説明

インサート及びインサートを備えたカッタ

【課題】 使用寿命を向上させることができるインサート及びインサートを備えたカッタを提供する。
【解決手段】本発明に係るインサート3は、互いに対向する第1の主面7及び第2の主面8と、第1の主面7及び第2の主面8の間に形成された外周側面9と、を有し、外周側面9は、周方向Sで交互に形成された凸面10及び凹面11を有し、凸面10及び凹面11は少なくとも三箇所ずつ形成され、第1の主面7及び凹面11の間の稜線と凸面10及び凹面11の間の稜線とが交差する第1コーナ、第2の主面8及び凹面11の間の稜線と凸面10及び凹面11の間の稜線とが交差する第2コーナ、の全てに切刃CA,CBが形成されている。このインサート3によれば、一つの凸面10につきコーナ切刃CA,CBを四箇所形成することができるので、限られたカッタ径の中で多数の使用コーナを確保することができ、インサート3の使用寿命を大幅に向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インサート及びインサートを備えたカッタに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ボーリングカッタの刃具として用いられるインサートが記載されている。このインサートは、略四角形平板状の外形を有しており、八箇所のコーナ全てに切刃が形成されている。このインサートでは、八箇所のコーナ全てを使用コーナとして順次使用することで、インサートの使用寿命を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−23632号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、切削加工におけるコスト低減要求が高まる中、インサートにおいては、使用寿命の向上が一層強く求められている。上述した従来のインサートにおいては、使用コーナ数について未だ改善の余地があり、使用寿命について市場の要求を満たせているとは言い難いものであった。
【0005】
そこで、本発明は、使用寿命を向上させることができるインサート及びインサートを備えたカッタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明に係るインサートは、互いに対向する第1の主面及び第2の主面と、第1の主面及び第2の主面の間の外周側面と、を有し、外周側面は、周方向で交互に形成された凸面及び凹面を有し、凸面及び凹面は少なくとも三箇所ずつ形成され、第1の主面及び凹面の間の稜線と凸面及び凹面の間の稜線とが交差する第1コーナ、第2の主面及び凹面の間の稜線と凸面及び凹面の間の稜線とが交差する第2コーナ、の全てに切刃が形成されている。
【0007】
このインサートによれば、一つの凸面につき切刃を有するコーナを四箇所形成することができるので、多数の使用コーナを確保することができる。しかも、このインサートでは、外周側面に凸面と凹面とが交互に形成されることで、凹面が切り屑を外部に排出するための切り屑ポケットとして機能し、切り屑の排出性を向上させることができる。また、インサートの凹面が切り屑ポケットとして機能することで、カッタ本体側の切り屑ポケットの小型化が可能となる。このことは、回転切削用カッタに短いピッチで多数のインサートを配置する多刃化に有利であり、カッタの能率を大幅に向上させることができる。更に、多刃化によって、カッタ切削時におけるインサート一つ当たりの仕事量が少なくなるので、使用コーナにおける切り屑排出量や切削振動も抑えられ、使用コーナの長寿命化を図ることができる。従って、このインサートによれば、多数の使用コーナを確保することができ、回転切削用カッタの多刃化による使用コーナの長寿命化も可能であるため、インサートの使用寿命を大幅に向上させることができる。
【0008】
本発明に係るインサートにおいては、外周側面において凸面の幅に対する凹面の幅の比率は1.2〜2.0であることが好ましい。
このインサートでは、切り屑ポケットを形成する凹面の幅が広すぎると切り屑が長く延びて排出されにくくなり、狭すぎると切り屑が詰まりやすくなることから、上記比率を1.2〜2.0にすることで、切り屑を分断しやすい凹面の幅を実現して切り屑排出性を向上させることができる。
【0009】
本発明に係るインサートにおいては、凹面をすくい面とすることが好ましい。
このインサートによれば、凹面をすくい面として用いることで、第1の主面及び凹面の間の稜線や凸面及び凹面の間の稜線を切刃として有効に活用することができる。
