説明

インク組成物、インクジェット記録方法及び記録物

【課題】 結晶性分子錯体の生成が抑制されたインク組成物を提供する。
【解決手段】 染料と水を含有してなるインクジェット記録用インク組成物において、分子量222〜311の、アルキル基を含むイオン性化合物(ただし、染料を除く)を含まないことを特徴とするインク組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク流路などにおける異物の析出を抑制したインク組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録は、微細なノズルからインク組成物を小滴として吐出し、文字や画像(以下、単に「画像」ということもある。)を記録媒体表面に記録する方法である。インクジェット記録方式としては、電歪素子を用いて電気信号を機械信号に変換して、ノズルヘッド部分に貯えたインク組成物を断続的に吐出して記録媒体表面に文字や画像を記録する方法、ノズルヘッド部分に貯えたインク組成物を吐出部分に極近い一部を急速に加熱して泡を発生させて、その泡による体積膨張で断続的に吐出して、記録媒体表面に文字や画像を記録する方法等が実用化されている。
【0003】
また、インクジェット記録用のインク組成物としては、安全性や印字特性の面から各種染料を水または有機溶剤、あるいはそれらの混合液に溶解させたものが一般的であるが、様々な特性において、万年筆やボールペンの様な筆記具用インク組成物に比較し、より厳密な条件が要求される。
【0004】
その条件のひとつとして、インクがその流路で安定して流動できるように、クリーンで安定したインクを供給でき、温度変化や経時変化が加わっても印刷不良や印刷かすれ等の印字不良を起こさないことがあげられる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、インクの集合流路やこれを閉塞するためのフィルムなどのインク接触部材に、ポリオレフィン樹脂を含有するエラストマ樹脂を用いたとき、インクとの接触で結晶性分子錯体を生成する場合があることが判明した。この結晶性分子錯体は脆く、針状に壊れるために、異物トラップ用のフィルターを通過してノズルヘッドの微小流路に詰まって吐出異常を引き起こす。
そこで本発明は、結晶性分子錯体の生成が抑制されたインク組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題に鑑み鋭意研究した結果、インク組成物の成分のうち、結晶性分子錯体の生成に関与していると推測される特定の成分の使用量を限定すると上記課題が解決できることを見出し、この知見に基づき本発明をなすに到った。
【0007】
本発明に係るインクジェット記録用インク組成物は、染料と水を含有してなるインクジェット記録用インク組成物において、分子量222〜311の、アルキル基を含むイオン性化合物(ただし、染料を除く)を含まないことを特徴とする。
【0008】
さらに本発明に係るインクジェット記録用インク組成物は、インクジェット記録方法が、電歪素子の機械的変形によりインク滴を形成するインクジェットヘッドを用いた記録方法であることを特徴とする。
さらに本発明に係るインク組成物は、インクジェット記録方法が、下記式(1)で表される化合物を100ppmを越えて含有するインク接触部材を有するインクジェットプリンタを用いたインクジェット記録方法であることを特徴とする。
【化2】

【0009】
さらに本発明に係るインクジェット記録方法は、インク組成物の液滴を吐出し、該液滴を記録媒体に付着させて記録を行うインクジェット記録方法であって、インク組成物として上記本発明に係るインク組成物を使用することを特徴とする。
【0010】
さらに本発明に係る記録物は、上記本発明に係インクジェット記録方法により記録されたことを特徴とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のインク組成物は、水又は、水と水溶性有機溶剤からなる水性媒体中に、染料を含んでなるインク組成物である。また、本発明のインク組成物にはさらに、保湿剤、粘度調整剤、pH調整剤やその他の添加剤を含有させることができる。ただし、分子量222〜311の、アルキル基を含むイオン性化合物(ただし、染料を除く)は含有しないことを特徴とする。このような化合物としては、例えば可溶化剤として用いられる下記式(A)で表される化合物が酸性下で加水分解して生成するものがある。
R−O−(C24O)i−(C35O)j−H ・・・・ (A)
(式中、Rは炭素数4〜20のアルキル基又はシクロアルキル基を表し、iは6〜18の整数、jは1〜5の整数を表す。)
本発明者らが、形成された結晶性分子錯体をマススペクトルで分析した結果、特定の範囲にピークが確認され、分子量222〜311の、アルキル基を含むイオン性化合物(ただし、染料を除く)が結晶性分子錯体の形成に関与していると推測されたためである。結晶性分子錯体は、上記アルキル基を含むイオン性化合物とともに、インク接触部材表面にブリードする特定の酸化防止剤(特に上記式(1)で表される化合物)が関与して形成されると考えられる。
【0012】
以下に染料として好ましい化合物について説明するが、本発明のインク組成物の染料はこれらに限定されるものではない。
シアン系染料として好ましいものとしては、下記一般式(I)で表されるフタロシアニン化合物が挙げられる。
【0013】
【化3】

