説明

インク組成物、インクジェット記録用インク組成物、インクジェット記録方法、及びその記録物

【課題】活性放射線の照射に対する感度が高く、硬化性に優れた画像を形成することができ、硬化後の画像が被記録媒体との高い接着性を有し、硬化後の保存による色変化が小さく、且つインクの保存安定性が良好で、インクジェット装置に用いた際における吐出安定性に優れたインク組成物及びインクジェット記録用インク組成物を提供する。
【解決手段】(A)下記一般式(I)で表される化合物と、
(B)ラジカル重合開始剤と、
を含有することを特徴とするインク組成物。


[一般式(I)中、Rは水素原子またはアルキル基を表し、Zは2つの炭素原子及び硫黄原子と共に環構造を表す。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク組成物、インクジェット記録用インク組成物、インクジェット記録方法、及びその記録物に関する。詳しくは、記録後の重合硬化が可能で、堅牢な画像の記録に好適なインク組成物及びインクジェット記録用インク組成物、これを用いらインクジェット記録方法及びその記録物に関する。
【背景技術】
【0002】
画像データ信号に基づき、紙などの被記録媒体に画像を形成する画像記録方法として、電子写真方式、昇華型及び溶融型熱転写方式、インクジェット方式などがある。電子写真方式は、感光体ドラム上に帯電及び露光により静電潜像を形成するプロセスを必要とし、システムが複雑となり、結果的に製造コストが高価になるなどの問題がある。また熱転写方式は、装置は安価であるが、インクリボンを用いるため、ランニングコストが高く、かつ廃材が出るなどの問題がある。
一方、インクジェット方式は、安価な装置で、且つ、必要とされる画像部のみにインクを吐出し被記録媒体上に直接画像形成を行うため、インクを効率よく使用でき、ランニングコストが安い。更に、インクジェット方式は、騒音が少なく、画像記録方式として優れている。
【0003】
インクジェット記録用のインク組成物に用いうる、紫外線などの活性放射線の照射により硬化可能なインク組成物(放射線硬化型インク組成物)としては、高感度で硬化し、高画質の画像を形成しうるものが求められている。
放射線硬化型インク組成物の高感度化を達成することにより、活性放射線の照射による高い硬化性が得られるため、消費電力の低減や活性放射線発生器への負荷軽減による機器の高寿命化などの利点の他、未硬化の低分子物質の揮発抑制、形成された画像強度の低下抑制などの種々の利点をも有することになる。また、放射線硬化型インク組成物の高感度化による硬化被膜強度の向上は、このインク組成物により形成した画像部に高い強度と耐久性をもたらすことになる。
紫外線硬化型のインク組成物としては、例えば、単官能モノマー又は多官能モノマーのうち、互いに異なる官能基を有するモノマーを組み合わせて用いるインク組成物が提案されている(例えば、特許文献1参照)。また、放射線硬化性組成物として多官能アクリレートを含む組成物が提案されている(例えば、特許文献2参照)。これらのインク組成物は硬化速度に優れ、滲みのない画像を形成しうるものの、硬化時の体積収縮により、被記録媒体との接着性(密着性)が低下するという問題を有していた。
【0004】
また、紫外線硬化型のインク組成物における被記録媒体との接着性に関しては、被記録媒体への接着性および硬化後の柔軟性を促進する成分として、N−ビニルラクタムを用いた放射線硬化性インクジェットインク組成物が開示されている(例えば、特許文献3参照)。しかし、N−ビニルカプロラクタムに代表されるN−ビニルラクタム類は、アクリレート等の汎用のラジカル重合性モノマーとの共重合性の低さに起因して、硬化後のインク画像表面のベトツキや、低分子量成分が表面より滲出する所謂なき出しなどが発生する懸念があり、さらに、N−ビニルラクタム類の反応性に起因してインクの粘度が上昇するなど保存安定性に劣る、或いは、硬化後の保存による着色が影響し、色再現性の観点から白色および淡色インクには好適ではない、など種々の問題があった。
このように、被記録媒体との接着性に優れ、優れた硬化感度、画像強度を維持しながらも、インクジェット装置に用いた際における安定性に優れ、硬化後のインク画像の色再現性に優れたインク組成物が望まれているが、未だ提供されていないのが現状である。
【0005】
また、インク組成物は、従来、アクリロイル基やメタクリロイル基といった汎用的な重合性基を有する化合物が一般的に用いられているが、それらは記録後に硬化させた際の体積収縮が大きく、被記録媒体との接着性を高めることに問題があった。体積収縮が小さいモノマーとして非特許文献1、2、3、4および特許文献4,5に環状アリルスルフィドモノマーが開示されている。
それらには接着用途、歯科用途、レンズに使用できるという記載はあるものの、インク組成物に用いる用途に対しての記載は全くない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−214280号公報
【特許文献2】特開平8−41133号公報
【特許文献3】特表2004−514014号公報
【特許文献4】特許第3299542号明細書
【特許文献5】特許第4153031号明細書
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Macromolecules, 1994, 27, 7935.
【非特許文献2】Macromolecules, 1996, 29, 6983.
【非特許文献3】Macromolecules, 2000, 33, 6722.
【非特許文献4】J. Polym. Sci.: Part A Polym. Chem. 2001, 39, 202.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、活性放射線の照射に対して感度が高く、硬化性に優れた画像を形成することができ、硬化後の画像が被記録媒体との高い接着性を有し、硬化後の保存による色変化が小さく、且つ、保存安定性、特には、インクジェット装置に用いた際における吐出安定性に優れたインク組成物及びインクジェット記録用インク組成物を提供することである。また、インク組成物又はインクジェット記録用インク組成物を用いた吐出安定性に優れたインクジェット記録方法及び硬化性に優れ、被記録媒体との高い接着性を有し、保存による色変化が小さい記録物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、インク組成物に特定の化合物を使用することにより、前記課題を解決しうることを見出し、本発明のインク組成物、インクジェット記録用インク組成物、インクジェット記録方法、及びその記録物を完成するに至った。
即ち、本発明のインク組成物は、
〔1〕
(A)下記一般式(I)で表される化合物と、
(B)ラジカル重合開始剤と、
を含有することを特徴とするインク組成物。
【化1】

[一般式(I)中、Rは水素原子またはアルキル基を表し、Zは2つの炭素原子及び硫黄原子と共に環構造を表す。]
〔2〕
一般式(I)で表される化合物が、下記一般式(II)で表される化合物であることを特徴とする〔1〕に記載のインク組成物。
【化2】

[一般式(II)中、Rは一般式(I)における定義と同義である。R12は水素原子またはアルキル基を表し、R13、R14およびR15はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アリール基、ヘテロ環基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシルオキシ基、アシルアミノ基、スルホニルアミノ基、アミノ基、アシル基またはハロゲン原子を表し、mは0または1を表す。]
〔3〕
前記一般式(II)において、mが1であることを特徴とする〔2〕に記載のインク組成物。
〔4〕
一般式(I)で表される化合物が、下記一般式(III)で表される化合物であることを特徴とする〔1〕に記載のインク組成物。
【化3】

[一般式(III)中、Rは一般式(I)における定義と同義である。R23、R24およびR25はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アリール基、ヘテロ環基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシルオキシ基、アシルアミノ基、スルホニルアミノ基、アミノ基、アシル基またはハロゲン原子を表し、nは0または1を表す。]
〔5〕
前記一般式(III)において、nが0であることを特徴とする〔4〕に記載のインク組成物。
〔6〕
他の重合性化合物を更に含有することを特徴とする〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載のインク組成物。
〔7〕
他の重合性化合物が二官能以上のモノマーであることを特徴とする〔6〕に記載のインク組成物。
〔8〕
多官能の環状アリルスルフィドモノマーを更に含有することを特徴とする〔1〕〜〔7〕のいずれかに記載のインク組成物。
〔9〕
(C)着色剤を更に含有することを特徴とする〔1〕〜〔8〕のいずれかに記載のインク組成物。
〔10〕
〔1〕〜〔9〕のいずれかに記載のインク組成物を用いることを特徴とするインクジェット記録用インク組成物。
〔11〕
(i−1)被記録媒体上に、〔10〕に記載のインクジェット記録用インク組成物を吐出する工程、及び、
(i−2)吐出されたインクジェット記録用インク組成物に活性放射線を照射して、該インクジェット記録用インク組成物を硬化する工程、
を含むことを特徴とするインクジェット記録方法。
〔12〕
〔1〕〜〔10〕のいずれかに記載のインク組成物又は〔11〕に記載のインクジェット記録用インク組成物により形成されたことを特徴とする記録物。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、活性放射線の照射に対する感度が高く、硬化性に優れた画像を形成することができ、硬化後の画像が被記録媒体との高い接着性を有し、硬化後の保存による色変化が小さく、且つインクの保存安定性が良好で、インクジェット装置に用いた際における吐出安定性に優れたインク組成物及びインクジェット記録用インク組成物を提供することができる。また、インク組成物又はインクジェット記録用インク組成物を用いた吐出安定性に優れたインクジェット記録方法及び硬化性に優れ、被記録媒体との高い接着性を有し、保存による色変化が小さい記録物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[インク組成物]
本発明のインク組成物は、(A)下記一般式(I)で表される化合物(以下環状アリルスルフィドモノマーと称する場合がある)と、(B)ラジカル重合開始剤と、を含有することを特徴としている。
【0012】
【化4】

【0013】
[一般式(I)中、Rは水素原子またはアルキル基を表し、Zは2つの炭素原子及び硫黄原子と共に環構造を表す。]
【0014】
本発明のインク組成物は、通常の印刷用途に有用であって 発色性に優れた鮮鋭な画像を形成でき、高品位な印刷物が得られるのみならず、レジスト、カラーフィルタ、光ディスクの製造にも有用であり、光造形材料としても有用である。
また、本発明のインク組成物は、インクジェット記録用インクとして好ましく用いることができる。画像記録にインクジェット記録方法を適用することで、非吸収性の被記録材上にも高品質の画像をデジタルデータに基づき直接形成し得る適正を有し、大面積の印刷物の作製に好適である。
【0015】
以下、本発明のインク組成物に必須の成分について説明する。
<(A)一般式(I)で表される環状アリルスルフィドモノマー>
本発明のインク組成物は、(A)一般式(I)で表される化合物を含有することを特徴とする。モノマーとは重合性成分として機能することができ、好ましくは、加熱により、または光照射により直接もしくはラジカル重合開始剤の作用によって重合開始剤によるラジカルの発生によって重合体を得ることができる化合物の総称である。
一般式(I)の環状アリルスルフィドモノマーはラジカル重合を起こす化合物である。開環重合により二重結合を有するポリマーに変化する。
【0016】
【化5】