【0010】
本発明に係るインサートの外周側面には、切り屑を分断するためのブレーカを有することが好ましい。
このインサートによれば、切削により生じた切り屑がブレーカで短く分断されることで、切り屑の排出性を一層向上させることができる。
【0011】
本発明に係るインサートにおいて、凸面及び凹面は、五箇所ずつ形成されていることが好ましい。
この場合、カッタに組み込む事で五箇所の凸面により二十箇所の使用コーナを確保することができ、十分な使用寿命を有するインサートを得ることができる。
【0012】
本発明は、互いに対向する第1の主面及び第2の主面と、第1の主面及び第2の主面の間の外周側面と、を有し、外周側面は、周方向で交互に形成された凸面及び凹面を有し、凸面及び凹面は少なくとも三箇所ずつ形成され、第1の主面及び凹面の間の稜線と凸面及び凹面の間の稜線とが交差する第1コーナ、第2の主面及び凹面の間の稜線と凸面及び凹面の間の稜線とが交差する第2コーナ、の全てに切刃が形成された複数のインサートと、所定の回転軸を中心として回転するカッタ本体と、を備えた回転切削用カッタであって、カッタ本体は、カッタ本体の先端外周に設けられ、インサートが第1の主面又は第2の主面をカッタ本体の径方向外側に向けた姿勢で装着される縦方向着座部と、カッタ本体の先端外周に設けられ、インサートが第1の主面又は第2の主面をカッタ本体の先端側に向けた姿勢で装着される横方向着座部と、を有する。
【0013】
このカッタによれば、上述した本発明に係るインサートを備えているので、短いピッチで多数のインサートを配置する多刃化を実現することができ、カッタの能率を向上させることができる。しかも、このカッタによれば、インサートの回転位置や表裏の変更に加え、インサートの着座部を縦方向着座部と横方向着座部との間で変更することにより、インサートのコーナの切刃全てを順次使用することができる。従って、このカッタによれば、インサートの全てのコーナについて無駄のない使用が可能となるので、インサートの使用寿命を向上させることができ、カッタ切削量に対するインサートの使用コストを大きく低減することができる。
【0014】
本発明に係るカッタにおいて、縦方向着座部は、縦方向着座部に取り付けられたインサートを間に挟む第1の縦方向内壁及び第2の縦方向内壁を有し、第1の縦方向内壁と第2の縦方向内壁とがなすインサート挟み角は60°〜80°であり、横方向着座部は、横方向着座部に取り付けられたインサートを間に挟む第1の横方向内壁及び第2の横方向内壁を有し、第1の横方向内壁と第2の横方向内壁とがなすインサート挟み角は60°〜80°であることが好ましい。
このカッタによれば、インサート挟み角が80°より大きいとインサートのがたつきが生じやすく、60°未満では狭すぎることから、インサート挟み角を60°〜80°とすることで、がたつきの少ない安定したインサートの装着を達成することができる。
【0015】
本発明に係るカッタのインサートは、使用コーナを有する凸面の全体がカッタ本体から突出した姿勢で縦方向着座部又は横方向着座部に装着されていることが好ましい。
このカッタによれば、特徴的な構成を有する当該インサートによる切削を効果的に行うことができる。
【0016】
本発明に係るカッタのカッタ本体は、インサートのすくい面をなす凹面と組み合わされて一つの切り屑ポケットを形成する第1ポケット面を有することが好ましい。
このカッタによれば、カッタ本体の第1ポケット面とインサートの凹面とを組み合わせて大きな切り屑ポケットを形成することで、切り屑の排出性を向上させることが可能になる。しかも、カッタ本体のみに切り屑ポケットを形成する場合と比べて、第1ポケット面を小型化することができるので、カッタ本体に短いピッチで多数のインサートを配置する多刃化に有利である。従って、このカッタによれば、切り屑の排出性を向上させると共に、多刃化によるカッタの能率の向上を実現することができる。
【0017】
本発明に係るカッタのカッタ本体は、インサートを挟んで第1ポケットの反対側に形成された第2のポケット面を有することが好ましい。
このカッタによれば、インサートを挟んで第1ポケットの反対側に形成された第2のポケット面により切り屑ポケットが形成されているので、インサートのすくい面以外の凹面やインサートとカッタ本体との隙間に切り屑が詰まることを抑制することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、使用寿命を向上させることができるインサート及びインサートを備えたカッタを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係る回転切削カッタの一実施形態を示す斜視図である。
