、超純水、蒸留水、限外濾過水を使用することが好ましい。
【0079】
[インクの好ましい物性]
本発明におけるインクの表面張力は、20〜60mN/mの範囲内に調整することが好ましく、より好ましくは20〜45mN/mの範囲内であり、更に好ましくは、25〜35mN/mの範囲内である。インクの表面張力が20mN/m未満では、ノズル面にインクが溢れ出し、正常に印字できない場合がある。また、60mN/mを超えると、記録媒体へのインク浸透性が遅くなるため、乾燥性が悪化し、高速印字に対応できなくなり生産性が低下することがある。
なお、上記表面張力(後述するものを含む)は、ウイルヘルミー型表面張力計を用いて、23℃、55%RHの環境下で測定した。
【0080】
また、インクの粘度としては、20℃で1〜10mPa・s(cP)の範囲が好ましく、より好ましくは2〜5mPa・s(cP)の範囲である。10mPa・s(cP)より大きいと、吐出が不安定になり望ましくない。一方、1mPa・s(cP)未満である場合も、吐出の安定性が得られないため望ましくない。
なお、上記粘度(後述するものを含む)の測定は、回転粘度計レオマット115(Contraves社製)を用い、23℃でせん断速度を1400s-1として行った。
【0081】
更に、インクのpHの範囲としては、特に限定するものではないが、3〜11程度が好ましく、4.5〜9.5程度がより好ましい。特に、インク中のアニオン性色材が、顔料表面にアニオン性遊離基を持つ自己分散型顔料である場合は、pHは6〜11程度が好ましく、6〜9.5程度がより好ましく、7.5〜9.0程度が更に好ましい。
【0082】
−インクの調製方法−
以下にインクの調製方法の一例を示す。
本発明におけるインクが、アニオン性色材として、アニオン性の樹脂によって分散された顔料を用いた場合は、例えば、アニオン性の樹脂(分散剤)を所定量含む水溶液に所定量の顔料を添加し、十分に撹拌した後、分散機を用いて分散を行い、遠心分離等で粗大粒子を除いた後、所定の水溶性有機溶媒、その他の成分等を加えて撹拌混合し、次いで、濾過を行って得ることができる。この際、予め顔料の濃厚分散体を作製し、インク調製時に希釈する方法も使用できる。また、分散工程の前に顔料の粉砕工程を設けてもよい。或いは、所定の水溶性有機溶媒、水、分散剤を混合後、顔料を添加して、分散機を用いて分散させてもよい。
【0083】
前記分散機は、市販のものを用いることができる。例えば、コロイドミル、フロージェットミル、スラッシャーミル、ハイスピードディスパーザー、ボールミル、アトライター、サンドミル、サンドグラインダー、ウルトラファインミル、アイガーモーターミル、ダイノーミル、パールミル、アジテータミル、コボルミル、3本ロール、2本ロール、エクストリューダー、ニーダー、マイクロフルイダイザー、ラボラトリーホモジナイザー、超音波ホモジナイザー等が挙げられ、これらを単独で用いても、2種以上を組み合せて用いてもよい。なお、無機不純物の混入を防ぐためには、分散媒体を使用しない分散方法を用いることが好ましく、その場合には、マイクロフルイダイザーや超音波ホモジナイザー等を使用することが好ましい。
【0084】
一方、アニオン性色材として自己分散型顔料を用いたインクである場合、例えば、顔料に対して表面改質処理を行ない、得られた顔料を水に添加し、十分攪拌した後、必要に応じて前記と同様の分散機による分散を行ない、遠心分離等で粗大粒子を除いた後、所定の溶媒、添加剤等を加えて攪拌、混合、濾過を行なうことにより得ることができる。
【0085】
〔反応液〕
本発明に係る反応液は、アニオン性色材と反応する反応剤を含有していればよく、その他、水及び水溶性有機溶媒を基本成分として含有する。また、必要に応じて、種々の添加剤を含んでいてもよい。以下、本発明に係る反応液を構成する各成分について説明する。
【0086】
(アニオン性色材と反応する反応剤)
本発明におけるアニオン性色材と反応する反応剤としては、多価金属塩、PCA(ピロリドンカルボン酸)等の酸、カチオン性界面活性剤、カチオン性高分子、が挙げられる。
反応剤の1つである多価金属塩とは、水に溶解した際に金属元素由来の2価以上の陽イオン(多価金属イオン)を生じる塩である。この多価金属イオンとしては、アルミニウムイオン、バリウムイオン、カルシウムイオン、銅イオン、鉄イオン、マグネシウムイオン、マンガンイオン、ニッケルイオン、スズイオン、チタンイオン、亜鉛イオン等が挙げられる。
【0087】
多価金属塩の具体例としては、上記多価金属イオンと、塩酸、臭酸、ヨウ化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸、チオシアン酸、及び、酢酸、蓚酸、乳酸、フマル酸、フタル酸、クエン酸、サリチル酸、安息香酸等の有機カルボン酸、及び、有機スルホン酸等との塩の形で使用される。
