説明

インク組成物、インクカートリッジ、印刷装置

【課題】 メタリックの光沢感を実現しつつインクの印刷媒体に対する密着性を向上させる。
【解決手段】 金属元素を含む薄片形状の顔料であって、仕事関数が第一の閾値から第二の閾値の範囲となるように表面処理が施された顔料と、活性光線が照射されることにより硬化する性質を有する樹脂と、を含み、前記第一の閾値および前記第二の閾値は、印刷媒体に塗布された状態におけるインク組成物の光沢度が所定値以上である場合の前記顔料の仕事関数の最小値および最大値であるインク組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク組成物、インクカートリッジ、印刷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光沢感を表現するのに適したインクとしてメタリックインクが知られている。UV硬化型のメタリックインクには、紫外光を受けて硬化する樹脂と金属光沢を有する顔料とが含まれている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−168412号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のUV硬化型のメタリックインクには次のような問題があった。すなわち、印刷媒体に塗布されたインクに紫外光等の活性光線を照射する際、インクの表面を通過した活性光線が印刷媒体の表面に到達するまでの間に、インク中の薄片形状の顔料の表面において活性光線が反射すると、顔料の反射面の裏面から印刷媒体表面の間に存在する樹脂に活性光線が到達しないために印刷媒体表面近傍の樹脂が硬化せず、印刷媒体に対するインク滴の密着性が悪化するという問題があった。密着性を向上させるには、インク液中において顔料が印刷媒体表面にできるだけ接近した状態で活性光線を照射することが望ましい(活性光線が到達しない樹脂の比率を低下できるため)。
仕事関数は物質表面の電子1個を無限遠まで遠ざけるために必要なエネルギーであり、2個の物質を接触させる際に仕事関数が相対的に小さい物質は正に帯電し仕事関数が相対的に大きい物質は負に帯電しやすくなる。従って、両物質の仕事関数に差があれば両物質は接触しやすくなる。金属元素を含む顔料に対して相対的に仕事関数の大きい印刷媒体に対して、仕事関数の差を大きくするには顔料の仕事関数を低下させる必要がある。金属元素を含む顔料の仕事関数を低下させるには例えば、顔料の表面を酸化させるなどの表面処理を施すことが考えられる。しかし一方で、表面処理を施すほど顔料自体の光沢感が損なわれていくという問題もある。
本発明は、上記課題にかんがみてなされたもので、メタリックの光沢感を実現しつつインクの印刷媒体に対する密着性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するためのインク組成物は、金属元素を含む薄片形状の顔料であって、仕事関数が第一の閾値から第二の閾値の範囲となるように表面処理が施された顔料と、活性光線が照射されることにより硬化する性質を有する樹脂と、を含む。顔料に表面処理を施すことによって表面処理を施さない場合よりも顔料の仕事関数を一定の範囲内で調整することができる。仕事関数を小さくさせる表面処理の程度が大きいほど印刷媒体の表面近傍に顔料をより接近した位置で配列させること(配列性という)ができるが、表面処理の程度が大きいほど顔料の光沢感が損なわれていくという関係にある場合に、配列性および光沢感がともに基準を満たすような表面処理後の顔料の状態を本発明では仕事関数の範囲で定義する。当該範囲の下限を第一の閾値によって規定し、当該範囲の上限を第二閾値によって規定する。そして仕事関数がその範囲内となるように表面処理された顔料を採用することによって、メタリックの光沢感を損なうことなく、印刷媒体に対する密着性を向上させたインク組成物を提供することができる。
【0006】
