説明

インクセット

【課題】下地の白色インク上に記録されるカラー画像の発色性及び耐擦過性に優れた白色のインクセットを提供する。
【解決手段】白色色材の質量割合が互いに異なる濃白色インク組成物及び淡白色インク組成物を含有するインクセットであって、前記濃白色インク組成物及び前記淡白色インク組成物がいずれも、白色色材及びウレタン樹脂を少なくとも含み、前記濃白色インク組成物中のウレタン樹脂の質量割合E1と白色色材の質量割合P1との比(E1/P1)が、前記淡白色インク組成物中のウレタン樹脂の質量割合E2と白色色材の質量割合P2との比(E2/P2)よりも小さく、かつ、前記濃白色インク組成物中の前記ウレタン樹脂の質量割合E1と前記淡白色インク組成物中の前記ウレタン樹脂の質量割合E2とが互いに異なる、インクセットである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクセットに関する。より具体的には、本発明は濃淡白色インクセットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、画像の品質を高める目的で、インクの重ね打ち(重ね塗り)がよく行われている。その代表的なパターンの一つとして、背景色である下地の白色インクと上地のカラーインクとの組み合わせが挙げられる。
【0003】
このうち、白色インクとしては、例えば特許文献1に開示されているように、白色色材として中空ポリマー微粒子を含有させた白色インク組成物が知られている。この中空ポリマー微粒子は、その内部に空洞を有しており、その外殻が液体透過性の樹脂から形成されている。このような構造により、インク組成物中では、中空樹脂粒子の内部空洞は溶媒によって満たされて中空樹脂粒子の比重とインク組成物の比重とが実質的に同一になるため、中空樹脂粒子はインク組成物中に安定的に分散することができる。そして、このインク組成物を用いて被記録媒体上に画像を形成すると、乾燥時に中空樹脂粒子の内部空間が空気で置換されるため、中空樹脂粒子は、その外殻と空洞の間における光の屈折率の差により生じる光散乱によって隠蔽効果を発揮し、白色を呈する。一般的に、中空樹脂粒子自体はアクリル等の透明樹脂により形成されている。他方、白色色材として金属酸化物などを含有させた白色インク組成物も知られている。
【0004】
また、例えば特許文献2〜4には、白色インク組成物又は着色インク組成物の噴射安定性や保存安定性を良好にする技術が開示されている。
さらに、例えば特許文献5には、シアンインク組成物及び/又はマゼンタインク組成物である濃インク組成物と、ライトシアンインク組成物及び/又はライトマゼンタインク組成物である淡インク組成物と、からなり、濃インク組成物及び淡インク組成物が特定の関係を有するインクセットが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第4,880,465号明細書
【特許文献2】特開2000−103995号公報
【特許文献3】特開2000−239585号公報
【特許文献4】特開2006−56990号公報
【特許文献5】特開2005−68439号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1等に開示された上記の白色インク組成物を用いた場合、記録物上におけるカラー画像の耐擦過性が不十分である。また、特許文献2〜4に開示された技術はいずれも、カラー画像の発色性及び耐擦過性の点で改善の余地がある。さらに、特許文献5に開示のインクセットは、シアン、マゼンタ、ライトシアン、及びライトマゼンタから選択されるカラーインク組成物を用いており、その他の色のインク組成物からなるインクセットは当該文献に何ら開示されていない。
【0007】
また、下地の白色インクに用いられる白色色材は、一般に、他の着色色材に比して比重が大きいため、特に凝集しやすいという問題が生じる。この問題は、カラー画像の発色性及び耐擦過性に直接影響する。そのため、下地の白色インク上に記録されるカラー画像の発色性及び耐擦過性に優れた白色のインクセットが強く求められている。
【0008】
そこで、本発明の目的は、下地の白色インク上に記録されるカラー画像の発色性及び耐擦過性に優れた白色のインクセットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討した。画像中、カラーインクの下層に位置する白色インクは、隠蔽度を増大させる必要があるものの、それよりも白色インク上に記録されるカラー画像の品質を向上させる必要がある。
【0010】
そこで、背景色である下地の白色インクとして、濃白色インクと淡白色インクとを含む濃淡白色インクセットを使用することを試みた。その理由は、濃白色インクを用いると白さが強まる一方で被記録媒体の表面に凹凸が目立つものの、淡白色インクによりその凹凸を整えることができると考えたからである。結果として、淡白色インクを用いることにより、下地インクの印刷面が平滑になるため、カラーインクの発色性が良好となることを見出した。しかし、得られる画像を調べると、カラー印刷面の耐擦過性に劣る場合があることが分かった。
【0011】
そのため、さらに、濃白色インク及び淡白色インクにウレタン樹脂を含有させ、且つ淡白色インクに含まれるウレタン樹脂の量が多くなるよう、濃白色インクと淡白色インクとの間の白色色材及びウレタン樹脂の量(濃度)を所定の関係に設定した。その結果、この関係を満たす場合に、カラー印刷面の耐擦過性が良好なものとなることを見出し、本発明を完成させた。
【0012】
すなわち、本発明は、以下の通りである。
[1]
白色色材の質量割合が互いに異なる濃白色インク組成物及び淡白色インク組成物を含有するインクセットであって、前記濃白色インク組成物及び前記淡白色インク組成物がいずれも、白色色材及びウレタン樹脂を少なくとも含み、前記濃白色インク組成物中のウレタン樹脂の質量割合E1と白色色材の質量割合P1との比(E1/P1)が、前記淡白色インク組成物中のウレタン樹脂の質量割合E2と白色色材の質量割合P2との比(E2/P2)よりも小さく、かつ、前記濃白色インク組成物中の前記ウレタン樹脂の質量割合E1と前記淡白色インク組成物中の前記ウレタン樹脂の質量割合E2とが互いに異なる、インクセット。
[2]
前記濃インク組成物中のウレタン樹脂の質量割合E1が、前記淡インク組成物中のウレタン樹脂の質量割合E2よりも大きい、[1]に記載のインクセット。
[3]
前記濃インク組成物中のウレタン樹脂の質量割合E1が、前記淡インク組成物中のウレタン樹脂の質量割合E2よりも小さい、[1]に記載のインクセット。
[4]
