説明

インターロッキング・ネットワークに包含される親水性化合物を有する潤滑コーティングを施された医療装置

医療装置の少なくとも一部分に潤滑コーティングを有する医療装置、および医療装置のコーティング方法であって、潤滑コーティングが、親水性化合物のネットワークであって、親水性化合部が、それ自身に架橋しかつ架橋した重合多官能性モノマーまたはポリマーのネットワークと連結してなる、方法。コーティングは、装置上のコーティングの接着を高めるまたはコーティングを一層速やかに水和しおよび/または潤滑性を向上させる1以上の薬剤を包含することができる。さらに、潤滑コーティングは1以上の治療または診断薬を備えることができ、一態様によれば、薬剤はコーティングの水和時に潤滑コーティングから濃縮放出で比較的速やかに溶出する。

【発明の詳細な説明】
【関連出願の参照】
【0001】
なし
【技術分野】
【0002】
本発明は、カテーテルまたはガイドワイヤーのような体内医療装置の潤滑な親水性コーティングの分野に関する。
【0003】
患者の体内での医療装置の使用は、装置上に潤滑な表面が存在することによって促進することができる。例えば、カテーテルおよびガイドワイヤーのような脈管内装置は、脈管壁と脈管内装置との摩擦が減少するときには患者の脈管構造内に一層容易に導入される。摩擦は、相当量の水を吸着した後に滑りやすくなる親水性化合物で装置をコーティングすることによって減少させることができる。その結果として、親水性コーティングは、コーティングを施した装置を水溶液に暴露すると、例えば、コーティングを施した装置を患者に挿入する前に水にまたは使用中に患者の血液に暴露すると、潤滑性を生じる。あるいは、フルオロポリマーおよびシリコーンのようなコーティングは、水溶液へ暴露する必要なしに体内装置の表面に潤滑性を生じる。しかしながら、潤滑性の程度は潤滑コーティングの性質によって大きく変化しうる。親水性コーティングは、生物学的組織の対応表面に対して試験すると、シリコーンのような疎水性コーティングと比較して優れた潤滑性を生じる。
【0004】
効果的な潤滑コーティングは、コーティングを施した装置の摩擦係数の低下に加えて、装置表面に強固に接着するものでなければならない。潤滑コーティングは、延長される可能性がある保管期間中並びに使用中に見られる研磨力に応じて装置表面に接着したままでなければならない。接着強度が乏しいと、失われたコーティングは使用中に患者の体内に残されたままになる可能性があり、それに応じて装置の潤滑性が減少するので、望ましくない。一般的には、コーティングの潤滑性とコーティングの接着および凝集強度は相殺される関係にあり、潤滑コーティングの耐久性を増加させようとすると、コーティングの潤滑性を不注意により減少させることがある。耐久性は、詳細には、患者の曲がりくねった脈管構造中を滑動可能に前進するときに有意な摩擦および研磨力を受けるカテーテルおよびガイドワイヤーの表面についての問題である。その結果として、1つの問題点は、カテーテルまたはガイドワイヤーの表面上で潤滑性が長期間継続する高潤滑コーティングの提供にある。
【0005】
耐久性の高い親水性コーティングを医療装置の表面に提供し、装置を特に滑らかにすることは、重要な進歩であるといえる。本発明は、これらおよび他の要求を満足するものである。
【発明の概要】
【0006】
本発明は、医療装置の少なくとも一部分に潤滑コーティングを有する医療装置であって、潤滑コーティングが、親水性化合物のネットワークであって、親水性化合物がそれ自身に架橋しかつ多官能性重合化合物のネットワークと連結している、ネットワークを含んでなる装置に関する。本発明の一態様は、医療装置を潤滑コーティングでコーティングする方法である。本発明の他の態様は、コーティングの装置への接着を高め、またはコーティングの水和を速めおよび/または潤滑性を向上させるコーティングにおいて1以上の薬剤を包含することに関する。さらに、潤滑コーティングは1以上の治療または診断薬を備えていることができ、一態様によれば、薬剤はコーティングの水和時に潤滑コーティングから濃縮放出(concentrated release)で比較的速やかに溶出する。