【0014】
前記一般式(I)において、X1、X2、X3およびX4は、それぞれ独立に、−SO−Zまたは−SO2−Zを表し、特に−SO2−Zが好ましい。
【0015】
Zは、それぞれ独立に、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のシクロアルキル基、置換もしくは無置換のアルケニル基、置換もしくは無置換のアラルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、または置換もしくは無置換のヘテロ環基を表し、特に置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のヘテロ環基が好ましく、その中でも置換アルキル基、置換アリール基、置換ヘテロ環基が好ましく、さらに置換アルキル基、置換アリール基が好ましく、置換アルキル基が最も好ましい。
【0016】
Zが表す置換または無置換のアルキル基は、炭素原子数が1〜30のアルキル基が好ましい。置換基の例としては、後述のZ、Y1、Y2、Y3およびY4が更に置換基を有することが可能な場合の置換基と同じものが挙げられる。
【0017】
Zが表す置換または無置換のシクロアルキル基は、炭素原子数が5〜30のシクロアルキル基が好ましい。置換基の例としては、後述のZ、Y1、Y2、Y3およびY4が更に置換基を有することが可能な場合の置換基と同じものが挙げられる。
【0018】
Zが表す置換または無置換のアルケニル基は、炭素原子数が2〜30のアルケニル基が好ましい。置換基の例としては、後述のZ、Y1、Y2、Y3およびY4が更に置換基を有することが可能な場合の置換基と同じものが挙げられる。
【0019】
Zが表す置換または無置換のアラルキル基は、炭素原子数が7〜30のアラルキル基が好ましい。置換基の例としては、後述のZ、Y1、Y2、Y3およびY4が更に置換基を有することが可能な場合の置換基と同じものが挙げられる。
【0020】
Zが表す置換または無置換のアリール基は、炭素原子数が6〜30のアリール基が好ましい。置換基の例としては、後述のZ、Y1、Y2、Y3およびY4が更に置換基を有することが可能な場合の置換基と同じものが挙げられる。
【0021】
Zが表すヘテロ環基としては、5員または6員環のものが好ましく、それらは更に縮環していてもよい。また、芳香族ヘテロ環であっても非芳香族ヘテロ環であっても良い。以下にZで表されるヘテロ環基を、置換位置を省略してヘテロ環の形で例示するが、置換位置は限定されるものではなく、例えばピリジンであれば、2位、3位、4位で置換することが可能である。ピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、トリアジン、キノリン、イソキノリン、キナゾリン、シンノリン、フタラジン、キノキサリン、ピロール、インドール、フラン、ベンゾフラン、チオフェン、ベンゾチオフェン、ピラゾール、イミダゾール、ベンズイミダゾール、トリアゾール、オキサゾール、ベンズオキサゾール、チアゾール、ベンゾチアゾール、イソチアゾール、ベンズイソチアゾール、チアジアゾール、イソオキサゾール、ベンズイソオキサゾール、ピロリジン、ピペリジン、ピペラジン、イミダゾリジン、チアゾリンなどが挙げられる。中では芳香族ヘテロ環基が好ましく、その好ましい例を先と同様に例示すると、ピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、トリアジン、ピラゾール、イミダゾール、ベンズイミダゾール、トリアゾール、チアゾール、ベンゾチアゾール、イソチアゾール、ベンズイソチアゾール、チアジアゾールが挙げられる。
これらは置換基を有していても良く、置換基の例としては、後述のZ、Y1、Y2、Y3およびY4が更に置換基を有することが可能な場合の置換基と同じものが挙げられる。
【0022】
1、Y2、Y3及びY4は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アラルキル基、アリール基、ヘテロ環基、シアノ基、ヒドロキシ基、ニトロ基、アミノ基、アルキルアミノ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アミド基、アリールアミノ基、ウレイド基、スルファモイルアミノ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルコキシカルボニルアミノ基、スルホンアミド基、カルバモイル基、アルコキシカルボニル基、ヘテロ環オキシ基、アゾ基、アシルオキシ基、カルバモイルオキシ基、シリルオキシ基、アリールオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニルアミノ基、イミド基、ヘテロ環チオ基、ホスホリル基、アシル基、カルボキシル基、またはスルホ基を表し、各々はさらに置換基を有していてもよい。
中でも、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、シアノ基、アルコキシ基、アミド基、ウレイド基、スルホンアミド基、カルバモイル基、アルコキシカルボニル基、カルボキシル基、およびスルホ基が好ましく、特に水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、カルボキシル基およびスルホ基が好ましく、水素原子が最も好ましい。
【0023】
1、Y2、Y3、Y4及びZがさらに置換基を有することが可能な基であるときは、以下に挙げたような置換基をさらに有してもよい。
【0024】
ハロゲン原子(例えば、塩素原子、臭素原子);炭素数1〜12の直鎖または分岐鎖アルキル基、炭素数7〜18のアラルキル基、炭素数2〜12のアルケニル基、炭素数2〜12の直鎖または分岐鎖アルキニル基、側鎖を有していてもよい炭素数3〜12のシクロアルキル基、側鎖を有していてもよい炭素数3〜12のシクロアルケニル基(上記基の具体的例として、例えばメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、t−ブチル、2−メチルスルホニルエチル、3−フェノキシプロピル、トリフルオロメチル、シクロペンチル):アリール基(例えば、フェニル、4−t−ブチルフェニル、2,4−ジ−t−アミルフェニル);ヘテロ環基(例えば、イミダゾリル、ピラゾリル、トリアゾリル、2−フリル、2−チエニル、2−ピリミジニル、2−ベンゾチアゾリル);アルコキシ基(例えば、メトキシ、エトキシ、2−メトキシエトキシ、2−メチルスルホニルエトキシ);アリールオキシ基(例えば、フェノキシ、2−メチルフェノキシ、4−t−ブチルフェノキシ、3−ニトロフェノキシ、3−t−ブチルオキシカルボニルフェノキシ、3−メトキシカルボニルフェノキシ);アシルアミノ基(例えば、アセトアミド、ベンズアミド、4−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシフェノキシ)ブタンアミド);アルキルアミノ基(例えば、メチルアミノ、ブチルアミノ、ジエチルアミノ、メチルブチルアミノ);アニリノ基(例えば、フェニルアミノ、2−クロロアニリノ);ウレイド基(例えば、フェニルウレイド、メチルウレイド、N,N−ジブチルウレイド);スルファモイルアミノ基(例えば、N,N−ジプロピルスルファモイルアミノ);アルキルチオ基(例えば、メチルチオ、オクチルチオ、2−フェノキシエチルチオ);アリールチオ基(例えば、フェニルチオ、2−ブトキシ−5−t−オクチルフェニルチオ、2−カルボキシフェニルチオ);アルキルオキシカルボニルアミノ基(例えば、メトキシカルボニルアミノ);スルホンアミド基(例えば、メタンスルホンアミド、ベンゼンスルホンアミド、p−トルエンスルホンアミド);カルバモイル基(例えば、N−エチルカルバモイル、N,N−ジブチルカルバモイル);スルファモイル基(例えば、N−エチルスルファモイル、N,N−ジプロピルスルファモイル、N,N−ジエチルスルファモイル);スルホニル基(例えば、メチルスルホニル、オクチルスルホニル、フェニルスルホニル、4−メチルフェニルスルホニル);アルキルオキシカルボニル基(例えば、メトキシカルボニル、ブチルオキシカルボニル);ヘテロ環オキシ基(例えば、1−フェニルテトラゾール−5−オキシ、2−テトラヒドロピラニルオキシ);アゾ基(例えば、フェニルアゾ、4−メトキシフェニルアゾ、4−ピバロイルアミノフェニルアゾ、2−ヒドロキシ−4−プロパノイルフェニルアゾ);アシルオキシ基(例えば、アセトキシ);カルバモイルオキシ基(例えば、N−メチルカルバモイルオキシ、N−フェニルカルバモイルオキシ);シリルオキシ基(例えば、トリメチルシリルオキシ、ジブチルメチルシリルオキシ);アリールオキシカルボニルアミノ基(例えば、フェノキシカルボニルアミノ);イミド基(例えば、N−スクシンイミド、N−フタルイミド);ヘテロ環チオ基(例えば、2−ベンゾチアゾリルチオ、2,4−ジ−フェノキシ−1,3,5−トリアゾール−6−チオ、2−ピリジルチオ);スルフィニル基(例えば、3−フェノキシプロピルスルフィニル);ホスホニル基(例えば、フェノキシホスホニル、オクチルオキシホスホニル、フェニルホスホニル);アリールオキシカルボニル基(例えば、フェノキシカルボニル);アシル基(例えば、アセチル、3−フェニルプロパノイル、ベンゾイル);イオン性親水性基(例えば、カルボキシル基、スルホ基、4級アンモニウム基、スルホニルスルファモイル基およびアシルスルファモイル基);その他シアノ基、ヒドロキシ基、ニトロ基、アミノ基等が挙げられる。これらの置換基の中でも、ヒドロキシ基、アルコキシ基、スルファモイル基、スルホンアミド基、アシルアミノ基、カルバモイル基、シアノ基およびイオン性親水性基が好ましく、中でもヒドロキシ基、スルファモイル基、イオン性親水性基が特に好ましい。
【0025】
一般式(I)においてa1〜a4、b1〜b4は、それぞれX1〜X4、Y1〜Y4の置換基数を表す。そしてa1〜a4は、それぞれ独立に、0〜4の整数であり、b1〜b4は、それぞれ独立に、0〜4の整数である。ここで、a1〜a4およびb1〜b4が2以上の整数であるとき、複数のX1〜X4およびY1〜Y4はそれぞれ同一でも異なっていてもよい。
【0026】
1およびb1は、a1+b1=4の関係を満たし、それぞれ独立に、0〜4の整数を表し、特に好ましいのは、a1が1または2を表し、b1が3または2を表す組み合わせであり、その中でもa1が1を表し、b1が3を表す組み合わせが最も好ましい。
【0027】
2およびb2は、a2+b2=4の関係を満たし、それぞれ独立に、0〜4の整数を表し、特に好ましいのは、a2が1または2を表し、b2が3または2を表す組み合わせであり、その中でもa2が1を表し、b2が3を表す組み合わせが最も好ましい。
【0028】
3およびb3は、a3+b3=4の関係を満たし、それぞれ独立に、0〜4の整数を表し、特に好ましいのは、a3が1または2を表し、b3が3または2を表す組み合わせであり、その中でもa3が1を表し、b3が3を表す組み合わせが最も好ましい。
【0029】
4およびb4は、a4+b4=4の関係を満たし、それぞれ独立に、0〜4の整数を表し、特に好ましいのは、a4が1または2を表し、b4が3または2を表す組み合わせであり、その中でもa4が1を表し、b4が3を表す組み合わせが最も好ましい。
【0030】
Mは、水素原子、金属元素、金属酸化物、金属水酸化物、または金属ハロゲン化物を表す。
【0031】
Mとして好ましいものは、水素原子の他に、金属元素として、Li、Na、K、Mg、Ti、Zr、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Co、Ni、Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Hg、Al、Ga、In、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi等が挙げられる。酸化物としては、VO、GeO等が好ましく挙げられる。 また、水酸化物としては、Si(OH)2、Cr(OH)2、Sn(OH)2等が好ましく挙げられる。さらに、ハロゲン化物としては、AlCl、SiCl2、VCl、VCl2、VOCl、FeCl、GaCl、ZrCl等が挙げられる。なかでも、Cu、Ni、Zn、Al等が好ましく、Cuが最も好ましい。
【0032】
また、一般式(I)で表されるフタロシアニン化合物は、L(2価の連結基)を介してPc(フタロシアニン環)が2量体(例えば、Pc−M−L−M−Pc)または3量体を形成してもよく、そのとき複数個存在するMは、それぞれ同一であっても異なるものであってもよい。
【0033】
Lで表される2価の連結基は、オキシ基−O−、チオ基−S−、カルボニル基−CO−、スルホニル基−SO2−、イミノ基−NH−、メチレン基−CH2−、及びこれらを組み合わせて形成される基が好ましい。
【0034】
上記一般式(I)において、フタロシアニン化合物の分子量は750〜3000の範囲が好ましく、さらに995〜2500の範囲の分子量が好ましく、その中でも995〜2000の分子量が好ましく、特に995〜1800の範囲の分子量が最も好ましい。
【0035】
一般式(I)で表されるフタロシアニン化合物が、L(2価の連結基)を介してPc(フタロシアニン環)が2量体(例えば、Pc−M−L−M−Pc)または3量体を形成する場合において、好ましい分子量、例えば特に好ましい分子量は、上記記載の特に好ましい分子量(995〜1800の範囲)の2倍(2量体の場合)、または3倍(3量体の場合)である。ここで、上記2または3量体の好ましい分子量は、連結基Lを含んだ値である。
【0036】
一般式(I)で表されるフタロシアニン化合物は、X1、X2、X3、X4、Y1、Y2、Y3及びY4の少なくとも1つは、イオン性親水性基であるかまたはイオン性親水性基を置換基として有する基である。
【0037】
置換基としてのイオン性親水性基には、スルホ基(−SO3-+)、カルボキシル基(−CO2-+)、および4級アンモニウム基(−N+RR’R”X-)、アシルスルファモイル基(−SO2+-COR)、スルホニルカルバモイル基(−CON+-SO2R)、スルホニルスルファモイル基(−SO2+-SO2R)等が含まれる。好ましくは、スルホ基、カルボキシル基および4級アンモニウム基であり、特にスルホ基が好ましい。スルホ基、カルボキシル基、アシルスルファモイル基、スルホニルカルバモイル基およびスルホニルスルファモイル基は塩の状態であってもよく、塩を形成する対イオンの例には、アルカリ金属イオン(例、ナトリウムイオン、カリウムイオン、リチウムイオン)、アンモニウムイオン、有機カチオン(例、テトラメチルグアニジニウムイオン)、有機及び/又は無機アニオン(例、ハロゲンイオン、メタンスルホン酸イオン、ベンゼンスルホン酸イオン)が含まれる。なお、上記カッコ内のXは、水素原子または対イオン、R、R’、R”は置換基を表す。
【0038】
一般式(I)で表されるフタロシアニン化合物は、一分子中にイオン性親水性基またはイオン性親水性基を置換基として有する基が少なくとも1つ存在しているので、水性媒体中に対する溶解性または分散性が良好となる。このような観点から、一般式(I)で表されるフタロシアニン化合物としては、一分子中にイオン性親水性基を少なくとも2個有するものが好ましく、複数個のイオン性親水性基の少なくとも1個がスルホ基であるものがより好ましく、その中でも一分子中にスルホ基を少なくとも2個有するものが最も好ましい。
【0039】
上記一般式(I)で表されるフタロシアニン化合物として特に好ましい化合物は、下記(イ)〜(へ)の組み合わせを有する化合物である。
【0040】
(イ)X1〜X4に関しては、これらが、それぞれ独立に、−SO2−Zが好ましい。
(ロ)Zに関しては、これらが、それぞれ独立に、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のヘテロ環基であり、その中でも置換アルキル基、置換アリール基、置換ヘテロ環基が好ましく、置換アルキル基が最も好ましい。
(ハ)Y1〜Y4に関しては、これらが、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、シアノ基、アルコキシ基、アミド基、ウレイド基、スルホンアミド基、カルバモイル基、スルファモイル基、アルコキシカルボニル基、カルボキシル基、およびスルホ基が好ましく、特に水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、カルボキシル基、およびスルホ基が好ましく、水素原子が最も好ましい。
(ニ)a1〜a4はそれぞれ独立に1または2であることが好ましく、特に1であることが好ましい。b1〜b4はそれぞれ独立に、3または2であることが好ましく、特に3であることが好ましい。
(ホ)Mは、Cu、Ni、Zn、またはAlであることが好ましく、なかでもCuであることが最も好ましい。
(ヘ)フタロシアニン化合物の分子量は、750〜3000の範囲が好ましく、更に995〜2500の範囲の分子量が好ましく、その中でも995〜2000の範囲の分子量が好ましく、特に995〜1800の範囲の分子量が最も好ましい。
【0041】
前記一般式(I)で表される化合物の好ましい置換基の組み合わせについては、種々の置換基の少なくとも1つが前記の好ましい基である化合物が好ましく、より多くの種々の置換基が前記好ましい基である化合物がより好ましく、全ての置換基が前記好ましい基である化合物が最も好ましい。
【0042】
一般式(I)で表されるフタロシアニン化合物の中でも、下記一般式(III)で表される構造のフタロシアニン化合物がさらに好ましい。以下に、本発明で用いる一般式(III)で表されるフタロシアニン化合物について詳しく述べる。
【0043】
【化4】