【0017】
[一般式(I)中、Rは水素原子またはアルキル基を表し、Zは2つの炭素原子及び硫黄原子と共に環構造を表す。]
【0018】
重合反応は以下の式のように表される。
【0019】
【化6】

【0020】
[上記反応式中、Rは水素原子またはアルキル基を表し、Zは2つの炭素原子及び硫黄原子と共に環構造を表す。ZはZが開環した場合の2つの炭素原子及び硫黄原子以外の原子団により形成された連結基を表す。lは繰り返し単位の数を表す。]
【0021】
このポリマーの重合時の体積収縮が小さいことは、形成された硬化物の変形が小さくすることができ、樹脂内部に応力を低減できるために、非常に寸度安定性が高い樹脂硬化物となるため、硬化後の画像が被記録媒体との高い接着性を得ることができ、非常に有用である。
本発明の環状アリルスルフィドモノマーは成長ラジカルがSラジカルであることと、S原子のα位の水素(隣の炭素の水素)原子を有するため、チオールエン反応に見られるような酸素重合阻害を受けないという特徴を有することを、発明者は確認している。そのため、汎用的なラジカル重合性モノマーであるメタクリレートや、アクリレートモノマーよりも酸素存在下、もしくは溶存酸素存在下においても重合反応が進行しやすいという特徴を有する。インク組成物を構成した際にも、汎用モノマーを用いた場合は、溶存酸素によりある程度の重合阻害を受ける。それに対して、環状アリルスルフィドモノマーを用いた際は重合阻害を受けにくいために少ないラジカル開始剤量で硬化が可能である。
【0022】
また、汎用的なラジカル重合性モノマーであるメタクリレートや、アクリレートモノマーは重合がビニル基への付加を行う反応であるため、側鎖である置換基が炭素原子が2つごとに導入される。これによりTgが上昇し、脆性がうまれ、接着性が損なわれるが、本発明の環状アリルスルフィドモノマーは、例えば8員環の環状アリルスルフィドモノマーを用いる場合は炭素硫黄原子などの8つの連結鎖に一つ置換基が導入される。そのため、Tgの上昇を抑えることができ、柔軟性また密着性を保つことが出来る。また、炭素-硫黄-炭素の結合は結合距離が長く、また結合角が小さいため、そのもの自身に柔軟性があるポリマーが形成できる。
【0023】
一般式(I)中、Rは水素原子またはアルキル基を表し、Zは2つの炭素原子及び硫黄原子と共に環構造を表す。
【0024】
一般式(I)で表される化合物は環状アリルスルフィドモノマーまたは環状アリルスルフィド化合物と以後称する。環状アリルスルフィドモノマーは重合性成分として機能することができ、好ましくは、加熱により、または光照射により直接もしくはラジカル重合開始剤の作用によってラジカル重合を起こす化合物である。開環重合により二重結合を有するポリマーに変化する。
【0025】
により形成される環構造の構成要素としてはメチレン炭素を挙げることができ、メチレン炭素以外に、カルボニル基、チオカルボニル基、酸素原子や、硫黄原子など二価の有機連結基を挙げることもでき、これらの組み合わせにより上記環構造が構成される。その環員数は6〜9であることが好ましく、6〜8であることがより好ましく、7〜8であることが特に好ましい。また、その環構造のメチレン炭素数は3〜7であることが好ましく、4〜6であることがより好ましく、4〜5であることが特に好ましい。
【0026】
一般式(I)中、Rは水素原子またはアルキル基を表す。Rで表されるアルキル基としては直鎖であっても分岐を有していてもよく、また、無置換であっても置換基を有していてもよい。その炭素数は1〜20であることが好ましく、1〜10であることがより好ましく、1〜3であることが特に好ましい。なお、本発明において、ある基について「炭素数」とは、置換基を有する基については、該置換基を含まない部分の炭素数をいうものとする。
で表されるアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、ノルマルブチル基、イソブチル基、ターシャリーブチル基、ペンチル基、シクロペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ターシャリーオクチル基、2−エチルヘキシル基、デシル基、ドデシル基、オクタデシル基、2,3−ジブロモプロピル基、アダマンチル基、ベンジル基、4−ブロモベンジル基などが挙げられる。これらは更に置換基を有していてもよい。
【0027】
一般式(I)中において、Rで表される基が更に置換基を有する場合、置換基としてはハロゲン原子、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、アリールオキシ、アルキルチオ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アミノ基、アシル基、アルキルアミノカルボニル基、アリールアミノカルボニル基、スルホンアミド基、シアノ基、カルボキシ基、水酸基、スルホン酸基などが挙げられる。これらの中でも、ハロゲン原子、アルコキシ基、アルキルチオ基が特に好ましい。また、置換基として一般式(I)の環状アリルスルフィド化合物が置換した場合は、一般式(I)で表される化合物は多官能体を表す。
【0028】
一般式(I)中において、Rが水素原子またはアルキル基を表し、かつZで表される環構造の環員数が6〜9であり、かつZで表される環構造が2つの炭素原子及び硫黄原子以外にメチレン炭素以外に、カルボニル基、酸素原子または硫黄原子のいずれか、もしくはそれらの組み合わせを含むことが好ましく、Rが水素原子またはアルキル基を表し、かつZで表される環構造の環員数が6〜8であり、かつZで表される環構造が2つの炭素原子及び硫黄原子以外にメチレン炭素以外にカルボニル基と酸素原子の組み合わせ、または硫黄原子を含むことがより好ましく、Rが水素原子またはアルキル基を表し、かつZで表される環構造の環員数が7〜8であり、かつZで表される環構造が2つの炭素原子及び硫黄原子以外にメチレン炭素以外に硫黄原子を含むこと特に好ましい。
上記の中でも、Rが水素原子を表すことが更に好ましい。
【0029】
一般式(I)で表される環状アリルスルフィドモノマーが、下記一般式(II)または一般式(III)であることがより好ましい。
以下に、一般式(II) で表される環状アリルスルフィドモノマーについて説明する。
【0030】
【化7】