【0007】
潤滑コーティングは、医療装置の表面に適用した後に装置上で硬化する溶液混合物の硬化反応生成物(cured reaction product)を含んでなる。溶液混合物は、少なくとも下記の成分、すなわち多官能性モノマーまたはポリマーネットワーク形成化合物、親水性化合物、多官能性モノマーまたはポリマーを架橋するための1以上の第一の架橋剤、および親水性化合物を架橋するための、第一の架橋剤とは異なる1以上の第二の架橋剤を混合することによって形成される。第一の架橋剤は、親水性化合物と比較して多官能性モノマーまたはポリマーを優先的に架橋し、第二の架橋剤は、多官能性モノマーまたはポリマーと比較して親水性化合物を優先的に架橋する。本発明の好ましい態様によれば、ネットワーク形成化合物は溶液混合物の調製の際にはオリゴマーである。しかしながら、これは、モノマー(予備重合)としてまたは長鎖ポリマーとして溶液混合物に代わりに加えて、それがモノマー、オリゴマーまたは長鎖ポリマーとして加えられるかどうかによって装置上で多少の程度の重合を受けるようにすることができる。ネットワーク形成化合物がモノマーまたは比較的低または高分子量のポリマーの形態で溶液混合物に加えられるかどうかとは関係なく、溶液混合物の多官能性モノマーまたはポリマーは装置上で完成したコーティングでは重合状態であることを理解すべきである。
【0008】
架橋剤は、好ましくは光(例えば、紫外または可視波長の)照射に応じて架橋反応を開始する光架橋剤である。しかしながら、過酸化物のような温度増加に応答する熱重合開始剤を、代替態様で用いることができる。したがって、主としてコーティングを光硬化するための好ましい光架橋剤に関して下記に説明するが、代替態様は他の機構によって反応する1以上の代替開始剤を包含することがあることを理解すべきである。光架橋剤という用語は、ネットワークに組込まれる架橋剤あるいは架橋反応を生じるラジカルを形成する光重合開始剤など、ネットワーク形成架橋を生じる様々な機構によって作用する化合物を表すものと理解すべきである。
【0009】
カテーテルまたはガイドワイヤーの表面に適用されると、潤滑コーティング(lubricious coating)は、使用中に見られる有意な摩擦および研磨力にも拘わらずその潤滑性を維持し、好ましい態様によれば、血液の凝集およびコントラストが装置表面の間の摩擦抵抗を増加しおよび/またはガイドワイヤークリアランスを減少させるときに生じるカテーテル管腔におけるガイドワイヤーの支障を防止または阻止する。第二の光架橋剤の非存在下では、生成するコーティングは、架橋しておらずかつポリマーネットワークに比較的弱く機械的に含まれているだけであるかなりの量の親水性化合物を有することになる。半浸透性ネットワーク(半IPN)コーティングと呼ぶことができるこのようなコーティングは、一般的には本発明のコーティングに比較して比較的速やかにかなりの潤滑性を失う。特に親水性化合物に対する光架橋剤を包含させることによって、本発明の生成コーティングは好ましくは制御された架橋を提供し、コーティングの硬化の最適化を促進し、最終的に所望な量の潤滑性と耐久性を提供する。例えば、硬化の持続期間と親水性化合物の量に対する第二の光架橋剤の量は、組み立てられて滅菌された装置が極めて滑らかな、しかも耐久性のあるコーティングを有するように選択される。
【0010】
理論によって束縛しようとするものではないが、本発明のコーティング処方物により、親水性化合物が(第二の光架橋剤を介して)それ自身に架橋することによって化学的に連結し、架橋ポリマーを親水性化合物に化学的に(共有)結合させることなく架橋ポリマーと共に真の浸透性ネットワークを形成し、良好な潤滑性と共に耐久性が高められうる。したがって、同一混合物に同一時期に化学的に形成される親水性化合物ネットワークとポリマーネットワークは、本質的に恒久的に機械的に互いに連結していると思われる。コーティングは、非架橋の親水性化合物が架橋ポリマーに非恒久的に機械的に絡み合って/含まれている半IPNとは異なり、かつマトリックスまたは基層ポリマーが親水性化合物との化学結合に使用されるコーティングとは異なる。