【0044】
前記一般式(III)において、X21、X22、X23およびX24は、それぞれ独立に、−SO−Zおよび−SO2−Zのいずれかを表し、特に−SO2−Zが好ましい。
Zに関しては、一般式(I)の中のZと同義であり、好ましい例も同じである。
【0045】
21〜Y28に関しては、それぞれ独立に一般式(I)の中のY1、Y2、Y3、Y4とそれぞれ同義であり、好ましい例も同じである。
21〜a24は、4≦a21+a22+a23+a24≦8、好ましくは4≦a21+a22+a23+a24≦6を満たし、かつそれぞれ独立に1または2の整数を表す。特に好ましくはa21=a22=a23=a24=1の場合である。
【0046】
Mは前記一般式(I)におけるMと同義である。
21、X22、X23、X24、Y21、Y22、Y23、Y24、Y25、Y26、Y27およびY28の少なくとも1つは、イオン性親水性基またはイオン性親水性基を置換基として有する基である。
イオン性親水性基の例は、一般式(I)におけるX1、X2、X3、X4の例と同義であり、好ましい例も同じである。
【0047】
一般式(III)で表されるフタロシアニン化合物は、イオン性親水性基またはイオン性親水性基を置換基として有する基が一分子中に少なくとも1つ存在しているので、水性媒体中に対する溶解性または分散性が良好となる。このような観点から、一般式(III)で表されるフタロシアニン化合物は、一分子中にイオン性親水性基を少なくとも2個有するものが好ましく、複数個のイオン性親水性基の少なくとも1個がスルホ基であるものがより好ましく、その中でも一分子中にスルホ基を少なくとも2個有するものが最も好ましい。
【0048】
上記一般式(III)において、フタロシアニン化合物の分子量は750〜3000の範囲が好ましく、さらに995〜2500の範囲の分子量が好ましく、その中でも995〜2000の分子量が好ましく、特に995〜1800の範囲の分子量が最も好ましい。
但し、本発明における一般式(III)で表されるフタロシアニン化合物が、L(2価の連結基)を介してPc(フタロシアニン環)が2量体(例えば、Pc−M−L−M−Pc)または3量体を形成する場合において、好ましい分子量、例えば特に好ましい分子量は、上記記載の特に好ましい分子量(995〜1800の範囲)の2倍(2量体の場合)、または3倍(3量体の場合)である。ここで、上記2または3量体の好ましい分子量は、連結基Lを含んだ値である。
【0049】
上記一般式(III)で表されるフタロシアニン化合物として特に好ましい化合物は、下記(イ)〜(へ)の組み合わせを有する化合物である。
【0050】
(イ)X21〜X24に関しては、それぞれ独立に、−SO2−Zが好ましい。
(ロ)Zに関しては、それぞれ独立に、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のヘテロ環基が好ましく、その中でも置換アルキル基、置換アリール基、置換ヘテロ環基が好ましく、置換アルキル基が最も好ましい。
(ハ)Y21〜Y28に関しては、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、シアノ基、アルコキシ基、アミド基、ウレイド基、スルホンアミド基、カルバモイル基、スルファモイル基、アルコキシカルボニル基、カルボキシル基、およびスルホ基が好ましく、特に水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、カルボキシル基、およびスルホ基が好ましく、水素原子が最も好ましい。
(ニ)a11〜a14は、それぞれ独立に、1または2であることが好ましく、特にa11=a12=a13=a14=1であることが好ましい。
(ホ)Mは、Cu、Ni、Zn、またはAlであることが好ましく、なかでもCuであることが最も好ましい。
(ヘ)フタロシアニン化合物の分子量は、750〜2500の範囲が好ましく、更に995〜2500の範囲の分子量が好ましく、その中でも995〜2000の範囲の分子量が好ましく、特に995〜1800の範囲の分子量が最も好ましい。
【0051】
前記一般式(III)で表される化合物の好ましい置換基の組み合わせについては、種々の置換基の少なくとも1つが前記の好ましい基である化合物が好ましく、より多くの種々の置換基が前記好ましい基である化合物がより好ましく、全ての置換基が前記好ましい基である化合物が最も好ましい。
【0052】
一般式(III)で表されるフタロシアニン化合物の中でも、下記一般式(IV)で表される構造のフタロシアニン化合物がさらに好ましい。以下に、本発明で用いる一般式(IV)で表されるフタロシアニン化合物について詳しく述べる。
【0053】
【化5】

【0054】
一般式(IV)のZ1、Z2、Z3、Z4に関しては、それぞれ独立に一般式(I)中のZと同義であり、好ましい例も同じである。
【0055】
1、q2、q3、q4は、それぞれ独立に、1または2の整数を表し、特に2であることが好ましく、その中でもq1=q2=q3=q4=2であることが最も好ましい。
31、a32、a33、a34は、それぞれ独立に、1または2の整数を表し、特に1であることが好ましく、その中でもa31=a32=a33=a34=1であることが最も好ましい。
【0056】
Mは、前記一般式(I)におけるMと同義である。
1、Z2、Z3およびZ4の少なくとも1つはイオン性親水性基を置換基として有する。
イオン性親水性基の例は、前記一般式(I)におけるZの例と同義であり、好ましい例も同じである。
フタロシアニン化合物の分子量は、750〜2500の範囲が好ましく、更に995〜2500の範囲の分子量が好ましく、その中でも995〜2000の範囲の分子量が好ましく、特に995〜1800の範囲の分子量が最も好ましい。
【0057】
本発明で用いる一般式(I)で表される化合物の中では、下記一般式(II)で表される化合物が特に好ましい。
【0058】
【化6】