【0088】
より具体的には、例えば、塩化アルミニウム、臭化アルミニウム、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、硫酸ナトリウムアルミニウム、硫酸カリウムアルミニウム、酢酸アルミニウム、塩化バリウム、臭化バリウム、ヨウ化バリウム、酸化バリウム、硝酸バリウム、チオアン酸バリウム、塩化カルシウム、臭化カルシウム、ヨウ化カルシウム、亜硝酸カルシウム、硝酸カルシウム、リン酸二水素カルシウム、チオシアン酸カルシウム、安息香酸カルシウム、酢酸カルシウム、サリチル酸カルシウム、酒石酸カルシウム、乳酸カルシウム、フマル酸カルシウム、クエン酸カルシウム、塩化銅、臭化銅、硫酸銅、硝酸銅、酢酸銅、塩化鉄、臭化鉄、ヨウ化鉄、硫酸鉄、硝酸鉄、蓚酸鉄、乳酸鉄、フマル酸鉄、クエン酸鉄、塩化マグネシウム、臭化マグネシウム、ヨウ化マグネシウム、硫酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、乳酸マグネシウム、塩化マンガン、硫酸マンガン、硝酸マンガン、リン酸二水素マンガン、酢酸マンガン、サリチル酸マンガン、安息香酸マンガン、乳酸マンガン、塩化ニッケル、臭化ニッケル、硫酸ニッケル、硝酸ニッケル、酢酸ニッケル、硫酸スズ、塩化チタン、塩化亜鉛、臭化亜鉛、硫酸亜鉛、硝酸亜鉛、チオシアン酸亜鉛、酢酸亜鉛等が挙げられる。
【0089】
また、多価金属塩として好ましくは、硫酸アルミニウム、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、酢酸カルシウム、塩化マグネシウム、硝酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、硫酸スズ、塩化亜鉛、硝酸亜鉛、硫酸亜鉛、酢酸亜鉛、硝酸アルミニウム等が使用される。
【0090】
反応剤の1つであるカチオン性界面活性剤の具体例としては、例えば、テトラアルキルアンモニウム塩、アルキルアミン塩、ベンザルコニウム塩、アルキルピリジニウム塩、イミダゾリウム塩およびこれらの誘導体等が挙げられ、例えば、ジヒドロキシエチルステアリルアミン、2−ヘプタデセニル−ヒドロキシエチルイミダゾリン、ラウリルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、セチルピリジニウムクロライド、ステアラミドメチルピリジウムクロライド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロライド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロマイド、ヘキサデシルジメチルアミン塩酸塩、ヘキサデシルピリジニウムクロライド、ステアリルアミンEO付加物塩酸塩、ジステアリルジメチルアンモニウムクロライド等が挙げられる。
【0091】
反応剤の1つであるカチオン性高分子の例としては、ポリアリルアミン、ポリアミンスルホン、ポリエチレンイミン、ポリビニルアミン、ポリアルキレンポリアミン、ポリビニルイミダゾリン、キトサン、およびこれらの塩酸や酢酸等の酸による中和物または部分中和物、ジエチレントリアミン重縮合物、N,N−ビスアミノプロピルエチレンジアミン、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド二酸化硫黄共重合体、パーフルオロアルキルアンモニウムクロライド等が挙げられる。
【0092】
本発明におけるアニオン性色材と反応する反応剤としては、上記の他に、一価の電解質や疎水性のノニオン界面活性剤やアニオン界面活性剤、疎水性の水溶性溶媒等をアニオン性色材の分散を阻害するのに十分な量以上添加することも有効であり、使用することができる。一価の電解質としては、例えば、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、硝酸ナトリウム等の無機塩類や、酢酸、乳酸、安息香酸、クエン酸等の有機酸とアルカリ物質との塩等が挙げられる。疎水性の高い界面活性剤としては、例えば、HLBが10以下、好ましくは5以下の界面活性剤が挙げられる。疎水性の水溶性溶媒としては、例えば、SP値が12以下、好ましくは10以下のものが挙げられる。
【0093】
[水溶性有機溶媒]
本発明における反応液を構成する水溶性有機溶媒には、上記インクで用いたものを用いることができる。