前記濃白色インク組成物中の前記ウレタン樹脂の質量割合E1と前記白色色材の質量割合P1との比(E1/P1)が0.05〜0.15であり、前記淡白色インク組成物中の前記ウレタン樹脂の質量割合E2と前記白色色材の質量割合P2との比(E2/P2)が0.1〜0.4である、[1]〜[3]のいずれかに記載のインクセット。
[5]
前記ウレタン樹脂が、アニオン性のウレタンエラストマー樹脂及び自己架橋性ウレタン樹脂のうち少なくともいずれかである、[1]〜[4]のいずれかに記載のインクセット。
[6]
前記白色色材が、金属化合物及び中空樹脂粒子のうち少なくともいずれかである、[1]〜[5]のいずれかに記載のインクセット。
[7]
前記ウレタン樹脂は、エマルジョンタイプのウレタン樹脂であり、前記白色色材の外径の平均粒子径に対する前記ウレタン樹脂の平均粒子径の比が、0.05〜0.5である、[1]〜[6]のいずれかに記載のインクセット。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に制限されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0014】
本明細書において、「(メタ)アクリレート」は、アクリレート及びそれに対応するメタクリレートを意味し、「(メタ)アクリル」はアクリル及びそれに対応するメタクリルを意味する。また、「カラー」は、背景色としての白色を除く全ての有色を意味する。
【0015】
また、本明細書において、「濃淡白色インクセット」とは、濃白色インクと淡白色インクとを含有するインクセットを意味し、以下では単に「インクセット」ともいう。濃淡白色インクセットにおける「濃淡」とは、白色色材の質量割合(白色の濃度)の大小をいう。
【0016】
また、本明細書において、「白色のインク」とは、エプソン純正写真用紙<光沢>(セイコーエプソン社製)に対しduty100%以上で吐出されたインクの明度(L*)及び色度(a*、b*)が、分光測光器Spectrolino/Spectroscan(GretagMacbeth社製)を用いて、下記の測定条件で計測した場合に、下記の各範囲を示すインクのことをいう。
・測定条件:D50光源、観測視野を2°、濃度をDIN_NB、白色基準をAbs、フィルターをNo、測定モードをReflectance、として設定。
・L*、a*、及びb*の各範囲:
70≦L*≦100
−4.5≦a*≦2
−6≦b*≦2.5
したがって、本明細書における「白色」は、文言通りの白色のみならず、薄いグレーやクリーム色等も含まれる。
【0017】
また、本明細書において、「duty」とは、下式で算出される値であり、印字duty又は印字率と換言することができる。
duty(%)=実印字ドット数/(縦解像度×横解像度)×100
(式中、「実印字ドット数」は単位面積当たりの実印字ドット数であり、「縦解像度」及び「横解像度」はそれぞれ単位面積当たりの解像度である。)
【0018】
また、本明細書において、「耐擦過性」とは、印刷により形成された画像の表面に、擦れなどの物理的な力が作用する場合に、色材が画像表面から剥がれ落ちないようにする、物理的な力に対する画像表面における耐性をいう。「発色性」とは、各色が発現する濃度が高いことを意味する。「定着性」とは、被記録媒体に対してインク(インクの塗膜)が密着する性質をいう。「階調」とは、画像における色の濃淡の変化の度合い、グラデーション表現のことをいい、優れた階調性は、色と明暗のバランスに優れた滑らかな色、濃淡表現を意味する。「色再現性」とは、プリンターとして色を表現する能力が高いことを意味する。「吐出安定性」とは、ノズルの目詰まりがなく常に安定したインク滴をノズルから吐出させる性質をいう。
【0019】
[インクセット]
本発明の一実施形態は、インクセット、即ち濃淡白色インクセットに係る。当該インクセットは、白色色材の質量割合が互いに異なる濃白色インク組成物及び淡白色インク組成物を含有する。
【0020】
これに加えて、当該インクセットにおいて、前記濃白色インク組成物及び前記淡白色インク組成物がいずれも、白色色材及びウレタン樹脂を少なくとも含み、前記濃白色インク組成物中のウレタン樹脂の質量割合E1と白色色材の質量割合P1との比(E1/P1)が、前記淡白色インク組成物中のウレタン樹脂の質量割合E2と白色色材の質量割合P2との比(E2/P2)よりも小さいという関係がある。当該関係においては、P1の方がP2よりも常に大きい。
なお、本明細書において、ウレタン樹脂の質量割合は、固形分換算量である。
【0021】
濃淡白色インクセットを用いる意義は、ウレタン樹脂による光の散乱現象を利用し、光の散乱効果によって画像を一層白く見せる点にある。
【0022】
さらに、上記の関係に加えて、当該インクセットにおいて、前記濃白色インク組成物中の前記ウレタン樹脂の質量割合E1と前記淡白色インク組成物中の前記ウレタン樹脂の質量割合E2とが互いに異なる。
【0023】
上記のように、(E1/P1)が(E2/P2)よりも小さく、且つE1とE2とが互いに異なる場合、記録された画像中で、カラーと白色とが重なった印刷面において、白色インク上に記録されるカラー画像の発色性及び耐擦過性が良好となる。
【0024】
前記濃白色インク組成物中のウレタン樹脂の質量割合E1と前記淡白色インク組成物中のウレタン樹脂の質量割合E2との関係は、E1>E2であってもよい。この場合、より高い白色度が得られる。
【0025】
前記濃白色インク組成物中のウレタン樹脂の質量割合E1と前記淡白色インク組成物中のウレタン樹脂の質量割合E2との関係は、E1<E2であってもよい。この場合、定着性が一層良好なものとなる。
【0026】
濃白色インク組成物中のウレタン樹脂の質量割合E1と白色色材の質量割合P1との比(E1/P1)は、0.05〜0.15であることが好ましく、0.08〜0.12であることがより好ましい。併せて、前記淡白色インク組成物中のウレタン樹脂の質量割合E2と白色色材の質量割合P2との比(E2/P2)は、0.1〜0.4であることが好ましく、0.15〜0.3であることがより好ましい。(E1/P1)及び(E2/P2)がそれぞれ上記範囲内であると、定着性に優れるとともに、背景色としてこれら白色インクを用いた場合に、その上面のカラーインクの発色性にも優れる。
【0027】
[インクセットを構成するインク組成物]
濃淡白色インクセットを構成する濃白色インク組成物及び淡白色インク組成物(以下、まとめて「インク組成物」ともいう。)は、それぞれ別のインクカートリッジに充填される。濃白色インク組成物及び淡白色インク組成物はいずれも、白色色材及びウレタン樹脂を少なくとも含む。以下、インク組成物の各成分を詳細に説明する。
