説明

インクタンク製造方法

【課題】インクタンクのインク漏れ防止。
【解決手段】インク供給口を有するタンクケースと、流動抵抗が相対的に低い第1吸収部材と流動抵抗が相対的に高い第2吸収部材とから構成され、タンクケース内に収納されたインク吸収部材と、インク吸収部材により保持されるインクと、を具えるインクタンクの製造方法であって、インクを注入するためのインク注入部材の先端を、タンクケースとインク吸収部材との間の空間であってインク供給口とは異なる空間に配置する工程と、インク注入部材を介して、以下の関係:X1<X2(ここで、X1は、第1吸収部材のインク充填率を指し、X2は、第2吸収部材のインク充填率を指す。また、インク充填率とは、各吸収部材の体積に対するその吸収部材内部のインクが占める体積の割合をいう。)が成り立つように、空間内にインクを注入する工程と、を含むインクタンク製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクタンクの製造方法に関し、詳しくは、インクを保持するためのインク吸収部材を備えたインクタンクに対するインク注入方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録分野において、インクを吐出する記録ヘッドに対するインクタンクのインク供給性を向上させる方法としては、インクタンク内においてインク吸収部材の密度勾配をつける方法が知られている。例えば、特許文献1は、インクタンク内において、細い繊維径の繊維部材を記録ヘッドに通じるインク供給口近傍に、またそれより太い繊維径の繊維部材をその周囲に配置したインクタンクの構成を提案している。
【0003】
ところで、インクタンク内のインク吸収材にインクを注入する方法として、従来、インク吸収部材内に1本のインク注入針を差し込んでインクを注入する方法が知られている。また、特許文献2は、インクタンク内のインク吸収部材に複数のインク注入針を刺し込み、インク注入針ごとのインク注入量を管理しながらインクを注入して、所望のインク注入量および分布を達成する方法を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平08−020115号公報
【特許文献2】特開2006−159656号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このようなインクタンクが物流振動、落下衝撃、温湿度等の環境変化に曝されると、一般に、インク吸収部材内に保持されていたインクは移動する。このような環境下においては、インクがインク吸収部材から漏れ出るおそれがある。
【0006】
一方、特許文献1は、このような環境下におけるインク供給性能の低下およびインク保持性の低下のおそれを解決すべき課題としているが、その解決手段としては、インクタンク内においてインク吸収部材の密度勾配をつける方法のみを開示しているに過ぎない。また、特許文献2には、インクタンクとその内部のインク吸収部材との隙間に存在するインクの移動によるインクの漏出についての記載はあるが、インク吸収部材からのインク漏出のおそれについての記載はない。
【0007】
本発明は、記録ヘッドに対するインク供給性に優れた、2つの吸収部材で構成されるインク吸収部材を備えたインクタンクに関し、インク吸収部材からのインク漏出の可能性が低いインクタンクを低コストで製造する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、インクの移動先によっては、インクはインク吸収部材内で再度保持されることができるが、移動したインクがインク吸収部材に保持されることができない場合には、インクはインク吸収部材から漏れ出るおそれがある点に着目した。すなわち、インク漏出のおそれを低減させるためには、移動したインクがそこで保持されることができるような領域として、インク注入後のインク吸収部材の内部にインクが浸透していない領域(インク未浸透領域)を設けておくことが有効であることを見出した。
【0009】
上記課題を解決するための本発明のインクタンクの製造方法は、記録ヘッドに対してインクを供給するインク供給口を有するタンクケースと、流動抵抗が相対的に低い第1吸収部材と流動抵抗が相対的に高い第2吸収部材とから構成され、前記タンクケース内に収納されたインク吸収部材と、前記インク吸収部材により保持されるインクと、を具えるインクタンクの製造方法であって、インクを注入するためのインク注入部材の先端を、前記タンクケースと前記インク吸収部材との間の空間であって前記インク供給口とは異なる空間に配置する工程と、前記インク注入部材を介して、前記インクタンクにおいて以下の関係:X1<X2(ここで、X1は、第1吸収部材のインク充填率を指し、X2は、第2吸収部材のインク充填率を指す。また、インク充填率とは、各吸収部材の体積に対するその吸収部材内部のインクが占める体積の割合をいう。)が成り立つように、前記空間内にインクを注入する工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、インクの流動抵抗が異なる複数の吸収部材で構成されたインク吸収部材を有するインクタンクの製造において、各吸収部材におけるインク液面高さを制御してインクを注入することができる。特に、インクが移動しやすく保持されにくい方の吸収部材におけるインク未浸透領域の層厚を、他方の吸収部材におけるそれより厚くすることにより、インク吸収部材からのインクの漏れを低減させることができる。また、インク注入針1本でインクを注入できるため、インク注入装置の大型化、複雑化によるコスト増を招くことなく、インク漏れに強いインクタンクを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】(a)〜(e)は、第1の実施形態のインクタンクの製造方法におけるインク注入工程を説明する図である。
【図2】本発明の実施形態に係るインクタンクを示す図である。
【図3】(a)および(b)は、第1の実施形態に係る吸収部材のインク接触領域の面積の割合の時間変化を示すグラフである。
【図4】(a)〜(f)は、第2の実施形態のインクタンクの製造方法におけるインク注入工程を説明する図である。
【図5】(a)および(b)は、第2の実施形態例に係る吸収部材のインク接触領域の面積の割合の時間変化を示すグラフである。
【図6】(a)〜(e)は、第3の実施形態のインクタンクの製造方法におけるインク注入工程を説明する図である。
【図7】(a)および(b)は、第3の実施形態に係る吸収部材のインク接触領域の面積の割合の時間変化を示すグラフである。
【図8】(a)〜(c)は、第4の実施形態のインクタンクの製造方法におけるインク注入工程を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好ましい実施形態を図面に基づいて説明する。
(第1の実施形態)
