説明

インク組成物およびその製造方法

【課題】 優れたインクの吐出性能および保存安定性を有し、高画質な画像を長期間安定に形成することのできる、インク組成物およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】 分散媒中に色材粒子を含有するインク組成物の製造方法において、回転部材を備えた分散機中で、回転部材の周速度を0.5〜10m/秒の範囲内として、分散媒中に、色材および被覆剤を含む粒子を分散する湿式分散工程を有することを特徴とするインク組成物の製造方法および該方法により得られたインク組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインク組成物およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
画像データ信号に基づき、紙などの被記録媒体に画像を形成する画像記録方法として、電子写真方式、昇華型および溶融型熱転写方式、インクジェット方式などがある。電子写真方式は、感光体ドラム上に帯電および露光により静電潜像を形成するプロセスを必要とし、システムが複雑となり高価な装置となる。熱転写方式は、装置は安価であるが、インクリボンを用いるため、ランニングコストが高くかつ廃材が出る。一方インクジェット方式は、安価な装置で、且つ必要とされる画像部のみにインクを吐出し被記録媒体上に直接画像形成を行うため、インクを効率よく使用でき、ランニングコストが安い。さらに、騒音が少なく、画像記録方式として優れている。
【0003】
インクジェット記録方式には、例えば、発熱体の熱により発生する蒸気の圧力でインク滴を飛翔させる方式や、圧電素子によって発生される機械的な圧力パルスによりインク滴を飛翔させる方式、また、静電界を利用して荷電粒子を含有するインク滴を飛翔させる方式(特許文献1、2参照)がある。蒸気や機械的圧力でインク滴を飛翔させる方式は、インク滴の飛翔方向を制御できず、インクノズルの歪みや空気の対流により、被印刷媒体上の望ましい位置へ、インク滴を正確に着弾させることが困難である。
【0004】
一方、静電界を利用する方式は、インク滴の飛翔方向を静電界により制御するため、望ましい位置へインク滴を正確に着弾させることが可能であり、高画質の画像形成物(印刷物)を作成でき優れている。
【0005】
静電界を利用するインクジェット記録に用いられるインク組成物としては、分散媒および、色材を少なくとも含む荷電粒子を含有するインク組成物が用いられる(特許文献3、4参照)。色材を含有するインク組成物は、色材を変更することにより、イエロー、マゼンタ、シアン、墨(ブラック)の4色のインクを作成することができ、さらに金や銀の特色インクを作成することができる。したがって、カラーの画像形成物(印刷物)を作成することができるため有用である。
【特許文献1】特許第3315334号公報
【特許文献2】米国特許第6158844号明細書
【特許文献3】特開平8−291267号公報
【特許文献4】米国特許第5952048号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般的に、インクジェット記録に用いられるインク組成物は、色材および被覆剤を加熱混練した後、乾式で粉砕し粒子を得、分散媒および分散剤を加え、分散媒とともに湿式分散させ、さらに荷電調整剤を加えて粒子に荷電を付与することにより製造される。しかしながらこのようにして製造された従来のインク組成物は、インクジェット記録装置のインクジェットヘッドのノズル(吐出口)に粒子が付着し、詰まりが生じやすかったり、長期間保存すると粒子が沈降し、攪拌しても再分散せず、保存安定性が悪いという問題点がある。
したがって本発明の目的は、上記問題点を解決することのできるインク組成物およびその製造方法を提供することである。詳しくは、インク組成物に含まれる粒子間に働く相互作用を抑制することにより、例えば該インク組成物を静電濃縮型インクジェット記録用と
して用いた場合に、インクジェット記録装置のインクジェットヘッドのノズルに粒子が付着しにくく、かつ保存安定性も改善することのできる、インク組成物およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の通りである。
(1)分散媒中に色材粒子を含有するインク組成物の製造方法において、回転部材を備えた分散機中で、回転部材の周速度を0.5〜10m/秒の範囲内として、分散媒中に、色材および被覆剤を含む粒子を分散する湿式分散工程を有することを特徴とするインク組成物の製造方法。
(2) 当該湿式分散工程が、色材および被覆剤を含む粒子を分散媒中に含有する分散液を30℃未満の温度で湿式分散する第一分散工程と、前記第一分散工程で処理した分散液を30℃以上の温度で湿式分散する第二分散工程とを有することを特徴とする上記(1)に記載のインク組成物の製造方法。
【0008】
(3) 上記(1)または(2)の製造方法によって製造されたインク組成物からなる静電濃縮型インクジェット記録用インク組成物であって、下記条件(A)〜(D)の全てを満足することを特徴とする静電濃縮型インクジェット記録用インク組成物。
(A)色材粒子の体積平均直径が0.3〜5.0μmの範囲内である。
(B)色材粒子の体積平均直径の1/5以下の粒子の含有率が体積基準で5%以下の範囲内である。
(C)インク組成物の20℃での粘度が、0.5〜5mPa・sの範囲内である。
(D)インク組成物の20℃での電気伝導度が、10nS/m〜300nS/mの範囲内である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、湿式分散時の回転部材の周速度を0.5〜10m/秒という低速度に制御し、粒子に負荷されるせん断力を抑制し、被覆剤からの色材の露出および放出を防止している。これにより、色材間に働く強い相互作用が隠蔽され、例えば該インク組成物を静電濃縮型インクジェット記録用として用いた場合に、インクジェット記録装置のインクジェットヘッドのノズルに粒子が付着し詰まりが生じたり、長期間保存後に粒子が再分散しないなどの問題が生じにくい。
したがって、本発明によれば、優れたインクの吐出性能および保存安定性を有し、高画質な画像を長期間安定に形成することのできる、インク組成物およびその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明をさらに説明する。
【0011】
[分散媒]
分散媒は、高い電気抵抗率、具体的には1010Ωcm以上を有する誘電性の液体であることが好ましい。また、誘電性液体の比誘電率は5以下が好ましく、より好ましくは4以下、更に好ましくは3.5以下である。このような比誘電率の範囲とすることによって、誘電性液体中の荷電粒子に有効に電界が作用されるため好ましい。
【0012】
本発明に用いる分散媒としては、直鎖状もしくは分岐状の脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、または芳香族炭化水素、およびこれらの炭化水素のハロゲン置換体、シリコーンオイル等がある。例えばヘキサン、ヘプタン、オクタン、イソオクタン、デカン、イソデカン、デカリン、ノナン、ドデカン、イソドデカン、シクロヘキサン、シクロオクタン、シクロデカン、トルエン、キシレン、メシチレン、アイソパーC、アイソパーE、アイソパ
ーG、アイソパーH、アイソパーL、アイソパーM、アイソパーP(アイソパー:エクソン社の商品名)、シェルゾール70、シェルゾール71(シェルゾール:シェルオイル社の商品名)、アムスコOMS、アムスコ460溶剤(アムスコ:スピリッツ社の商品名)、KF−96L(信越シリコーン社の商品名)等を単独または混合して用いることができる。インク組成物全体に対する分散媒の含有量は、20〜99質量%の範囲内であることが好ましい。20質量%以上において、良好に色材を含有する粒子を分散媒に分散することができ、また、99質量%以下において、色材の含有量を充足することができる。
