説明

インスリン抵抗性改善剤

【課題】 従来の脂質異常症治療薬ではなし得なかったインスリン抵抗性を改善して、少ない分泌のインスリンで糖代謝を効果的に行わせるようにすること。
【解決手段】 本発明に係るインスリン抵抗性改善剤は、フィブレート系薬剤とデュナリエラ属の微細藻から抽出した抽出物とを併用投与するものであって、前記治療薬と前記抽出物との配合比を1:4±1としたものであり、両者の併用による相乗効果によって、インスリン抵抗性を改善して少ないインスリンの分泌で糖代謝を高めて血糖値を低下させるので、効果的に糖尿病の治療ができるのである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として糖尿病患者の治療薬として使用するインスリン抵抗性改善剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
そもそも糖尿病は、血液中の糖代謝の異常から起こる病気であり、血液によって運ばれるエネルギーの源であるブドウ糖(血糖)が、膵臓のβ細胞から分泌されるインスリン不足によって血液中に多く溜まった結果の病気である。
【0003】
ところで、脂質異常症治療薬として、例えば、フェノフィブレート「fenofibrate」(登録商標名)などのフィブレート系薬剤が知られており、糖尿病の一因ともされる中性脂肪や悪玉コレステロールを下げるための薬剤であって、成分としてPPAR−α(ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体)αアゴニスト(受容体の活性剤)を含んでいる。
【0004】
このPPAR−αアゴニストであるフィブレート系薬剤(fenofibrate)は、さまざまなタンパク質の発現を調節する事により脂質代謝を改善させ、血清トリグリセライド・LDLコレステロールを低下させ、HDLコレステロールを上昇させる非常に効果的な脂質異常症治療薬であり、臨床においても広く使用されている。
【0005】
ところで、微細藻(デュナリエラ)を使用した脂肪細胞縮小化剤、医薬品及び飲食品が公知になっている。この公知の脂肪細胞縮小化剤は、緑藻網オオヒゲマワリ目のデュナリエラ属に属する微細藻のうち黄橙色の藻体または該藻体から得られる抽出物を含有するものであって、副作用が少なくて安全な天然物であり、内臓脂肪等の脂肪細胞を縮小化させると共に、脂肪組織量を減少させるというものである(特許文献1)。
【0006】
【特許文献1】特開2007−210917号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、フィブレート系薬剤(fenofibrate)は、脂質代謝異常改善やLDLコレステロールを低下させHDLコレステロールを上昇させる作用はあるが、インスリン抵抗性が改善されていないので糖代謝に対する効果は乏しいという問題点を有している。
【0008】
前記特許文献1に記載の脂肪細胞縮小化剤は、それ自体は副作用が少なくて安全であると認められるが、あくまでも医薬品として使用するものであり、脂肪細胞をアポートシスによる消失に誘導することができ、脂肪細胞数を減少させるというものであり、インスリン抵抗性の改善や糖代謝に対する効果については言及されていないのである。
【0009】
従って、脂質異常症治療薬であるフィブレート系薬剤(fenofibrate)について、HDLコレステロール上昇作用と共に、インスリン抵抗性改善と糖代謝に対する効果を高めることに解決課題を有している。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記した課題を解決する具体的手段として本発明は、脂質異常症治療薬のフィブレート系薬剤とデュナリエラ属の微細藻から抽出した抽出物とを併用投与するものであって、前記治療薬と前記抽出物との配合比を1:4±1としたことを特徴とするインスリン抵抗性改善剤を提供するものである。
【0011】
前記脂質異常症治療薬において、前記フィブレート系薬剤とデュナリエラ抽出物とを設定された配合比をもって、カプセル状、錠剤状、顆粒状または粉末状にしたこと;を付加的な要件としてそれぞれ含むものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るインスリン抵抗性改善剤は、9−cisβ−カロテンを豊富に含むデュナリエラ属の微細藻類(Dunaliella bardawil又はDunaliella salina)とPPAR−αアゴニストであるフィブレート系薬剤(fenofibrate)を併用することにより、フィブレート系薬剤単独投与よりも、糖尿病患者のHDLコレステロール濃度が高くなると共に、インスリン抵抗性が改善され少ないインスリンの分泌で糖代謝を高めて血糖値を低下させることができるという優れた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明によれば、デュナリエラ属の微細藻から抽出した抽出物を単独で使用するよりも脂質異常症治療薬であるフィブレート系薬剤と所定の比率配合で併用することにより、デュナリエラ抽出物に含まれる9−cisβ−カロテンでフィブレート系薬剤のPPAR−αの作用を亢進させ、インスリン抵抗性を改善して糖尿病の治療効果を高めることができるのである。
