説明

インク収容体及び保存方法

【課題】雰囲気温度が大幅に変化する長期間の保存においても、暗重合を効果的に防止することができ、保存安定性に優れたインク保存方法及びインク収容体を提供する。
【解決手段】容器中に、気−液界面から保存容器底部までの距離を5cm以下とし、光硬化型インク組成物を溶存酸素量が3ppm以上に保たれた状態で収容するものであり、該光硬化型インク組成物の溶存窒素量が3ppm以上に保たれた状態で収容することが好ましく、該容器が密閉型であることが特に好ましい。更に、容器に充填される空気の量は、30mL以上50mL以下に設定することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク収容体及び保存方法に関する。詳細には、インク組成物の保存安定性に優れたインク収容体及び保存方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方法は、インク組成物の小滴を飛翔させ、紙等の記録媒体に付着させて印刷を行う印刷方法である。このインクジェット記録方法は、高解像度、高品位な画像を、高速で印刷することができるという特徴を有するものである。インクジェット記録方法に使用されるインク組成物は、水性溶媒を主成分とし、これに着色成分及び目詰まりを防止する目的でグリセリン等の湿潤剤を含有するものが一般的である。
【0003】
一方、水性インク組成物が浸透し難い種類の紙、布類、または浸透しない金属、プラスチック等の素材、例えばフェノール、メラミン、塩化ビニル、アクリル、ポリカーボネートなどの樹脂から製造される板、フィルムなどの記録媒体に印字する場合、インク組成物には、色剤が安定して記録媒体に固着できる成分を含有することが要求される。
【0004】
この様な要求に対しては、色材、光硬化剤(ラジカル重合性化合物)、(光ラジカル)重合開始剤等を含んでなる光硬化インクジェットインクが開示されている(例えば、特許文献1参照。)。このインクによれば、記録媒体へのインクの滲みを防止し、画質を向上させることができるとされている。
【0005】
光ラジカル重合により硬化するインク組成物は、保存中に熱ラジカル等による重合反応(暗重合)が生じ、粘度が上昇することがあった。このような問題に対し、特許文献2ではインク中の溶存酸素濃度量を一定範囲に制御し、酸素の重合阻害作用により暗重合を防ぐことが記載されている。
【0006】
【特許文献1】米国特許第5623001号
【特許文献2】特開2004−196936号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2に記載の技術では溶存酸素濃度の規定が特定の温度でのみ規定されているものであり、雰囲気温度が大幅に変化する長期間の保存では十分な効果が得られないことがあった。
本発明では、上記の問題点を解決し、雰囲気温度が大幅に変化する長期間の保存においても、暗重合を効果的に防止することができ、光硬化型インク組成物の保存安定性に優れたインク収容体及び保存方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、鋭意検討を重ねた結果、以下の構成を採用することによって、上記目的が達成され、本発明を成すに至った。
(1) 本発明の光硬化型インク組成物の保存方法は、容器に光硬化型インク組成物と空気とを充填し、気−液界面から前記容器底部までの距離を5cm以下にするとともに、前記光硬化型インク組成物中の溶存酸素量を3ppm以上に保つことを特徴とする。
(2) 本発明の光硬化型インク組成物の保存方法では、さらに、光硬化型インク組成物中の溶存窒素量を3ppm以上に保つことが好ましい。
(3) 本発明の光硬化型インク組成物の保存方法では、前記気−液界面から前記容器底部までの距離を4cm以下にすることが好ましい。
(4) 本発明の光硬化型インク組成物の保存方法では、前記気−液界面から前記容器底部までの距離を1cm以上4cm以下にすることが好ましい。
(5) 本発明の光硬化型インク組成物の保存方法では、前記容器に充填される前記空気の量は、30mL以上であることが好ましい。
(6) 本発明の光硬化型インク組成物の保存方法では、前記容器に充填される前記空気の量は、30mL以上50mL以下であることが好ましい。
(7) 本発明の光硬化型インク組成物の保存方法では、前記容器が密閉型容器であることが好ましい。