水溶性有機溶媒は、単独で使用しても、2種類以上混合して使用しても構わない。水溶性溶媒の含有量としては、3〜40質量%の範囲が好ましく、より好ましくは、10〜35質量%の範囲である。反応液中の水溶性有機溶媒量が3質量%よりも少ない場合には、反応液が乾燥、析出しやすくなり、ノズル目詰まり等の吐出不良を起こしやすく、逆に、40質量%よりも多い場合には、反応液の紙への定着性が悪くなり、また液体の粘度が大きくなり、液体の噴射特性が不安定になる場合がある。
【0094】
[水]
本発明における反応液には、通常、水が用いられるが、該水は、イオン交換水、蒸留水、純水、超純水等を用いることができる。
【0095】
[色材]
本発明における反応液は、無色透明液として使用しても、色彩を有するカラーインクとして使用してもよく、この場合、反応液には上記の成分に加え色材を含有させる。この場合、反応液に含まれる色材としては、後述するインクの場合と同様の顔料や染料を用いることができる。
上記反応液に色材が含まれる場合には、該色材は反応液の全質量に対し10〜20質量%の範囲で含まれることが好ましく、3〜10質量%の範囲で含まれることがより好ましい。
【0096】
[反応液の好ましい物性]
本発明における反応液の表面張力は、画像乾燥時間及び画質の観点から、35mN/m以下であることが好ましく、25〜33mN/mの範囲であることがより好ましく、28〜31mN/mの範囲であることが更に好ましい。
【0097】
また、本発明の反応液の粘度は、2〜10mPa・sの範囲であることが好ましく、3〜5mPa・sの範囲であることがより好ましい。反応液の粘度が10mPa・sより大きい場合には、吐出性が低下する場合がある。一方、2mPa・sより小さい場合には、長期噴射性が悪化する場合がある。
【0098】
[インク及び反応液の添加剤]
また、本発明におけるインク及び反応液には、必要に応じて、例えば、表面張力調整剤、粘度調整剤、pH調整剤、キレート化剤等を添加することができる。なお、添加剤の種類によっては、該添加剤を所定量添加することによって、本発明におけるインク及び反応液は、上記に示す好ましい物性を得ることができる。
【0099】
表面張力調整剤としては、インクの場合は前記低分子有機アニオン性物質を用いるが、その他に、多価アルコール類及び一価アルコール類等を用いることもできる。
また、反応液に場合は、従来公知の界面活性剤(アニオン性界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤)や、多価アルコール類及び一価アルコール類を表面張力調整剤としても用いることができる。
これらの表面張力調整剤の含有量は、インクや反応液の全質量に対し、0.01〜3.0質量%の範囲であることが好ましく、0.03〜2.0質量%の範囲であることがより好ましく、0.05〜1.5質量%の範囲であることが更に好ましい。
【0100】
インク及び反応液の粘度調整剤としては、メチルセルロース、エチルセルロース及びその誘導体、グリセリン類やポリグリセリン及びそのポリエチレンオキサイドやポリプロピレンオキサイド付加物の他、多糖類及びその誘導体を添加する方法が好ましい。粘度調整剤の具体例としては、例えば、グルコース、フルクトース、マンニット、D−ソルビット、デキストラン、ザンサンガム、カードラン、シクロアミロース、マルチトール及びそれらの誘導体が挙げられる。
【0101】
インク及び反応液のpH調整剤としては、例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化アンモニウム、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、エタノールアミン、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、アンモニア、リン酸アンモニウム、リン酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸リチウム、硫酸ナトリウム、酢酸塩、乳酸塩、安息香酸塩、酢酸、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸、プロピオン酸、P−トルエンスルフォン酸等が挙げられる。或いは、一般的なpH緩衝剤を用いることも可能である。
【0102】
インク及び反応液に添加されるキレート化剤としては、エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)、イミノ二酢酸(IDA)、エチレンジアミン−ジ(o−ヒドロキシフェニル酢酸)(EDDHA)、ニトリロ三酢酸(NTA)、ジヒドロキシエチルグリシン(DHEG)、トランス−1,2−シクロヘキサンジアミン四酢酸(CyDTA)、ジエチレントリアミン−N,N,N’,N”,N”−五酢酸(DTPA)、グリコールエーテルジアミン−N,N,N’,N’−四酢酸(GEDTA)等が挙げられる。