【0013】
[色材]
本発明に用いる色材としては、公知の染料および顔料を使用することができ、用途や目的に応じて選択することができる。例えば、記録された画像記録物(印刷物)の色調の観点からは、顔料を用いることが好ましい(例えば、技術情報協会発行 「顔料分散安定化と表面処理技術・評価」 2001年12月25日第1刷参照。以下「非特許文献1」とも称する)。色材を変更することにより、イエロー、マゼンタ、シアン、墨(ブラック)の4色のインクを作成することができる。特に、オフセット印刷用インクやプルーフに用いられる顔料を使用するとオフセット印刷物と同様な色調が得られるので好ましい。
【0014】
イエローインク用の顔料としては、例えば、C.I.ピグメントイエロー1、C.I.ピグメントイエロー74等のモノアゾ顔料、 C.I.ピグメントイエロー12、 C.I.ピグメントイエロー17等のジスアゾ顔料、 C.I.ピグメントイエロー180等の非ベンジジン系のアゾ顔料、 C.I.ピグメントイエロー100等のアゾレーキ顔料、C.I.ピグメントイエロー95等の縮合アゾ顔料、 C.I.ピグメントイエロー115等の酸性染料レーキ顔料、 C.I.ピグメントイエロー18等の塩基性染料レーキ顔料、フラバントロンイエロー等のアントラキノン系顔料、イソインドリノンイエロー3RLT等のイソインドリノン顔料、キノフタロンイエロー等のキノフタロン顔料、イソインドリンイエロー等のイソインドリン顔料、 C.I.ピグメントイエロー153等のニトロソ顔料、 C.I.ピグメントイエロー117等の金属錯塩アゾメチン顔料、C.I.ピグメントイエロー139等のイソインドリノン顔料などが挙げられる。
【0015】
マゼンタインク用の顔料としては、例えば、C.I.ピグメントレッド3等のモノアゾ系顔料、 C.I.ピグメントレッド38等のジスアゾ顔料、 C.I.ピグメントレッド53:1等やC.I.ピグメントレッド57:1等のアゾレーキ顔料、 C.I.ピグメントレッド144等の縮合アゾ顔料、 C.I.ピグメントレッド174等の酸性染料レーキ顔料、 C.I.ピグメントレッド81等の塩基性染料レーキ顔料、 C.I.ピグメントレッド177等のアントラキノン系顔料、 C.I.ピグメントレッド88等のチオインジゴ顔料、 C.I.ピグメントレッド194等のペリノン顔料、 C.I.ピグメントレッド149等のペリレン顔料、 C.I.ピグメントレッド122等のキナクリドン顔料、 C.I.ピグメントレッド180等のイソインドリノン顔料、 C.I.ピグメントレッド83等のアリザリンレーキ顔料等が挙げられる。
【0016】
シアンインク用の顔料としては、例えば、C.Iピグメントブルー25等のジスアゾ系顔料、 C.I.ピグメントブルー15等のフタロシアニン顔料、 C.I.ピグメントブルー24等の酸性染料レーキ顔料、 C.I.ピグメントブルー1等の塩基性染料レーキ顔料、 C.I.ピグメントブルー60等のアントラキノン系顔料、 C.I.ピグメントブルー18等のアルカリブルー顔料等が挙げられる。
墨インク用の顔料としては、例えば、アニリンブラック系顔料等の有機顔料や酸化鉄顔料、およびファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等のカーボンブラック顔料類等が挙げられる。
更にマイクロリス−A,−K,−Tなどのマイクロリス顔料に代表される加工顔料も好適に使用できる。その具体例としてはマイクロリスイエロー4G−A,マイクロリスレッ
ドBP−K,マイクロリスブルー4G−T,マイクロリスブラックC−Tなどが挙げられる。
【0017】
また、白インク用の顔料として炭酸カルシウムや酸化チタン顔料を、銀インク用としてアルミニウム粉を、金インク用として銅合金を用いる等、必要に応じて各種の顔料を使用することができる。
顔料は、基本的には一色につき一種類の顔料を使うことが、インク製造の簡便性の点で好ましいが、色相調整として例えば、墨インク用に、カーボンブラックにフタロシアニンを混合するなど、場合によっては2種以上併用することも好ましい。また、ロジン処理等、公知の方法により顔料を表面処理した後使用してもよい(前述の非特許文献1)。
【0018】
インク組成物全体に対する顔料の含有量は、0.1〜50質量%の範囲内であることが好ましい。0.1質量%以上において、顔料量が充足し、印刷物において充分良好な発色が得られ、また、50質量%以下において、色材を含有する粒子を分散媒に良好に分散させることができる。さらに好ましくは、1〜30質量%である。
【0019】
[被覆剤]
本発明において、顔料等の色材は、被覆剤により被覆された状態で分散媒に分散(粒子化)する。被覆剤で被覆することにより、色材が持つ荷電を遮蔽し望ましい荷電特性を付与することができる。また、本発明においては、被記録媒体へインクジェット記録した後、ヒートローラ等の加熱手段により定着するが、この際被覆剤が熱により溶融し、効率よく定着できる。
被覆剤としては、例えば、ロジン類、ロジン変性フェノール樹脂、アルキッド樹脂、(メタ)アクリル系ポリマー、ポリウレタン、ポリエステル、ポリアミド、ポリエチレン、ポリブタジエン、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリビニールアルコールのアセタール変性物、ポリカーボネート等を挙げられる。これらの内、粒子形成の容易さの観点から、質量平均分子量が2,000〜1,000,000の範囲内であり、かつ多分散度(質量平均分子量/数平均分子量)が、1.0〜5.0の範囲内であるポリマーが好ましい。さらに、定着の容易さの観点から、軟化点、ガラス転移点または、融点のいずれか1つが40℃〜120℃の範囲内にあるポリマーが好ましい。
【0020】
本発明において、被覆剤として特に好適に使用されるポリマーは、下記一般式(1)〜(4)で示される構成単位のいずれか1つを少なくとも含有するポリマーである。
【0021】
【化1】

【0022】
式中、X11は、酸素原子または−N(R13)−を示す。R11は、水素原子またはメチル基を示し、R12は、炭素数1〜30個の炭化水素基を示し、R13は、水素原子または炭素数1〜30の炭化水素基を示す。R21は、水素原子または炭素数1〜20の炭化水素基を示す。R31、R32およびR41は、それぞれ、炭素数1〜20個の2価の炭化水素基を示す。尚、R12、R21、R31、R32、R41の炭化水素基中にエーテル結合、アミノ基、ヒドロキシ基、または、ハロゲン置換基を含んでいてもよい。
【0023】
一般式(1)で示される構成単位を含有するポリマーは、対応するラジカル重合性モノマーを公知の方法によりラジカル重合することにより得られる。用いられるラジカル重合性モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル等の(メタ)アクリル酸エステル類、および、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−プロピル(メタ)アクリルアミド、N−フェニル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド類が挙げられる。
【0024】
一般式(2)で示される構成単位を含有するポリマーは、対応するラジカル重合性モノマーを公知の方法によりラジカル重合することにより得られる。用いられるラジカル重合性モノマーとしては、例えば、エチレン、プロピレン、ブタジエン、スチレン、4−メチルスチレン等が挙げられる。
【0025】