(8) 本発明のインク収容体は、容器に、光硬化型インク組成物と空気とを充填したインク収容体であって、気−液界面から保存容器底部までの距離が5cm以下であり、前記光硬化型インク組成物中の溶存酸素量が3ppm以上に保たれた状態で保存されることを特徴とする。
(9) 本発明のインク収容体では、さらに前記光硬化型インク組成物中の溶存窒素量が3ppm以上に保たれた状態で保存されることが好ましい。
(10) 本発明のインク収容体では、前記気−液界面から前記容器底部までの距離が4cm以下に保たれた状態で保存されることが好ましい。
(11) 本発明のインク収容体では、前記気−液界面から前記容器底部までの距離を1cm以上4cm以下に保たれた状態で保存されることが好ましい。
(12) 本発明のインク収容体では、前記容器に充填される前記空気の量は、30mL以上であることが好ましい。
(13) 本発明のインク収容体では、前記容器に充填される前記空気の量は、30mL以上50mL以下であることが好ましい。
(14) 本発明のインク収容体では、前記容器が密閉型容器であることが好ましい。
【0009】
なお、本明細書において、「気−液界面から前記容器底部までの距離」とは、インク保存状態における、気−液界面から容器底部までの距離の平均値をいうものとする。また、本発明の特許請求の範囲に規定された条件は、ユーザーが本発明のインク収容体、または本発明の方法で保存されたインク収容体を印刷装置等に組み込む時点に満たされていれば良い。
【0010】
光硬化型インク組成物は保存中に熱ラジカル等による重合反応(暗重合)が生じ、一度重合反応が始まると、重合反応の連鎖を停止することは困難であり、光硬化型インク組成物の粘度が上昇することがあった。しかしながら、本発明のインク収容体及びインク組成物の保存方法は、重合禁止剤として働く酸素の容器中の溶存酸素量を3ppm以上とすることにより、長期間の保存においても、暗重合を効果的に防止することができ、品質の劣化を防止することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明のインク収容体と光硬化型インク組成物の保存方法について詳細に説明する。なお、本明細書において、「気−液界面から前記容器底部までの距離」とは、インク保存状態における、気−液界面から容器底部までの距離の平均値をいうものとする。また、本発明の特許請求の範囲に規定された条件は、ユーザーが本発明のインク収容体、または本発明の方法で保存されたインク収容体を印刷装置等に組み込む時点に満たされていれば良い。
【0012】
本発明のインク収容体に用いられる容器は、容器中の光硬化型インク組成物の溶存酸素量が3ppm以上に保たれる限り、特に限定されないが、プラスチックケース、又はアルミ蒸着多層構造フィルムを張り合わせて作成した袋状の容器(いわゆるインクパック)から構成されることが好ましい。
【0013】
本発明の一実施形態であるインクパックを図1に示す。図1において、インクパック1は、矩形状に形成された2枚のポリプロピレンフィルムと、該表面にラミネートされたアルミ蒸着層との多層構造からなり、これらがヒートシール部10において熱溶着によって接合され、袋状に形成されている。インクパック1は、インク取出口2を備える。
【0014】
本発明のインク収容体においては、容器中の光硬化型インク組成物の溶存酸素量が3ppm以上に保たれていることを特徴とする。
【0015】
本発明のインク収容体においては、溶存酸素量と同様に溶存窒素量も3ppm以上であることが好ましい。容器中に純酸素を封入する事は安全面で問題が生じるので窒素ガスを含む空気を封入する事が好ましい。窒素ガスは不活性ガスである為である。
【0016】
本発明のインク収容体において、容器中の光硬化型インク組成物の溶存酸素量及び溶存窒素量の上限は、容器内部の気圧及び温度における飽和状態である。
【0017】
上記のように、容器中において、インク組成物が溶存酸素量と溶存窒素量がそれぞれ3ppm以上に保たれた状態とするための手法としては、特に制限されないが、例えば、容器としては密閉型のものを用い、該容器にインク組成物を投入時(投入前、中又は後を含む。)に脱気処理を行わず、該インクの投入後に容器を密封する手法が挙げられる。更には容器中にインク組成物と空気を同時に封入し、共存させる手法が好ましい。容器中には空気が充填されるが、容器に充填される空気の量は、図4に示されるような容器においては、30mL以上であることが好ましい。また図3に示されるような大きさの容器においては、容器に充填される空気の量は、50mLが好ましい。しかしながら、容器中には、溶存酸素量と溶存窒素量が、それぞれ3ppm以上に保たれた状態とすればよいことを考慮すると、本発明の光硬化型インク組成物の保存方法及びインク収容体においては、容器に充填される空気の量は、30mL以上50mL以下に設定することが好ましいことはいうまでもない。したがって、容器に充填される空気の量は、容器の大きさにより30mL〜50mLの範囲で適宜設定することができる。