式中、Mは一般式(I)におけると同義であり、R1〜R4はそれぞれ独立に−SO2Zを表す。Zは一般式(I)におけるZと同義であり、好ましい例も同じである。但し、4つのZのうち少なくとも1つはイオン性親水性基を置換基として有する。
【0059】
上記化合物のうち、一般式(II)におけるMが銅元素であり、イオン性親水性基を置換基として有するZがスルホアルキル基である化合物がより好ましく、さらにはスルホ基が塩の状態であり、塩を形成する対カチオンがリチウムカチオンである化合物が好ましい。
【0060】
本発明で用いることのできる下記一般式(V)で表されるフタロシアニン化合物は、例えば下記一般式(VI)で表されるフタロニトリル化合物及び/又は下記一般式(VII)で表されるジイミノイソインドリン誘導体とM−(Y)dで表される金属誘導体を反応させることにより合成される。なお、式中、Z及びZ1〜Z4は一般式(I)におけるZと同義であり、Mは一般式(I)におけるMと同義である。Yはハロゲン原子、酢酸陰イオン、アセチルアセトネート、酸素などの1価又は2価の配位子を示し、dは1〜4の整数である。M−(Y)dで示される金属誘導体としては、Al、Si、Ti、V、Mn,Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ge、Ru、Rh、Pd、In、Sn、Pt、Pbのハロゲン化物、カルボン酸誘導体、硫酸塩、硝酸塩、カルボニル化合物、酸化物、錯体等が挙げられる。具体例としては塩化銅、臭化銅、沃化銅、塩化ニッケル、臭化ニッケル、酢酸ニッケル、塩化コバルト、臭化コバルト、酢酸コバルト、塩化鉄、塩化亜鉛、臭化亜鉛、沃化亜鉛、酢酸亜鉛、塩化バナジウム、オキシ三塩化バナジウム、塩化パラジウム、酢酸パラジウム、塩化アルミニウム、塩化マンガン、酢酸マンガン、アセチルアセトンマンガン、塩化マンガン、塩化鉛、酢酸鉛、塩化インジウム、塩化チタン、塩化スズ等が挙げられる。
【0061】
【化7】

【0062】
このようにして得られる前記一般式(V)で表される化合物は通常、R1(SO2−Z1)、R2(SO2−Z2)、R3(SO2−Z3)、R4(SO2−Z4)の各置換位置における異性体である下記一般式(a)−1〜(a)−4で表される化合物の混合物となっている。
さらに、置換基の異なる2種類以上の一般式(VI)及び/又は一般式(VII)を用いて染料を調製する場合には、一般式(V)で表される化合物は、置換基の種類、位置が異なる染料混合物となっている。
【0063】
【化8】

【0064】
本発明に用いるシアン系染料の例としては、特開2002−249677号、同2003−213167号、同2003−213168号、同2004−2670号公報に記載の該当する構造の化合物を挙げることができるが、特に好ましいものは下記表に挙げるものである。表1、表2に記載の化合物については、上記公報もしくは明細書中に記載の方法で合成できる。もちろん、出発化合物、色素中間体および合成方法について、これらに限定されるものではない。
【0065】
【表1】

【0066】
【表2】

【0067】
マゼンタ系染料としては、下記一般式(VI)で示される化合物を好ましく用いることができる。
一般式(VI)
【0068】
【化9】

【0069】
一般式(VI)において、 Aは5員複素環ジアゾ成分A−NH2の残基を表す。 該5員複素環のヘテロ原子の例には、N、O、およびSを挙げることができる。好しくは含窒素5員複素環であり、複素環に脂肪族環、芳香族環または他の複素環が縮合していてもよい。Aの好ましい複素環の例には、ピラゾール環、イミダゾール環、チアゾール環、イソチアゾール環、チアジアゾール環、ベンゾチアゾール環、ベンゾオキサゾール環、ベンゾイソチアゾール環を挙げることができる。各複素環基は更に置換基を有していてもよい。なかでも、下記一般式(a)から(f)で表されるピラゾール環、イミダゾール環、イソチアゾール環、チアジアゾール環、ベンゾチアゾール環が好ましい。
【0070】
【化10】

