説明

インクセット及び該インクセットを用いた記録方法

【課題】本発明は、色再現範囲が広く、彩度が高く、ドット表現による粒状性が目立つことなく、光沢感のある記録画像を得ることができ、特に、塗工層を有するメディアに適用した場合にドット表現による粒状性を極めて抑制でき、普通紙に適用した場合に発色性の極めて優れた記録画像を得ることのできるインクセットを提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、イエローインク(Y)、マゼンタインク(M)、シアンインク(C)及びレッドインク(R)を少なくとも備えるインクセットであって、前記各インクの1000倍希釈水溶液のCIEで規定のLab表示系におけるL*値が、下記の範囲内にあるインクセットを提供するものである。
(Y);89以上94以下、(M);76以上83未満、(C);74以上87以下、(R);62以上67.5未満

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イエロー、マゼンタ及びシアンの3色のインクと、これら以外の特色インクとしてのレッドインクとを少なくとも備えたインクセットに関し、詳細には、色再現範囲が広く、彩度が高く、ドット表現による粒状性が目立つことなく、光沢感のある記録画像を得ることができ、特に、塗工層を有するメディアに適用した場合にドット表現による粒状性を極めて抑制でき、普通紙に適用した場合に発色性の極めて優れた記録画像を得ることのできるインクセット及び該インクセットを用いた記録方法、記録システム、記録物に関する。
【背景技術】
【0002】
顔料インクは、一般に、染料インクに比して印刷物の画像堅牢性に優れており、サインやディスプレイ市場向けのワイドフォーマットのカラーインクジェット記録用インク等、その特性を活かした種々の用途において使用されている。このカラーインクジェット記録においては、通常、減法混色の3原色であるイエロー(Y)、マゼンタ(M)及びシアン(C)の3色の顔料インクを備えた3色インクセット、あるいはこれにブラック(K)を加えた4色インクセットを用いて種々の色相を表現することが行われている。
【0003】
しかし、前記3色又は4色インクセットは、色再現範囲が狭い、2次色以上の印刷部分(混色部分)の彩度が低下する等の問題があり、銀塩写真や製版印刷等に匹敵する高画質の印刷物を提供し得るレベルには至っていない。
【0004】
また、彩度の低下の問題に対しては、これを高めるべく、YMCの各色インクの顔料濃度を増加する方法や、YMCの各色インクの記録媒体への打ち込み量を増加する方法等が採られてきたが、何れの方法も光沢感の低下を招き、記録媒体として光沢紙を用いても写真調の風合いが得られないという欠点があった。また、3原色(YMC)インクだけで彩度を効率的に広げるためには、減法混色に適した理想的な分光特性を持ったYMCインク用の顔料種を選択しなければならず、更に耐光性、耐ガス性等に優れた顔料種となるとその数は限られており、このような限られた顔料種の中で、上記のように顔料濃度の増加により彩度を高めようとしても、3原色の色相変化や、インクジェットプリンタのノズルの目詰り等を起こすおそれがあり、効果的ではない。
【0005】
また、色再現範囲の広い顔料インクセットとして、特開2000−351928号公報には、YMCの3色の顔料インクに加えて、それぞれ特定の顔料を含有するオレンジ、グリーン及びヴァイオレットのうちの少なくとも1色を備えたカラープリント用カラーインクジェットインクセットが開示されている(特許文献1)が、このインクセットは、彩度の再現範囲が十分に広いとは言えず、光沢感の低下を招かずに彩度を高めることはできなかった。特に、画像をドットにより表現した際に粒状性の目立ち(ドットが肉眼で粒状に視認できる程度の状態)を招かずに朱色の彩度を高めることはできなかった。また、WO99/05230号公報には、YMCKの4色の顔料インクに加えてオレンジ及びグリーンの2色の特色顔料インクを備えたインクセットが開示されている(特許文献2)が、このインクセットは、パステル調の色のような明度が高く彩度の低い色の再現性には優れるものの、それ以外の色に関しては、前記インクセットと同様、彩度の再現範囲が不十分で、光沢感の低下を招かずに彩度を高めることはできなかった。
【0006】
また、従来の顔料インクセットを用いて形成された記録物の画像は、照明する光源が変わると記録画像の色相が変化する現象、即ちいわゆるメタメリズムを起こすという問題があった。このメタメリズムは、特にYMCの3色のインクにより形成されたコンポジットブラックやグレー系の色相部分で顕著に見られ、画質低下の一因となっている。
【0007】
このような従来のインクセットにおける問題点を解決すべく、特に粒状性が目立つことなく、高彩度、高光沢感のある印刷物の提供を目的として、YMCの3色の特定顔料インクに加えてレッド及び/又はヴァイオレットの特定特色顔料インクを備えたインクセット等、種々のインクセットが提案されているが、その効果は未だ十分な程度には至っていない。その理由は、インクセットを適用する記録媒体の種類によって改善すべき効果が異なるという問題にある。例えば、インクセットを写真用紙等の塗工層を有するメディア(記録媒体)に低解像度で適用した場合には、記録の際のドット表現による粒状性が特に目立ってしまうという問題がある。また、インクセットを普通紙(被記録面に繊維が露呈している記録媒体)に適用した場合には、暗部(記録媒体上でのCIELAB色空間において定義されるL*値が40前後)の発色性が特に低下してしまうという問題がある。
【0008】
また、普通紙に形成される画像によっては、特定の色相角における暗部の発色が十分に得られないことがあり、画像の品質低下を招く場合があった。このため、粒状性の目立ちを抑制しつつ、普通紙における特定色相角の暗部の発色に優れるインクセットの開発も望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2000−351928号公報
【特許文献2】WO99/05230号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、本発明の目的は、色再現範囲が広く、彩度が高く、ドット表現による粒状性が目立つことなく、光沢感のある記録画像を得ることができ、特に、塗工層を有するメディアに適用した場合にドット表現による粒状性を極めて抑制でき、普通紙に適用した場合に発色性の極めて優れた記録画像を得ることのできるインクセットを提供することにある。
【0011】
また、本発明の別の目的は、上記の優れた性能に加えて、普通紙における特定色相角の暗部の発色に優れ、メタメリズムの低減された高品質の画像を得ることのできるインクセットを提供することにある。
【0012】
また、本発明の更に別の目的は、インクジェット記録用インクセットとしての信頼性の高いインクセットを提供することにある。
【0013】
また、本発明の更に別の目的は、色再現範囲が広く、彩度が高く、ドット表現による粒状性が目立つことなく、光沢感のある記録画像を得ることができ、特に、塗工層を有するメディアに適用した場合にドット表現による粒状性を極めて抑制でき、普通紙に適用した場合に発色性の極めて優れた記録画像を得ることのできる記録方法及び記録システムを提供することにある。
【0014】
また、本発明の更に別の目的は、色再現範囲が広く、彩度が高く、ドット表現による粒状性が目立たず、光沢感があり、特に、塗工層を有するメディアを用いた場合にドット表現による粒状性が極めて抑制され、普通紙を用いた場合に発色性が極めて優れた記録画像を有する記録物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、鋭意研究した結果、イエローインク、マゼンタインク、及びシアンインクの3色系とともに、特色インクとしてレッドインクを備え、前記各インクの所定の条件下でのCIE−LabにおけるL*値が特定の範囲内にあるインクセットが、前記目的を達成し得ることの知見を得た。
【0016】
本発明は、前記知見に基づきなされたもので、イエローインク(Y)、マゼンタインク(M)、シアンインク(C)及びレッドインク(R)を少なくとも備えるインクセットであって、前記各インクの1000倍希釈(重量基準、以下同じ)水溶液のCIEで規定のLab表示系におけるL*値が、下記の範囲内にあるインクセットを提供するものである。