【0018】
通常のインクジェット用インクを容器に投入してインク受容体(例えばインクカートリッジ等)を作製する場合には、一般的にインク中の溶存ガス成分を取り除く脱気処理が行われるが、本発明のインク収容体及びインク組成物の保存方法では、該脱気処理を積極的に省くことが好ましい。
【0019】
本発明の光硬化型インク組成物の保存方法及びインク収容体においては、インク保存時において、図2に模式的に示すように、気−液界面から該インク組成物3の底部までの距離lが5cm以下であることが好ましい。特に、気−液界面から該インク組成物3の底部までの距離lが4cm以下であることが好ましい。さらには、気−液界面から該インク組成物3の底部までの距離lが1cm以上4cm以下であることが好ましい。
このように、容器の底部から気−液界面までの距離を短く調整することで、界面からの酸素の浸透及び拡散を十分なものにし、光硬化型インクの粘度をゲル化しない程度に保持することが可能となる。
【0020】
本発明のインク収容体に用いられる光硬化型インク組成物には、少なくとも、重合性化合物と重合開始剤が含まれる。
【0021】
重合性化合物の代表的なものとして、単官能モノマーとしては、フェノキシエチルアクリレート、イソボルニルアクリレート、メトキシジエチレングリコールモノアクリレート、アクロイルモルホリン、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸シクロヘキシル、オキセタンメタアクリレート、N−ビニルフォルムアミド、エチレングリコールモノアリルエーテル、N−ビニルカルバゾール、N−ビニルアセトアミド、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカプロラクタム等を挙げることができる。
【0022】
二官能モノマーとしては、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジメタアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、1,9−ノナンジオールジアクリレ−ト、ポリエチレングリコール#400ジアクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、2−ヒドロキシ−1,3−ジメタクリロキシプロパン、ヒドロキシピオペリン酸エステルネオペンチンルグリコールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジメタクリレート等を挙げることができる。
【0023】
多官能モノマーとしては、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタアクリレート、トリメチロールプロパンEO付加物トリアクリレート、トリメチロールプロパンPO付加物トリアクリレート、グリセリンEO付加物トリアクリレート、グリセリンPO付加物トリアクリレート、ペンタエリストールトリアクリレート、ジペンタエリストールヘキサアクリレート、ジペンタエリストールポリアクリレート、多官能モノマー間の反応を利用して作製されるデンドリマー等を挙げることができる。
【0024】
本発明のインク組成物に含まれる光重合開始剤としては、例えば、200nm〜450nm程度の領域の紫外線又は可視光を吸収しラジカルまたはイオンを生成して重合性化合物の重合を開始させるものである。
【0025】
本発明のインク組成物に用いられる光重合開始剤は、代表的なものとしてラジカル発生型を挙げると、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、イソプロピルベンゾインエーテル、イソブチルベンゾインエーテル、1−フェニル−1,2−プロパンジオン−2−(o−エトキシカルボニル)オキシム、ベンジル、ジエトキシアセトフェノン、ベンゾフェノン、クロロチオキサントン、2−クロロチオキサントン、イソプロピルチオキサントン、2−メチルチオキサントン、ポリ塩化ポリフェニル、ヘキサクロロベンゼン等が挙げられ、好ましくは、イソブチルベンゾインエーテル、1−フェニル−1,2−プロパンジオン−2−(o−エトキシカルボニル)オキシムである。