本明細書において印刷媒体の仕事関数は、金属元素を含む顔料よりも相対的に大きく、また一定であることを前提とする。金属元素を含む薄片形状の顔料の仕事関数を小さくさせるような表面処理(例えば酸化)を施すことにより、顔料の仕事関数と印刷媒体の仕事関数との差を大きくすることができる。その結果、顔料と樹脂とを含むインク組成物が印刷媒体に塗布された際に、インク組成物内の顔料が印刷媒体の表面により引き寄せられる(仕事関数の差が小さい場合と比較して)。すなわち、配列性が向上する。そのため、印刷媒体の表面近傍の樹脂にも活性光線が到達しやすくなり、印刷媒体に対する密着性が向上する。一方、顔料の仕事関数を小さくさせる表面処理の程度が大きいほど、個々の顔料の光沢感が損なわれていく場合がある。
【0007】
上記目的を達成するためのインク組成物において、前記第一の閾値および前記第二の閾値は、印刷媒体に塗布された状態におけるインク組成物の光沢度が所定値以上である場合の前記顔料の仕事関数の最小値および最大値であってもよい。本明細書においては、印刷媒体に塗布された状態におけるインク組成物全体を観察する視点をマクロの視点と呼び、インク組成物に含まれる薄片形状の顔料を個々に観察する視点をミクロの視点と呼ぶ。したがって言い換えると、マクロな視点における光沢度が、前述の配列性の基準と光沢感の基準とを満たす仕事関数の範囲の上限と下限とを規定していてもよい。ミクロな視点での顔料の光沢度が顔料の仕事関数を低下させる表面処理の程度の増加するにしがたい低下していく場合について考える。その場合も、マクロな視点での光沢度は、表面処理の程度の増加に伴って顔料の仕事関数が低下することによって顔料が印刷媒体表面近傍に引き寄せられ、引き寄せられることによって顔料の姿勢が印刷媒体表面に対して整列していくために、上昇する。具体的には薄片形状の顔料の厚さ方向と直交する平面が印刷媒体の表面に対して平行となっていく。しかし顔料の姿勢が整列し終える程度の表面処理よりもさらに表面処理の程度が大きくなると、ミクロな視点での顔料の光沢度が低下していくのに従いマクロな視点での光沢度も低下していく。したがって、マクロな視点での光沢度が所定値以上であることを条件とすることで、顔料の仕事関数の範囲を規定する最小値と最大値とを規定することができる。なお、光沢度の比較対象である「所定値」とはマクロな視点においてメタリックな光沢感を表現することができる光沢度の最小の値に相当する(光沢度は高いほど光沢感が増すことを意味する)。
【0008】
また、上記目的を達成するためのインク組成物において、前記第二の閾値は、前記印刷媒体に塗布され硬化した状態の前記インク組成物の前記印刷媒体に対する密着の度合いが所定の基準より高い前記顔料の仕事関数の最大値であってもよい。顔料の仕事関数を低下させる表面処理の程度が大きいほど、インク組成物中の顔料が印刷媒体表面に接近しやすくなるため、活性光線照射後のインク組成物は印刷媒体表面に対する密着しやすくなる。したがってその密着の度合いが所定の基準よりも高くなる場合の最大の仕事関数の値を第二の閾値として規定してもよい。密着の度合いは、例えば印刷媒体の表面上のインクの剥離試験の結果によって判定することができる。
【0009】
インク組成物の印刷媒体表面に対する密着性が所定の基準より高いことは、次のような指標によって定義されていてもよい。また例えばミクロな視点における印刷媒体の表面とインク組成物に含まれる所定割合の顔料との距離が所定距離以下であることや、印刷媒体の表面と薄片形状の顔料の厚さ方向と直交する面とが平行に近いこと等の指標で定義されていてもよい。印刷媒体の表面と顔料の厚さ方向と直交する面とが平行に近ければ、マクロな視点における正反射率が増加(光沢度が向上)する。また例えば、活性光線を照射して硬化する樹脂の単位量あたりの樹脂全体に占める比率が所定以上であること等の指標で定義されていてもよい。
【0010】
さらに、上記目的を達成するためのインク組成物において、前記顔料が前記金属元素としてのアルミニウムの表面が酸化されて構成されている場合、前記第一の閾値は3.0eV、前記第二の閾値は4.15eVであってもよい。