【0071】
上記一般式(a)〜(f)のR7〜R20は、後に説明する置換基G、R1、R2と同じ置換基を表す。上記一般式(a)〜(f)のうち、好ましいのは一般式(a)、(b)で表されるピラゾール環、イソチアゾール環であり、最も好ましいのは一般式(a)で表されるピラゾール環である。
1およびB2は、各々−CR1=、−CR2=を表すか、あるいはいずれか一方が窒素原子,他方が−CR1=または−CR2=を表すが、各々−CR1=、−CR2=を表すものがより好ましい。
5、R6は、各々独立に、水素原子、脂肪族基、芳香族基、複素環基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、カルバモイル基、アルキルおよびアリールスルホニル基、またはスルファモイル基を表し、各基は更に置換基を有していてもよい。 R5、R6で表される好ましい置換基は、水素原子、脂肪族基、芳香族基、複素環基、アシル基、アルキルおよびアリールスルホニル基を挙げることができる。 さらに好ましくは水素原子、芳香族基、複素環基、アシル基、アルキルまたはアリールスルホニル基である。最も好ましくは、水素原子、アリール基、複素環基である。各基は更に置換基を有していてもよい。 ただし、R5、R6が同時に水素原子であることはない。
【0072】
G、R1、R2は、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、脂肪族基、芳香族基、複素環基、シアノ基、カルボキシル基、カルバモイル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシル基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、シリルオキシ基、アシルオキシ基、カルバモイルオキシ基、ヘテロ環オキシ基、アルコキシカルボニルオキシ基、アリールオキシカルボニルオキシ基、アルキル基またはアリール基または複素環基で置換されたアミノ基、アシルアミノ基、ウレイド基、スルファモイルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、アルキルおよびアリールスルホニルアミノ基、ニトロ基、アルキルおよびアリールチオ基、ヘテロ環チオ基、アルキルおよびアリールスルホニル基、アルキルスルフィニル基、アリールスルフィニル基、スルファモイル基、またはスルホ基を表し、各基は更に置換されていてもよい。
【0073】
Gで表される好ましい置換基としては、水素原子、ハロゲン原子、脂肪族基、芳香族基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシルオキシ基、ヘテロ環オキシ基、アルキル基またはアリール基または複素環基で置換されたアミノ基、アシルアミノ基、ウレイド基、スルファモイルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、アルキルおよびアリールチオ基、およびヘテロ環チオ基が挙げられ、より好ましくは水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシルオキシ基、アルキル基またはアリール基または複素環基で置換されたアミノ基、またはアシルアミノ基であり、なかでも水素原子、アリールアミノ基、アミド基が最も好ましい。各基は更に置換基を有していてもよい。
【0074】
1、R2で表される好ましい置換基としては、水素原子、アルキル基、アルコキシカルボニル基、カルボキシル基、カルバモイル基およびシアノ基を挙げることができる。各基は更に置換基を有していてもよい。R1とR5あるいはR5とR6が結合して5〜6員環を形成してもよい。A、R1、R2、R5、R6、Gで表される各置換基が更に置換基を有する場合の置換基としては、上記G,R1,R2で挙げた置換基を挙げることができる。
【0075】
一般式(VI)で表されるアゾ染料が水溶性染料である場合には、A、R1、R2、R5、R6、G上のいずれかの位置に置換基としてイオン性親水性基をさらに有することが好ましい。置換基としてのイオン性親水性基には、スルホ基、カルボキシル基、および4級アンモニウム基等が含まれる。該イオン性親水性基としては、カルボキシル基およびスルホ基が好ましく、特にスルホ基が好ましい。カルボキシル基およびスルホ基は塩の状態であってもよく、塩を形成する対イオンの例には、アルカリ金属イオン(例、ナトリウムイオン、カリウムイオン、リチウムイオン)、アンモニウムイオンおよび有機カチオン(例、テトラメチルアンモニウム、テトラメチルグアニジウムイオン)が含まれる。
【0076】
以下、G、R1、R2で表される置換基について詳しく説明する。
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子および臭素原子が挙げられる。
【0077】
一般式(VI)において、脂肪族基は、アルキル基、置換アルキル基、アルケニル基、置換アルケニル基、アルキニル基、置換アルキニル基、アラルキル基および置換アラルキル基を意味する。脂肪族基は、分岐を有していてもよく、また環を形成していてもよい。脂肪族基の炭素原子数は、1〜20であることが好ましく、1〜16であることがさらに好ましい。アラルキル基および置換アラルキル基のアリール部分はフェニルまたはナフチルであることが好ましく、フェニルが特に好ましい。脂肪族基の例には、メチル、エチル、ブチル、イソプロピル、t−ブチル、ヒドロキシエチル、メトキシエチル、シアノエチル、トリフルオロメチル、3−スルホプロピル、4−スルホブチル、シクロヘキシル基、ベンジル基、2−フェネチル基、ビニル基、およびアリル基を挙げることができる。
【0078】
一般式(VI)において、芳香族基は、アリール基および置換アリール基を意味する。アリール基は、フェニルまたはナフチルであることが好ましく、フェニルが特に好ましい。芳香族基の炭素原子数は6〜20であることが好ましく、6〜16がさらに好ましい。芳香族基の例には、フェニル、p−トリル、p−メトキシフェニル、o−クロロフェニルおよびm−(3−スルホプロピルアミノ)フェニルが含まれる。複素環基には、置換基を有する複素環基および無置換の複素環基が含まれる。複素環に脂肪族環、芳香族環または他の複素環が縮合していてもよい。複素環基としては、5員または6員環の複素環基が好ましい。置換基の例には、脂肪族基、ハロゲン原子、アルキル及びアリールスルホニル基、アシル基、アシルアミノ基、スルファモイル基、カルバモイル基、イオン性親水性基などが含まれる。複素環基の例には、2−ピリジル基、2−チエニル基、2−チアゾリル基、2−ベンゾチアゾリル基、2−ベンゾオキサゾリル基および2−フリル基が含まれる。
【0079】
カルバモイル基には、置換基を有するカルバモイル基および無置換のカルバモイル基が含まれる。置換基の例には、アルキル基が含まれる。カルバモイル基の例には、メチルカルバモイル基およびジメチルカルバモイル基が含まれる。
【0080】
アルコキシカルボニル基には、置換基を有するアルコキシカルボニル基および無置換のアルコキシカルボニル基が含まれる。アルコキシカルボニル基としては、炭素原子数が2〜12のアルコキシカルボニル基が好ましい。置換基の例には、イオン性親水性基が含まれる。アルコキシカルボニル基の例には、メトキシカルボニル基およびエトキシカルボニル基が含まれる。
【0081】
アリールオキシカルボニル基には、置換基を有するアリールオキシカルボニル基および無置換のアリールオキシカルボニル基が含まれる。アリールオキシカルボニル基としては、炭素原子数が7〜12のアリールオキシカルボニル基が好ましい。置換基には、イオン性親水性基が含まれる。アリールオキシカルボニル基の例には、フェノキシカルボニル基が含まれる。
【0082】
アシル基には、置換基を有するアシル基および無置換のアシル基が含まれる。アシル基としては、炭素原子数が1〜12のアシル基が好ましい。置換基の例には、イオン性親水性基が含まれる。アシル基の例には、アセチル基およびベンゾイル基が含まれる。
【0083】
アルコキシ基には、置換基を有するアルコキシ基および無置換のアルコキシ基が含まれる。アルコキシ基としては、炭素原子数が1〜12のアルコキシ基が好ましい。置換基の例には、アルコキシ基、ヒドロキシ基、およびイオン性親水性基が含まれる。アルコキシ基の例には、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、メトキシエトキシ基、ヒドロキシエトキシ基および3−カルボキシプロポキシ基が含まれる。
【0084】
アリールオキシ基には、置換基を有するアリールオキシ基および無置換のアリールオキシ基が含まれる。アリールオキシ基としては、炭素原子数が6〜12のアリールオキシ基が好ましい。置換基の例には、アルコキシ基、およびイオン性親水性基が含まれる。アリールオキシ基の例には、フェノキシ基、p−メトキシフェノキシ基およびo−メトキシフェノキシ基が含まれる。
【0085】
アシルオキシ基には、置換基を有するアシルオキシ基および無置換のアシルオキシ基が含まれる。アシルオキシ基としては、炭素原子数1〜12のアシルオキシ基が好ましい。置換基の例には、イオン性親水性基が含まれる。アシルオキシ基の例には、アセトキシ基およびベンゾイルオキシ基が含まれる。
【0086】
カルバモイルオキシ基には、置換基を有するカルバモイルオキシ基および無置換のカルバモイルオキシ基が含まれる。置換基の例には、アルキル基が含まれる。カルバモイルオキシ基の例には、N−メチルカルバモイルオキシ基が含まれる。
【0087】
アルキル基またはアリール基または複素環基で置換されたアミノ基の置換基は、さらに置換基を有していてもよい。無置換のアミノ基は含まれない。アルキルアミノ基としては、炭素原子数1〜6のアルキルアミノ基が好ましい。置換基の例には、イオン性親水性基が含まれる。アルキルアミノ基の例には、メチルアミノ基およびジエチルアミノ基が含まれる。アリールアミノ基には、置換基を有するアリールアミノ基および無置換のアリールアミノ基が含まれる。アリールアミノ基としては、炭素原子数が6〜12のアリールアミノ基が好ましい。置換基の例としては、ハロゲン原子、およびイオン性親水性基が含まれる。アリールアミノ基の例としては、アニリノ基および2−クロロアニリノ基が含まれる。
【0088】
アシルアミノ基には、置換基を有するアシルアミノ基が含まれる。前記アシルアミノ基としては、炭素原子数が2〜12のアシルアミノ基が好ましい。置換基の例には、イオン性親水性基が含まれる。アシルアミノ基の例には、アセチルアミノ基、プロピオニルアミノ基、ベンゾイルアミノ基、N-フェニルアセチルアミノおよび3,5−ジスルホベンゾイルアミノ基が含まれる。
【0089】
ウレイド基には、置換基を有するウレイド基および無置換のウレイド基が含まれる。前記ウレイド基としては、炭素原子数が1〜12のウレイド基が好ましい。置換基の例には、アルキル基およびアリール基が含まれる。ウレイド基の例には、3−メチルウレイド基、3,3−ジメチルウレイド基および3−フェニルウレイド基が含まれる。
【0090】
スルファモイルアミノ基には、置換基を有するスルファモイルアミノ基および無置換のスルファモイルアミノ基が含まれる。置換基の例には、アルキル基が含まれる。スルファモイルアミノ基の例には、N, N−ジプロピルスルファモイルアミノが含まれる。
【0091】
アルコキシカルボニルアミノ基には、置換基を有するアルコキシカルボニルアミノ基および無置換のアルコキシカルボニルアミノ基が含まれる。アルコキシカルボニルアミノ基としては、炭素原子数が2〜12のアルコキシカルボニルアミノ基が好ましい。置換基の例には、イオン性親水性基が含まれる。アルコキシカルボニルアミノ基の例には、エトキシカルボニルアミノ基が含まれる。
【0092】
アリールオキシカルボニルアミノ基には、置換基を有するアリールオキシカルボニルアミノ基および無置換のアリールオキシカルボニルアミノ基が含まれる。アリールオキシカルボニルアミノ基としては、炭素原子数が7〜12のアリールオキシカルボニルアミノ基が好ましい。置換基の例には、イオン性親水性基が含まれる。前記アリールオキシカルボニルアミノ基の例には、フェノキシカルボニルアミノ基が含まれる。
【0093】
アルキル及びアリールスルホニルアミノ基には、置換基を有するアルキル及びアリールスルホニルアミノ基、および無置換のアルキル及びアリールスルホニルアミノ基が含まれる。スルホニルアミノ基としては、炭素原子数が1〜12のスルホニルアミノ基が好ましい。置換基の例には、イオン性親水性基が含まれる。スルホニルアミノ基の例には、メタンスルホニルアミノ基、N-フェニルメタンスルホニルアミノ基、ベンゼンスルホニルアミノ基、および3−カルボキシベンゼンスルホニルアミノ基が含まれる。
【0094】
アルキル、アリール及び複素環チオ基には、置換基を有するアルキル,アリール及び複素環チオ基と無置換のアルキル、アリール及び複素環チオ基が含まれる。アルキル,アリール及び複素環チオ基としては、炭素原子数が1〜12のものが好ましい。置換基の例には、イオン性親水性基が含まれる。アルキル,アリール及び複素環チオ基の例には、メチルチオ基、フェニルチオ基、2−ピリジルチオ基が含まれる。
【0095】
アルキルおよびアリールスルホニル基の例としては、それぞれメタンスルホニル基およびフェニルスルホニル基をあげることができる。アルキルおよびアリールスルフィニル基の例としては、それぞれメタンスルフィニル基およびフェニルスルフィニル基をあげることができる。
【0096】
スルファモイル基には、置換基を有するスルファモイル基および無置換のスルファモイル基が含まれる。置換基の例には、アルキル基が含まれる。スルファモイル基の例には、ジメチルスルファモイル基およびジ−(2−ヒドロキシエチル)スルファモイル基が含まれる。
【0097】
本発明において、特に好ましいアゾ染料は、下記一般式(VII)で表されるものである。
【0098】
一般式(VII)
【化11】