【0011】
一態様によれば、コーティングは医療装置のポリマーまたは金属表面へのコーティングの接着を向上させる接着プロモーターを包含する。接着プロモーターは医療装置の表面への十分強力な接着を提供し、これによって医療装置の表面のコーティング下部における反応性プライマー層の必要がない。
【0012】
医療装置に潤滑コーティングを提供する方法は、一般的には、多官能性モノマーまたはポリマー、親水性化合物、親水性化合物と比較してモノマーまたはポリマーを優先的に架橋する1以上の第一の開始剤、およびモノマーまたはポリマーと比較して親水性化合物を優先的に架橋する、第一の開始剤とは異なる1以上の第二の開始剤の溶液混合物を用意し、溶液混合物のコーティングを医療装置の少なくとも一部分の表面に適用することを含んでなる。次に、適用した溶液のコーティングを硬化し、生成する潤滑コーティングが、親水性化合物のネットワークであって、親水性化合物がそれ自身に架橋して重合し、かつ多官能性モノマーまたはポリマーのネットワークと連結したものとなるようにする。
【0013】
本発明の好ましい態様によれば、親水性化合物はポリビニルピロリドンであり、第二の光架橋剤はジアジド化合物であり、多官能性モノマーまたはポリマーはアクリレートオリゴマーであり、接着プロモーターは酸官能性アクリレートである。生成するコーティングは、重合した多官能性アクリレートのアクリレートネットワーであって、上記多官能性アクリレートが、それ自身、さらには架橋した酸官能性アクリレート接着プロモーターに架橋しているアクリレートネットワーク、および、ポリビニルピロリドンの親水性化合物ネットワークであって、ポリビニルピロリドンがそれ自身にジアジド光架橋剤によって架橋している親水性化合物ネットワークを含んでなり、親水性化合物ネットワークがアクリレートネットワークと連結してなる。コーティングを施した装置は、コーティングの潤滑性または耐久性を余り減少させることなくe-ビームまたはエチレンオキシド(EtO)で滅菌することができる。
【0014】
本発明の潤滑コーティングは、有意でかつ長期間継続する潤滑性を提供する。結果として、カテーテルおよび/またはガイドワイヤーに適用すると、潤滑コーティングは、患者の体内管腔中を前進しまたは引き戻す際のガイドワイヤーおよびカテーテルの表面の摩擦力を有意に減少させる。本発明のこれらおよび他の利点は、下記の本発明の詳細な説明および添付の典型的図面から一層明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】カテーテルシャフト上に本発明の潤滑コーティングを有するバルーンカテーテルの部分断面立面図。
【図2】線2-2についての図1のカテーテルの横断面図。
【図3】線3-3についての図1のカテーテルの横断面図。
【図4】線4-4についての図1のカテーテルの横断面図。
【図4a】カテーテル遠位端(distal tip)が、遠位端の内側および外側表面に潤滑コーティングを有し、かつ外側表面潤滑コーティングにおいて潤滑コーティングが少ない、別態様の横断面図。
【図5】本発明の潤滑コーティングを有するガイドワイヤー。