【0026】
また、Vicure 10、30(StaufferChemical社製)、Irgacure 184、127、500、651、2959、907、369、379、754、1700、1800、1850、1870、819、OXE01、Darocur1173、TPO、ITX(チバ スペシャルティ ケミカルズ社製)、QuantacureCTX、ITX(Aceto Chemical社製)、Kayacure DETX−S(日本化薬社製)、ESACURE KIP150(Lamberti社製)、LucirinTPO(BASF社製)の商品名で入手可能な光重合開始剤も使用することができる。
【0027】
本発明のインク収容体における光硬化型インク組成物には、重合促進剤を含有しても良い。重合促進剤としては、アミン化合物からなる重合促進剤を挙げることができる。このアミン化合物としては、特に限定されないが、臭気の問題やインク組成物の硬化がより確実になることから、特にアミノベンゾエート誘導体が、好ましい。これはアミノベンゾエート誘導体が、酸素による重合阻害を軽減する為である。
【0028】
アミノベンゾエート誘導体は、350nm以上の波長域に吸収を持たないものが好ましい。このようなアミノベンゾエート誘導体の例としては、特に限定されないが、エチル−4−ジメチルアミノベンゾエート、2−エチルヘキシル−4−ジメチルアミノベンゾエート等が挙げられ、これは、DarocurEDB、EHA(チバ スペシャルティ ケミカルズ社製)の商品名で入手可能である。
【0029】
本発明のインク収容体に用いられる光硬化型インク組成物には、着色剤が含有される場合がある。着色剤は、耐光性の観点から顔料を使用することが好ましい。顔料は、無機顔料及び有機顔料のいずれも使用することができる。
【0030】
無機顔料としては、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャネルブラック等のカーボンブラック(C.I.ピグメントブラック7)類、酸化鉄、酸化チタン等を使用することができる。
【0031】
また、有機顔料として、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、アゾレーキ、キレートアゾ顔料などのアゾ顔料、フタロシアニン顔料、ペリレン及びペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロン顔料等の多環式顔料、染料キレート(たとえば、塩基性染料型キレート、酸性染料型キレートなど)、染色レーキ(塩基性染料型レーキ、酸性染料型レーキ)、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック、昼光蛍光顔料等が挙げられる。上記顔料は1種単独でも、2種以上併用して用いることもできる。また、カラーインデックスに記載されていない顔料であってもインク組成物中にて不溶であればいずれも使用できる。
【0032】
ブラック顔料としては、カーボンブラックが好ましい。カーボンブラックの具体例としては、三菱化学製の#2300、#900、HCF88、#33、#40、#45、#52、MA7、MA8、MA100、#2200B等、コロンビア社製のRaven5750、同5250、同5000、同3500、同1255、同700等、キャボット社製のRegal 400R、同330R、同660R、Mogul L、同700、Monarch 800、同880、同900、同1000、同1100、同1300、同1400等、デグッサ社製のColor Black FW1、同FW2V、同FW18、同FW200、Color Black S150,同S160、同S170、Printex 35、同U、同V、同140U、Specisal Black 6、同5、同4A、同4等を挙げることができ、これらの1種又は2種の混合物として用いてもよい。
【0033】
イエロー顔料としては、C.I.ピグメントイエロー1、2、3、12、13、14、16、17、73、74、75、83、93、95、97、98、109、110、114、120、128、129、138、150、151、154、155、180、185等が挙げられ、好ましくはC.I.ピグメントイエロー74、109、110、128及び138からなる群から選択される1種又は2種以上の混合物である
【0034】