一般式(3)で示される構成単位を含有するポリマーは、対応するジカルボン酸または酸無水物とジオールとを公知の方法で脱水縮合することにより得られる。用いられるジカルボン酸としては、コハク酸無水物、アジピン酸、セバシン酸、イソフタル酸、テレフタル酸、1,4−フェニレンジ酢酸、ジグリコール酸等が挙げられる。また、用いられるジオールとしては、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,10−デカンジオール、2−ブテン−1,4−ジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,4−ベンゼンジメタノール、ジエチレングリコール等が挙げられる。
【0026】
一般式(4)で示される構成単位を含有するポリマーは、対応するヒドロキシ基を有するカルボン酸をまたは公知の方法で脱水縮合するかまたは、対応するヒドロキシ基を有するカルボン酸の環状エステルを公知の方法で開環重合することにより得られる。用いられるヒドロキシ基を有するカルボン酸またはその環状エステルとしては、6−ヒドロキシヘキサン酸、11−ヒドロキシウンデカン酸、ヒドロシキ安息香酸、ε−カプロラクトン等が挙げられる。
【0027】
一般式(1)〜(4)で示される構成単位のいずれか1つを少なくとも含有するポリマーは、一般式(1)〜(4)で示される構成単位のホモポリマーであってもよく、他の構成成分との共重合体(コポリマー)であってもよい。また、これらのポリマーは、被覆剤として単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
インク組成物全体に対する被覆剤の含有量は、0.1〜40質量%の範囲内であることが好ましい。0.1質量%以上において、被覆剤の量が充足し、充分な定着性が得られるとともに、40質量%以下において、色材と被覆剤を含有する粒子を良好に形成することができる。
【0028】
[分散剤]
本発明において好ましくは、色材と被覆剤の混合物を分散媒中に分散(粒子化)するが、粒子直径を制御し、かつ粒子の沈降を抑制するために分散剤を使用することがさらに好ましい。
好適な分散剤としては、ソルビタンモノオレエート等のソルビタン脂肪酸エステルや、ポリオキシエチレンジステアレート等のポリエチレングリコール脂肪酸エステルに代表される界面活性剤が挙げられる。また、例えば、スチレンとマレイン酸のコポリマー、およびそのアミン変性物、スチレンと(メタ)アクリル化合物のコポリマー、(メタ)アクリル系ポリマー、ポリエチレンと(メタ)アクリル化合物のコポリマー、ロジン、BYK−160、162、164、182(ビックケミー社製のポリウレタン系ポリマー)、EFKA−401、402(EFKA社製のアクリル系ポリマー)、ソルスパース17000,24000(ゼネカ社製のポリエステル系ポリマー)等が挙げられる。本発明においては、インク組成物の長期間保存安定性の観点から、質量平均分子量が1,000〜1000,000の範囲内であり、かつ多分散度(質量平均分子量/数平均分子量)が、1.0〜7.0の範囲内であるポリマーが好ましい。さらに、グラフトポリマーまたはブロックポリマーを用いることが最も好ましい。
【0029】
本発明において特に好適に用いられるポリマーは、下記一般式(5)および(6)で示される構成単位の少なくともいずれか一方からなる重合体成分と、下記一般式(7)で示される構成単位を少なくともグラフト鎖として含有する重合体成分とを少なくとも含有するグラフトポリマーである。
【0030】
【化2】

【0031】
式中、X51は、酸素原子または−N(R53)−を示す。R51は、水素原子またはメチル基を示し、R52は、炭素数1〜10個の炭化水素基を示し、R53は、水素原子または炭素数1〜10の炭化水素基を示す。R61は、水素原子、炭素数1〜20の炭化水素基、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、または、炭素数1〜20個のアルコキシ基を示す。X71は、酸素原子または−N(R73)−を示す。R71は、水素原子またはメチル基を示し、R72は、炭素数4〜30個の炭化水素基を示し、R73は、水素原子または炭素数1〜30の炭化水素基を示す。尚、R52、R61、R72の炭化水素基中にエーテル結合、アミノ基、ヒドロキシ基、または、ハロゲン置換基を含んでいてもよい。
【0032】
上記グラフトポリマーは、一般式(7)に対応するラジカル重合性モノマーを、好ましくは連鎖移動剤の存在下重合し、得られたポリマーの末端に重合性官能基を導入し、さらに、一般式(5)または(6)に対応するラジカル重合性モノマーと共重合することにより得ることができる。
【0033】
一般式(5)に対応するラジカル重合性モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル等、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチルの(メタ)アクリル酸エステル類、及び、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−プロピル(メタ)アクリルアミド、N−フェニル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド類が挙げられる。
【0034】
一般式(6)に対応するラジカル重合性モノマーとしては、例えば、スチレン、4−メチルスチレン、クロロスチレン、メトキシスチレン等が上げられる。
また、一般式(7)に対応するラジカル重合性モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル、等が挙げられる。
これらのグラフトポリマーの具体例としては、下記の構造式で示されるポリマーが挙げ
られる。
【0035】
【化3】

【0036】
【化4】

【0037】
一般式(5)および(6)で示される構成単位のいずれか1つを少なくとも含有する重合体成分と、一般式(7)で示される構成単位を少なくともグラフト鎖として含有する重合成分とを含有するグラフトポリマーは、一般式(5)および/または(6)、並びに一般式(7)で示される構成単位のみを有していてもよいし、他の構成成分を含有していてもよい。グラフト鎖を含有する重合体成分と、其れ以外の重合体成分との好ましい組成比は、10:90〜90:10である。この範囲において、良好な粒子形成性が得られ、所望の粒子直径を得やすく、好ましい。これらのポリマーは、分散剤として単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0038】
インク組成物全体に対する分散剤の含有量は、0.01〜30質量%の範囲内であることが好ましい。この範囲内において、良好な粒子形成性が得られ、所望の粒子直径を得ることができる。
【0039】
[荷電調整剤]
本発明においては、粒子の荷電量を制御するために荷電調整剤を併用することがさらに好ましい。
好適な荷電調整剤としては、ナフテン酸ジルコニウム塩、オクテン酸ジルコニウム塩等の有機カルボン酸の金属塩、ステアリン酸テトラメチルアンモニム塩等の有機カルボン酸のアンモニム塩、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム塩、ジオクチルスルホコハク酸マグネシウム塩等の有機スルホン酸の金属塩、トルエンスルホン酸テトラブチルアンモニウム塩等の有機スルホン酸のアンモニウム塩、スチレンと無水マレイン酸のコポリマーをアミンで変性したカルボン酸基を含有するポリマー等の側鎖にカルボン酸基を有するポリマー、メタクリル酸ステアリルとメタクリル酸のテトラメチルアンモニウム塩の共重合体等の側鎖にカルボン酸アニオン基を有するポリマー、スチレンとビニルピリジンの共重合体等の側鎖に窒素原子を有するポリマー、メタクリル酸ブチルとN−(2−メタクリロイルオキシエチル)−N,N,N−トリメチルアンモニウムトシラート塩との共重合体等の側鎖にアンモニウム基を有するポリマー等が挙げられる。粒子に付与される荷電は、正荷電であっても負荷電であっても良い。インク組成物全体に対する荷電調整剤の含有量は、0.0001〜10質量%の範囲内であることが好ましい。
