説明

インゴット処理装置

【課題】商業的に利用可能な、インゴット部材を切断して複数のスライス部材を生成するためのインゴット処理装置を提供すること。
【解決手段】インゴット処理装置は、処理されるインゴット部材Iを載置するインゴット載置部5と、インゴット載置部5からインゴット部材を受け取って搬送する搬送部6と、電解液Eが貯留された処理槽20と、処理槽20上で搬送部6からインゴット部材Iを受け取るインゴット受け部21と、インゴット受け部21を下方へ移動することによって、インゴット部材Iを処理槽20内の電解液Eに浸漬させるインゴット移動部24と、を備えている。インゴット処理装置は、電流が流されることによってインゴット部材Iを電解液E内で溶解して切断し、複数のスライス部材Sを生成する加工用電極10も備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工用電極に電流を流すことで、インゴット部材を電解液内で溶解して切断するインゴット処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、シリコン基材と、シリコン基材に対向し近接して設けられた白金からなるワイヤと、シリコン基材とワイヤの間に介在する電解液とを備え、シリコン基材を陽極とするとともに、ワイヤを陰極とし、シリコン基材とワイヤとの間に電流を流すことによってシリコン基材を陽極酸化し、かつ、シリコン基材とワイヤの相対位置を時間とともに変化させ、シリコン基材を局所的に溶解しながらワイヤをシリコン基材の内部に嵌入させることで、シリコン基材を選択的に除去するシリコン基材の加工方法が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際特許公開公報WO2008/140058
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した従来技術には、シリコン基材を加工する方法が開示されているだけであり、商業的に利用可能な、インゴット部材を切断するための具体的な装置の構成は全く開示されていない。
【0005】
本発明は、このような点を考慮してなされたものであり、商業的に利用可能な、インゴット部材を切断して複数のスライス部材を生成するためのインゴット処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によるインゴット処理装置は、
処理されるインゴット部材を載置するインゴット載置部と、
前記インゴット載置部からインゴット部材を受け取って搬送する搬送部と、
電解液が貯留された処理槽と、
前記処理槽上で前記搬送部から前記インゴット部材を受け取るインゴット受け部と、
前記インゴット受け部を下方へ移動することによって、前記インゴット部材を前記処理槽内の電解液に浸漬させるインゴット移動部と、
電流が流されることによって前記インゴット部材を電解液内で溶解して切断し、複数のスライス部材を生成する加工用電極と、
を備えている。
【0007】
本発明によるインゴット処理装置において、
前記加工用電極を上下方向に移動させる電極移動部をさらに備え、
前記電極移動部が前記加工用電極を上下方向に移動させることによって、前記インゴット部材を電解液内で溶解して切断してもよい。
【0008】
本発明によるインゴット処理装置において、
前記電極移動部は、前記加工用電極を前記インゴット部材の上方から接近させて、該インゴット部材を電解液内で溶解して切断してもよい。
【0009】
本発明によるインゴット処理装置において、
前記搬送部は、前記スライス部材の法線方向に直交する方向で該スライス部材を支持してもよい。
【0010】
本発明によるインゴット処理装置において、
前記搬送部は、前記インゴット材が完全に切断されてスライス部材が生成される前に該スライス部材を支持してもよい。
【0011】
本発明によるインゴット処理装置において、
前記スライス部材を洗浄液で洗浄する洗浄部をさらに備え、
前記搬送部は、前記スライス部材を前記インゴット受け部から前記洗浄部へ搬送してもよい。
【0012】
本発明によるインゴット処理装置において、
前記洗浄部で洗浄されたスライス部材を乾燥させる乾燥部をさらに備えてもよい。
【0013】
本発明によるインゴット処理装置において、
前記洗浄部は洗浄液が貯留された洗浄槽からなり、
前記乾燥部は、前記洗浄槽の上方に配置され、前記洗浄槽から引き上げられたスライス部材を乾燥させてもよい。