【0028】
〔白色色材〕
本実施形態におけるインク組成物に使用される白色色材としては、例えば、白色染料、又は、白色無機顔料、白色有機顔料、及び白色の中空樹脂粒子などの白色顔料を用いることができる。これらの中でも、中空樹脂粒子や二酸化チタンに代表される白色顔料が、高い白色度及び適度な隠蔽性が得られるため、好ましい。
【0029】
白色無機顔料として、特に限定されないが、例えば、硫酸バリウム等のアルカリ土類金属の硫酸塩、炭酸カルシウム等のアルカリ土類金属の炭酸塩、微粉ケイ酸や合成ケイ酸塩等のシリカ類、ケイ酸カルシウム、アルミナ、アルミナ水和物、酸化チタン、及び酸化亜鉛等の金属化合物、並びにタルク及びクレイが挙げられる。特に略球状の酸化チタンは隠蔽性、着色性、及び分散粒径が好ましい白色顔料として知られている。
【0030】
白色有機顔料として、特に限定されないが、例えば、特開平11−129613号公報に示される有機化合物塩や特開平11−140365号公報、特開2001−234093号公報に示されるアルキレンビスメラミン誘導体が挙げられる。白色有機顔料の市販品としては、ShigenoxOWP、ShigenoxOWPL、ShigenoxFWP、ShigenoxFWG、ShigenoxUL、ShigenoxU(以上、ハッコールケミカル社(Hakkol Chemical Co., Ltd.)製)が挙げられる。
【0031】
白色の中空樹脂粒子については後述するが、例えば、米国特許第4,089,800号明細書に開示されている、実質的に有機重合体で作られた熱可塑性を示す粒子が挙げられる。
【0032】
白色顔料の具体例としては、特に限定されないが、C.I.ピグメントホワイト6、18、21が挙げられる。
【0033】
これらの中でも、高い白色度及び適度な隠蔽性が得られるため、金属化合物及び中空樹脂粒子のうち少なくともいずれかが好ましく、中空樹脂粒子がより好ましい。
【0034】
(金属化合物)
本実施形態における金属化合物としては、顔料として使用可能な金属原子含有化合物であれば特に限定されることがない。好ましくは、従来から白色顔料として用いられている金属酸化物、硫酸バリウム、又は炭酸カルシウムである。金属酸化物としては、特に制限されないが、例えば、二酸化チタン、酸化亜鉛、シリカ、アルミナ、及び酸化マグネシウムが挙げられる。本実施形態における金属化合物としては、二酸化チタン及びアルミナが好ましい。
【0035】
上記金属化合物の含有量は、インク組成物の全質量(100質量%)に対して、好ましくは1.0〜20.0質量%であり、より好ましくは5.0〜10.0質量%である。金属酸化物の含有量が20.0質量%以下である場合、インクジェット式記録ヘッドの目詰まりを防止する等の信頼性向上に寄与する。一方、1.0質量%以上である場合、白色度などの色濃度が充足する傾向にある。濃白色インクとしては5.0〜20.0質量%、淡白色インクとしては1.0〜7.0質量%とすることが好ましい。
【0036】
金属化合物の平均粒子径(外径)は、好ましくは30〜600nmであり、より好ましくは200〜400nmである。外径が600nm以下である場合、インクジェット式記録ヘッドの目詰まりを防止する等の信頼性向上に寄与する。一方、外径が30nm以上である場合、白色度などの色濃度が充足する傾向にある。
【0037】
ここで、本明細書における平均粒子径は、レーザー回折散乱法を測定原理とする粒度分布測定装置により測定することができる。レーザー回折式粒度分布測定装置として、例えば、動的光散乱法を測定原理とする粒度分布計(例えば、「マイクロトラックUPA」日機装社(Nikkiso Co., Ltd.))製)を用いることができる。
【0038】
(中空樹脂粒子)
本実施形態における中空樹脂粒子としては、その内部に空洞を有しており、その外殻が液体透過性を有する樹脂から形成されていることが好ましい。このような構成により、中空樹脂粒子が水性インク組成物中に存在する場合には、内部の空洞は水性媒質で満たされることになる。水性媒質で満たされた粒子は、外部の水性媒質とほぼ等しい比重を有するため、水性インク組成物中で沈降することなく安定的に分散させることができる。これにより、インク組成物の貯蔵安定性や吐出安定性を良好にすることができる。
【0039】
また、本実施形態におけるインク組成物を、紙などの被記録媒体上に吐出させると、粒子の内部の水性媒質が乾燥時に抜けることにより空洞となる。粒子が内部に空気を含有することにより、粒子は屈折率の異なる樹脂層及び空気層を形成し、入射光を効果的に散乱させるため、白色を呈することができる。なお、中空樹脂粒子を形成する樹脂層を、光透過性を残した状態で着色することで、白色以外の色を呈することも可能である。
【0040】
本実施形態で用いられる中空樹脂粒子は、特に限定されるものではなく、公知のものを用いることができる。例えば、米国特許第4,880,465号や特許第3,562,754号などの明細書に記載されている中空樹脂粒子を好ましく用いることができる。
【0041】
また、中空樹脂粒子の市販品として、例えば、SX866B、SX8782D(以上、JSR社製)などが挙げられる。
【0042】
中空樹脂粒子の平均粒子径(外径)は、好ましくは0.2〜1.0μmであり、より好ましくは0.4〜0.8μmである。外径が1.0μm以下である場合、インクジェット式記録ヘッドの目詰まりを防止する等の信頼性向上に寄与する。一方、外径が0.2μm以上である場合、白色度などの色濃度が充足する傾向にある。また、中空樹脂粒子の平均粒子径(内径)は、外径に対する比率で50%〜90%であることが好ましく、60%〜80%であることがより好ましい。また、中空樹脂粒子の膜厚は、好ましくは0.03〜0.2μmであり、より好ましくは0.05〜0.1μmである。
【0043】
上記中空樹脂粒子の含有量(固形分)は、インク組成物の全質量に対して、好ましくは1〜20質量%であり、より好ましくは8〜15質量%である。中空樹脂粒子の含有量(固形分)が20質量%以下である場合、インクジェット式記録ヘッドの目詰まりを防止するなど信頼性を向上させることができる。一方、含有量が5質量%以上である場合、白色度などの色濃度が充足する傾向にある。濃白色インクとしては5.0〜20.0質量%、淡白色インクとしては1.0〜7.0質量%とすることが好ましい。
【0044】
(中空樹脂粒子の調製方法)
中空樹脂粒子の調製方法は、特に制限されるものではなく、公知の方法を適用することができる。中空樹脂粒子の調製方法として、例えば、ビニルモノマー、界面活性剤、重合開始剤、及び水系分散媒を窒素雰囲気下で加熱しながら撹拌することにより中空樹脂粒子エマルジョンを形成する、いわゆる乳化重合法を適用することができる。