マゼンタ及びライトマゼンタ顔料としては、C.I.ピグメントレッド、5、7、12、48(Ca)、48(Mn)、57(Ca)、15:1、112、122、123、168、184、202、209及びC.I.ピグメントヴァイオレット19等が挙げられ、好ましくはC.I.ピグメントレッド122、202、209及びC.I.ピグメントヴァイオレット19からなる群から選択される1種又は2種以上の混合物である。
【0035】
シアン及びライトシアン顔料としては、C.I.ピグメントブルー1、2、3、15:3、15:4、15:34、16、22、60及びC.I.バットブルー4、60等が挙げられ、好ましくはC.I.ピグメントブルー15:3、15:4及び60からなる群から選択される1種又は2種以上の混合物である。
【0036】
ホワイトインクに使用される顔料として、二酸化チタン、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、酸化亜鉛、硫酸バリウム、炭酸バリウム、シリカ、アルミナ、カオリン、クレー、タルク、白土、水酸化アルミ、炭酸マグネシウム、白色中空樹脂エマルジョン等が挙げられ、好ましくはこれらからなる群から選択される1種又は2種以上の混合物である。
【0037】
また、各色の顔料はその色調を調整する為に、互いに混合して用いる事も可能である。例えば、赤みのブラックの色調を青みに変える目的で、ピグメントブラック7とピグメントブルー15:3を混合する事も可能である。
【0038】
本実施形態に使用される顔料は、その平均粒径が10〜500nmの範囲にあるものが好ましく、より好ましくは50〜300nm程度のものである。また、本実施形態に使用される顔料の配合量は、濃淡インク組成物等のインク組成物の種類に応じて適宜決定されてよいが、インク組成物中、1.5〜20重量%、好ましくは3〜10重量%である。
【0039】
本発明のインク組成物には、水性溶媒を含んでいてもよい。更に任意の成分として、樹脂エマルジョン、無機酸化物コロイド、湿潤剤、pH調整剤、防腐剤、防かび剤、熱重合禁止剤、界面活性剤等を添加しても良い。
【0040】
本発明のインク組成物は基板または記録媒体等の上に塗布またはインクジェット記録用ヘッドから吐出して付着させ、その後に、紫外線を照射するものである。
紫外線の照射量は、基板または記録媒体等の上に付着させたインク組成物量、厚さにより異なり、厳密には特定できず、適宜好ましい条件を選択するものであるが、例えば、10mJ/cm以上、10,000mJ/cm以下であり、また好ましくは50mJ/cm以上、6,000mJ/cm以下の範囲で行う。かかる程度の範囲内における紫外線照射量であれば、十分硬化反応を行うことができる。
【0041】
紫外線照射は、メタルハライドランプ、キセノンランプ、カーボンアーク灯、ケミカルランプ、低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ等のランプが挙げられる。例えばFusion System社製のHランプ、Dランプ、Vランプ等の市販されているものを用いて行うことができる。
また、消費エネルギー低減の面から、紫外線発光ダイオード(紫外線LED)や紫外線発光半導体レーザ等の紫外線発光半導体素子により、紫外線照射を行うことが特に好ましい。
【0042】
さらに、本発明のインク組成物を用いた記録方法では、紫外線光照射前、同時またはその後に加熱してもよい。加熱は、記録媒体に熱源を接触させて加熱する方法、赤外線やマイクロウェーブ(2,450MHz程度に極大波長を持つ電磁波)などを照射し、または熱風を吹き付けるなど記録媒体に接触させずに加熱する方法などが挙げられる。
【実施例】
【0043】
以下、実施例及び比較例を挙げ、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0044】
[インク組成物1の調製]
容量110mlの遮光性サンプル瓶に、モノマーとしてN−ビニルホルムアミド(NVF、荒川化学工業株式会社製、ビームセット770)、トリプロピレングリコールジアクリレート(TPGDA、新中村化学株式会社製、APG−200)、光重合開始剤、または重合促進剤としてIrgacure 819(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ株式会社製)、Irgacure 369(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ株式会社製)、Irgacure ITX(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ株式会社製)、Darocur EHA(チバ・スペシャルティ・ケミカル株式会社製)、界面活性剤としてBYK−UV3570(ビックケミー・ジャパン株式会社製)0.2gを混合し、マグネティックスターラーで1時間攪拌してインク組成物1を調製した。