【0040】
[その他の成分]
本発明においては、さらに、腐敗防止のために防腐剤や、表面張力を制御するための界面活性剤等を目的に応じて含有することができる。
【0041】
[湿式分散による色材粒子の作製]
分散媒中に、色材と被覆剤を湿式分散することにより、色材および被覆剤を含む粒子(色材粒子)を含有するインク組成物を作成することができる。分散(粒子化)する方法としては、例えば下記の方法が挙げられる。なお、下記においては、好ましい成分である分散剤と荷電調整剤の添加を含めて説明する。
(1)色材と被覆剤をあらかじめ混合した後、分散剤と分散媒を用いて湿式分散し、荷電調整剤を加える。
(2)色材、被覆剤、分散剤と分散媒を同時に用いて湿式分散し、荷電調整剤を加える。
(3)色材、被覆剤、分散剤、荷電調整剤、分散媒を同時に用いて湿式分散する。
【0042】
本発明のインク組成物の製造方法における、分散媒中に、色材および被覆剤を含む粒子を分散する湿式分散工程は、上記(1)〜(3)における湿式分散のいずれにおいて用いてもよいが、上記(1)において用いるのが好ましい。
【0043】
上記(1)において、色材と被覆剤はあらかじめ混合、混練、乾燥され、得た混練物を、粉砕し、平均体積直径が、一般的には10〜2000μm、好ましくは20〜1000μmの粉砕物とし、湿式分散に供する。なお、混合、混練に用いる装置としては、例えば、ニーダー、ロールミル、スクリュー型押し出し機などが挙げられる。
【0044】
上記(2)及び(3)においては、湿式分散を開始する際に添加される色材の平均体積直径は、好ましくは0.01〜10μm、被覆剤は、20〜1000μmであるのが好ましい。
【0045】
また、湿式分散工程の前に、予備分散を行っても良い。この場合、予備分散とは、湿式分散工程(本分散)前に行う分散工程であり、具体的には、本分散に使用するビーズ径よりも大きなビーズを用いて分散を行う。この予備分散を行うことで、粗大な粒子を抑制することが可能である。
【0046】
本発明における湿式分散工程は、回転部材を備えた分散機中で分散媒とともに粒子を分散する際に、回転部材の周速度を0.5〜10m/秒の低速度の範囲内に制御することを特徴としている。湿式分散工程は、通常、分散用ビーズとともに行われる。
分散機としては、とくに制限されず、市販の湿式分散機を使用することができる。例えば、分散機は、モーターとアジテーターシャフトをベルトによって接続し、該シャフトに回転部材を取り付け、モーターを稼動させシャフトおよび回転部材を回転させることにより、せん断力や分散用ビーズ間の衝撃によって色材を含む粒子を破砕し微細化するものである。分散機の型式としては、縦型サンドミル、横型サンドミル等が挙げられ、溶剤の蒸発を防止するため、密閉型のものが一般に用いられる。
【0047】
横型サンドミルの具体例としては、ダイノミル(スイス、WAB社)、パールミル、DCP(ドイツ、ドライス社)、アジテーターミル(ドイツ、ネッチェ社)、スーパーミル(ベルギー、サスマイヤー社)、コボールミル(スイス、フリーマ社)、スパイクミル(井上製作所)、ビスコミル(アイメックス社)等が挙げられる。
縦型サンドミルの具体例としては、各種スクリーン式サンドグラインダー(アイメックス社)、スターミル(アシザワ・ファインテック)等が挙げられる。
また、回転部材は、分散用ビーズを攪拌できるものであればとくに制限されないが、例えばアジテーターシャフト(軸)に取り付けられたディスク(羽根)状部材、またはピン状部材などが挙げられる。なお本発明では回転部材の材質および形状はとくに制限されず、自由に選択することができる。例えば、回転部材としてディスク形状のものを選択した場合、ジルコニア、チタニア、アルミナ、スチール、窒化ケイ素等、様々な材質のものを使用できる。また、分散用ビーズが分散機の分散液吐出口付近に集中(ビーズパッキング)するのを防止するために、ディスクに穴を開ける等の工夫を形状に施してもよい。
【0048】
分散用ビーズは、ジルコニア、チタニア、アルミナ、ガラス、スチール、窒化ケイ素など様々な材質のものを使用できる。分散液の粘度、プレ分散の度合いなどにあわせて、分散用ビーズの比重、耐磨耗性等の観点から分散用ビーズの材質は選択される。分散用ビーズの直径は特に限定されるものではないが、例えば直径0.1mm〜10mm程度のものが使用できる。一般的には、分散用ビーズが大きいほど粒径分布が広くなり、小さいほど小粒径まで分散できる傾向にある。また、分散用ビーズの充填率も特に限定されるものではないが、分散機の容積に対し、50%〜90%の充填率が好ましい。分散用ビーズの充填率と分散性能は密接な関係があり、一般的に充填率を高くすれば分散効率が向上することが知られている。横型サンドミルの場合、縦型サンドミルと比較して起動時の分散用ビーズのロック現象が全く起こらないため、充填率を80〜85%と高くすることができる。
【0049】
一般的に従来技術において、所望の粒子径を得るためには、前述の各種サンドミルの選択(縦型/横型)、分散用ビーズの選択(材質/直径)、回転部材の選択(材質/形状)を適宜行っている。それらを決定した後、回転部材の回転数を決めて所望の粒子径が得られるまで分散する。しかしながら、本発明者が実験を行ったところ、回転部材の径の異なる複数の分散機を用い、それぞれ同じ回転数で同じ粒子径のインク組成物を作成したところ、各組成物間で吐出性や再分散性が大きく異なることが判明した。検討した結果、特性の同じインクを得るためには回転部材の回転数ではなく、周速度を合わせることが重要であることが判明した。さらに詳細に検討した結果、回転部材の周速度がインク組成物の特性を左右していることを見出すに至った。具体的には、回転部材の周速度を10m/秒以
下として色材を含む粒子を湿式分散しインク組成物を製造することで、例えば該インク組成物を静電濃縮型インクジェット記録用として用いた場合に、ヘッドのノズルでの粒子付着が低減化し、安定吐出が達成された。また、インクの再分散性が良化し、長期保存安定性も向上した。なおかつ、長期間のインク循環中も凝集することなく安定であることが判明した。これらの効果により、長期間に渡る安定吐出が可能になり、高画質な画像を得ることが出来た。
【0050】
なお、本発明において周速度は、回転部材の回転速度が最も早い箇所を測定または計算することによって得られ、通常の回転部材の形状、例えばディスク形状やピン形状を選択した場合には、アジテーターシャフトの中心部から最も離れた場所に設置された、回転部材の先端部の周速度である。
【0051】
また、市販されている分散機は、前述のように、モーターとアジテーターシャフトをベルトによって接続し、該シャフトに回転部材を取り付け、モーターを稼動させシャフトおよび回転部材を回転させている。さらに詳しくは、市販されている分散機は、モーターとアジテーターシャフトにそれぞれ径の異なるプーリーを設置し、プーリーにかけるベルトの位置を組み合わせることによって回転部材の回転数を変更している。しかしながら、この方式では回転数を数種類しか切り替えることができず、本発明で採用される10m/秒以下の周速度で回転部材を低速度で回転させるのは一般的に困難である。したがって、本発明では、市販の分散機のモーターへの入力周波数を変えることで、回転数を自由に変えられる、いわゆるインバーター方式を採用し、市販の分散機よりも低回転数を自由に実現できるようにすることが好ましい。
【0052】
なお本発明における周速度は、0.5〜10m/秒、好ましくは1〜9.5m/秒、さらに好ましくは2〜9m/秒である。湿式分散工程における分散温度は、一般的には−10〜90℃、好ましくは0〜70℃、分散時間は、分散機の種類及び所望の色材粒子径により適宜選択できるが、概ね1〜15時間である。