【0014】
本発明によるインゴット処理装置において、
前記処理槽の上方に配置され、該処理槽の上方領域を開状態にしたり閉状態にしたりする開閉部材をさらに備えてもよい。
【0015】
本発明によるインゴット処理装置において、
前記処理槽に連結され、該処理槽内に電解液を供給する電解液供給部をさらに備えてもよい。
【0016】
本発明によるインゴット処理装置において、
前記処理槽に連結され、該処理槽内に貯留されている、または、該処理槽内に貯留されていた電解液を回収する電解液回収部をさらに備えてもよい。
【0017】
本発明によるインゴット処理装置において、
前記処理槽の周辺の雰囲気を吸引して排出する吸引排出部をさらに備えてもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、商業的に利用可能な、インゴット部材を切断して複数のスライス部材を生成するためのインゴット処理装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施の形態によるインゴット処理装置の構成を示す上方平面図。
【図2】本発明の実施の形態によるインゴット処理装置の処理槽近辺を示す側方断面図。
【図3】本発明の実施の形態による加工用電極を示す上方平面図、斜視図および側方断面図。
【図4】本発明の実施の形態による加工用電極の変形例を示す上方平面図。
【図5】本発明の実施の形態による加工用電極によって、シリコンインゴットを切断する様子を示す側方図。
【図6】本発明の実施の形態による循環回収ユニットの構成を示す上方平面図。
【図7】本発明の実施の形態による洗浄部および乾燥部の構成を示す正面断面図。
【図8】ワイヤからなる加工用電極によってシリコンインゴットを切断する態様と、本実施の形態による加工用電極によってシリコンインゴットを切断する態様を示す側方断面図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
実施の形態
以下、本発明に係るインゴット処理装置の実施の形態について、図面を参照して説明する。ここで、図1乃至図8は本発明の実施の形態を示す図である。
【0021】
図1に示すように、インゴット処理装置は、処理されるシリコンインゴット(インゴット部材)Iを載置するインゴット載置部5と、インゴット載置部5からシリコンインゴットIを受け取る搬送する搬送ロボット(搬送部)6と、電解液Eが貯留された処理槽20と、を備えている。なお、電解液Eとしては、例えばフッ酸(HF)をIPAなどのアルコール溶媒で希釈したものを用いることができる。
【0022】
ところで、図1に示した処理槽20のうち、左側から1つ目と2つ目によってシリコンインゴットIが後述する加工用電極10によって切断されている状態を図示し、左側から3つめによってシリコンインゴットIが搬送ロボット6によって搬送されている状態を図示している。なお、左側から3つ目から6つ目まででは、電解液Eが処理槽20内に貯留されていることを示すために、後述するインゴット受け部21および電極保持部26を図示していない。
【0023】
また、図1に示すように、インゴット処理装置は、電流が流されることによってシリコンインゴットIを電解液E内で溶解して切断し、複数のシリコンスライス(スライス部材)Sを生成する加工用電極10を有している(図3(a)参照)。なお、シリコンインゴットIを切断することによって生成されるシリコンスライスSは、例えば太陽電池の基板として用いることができる。
【0024】
図2(a)(b)に示すように、インゴット処理装置は、処理槽20上で搬送ロボット6からシリコンインゴットIを受け取るインゴット受け部21と、インゴット受け部21を下方へ移動することによって、当該シリコンインゴットIを処理槽20内の電解液Eに浸漬させるインゴット移動部24と、を備えている。
【0025】
このうち、インゴット受け部21は、シリコンインゴットIの底面を支持するインゴット支持部22と、当該インゴット支持部22から上方に向かって延びた上方延在部23aと、当該上方延在部23aからガイド部材36に向かって延び、当該ガイド部材36に設けられたガイド溝(図示せず)を通過する水平延在部23bとを有している。
【0026】
また、図2(a)(b)に示すように、インゴット処理装置は、加工用電極10を保持する電極保持部26と、電極保持部26で保持された加工用電極10を上下方向に移動する電極移動部29と、を備えている。