(Y);89以上94以下、(M);76以上83未満、(C);74以上87以下、(R);62以上67.5未満
【0017】
本発明のインクセットは、前記の構成からなるものであるため、色再現範囲が広く、彩度が高く、ドット表現による粒状性が目立つことなく、光沢感のある記録画像を得ることができ、特に、塗工層を有するメディアに適用した場合にドット表現による粒状性を極めて抑制でき、普通紙に適用した場合に発色性の極めて優れた記録画像を得ることができる。
【0018】
また、本発明は、前記イエローインクがC.I.ピグメントイエロー74を2.0〜4.0重量%含み、前記マゼンタインクがC.I.ピグメントヴァイオレット19を1.7〜3.0重量%含み、前記シアンインクがC.I.ピグメントブルー15:3を0.5〜2.5重量%含み、前記レッドインクがC.I.ピグメントレッド264を1.8〜2.4重量%含む、前記インクセットを提供するものである。このインクセットによれば、前記の優れた性能に加えて、特に、普通紙における特定色相角の暗部の発色に優れ、メタメリズムの低減された高品質の画像を得ることができる。
【0019】
また、本発明は、前記インクセットを用いて画像を形成する記録方法を提供するものである。この記録方法によれば、色再現範囲が広く、彩度が高く、ドット表現による粒状性が目立つことなく、光沢感のある記録画像を得ることができ、特に、塗工層を有するメディアに適用した場合にドット表現による粒状性を極めて抑制でき、普通紙に適用した場合に発色性の極めて優れた記録画像を得ることができる。
【0020】
また、本発明は、前記インクセットを用いて画像を形成する記録システムを提供するものである。この記録システムによれば、色再現範囲が広く、彩度が高く、ドット表現による粒状性が目立つことなく、光沢感のある記録画像を得ることができ、特に、塗工層を有するメディアに適用した場合にドット表現による粒状性を極めて抑制でき、普通紙に適用した場合に発色性の極めて優れた記録画像を得ることができる。
【0021】
また、本発明は、前記インクセットを用いて画像が形成されてなる記録物を提供するものである。この記録物は、色再現範囲が広く、彩度が高く、ドット表現による粒状性が目立たず、光沢感があり、特に、塗工層を有するメディアを用いた場合にドット表現による粒状性が極めて抑制され、普通紙を用いた場合に発色性が極めて優れた記録画像を有するものである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
〔インクセット〕
以下、先ず、本発明のインクセットについて、その好ましい実施形態に基づき説明する。
【0023】
本発明のインクセットは、前記の通り、各インクの1000倍希釈水溶液のCIE(Commission Internationale d’Eclairage;国際照明委員会)で規定のLab表示系におけるL*値が、イエローインク(Y);89以上94以下、マゼンタインク(M);76以上83未満、シアンインク(C);74以上87以下、レッドインク(R);62以上67.5未満、の各範囲内にあるものであり、更に、下記範囲内にあることが本発明の効果を向上し得る点で好ましい。
(Y);L*:89〜93、特に90〜93、とりわけ90〜92、就中91〜92
(M);L*:77〜82、特に78〜82、とりわけ79〜82、就中81〜82
(C);L*:75〜86、特に76〜85、とりわけ77〜83、就中79〜81
(R);L*:63〜67、特に64〜67、とりわけ65〜67、就中66〜67
【0024】
ここで、前記L*値は、例えば、日立製作所社製のU3300等を用いて、D65光源、視野角2度において測定することにより得ることができる(以下、その他のインクでも同様)。
【0025】
また、本発明のインクセットに用いられる前記各インクの、1000倍希釈水溶液のCIEで規定のLab表示系におけるa*値及びb*値は、次の各範囲内にあることが好ましい。
(Y);a*:−14〜−8、b*:102〜115
(M);a*:31〜51、 b*:−17〜−10
(C);a*:−40〜−24、b*:−37〜−22
(R);a*:42〜62、 b*:1〜10
【0026】
前記a*値及び前記b*値も、前記L*値と同様に、例えば、日立製作所社製のU3300等を用いて測定することにより得ることができる(以下、その他のインクでも同様)。
【0027】
本発明のインクセットが備える各インクに含まれる色材(着色剤)としては、記録物の画像堅牢性に優れる等の観点から顔料が好ましい。また、顔料としては、無機顔料及び有機顔料を使用することができ、それぞれ単独又は複数種混合して用いることができる。前記無機顔料としては、例えば、酸化チタン及び酸化鉄の他に、コンタクト法、ファーネス法、サーマル法等の公知の方法によって製造されたカーボンブラック等が使用できる。また、前記有機顔料としては、アゾ顔料(アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料等を含む)、多環式顔料(例えば、フタロシアニン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、チオインジゴ顔料イソインドリノン顔料、キノフラロン顔料等)、染料キレート(例えば、塩基性染料型キレート、酸性染料型キレート等)、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック等が使用できる。具体的には、以下に説明するように、各色インクに応じて所望の顔料が用いられる。
【0028】
本発明に用いられるイエローインクとしては、例えば、C.I.ピグメントイエロー74を2.0〜4.0重量%、特に2.5〜3.5重量%、とりわけ2.7〜3.3重量%含むものが好ましく挙げられる。尚、イエローインクとしては、これに限られず、所定のL*値を有する限り色材の種類や含有量が特に制限されず、例えば、C.I.ピグメントイエロー1,2,3,12,13,14,16,17,73,74,75,83,93,95,97,98,109,110,114,128,129,138,139,147,150,151,154,155,180,185等の1種又は2種以上を、インクが所定のL*値の範囲内となるように適宜な量で使用したものであってもよい。また、イエローインクにおける色材以外の成分については、各インク併せて後述する。
【0029】
本発明に用いられるマゼンタインクとしては、例えば、C.I.ピグメントヴァイオレット19を1.7〜3.0重量%、特に1.7〜2.5重量%、とりわけ1.8〜2.3重量%含むものが好ましく挙げられる。特に、このC.I.ピグメントヴァイオレット19を使用することにより、メタメリズムが低減された高品質の画像を得ることができるため好ましい。尚、マゼンタインクとしては、これに限られず、所定のL*値を有する限り色材の種類や含有量が特に制限されず、例えば、C.I.ピグメントレッド5,7,12,48(Ca),48(Mn),57(Ca),57:1,112,122,123,168,184,202,209;C.I.ピグメントヴァイオレット19等の1種又は2種以上を、インクが所定のL*値の範囲内となるように適宜な量で使用したものであってもよい。また、マゼンタインクにおける色材以外の成分については、各インク併せて後述する。
【0030】
また、マゼンタインクとして、その1000倍希釈水溶液の紫外可視透過吸収率から算出される、CIEで規定のXYZ表示系におけるY値が55である場合に、同Z値が83以下であるものを用いれば、低解像度でもメタメリズムが極めて良好で粒状性をより抑制でき、かつ、色再現性に更に優れる画像が得られるため好ましい。
【0031】
本発明に用いられるシアンインクとしては、例えば、C.I.ピグメントブルー15:3を0.5〜2.5重量%、特に1.0〜2.0重量%、とりわけ1.2〜1.8重量%含むものが好ましく挙げられる。尚、シアンインクとしては、これに限られず、所定のL*値を有する限り色材の種類や含有量が特に制限されず、例えば、C.I.ピグメントブルー1,2,3,15:3,15:4,15:34,16,22,60;C.I.バットブルー4,60等の1種又は2種以上を、インクが所定のL*値の範囲内となるように適宜な量で使用したものであってもよい。また、シアンインクにおける色材以外の成分については、各インク併せて後述する。