【0103】
その他、本発明におけるインク及び反応液には、デヒドロ酢酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム等の防カビ剤、PROXEL(ICI社製)、DOWICIL(ダウケミカル社製)等の殺菌剤、導電剤、防錆剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等を含有させることも可能である。
これら添加剤としては、従来公知のものが制限なく使用することができる。
【0104】
本発明において、インク中の低分子有機アニオン性物質と、反応液中の反応剤と、が以下のような組み合わせである場合、インク滴中での安定性と表面への配向の観点から、より高い効果を得ることができる。
即ち、例えば、ブチルナフタレンカルボン酸誘導体(低分子有機アニオン性物質)と硝酸マグネシウム(反応剤)との組み合わせである。
【0105】
本発明におけるインク及び反応液は、前記のアニオン性色材と反応する反応剤を含むが、この反応性については、インクと反応液とを混合した場合に形成される色材を含有する凝集体などの数、つまり、混合液中に存在する粗粒数で示される。
本発明においては、上記混合液中に存在する粒径が5μm以上の粗粒数は、500個/μL以上であることが好ましく、より好ましくは500〜10,000個/μLの範囲であり、更に好ましくは500〜3,000個/μLの範囲である。混合液中に存在する粒径が5μm以上粗粒数が、500個/μL未満の場合には、形成される画像の光学濃度が低下する場合がある。
【0106】
なお、上記インクと反応液との混合液における粒径が5μm以上粗粒数は、二つの液体を質量比で1:1の割合で混合し、撹拌しながら2μLを採取し、Accusizer TM770 Optical Particle Sizer(商品名:Particle Sizing Systems社製)を用いて測定した。なお、測定時のパラメータとして、分散粒子の密度には色材の密度を入力した。この色材の密度は、インクと反応液とを混合して得られた色材分散液を、加熱、乾燥させることによって得られた色材紛体を比重計、又は比重ビン等を用いて測定することにより求めることができる。
【0107】
<インクジェット記録方法>
次に、本発明のインクジェット記録方法について説明する。
本発明のインクジェット記録方法は、アニオン性色材と低分子有機アニオン性物質とを含むインク、及び、該アニオン性色材と反応する反応剤を含む反応液からなるインクセットを用い、前記インクと前記反応液とが互いに接触するように記録媒体上に付与して、画像を形成することを特徴とする。
【0108】
本発明のインクジェット記録方法においては、前記の本発明のインクセットを記録媒体上に付与し画像を形成する場合、インクと反応液とが互いに接触するように付与される。このようにインクと反応液とが互いに接触することで、インク中のアニオン性色材や低分子有機アニオン性物質と反応液中の反応剤とが反応し、光学濃度や、滲みに優れ、更に、色間滲みや乾燥時間にも優れる記録方法となる。このようにインクと反応液が接触する態様には特に制限はなく、例えば、互いに隣接するよう付与されてもよく、一方の液体の付与領域に他方が覆い被さるように付与されてもよいが、特に、後者であることが好ましい。
【0109】
また、インク及び反応液を記録媒体へ付与する場合、その付与する順番としては、反応液を付与した後、インクを付与することが好ましい。反応液を先に付与することで、インク中のアニオン性色材や低分子有機アニオン性物質と効果的に反応させることが可能となるからである。記録媒体へ反応液を付与した後であれば、いかなる時期にインクを付与してもかまわないが、反応液を付与してから0.1秒以下後のタイミングでインクを付与することが好ましい。
【0110】
以下、本発明のインクジェット記録方法について、更に詳細に説明する。
本発明のインクジェット記録方法は、通常のインクジェット記録方式の記録装置により用いられる。この場合、一般的にはインク及び反応液は共に、各々1ドロップ当たりの液体質量は、0.0005〜0.1ngの範囲であることが好ましく、0.001〜0.04ngの範囲であることがより好ましい。1ドロップ当たりの液体質量が0.001〜0.04ngの範囲であると、特に普通紙における画質・乾燥性の両立が実現されやすい。
なお、一つのノズルから複数の体積のドロップを噴射することが可能であるインクジェット方式の記録装置において、上記ドロップ量とは、印字可能な最小ドロップのドロップ量を指すこととする。