【図2】図1のカッタを先端側から見た図である。
【図3】本発明に係るインサートの一実施形態を示す斜視図である。
【図4】図3のインサートを示す平面図である。
【図5】図3のインサートを示す側面図である。
【図6】図1のカッタの一部を示す斜視図である。
【図7】図6のカッタからインサートを外した状態を示す斜視図である。
【図8】縦向きのインサートを示す拡大斜視図である。
【図9】横向きのインサートを示す拡大斜視図である。
【図10】図1のカッタを示す縦断面図である。
【図11】本発明に係るインサートの第1変形例を示す斜視図である。
【図12】図11のインサートを示す側面図である。
【図13】本発明に係るインサートの第2変形例を示す斜視図である。
【図14】図13のインサートを示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0021】
図1及び図2に示すように、本実施形態に係る回転切削用カッタ1は、いわゆる正面フライスであり、円盤状のカッタ本体2と、カッタ本体2の先端外周に装着された十個のインサート3と、を有している。カッタ本体2は、後端に設けられた取付部4がフライス盤の主軸に取り付けられ、回転軸Cを中心として矢印R方向に回転駆動される。この回転切削用カッタ1では、カッタ本体2が回転駆動された状態でワーク上を移動することで、インサート3の切刃によるワークの平面切削が行われる。
【0022】
[インサート]
以下、インサート3の構成について説明する。図3〜図5に示すように、インサート3は、超硬合金やCBN等の素材から構成され、略五角形平板状の外形を有する刃具である。このインサート3の中央には、図5に示す厚さ方向Bでインサート3を貫通する挿通孔5が形成されており、この挿通孔5に挿通されるクランプネジ6によってインサート3がカッタ本体2に固定される。
【0023】
インサート3は、厚さ方向Bで互いに対向する第1の主面7及び第2の主面8と、第1の主面7及び第2の主面8の間に形成された外周側面9と、を有している。第1の主面7と第2の主面8とは同一形状であり、概ね、正五角形の各々の角を扇状に切除してなる外形を有している。
【0024】
インサート3の外周側面9には、凸面10及び凹面11が図4に示す周方向Sで交互に形成されている。凸面10及び凹面11は、第1の主面7及び第2の主面8の形状に対応して五箇所ずつ形成されている。
【0025】
凸面10は、凹面11と比べてインサート3の径方向に突出した平面である。凸面10は、図5に示すインサート側方正面から見て長方形状の外形を有している。凹面11は、凸面10と比べてインサート3の径方向に凹んだ曲面であり、隣り合う凸面10の間を緩やかなカーブで繋いでいる。凹面11は、切削時に生じた切り屑をカッタ外部に排出するための切り屑ポケットを形成する。
【0026】
インサート3では、隣り合う凸面10及び凹面11の間の稜線として第1切刃12が形成されている。また、凹面11と第1の主面7との間の稜線として第2切刃13が形成されており、凹面11と第2の主面8との間の稜線として第3切刃14が形成されている。
【0027】
更に、第1切刃12と第2切刃13とが交差する第1コーナには、第1のコーナ切刃CAが形成されている。また、第1切刃12と第3切刃14とが交差する第2コーナには、第2のコーナ切刃CBが形成されている。第1のコーナ切刃CA及び第2のコーナ切刃CBは、一つの凸面10に対して二箇所ずつ形成されている。すなわち、一つの凸面10に対して四箇所のコーナ切刃CA,CBが形成されている。
【0028】
インサート3では、五つの凸面10に形成された二十箇所のコーナ切刃CA,CBを有している。インサート3は、ワークの切削時において、二十箇所のコーナ切刃CA,CBのうち何れか一箇所がカッタに取り付けた時の配置により使用コーナとして用いられる。
【0029】
このインサート3によれば、一つの凸面10につきコーナ切刃CA,CBを四箇所形成することができるので、限られた寸法設定値の中で多数の使用コーナを確保することができる。しかも、このインサート3では、外周側面9に凸面10と凹面11とが交互に形成されることで、凹面11が切り屑を外部に排出するための切り屑ポケットとして機能し、切り屑の排出性を向上させることができる。