【図6】線6-6についての図5のガイドワイヤーの横断面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は、本発明の潤滑コーティングを有する医療装置がバルーンカテーテル10である本発明の一態様を説明している。バルーンカテーテル10は、一般的には膨張管腔12およびガイドワイヤー管腔13(図2参照)を有する細長いカテーテルシャフト11と、膨張管腔と流体連通している内部を有する遠位シャフト部分(distal shaft section)上の膨張可能なバルーン14を含んでなる。カテーテルシャフトの基端に取り付けられたアダプター16はガイドワイヤー管腔に通じており、バルーン14を膨張させるための膨張流体(図示せず)の供給源に接続している。それぞれ線2−2および3−3についての図1のカテーテルの横断面図を示している図2および3に最も良好に示されているように、図1の態様では、シャフトは、その中に膨張管腔12を有する外側管状部材21と、外側管状部材の管腔に配置されかつガイドワイヤー23を滑動可能に収容するように設計されたガイドワイヤー管腔13をその中に有する内側管状部材22とを含んでなる。バルーン14は、外側管状部材21の末端に密封固定された基端部と、内側管状部材22の末端部に密封固定された末端部と、その間の膨張可能な部分とを有する。カテーテル10は、患者の身体の管腔内をガイドワイヤー23と共にまたは予め導入されているガイドワイヤー23上を滑動可能に、患者の身体の管腔中の所望な部位まで前進して、狭窄の拡張またはステントの膨張のような医療処置を行うことができる。ステント放出カテーテルとして用いるときには、ステント30(図5参照)は患者の身体の管腔内で放出されて膨張させる目的でバルーン14に取り付けられる。
【0017】
カテーテル10は、少なくとも本発明の潤滑コーティング18でコーティングを施した部分を有し、さらに具体的にはシャフト11の少なくとも一部分に潤滑コーティング18を有する。図1の態様によれば、潤滑コーティング18は外側管状部材21の外側表面(外側潤滑コーティング)および内側管状部材22の内側表面(図2および3参照)およびシャフト11の遠位端部分26にある。外側の潤滑コーティング18は、基部アダプター16から遠位端部分26の最末端までの外側全長(すなわち、外側管状部材21、バルーン14および遠位端部分26の外側表面に沿って)またはより短い長さなどカテーテル10に様々な長さで提供し、外側潤滑コーティング18が典型的にはカテーテルの最末端から基部まで(proximally)少なくとも約25〜約40 cmに及ぶようにすることができる。例えば、一態様によれば、潤滑コーティング18は、遠位端部分26、バルーン14および外側管状部材21の末端部分のみの外側表面に沿ってカテーテルの25〜40 cmの部分にわたっている。カテーテル10をステントの放出に用いるときには、コーティングの際にバルーンの一部分を遮蔽して、ステントをバルーンのコーティングされていない部分に取り付けてステント保持を良好にすることができる。内側管状部材の内側表面上の潤滑コーティング18は、内側管状部材22の基部から末端までの全長にわたってまたはそれより短い長さにすることができる。潤滑コーティング18が内側管状部材の内側表面にあり、コーティング18が光硬化している態様では、内側管状部材は好ましくはコーティング18を架橋するのに用いられる放射線に対して透過性のポリマーから形成されている。図1の態様におよれば、バルーン14の外側表面は、コーティング28、典型的には以下でさらに詳細に説明するようにシャフト11上の潤滑コーティング18とは異なる潤滑コーティングを有する。しかしながら、上記のように、バルーン14は、追加的にまたは代替え的に潤滑コーティング18でコーティングすることができる。
【0018】
内側管状部材22の遠位端および/または内側管状部材22および/またはバルーン基端の遠位端に固定された軟質の遠位端部材によって形成されるシャフト11の遠位端部分26は、図1のカテーテル10の遠位端部分26の線4-4についての横断面図を示している図4に特によく示されているように、その外側および内側表面に潤滑コーティング18を有する。しかしながら、別態様によれば、潤滑コーティング18は遠位端部分26の直ぐ外側または直ぐ内側表面に配置されている。図4aは、遠位端部分26の外側表面上の潤滑コーティング18が第二の異なる潤滑コーティングでさらにコーティングされている別態様を例示しており、図4aの態様の第二の異なる潤滑コーティングは、バルーン上にあるのと同じ潤滑コーティング28である。