【0032】
本発明に用いられるレッドインクとしては、例えば、C.I.ピグメントレッド264を1.8〜2.4重量%、特に1.8〜2.2重量%、とりわけ1.9〜2.1重量%含むものが好ましく挙げられる。特に、このC.I.ピグメントレッド264を使用することにより、色相角20〜30度の暗部の発色に優れた記録画像が得られるため好ましい。尚、レッドインクとしては、これに限られず、所定のL*値を有する限り色材の種類や含有量が特に制限されず、例えば、C.I.ピグメントオレンジ5,43及び62並びにC.I.ピグメントレッド17,49:2,112,149,177,178,188,255及び264等の1種又は2種以上を、インクが所定のL*値の範囲内となるように適宜な量で使用したものであってもよい。また、レッドインクにおける色材以外の成分については、各インク併せて後述する。
【0033】
本発明のインクセットは、このようなレッドインクを備えているため、イエローインクとマゼンタインクの2色を混合して画像を形成する場合よりも、低明度且つ高彩度な色も再現できるので、色再現範囲の広い画像を得ることができる。
【0034】
本発明のインクセットは、前述した各インク、即ち、イエロー、マゼンタ、シアン、及びレッドの各インクを少なくとも備えるものであるが、更に、1000倍希釈水溶液のCIEで規定のLab表示系におけるL*値が40以上58以下の範囲内にあるヴァイオレットインク(Vi)を備えることが、シアンインクとマゼンタインクの2色を混合して画像を形成する場合よりも、低明度且つ高彩度な色も再現できるので色再現範囲の更に広い画像を得ることができる点で好ましい。
【0035】
ヴァイオレットインクに係る前記L*値は、更に、42〜55、特に45〜52の範囲内にあることが上記効果を一層向上し得る点で好ましい。
【0036】
また、ヴァイオレットインクの、1000倍希釈水溶液のCIEで規定のLab表示系におけるa*値及びb*値は、次の各範囲内にあることが好ましい。
(Vi);a*:56〜76、b*:−75〜−56
【0037】
ヴァイオレットインクとしては、例えば、C.I.ピグメントヴァイオレット23を1.0〜3.0重量%、特に1.5〜2.5重量%、とりわけ1.7〜2.3重量%含むものが好ましく挙げられる。尚、ヴァイオレットインクとしては、これに限られず、例えば、C.I.ピグメントブルー60並びにC.I.ピグメントヴァイオレット3,19,23,32,36及び38等の1種又は2種以上を、インクが好適なL*値の範囲内となるように適宜な量で使用したものであってもよい。また、ヴァイオレットインクにおける色材以外の成分については、各インク併せて後述する。
【0038】
本発明のインクセットは、前述した各インク、即ち、イエロー、マゼンタ、シアン、及びレッドの各インクを少なくとも備え、必要に応じてヴァイオレットインクを備えるものであるが、更に、必要に応じてブラックインクを備えることもできる。
【0039】
ブラックインクとしては、その色材として、例えば、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャネルブラック等のカーボンブラック(C.I.ピグメントブラック7)類、酸化鉄顔料等の無機顔料;アニリンブラック(C.I.ピグメントブラック1)等の有機顔料等を含むものが挙げられる。これらの顔料の中でも、特にカーボンブラックを用いることが好ましく、好ましいカーボンブラックの例として、三菱化学製のNo.2300, No.900, MCF88, No.33,No.40, No.52, MA7, MA8, MA100, No.2200B等、コロンビア社製の Raven5750, Raven5250, Raven5000, Raven3500, Raven1255, Raven700等、キャボット社製のRegal 400R, Regal 400R, Regal 1660R, Mogul 1, Monarch 700, Monarch 800,Monarch 880, Monarch 900, Monarch 1000, Monarch 1100, Monarch 1300, Monarch 1400 等、テグッサ社製の Color Black FW1, Color Black FW2, Color Black FW2V, Color Black FW18, Color Black FW200, Color Black S150, Color Black S160, Color Black S170, Printex 35, Printex U, Printex V, Printex 140U, Special Black 6, Special Black 5, Special Black 4A, Special Black 4等が挙げられる。
【0040】
本発明においては、特に、ブラックインクとして、カーボンブラックを3.0重量%以下含むもの〔以下、フォトブラックインク(PK)ともいう。〕を備えることが、記録媒体として塗工層を有するメディアに適用した際の画像の粒状性抑制と混合色の光沢に特に優れる点で好ましく、また、カーボンブラックを3.0重量%超含むもの〔以下、マットブラックインク(MK)ともいう。〕を備えることが、記録媒体として普通紙に適用した際の画像の発色性に特に優れる点で好ましい。
これらのブラックインクは、何れか一方のみで用いることもでき、また両方ともに用いることもできるが、これらの両機能が得られる点で、フォトブラックインク及びマットブラックインクの両方とも備えることが望ましい。
【0041】
フォトブラックインク中におけるカーボンブラックの含有量は、好ましくは0.1〜3.0重量%、更に好ましくは1.0〜2.0重量%、特に好ましくは1.2〜1.8重量%である。また、フォトブラックインクとしては、カーボンブラックに加えて、更に、補色顔料としてC.I.ピグメントブルー15:3等のシアン顔料を1.0重量%以下、特に0.25重量%以下で微量に含有するものが、記録画像に補色効果が得られる点で好ましい。
【0042】
また、フォトブラックインクは、その1000倍希釈水溶液のCIEで規定のLab表示系におけるL*値が、42〜67、特に48〜60の範囲内にあることが好ましく、同a*値が、−2.75〜−2.40の範囲内にあることが好ましく、同b*値が、9〜14の範囲内にあることが好ましい。
【0043】
一方、マットブラックインク中におけるカーボンブラックの含有量は、好ましくは4.0〜9.0重量%、更に好ましくは5.0〜8.0重量%、特に好ましくは6.0〜7.0重量%である。
【0044】
また、マットブラックインクは、その1000倍希釈水溶液のCIEで規定のLab表示系におけるL*値が、0.1〜16、特に2〜10の範囲内にあることが好ましく、同a*値が、1〜8の範囲内にあることが好ましく、同b*値が、1〜18の範囲内にあることが好ましい。
【0045】
さらに、本発明のインクセットは、前記のインク以外にも、例えば、前記マゼンタインクよりも色材濃度が高い濃マゼンタインクや、前記シアンインクよりも色材濃度が高い濃シアンインク等の他のインクを1種又は2種以上で備えていてもよい。
【0046】