【0111】
本発明において、1画素を形成するために要する反応液付与量とインク付与量との質量比(反応液/インク)は、1/30〜1/1の範囲であることが好ましい。より好ましくは、1/20〜1/1.2の範囲である。
インク付与量に対する反応液付与量の質量比が1/30未満である場合、凝集が不充分となり、光学濃度の低下、滲みの悪化、色間滲みの悪化が生じる場合がある。一方、インク付与量に対する反応液付与量の質量比が1/1を超える場合には、記録媒体のカール及びカクルが悪化する場合がある。
【0112】
ここで、前記画素とは、所望の画像を主走査方向、及び、副走査方向に対して反応液を付与可能な最小距離で分割した際に構成される格子点であり、夫々の画素に対して適切なインクセットを付与することで、色及び画像濃度が調整され、画像が形成される。
【0113】
本発明のインクジェット記録方法が適用される記録方式としては、熱インクジェット記録方式、又はピエゾインクジェット記録方式を採用することが好ましい。この原因は明らかとはなっていないが、熱インクジェット記録方式の場合、吐出時にインクが加熱され、低粘度となっているが、記録媒体上でインクの温度が低下するため、粘度が急激に大きくなる。このため、滲み及び色間滲みに改善効果があると考えられる。一方、ピエゾインクジェット方式の場合、高粘度の液体を吐出することが可能であり、高粘度の液体は記録媒体上での記録媒体表面方向への広がりを抑制することが可能となるため、滲み、及び、色間滲みに改善効果があるものと推測される。
【0114】
本発明において適用される記録媒体としては、普通紙だけでなく、インクジェット普通紙、コート紙、光沢紙、インクジェット用フィルムなどが使用可能である。具体的には、例えば、ゼロックス社製4024紙、4200紙、富士ゼロックス社製P紙、マルチエース紙、C2紙などが挙げられる。
但し、記録媒体の種類により、インクや反応液の反応性や浸透性が変動するため、その種類に応じて、インク及び反応液の付与量を調整することが好ましい。
【実施例】
【0115】
以下、本発明を実施例により更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
<インク及び反応液の作製>
下記の所定の組成となるように、各成分を混合、攪拌し、混合液を調製した。得られた液体を、5μmフィルターを通過させることにより、所望の各液体を得た。
【0116】
−インク1a−
・黒色顔料 (顔料分)5質量%
(商品名:Cab−O−Jet300、キャボット社製)
・グリセリン 20質量%
・ジエチレングリコールモノブチルエーテル 5質量%
・スチレン−アクリル酸共重合体 1質量%
(酸価108、重量平均分子量8500、100%Na中和)
・低分子有機アニオン性物質(下記化合物a) 1質量%
・水 残部
【0117】
−インク1b、インク1c−
上記インク1aの組成中、低分子有機アニオン性物質を化合物aから化合物b又は化合物cに代えたものをインク1b、インク1cとした。
【0118】
−インク2a−
・黒色顔料(商品名:MA7、三菱化学社製) 5質量%
・グリセリン 20質量%
・ジエチレングリコールモノブチルエーテル 5質量%
・スチレン−アクリル酸共重合体 1質量%
(酸価200、重量平均分子量8500、100%Na中和)
・低分子有機アニオン性物質(下記化合物a) 1質量%
・水 残部
【0119】
−インク2b、インク2c−
上記インク2aの組成中、低分子有機アニオン性物質を化合物aから化合物b又は化合物cに代えたものをインク2b、インク2cとした。
【0120】
−インク3a−
・黒色顔料 (顔料分)5質量%
(商品名:Cab−O−Jet300、キャボット社製)
・グリセリン 20質量%
・ジエチレングリコールモノブチルエーテル 5質量%
・スチレン−アクリル酸共重合体 1質量%
(酸価108、重量平均分子量8500、100%Na中和)
・低分子有機アニオン性物質(下記化合物a) 0.5質量%
・オルフィンE1010(日信化学社製) 0.5質量%
・水 残部
【0121】
−インク3b、インク3c−
上記インク3aの組成中、低分子有機アニオン性物質を化合物aから化合物b又は化合物cに代えたものをインク3b、インク3cとした。
【0122】
−インク4−
・黒色顔料 (顔料分)5質量%
(商品名:Cab−O−Jet300、キャボット社製)
・グリセリン 20質量%
・ジエチレングリコールモノブチルエーテル 5質量%
・スチレン−アクリル酸共重合体 1質量%
(酸価108、重量平均分子量8500、100%Na中和)
・ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム 1質量%
・水 残部
【0123】
上記インクの組成中において用いられた、化合物a、化合物b、及び化合物cの構造を以下に示す。
(化合物a)
前記一般式(1)で表わされる低分子有機アニオン性物質(R1:n−ブチル基、Q:単結合、Ar1:ナフタレン、X1:CO2-、M1:Na+、n=1、m=0)
(化合物b)
前記一般式(2)で表わされる低分子有機アニオン性物質(R1:n−ブチル基、Ar1:ベンゼン、X1:CO2-、M1:Na+、n=3)
(化合物c)
前記一般式(3)で表わされる低分子有機アニオン性物質(R1:n−ブチル基、X1:CO2-、M1:Na+
【0124】
(反応液)
−反応液A−
・グリセリン 20質量%
・ジエチレングリコールモノブチルエーテル 5質量%
・硝酸マグネシウム 1質量%
・水 残部
【0125】
上記インク1a〜3c、4の10種類、及び反応液Aについて、表面張力、粘度の測定を行った。なお、表面張力は各液を23℃、55%RHの環境において、ウイルヘルミー型表面張力計を用いて測定した。また、粘度は、回転粘度計レオマット115(Contraves社製)を用い、23℃でせん断速度を1400s-1として測定した。
結果を表1にまとめて示す。
【0126】
<実施例1〜9、比較例1>
まず、インク1a〜3c、4の10種類、及び反応液Aについて、表1に示した組み合わせにおいて、インクジェット方式による文字とベタ部の印字を行い、滲み及び耐擦性の評価を行った。印字は、試作した解像度360dpiのインクジェットプリントヘッドを3個並べたマルチパス印字の評価用サーマルインクジェットプリンター吐出量:約30pl、インク打ち込み量:約6ml/m2、印字は片側一括印字、ヘッドスキャンスピード:約40cm/秒)を使用し、1個のヘッドはインク用、残りの2個のヘッドは反応液用として行った。記録媒体としては、4024紙(ゼロックス社製)等を用いた。なお、印字順はインクを印字する前に画像形成部分に反応液を印字し、画素形成のための反応液とインクとの質量比(反応液/インク)は1/2とした。また、印字は20℃、50%RHで行った。
【0127】
(滲みの評価)
得られた印字物の文字部について、目視により以下の判断基準により評価を行った。
A:文字の滲みは認められなかった
B:文字の滲みが若干認められたが実用上問題ない
C:文字の滲みが著しかった
【0128】
(耐擦性の評価)
得られた印字物のベタ部を、指で擦った後、ベタ部について目視により以下の判断基準で評価を行った。
A:ベタ部周辺の擦り方向に色材汚れがない
B:ベタ部周辺の擦り方向に色材汚れが若干認められたが実用上問題ない
C:ベタ部周辺の擦り方向に色材汚れが著しかった
【0129】
(インク吐出性の評価)
滲み、耐擦性評価に用いた画像(文字とベタ部)を100枚連続印字し、目視により以下の判断基準で評価を行った。
A:インクの吐出不良は認められなかった
B:インクの着弾位置ズレが若干認められたが実用上問題ない
C:インク滴が吐出しない抜けが著しかった(ノズル詰まりが発生した)
以上の評価結果をまとめて表1に示す。
【0130】
【表1】

【0131】
表1に明らかなように、本発明のインクセットは、連続印字に供しても吐出不良が認められないことから、吐出性に優れ、ノズル詰まりが防止されていることが判明した。
また、この本発明のインクセットを用いた実施例1〜9のインクジェット記録方法(本発明のインクジェット記録方法)は、比較例1のインクジェット記録方法と比較して、滲みが効果的に抑制され、耐擦性に優れた高品質の画像が得られることが判明した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アニオン性色材と低分子有機アニオン性物質とを含むインク、及び、該アニオン性色材と反応する反応剤を含む反応液からなることを特徴とするインクセット。
【請求項2】
アニオン性色材と低分子有機アニオン性物質とを含むインク、及び、該アニオン性色材と反応する反応剤を含む反応液からなるインクセットを用い、前記インクと前記反応液とが互いに接触するように記録媒体上に付与して、画像を形成することを特徴とするインクジェット記録方法。

【公開番号】特開2006−51667(P2006−51667A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−234359(P2004−234359)
【出願日】平成16年8月11日(2004.8.11)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】