潤滑コーティング18は、カテーテル10の組立の際に遠位端部分26に残ったままになるのに十分な耐久性を有し、一態様によれば、カテーテル10の組立および加工前に、例えば、遠位端部材を浸漬コーティングまたはワイピング(wiping)した後、これを内側部材および/またはバルーンに取り付けることによって潤滑コーティング18がカテーテルの遠位端部分26に提供されるようになる。カテーテルの組立後に、第二の潤滑コーティング28をバルーン14および遠位端26に適用する。遠位端部分26上の本発明の潤滑コーティング18の下塗は変動を最小限にする目的で提供され、完全に組み立てられたカテーテルの遠位端26の潤滑性の耐久性を高め、これにより患者の身体の管腔の隙間のない狭窄を越えるカテーテルの能力が向上する。本発明の好ましい態様によれば、遠位端をカテーテルに取り付ける前にこれに塗布される親水性コーティングは、以下においてさらに詳細に説明される連結ネットワーク潤滑コーティング(interlocking network lubricious coating)18であるが、別態様によれば、PEOまたはPVPを基剤とするコーティングなどの様々の適当な親水性潤滑コーティングを遠位端に塗布した後、本発明の方法に準じてこれをカテーテルに取り付ける。
【0019】
カテーテル10の外側管状部材21、内側管状部材22および遠位端部分26について図1の態様に例示されているが、コーティング18は、代替え的には、特に外側管状部材21のようなカテーテル10の少部分またはカテーテル10の異なる部分に適用することもできることを理解すべきである。したがって、本発明の潤滑コーティング18は、カテーテル10上の様々の適当な部位に適用することができる。さらに、潤滑コーティング18は、様々の適当な代替医療装置に適用することもできる。例えば、図5は、ガイドワイヤー 23上の潤滑コーティング18を例示している。ガイドワイヤー23は金属コアおよびコイル状のワイヤー遠位端を含んでなり、コーティング18は好ましくは柔らかな遠位端を包含するガイドワイヤーの少なくとも遠位端部分に沿っている。本発明の潤滑コーティング18を有するガイドワイヤー23は、好ましくはカテーテルのガイドワイヤー管腔内を特に低い摩擦力で前進および後退する。
【0020】
図5のガイドワイヤーの横断面図を例示している図6に特によく示されているように、図5の態様では、ガイドワイヤーは金属コアの外側表面にポリマー層24を有し、潤滑コーティング18がガイドワイヤーポリマー層24の外側表面にあるようになっている。一態様によれば、ポリマー層24は、ガイドワイヤーのステンレススチールまたはNiTiコアワイヤー上のポリウレタンコーティングまたは層であるが、ポリマー層24は、ポリオレフィン、コポリアミド、コポリエステルまたは充填剤入りポリウレタンなど様々なポリマーから形成することができる。タングステン、バリウムおよびビスマスおよびそれらの化合物のような充填剤を、通常は放射線不透過性を高める目的で添加することができる。
【0021】
カテーテル10および/またはガイドワイヤー 23上の潤滑コーティング18は、多官能性モノマーまたはポリマーネットワーク形成化合物、親水性化合物、多官能性モノマーまたはポリマーを架橋するための1以上の第一の架橋剤であって、親水性化合物に比較して多官能性モノマーまたはポリマーに優先的に架橋するもの、および、親水性化合物を架橋するための、第一の架橋剤とは異なる1以上の第二の架橋剤であって、多官能性モノマーまたはポリマーに比較して親水性化合物に優先的に架橋するものを含んでなる溶液混合物の硬化反応生成物を含んでなる。医療装置上に生成する硬化コーティングは、親水性化合物のネットワークであって、親水性化合物がそれ自身に架橋し、かつ架橋重合多官能性モノマーまたはポリマーのネットワークと連結したものである。
【0022】