【0027】
このうち、電極保持部26は、加工用電極10が取り付けられる電極装着部27と、当該電極装着部27から上方に向かって延びた上方延在部28aと、当該上方延在部28aからガイド部材36に向かって延び、当該ガイド部材36に設けられたガイド溝(図示せず)を通過する水平延在部28bとを有している。
【0028】
なお、電極移動部29が、加工用電極10を上下方向に移動させることによって、シリコンインゴットIを電解液E内で溶解して切断することとなる。より具体的には、電極移動部29が、電極保持部26を下方に移動させることによって、加工用電極10をシリコンインゴットIの上方から接近させて、当該シリコンインゴットIを電解液E内で溶解して切断することとなる(図2(a)(b)および図5(a)−(c)参照)。
【0029】
ところで、図5(a)−(c)では、加工用電極10が下方へ移動する態様を用いて説明するが、シリコンインゴットIと加工用電極10の位置が相対的に移動すればよく、例えばシリコンインゴットIを静止した加工用電極10に対して上昇させてもよい。
【0030】
また、図2(a)(b)に示すように、インゴット移動部24は、ガイド部材36に沿ってインゴット受け部21を移動させる駆動モータ24aと、当該駆動モータ24aによって駆動される駆動シャフト24bとを有している。また、電極移動部29は、ガイド部材36に沿って電極保持部26を移動させる駆動モータ29aと、当該駆動モータ29aによって駆動される駆動シャフト29bとを有している。また、図1に示すように、インゴット処理装置は、駆動モータ24a、駆動モータ29aなどの駆動系や加工用電極10に電力を供給する電力供給部70も備えている。
【0031】
ここで、加工用電極10は、図3(a)に示すように、スライス電極支持部11と、スライス電極支持部11によって支持されるとともに、互いに平行に直線状で延在する棒状の複数のスライス電極部15と、を有している。そして、スライス電極部15は、図3(b)(c)に示すように、横断面が矩形形状からなる電極本体部16と、当該電極本体部16の両側面と頂面を覆う絶縁性の被覆部17とを有している。また、スライス電極支持部11には、当該スライス電極支持部11を電極装着部27に取り付けるための取付穴13が設けられている。なお、被覆部17の材料としては、電極本体部16に用いられる材料の熱膨張係数と近い熱膨張係数を有する材料を用いることが好ましく、例えば、ポリイミドなどの樹脂材料、窒化物などを用いることができる。ところで、ポリイミドからなる被覆部17を用いる場合には、蒸着重合法を用いて電極本体部16の両側面と頂面にポリイミドからなる被覆部17を形成すればよく、窒化物からなる被覆部17を用いる場合には、プラズマCVD法を用いて電極本体部16の両側面と頂面に窒化物からなる被覆部17を形成すればよい。
【0032】
また、電極本体部16は、金属もしくは半導体材料、または金属と半導体材料の複合材料からなってもよい。なお、低い電気抵抗率および耐薬品性(例えば、耐フッ酸性)の観点からすると、電極本体部16は、白金、タングステンまたはモリブデンを含む材料からなっていることが好ましい。しかしながら、加工用電極10の製造コストを下げられること、および、加工がしやすいことからすると、電極本体部16としては、タングステンまたはモリブデンを含む材料からなっていることがさらに好ましい。
【0033】
また、図3(b)(c)に示すように、電極本体部16は、横断面が長方形状からなり、長方形の長辺が電極本体部16の側面に対応し、長方形の短辺が該電極本体部16の頂面および底面に対応している。また、本実施の形態では、スライス電極支持部11とスライス電極部15とは一体に形成されている(図3(a)参照)。
【0034】
なお、以下、スライス電極支持部11とスライス電極部15が一体になった態様で説明するが、これに限られることはなく、スライス電極支持部11とスライス電極部15とが別体で構成されてもよい。例えば、スライス電極部15がスライス電極支持部11に差し込み自在となっていてもよく、より具体的には、図4(a)(b)に示すように、スライス電極部15の一端がスライス電極支持部11と一体に形成されるとともに、スライス電極部15の他端が差し込まれる差込溝11aがスライス電極支持部11に形成されていてもよい。
【0035】
ところで、本実施の形態では、加工用電極10は陰極となりシリコンインゴットIが陽極となることで、陽極酸化反応が起こる。より具体的には、