【0011】
さらに、上記目的を達成するためのインク組成物において、前記顔料が前記金属元素としての銀の表面が酸化されて構成されている場合、前記第一の閾値は3.5eV、前記第二の閾値は4.3eVであってもよい。
【0012】
さらに、以上のようなインク組成物が充填されたインクカートリッジや、当該インク組成物を用いて印刷媒体に印刷を行う印刷装置としても、本発明は成立する。また、そのような印刷装置は、単独の装置として実現される場合もあれば、複合的な機能を有する装置において共有の部品を利用して実現される場合もあり、各種の態様を含むものである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態にかかるブロック図である。
【図2】インク組成物の光沢度と顔料の仕事関数との関係を示すグラフである。
【図3】インク組成物の光沢度と顔料の仕事関数と印刷媒体に対するインクの密着性との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照しながら以下の順に説明する。なお、各図において対応する構成要素には同一の符号が付され、重複する説明は省略される。
1.第一実施形態:
1−1.印刷装置の構成:
1−2.インクの組成:
1−3.インク組成物の製造方法と薄片の仕事関数の調整:
1−4.薄片の仕事関数と光沢度との関係:
2.他の実施形態:
【0015】
1.第一実施形態:
1―1.印刷装置の構成:
図1は本発明の一実施形態にかかるインクジェットプリンター10(印刷装置)の構成を模式的に示す図である。同図1に示すようにインクジェットプリンター10は搬送部11と印刷ヘッド12と活性光線照射部13とを備えている。本実施形態における搬送部11は印刷媒体Pを搬送方向Dに搬送することができる。印刷ヘッド12は搬送方向Dの搬送面に平行な面内で搬送方向Dに対して垂直な方向に並ぶ複数のノズルを備えており、印刷媒体Pを搬送方向Dに搬送する過程で各ノズルからインクを吐出することによって印刷媒体Pに画像を印刷することができる。
【0016】
活性光線照射部13は搬送部11の方向に向けて紫外光を照射する装置である。活性光線照射部13は印刷ヘッド12よりも搬送方向Dの下流側に配置され、印刷ヘッド12から吐出されて印刷媒体Pに着弾したインクに対して紫外光を照射することができる。本実施形態において印刷ヘッド12にはインクカートリッジ14が接続されており、印刷ヘッド12はインクカートリッジ14に充填されたインクIを吐出することができる。本実施形態において、インクIは、メタリックな光沢感を視認させるための顔料を含んだ紫外線硬化型インクである。
【0017】
1−2.インクの組成:
本実施形態においてインクIは、(A)薄片分散液:20質量部、(B)モノマー1:35質量部、(C)モノマー2:20質量部、(D)モノマー3:11質量部、(E)重合開始剤1:5質量部、(F)重合開始剤2:6質量部、(G)重合開始剤3:2.5質量部、(H)表面調整剤:0.5質量部、を含んで構成されている。より具体的には、(A)薄片分散液には、表面が酸化されたアルミニウムの薄片とフェノキリエチルアクリレートと高分子分散剤とが、5:88:7の割合で含まれている。(B)モノマー1には、アクリル酸2(2―ビニロキシエトキシ)エチル(日本触媒製「VEEA」)を用いる。25℃での粘度は3.7mPa・aである。(C)モノマー2には、フェノキシエチルアクリレート(大阪有機化学製「V#192」)を用いる。25℃での粘度は10mPa・aである。(D)モノマー3には、ジプロピレングリコールジアクリレート(サートマー製「SR508」)を用いる。25℃での粘度は10mPa・aである。(E)重合開始剤1には、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)―フェニルフォスフィン(BASF製「IRGACURE 819」)を用いる。(F)重合開始剤2には、2,4,6−トリメチルベンゾイル ジフェニルーフォスフィンオキサイド(BASF製「DAROCURE TPO」)を用いる。(G)重合開始剤3には、2,4−ジエチルチオキサントン(日本化薬製「KAYACURE DETX−S」)を用いる。(H)表面調整剤には、ポリジメチルシロキサン(PE変性)(BYK製「BYK UV3500」)を用いる。