【0045】
ビニルモノマーとしては、非イオン性モノエチレン不飽和モノマーが挙げられる。以下に限定されないが、例えば、スチレン、ビニルトルエン、エチレン、ビニルアセテート、塩化ビニル、塩化ビニリデン、アクリロニトリル、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸エステルが挙げられる。この(メタ)アクリル酸エステルとして、特に限定されないが、例えば、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−エチルへキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、オレイル(メタ)アクリレート、パルミチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0046】
また、ビニルモノマーとして、二官能性ビニルモノマーを用いることもできる。二官能性ビニルモノマーとして、特に限定されないが、例えば、ジビニルベンゼン、アリルメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブタン−ジオールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレートが挙げられる。上記単官能性ビニルモノマーと上記二官能性ビニルモノマーとを共重合させて高度に架橋することにより、光散乱特性だけでなく、耐熱性、耐溶剤性、及び、溶剤に対する安定的な分散などに優れた中空樹脂粒子を得ることができる。
【0047】
上記の界面活性剤として、水中でミセルなどの分子集合体を形成するものであればよく、例えば、アニオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、及び両性界面活性剤が挙げられる。
【0048】
上記の重合開始剤として、水に可溶な公知の化合物を用いることができ、例えば、過酸化水素及び過硫酸カリウムが挙げられる。
【0049】
上記の水系分散媒として、特に限定されないが、例えば、水、及び水と親水性有機溶媒との混合液が挙げられる。
【0050】
白色色材は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0051】
このように、白色色材を含有するインク組成物を用いることにより、カラーインクによる印刷画像をより高品位にしたり、透明又は半透明の被記録媒体、例えば軟包装フィルムにも高品位な画像を形成できたり、被記録媒体の色に依存することなく、所望の画質を形成することができる。
【0052】
〔ウレタン樹脂〕
下地の白色インク上に記録されるカラー画像の耐擦過性を良好にするため、インク組成物はウレタン樹脂を含有する。なお、本実施形態におけるウレタン樹脂は、後添されるものであって、顔料分散液を調製する際に用いられる分散剤とは異なる。
【0053】
ここで、色材のうち顔料の一般的なサイズ(粒子径)を考慮すると、カラー顔料(着色顔料)が例えば100nm程度であるのに対し、白色顔料は例えば250nm以上と非常に大きい。顔料のサイズが大きいほど、顔料全体の表面積が小さくなるため、結果的に被記録媒体に対する白色インクの定着性に劣ることとなる。そこで、白色インクに使用される白色顔料の定着性を補う目的でも、本実施形態においてウレタン樹脂が用いられる。
【0054】
インク組成物に使用されてもよいウレタン樹脂以外の樹脂としては、特に限定されないが、例えば、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルのうち少なくともいずれかから製造されるアクリル樹脂、それらとスチレンの共重合体であるスチレン−アクリル樹脂、ロジン変性樹脂、テルペン系樹脂、変性テルペン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂、塩化ビニル樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、繊維素系樹脂(例えば、セルロースアセテートブチレート、ヒドロキシプロピルセルロース)、ポリビニルブチラール、ポリアクリルポリオール、ポリビニルアルコール、及び水素添加石油樹脂が挙げられる。
【0055】
また、非水系のエマルジョン型ポリマー粒子(NAD=Non Aqueous Dispersion)も樹脂として用いることができる。これはウレタン樹脂、アクリル樹脂やアクリルポリオール樹脂の粒子が有機溶剤中に安定に分散している分散液のことである。
【0056】
ウレタン樹脂の市販品として、例えば、サンプレンIB−501やサンプレンIB−F370(以上、三洋化成工業社(Sanyo Chemical Industries, Ltd.)製)、及び後述するエマルジョンタイプのものが挙げられる。
【0057】
さらに、ウレタン樹脂の中でも、白色粒子間の密着力を一層高めるため、アニオン性のウレタンエラストマー樹脂及び自己架橋性ウレタン樹脂のうち少なくともいずれかが好ましい。アニオン性のウレタンエラストマー樹脂(ポリウレタンエラストマー)としては、以下に限定されないが、例えば、ポリエステル系またはポリエーテル系のアニオン性ウレタン樹脂が挙げられる。また、アニオン性の自己架橋性ウレタン樹脂としては、以下に限定されないが、例えば、シラノール基含有のアニオン性ウレタン樹脂が挙げられる。
【0058】
このような構造のウレタン樹脂の合成には公知の方法を適用することができ、例えば、2個以上のイソシアネート基を有する化合物と、2個以上の活性水素基を有する化合物と、を反応させて得ることができる。2個以上の活性水素基を有する化合物としては、以下に限定されないが、例えば、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルエステルポリオール、ポリエステルアミドポリオール、アクリルポリオール、ポリカーボネートポリオール、及びポリウレタンポリオールが挙げられる。特に、ポリウレタンエラストマーを合成する場合には、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、及びポリカーボネートポリオールからなる群より選択される1種以上を含むことが好ましい。
【0059】