図2は、本発明が適用されるインクタンクの構成例を示す。インクタンク11は、タンクケース12、タンクケース12の開口部を覆って例えば溶接により設置されたタンク蓋14、およびタンクケース12内に収納されたインク吸収部材40から構成されている。タンクケース12は、記録ヘッド30に対してインクを供給するためのインク供給口15を有し、インク吸収部材40と記録ヘッド30との間に、ちりやゴミがインク供給口へ侵入するのを防ぐためのフィルター16を具備している。ここで、インクタンク11は、記録ヘッド30と一体型であってもなくてもよい。タンク蓋14は、大気連通口13が設けられており、およびタンクケース12内のインク吸収部材との間にバッファ室17たる空間を構成する。バッファ室17は、インク吸収部材40から一時的に漏れ出たインクを貯留し、インクがインクタンクの外部へ漏れるのを抑制する機能を有する。インク吸収部材40は、インクの流動抵抗が相対的に低い第1吸収部材41および相対的に高い第2吸収部材42の2部材から構成され、インク20を保持し、およびインクジェット記録時にインク20をインク供給口15へ供給することができる。図中符号21は、インク吸収部材に保持されたインク20を示し、符号41aは、インク吸収部材のインク20が保持されていない領域(以下、「インク未浸透領域」という。)を示す。ここで、本発明に使用することのできるインク20は、インクジェット記録の技術分野で知られるインクであることができる。
【0013】
本実施形態に使用することのできるインク吸収部材40について、以下に詳細に説明する。
【0014】
(インク保持性)
まず、本実施形態の2部材構成のインク吸収部材40を構成する吸収部材は、内部に生じる毛細管力による負圧によって、内部に浸透したインクを保持するものである。負圧が低すぎるとインクタンクからインクが漏れ出し、一方、負圧が高すぎるとインクタンクからインクを吐出する記録ヘッドに対してインクを供給することができない。そのため、吸収部材には、インクタンク内において適切な負圧を設定できることが要求される。負圧は、吸収部材内に存在する空隙の寸法により決定される。
【0015】
このような負圧を設定できるものとして、本発明の吸収部材として、繊維集合体を用いることができる。吸収部材として繊維集合体を用いる場合は、繊維密度と繊維の直径とにより平均的な負圧が決定される。ここで、本明細書における「繊維密度」とは、その繊維集合体を構成する繊維の体積がインクタンク容積において占める割合(単位:%)をいう。各インクタンクに要求される負圧に応じて、繊維密度を適宜選択することができる。また、適切な負圧を設定できるその他のものとして、例えばウレタンフォームのような多孔質体からなる部材を本発明において使用することができる。
【0016】
(インク供給性)
本実施形態の2部材構成のインク吸収部材40を構成する吸収部材は、インクジェット記録時にインクを吐出する記録ヘッドに対してインクを安定して供給できることが要求される。
【0017】
吸収部材に繊維集合体を用いる場合は、インク供給口の近傍における吸収部材の繊維密度を他の部位における吸収部材の繊維密度と比べて相対的に高くすることで、好適なインク供給性を得ることができる。前記構成によると、インクジェット記録によりインクが消費される場合、繊維密度の高い方の吸収部材内のインクが消費され、それに伴って、繊維密度の低い方の吸収部材内のインクが繊維密度の高い方の吸収部材に移動するためである。このとき、インク供給口近傍における繊維密度が相対的に高ければ高い程、良好なインク供給性を得ることができると考えられる。また、吸収部材に多孔質体からなる部材を用いる場合は、内部の空孔の大きさを変えてインク供給口近傍に負圧が相対的に高い部材を用いることで、良好なインク供給性を得ることができる。
【0018】
本実施形態においては、インク吸収部材40として、インク供給性が良好な2部材構成のインク吸収部材を用いる。しかし、同様の効果を与えることができるならば、2部材構成に限らず3以上の多部材で構成されるインク吸収部材を本発明に用いることができることは理解されよう。
【0019】
(耐インク接液性)
本実施形態の2部材構成のインク吸収部材40を構成する吸収部材には、インクとの接触によって変質する可能性ができる限り低いことが望ましく、すなわち、耐インク接液性が要求される。吸収部材に使用することができる材質の例としては、ポリオレフィン、ポリエステル、アクリロニトリル等が挙げられ、好適には化学的に安定性の高いポリオレフィンが挙げられる。
【0020】
吸収部材が繊維集合体である場合、繊維集合体を構成する繊維の構造としては、繊維集合体として上述の要求性質を満足するものであれば、特に限定されない。1層構造の繊維の他、一般的にインク吸収部材に用いられている芯鞘構造などの2層構造の繊維を選択することができる。例えば、芯にポリプロピレン(PP)、鞘にポリエチレン(PE)を用いるなど、異種材料を用いた芯鞘2層構造繊維を選択してもよい。繊維性状(繊維径や繊維材質)の異なる異種繊維を使用して繊維集合体を構成してもよい。その際、繊維間の交点が互いに接合されていてもよく、また、互いに接合されていなくてもよい。
【0021】
以上を考慮して、第1の実施形態において、インク供給部材40を構成する第1および第2吸収部材41および42は、共に、繊維径6.7デシテックスの芯鞘2層構造繊維(芯PP−鞘PE)からなり、繊維間の交点が互いに接合されている繊維集合体である。繊維密度については、インク供給性が良好な構成例として、第1吸収部材41の繊維密度は8%、第2吸収部材42の繊維密度は13%である。図2を参照して、繊維密度が相対的に高い第2吸収部材42はインク供給口15側に、繊維密度が相対的に低い第1吸収部材41は他方に、かつ、両吸収部材41および42が共にバッファ室17に面するように、タンクケース12内に配置されている。
【0022】
ここで、上記繊維径および繊維密度から分かるように、第1吸収部材は、第2吸収部材と比べて、内部に存在する空隙の寸法が大きく、したがってインクの流動抵抗が小さい。本実施形態において、2部材構成のインク吸収部材を構成する第1および第2吸収部材は、以下の流動抵抗の関係式を満足する。
流動抵抗の関係:
FR1<FR2 ・・・(式I)
(式中、FR1は第1吸収部材の流動抵抗を示し、FR2は第2吸収部材の流動抵抗を示す。)
【0023】
次に、本実施形態におけるインク未浸透領域について説明する。インク未浸透領域は、前述のとおり、インク吸収部材40のインク20が保持されていない領域を指す。図2を参照して、流動抵抗が相対的に小さい吸収部材41に、インク未浸透領域41aが、バッファ室17に面してある程度厚い層状に形成されている。このインク未浸透領域が、インク吸収部材からのインク漏れの防止に寄与することができる。第2吸収部材42は、第1吸収部材41と比べて流動抵抗が相対的に大きくインクを保持しやすいため、インク未浸透領域42a(不図示)を有していてもいなくてもよい。しかし、インク漏れの防止をより確実にする観点から、流動抵抗が相対的に大きい第2吸収部材にもバッファ室17に面してインク未浸透領域42aが存在する方が好ましい。ただし、このとき、インク未浸透領域41aの層厚は、インク未浸透領域42aの層厚よりも大きいことが本発明において必須の要件である。図中のΔhは、第1および第2吸収部材のインク未浸透領域の層厚の差を示す。