【0045】
この場合のインク粘度をPhysica社製 MCR−300を用いて測定したところ(以下、粘度測定には同じ機器を使用)14.8(mPa・s)であった。
【0046】
NVF 22 重量%
APG−200 71 重量%
Irgacure819 4 重量%
Irgacure369 1 重量%
IrgacureITX 1 重量%
Darocur EHA 1 重量%
BYK−UV3570 0.2 重量%
【0047】
[保存安定性試験1]
上記インク組成物1を図3に示す保存容器中に投入し、表1に示す条件でヒートシールして密封した。本実施例で用いた保存容器は、いずれもインクパック(ポリプロピレン−アルミニウム蒸着膜積層フィルムの張り合わせ構造、セイコーエプソン(株)製)であった。図3の保存容器の容量は110mlであり、図3に示す断面図において、容器の辺の長さは、131mm×90mmであった。
脱気処理を行わず気−液界面よりも液体側でヒートシールして密封する操作を行い(ヒートシール部を除いたインク容器内部の辺の長さは117mm×80mm)、インク取り出し口2より、50mLの空気を注入し、インク収容体1を作成した。空気を注入しないものをインク収容体2とした。インク収容体1及びインク収容体2のどちらも内部のインク組成物中の溶存酸素量及び溶存窒素量はいずれも3ppm以上である事をガス・クロマトグラフィー法で確認した。
【0048】
脱気処理とはインク組成物を真空チャンバー内で減圧処理し、溶存気体を除去する操作である。真空チャンバー内に50gのインク組成物を投入した保存容器中を設置し、10(hPa)以下になるまで真空チャンバー内を減圧した後、減圧状態を10分維持する事でインク組成物中の溶存気体を除去した。その後、真空チャンバーを窒素置換して常圧に戻し、その直後に保存容器内部に気体が混入しないよう、気−液界面よりも液体側でヒートシールして密封する操作により、インク収容体3とした。このときのインク収容体3内部のインク組成物中の溶存酸素量及び溶存窒素量はいずれも1ppm以下である事をガス・クロマトグラフィー法で確認した。
【0049】
上記脱気処理を行った後、インク取り出し口2より、50mLの空気を注入した直後のものをインク収容体4とした。インク収容体4内部のインク組成物中の溶存酸素量及び溶存窒素量はいずれも1ppm以下であることをガス・クロマトグラフィー法で確認した。該インク収容体4を1週間経過させたものを、インク収容体5とした。このインク収容体5内部のインク組成物における溶存酸素量及び溶存窒素量はいずれも、3ppm以上である事をガス・クロマトグラフィー法で確認した。
【0050】
インク収容体1〜5をそれぞれ60℃の環境下で48時間放置し、インク取り出し口2からインク組成物を取り出して、加熱放置前後の粘度変化を測定し、結果を表1に示す。
【0051】
【表1】

【0052】
この場合、保存容器の設置方法は以下の通りである。
設置方向A:保存容器の長手方向は設置する平面上に対して並行であり、保存容器のフィルム面は設置平面に対して並行である。
設置方向B:保存容器の長手方向は設置平面に対して直角である。
設置方向C:保存容器の長手方向は設置する平面上に対して並行であり、保存容器のフィルム面は設置平面に対して直角である。
【0053】
保存安定性試験1で用いた容器内部において、気−液界面からインク組成物底部までの距離は、設置方向Aの場合、約1〜2cm、設置方向Bの場合、約6cm、設置方向Cの場合、約4cmであった。
【0054】
判定基準
A:60℃、48時間の加熱後でも粘度変化が0.5(mPa・s)未満であり、かつ底部にゲルの発生が認められない。
B:60℃、48時間の加熱後、粘度変化が0.5(mPa・s)以上であるか、または底部にゲルの発生が認められる。
【0055】
[保存安定性試験2]
上記インク組成物を前記図4に示す保存容器中に投入し、表2に示す条件でヒートシールして密封した。投入インク量を30g、空気を注入する場合において、注入空気量を30mLにした以外は保存安定性試験1と同様にインク収容体6〜10の評価を作製して行った。結果を表2に示す。
【0056】
【表2】

【0057】