【0031】
[一般式(II)中、Rは一般式(I)における定義と同義である。R12は水素原子またはアルキル基を表し、R13、R14およびR15はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アリール基、ヘテロ環基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシルオキシ基、アシルアミノ基、スルホニルアミノ基、アミノ基、アシル基またはハロゲン原子を表し、mは0または1を表す。]
【0032】
一般式(II)中、R、R12、R13、R14、R15で表されるアルキル基の詳細は、上述した一般式(I)中のアルキル基の説明と同様である。
一般式(II)中、R13、R14、R15で表されるアリール基としては、無置換であっても置換基を有していてもよい。その炭素数は6〜30であることが好ましく、6〜20であることが特に好ましい。アリール基の具体例としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントラニル基などが挙げられる。これらは更に置換基を有していてもよい。
【0033】
一般式(II)中、R13、R14、R15で表されるヘテロ環基は、無置換であっても置換基を有していてもよい。その炭素数4〜14のヘテロ環基であることが好ましく、炭素数4〜10のヘテロ環基であることがより好ましく、炭素数5のヘテロ環基であることが特に好ましい。R13、R14、R15で表されるヘテロ環基の具体例としては、ピリジン環、ピペラジン環、チオフェン環、ピロール環、イミダゾール環、オキサゾール環、チアゾール環が挙げられる。これらは更に置換基を有していてもよい。前記ヘテロ環の中でもピリジン環が特に好ましい。
【0034】
一般式(II)中、R13、R14、R15で表されるアルコキシ基は、直鎖であっても分岐を有していてもよく、また、無置換であっても置換基を有していてもよい。その炭素数は1〜30であることが好ましく、1〜20であることがより好ましい。このようなアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、ノルマルプロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基、ノルマルブチルオキシ基、イソブチルオキシ基、ターシャリーブチルオキシ基、ペンチルオキシ基、シクロペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基、ターシャリーオクチルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基、デシルオキシ基、ドデシルオキシ基、オクタデシルオキシ基、2,3−ジブロモプロピルオキシ基、アダマンチルオキシ基、ベンジルオキシ基、4−ブロモベンジルオキシ基などが挙げられる。
【0035】
一般式(II)中、R13、R14、R15で表されるアリールオキシ基は、無置換であっても置換基を有していてもよい。その炭素数は6〜30であることが好ましく、6〜20であることが特に好ましい。具体例としては、例えば、フェニルオキシ基、ナフチルオキシ基、アントラニルオキシ基などが挙げられる。
【0036】
一般式(II)中、R13、R14、R15で表されるアルキルチオ基は、直鎖であっても分岐を有していてもよく、また、無置換であっても置換基を有していてもよい。その炭素数は1〜30であることが好ましく、1〜20であることがより好ましい。このようなアルキルチオ基としては、例えば、メチルチオ基、エチルチオ基、ノルマルプロピルチオ基、イソプロピルチオ基、ノルマルブチルチオ基、イソブチルチオ基、ターシャリーブチルチオ基、ペンチルチオ基、シクロペンチルチオ基、ヘキシルチオ基、シクロヘキシルチオ基、ヘプチルチオ基、オクチルチオ基、ターシャリーオクチルチオ基、2−エチルヘキシルチオ基、デシルチオ基、ドデシルチオ基、オクタデシルチオ基、2,3−ジブロモプロピルチオ基、アダマンチルチオ基、ベンジルチオ基、4−ブロモベンジルチオ基などが挙げられる。
【0037】
一般式(II)中、R13、R14、R15で表されるアリールチオ基は、無置換であっても置換基を有していてもよい。その炭素数は6〜30であることが好ましく、6〜20であることが特に好ましい。具体例としては、例えば、フェニルチオ基、ナフチルチオ基、アントラニルチオ基などが挙げられる。
【0038】
一般式(II)中、R13、R14、R15で表されるアルコキシカルボニル基は、無置換であっても置換基を有していてもよい。その炭素数は2〜30であることが好ましく、2〜20であることがより好ましい。このようなアルコキシカルボニル基としては、メチルオキシカルボニル基、エチルオキシカルボニル基、ノルマルプロピルオキシカルボニル基、イソプロピルオキシカルボニル基、ノルマルブチルオキシカルボニル基、イソブチルオキシカルボニル基、ターシャリーブチルオキシカルボニル基、ペンチルオキシカルボニル基、シクロペンチルオキシカルボニル基、ヘキシルオキシカルボニル基、シクロヘキシルオキシカルボニル基、ヘプチルオキシカルボニル基、オクチルオキシカルボニル基、ターシャリーオクチルオキシカルボニル基、2−エチルヘキシルオキシカルボニル基、デシルオキシカルボニル基、ドデシルオキシカルボニル基などが挙げられる。
【0039】
一般式(II)中、R13、R14、R15で表されるアリールオキシカルボニル基は、無置換であっても置換基を有していてもよい。その炭素数は7〜30であることが好ましく、7〜20であることが特に好ましい。具体例としては。例えば、フェニルオキシカルボニル基、ナフチルオキシカルボニル基、アントラニルオキシカルボニル基などが挙げられる。
【0040】
一般式(II)中、R13、R14、R15で表されるアシルオキシ基は、無置換であっても置換基を有していてもよい。その炭素数は2〜30であることが好ましく、2〜20であることがより好ましい。このようなアシルオキシ基としては、メチルカルボニルオキシ基、エチルカルボニルオキシ基、ノルマルプロピルカルボニルオキシ基、イソプロピルカルボニルオキシ基、ノルマルブチルカルボニルオキシ基、イソブチルカルボニルオキシ基、ターシャリーブチルカルボニルオキシ基、ペンチルカルボニルオキシ基、シクロペンチルカルボニルオキシ基、ヘキシルカルボニルオキシ基、シクロヘキシルカルボニルオキシ基、ヘプチルカルボニルオキシ基、オクチルカルボニルオキシ基、ターシャリーオクチルカルボニルオキシ基、2−エチルヘキシルカルボニルオキシ基、デシルカルボニルオキシ基、ドデシルカルボニルオキシ基、ベンゾイルオキシ基などが挙げられる。
【0041】
一般式(II)中、R13、R14、R15で表されるアシルアミノ基は、無置換であっても置換基を有していてもよい。その炭素数は2〜30であることが好ましく、2〜20であることがより好ましい。このようなアシルアミノ基としては、メチルカルボニルアミノ基、エチルカルボニルアミノ基、フェニルカルボニルアミノ基などが挙げられる。
【0042】
一般式(II)中、R13、R14、R15で表されるスルホニルアミノ基は、無置換であっても置換基を有していてもよい。その炭素数は1〜30であることが好ましく、1〜20であることがより好ましい。このようなスルホニルアミノ基としては、メチルスルホニルアミノ基、エチルスルホニルアミノ基、フェニルスルホニルアミノ基などが挙げられる。
一般式(II)中、R13、R14、R15で表されるアミノ基は、一置換アミノ基であっても、二置換のアミノ基であってもよく、二置換のアミノ基が好ましい。無置換であっても置換基を有していてもよい。その炭素数は1〜30であることが好ましく、1〜20であることがより好ましい。このようなアミノ基としては、例えば、ジメチルアミノ基、ジフェニルアミノ基などが挙げられる。
一般式(II)中、R13、R14、R15で表されるアシル基は、無置換であっても置換基を有していてもよい。その炭素数は2〜30であることが好ましく、2〜20であることがより好ましい。このようなアシル基としては、アセチル基、ベンゾイル基などが挙げられる。
一般式(II)中、R13、R14、R15で表されるハロゲン原子としては、クロロ基、ブロモ基、ヨード基などが挙げられ、ブロモ基が好ましい。
一般式(II)中、R、R12、R13、R14、R15で表される基が更に置換基を有する場合、置換基としては、ハロゲン原子、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、アリールオキシ、アルキルチオ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アミノ基、アシル基、アルキルアミノカルボニル基、アリールアミノカルボニル基、スルホンアミド基、シアノ基、カルボキシ基、水酸基、スルホン酸基などが挙げられる。これらの中でも、ハロゲン原子、アルコキシ基、アルキルチオ基が特に好ましい。また、置換基として一般式(II)で表される環状アリルスルフィド化合物に対応する基が置換した場合は、一般式(II)で表される化合物は多官能体(多官能の環状アリルスルフィドモノマー)を表す。
一般式(II)中、mは0または1の整数を表す。mは1であることが好ましい。
【0043】
およびR12は、それぞれ独立に水素原子またはメチル基を表し、水素原子であることが好ましい。
【0044】
一般式(II)で表される化合物の好ましい態様としては、RおよびR12は、それぞれ独立に水素原子またはメチル基を表し、水素原子であることが好ましい。R13、R14およびR15はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシルオキシ基、アシルアミノ基、アミノ基またはアシル基を表す化合物を挙げることができる。
【0045】
13は水素原子またはアルキル基であることが好ましく、水素原子であることがより好ましい。
14は複数の場合はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルコキシ基またはアシルオキシ基であることが好ましく、水素原子またはメチル基であることがより好ましく、水素原子であることが更に好ましい。
15は水素原子、アルキル基、アリール基、アシルオキシ基であることが好ましく、アルキル基、又はアシルオキシ基であることがより好ましく、アシルオキシ基であることが更に好ましい。
【0046】
より好ましい態様としては、一般式(II)中、RおよびR12がそれぞれ独立に水素原子またはメチル基であり、R13およびR14がそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシルオキシ基、アシルアミノ基、アミノ基、アシル基であり、R15が水素原子、アルキル基、アリール基、アシルオキシ基であり、かつmが0または1である化合物を挙げることができる。更に好ましい態様としては、一般式(II)中、RおよびR12が水素原子またはメチル基であり、R13およびR14がそれぞれ独立に水素原子またはメチル基であり、R15がアルキル基またはアシルオキシ基であり、かつmが0または1である化合物を挙げることができる。より一層好ましい態様としては、一般式(II)中、RおよびR12がいずれも水素原子であり、R13、R14およびR15は、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基またはアシルオキシ基であり、mが1である化合物を挙げることができる。最も好ましい態様としては、RおよびR12がいずれも水素原子であり、R13、R14が水素原子であり、R15がアシルオキシ基であり、かつmが1である化合物を挙げることができる。
【0047】
一般式(III)で表される環状アリルスルフィドモノマーについて説明する。
【0048】
【化8】

【0049】
[一般式(III)中、Rは一般式(I)における定義と同義である。R23、R24およびR25はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アリール基、ヘテロ環基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシルオキシ基、アシルアミノ基、スルホニルアミノ基、アミノ基、アシル基またはハロゲン原子を表し、nは0または1を表す。]
【0050】
一般式(III)中、R、R23、R24、R25で表されるアルキル基の詳細は、上述した一般式(I)中のアルキル基の説明と同様である。
一般式(III)中、R23、R24、R25で表されるアリール基、ヘテロ環基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシルオキシ基、アシルアミノ基、スルホニルアミノ基、アミノ基、アシル基またはハロゲン原子の詳細は、上述した一般式(II)中のアリール基、ヘテロ環基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシルオキシ基、アシルアミノ基、スルホニルアミノ基、アミノ基、アシル基またはハロゲン原子の説明と同様である。
【0051】
一般式(III)中、R、R23、R24、R25で表される基が更に置換基を有する場合、置換基としては、ハロゲン原子、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、アリールオキシ、アルキルチオ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アミノ基、アシル基、アルキルアミノカルボニル基、アリールアミノカルボニル基、スルホンアミド基、シアノ基、カルボキシ基、水酸基、スルホン酸基などが挙げられる。これらの中でも、ハロゲン原子、アルコキシ基、アルキルチオ基が特に好ましい。また、置換基として一般式(III)で表される環状アリルスルフィド化合物に対応する基が置換した場合は、一般式(III)で表される環状アリルスルフィド化合物は多官能体(多官能の環状アリルスルフィドモノマー)を表す。
【0052】
一般式(III)中、nは0または1の整数を表す。nは0であることが好ましい。
【0053】
23は水素原子またはアルキル基であることが好ましく、メチル基であることがより好ましい。
24は複数の場合はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルコキシ基またはアシルオキシ基であることが好ましく、水素原子またはメチル基であることがより好ましく、水素原子であることが更に好ましい。
25は水素原子、アルキル基、アリール基、アシルオキシ基であることが好ましく、水素原子、アルキル基、又はアシルオキシ基であることがより好ましく、水素原子であることが更に好ましい。
【0054】
一般式(III)で表される化合物の好ましい態様としては、Rは、水素原子またはメチル基を表し、R23、R24、R25はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシルオキシ基、アシルアミノ基、アミノ基またはアシル基を表す化合物を挙げることができる。より好ましい態様としては、一般式(III)中、Rが水素原子またはメチル基であり、R23およびR24がそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシルオキシ基、アシルアミノ基、アミノ基、アシル基であり、R25が水素原子、アルキル基、アリール基、アシルオキシ基であり、かつnが0または1である化合物を挙げることができる。更に好ましい態様としては、一般式(III)中、Rが水素原子またはメチル基であり、R23およびR24がそれぞれ独立に水素原子またはメチル基であり、R25が水素原子、アルキル基またはアシルオキシ基であり、かつnが0または1である化合物を挙げることができる。よりいっそう好ましい態様としては、一般式(III)中、Rがメチル基であり、R23、R24、R25は、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基またはアシルオキシ基であり、nが0である化合物を挙げることができる。最も好ましい態様としては、Rがメチル基であり、R23、R24が水素原子であり、R25が水素原子であり、かつnが0である化合物を挙げることができる。
【0055】
以下に、一般式(I)および(II)、(III)で表される環状アリルスルフィドモノマーの具体例を示す。但し、本発明は下記具体例に限定されるものではない。
【0056】
【化9】