【0014】
これについては、フィブレート系薬剤のターゲットであるPPAR−αとヘテロダイマーを構成するRXRの活性が、デュナリエラ抽出物に含まれる9−cisβ−カロテンの代謝物である9−cisレチノイン酸によって高められるためと考えたからである。なお、フィブレート系薬剤とデュナリエラ抽出物との配合の比率は、概ね1:4の範囲が好ましいが、患者の病状によってその範囲が多少変わることは当然である。例えば、比率が1:3〜1:5までの範囲である。
【0015】
本発明では、デュナリエラ属の微細藻(Dunaliella salina又はDunaliella bardawil)から抽出した抽出物を用いるものであり、その抽出手段の1例としては、微細藻の乾燥粉末をエタノールにより洗浄した後に、ヘキサンを添加して攪拌し、濾過して濾液を濃縮する第1工程と、得られた半固体状濃縮物にさらにヘキサンを添加して攪拌し、濾過して濾液を濃縮する第2工程と、得られた油状濃縮物をヘキサンに溶解させ、静置して固体を析出させ、、該析出物を濾取し、エタノールにて洗浄し、乾燥させる第3工程によって粉末の抽出物を得ることができる。
【0016】
このようにして得られた粉末状のデュナリエラ抽出物は、脂質異常症治療薬であるフィブレート系薬剤と所定の比率配合し、粉末の状態でまたは、所要のカプセルに詰めてカプセル状にしたり、錠剤形状に形成したり、顆粒状に形成したりして服用に適した形状に形成する。
【0017】
本発明のインスリン抵抗性改善剤について、実際に肥満・糖尿病モデルマウス(KKA)を使って糖尿病改善の効果を実験した、その結果を下記に示す。
【0018】
[実験]
KKAマウスを高脂肪食負荷下で飼育しV群(コントロール群)、F群(フィブレート系薬剤単独投与群)、D群(デュナリエラ抽出物単独投与群)、FD群(フィブレート系薬剤とデュナリエラ抽出物併用投与群)に分けフィブレート系薬剤は0.1%、デュナリエラ抽出物は0.4%となるように飼料に混合して投与した。投与3週間後にインスリン負荷試験(ITT)、4週間後に経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)をそれぞれ行い、試験終了後に各遺伝子の解析等を行った。解析(測定)結果は、図1〜図13に示したとおりである。
【0019】
[評価]
1).図1(A)(B)から明らかなように、体重が、V群に比べFD群が有意に上昇を 抑制し、白色脂肪組織重量も低かった事から肥満の改善が確認された。
2).図2(A)(B)から明らかなように、随時血糖値は、V群に比べ、F群でも低下 がみられ、FD群が最も上昇抑制されていること、および
血中インスリンも低値であり、少ないインスリンで血糖をを低下させていることから インスリン抵抗性改善が得られていること、が確認された。
3).図3(A)(B)から明らかなように、空腹時血糖値はV群と比べFD群、D群、 F群で低く抑えられ、FD群が最も抑えられていること、および
インスリンもFD群において低く、少量のインスリンで血糖値を抑えていることが 、うかがえる。
4).図4(A)(B)から明らかなように、経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)におい ては、V群、F群、D群に変化がなかったが、FD群では血糖値AUCの低下がみら れた。この時のインスリン濃度もV群より有意に低く、少ないインスリンの量で効率 良く血糖値を低下させているためインスリン抵抗性の改善と認められる。
5).図5(A)(B)から明らかなように、糖の取り込みについては、白色脂肪細胞で のGULT4の発現がFD群で有意に高く、血中グルコースを脂肪細胞に取り込む働 きを強化していることが認められる。
6).図6から明らかなように、脂肪分解については、脂肪細胞に取り込まれたグルコー スは中性脂肪に変換されるが、β-3ARの発現上昇により合成された中性脂肪は分 解され、脂肪酸として血中に放出される。この働きもF群、D群で上昇し、FD群で は最も強く作用したことが確認された。
7).図7(A)(B)から明らかなように、脂肪燃焼に関わるACOやエネルギー消費 に関わるUCP2はV群にくらべFD群も脂肪組織より放出された脂肪酸が肝臓に取 り込まれ、それを燃焼させ、糖代謝の改善が行われていることが確認された。
8).図8(A)(B)から明らかなように、FD群で白色脂肪組織の抑制しているMC P−1と、F4/80との結果によりインスリン抵抗性の改善が見られた。
9).図9から明らかなように、褐色脂肪組織の炎症抑制効果によるインスリン抵抗性の 改善が認められた。
10).図10(A)(B)から明らかなように、D群、FD群では、血中の高分子量ア ディポネクチンの増加が見られた。