周速度が0.5m/秒未満では分散時間を長くしても目標の粒子径まで微細化することができず、目視で判別可能な粗大粒子が存在する。これらの粗大粒子によってヘッド先端吐出口でのインク目詰まりが起こりやすい。逆に10m/秒を超えると、ヘッド先端吐出口で粒子付着が起こりやすくなり、同様にインク目詰まりを生じる。また、インク粒子が凝集しやすくなり、再分散性が悪くなる。理由は明らかではないが、速い周速度による強いせん断力が、粒子中から色材を露出、あるいは放出させ、色材の強い相互作用が現れて、それによって付着や凝集が発生するものと推定される。
【0053】
また本発明では、湿式分散工程が、分散液を30℃未満の温度で湿式分散する第一分散工程と、前記第一分散工程で得られた分散液を30℃以上の温度で更に湿式分散する第二分散工程とを有することが好ましい。分散液の液温度の制御方法としては、特に制限はないが、例えば、分散機のベッセル部分が2重ジャケット(内側が分散体内、外側が循環水)になっており、その外側部分に熱交換器(チラー)で温度制御した冷水、又は熱水を循環させることで内側の分散液の温度を制御することができる。
【0054】
本発明において、第一分散工程における分散液温度は好ましくは−10℃以上30℃未満であり、さらに好ましくは0〜28℃の範囲である。分散時間は、好ましくは1〜15時間、より好ましくは2〜12時間である。
また、第二分散工程における分散液温度は好ましくは30〜90℃の範囲であり、さらに好ましくは40〜70℃の範囲である。分散時間は、好ましくは1〜15時間、より好ましくは2〜12時間である。
【0055】
なお、第二分散工程の分散液温度は、第一分散工程で採用された分散液温度に対し、例
えば冷媒の温度を制御して5℃以上上昇させることが好ましい。更に好ましくは、10℃以上上昇させて分散処理するのがよい。また、第二分散工程における分散液温度を上昇させる方法としては、一度に上昇させてもよく、何度かに分けて上昇させてもよい。
分散時間は、色材粒子の平均体積直径として、一般的に0.3〜5μm、好ましくは0.4〜4μmとするように、原料や分散機の種類によって適宜決定すればよいが、例えば2〜12時間が好ましい。
【0056】
湿式分散工程を前記のように二つに分ける効果の発現機構については解明されていないが、本発明者は次のように考えている。即ち、第一分散工程で生成した0.2μm以下の微小な色材粒子が、第二分散工程の分散液温度上昇により、分散剤が脱着し分散不安定化すると共に、被覆剤の軟化により、微小色材粒子同士の凝集、融合、あるいは微小色材粒子がより大きい粒子への凝集、融合が生じ、被覆の均一化と粒子サイズの均一化が起こったものと考えている。
【0057】
上記の本発明の湿式分散処理工程を有するインク組成物の製造方法により、下記条件(A)〜(D)を満足する、静電濃縮型インクジェット記録用として優れたインク組成物を得ることができる。
(A)粒子の体積平均直径が0.3〜5.0μmの範囲内である。
(B)粒子の体積平均直径の1/5以下の粒子の含有率が体積基準で5%以下の範囲内である。
(C)インク組成物の20℃での粘度が、0.5〜5mPa・sの範囲内である。
(D)インク組成物の20℃での電気伝導度が、10nS/m〜300nS/mの範囲内である。
【0058】
本発明における色材粒子の平均直径は、体積平均直径として、0.3〜5.0μm、さらに好ましくは0.4〜4μmの範囲内であるのがよい。粒度分布は、狭く均一なほうが好ましい。平均直径は、例えば、超遠心式自動粒度分布測定装置CAPA−700(堀場製作所(株)製)等の装置を用い、遠心沈降法により測定できる。
【0059】
また、色材粒子における小粒子径の割合が小さいと、例えば、インクジェット記録装置に使用した場合、ランニング時にインク中への蓄積が少なく、十分な描画性が得られる。その割合としては、体積平均粒子直径の1/5以下に相当する直径の色材粒子の含有率が5%以下であることが望ましい。より好ましくは、3%以下である。
【0060】
また本発明において、インク組成物の20℃での粘度は、0.5〜5mPa・sの範囲内が好ましい。この範囲内とすることにより、良好な吐出特性が得られる。インク組成物の粘度は、用いる分散媒と分散媒に溶解している分散剤等のポリマー成分の種類と量により、調整することができる。また、界面活性剤をさらに使用することにより、粘度を調整することができる。
【0061】
さらに本発明では、インク組成物の電気伝導度が、10nS/m〜300nS/mの範囲内であることが好ましい。この範囲内にあることによって、インク滴の吐出が容易となる。さらに好ましいインク組成物の電気伝導度は、30nS/m〜200nS/mである。
色材粒子の電気伝導度は、インク組成物を遠心沈降し、色材粒子を沈降させた上澄み液の電気伝導度を測定し、インク組成物の電気伝導度から差し引くことにより求めることができるが、本発明では、色材粒子の電気伝導度が、インク組成物の電気伝導度の30%以上であることが好ましい。静電界を利用したインクジェット記録方式では、インク滴が吐出する際、色材粒子の濃縮が起こるが、50%以上であることによって、この濃縮が効率よく起こるようになる。さらに好ましくは、60%以上である。
【0062】
[インクジェット記録装置]
本発明では、以上記述したインク組成物を、インクジェット記録方式により、被記録媒体へ記録するのが好ましい。本発明においては、静電界を利用したインクジェット記録方式を用いることがさらに好ましい。静電界を利用するインクジェット記録方式は、制御電極と被記録媒体背面の背面電極間に電圧を印加することにより、インク組成物の荷電粒子(色材粒子)を静電力によって吐出位置に濃縮し、吐出位置から記録媒体へ飛翔させる方式である。制御電極と背面電極間に印加する電圧は、例えば荷電粒子が正の場合、制御電極が正極であり背面電極が負極となる。背面電極へ電圧を印加する代わりに被記録媒体に帯電を行っても同様の効果が得られる。
【0063】
インクを飛翔させる方式として、例えば、注射針のようなニードル状の先端からインクを飛翔させる方式があり、本発明のインク組成物を用いて記録することができる。ただし、荷電粒子を濃縮・吐出した後の荷電粒子の補給が難しく安定に長期間の記録を行うことが難しい。荷電粒子を強制的に供給するため、インクを循環させる場合には、注射針先端からインクを溢れさせる方法になるため、吐出位置である注射針先端のメニスカス形状が安定せず、安定な記録を行うことが困難であり、短期間の記録に適している。
【0064】
一方、吐出開口部からインク組成物を溢れさせることなく、インク組成物を循環させる方法が好ましく用いられる。例えば、吐出開口を有するインク室内にインクが循環されており、吐出開口周縁に形成された制御電極に電圧を印加することによって、吐出開口中に存在しており先端が被記録媒体側に向いたインクガイドの先端から、濃縮されたインク滴が飛翔する方法では、インクの循環による荷電粒子の補給と、吐出位置のメニスカス安定性を両立することができるため、長期間安定に記録を行うことができる。さらに本方式ではインクが外気と接する部分が吐出開口部だけと非常に少ないため、溶媒の蒸発を抑え、インク物性が安定化するため、本発明において好適に使用することができる。
【0065】
本発明のインク組成物を適用するに適したインクジェット記録装置の構成例を以下に示す。図1は、本発明に用いるインクジェット印刷装置の一例を模式的に示す全体構成図であり、被記録媒体Pに片面4色印刷を行う装置の概要について説明する。
【0066】