陰極となる加工用電極10で、
4e+4H→2H
陽極となるシリコンインゴットIで、
Si+2HO→SiO+4H+4e
という反応が起こる。この結果、シリコンインゴットIの一部がSiOとして電解液E内に溶解することとなり、複数のシリコンスライスSが生成されることとなる(図5(a)−(c)参照)。なお、インゴット支持部22には、シリコンインゴットIの底面に接触し、当該シリコンインゴットIから生じる電子(e)を流すための電極(図示せず)が設けられている。
【0036】
また、図2(a)(b)に示すように、処理槽20の上方には、当該処理槽20の上方領域を開状態にしたり閉状態にしたりする開閉カバー(開閉部材)35が設けられている。また、処理槽20の上方には、上方から処理槽20に清浄空気を供給するファン・フィルター・ユニット32が設けられている。さらに、処理槽20の側方には、当該処理槽20の周辺の雰囲気を吸引して排出する吸引排出部33が設けられている。
【0037】
また、図6に示すように、処理槽20には、処理槽20から溢れ出した電解液Eを回収管64aを介して回収する電解液回収ポンプ(電解液回収部)61が連結されている。なお、本実施の形態では、以下、電解液回収ポンプ61が処理槽20から溢れ出した電解液Eを回収する態様を用いて説明するが、これに限られることはなく、例えば、電解液回収ポンプ61が処理槽20内の電解液Eを単位時間当たりに決まった量で回収するように構成されていてもよい。
【0038】
また、図6に示すように、電解液回収ポンプ61の下流側には、当該電解液回収ポンプ61によって回収された電解液E内に含まれる不純物(特に電解液回収ポンプ61によって発生する不純物)を除去する除去フィルタ62が設けられている。
【0039】
また、図6に示すように、除去フィルタ62の下流側には、除去フィルタ62を経た電解液Eを貯留する第一貯留タンク65が設けられている。また、この第一貯留タンク65には、第一貯留タンク65内に貯留された電解液Eを加熱する加熱部65aが設けられている。なお、加熱部65aによって加熱された電解液Eを蒸留することによって、電解液Eと当該電解液E内に溶解していたSiOとが分離されることとなる。そして、蒸留された電解液Eは第二貯留タンク66に貯留され、第一貯留タンク65に残ったSiOはSiO回収部(図示せず)によって回収される。
【0040】
また、第二貯留タンク66には、第二貯留タンク66内の電解液Eを処理槽20に供給する電解液供給ポンプ(電解液供給部)67が設けられている。また、電解液供給ポンプ67の下流側には、電解液E内の不純物を除去する除去フィルタ68と、電解液Eの温度を調整する温度調整部69が設けられている。そして、温度調整部69には、処理槽20に連結された供給管64bが連結されている。ところで、上述した、電解液回収ポンプ61、除去フィルタ62、第一貯留タンク65、加熱部65a、第二貯留タンク66、電解液供給ポンプ67、除去フィルタ68および温度調整部69によって、循環回収ユニット60が構成されている。
【0041】
また、図1に示すように、搬送ロボット6は、シリコンインゴットIの側方を支持して挟持する一対の側方支持部7を有している。そして、搬送ロボット6は、この一対の側方支持部7によって、スライスされたシリコンスライスSの側方を支持(シリコンスライスSの法線方向に直交する方向で支持)して挟持するようになっている(図5(c)参照)。なお、本実施の形態の搬送ロボット6は、図5(c)に示すように、シリコンインゴットIが完全に切断されてシリコンスライスSが生成される前に、当該シリコンスライスSを挟持するように構成されている。また、搬送ロボット6の側方支持部7によって挟持されたシリコンスライスSは、当該搬送ロボット6によって、インゴット受け部21から後述する洗浄部40へと搬送される(図1参照)。
【0042】
ところで、本実施の形態では、搬送ロボット6の側方支持部7が、生成されたシリコンスライスSが倒れないようにシリコンスライスSを挟持する態様を用いて説明するが、これに限られることはなく、例えば、インゴット受け部21に、生成されたシリコンスライスSが倒れないように支持するスライス支持部が設けられていてもよい。
【0043】
また、図1に示すように、インゴット処理装置は、シリコンインゴットIを加工用電極10で切断することによって生成したシリコンスライスSを洗浄液Rで洗浄する洗浄部40と、洗浄部40で洗浄されたシリコンスライスSを乾燥させる乾燥部50も備えている(図7参照)。