【0057】
【化10】

【0058】
【化11】

【0059】
【化12】

【0060】
【化13】

【0061】
【化14】

【0062】
以上説明した一般式(I)〜(III)で表されるモノマーの合成方法は、例えば、Macromolecules, 1994, 27, 7935. Macromolecules, 1996, 29, 6983.やMacromolecules, 2000, 33, 6722.や J. Polym. Sci.: Part A Polym. Chem. 2001, 39, 202.等に詳細に記載されている。
【0063】
本発明のインク組成物における環状アリルスルフィドモノマーの含有量は、硬化速度、硬化膜と被記録媒体と密着性、及び、インク組成物のインクジェット適性の観点から、インク組成物全体の質量に対して、0.1〜30質量%の範囲であることが好ましく、1〜25質量%の範囲がより好ましく、2〜20質量%の範囲が更に好ましい。
【0064】
一般式(I)、(II)、(III)で表される環状アリルスルフィドモノマーは、一種のみ用いてもよく、二種以上を併用することもできる。
インク組成物が、多官能の環状アリルスルフィドモノマーをさらに含有することが好ましく、単官能の環状アリルスルフィドモノマーと多官能の環状アリルスルフィドモノマーとを併用することが好ましい。ここで、単官能の環状アリルスルフィドモノマーとは環状アリルスルフィドモノマー1分子中に一般式(I)に対応する構造を1つ有する環状アリルスルフィドモノマーをいう。
多官能の環状アリルスルフィドモノマーの含有量は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、インク組成物全体の質量に対して、0.01〜10質量%が好ましく、0.1〜5質量%がより好ましく、1〜3質量%が更に好ましい。0.01質量%以上であれば架橋性モノマーを導入した効果が得られ易くなり、10質量%以下であれば架橋点が多くなるため脆くなるのを防ぐことができ、密着強度の低下が起こり難いため好ましい
【0065】
これらの環状アリルスルフィドモノマーは、UV硬化型インクに用いられてきた重合性化合物と比較して、皮膚刺激性や感作性(かぶれ易さ)が小さく、比較的低粘度で安定したインク吐出性が得られ、重合感度、被記録媒体との接着性が良好であるため好ましい。
ここで他の重合性化合物として列挙されている環状アリルスルフィドモノマーは、低分子量であっても感作性が小さいものであり、かつ、反応性が高く、粘度が低く、記録媒体への接着性に優れる。
【0066】
<(B)ラジカル重合開始剤>
本発明のインク組成物は、ラジカル重合開始剤を含有することを要する。
ラジカル重合開始剤としては、公知の重合開始剤を、併用する重合性化合物の種類、インク組成物の使用目的に応じて、適宜選択して使用することができる。
本発明のインク組成物に使用するラジカル重合開始剤は、外部エネルギーを吸収して重合開始種を生成する化合物である。重合を開始するために使用される外部エネルギーは、熱及び放射線に大別され、それぞれ、熱重合開始剤及び光重合開始剤が使用される。放射線には、γ線、β線、電子線、紫外線、可視光線、赤外線が例示できる。
【0067】
熱重合開始剤及び光重合開始剤としては公知の化合物が使用できる。
本発明で使用し得る好ましい光重合開始剤(光開始剤と称する場合がある)として具体的には、Lucirin TPO(BASF社製)、Irgacure 369(Ciba Specialty Chemicals社製)、4−フェニルベンゾフェノン(東京化成工業社製)、Darocur ITX(Ciba Specialty Chemicals社製)を挙げることができる。
本発明で使用し得る好ましいラジカル重合開始剤としては(a)芳香族ケトン類、(b)アシルホスフィンオキシド化合物、(c)芳香族オニウム塩化合物、(d)有機過酸化物、(e)チオ化合物、(f)ヘキサアリールビイミダゾール化合物、(g)ケトオキシムエステル化合物、(h)ボレート化合物、(i)アジニウム化合物、(j)メタロセン化合物、(k)活性エステル化合物、(l)炭素ハロゲン結合を有する化合物、並びに(m)アルキルアミン化合物等が挙げられる。
【0068】
本発明においてラジカル重合開始剤は単独で用いてもよいし、併用してもよい。効果の観点からは、2種以上のラジカル重合開始剤を併用することが好ましい
本発明におけるラジカル重合開始剤は、環状アリルスルフィドモノマー及び後述する着色剤の総量に対して、或いは、環状アリルスルフィドモノマー、後述する他の重合性化合物、及び着色剤を併用する場合には、環状アリルスルフィドモノマー、後述する他の重合性化合物、及び着色剤の総量に対して、1〜50質量%の範囲が好ましく、2〜40質量%の範囲がより好ましく、5〜35質量%の範囲が更に好ましい。
【0069】
また、ラジカル重合開始剤は、後述の必要に応じて用いることのできる増感色素に対して、重合開始剤:増感色素の質量比で、200:1〜1:200、好ましくは、50:1〜1:50、より好ましくは、20:1〜1:5の範囲で含まれることが適当である。
【0070】
<(C)着色剤>
本発明のインク組成物は、着色剤を更に含有することが好ましい。
本発明のインク組成物は、着色剤を含まない無色のインク組成物であってもよく、その場合は透明インクとして用いることができる。着色画像を形成することは必須ではなく、着色画像を形成しようとするときには着色剤を含有する。
本発明に使用することのできる着色剤としては、特に制限はなく、顔料、油溶性染料、水溶性染料、分散染料、等の任意の公知の着色剤から選択して使用することができる。この中でも、着色剤としては、耐候性に優れ、色再現性に富んだ顔料、油溶性染料が好ましく、顔料であることがより好ましい。
【0071】
本発明のインク組成物に好適に使用し得る着色剤は、活性放射線による硬化反応の感度を低下させないという観点からは、硬化反応である重合反応において重合禁止剤として機能しない化合物を選択することが好ましい。
【0072】
−顔料−
本発明に使用できる顔料としては、特に限定されるわけではないが、例えば、カラーインデックスに記載される下記の番号の有機又は無機顔料が使用できる。
赤或いはマゼンタ顔料としては、例えば、Pigment Red 3,5,19,22,31,38,43,48:1,48:2,48:3,48:4,48:5,49:1,53:1,57:1,57:2,58:4,63:1,81,81:1,81:2,81:3,81:4,88,104,108,112,122,123,144,146,149,166,168,169,170,177,178,179,184,185,208,216,226,257,Pigment Violet 3,19,23,29,30,37,50,88,Pigment Orange 13,16,20,36、等が挙げられる。
青又はシアン顔料としては、例えば、Pigment Blue 1,15,15:1,15:2,15:3,15:4,15:6,16,17−1,22,27,28,29,36,60、等が挙げられる。
【0073】
緑顔料としては、例えば、Pigment Green 7,26,36,50、等が挙げられる。
【0074】
黄顔料としては、例えば、Pigment Yellow 1,3,12,13,14,17,34,35,37,55,74,81,83,93,94,95,97,108,109,110,137,138,139,153,154,155,157,166,167,168,180,185,193、等が挙げられる。
【0075】
黒顔料としては、例えば、Pigment Black 7,28,26、等が挙げられる。
【0076】
白色顔料としては、例えば、Pigment White 6,18,21、等が挙げられる。
これらの顔料は、目的に応じて適宜選択して使用できる。
【0077】
−油溶性染料−
以下に、本発明で使用することのできる油溶性染料について説明する。
本発明で使用することのできる油溶性染料とは、水に実質的に不溶な染料を意味する。具体的には、25℃での水への溶解度(水100gに溶解できる染料の質量)が1g以下であり、好ましくは0.5g以下、より好ましくは0.1g以下であるものを指す。従って、油溶性染料とは、所謂水に不溶性の顔料や油溶性色素を意味し、これらの中でも油溶性色素が好ましい。
本発明に使用可能な油溶性染料のうち、イエロー染料としては、任意のものを使用することができる。例えば、カップリング成分としてフェノール類、ナフトール類、アニリン類、ピラゾロン類、ピリドン類、開鎖型活性メチレン化合物類を有するアリール若しくはヘテリルアゾ染料;例えば、カップリング成分として開鎖型活性メチレン化合物類を有するアゾメチン染料;例えば、ベンジリデン染料やモノメチンオキソノール染料等のようなメチン染料;例えば、ナフトキノン染料、アントラキノン染料等のようなキノン系染料;等が挙げられ、これ以外の染料種としてはキノフタロン染料、ニトロ・ニトロソ染料、アクリジン染料、アクリジノン染料等を挙げることができる。
【0078】
本発明に使用可能な油溶性染料のうち、マゼンタ染料としては、任意のものを使用することができる。例えば、カップリング成分としてフェノール類、ナフトール類、アニリン類を有するアリール若しくはヘテリルアゾ染料;例えば、カップリング成分としてピラゾロン類、ピラゾロトリアゾール類を有するアゾメチン染料;例えば、アリーリデン染料、スチリル染料、メロシアニン染料、オキソノール染料のようなメチン染料;ジフェニルメタン染料、トリフェニルメタン染料、キサンテン染料のようなカルボニウム染料;例えば、ナフトキノン、アントラキノン、アントラピリドンなどのようなキノン系染料;例えば、ジオキサジン染料等のような縮合多環系染料;等を挙げることができる。
【0079】
本発明に適用可能な油溶性染料のうち、シアン染料としては、任意のものを使用することができる。例えば、インドアニリン染料、インドフェノール染料或いはカップリング成分としてピロロトリアゾール類を有するアゾメチン染料;シアニン染料、オキソノール染料、メロシアニン染料のようなポリメチン染料;ジフェニルメタン染料、トリフェニルメタン染料、キサンテン染料のようなカルボニウム染料;フタロシアニン染料;アントラキノン染料;例えば、カップリング成分としてフェノール類、ナフトール類、アニリン類を有するアリール若しくはヘテリルアゾ染料;インジゴ・チオインジゴ染料;等を挙げることができる。
【0080】
前記の各染料は、クロモフォア(発色性の原子団)の一部が解離して初めてイエロー、マゼンタ、シアンの各色を呈するものであってもよく、その場合のカウンターカチオンはアルカリ金属や、アンモニウムのような無機のカチオンであってもよいし、ピリジニウム、4級アンモニウム塩のような有機のカチオンであってもよく、更にはそれらを構造に有するポリマーカチオンであってもよい。
以下に限定されるものではないが、好ましい具体例としては、例えば、C.I.ソルベント・ブラック 3,7,27,29及び34;C.I.ソルベント・イエロー 14,16,19,29,30,56,82,93及び162;C.I.ソルベント・レッド 1,3,8,18,24,27,43,49,51,72,73,109,122,132及び218;C.I.ソルベント・バイオレット 3;C.I.ソルベント・ブルー 2,11,25,35,38,67及び70;C.I.ソルベント・グリーン 3及び7;並びにC.I.ソルベント・オレンジ 2;等が挙げられる。
【0081】
これらの中で特に好ましいものは、Nubian Black PC−0850、Oil Black HBB 、Oil Yellow 129、Oil Yellow 105、Oil Pink 312、Oil Red 5B、Oil Scarlet 308、Vali Fast Blue 2606、Oil Blue BOS(以上、オリエント化学(株)製)、Aizen Spilon Blue GNH(保土ヶ谷化学(株)製)、Neopen Yellow 075、Neopen Mazenta SE1378、Neopen Blue 808、Neopen Blue FF4012、Neopen Cyan FF4238(以上、BASF社製)等である。
【0082】
−分散染料−
また、本発明においては、水非混和性有機溶媒に溶解する範囲で、分散染料を用いることもできる。分散染料は一般に水溶性の染料も包含するが、本発明においては水非混和性有機溶媒に溶解する範囲で用いることが好ましい。
分散染料の好ましい具体例としては、C.I.ディスパースイエロー 5,42,54,64,79,82,83,93,99,100,119,122,124,126,160,184:1,186,198,199,201,204,224及び237;C.I.ディスパーズオレンジ 13,29,31:1,33,49,54,55,66,73,118,119及び163;C.I.ディスパーズレッド 54,60,72,73,86,88,91,92,93,111,126,127,134,135,143,145,152,153,154,159,164,167:1,177,181,204,206,207,221,239,240,258,277,278,283,311,323,343,348,356及び362;C.I.ディスパーズバイオレット 33;C.I.ディスパーズブルー 56,60,73,87,113,128,143,148,154,158,165,165:1,165:2,176,183,185,197,198,201,214,224,225,257,266,267,287,354,358,365及び368;並びにC.I.ディスパーズグリーン 6:1及び9;等が挙げられる。
【0083】
本発明に使用することができる着色剤は、本発明のインク組成物に添加された後、適度に当該インク内で分散することが好ましい。着色剤の分散には、例えば、ボールミル、サンドミル、アトライター、ロールミル、アジテータ、ヘンシェルミキサ、コロイドミル、超音波ホモジナイザー、パールミル、湿式ジェットミル、ペイントシェーカー等の各分散装置を用いることができる。
また、着色剤の分散を行う際に分散剤を添加することも可能である。分散剤としては、その種類に特に制限はないが、好ましくは高分子分散剤を用いることであり、高分子分散剤としては、例えば、Zeneca社のSolsperseシリーズが挙げられる。また、分散助剤として、各種顔料に応じたシナージストを用いることも可能である。本発明において、これらの分散剤及び分散助剤は、着色剤100質量部に対し、1〜50質量部添加することが好ましい。
着色剤は、本発明のインク組成物の調製に際して、各成分とともに直接添加により配合してもよいが、分散性向上のため、あらかじめ溶剤、又は本発明における環状アリルスルフィドモノマーや、所望により併用される他の重合性化合物のような分散媒体に添加し、均一分散或いは溶解させた後、配合することもできる。
【0084】
本発明において、溶剤が硬化画像に残留する場合の耐溶剤性の劣化並びに残留する溶剤のVOC(Volatile Organic Compound:揮発性有機化合物)の問題を避けるためにも、着色剤は、環状アリルスルフィドモノマーのいずれか1つ又はそれらの混合物に予め添加して、配合することが好ましい。