【0018】
1−3.インク組成物の製造方法と薄片の仕事関数の調整:
まず、薄片分散液の製造方法について説明する。膜厚100μmのPETフィルム上に、セルロースアセテートブチレート(関東化学株式会社製)3質量%、および、ジエチレングリコールジエチルエーテル(日本乳化剤株式会社製)97質量%からなる樹脂層塗工液をバーコード法によって均一に塗布し、60℃で10分間乾燥させて、PETフィルム上に樹脂層を形成する。
【0019】
続いて、真空蒸着装置(真空デバイス株式会社製、VE−1010型真空蒸着装置)を用いて、上記樹脂層の上に平均膜厚20nmのアルミニウム蒸着層を形成する。続いて、PETフィルム・樹脂層・アルミニウム蒸着層からなる積層体からアルミニウム蒸着層を剥離する。続いて、アルミニウム蒸着層を微細化し、アルミニウム薄片を形成する。アルミニウム薄片を、コンベア上を通過させ表裏両面から酸素を吹き付けることによって、アルミニウム薄片の表面を一様に酸化させる。酸素の吹きつけ時間を調整することにより、アルミニウムの酸化状態を変え、薄片の仕事関数を調整することができる。
【0020】
続いて、薄片にフェノキシエチルアクリレートおよび高分子分散剤(ポリエステル系高分子化合物、ルーブリゾール株式会社製「solsperse32000」)を薄片分散液全体に対して7.0質量部加え、超音波分散機(アズワン株式会社製、VS−150)を用いて分散処理を行う。以上の方法により、積算の超音波分散処理時間が12時間である薄片分散液を作製する。
【0021】
薄片分散液を開き目5μmのSUSメッシュフィルターにてろ過処理し粗大粒子を除去する。これにより、フェノキシエチルアクリレートの5%重量%濃度の薄片分散液を得る。レーザー式粒度分布測定機(セイシン企業社製、LMS−30)を用いて測定したところ、薄片の50%体積平均粒子径は1.2μm、最大粒子径は5.1μmであった。
【0022】
また、粒子径・粒度分布測定装置(シスメックス社製、FPIA−3000S)を用いて薄片の膜厚Zと、膜厚Z方向と直交する平面(XY平面)の円相当径の50%平均粒子径R50とを測定し、R50/Zを算出したところ、平均粒子径Rmax:3.6μm、50%平均粒子径R50:0.95μm、平均膜厚Z:0.023μm、R50/Z:46.2であった。粒度分布値(CV値)をCV値=粒度分布の標準偏差/粒子径の平均値×100の計算式により求めたところ、粒度分布値(CV値):41.3であった。また、無作為に選んだ10個の薄片の平均膜厚を電子顕微鏡により測定したところ、その平均値は22nmであった。
【0023】
以上のようにして作製された(A)薄片分散液と、(B)〜(H)とを混ぜ合わせることでインク組成物が完成する。
【0024】
1−4.薄片の仕事関数と光沢度との関係:
上記のインク組成物を用いてインクジェットプリンター10によって印刷媒体に印刷する。印刷媒体の表面上のインクは紫外光によって硬化された状態である。印刷媒体の印刷面側の表面はPE,PP,PET等で構成されている。PE,PP,PET等で構成される印刷媒体の仕事関数は金属元素を含んで構成される顔料の仕事関数より相対的に大きい。また、印刷媒体の仕事関数は一定であるとする。表1は、顔料の仕事関数と光沢度の関係を示す表である。図2は、縦軸を光沢度、横軸を顔料の仕事関数として表1を示したグラフである。顔料の仕事関数は、表面分析装置(理研計器製、AC−2)を使用して測定した。光沢度については、JIS Z8741による入射角60°での光沢度を、コニカミノルタ製「MULTI GLOSS 268」を用いて測定した。すなわち表1に示す光沢度は、印刷媒体の表面に塗布された状態のインク組成物のマクロな視点における光沢度を示している。