本発明のインクセットが備える各インクは、色材として顔料を使用するとともに、該顔料を分散するための分散剤を含有するものが好ましい。分散剤としては、この種の顔料インクにおけるものと同様のものを特に制限なく用いることができ、例えば、カチオン性分散剤、アニオン性分散剤、ノニオン性分散剤や界面活性剤等が挙げられる。アニオン性分散剤の例としては、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、アクリル酸−アクリロニトリル共重合体、酢酸ビニル−アクリル酸エステル共重合体、アクリル酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−アクリル酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−メタクリル酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−α−メチルスチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−α−メチルスチレン−アクリル酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、ビニルナフタレン−マレイン酸共重合体、酢酸ビニル−エチレン共重合体、酢酸ビニル−脂肪酸ビニルエチレン共重合体、酢酸ビニル−マレイン酸エステル共重合体、酢酸ビニル−クロトン酸共重合体、酢酸ビニル−アクリル酸共重合体等が挙げられる。また、アニオン性界面活性剤の例としては、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリル酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテルサルフェートのアンモニウム塩等が挙げられ、ノニオン性界面活性剤の例としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミド等が挙げられ、これらの1種又は2種以上が用いられる。特に、顔料の分散安定性を高める観点から、スチレン−(メタ)アクリル酸共重合体を用いることが好ましい。
前記分散剤は、前記各インク中において、前記顔料の重量を基準として、固形分換算で、通常140重量%以下で含まれる。
【0047】
特に、イエローインク、マゼンタインク、シアンインク、レッドインク、ヴァイオレットインク等のカラーインクにおいては、前記分散剤は、前記顔料の重量を基準として、固形分換算で好ましくは20〜80重量%で、最も好ましくは40重量%含まれる。
【0048】
一方、ブラックインクについて、マットブラックインクにおいては、前記分散剤を含んでいても含んでいなくてもよいが、特に、該分散剤を用いず(0重量%)、且つ色材として、自己分散型の顔料を用いることが、記録画像の発色性向上の点で好ましい。尚、自己分散型の顔料は、顔料の表面に−COOH、−CHO、−OH、−SO3H及びこれらの塩からなる群より選ばれる1種又は2種以上等の官能基(分散性付与基)を有するように処理された顔料であって、分散剤を別途配合せずとも、水系のインク中で均一に分散し得るものである。ここでいう「分散」とは、自己分散型の顔料が分散剤なしに水中に安定に存在している状態をいい、分散している状態のもののみならず、溶解している状態のものも含むものとする。
【0049】
また、フォトブラックインクにおいては、前記分散剤は、記録画像の光沢性向上の点で、前記顔料の重量を基準として、固形分換算で好ましくは60〜120重量%で、最も好ましくは100重量%含まれる。
【0050】
また、各インク量に対する分散剤の含有量は、固形分換算で好ましくは0.1〜10重量%、更に好ましくは0.3〜6重量%である。
【0051】
また、本発明のインクセットが備える各インクは、インクジェット記録用に用いた場合に、インクの乾燥を防いでインクジェットプリンタのヘッドでの目詰まりを防止する観点から、高沸点有機溶媒を含むものが好ましい。高沸点有機溶媒としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、1,2,6−ヘキサントリオール、チオグリコール、ヘキシレングリコール、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン等の多価アルコール類;エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル等の多価アルコールのアルキルエーテル類;尿素、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、トリエタノールアミン等の有機アルカリ、糖アルコール等の糖類等が挙げられ、これらの1種又は2種以上が用いられる。特に、トリエタノールアミン等の有機アルカリを添加することが、色材の分散性を安定させ、記録画像の光沢を向上させるため好ましい。
前記高沸点有機溶媒は、前記各インク中、好ましくは0.1〜30重量%、更に好ましくは0.5〜20重量%含有される。
【0052】
また、本発明のインクセットが備える各インクは、記録媒体への濡れ性を高めてインクの浸透性を高める観点から、浸透促進剤を含有させることができる。浸透促進剤としては、例えば、メタノール、エタノール、iso−プロピルアルコール等のアルコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル等の多価アルコールの低級アルキルエーテル;1,2−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール等のジオール等が挙げられ、これらの1種又は2種以上が用いられる。特に、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル又は1,2−ヘキサンジオールを用いることが好ましい。
前記浸透促進剤は、前記インク中、好ましくは1〜20重量%、更に好ましくは1〜10重量%含有される。
【0053】
また、本発明のインクセットが備える各インクは、前記浸透促進剤と同様に、記録媒体への濡れ性を高めてインクの浸透性を高める観点から、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤等の各種界面活性剤を用いることもでき、特に、アセチレングリコール系化合物やシリコーン系化合物を用いることが好ましい。該アセチレングリコ−ル系化合物としては、市販されているものを用いることができ、例えば、オルフィンY、サーフィノール82,440,465,485,STG,E1010(何れも商品名、エア・プロダクツ・アンド・ケミカルズ社製)等が挙げられ、これらの1種又は2種以上が用いられる。特にサーフィノール465を用いることが好ましい。また、該シリコーン系化合物としては、市販品としてBYK348(ビックケミージャパン製)等のポリシロキサン系化合物を用いることができる。該アセチレングリコール系化合物及び/又は該シリコーン系化合物は、前記インク中、好ましくは0.01〜5重量%、更に好ましくは0.1〜0.5重量%含有される。
【0054】
また、本発明のインクセットが備える各インクは、インクの乾燥時間を短縮する観点から、低沸点有機溶媒を含むことができる。該低沸点有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、iso−プロプルアルコール、n−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、iso−ブタノール、n−ペンタノール等が挙げられ、これらの1種又は2種以上が用いられる。特に、一価アルコールが好ましい。
【0055】
本発明のインクセットが備える各インクは、前述した顔料、分散剤、高沸点有機溶媒、浸透促進剤、アセチレングリコール系化合物及び/又はシリコーン系化合物等の成分を含有し、通常、バランスとして水を含有するものである。水は、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等の純水又は超純水を用いることが好ましい。特に、これらの水を、紫外線照射又は過酸化水素添加等により滅菌処理した水は、長期間に亘ってカビやバクテリアの発生が防止されるので好ましい。
【0056】
本発明のインクセットが備える各インクには、更に必要に応じて、水溶性ロジン類等の定着剤、安息香酸ナトリウム等の防黴剤・防腐剤、アロハネート類等の酸化防止剤・紫外線吸収剤、キレート剤、酸素吸収剤、pH調整剤等の添加剤を含有させることができ、これらの1種又は2種以上が用いられる。
【0057】
本発明のインクセットが備える各インクは、従来公知の装置、例えば、ボールミル、サンドミル、アトライター、バスケットミル、ロールミル等を使用して、従来の顔料インクと同様に調製することができる。調製に際しては、メンブレンフィルターやメッシュフィルター等を用いて粗大粒子を除去することが好ましい。
【0058】
本発明のインクセットは、画像を形成するための記録媒体として塗工層を有するメディアに適用(画像を形成)する場合に、各インクの該メディア上でのDuty20%のL*値(CIELAB色空間において定義されるL*値)が下記の範囲内になるものが好ましい。
(Y);85〜95、(M);70〜80、(C);70〜80、(R);62〜72