【0024】
すなわち、本発明においては、インク吸収部材40を構成する第1および第2吸収部材41および42におけるインク未浸透領域の層厚を異ならせて、流動抵抗が相対的に小さくインクが移動しやすい第1吸収部材において層厚を相対的に大きく設定する。換言すれば、本発明においては、インク吸収部材を構成する第1および第2吸収部材のインク充填率を異ならせて、流動抵抗が相対的に小さくインクが移動しやすい第1吸収部材のインク充填率を相対的に小さく設定する。
【0025】
ここで、本明細書における「インク充填率」とは、吸収部材の体積に対するその吸収部材内部のインクが占める体積の割合をいう。吸収部材のインク充填率Xは、以下の式で求められる。
インク充填率:
X=Vi/Vm ・・・(式II)
(式中、Xは吸収部材のインク充填率、Vmは吸収部材の体積、Viは吸収部材内部のインクが占める体積を示す。)
【0026】
本実施形態においては、第1および第2吸収部材のインク充填率は、以下の関係を満たす。
インク充填率の関係:
X1<X2 ・・・(式III)
(式中、X1は第1吸収部材のインク充填率、X2は第2吸収部材のインク充填率を示す。)
【0027】
以上のように、本実施形態においては、インク未浸透領域の層厚もしくは吸収部材のインク充填率が、吸収部材の流動抵抗の違いに応じて制御されている。これにより、本発明によると、インクタンクが振動を受けた際のインクがインク吸収部材からバッファ室へ移動する可能性を低減させることができる。
【0028】
続いて、本発明の第1の実施形態のインクタンクの製造方法を説明する。図1(a)から(e)は、本発明の第1の実施形態のインクタンクの製造方法におけるインク注入工程を説明する図である。図中、図2と共通する符号は、同一の構成要素を示すため、ここでは説明を割愛する。
【0029】
図1(a)は、インク注入およびタンク蓋設置前のインクタンクにおいて、インクを注入するためにインク注入針50が配置された図である。インク注入前の段階において、タンクケース12の内部に、第1および第2吸収部材41および42が、それらの下部面とタンクケース12の底面との間に空間60が形成されるように間隔を空けて収納されて、2部材構成のインク吸収部材40を形成している。この空間60は、インクタンクのバッファ室17およびインク供給口15のいずれとも異なる空間である。ここで、タンクケース12の底面とは、このインクタンクがインクジェット記録装置にインク供給口を有する面が鉛直下向きとなるように装着された場合におけるインクタンク11の下側内面をいう。
【0030】
本実施形態において、第1吸収部材41は、空間60に面する面の一部に膜41bを有する。膜41bは、インク不透過性の膜であって、その膜を通してインク吸収部材の外部から内部に対してインクが吸収されない膜であればよく、例えば板状の薄膜層であることができる。膜41bは、例えば加圧加熱ツールでインク吸収部材の表面を溶融させて形成することができるが、膜41bの形成方法は溶融に限定されない。
【0031】
図1(a)において、インク注入部材としてのインク注入針50は、インク吸収部材を貫通してその先端が空間60内に位置するように配置される。図では、インク注入針50は第2吸収部材42を貫通しているが、第1吸収部材41を貫通していてもよい。インク注入針50には、15G相当のサイズの注射針を使用した。このインク注入針のサイズは、インク注入に採用する単位時間当りのインク充填量により決定することが望ましい。
【0032】
図1(b)から(d)は、それぞれ、インク注入工程におけるインク充填状態を示した模式図である。本実施形態においては、インク注入にあたり、インク充填速度11g/秒の加圧注入を採用した。インク特性としては、粘度約2.0m・Pa・s、表面張力約40mN/mの条件を用いた。本実施形態においては、タンクケース12の底面すなわちインクタンク11の下側内面と、インク吸収部材40の下部面とは平行であり、これらの面が水平となる(鉛直方向と直交する)状態において、インク注入工程を実施した。
【0033】
図1(b)は、インク注入開始時の状態を示す図である。インク20は、インク注入針50を介して空間60内に加圧注入される。
【0034】
図1(c)は、空間60内がインク20で充填された状態を示す図である。本実施形態においては、前述のように、タンクケース12は、インク注入工程中に、底面すなわちインク供給口15を有する面が水平に保たれている。加圧注入されたインク20は、まず空間60内へ広がり、次いで第1および第2吸収部材41および42の鉛直方向下部面と接触するように、空間60に充填される。このとき、第1吸収部材41については、その下部面における不透過性の膜41bの面積を除く面積A1の領域が、空間60のインク20と実際に接触する領域(以下、「インク接触領域」という)となる。一方、第2吸収部材42については、その鉛直方向下部面の全体である面積A2の領域が、空間60のインク20と実際に接触する領域であり、インク接触領域となる。空間60内のインクは、インク接触領域から各吸収部材の内部に吸収されることとなる。インクタンクに応じて任意に設定する所定量のインクを注入するまで、インク注入をさらに続ける。
【0035】
図1(d)は第1および第2吸収部材41および42がインクを吸収する様子を示す図である。空間60内に注入されたインク20は、インク吸収部材40の内部に対して、前記各接触領域から吸収される。図中、符号21は、前述のとおり、インク吸収部材40に吸収されたインク20を示す。吸収が進むにつれて、各吸収部材内部におけるインク21の液面は、次第に上昇する。前述のとおり、第1吸収部材41のインク接触領域は、第1吸収部材41の鉛直方向下部面に面積A1の大きさを有する。この面積A1のインク接触領域から第1吸収部材41に吸収されたインク21の液面は、鉛直方向に上昇し、膜41bの厚さを超える高さに至ると、インクは、空間60に面したインク接触領域と平行な、第1吸収部材41の断面である面積B1に広がる。以下、この面積B1の断面を、「インク吸収可能領域」という。
【0036】
本実施形態においては、第1吸収部材41は直方体形状をしており、インク注入工程中はその一対の面が水平になるように設定されている。そのため、第1吸収部材のインク吸収可能領域の面積B1は、膜41bの膜厚部分を除く第1吸収部材41の高さ全体にわたって一定である。インク接触領域の面積A1は、膜41bの面積の分だけインク吸収可能領域の面積B1よりも小さいため、膜41bの膜厚を越えた高さでは、面積比A1/B1は常に100%よりも小さい。すなわち、膜41bの存在により、第1吸収部材41が空間60から単位時間あたりに吸い上げることのできるインクの量が制限されて、第1吸収部材内におけるインク液面の上昇速度は、A1/B1が100%である場合と比べて遅くなる。