図1に示されるインクジェット記録装置1は、フルカラー画像形成を行うための4色分の吐出ヘッド2C、2M、2Yおよび2Kから構成される吐出ヘッド2にインクを供給し、さらに吐出ヘッド2からインクを回収するインク循環系3、図示されないコンピュータ、RIP等の外部機器からの出力により吐出ヘッド2を駆動させるヘッドドライバ4、位置制御手段5を備える。またインクジェット記録装置1は、3つのローラ6A、6B、6Cに張架された搬送ベルト7、搬送ベルト7の幅方向の位置を検知可能な光学センサなどで構成された搬送ベルト位置検知手段8、被記録媒体Pを搬送ベルト上に保持するための静電吸着手段9、画像形成終了後に被記録媒体Pを搬送ベルト7から剥離するための除電手段10および力学的手段11を備える。搬送ベルト7の上流、下流には、被記録媒体Pを図示されないストッカーから搬送ベルト7に供給するフィードローラ12およびガイド13、剥離後の被記録媒体Pへインクを定着させると共に図示されない排紙ストッカーに搬送する画像定着手段14およびガイド15が配置されている。またインクジェット印刷装置1の内部には、搬送ベルト7を挟んで吐出ヘッド2に対向する位置には、被記録媒体P位置検出手段16を有し、さらにインク組成物から発生する溶媒蒸気を回収するための排出ファン17および溶媒蒸気吸着材18からなる溶媒回収部が配置され、装置内部の蒸気は前記回収部を通って装置外部に排出される。
【0067】
フィードローラ12は公知のローラが使用でき、被記録媒体Pに対するフィード能力が高まるように配置される。また被記録媒体P上には垢・紙粉等が付着していることがある
ため、それらの除去を行うことが望ましい。フィードローラによって供給された被記録媒体Pは、ガイド13を経て、搬送ベルト7に搬送される。搬送ベルト7の裏面(好ましくは金属裏面)はローラ6Aを介して設置されている。搬送された被記録媒体Pは、静電吸着手段9により搬送ベルト上に静電吸着される。
【0068】
図1では、負の高圧電源に接続されたスコロトロン帯電器により静電吸着がなされる。静電吸着手段9により、被記録媒体Pが搬送ベルト7上に浮き無く静電吸着されると共に、記録媒体表面を均一帯電する。ここでは静電吸着手段を被記録媒体Pの帯電手段としても利用しているが、別途設けてもよい。帯電された被記録媒体Pは、搬送ベルト7によって吐出ヘッド部まで搬送され、帯電電位をバイアスとして記録信号電圧を重畳することにより静電インクジェット画像形成がなされる。
【0069】
画像形成された被記録媒体Pは、除電手段10により除電され、力学的手段11により搬送ベルト7により剥離されて定着部へ搬送される。剥離された被記録媒体Pは、画像定着手段14に送られ、定着がなされる。定着された被記録媒体Pは、ガイド15を通って図示されない排紙ストッカーに排紙される。また、前記装置は、インク組成物から発生する溶媒蒸気の回収手段を有する。回収手段は溶媒蒸気吸収材18からなり、排気ファン17により機内の溶媒蒸気を含む気体が吸着材に導入され、蒸気が吸着回収された後、機外に排気される。前記装置は、上記例に限定されず、ローラ、帯電器等の構成デバイスの数、形状、相対配置、帯電極性等は任意に選べる。また上記システムでは4色描画について記述しているが、淡色インクや特色インクと組み合わせて、より多色のシステムとしてもよい。
【0070】
上記インクジェット印刷方法に使用されるインクジェット記録装置は、吐出ヘッド2、インク循環系3からなり、インク循環系3は、さらにインクタンク、インク循環装置、インク濃度制御装置、インク温度管理装置等を有し、インクタンク内には撹拌装置を含んでいてもよい。
吐出ヘッド2としては、シングルチャンネルヘッド、マルチチャンネルヘッド、またはフルラインヘッドを使うことができ、搬送ベルト7の回転により主走査を行う。
【0071】
本発明で好適に使用されるインクジェットヘッドは、インク流路内での荷電粒子を電気泳動させて開口付近のインク濃度を増加させ、吐出を行うインクジェット方法であり、主に被記録媒体または被記録媒体背面に配置された対向電極に起因する静電吸引力によりインク滴の吐出を行うものである。従って、被記録媒体または対向電極がヘッドに対向していない場合や、ヘッドと対向する位置にあっても記録媒体または対向電極に電圧が印加されていない場合には、誤って吐出電極に電圧が印加された場合や振動が与えられた場合でもインク滴の吐出は起こらず、装置内を汚すことはない。
【0072】
上記インクジェット装置に好適に使用される吐出ヘッドを図2および図3に示す。図2は、本発明のインクジェット記録装置のインクジェットヘッドの構成を示す斜視図である(判りやすくするために、各吐出部でのガード電極のエッジは描いていない)。また図3は、図2に示す、インクジェットヘッドの吐出部の使用数が多いときの荷電粒子の分布状態を示す側面断面図である(図2の矢視X−Xに相当)。
【0073】
図2および図3に示すように、インクジェットヘッド70は、一方向のインク流Qが形成されるインク流路72の上壁を構成する電気絶縁性の基板74と、インクを被記録媒体Pへ向けて吐出する複数の吐出部76とを有する。吐出部76には、いずれもインク流路72から飛翔するインク滴Gを被記録媒体Pへ向けて案内するインクガイド部78が設けられ、基板74には、インクガイド部78がそれぞれ挿通する開口75が形成されており、インクガイド部78と開口75の内壁面との間にはインクメニスカス42が形成されて
いる。インクガイド部78と記録媒体Pとのギャップdは200μm〜1000μm程度であることが好ましい。また、インクガイド部78は、下端側で支持棒部40に固定されている。
【0074】
基板74は、2つの吐出電極を所定間隔で離して電気的に絶縁している絶縁層44と、絶縁層44の上側に形成された第1吐出電極46と、第1吐出電極46を覆う絶縁層48と、絶縁層48の上側に形成されたガード電極50と、ガード電極50を覆う絶縁層52とを有する。また、基板74は、絶縁層44の下側に形成された第2吐出電極56と、第2吐出電極56を覆う絶縁層58とを有する。ガード電極50は、第1吐出電極46や第2吐出電極56に印加された電圧によって隣接する吐出部に電界上の影響が生じることを防止するために設けられる。
【0075】
更に、インクジェットヘッド70には、インク流路72の底面を構成すると共に、第1吐出電極46および第2吐出電極56に印加されたパルス状の吐出電圧によって定常的に生じる誘導電圧により、インク流路72内の正に帯電したインク粒子(荷電粒子)Rを上方へ向けて(すなわち被記録媒体側に向けて)泳動させる浮遊導電板62が電気的浮遊状態で設けられている。また、浮遊導電板62の表面には、電気絶縁性である被覆膜64が形成されており、インクへの電荷注入等によりインクの物性や成分が不安定化することを防止する。絶縁性被覆膜の電気抵抗は、1012Ω・cm以上が好ましく、より望ましくは1013Ω・cm以上である。また、絶縁性被覆膜はインクに対して耐腐食性であることが望ましく、これにより、浮遊導電板62がインクに腐食されることが防止される。また、浮遊導電板62は下方から絶縁部材66で覆われており、このような構成により、浮遊導電板62は完全に電気的絶縁状態にされている。
浮遊導電板62は、ヘッド1ユニットにつき1個以上である(例えば、C、M、Y、Kの4つのヘッドがあった場合、浮遊導電板数は最低各1個ずつ有し、CとMのヘッドユニット間で共通の浮遊導電板とすることはない)。
【0076】
図3に示すように、インクジェットヘッド70からインクを飛翔させて記録媒体Pに記録するには、インク流路72内のインクを循環させることによりインク流Qを発生させた状態にし、ガード電極50に所定の電圧(例えば+100V)を印加する。更に、インクガイド部78に案内されて開口75から飛翔したインク滴G中の正の荷電粒子Rが被記録媒体Pにまで引きつけられるような飛翔電界が、第1吐出電極46および第2吐出電極56と、被記録媒体Pとの間に形成されるように、第1吐出電極46、第2吐出電極56および被記録媒体Pに正電圧を印加する(ギャップdが500μmである場合に、1kV〜3.0kV程度の電位差を形成することを目安とする)。
【0077】