尚、このDuty20%のL*値は、グレタグ社製「SPM−50」を用い、光源D50、視野角2度で測定することができる(以下、同様)。
【0059】
本明細書において、「塗工層を有するメディア」とは、前述したインクセットを用いて画像を形成する面(被記録面)が少なくとも塗工層で被覆されているものの全てを意味する。この塗工層を有するメディアは、通常、85度光沢度が120以下のものが用いられる。ここで、85度光沢度は、日本電色工業株式会社製の「PG1M」等を用いて測定される。尚、測定に際しては、標準光沢板の85度光沢度が100を示すように予め測定装置を調整しておく。
【0060】
塗工層を有するメディアとしては、85度光沢度が70〜120である鏡面調メディア、例えば、1m以上離れたところから蛍光灯を当てた場合に該蛍光灯の写像の輪郭が目視で確認できるような樹脂コート層を有するメディア等が挙げられ、その代表的な一例として、85度光沢度が81であるセイコーエプソン社製の「PGPP(Premium Glossy Photo Paper)」が挙げられる。
また、塗工層を有するメディアの別の例としては、85度光沢度が10〜70であるセミグロス調メディアや、85度光沢度が10以下であるマット調メディア等が挙げられる。
【0061】
また、本明細書において、「Duty」とは、下記式で定義され、算出される値Dの単位を示すものである。
D=〔実印字ドット数/(縦解像度×横解像度)〕×100
また、Duty100%とは、画素に対する単色の最大インク重量を意味する。
【0062】
また、本発明のインクセットにおいては、マゼンタインクの塗工層を有するメディア上でのDuty20%のL*値が、レッドインクの塗工層を有するメディア上でのDuty20%のL*値の1.0〜1.2倍となるような、マゼンタインク及びレッドインクの組合せが好ましい。
【0063】
また、本発明のインクセットにおいては、シアンインクの塗工層を有するメディア上でのDuty20%のL*値も、レッドインクの塗工層を有するメディア上でのDuty20%のL*値の1.0〜1.2倍となるような、シアンインク及びレッドインクの組合せが好ましい。
【0064】
本発明のインクセットは、ヴァイオレットインクを備える場合には、該インクの塗工層を有するメディア上でのDuty20%のL*値が(Vi);47〜57の範囲内にあるものが好ましい。
【0065】
この場合には、マゼンタインクの塗工層を有するメディア上でのDuty20%のL*値が、ヴァイオレットインクの塗工層を有するメディア上でのDuty20%のL*値の1.4〜1.6倍となるような、マゼンタインク及びヴァイオレットインクの組合せが好ましい。
【0066】
また、同様の場合に、シアンインクの塗工層を有するメディア上でのDuty20%のL*値も、ヴァイオレットインクの塗工層を有するメディア上でのDuty20%のL*値の1.4〜1.6倍となるような、マゼンタインク及びヴァイオレットインクの組合せが好ましい。
【0067】
本発明のインクセットは、その用途に特に制限はないが、ノズルからインクの液滴を吐出させ、該液滴を記録媒体に付着させて文字や図形等の画像を形成する記録方法であるインクジェット記録方法に用いられることが好ましく、特にオンデマンド型のインクジェット記録方法に用いられることが好ましい。オンデマンド型のインクジェット記録方法としては、例えば、プリンターヘッドに配設された圧電素子を用いて記録を行う圧電素子記録方法、プリンターヘッドに配設された発熱抵抗素子のヒーター等による熱エネルギーを用いて記録を行う熱ジェット記録方法等が挙げられ、何れのインクジェット記録方法にも好適に使用できる。
【0068】
また、本発明のインクセットは、前記のようにインクジェット記録方法に用いた場合に、インクジェット記録用インクセットとして信頼性が高いものであり、特に、インクセット中の各インクを、インクジェットプリンタのノズルの目詰り等を起こさない程度の顔料濃度とすることにより、色再現性が広いにもかかわらず、インクジェット記録用インクセットとして信頼性が更に高いものとなる。
【0069】
〔記録方法〕
次に、本発明の記録方法について説明する。
本発明は、前述したインクセットを用いて画像を形成する記録方法、即ち前述した所定の各L*値を有する、イエローインク(Y)、マゼンタインク(M)、シアンインク(C)及びレッドインク(R)を少なくとも備えるインクセットを用いて画像を形成する方法であり、特に、前述した実施形態のインクセットを用いる記録方法が好適である。尚、本発明の記録方法は、前記インクセットを用いる点以外については、通常のインクジェット記録方法等と同様にして実施される。
【0070】
本発明の記録方法としては、特に、複数色の前記インクの液滴をそれぞれ吐出させ、記録媒体上に、YMCのうち1色(単色)を形成する場合には、その色に対応するインクにより画像を形成し、2次色以上の混色部分(YMCインク単独では形成できない色)を形成する場合には、YMCインクのうち少なくとも2種とRインク、又はYMCインクのうち少なくとも2種とRインクと前述した所定のL*値を有するヴァイオレットインク(Vi)、又はこれらインクに加えてフォトブラックインク(PK)やマットブラックインク(MK)により、該混色部分を形成するインクジェット記録方法を好適に提供するものである。
【0071】
また、本発明の記録方法としては、2次色以上の混色部分を形成する場合に、形成する記録画像の記録媒体上でのCIELAB色空間において定義される知覚色度指数a*及びb*の範囲に応じて、以下の如き組み合わせで各インクを用いることが、メタメリズムの低減された高品質な画像が得られるため好ましい。
【0072】
即ち、前記覚色度指数a*及びb*が、それぞれ、a* =約−50〜約50、b* =約−50〜約50の範囲にある混色部分、即ち、白色と黒色との間の色相群の1色(例えば、グレー色)の混色部分を形成する場合、少なくとも、イエロー、マゼンタ及びシアンの3色のインクと、レッドインク及び/又はヴァイオレットインクとを用いる。また、これらのインク以外のインク、例えば、フォトブラックインク、マットブラックインク等を更に備えて適宜用いてもよい。
【0073】
上記のように白色と黒色との間の色相群の1色の混色部分を形成する場合、レッドインク及び/又はヴァイオレットインクの単位面積当たりのインク打ち込み量は、該混色部分の形成に用いられるインク総打ち込み量に対して、好ましくは10〜90重量%更に好ましくは、30〜50重量%である。
【0074】
また、前記知覚色度指数a*及びb*が、それぞれ、a* =約−40〜約90、b* =約−40〜約100の範囲にある混色部分、即ち、イエロー色とマゼンタ色との間の色相群の1色(例えば、オレンジ色や赤色)の混色部分を形成する場合、少なくとも、イエロー及びマゼンタの2色のインクと、レッドインクとを用いる。この場合、レッドインクの単位面積当たりのインク打ち込み量は、該混色部分の形成に用いられるインクの総打ち込み量に対して、好ましくは、10〜90重量%、更に好ましくは、30〜50重量%である。
【0075】
また、前記知覚色度指数a* 及びb* が、それぞれ、a* =約−50〜約100、b* =約−10〜約−80の範囲にある混色部分、即ち、マゼンタ色とシアン色との間の色相群の1色(例えば、ヴァイオレット色や青色)の混色部分を形成する場合、少なくとも、マゼンタとシアンの2色のインクと、ヴァイオレットインクとを用いる。この場合、ヴァイオレットインクの単位面積当たりのインク打ち込み量は、該混色部分の形成に用いられるインクの総打ち込み量に対して、好ましくは、10〜90重量%、更に好ましくは、30〜50重量%である。
【0076】
本発明の記録方法においては、単色の画像を形成する場合に、イエローインク、マゼンタインク、レッドインクをそれぞれ単独で使用し、2次色以上の混色部分を形成する場合に、イエローインク、マゼンタインクを混合して使用するか、イエローインク、マゼンタインク、レッドインクを混合して使用するか、又はイエローインク、マゼンタインク、レッドインク、マットブラックインクを混合して使用することが、色再現性に特に優れる点で好ましい。
【0077】
