説明

インシュリン抵抗性の処置のための、S6キナーゼ活性の阻害

本発明は、インシュリン抵抗性を処置するのに有効な薬剤の、S6キナーゼ1活性の特異的阻害を介するスクリーニング法を提供する。また、有効量のS6キナーゼ1の特異的阻害剤を投与することによってインシュリン抵抗性を処置する方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インシュリン抵抗性および糖尿病、とりわけインシュリン抵抗性または糖尿病のS6キナーゼ(S6K)活性の調節剤での処置に関する。
【背景技術】
【0002】
II型糖尿病は、西洋で最も一般的な糖尿病の形態であり、そして肥満と密接に関連している−80%以上の罹患者が肥満である。II型糖尿病を有する患者において、インシュリンはグルコースの筋肉および脂肪への取り込みを促進する能力が低く、インシュリン抵抗性と呼ばれる状態である。肥満がインシュリン作用の障害を導く分子原理は、十分に理解されていない。
【0003】
インシュリンは通常、それ自身の製造および膵臓β細胞による分泌の制御によって、そして末梢組織でのグルコースの利用を調節することによって、グルコース恒常性を維持するように作用する。近年の研究では、このプロセスにmTOR/S6キナーゼシグナル伝達経路を関連させている。S6キナーゼは、リボソームタンパク質S6をリン酸化する酵素である。とりわけ、S6K1(p70/p85 S6キナーゼとしても知られる)欠損マウスは、グルコース感受性またはインシュリン生産の障害のためではなく、膵臓内分泌腺重量の減少(これは、β細胞の選択的減少によって計測される)のために、軽度の耐糖能異常(高血糖)および低インシュリン血症である。S6K1欠損マウスは、通常の空腹時グルコースレベルを維持し、それらが末梢組織においてインシュリンに超感受性である可能性がが示唆される(Pende et al., 2000, Nature, 408, 994-997)。
【0004】
この表現型は、タンパク質栄養失調が誘発する低インシュリンが個体をグルコース耐糖能異常にかかりやすくするものである、前臨床の2型糖尿病によく似ている。限られた期間の、ラットにおけるタンパク質栄養失調はまた、β細胞の大きさおよびインシュリン分泌の持続した減少から起こる、軽度の耐糖能異常を導き、影響は一部、末梢組織における軽度のインシュリン過敏症によって減衰される(Swenne et al., 1992, Diabetologia 35, 939-945; Swenne et al., J. Endocrinol. 118, 295-302; Grace et al., 1990, Diabetes Metab. 16, 484-491 (1990))。
【0005】
S6K1欠損マウスは生存および繁殖可能であるが、胚発生の間明白な体の大きさの減少を示し、影響はほとんど、成体になるまでに克服される。3.5週齢の同型変異マウスの比較は、全組織の重量が体重の減少と正比例することを示した。小さな大きさの同型変異マウスは、一貫して翻訳能力に欠損があった(Shima et al., 1998, EMBO J., 17, 6649-6659)。S6K1欠損マウスが成体に達したとき、生誕時に見られた野生型マウスと比較した体重における差異は、20%から15%に減少した。かかるマウスは、脂肪を蓄積し得、そして年齢および食餌脂肪の増加の関数として、野生型と同様、インシュリン抵抗性になる。
【0006】
インシュリン抵抗性におけるS6キナーゼ活性の役割は、ヒトの研究において知られている。インシュリン感受性およびインシュリン抵抗性、非糖尿病ピマインディアンを、インシュリンで2時間処置した。基底レベルのS6キナーゼ活性は両グループで類似であり、S6キナーゼは、インシュリン感受性個体における5倍と比較して、インシュリン抵抗性個体において3倍しか活性化されず、インシュリン抵抗性個体においてS6キナーゼ活性が損傷していることを示唆した。
【0007】
S6K活性は、以前はがんおよび血管形成と関連付けられていた。WO93/19752は、ラパマイシンおよびその誘導体の、p70 S6キナーゼの阻害剤としての使用を、そして細胞の増殖または免疫応答を阻害するためのそれらの使用を開示する。US2003/0083284は、p70 S6キナーゼの発現阻害のためのアンチセンス化合物を開示する(70kDaおよび核、85kDaアイソフォームの両方に関する)。該アンチセンス核酸は、感染症、炎症および腫瘍形成、ならびに代謝障害の処置において有用である可能性が提案されている。US2003/0143656は、p70 S6Kの活性を増加させることができる化合物が、糖尿病もしくは肥満の処置において有用であり得ること、あるいはアポトーシスの阻害において有用であり得ることが提案されている。
【0008】
Attoubら(2001, Faseb J., 14, 2329-2338)は、ラパマイシンがレプチン機能、とりわけ細胞のコラーゲンゲルへのレプチン誘導性侵襲を阻止することを示している(発がんモデルとして)。レプチン治療は、先天性レプチン欠損を有する肥満患者において痩せすぎないようにしながら、体重減少を促進するために使用しされており、肥満または糖尿病の処置におけるレプチンを示唆する。
【0009】
インシュリン抵抗性、とりわけII型糖尿病(非インシュリン依存性糖尿病、NIDDMとも呼ばれる)の新規標的を提供する、そして処置用新規医薬を開発する必要性は残っており、本発明はこの必要性を満たす。
【発明の開示】
【0010】
本発明の第1の局面において、インシュリン抵抗性を処置するのに有効な薬剤を同定する方法が提供され、該方法は下記の工程を含む:
i)S6キナーゼを化合物とインキュベートすること;
ii)S6キナーゼ活性を検出すること;そして
iii)該化合物が存在しないときと比較して、S6キナーゼ活性における化合物誘導調節を測定すること、ここで、該化合物が存在の存在下でのS6キナーゼ活性の変化は、インシュリン抵抗性を処置するのに有効な薬剤の指標である。化合物誘導性調節は、好ましくはラパマイシンの哺乳類標的(mTOR)活性の効果とは独立している。1つの態様において、該調節はS6キナーゼ1活性の阻害である。S6キナーゼ活性は簡便には、基質としてS6を使用してアッセイし得、容易にハイスループットアッセイに供し得る。
【0011】
また本発明によって、インシュリン抵抗性を処置するのに有効な薬剤のスクリーニング方法を提供し、該方法は、転写的に活性な細胞内容物をプロモーター配列と作動可能に連結したS6K遺伝子をコード化する核酸、またはレポーター遺伝子と作動可能に連結したS6Kプロモーター配列と、少なくとも1種の化合物の存在下で、接触させること;そしてS6キナーゼ発現またはS6キナーゼプロモーター活性における該化合物の効果を検出することを含み、ここで、S6キナーゼ発現またはプロモーター活性の減少または増加の検出がインシュリン抵抗性を処置するのに有効な薬剤の指標である。かかるアッセイは細胞に基づくアッセイであり得、該転写的に活性な細胞内容物および核酸は、細胞中に存在する。好ましい態様において、該S6キナーゼはS6キナーゼ1である。
【0012】
本発明はさらに、インシュリン抵抗性を処置するのに有効な薬剤を同定する方法を提供し、該方法は:
S6キナーゼ遺伝子を含む非ヒト動物を提供すること;
化合物を該非ヒト動物に投与すること;そして
該化合物が存在しないときと比較して、インシュリン抵抗性が影響を受けるか否かを決定することを含む。該S6キナーゼ遺伝子は、トランスジェニック動物(たとえば、ヒト配列に由来するS6キナーゼ遺伝子を含むマウス)として同一または異なった種に由来し得る。
【0013】
本発明の方法によって同定された薬剤も包含される。
【0014】
さらなる局面において、含脂肪細胞の大きさを減少する方法であって、含脂肪細胞を有効量のS6キナーゼ1阻害剤と接触させることを含む方法を提供する。
【0015】
さらに別の局面において、インシュリン抵抗性を処置する方法であって、対象に薬学的に有効量のS6キナーゼ調節剤を投与することを含む方法を提供する。該S6調節剤はS6K1阻害剤であり得る。
【0016】
したがって、インシュリン抵抗性の処置または予防的処置用医薬の製造のための、S6キナーゼの特異的調節剤、たとえばS6キナーゼ1の選択的調節剤も提供する。
【0017】
同様に、インシュリン抵抗性の処置において使用するためのS6キナーゼ活性の調節剤、たとえばS6キナーゼ1の選択的阻害剤も提供する。
【0018】
本発明のさらなる局面において、インシュリン抵抗性または糖尿病の素因を診断する方法であって:個体からサンプルを得ること、サンプルにおけるS6キナーゼ活性、好ましくはS6キナーゼ1活性のレベルを測定すること、そして正常対照値または値の範囲と比較したときのサンプルにおけるS6キナーゼ活性の変化を、インシュリン抵抗性または糖尿病の素因と相関させることを含む方法を提供する。たとえば、正常対照値または値の範囲と比較したときのS6キナーゼ1活性の増加は、インシュリン抵抗性または糖尿病の素因の指標である。
【0019】
インシュリン抵抗性の処置を評価する方法であって、該方法は治療剤を、S6キナーゼ遺伝子、とりわけS6K1を含む非ヒト動物に投与すること、そしてインシュリン抵抗性に対する該薬剤の効果を測定することを含む方法も提供する。
【0020】
発明の詳細な説明
個体において、とりわけ肥満の個体において、インシュリン抵抗性およびII型糖尿病を処置するより効果的な治療に対する必要性は依然残っている。本発明者らは、本出願以前に公表された研究とは対照的に、S6K1活性化がインシュリン抵抗性をもたらすことを発見し、したがって、S6K1活性の阻害を通じて糖尿病および関連する疾病を処置するための医薬標的としてのS6K1を提供する。mTOR(ラパマイシンの哺乳類標的、S6キナーゼをリン酸化および活性化する)はS6K1活性を調節するための標的であり得るが、S6K1の直接標的は、mTOR活性阻害のより一般的な副作用を回避し、そしてインシュリン抵抗性を有する患者の処置のためのさらなる特異性を提供する。とりわけ、mTORはS6K1およびS6K2の両方を活性化することが知られているが、本発明者らは、S6K1の選択的阻害が望ましいことを発見した。
【0021】
したがって、本発明はインシュリン抵抗性または糖尿病(とりわけ高脂肪食または肥満が誘発する状態)を処置するのに有効な薬剤を同定する方法であって、S6キナーゼ活性、とりわけS6キナーゼ1活性の調節に基づく方法を提供する。典型的には、かかる方法は:S6キナーゼ(または機能的等価物またはその誘導体)を化合物とインキュベートし;S6キナーゼ活性を測定し;そして該化合物が存在しないときと比較して、S6キナーゼ活性における化合物誘導調節を測定する工程を含む。該化合物の存在下におけるS6キナーゼの変化は、インシュリン抵抗性または糖尿病を処置するのに有効な薬剤の指標である。該化合物が存在しない対照アッセイを平行して行い得る。