【0099】
式中、Z1はハメットの置換基定数σp値が0.20以上の電子吸引性基を表す。Z1はσp値が0.30〜1.0の電子吸引性基であるのが好ましい。好ましい具体的な置換基については後述する電子吸引性置換基を挙げることができるが、なかでも、炭素数2〜12のアシル基、炭素数2〜12のアルキルオキシカルボニル基、ニトロ基、シアノ基、炭素数1〜12のアルキルスルホニル基、炭素数6〜18のアリールスルホニル基、炭素数1〜12のカルバモイル基及び炭素数1〜12のハロゲン化アルキル基が好ましい。特に好ましいものは、シアノ基、炭素数1〜12のアルキルスルホニル基、炭素数6〜18のアリールスルホニル基であり、最も好ましいものはシアノ基である。
【0100】
1、R2,R5,R6は一般式(VI)の場合と同義である。R3、R4は、各々独立に、水素原子、脂肪族基、芳香族基、複素環基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、カルバモイル基、アルキル及びアリールスルホニル基、またはスルファモイル基を表す。なかでも、水素原子、芳香族基、複素環基、アシル基、アルキル及びアリールスルホニル基が好ましく、水素原子、芳香族基、複素環基が特に好ましい。Z2は、水素原子、脂肪族基、芳香族基または複素環基を表す。
【0101】
Qは、水素原子、脂肪族基、芳香族基または複素環基を表す。なかでも、Qは5〜8員環を形成するのに必要な非金属原子群からなる基が好ましい。この5〜8員環は置換されていてもよいし、飽和環であっても不飽和結合を有していてもよい。そのなかでも、特に芳香族基、複素環基が好ましい。好ましい非金属原子としては、窒素原子、酸素原子、イオウ原子および炭素原子が挙げられる。5〜8員環の具体例としては、例えばベンゼン環、シクロペンタン環、シクロヘキサン環、シクロヘプタン環、シクロオクタン環、シクロヘキセン環、ピリジン環、ピリミジン環、ピラジン環、ピリダジン環、トリアジン環、イミダゾール環,ベンゾイミダゾール環、オキサゾール環、ベンゾオキサゾール環、チアゾール環、ベンゾチアゾール環、オキサン環、スルホラン環およびチアン環等が挙げられる。
【0102】
一般式(VII)で説明した各基は更に置換基を有していてもよい。これらの各基が更に置換基を有する場合、該置換基としては、一般式(VI)で説明した置換基、G、R1、R2で例示した基やイオン性親水性基が挙げられる。
【0103】
ここで、置換基Z1に関連して、本明細書中で用いられるハメットの置換基定数σp値について説明する。ハメット則はベンゼン誘導体の反応または平衡に及ぼす置換基の影響を定量的に論ずるために1935年にL. P. Hammett により提唱された経験則であるが、これは今日広く妥当性が認められている。ハメット則に求められた置換基定数にはσp値とσm値があり、これらの値は多くの一般的な成書に見出すことができるが、例えば、J. A. Dean編、「Lange's Handbook of Chemistry 」第12版、1979年(McGraw-Hill)や「化学の領域」増刊、122号、96〜103頁、1979年(南光堂)に詳しい。尚、本発明において各置換基をハメットの置換基定数σpにより限定したり、説明したりするが、これは上記の成書で見出せる、文献既知の値がある置換基にのみ限定されるという意味ではなく、その値が文献未知であってもハメット則に基づいて測定した場合にその範囲内に含まれるであろう置換基をも含むことはいうまでもない。また、本発明の一般式(VI)および(VII)の中には、ベンゼン誘導体ではない物も含まれるが、置換基の電子効果を示す尺度として、置換位置に関係なくσp値を使用する。本発明において、σp値をこのような意味で使用する。
【0104】
ハメット置換基定数σp値が0.60以上の電子吸引性基としては、シアノ基、ニトロ基、アルキルスルホニル基(例えばメタンスルホニル基、アリールスルホニル基(例えばベンゼンスルホニル基)を例として挙げることができる。ハメットσp値が0.45以上の電子吸引性基としては、上記に加えアシル基(例えばアセチル基)、アルコキシカルボニル基(例えばドデシルオキシカルボニル基)、アリールオキシカルボニル基(例えば、m−クロロフェノキシカルボニル)、アルキルスルフィニル基(例えば、n−プロピルスルフィニル)、アリールスルフィニル基(例えばフェニルスルフィニル)、スルファモイル基(例えば、N−エチルスルファモイル、N,N−ジメチルスルファモイル)、ハロゲン化アルキル基(例えば、トリフロロメチル)を挙げることができる。
【0105】
ハメット置換基定数σp値が0.30以上の電子吸引性基としては、上記に加え、アシルオキシ基(例えば、アセトキシ)、カルバモイル基(例えば、N−エチルカルバモイル、N,N−ジブチルカルバモイル)、ハロゲン化アルコキシ基(例えば、トリフロロメチルオキシ)、ハロゲン化アリールオキシ基(例えば、ペンタフロロフェニルオキシ)、スルホニルオキシ基(例えばメチルスルホニルオキシ基)、ハロゲン化アルキルチオ基(例えば、ジフロロメチルチオ)、2つ以上のσp値が0.15以上の電子吸引性基で置換されたアリール基(例えば、2,4−ジニトロフェニル、ペンタクロロフェニル)、および複素環(例えば、2−ベンゾオキサゾリル、2−ベンゾチアゾリル、1−フェニル−2−ベンズイミダゾリル)を挙げることができる。σp値が0.20以上の電子吸引性基の具体例としては、上記に加え、ハロゲン原子などが挙げられる。
【0106】
前記一般式(VI)で表されるアゾ染料として特に好ましい置換基の組み合わせは、以下の通りである。
(イ)R5およびR6は、好ましくは水素原子、アルキル基、アリール基、複素環基、スルホニル基、アシル基であり、さらに好ましくは水素原子、アリール基、複素環基、スルホニル基であり、最も好ましくは水素原子、アリール基、複素環基である。ただし、R5およびR6が共に水素原子であることは無い。
(ロ)Gは、好ましくは水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、ヒドロキシ基、アミノ基、アミド基であり、さらに好ましくは水素原子、ハロゲン原子、アミノ基、アミド基であり、最も好ましくは水素原子、アミノ基、アミド基である。
(ハ)Aは、好ましくはピラゾール環、イミダゾール環、イソチアゾール環、チアジアゾール環、ベンゾチアゾール環であり、さらに好ましくはピラゾール環、イソチアゾール環であり、最も好ましくはピラゾール環である。
(ニ)B1およびB2は、それぞれ−CR1=、−CR2=であり、そしてこれらR1、R2は、各々好ましくは水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、カルバモイル基、カルボキシル基、アルキル基、ヒドロキシ基、アルコキシ基であり、さらに好ましくは水素原子、シアノ基、カルバモイル基、アルキル基である。
【0107】
尚、一般式(VI)で表される化合物の好ましい置換基の組み合わせについては、種々の置換基の少なくとも1つが前記の好ましい基である化合物が好ましく、より多くの種々の置換基が前記好ましい基である化合物がより好ましく、全ての置換基が前記好ましい基である化合物が最も好ましい。
【0108】
前記の一般式(VI)で表される化合物は、どのような方法で製造されてもよいが、例えば、以下のような方法で製造することができる。
【0109】
(a)下記一般式(VIII)で表される化合物と、ジアゾ化剤とを反応させてジアゾニウム塩を形成する。
(b)上記工程(a)で形成されたジアゾニウム塩を下記一般式(IX)で表されるカップリング剤と反応させて、上記一般式(VI)で表される化合物を形成する。
(c)塩基の存在下で、上記工程(b)で形成された化合物をアルキル化剤、アリール化剤又はヘテリル化剤と反応させてアルキル基等の置換基を導入した上記一般式(VI)で表される化合物を形成する。
【0110】
一般式(VIII)
【化12】

一般式(IX)
【化13】

【0111】
(式中、A、G、B1、B2、R5、R6は上記一般式(VI)の場合と同義である。)
さらに、上記一般式(VI)の化合物において水溶性基を導入する場合、求電子反応を用いる。求電子反応としてはスルホン化、マンニッヒ反応、フリーデルクラフツ反応があり、中でもスルホン化が好ましい。
【0112】
以下に本発明において好ましく用いることのできる一般式(VI)で表される化合物の具体例を示す。
【0113】
【表3】

【0114】
【表4】

【0115】
【表5】

【0116】
【表6】

【0117】
【表7】

【0118】
【表8】

【0119】
本発明に好適に用いることのできる黒色染料としては下記の式(4):
【化14】

で表される化合物及び式(4)で表される化合物の塩を挙げることができる。
【0120】
上記式(4)中、R1は置換基を有するフェニル基または置換基を有するナフチル基を表す。さらに式(4)中、R2は置換基を有するフェニレン基または置換基を有するナフチレン基を表す。さらに式(4)中、R3は少なくとも1つの二重結合及び置換基を有する5〜7員環の複素環基を表す。さらにR1〜R3における前記置換基は独立して、OH、SO3H、PO32、CO2H、NO2、NH2、C1〜4のアルキル基、置換されたアルキル基、C1〜4のアルコキシ基、置換されたアルコキシ基、アミノ基、置換されたアミノ基、及び置換されたフェニル基からなる群から選ばれる基を表す。
【0121】
さらに上記の置換されたアルキル基は、OH、SO3H、PO32、CO2H、及びNH2基からなる群から選ばれた1種以上の基で置換されたC1〜4のアルキル基から選ばれることが好ましい。また、上記の置換されたアルコキシ基は、OH、SO3H、PO32、CO2H、及びNH2基からなる群から選ばれる1種以上の基で置換されたC1〜4のアルコキシ基から選ばれることが好ましい。また、上記の置換されたアミノ基は、OH、SO3H、PO32、CO2H、及びNH2基からなる群から選ばれた1種以上の基で置換されたC1〜4のアルキル基を1つまたは2つ有するアミノ基からなる群から選ばれることが好ましい。また、上記の置換基されたフェニル基は、OH、SO3H、PO32、CO2H、NH2、C1〜4のアルキル基、及び置換されたC1〜4のアルキル基からなる群から選ばれる置換基を1つまたは2つ有するフェニル基からなる群から選ばれることが好ましい。
【0122】
さらに本発明に用いる上記式(4)で表される化合物としては、以下の式(5):
【化15】