【0025】
顔料に施す表面処理の程度を顔料の仕事関数によって規定する場合に、本実施形態においては、採用する仕事関数の範囲の下限を示す第一の閾値は、印刷媒体に塗布された状態におけるインク組成物の光沢度が所定値以上である場合の顔料の仕事関数の最小値であるとする。また、第二の閾値は、印刷媒体に塗布された状態におけるインク組成物の光沢度が所定値以上である場合の顔料の仕事関数の最大値とする。
【0026】
純アルミニウムの仕事関数は4.2eV程度である。顔料の表面処理の程度が大きいほど、すなわち本実施形態では、アルミニウムの酸化処理の程度が大きい(酸素の吹きつけ時間が長い)ほど、顔料の仕事関数が低下する。純アルミニウムから仕事関数が低下していく過程において、表1および図2に示すように、顔料の仕事関数が3.6eVに至るまでは光沢度は単調増加し、3.6eVよりさらに低下する過程では光沢度は単調減少する。アルミニウムは酸化するほど白濁する。したがってミクロな視点においては仕事関数が低下するほど個々の顔料の光沢度は単調的に減少する。しかし、仕事関数が低下するほど顔料が印刷媒体表面に接近しやすくなり、また薄片形状の顔料が印刷媒体表面に対して平行な姿勢に変化していくため、マクロな視点における光沢度は、純アルミニウムの4.2eVから3.6eV付近をピークに増加する。顔料の姿勢が平行に整列し終え、3.6eV付近をピークにしてそれよりも仕事関数が低下すると、ミクロな視点での顔料の光沢度が低下していくのに従いマクロな視点での光沢度も低下していく。
【0027】
本実施形態では、マクロな視点における光沢度が250以上であることを顔料の仕事関数の下限を規定する条件としている。光沢度250は、メタリックな光沢感を表現することができると発明者らが規定する光沢度の最小の値に相当する。また、仕事関数の上限を規定する条件としても、本実施形態ではマクロな視点における光沢度が250以上であることとしている。表1および図1に示す測定結果から、マクロな視点における光沢度が250以上となる顔料の仕事関数は、3.0eV(第一の閾値)〜4.15eV(第二の閾値)となることがわかった。したがって第一の閾値を上記の値とすることにより、マクロな視点における光沢感を実現することができる。また、第二の閾値を上記の値とすることにより、印刷媒体の表面近傍の樹脂にも紫外光が到達しやすくなるため印刷媒体に対するインクの密着性が向上する。
【表1】

【0028】
2.他の実施形態:
尚、本発明の技術的範囲は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。例えば、上記実施形態では、マクロな視点における光沢度が所定以上であることが、顔料の仕事関数の範囲を規定しているとしたが、次のように規定されていてもよい。すなわち、第二の閾値(仕事関数の上限値)については、印刷媒体の表面に対するインク組成物の密着の度合いが所定の基準より高い場合の仕事関数の最大値として規定されていてもよい。
【0029】
上記実施形態で示した仕事関数と光沢度との関係に加えて密着性との関係についても評価するために、仕事関数の値に応じてJIS K5400に準拠する碁盤目試験を行った。具体的には、印刷媒体の表面上に塗布され紫外光照射によって硬化したインク組成物による膜に対し、カッターナイフを用いて1mm間隔で碁盤目の切り込みを入れ10×10の計100マスを形成する。マスが形成された領域に粘着テープを貼り、その後、粘着テープを印刷媒体表面と直角となるように保って粘着テープを引きはがす。粘着テープを引きはがした結果、碁盤目の中に残ったマス(粘着テープと共に引きはがされずに残ったインク組成物)の個数に基づいて密着性を評価する。マスの個数に応じて評価結果を次のように5段階に分類する。1が最も良好な状態すなわち密着の度合いが最も高い状態であり、数字が大きいほど密着の度合いが低い。
1:マスが96〜100個残った状態