2個以上のイソシアネート基を有する化合物は、特に制限されないが、例えば、テトラメチレンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート等の鎖状の脂肪族イソシアネート、1,3−シクロヘキシレンジイソシアネート、1,4−シクロヘキシレンジイソシアネート、水素添加キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、3,3’−ジメチル−4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート等の環状構造を有する脂肪族イソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,2’−ジフェニルメタンジイソシアネート、3,3’−ジメチル−4,4’−ビフェニレンジイソシアネート、3,3’−ジメトキシ−4,4’−ビフェニレンジイソシアネート、3,3’−ジクロロ−4,4’−ビフェニレンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、1,5−テトラヒドロナフタレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート等の芳香族イソシアネートが挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0060】
ポリエーテルポリオールとしては、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、スチレンオキサイド、テトラヒドロフラン、又は、エピクロロヒドリン等の環状エーテル化合物を、活性水素原子を有する化合物を触媒とする等して、1種単独又は2種以上を混合し開環重合することなどにより得られる重合体が挙げられる。具体的には、以下に限定されないが、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、及びポリテトラメチレングリコールが挙げられる。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0061】
ポリエステルポリオールとしては、特に限定されないが、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、及びセバチン酸などの二塩基酸もしくはそれらのジアルキルエステル又はそれらの混合物と、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ブチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサングリコール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、3,3’−ジメチロールヘプタン、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、及びポリテトラメチレンエーテルグリコール等のグリコール類又はそれらの混合物と、を反応させて得られるポリエステルポリオールが挙げられる。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0062】
ポリカーボネートポリオールとしては、特に限定されないが、例えば、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、又は、ポリテトラメチレングリコール等のようなジオール類と、ホスゲン、ジメチルカーボネート等のジアルキルカーボネート、又は、エチレンカーボネート等の環式カーボネートとの反応生成物が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0063】
また、自己架橋性ウレタン樹脂としては、シラノール基含有ウレタン樹脂が挙げられる。シラノール基含有ウレタン樹脂の合成には、公知の方法を用いることができ、例えば、上述の2個以上のイソシアネート基を有する化合物および2個以上の活性水素基を有する化合物と、活性水素基と加水分解性ケイ素基とを含有する化合物と、を反応させて得ることができる。ここで、加水分解性ケイ素基とは、シラノール縮合触媒の存在下又は非存在下で水分により加水分解を受ける加水分解性基がケイ素原子に結合している基をいい、例えば、水素原子、ハロゲン原子、アルコキシ基、アシルオキシ基、ケトキシメート基、アミノ基、アミド基、アミノオキシ基、メルカプト基、アルケニルオキシ基等が挙げられる。これらのうちでは、加水分解性が比較的小さく、取扱いが容易である点からアルコキシ基が好ましい。したがって、シラノール基は加水分解性ケイ素基が水を含む媒体中で加水分解されて生成したものである。
【0064】
また、ウレタン樹脂をアニオン性にするためには、例えば、カルボキシル基やスルホン基などを有するモノマーを導入すればよい。このようなモノマーとしては、特に限定されないが、例えば、乳酸などのモノヒドロキシカルボン酸;α,α−ジメチロール酢酸、α,α−ジメチロールプロピオン酸、α,α−ジメチロール酪酸などのジヒドロキシカルボン酸、3,4−ジアミノブタンスルホン酸、3,6−ジアミノー2−トルエンスルホン酸などのジアミノスルホン酸が挙げられる。
【0065】
また、上述のポリウレタンエラストマー及び自己架橋性ウレタン樹脂の合成において、さらに他の鎖延長剤を反応させることにより高分子量化を図ることも可能である。前記鎖延長剤としては、例えば、公知のポリアミン化合物などが使用される。前記ポリアミン化合物としては、例えば、エチレンジアミン、1,2−プロパンジアミン、1,6−ヘキサメチレンジアミン、ピペラジン、2,5−ジメチルピペラジン、イソホロンジアミン、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジアミン、3,3’−ジメチル−4,4’−ジシクロヘキシルメタンジアミン、及び1,4−シクロヘキサンジアミン等のジアミン類、ジエチレントリアミン、ジプロピレントリアミン、トリエチレンテトラミン、及びテトラエチレンペンタミン等のポリアミン類、ヒドロキシエチルヒドラジン、ヒドロキシエチルジエチレントリアミン、2−[(2−アミノエチル)アミノ]エタノール、及び3−アミノプロパンジオール等のアミノ基と水酸基とを有する化合物、ヒドラジン類、及び酸ヒドラジド類などが挙げられる。前記ポリアミン化合物は、1種単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0066】