【0022】
文脈から明確に異なるのではない限り、“S6K”または“S6キナーゼ”は、本明細書中でS6K1およびS6K2の両方を含んで使用され(たとえば、Genebank Accession No. M57428, AJ007938, AB019245, NM003952 および関連配列参照)、しかし、S6K1が好ましい。S6Kの機能的等価物(変異体)および誘導体の例には、S6Kが置換、化学的、酵素的、または他の適当な方法によって、天然に存在するアミノ酸以外の部分で、共有的に置換されている分子が含まれる。
【0023】
一般的に、かかる変異体は、“野生型”または本明細書中で特定されている他の配列と実質的に相同であり、すなわち、それと配列類似性または同一性を有する。類似性または同一性とは、ヌクレオチド配列および/またはコード化されたアミノ酸配列レベルであり得、そして好ましくは、少なくとも約50%、60%、または70%、または80%、最も好ましくは少なくとも約90%、95%、96%、97%、98%または99%である。配列比較はFASTAおよびFASTP(Pearson & Lipman, 1988. Methods in Enzymology 183: 63-98参照)を使用して行い得る。パラメーターを、初期値マトリックスを使用して、好ましくは下記のとおり設定する:Gapopen(ギャップの第1の残基に対するペナルティー):タンパク質について −12/DNAについて −16;Gapext(ギャップの付加残基に対するペナルティー):タンパク質について −2/DNAについて −4;KTUPワード長:タンパク質について2/DNAについて6。類似性の分析はまた、ハイブリダイゼーションを使用して行い得る。特定の配列相同性の核酸分子間でハイブリダイゼーションを達成するために要求されるストリンジェンシー条件を計算するための1つの公式は:Tm=81.5℃+16.6Log[Na]+0.41(G+Cの%)−0.63(ホルムアミドの%)−600/二本鎖の#bpである(Molecular Cloning: a Laboratory Manual: 2nd edition, Sambrook et al., 1989, Cold Spring Harbor Laboratory Press)。
【0024】
共通の構造的特徴を残している変異体は、S6Kのフラグメント、とりわけ酵素活性またはアイソフォーム特異的特徴を維持しているフラグメントであり得る。たとえば、S6K1およびS6K2のカルボキシ末端配列は、約20%の同一性のみを示し、そしてそれゆえ、それはアイソフォーム特異的アッセイが望まれるとき、フラグメントにおいてかかるアイソフォーム特異的特徴を含むために有用であり得る。同様に、S6K1はT447でリン酸化され得、これは、別のまたは付加的なアイソフォーム特異的特徴を提供するS6K2において存在しない。好ましくは、フラグメントは50〜350アミノ酸長である。
【0025】
S6Kの変異体はまたその突然変異体を含み、これはS6Kの少なくとも1つの特徴、好ましくは酵素活性および/または上記アイソフォーム特異的特徴を維持するための要求にしたがって、アミノ酸欠失、付加または置換を含み得る。したがって、保存的アミノ酸置換は、トランケーションで行い得るように、S6Kの性質が実質的に変化することなく行われ得る。さらに、付加および置換は、本発明のスクリーニング方法において使用されるS6Kのフラグメント、とりわけS6K酵素活性を増強するかまたはいくつかの他の所望の特徴を提供するものを製造し得る。たとえば、マウスS6K1におけるT389、T229およびS371(p70S6Kとしても知られている)は、ショウジョウバエp70S6KにおけるT389、T238およびS380と相同である。T389はとりわけ、保存的活性キナーゼを生産するために、酸性アミノ酸残基への突然変異に使用される。上記S6KまたはS6Kフラグメントを有する融合タンパク質はまた、望まれ得る。
【0026】
本発明のスクリーニングアッセイは、S6キナーゼ活性を測定する特定の方法のいずれかに限られない。S6キナーゼアッセイは当業者に既知である(たとえば、USPN6,372,467参照、出典明示により本明細書の一部とする)。簡潔に述べると、S6キナーゼを、好適な基質、たとえばS6と、S6のリン酸化が可能なバッファー中でインキュベートする。基質のリン酸化を、標識化リン酸基を使用して、たとえばバッファー中のATP源として存在する放射性標識32Pを使用し、検出することができる。あるいは、S6K酵素活性のリン酸化産物に特異的な抗体を、活性を測定するために使用することができる。当業者には明らかであるとおり、該アッセイは、機械化および自動化方法を使用して、容易にハイスループット技術を利用することができる。
【0027】
あるいは、S6キナーゼ活性を合成基質、たとえばArg−(Arg)−Arg−X−X−Ser−X(たとえば、KRRRLASLAAまたはKRRRLSSLRASTSKSESSQK)を含むものを使用してアッセイすることができる(Flowtow and Thomas (1992) J. Biol. Chem. 267: 3074-3078)。
【0028】
S6K活性を、該キナーゼの下流標的を検出することによってアッセイすることもできる。たとえば、S6Kは、特異的標的、たとえばポリピリミジン部分を有する遺伝子(5’TOP)およびリボソーム遺伝子の、転写および翻訳に影響を及ぼすことが知られている。(Fumagalli S, Thomas G. (1999) Ribosmal Protein S6 Phosphorylation and Signal Transduction. In: Translational Control. Eds. Hershey, J, Mathews, M, Sonenberg, N. Cold Spring Harbor Press. pp 695-717)。
【0029】
したがって、本発明のさらなる局面においてS6K遺伝子またはS6K制御配列の制御下で発現される遺伝子の発現を調節する化合物を同定することによる、インシュリン抵抗性を処置するのに有効な薬剤をスクリーニングするための方法が提供される。
【0030】
かかる方法は、好ましくは細胞中で、転写的に活性な細胞内容物を、プロモーター配列と作動可能に連結したS6K遺伝子をコード化する核酸またはレポーター遺伝子と作動可能に連結したS6Kプロモーター配列(またはレポーター遺伝子の発現を可能にする他のS6K制御領域)と、少なくとも1種の化合物の存在下で接触させること;そして、該化合物の、S6キナーゼ発現またはレポーター遺伝子発現であるコード領域の発現に対する効果を検出することを含む。S6キナーゼの発現を、転写レベルで(たとえば、特異的プローブを使用したハイブリダイゼーションまたはPCRによって)、またはタンパク質レベルで(たとえば、抗体を使用して)検出することができる。S6キナーゼ発現またはプロモーター活性における減少または増加は、インシュリン抵抗性を処置するのに有効な薬剤の指標である。かかるアッセイは、該転写的に活性な細胞内容物および核酸が細胞中に存在する細胞に基づくアッセイであり得るが、インビトロ転写アッセイも当該技術分野で既知である。好ましい態様において、該S6キナーゼはS6キナーゼ1である。
【0031】
該レポーター遺伝子は、検出可能な変化を提供することが可能な任意の分子をコード化する。かかるレポーター分子には、蛍光部分(たとえば、蛍光タンパク質、たとえばシアン蛍光タンパク質、CFP;黄色蛍光タンパク質、YFP;青色蛍光タンパク質、BFP;または緑色蛍光タンパク質、GFP;全て商業的に入手可能、Clontech Living Colors User Manual)、抗原、レポーター酵素などが含まれる。レポーター酵素には、限定するものではないが、下記のものが含まれる:β−ガラクトシダーゼ、グルコシダーゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)、グルコロニダーゼ、ルシフェラーゼ、ペルオキシダーゼ、ホスファターゼ、オキシドレダクターゼ、デヒドロゲナーゼ、トランスフェラーゼ、イソメラーゼ、キナーゼ、レダクターゼ、デアミナーゼ、カタラーゼおよびウレアーゼ。本発明の方法で使用するためのレポーター分子の選択において、該レポーター分子それ自体は、あらゆる推定される薬剤またはスクリーニングアッセイ中に存在する他の成分によって不活性化されるべきではなく、これには該アッセイ混合物中に存在する任意のプロテアーゼ活性による不活性化を含む。適当なレポーター分子の選択は、当業者には容易に明らかとなるであろう。
【0032】
該核酸は典型的には、様々な細菌、酵母、および哺乳類細胞について知られているとおり、1種以上の選択された宿主細胞中で、複製を行うことができるベクター中で提供される。たとえば、様々なウイルス性種(SV40、ポリオーマ、アデノウイルス、VSVまたはBPV)が、哺乳類細胞におけるクローニングベクターとして有用である。該ベクターはたとえば、プラスミド、コスミド、ウイルス粒子、ファージ、あるいは細胞によって取り込まれ、興味のある配列あるいはレポーター遺伝子を発現するために使用される、任意の他の好適なベクターまたは構築物の形態であり得る。
【0033】
発現ベクターは通常、mRNA合成を指示するために、興味のある核酸配列をコード化するタンパク質と作動可能に連結したプロモーターを含む。様々な潜在的な宿主細胞によって認識されるプロモーターが既知であり、S6K1およびS6K2プロモーター(上流制御配列)も同様である。“作動可能に連結した”とは、同じ核酸分子の一部として結合し、該プロモーターから開始されるべき転写に関して、好適に配置され、かつ配向していることを意味する。プロモーターと作動可能に連結したDNAは、該プロモーターの“転写制御下”にある。哺乳類宿主細胞中のベクターからの転写は、たとえば、ポリオーマウイルス、鶏痘ウイルス、アデノウイルス(たとえばアデノウイルス2)、ウシパピローマウイルス、トリサルコーマウイルス、サイトメガロウイルス、レトロウイルス、肝炎Bウイルスおよびサルウイルス40(SV40)のようなウイルスの遺伝子から、異種哺乳類プロモーター、たとえばアクチンプロモーターまたは免疫グロブリンプロモーターから、そして熱ショックプロモーターから得られるプロモーターによって制御され、ただし、かかるプロモーターは宿主細胞系に適合可能である。本発明の発現ベクターはまた、1種以上の選択遺伝子、たとえば抗生物質または他の毒素に耐性を付与する遺伝子を含み得る。