【0030】
また、インサート3の凹面11が切り屑ポケットとして機能することで、カッタ本体2に形成する切り屑ポケットの小型化が可能となるので、カッタ本体2に短いピッチで多数のインサート3を配置する多刃化が実現でき、カッタ1の能率を大幅に向上させることができる。更に、多刃化によって、カッタ切削時におけるインサート一つ当たりの仕事量が少なくなるので、使用コーナにおける切り屑排出量や切削振動も抑えられ、使用コーナの長寿命化を図ることができる。従って、このインサート3によれば、多数の使用コーナを確保することができ、カッタ1の多刃化による使用コーナの長寿命化も可能であるため、インサートの使用寿命を大幅に向上させることができる。そして、長寿命のインサート3を用いることでインサート交換の頻度を少なくすることができ、使用者のメンテナンス負担及び使用コストを大きく低減することができ、使用ユーザーの生産性を大幅に向上させる事ができる。
【0031】
また、このインサート3では、図3に示す凸面10の幅T及び凹面11の幅Wについて、凸面10の幅Tに対する凹面11の幅Wの比率が1.2〜2.0であることが好ましい。ここで、凸面10の幅Tは凸面10を挟んで隣り合う第1のコーナ切刃CAの間隔に等しく、凹面11の幅Wは凹面11を挟んで隣り合う第1のコーナ切刃CAの間隔に等しい。この構成によれば、外周側面9における凹面11の幅が広すぎると切り屑が長く延びて排出されにくくなり、狭すぎると切り屑が詰まりやすくなることから、上記比率を1.2〜2.0にすることで、切り屑を分断しやすい凹面の幅を形成して切り屑の排出性を向上させることができる。なお、凸面10の幅は、インサート3の大きさや使用コーナ数等の設計条件に応じて決定される。
【0032】
[カッタ本体]
次に、カッタ本体2の構成について説明する。図2,図6及び図7に示すように、円盤状のカッタ本体2には、インサート3が装着される縦方向着座部20及び横方向着座部21が設けられている。縦方向着座部20及び横方向着座部21は、カッタ本体2の先端外周に沿って等間隔で五箇所ずつ設けられている。なお、着座部20,21は必ずしも等間隔に設けられる必要はなく、異なる間隔で設けられていても良い。また、着座部20,21の数は五箇所ずつに限られず、四箇所以下であっても良く、六箇所以上であっても良い。
【0033】
縦方向着座部20は、インサート3を縦方向の姿勢で装着するための着座部である。縦方向とはカッタ本体2の回転軸Cに沿った方向を意味する。縦方向着座部20は、カッタ本体2の回転軸Cに対して略平行な平面である縦方向着座面22と、縦方向着座面22に垂直な第1〜第3の縦方向内壁23〜25と、を有している。
【0034】
縦方向着座面22の中央部には、クランプ用のネジ孔22aが形成されており、このネジ孔22aにインサート3の挿通孔5を合わせた状態でクランプネジ6を螺合することで、インサート3がカッタ本体2に装着される。
【0035】
第1〜第3の縦方向内壁23〜25は、装着されたインサート3を囲むように配置されている。第1〜第3の縦方向内壁23〜25のうち第1の縦方向内壁23と第2の縦方向内壁24とは、インサート3を間に挟む位置に配置されており、インサート3の有する五箇所の凸面10のうちの二箇所にそれぞれ当接してインサート3の回転や移動を防止する。第3の縦方向内壁25は、第1の縦方向内壁23と第2の縦方向内壁24とを連結する位置に配置されている。
【0036】
図7に、第1の縦方向内壁23及び第2の縦方向内壁24がインサート3を挟む角度であるインサート挟み角α1を示す。このインサート挟み角α1は60°〜80°の範囲内に設定されていることが好ましい。第1の縦方向内壁23及び第2の縦方向内壁24がなすインサート挟み角α1が80°より大きいとインサート3のがたつきが生じやすく、60°未満では狭すぎることから、インサート挟み角α1を60°〜80°とすることで、がたつきの少ない安定したインサート3の装着を実現することができる。
【0037】
図8に示すように、インサート3は、縦方向着座部20に対して縦方向の姿勢で装着される。縦方向の姿勢とは、インサート3の第2の主面8が縦方向着座面22に当接され、第1の主面7をカッタ本体2の径方向外側に向けた姿勢である。換言すると、インサート3の第1の主面7及び第2の主面8が回転軸Cに沿って配置された姿勢である。また、インサート3は、五箇所の凸面10のうち一箇所の凸面10の全体がカッタ本体2から突出した姿勢、すなわち一箇所の凸面10の全てのコーナ切刃CA,CBがカッタ本体2の外側に位置する姿勢で縦方向着座部20に装着される。このような姿勢で装着されることにより、特徴的な構成を有するインサート3による切削を効果的に行うことができる。