上述のポリウレタンエラストマー及び自己架橋性ウレタン樹脂については、エマルジョンの状態で水と共に用いることができる、水分散型のエマルジョンタイプのウレタン樹脂が好ましい。このようなウレタン樹脂としては、水系ウレタン樹脂や自己架橋性水系ウレタン樹脂を水に分散させてなる、1液型ポリウレタンディスパージョン及び1液型自己架橋型水系ポリウレタンディスパージョン等が挙げられる。1液型ポリウレタンディスパージョンの具体例としては、エーテル系のアニオン性ウレタンエラストマーを含有する「タケラック(登録商標)W−6061」(三井化学社製)などが挙げられる。また、1液自己架橋型水系ウレタン樹脂ディスパージョンの具体例としては、自己架橋性水系ウレタン樹脂を水中に分散させたもので、且つシラノール基含有のアニオン性ウレタン樹脂を含む「タケラック(登録商標)WS−6021」(三井化学社製)などが挙げられる。
【0067】
一般的にウレタン樹脂の性質として、ウレタン樹脂の主鎖間が水素結合により緩やかに結合するため、柔軟で強靭な膜構造を形成させることが可能である。上記ウレタン樹脂を用いることにより、通常のインクジェット印刷を行う温度(10℃〜40℃)において流動性を維持した状態で、被記録媒体上で広がるようにしながら、柔軟な膜構造を形成するため、耐擦過性が良好なものとなる。また、一般に印刷用途に使われる被記録媒体(例えば、インクジェット用専用記録用紙「OHPシート」、セイコーエプソン(Seiko Epson Corporation)製)は正に帯電していることが多いため、アニオン性のウレタン樹脂をインクのウレタン樹脂として用いることで、静電相互作用により定着性が向上する。また、ウレタンエラストマー樹脂は、柔軟性の高い膜を形成しやすいため、耐擦過性が良好なものとなる。また、自己架橋性ウレタン樹脂は、水に対して劣化しにくい性質も有するため、水性インクに用いる際に好ましい。
【0068】
上記ウレタン樹脂のガラス転移温度(Tg)は、50℃以下であることが好ましく、0℃以下であることがより好ましく、−10℃以下であることがさらに好ましい。詳細な理由は明らかではないが、50℃以下のガラス転移温度をもつウレタン樹脂が被記録媒体上で広がるようにしながら画像を形成するため、例えば金属化合物又は中空樹脂粒子などの白色色材を被記録媒体上により強固に定着させることができる。これにより、優れた耐擦過性を有する画像を得ることができる。特に、ウレタン樹脂のガラス転移温度を0℃以下とすることにより、間欠的な印字特性を格段に向上させ、インクジェット記録時のノズル抜け等を抑制することができる。
【0069】
このようなウレタン樹脂として、以下に限定されないが、例えば、「タケラック(登録商標)W−6061」(三井化学社(Mitsui Chemicals, Inc.)製)などの強制乳化型ポリウレタンエマルジョン、「タケラック(登録商標)WS−6021」(三井化学社製)、「WBR−016U」(大成ファインケミカル製ポリエーテル、Tg=20℃)などの自己乳化型ポリウレタンエマルジョンが挙げられる。
【0070】
ウレタン樹脂がエマルジョンタイプのものである場合、その平均粒子径は、定着性を保持するため、白色色材の平均粒子径(外径)との関係で選定することが好ましい。すなわち、白色色材の平均粒子径(外径)に対するウレタン樹脂の平均粒子径の比は、0.05〜0.5であることが好ましく、0.08〜0.4であることがより好ましい。比が上記範囲内であると、白色粒子間を効率よく密着させることができる。このように、ウレタン樹脂の平均粒子径は、白色色材の平均粒子径や濃度(粗密の程度)に応じて適宜調整することができる。
【0071】
なお、上記のエマルジョンタイプを適用した場合のウレタン樹脂の平均粒子径は、好ましくは50〜200nmであり、より好ましくは60〜200nmである。このウレタン樹脂の平均粒子径が上記範囲にあると、インク組成物中においてウレタン樹脂粒子を均一に分散させることができる。
【0072】
上記ウレタン樹脂の含有量(固形分)は、濃白色インクの場合、インク組成物の全質量に対して、好ましくは0.25〜3質量%であり、より好ましくは0.4〜2.4質量%である。また、淡白色インクの場合、インク組成物の全質量に対して、好ましくは0.1〜2.8質量%であり、より好ましくは0.15〜2.1質量%である。濃白色インク及び淡白色インクに含まれるウレタン樹脂の含有量がそれぞれ上記の範囲内であると、インクの信頼性(目詰まり防止や吐出安定性など)が良好となり、インクとしての適切な物性(粘度など)が得られ、かつ、白色色材がインク中で安定的に分散するため、ムラの無い優れた画像を形成することができる。
【0073】
〔浸透性有機溶剤〕
本実施形態におけるインク組成物は、アルカンジオール及びアルキレングリコールアルキルエーテルから選択される少なくとも1種を含有することが好ましい。アルカンジオールやアルキレングリコールアルキルエーテルは、被記録媒体などの被記録面(印刷面)への濡れ性を高めてインクの浸透性を高めることができる。
【0074】
アルカンジオールとしては、1,2−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,2−ヘプタンジオール、1,2−オクタンジオールなどの炭素数が4〜8の1,2−アルカンジオールであることが好ましい。この中でも炭素数が6〜8の1,2−ヘキサンジオール、1,2−ヘプタンジオール、1,2−オクタンジオールは、被記録媒体への浸透性が特に高いため、より好ましい。
【0075】
アルキレングリコールアルキルエーテルとしては、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテルなどの多価アルコールの低級アルキルエーテルを挙げることができる。この中でも、トリエチレングリコールモノブチルエーテルを用いると良好な記録品質を得ることができる。
【0076】
これらのアルカンジオール及びアルキレングリコールアルキルエーテルから選択される少なくとも1種の含有量は、インク組成物の全質量に対して、好ましくは1〜20質量%であり、より好ましくは1〜10質量%である。
【0077】
〔界面活性剤〕
本実施形態におけるインク組成物は、アセチレングリコール系界面活性剤又はポリシロキサン系界面活性剤を含有することが好ましい。アセチレングリコール系界面活性剤又はポリシロキサン系界面活性剤は、被記録媒体などの被記録面への濡れ性を高めることにより、インクの浸透性を高めることができる。
【0078】
アセチレングリコール系界面活性剤としては、例えば、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オール、2,4−ジメチル−5−ヘキシン−3−オールなどが挙げられる。また、アセチレングリコール系界面活性剤は、市販品を利用することもでき、例えば、オルフィンE1010、STG、Y(以上、日信化学社(Nissin Chemical Industry Co., Ltd.)製)、サーフィノール104、82、465、485、TG(以上、Air Products and Chemicals Inc.製)が挙げられる。