【0037】
これに対し、第2吸収部材42には非浸透性の膜は設けられていない。そのため、空間60を満たしたインク20と接触する領域である第2吸収部材42のインク接触領域の面積はA2である。第2吸収部材42もまた、直方体形状をしており、インク注入工程中はその1対の面が水平になるように設定されている。そのため、空間60に面したインク接触領域と平行な、第2吸収部材42の断面(すなわち、インク吸収可能領域)の面積B2は、第2吸収部材42の高さ全体にわたって一定であり、インク接触領域の面積A2と等しい。したがって、面積A2のインク接触領域から第2吸収部材42に吸収されたインク21の液面は、面積A2すなわちインク吸収可能領域の面積B2を保ったまま、垂直方向に上昇する。換言すれば、面積比A2/B2は常に100%となり、第2吸収部材42については、第1吸収部材41の場合のようなインク液面の上昇速度についての制約はない。
【0038】
以上を面積比の観点でまとめ、膜41bの厚さをインクを吸収させるべき高さに対して無視できるものとすると、本実施形態のインク注入工程においてインクが吸収部材に吸収される間は、以下の関係が成り立つ。
面積比の関係:
A1/B1<A2/B2 ・・・(式IV)
(式中、A1は第1吸収部材のインク接触領域の面積、B1は第1吸収部材のインク吸収可能領域の面積、A2は第2吸収部材のインク接触領域の面積、B2は第2吸収部材のインク吸収可能領域の面積を示す。)
【0039】
図1(d)に示す工程において、インクタンクに応じて任意に設定した所定量のインクを注入した時点でインク注入を終了する。次いで、インク注入針50をタンクケース12内から取り除く。
【0040】
図1(e)は、第1および第2吸収部材41および42をタンクケース12の底面まで押込んだ状態を示す図である。図中の矢印Pは、この状態に至るために加えられた力を示す。第1および第2吸収部材を底面まで押し込むことにより、前記空間60が無くなり、かつ空間60内に存在していたインクは各吸収部材に吸収される。このようにして、インク吸収部材40に、液面高さの差Δhが形成されたインク充填状態を得ることができる。インク充填後のタンクケース12に対して、タンク蓋14を例えば溶着等の手段により配設することにより、本実施形態に係るインクタンク11が得られる。
【0041】
ところで、ここで、本実施形態の第1吸収部材の代わりに、膜41bを具備しない以外は同様の条件の第1吸収部材を用いて上述の図1に示す工程を行ったと仮定する。この場合、上述の面積比A1/B1およびA2/B2は共に100%であり等しい。すると、流動抵抗が相対的に小さい第1吸収部材の方が、流動抵抗が相対的に大きい第2吸収部材よりもインクを吸収しやすいため、各吸収部材におけるインク液面の上昇速度は、第1吸収部材の方が早くなる。この場合、各吸収部材におけるインク充填率の関係はX1>X2となり、上述の本発明のインク充填率の関係であるX1<X2を満たさない。
【0042】
そこで、本実施形態は、第1吸収部材41の膜41bの大きさもしくは面積A1の占める割合を適宜設定することにより、第1吸収部材におけるインク液面の上昇速度を低減させて、第2吸収部材におけるインク液面の上昇速度を相対的に高くするものである。これにより、本実施形態によれば、前記インク充填率の関係X1<X2を満足させることができ、インク未浸透領域の層厚(体積)を望ましく制御することができる。
【0043】
次いで、図3(a)および(b)に、第1の実施形態のインク注入工程における、吸収部材のインク接触領域の面積とインク吸収可能領域との面積比の経時変化を示す。
【0044】
図3(a)は第1吸収部材41についてのグラフであり、図3(b)は第2吸収部材42についてのグラフである。横軸は時間(単位:秒)であり、縦軸は、第n吸収部材のインク接触領域の面積Anの、第n吸収部材のインク吸収可能領域の面積Bnに対する面積比すなわち割合(単位:%)を示し、ここで、nは1または2である。図中の符号は、それぞれ以下の内容を示す。ここでもまた、nは1または2である。
An:第n吸収部材のインク接触領域の面積
Bn:第n吸収部材のインク吸収可能領域の面積
Tn−1:第n吸収部材が空間60内のインクと接触を開始した時刻
Tn−2:第n吸収部材が空間60内のインクとの接触を終了した時刻
Tn:第n吸収部材が空間60内のインクとの接触を有している時間
Te:インク注入を終了した時刻
【0045】
図1(a)〜(e)を参照しつつ、図3(a)および(b)におけるインク注入工程中における面積比An/Bn(%)の経時変化を説明する。
【0046】
まず、図1(a)および(b)は、インク20が空間60に充填される前の段階を示す。この段階を図3(a)および(b)のグラフに対応させると、時間軸において時刻0から時刻Tn−1までに相当する。この段階では、インク吸収部材40の鉛直方向下部面とインク20との接触がないため、インク接触領域は存在しない。したがって、このときの第n吸収部材のインク接触領域の面積Anは0であり、これにより、面積比An/Bn(%)もまた、0となる(nは、1または2)。
【0047】
次に、図1(c)は、インク20が空間60内に充填された状態を示す。この段階において、インク吸収部材40の鉛直方向下部面とインク20との接触が始まる。また、図1(d)に示されるように、この後、インクタンクに応じて任意に設定する所定量のインクの注入が終了するまで、インク注入針50からの空間60内に対するインク20の注入が継続する。この間、第n吸収部材のそれぞれは、インク20と接触するインク接触領域から、インク20の吸収を続ける。この図1(c)から(d)の段階は、図3における時刻Tn−1からTeまでに相当する。
【0048】
この段階においては、第1および第2吸収部材の面積比An/Bn(%)は異なる。まず、第1吸収部材については、前述のとおり、インク接触領域の面積はA1であり、インク吸収可能領域の面積はB1である。ここで、膜41bの存在により、面積の関係はA1<B1である(膜41bの膜厚は無視できるほど小さいとする)。また、前述のとおり面積B1は第1吸収部材の高さ全体にわたって一定であるため、面積比A1/B1は、100%未満の一定値Cとなる。
【0049】
一方、第2吸収部材については、前述のとおり、インク接触領域の面積はA2、インク吸収可能領域の面積はB2であり、A2とB2とは等しい。そのため、時刻T2−1からTeまでの時間において、A2/B2は、常に100%となる。
【0050】