【0044】
本実施の形態の洗浄部40は、図7に示すように、純水などの洗浄液Rが貯留された洗浄槽40からなっている。また、本実施の形態の乾燥部50は、洗浄槽40の上方に設けられた乾燥室51と、乾燥室51内に設けられてIPAなどの乾燥用液を供給する乾燥用液供給部52と、乾燥室51内に設けられてNやArなどの不活性ガスを供給する不活性ガス供給部53と、を有している。なお、本実施の形態では、洗浄槽40と乾燥室51の両方が洗浄乾燥筐体41内に配置されている。そして、当該洗浄乾燥筐体41内には、シリコンスライスSを支持するとともに、洗浄槽40と乾燥室51との間を上下方向に移動する洗浄乾燥昇降機構55が設けられている。また、洗浄槽40と乾燥室51との間には、開閉自在の開閉シャッタ45が設けられている。
【0045】
また、図1に示すように、インゴット載置部5と洗浄部40および乾燥部50との間には、乾燥部50によって乾燥された後のシリコンスライスSが収納されるカセットCが載置されるカセット載置部85が設けられている。
【0046】
また、図1に示すように、インゴット処理装置は、カセットCをストックするための空カセットストック部91と、シリコンスライスSが収納されたカセットC’をストックするための充填カセットストック部92とを備えている。また、空カセットストック部91と充填カセットストック部92との間には、インゴット載置部5に載置される前のシリコンインゴットIが載置されるインゴット搬入部1と、搬出されるシリコンスライスSが収納されたカセットC’が載置されるインゴット搬出部95が設けられている。
【0047】
次に、このような構成からなる本実施の形態の作用について述べる。
【0048】
まず、インゴット搬入部1に搬入されたシリコンインゴットIが、当該インゴット搬入部1からインゴット載置部5に移動される(図1参照)。
【0049】
次に、搬送ロボット6の一対の側方支持部7によって、シリコンインゴットIの対向する側面が挟持され、インゴット載置部5からシリコンインゴットIが受け取られる(図1参照)。その後、当該搬送ロボット6によってシリコンインゴットIが搬送され、インゴット受け部21によって、処理槽20上で搬送ロボット6からシリコンインゴットIが受け取られる(図2(a)参照)。
【0050】
次に、インゴット移動部24によって、インゴット受け部21が下方へ移動され、このことによって、インゴット受け部21上に載置されたシリコンインゴットI全体が処理槽20内の電解液Eに浸漬させることとなる(図2(a)の矢印(1)参照)。このとき、インゴット受け部21は、駆動モータ24aによってガイド部材36に沿って下方に移動されることとなる。
【0051】
次に、電極移動部29によって電極保持部26が下方へ移動され(駆動モータ29aによって電極保持部26がガイド部材36に沿って下方に移動され)、電流の流された加工用電極10が、電解液Eに浸漬されたシリコンインゴットIの上面に向かって移動される(電流が流された加工用電極10と電解液Eに浸漬されたシリコンインゴットIを接近させる)(図2(a)の矢印(2)参照)。そして、シリコンインゴットIに加工用電極10がある程度近づくと、シリコンインゴットIが酸化されてSiOとなって電解液E内に溶解され始める。このとき、加工用電極10のスライス電極部15からは水素(H)が発生することとなる。なお、加工用電極10が所定の位置より下方まで移動すると、開閉カバー35によって処理槽20の上方が覆われる(図2(a)の矢印(3)参照)。
【0052】
ところで、本実施の形態では、インゴット受け部21および電極保持部26が通過する時以外は、開閉カバー35によって処理槽20の上方が覆われている。このため、処理槽20内の電解液Eが揮発することで周辺の装置に悪影響が出ることを最小限に抑えることができる。
【0053】
上述のようにシリコンインゴットIを溶解させた状態で、徐々に加工用電極10を下降させることによって、シリコンインゴットIが徐々に切断される(図5(a)(b)参照)。
【0054】
ここで、本実施の形態による加工用電極10は、スライス電極支持部11によって支持されるとともに、互いに平行に直線状で延在する複数のスライス電極部15とを有している(図3(a)参照)。このため、シリコンインゴットIを加工する作業効率を低下させることなく、均一な電流で、シリコンインゴットIを短いピッチで切断して大量のシリコンスライスSを生成することができる。