図4の保存容器中の容量は75mlであり、図4に示す断面図において、ヒートシール部を含む容器の辺の長さは、94mm×90mm、ヒートシール部を除いたインク容器内部の辺の長さは80mm×80mmであった。
【0058】
保存安定性試験2で用いた容器内部において、気−液界面からインク組成物底部までの距離は、設置方向Aの場合、約4cm、設置方向Bの場合、約4cm、設置方向Cの場合、約4cmであった。
【0059】
[顔料分散液1の調製]
着色剤としてC.I.ピグメントブラック7(カーボンブラック)15部、分散剤としてのディスコールN−518(大日精化工業社製)3.5部に、N−ビニルフォルムアミド(NVF、荒川化学工業株式会社社製、ビームセット770)を加えて全体を100部とし、混合攪拌して混合物とした。これを、サンドミル(安川製作所社製)を用いて、ジルコニアビーズ(直径1.5mm)と共に6時間分散処理を行った。その後ジルコニアビーズをセパレータで分離し顔料分散液1を得た。
【0060】
[顔料分散液2の調製]
着色剤をC.I.ピグメントイエロー155、ディスコールN−518の添加量を1.0部とした以外は、顔料分散液1と同様に調製し、顔料分散液2を得た。
【0061】
[顔料分散液3の調製]
着色剤をC.I.ピグメントヴァイオレット19、ディスコールN−518の添加量を1.0部とした以外は、顔料分散液1と同様に調製し、顔料分散液3を得た。
【0062】
[顔料分散液4]
着色剤をC.I.ピグメントブルー15:3、ディスコールN−518の添加量を2.0部とした以外は、顔料分散液1と同様に調製し、顔料分散液4を得た。
【0063】
上記のように調製した顔料分散液1〜4を用い、下記の組成にて光硬化性インク組成物6〜9を調製した。即ち、モノマーとしてN−ビニルフォルムアミド(NVF、荒川化学工業株式会社社製、ビームセット770)、トリプロピレングリコールジアクリレート(TPGDA、新中村化学株式会社製、APG−200)、トリメチロールプロパンEO付加物トリアクリレート(大阪有機化学工業社製、ビスコート#360)及びアリルグリコール(日本乳化剤社製、AG)を使用した。また、添加剤は、光重合開始剤、または重合促進剤としてIrgacure819及び369並びにDarocur EHA(いずれもチバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)、界面活性剤としてBYK−UV3570(ビックケミー・ジャパン社製)を使用した。これらを混合且つ完全に溶解し、インク溶媒を調製した。次いで、顔料分散液1〜4を攪拌しながらインク溶媒中に徐々に滴下した。滴下終了後、常温で1時間混合攪拌した。その後、5μmのメンブランフィルターでろ過し、下記の組成の光硬化性インク組成物2〜5とした。
【0064】
顔料分散液 20 重量%
NVF 7 重量%
ビスコート#360 15 重量%
Irgacure819 4 重量%
Irgacure369 1 重量%
Darocur EDB 1 重量%
BYK−UV3570 0.2 重量%
AG 残量
【0065】
[保存安定性試験3]
上記インク組成物2〜5を前記図4の保存容器中に投入し、表3に示すように、インク組成物、設置方向、及び脱気処理と空気注入の操作の有無等を変化させ、それぞれの条件下でヒートシールして密封した。投入インク量を30g、空気を注入する場合は、空気量を30mLにし、60℃、120時間の加熱試験を実施した以外は保存安定性試験1と同様に評価を行った。結果を表3に示す。
【0066】
気−液界面からインク組成物底部までの距離は、保存安定性試験2の場合と同様であった。
【0067】
【表3】

【0068】
表1の比較例5〜7、表2の比較例15〜17及び表3の比較例22より溶存酸素量及び溶存窒素量が3ppm未満である場合には、ゲルが発生しやすいことが明らかとなった。
【0069】
また、表1〜3より、脱気処理を行うとゲルが発生しやすく、空気注入を行うとゲルが発生しにくいことが明らかである。さらに、気−液界面からインク組成物底部までの距離が5cm以下であると、ゲルが発生しにくいことが明らかとなった。
【0070】
以上より、容器に光硬化型インク組成物と空気とを充填し、前記光硬化型インク組成物中の溶存酸素量を3ppm以上に保ち、かつ、気−液界面から前記容器底部までの距離を所定の値以下に保つことによって、長期間の保存においても、暗重合を効果的に防止することができ、品質の劣化を防止できることがわかった。