次いで、図1において具体的に示されていないが、図1(d)の工程によりインク注入が終了すると、各吸収部材は空間60からのインクの吸収を継続するため、各吸収部材の鉛直方向下部面と空間60内のインクとの接触が無くなる段階が訪れる。また、この段階が訪れる前であっても、図(e)に示されるように、各吸収部材をインクタンク内の底面まで押し込むと、空間60が無くなるため、各吸収部材の鉛直方向下部面と空間60内のインクとの接触が無くなる。このように、時刻Te以降において、第n吸収部材のインク接触領域の面積Anは0となり、したがって、面積比An/Bnは、再び0となる(nは、1または2)。
【0051】
図1を参照して、本実施形態においては、第1および第2吸収部材の鉛直方向下部面は、インク注入工程において、タンクケース12の底面から間隔を空けて同一の高さに位置するように配置されている。このような構成を用いることにより、まず、第1および第2吸収部材41および42とインク20との接触は、同時(時刻T1−1=T2−1)に始まる。また、インク注入は、1本のインク注入針50を介して行われているため、インク注入終了の時刻Teは、第1および第2吸収部材41および42に共通であり、同時刻である。さらに、時刻Te以降にインク接触領域の面積Anがゼロとなる時刻(すなわち、インク接触終了時刻)も、第1および第2吸収部材41および42に共通である。
【0052】
したがって、以上により、第1および第2吸収部材41および42のそれぞれと空間内のインク20との接触時間T1およびT2が定まる。詳細には、本実施形態では、第1および第2吸収部材について、インク接触開始時刻は同時刻(T1−1=T2−1)であり、インク接触終了も同時刻(T1−2=T2−2)に生じ、各吸収部材と空間内のインクとが接触している時間は同一(T1=T2)となる。
【0053】
このように、第1および第2吸収部材のインクとの接触時間T1およびT2は同一である。一方、各吸収部材のインク接触領域の面積比An/Bnは、第2吸収部材については100%であるのに対し、第1吸収部材については100%に満たない。すなわち、第1の実施形態は、インク流動抵抗が低い第1吸収部材についてのインク接触領域の面積を制限することによって、第1吸収部材へのインク吸収を制限することに特徴を有する。インク接触領域の面積を制限することにより、第1吸収部材および第2吸収部材のインク充填率の関係X1<X2を適宜満足させることができる。
【0054】
第1の実施形態によれば、流動抵抗が異なる第1および第2吸収部材を備えるインクタンクについてのインク注入工程において、各吸収部材におけるインク液面高さの差を形成するよう、インクの液面高さを制御しながらインクを充填することができる。これにより、流動抵抗が低くインクを保持しにくい第1吸収部材41内におけるインク未浸透領域の層厚を第2吸収部材42より厚くすることができるので、インク漏れに強いインクタンクを提供することができる。また、この充填は1本のインク注入針により行うことができ、そのため、インク注入装置の大型化や複雑化等を招かない。
【0055】
(第2の実施形態)
図4(a)から(f)は、本発明の第2の実施形態のインクタンクの製造方法におけるインク注入工程を説明する図である。図中、図1および図2と共通する符号は、同一の構成要素を示すため、ここでは説明を割愛する。特段の記載がない限り、第2の実施形態における諸条件(インク物性・注入条件等)は、第1の実施形態の場合と同一とした。
【0056】
図4(a)は、インク流動抵抗が異なる第1吸収部材41および第2吸収部材42を有する、インク注入およびタンク蓋設置前のインクタンクにおいて、インクを注入するためにインク注入針50が配置された図である。第2の実施形態では、第1および第2吸収部材41および42が、高さの差Δzを設けた位置関係でインクタンクに挿入された状態で、インク注入工程を実施する点で、第1の実施形態と異なる。第2の実施形態においては、膜41bは必須の構成要件ではない。インク注入工程中の各吸収部材の高さの差Δzは、図4(b)から(e)に示されるように、第1および第2吸収部材41および42とインク注入針50から注入されたインク20とが接触している間の時間差を発生させるためのものであり、適宜設定できる。ただし、本発明の課題解決のためには、流動抵抗の小さい第1吸収部材の下部面を、流動抵抗の大きい第2吸収部材の下部面よりも鉛直方向の位置関係において高い位置に配置する。本例では、高さの差Δzを約4mmとした。
【0057】
図4(b)から(f)は、それぞれ、インク注入工程におけるインク充填状態を示した模式図である。図4(b)は、インク注入開始後、インク20が空間60へ広がって、第2吸収部材42の下部面と接触した状態を示す。この後インク注入を継続すると、第1吸収部材41の下方の空間60内のインク液面高さが次第に上昇していくと同時に、第2吸収部材42へインクが吸収されていく。図4(c)は、インク注入をさらに継続して、第1吸収部材41の下部面と空間60に存在するインク20とが接触した状態を示す。前述のとおり、図中、符号21は、インク吸収部材内に吸収されたインクを示す。図4(d)は、インク注入をさらに継続して、第1および第2吸収部材41および42にインク20が吸収される様子を示す図である。本実施形態において、インクタンクに応じた所定量のインクを注入したところ、インク注入終了時において、タンクケース12の底面からの第1および第2吸収部材内部のインク液面高さはほぼ同等となった。インク注入終了後は、新たなインクの加圧注入は無く、空間60内に存在するインクは、主に各吸収部材の毛細管力によりその内部に吸収されていくため、空間60内におけるインク液面は次第に下降する。従って、図4(e)が示すように、第1吸収部材41は、第2吸収部材42より先にインク20との接触が終わる。図4(f)は、各吸収部材がタンクケース12の底面まで押込まれた状態を示す図である。図中の矢印Pは、この状態に至るために加えられた力を示す。これにより、前記空間60が無くなり、かつ空間60に存在していたインク20は各吸収部材に吸収される。
【0058】
このようにして、第1および第2吸収部材内部に、液面高さの差Δhが形成されたインク充填状態を得ることができる。インク充填後のタンクケース12に対して、タンク蓋14を例えば溶着等の手段により配設することにより、本実施形態に係るインクタンク11が得られる。
【0059】
以上のように、本実施形態は、空間60に存在するインク20と第1および第2吸収部材41および42のそれぞれとが接触する時間に差を設けるものである。これにより、第1および第2吸収部材41および42のインク充填率に適宜差異を発生させることが可能となり、前記インク充填率の関係X1<X2を満足させることができる。
【0060】
図5(a)および(b)に、第2の実施形態のインク注入工程における、各吸収部材のインク接触領域の面積とインク吸収可能領域の面積との面積比の経時変化を示す。
【0061】