【0055】
すなわち、特許文献1に記載された発明のようにワイヤでシリコンインゴットIを切断するには(加工用電極としてワイヤを用いる場合には)、ワイヤをワイヤ支持部などの部材に取り付けることが必要となる。そして、ワイヤの数が大量に及ぶ場合には(ワイヤの数が500本に及ぶような場合には)、均等な位置関係で取り付けることは非常に困難である。これに対して、本実施の形態の加工用電極10では、スライス電極支持部11とスライス電極部15とが一体となっており、一枚の板状部材にエッチングなどを施すことで、当該板状部材からスライス電極支持部11とスライス電極部15を形成することができる。このため、大量のスライス電極部15を均一な間隔で形成することができ、シリコンインゴットIを短いピッチで切断して大量の(例えば500枚の)シリコンスライスSを生成することができる。
【0056】
また、上述のようにワイヤをワイヤ支持部に取り付ける場合には、ワイヤ支持部とワイヤとの接触面積を均一に保つことは困難であり、ワイヤ内を流れる電流を均一に保つことができない。これに対して、本実施の形態によれば、スライス電極支持部11とスライス電極部15とが一体となっているので、スライス電極支持部11と各スライス電極部15との間の接触面積の差異は生じない。このため、スライス電極部15に流れる電流を均一に保つことができ、ひいては、シリコンインゴットIを均一に処理して、均一な厚みと形状からなるシリコンスライスSを生成することができる。なお、電極本体部16はその横断面が長方形状からなっているので(図3(b)(c)参照)、エッチングなどで容易に形成することができる。
【0057】
また、ワイヤ支持部に取り付けるワイヤとしてワイヤーソーを採用した場合には、当該ワイヤが一箇所でも切れると使用することができなくなり、作業効率が低下してしまう。これに対して、本実施の形態では、複数のスライス電極部15がスライス電極支持部11によって支持される態様をとっているため、例えスライス電極部15が一本切れた場合であっても、他のスライス電極部15による切断を継続して行うことができ、作業効率が低下してしまうことを防止することができる。
【0058】
また、図3(b)(c)に示すように、電極本体部16の両側面と頂面が絶縁性の被覆部17によって覆われている。このため、シリコンインゴットIを溶解する作用は、スライス電極部15の底面のみで生じる。この結果、シリコンインゴットIが過剰に溶解することを防止することができ(カーフロス(kerf loss)を抑えることができ)、ひいては、同量のシリコンインゴットIから大量のシリコンスライスSを生成することでシリコンスライスSの製造コストを下げることができる。
【0059】
より具体的には、従来のように被覆部17によって覆われていないワイヤ16’を用いた場合には、ワイヤ16’の上面以外の箇所(底面と両側面)でシリコンインゴットIが溶解してしまい、シリコンインゴットIが過剰に溶解してしまうこととなる(図8(a)参照)。これに対して、本実施の形態では、電極本体部16の両側面と頂面が絶縁性の被覆部17によって覆われているので、電極本体部16の底面のみでシリコンインゴットIを溶解することができ(図8(b)参照)、シリコンインゴットIが過剰に溶解することを防止することができる(図8(a)(b)においてW1>W2となっている)。なお、例えワイヤ16’の両側面および上面を被覆部で覆ったとしても、ワイヤ16’は横断面が円形状からなっており上下左右方向を確認することが非常に困難であるので、被覆部で覆われていない箇所でシリコンインゴットIを溶解させることは非常に困難である。ところで、(シリコンスライスSの利用用途の一つである)太陽電池の基板においては、その製造コストのうちの高い比率を(ときには50%近くを)シリコンの材料費が占めている。このため、カーフロスを低減することができる、ということは非常に有益な効果である。
【0060】
なお、本実施の形態によれば、幅が50μmからなるスライス電極部15を有する加工用電極10を約100μm/minで下降させると、溶解されるシリコンインゴットIの幅を100μm以下にすることができた。
【0061】