【0034】
本発明の方法は、したがって、さらに該核酸を宿主細胞中に導入することを含む。限定するものではないが一般的に(とりわけインビトロ導入について)“形質転換”と呼ばれ得る該導入は、あらゆる利用可能な技術を使用することができる。真核細胞について、好適な技術には、カルシウムリン酸トランスフェクション、DEAE−デキストラン、エレクトロポレーション、リポソーム介在トランスフェクション、およびレトロウイルスまたは当業者に既知の他のウイルス、たとえば痘疹を使用した形質導入が含まれ得る。たとえば、Keown et al., Methods in Enzymology, 185:527 537 (1990) and Mansour et al., Nature 336:348-352 (1988)参照。
【0035】
本明細書に記載の発現もしくはクローニングベクターでトランスフェクションまたは形質転換された宿主細胞は、常套の栄養培地中で培養し得る。培養条件、たとえば培地、温度、pH等は、過度の実験なしに当業者によって選択され得る。一般的には、原則として、細胞培地の生産性を最大化するためのプロトコル、および実施技術は、“Mammalian Cell Biotechnology: a Practical Approach”, M. Butler, ed. JRL Press, (1991) and Sambrook et al, supraに見出すことができる。
【0036】
S6K1に特異的なアッセイはまた、特異的なタンパク質、たとえば当業者に既知の、ネラビンとS6K1のC末端ドメインの結合を検出することによって設計され得る(Burnett PE, Blackshaw S, Lai MM, Qureshi IA, Burnett AF, Sabatini DM, Snyder SH. Neurabin is a synaptic protein linking p70 S6 kinase and the neuronal cytoskeleton. Proc Natl Acad Sci U S A. 1998 Jul 7;95(14):8351-6)。
【0037】
したがって、本発明の他の態様において、S6K1と結合パートナーの相互作用の阻害が評価される。これは(i)S6K1をその結合パートナーと試験物質の存在下および不存在下で接触させること;そして(ii)試験物質の存在がS6K1とその結合パートナーとの相互作用を阻害するか否かを決定することを含み得る。
【0038】
ポリペプチドと結合パートナーとの間の相互作用を評価する方法は、当業者に既知のあらゆる方法であり得、ここで開示される。これらの方法のいずれかは、試験物質がポリペプチド(この場合はS6K1)と結合パートナーの間の相互作用を阻害するか否かを評価するために使用できる。
【0039】
1つの態様において、アッセイはS6K1およびネウラビンとのその相互作用に基づくものであり、そして該試験物質がS6K1とネウラビンとの間の相互作用を阻害するか否かを決定する工程を含む。これはS6K1とその組合せパートナーの物理的関連性を、検出可能な標識で標識化した一方と固体支持体に不動化した他方にそれを接触させることを通じて検出することによって、達成することができる。好適な検出可能標識には、35S−メチオニンが含まれ、これは組み換え生産されたS6K1および/またはその結合パートナー中に組み込むことができる。該組み換え生産されたS6K1および/または結合パートナーはまた、抗体で標識化され得るエピトープを含む融合タンパク質として発現させることができる。あるいは、2重標識を、当業者に既知のように、たとえば放射性標識およびシンチラントを使用して、使用することができる。
【0040】
一般的に、固体支持体に不動化したタンパク質は、固体支持体に結合するタンパク質に対する抗体を使用して、または自体公知の他の技術を介して不動化され得る。好ましいインビトロ相互作用は、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)またはHis6のようなタグを含む融合タンパク質を利用することができる。該タグは、親和性相互作用によって、たとえばグルタチオンアガロースビーズまたはNi−マトリックス上でそれぞれ不動化することができる。
【0041】
上記タイプのインビトロアッセイ形式において、推定される阻害剤化合物は、標識化されたS6K1、または不動化された結合パートナー、たとえば、場合によってはGST結合パートナーもしくはGST−S6K1と結合する結合パートナーの量を調節する能力を測定することによってアッセイし得る。これは、グルタチオン−アガロースビーズをSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動によって分画することによって測定することができる。あるいは、該ビーズは結合していないタンパク質を除去するために洗浄し得、そして結合しているタンパク質の量を、たとえば好適なシンチレーションカウンターにおいて、存在する標識の量を計測することによって測定することができる。
【0042】
あるいは、固体支持体に結合しており、S6K1または結合パートナーの一方に対して向けられている抗体を、GSTの位置で、該分子を固体支持体に結合させるために使用することができる。S6K1およびその結合パートナーに対する抗体を、それ自体公知の様々な方法で得ることができる。別の形態において、S6K1およびその結合パートナーの一方を、蛍光ドナー部分およびアクセプターで標識化されたその他で標識化することができ、これはドナーからの放出の減少が可能である。これは、本発明のアッセイを蛍光共鳴エネルギー移動(fluorescence resonance energy transfer)(FRET)によって行う。この形態において、ドナーの蛍光シグナルはS6K1およびその結合パートナーが相互作用するときに変化する。相互作用を調節する候補阻害剤の存在は、ドナーの蛍光シグナルの量を増加させる。
【0043】
FRETは当該技術分野において自体公知の技術であり、したがって正確なドナーおよびアクセプター分子、ならびにそれらをS6K1およびその結合パートナーと連結する方法は、文献への参照によって達成され得る。
【0044】
好適な蛍光ドナー部分は、蛍光発生エネルギーを他の蛍光発生分子または化合物の他の部分に移動することが可能なものであり、そして限定するものではないが、クマリンおよびフルオレセイン、ロードルおよびローダミンのような関連する染色物質、レゾルフィン、シアニン染色物質、ビマン(bimane)、アクリジン、イソインドール、ダンシル染色物質、ルミノールおよびイソルミノール誘導体のようなアミノフタルヒドラジン、アミノフタルイミド、アミノナフタルイミド、アミノベンゾフラン、アミノキノリン、ジシアノヒドロキノン、およびエウロピウムとテルビウムの複合体、ならびに関連する化合物を含む。
【0045】
好適なアクセプターには、限定するものではないが、クマリンおよび関連するフルオロフォア、フルオレセイン、ロードルおよびローダミンのようなキサンテン、レゾルフィン、シアニン、ジフルオロボラジアザインダセン、ならびにフタロシアニンが含まれる。
【0046】
好ましいドナーはフルオレセインであり、そして好ましいアクセプターにはローダミンおよびカルボシアニンが含まれる。これらのフルオレセインおよびローダミン(Aldrich Chemical Company Ltd, Gillingham, Dorset, UKから入手可能である)のイソチオシアネート誘導体を、S6K1およびその結合パートナーを標識化するために使用することができる。カルボシアニンの結合について、たとえばGuo et al, J. Biol. Chem., 270; 27562-8, 1995参照。
【0047】
本発明のアッセイはまた、インビボで行うことができる。かかるアッセイは、任意の好適な宿主細胞、たとえば細菌、酵母、昆虫、または哺乳類宿主細胞中で行うことができる。酵母および哺乳類宿主細胞がとりわけ好適である。かかるインビボアッセイを行うために、S6K1およびその結合パートナーを発現することができる構築物、ならびにレポーター遺伝子構築物を、細胞中に導入することができる。これは任意の好適な技術、たとえばカルシウムリン酸沈殿またはエレクトロポレーションによって達成され得る。該構築物は、一時的に、または安定なエピソームとして発現され得、あるいは宿主細胞のゲノムへと統合される。
【0048】
インビボアッセイはまた、2−ハイブリッドアッセイの形態を取ることができる。2−ハイブリッドアッセイはFields and Song, 1989, Nature 340; 245-246によって開示されたものに従い得る。かかるアッセイにおいて、酵母GAL4転写因子のDNA結合ドメイン(DBD)および転写活性化ドメイン(TAD)は、その相互作用が調査される第1および第2の分子にそれぞれ融合する。機能的GAL4転写因子は、2つの興味ある分子が相互作用するときのみ復元される。したがって、該分子の相互作用は、GAL4 DNA結合部位と作動可能に連結したレポーター遺伝子の使用によって測定され得、これは該レポーター遺伝子の転写を活性化することが可能である。他の転写アクチベータードメインは、GAL4 TAD、たとえばウイルス性VP16活性化ドメインの位置で使用され得る。
【0049】
使用するアッセイの形態と関係なく、それらは典型的には当業者に常用される好適な対照で行い、そして好ましくは小分子ライブラリー、ペプチドライブラリー、ファージディスプレーライブラリーまたは天然産物ライブラリーに存在し得る化合物をスクリーニングするために使用される。推定のもしくは実際の阻害剤または他の調節剤は、スクリーニングすることが望まれている任意の供給源から提供され得、そして天然に存在しても合成であってもよく、そしてペプチドまたはポリペプチド(たとえば抗体)または核酸(たとえばsiRNA)であってもなくてもよい。治療的適用に最も適している好ましい阻害剤は、現在当業者に既知のようなコンビナトリアルライブラリーに由来する小分子である(たとえばNewton (1997) Expert Opinion Therapeutic Patents, 7(10): 1183-1194参照)。好ましい候補物質には、PKC阻害剤のような小分子が含まれ得る。
【0050】
S6K活性の化合物誘導調節は、該化合物が存在しないときと比べて該化合物の存在下で、S6K活性(酵素活性、下流標的へのシグナル伝達活性、プロモーター活性または発現)における変化が存在することを意味する。とりわけ、S6K活性の阻害を誘導する化合物は、該化合物が存在しないときと比べてS6K活性における減少によって反映される。逆に、S6活性の活性化を誘導する化合物は、S6K活性における増加によって反映される。
【0051】
アクチベーターおよび阻害剤は本明細書中において、まとめて調節剤と呼び、そして好ましくはS6Kのキナーゼ活性に直接影響する。再構成した要素を使用して行うアッセイは、直接S6K阻害(すなわち、S6K触媒活性の選択的阻害、およびたとえばmTORの作用を介する活性キナーゼの形態の非阻害)を達成するために容易に設計することができる。典型的には、S6キナーゼ1活性は、とりわけS6キナーゼ1シグナル伝達の阻害のとき選択的に(すなわち、S6キナーゼ2活性および他のキナーゼおよび酵素に選択的に)阻害され、そしてインシュリン抵抗性または糖尿病の処置が望まれる。あるいは、S6キナーゼ2活性が同じ目的で特異的に活性化される。
【0052】
S6K阻害剤はS6K活性、たとえば、S6K1またはS6K2活性を減少させる化合物である。たとえば、S6K酵素活性を阻害する化合物は典型的には、S6KにおけるATP結合部位に結合するかまたは、S6Kの触媒ドメインに結合する。該化合物は選択的に、S6K2または他のS6Kアイソフォームと比較してS6K1を阻害し、これはS6K1とS6K2ノックアウトマウスの間に観察される表現型の差異を与える。したがって、S6K2またはS6K1とS6K2の両方を阻害する化合物(たとえばラパマイシン、その誘導体または他のmTOR阻害剤)は有用であり得るが、インシュリン抵抗性または糖尿病の処置のためにはS6K1の選択的阻害が望まれる。したがって、S6K1阻害剤は典型的には、S6K2活性の減少レベルと比較して、S6K1活性を少なくとも10%、より好ましくは20%、50%、100%および200%減少させる。対照アッセイは、したがって、たとえば免疫沈降されたS6K2で行い、そして調節剤の選択性を確立するために免疫沈降されたS6K1と比較する。
【0053】
本発明のスクリーニング法は所望により、さらに機能アッセイを含み、これはインシュリン抵抗性に対する効果を検出することを含む。好適な方法は、下記の実施例に記載されている。
【0054】
該スクリーニング法は、所望により、潜在的な調節剤をS6キナーゼ遺伝子を有する非ヒト動物に投与する工程、そしてインシュリン抵抗性が、該化合物が存在しないときと比べて影響を受けるか否か、たとえば動物の高脂肪食餌におけるインシュリン感受性に対する効果を測定する工程を含み得る。非ヒト動物は典型的には、マウスまたはラットのような実験用哺乳類であり、様々な投与量を、食物と混合して経口的に、または任意の他の好適な方法によって投与することができ、これは、化合物の性質、たとえば安定性および標的送達に基づいて選択され得る。S6キナーゼ遺伝子は、実験用哺乳類として異なる種に由来し得、たとえば、マウスS6K遺伝子を置換したヒトS6K遺伝子を含むマウスの使用は、ヒト対象を使用することなくヒトS6Kに対する薬剤の効果を測定するためにとりわけ有用である。
【0055】
S6K1の阻害に対する化合物の能力および効果を、インシュリン抵抗性について動物モデルを使用し、そしてS6K1ノックアウト動物と比較して評価することができる。
【0056】
かかる化合物のスクリーニングに有用なキットは、本発明においてまた製造され得、そしてスクリーニングに有用なS6Kまたはそのフラグメント、および指示書を本質的に含む。典型的には、該S6Kポリペプチドは、S6K活性を測定する方法と共に、少なくとも1種の化合物(推定される薬剤)または該スクリーニング法を行うのに有用である本明細書に記載の他の物質を提供する。
【0057】
本発明のキットにおいて使用するためのS6Kは、たとえば溶液、懸濁液、または凍結乾燥中のタンパク質の形態で、あるいは、S6Kまたはそのフラグメントの生産が発現系内で、所望によりインサイチュで、可能な核酸配列の形態で、提供され得る。
【0058】
化合物(たとえば、推定される薬剤)は、無機および有機、たとえば抗生物質、抗体、ポリペプチドまたはペプチドであり得、そして典型的には、単離されまたは精製されている。“単離された”または“精製された”組成物は、実質的に細胞物質またはそれが由来する細胞もしくは組織源からの他の汚染タンパク質を含まず、あるいは、化学的に合成されるときには実質的に化学的前駆体または他の化学物質を含まない。実質的に細胞物質を含まないポリペプチドには、それが単離された細胞の細胞内容物からポリペプチドが分離されているポリペプチドの製造が含まれ、たとえば該ポリペプチドは組み換えによって生産される。好ましくは、治療化合物、たとえばS6K阻害剤の製造は、生産物の乾燥重量の少なくとも75%、より好ましくは80%、より好ましくは85%、より好ましくは90%、より好ましくは95%、より好ましくは98%、そして最も好ましくは99または100%である。化合物の混合物はまた、スクリーニングの初期段階で試験され得る。
【0059】
したがって化合物は、抗体、好ましくはモノクローナル抗体を含み得、結合することができるポリペプチドと、それが結合親和性を有さないまたは実質的に有さない(たとえば、少なくとも約1000倍低い結合親和性)同一種の他のポリペプチドの間で区別することが可能であるという意味で、S6K、とりわけS6K1に特異的である。特異的抗体は、他の分子に存在しないかまたは接近できない分子のエピトープと結合する。たとえば、アイソフォーム特異的阻害について(S6K2活性に対するS6K1の選択的阻害)、該抗体は、S6K1とS6K2の間で高度に保存されていない、S6KのC末端ドメインと干渉し得る。抗体は当該分野で標準である技術を使用して得ることができる。たとえば、抗体は、当業者に既知の様々な技術のいずれかを使用して免疫化した動物から得ることができ、そして好ましくは抗体と興味のある抗原の結合を使用してスクリーニングする。たとえば、ウェスタンブロッティング技術または免疫沈降が使用され得る(Armitage et al, Nature, 357:80-82, 1992)。
【0060】
ペプチドで免疫化した哺乳類に代わり、または補助的に、タンパク質に特異的な抗体を発現された免疫グロブリンの可変ドメインの組み換え生産ライブラリーから、たとえばそれらの表面に機能性免疫グロブリン結合ドメインを示しているλバクテリオファージまたは糸状バクテリオファージを使用して、得ることができる;たとえばWO92/01047参照。
【0061】
抗体はいくつかの方法で修飾され得、そして抗体フラグメント、抗体の誘導体、機能的等価物および相同体を含み、これには合成分子およびその形が抗原またはエピトープと結合し得る抗体のそれを模倣している分子が含まれる。抗原または他の結合パートナーと結合することができる抗体フラグメントの例は、VL、VH、ClおよびCH1ドメインからなるFabフラグメント;VHおよびCH1ドメインからなるFbフラグメント;抗体の1つのアームのVLおよびVHドメインからなるFvフラグメント;VHドメインからなるdAbフラグメント;単離されたCDR領域およびF(ab’)2フラグメント、ヒンジ領域でジスルフィド架橋によって結合した2つのFabフラグメントを含む2価フラグメントである。1本鎖Fvフラグメントも含まれる。
【0062】
親非ヒト抗体よりも免疫原生が少ない抗体を得るために、非ヒト供給源由来のCDRを、典型的にはフレームワークアミノ酸残基のいくつかの改変を有する、ヒトフレームワーク領域に接いだヒト化抗体も、本発明に含まれる。
【0063】
当業者には明らかであるとおり、モノクローナル抗体は、元の抗体の特異性を残した他の抗体またキメラ分子を生産するための組み換えDNA技術の技法に付し得る。かかる技術には、異なる免疫グロブリンの、定常領域または定常領域とフレームワーク領域に対する抗体の、免疫グロブリン可変領域、もしくは相補性決定領域(CDR)をコード化するDNAを導入することを含む。たとえば、EP−A−184187、GB−A−2188638またはEP−A−0239400参照。キメラ抗体のクローニングおよび発現をEP−A−0120694およびEP−A−0125023において記載している。
【0064】
ペプチドはまた、さらに新規阻害剤を設計するために使用され得る、推定される自己阻害ドメイン(S6キナーゼ1残基400−432; Flowtow and Thomas, 1992)または実際、上記合成基質(たとえば、S6 230〜249、Ala235)を含む合成ペプチドのような、S6K活性の阻害剤として、使用され得る。
【0065】
あるいは、細胞中のS6K活性は、核酸を使用して、たとえば転写前または後サイレンシングによって、減少させることができる。したがって、S6K配列(とりわけS6K1に特異的な配列)を、上記ベクター中に、アンチセンスRNAまたはリボザイムを生産するために、アンチセンス方向で、挿入することができる。
【0066】
S6K2に対してS6K1に選択的な核酸配列には、アミノ酸33〜77およびアミノ酸454〜525(番号はUS2003/0083284における配列番号3のものを参照する、出典明示により該文献を本明細書の一部とする)またはその一部が含まれ、これは典型的には、少なくとも15、18またはそれ以上のヌクレオチド長である。配列比較は、本質的には上記のとおり、FASTAおよびFASTP(Pearson & Lipman, 1988. Methods in Enzymology 183: 63-98参照)を使用して該配列の特異性を確立することで、行うことができる。
【0067】
アンチセンスの代替物は、2本鎖RNA(dsRNA)を使用することであり、これはアンチセンス単独よりも遺伝子サイレンシングにより有効であることが発見されている(Fire A. et al Nature, Vol 391, (1998))。dsRNA介在サイレンシングは、遺伝子特異的であり、そしてしばしばRNA干渉(RNAi)と呼ばれる(Fire (1999) Trends Genet. 15: 358-363, Sharp (2001) Genes Dev. 15: 485-490, Hammond et al. (2001) Nature Rev. Genes 2: 1110-1119 and Tuschl (2001) Chem. Biochem. 2: 239-245も参照)。
【0068】
RNA干渉は、2段階プロセスである。第1に、dsRNAが細胞中で切断されて、5’末端リン酸および3’短オーバーハング(〜2nt)を有する約21〜23nt長の短い干渉性RNA(siRNA)が得られる。siRNAは、破壊に特異的な対応するmRNA配列を標的にする(Zamore P.D. Nature Structural Biology, 8, 9, 746-750, (2001))。したがって、ある態様において、阻害は、たとえば2本鎖RNAであり得るS6Kコード化配列を含む2本鎖RNA、とりわけS6K1に選択的な配列(これはたとえば上記のとおり、siRNAに処理される)を使用して達成される。PKR経路のような細胞性防御機構を、典型的には、個々の成分に向かっているsiRNAを使用して、回避する必要があるだろう。これらのRNA産物は、インビトロで、たとえば常套の化学合成法によって、合成され得る。
【0069】
しかし、PKR経路を回避するために、3’オーバーハング末端を有する約21〜23ヌクレオチド長の化学的に合成されたsiRNA2本鎖が、好ましくは使用される(Zamore PD et al Cell, 101, 25-33, (2000))。合成siRNA2本鎖は、哺乳類細胞株の広い範囲の内因性および異種遺伝子の発現を特異的に抑制することが示されている(Elbashir SM. et al. Nature, 411, 494-498, (2001))。
【0070】
したがって、S6K2に対してS6K1に選択的な配列の、20〜25bp、より好ましくは21〜23bpを含むsiRNA2本鎖は、たとえば合成的に、所望により、分解を防ぐために保護された形態で生産されるような、本発明の1つの形態の局面を含む。
【0071】
あるいは、siRNAを、インビトロ(回収および使用のために)またはインビボで、ベクターから生産することができる。したがって、該ベクターは、当業者に既知のいずれかの方法において、たとえば、本明細書に記載のいずれかの参考文献(参照により、具体的に本明細書の一部とする)に記載のとおりに、siRNAを細胞中に導入するのに好適な、S6Kをコード化する核酸配列(その変異体またはフラグメントをコード化する核酸配列を含む)を含み得る。
【0072】
1つの態様において態様、該ベクターは本発明に記載の核酸配列を、センスおよびアンチセンスの両方向で含み得、RNAとして発現されるとき、センスおよびアンチセンス部分は結合して2本鎖RNAを形成する。これは、たとえば、長い2本鎖RNA(たとえば23ntより長い)であり得、インビトロでダイサー(Dicer)で処理してsiRNA(たとえばMyers (2003) Nature Biotechnology 21:324-328参照)またはsiRNA、ヘアピン構造を生産することができる。あるいは、該センスおよびアンチセンス配列は、異なるベクター上で提供される。これらのベクターおよびRNA産物は、たとえば細胞中のS6Kポリペプチドの新規生産を阻害するために有用である。かかる核酸およびベクターは、宿主細胞中へ導入され得、または哺乳類へ好適な形態で投与され得る。
【0073】
したがって、siRNAのような核酸を、S6K1活性を阻害するために投与することができる。siRNA技術は、S6K1に特異的な配列、たとえばAGTGTTTGACATAGACCTGまたは好ましくはAAGGGGGCTATGGAAAGGTTTに基づいて日常的に適用され得る。siRNAの標的化された発現は、脂肪組織、筋肉、肝臓またはインシュリン抵抗性およびグルコース恒常性を仲介する他の組織に特異的なプロモーターのような組織特異的プロモーターを使用して達成することができる。
【0074】
しかし、投与の簡便のため、該化合物は好ましくは、触媒部位またはATP結合部位と結合することのできる小分子である。アイソフォーム特異的阻害のために、該化合物は、S6K1とS6K2との間で高度に保存されていない、S6KのC末端ドメインで干渉し得る。
【0075】
潜在的なS6K調節剤を改善するために、単離されたS6Kを全体のタンパク質の2次もしくは3次構造または少なくとも酵素活性に関与する領域を確立するために使用することができる。該3次構造の同定のための常套の方法は、たとえば、X−線試験またはNMR試験である。これらから得られるデータまたは比較方法は、S6Kの調節剤の同定または改善、たとえばS6K1とS6K2の間の選択性を提供するために、直接または間接的に使用され得る。この観点において一般的に使用される方法は、たとえば、コンピューター支援薬剤デザインまたは分子モデリングである。
【0076】
本発明の化合物は、上記技術を使用したスクリーニングによって同定することができ、そして、天然の、または確立された方法によって遺伝的に修飾された供給源から抽出することによって、またはとりわけ低分子量化学化合物の場合には合成によって、製造される。タンパク性化合物を、組み換え発現系、たとえばバキュロウイルス系中で、または細菌系中で、発現させることによって製造することができる。タンパク性化合物は主に、シグナル伝達経路の機能を調査するために有用であるが、それらはS6キナーゼ1に対するヒト化阻害抗体のような治療適用を有し得る。
【0077】
低分子両化合物は、一方で、確立された方法による化学合成によって製造される。それらは主として治療剤として示される。PKC阻害剤、またはその誘導体もしくは修飾体は、S6K1を選択的に阻害するのに、そしてインシュリン抵抗性または糖尿病を処置するのに有効な潜在的な薬剤として使用することができる。低分子両化合物および有機化合物は一般的に、インシュリン抵抗性または糖尿病の処置に使用するための薬剤として有用であり得る。
【0078】
本発明はまた、インシュリン抵抗性を減少させるための方法であって、細胞、とりわけ筋細胞、含脂肪細胞および/または肝細胞を有効量のS6キナーゼ1阻害剤と接触させることを含む方法を提供する。したがって、本発明はまた、インシュリン抵抗性および糖尿病の処置において使用するためのS6キナーゼ活性を直接調節する化合物を提供する。とりわけ、インシュリン抵抗性または糖尿病を有するかまたは進行のおそれがある個体の処置において使用するための、S6K2活性に対してS6キナーゼ1活性を選択的に阻害する化合物(たとえば、S6K2の阻害をもたらすであろうmTORの阻害剤(好ましくは回避される)ではない)を提供する。
【0079】
本明細書において使用するとき、糖尿病は、脂肪蓄積から、または高い循環脂肪酸からもたらされる肥満または体重過剰状態からもたらされる、II型糖尿病を意味する。したがって、減少した膵臓β細胞に帰着する状態よりもむしろ、高脂肪食からもたらされるインシュリン抵抗性または糖尿病が意図される。
【0080】
インシュリン抵抗性または糖尿病を処置において使用するためのS6K調節剤(たとえば阻害剤)は、調整剤の正確な性質に依存して、常套の方法論にしたがった医薬として製剤され得、そして典型的には該調節剤またはその前駆体を、生物学的に許容される担体と共に含んでなる。様々な治療を考慮すると、かかる治療が、S6K1の発現を示す組織、とりわけ脂肪組織、肝臓および筋肉を標的とし得ることが理解される。
【0081】
化合物は治療的に有効な投与量で投与される。“治療的に有効な量”なる用語は、本明細書において使用するとき、その量の化合物(複数も可)または医薬組成物が組織、系、動物またはヒトにおいて、利益のある生物学的、医薬的反応を誘発させることを意味する。たとえば、S6K1阻害化合物の治療的に有効な量は、インシュリン抵抗性または糖尿病において臨床的に検出可能な改善を導く量である。
【0082】
処置には、インシュリン抵抗性の症状を軽減する目的での個体の管理または治療が含まれる。処置には、障害の症状または合併症の発生の予防、症状または合併症の軽減、あるいは状態または障害の除去のための、化合物の投与が含まれる。
【0083】
該調節剤の影響を受けている細胞および組織への送達は、適切なパッケージまたは投与系を使用することで達成され得る。たとえば、該調節剤は、医薬投与のために許容される薬剤と、治療的に使用するために製剤され得、そして対象に、所望の生理的な効果を生み出すために許容される経路によって、送達され得る。有効量は、所望の生理的な効果、たとえば減少したインシュリン抵抗性およびII型糖尿病を生み出す量である。
【0084】
本発明のさらなる局面において、本発明はまた、インシュリン抵抗性または糖尿病の処置または予防的処置用医薬の製造のための、調節剤(たとえばS6キナーゼ1の選択的阻害剤)を提供する。好適な調節剤、とりわけ阻害剤、たとえば機能もしくは上記他のアッセイにおいて同定されたものを、たとえばさらなる毒性についての試験の後に、医薬へと導入することができる。したがって、対応する方法は、疾患用医薬として選択された調節剤、たとえばインシュリン抵抗性または糖尿病を制御することが望まれているものを、製剤する工程をさらに含み得る。これらの疾患の処置において使用するためのかかる阻害剤および医薬は、そしてそれらの使用を含む処置法は、さらなる本発明の局面を形成する。
【0085】
上記構成要素にくわえて、該組成物は、薬学的に許容される賦形剤、保存剤、可溶化剤、増粘物質、安定化剤、湿潤剤、乳化剤、甘味剤、着色剤、香味剤、浸透圧を変化させるための塩、バッファー、またはコーティング剤を含む。かかる物質は、無毒であるべきであり、そして有効成分の効果と干渉するべきではない。担体または他の物質の正確な性質は、投与経路に依存し得る。技術およびプロトコルの例は、“Remington's Pharmaceutical Sciences”, 16th edition, Osol, A. (ed.), 1980)において見ることができる。
【0086】
該組成物が医薬組成物へと製剤されると、その投与は、経口、経鼻(たとえば経鼻スプレーの形態で)または直腸(たとえば座薬の形態で)的のような経腸的(parentally)に達成され得る。しかし、投与はまた、筋肉内、静脈内、皮膚、皮下、または腹腔内のような(たとえば注射溶液の形態で)非経腸的に達成され得る。
【0087】
したがって、たとえば、該医薬組成物が錠剤の形態であるとき、ゼラチンまたはアジュバントのような固体担体を含み得る。錠剤、コーティング錠、糖衣錠および硬ゼラチンカプセル剤の製造のために、該活性化合物およびそれらの薬学的に許容される酸付加塩が、薬学的に不活性な、無機または有機賦形剤と共に処理され得る。ラクトース、トウモロコシ、デンプンまたはそれらの誘導体、タルク、ステアリン酸またはその塩等が、たとえば錠剤、糖衣錠および硬ゼラチンカプセル剤のためのかかる賦形剤として使用され得る。軟ゼラチンカプセル剤のための賦形剤は、たとえば、植物油、ワックス、脂肪、半個体および液体ポリオール等である。該組成物が液体医薬組成物の形態であるとき、一般的に、液体担体、たとえば水、石油、動物もしくは植物油、鉱油または合成油が含まれる。生理食塩水溶液、デキストロースまたは他のサッカライド溶液またはエチレングリコール、プロピレングリコールもしくはポリエチレングリコールのようなグリコール類も含まれ得る。溶液およびシロップ剤の製造のための他の好適な賦形剤は、たとえば、水、ポリオール、サッカロース、転化糖、グルコース、トレハロース(trihalose)等である。注射溶液のための好適な賦形剤は、たとえば、水、アルコール、ポリオール、グリセロール、植物油等である。静脈内、皮膚もしくは皮下注射、または脳へのカテーテル内輸液のため、該有効成分は、ピロゲンを含まない、そして好適なpH、等張性および安定性を有する、非経腸的に許容される水溶液の形態中にある。当業者は、たとえば、等張ビークル、たとえば塩化ナトリウム注射液、リンガー注射液、乳酸加リンガー注射液を使用して、好適な溶液を製造することが十分可能である。保存剤、安定化剤、バッファーおよび/または他の添加物は、所望により含まれ得る。
【0088】
また、糖尿病およびインシュリン抵抗性のための処置を評価する方法を提供し、該方法は、治療剤(たとえば本発明において提供されるスクリーニング法によって同定された)を、S6キナーゼ遺伝子、とりわけS6K1を含む非ヒト動物に投与し、そして該薬剤のインシュリン抵抗性に対する効果を測定することを含む。あるいは、脂肪、筋肉もしくは肝臓組織、または末梢血のようなサンプルを、採取し、S6Kに対する調節効果を確立するためのS6Kレベルまたは活性レベルについて試験することができる。
【0089】
さらに、インシュリン抵抗性または糖尿病のための処置を評価する方法であって、潜在的な治療剤を、S6キナーゼ欠損(たとえばノックアウト動物)、とりわけS6K1欠損非ヒト動物に投与すること、そして該薬剤の効果を測定することを含む方法。かかる方法は、同定された治療剤の望ましくない何らかの副作用が存在するか否かを確立するために使用することができる。
【0090】
本発明は、高脂肪食を与えられた野生型マウスが著しくS6K1活性を上昇させるということを示す(実施例9参照)。したがって本発明はまた、インシュリン抵抗性または糖尿病に対する素因を診断する方法であって:個体からサンプルを得ること、サンプル中のS6キナーゼ、好ましくはS6キナーゼ1のレベルを検出すること、そして正常対照値または値の範囲と比較したときのサンプル中のS6キナーゼの量の変化を、インシュリン抵抗性または糖尿病に対する素因と相関させることを含んでなる方法を提供する。S6キナーゼの存在は、抗体を使用して、または上記活性アッセイを使用して、容易に測定され得る。S6K発現はまた、転写レベルで、たとえばPCR技術を使用して、検出され得る。タンパク質レベルが検出されるとき、S6K1特異的測定が望まれるときには、S6K2に特異的な抗体を対照として使用することができる。一般的に、正常対照値または値の範囲と比較したとき、少なくとも10%、好ましくは少なくとも20%、30%、40%または50%のS6キナーゼ1活性の増加は、インシュリン抵抗性または糖尿病に対する素因の指標である。最も好ましくは、活性の増加は少なくとも対照値のものより2倍より多い。該サンプルは、任意の組織サンプルまたは体液であり得るが、好ましくは脂肪、筋肉、または肝臓組織である。
【0091】
S6K1(S6K2のような他のS6Kアイソフォームから独立している)のキナーゼ活性を測定するために、サンプルを試験対象から得る。該サンプル中に存在する細胞を、溶解し、タンパク質を抽出し得る。所望により、さらに、精製工程を行うことができる。該サンプルを、次いで、当業者に既知のS6K1特異的抗体を使用して免疫沈降させ得る。S6K1の免疫沈降後、標準キナーゼアッセイを上記のとおり行う。
【0092】
本発明はさらに、説明の目的のみで、下記の実施例において記載される。
【実施例】
【0093】
本明細書および実施例において言及されているが、明白には記載されていない分子遺伝学、タンパク質およびペプチド生化学、ならびに免疫学の方法は、科学文献において報告されており、当業者に既知である。たとえば、遺伝子工学において標準的な方法は、本質的に、Sambrook et al., Molecular Cloning: A laboratory manual, 2nd Ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor NY, 1989において記載のとおりに行う。
【0094】
実施例1:S6K1欠損マウスは野生型よりも小さい。
S6K1欠損マウスは、胚発生の間体の大きさの減少を有することは以前に示されていたが、その影響は成体になるまでにほとんど克服され11週齢で20から15%に減少すると考えられていた。本実施例は、それらの加齢のために、S6K1欠損マウスが野生型マウスと比べてより低い体重を維持することを示す。通常食餌(NCD、全カロリーの4%は脂肪に由来する、3035kcal/kg、 KLIBA-NAFAG, Switzerland)の雄マウスを、10週齢から17週間にわたって追跡する。
【0095】
S6K1欠損マウスをShimaら(1998, EMBO J., 17, 6649-6659)の記載のとおりに生み出した。マウスをC57BI/6および129Oiaマウス株に由来するハイブリッドバックグラウンドで維持し、12匹のグループで飼育し(3つのケージ中で)そして12時間明/12時間闇サイクル(06:00GMTに点灯)で維持した。体重を、通常食餌を与えられた野生型(wt)とS6K1欠損マウスにおいて週毎に記録した。予期せぬことに、該結果は、S6K1−/−マウスの体重の増加が、野生型のものよりもよりゆっくりであり、10週と比較したとき、27週での体重の差は25%に増加したことを示す。S6K1−/−マウスが野生型(wt)マウスと比較したとき、体重の偏差が少なかったことも注意するべきである。
【0096】
実施例2:S6K1欠損マウスは体脂肪が減少した。
マウスを、実施例1に記載のS6K1欠損マウスによって示されるより低体重の原因を決定するために、解剖した。S6K1欠損マウスは腹腔内脂肪体をほとんど有さないことを示した。各脂肪質量および臓器質量を6月齢の雄マウスから除去した組織から秤量した。S6K1マウスの解剖は、野生型マウスと比べて、精巣上体白色脂肪組織脂肪の顕著な減少を示した(3.4%+/−0.1%と比較して0.8%+/−0.1%;値は平均値+/−標準平均誤差;S.E.M)。褐色脂肪組織/体重の割合も、S6K1欠損マウスにおいて減少した(1.0+/−0.1%と比較して0.5%+/−0.05%)が、一方で臓器の大きさには本質的には影響がなかった。同様の結果が雌マウスにおいても見られた。脂肪の減少は、肝臓または筋肉における脂肪の蓄積の選択的減少とは関係しなかった。
【0097】
該結果は、S6K1−/−マウスが、野生型マウスと比べて白色体脂肪および褐色脂肪が減少したことを確立する。
【0098】
実施例3:S6K1欠損含脂肪細胞はより小さい。
なぜS6K1欠損マウスがより少ない脂肪を示すのかを確立するために、脂肪組織切片をヘマトキシリンおよびエオシンで染色し、そして組織学顕微鏡を使用して20倍で可視化した。S6K1欠損マウス由来の精巣上体白色脂肪組織(WAT)および褐色脂肪組織は、野生型と比較したとき、より小さな細胞の大きさを示した。
【0099】
電子顕微鏡の精査による、またはヘマトキシリン−エオシン染色のいずれかによる、精査精巣上体脂肪体における脂肪細胞の大きさの分析は、細胞の大きさの顕著な減少を示し、定量はS6K1−/−マウス由来の含脂肪細胞は野生型マウスのものよりも71%小さいことを示し(wt:3129±904、n=3;S6K1−/−:918±189mm2、n=3、P<0.05)、多くの含脂肪細胞は多房性の表現型を示した。これらの試験はまた、細胞の大きさの分布は、体重のように、野生型マウスと比較して、S6K1−/−マウスにおいてより均一であったことを示し、そして細胞表面積対全重量の概算は、細胞数にほとんど影響がないことを示唆した。要約すると、電子顕微鏡、組織学、および細胞密度/大きさ分析の結果は、S6K1欠損動物における脂肪の減少は脂肪細胞の大きさの減少に起因することを確立する。
【0100】
実施例4:食餌はS6K1欠損マウスのより少ない脂肪の原因ではない。
S6K1マウスが野生型マウスに対して食餌の差を示すか否か(これは、S6K1マウスにおける脂肪の減少を説明し得る)を確立するために、マウス1匹毎に摂取した食事を1日おきに15日間、通常食または高脂肪食を使用して、測定した。通常食または高脂肪食のいずれで飼育したかに関わりなく、S6K1欠損マウスは野生型と同様に、同じ合計食物量を食べた(約4.6+/−0.1g食物/マウス/日)が、体重で比較すると、それらはより多く食べた(約17%またはそれ以上、言い換えると0.15g食物/体重g/日と比較して0.18)。
【0101】
さらに、それらの細身の見かけにかかわらず、該マウスはグルコース恒常性が正常であるとおり、飢餓状態ではなく(下記表I)、これはケトン体形成の増加が存在しなかったという事実と一致した(野生型マウスについてD−β−ヒドロキシブチレート値1.3mg/dl±0.05、n=8;S6K1−/−マウスについて1.4mg/dl±0.1、n=7;P=0.8)。
【0102】
実施例5:S6K1欠損マウスは上昇した代謝速度を示す。
増えた食物摂取は、減少したWATと合わせて、上昇した代謝活性の可能性を高めた。S6K1欠損マウスおよび野生型マウスの代謝速度を酸素消費および二酸化炭素生産を15分ごとに、8時間の絶食期間にわたって、オキシマックス(Oxymax)(Columbus Instruments, Columbus, OH)を使用して観察して、間接熱量測定によって試験した。
【0103】
結果は、本試験を通して、野生型マウスに対してS6K1−/−マウスにおける酸素消費速度の27%の顕著な増加を示す。呼吸交換速度の計算(RER=O2消費に対するCO2生産の速度)によって、野生型マウスについて0.713±0.004、そしてS6K1−/−マウスについて0.709±0.003;P<0.01の値を得、これは両動物がエネルギー源として脂肪酸を主に利用したことを立証る。
【0104】
代謝アッセイは下記のとおりに行った。血液を、一晩絶食の後、または一晩絶食の後の食事開始1時間後、眼窩洞後部(retroorbital sinus)から採取した。非エステル化脂肪酸、そしてトリグリセリドを酵素アッセイ(Boehringer-Mannheim, Germany)によって測定した。血漿レプチンを、ラットレプチンRIAキット(Rat leptin RIA kit)(Linco Research, St Louis, MO.)を使用して測定した。結果を表Iに示す。血漿レプチンレベルは、体重と比べてマウスの食物の消費が増加し続けたが、S6K1−/−マウスにおいて顕著に減少した(表I)。
【0105】
表I 一晩絶食の後の、通常または高脂肪食を与えられた、6月齢の雄野生型マウスおよびS6K1欠損マウスの、食後1時間のインシュリン、トリグリセリド、遊離脂肪酸およびレプチンレベル
【表1】

データは平均±s.e.mを示す。は、野生型と比較してP<0.05(n=6〜18)。
P値は両側、対応なしスチューデントt−検定によって計算される。
【0106】
理論によって拘束されることを望むものではないが、脂肪組織重量の減少、代謝速度の上昇、そして体重で補正したとき、血漿トリグリセリドおよび遊離脂肪酸が遺伝型間で類似であることを考慮して(表I)、S6K1の不存在下において、脂肪組織中のトリグリセリドが急速に利用されたか、または遊離脂肪酸が決して貯蔵のために脂肪に到達せず、しかし急速に筋肉によって取り込まれ酸化されると結論付けられた。
【0107】
WATは通常エネルギー消費組織ではないが、野生型マウスと比較したときS6K1−/−マウスにおける循環脂肪酸の基底レベルに差がないこと(表I)が、遊離脂肪酸がWAT中で直接酸化され得ることを示唆した。この仮説と一致して、電子顕微鏡は多くの多房性含脂肪細胞(これはミトコンドリアの大きさおよび数の劇的な増加を示し、野生型マウス由来の含脂肪細胞において全く存在しない表現型である)の存在を示した。その他は、WATにおけるUCP1の過剰発現は同様の表現型を誘導し、そして定量実時間PCRによって測定されるUCP1レベルを、野生型マウス由来のWATと比較してS6K1−/−マウスに由来のWATにおいて劇的に上方制御したことを示す。
【0108】
実施例6:S6K1欠損マウスは上昇した基礎脂肪分解を示す。
脂肪組織におけるトリグリセリドの破壊(脂肪分解)を、成熟含脂肪細胞からの脂肪酸またはグリセロールのいずれかの放出を観察することによって測定した。初期の含脂肪細胞を精巣上体脂肪体からコラゲナーゼ消化によって本発明以前に記載のように製造した(Marette et al., 1991)。細胞を30分、37℃にて、様々な濃度(10−8〜10−5M)のノルエピネフリン(Sigma-Aldrich SARL, St-Quentin Fallavier, France)有りまたはなしで、インキュベートした。ノルエピネフリンはβ−アドレナリン性アゴニストであり、トリグリセリドのグリセロールおよび遊離脂肪酸への分解(脂肪分解)を刺激し、そして基礎代謝速度を上昇させる(熱発生)。精巣上体含脂肪細胞の細胞の大きさの減少にもかかわらず(実施例3参照)、結果は、脂肪酸放出の基礎速度が野生型マウスと比較したとき、S6K1−/−マウス由来の含脂肪細胞において約5倍高かったことを示した。脂肪酸放出の速度は、両遺伝型において、ノルエピネフリンの添加による用量依存法で増加し、同様の最大値を達成し、野生型マウスにおいてより急激に増加した。同様の結果がグリセロールの放出について得られた。したがって、S6K1−/−マウスは一部は基礎脂肪分解における鋭い増加のために、脂肪蓄積から保護されている。
【0109】
実施例7:S6K1欠損マウスは脂質生成の障害を示す。
脂肪分解のための成熟含脂肪細胞の単離の間に、前含脂肪細胞がS6K1−/−マウスの精巣上体にほとんど存在しないことが明らかとなった。このことは、含脂肪細胞がトリグリセリドを貯蔵できないことと共に、含脂肪細胞への分化のための、含脂肪細胞分化混合を使用した、S6K1−/−および野生型胚由来のマウス胚繊維芽細胞(MEF)の能力を比較する実験を促した。
【0110】
簡潔に記載すると、含脂肪細胞分化は、本質的には野生型またはS6K1欠損マウス胚繊維芽細胞(MEF)を使用した本発明以前の記載のとおりに誘導された(Hansen et al., 1999, J. Biol. Chem., 274, 2386-2393)。MEFの継代数は1代以内であった。分化のために、2日ポストコンフルエント細胞(0日目)を1μMデキサメタゾン(Sigma)、0.5mMメチルイソブチルキサンチン(Aldrich)、5μg/mlインシュリン(Boehringer Mannheim)、およびシグリタゾン(Ciglitazone)(チアゾリンジオン、PPARアゴニスト:BIOMOL、GR−205、0.5μM)を含む成長培地で2日間処置した。2日目から、該培地は5μg/mlインシュリンおよびシグリタゾンを含み、そして1日おきに交換した。オイルレッドO染色:オイルレッドO染色液(イソプロピルアルコール溶液−蒸留水(60:40)中の0.5%オイルレッドO)を濾過した。細胞をPBSで洗浄し、30分染色し、次いで蒸留水で2度洗浄した。S6K1における細胞欠損は、より少ない染色を示した。したがって、S6K1を欠くMEFは、オイルレッドO脂肪染色の減少によって評価されるように、減少した脂質生成能を有し、これは、P2 mRNAのより低いレベルと一致した。総合すると、該結果は、脂質生成の障害および脂肪の貯蔵ができないことのために、S6K1−/−マウスは減少したWATを有することを示唆する。
【0111】
実施例8:S6K1欠損マウスは食餌により誘発される肥満に対して保護されている。
S6K1−/−マウスの年齢と共に脂肪を蓄積しないことと併せて、それらの全体的な代謝速度の増加は、それらが食餌により誘発される肥満に対して保護され得ることを示唆した。この実施例において、体重を高脂肪食(HFD、全カロリーの60%が脂肪に由来する、4057kcal/kg、 Research diets, USA)を与えられた野生型およびS6K1欠損マウスにおいて、1週間毎に記録した。S6K1マウスが高脂肪食で飼育したとき、S6K1欠損マウスの絶対的な体重増加は、高脂肪食餌期間(7〜27週齢)で10.5gであり、それと比べて野生型マウスにおいては約14.4gであった。NCD(実施例1)での刺激と同様に、S6K1−/−マウスは、野生型マウスと比較して、HFDにおける体重の変化がわずかであることを示した。ノックアウトのより小さな体の大きさを考えると、相対的な体重増加は遺伝型間で類似であった(高脂肪食餌5ヶ月後、S6K1欠損マウスにおいて58.9%の体重増加であり、これに対し野生型において58.0%の体重増加)。S6K1欠損マウスにおける体重増加の相対的な割合が野生型と類似であったにもかかわらず、それらは野生型マウスと同程度には脂肪がつかなかった。3ヶ月にわたって、S6K1欠損マウスでは0.02g/脂肪g/体重と比較して野生型マウスは0.1g/g増加した。
【0112】
両遺伝型のマウスは、おそらくNCDと比較してHFDの高カロリー密度のため、NCDよりも少ないHFD食を消費した。絶対的にはS6K1−/−マウスは野生型マウスと同様の量の食物を消費したが、体重で標準化したとき、それらは44%多い食物を消費する。したがって、S6K1マウスはより多く食べたにもかかわらず、野生型マウスと同じ程度には脂肪がつかない。
【0113】
間接熱量測定を、HFDおよびNCDマウスの8時間絶食期間にわたって行った。両遺伝型において、酸素消費がNCDと比較してHFDで増加したが、その効果はS6K1−/−マウスでより顕著であり、S6K1−/−マウスと野生型マウスの間の差は25%〜30%増加した。該データはさらに、HFD対NCDのS6K1−/−マウスにおいてそれぞれ、0.708±0.002対0.709±0.004と不変のままであったこと、一方で野生型マウスにおいて、RERがNCD食餌での0.713±0.004からHFD食餌での0.729±0.002(n=6、P<0.01)へと増加した(これは脂肪酸酸化と比べて炭水化物酸化の増加の指標)ことを示した。いずれかの食餌のS6K1−/−マウスが高い代謝速度を示したにもかかわらず、HFDでのそれらは循環遊離脂肪レベルの3倍の増加を示したが、一方で野生型マウスにおいては、遊離脂肪酸レベルに顕著な変化は存在しなかった(表I)。したがって、S6K1−/−マウスは、HFDに挑戦したとき相当の速度での脂肪蓄積ができない。
【0114】
実施例9:高脂肪食餌での肥満動物および野生型動物は、脂肪組織において上昇したS6K1リン酸化を示す。
S6K1が正常および肥満遺伝モデルに由来の脂肪組織において影響されるか否かを試験するために、S6K1のリン酸化を検出した。これは、リン特異的抗体を使用して容易に行うことができる。短い期間絶食の野生型マウスの脂肪組織におけるS6K1 T389およびS6 S240/S244リン酸化のレベルを測定した。成長因子刺激のため、S6は、Ser236で始まり、続いて順次、>Ser235>Ser240>Ser244そしてSer247の規則正しい様式での5つのセリン残基のカルボキシ末端で、複数リン酸化される。S6K1 T389およびS6 S240/S244リン酸化の基本レベルは、NCDで維持した後短い期間絶食のマウスにおいて低い。顕著な対比において、HFDで維持し、同じ条件下で処置した同じマウスは、S6K1 T389およびS6 S240/S244リン酸化の高く上昇したレベルを維持した。
【0115】
本発明者らはまた、ob/obマウス(肥満の遺伝モデル)におけるS6K1活性を試験した。該結果は、NCDで維持したob/obマウスは、NCDの野生型マウスと比較して、上昇したS6K1 T389およびS6 S240/S244リン酸化を有することを示す。予備的なヒトデータは、これらのデータと一致し、そしてさらに、肥満を有する患者の処置における見込みのある薬剤標的として、そして潜在的な診断マーカーとしてのS6K1に関する支持を提供する。
【0116】
実施例10:成熟S6K1欠損マウスはインシュリン抵抗性を示さない。
S6K1欠損マウスは、以前はそれらの末梢組織においてインシュリンに超感受性であると示唆されていた。これは、それらの生まれついての低インシュリン血症および軽度の耐糖能異常にもかかわらず、それらが正常空腹時グルコースレベルを維持するためである(Pende et al., 2000)。
【0117】
グルコース耐性試験およびインビボインシュリン分泌を、本発明以前の記載のとおりに行った(Pende et al., 2000)。インシュリン耐性試験を、0.75U/体重kgのインシュリンの腹腔内注射によって、3時間絶食後に行った。血液を注射前、注射後15、30、60および90分に集めた。
【0118】
通常食餌では、より成熟したS6K1欠損マウスは、野生型マウスに対して、インシュリン耐性試験によるグルコースクリアランスの適度に速い速度によって示されるとおり、上昇したインシュリン感受性へのわずかな傾向を示す。しかしながら、その効果は小さい。これは、高脂肪食餌を与えられたS6K1欠損マウスは、野生型マウスのように、高脂肪食餌を与えられたなら、インシュリン抵抗性となることの可能性を上昇させた。
【0119】
予期せぬことに、かかる分析の結果は、インシュリン抵抗性の病因に関係する遊離脂肪酸の顕著な増加にもかかわらず(表1)、S6K1欠損マウスはインシュリン感受性を残し、一方で野生型マウスは高脂肪食餌から予期されたとおりの強いインシュリン抵抗性を見せることを示す。これと一致して、野生型マウスは、通常食餌のマウスの適合する組と比較して、高脂肪食餌で耐糖能異常となる。しかし、高脂肪食餌のS6K1欠損マウスは、食後(1時間)の循環インシュリンレベルにおいてさらに顕著な減少を示すにもかかわらず(表1)、グルコース耐性のままである。
【0120】
実施例11:高脂肪食餌のS6K1欠損マウスにおけるインシュリン感受性の機構。
この実施例はどのようにS6K1欠損マウスが高脂肪食餌のそれらの末梢組織においてインシュリンに対する超感受性が残るのかを扱う。
【0121】
6時間絶食の後、マウスを麻酔し、そして0.75U/kgインシュリン(Eli Lilly)または当量のビークルを静脈注射で投与した。肝臓、脂肪(精巣上体脂肪体)および筋肉(腓腹筋)を注射の5分後に、液体窒素中に集めた。インシュリンレセプターのチロシンリン酸化を肝臓において測定した。組織サンプルからのタンパク質抽出物(1mg)を、免疫沈降のために製造し、そして記載のとおり(Hirosumi, 2002)に分析した。抗体をSanta Cruz(抗−インシュリンレセプターβ)、Upstate Biotechnology(抗リンチロシン)およびCell Signaling(抗PKB、抗リンPKB−Ser473、抗リンS6K−Thr389、抗リンS6 240/244)、そしてUpstate Biotechnology(抗リンチロシン)から購入した。
【0122】
インシュリン注射後の脂肪組織におけるPKB活性の試験は、インシュリンシグナル伝達経路のためのレポーターとして、該キナーゼの活性が、通常食餌で生育したマウスに対して高脂肪食餌で維持した野生型マウスで抑制されたことを示した。しかし、野生型マウスとは対照的に、S6K1欠損マウスにおいては食餌に関係なく、PKB活性の顕著な差が存在しなかった。S6K1ノックアウト(ko)マウスにおけるPKB活性に対する高脂肪食餌の影響がないことはまた、肝臓および筋肉についても事実であった。
【0123】
インシュリンレセプター自己リン酸化の試験は、それが野生型マウスの肝臓において高脂肪食餌によっても強力に抑制されるが、S6K1−/−マウスにおいてはそうではないということを示し、これはインシュリンレセプターが負のフィードバックループの標的であり得るという可能性を高める。
【0124】
これらの発見を考慮して、高脂肪食餌のために、S6K1活性が上昇し、そしてこの上昇した活性がインシュリン抵抗性の誘導に関係するという可能性が高まった。この可能性を試験するために、本発明者らは、インシュリンの静脈内投与の5分後に、脂肪および筋肉におけるS6K1 T389リン酸化およびS6リン酸化のレベルを試験した。該結果は、S6K1 T389リン酸化の基本値は高脂肪食餌および通常食餌の両方で低いが、PKB Ser 473リン酸化とは対照的に、インシュリンはこれらのレベルをより高くさえ刺激し、潜在的にインシュリンシグナル伝達をさらに抑制することを示す。
【0125】
これらの発見は、肥満のヒトがインシュリン抵抗性となる潜在的な機構が、負のフィードバックループによってインシュリンシグナル伝達を抑制する栄養誘導性S6K1活性化によるものである可能性を上昇させた。この可能性を試験するために、本発明者らは、臨床的痩せ、肥満、または肥満かつ糖尿病である患者において、6時間の絶食期間の後にS6K1活性を試験した。該結果は、肥満および肥満/糖尿病患者は痩せ患者と比較して、上昇したS6K1レベルを有し、このことはS6K1がインシュリンシグナル伝達の主要な負のエフェクターである、フィードバックループと一致する。
【0126】
併せて考えた当該結果は、肥満が誘発する糖尿病を有する患者またはそれらの末梢組織においてインシュリン抵抗性を有する患者の処置において、S6K1が薬剤干渉の潜在的な標的であり得るということを強く提案する。
【0127】
本明細書中で言及したあらゆる文献、ならびに英国出願GB0224338.4(2002年10月18日出願)を、参照により、特に本明細書の一部とする。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
インシュリン抵抗性を処置するのに有効な薬剤を同定する方法であって、下記の工程を含む方法:
i)S6キナーゼと化合物をインキュベートすること;
ii)S6キナーゼ活性を測定すること;そして
iii)該化合物が存在しないときと比較して、S6キナーゼ活性における化合物誘導調節を測定すること、ここで、該化合物の存在下でのS6キナーゼ活性の変化は、インシュリン抵抗性を処置するのに有効な薬剤の指標である。
【請求項2】
該調節がS6キナーゼ1活性の阻害である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
該調節がS6キナーゼ2活性の活性化である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
S6を基質として使用してS6キナーゼ活性を測定することを含んでなる、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
ペプチドを基質として使用してS6キナーゼ活性を測定することを含んでなる、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
インシュリン抵抗性の処置に有効な薬剤のスクリーニング方法であって、
(a)転写的に活性な細胞内容物を、プロモーター配列と作動可能に連結したS6K遺伝子をコード化する核酸と、またはレポーター遺伝子と作動可能に連結したS6Kプロモーター配列と、少なくとも1種の化合物の存在下で接触させること;そして
(b)S6キナーゼ発現またはS6キナーゼプロモーター活性に対する該化合物の影響を検出すること、ここで、S6キナーゼ発現またはプロモーター活性における調節の検出は、インシュリン抵抗性の処置に有効な薬剤の指標である
を含んでなる、方法。
【請求項7】
該転写的に活性な細胞内容物および該核酸が細胞中に存在する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
該S6キナーゼがS6キナーゼ1であり、そして該調節がS6キナーゼ発現またはプロモーター活性の減少である、請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
該薬剤のインシュリン抵抗性に対する効果を検出することをさらに含んでなる、請求項6〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
請求項6〜9のいずれかによって同定された薬剤。
【請求項11】
インシュリン抵抗性を減少させる方法であって、該方法が含脂肪細胞、筋細胞または肝細胞を有効量のS6キナーゼ1阻害剤と接触させることを含んでなる方法。
【請求項12】
該S6K1阻害剤が、S6K2と比較して選択的にS6K1の酵素活性を減少させる、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
インシュリン抵抗性または糖尿病の進行を処置または予防する方法であって、対象に薬学的に有効量のS6キナーゼ調節剤を投与することを含んでなる、方法。
【請求項14】
該S6調節剤がS6K2と比較して選択的にS6K1活性を減少させる阻害剤である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
該阻害剤がS6K1におけるATP結合部位と結合する、請求項13または14に記載の方法。
【請求項16】
該阻害剤がS6K1の触媒ドメインと結合する、請求項13または14に記載の方法。
【請求項17】
該阻害剤がS6キナーゼ1に特異的な抗体または抗体フラグメントである、請求項13〜16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
該阻害剤がS6キナーゼ2と比較して選択的にS6キナーゼ1の発現を減少させるアンチセンス、リボザイムまたはsiRNAである、請求項13または14に記載の方法。
【請求項19】
インシュリン抵抗性またはインシュリン抵抗性の素因を診断する方法であって:
(a)哺乳類由来のサンプルにおけるS6キナーゼ活性のレベルを検出すること;そして
(b)正常対照値または値の範囲と比較したときの、S6キナーゼ活性の変化をインシュリン抵抗性またはインシュリン抵抗性の素因と相関させること
を含んでなる、方法。
【請求項20】
該S6キナーゼ活性がS6K1酵素活性である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
正常の対照と比較したS6K1活性レベルの増加が、該哺乳類がインシュリン抵抗性を有するかまたはそれを発症する素因を有することを示す、請求項19または20に記載の方法。

【公表番号】特表2007−503203(P2007−503203A)
【公表日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−523617(P2006−523617)
【出願日】平成16年8月20日(2004.8.20)
【国際出願番号】PCT/EP2004/009368
【国際公開番号】WO2005/019829
【国際公開日】平成17年3月3日(2005.3.3)
【出願人】(502407336)ノバルティス・フォルシュングスシュティフトゥング・ツヴァイクニーダーラッスング・フリードリッヒ・ミーシェー・インスティトゥート・フォー・バイオメディカル・リサーチ (19)
【氏名又は名称原語表記】Novartis Forschungsstiftung Zweigniederlassung Friedrich Miescher Institute for Biomedical Research
【Fターム(参考)】