この状態で、画像信号に応じて第1吐出電極46および第2吐出電極56にパルス電圧を印加すると、荷電粒子濃度が高められたインク滴Gが開口75から吐出する(例えば、初期の荷電粒子濃度が3〜15%である場合、インク滴Gの荷電粒子濃度が30%以上になる)。
その際、第1吐出電極46と第2吐出電極56の両者にパルス電圧が印加された場合にのみインク滴Gが吐出するように、第1吐出電極46と第2吐出電極56とに印加する電圧値を調整しておく。
【0078】
このように、パルス状の正電圧を印加すると、開口75からインク滴Gがインクガイド部78に案内されて飛翔し、被記録媒体Pに付着すると共に、浮遊導電板62には、第1吐出電極46および第2吐出電極56に印加された正電圧により正の誘導電圧が発生する。第1吐出電極46および第2吐出電極56に印加される電圧がパルス状であっても、この誘導電圧はほぼ定常的な電圧である。従って、浮遊導電板62およびガード電極50と、被記録媒体Pとの間に形成される電界によって、インク流路72内で正に帯電している
荷電粒子Rは上方へ移動する力を受け、基板74の近傍で荷電粒子Rの濃度が高くなる。図3に示すように、使用する吐出部(すなわちインク滴を吐出させるチャンネル)の個数が多い場合、吐出に必要な荷電粒子数が多くなるが、使用する第1吐出電極46および第2吐出電極56の枚数が多くなるため、浮遊導電板62に誘起される誘導電圧は高くなり、被記録媒体側へ移動する荷電粒子Rの個数も増大する。
上記では、着色粒子が正荷電に帯電している例について説明したが、着色粒子は負荷電に帯電されていてもよい。その場合には、上記の帯電極性は、すべて逆極性となる。
【0079】
なお、本発明においては、被記録媒体へのインク吐出後、適切な加熱手段によりインクを定着することが好ましい。用いられる加熱手段としては、ヒートローラー、ヒートブロック、ベルト加熱等の接触式加熱装置、およびドライヤー、赤外線ランプ、可視光線ランプ、紫外線ランプ、温風式オーブン等の非接触式加熱装置を用いることができる。これらの加熱装置は、インクジェット記録装置と連続し、一体となっていることが好ましい。定着時の被記録媒体の温度は、定着の容易さから、40℃〜200℃の範囲内であることが好ましい。また、定着の時間は、1マイクロ秒〜20秒の範囲内であることが好ましい。
【0080】
[インク組成物の補充]
静電界を利用したインクジェット記録方式では、インク組成物中の荷電粒子が濃縮されて吐出する。従って、長時間インク組成物の吐出を行うと、インク組成物中の荷電粒子が減量し、インク組成物の電気伝導度が低下する。また、荷電粒子の電気伝導度とインク組成物の電気伝導度との割合が変化する。さらに、吐出の際、直径の小さな荷電粒子よりも大きな荷電粒子が優先して吐出する傾向にあるため、荷電粒子の平均直径が小さくなる。また、インク組成物中の固形物の含有量が変化するため、粘度も変化する。
【0081】
これらの物性値の変化により、結果として、吐出不良を起こしたり、記録された画像の光学濃度の低下やインクのにじみが発生する。このため、当初インクタンクへ仕込んだインク組成物よりも、高濃度(固形分濃度の高い)のインク組成物を補充することにより、荷電粒子の減量を防止し、インク組成物の電気伝導度や、荷電粒子の電気伝導度とインク組成物の電気伝導度の割合を一定の範囲に留めることができる。また、平均粒子直径や粘度を維持することができる。さらに、インク組成物の物性値を一定の範囲内に保つことにより、インク吐出が長時間安定して均一に行われる。この際の補充は、例えば、使用しているインク液の電気伝導度や光学濃度等の物性値を検出し、不足量を算出して、機械的または人力で成されることが好ましい。また、画像データを基に使用するインク組成物の量を算出し、機械的または人力で成されてもよい。
【0082】
[被記録媒体]
本発明においては、用途に応じて様々な被記録媒体を用いることができ、例えば、紙、プラスチックフィルム、金属、および、プラスチックまたは金属がラミネートまたは蒸着された紙、金属がラミネートまたは蒸着されたプラスチックフィルム等を用いることができる。
【実施例】
【0083】
以下、実施例および比較例により、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0084】
[実施例1]
青色顔料としてリノールブルーFG−7350(Pigment blue15:3、東洋インク社製)20質量部、被覆剤樹脂としてブチルメタクリレ−ト/メチルメタクリレ−ト/ステアリルメタクリレ−ト/トリメチルアンモニウムエチルメタクリレート(陰イオン、p−トルエンスルホン酸)共重合体(質量比=47/38/10/5、質量平均
分子量0.89万)40質量部をトリオサイエンス(株)製トリオブレンダーで粉砕しよく混合した後に、入江商会(株)製卓上型ニーダーPBV−0.1に入れ85℃で120分間、加熱溶融混練した。上記の顔料樹脂混練物をトリオブレンダ−にて粗粉砕し、更に協立理工(株)製SK−M10型サンプルミルで微粉砕した。次に粉砕した顔料樹脂混練物22.5質量部、アイソパーG112.5質量部、下記顔料分散剤(D−1)をアイソパーGに加熱溶解して調液した20質量%溶液を15質量部、直径約3mmのガラスビ−ズ400質量部を500mlマヨネ−ズ瓶に入れて、東洋精機KK(株)製ペイントシェイカーで30分間予備分散した。次にガラスビ−ズを除去した後、直径0.5〜0.71mmのガラスビ−ズと共に、シンマルエンタープライズ社(株)製のダイノミルKDL型で湿式分散処理を行った。KDL型における回転部材としては、直径64mmのディスクを用いた(アジテーターシャフトを含む直径)。回転部材の周速度は、0.5m/秒であり、この周速度は、KDL型の回転数の150rpmに相当する。なお、標準仕様のKDL型は最低回転数が2000rpmなので、本実施例では更に低速回転数も出来るようにインバ−タ−方式に仕様変更した分散機を用いた。分散中はエムエス機器(株)製恒温槽NESLABRTE7を用いて分散液の液温度を28℃に制御しながら2時間分散し、更に40℃で1時間、更に45℃で1時間、更に50℃で1時間分散した。得られた分散液からガラスビ−ズを除去し、色材粒子濃度15質量%の分散原液を得た。
【0085】
この分散原液中の色材粒子の体積平均直径を堀場製作所(株)製の超遠心式自動粒度分布測定装置CAPA700で測定した所、1.0μmであった。この分散原液にホ−プ製薬(株)製の8%オクト−プインジウム(2−エチルヘキサン酸インジウム)、及びアイソパ−Gを添加して、色材粒子濃度を7質量%、2−エチルヘキサン酸インジウムを0.005質量%に調整して吐出用のインク液を作成した。表面張力は23mN/m(協和界面科学社製の自動表面張力計、温度20℃で測定)、インク粘度は1.5mPa・s(東京計器(株)製E型粘度計)、インク全体の比伝導度は120nS/m(LCRメーター、安藤電気(株)製AG−4311で測定)であり、粒子の荷電は正であった。
【0086】
図1〜3に示すインクジェット記録装置に本実施例のインク組成物を1つのヘッドにつながるインクタンクに充填した。ここでは吐出ヘッドとして図2に示すタイプの150dpi(チャンネル密度50dpiの3列千鳥配置)、833チャンネルヘッドを使用した。被記録媒体としてオフセット印刷用微コート紙を使用した。エアーポンプ吸引により被記録媒体表面の埃除去を行った後、吐出ヘッドを画像形成位置まで被記録媒体に近づけ、記録すべき画像データを画像データ演算制御部に伝送し、搬送ベルトの回転により被記録媒体を搬送させながら吐出ヘッドを逐次移動しながらインク組成物を吐出して2400dpiの描画解像力で画像を形成した。搬送ベルトとして、金属ベルトとポリイミドフィルムを張り合わせたものを使用し、このベルトの片端付近に搬送方向に沿ってライン状のマーカーを配置し、これを搬送ベルト位置検知手段で光学的に読みとり、位置制御手段を駆動して画像形成を行った。この際、光学的ギャップ検出装置による出力により吐出ヘッドと記録媒体の距離は0.5mmに保った。また吐出の際には被記録媒体の表面電位を−1.5kVとしておき、吐出をおこなう際には+500Vのパルス電圧を印加し(パルス巾50μsec)、15kHzの駆動周波数で画像形成を行った。1時間の連続吐出を行った結果、インクの目詰まりはなく吐出先端へのインク付着は観測されなかった。吐出画像は鮮明で1時間の間、変化はなかった。また、インク中で沈降した粒子の再分散性は良好であった。詳細な結果を表1に示す。