多官能性ネットワーク形成化合物は、好ましくは高分子量のエトキシル化トリメチロールプロパントリアクリレート(ethoxylated trimethylol propane triacrylate;ETMPTA)のようなトリアクリレートオリゴマー(例えば、Cognis社から発売されているPHOTOMER(登録商標)4158)である。ETMPTAオリゴマーは硬化中に重合して架橋し、架橋ETMPTAのネットワークを形成する。親水性化合物と連結ネットワークを形成するための代替の架橋可能なポリマー(代替多官能性モノマーまたはポリマーから形成される)としては、ウレタン、エポキシ、ポリエステルアクリレート、および不飽和ポリエステルが挙げられるが、トリアクリレート、特にETMPTAが、その親和性が高められかつ良好な製造可能性(manufacturability)のための通常の溶媒との混和性により好ましい。メタクリレートは、反応が遅くかつ酸素に感受性であるため、余り好ましくない。
【0023】
好ましい架橋剤は、感光性分子(光架橋剤)である。具体的には、多官能性オリゴマーがトリアクリレートである態様では、溶液混合物としては、好ましくはベンゾフェノンおよびベンジルジメチルケタール、例えば2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン(PHOTOMER(登録商標)51, Cognis社から発売)などトリアクリレートの光硬化を目的とする第一の光重合開始剤混合物が挙げられる。典型的には、様々な第一の光重合開始剤混合物が提供され、これらは一般的に知られているようなトリアクリレート(および一般的にはアクリレート)の重合および架橋を開始するための様々な機構によって働くものである。例えば、放射線照射により、PHOTOMER(登録商標)51は単分子結合開裂を受けてフリーラジカルを生成し、一方ベンゾフェノンは、アルコールの存在下にて二分子反応を経て、水素抜き取りによりヒドロキシル(またはケタール型)ラジカルを生成する。しかしながら、多官能性重合モノマーまたはポリマー(例えば、トリアクリレートオリゴマー)を優先的に架橋する様々な適当な第一の光架橋剤を用いることができる。例えば、架橋トリアクリレートの代替光重合開始剤としては、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトンおよび2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-1-プロパノンが挙げられるが、好ましい光重合開始剤は少なくとも部分的には良好な溶解性によって優れた製造可能性を提供する。可視光線とは対照的に、紫外線による光重合開始は一層速やかな硬化時間に好ましい。
【0024】
本発明の好ましい親水性化合物は、ポリビニルピロリドン(PVP、(ポリ(N-ビニル-2-ピロリドン))であり、これはジアジドスチルベン(DAS)またはその誘導体のような第二の光架橋剤と組み合わせると、硬化中に架橋して、架橋PVPのネットワークを形成する。本発明の好ましいPVPとしては、例えばISP Chemicals, Inc.から発売されているPVP K-90およびPVP K-120が挙げられ、Kの数字はPVPの分子量に関係しているので重要である。好ましい架橋可能なPVPは、所望な(潤滑)ネットワークを形成するための架橋には、約1,000,000 g/モルを上回る比較的高分子量を有する。PVPに優先的に架橋するための本発明の好ましいジアジドスチルベンは、4,4'-ジアジド-2,2'-スチルベンジスルホン酸二ナトリウム塩である。用いることができる他の候補となる、ジアジドを基にした第二の光架橋剤としては、米国特許第5,041,570号明細書に記載のものを包含するジアジドスチルベン誘導体が挙げられ、上記特許明細書の発明の概要および詳細な説明の内容は、引用することにより本明細書の一部とされる。放射線照射を行うと、DAS(光架橋剤)は反応性の高い中間体のニトレン基を両端に形成した後、DAS上のニトレン基はPVPと反応してPVPの架橋ネットワークを形成する。