(式(5)中、R1〜R9は独立して、H、OH、SO3H、PO32、CO2H、NO2、及びNH2からなる群から選ばれる基を表す。)
で表される化合物であることが特に好ましい。
【0123】
本発明に好ましく用いることのできる黒色水性インク組成物は、少なくとも1種以上の黒色染料を含む組成物であって、この黒色染料として上記式(4)で表される化合物(以下、単に化合物(4)ともいう。)及び化合物(4)の塩からなる群から選ばれる少なくとも一種がインク組成物中に含まれているものである。
【0124】
化合物(4)としては、以下の式(6)〜式(12)で表される化合物が特に好ましい。
【化16】

【化17】

【化18】

【化19】

【化20】

【化21】

【化22】

【0125】
上記式(4)または式(5)で表される化合物は、好ましい方法を用いて適宜合成することができるが、例えば各化合物において3つのアゾ基によって結合されている4つの対応する各構造を有するビルディングブロックをアゾカップリングによって結合することによって合成することができる。すなわち、たとえば式(4)で表されるジヒドロキシナフタレン骨格部分をQで表すと、式(4)の化合物は、R3−N=N−R2−N=N−Q−N=N−R1で表すことができる。この化合物を合成する一つの具体的な方法を模式的に示すと、まずR1−NH2をジアゾ化して得られたジアゾニウム塩をQHと反応させてR1−N=N−QHとする。次にCH3CON−R2−NH2をジアゾ化して得られる化合物とR1−N=N−QHをカップリングさせてR1−N=N−Q−N=N−R2NCOCH3を合成する。この化合物のアセチル基を除去してアミノ基としてからジアゾ化し、続いてR3HとカップリングさせてR1−N=N−Q−N=N−R2−N=N−R3が合成できる。
【0126】
さらに合成の具体例として前記式(6)で表される化合物の合成例を以下に説明する。
5−アセチルアミノ−2−アミノベンゼンスルホン酸(23.0g、0.10モル)を濃硝酸(30ml)を含む水(300ml)に添加した。亜硝酸ナトリウム(6.9g)を0〜5℃の温度で10分かけて加えた。60分後、過剰の亜硝酸を分解し、得られたジアゾニウム塩溶液を、5〜10℃、pH8〜9を維持しながらゆっくりと、水(500g)に溶解しておいた1,8−ジヒドロキシナフタレン−3,6−ジスルホン酸(32.0g、0.10モル)の溶液に添加した。この反応が定量的に進行したことは、HPLCにより確認できた。これによってカップリング生成物を含む溶液(染料ベースという)が得られた。
【0127】
次に5−ニトロ−2−アミノベンゼンスルホン酸(43.6g、0.20モル)を、濃塩酸(60g)を含む水(500g)に添加した。亜硝酸ナトリウム(13.8g)を0〜5℃の温度で15分かけて加えた。60分後、得られたジアゾニウム塩溶液を、5〜10℃、pH6〜7を維持しながら120分かけて、あらかじめテトラヒドロフラン(1000g)を添加しておいた上記染料ベースに添加した。5時間後、生成した沈殿物を集め、乾燥器で乾燥させると、暗赤色の固形物が得られた(55.3g)。この暗赤色の固形物を水(1000ml)に溶解させて、80℃まで加熱した。水酸化ナトリウム(10g)を加え、さらに8時間温度を80℃に保った。8時間後、濃塩酸を用いてpH7〜8に調節し、溶液を放冷して室温にまで下げた。この溶液をVisking(商標)チュービングを用いて透析(50μScm-1未満)してから、フィルタを用いて濾過し、乾燥器で乾燥させると47.2gの黒色固形物が得られた。
【0128】
上記で得られた黒色固形物をpH7〜9で水に再溶解させたが、pHの調整には水酸化リチウムを用いた。次いで亜硝酸ナトリウム(8.3g)を加え、10分間攪拌した。それから、この染料/亜硝酸塩の溶液を、濃塩酸(30g)を含む氷水(100ml)中に移した。放置すると温度は15〜25℃に上昇したが、そのまま3時間おいた。得られたジアゾジウム塩溶液を、15〜20℃、pH6〜7を維持しながら120分かけて、1−(4−スルホフェニル)−3−カルボキシ−5−ピラゾロン(17.9g、0.06モル)の溶液に加えた。このpHは水酸化リチウムを添加することによって維持した。次いでこの溶液をVisking(商標)チュービングを用いて透析(50μScm-1未満)し、さらにフィルタを用いて濾過し、乾燥器で乾燥させると60.0gの前記式(6)で表される化合物が黒色固形物として得られた。
【0129】
本明細書でいう前記式(4)で表される化合物の塩には、前記式(4)で表される化合物の塩及び前記式(4)で表される化合物の部分塩が含まれ、さらに前記塩及び前記部分塩には複合塩も含まれる。化合物(4)の部分塩とは、化合物(4)が有するプロトン酸基の当量よりも少ない当量のイオンと化合物(4)とからなる塩をいう。また前記複合塩とは、一分子の化合物(4)が2種類以上のイオンと塩を形成している場合をいう。上記の化合物(4)の塩としては、化合物(4)がOH、SO3H、PO32基等のプロトン酸基を有する場合にその化合物(4)のアルカリ金属塩、アンモニウム塩、及び有機アンモニウム塩、並びにこれらの各種金属、アンモニウム、及び有機アンモニウムからなる群から選ばれる2種以上を含む複合塩からなる群から選ばれる1種以上が例示できるが、これらに限定されるものではない。上記アルカリ金属塩としては、例えばリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、セシウム塩、及びこれらの2種以上の金属を含む塩をあげることができ、特にリチウム塩及びナトリウム塩が好ましい。
【0130】
上記化合物(4)及び化合物(4)の塩として、1種のみを用いることも、また2種以上を併用することもできる。2種以上を併用する場合は、化合物(4)または化合物(4)の塩の各カテゴリーそれぞれの中から2種以上の化合物を用いることも、2種のカテゴリーにわたって選ばれる2種以上の化合物を用いることもできる。
【0131】
イエローインク組成物に含まれる着色剤は、いずれのものも使用することができるが、下記の式(13)で表される化合物及び式(14)で表される化合物からなる群から選ばれる少なくとも一種を含むことが好ましい。
【0132】
【化23】