この際、単独で使用するインクの最大Dutyは、適用する記録媒体の種類に応じて適宜選択できるが、60〜120%とすることが好ましく、その最大インク量は、7〜16mg/inch2 とすることが好ましい。また、混合して使用するインクの最大Dutyは、80〜130%とすることが好ましく、その最大インク量は、9〜18mg/inch2 とすることが好ましい。
【0078】
また、本発明の記録方法においては、単色の画像を形成する場合に、マゼンタインク、シアンインク、ヴァイオレットインクをそれぞれ単独で使用し、2次色以上の混色部分を形成する場合に、マゼンタインク、シアンインク、ヴァイオレットインクを混合して使用することが、メタメリズムの抑制に特に優れる点で好ましい。
【0079】
この際にも、単独で使用するインクの最大Dutyは、適用する記録媒体の種類に応じて適宜選択できるが、60〜120%とすることが好ましく、その最大インク量は、7〜16mg/inch2 とすることが好ましい。また、混合して使用するインクの最大Dutyは、80〜130%とすることが好ましく、その最大インク量は、9〜18mg/inch2 とすることが好ましい。
【0080】
また、本発明の記録方法は、インクジェット記録方法等において通常用いられる記録媒体に制限なく適用できるが、以下に説明するように、特に、塗工層を有するメディアや、普通紙(被記録面に繊維が露呈している記録媒体)に適用する場合には有用である。
【0081】
即ち、本発明の記録方法を、塗工層を有するメディアに適用する場合には、画像を形成した際のドット表現による粒状性の目立ちを極めて抑制することができ、高品質な画像を得ることができる。
【0082】
本発明の記録方法においては、塗工層を有するメディアに適用する場合には、前記インクセット中の各インクの該メディア上でのDuty20%のL*値が下記の範囲内になるように行うことが好ましい。
(Y);85〜95、(M);70〜80、(C);70〜80、(R);62〜72
【0083】
また、本発明の記録方法においては、塗工層を有するメディアに適用する場合に、マゼンタインクの塗工層を有するメディア上でのDuty20%のL*値が、レッドインクの塗工層を有するメディア上でのDuty20%のL*値の1.0〜1.2倍となるように行うことが好ましい。
【0084】
また、本発明の記録方法においては、塗工層を有するメディアに適用する場合に、シアンインクの塗工層を有するメディア上でのDuty20%のL*値も、レッドインクの塗工層を有するメディア上でのDuty20%のL*値の1.0〜1.2倍となるように行うことが好ましい。
【0085】
さらに、本発明の記録方法においては、塗工層を有するメディアに適用する場合に、更にヴァイオレットインクを用いて、該インクの塗工層を有するメディア上でのDuty20%のL*値が(Vi);47〜57の範囲内となるように行うことが好ましい。
【0086】
同様の場合に、ヴァイオレットインクを用いるときには、マゼンタインクの塗工層を有するメディア上でのDuty20%のL*値が、ヴァイオレットインクの塗工層を有するメディア上でのDuty20%のL*値の1.4〜1.6倍となるように行うことが好ましい。
【0087】
また、同様の場合に、ヴァイオレットインクを用いるときには、シアンインクの塗工層を有するメディア上でのDuty20%のL*値も、ヴァイオレットインクの塗工層を有するメディア上でのDuty20%のL*値の1.4〜1.6倍となるように行うことが好ましい。
【0088】
一方、本発明の記録方法を、普通紙(被記録面に繊維が露呈している記録媒体)に適用する場合には、混色部分の画像を形成する際に、インクの打ち込み量を比較的少量にして、高発色の画像を形成できるので、紙シワ等の変形や、紙の裏面への着色を抑制することができる。また、前述したインクセットを用いる本発明の記録方法によれば、普通紙において発色性が極めて優れた記録画像が得られ、特に従来得られなかった高彩度で低明度(暗部)の発色が可能となる。
【0089】
普通紙としては、例えば、「XeroxP」、「Xerox4024」(以上、商品名、Xerox社製)、上質普通紙(セイコーエプソン社製)等が好適である。
【0090】
本発明の記録方法においては、Duty100%のインク重量が、7〜13mg/inch2 、特に7〜10mg/inch2 となるように画像を形成することが好ましい。
【0091】
〔記録システム〕
本発明は、前述したインクセットを用いて画像を形成する記録システムであり、特に、前述した実施形態のインクセットを用いるインクジェットプリンタ等の記録装置その他の記録システムが好適である。
【0092】
〔記録物〕
本発明は、前述したインクセットを用いて画像が形成されてなる記録物であり、特に、前述した実施形態のインクセットを用いたものが好適である。
【0093】
〔変更形態〕
本発明は、前述した各実施形態を好適に提供するものであるが、これらの実施形態に限定されず、その趣旨を逸脱しない範囲内で種々の変更が可能である。
【実施例1】
【0094】
以下に、本発明の実施例及び試験例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は、斯かる実施例により何等制限されるものではない。
【0095】
〔実施例のインクセット〕
下記組成のイエローインク、マゼンタインク、シアンインク、レッドインク、ヴァイオレットインク、フォトブラックインク、及びマットブラックインクを、それぞれ常法に従い調製した。即ち、着色剤成分を分散剤成分と共に分散させた後、他の成分を加えて混合し、一定以上の大きさの不溶成分を濾過して、インクを調製した。得られた各インクを組み合わせて、実施例のインクセットとした。
【0096】
<イエローインク>
C.I.ピグメントイエロー74 3.0重量%
分散剤(スチレン−アクリル酸共重合体) 1.2重量%
グリセリン 15.0重量%
1,2−ヘキサンジオール 10.0重量%
トリエタノールアミン 0.9重量%
BYK348(シリコン系界面活性剤) 0.3重量%
イオン交換水 残量
計 100.0重量%
【0097】
<マゼンタインク>
C.I.ピグメントヴァイオレット19 2.0重量%
分散剤(スチレン−アクリル酸共重合体) 0.8重量%
グリセリン 15.0重量%
1,2−ヘキサンジオール 10.0重量%
トリエタノールアミン 0.9重量%
BYK348(シリコン系界面活性剤) 0.3重量%
イオン交換水 残量
計 100.0重量%
【0098】
<シアンインク>
C.I.ピグメントブルー15:3 1.5重量%
分散剤(スチレン−アクリル酸共重合体) 0.6重量%
グリセリン 15.0重量%
1,2−ヘキサンジオール 10.0重量%
トリエタノールアミン 0.9重量%
BYK348(シリコン系界面活性剤) 0.3重量%
イオン交換水 残量
計 100.0重量%
【0099】
<レッドインク>
C.I.ピグメントレッド264 2.0重量%
分散剤(スチレン−アクリル酸共重合体) 1.0重量%
グリセリン 15.0重量%
1,2−ヘキサンジオール 10.0重量%
トリエタノールアミン 0.9重量%
BYK348(シリコン系界面活性剤) 0.3重量%
イオン交換水 残量
計 100.0重量%
【0100】
<ヴァイオレットインク>
C.I.ピグメントヴァイオレット23 2.0重量%
分散剤(スチレン−アクリル酸共重合体) 0.8重量%
グリセリン 15.0重量%
1,2−ヘキサンジオール 10.0重量%
トリエタノールアミン 0.9重量%
BYK348(シリコン系界面活性剤) 0.3重量%
イオン交換水 残量
計 100.0重量%
【0101】
<フォトブラックインク>
C.I.ピグメントブラック7 1.5重量%
分散剤(スチレン−アクリル酸共重合体) 1.5重量%
グリセリン 15.0重量%
1,2−ヘキサンジオール 10.0重量%
トリエタノールアミン 0.9重量%
BYK348(シリコン系界面活性剤) 0.3重量%
イオン交換水 残量
計 100.0重量%
【0102】
<マットブラックインク>
C.I.ピグメントブラック7(自己分散型) 6.0重量%
グリセリン 15.0重量%
1,2−ヘキサンジオール 10.0重量%
トリエタノールアミン 0.9重量%
BYK348(シリコン系界面活性剤) 0.3重量%
イオン交換水 残量
計 100.0重量%
【0103】
〔参考例のインクセット〕