11).図11(A)(B)から明らかなように、ITT(インスリン負荷試験)におい てもFD群のインスリン感受性が非常に高くOGTT(経口ブドウ糖負荷試験)の結 果とも一致するようにF群よりもFD群の方が少ないインスリンの量で血糖値を抑え ていることからインスリン抵抗性の改善が認められた。
12).図12(A)(B)から明らかなように、脂肪組織の酸化ストレス消去系の遺伝 子であるSODとカタラーゼ(Catalase)の発現も高く、酸化ストレスの軽減による インスリン抵抗性の改善が見られた。
13).図13から明らかなように、肝臓中のTGを抑制することにより肝機能低下を抑 制し、インスリン抵抗性を改善させることが確認された。
【0020】
以上の解析・評価結果により、デュナリエラ抽出物をフィブレート系薬剤と併用投与する事により、耐糖能及びインスリン抵抗性の改善が明らかであることを確認できたのである。
これは、血中の高分子アディポネクチンが増加し、また、脂肪の燃焼が更新したこと、中性脂肪が低下したことによると認められる。
【産業上の利用可能性】
【0021】
このように本発明のインスリン抵抗性改善剤は、9−cisβ−カロテンを豊富に含むデュナリエラ属の微細藻の抽出物とPPAR−αアゴニストであるフィブレート系薬剤とを併用することにより、デュナリエラ抽出物9−cisβ−カロテンでフィブレート系薬剤のPPAR−αの作用を亢進させるのであり、両者の併用による相乗効果によって、インスリン抵抗性を改善して少ないインスリンの分泌で糖代謝を高めて血糖値を低下させるので、糖尿病の治療だけでなく、メタボリックシンドロームや高脂血症の治療薬としても広く利用される可能性が大である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】試験に用いたネズミの32日間の体重推移(A)と体重(B)を示した折れ線グラフと棒グラフである。
【図2】同実験におけるネズミの4週間の随時血糖値(A)と3週間の随時インスリン値(B)をそれぞれ示した棒グラフである。
【図3】同実験におけるネズミの空腹時血糖値(A)と空腹時インスリン(B)を示した棒グラフである。
【図4】同実験におけるネズミの経口ブドウ糖付加試験の血糖値(A)とインスリン(B)を示した棒グラフである。
【図5】同実験におけるネズミの糖取り込みを示したもので、(A)白色脂肪の糖取り込みと(B)骨格筋により糖取り込みとを示す棒グラフである。
【図6】同実験におけるネズミの脂肪分解を示す棒グラフである。
【図7】同実験におけるネズミの脂肪酸燃焼のACO(A)とエネルギー消費のUCP2(B)を示した棒グラフである。
【図8】同実験におけるネズミの白色脂肪における(A)炎症抑制のMCP−1と(B)マクロファージマーカであるF4/80を示す棒グラフである。
【図9】同実験におけるネズミの褐色脂肪細胞における炎症抑制のMCP−1を示した棒グラフである。
【図10】同実験におけるネズミの血中の高分子量アディポネクチンを示すWestern blotting写真(A)と棒グラフ(B)である。
【図11】同実験におけるネズミのインスリン負荷試験(ITT)における(A)インスリン抵抗値を示す折れ線グラフと(B)血糖値を示した棒グラフである。
【図12】同実験におけるネズミの白色脂肪組織における各遺伝子発現を示したもので、(A)酸化ストレス消去系の遺伝子であるSODと(B)カタラーゼ(Catalase)の発現を示した棒グラフである。
【図13】同実験におけるネズミの肝臓中の中性脂肪を示した棒グラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂質異常症治療薬のフィブレート系薬剤とデュナリエラ属の微細藻から抽出した抽出物とを併用投与するものであって、前記治療薬と前記抽出物との配合比を1:4±1としたことを特徴とするインスリン抵抗性改善剤。
【請求項2】
前記改善剤は、前記フィブレート系薬剤とデュナリエラ抽出物とを設定された配合比をもって、カプセル状、錠剤状、顆粒状または粉末状にしたこと
を特徴とする請求項1に記載のインスリン抵抗性改善剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−95491(P2010−95491A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−269528(P2008−269528)
【出願日】平成20年10月20日(2008.10.20)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2008年4月25日発行の刊行物「糖尿病」、該刊行物は「第51回日本糖尿病学会年次学術集会」会期2008年5月22日〜24日で東京国際フォーラムにおいて文書をもって発表
【出願人】(399127603)株式会社日健総本社 (19)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】