【0038】
図8に示すインサート3では、カッタ本体2の外側に位置する四箇所のコーナ切刃CA,CBのうち、第1のコーナ切刃CAが使用コーナEとして用いられる。この場合、使用コーナEを構成する第1切刃12及び第2切刃13のうち、カッタ外周に向けられた第2切刃13が主切刃、カッタ先端側に向けられた第1切刃12が副切刃として用いられる。また、カッタ本体2の外側に向けられた第1の主面7が外周逃げ面となり、使用コーナEを含む凹面11がすくい面となる。
【0039】
この場合、凹面11をすくい面として用いることで、凸面10と凹面11との間の第1切刃12や凹面11と第1の主面7との間の第2切刃13を有効に活用することができる。切刃の切削で生じた切り屑の一部は、図8に示す凹面11の破線領域Pで良好にカールされ、効率良くカッタ外部へと排出される。
【0040】
図7及び図8に示すように、カッタ本体2の先端外周には、第1ポケット面31及び第2ポケット面30が縦方向着座部20を挟むように設けられている。第1ポケット面31及び第2ポケット面30は、切り屑を外部に排出する切り屑ポケットを形成する面である。
【0041】
第1ポケット面31は、縦方向着座部20の回転方向R側に設けられており、インサート3のすくい面として用いられる凹面11と一部連続した曲面を形成する。この第1ポケット面31は、すくい面として用いられる凹面11と組み合わされて一つの切り屑ポケットを形成する。第1ポケット面31は、インサート3の径方向と厚さ方向の二方向で凹面11を囲むように形成されている。
【0042】
このカッタ本体2によれば、第1ポケット面31がインサート3のすくい面として用いられる凹面11と組み合わされて大きな切り屑ポケットを形成することで、切り屑の排出性を一層向上させることができる。しかも、カッタ本体2のみに切り屑ポケットを形成する場合と比べて、第1ポケット面31を小型化することができるので、カッタ本体2に短いピッチで多数のインサート3を配置する多刃化に有利である。従って、このカッタ1によれば、切り屑の排出性を向上させると共に、多刃化によるカッタ1の能率の向上を実現することができる。
【0043】
また、第2ポケット面30は、縦方向着座部20を挟んで第1ポケット面31と反対側に設けられている。第2ポケット面30は、すくい面と反対に位置する凹面11などを含んだ小さな切り屑ポケットを形成する。第2ポケット面30は、第1ポケット面31より小さなポケットを形成するが、大きなポケットを形成する場合もある。
【0044】
更に、このカッタ1では、インサート3を挟んで第1ポケット面31の反対側に形成された第2ポケット面30により切り屑ポケットが形成されているので、インサート3のすくい面以外の凹面11やインサート3とカッタ本体2との隙間に切り屑が詰まることを抑制することを主目的としている。
【0045】
図7に示すように、横方向着座部21は、インサート3を横方向の姿勢で装着するための着座部である。横方向とはカッタ本体2の回転軸Cに略垂直な方向を意味する。横方向着座部21は、カッタ本体2の回転軸Cに対して略垂直な平面である横方向着座面26と、横方向着座面26に垂直な第1〜第3の横方向内壁27〜29と、を有している。
【0046】
横方向着座面26の中央部には、クランプ用のネジ孔26aが形成されており、このネジ孔26aにインサート3の挿通孔5を合わせた状態でクランプネジ6を螺合することで、インサート3がカッタ本体2に装着される。
【0047】
第1〜第3の横方向内壁27〜29は、装着されたインサート3を囲むように配置されている。第1〜第3の横方向内壁27〜29のうち第1の横方向内壁27と第2の横方向内壁28とは、インサート3を間に挟む位置に配置されており、インサート3の有する五箇所の凸面10のうちの二箇所にそれぞれ当接してインサート3の回転や移動を防止する。第3の横方向内壁29は、第1の横方向内壁27と第2の横方向内壁28とを連結する位置に配置されている。
【0048】
図7に、第1の横方向内壁27及び第2の横方向内壁28がインサート3を挟む角度であるインサート挟み角α2を示す。このインサート挟み角α2は60°〜80°の範囲内に設定されていることが好ましい。第1の横方向内壁27及び第2の横方向内壁28がなすインサート挟み角α2が80°より大きいとインサート3のがたつきが生じやすく、60°未満では狭すぎることから、インサート挟み角α2を60°〜80°とすることで、がたつきの少ない安定したインサート3の装着を実現することができる。