下記組成のイエローインク、マゼンタインク、シアンインク、レッドインク、ヴァイオレットインク、フォトブラックインク及びマットブラックインクにそれぞれ替えた以外は、実施例のインクセットと同様にして各インクを調製し、得られた各インクを組み合わせて、参考例のインクセットとした。
【0104】
<イエローインク>
C.I.ピグメントイエロー74 3.0重量%
分散剤(スチレン−アクリル酸共重合体) 1.0重量%
グリセリン 15.0重量%
エチレングリコール 5.0重量%
2−ピロリドン 2.0重量%
1,2−ヘキサンジオール 5.0重量%
オルフィンE1010 0.5重量%
イオン交換水 残量
計 100.0重量%
【0105】
<マゼンタインク>
C.I.ピグメントレッド202 1.5重量%
分散剤(スチレン−アクリル酸共重合体) 0.5重量%
グリセリン 15.0重量%
エチレングリコール 5.0重量%
2−ピロリドン 2.0重量%
1,2−ヘキサンジオール 5.0重量%
オルフィンE1010 0.5重量%
イオン交換水 残量
計 100.0重量%
【0106】
<シアンインク>
C.I.ピグメントブルー15:3 1.5重量%
分散剤(スチレン−アクリル酸共重合体) 0.5重量%
グリセリン 15.0重量%
エチレングリコール 5.0重量%
2−ピロリドン 2.0重量%
1,2−ヘキサンジオール 5.0重量%
オルフィンE1010 0.5重量%
イオン交換水 残量
計 100.0重量%
【0107】
<レッドインク>
C.I.ピグメントレッド178 2.0重量%
分散剤(スチレン−アクリル酸共重合体) 0.7重量%
グリセリン 15.0重量%
エチレングリコール 5.0重量%
2−ピロリドン 2.0重量%
1,2−ヘキサンジオール 5.0重量%
オルフィンE1010 0.5重量%
イオン交換水 残量
計 100.0重量%
【0108】
<ヴァイオレットインク>
C.I.ピグメントヴァイオレット23 2.0重量%
分散剤(スチレン−アクリル酸共重合体) 0.7重量%
グリセリン 15.0重量%
エチレングリコール 5.0重量%
2−ピロリドン 2.0重量%
1,2−ヘキサンジオール 5.0重量%
オルフィンE1010 0.5重量%
イオン交換水 残量
計 100.0重量%
【0109】
<フォトブラックインク>
C.I.ピグメントブラック7 1.5重量%
分散剤(スチレン−アクリル酸共重合体) 1.5重量%
グリセリン 15.0重量%
エチレングリコール 5.0重量%
2−ピロリドン 2.0重量%
1,2−ヘキサンジオール 5.0重量%
オルフィンE1010 0.5重量%
イオン交換水 残量
計 100.0重量%
【0110】
<マットブラックインク>
C.I.ピグメントブラック7(自己分散型) 6.0重量%
グリセリン 15.0重量%
エチレングリコール 5.0重量%
2−ピロリドン 2.0重量%
1,2−ヘキサンジオール 5.0重量%
オルフィンE1010 0.5重量%
イオン交換水 残量
計 100.0重量%
【0111】
(インクの1000倍希釈水溶液のL*値の測定)
実施例及び参考例の各インクセットに用いられる各色インクの1000倍希釈水溶液のCIEで規定のLab表示系におけるL*値を、日立製作所社製のU3300を用いて、次のように測定した。
即ち、縦1cm×横1cm×高さ4cmの4mL容量のセキエイセルを二つ用意し、これをサンプル側のセルとリファレンス側のセルに分け、両セルに純水を加えて、ベースラインを測定し、設定しておいた。リファレンス側のセルをそのままにする一方、サンプル側のセルには、純水に替えてインクの1000倍重量希釈水溶液を入れた。インクの1000倍希釈水溶液は、実施例及び参考例の各インクセットにおける各インク1.00gを1Lビーカーに移し、直ちに純水を加えて、合計1kgにすることにより調製した。
そして、サンプル側のセル及びレファレンス側のセルを測定部にセットし、光源ランプのスリット幅を2.0nmとし、測定間隔のスキャン・スピードを600nm/minとし、透過率が0.0〜100.0%T、380〜800nmの範囲内で、D65光源、視野角2度、ホトマル電圧200V、光源ランプを340nm切り替えでD2ランプとWIランプとする条件下に、L*値を測定した。得られた各インクの1000倍希釈水溶液のL*値を次に示す。
・実施例のインクセット
(Y);91.30、(M);81.08、(C);79.84、(R);66.59、(Vi);49.01、(PB);54.40、(MB);4.55
・参考例のインクセット
(Y);91.30、(M);84.18、(C);79.84、(R);70.89、(Vi);49.01、(PB);54.40、(MB);4.55
【0112】
〔試験例1〕塗工層を有するメディアへの適用
実施例及び参考例の各インクセットを用いて、インクジェットプリンタPM900C(セイコーエプソン社製)により、塗工層を有するメディアとしてのPGPP(PM写真用紙)(セイコーエプソン社製)に対して、Duty10〜100%(単色の場合)、10〜120%(複数のインクを任意に混ぜた場合)で印字した。印字に際しては、2次色以上の混色部分を形成する場合に、YMCインクのうち少なくとも2種と、R、Viインクにより該混色部分を形成した。また、この場合に、前記知覚色度指数a*及びb*の範囲に応じた前述の好適な組み合わせで各インクを用いた。具体的には、前記覚色度指数a*及びb*が、それぞれ、a* =約−50〜約50、b* =約−50〜約50の範囲にある混色部分を形成する場合には、YMCインクと、R、Viインク、更にはPKインクを用いる等して、日本規格協会SCIDサンプル「自転車」の絵画像を1440×720dpiで印刷した。
【0113】
また同様にして、PM写真紙に、1440×720dpiでPM900Cを用いて次の各インク重量表(表1及び表2)に従って、記録物を得た。尚、下記表1及び表2中のカラーインク1,2は、イエローインク、マゼンタインク、シアンインク、レッドインク、ヴァイオレットインクの何れか二を示し、また、下記表2中のインク3は、レッドインク、ヴァイオレットインク、フォトブラックインクの何れか一を示す。
【0114】
【表1】

【0115】
【表2】

【0116】
このとき、PM写真用紙上でのDuty20%の単色のL*値(ブラック以外の各インクによる画像のL*値)は下記の通りであった(このL*値の測定法;グレタグ社製「SPM−50」を用い、光源D50、視野角2度で測定)。
【0117】
・実施例のインクセットによるPM写真用紙上でのDuty20%のL*値;
(Y);90.07、(M);74.34、(C);74.41、(R);63.30、(Vi);52.17
・参考例のインクセットによるPM写真用紙上でのDuty20%のL*値;
(Y);90.07、(M);75.01、(C);74.41、(R);67.63、(Vi);52.17
【0118】
(ガマット(Gamut)体積の評価)
得られた記録物のガマット体積を測定した。ガマット体積の測定は、グレタグ社製グレタス・マクベスSPM50を用いて、D50光源、フィルターなし、視野角2°にて測定し、CIEで規定のL***表色系で、L*=1,a*=1,b*=1からなる立方体の体積を1とした場合の体積を求めた。その結果、実施例及び参考例の各インクセットによって得られた印字画像はともに、約650,000以上であり、色再現範囲の広い画像であった。
【0119】
(粒状性の評価)
実施例及び参考例の各インクセットによって得られた記録物(インク3がフォトブラックの場合を除く。)のDuty20%以下の部分はL*値が50以上であり、共に粒状性を確認し難く、優れた品質の画像であった。
【0120】
(光沢付与性の評価)
得られた印字部分に約2m離れたところから蛍光灯をあて、蛍光灯の輪郭が確認できるかを目視で判断した。その結果、実施例及び参考例の各インクセットによって得られた印字画像はともに、照明の形状が認識できるものであり、光沢性に優れるものであった。
【0121】
〔試験例2〕普通紙への適用
(YMRの彩度・明度評価)