図5(a)は第1吸収部材41についてのグラフであり、図5(b)は第2吸収部材42についてのグラフである。横軸は時間(単位:秒)であり、縦軸は、第n吸収部材のインク接触領域の面積Anの、第n吸収部材のインク吸収可能領域の面積Bnに対する面積比すなわち割合(単位:%)を示し、ここで、nは1または2である。図中の符号は、それぞれ以下の内容を示す。ここでもまた、nは1または2である。
An:第n吸収部材のインク接触領域の面積
Bn:第n吸収部材のインク吸収可能領域の面積
Tn−1:第n吸収部材が空間60内のインクと接触を開始した時刻
Tn−2:第n吸収部材が空間60内のインクとの接触を終了した時刻
Tn:第n吸収部材が空間60内のインクとの接触を有している時間
Te:インク注入を終了した時刻
【0062】
図5(a)および(b)におけるインク注入工程中における面積比An/Bn(%)の経時変化を説明する。図4に示したように、第2の実施形態においては、第1吸収部材について、第2吸収部材と比較してその下部面の高さを鉛直方向の位置関係において相対的に高く設定し、これによりインクとの接触が相対的に遅く開始されるように、インクが注入される。また、この構成により、インク注入終了後は、第1吸収部材のインクとの接触が、第2吸収部材のインクとの接触と比べて相対的に早く解消する。従って、本実施形態においては、図5に示されるように、インク接触開始時刻について、T1−1≠T2−1の関係、およびインク接触終了時刻について、T1−2≠T2−2の関係が成立する。詳細には、T1−1>T2−1およびT1−2<T2−2の関係が成り立つ。これにより、第1および第2吸収部材のインク接触時間T1およびT2について、T1<T2の関係が成り立つこととなる。
【0063】
このように、第2の実施形態においては、第1および第2吸収部材をタンクケース内に収納する際に、2つの吸収部材の下部面とタンクケースの底面と間の高さに差異Δzを設けることに特徴を有する。第2の実施形態は、この構成により、各吸収部材と空間内のインクとの接触時間を、以下の時間関係が成り立つように制御する。
インク接触時間の関係:
T1<T2 ・・・ (式V)
(式中、T1は、第1吸収部材と空間内のインクとの接触時間、T2は、第2吸収部材と空間内のインクとの接触時間を示す。)
【0064】
これにより、インク流動抵抗の小さい第1吸収部材へのインク吸収を制限することができ、各吸収部材に対するインク吸収の程度を適宜調整することにより、第1吸収部材および第2吸収部材のインク充填率の関係X1<X2を満足させることができる。この調整は、高さの差異Δz、もしくはT1とT2との時間差の設定を適宜変動させることにより、行うことができる。
【0065】
以上のように、第2の実施形態によれば、流動抵抗が低くインクを保持しにくい第1吸収部材41内におけるインク未浸透層の層厚を、第2吸収部材42のそれより厚くすることができ、インク漏れに強いインクタンクを提供することができる。また、この充填は1本のインク注入針により行うことができ、そのため、インク注入装置の大型化や複雑化等を招かない。
【0066】
(第3の実施形態)
図6(a)から(e)は、本発明の第3の実施形態のインクタンクの製造方法におけるインク注入工程を説明する図である。第3の実施形態は、第2の実施形態と同様に、第1および第2吸収部材41および42とインク注入針50の先端から注入されたインク20とが接触している間の時間差を設け、T1<T2とするものであるが、第2の実施形態とは別の実施形態である。図中、図1から図5と共通する符号は、同一の構成要素を示すため、ここでは説明を割愛する。特段の記載がない限り、第3の実施形態における諸条件(インク物性・注入条件等)は、第1の実施形態の場合と同一とした。なお、第3の実施形態においても、第2の実施形態と同様に、第1の実施形態における膜41bは必須の構成要件ではない。
【0067】
図6(a)は、流動抵抗が異なる第1および第2吸収部材41および42を有する、インク注入およびタンク蓋設置前のインクタンクにおいて、インクを注入するためのインク注入針50が配置された図である。インク注入針50の先端は、空間60内に突出するように配置され、インク注入が開始される。第3の実施形態と第1の実施形態とで異なる点は、第1の実施形態においては、インク注入工程中に、タンクケース12は底面すなわちインク供給口15を有する面が水平に保たれているのに対して、第3の実施形態においては、角度が設けられている点である。すなわち、インク流動抵抗の高い第2吸収部材42がインク流動抵抗の低い第1吸収部材41より鉛直下方に位置するような位置関係となるよう、タンクケース12を斜めに傾けた状態でインクを注入する。タンクケース12を傾ける角度は、空間60内に注入されたインク20が第1吸収部材41よりも先に第2吸収部材42と接触し始めるような角度である。また、第1吸収部材が第2吸収部材より先にもしくは同時に接触し終わるような角度であることが望ましい。そのような角度であれば、インクタンクを傾ける角度をインク注入工程において変動させてもよい。本例では、インクタンクを傾ける角度Θを、インクジェット装置へ搭載した時の状態に対して45°(一定)とした。
【0068】
図6(b)〜(e)は、インク注入工程におけるインク充填状態を示した模式図である。
【0069】
図6(b)は、インク注入開始後に、空間60内にインク20が充填されていく様子を示す図である。インク注入が始まると、インク注入針50より注入されるインク20は、空間60内の鉛直下方から広がり始め、インクは、空間60内へ広がっていくと共に、第2吸収部材42と接触し、その一部がインク接触領域より第2吸収部材内に吸収される。この現象は、インクの加圧注入による加圧、およびインク吸収部材の毛細管力によって生じる。図6(c)は、インク注入を継続し、第1吸収部材41および第2吸収部材42がインク20を吸収する様子を示す。図6(b)の状態からインクの加圧注入を継続すると、インク20は、一旦空間60を充填する。これは、各部における流動抵抗は、次式:
(低い) 空間60<第1吸収部材41<第2吸収部材42 (高い)
の順に高く、インク20は加圧注入されると流動抵抗が低い領域に流れやすいことによる。その後インク注入をさらに継続すると、インク20は第1および第2吸収部材41および42の両方に対し、各インク接触領域より吸収されていく。図6(d)は、インク注入終了後一定時間が経過した時点でのインクタンクの状態を示す図である。インク注入が終了すると、終了時点で空間60内に存在したインク20は、第1および第2吸収部材41および42に吸収されて、次第にインク液面が下降する。従って、鉛直上方に位置する第1吸収部材41は、鉛直下方に位置する第2吸収部材42より先にインク20との接触が終わる。図6(e)は、図6(d)で示した時点からさらに時間が経過した時点での、インク注入後のインクタンクの様子を示す図である。空間60に存在したインクは、その大部分が第2吸収部材42に吸収され、空間60内のインク20はほとんど無くなる。インク注入針50は、インク注入終了後からインク吸収部材をタンクケースの底面まで押し込むまでの間に、取り除かれる。