【0049】
図9に示すように、インサート3は、横方向着座部21に対して横方向の姿勢で装着される。横方向の姿勢とは、インサート3の第2の主面8が横方向着座面26に当接され、第1の主面7をカッタ本体2の正面側に向けた姿勢である。換言すると、インサート3の第1の主面7及び第2の主面8が回転軸Cに対して略垂直に配置された姿勢である。また、インサート3は、五箇所の凸面10のうち一箇所の凸面10の全体がカッタ本体2から突出した姿勢、すなわち一箇所の凸面10の全てのコーナ切刃CA,CBがカッタ本体2の外側に位置する姿勢で横方向着座部21に装着される。このような姿勢で装着されることにより、特徴的な構成を有するインサート3による切削を効果的に行うことができる。
【0050】
図9に示すインサート3では、カッタ本体2の外側に位置する四箇所のコーナ切刃CA,CBのうち、第1のコーナ切刃CAが使用コーナEとして用いられる。この場合、使用コーナEを構成する第1切刃12及び第2切刃13のうち、カッタ外周に向けられた第1切刃12が主切刃、カッタ先端側に向けられた第2切刃13が副切刃として用いられる。また、カッタ本体2の外側に向けられた凸面10が外周逃げ面となり、使用コーナEを含む凹面11がすくい面となる。
【0051】
このインサート3によれば、凹面11をすくい面として用いることで、凸面10と凹面11との間の第1切刃12や凹面11と第1の主面7との間の第2切刃13を有効に活用することができる。切刃の切削で生じた切り屑の一部は、図9に示す凹面11の破線領域Pで良好にカールされ、効率良くカッタ外部へと排出される。
【0052】
図7及び図9に示すように、カッタ本体2の先端外周には、第1ポケット面33及び第2ポケット面32が横方向着座部21を挟むように設けられている。第1ポケット面33及び第2ポケット面32は、切り屑を外部に排出する切り屑ポケットを形成する面である。
【0053】
第1ポケット面33は、横方向着座部21の回転方向R側に設けられており、インサート3の姿勢等によりインサート3のすくい面として用いられる凹面11と連続した曲面を形成することもできる。すなわち、第1ポケット面33は、すくい面として用いられる凹面11と組み合わされて一つの切り屑ポケットを形成できる。第1ポケット面33は、インサート3の径方向と厚さ方向の二方向でインサート3を回り込むように形成されている。
【0054】
このカッタ本体2によれば、第1ポケット面33がインサート3のすくい面として用いられる凹面11と組み合わされて大きな切り屑ポケットを形成することで、切り屑の排出性を一層向上させることができる。
【0055】
また、第2ポケット面32は、横方向着座部21を挟んで第1ポケット面33と反対側に設けられている。第2ポケット面32は、すくい面と反対に位置する凹面11などを含んだ小さな切り屑ポケットを形成する。第2ポケット面32は、第1ポケット面33より小さなポケットを形成するが、大きなポケットを形成する場合もある。
【0056】
更に、このカッタ1によれば、インサート3を挟んで第1ポケット面33の反対側に形成された第2ポケット面32により切り屑ポケットが形成されているので、インサート3のすくい面以外の凹面11やインサート3とカッタ本体2との隙間に切り屑が詰まることを抑制することができる。また、横方向着座部21付近のカッタ本体2の側面には、切り屑の排出を容易にするための削り平面34が形成されている。
【0057】
以上説明したインサート3及びカッタ本体2を備える回転切削用カッタ1によれば、上述したインサート3を備えているので、短いピッチで多数のインサート3を配置する多刃化を実現することができ、カッタ1の能率を向上させることができる。しかも、このカッタ1によれば、インサート3の回転位置や表裏の変更に加え、インサート3の着座部を縦方向着座部20と横方向着座部21との間で変更することにより、インサート3のコーナ切刃CA,CB全てを順次使用することができる。従って、このカッタ1によれば、インサート3の全てのコーナ切刃CA,CBについて無駄のない使用が可能になるので、インサート3の使用寿命を向上させることができ、インサート3の使用コストを大きく低減させ、使用ユーザーの生産性を大幅に向上させる事ができる。
【0058】