【0079】
ポリシロキサン系界面活性剤としては、市販品を利用することができ、例えば、BYK−347、BYK−348(ビックケミー・ジャパン社(BYK Japan KK.)製)などが挙げられる。
【0080】
さらに、本実施形態におけるインク組成物は、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、両性界面活性剤などのその他の界面活性剤を含有することもできる。
【0081】
上記界面活性剤の含有量は、インク組成物の全質量に対して、好ましくは0.01〜5質量%であり、より好ましくは0.1〜0.5質量%である。
【0082】
〔多価アルコール〕
本実施形態におけるインク組成物は、多価アルコールを含有することが好ましい。多価アルコールは、本実施形態におけるインク組成物をインクジェット式記録装置に適用した場合に、インクの乾燥を抑制し、インクジェット式記録ヘッド部分におけるインクの目詰まりを防止することができる。
【0083】
多価アルコールとしては、特に限定されないが、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、1,2,6−ヘキサントリオール、チオグリコール、ヘキシレングリコール、グリセリン、トリメチロールエタン、及びトリメチロールプロパンが挙げられる。
【0084】
上記多価アルコールの含有量は、インク組成物の全質量に対して、好ましくは0.1〜30質量%であり、より好ましくは0.5〜20質量%である。
【0085】
〔第三級アミン〕
本実施形態におけるインク組成物は、第三級アミンを含有することが好ましい。第三級アミンは、pH調整剤としての機能を有し、インク組成物のpHを容易に調整することができる。
【0086】
第三級アミンとしては、例えば、トリエタノールアミンなどが挙げられる。
【0087】
上記第三級アミンの含有量は、インク組成物の全質量に対して、好ましくは0.01〜10質量%であり、より好ましくは0.1〜2質量%である。
【0088】
〔その他の添加剤〕
本実施形態におけるインク組成物は、通常溶媒として水を含有する。水は、イオン交換水、限外ろ過水、逆浸透水、蒸留水などの純水又は超純水を用いることが好ましい。特に、これらの水を紫外線照射又は過酸化水素添加などにより滅菌処理した水は、長期間に亘りカビやバクテリアの発生を抑制することができるので好ましい。
【0089】
本実施形態におけるインク組成物は、必要に応じて、水溶性ロジンなどの定着剤、安息香酸ナトリウムなどの防黴剤・防腐剤、アロハネート類などの酸化防止剤・紫外線吸収剤、キレート剤、酸素吸収剤などの添加剤を含有させることができる。これらの添加剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0090】
また、本実施形態におけるインク組成物には、白色である範囲において、上記金属化合物や中空樹脂粒子の他に、他の色材を含んでいてもよい。他の色材としては、汎用の顔料や染料を使用することができる。
【0091】
〔インク組成物の調製方法〕
本実施形態におけるインク組成物は、従来公知の装置、例えば、ボールミル、サンドミル、アトライター、バスケットミル、ロールミルなどを使用して、従来の顔料インクと同様に調製することができる。調製に際しては、メンブランフィルターやメッシュフィルターなどを用いて粗大粒子を除去することが好ましい。
【0092】
本実施形態におけるインク組成物は、各種の被記録媒体に塗布することにより画像を形成することができる。被記録媒体としては、特に限定されないが、例えば、紙、厚紙、繊維製品、シート又はフィルム、プラスチック、ガラス、及びセラミックスが挙げられる。
【0093】
本実施形態におけるインク組成物は、その用途は特に限定されないが、各種インクジェット記録方式に適用することができる。インクジェット記録方式としては、例えば、サーマルジェット式インクジェット、ピエゾ式インクジェット、連続インクジェット、ローラーアプリケーション、スプレーアプリケーションなどが挙げられる。
【0094】
このように、本実施形態によれば、下地の白色インク上に記録されるカラー画像の発色性、耐擦過性、及び色再現性に優れた、白色のインクセットを提供することができる。
【0095】
[記録物]
本発明の一実施形態は、記録物に係る。上述した濃淡白色インクセットによって、階調性及び白さに優れた記録物を提供することができる。また、特に、白色顔料として中空樹脂粒子を含有するインク組成物によって画像が形成された記録物は、長時間保存下又は高湿度環境下に置かれても中空樹脂粒子の透明化が生じず、長期に亘って高品位な画像を維持できる。
【0096】
[記録方法]
本発明の一実施形態は、記録方法に係る。上述した濃淡白色インクセットを用いて被記録媒体に画像記録を行う記録方法を提供することができる。
【0097】
この記録方法としては特に限定されず、例えば、凸版印刷方式、凹版印刷方式、平版印刷方式、孔版印刷方式、電子写真記録方式、熱転写記録方式、インクジェット記録方式が挙げられ、中でも好ましくはインクジェット記録方式による記録方法である。
【0098】
インクジェット記録方式としては、従来公知の方式であればいずれも使用でき、特に圧電素子の振動を利用して液滴を吐出させる方法(電歪素子の機械的変形によりインク滴を形成するインクジェットヘッドを用いた記録方法)や熱エネルギーを利用する方法においては優れた画像記録を行うことが可能である。
【実施例】
【0099】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はその趣旨に沿って種々に変形可能であり、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
[材料]
〔白色色材〕
・中空樹脂粒子1(SX866B、JSR社製、外径0.3μm、内径0.2μm、膜厚0.05μm,水分散タイプ)
・中空樹脂粒子2(SX8782D、JSR社製、外径1.0μm、内径0.8μm、膜厚0.1μm,水分散タイプ)
〔ウレタン樹脂〕
・アニオン性ポリウレタンエマルジョン溶液1(WS−6021、三井化学社製、平均粒子径0.09μm,固形分30%,Tg 60℃)
・アニオン性ポリウレタンエマルジョン溶液2(W−6061、三井化学社製、平均粒子径0.1μm,固形分30%,Tg 25℃)
〔その他材料〕
・グリセリン
・1,2−ヘキサンジオール