なお、分散適性の観点のみを考慮した場合、着色剤の添加に使用する重合性化合物は、最も粘度の低いモノマーを選択することが好ましい。
着色剤は、インク組成物の使用目的に応じて、1種又は2種以上を適宜選択して用いればよい。
【0085】
なお、本発明のインク組成物中において、固体のまま存在する顔料などの着色剤を使用する際には、着色剤粒子の平均粒径は、好ましくは0.005〜0.5μm、より好ましくは0.01〜0.45μm、更に好ましくは、0.015〜0.4μmとなるよう、着色剤、分散剤、分散媒体の選定、分散条件、ろ過条件を設定することが好ましい。この粒径管理によって、ヘッドノズルの詰まりを抑制し、インクの保存安定性、インク透明性及び硬化感度を維持することができるので好ましい。
【0086】
本発明のインク組成物における着色剤の含有量は、インク組成物の使用目的により適宜選択されるが、インク物性、着色性を考慮すれば、一般的には、インク組成物全体の質量に対して、0.5〜10質量%であることが好ましく、1〜8質量%であることがより好ましい。
なお、本発明のインク組成物が、酸化チタン等の白色顔料を着色剤とする白色インク組成物である場合における着色剤の含有量は、隠蔽性を確保するために、インク組成物全体の質量に対して、5〜30質量%であることが好ましく、10〜25質量%であることがより好ましい。
本発明のインク組成物には、前記必須成分に加え、本発明の効果を損なわない限りにおいて、物性向上などの目的で、他の成分を併用することができる。
以下、これら任意の成分について以下に説明する。
【0087】
<(D)他の重合性化合物>
本発明のインク組成物には、環状アリルスルフィドモノマーに加えて、他の重合性化合物を含有することが好ましい。他の重合性化合物とは環状アリルスルフィドモノマー以外の重合性化合物をいう。本発明に併用可能な他の重合性化合物としては、ラジカル重合性化合物、カチオン重合性化合物が挙げられる。他の重合性化合物は、目的とする諸特性、或いは、前記ラジカル重合開始剤との関連において適宜選択して用いればよい。
他の重合性化合物としては単官能モノマー、二官能以上のモノマーを挙げることができ、他の重合性化合物が二官能以上のモノマーであることが好ましい。二官能以上のモノマーとしては、ニ官能モノマー、多官能モノマーを挙げることができる。多官能モノマーは三官能以上のモノマー及び単官能モノマー又は2官能モノマーと多官能モノマーの混合物を挙げることができる。
【0088】
本発明のインク組成物において、重合性化合物の総含有量、即ち、環状アリルスルフィドモノマーと他の重合性化合物との総含有量は、本発明のインク組成物全体の質量に対し、5〜95質量%であり、より好ましくは5〜45質量%である。
また、本発明のインク組成物において、環状アリルスルフィドモノマーは、インク組成物に含有される重合性化合物の総含有量(即ち、環状アリルスルフィドモノマー及び他の重合性化合物の総含有量)に対し、1〜60質量%の範囲であることが好ましく、2〜50質量%の範囲であることがより好ましく、5〜40質量%の範囲であることが更に好ましい。
【0089】
以下、本発明に適用しうる他の重合性化合物について更に説明する。
他の重合性化合物としては、ラジカル重合性化合物が好ましい。
ラジカル重合性化合物は、ラジカル重合可能なエチレン性不飽和結合を有する化合物であり、分子中にラジカル重合可能なエチレン性不飽和結合を少なくとも1つ有する化合物であればどのようなものでもよく、モノマー、オリゴマー、ポリマー等の化学形態を持つものが含まれる。ラジカル重合性化合物は1種のみ用いてもよく、また目的とする特性を向上するために任意の比率で2種以上を併用してもよい。好ましくは2種以上併用して用いることが、反応性、物性などの性能を制御する上で好ましい。発明者らは環状アリルスルフィドモノマーと他のメタクリレートモノマーやアクリレートモノマーが共重合可能であることを確認している。
ラジカル重合可能なエチレン性不飽和結合を有する重合性化合物の例としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、マレイン酸等の不飽和カルボン酸及びそれらの塩、エチレン性不飽和基を有する無水物、アクリロニトリル、スチレン、更に種々の不飽和ポリエステル、不飽和ポリエーテル、不飽和ポリアミド、不飽和ウレタン等のラジカル重合性化合物が挙げられる。
【0090】
具体的には、2−ヒドロキシエチルアクリレート、ブトキシエチルアクリレート、カルビトールアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、ベンジルアクリレート、トリデシルアクリレート、2−フェノキシエチルアクリレート、ビス(4−アクリロキシポリエトキシフェニル)プロパン、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、ジペンタエリスリトールテトラアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、オリゴエステルアクリレート、N−メチロールアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、エポキシアクリレート、イソボルニルアクリレート、ジシクロペンテニルアクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチルアクリレート、ジシクロペンタニルアクリレート等のアクリル酸誘導体;メチルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、アリルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、ジメチルアミノメチルメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレート、2,2−ビス(4−メタクリロキシポリエトキシフェニル)プロパン等のメタクリル誘導体;その他、アリルグリシジルエーテル、ジアリルフタレート、トリアリルトリメリテート等のアリル化合物の誘導体、が挙げられる。更に具体的には、山下晋三編、「架橋剤ハンドブック」、(1981年大成社);加藤清視編、「UV・EB硬化ハンドブック(原料編)」(1985年、高分子刊行会);ラドテック研究会編、「UV・EB硬化技術の応用と市場」、79頁、(1989年、シーエムシー);滝山栄一郎著、「ポリエステル樹脂ハンドブック」、(1988年、日刊工業新聞社)等に記載の市販品若しくは業界で公知のラジカル重合性および架橋性のモノマー、オリゴマー及びポリマーを用いることができる。
【0091】
これらのアクリレート類及びメタクリレート類の中でも、硬化性と硬化後の膜物性の観点から、テトラヒドロフルフリルアクリレート、2−フェノキシエチルアクリレート等のエーテル酸素原子を有するアルコールのアクリレートが好ましいものとして挙げられる。また、同様の理由から、脂環構造を有するアルコールのアクリレートも好ましく、イソボルニルアクリレート、ジシクロペンテニルアクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチルアクリレート、ジシクロペンタニルアクリレート等のビシクロ環構造又はトリシクロ環構造を有するアクリレートが好ましいものの具体例として挙げられ、中でも、脂環構造内に二重結合を有する、ジシクロペンテニルアクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチルアクリレートが特に好ましいものとして挙げられる。
また、ラジカル重合性化合物としては、例えば、特開平7−159983号、特公平7−31399号、特開平8−224982号、特開平10−863号、特開平9−134011号、特表2004−514014号等の各公報に記載されている光重合性組成物に用いられる光硬化型の重合性化合物が知られており、これらも本発明のインク組成物に適用することができる
【0092】
更に、ラジカル重合性化合物としては、ビニルエーテル化合物を用いることが好ましい。好適に用いられるビニルエーテル化合物としては、例えば、エチレングリコールジビニルエーテル、エチレングリコールモノビニルエーテル、ジエチレングリコールジビニルエーテル、トリエチレングリコールモノビニルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、プロピレングリコールジビニルエーテル、ジプロピレングリコールジビニルエーテル、ブタンジオールジビニルエーテル、ヘキサンジオールジビニルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテル、ヒドロキシエチルモノビニルエーテル、ヒドロキシノニルモノビニルエーテル、トリメチロールプロパントリビニルエーテル等のジ又はトリビニルエーテル化合物;エチルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、オクタデシルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテル、2−エチルヘキシルビニルエーテル、シクロヘキサンジメタノールモノビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、イソプロペニルエーテル−O−プロピレンカーボネート、ドデシルビニルエーテル、ジエチレングリコールモノビニルエーテル、オクタデシルビニルエーテル等のモノビニルエーテル化合物等が挙げられる。
【0093】
ビニルエーテル化合物としては、Rapi−Cure DVE−3、Rapi−Cure DVE−2(いずれも、ISP Europe製)、等の市販品を用いることもできる。
これらのビニルエーテル化合物のうち、硬化性、接着性、表面硬度の観点から、ジビニルエーテル化合物、トリビニルエーテル化合物が好ましく、特にジビニルエーテル化合物が好ましい。ビニルエーテル化合物は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を適宜組み合わせて使用してもよい。
また、他の重合性化合物としては、(メタ)アクリル系モノマー或いはプレポリマー、エポキシ系モノマー或いはプレポリマー、ウレタン系モノマー或いはプレポリマー等の(メタ)アクリル酸エステル(以下、適宜、アクリレート化合物と称する。)を用いてもよく下記に示す化合物が化合物例として挙げられる。
【0094】
即ち、2−エチルヘキシル−ジグリコールアクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシブチルアクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジアクリレート、2−アクリロイロキシエチルフタル酸、メトキシ−ポリエチレングリコールアクリレート、テトラメチロールメタントリアクリレート、2−アクリロイロキシエチル−2−ヒドロキシエチルフタル酸、ジメチロールトリシクロデカンジアクリレート、エトキシ化フェニルアクリレート、2−アクリロイロキシエチルコハク酸、ノニルフェノールEO付加物アクリレート、変性グリセリントリアクリレート、ビスフェノールAジグリシジルエーテルアクリル酸付加物、変性ビスフェノールAジアクリレート、フェノキシ−ポリエチレングリコールアクリレート、2−アクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸、ビスフェノールAのPO付加物ジアクリレート、ビスフェノールAのEO付加物ジアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレートトリレンジイソシアナートウレタンプレポリマー、ラクトン変性可撓性アクリレート、ブトキシエチルアクリレート、プロピレングリコールジグリシジルエーテルアクリル酸付加物、ペンタエリスリトールトリアクリレートヘキサメチレンジイソシアナートウレタンプレポリマー、2−ヒドロキシエチルアクリレート、メトキシジプロピレングリコールアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレートヘキサメチレンジイソシアナートウレタンプレポリマー、ステアリルアクリレート、イソアミルアクリレート、イソミリスチルアクリレート、イソステアリルアクリレート、ラクトン変性アクリレート、等が挙げられる。
【0095】
これらのアクリレート化合物は、UV硬化型インクに用いられてきた重合性化合物として、皮膚刺激性や感作性(かぶれ易さ)が小さく、比較的低粘度で安定したインク吐出性が得られ、重合感度、被記録媒体との接着性が良好であるため好ましい。
ここで他の重合性化合物として列挙されているモノマーは、低分子量であっても感作性が小さいものであり、かつ、反応性が高く、粘度が低く、記録媒体への接着性に優れる。
【0096】
感度、滲み、被記録媒体との接着性をより改善するためには、他の重合性化合物成分として、単官能アクリレートと、分子量400以上、好ましくは500以上の二官能以上のモノマー(例えばニ官能アクリレートモノマー、多官能アクリレートモノマー等)又は二官能以上のオリゴマー(例えば多官能アクリレートオリゴマー等)を併用することが好ましい態様である。
特に、PETフィルムやPPフィルムといった柔軟な被記録媒体への記録に使用するインク組成物においては、上記化合物群の中から選ばれる単官能アクリレート、前述の一般式(I)で表される環状アリルスルフィドモノマーと、他の重合性化合物から選択される多官能アクリレートモノマー又は多官能アクリレートオリゴマーとの併用は、膜に可撓性を持たせて接着性を高めつつ、膜強度を高められるため好ましい。
【0097】
更に、一般式(I)で表される環状アリルスルフィドモノマーと、単官能モノマー、二官能モノマー、多官能モノマーの少なくとも3種の重合性化合物とを併用する態様が、安全性を維持しつつ、更に、感度、滲み、被記録媒体との接着性をより改善することができるという観点から、好ましい態様として挙げられる。
単官能モノマーとしては単官能アクリレート、アクリレートとしてはステアリルアクリレート、イソアミルアクリレート、イソミスチルアクリレート、イソステアリルアクリレート2−ヒドロキシエチルアクリレート、ブトキシエチルアクリレート、カルビトールアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、ベンジルアクリレート、エチレングリコールモノビニルエーテル、トリエチレングリコールモノビニルエーテルを挙げることができ、単官能アクリレートが好ましい。その中でも単官能アクリレートとしてはステアリルアクリレート、イソアミルアクリレート、イソミスチルアクリレート、イソステアリルアクリレートが感度も高く、低収縮性でカールの発生を防止できるとともに、滲み防止、印刷物の臭気、照射装置のコストダウンの点で好ましい。具体的にはSR339、SR489、SR506(以上Sartomer社製)を好ましく挙げることができる。