また、このカッタ1は、縦向きのインサート3の回転軌跡と横向きのインサート3の回転軌跡とがオーバーラップするように構成されており、ワークの切り込み量によってオーバーラップ量を変更することができる。従って、このカッタ1によれば、オーバーラップ量を変更するだけで所望の切り込み量を達成することができるので、切り込み量に関する設計変更コストを大きく低減できると共に、使用者のニーズに合った切り込み量のカッタを提供することができる。
【0059】
また、図1及び図10に示すように、カッタ本体2の背面には、カッタ取り扱い時に作業者が指先を引っ掛けるための把持用凹部Nが設けられている。把持用凹部Nは、カッタ本体2の外周に沿って等間隔で複数個設けられている。また、カッタ本体2の背面は、外周から中央の取付部4に近づくほどカッタ先端側に傾斜するテーパー形状に形成されている。
【0060】
このような構成によれば、カッタ取り扱い時において指先を把持用凹部Nに引っ掛けることでカッタ1を確実に把持することができる。具体的には、親指以外の四本の指でカッタ前面を支えると共に掌をカッタ側面に当て、親指の指先を把持用凹部Nに引っ掛けることでカッタ1の確実な把持を達成できる。
【0061】
しかも、カッタ本体2の背面が、中央の取付部4に近づくほどカッタ先端側へと傾斜しているので、親指を大きく曲げて把持用凹部Nに引っ掛けることとなり、カッタ1と手との接触面積を増やして一層確実な把持を達成することができる。従って、このカッタ1によれば、カッタ1に油などが付着している場合であっても、カッタ1を確実に把持することができるので、カッタ1の取扱い性を向上させ、落下によるカッタ破損を防ぐことができる。
【0062】
[インサートの第1変形例]
図11及び図12は、本発明に係るインサートの第1変形例を示す図である。図11及び図12に示すインサート40は、インサート3と比べて、外周側面41がブレーカ壁44を有する点が異なっている。
【0063】
第1変形例に係るインサート40では、凹面43の一部としてブレーカ壁44が形成されている。ブレーカ壁44は、凹面43のうち凸面42と交差する両端部に形成されている。ブレーカ壁44に挟まれた凸面42は、図12に示すインサート側方から見て、長方形の二本の長辺がくの字状に内側へと折り曲げられ、長手方向中央が括れた外形を有している。
【0064】
ブレーカ壁44は、図12に示すインサート側方から見て、中央に屈曲部を有するくの字状の壁である。ブレーカ壁44は、屈曲部で交差する二つの平面から構成されている。ブレーカ壁44は、凸面42に対して略垂直な壁として形成されている。
【0065】
このように構成されたインサート40によれば、インサート3と同様の効果を得ることができる。しかも、インサート40の切削で生じた切り屑の一部がブレーカ壁44に当たって短く分断されることで、切り屑の排出性を一層向上させることができると共に、切削抵抗が軽減され、刃先の発熱量を抑制する事ができる。
【0066】
[インサートの第2変形例]
図13及び図14は、本発明に係るインサートの第2変形例を示す図である。図13及び図14に示すインサート50は、インサート3と比べて、外周側面9がブレーカ51を有する点が異なっている。
【0067】
第2変形例に係るインサート50の外周側面9には、各凹面11につき二箇所ずつ半球状のブレーカ51が形成されている。ブレーカ51は、凸面10の手前であって厚さ方向Bにおける凹面11の中央に形成されている。
【0068】
このように構成されたインサート50においても、インサート3と同様の効果を得ることができる。しかも、インサート50の切削で生じた切り屑の一部がブレーカ51によって曲げられて短く分断されることで、切り屑の排出性を一層向上させることができる。
【0069】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではない。
【0070】
例えば、本発明に係る回転切削用カッタは、正面フライスの他、エンドミルであっても良く、本発明に係るインサートは、正面フライスやエンドミルに加えてバイトに対しても使用可能である。
【0071】
また、本発明に係るインサートについて、第1の主面、第2の主面、凸面、及び凹面の形状は上述したものに限定されない。これらの面は、複数の平面や曲面から構成されていても良く、段差や突起等が設けられていても良い。外周側面における凸面の数は三箇所以上であれば良く。また、凸面は必ずしも周方向で等間隔に配置する必要はない。
【0072】
更に、インサートは、複数の材料から構成されていても良く、各種コーティングが施されていても良い。