【0087】
【化5】

【0088】
[実施例2〜7]
実施例1と同様にして、顔料樹脂混練物を作製し、粉砕、予備分散を行い、実施例1のインバ−タ−方式に仕様変更した分散機を用いて、回転部材の周速度が0.8〜10m/秒になる条件で分散した。具体的には、表1に示すようにディスク直径、及び回転数を変えて調整した。湿式分散工程時、最初の2時間は28℃で行い、それ以降は40℃〜50℃まで昇温させたが、分散時間を適宜微調整して実施例1と同じ平均体積直径1.0μmの色材粒子を含む分散原液を得た。この分散原液にホ−プ製薬(株)製の8%オクト−プインジウム(2−エチルヘキサン酸インジウム)、及びアイソパ−Gを添加して、色材粒子濃度を7質量%に調整した。この時、2−エチルヘキサン酸インジウムの添加濃度を適宜調整して、インク全体の比伝導度が実施例1と同じ120nS/mになるように合わせこんで、吐出用のインク液を作成した。何れのインクも実施例1と同様に、表面張力は23mN/m(協和界面科学社製の自動表面張力計、温度20℃で測定)、インク粘度は1.5mPa・s(東京計器(株)製E型粘度計)であり、粒子の荷電は正であった。実施例1で使用したインクジェット記録装置を用いて、実施例1と同条件で1時間の連続吐出を行った結果、インクの目詰まりはなく吐出先端へのインク付着は観測されなかった。吐出画像は鮮明で1時間の間、変化はなかった。また、インク中で沈降した粒子の再分散性は良好であった。詳細な結果を表1に示す。
【0089】
[比較例1〜2]
実施例1と同様にして、顔料樹脂混練物を作製し、粉砕、予備分散を行い、実施例1のインバ−タ−方式に仕様変更した分散機を用いて、表1に示すように、周速度が0.33m/sec(比較例1)、周速度が15m/sec(比較例2)になる条件で分散した。この時、最初の2時間は28℃で行い、それ以降は40℃〜50℃まで昇温させたが、分散時間を適宜微調整して実施例1と同じ平均体積直径1.0μmの色材粒子を含む分散原液を得た。引き続き、2−エチルヘキサン酸インジウムの添加濃度を適宜調整して、インク全体の比伝導度が実施例1と同じ120nS/mになるように合わせこんで、吐出用のインク液を作成した。何れのインクも実施例1と同様に、表面張力は23mN/m(協和界面科学社製の自動表面張力計、温度20℃で測定)、インク粘度は1.5mPa・s(東京計器(株)製E型粘度計)であり、粒子の荷電は正であった。実施例1で使用したインクジェット記録装置を用いて、実施例1と同条件で1時間の連続吐出を行った結果、比較例1及び比較例2の何れのインクも、1時間の連続吐出の間にインク目詰まりを発生し、全く吐出する事が出来なくなった。ヘッドを先端からインク液を除き、マイクロスコ−プで拡大観察したところ、吐出先端へのインク付着が激しい事が判明した。このために、インク目詰まりが生じたと思われる。また、これらのインクは沈降した粒子の再分散性も
悪い事が判明した。詳細な結果を表1に示す。
【0090】
[耐ヘッド付着性の評価方法]
実施例1に示すインクジェット記録装置と吐出条件で1時間の連続吐出を行った後、ヘッド先端からインク液を除き、アイソパ−Gで循環洗浄した後乾燥し、先端部に付着したインクをマイクロスコ−プで拡大観察する。
◎:ほとんど付着なし
○:少し付着しているが目詰まりはしない
×:付着が多く目詰まりを発生
【0091】
[再分散性の評価方法]
インク組成物1.0gを遠心沈降管に入れ、小型高速冷却遠心機(トミー精工(株)社製SRX−201)を使用し、回転速度500rpm、温度20℃の条件で2時間かけて粒子を沈降させた。粒子を沈降させた遠心沈降管にアイソパーGを5g加え、しっかりと蓋をし、ミックスローター(アズワン(株)社製VMR-5)上で室温下、80rpmの条件で振盪させ、沈降物が完全に再分散する時間を目視で観察。
◎:10分以内
○:20分以内
×:30分以上
【0092】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】本発明に用いるインクジェット印刷装置の一例を模式的に示す全体構成図である。
【図2】本発明のインクジェット記録装置のインクジェットヘッドの構成を示す斜視図である(判りやすくするために、各吐出部でのガード電極のエッジは描いていない)。
【図3】図2に示す、インクジェットヘッドの吐出部の使用数が多いときの荷電粒子の分布状態を示す側面断面図である(図2の矢視X−Xに相当)。
【符号の説明】
【0094】
G 飛翔したインク滴
P 被記録媒体
Q インク流
R 荷電粒子
1 インクジェット記録装置
2 吐出ヘッド
3 インク循環系
4 ヘッドドライバ
5 位置制御手段
6A〜6C 搬送ベルト張架ローラ
7 搬送ベルト
8 搬送ベルト位置検知手段
9 静電吸着手段
10 除電手段
11 力学的手段
12 フィードローラ
13 ガイド
14 画像定着手段
15 ガイド
16 記録媒体位置検知手段
17 排出ファン
18 溶媒蒸気吸着材
38 インクガイド
40 支持棒部
42 インクメニスカス
44 絶縁層
46 第1吐出電極
48 絶縁層
50 ガード電極
52 絶縁層
56 第2吐出電極
62 浮遊導電板
64 被覆膜
66 絶縁部材
70 インクジェットヘッド
72 インク流路
74 基板
75、75A、75B 開口
76、76A、76B 吐出部
78 インクガイド部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分散媒中に色材粒子を含有するインク組成物の製造方法において、回転部材を備えた分散機中で、回転部材の周速度を0.5〜10m/秒の範囲内として、分散媒中に、色材および被覆剤を含む粒子を分散する湿式分散工程を有することを特徴とするインク組成物の製造方法。
【請求項2】
当該湿式分散工程が、色材および被覆剤を含む粒子を分散媒中に含有する分散液を30℃未満の温度で湿式分散する第一分散工程と、前記第一分散工程で処理した分散液を30℃以上の温度で湿式分散する第二分散工程とを有することを特徴とする請求項1に記載のインク組成物の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2の製造方法によって製造されたインク組成物からなる静電濃縮型インクジェット記録用インク組成物であって、下記条件(A)〜(D)の全てを満足することを特徴とする静電濃縮型インクジェット記録用インク組成物。
(A)色材粒子の体積平均直径が0.3〜5.0μmの範囲内である。
(B)色材粒子の体積平均直径の1/5以下の粒子の含有率が体積基準で5%以下の範囲内である。
(C)インク組成物の20℃での粘度が、0.5〜5mPa・sの範囲内である。
(D)インク組成物の20℃での電気伝導度が、10nS/m〜300nS/mの範囲内である。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−176722(P2006−176722A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−373664(P2004−373664)
【出願日】平成16年12月24日(2004.12.24)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】