単官能アクリレートと併用しうるオリゴマーとしては、エポキシアクリレートオリゴマー、ウレタンアクリレートオリゴマーが特に好ましい。
なお、メタクリレートは、皮膚低刺激性がアクリレートより良好である。
二官能モノマーとしては二官能アクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジビニルエーテル、ジエチレングリコールジビニルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、プロピレングリコールジビニルエーテル、ジプロピレングリコールジビニルエーテル、ブタンジオールジビニルエーテル、ヘキサンジオールジビニルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテルを挙げることができ、ニ官能アクリレートが好ましい。
具体的にはSR508、SR9045(以上Sartomer社製)を好ましく挙げることができる。
多官能モノマーとしては多官能アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、オリゴエステルアクリレートを挙げることができ、多単官能アクリレートが好ましい。
具体的にはSR399(Sartomer社製)を好ましく挙げることができる。
【0098】
上記化合物の中でもアルコキシアクリレートを70質量%以下の量で使用し、残部を前記アクリレート化合物とする場合、良好な感度、滲み特性、臭気特性を有するため好ましい。
本発明において、他の重合性化合物として、前記アクリレート化合物を使用する場合、他の重合性化合物の全質量に対して、前記アクリレート化合物が30質量%以上であることが好ましく、40質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることが更に好ましい。
なお、本発明における重合開始剤と重合性化合物の選択に関して言えば、種々の目的に応じて(例えば、インク組成物に使用する着色剤の遮光効果による感度低下を防ぐ手段として)、ラジカル重合性化合物とラジカル重合開始剤との組み合わせの他、これらと共に、カチオン重合性化合物とカチオン重合開始剤とを併用したラジカル・カチオンのハイブリッド型硬化インクとしてもよい。
【0099】
本発明に用いうるカチオン重合性化合物は、光酸発生剤から発生する酸により重合反応を開始し、硬化する化合物であれば特に制限はなく、光カチオン重合性モノマーとして知られる各種公知のカチオン重合性のモノマーを使用することができる。カチオン重合性モノマーとしては、例えば、特開平6−9714号、特開2001−31892号、同2001−40068号、同2001−55507号、同2001−310938号、同2001−310937号、同2001−220526号などの各公報に記載されているエポキシ化合物、ビニルエーテル化合物、オキセタン化合物などが挙げられる。
また、カチオン重合性化合物としては、例えば、カチオン重合系の光硬化性樹脂に適用される重合性化合物が知られており、最近では400nm以上の可視光波長域に増感された光カチオン重合系の光硬化性樹脂に適用される重合性化合物として、例えば、特開平6−43633号、特開平8−324137号の各公報等に公開されている。これらも本発明のインク組成物に適用することができる。
【0100】
本発明にカチオン重合性化合物を使用する際に併用しうるカチオン重合開始剤(光酸発生剤)としては、例えば、化学増幅型フォトレジストや光カチオン重合に利用される化合物が用いられる(有機エレクトロニクス材料研究会編、「イメージング用有機材料」、ぶんしん出版(1993年)、187〜192ページ参照)。本発明に好適なカチオン重合開始剤の例を以下に挙げる。
第1に、ジアゾニウム、アンモニウム、ヨードニウム、スルホニウム、ホスホニウムなどの芳香族オニウム化合物のB(C−、PF−、AsF−、SbF−、CFSO−塩を挙げることができる。第2に、スルホン酸を発生するスルホン化物を挙げることができる。第3に、ハロゲン化水素を光発生するハロゲン化物も用いることができる。第4に、鉄アレン錯体を挙げることができる。
上記如きカチオン重合開始剤は、単独で用いてもよいし、併用してもよい。
【0101】
〔(E)増感色素〕
本発明のインク組成物及びインクジェット記録用インク組成物には、ラジカル重合開始剤の活性光線照射による分解を促進させるために増感色素を添加することができる。増感色素は、特定の活性放射線を吸収して電子励起状態となる。電子励起状態となった増感色素は、重合開始剤と接触して、電子移動、エネルギー移動、発熱などの作用を生じ、これにより重合開始剤の化学変化、即ち、分解、ラジカル、酸或いは塩基の生成を促進させるものである。
増感色素は、インク組成物に使用されるラジカル重合開始剤に開始種を発生させる活性放射線の波長に応じた化合物を使用すればよい。一般的なインク組成物の硬化反応に使用されることを考慮すれば、好ましい増感色素の例としては、以下の化合物類に属しており、かつ、350nmから450nm域に吸収波長を有するものを挙げることができる。
多核芳香族類(例えば、アントラセン、ピレン、ペリレン、トリフェニレン)、チオキサントン類(例えば、イソプロピルチオキサントン)、キサンテン類(例えば、フルオレッセイン、エオシン、エリスロシン、ローダミンB、ローズベンガル)、シアニン類(例えば、チアカルボシアニン、オキサカルボシアニン)、メロシアニン類(例えば、メロシアニン、カルボメロシアニン)、チアジン類(例えば、チオニン、メチレンブルー、トルイジンブルー)、アクリジン類(例えば、アクリジンオレンジ、クロロフラビン、アクリフラビン)、アントラキノン類(例えば、アントラキノン)、スクアリウム類(例えば、スクアリウム)、クマリン類(例えば、7−ジエチルアミノ−4−メチルクマリン)等が挙げられ、多核芳香族類及びチオキサントン類が好ましい類として挙げられる。
【0102】
<(F)共増感剤>
本発明のインク組成物及びインクジェット記録用インク組成物は、共増感剤を含有することもできる。本発明において共増感剤は、増感色素の活性放射線に対する感度を一層向上させる、或いは酸素による重合性化合物の重合阻害を抑制する等の作用を有する。
共増感剤の例としては、アミン類、例えば、M.R.Sanderら著「Journal of Polymer Science」第10巻3173頁(1972)、特公昭44−20189号公報、特開昭51−82102号公報、特開昭52−134692号公報、特開昭59−138205号公報、特開昭60−84305号公報、特開昭62−18537号公報、特開昭64−33104号公報、Research Disclosure 33825号記載の化合物等が挙げられ、具体的には、トリエタノールアミン、p−ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル、p−ホルミルジメチルアニリン、p−メチルチオジメチルアニリン等が挙げられる。
共増感剤の別の例としては、チオール及びスルフィド類、例えば、特開昭53−702号公報、特公昭55−500806号公報、特開平5−142772号公報記載のチオール化合物、特開昭56−75643号公報のジスルフィド化合物等が挙げられ、具体的には、2−メルカプトベンゾチアゾール、2−メルカプトベンゾオキサゾール、2−メルカプトベンゾイミダゾール、2−メルカプト−4(3H)−キナゾリン、β−メルカプトナフタレン等が挙げられる。
また共増感剤の別の例としては、アミノ酸化合物(例、N−フェニルグリシン等)、特公昭48−42965号公報記載の有機金属化合物(例、トリブチル錫アセテート等)、特公昭55−34414号公報記載の水素供与体、特開平6−308727号公報記載のイオウ化合物(例、トリチアン等)、特開平6−250387号公報記載のリン化合物(ジエチルホスファイト等)、特開平8−65779号記載のSi−H、Ge−H化合物等が挙げられる。
【0103】
<(G)その他の成分>
本発明のインク組成物及びインクジェット記録用インク組成物には、必要に応じて、他の成分を添加することができる。その他の成分としては、例えば、重合禁止剤、溶剤等が挙げられる。
重合禁止剤は、保存性を高める観点から添加され得る。また、本発明のインクジェト記録用インク組成物は、40〜80℃の範囲で加熱、低粘度化して吐出することが好ましく、熱重合によるヘッド詰まりを防ぐためにも、重合禁止剤を添加することが好ましい。重合禁止剤は、本発明のインク組成物全量に対し、200〜20,000ppm添加することが好ましい。重合禁止剤としては、例えば、ハイドロキノン、ベンゾキノン、p−メトキシフェノール、TEMPO、TEMPOL、クペロンAl等が挙げられる。具体的にはFirstcure ST−1(Chem First社製)を挙げることができる。
本発明のインク組成物が放射線硬化型インク組成物であることに鑑み、インク組成物着弾直後に速やかに反応しかつ硬化し得るよう、溶剤を含まないことが好ましい。しかし、インク組成物の硬化速度等に影響がない限り、所定の溶剤を含めることができる。本発明において、溶剤としては、有機溶剤、水が使用できる。特に、有機溶剤は、被記録媒体(紙などの支持体)との接着性を改良するために添加され得る。好適に用いられる溶剤としては、プロピレンカーボネート、コハク酸ジメチル、グルタル酸ジメチル、アジピン酸ジメチル、および、それらの混合物が挙げられる。
【0104】
有機溶剤の量は、本発明のインク組成物全体の質量に対し、例えば、0.1〜5質量%、好ましくは0.1〜3質量%の範囲である。
この他に、必要に応じて、公知の化合物を本発明のインクジェット記録用インク組成物に添加することができる。例えば、界面活性剤、レベリング添加剤、消泡剤〔例えばByk 307 (BYK Chemie社製)等〕、マット剤、膜物性を調整するためのポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ビニル系樹脂、アクリル系樹脂、ゴム系樹脂、ワックス類等を適宜選択して添加することができる。また、ポリオレフィンやPET等の被記録媒体への接着性を改善するために、重合を阻害しないタッキファイヤーを含有させることも好ましい。具体的には、特開2001−49200号公報の5〜6頁に記載されている高分子量の粘着性ポリマー(例えば、(メタ)アクリル酸と炭素数1〜20のアルキル基を有するアルコールとのエステル、(メタ)アクリル酸と炭素数3〜14の脂環属アルコールとのエステル、(メタ)アクリル酸と炭素数6〜14の芳香属アルコールとのエステルからなる共重合物)や、重合性不飽和結合を有する低分子量粘着付与性樹脂などが挙げられる。
【0105】
〔インク組成物の性質〕
本発明のインク組成物の好ましい物性について説明する。
本発明のインク組成物は、インクジェット記録用インク組成物に用いる場合、吐出性を考慮し、吐出時の温度(例えば、40〜80℃、好ましくは25〜50℃)において、粘度が、好ましくは7〜30mPa・sであり、より好ましくは7〜25mPa・sである。例えば、本発明のインク組成物の室温(25〜30℃)での粘度は、好ましくは10〜50mPa・s、より好ましくは12〜40mPa・sである。
本発明のインク組成物は、粘度が上記範囲になるように適宜組成比を調整することが好ましい。室温での粘度を高く設定することにより、多孔質な被記録媒体を用いた場合でも、被記録媒体中へのインク浸透を回避し、未硬化モノマーの低減、臭気低減が可能となる。更にインク液滴着弾時のインクの滲みを抑えることができ、その結果として画質が改善される。
本発明のインク組成物の表面張力は、好ましくは20〜30mN/m、より好ましくは23〜28mN/mである。ポリオレフィン、PET、コート紙、非コート紙など様々な被記録媒体へ記録する場合、滲み及び浸透の観点から、20mN/m以上が好ましく、濡れ性の点は30mN/m以下が好ましい。
【0106】
[インクジェット記録方法]
本発明のインクジェット記録方法、及び該インクジェット記録方法に適用しうるインクジェット記録装置について、以下説明する。
本発明のインクジェット記録方法は、(i−1)被記録媒体上に、本発明のインクジェット記録用インク組成物を吐出する工程、及び、(i−2)吐出されたインクジェット記録用インク組成物に活性放射線を照射して、該インクジェット記録用インク組成物を硬化する工程、を含むことを特徴とする。
本発明のインクジェット記録方法は、上記(i−1)及び(i−2)工程を含むことにより、被記録媒体上において硬化したインク組成物により画像が形成される。
本発明のインクジェット記録方法における(i−1)工程には、以下に詳述するインクジェット記録装置を用いることができる。
【0107】
−インクジェット記録装置−
本発明のインクジェット記録方法に用いられるインクジェット記録装置としては、特に制限はなく、目的とする解像度を達成しうる公知のインクジェット記録装置を任意に選択して使用することができる。即ち、市販品を含む公知のインクジェット記録装置であれば、いずれも、本発明のインクジェット記録方法の(i−1)工程における被記録媒体へのインクの吐出を実施することができる。
インクジェット記録装置については、特開2008−214395号公報の段落番号〔0113〕〜〔0128〕の記載を本発明におけるインクジェット記録装置に適用することができる。
【0108】
〔記録物〕
本発明の記録物は、本発明のインク組成物又はインクジェット記録用インク組成物により形成される。該記録物としては、被記録媒体上に本発明の前記インク組成物が吐出され、硬化されたものが好ましい。このとき、前記吐出が、インクジェットプリンターを用いたインクジェット記録により行われるのがより好ましい。
本発明の記録物(印刷物)は、画像記録に用いられるインク組成物が本発明の前記インク組成物であり、硬化性に優れ、被記録媒体との高い接着性を有し、保存による色変化が小さく、広汎な分野に好適に使用可能である。
【実施例】
【0109】
以下実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例における形態に限定されるものではない。なお、以下の実施例は各色のインクジェット記録用のインクに係るものである。また、以下の説明においては、特に断りのない限り、「部」はすべて「質量部」を意味する。
以下に合成した例を記述する。下記に一般式として示したスキームにより合成した。
【0110】
<一般式(I)で表される化合物(モノマー)の合成>
例示化合物M−17、M−18、M−34、M−36、M−44、M−45、M−46を、J. Polym. Sci.: Part A Polym. Chem. 2001, 39, 202に記載の方法に準じ、下記スキーム(Rは、M−17及びM−44合成時はメチル基、M−18合成時はフェニル基、M−34合成時は水素原子、M−45合成時は2-ブロモフェニル、M−46合成時は2,4-ジクロロフェニル)によって合成した。出発原料を変更した以外は同様の方法により、例示化合物を合成した。出発原料の置換基を変更することにより、様々な置換基を有する環状アリルスルフィド化合物を合成することができる。
【0111】
【化15】