【化24】

[式中、R5、R5'、R6及びR6'は、独立して、CH3、OCH3を表し、Z及びZ'は、独立して、
【化25】

のいずれかの構造を有するものであり、互いに同一であっても異なっていても良い。ここで、Mは、H,Li,Na,K,アンモニウムまたは有機アミン類を表し、nは1または2の整数である。]
【0133】
イエローインク組成物に含まれる着色剤としては、前記式(13)で表される化合物及び式(14)で表される化合物からなる群から単独種選択して用いることもできるが、複数種選択して用いても良い。
【0134】
インク組成物中における着色剤色濃度は、着色剤として使用される化合物のカラーバリューにしたがって適宜選択することができる。発色性を確保でき、かつ、インクジェットインク組成物として満たすべき物性や目詰まり性等の信頼性確保が容易である濃度とすることが好ましい。
【0135】
本発明のインク組成物は、さらに蒸気圧が純水よりも小さい水溶性有機溶剤及び/又は糖類から選ばれる保湿剤を含むことができる。
保湿剤を含むことにより、インクジェット記録方式において、水分の蒸発を抑制してインクを保湿することができる。また、水溶性有機溶剤であれば、吐出安定性を向上させたり、インク特性を変化させたりすることなく粘度を容易に変更することができる。
水溶性有機溶剤は、溶質を溶解する能力を持つ媒体を指しており、有機性で蒸気圧が水より小さい水溶性の溶媒から選ばれる。具体的には、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、2−ブテン−1,4−ジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、グリセリン、1,2,6−ヘキサントリオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール等の多価アルコール類、アセトニルアセトン等のケトン類、γ−ブチロラクトン、リン酸トリエチル等のエステル類、フルフリルアルコール、テトラヒドロフルフリルアルコール、チオジグリコール等が望ましい。
また、糖類は、マルチトール、ソルビトール、グルコノラクトン、マルトース等が好ましい。
保湿剤は、インク組成物全量に対して5〜50重量%、より好ましくは、5〜30重量%、さらに好ましくは、5〜20重量%の範囲で添加されることが好ましい。5重量%以上であれば、保湿性が得られ、また、50重量%以下であれば、インクジェット記録に用いられる粘度に調整しやすい。
【0136】
また、本発明のインク組成物には、溶剤として含窒素系有機溶剤を含んでなることが好ましい。含窒素系有機溶剤としては、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、ε−カプロラクタム等が挙げられ、中でも、2−ピロリドンが好適に用いられることができる。それらは、単独または2種以上併用して用いられることもできる。
その含有量は、0.5〜10重量%が好ましく、さらに好ましくは、1〜5重量%である。その含有量を、0.5重量%以上とすることで、添加することによる本発明における着色剤の溶解性向上を図ることができ、10重量%以下とすることで、インク組成物が接する各種部材との耐材料性を悪化させることがない。
【0137】
また、本発明のインク組成物には、インクの速やかな定着( 浸透性) を得ると同時に、1ドットの真円度を保つのに効果的な添加剤として、ノニオン系界面活性剤を含むことが好ましい。
【0138】
ノニオン系界面活性剤としては、例えば、アセチレングリコール系界面活性剤が挙げられる。アセチレングリコール系界面活性剤として、具体的には、サーフィノール465、サーフィノール104(以上、Air Products and Chemicals, Inc. 製、商品名)、オルフィンSTG、オルフィンE1010(以上、日信化学工業(株)製、商品名) 等が挙げられる。その添加量は0. 1〜5重量%、好ましくは0. 5〜2重量%である。添加量を0. 1重量%以上とすることで、十分な浸透性を得ることができ、また、5重量%以下とすることで、画像のにじみの発生を防止し易い。
【0139】
さらに、ノニオン系界面活性剤に加えて、浸透促進剤として、グリコールエーテル類を添加することにより、より浸透性が増すとともに、カラー印刷を行った場合の隣合うカラーインクとの境界のブリードが減少し、非常に鮮明な画像を得ることができる。
【0140】
グリコールエーテル類としては、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル等が挙げられる。その添加量は3〜30重量%、好ましくは5〜15重量%である。添加量が3重量%未満であると、ブリード防止の効果が得られない。また、30重量%を越えると画像ににじみが発生するばかりか、油状分離が起きるためにこれらのグリコールエーテル類の溶解助剤が必要となり、それに伴ってインクの粘度が上昇し、インクジェットヘッドでは吐出が難しくなる。
【0141】
さらに、本発明のインク組成物には、必要に応じて、トリエタノールアミンやアルカリ金属の水酸化物等のpH調整剤、尿素およびその誘導体等のヒドロトロピー剤、アルギン酸ナトリウム等の水溶性ポリマー、水溶性樹脂、フッ素系界面活性剤、防カビ剤、防錆剤等が添加されてもよい。
【0142】
インク組成物の調製方法としては、たとえば、各成分を十分混合溶解し、孔径0. 8μmのメンブランフィルターで加圧濾過したのち、真空ポンプを用いて脱気処理して調製する方法などがある。
【0143】
次に、本発明の記録方法について説明する。本発明の記録方法はインク組成物を微細孔から液滴として吐出させ、該液滴を記録媒体に付着させて記録を行うインクジェット記録方式であり、インク組成物として本発明のインク組成物を用いる。
【0144】
インクジェット記録方式としては、従来公知の方式はいずれも使用でき、特に圧電素子の振動を利用して液滴を吐出させる方法(電歪素子の機械的変形によりインク滴を形成するインクジェットヘッドを用いた記録方法)や熱エネルギーを利用する方法においては優れた画像記録を行うことが可能である。
【実施例】
【0145】
次に本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
実施例1(インク接液試験)
表9に示す組成でBk(黒)、Y(イエロー)、M(マゼンタ)、C(シアン)、LM(ライトマゼンタ)、LC(ライトシアン)の各インク組成物を調製し、ポリスチレンイソブチル(PSIB)とポリプロピレン(PP)のエラストマ(式(1)で表される酸化防止剤(Irganox 1010(登録商標))を100ppmを越えて含有する)のインク接触部材に50℃で3日間又は7日間接液させ、異物発生の有無を以下の方法で観察した。
(1)ろ過瓶のメッシュフィルター上に開口径10μmの電鋳製金属フィルターを配置し、
(2)減圧ろ過下で電鋳製金属フィルターへ一定量のインクを滴下、ろ過し、
(3)金属顕微鏡で結晶性分子錯体と思われる形状の異物を観察・確認し、
(4)必要に応じ赤外線吸光光度計(FT−IR)で同定した。
結果は表11に示すとおりであり、本発明例では比較例よりも異物の発生が少なかった。
【0146】
【表9】

【0147】
なお、表9中の数値は重量%を表す。また、色材A〜Fは下記の各化合物を表す。
色材A:式(6)で表される化合物
色材B:C.I.ダイレクトイエロー86
色材C:C.I.ダイレクトイエロー173
色材D:表5の色素8
色材E:表6の染料15
色材E:表2の化合物F
界面活性剤A〜Cは下記の各組成物である。
【0148】
【表10】

なお、界面活性剤Bに使用した可溶化剤は、上記式(A)で表される化合物(酸性条件下で分子量222〜311のアルキル基を有するイオン性化合物を生成する)である。
【0149】
【表11】

【0150】
実施例2(酸化防止剤の溶出試験)
以下の方法で、インク接触部材に使用される酸化防止剤(Irganox 1010(登録商標))の溶出の温度特性を試験した。
(1)実施例1で使用したマゼンタの本発明例と比較例の各インク組成物に、60℃、40℃、室温(25℃)の各温度でIrganox 1010を混合撹拌して溶解可能分を溶かし込んだ。その温度で0.8μmのメンブレンフィルターでろ過した。
(2)ろ過した溶液中に含まれるIrganox 1010量を以下の方法で定量した。
まず、一定量のアセトンを加えて定容し、超音波をあてた後、上澄みを0.8μmのメンブレンフィルターでろ過し、これを測定サンプルとして、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)でIrganox 1010の定性、定量を行った。
測定条件は以下の通りである。
装置 :2690/2487(日本ウォーターズ社製)
カラム:Xterra MS C8 2.5μ 4.6×50mm(日本ウォーターズ社製)
移動相:水/アセトニトリル=40/60→0/100 20分リニアグラジエント
流量 :1.0mL/分
注入量:5μL
検出 :280nm
結果を表12に示す。
いずれの温度においても本発明例のインク組成物では酸化防止剤の溶出が少なく、この特性によりインク接触部材と長時間接液していても異物の発生を少なくすることができることがわかる。
【0151】
【表12】

【0152】
実施例3(実機での耐久試験)
インク接触部材にIrganox 1010を100ppmを越えて含有するプリンタで印字耐久試験を行った。各インク組成物は実施例1で示したと同じものである。
印字耐久試験は室温環境で評価パターンを繰り返し印刷し、インクエンドになったらインクカートリッジを交換する方法で行った。使用インクカートリッジ数は、プリンタの保証寿命に相当する個数を使用し、印字不具合発生の有無を確認し、不具合発生時にはプリンタを分解調査して異物による詰まりが発生していないかを確認した。
本発明例のインク組成物でインクセットを構成したサンプル2では、異物詰まりによる不具合の発生はなく、良好に印字された。これに対し、比較例のインク組成物を用いたサンプル1では、プリントヘッドの供給口(流路絞り部)での異物詰まりによる吐出不能がシアン、ライトマゼンタ、ライトシアンで確認された。
これらの結果を表13に示す。
【0153】
【表13】

【産業上の利用可能性】
【0154】
本発明によれば、インクジェットプリンタのインク接触部材と接触による異物の発生が抑制されたインク組成物を提供することができ、インクジェットプリントにおける安定した印字を可能とすることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
染料と水を含有してなるインクジェット記録用インク組成物において、分子量222〜311の、アルキル基を含むイオン性化合物(ただし、染料を除く)を含まないことを特徴とするインク組成物。
【請求項2】
インクジェット記録方法が、電歪素子の機械的変形によりインク滴を形成するインクジェットヘッドを用いた記録方法である、請求項1に記載のインク組成物。
【請求項3】
インクジェット記録方法が、下記式(1)で表される化合物を100ppmを越えて含有するインク接触部材を有するインクジェットプリンタを用いたインクジェット記録方法である、請求項1又は2に記載のインク組成物。
【化1】

【請求項4】
インク組成物の液滴を吐出し、該液滴を記録媒体に付着させて記録を行うインクジェット記録方法であって、インク組成物として請求項1〜3のいずれか一項に記載のインク組成物を使用することを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項5】
請求項4に記載のインクジェット記録方法により記録された記録物。


【公開番号】特開2006−28325(P2006−28325A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−208416(P2004−208416)
【出願日】平成16年7月15日(2004.7.15)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】