・BYK348(ビックケミー・ジャパン社製)
・トリエタノールアミン
・イオン交換水
【0100】
[実施例1〜3、比較例1〜3]
〔白色インク組成物の調製〕
表1及び表2に示す配合量で、各材料を混合撹拌し、孔径5μmの金属フィルターにてろ過、真空ポンプを用いて脱気処理をして、各インク組成物を製造した。そして、これらのインク組成物のうち、濃白色インク組成物(濃インク)及び淡白色インク組成物(淡インク)を組み合わせることで、実施例1〜3及び比較例1〜3の濃淡白色インクセット(インクセット1〜6)を得た。
なお、表1及び表2の実施例1〜3及び比較例1〜3に記載されている数値の単位は質量%であり、中空樹脂粒子についての上記数値は固形分換算である。
【0101】
〔白色印刷〕
下記の評価に供試するための記録物を作製した。まず、白色印刷により、被記録媒体上に下地の白色パターンを作製した。
プリンターは、PX−5600(セイコーエプソン社製)を用いた。濃インクをマゼンタカートリッジの部分に装着し、淡インクをライトマゼンタカートリッジの部分に装着した。A4サイズにカットしたクリアプルーフフィルム(セイコーエプソン社製)に白色のベタを印刷した。この際に用いた白色パターンは、濃インク40%、淡インク40%のdutyで記録した。
【0102】
〔カラー印刷〕
次に、上記の白色印刷で作製した白色パターン上に、カラー印刷を行い、カラー画像を形成した。カラー印刷は、プリンターとしてPX−5600(セイコーエプソン社製)を用い、そのインクカートリッジセットとしてIC9CL55(セイコーエプソン社製)を用いた。上記の白色印刷で作製した白色パターンをプリンターにセットし、そのままパーソナルコンピュータよりデータを送って通常のプリントと同じようにカラー印刷を行った。カラー印刷のパターンは、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、及びブラック(K)の100%dutyで出力した。
【0103】
[評価項目]
〔発色性の評価〕
得られたカラー印刷のパターンをそれぞれ測色した。各色のD−max値、即ち、シアンならばC成分の濃度、マゼンタならばM成分の濃度というように、イエローはY成分、ブラックはK成分いわゆるKのOD値を測定した。測定は、Spectrolino/Spectroscan(Gretag Macbeth社製)を用いて行った。測定結果は表に示すとおりである。
【0104】
〔カラー画像の耐擦性の評価〕
上記で得られたカラー印刷のパターンについて、耐擦過性の評価を行った。評価は、試験担当者の「爪による擦り試験」と「不織布による擦り試験」の二通りの試験を行った。
爪による擦り試験では、爪で印刷面を2〜3回はじくように擦る試験方法である。不織布による擦り試験では、不織布(ベンコット ラボ、旭化成せんい社(Asahi Kasei Corporation)製)に200グラム相当の荷重をかけた状態で印刷面を擦った。
【0105】
(爪による擦り試験)
A:印刷面に変化が認められない。
B:印刷面に擦った跡が認められるが、剥がれるには至らない。
C:カラーの印刷面が剥がれる。
D:下層の白色の印刷面も剥がれる。
【0106】
(不織布による擦り試験)
A:印刷面に変化が認められない。
B:印刷面に擦った跡が認められるが、剥がれるには至らない。
C:カラーの印刷面が剥がれる。
D:下層の白色の印刷面も剥がれる。
【0107】
評価結果を下記表1及び表2に示す。
【0108】
【表1】

【0109】
【表2】

【0110】
上記表1及び表2に示された評価結果より、実施例1と比較例1、実施例2と比較例2、及び、実施例3と比較例3をそれぞれ比較すると、(E1/P1)が(E2/P2)よりも小さく、且つE1とE2とが異なる実施例は、(E1/P1)が(E2/P2)よりも大きく、且つE1とE2とが異なる比較例に比して、カラー画像(具体的には、白色色材の種類及び含有質量割合が同じ条件下でのカラー画像)の発色性に優れ、かつ、カラー画像の耐擦過性に優れたインクセットであることが明らかとなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
白色色材の質量割合が互いに異なる濃白色インク組成物及び淡白色インク組成物を含有するインクセットであって、
前記濃白色インク組成物及び前記淡白色インク組成物がいずれも、白色色材及びウレタン樹脂を少なくとも含み、
前記濃白色インク組成物中のウレタン樹脂の質量割合E1と白色色材の質量割合P1との比(E1/P1)が、前記淡白色インク組成物中のウレタン樹脂の質量割合E2と白色色材の質量割合P2との比(E2/P2)よりも小さく、かつ、
前記濃白色インク組成物中の前記ウレタン樹脂の質量割合E1と前記淡白色インク組成物中の前記ウレタン樹脂の質量割合E2とが互いに異なる、インクセット。
【請求項2】
前記濃インク組成物中のウレタン樹脂の質量割合E1が、前記淡インク組成物中のウレタン樹脂の質量割合E2よりも大きい、請求項1に記載のインクセット。
【請求項3】
前記濃インク組成物中のウレタン樹脂の質量割合E1が、前記淡インク組成物中のウレタン樹脂の質量割合E2よりも小さい、請求項1に記載のインクセット。
【請求項4】
前記濃白色インク組成物中の前記ウレタン樹脂の質量割合E1と前記白色色材の質量割合P1との比(E1/P1)が0.05〜0.15であり、前記淡白色インク組成物中の前記ウレタン樹脂の質量割合E2と前記白色色材の質量割合P2との比(E2/P2)が0.1〜0.4である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のインクセット。
【請求項5】
前記ウレタン樹脂が、アニオン性のウレタンエラストマー樹脂及び自己架橋性ウレタン樹脂のうち少なくともいずれかである、請求項1〜4のいずれか1項に記載のインクセット。
【請求項6】
前記白色色材が、金属化合物及び中空樹脂粒子のうち少なくともいずれかである、請求項1〜5のいずれか1項に記載のインクセット。
【請求項7】
前記ウレタン樹脂は、エマルジョンタイプのウレタン樹脂であり、前記白色色材の外径の平均粒子径に対する前記ウレタン樹脂の平均粒子径の比が、0.05〜0.5である、請求項1〜6のいずれか1項に記載のインクセット。

【公開番号】特開2012−41380(P2012−41380A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−180876(P2010−180876)
【出願日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】