【0112】
以下に得られた物性データを記述する。
M-17;1H NMR (300 MHz, CDCl3) δ2.00 (s, 3H), 3.05 (m, 4H), 3.21 (s, 4H), 4.95 (m, 1H), 5.20 (s, 2H)
M-18;1H NMR (300 MHz, CDCl3) δ3.16 (d, 2H), 3.18 (d, 2H), 3.23 (s, 4H), 5.20 (s, 2H), 5.20 (m, 1H), 7.30 (m, 3H), 8.0 (m, 3H)
M-45;1H NMR (300 MHz, CDCl3) δ3.16 (d, 2H), 3.18 (d, 2H), 3.24 (s, 4H), 5.20 (s, 2H), 5.22 (m, 1H), 7.36 (m, 2H), 7.79 (dd, 1H), 7.80 (dd, 1H)
M-46;1H NMR (300 MHz, CDCl3) δ3.16 (d, 2H), 3.18 (d, 2H), 3.24 (s, 4H), 5.20 (s, 2H), 5.20 (m, 1H), 7.30 (dd, 1H), 7.48 (d, 1H), 7.79 (d, 1H)
M-44;1H NMR (300 MHz, CDCl3) δ2.00 (s, 3H), 2.80〜3.80(m, 7H), 4.10〜4.30 (m, 2H), 4.85 (d, 2H)
M-34;1H NMR (300 MHz, CDCl3) δ2.95 (m, 2H), 2.36 (s, 2H), 4.50 (m, 2H), 5.60 (s, 1H), 5.85 (s, 1H)
M-36;1H NMR (300 MHz, CDCl3) δ1.54 (d, 3H), 2.92〜3.10 (m, 2H), 3.59(dd, 1H),4.51 (t, 2H), 5.51 (s, 1H), 5.63 (s, 1H)
【0113】
〔実施例1〜4、比較例1及び2〕
以下の表1に記載の成分を括弧内に記載の量(質量部)用いて、高速水冷式攪拌機により撹拌し、実施例1〜4、比較例1及び2のUVインクジェット用インク組成物を得た。
【0114】
【表1】