上述のように加工用電極10を徐々に下降させ続け、加工用電極10がシリコンインゴットIの下面に達してシリコンインゴットIが完全に切断される前に、搬送ロボット6の側方支持部7によってシリコンインゴットIが挟持される(図5(c)参照)。そして、シリコンインゴットIが完全に切断されてシリコンスライスSが生成されると、当該シリコンスライスSが搬送ロボット6によって洗浄乾燥昇降機構55に載置される(図7参照)。
【0062】
上述のように、本実施の形態では、シリコンインゴットIが完全に切断される前に搬送ロボット6の側方支持部7によってシリコンインゴットIが挟持される。このため、シリコンインゴットIが完全に切断されて生成されるシリコンスライスSがその面の法線方向に沿って倒れることを防止することができ、シリコンスライスSがインゴット受け部21から落ちたり、シリコンスライスSにキズが入ったりすることを防止することができる。
【0063】
なお、加工用電極10がシリコンインゴットIを完全に切断した際に、加工用電極10によってインゴット受け部21のインゴット支持部22にキズが付かないよう、シリコンインゴットIとインゴット受け部21との間に、使い捨てすることができる保護部材(例えば、厚みの薄いダミーのシリコンインゴット)(図示せず)を設けてもよい。
【0064】
ところで、上述のようにシリコンインゴットIを切断している間、電解液回収ポンプ61によって、処理槽20から溢れ出した電解液Eが回収されて、第一貯留タンク65に貯留される(図6参照)。そして、第一貯留タンク65内の電解液Eは、加熱部65aによって加熱されて蒸留されて第二貯留タンク66内に貯留され、このことによって、電解液Eと、当該電解液E内に溶解していたSiOとが分離される(第一貯留タンク65に残ったSiOはSiO回収部(図示せず)によって回収される)。
【0065】
そして、第二貯留タンク66内に貯留された電解液Eは、電解液供給ポンプ67から駆動力を受けて、除去フィルタ68と温度調整部69を経て処理槽20内に供給される(図6参照)。このとき、供給される電解液Eは、温度調整部69によって温度が調整されるので、処理槽20内の電解液Eを所定の温度に保つことができ、シリコンインゴットIの溶解条件を均一に保つことができる。
【0066】
上述のように洗浄乾燥昇降機構55に載置されたシリコンスライスSは、次に、当該洗浄乾燥昇降機構55によって下方へ移動され、開状態の開閉シャッタ45を経て、洗浄槽40内に貯留された洗浄液R内に浸漬される。このことによって、シリコンスライスSが洗浄液Rで洗浄されることとなる。なお、シリコンスライスSが所定の位置以下まで移動すると、開閉シャッタ45は閉状態になる。
【0067】
ところで、本実施の形態では、シリコンスライスSが通過する時以外は、開閉シャッタ45によって洗浄槽40の上方が覆われている。このため、洗浄槽40内の洗浄液Rが揮発することで周辺の装置に悪影響が出ることを最小限に抑えることができる。
【0068】
洗浄液Rによる洗浄が終了すると、洗浄乾燥昇降機構55によって、当該洗浄乾燥昇降機構55上のシリコンスライスSが上方へ移動され、開状態の開閉シャッタ45を経て、乾燥室51内に引き上げられる。その後、シリコンスライスSに、乾燥用液供給部52によってIPAなどの乾燥用液が供給され、その後、不活性ガス供給部53によってNやArなどの不活性ガスが供給される。この結果、シリコンスライスSの各々が乾燥されることとなる。
【0069】
次に、カセット載置部85に載置された空のカセットC内に、シリコンスライスSが収納される(図1参照)。その後、シリコンスライスSが収納されたカセットC’が、充填カセットストック部92に載置されてストックされる。そして、シリコンスライスSが収納されたカセットC’は、インゴット搬出部95に順次移動されて、当該インゴット搬出部95から搬出される。
【0070】
なお、本実施の形態では、空カセットストック部91が設けられているので、大量に生成される(一度に500枚程生成される)シリコンスライスSを滞りなくカセットC内に収納することができる。また、充填カセットストック部92が設けられているので、シリコンスライスSを収納したカセットC’をカセット載置部85から即座に移動させることができ、カセット載置部85でシリコンスライスSを収納する作業を滞りなく継続することができる。
【0071】
ところで、本実施の形態では、生成されるシリコンスライスSの用途の一つとして太陽電池の基板を挙げて説明したが、これに限られることはなく、例えば半導体ウエハとして用いられるシリコンスライスSを生成するために、本実施の形態による加工用電極およびインゴット処理装置を用いることもできる。