【0070】
この後、不図示であるが、第1および第2吸収部材をタンクケース12の底面まで押し込み、これにより、前記空間60が無くなる。このようにして、第1および第2吸収部材内部に、液面高さの差Δhが形成されたインク充填状態を得ることができる。インク充填後のタンクケース12に対して、タンク蓋14を例えば溶着等の手段により配設することにより、本実施形態に係るインクタンク11が得られる。
【0071】
図7(a)および(b)に、第3の実施形態のインク注入工程における、各吸収部材のインク接触領域の面積とインク吸収可能領域の面積との面積比の経時変化を示す。図7(a)は第1吸収部材41についてのグラフであり、図7(b)は第2吸収部材42についてのグラフである。横軸は時間(単位:秒)であり、縦軸は、第n吸収部材のインク接触領域の面積Anの、第n吸収部材のインク吸収可能領域の面積Bnに対する面積比すなわち割合(単位:%)を示し、ここで、nは1または2である。図中の符号は、それぞれ以下の内容を示す。ここでもまた、nは1または2である。
An:第n吸収部材のインク接触領域の面積
Bn:第n吸収部材のインク吸収可能領域の面積
Tn−1:第n吸収部材が空間60内のインクと接触を開始した時刻
Tn−2:第n吸収部材が空間60内のインクとの接触を終了した時刻
Tn:第n吸収部材が空間60内のインクとの接触を有している時間
Te:インク注入を終了した時刻
【0072】
図7(a)および(b)におけるインク注入工程中における面積比An/Bn(%)の経時変化を説明する。図6を参照して、第1吸収部材については、インク接触領域の面積はA1、インク吸収可能領域(すなわち、空間60に面した吸収部材の表面と平行な断面)の面積はB1で表される。また、第2吸収部材については、インク接触領域の面積はA2、インク吸収可能領域の面積はB2で表される。本実施形態において、面積B1およびB2はそれぞれ一定であるが、面積A1およびA2は、インク注入状態に応じて変動する。
【0073】
図6および図7を参照して、第3の実施形態においては、インク注入時にタンクケースを傾けることにより、第1吸収部材を第2吸収部材よりも鉛直方向の位置関係において相対的に高い位置に設定する。これにより、第1吸収部材とインクとの接触開始時刻T1−1を、第2吸収部材とインクとの接触開始時刻T2−1よりも、相対的に遅く設定する。また、同様に、第1吸収部材とインクとの接触終了時刻T1−2を、第2吸収部材とインクとの接触終了時刻T2−2よりも、相対的に遅く設定することができる。このようにして、本実施形態において、第1および第2吸収部材のインク接触時間T1およびT2について、T1<T2の関係を実現させることができる。
【0074】
このように、第3の実施形態においては、インク注入工程においてインクタンクを傾けることに特徴を有し、この構成により、インク吸収部材と空間60内のインクとの接触時間を制御するものである。これにより、インク流動抵抗の小さい第1吸収部材へのインク吸収を制限することができ、第1吸収部材および第2吸収部材のインク充填率の関係X1<X2を適宜満足させることができる。
【0075】
以上のように、第3の実施形態によれば、インク流動抵抗が異なる第1および第2吸収部材を備えたインクタンクへのインク注入において、液面高さを制御しながらインクを充填し、各吸収部材におけるインクの液面高さの差を形成することができる。また、各吸収部材がインクと接触する時間の差異を容易に具現化することが可能である。これにより、流動抵抗が低くインクを保持しにくい第1吸収部材41内におけるインク未浸透層の層厚を、第2吸収部材42のそれより厚くすることができ、インク漏れに強いインクタンクを提供することができる。また、この充填は1本のインク注入針により行うことができ、そのため、インク注入装置の大型化や複雑化等を招かない。
【0076】
(第4の実施形態)
図8(a)〜(c)は、本発明の第4の実施形態のインクタンクの製造方法におけるインク注入工程を説明する図である。第4の実施形態は、他の実施形態と同様に、第1吸収部材41によるインクの吸収を物理的に制限することによって、第1および第2吸収部材のインク充填率に違いを持たせるものである。本実施形態は、他の実施形態と異なり、インク注入後に、インク吸収部材をタンクケースの底面に押し込む工程を必要としない。図中、図1から図7と共通する符号は、同一の構成要素を示すため、ここでは説明を割愛する。特段の記載がない限り、第4の実施形態における諸条件(インク物性・注入条件等)は、第1の実施形態の場合と同一とした。なお、第4の実施形態においても、第1の実施形態における膜41bは必須の構成要件ではない。
【0077】
図8(a)は、流動抵抗が異なる第1および第2吸収部材41および42を有する、インク注入およびタンク蓋設置前のインクタンクにおいて、インクを注入するためのインク注入針50が配置された図である。第4の実施形態は、タンクケース12の形状に特徴を有する。第4の実施形態では、第1および第2吸収部材は、インク注入前の段階で、既に、タンクケース12の底面に押し込まれている。タンクケース12は、インク供給口15の上部に配置された第2吸収部材42の下部に相当する位置に凹状部を有し、これにより、第2吸収部材とタンクケース底面との間に閉塞された空間60が構成されている。インク注入にあたり、インク注入針50の先端は、空間60に突出するよう配置される。本実施形態における空間60は、その開口面積が第2吸収部材42の下部で閉塞できる面積がよく、また、その深さは、インク注入針50の先端が突出できる程度の深さであることが好ましい。空間60は、本例においてはインク供給口15を取り囲むドーナツ型をしているが、形状はこれに限定されない。
【0078】
図8(b)は、インク注入工程におけるインク充填状態を示す図であり、第1および第2吸収部材41および42がインクを吸収している様子を示す。インク20は、インク注入針50より注入されると、まず空間60を充填し、その後、第2吸収部材42と接触してこれに吸収される。インク20の注入をさらに継続するにつれて次第にインクの液面が上昇していく。このとき、インク20は、第2吸収部材に吸収されると同時に、第1吸収部材41とタンクケース12の底面との間に存在する僅かな隙間(不図示)を充填するように浸透していく。あるいはまた、タンクケース12の底面に、容積効率に影響しない程度の突起物(不図示)を設けておき、第1吸収部材41とタンクケースの底面との隙間にインクを誘導しても良い。このような隙間の存在により、インク注入をさらに継続すると、インク20は、タンクケース12の底面に面する側から第1吸収部材41に吸収される。
【0079】