なお、上記の実施例では、気−液界面から前記容器底部までの距離は1〜2cmもしくは4cmとしていたが、5cmとしても、品質劣化を防止することが可能であった。つまり、気−液界面から前記容器底部までの距離が5cm以下であれば、品質劣化を防止することが可能である。
また、上記の実施例では、溶存酸素量と溶存窒素量の双方が3ppm以上であった。しかし、重合禁止材として働くのは酸素である。よって、本発明では、少なくとも溶存酸素量が3ppmであれば良く、溶存窒素量が3ppm以上であることは必須では無い。また、溶存酸素量と溶存窒素量の上限値は、インク組成物の種類や、温度、圧力等の条件によって異なるが、常温常圧の条件下では、大体5〜6ppm程度が限界である。
また、上記の実施例では、空気の注入量を50mLまたは30mLとしていた。しかし、本発明では、重合禁止材として働く酸素を、所定量以上インク組成物に溶存させれば良いのであるから、所定量以上の酸素がインク組成物に溶存できる程度に空気の注入(充填)が行われていれば良く、その量は50mLまたは30mLには限られない。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明のインク収容体の一例の外観を示す図である。
【図2】本発明のインク収容体中、気−液界面からインク組成物底部までの距離を示す図である。
【図3】実施例のインク収容体1〜5の断面図を示す図である。
【図4】実施例のその他のインク収容体の断面図を示す図である。
【符号の説明】
【0072】
1 インクパック、2 インク取出口、3 インク組成物、10 ヒートシール部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器に光硬化型インク組成物と空気とを充填し、気−液界面から前記容器底部までの距離を5cm以下にするとともに、前記光硬化型インク組成物中の溶存酸素量を3ppm以上に保つことを特徴とする、光硬化型インク組成物の保存方法。
【請求項2】
さらに、光硬化型インク組成物中の溶存窒素量を3ppm以上に保つことを特徴とする、請求項1に記載の光硬化型インク組成物の保存方法。
【請求項3】
前記気−液界面から前記容器底部までの距離を4cm以下にすることを特徴とする、請求項1又は2に記載の光硬化型インク組成物の保存方法。
【請求項4】
前記気−液界面から前記容器底部までの距離を1cm以上4cm以下にすることを特徴とする、請求項1又は2に記載の光硬化型インク組成物の保存方法。
【請求項5】
前記容器に充填される前記空気の量は、30mL以上であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の光硬化型インク組成物の保存方法。
【請求項6】
前記容器に充填される前記空気の量は、30mL以上50mL以下であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の光硬化型インク組成物の保存方法。
【請求項7】
前記容器が密閉型容器であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の光硬化型インク組成物の保存方法。
【請求項8】
容器に、光硬化型インク組成物と空気とを充填したインク収容体であって、気−液界面から保存容器底部までの距離が5cm以下であり、前記光硬化型インク組成物中の溶存酸素量が3ppm以上に保たれた状態で保存されることを特徴とするインク収容体。
【請求項9】
さらに前記光硬化型インク組成物中の溶存窒素量が3ppm以上に保たれた状態で保存されることを特徴とする請求項8に記載のインク収容体。
【請求項10】
前記気−液界面から前記容器底部までの距離が4cm以下に保たれた状態で保存されることを特徴とする、請求項8又は9に記載のインク収容体。
【請求項11】
前記気−液界面から前記容器底部までの距離を1cm以上4cm以下に保たれた状態で保存されることを特徴とする、請求項8又は9に記載のインク収容体。
【請求項12】
前記容器に充填される前記空気の量は、30mL以上であることを特徴とする、請求項8〜11のいずれかに記載のインク収容体。
【請求項13】
前記容器に充填される前記空気の量は、30mL以上50mL以下であることを特徴とする、請求項8〜11のいずれかに記載のインク収容体。
【請求項14】
前記容器が密閉型容器であることを特徴とする請求項8〜13のいずれかに記載のインク収容体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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