【0115】
表1中の略号に対応する化合物は以下に示す化合物である。
【0116】
・SR339:単官能アクリレート(Sartomer社製SR339)
・SR489:単官能アクリレート(Sartomer社製SR489)
・SR506:単官能アクリレート(Sartomer社製SR506)
・SR508:二官能アクリレート(Sartomer社製SR508)
・SR9045:二官能アクリレート(Sartomer社製SR9045)
・SR399:多官能アクリレート(Sartomer社製SR339)
・V−CAP:N−ビニルカプロラクタム
(アイエスピー・ジャパン社製V−CAP)
・DVE−3:Rapi−Cure DVE−3
(ISP Europe社製ビニルエーテル化合物)
・Sol:Solsperse 32000(Noveon社製分散剤)
・GLVO:Irgalite Blue GLVO
(Ciba Specialty Chemicals社製顔料)
・RT−355D:Cinquasia Mazenta RT−355D
(Ciba Specialty Chemicals社製顔料)
・C−K:Microlith Black C−K
(Ciba Specialty Chemicals社製顔料)
・R−A:MICROLITH WHITE R−A
(Ciba Specialty Chemicals社製顔料)
・ST−1:Firstcure ST−1
(Chem First社製重合禁止剤)
・TPO:Lucirin TPO(BASF社製光開始剤)
・Irg:Irgacure 369
(Ciba Specialty Chemicals社製光開始剤)
・Phe:4−フェニルベンゾフェノン (東京化成工業社製光開始剤)
・ITX:Darocur ITX
(Ciba Specialty Chemicals社製光開始剤)
・Byk:Byk 307 (BYK Chemie社製消泡剤)
【0117】
(インク組成物の評価)
得られたシアン色インク組成物と、ピエゾ型インクジェットヘッド(東芝テック製のCA3ヘッド)を有するインクジェット記録装置を用いて、ポリ塩化ビニル製のシート上に記録を行った。インク供給系は、元タンク、供給配管、インクジェットヘッド直前のインク供給タンク、フィルター、ピエゾ型のインクジェットヘッドから成り、ノズル部分が常に45℃±3℃となるよう、温度制御を行った(100%被覆画像を印刷)。インク組成物を吐出後、鉄ドープ処理した紫外線ランプ(パワー120W/cm)の光線下に40m/minの速度で通過させることにより照射を行って、インクを硬化させ、印刷物を得た。
このとき、以下の評価を行った。結果を他の実施例、比較例とまとめて表2に示す。
【0118】
<硬化感度>
硬化における露光エネルギーを光量積算計(EIT社製UV PowerMAP)により測定した。この数値が小さいほど、高感度で硬化すると評価する。その結果、実施例1のインク組成物は、シート上での紫外線の積算露光量は約400mJ/cmであり、高感度で硬化していることが確認された。
【0119】
<硬化性>
硬化性は、このインクによる印刷物を、シート上での紫外線の積算露光量約400mJ/cmで硬化を行い、硬化後の画像部を触診により評価した。硬化性は、硬化膜表面の粘着性の有無で評価する。
その結果、硬化後の粘着性は完全に消失しており、硬化性に優れることを確認した。
【0120】
<被記録媒体との接着性>
被記録媒体との接着性はクロスハッチテスト(EN ISO2409)により評価し、ASTM法による表記5B〜1Bで表す。5Bが最も接着性に優れ、3B以上で実用上問題のないレベルであると評価する。
その結果、実施例1のインク組成物は、高い接着性を有し、その値は、ASTM法による表記で4Bを示した。
【0121】
<吐出安定性>
得られたインク組成物を35℃で12週間保存後、上記のピエゾ型インクジェットノズルを有するインクジェット記録装置を用いて、被記録媒体への記録を行い、常温で1時間連続印字したときの、ドット抜けおよびインクの飛び散りの有無を目視にて観察し、下記基準により評価した。結果を下記表2に示す。「△」及び「×」は実用上問題となるレベルである。
○:ドット抜けまたはインクの飛び散りが発生しないか、発生が5回以下
△:ドット抜けまたはインクの飛び散りが6〜20回発生
×:ドット抜けまたはインクの飛び散りが21回以上発生
【0122】
<硬化後の変色>
実施例4および比較例1、2の白色インクについては、印刷物を硬化後、温度60℃、相対湿度60%の条件下で7日間保存した後に、着色の程度を表す指標として色彩値b(CIE)の値を、分光色彩濃度計(X−Rite社製528濃度計)にて測定した。測定値は値が小さいほど着色(黄色)の程度が小さいことを表す。
【0123】
得られた実施例2〜4、比較例1及び2のインク組成物をポリ塩化ビニル製のシート上に実施例1と同様に吐出し、硬化を行った。実施例1と同様に、硬化感度、硬化性、接着性、吐出安定性について評価した。
【0124】
【表2】

【0125】
表2から明らかなように、実施例1〜4のインク組成物は、いずれも高感度で硬化し、画像部の硬化性、被記録媒体との接着性、吐出安定性、色彩値のすべての評価項目において優れていることがわかる。吐出安定性からはインクの保存性が優れていることがわかる。
一方、環状アリルスルフィドモノマーを用いず、(D)成分に包含される重合性化合物のみを用いた比較例1のインク組成物は、硬化後の画像部がベトツキ、画像部と被記録媒体との接着性に劣るものであった。
【0126】
また、環状アリルスルフィドモノマーに代えてN−ビニルカプロラクタムを用いた以外は、実施例4と同様に調製した比較例2のインク組成物は、硬化後の画像部は良好であるが、接着性、および吐出安定性に劣り色彩値が劣っていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記一般式(I)で表される化合物と、
(B)ラジカル重合開始剤と、
を含有することを特徴とするインク組成物。
【化1】

[一般式(I)中、Rは水素原子またはアルキル基を表し、Zは2つの炭素原子及び硫黄原子と共に環構造を表す。]
【請求項2】
一般式(I)で表される化合物が、下記一般式(II)で表される化合物であることを特徴とする請求項1に記載のインク組成物。
【化2】

[一般式(II)中、Rは一般式(I)における定義と同義である。R12は水素原子またはアルキル基を表し、R13、R14およびR15はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アリール基、ヘテロ環基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシルオキシ基、アシルアミノ基、スルホニルアミノ基、アミノ基、アシル基またはハロゲン原子を表し、mは0または1を表す。]
【請求項3】
前記一般式(II)において、mが1であることを特徴とする請求項2に記載のインク組成物。
【請求項4】
一般式(I)で表される化合物が、下記一般式(III)で表される化合物であることを特徴とする請求項1に記載のインク組成物。
【化3】

[一般式(III)中、Rは一般式(I)における定義と同義である。R23、R24およびR25はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アリール基、ヘテロ環基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシルオキシ基、アシルアミノ基、スルホニルアミノ基、アミノ基、アシル基またはハロゲン原子を表し、nは0または1を表す。]
【請求項5】
前記一般式(III)において、nが0であることを特徴とする請求項4に記載のインク組成物。
【請求項6】
他の重合性化合物を更に含有することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のインク組成物。
【請求項7】
他の重合性化合物が二官能以上のモノマーであることを特徴とする請求項6に記載のインク組成物。
【請求項8】
多官能の環状アリルスルフィドモノマーを更に含有することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のインク組成物。
【請求項9】
(C)着色剤を更に含有することを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載のインク組成物。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載のインク組成物を用いることを特徴とするインクジェット記録用インク組成物。
【請求項11】
(i−1)被記録媒体上に、請求項10に記載のインクジェット記録用インク組成物を吐出する工程、及び、
(i−2)吐出されたインクジェット記録用インク組成物に活性放射線を照射して、該インクジェット記録用インク組成物を硬化する工程、
を含むことを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項12】
請求項1〜10のいずれかに記載のインク組成物又は請求項11に記載のインクジェット記録用インク組成物により形成されたことを特徴とする記録物。

【公開番号】特開2010−222436(P2010−222436A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−69934(P2009−69934)
【出願日】平成21年3月23日(2009.3.23)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】