図8(c)は、インク注入終了直後の状態を示す図である。上述のようにインク20をまずは第2吸収部材42に優先的に吸収させて、第1吸収部材41内へのインクの浸透を制限することにより、第1吸収部材41内にインク未浸透層を厚く形成することができる。このようにして、第1および第2吸収部材内部に、液面高さの差Δhが形成されたインク充填状態を得ることができる。インク充填後のタンクケース12に対して、タンク蓋14を例えば溶着等の手段により配設することにより、本実施形態に係るインクタンク11が得られる。
【0080】
前述の第3の実施形態では、タンクケース12を斜めに傾けてインクを注入することにより、第1および第2吸収部材41および42がインク20と接触している間の時間の差異をつけた。これに対して、第4の実施形態においては、底面に凹状の空間を設けたタンクケース12を用いることにより、傾けずとも同様の効果が得られる。すなわち、第4の実施形態では、タンクケース底面に凹状部を設けて第2吸収部材との間に閉塞した空間60を設けることにより、インク吸収部材とインクとの接触を制御して、流動抵抗の小さい第1吸収部材へのインク吸収を制限するものである。
【0081】
第4の実施形態によれば、インク流動抵抗が異なる第1および第2吸収部材を備えたインクタンクへのインク注入において、液面高さを制御しながらインクを充填し、各吸収部材におけるインクの液面高さの差を形成することができる。これにより、流動抵抗が低くインクを保持しにくい第1吸収部材41内におけるインク未浸透層の層厚を、第2吸収部材42のそれより厚くすることができ、充填率の関係X1<X2を実現し、インク漏れに強いインクタンクを提供することができる。また、この充填は1本のインク注入針により行うことができ、そのため、インク注入装置の大型化や複雑化等を招かない。
【0082】
(その他の実施形態)
以上、第1から第4の実施形態を用いて本発明を説明したが、これらの実施形態は、組み合わせて用いることもできる。また、前述のとおり、インク吸収部材を構成する吸収部材は、2つに限られず、3以上の多部材構成のインク吸収部材に対して本発明を適用することもできる。さらに、上記実施形態では、インク吸収部材を構成する吸収部材の形状を直方体形状としたが、吸収部材の形状はこれに限られない。
【符号の説明】
【0083】
11 インクタンク
12 タンクケース
13 大気連通口
14 タンク蓋
15 インク供給口
16 フィルター
17 バッファ室
21 インク吸収部材に吸収されたインク
30 記録ヘッド
40 インク吸収部材
41 第1吸収部材
41a インク未浸透領域
41b 膜
42 第2吸収部材
50 インク注入針
60 空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録ヘッドに対してインクを供給するインク供給口を有するタンクケースと、
流動抵抗が相対的に低い第1吸収部材と流動抵抗が相対的に高い第2吸収部材とから構成され、前記タンクケース内に収納されたインク吸収部材と、
前記インク吸収部材により保持されるインクと、
を具えるインクタンクの製造方法であって、
インクを注入するためのインク注入部材の先端を、前記タンクケースと前記インク吸収部材との間の空間であって前記インク供給口とは異なる空間に配置する工程と、
前記インク注入部材を介して、以下の関係:
X1<X2
(ここで、X1は、第1吸収部材のインク充填率を指し、X2は、第2吸収部材のインク充填率を指す。また、インク充填率とは、各吸収部材の体積に対するその吸収部材内部のインクが占める体積の割合をいう。)
が成り立つように、前記空間内にインクを注入する工程と、
を含むことを特徴とするインクタンクの製造方法。
【請求項2】
前記第1吸収部材は、前記空間内のインクと接触することのできる面積A1のインク接触領域と、前記第1吸収部材のインク接触領域と平行な断面である面積B1のインク吸収可能領域とを有し、
前記第2吸収部材は、前記空間のインクと接触することのできる面積A2のインク接触領域と、前記第2吸収部材のインク接触領域と平行な断面である面積B2のインク吸収可能領域とを有し、
前記インクを注入する工程は、以下の面積の関係:
A1/B1<A2/B2
が成り立つようにインクを注入する
ことを特徴とする請求項1に記載のインクタンクの製造方法。
【請求項3】
前記空間は、前記インク吸収部材を前記タンクケースの底面と間隔を空けて収納することにより設けられたことを特徴とする請求項1または2に記載のインクタンクの製造方法。
【請求項4】
前記インクを注入する工程は、以下の時間の関係:
T1<T2
(ここで、T1は、前記第1吸収部材と前記空間内のインクとが接触している時間をいい、T2は、前記第2吸収部材と前記空間内のインクとが接触している時間をいう。)
が成り立つように前記空間にインクを注入することを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のインクタンクの製造方法。
【請求項5】
前記インク吸収部材は、前記インクを注入する工程の間、第1吸収部材のインク接触領域が第2吸収部材のインク接触領域よりも鉛直方向の位置関係で相対的に高い位置に位置するように前記タンクケース内に収納されていることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載のインクタンクの製造方法。
【請求項6】
前記位置関係を、前記タンクケースの底面から前記第1吸収部材のインク接触領域までの間隔が、前記タンクケースの底面から前記第2吸収部材のインク接触領域までの間隔よりも大きくなるように、前記インク吸収部材を前記タンクケースに収納することによりもたらすことを特徴とする請求項5に記載のインクタンクの製造方法。
【請求項7】
前記位置関係を、前記インクを注入する工程の間、前記第2吸収部材が前記第1吸収部材よりも鉛直下方に位置するようにインクタンクを傾けることによりもたらすことを特徴とする請求項5に記載のインクタンクの製造方法。
【請求項8】
前記空間は、前記タンクケースの底面と第2吸収部材との間の凹状の空間であることを特徴とする請求項1または2に記載のインクタンクの製造方法。
【請求項9】
請求項1から7のいずれか一項に記載のインクタンクの製造方法によって製造されたインクタンクであって、
記録ヘッドに対してインクを供給するインク供給口を有するタンクケースと、
流動抵抗が相対的に低い第1吸収部材と流動抵抗が相対的に高い第2吸収部材とから構成され、前記タンクケース内に収納されたインク吸収部材と、
前記インク吸収部材により保持されるインクと、
前記第1吸収部材および前記第2吸収部材のそれぞれに面してインクの貯留が可能な空間であるバッファ室を形成するように前記タンクケースに対して配設されたタンク蓋と、
を具え、
前記第2吸収部材が、前記インク供給口の近傍に配置されることを特徴とするインクタンク。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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