【0073】
また、本発明に係るカッタ本体について、縦方向着座部や横方向着座部、第1ポケット面や第2ポケット面の構成は上述したものに限定されない。また、着座部の数や間隔は、カッタに要求仕様に合わせて適切に選択される。更に、カッタ本体にクーラント供給用の通路等が設けられていても良い。
【符号の説明】
【0074】
1…回転切削用カッタ 2…カッタ本体 3,40,50…インサート 4…取付部 5…挿通孔 6…クランプネジ 7…第1の主面 8…第2の主面 9,41…外周側面 10,42…凸面 11,43…凹面 12…第1切刃 13…第2切刃 14…第3切刃 20…縦方向着座部 21…横方向着座部 23…第1の縦方向内壁 24…第2の縦方向内壁 25…第3の縦方向内壁 27…第1の横方向内壁 28…第2の横方向内壁 29…第3の横方向内壁 30,32…第1ポケット面 31,33…第2ポケット面 44…ブレーカ壁 51…ブレーカ CA…第1のコーナ切刃 CB…第2のコーナ切刃 E…使用コーナ T…凸面の幅 W…凹面の幅 α1,α2…インサート挟み角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに対向する第1の主面及び第2の主面と、
前記第1の主面及び前記第2の主面の間の外周側面と、を有し、
前記外周側面は、周方向で交互に形成された凸面及び凹面を有し、
前記凸面及び前記凹面は少なくとも三箇所ずつ形成され、
前記第1の主面及び前記凹面の間の稜線と前記凸面及び前記凹面の間の稜線とが交差する第1コーナ、前記第2の主面及び前記凹面の間の稜線と前記凸面及び前記凹面の間の稜線とが交差する第2コーナ、の全てに切刃が形成されている、インサート。
【請求項2】
前記外周側面において前記凸面の幅に対する前記凹面の幅の比率は1.2〜2.0である、請求項1に記載のインサート。
【請求項3】
前記凹面をすくい面とする、請求項1又は2に記載のインサート。
【請求項4】
前記外周側面は、切り屑を分断するためのブレーカを有する、請求項1〜3の何れか一項に記載のインサート。
【請求項5】
前記凸面及び前記凹面は、五箇所ずつ形成されている、請求項1〜4の何れか一項に記載のインサート。
【請求項6】
互いに対向する第1の主面及び第2の主面と、前記第1の主面及び前記第2の主面の間の外周側面と、を有し、前記外周側面は、周方向で交互に形成された凸面及び凹面を有し、前記凸面及び前記凹面は少なくとも三箇所ずつ形成され、前記第1の主面及び前記凹面の間の稜線と前記凸面及び前記凹面の間の稜線とが交差する第1コーナ、前記第2の主面及び前記凹面の間の稜線と前記凸面及び前記凹面の間の稜線とが交差する第2コーナ、の全てに切刃が形成された複数のインサートと、
所定の回転軸を中心として回転するカッタ本体と、
を備えた回転切削用カッタであって、
前記カッタ本体は、
前記カッタ本体の先端外周に設けられ、前記インサートが前記第1の主面又は前記第2の主面を前記カッタ本体の径方向外側に向けた姿勢で装着される縦方向着座部と、
前記カッタ本体の先端外周に設けられ、前記インサートが前記第1の主面又は前記第2の主面を前記カッタ本体の先端側に向けた姿勢で装着される横方向着座部と、
を有する、カッタ。
【請求項7】
前記縦方向着座部は、前記縦方向着座部に取り付けられた前記インサートを間に挟む第1の縦方向内壁及び第2の縦方向内壁を有し、前記第1の縦方向内壁と前記第2の縦方向内壁とがなすインサート挟み角は60°〜80°であり、
前記横方向着座部は、前記横方向着座部に取り付けられた前記インサートを間に挟む第1の横方向内壁及び第2の横方向内壁を有し、前記第1の横方向内壁と前記第2の横方向内壁とがなすインサート挟み角は60°〜80°である、請求項6に記載のカッタ。
【請求項8】
前記インサートは、使用コーナを有する前記凸面の全体が前記カッタ本体から突出した姿勢で前記縦方向着座部又は前記横方向着座部に装着されている、請求項6又は7に記載のカッタ。
【請求項9】
前記カッタ本体は、前記インサートのすくい面をなす前記凹面と組み合わされて一つの切り屑ポケットを形成する第1ポケット面を有する、請求項6〜8の何れか一項に記載のカッタ。
【請求項10】
前記カッタ本体は、前記インサートを挟んで前記第1ポケット面の反対側に形成された第2のポケット面を有する、請求項9に記載のカッタ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate