説明

インスリンレセプターαサブユニットの測定方法

血中に遊離のインスリンレセプターαサブユニットが存在することが見出された。そして、血液試料中のインスリンレセプターαサブユニットとインスリンレセプターαサブユニットを認識する抗体を接触させ、両者の結合を検出する工程を含む、インスリンレセプターαサブユニットの測定方法が提供された。血中の遊離のインスリンレセプターαサブユニットの測定は、糖尿病のリスクファクターの評価に有用である。 更に本発明の測定方法により、糖尿病あるいはがん患者における血中の遊離のインスリンレセプターαサブユニット濃度が有意に高いことが明らかにされた。血中の遊離のインスリンレセプターαサブユニットは、糖尿病あるいはがんのマーカーとして有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、血中の遊離インスリンレセプターαサブユニットの測定方法に関する。また本発明は、糖尿病並びにがんの診断方法に関する。
【背景技術】
インスリンは、生体のエネルギー源であるグルコースの代謝調節において重要な役割を果たしているホルモンである。膵ランゲルハンス島β細胞で産生されたインスリンは、インスリンレセプターを有する細胞に作用し、細胞によるグルコースの取り込みを促す。インスリンの作用によって、生体の血糖値は適切な範囲に維持されている。糖尿病は、なんらかの原因によってインスリンの作用が不十分になった結果としてもたらされる病態の1つである。
インスリンの作用が不十分になる主な原因として、インスリンの分泌機能の異常と、インスリンに対する感受性の低下があげられる。前者は1型糖尿病(Type 1 Diabetes Mellitus)と呼ばれる。1型糖尿病においては、インスリンに対する応答性は維持されているため、インスリンの投与によって血糖値のコントロールが可能である。1型糖尿病はインスリン依存性の糖尿病(Insulin Dependent Diabetes Mellitus;IDDM)とも呼ばれ、若年性の糖尿病の主な原因となっている。
一方、後者は、2型糖尿病(Type 2 Diabetes Mellitus)と呼ばれている。2型糖尿病は、インスリン非依存性糖尿病(Non−Insulin Dependent Diabetes Mellitus;NIDDM)とも呼ばれ、成人に多いタイプの糖尿病である。日本では糖尿病患者の95%が2型糖尿病であると言われている。2型糖尿病患者は、生体のインスリンに対する応答性が低下しているため、インスリンを投与しても血糖値をコントロールすることができない。2型糖尿病は幾つかの遺伝子異常と、肥満、ストレス、加齢などの環境因子が加わって発症すると考えられている。現在、日本にも約740万人の2型糖尿病患者がいると言われており、その数は高齢化にともなって増加している。糖尿病予備軍も含めると1620万人もの患者がいるという予測もある。したがって、2型糖尿病の診断や治療は、現代社会の重要な研究課題である。
現在までのところ、2型糖尿病の原因遺伝子は明らかになっていない。インスリン作用機構に関与する因子の遺伝子、またはインスリン分泌に関与する因子の遺伝子が候補遺伝子と予想されている。このうち、インスリン作用に関与する因子としては、次のような因子が考えられている。
インスリンレセプター、
インスリンレセプターサブストレート−1(IRS−1)、
グルコーストランスポータータイプ4など
またインスリン分泌に関与する因子の遺伝子として、次のような因子の関与が予想されている。
グルコーストランスポータータイプ2、
グルコキナーゼ、
ミトコンドリア遺伝子など
さて、インスリンが標的細胞に作用するには、その細胞膜上に存在するインスリンレセプターと結合することが必須である。また2型糖尿病の初期には、インスリン抵抗性が存在するという多くの報告がある(非特許文献1/Taylor,S.I.Diabetes 41:1473−1490,1992)。これらのことから、インスリンレセプターの異常と糖尿病の関係についても検討されてきた。インスリンレセプターの機能に異常が存在すると、高度のインスリン抵抗性を示し、重篤な糖尿病となるはずである。
一方、最近になって本発明者を含む研究者によって多くのインスリンレセプター異常症が発見され、変異の種類により患者の検査結果と症状が多彩であることが明らかとなってきた(非特許文献2/M.Taira et al.,Science 245:63−66,1989、非特許文献3/F.Shimada et al.,Lancet335:1179−1181,1990)。これにより2型糖尿病の発症原因の一部にインスリンレセプター遺伝子異常が存在する可能性が示唆された。実際本発明者らは、2型糖尿病の遺伝子診断を可能とする多型の1つを明らかにし、既に特許出願している(特許文献1/特開平8−103280)。
インスリンレセプターは、αとβの2つのサブユニットで構成されるヘテロ4量体構造の受容体蛋白質である。αサブユニットは細胞外にあり、βサブユニットは細胞膜を貫通している。αサブユニットはそのC末端側にあるCys残基のSH基を介して、βサブユニットの細胞外ドメインとSS結合によって結合している。
インスリンがαサブユニットと結合すると、βサブユニットの細胞内ドメインのチロシン残基が自己リン酸化され、インスリンのシグナルが細胞に伝達される。細胞膜にあったインスリンレセプターは、インスリンとの結合の後にエンドサイトーシスにより細胞内に取り込まれる(受容体の半減期は7時間)。インスリンレセプターの数はインスリン濃度の増加に伴って減少する。これを下降調節(down regulation)という。
本発明者らによって見出されたインスリンレセプターの多型は、βサブユニットの831位のThrがAlaに変異している(IRA831)。このアミノ酸の置換を原因とするインスリンレセプターの機能異常は確認されなかった。しかし、遺伝統計学的にはIRA831と2型糖尿病との強い関連性が示された。
一方、最近、いくつかの疾患においてレセプターの異常に基づく疾患、血中にフリーのレセプターが存在することによる疾患が報告されている(非特許文献4/Frode TS,Tenconi P,Debiasi MR,Medeiros YS ″Tumour necrosis factor−alpha,interleukin−2 soluble receptor and different inflammatory parameters in patients with rheumatoid arthritis.″Mediators Inflamm.2002 Dec;11(6):345−9、非特許文献5/Baron AT,Cora EM,Lafky JM,Boardman CH,Buenafe MC,Rademaker A,Liu D,Fishman DA,Podratz KC,Maihle NJ″Soluble Epidermal Growth Factor Receptor(sEGFR/sErbB1)as a potential Risk,Screening,and Diagnostic Serum Biomarker of Epithelial Ovarian Cancer.″Cancer Epidemiol Biomarkers Prev,2003 Feb;12(2):103−13、非特許文献6/Beguin Y.″Soluble transferrin receptor for the evaluation of erythropoiesis and iron status.″Clin Chem Acta,2003 Mar;329(1−2):9−22)。また、インスリンレセプターαサブユニットを血中に放出するトランスジェニックマウスにおいて、高血糖、高インスリン血症が観察されている(非特許文献7/ERIK M.SCHAEFER et al.DIABETES vol.43,143−153;1994)。しかし、ヒトにおいて血中に遊離のインスリン受容体が存在することは報告されていない。
さて、疾患にともなって生体試料におけるレベルが変化する物質は、しばしば疾患の診断マーカーとして有用である。たとえば生体試料に含まれるがんの指標となる物質は、腫瘍マーカー(tumor marker)と呼ばれる。生体試料に含まれる腫瘍マーカーは、がんが存在する場合にその存在レベルが健常者と比較して有意に変化している。したがって、腫瘍マーカーの測定値に基づいて、被検者ががんを有している可能性を推定することができる。通常、腫瘍マーカーのみでがんの有無を確定診断することは難しいとされている。しかし、がんに関する、より高度な詳細な検査を必要としている被検者をスクリーニングするには、腫瘍マーカーの測定は有効と考えられている。
また腫瘍マーカーの中には、がんの大きさや進行度に相関して、その測定レベルが変化するものがある。このような腫瘍マーカーは、がんの治療効果の指標として有用である。
これまでに多くの腫瘍マーカーが報告されてきた。一般に、腫瘍マーカーは、もともと正常な組織にも存在している物質であることが多い。また健常者であっても、生理的な条件や、がん以外の疾患によって、腫瘍マーカーの測定レベルが変化する場合もある。そのため、がんを有していない被検者が陽性と判定される可能性がある。がんを有していない被検者が陽性と判定されることを、偽陽性(false−positive)という。逆に、がんと診断されるべき被検者であっても、腫瘍マーカーが正常範囲にとどまる場合もある。この場合は、陽性であるべき被検者が陰性と判定される。これを偽陰性(false−negative)という。
陽性か陰性かの判定は、腫瘍マーカーの測定レベルとカットオフ値との関係によって求められる。つまり、がん患者で有意に測定値が高い腫瘍マーカーであれば、腫瘍マーカーの測定値がある値(カットオフ値)以上の場合に、がんが疑われる。一般に、カットオフ値を高く設定すれば、偽陰性が増加し、偽陽性が減る。逆に、カットオフ値を低くすれば、偽陰性は減るものの、偽陽性が増える。偽陰性の増加は、検査漏れを意味しているので、できるだけ小さいほうが望ましい。一方で、偽陽性の増加は、検査の必要の無い被検者に、より高度な検査を施すことになる。つまり、偽陰性あるいは偽陽性のいずれをも、許容できる範囲に留めることができる腫瘍マーカーは、より実用的な腫瘍マーカーであると言うことができる。
偽陽性や偽陰性をどの程度許容できるかは、そのがんの診断の難易度、治療方法の有無、あるいはがん患者の数などによっても変化する。また他に比較すべき腫瘍マーカーが知られているかどうかも、重要な判断基準である。更に、既にがんを有することが明らかな患者における治療効果の確認、あるいは再発の監視においては、腫瘍マーカーは継続して測定される。このような用途においては、偽陰性あるいは偽陽性の問題よりも、がんに対する応答特性が重要視される。これらの判断基準に基づいて、いくつかの腫瘍マーカーが実用化されている。以下に現在広く利用されている腫瘍マーカーの例を示す。
AFP(肝がん、腎がん、消化器系のがん)
CEA(肝がん、腎がん、消化器系のがん)
CA19−9(すいがん、胆道がん、大腸がん)
CA125(卵巣がん)
PSA(前立腺がん)
NSE(肺がん−小細胞がん−)
CYFRA(肺がん−扁平上皮がん−)
これらの腫瘍マーカーは、特定のがん種において、腫瘍マーカーとして実用化されたものと、比較的多様ながん種に対して腫瘍マーカーとして認知されているものがある。たとえば、NSEあるいはCYFRAなどは、特定のがん種に対する腫瘍マーカーである。他方、AFP、あるいはCEAなどは、比較的多様ながん種において、陽性化する腫瘍マーカーであると言える。
がん種に対する特異性が低く、多様ながん種の腫瘍マーカーとして利用可能な腫瘍マーカーは、特に広域性(broad spectrum)腫瘍マーカーと呼ばれる。広域性腫瘍マーカーは、幅広いがん種の検出や治療効果の判定に利用することができる点で、がん種特異的なマーカーよりも有利である。AFPあるいはCEAなどの公知の広域腫瘍マーカーは、肝臓、消化器、腎などの特定のがん種においては腫瘍マーカーとしての有用性が認められている。しかしその他のがん種においては、必ずしも腫瘍マーカーとしての有用性が認知されていない。したがって、公知の腫瘍マーカーでは診断することが困難ながん種をカバーすることができる腫瘍マーカーが提供されれば有用である。
いくつかの疾患においては、血中にフリーのレセプターが存在することが報告されている(非特許文献4〜6)ことは既に述べた。また、インスリンレセプターαサブユニットを血中に放出するトランスジェニックマウスが、高血糖、高インスリン血症を呈することも確認されている(非特許文献7)。しかし、ヒトにおいて血中の遊離のインスリン受容体ががんと関連していることを示唆する報告はない。これまでのインスリンレセプターαサブユニットと癌を結びつける知見といえば、1985年2月,米国Genentech社と米国MemorialSloan Kettering Cancer Centerのグループが、ヒト・インスリン受容体の遺伝子をクローン化、全アミノ酸配列を決定し、アミノ酸配列の解析から,上皮細胞増殖因子(EGF)受容体、およびガン遺伝子src蛋白と相同性があることがわかったことが挙げられる。
【発明の開示】
本発明は、血中に存在する遊離のインスリンレセプターのαサブユニットの測定方法および糖尿病並びにがんの診断方法の提供を課題とする。
本発明者らは、インスリンの作用を妨げる原因について研究を続けた。そして、血中に遊離の状態で存在するインスリンレセプターのαサブユニットが、インスリンの作用を妨げ、高血糖をもたらすことを明らかにした。本発明者らは、生体における遊離のインスリンレセプターαサブユニットと糖尿病の関係についての解析を進めるために、その測定系を確立する必要があると考えた。そこで本発明者らは、血中に遊離したαサブユニットの測定方法を確立し本発明を完成した。すなわち本発明は、以下のインスリンレセプターαサブユニットの測定方法、測定用試薬、糖尿病の診断方法並びに糖尿病の診断用試薬に関する。
〔1〕次の工程を含む、血中の遊離インスリンレセプターαサブユニットの測定方法。
(1)血液試料をインスリンレセプターαサブユニットを認識する抗体と接触させる工程、
(2)前記抗体と血液中に存在するインスリンレセプターαサブユニットの結合を検出する工程、および
(3)両者の結合のレベルに基づいて血中の遊離インスリンレセプターαサブユニットの量を決定する工程
〔2〕前記インスリンレセプターαサブユニットを認識する抗体が固相に結合しているか、または固相に結合可能な標識を有する第1の抗体であり、第1の抗体に結合したインスリンレセプターαサブユニットをインスリンレセプターαサブユニットを認識する第2の抗体の結合によって検出する工程を含む、〔1〕に記載の方法。
〔3〕インスリンレセプターαサブユニットを認識する抗体を含む、血中の遊離インスリンレセプターαサブユニットの測定用試薬。
〔4〕次の工程を含む、糖尿病の診断方法。
a)被検者の生体試料における、遊離インスリンレセプターαサブユニットの量を測定する工程
b)該遊離インスリンレセプターαサブユニットの量を、対照と比較する工程、および
c)該被検者の生体試料における該遊離インスリンレセプターαサブユニットの量が対照と比較して高い場合に被検者が糖尿病であると判定する工程
〔5〕生体試料が血液試料である〔4〕に記載の診断方法。
〔6〕遊離インスリンレセプターαサブユニットの量を〔1〕に記載の方法により測定する、〔5〕に記載の診断方法
〔7〕インスリンレセプターαサブユニットのアミノ酸配列を含むペプチドを認識する抗体からなる糖尿病の診断用試薬。
あるいは本発明は、インスリンレセプターαサブユニットのアミノ酸配列を含むペプチドを認識する抗体の、糖尿病の診断用試薬の製造における使用に関する。もしくは本発明は、インスリンレセプターαサブユニットのアミノ酸配列を含むペプチドを認識する抗体の、糖尿病の診断における使用に関する。
また本発明者らは、生体における遊離のインスリンレセプターαサブユニットの役割について鋭意研究を続ける過程において、各種がん患者由来の血清中のインスリンレセプターαサブユニットを測定したところ、各種がん患者の測定値と健常者の測定値との間で有意な差が認められることを初めて実証した。すなわち本発明者らは、インスリンレセプターαサブユニットの測定ががん診断に有用であることを見出し、本発明を完成した。したがって本発明は、以下のがんの診断方法、並びにがん診断用試薬に関する。
〔8〕次の工程を含む、がんの診断方法。
(a)被検者の生体試料における、遊離インスリンレセプターαサブユニットの量を測定する工程
(b)該遊離インスリンレセプターαサブユニットの量を、対照と比較する工程、および
(c)該被検者の生体試料における該遊離インスリンレセプターαサブユニットの量が対照と比較して高い場合に被検者ががんであると判定する工程
〔9〕生体試料が血液試料である上記〔8〕に記載の診断方法。
〔10〕遊離インスリンレセプターαサブユニットの量を〔1〕に記載の方法により測定する、〔9〕に記載の診断方法
〔11〕インスリンレセプターαサブユニットのアミノ酸配列を含むペプチドを認識する抗体を含む、がんの診断用試薬。
あるいは本発明は、インスリンレセプターαサブユニットのアミノ酸配列を含むペプチドを認識する抗体の、がんの診断用試薬の製造における使用に関する。もしくは本発明は、インスリンレセプターαサブユニットのアミノ酸配列を含むペプチドを認識する抗体の、がんの診断における使用に関する。
本発明は、血中の遊離のインスリンレセプターαサブユニットの測定方法を提供した。これまで、血中の遊離のインスリンレセプターαサブユニットの存在は確認されていなかった。またその測定方法も確立されていなかった。本発明者らにより、血中の遊離のインスリンレセプターαサブユニットは、インスリンの作用を妨げることが明らかにされた。したがって、血中の遊離のインスリンレセプターαサブユニットの測定は、糖尿病のリスクを明らかにするために有用である。本発明者らは、実際に糖尿病患者の血中の遊離のインスリンレセプターαサブユニット濃度が有意に高いことを明らかにした。したがって、本発明は糖尿病の診断方法として有用である。
また本発明は、遊離のインスリンレセプターαサブユニットの測定に有用な、遊離型のインスリンレセプターαサブユニットとその製造方法を提供した。本発明によって得ることができる、遊離型のαサブユニットは、標準試料や免疫原として利用することができる。
また、本発明は、新たな癌の診断方法を提供した。これまで、遊離のインスリンレセプターαサブユニットとの癌と関連が実証された例は報告されていなかった。本発明者らは、各種癌患者の血中の遊離のインスリンレセプターαサブユニット量が健常者より有意に高くなることを明らかにした。したがって、遊離のインスリンレセプターαサブユニットは、がんマーカーとして利用することができる。
本発明は、次の工程を含む、血中の遊離インスリンレセプターαサブユニットの測定方法を提供する。
(1)血液試料をインスリンレセプターαサブユニットを認識する抗体と接触させる工程、
(2)前記抗体と血液中に存在するインスリンレセプターαサブユニットの結合を検出する工程、および
(3)両者の結合のレベルに基づいて血中の遊離インスリンレセプターαサブユニットの量を決定する工程
本発明において、「遊離」とは、当該分子が血液中に分散して存在していることを言う。通常インスリンレセプターは、細胞膜表面に局在する蛋白質である。更に、インスリンレセプターは、骨格筋、脂肪組織、肝臓、脳などに多く発現していることが明らかにされている。つまり、リンパ球などの血液細胞では、インスリンレセプターの顕著な発現は見られない。したがって、血中には遊離のインスリンレセプターが存在するか否か不明であった。ところが実際には、血液中にもインスリンレセプターサブユニットが遊離していることが本発明者らによって明らかにされた。
インスリンレセプターの測定方法については、既に公知(Human insulin receptor radioimmunoassay:applicablity to insulin−resistant state.Am.J.Physiol.257(Endocrinol.Metab.20)E451−E457,1989)である。しかし血中に遊離のインスリンレセプターαサブユニットが存在することは知られていないし、その測定方法も、確立されていない。わずかに血中におけるαサブユニットの存在の可能性を指摘した文献(J Clin Endocrinol Metab.1992 May;74(5):1116−21.)があるのみである。
本発明において、血中に存在するインスリンレセプターαサブユニットは、インスリンレセプターαサブユニットを認識する抗体との結合を利用して測定することができる。本発明に用いるインスリンレセプターαサブユニットを認識する抗体は、公知の方法によって得ることができる。本発明において、インスリンレセプターαサブユニットの量は、試料中の濃度として測定することができる。試料の単位体積あたりの量が濃度であることはいうまでも無い。
たとえばインスリンレセプターの組み換え体を免疫原として、本発明に必要な抗体を得ることができる。本発明者らは、後に述べるようなアミノ酸配列をコードするcDNAの利用により、インスリンレセプターαサブユニットを細胞外に分泌させることができることを明らかにした。このようにして得ることができる分泌型のポリペプチド、あるいはその断片等も本発明の抗体を得るための免疫原に利用することができる。
たとえば配列番号:2に記載のアミノ酸配列をコードする分泌型のポリペプチド、あるいはその断片等は、本発明の抗体を得るための免疫原として有用である。これらのポリペプチドは、公知のインスリンレセプターαサブユニットのcDNA、あるいは配列番号:1に示す塩基配列(またはその断片)を発現可能に保持するベクターで適当な宿主を形質転換することによって得ることができる。配列番号:1に記載の塩基配列を有するポリヌクレオチドは、ヒトインスリンレセプター遺伝子中、シグナルペプチド(−27〜−1)、αサブユニット(1〜735)、およびβサブユニットの一部(736〜926)の領域を構成するアミノ酸配列をコードしている。カッコ内は各領域の配列番号:2における位置を示している。
必要な塩基配列からなるDNAは、インスリンレセプターαサブユニット発現組織から調製したmRNAを利用してクローニングすることができる。あるいは、公知のインスリンレセプターαサブユニットのcDNAの塩基配列を改変して配列番号:1に示した塩基配列からなるDNAを得ることもできる。このようにして発現されたインスリンレセプターαサブユニットの組み換え体は、本発明に用いる抗体を得るための免疫原として好ましい。
また、配列番号:1に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつインスリンレセプターαサブユニットとの免疫学的同等性を有する分泌型のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドや、配列番号:1に記載の塩基配列と90%以上のホモロジーを有し、かつインスリンレセプターαサブユニットとの免疫学的同等性を有する分泌型のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを利用して、免疫原となるポリペプチドを取得し、インスリンレセプターαサブユニットの測定に使用する抗体を得てもよい。
あるいは、インスリンレセプターαサブユニットのドメインペプチドを免疫原に用いることもできる。免疫原とするドメインペプチドは、ペプチド合成装置によって容易に合成することができる。合成ペプチドはキャリアタンパク質に結合させることによって、免疫原とすることができる。
合成ペプチドをキャリア蛋白質に結合させるためには、マレイミドベンゾイル−N−ヒドロスクシンイミド法(maleimidobenzoyl−N−hydrosuccinimide method、以下MBS法と省略する)等が一般に用いられている。具体的には、合成ペプチドにシステインを導入し、そのSH基を利用してMBSによってKLHと架橋させる。システイン残基の導入は、合成したペプチドのN末端であっても、C末端であってもよい。なおキャリアタンパク質には、KLHのほかにもウシ血清アルブミン等の任意のタンパク質を用いることができる。KLHは、免疫原性が強いことから好ましいキャリアタンパク質のひとつである。
こうして得られた免疫原を、適当なアジュバントと混合して免疫動物に免疫する。アジュバントには、フロイントコンプリートアジュバント(FCA)、あるいはインコンプリートアジュバント等が公知である。免疫操作は、抗体価の上昇が確認されるまで適当な間隔で繰り返される。本発明における免疫動物は特に限定されない。具体的には、マウス、ラット、あるいはウサギなどの一般的な免疫動物を利用することができる。
抗体をモノクローナル抗体として得る場合には、その産生に有利なものを利用すれば良い。たとえばマウスでは、細胞融合用の骨髄腫細胞株が多く知られているうえに高い確率でハイブリドーマを樹立可能な技術が既に確立されている。したがってマウスは、望ましい免疫動物のひとつである。
更に、免疫処理はin vivoに限定されない。培養した免疫担当細胞をインビトロで免疫感作する方法を採用することもできる。これらの方法によって得られた抗体産生細胞を、形質転換させクローニングを行う。モノクローナル抗体を得るために抗体産生細胞を形質転換する方法は、細胞融合に限定されない。たとえば、ウイルスの感染によってクローニング可能な形質転換体を得る方法が知られている。
本発明に用いるモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマは、各種の抗原に対する反応性に基づいてスクリーニングすることができる。具体的には、まず、免疫原として用いたインスリンレセプターαサブユニットやそのドメインペプチドに対する結合活性を指標に抗体産生細胞を選ぶ。スクリーニングで選び出されたポジティブクローンは、必要に応じてサブクローニングされる。
樹立したハイブリドーマを適当な条件の下で培養し、産生される抗体を回収すれば本発明に用いるモノクローナル抗体を得ることができる。ハイブリドーマは、ホモハイブリドーマの場合には同系の動物の腹腔に接種して生体内培養が可能である。この場合、モノクローナル抗体は腹水として回収される。ヘテロハイブリドーマの場合にはヌードマウスを宿主として生体内培養が可能である。
生体内培養のみならず、適当な培養環境を与えて生体外で培養することも一般に行われている。たとえばRPMI1640やDMEM等の基礎培地がハイブリドーマの培地として一般に利用されている。これらの培地には、抗体産生能を高く維持するために動物血清等の添加剤を加えることができる。生体外でハイブリドーマを培養する場合には、モノクローナル抗体は培養上清として回収することができる。培養上清は、培養終了時に細胞から分離することにより回収することもできるし、あるいはホローファイバーを応用した培養装置においては、培養を継続しながら連続的に回収することも可能である。
腹水や培養上清として回収したモノクローナル抗体は、飽和硫安塩析によりそのイムノグロブリン分画を分取し、更にゲルろ過やイオン交換クロマトグラフィー等の精製工程を経て本発明に用いるモノクローナル抗体とする。この他にモノクローナル抗体がIgGであれば、プロテインAカラムやプロテインGカラムによるアフィニティクロマトグラフィーに基づく精製方法が有効である。
一方、本発明に用いる抗体をポリクローナル抗体として得るには、免疫後に抗体価の上昇した個体から採血し、その血清を分離することにより抗血清を得ることができる。抗血清から公知の方法でイムノグロブリンを精製し、本発明に用いる抗体とすることができる。イムノグロブリンの精製において、インスリンレセプターαサブユニットをリガンドとするイムノアフィニティクロマトグラフィーを組み合わせれば、インスリンレセプターαサブユニット特異抗体とすることができる。
また、以下に示す市販の抗体を組み合わせて本発明の測定に用いることができる。例えば、モノクローナル抗体としては、抗ヒトインスリンレセプターアルファサブユニット(Neomarker MS632)(LabVision社)、抗ヒトインスリンレセプターアルファサブユニット(IM0365)(イムノテック社)、MAB1138(ケミコン社)などが挙げられる。ポリクローナル抗体としては、抗ヒトインスリンレセプターアルファサブユニット(ウサギ)H−78(サンタクルーズ社)などを用いることができる。
インスリンレセプターαサブユニットに対する抗体が、インスリンレセプターαサブユニットと接触すると、抗体は、抗原抗体反応によって当該抗体が認識する抗原決定基(エピトープ)に結合する。抗原に対する抗体の結合は、各種のイムノアッセイの原理によって検出することができる。イムノアッセイは、不均一系の分析方法と、均一系の分析方法に大別される。イムノアッセイの感度と特異性を高い水準に維持するためには、モノクローナル抗体の利用が望ましい。各種のイムノアッセイフォーマットによる本発明のインスリンレセプターαサブユニットの測定方法について、具体的に述べる。
まず、不均一系イムノアッセイによるインスリンレセプターαサブユニットの測定方法について述べる。不均一系イムノアッセイにおいては、インスリンレセプターαサブユニットに結合した抗体を結合しなかったものと分離して検知するしくみが必要である。
分離を容易に行うために固相化試薬が一般に用いられる。たとえば、まずインスリンレセプターαサブユニットを認識する抗体を固定した固相を用意する(固相化抗体)。これにインスリンレセプターαサブユニットを結合させ、更に標識した第2抗体を反応させる。
固相を液相から分離し、更に必要に応じて洗浄すれば、固相上にはインスリンレセプターαサブユニットの濃度に比例して第2抗体が残る。第2抗体を標識しておけば、この標識に基づくシグナルを測定することによりインスリンレセプターαサブユニットを定量することができる。
抗体の固相への結合方法は、任意である。たとえばポリスチレンなどの疎水性素材には、抗体を物理的に吸着させることができる。あるいは、各種の官能基を表面に有する素材に対して、抗体を化学的に結合させることもできる。更に、結合性のリガンドで標識された抗体を、当該リガンドの結合パートナーで捕捉することによって固相に結合することもできる。結合性リガンドとその結合パートナーの組み合わせとしては、アビジン−ビオチンなどを示すことができる。固相と抗体とは、第2抗体との反応と同時、あるいはその後に結合させることができる。
同様に第2抗体の標識化も、必ずしも直接標識でなくてもよい。すなわち、抗体に対する抗体や、アビチン−ビオチンといった結合性の反応を利用して間接的に標識することもできる。
インスリンレセプターαサブユニット濃度が既知の標準試料によって得られたシグナル強度に基づいて、試料中のインスリンレセプターαサブユニット濃度が決定される。
上記不均一系イムノアッセイのための固相化抗体および第2抗体は、インスリンレセプターαサブユニットを認識する抗体、あるいはその抗原結合部位を含む断片であれば、任意の抗体を利用することができる。したがって、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、あるいは両者の混合物や組み合わせであってよい。なお両者をモノクローナル抗体とするときには、異なるエピトープを認識するモノクローナル抗体を組み合わせるのが好ましい。
このような不均一系イムノアッセイは、測定対象抗原を抗体で挟むことからサンドイッチ法と呼ばれている。サンドイッチ法は、測定感度や再現性に優れるため、本発明における好ましい測定原理の1つである。
不均一系のイムノアッセイには、競合阻害反応原理を応用することもできる。すなわち、抗体に対する既知濃度のインスリンレセプターαサブユニットの結合を、試料中のインスリンレセプターαサブユニットが競合的に阻害する現象に基づくイムノアッセイである。既知濃度のインスリンレセプターαサブユニットを標識しておき、抗体に反応した(またはしなかった)インスリンレセプターαサブユニットを測定すれば試料中のインスリンレセプターαサブユニット濃度を決定することができる。
既知濃度の抗原と試料中の抗原とを同時に抗体に反応させれば競合的な反応系が成立する。また試料中の抗原と抗体の反応後に既知濃度の抗原とを反応させれば、阻害的な反応系による分析が可能である。いずれの反応系においても、抗体、あるいは試薬成分として用いる既知濃度の抗原のいずれか一方を標識成分とし、他方を固相化試薬としておくことにより操作性に優れる反応系を構成することができる。
これら不均一系のイムノアッセイにおいて、標識成分としては放射性同位元素、蛍光物質、発光物質、酵素活性物質、肉眼的に観察可能な物質、あるいは磁気的に観察可能な物質などが用いられる。これらの標識物質の具体例を以下に示す。
酵素活性物質:
ペルオキシダーゼ グルコースオキシダーゼ
アルカリホスファターゼ 乳酸脱水素酵素、あるいは
ウレアーゼ、カタラーゼ アミラーゼ等
蛍光物質:
フルオレセインイソチオシアネート、
テトラメチルローダミンイソチオシアネート、
置換ローダミンイソチオシアネート、あるいは
ジクロロトリアジンイソチオシアネート等
放射性同位元素:
トリチウム、
125I、あるいは
181I等
中でも酵素のような非放射標識は、安全性、操作性、感度等の点で有利な標識のひとつである。酵素標識と抗体、あるいはインスリンレセプターαサブユニットとは、過ヨウ素酸法やマレイミド法等の公知の方法により結合することができる。
一方、固相としては、ビーズ、容器内壁、微粒子、多孔質担体、あるいは磁性粒子などが用いられる。これらの固相は、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリビニルトルエン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ナイロン、ポリメタクリレート、ラテックス、ゼラチン、アガロース、ガラス、金属、あるいはセラミック等の素材を利用して成型されたものを利用できる。これらの固相素材の表面に、抗体等を化学的に結合するための官能基を導入した固相素材も知られている。固相と抗体(あるいは抗原)についても、ポリ−L−リジンやグルタールアルデヒド処理といった化学的な結合や、物理吸着といった公知の結合方法を応用することができる。
ここで例示した不均一系のイムノアッセイでは、いずれも固相/液相の分離工程や洗浄工程が必要となるが、サンドイッチ法の変法であるイムノクロマトグラフ法によれば、これらの工程を簡単に処理することが可能である。
すなわち、毛管現象によって試料溶液の移送が可能な多孔質担体に固相化抗体を固定し、その中を標識抗体と混合したインスリンレセプターαサブユニット含有試料を毛管現象によって展開する。展開中にインスリンレセプターαサブユニットは標識抗体と反応し、更に固相化抗体と接触すると、その位置に捕捉される。インスリンレセプターαサブユニットと反応しなかった標識抗体は、固相化抗体に捕捉されることなく通過する。
結果的に固相化抗体の位置に残る標識抗体のシグナルを指標にインスリンレセプターαサブユニットの存在を検知することができる。標識抗体を多孔質担体の上流に予め保持させておけば、試料溶液の滴下だけで全ての反応が開始し完結するので、きわめて簡便な反応系を構成することができる。イムノクロマトグラフ法においては、着色粒子のような肉眼的に識別しうる標識成分を組み合わせることにより、特殊な読取装置さえ不要な分析デバイスを構成することができる。
続いて均一系のイムノアッセイについて説明する。以上のような反応液の分離を必要とする不均一系の免疫学的分析方法に対して、均一系の分析方法によってもインスリンレセプターαサブユニットを測定することができる。均一系の分析方法では、抗原抗体反応の反応生成物を反応液から分離することなく検出することができる。
抗原抗体反応に伴って生成する沈降物を観察することにより、抗原性物質の定量的な分析を行う免疫学的沈降反応は、代表的な均一系の分析方法である。免疫学的沈降反応にはポリクローナル抗体を利用するのが一般的である。モノクローナル抗体を応用する場合には、インスリンレセプターαサブユニットに対して異なるエピトープに結合する複数種のモノクローナル抗体を利用するのが好ましい。免疫学的な反応に伴う沈降反応生成物は、肉眼的に観察することもできるし、あるいは光学測定することにより数値化することもできる。
液相中での免疫学的な複合体の形成を利用したこれらの免疫学的分析方法に対して、ゲル中で反応を行う方法も公知である。たとえば、オクテロニー法、SRID法、あるいは免疫電気泳動法などがそうである。これらのゲル中での反応に基づく分析方法においても、複数種のモノクローナル抗体の利用によって明瞭な沈降線を観察できるようになる。
抗体を感作した微粒子の抗原による凝集を指標とする免疫学的粒子凝集反応も、一般的な均一系の分析方法である。この方法でも先に延べた免疫学的沈降反応と同じように、ポリクローナル抗体、あるいは複数種のモノクローナル抗体の組み合わせを利用することができる。微粒子への抗体の感作は、抗体の混合物を感作しても良いし、あるいは抗体ごとに感作した粒子を混合することによって調製することもできる。こうして得られた微粒子は、インスリンレセプターαサブユニットとの接触により、マトリクス状の反応生成物を生じる。反応生成物は、粒子の凝集として検出することができる。粒子の凝集は、肉眼で観察することもできるし、光学測定することにより数値化することもできる。
均一系のイムノアッセイとして、エネルギー転移や酵素チャンネリングに基づく免疫学的分析方法が知られている。エネルギー転移を利用した方法においては、抗原上の接近したエピトープを認識する複数の抗体に対して、それぞれドナー/アクセプターの関係にある異なる光学標識を結合させるようにする。免疫学的な反応が起きると両者が接近するため、エネルギー転移現象が生じ、消光や蛍光波長の変化といったシグナルにつながる。一方、酵素チャンネリングとは、やはり接近したエピトープに結合する複数の抗体に対し、一方の反応生成物が他方の基質となっているような関係にある酵素の組み合わせを標識として利用する。免疫学的な反応によって両者が接近すると、酵素反応が促進されることから両者の結合を酵素反応速度の変化としてとらえることができる。
本発明はまた、インスリンレセプターαサブユニットを認識する抗体を含む、血中の遊離インスリンレセプターαサブユニットの測定用試薬を提供する。血中に遊離インスリンレセプターαサブユニットが存在することは本発明者らが得た新規な知見である。したがって、インスリンレセプターαサブユニットを認識する抗体が、血中の遊離インスリンレセプターαサブユニット測定用試薬として有用であることも新規に見出された知見である。本発明の測定用試薬を構成する抗体は、上記のようなアッセイフォーマットに応じて、標識したり、あるいは固相に結合しておくことができる。
ここに例示した各種免疫学的分析方法に必要な標識抗体(あるいは抗原)や固相化抗体(あるいは抗原)は、濃度を検定したインスリンレセプターαサブユニット標準、希釈や洗浄に用いられる緩衝液等と組み合わせたキットとすることができる。
本発明によるインスリンレセプターαサブユニットの測定方法には、血液試料が用いられる。血液試料とは、全血、全血から分離された血清や血漿が含まれる。全血は、血球成分を溶血させた後に、分析試料とすることもできる。更に、血液試料は、必要に応じて希釈することができる。
血中にインスリンレセプターαサブユニットが遊離の状態で存在していることは、本発明者らによって明らかにされた新規な知見である。血中のインスリンレセプターαサブユニットは、健常者にも見出される。しかしマウスを用いた実験では、血中へのインスリンレセプターαサブユニットの投与は、高血糖とインスリン分泌量の上昇をもたらした。したがって、血中のインスリンレセプターαサブユニットは、糖尿病(2型糖尿病)のリスクファクター、あるいは2型糖尿病の増悪因子として重要である。そして、生体における血中の遊離のインスリンレセプターαサブユニットの測定は、被検者の糖尿病のリスクを評価するために有用な情報であると言える。
本発明者らは、血中に遊離型のインスリンレセプターαサブユニットが存在することを明らかにした。遊離型のインスリンレセプターαサブユニットをイムノアッセイによって測定するためには、それを認識する抗体が必要である。また、その抗体に対して生体中の遊離のインスリンレセプターαサブユニットと同様の反応性を有する標準試料として利用可能な抗原が必要である。本発明は、このような抗体を得るための免疫原、あるいは標準試料として利用することができるインスリンレセプターαサブユニットの製造に有用なポリヌクレオチドを提供する。
すなわち本発明は、以下の(a)−(d)のいずれかに記載のポリヌクレオチド、および該ポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドに関する。
(a)配列番号:1に記載の塩基配列を有するポリヌクレオチド
(b)配列番号:2に記載のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド
(c)配列番号:1に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつインスリンレセプターαサブユニットとの免疫学的同等性を有する分泌型のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド
(d)配列番号:1に記載の塩基配列と90%以上のホモロジーを有し、かつインスリンレセプターαサブユニットとの免疫学的同等性を有する分泌型のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド
(a)配列番号:1に記載の塩基配列を有するポリヌクレオチドは、ヒトインスリンレセプター遺伝子中、それぞれ以下の領域を構成するアミノ酸配列をコードしている。カッコ内に各領域の配列番号:2における位置を示した。また配列番号:1に記載の塩基配列によってコードされるアミノ酸配列は、図2にアンダーラインをつけて示した。
シグナルペプチド(−27〜−1)
αサブユニット(1〜735)、および
βサブユニットの一部(736〜926)
このようなポリヌクレオチドは、配列番号:1に示した塩基配列に基づいて、当業者が合成することができる。あるいは公知のインスリンレセプターのcDNAから、必要な塩基配列を取得することもできる。たとえば実施例においては、ヒトインスリンレセプター遺伝子を制限酵素SspIで消化することにより、配列番号:1に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドを得ている。
本発明者らは、ヒトインスリンレセプターαサブユニットに対してβサブユニットの一部を付加したアミノ酸配列を発現させたときに、発現生成物が細胞外に効率的に分泌されることを見出した。一般に細胞膜上に発現するレセプター分子は、細胞膜成分の除去が障害となって、精製が容易でない。あるいは細胞膜成分の除去によって、レセプター分子そのものの構造が維持できなくなる場合があった。したがって、レセプター分子を分泌型の蛋白質として発現させることは、製造技術として有用である。
本発明は、遊離型のインスリンレセプターαサブユニットの標準試料あるいは免疫原として有用なポリペプチドの産生を目的とする。細胞外に分泌された組み換え体は、生体における存在形態と同じ遊離型の分子とみなすことができる。つまり、たとえば組織から抽出された細胞膜上のレセプター分子に比べて、分泌型の蛋白質として発現させた本発明のポリペプチドは、標準試料あるいは免疫原として好ましい。
本発明のポリヌクレオチドは、前記(c)または(d)に記載のポリヌクレオチドを含む。本発明において、免疫学的同等性は、抗体との反応性に基づいて決定することができる。すなわち、血中の遊離のインスリンレセプターαサブユニットに対する抗体の反応性を、ある蛋白質が吸収するとき、この蛋白質は、血中の遊離のインスリンレセプターαサブユニットと免疫学的に同等であると言うことができる。更にある蛋白質を適当な宿主細胞において発現させたときに、その蛋白質が細胞の培養上清に分泌されれば、当該蛋白質が分泌型であることを証明することができる。通常、インスリンレセプター遺伝子を形質転換体において発現させた場合には、βサブユニットの膜貫通ドメインの機能によって、レセプター分子は細胞膜上に局在し、培養上清中にαサブユニットを見出すことは難しい。
前記インスリンレセプターαサブユニットと免疫学的に同等なタンパク質において変異するアミノ酸の数は、免疫学的な同等性を保持する限り制限されない。インスリンレセプターαサブユニットの場合、変異するアミノ酸の数は通常、100アミノ酸以内であり、好ましくは50アミノ酸以内であり、さらに好ましくは30アミノ酸以内であり、さらに好ましくは10アミノ酸以内である。またその変異部位は、免疫学的な同等性を保持する限り制限されない。
アミノ酸配列の変異は、人為的なものであっても、自然において生じる変異であってもよい。アミノ酸を置換する場合には、保存的置換を利用することができる。一般に蛋白質の機能の維持のためには、置換するアミノ酸は、置換前のアミノ酸と類似の性質を有するアミノ酸であることが好ましい。このようなアミノ酸残基の置換が、保存的置換と呼ばれている。
例えば、Ala、Val、Leu、Ile、Pro、Met、Phe、Trpは、いずれも非極性アミノ酸に分類されるため、互いに似た性質を有する。また、非荷電性のアミノ酸としては、Gly、Ser、Thr、Cys、Tyr、Asn、Glnが挙げられる。あるいは、酸性アミノ酸としては、AspおよびGluが挙げられる。更に、塩基性アミノ酸としては、Lys、Arg、Hisが挙げられる。これらの各グループを構成するアミノ酸は、互いに似た性質を有している。そのため、グループ内の他のアミノ酸に置換したときに、蛋白質の機能が維持される可能性が高い。
このような蛋白質は、配列番号:1に記載の塩基配列に変異を導入することによって得ることができる。既知の塩基配列からなる遺伝子に変異を導入する技術は公知である。あるいは、化学合成によって目的とするアミノ酸配列からなる蛋白質を調製することもできる。
また、前記免疫学的に同等なタンパク質を単離するための他の方法としては、ハイブリダイゼーションスクリーニングを利用することができる。たとえば、配列番号:1に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチド、またはその断片を利用して、これと相同性の高いDNAを単離することは当業者にとって容易である。次に、こうして単離されたDNAの中から、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドと免疫学的に同等な蛋白質をコードするDNAを選択することも、当業者が通常行いうることである。
このように配列番号:1に記載の塩基配列からなるDNAとハイブリダイズするDNAがコードするポリペプチドであって、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドと免疫学的に同等なポリペプチドもまた本発明のポリペプチドに含まれる。免疫学的に同等なポリペプチドをコードするDNAを単離するためのハイブリダイゼーションのストリンジェンシーは、当業者であれば適宜選択することができる。
ハイブリダイゼーションの条件としては具体的には、例えば5×SSC、ホルムアミド非存在下で25℃の条件が挙げられる。好ましくは6×SSC、40%ホルムアミドで25℃で行う。更に好ましくは5×SSC、50%ホルムアミドで40℃で行う。ハイブリダイゼーション後の洗浄は、例えば、2×SSC、37℃で洗浄する。好ましくは1×SSC、55℃で洗浄する。更に好ましくは1×SSC、60℃で洗浄する。
また、ハイブリダイゼーションスクリーニングに代えて、配列番号:1に記載の塩基配列の一部に相補的なオリゴヌクレオチドをプライマーとして、PCR法を利用して本発明のポリヌクレオチドを単離することもできる。
上記ハイブリダイゼーションスクリーニングまたはPCR法により単離することができる、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドと免疫学的に同等なポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは、通常、配列番号:1に記載の塩基配列と高い相同性を有する。本発明における高い相同性とは、ポリヌクレオチドの一部ではなく全体にわたって少なくとも20%以上、好ましくは30%以上、さらに好ましくは40%以上、さらに好ましくは60%以上、さらに好ましくは80%以上の配列の同一性を有することを言う。塩基配列の相同性を決定するためのアルゴリズムが公知である(宮田隆ら著「コンピューターによる遺伝子のホモロジー解析」(遺伝子研究法I、東京化学同人))。
本発明のポリヌクレオチドは、例えば、組み換えタンパク質の生産に用いることが可能である。本発明のポリペプチドを組み換えタンパク質として生産するための宿主としては、大腸菌、酵母、昆虫細胞、動物細胞等を用いることができる。宿主細胞に応じて、それぞれ適切なベクターが特定される。各宿主細胞には、たとえば次のような発現ベクターを用いることができる。
大腸菌:pGEX5X−3(ファルマシア)など
酵母:pYES2(インビトロゲン)など、
昆虫細胞:pVL1392(インビトロゲン)など、
動物細胞:pRc/CMV2(インビトロゲン)など
これらのベクターの宿主への導入方法としては、生物学的方法、物理的方法、化学的方法などが当業者に知られている。生物学的方法としては、例えば、ウイルスベクターを使用する方法を挙げることができる。物理的方法としては、例えば、エレクトロポレーション法、ジーンガン(GENEGUN)法、あるいはマイクロインジェクション法が挙げられる。また、化学的方法としては、例えば、リポフェクション法、リン酸カルシウム法、DEAE−Dextran法が挙げられる。
宿主内で生産された組換えタンパク質は、任意の方法で精製することができる。具体的には、イオン交換カラム法、アフィニティーカラム等を利用する方法などが一般に用いられている。組み換えタンパク質をGSTや6×Hisなどとの融合タンパク質として発現させることによって、検出や精製を容易にする方法も公知である。
前記(a)−(d)に記載されたポリヌクレオチドは、いずれもインスリンレセプターαサブユニット(または免疫学的同等性を有するポリペプチド)を分泌型の蛋白質として発現させるために利用することができる。細胞外に分泌されたインスリンαサブユニットは、培養上清から容易に回収することができる。あるいは、培養上清をそのまま標準試料や免疫原として用いることもできる。
たとえば、血中の遊離のインスリンレセプターαサブユニットを測定するための標準試料は、次のようにして製造することができる。まず、前記の形質転換体の培養上清を回収する。回収された培養上清は、そのまま、あるいは目的の発現生成物を精製した後に、発現生成物の量を検定する。発現生成物が純粋な蛋白質として精製された場合には、その蛋白質濃度を測定することによって、発現生成物の量を決定することができる。あるいは培養上清のように、もしも不純物が混在するときには、各種のクロマトグラフィーや電気泳動法などによって、目的とする発現生成物を単離して、その量を決定することができる。発現生成物の量が決定されれば、当該蛋白質の標準試料として利用することができる。
なお、配列番号:2に記載のアミノ酸配列は、ヒトのインスリンレセプターに由来するアミノ酸配列である。このアミノ酸配列に対して、異なるアミノ酸配列を有するポリペプチドを発現生成物として利用した場合には、両者のアミノ酸配列の相違に基づいて、分子量の相違を補正することができる。
本発明において、ある蛋白質の標準試料とは、当該蛋白質としてどれだけの量の蛋白質が含まれているのかを、予め決定した試料を言う。標準試料は、必要に応じて希釈系列とすることができる。希釈系列について、先に述べたようなイムノアッセイによってシグナルが計測される。標準試料の蛋白質濃度と計測されたシグナルの関係を、標準曲線(standard curve、または検量線)として表すことができる。こうして作製された標準曲線に基づいて、実際の被検試料から得られたシグナルから当該試料に含まれる測定対象物質の濃度を決定することができる。あるいは希釈系列の測定結果に基づいて回帰式を作製し、被検試料の測定値を代入することによって、当該試料に含まれる測定対象物質の濃度を決定することもできる。
また本発明は、次の工程を含む、糖尿病の診断方法を提供する。
a)被検者の生体試料における、遊離インスリンレセプターαサブユニットの量を測定する工程
b)該遊離インスリンレセプターαサブユニットの量を、対照と比較する工程、および
c)該被検者の生体試料における該遊離インスリンレセプターαサブユニットの量が対照と比較して高い場合に被検者が糖尿病であると判定する工程
あるいは、本発明は、次の工程を含む、がんの診断方法を提供する。
(a)被検者の生体試料中における、遊離インスリンレセプターαサブユニットの量を測定する工程
(b)該遊離インスリンレセプターαサブユニットの量を、対照と比較する工程、および
(c)該被検者の生体試料における該遊離インスリンレセプターαサブユニットの量が対照と比較して高い場合に被検者ががんであると判定する工程
本発明は、糖尿病、あるいはがん患者のインスリンレセプターαサブユニット量が健常者と比較して有意に高いことが初めて明らかにされたことに基づいている。インスリンレセプターは、インスリンに特異的に結合する糖蛋白で、分子量は約35〜40万と大きく、α2β2というサブユニット構造をとっている(α:分子量12〜13万,β:9万)。インスリンレセプターは、インスリン結合活性のみならずチロシン特異的プロテイン・キナーゼ活性を有しており、インスリンとの結合により活性化し、細胞内にシグナルを伝える。このためインスリンレセプターは、通常、筋肉などインスリンの標的組織の細胞膜上に局在する。骨格筋、脂肪組織、肝臓、脳などにインスリンレセプターが多く発現しているしていることが明らかになっているが、リンパ球などの血液細胞では、インスリンレセプターの顕著な発現は見られない。したがって従来は、血中には遊離のインスリンレセプターが存在するか否か不明であった。
本発明の診断方法において、生体試料中の遊離のインスリンレセプターの量は、先に述べたような方法によって測定することができる。特にサンドイッチ法は、測定感度や再現性に優れるため、本発明における好ましい測定原理の1つである。測定の結果は、対照と比較される。本発明において対照とは、たとえば健常者の生体試料の測定によって得られた遊離のインスリンレセプターの量を示すことができる。健常者とは、糖尿病あるいはがんでないことが明らかなヒトが含まれる。望ましくは、健常者とは、疾患を有していないことが明らかなヒトである。
本発明の診断方法において、生体試料とは、生体から採取された任意の試料が含まれる。具体的には、たとえば血液試料、尿試料、あるいは乳頭分泌物等は生体試料に含まれる。本発明の好ましい生体試料は血液試料である。本発明者らは、血液に遊離のインスリンレセプターが存在することを明らかにしている。血液試料は、血液から分離された血液分画を含む。具体的には、血清、血漿、あるいは血球成分を溶血させることによって得ることができる溶血試料などの試料は、血液試料に含まれる。これらの試料の調製方法は公知である。たとえば、被検者から採取された血液から調製された血液試料を用いて、本発明の診断方法を実施することができる。更に、血液試料は、必要に応じて希釈することができる。
本発明はまた、(1)成体から採取された血液試料中の遊離インスリンレセプターαサブユニットの濃度を測定し、(2)対照と比較する工程を含む、糖尿病あるいはがんの検査方法を提供する。対照との比較の結果、有意に測定値が高い場合に、被検者は、糖尿病あるいはがんを有する可能性が高いことが明らかにされる。
たとえば両者の比較の結果、健常者よりも遊離インスリンレセプターαサブユニットの量が高い場合には、被検者が糖尿病あるいはがんであると判定される。遊離インスリンレセプターαサブユニットの量の比較のためには、通常、たとえば健常者における前記遊離インスリンレセプターαサブユニットの量に基づいて、標準値が設定される。この標準値をもとに、一定の範囲が許容範囲とされる。一般に、標準値の±2S.D.〜±3S.D.が許容範囲とされる。本発明においては、対照と比較して測定値が高いことが指標となる。したがって、許容範囲として設定された値の最大値が、判定基準として利用されることになる。この判定基準として利用することができる値は、カットオフ値と呼ばれる。
一般に、マーカーとなる物質の測定値に基づいて、統計学的に標準値や許容範囲を設定する手法は公知である。被検者における遊離インスリンレセプターαサブユニットの量が許容範囲(カットオフ値)よりも高い値を示せば、その被検者は糖尿病であると予想される。また許容範囲内、あるいは許容範囲に満たない場合には、糖尿病あるいはがんの可能性は低いと予想される。
あるいは本発明に基づいて、被検者が糖尿病のリスクファクターを有するかどうかを予測することができる。実施例において示したように、血中の遊離のインスリンレセプターαサブユニットの存在は、糖尿病のリスクファクターである。したがって、たとえ被検者が糖尿病を有していない場合であっても、対照と比較して血中の遊離のインスリンレセプターαサブユニットの測定値が高い場合には、被検者は糖尿病のリスクファクターを有すると予測することができる。リスクファクターの予測は、本発明における糖尿病の診断に含まれる。
本発明によるがんの診断方法においては、被験者の遊離インスリンレセプターαサブユニットの量が健常者よりも高い場合には、被検者はがんであると判定される。本発明において診断の対象となるがんの種類は限定されない。実施例に示すとおり、遊離インスリンレセプターαサブユニットの量は、多様ながんの患者の生体試料において有意に高値を示した。したがって、本発明の診断方法によってがんを有する可能性があると判定されたときには、臓器を問わず、なんらかのがんを有している可能性があることを示している。本発明におけるがんは、原発巣か転移巣かを問わない。また本発明におけるがんは、固形がんにも限定されない。しかし、好ましいがんとしては、固形がんを示すことができる。たとえば、肺、食道、すい臓、結腸、乳、肝、直腸、あるいは皮膚に生じるがんを、本発明によって診断することができる。
本発明はまた、インスリンレセプターαサブユニットのアミノ酸配列を含むペプチドを認識する抗体からなる糖尿病あるいはがんの診断用試薬を提供する。血中の遊離インスリンレセプターαサブユニットが糖尿病あるいはがんの診断に有用であることは本発明者らが得た新規な知見である。本発明の診断用試薬を構成する抗体は、上記のようなアッセイフォーマットに応じて、標識したり、あるいは固相に結合しておくことができる。
本発明において、インスリンレセプターαサブユニットのアミノ酸配列を含むペプチドを認識する抗体とは、たとえば配列番号:2に記載のアミノ酸配列から選択された連続するアミノ酸配列を有するペプチドを認識する抗体を含む。通常、抗体は、3アミノ酸残基以上のアミノ酸配列によって構成される抗原決定基を認識できるとされている。本発明における抗体によって認識される好ましいアミノ酸配列の長さは、通常3以上、好ましくは5以上、たとえば7〜20アミノ酸残基である。8〜9アミノ酸残基のペプチドは、一般に、当該タンパク質に固有の抗原決定基を構成しうる。
本明細書中に例示した各種免疫学的分析方法に必要な標識抗体(あるいは抗原)や固相化抗体(あるいは抗原)は、濃度を検定したインスリンレセプターαサブユニット標準、希釈や洗浄に用いられる緩衝液等と組み合わせたキットとすることができる
なお本明細書において引用された全ての先行技術文献は、参照として本明細書に組み入れられる。
【図面の簡単な説明】
図1は、実施例においてインスリンレセプターαサブユニットのCHO細胞における発現のために用いたcDNAによってコードされるアミノ酸配列と、インスリンレセプターの全長アミノ酸配列との関係を示す図である。
図2は、インスリンレセプター前駆蛋白質のアミノ酸配列に占める、各サブユニットのアミノ酸配列、および実施例において発現させた組み換え体のアミノ酸配列の関係を示す図である。図中、大文字で示したのがαサブユニット、αサブユニットのN末端側とC末端側に小文字で示したアミノ酸配列が、それぞれシグナルペプチドとβサブユニットのアミノ酸配列である。βサブユニットのアミノ酸配列中、ボックスで囲んだ部分が膜貫通領域(TM)である。図1におけるSspI切断断片によってコードされるアミノ酸配列にアンダーラインを付けて示した。
図3は、抗インスリンレセプターαサブユニット抗体カラムによる、インスリンレセプターαサブユニットの精製結果を示す写真である。抗インスリンレセプター(αサブユニット抗体、イムノテック0365)抗体カラムに吸着させたインスリンレセプターαサブユニットを、1.5M MgCl含有ホウ酸ナトリウム緩衝液で溶出し、溶出液を200μlずつ分取した。それぞれのフラクションから20μLをとり、7.5% SDS−PAGEし、銀染色した。
図4は、実施例において作製したインスリンレセプターαサブユニットの標準曲線(standard curve)を示すグラフである。図中、縦軸は450nmにおける吸光度を、横軸はサンプル中のインスリンレセプターαサブユニット濃度(ng/mL)を示す。
図5は、インスリンレセプターαサブユニットを投与したマウスにおける血糖値の経時的変化を示すグラフである。図中、縦軸は血糖値(mg/mL)を、横軸はインスリンレセプターαサブユニットを投与した時間を−10とする経過時間(分)を示す。
図6は、インスリンレセプターαサブユニット投与の10分後に、糖負荷を与えたマウスにおける血糖値の経時的変化を示すグラフである。図中、縦軸は血糖値(mg/mL)を、横軸はインスリンレセプターαサブユニットを投与した時間を−10とする経過時間(分)を示す。
図7は、健常者検体70例のインスリンレセプターαサブユニットの測定値分布を示すグラフである。図中、縦軸は各測定値(ng/mL)の度数(人数)または累積(%)を、横軸はインスリンレセプターαサブユニット濃度(ng/mL)を示す。
図8は、糖尿病患者および健常人の血中インスリンレセプターαサブユニット濃度(ng/mL)の有意差検定の結果を示す図である。
図9は、各種がん患者および健常者血清中のインスリン受容体αサブユニット濃度の分布を示す図である。図中、縦軸は血清中のインスリン受容体αサブユニット濃度測定値(ng/mL)を、横軸は疾患(がん)の種類を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
以下実施例に基づいて、本発明をより具体的に説明する。
1.ヒトインスリン受容体αサブユニットcDNAの構築
CHO細胞でインスリンレセプターαサブユニットを培養上清中に分泌させるためのcDNAを構築した。本実施例において構築したcDNAの構造を図1に示す。ヒトインスリン受容体の全長cDNA(NM_000208)を含むpcDL1−HIR717(Ebina et al.Cell.40,747−758,1985)を利用し、異なる位置で切断して各cDNAを得た。各cDNAはそれぞれ次に示すような構造を有する。
CHO−HIR:インスリンレセプターαサブユニット+βサブユニット
CHO−HIR(α):インスリンレセプターαサブユニットのみ
CHO−HIR(PstI):αサブユニットとβサブユニットのN末端側1−150アミノ酸
CHO−HIR(SspI):αサブユニットとβサブユニットのN末端側1−191アミノ酸
βサブユニットの膜貫通ドメインは、N末端側195−217に位置する。つまりCHO−HIR(PstI)およびCHO−HIR(SspI)は、いずれもβサブユニットの一部を含むが、膜貫通ドメインは欠いている。図2において、βサブユニットのアミノ酸配列(C末端側の小文字の部分)のうち、ボックスで囲んだ部分が膜貫通領域に相当する。
各cDNAを動物細胞発現ベクターpCXN2に挿入してhIRおよびその改変体の発現プラスミドを得た。それぞれの制限酵素はTakara(Otsu,Japan)及びNew England BioLabs(Beverly,MA)より購入した。
2.培養および遺伝子導入
チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞は、F−12 Nutrient Mixture(Ham’s F−12,Invitrogen,Carlsbad,CA)培地を用いて5% COインキュベーターで培養した。10μgの1で得た各発現プラスミドを制限酵素Sca Iにより直線化し、0.5μgブラストサイジン(pSV2−bsr,Funakoshi,Tokyo,Japan)と共にエレクトロポレーションによりCHO細胞に導入した。トランスフェクションから24時間後より10μg/mlブラストサイジン耐性F−12培地に交換し、2週間後に残ったコロニーを単離した。hIRの発現については、ポリアクリルアミド電気泳動および抗IRα抗体を用いたウェスタンブロッティングにより確認した。
3.αサブユニットの精製
発現量の高いクローンを10% FCSを含むF−12培地で増幅し,150mm細胞培養デッシュ(Corning)を用いて培養した。100%まで培養後、HEPES緩衝液[20mM HEPES(pH7.4),140mM NaCl,5mM KCl,2.5mM MgCl,1mM CaCl]で3回洗浄後,ディシュ1枚あたり20mlの無血清培地(CHO−S−SFM II DPM,Invitrogen)に交換した。
4日間培養した培地を回収し、遠心分離(1300×g、10分、4℃)により細胞成分を除去した後の上清を集めた。上清1mlあたり6μl(50%懸濁液)の小麦胚芽レクチン(WGA)アガロース(Amersham)を加え、4℃で2時間ローテートして吸着させた。アガロースは5回洗浄した。1回目と5回目はHEPES緩衝液[50mM HEPES(pH7.4)、150mM NaCl,1% Triton X−100]で洗浄した。2〜4回目の洗浄液は、塩濃度を500mMとした。吸着したタンパクは0.2M N−アセチルグルコサミン含有HEPES緩衝液で溶出した。抗インスリンレセプター(αサブユニット抗体、イムノテック0365)抗体カラム(ベットボリューム;0.5ml)に溶出したサンプルを加えて4℃で1時間ローテートして吸着させた。ベットボリュームの10倍量のHEPES緩衝液でカラムを3回洗浄したが、この時も2回目の洗浄は塩濃度を500mMに高めた。1.5M MgCl含有ホウ酸ナトリウム緩衝液で200μlずつ分取した。
各フラクションにおけるインスリンレセプターαサブユニットの精製度は、次のようにして評価した。まずそれぞれのフラクションから20μLをとり、7.5% SDS−PAGE及び銀染色を行った。染色後のゲルの写真を図3に示した。インスリンレセプターαサブユニットに相当する分子量を有する蛋白質が、ほぼ純粋な蛋白質として単離されていることが確認できた(IRαで示したバンド)。染色後のゲルを透過型スキャナーで読みとりNIHイメージソフトウェアで評価した。蛋白質濃度はprotein assay dye reagent(BioRad,Hercules,CA)を用いてBSAを標準にしてBradfold法により定量した。
4.抗ヒトインスリンレセプターαサブユニット抗体の作製
精製したヒトインスリンレセプターαサブユニットを用いて、ウサギ(日本白色メス3.5kg)に対し皮下免疫した(約10箇所、1回/週)。5回免疫後に耳下静脈より少量を採血し、血清を分離してELISAにより抗体価をチェックした。
まず1/100M生理的リン酸化緩衝食塩液(PBS)にヒトインスリンレセプターαサブユニットを溶解して0.1mg/mLの溶液を調製し、この溶液をヌンク社製96穴マイクロプレート「マキシソープ」に100μL添加した。室温(20〜25℃)で3時間放置した後、ウエル内の溶液を吸引除去し、5%のウシ血清アルブミンを含むPBS30μLを加えた。約18時間4℃に静置し、カップの未反応部分をブロックした。ブロッキング液を除き300μLのPBSで3回洗浄してELISA用プレートとした。
PBSで希釈した抗血清を希釈し、希釈の系列を作製した。希釈した抗血清100μLをELISAプレートの各ウエルに加えた。室温(20〜25℃)で1時間静置した後、反応液を除き、続いて30μLのPBSで4回洗浄した。次に、希釈したペルオキシダーゼ標識抗ウサギIgG((株)医学生物学研究所製)100μLを加えた。室温(20〜25℃)で1時間静置反応させた後、再度30μLのPBSで4回洗浄した。
洗浄後のウエルに3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジンと過酸化水素の溶液100μLを発色基質として加えた。一定時間反応させた後1規定硫酸を添加して反応を停止し、波長450nmにおける吸光度を測定した。測定結果を図4のグラフに示す。この結果から明らかなように、得られた抗血清は十分な抗体価を示した。このように十分な抗体価を示したウサギについては耳下静脈より70mlの採血を行い、約30mlの抗血清を得た。さらに、このようにして得たポリクローナル溶液からDEAEセルロースカラムを用いてIgG分画を精製した。
5.標識抗体の作製
0.1M炭酸緩衝液(pH8.5)に溶解した抗ウサギIgGモノクローナル抗体(2B9、5μg/mL)とNHS−LC−BIOTIN(PIERCE社製25μg/mL)を混合し、室温で4時間スターラーを用いて攪拌した。IgGとNHS−LC−BIOTINは、モル比が1:60になるように混合した。攪拌後、この溶液を生理的リン酸緩衝液(PBS)に透析し、ビオチン標識抗体を得た。
6.ヒトインスリン受容体αサブユニットのELISAの構築
抗ヒトインスリン受容体αサブユニット抗体を40μg/mL〜80μg/mLの濃度になるように0.1M炭酸塩緩衝液(pH9.6)で希釈調製した。希釈した抗体溶液を96穴のマイクロプレート(NUNC社製、イムノブレークアパートモジュールマキシソープ#473768)の各ウエルに100μLずつ分注した。マイクロプレートは、湿潤箱中で2〜8℃、一晩放置して抗体を結合させた。
インキュベート後、抗体溶液を捨て、PBSで2回洗浄した。余分な水分を除去した後ブロッキング液(1%BSA、0.1%NaNを含むPBS)を1ウエル当たり200μL加えた。マイクロプレートを湿潤箱中で2〜8℃、一晩静置してブロッキングした。ブロッキング後、ブロッキング液を捨て余分な水分を除去した。更にプレートを風乾し、使用時まで乾燥剤と共にアルミ袋に保存した。
7.ELISAの評価
精製ヒトインスリンαサブユニットを検体希釈用緩衝液(20mM Tris−HCl,150mM NaCl,1%BSA,10%正常マウス血清、25mg/mL MAK33,0.1%NaN、1%ウシγ−グロブリン、0.056% Tween 20,pH7.5)で希釈しスタンダードとした。検体は検体希釈液で2倍希釈し、抗体感作マイクロプレートに1ウエル当たり100μLずつ分注して室温で3時間反応させて抗体・抗原複合物を形成させた。
反応後のウエルを、洗浄用緩衝液(PBS+0.05% Tween 20)で5回洗浄した。余分な水分を除いた後、検体希釈用緩衝液で希釈したビオチン標識抗体を1ウエル当たり100μLずつ分注し、室温で3時間反応させた。反応後、同じ洗浄用緩衝液で5回洗浄した。余分な水分を除いた後、アビジンHRP希釈用緩衝液(20mM Tris−HCl,150mM NaCl,1%BSA,0.15% Proclin,pH7.5)で希釈したアビジン標識ペルオキシダーゼを1ウエル当たり100μL添加して室温で3時間反応させた。この反応により、抗体・抗原・ビオチン化抗体・アビジン標識ペルオキシダーゼ複合物を形成させた。
反応後のウエルを洗浄用緩衝液で5回洗浄した。余分な水分を除いた後、TMB発色基質(MOSS社、TMBH−100)を1ウエル当たり100μL添加した。室温で約20分間反応させて発色させた後、1ウエル当たり100μLの1規定硫酸を加えて発色を停止した。次いで波長450nmにおける吸光度を測定した。検体中のインスリンレセプターαサブユニットの濃度は、スタンダードの吸光度より作成した検量線から読み取った。上記のようにして構築したELISAによって、インスリンレセプターαサブユニットを測定できることが確認された。
8.インスリンレセプターαサブユニットの投与の影響
8−10週令の雄マウスを16時間絶食後、pentobarbital麻酔し頸静脈より精製したインスリンレセプターαサブユニットを100ng投与した。インスリンレセプターαサブユニットは、0.1%BSAを含む50μLの生理食塩水に溶解して投与した。インスリンレセプターαサブユニット投与後のマウスから、経時的に尾静脈より採血し血糖値を測定した。対照として、0.1%BSAを含む50μLの生理食塩水のみを同様にしてマウスに投与した。
結果は図5に示した。対照のマウスは絶食状態が続くため少しずつ血糖値は低下した。一方インスリンレセプターαサブユニットを血中投与したマウスでは、血糖値の経時的な上昇が観察された。これは投与したインスリンレセプターαサブユニットがインスリンと結合することにより、インスリンの作用が阻害されたと考えられる。
9.インスリンレセプターαサブユニットの投与の影響(グルコース負荷)
7と同じ条件でインスリンレセプターαサブユニットを投与した10分後に、腹空内にグルコース(2g/Kg body weight)を投与した。グルコースの投与後に経時的に尾静脈より採血し血糖値を測定した。対照として、0.1%BSAを含む50μLの生理食塩水のみを同様にして投与したマウスに、同量のグルコースを投与した。
結果は図6に示した。インスリンレセプターαサブユニットを投与すると、グルコース負荷試験で耐糖能異常を示すことが確認された。以上の2つの結果は、インスリンレセプターαサブユニットが血中に存在すると、インスリンと結合しインスリン作用を阻害し、血糖値を上昇させ、糖尿病の増悪因子になる可能性が高いことを示す。
10.糖尿病患者血清中のインスリン受容体αサブユニットの測定
2種類の抗ヒトインスリン受容体αサブユニットモノクローナル抗体(マウス)を用いて、血中のインスリン受容体αサブユニットを測定するサンドイッチELISAを開発した。
標識抗体は上記の方法に従い、モノクローナル抗体を用いて作成した。0.1M炭酸緩衝液(pH8.5)に溶解した抗αサブユニットモノクローナル抗体(IM0365)5μg/mLとNHS−LC−BIOTIN(PIERCE社製25μg/mL)を混合し、室温で4時間スターラーを用いて撹拌した。IgGとNHS−LC−BIOTINはモル比が1:60になるように混合した。撹拌後、この溶液を生理的リン酸緩衝液(PBS)に透析し、ビオチン標識抗体を得た。
同様に、モノクローナル抗体を用いて固相プレートの作成した。抗αサブユニットモノクローナル抗体(Neomarker MS632)を0.1M炭酸緩衝液(pH9.6)に10μg/mLの濃度に溶解して100μL/well、4℃一晩感作した後、PBS+1%BSAを200μL/well添加して室温で2時間ブロッキングし、風乾して密封し、保存した。
これらの抗体を用いて、上記の測定条件に従って検体のインスリン受容体αサブユニット濃度を測定した。
健常者の検体として、徳島大学医学部の学生から提供された血清のうち糖尿病の家族歴のある検体及び乳びのある検体を除いた70検体を測定した。その分布からノンパラメトリック法により平均値+3SDを暫定的なカットオフ値とした(図7)。その結果、カットオフ値は13.3μg/mLとなった。
次いで、徳島大学医学部において、インフォームドコンセントを実施して提供された糖尿病患者検体168検体を測定した(図8)。その結果、糖尿病患者血清中のインスリン受容体αサブユニットの濃度は平均10.7μg/mL、最大値23.3μg/mLとなり、健常者との間に明らかな差が認められた。
このことから、血中のインスリン受容体αサブユニットの測定値は、糖尿病診断において有用であると考えられた。
11.がん患者血清中のインスリン受容体αサブユニットの測定
次いで、ベンダーより購入した各種がん患者血清を検体として、インスリン受容体αサブユニットの濃度を測定した。測定した患者検体は、肺癌、食道癌、すい臓癌、結腸癌、乳癌、肝臓癌、直腸癌各10検体である。測定の結果を表1及び図9に示す。インスリン受容体αサブユニットの濃度は、いずれの癌においても健常人と比較して有意に高い値を示した。このことから、血中におけるインスリン受容体αサブユニットの測定は、癌の診断に有用であるといえる。

【産業上の利用可能性】
本発明により、血中の遊離のインスリン受容体αサブユニットの測定方法が提供された。血中の遊離のインスリン受容体αサブユニットの測定値は、糖尿病の診断マーカーとして有用である。すなわち血中の遊離のインスリン受容体αサブユニットの測定値が対照と比較して高い場合には、被検者は糖尿病であること、あるいは糖尿病のリスクファクターを有することが予測される。
また、本発明により、新たながんの診断方法が提供された。血中の遊離のインスリン受容体αサブユニットの測定値は、がんの診断マーカーとして有用である。すなわち血中の遊離のインスリン受容体αサブユニットの測定値が対照と比較して高い場合には、被検者はがんであることが予測される。インスリン受容体αサブユニットは、幅広い臓器のがんに対して、健常者よりも高い測定値を示した。したがって、インスリン受容体αサブユニットは、複数の種類のがんのいずれに対してもマーカーとして利用することができる。すなわち、本発明によって、新たな広域腫瘍マーカーが提供された。
【配列表】













【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の工程を含む、血中の遊離インスリンレセプターαサブユニットの測定方法。
(1)血液試料をインスリンレセプターαサブユニットを認識する抗体と接触させる工程、
(2)前記抗体と血液中に存在するインスリンレセプターαサブユニットの結合を検出する工程、および
(3)両者の結合のレベルに基づいて血中の遊離インスリンレセプターαサブユニットの量を決定する工程
【請求項2】
前記インスリンレセプターαサブユニットを認識する抗体が固相に結合しているか、または固相に結合可能な標識を有する第1の抗体であり、第1の抗体に結合したインスリンレセプターαサブユニットをインスリンレセプターαサブユニットを認識する第2の抗体の結合によって検出する工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
インスリンレセプターαサブユニットを認識する抗体を含む、血中の遊離インスリンレセプターαサブユニットの測定用試薬。
【請求項4】
次の工程を含む、糖尿病の診断方法。
a)被検者の生体試料における、遊離インスリンレセプターαサブユニットの量を測定する工程
b)該遊離インスリンレセプターαサブユニットの量を、対照と比較する工程、および
c)該被検者の生体試料における該遊離インスリンレセプターαサブユニットの量が対照と比較して高い場合に被検者が糖尿病であると判定する工程
【請求項5】
生体試料が血液試料である請求項4に記載の診断方法。
【請求項6】
遊離インスリンレセプターαサブユニットの量を請求項1に記載の方法により測定する、請求項5に記載の診断方法
【請求項7】
インスリンレセプターαサブユニットのアミノ酸配列を含むペプチドを認識する抗体からなる糖尿病の診断用試薬。
【請求項8】
次の工程を含む、がんの診断方法。
(a)被検者の生体試料における、遊離インスリンレセプターαサブユニットの量を測定する工程
(b)該遊離インスリンレセプターαサブユニットの量を、対照と比較する工程、および
(c)該被検者の生体試料における該遊離インスリンレセプターαサブユニットの量が対照と比較して高い場合に被検者ががんであると判定する工程
【請求項9】
生体試料が血液試料である請求項8に記載の診断方法。
【請求項10】
遊離インスリンレセプターαサブユニットの量を請求項1に記載の方法により測定する、請求項9に記載の診断方法。
【請求項11】
インスリンレセプターαサブユニットのアミノ酸配列を含むペプチドを認識する抗体からなるがんの診断用試薬。

【国際公開番号】WO2004/097414
【国際公開日】平成16年11月11日(2004.11.11)
【発行日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−505840(P2005−505840)
【国際出願番号】PCT/JP2004/005412
【国際出願日】平成16年4月15日(2004.4.15)
【出願人】(390004097)株式会社医学生物学研究所 (41)
【出願人】(594101857)
【出願人】(503155289)
【Fターム(参考)】