【符号の説明】
【0072】
5 インゴット載置部
6 搬送ロボット(搬送部)
7 側方支持部
10 加工用電極
20 処理槽
21 インゴット受け部
24 インゴット移動部
26 電極保持部
29 電極移動部
32 ファン・フィルター・ユニット
33 吸引排出部
35 開閉カバー(開閉部材)
40 洗浄槽(洗浄部)
50 乾燥部
61 電解液回収ポンプ(電解液回収部)
67 電解液供給ポンプ(電解液供給部)
E 電解液
I シリコンインゴット(インゴット部材)
R 洗浄液
S シリコンスライス(スライス部材)
C カセット
C’ シリコンスライスを収納したカセット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理されるインゴット部材を載置するインゴット載置部と、
前記インゴット載置部からインゴット部材を受け取って搬送する搬送部と、
電解液が貯留された処理槽と、
前記処理槽上で前記搬送部から前記インゴット部材を受け取るインゴット受け部と、
前記インゴット受け部を下方へ移動することによって、前記インゴット部材を前記処理槽内の電解液に浸漬させるインゴット移動部と、
電流が流されることによって前記インゴット部材を電解液内で溶解して切断し、複数のスライス部材を生成する加工用電極と、
を備えたことを特徴とするインゴット処理装置。
【請求項2】
前記加工用電極を上下方向に移動させる電極移動部をさらに備え、
前記電極移動部が前記加工用電極を上下方向に移動させることによって、前記インゴット部材を電解液内で溶解して切断することを特徴とする請求項1に記載のインゴット処理装置。
【請求項3】
前記電極移動部は、前記加工用電極を前記インゴット部材の上方から接近させて、該インゴット部材を電解液内で溶解して切断することを特徴とする請求項2に記載のインゴット処理装置。
【請求項4】
前記搬送部は、前記スライス部材の法線方向に直交する方向で該スライス部材を支持することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のインゴット処理装置。
【請求項5】
前記搬送部は、前記インゴット材が完全に切断されてスライス部材が生成される前に該スライス部材を支持することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のインゴット処理装置。
【請求項6】
前記スライス部材を洗浄液で洗浄する洗浄部をさらに備え、
前記搬送部は、前記スライス部材を前記インゴット受け部から前記洗浄部へ搬送することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載のインゴット処理装置。
【請求項7】
前記洗浄部で洗浄されたスライス部材を乾燥させる乾燥部をさらに備えていることを特徴とする請求項6に記載のインゴット処理装置。
【請求項8】
前記洗浄部は洗浄液が貯留された洗浄槽からなり、
前記乾燥部は、前記洗浄槽の上方に配置され、前記洗浄槽から引き上げられたスライス部材を乾燥させることを特徴とする請求項7に記載のインゴット処理装置。
【請求項9】
前記処理槽の上方に配置され、該処理槽の上方領域を開状態にしたり閉状態にしたりする開閉部材をさらに備えたことを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載のインゴット処理装置。
【請求項10】
前記処理槽に連結され、該処理槽内に電解液を供給する電解液供給部をさらに備えたことを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載のインゴット処理装置。
【請求項11】
前記処理槽に連結され、該処理槽内に貯留されている、または、該処理槽内に貯留されていた電解液を回収する電解液回収部をさらに備えたことを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1項に記載のインゴット処理装置。
【請求項12】
前記処理槽の周辺の雰囲気を吸引して排出する吸引排出部をさらに備えたことを特徴とする請求項1乃至11のいずれか1項に記載のインゴット処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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