実施例及び参考例の各インクセットを用いて、インクジェットプリンタPM900C(セイコーエプソン社製)により、普通紙(「XeroxP」、ゼロックス社製)に対して、720×720dpiで、イエローインク、マゼンタインク、レッドインクをそれぞれ単色で使用する場合には、最大Duty66%(最大インク量;7.2mg/inch2 )とし、一方、イエローインク、マゼンタインク、レッドインク、マットブラックインクを混色で使用する場合には、最大Duty86%(最大インク量;10.5mg/inch2 )として印字し、記録物を得た。尚、印字に際しては、2次色以上の混色部分を形成する場合に、試験例1と同様にして該混色部分を形成した。具体的には、下記の各色インク重量表(表3及び表4)に従った。
【0122】
【表3】

【0123】
【表4】

【0124】
得られた記録物を「グレタグマクベスSPM−50」(グレタグ社製)を用いて、D50光源、フィルターなし、視野角2度にて測定し、CIEで規定のLab表示系の値を得た。この値から、実施例のインクセットによって得られた記録物の画像は、参考例のインクセットによって得られた記録物の画像に比して、色相角0〜20度の彩度が優れており、また、高彩度且つ低明度な発色の画像が得られることが判った。
【0125】
(MCViの彩度・明度評価)
実施例及び参考例の各インクセットを用いて、インクジェットプリンタPM900C(セイコーエプソン社製)により、普通紙(「XeroxP」、ゼロックス社製)に対して、720×720dpiで、マゼンタインク、シアンインク、ヴァイオレットインクをそれぞれ単色で使用する場合には、最大Duty66%(最大インク量;7.2mg/inch2 )とし、一方、マゼンタインク、シアンインク、ヴァイオレットインクを混色で使用する場合には、最大Duty86%(最大インク量;10.5mg/inch2 )として印字し、記録物を得た。尚、印字に際しては、2次色以上の混色部分を形成する場合に、試験例1と同様にして該混色部分を形成した。具体的には、前記各色インク重量表(表3及び表4)に従った。
【0126】
得られた記録物を「グレタグマクベスSPM−50」(グレタグ社製)を用いて、D50光源、フィルターなし、視野角2度にて測定し、CIEで規定のLab表示系の値を得た。この値から、実施例のインクセットを用いて得られた記録物は、参考例のインクセットを用いて得られた記録物と同等の発色性に優れた画像を有するものであることが判った。
【0127】
〔試験例3〕塗工層を有するメディアへの適用(その2)
実施例及び参考例の各インクセットを用いて、インクジェットプリンタPM900C(セイコーエプソン社製)により、塗工層を有するメディアとしてのPGPP(PM写真用紙)(セイコーエプソン社製)に対して、720×720dpiで、イエローインク、マゼンタインク、レッドインクをそれぞれ単色で使用する場合には、最大Duty100%(最大インク量;13mg/inch2 )とし、一方、イエローインク及びマゼンタインクを混色で使用する場合には、最大Duty120%(最大インク量;16mg/inch2 )として印字し、記録物を得た。尚、印字に際しては、2次色以上の混色部分を形成する場合に、試験例1と同様にして該混色部分を形成した。
【0128】
(メタメリズムの評価)
得られた記録物を「グレタグマクベスSPM−50」(グレタグ社製)を用いて、フィルターなし、視野角2度にて、D50光源とA光源の2種類で測定し、CIEで規定のLab表示系の値を得た。この値から、実施例のインクセットによって得られた記録物の画像は、色相角20〜30度においてL*値が53以下の発色を有し、且つ参考例のインクセットによって得られた記録物の画像に比して、メタメリズムの低減された高品質な画像が得られることが判った。
【0129】
〔試験例4〕塗工層を有するメディアへの適用(その3)
実施例及び参考例の各インクセットを用いて、インクジェットプリンタPM900C(セイコーエプソン社製)により、塗工層を有するメディアとしてのPGPP(PM写真用紙)(セイコーエプソン社製)に対して、720×720dpiで、イエローインク、マゼンタインク、レッドインクをそれぞれ単色で使用する場合には、最大Duty100%(最大インク量;13mg/inch2 )とし、一方、イエローインク、マゼンタインク及びレッドインクを混色で使用する場合には、最大Duty120%(最大インク量;16mg/inch2 )として印字し、記録物を得た。尚、印字に際しては、2次色以上の混色部分を形成する場合に、試験例1と同様にして該混色部分を形成した。
【0130】
(発色性・メタメリズムの評価)
得られた記録物を「グレタグマクベスSPM−50」(グレタグ社製)を用いて、フィルターなし、視野角2度にて、D50光源とA光源の2種類で測定し、CIEで規定のLab表示系の値を得た。この値から、実施例のインクセットによって得られた記録物の画像は、色相角20〜30度においてL*値が53以下の発色を有し、且つ参考例のインクセットによって得られた記録物の画像に比して、メタメリズムの低減された高品質な画像が得られることが判った。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イエローインク(Y)、マゼンタインク(M)、シアンインク(C)及びレッドインク(R)を少なくとも備えるインクセットであって、前記各インクの1000倍希釈水溶液のCIEで規定のLab表示系におけるL*値が、下記の範囲内にあり、
前記イエローインクが顔料を2.0〜4.0重量%含み、前記マゼンタインクが顔料を1.7〜3.0重量%含み、前記シアンインクが顔料を0.5〜2.5重量%含み、前記レッドインクが顔料を1.8〜2.4重量%含む、
インクセット。
(Y);89以上94以下、(M);76以上83未満、(C);74以上87以下、(R);62以上67.5未満
【請求項2】
前記イエローインクがC.I.ピグメントイエロー74を2.0〜4.0重量%含み、前記マゼンタインクがC.I.ピグメントヴァイオレット19を1.7〜3.0重量%含み、前記シアンインクがC.I.ピグメントブルー15:3を0.5〜2.5重量%含み、前記レッドインクがC.I.ピグメントレッド264を1.8〜2.4重量%含む、請求項1記載のインクセット。
【請求項3】
更に、1000倍希釈水溶液のCIEで規定のLab表示系におけるL*値が40以上58以下の範囲内にあるヴァイオレットインク(Vi)を備える、請求項1又は2記載のインクセット。
【請求項4】
前記ヴァイオレットインクがC.I.ピグメントヴァイオレット23を1.0〜3.0重量%含む、請求項3記載のインクセット。
【請求項5】
前記各インクが、色材としての顔料とともに、該顔料を分散するための分散剤を該顔料に対して20〜80重量%含む、請求項1〜4の何れかに記載のインクセット。
【請求項6】
更に、カーボンブラックを3.0重量%以下含むフォトブラックインク(PK)を備える、請求項1〜5の何れかに記載のインクセット。
【請求項7】
前記フォトブラックインクが、色材としての顔料とともに、該顔料を分散するための分散剤を該顔料に対して60〜120重量%含む、請求項6記載のインクセット。
【請求項8】
更に、カーボンブラックを3.0重量%超含むマットブラックインク(MK)を備える、請求項1〜7の何れかに記載のインクセット。
【請求項9】
前記マットブラックインクが、色材としての自己分散型の顔料を含み且つ分散剤を含まない、請求項8記載のインクセット。
【請求項10】
前記各インクが、高沸点有機溶媒を0.1〜30重量%含む、請求項1〜9の何れかに記載のインクセット。
【請求項11】
前記各インクが、浸透促進剤を1〜20重量%含む、請求項1〜10の何れかに記載のインクセット。
【請求項12】
前記各インクが、アセチレングリコール系化合物及び/又はシリコーン系化合物を0.1〜5重量%含む、請求項1〜11の何れかに記載のインクセット。
【請求項13】
請求項1〜12の何れかに記載のインクセットを用いて画像を形成する記録方法。

【公開番号】特開2010−168586(P2010−168586A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−47315(P2010−47315)
【出願日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【分割の表示】特願2002−320440(P2002−320440)の分割
【原出願日】平成14年11月1日(2002.11.1)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】