2:マスが86〜95個残った状態
3:マスが66〜85個残った状態
4:マスが6〜65個残った状態
5:マスが0〜5個残った状態
【0030】
表2は顔料の仕事関数と光沢度と上記の試験結果から得られた密着性の評価値(1〜5)との関係を示している。また、図3は左の縦軸を光沢度、横軸を顔料の仕事関数、右の縦軸を密着性の評価値として表2を示したグラフである。光沢度は第一実施形態と同様に測定した値である。
【表2】

【0031】
上記の碁盤目試験においては、密着性の評価値が3以下の場合は密着の度合いが所定の基準より高いこととした。したがって密着性の評価値が4以上の場合は密着の度合いが所定の基準より高くないことを意味する。上記の碁盤目試験の結果から、顔料の仕事関数の上限を規定する第二の閾値として、密着性の評価値が3以下である仕事関数の最大値である4.10eVを得ることができる。第一の閾値については、第一実施形態と同様に、マクロな視点における光沢度が250以上である場合の仕事関数の最小値である3.0eVを得ることができる。
【0032】
なお、顔料に含まれる金属元素としては銀を採用してもよい。銀の表面を酸化することによって顔料の仕事関数を3.5eV〜4.3eVとなるように調整してもよい。
【0033】
なお、上記実施形態では表面処理方法として酸化処理を実施する構成を説明した。他の方法としては例えばアルミニウム蒸着層を作製する際に、ナトリウムやカリウムなどの不純物も加えて蒸着させることにより、純粋なアルミニウムよりも仕事関数の小さい蒸着層を作製することができる。
【符号の説明】
【0034】
10…インクジェットプリンター、11…搬送部、12…印刷ヘッド、13…活性光線照射部、14…インクカートリッジ、I…インク、P…印刷媒体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属元素を含む薄片形状の顔料であって、仕事関数が第一の閾値から第二の閾値の範囲となるように表面処理が施された顔料と、
活性光線が照射されることにより硬化する性質を有する樹脂と、
を含み、
前記第一の閾値および前記第二の閾値は、印刷媒体に塗布された状態におけるインク組成物の光沢度が所定値以上である場合の前記顔料の仕事関数の最小値および最大値であるインク組成物。
【請求項2】
前記第二の閾値は、前記印刷媒体に塗布され硬化した状態の前記インク組成物の前記印刷媒体に対する密着の度合いが所定の基準より高い前記顔料の仕事関数の最大値である、
請求項1に記載のインク組成物。
【請求項3】
前記顔料は、前記金属元素としてのアルミニウムの表面が酸化されて構成されており、
前記第一の閾値は3.0eVであり、前記第二の閾値は4.15eVである、
請求項1または請求項2に記載のインク組成物。
【請求項4】
前記顔料は、前記金属元素としての銀の表面が酸化されて構成されており、
前記第一の閾値は3.5eVであり、前記第二の閾値は4.3eVである、
請求項1または請求項2に記載のインク組成物。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれかに記載の前記インク組成物が充填されたインクカートリッジ。
【請求項6】
請求項1〜請求項4のいずれかに記載の前記インク組成物を印刷媒体に対して吐出する印刷ヘッドと、
前記印刷媒体を搬送する搬送手段と、
前記印刷媒体の表面に塗布された前記インク組成物に対して当該インク組成物を硬化させるための活性光線を照射する活性光線照射手段と、
を備える印刷装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−92252(P2012−92252A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−241843(P2010−241843)
【出願日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】