本発明によれば、DASは、多官能性モノマーまたはポリマーネットワーク形成化合物(例えば、トリアクリレート)に比較してPVPを優先的に架橋する。すなわち、DASは、実質的に多官能性重合モノマーまたはポリマーのポリマー鎖を架橋することなくPVPポリマー鎖を一緒に架橋する。同様に、第一の光架橋剤は、本発明のコーティングの親水性化合物(PVP)を架橋することは期待されない。さらに、コーティングの硬化は、親水性化合物を重合モノマーまたはポリマーまたは基材へ架橋、グラフトあるいは化学結合しない。したがって、様々な親水性化合物が医療装置の潤滑コーティングにおける使用については周知であるが、本発明のコーティングでは、親水性化合物は、溶液混合物に加えて親水性化合物をそれ自身に所望な程度まで優先的に架橋することができる特異的開始剤を有する。本発明のコーティングで用いることができる代替親水性化合物-第二の光架橋剤の組合せとしては、ポリエチレングリコールジアクリレート(PEGDA)と光重合開始剤2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノンの組合せが挙げられる。
【0025】
親水性化合物は潤滑コーティング18の所望な機能特性によっては多少(to a greater or less degree)架橋するものの、親水性化合物の量と関連して溶液混合物に供給される第二の架橋剤の量、および硬化の持続時間は、親水性化合物の三次元架橋ネットワークを形成するのに十分である。本発明によって提供される親水性化合物の制御によれば、様々な用途に適用することができる所望な潤滑性および耐久性の生成が促進される。したがって、潤滑コーティング18におけるネットワークの部分であるPVPは、多少の程度の架橋を有する。さらに、幾つかの非架橋親水性化合物(すなわち、架橋しておらず、したがってネットワークの部分ではないPVP)またはPEOのような非架橋の第二の親水性化合物が、幾つかの態様では耐久性を潜在的に犠牲にして潤滑性を高める目的で潤滑コーティングに含まれている。具体的には、潤滑性ではなく耐久性が問題になっているネットワーク潤滑コーティングは、潤滑性を犠牲にしてコーティングの耐久性を最大限にする目的で親水性化合物を一層高度に架橋しているが、これは幾つかの応用では許容可能であることがある。さらに、親水性化合物の架橋は本発明の潤滑コーティングでは一層容易に制御可能であるので、装置上のコーティングの最初の光硬化によって生じた架橋の量は、例えばコーティングを施した装置のe-ビームによる滅菌またはEtO殺菌がコーティングの架橋をさらに引き起こすときのような、後で起こる可能性がある任意の追加的架橋を相殺するように調整することができる。一態様によれば、コーティングを施した装置はe-ビーム滅菌され、装置をコーティングする方法は、化合物を所望な程度まで架橋するには不十分な(例えば、コーティングを施した医療装置の性能試験によって測定)比較的短時間の装置上でのコーティングの(UV)硬化に続いて、コーティングを施した装置のe-ビーム滅菌により化合物をさらに所望な程度まで架橋させることを含んでいる。同様に、コーティングにおける光架橋剤の量を制限して、光硬化によって生じる架橋の量を制御することができる。
【0026】
溶液混合物は、多官能性モノマーまたはポリマー、1以上の親水性化合物、1以上の第一の架橋剤および1以上の第二の架橋剤を一緒に単一溶液において組み合わせることによって形成される(化合物を、典型的には最初に適当な溶媒に溶解した後、組み合わせて単一溶液を形成する)。次に、溶液混合物をカテーテルシャフト11および/またはガイドワイヤー23の表面に適用するのであり、これは浸漬、噴霧、カテーテルまたはガイドワイヤー上での溶液のワイピング(wiping)またはカテーテルのガイドワイヤー管腔13中の溶液の引き抜き(drawing)など様々の適当な方法を用いて装置に適用することができる。次に、コーティングを典型的には装置上で乾燥した後に硬化し、生成する硬化コーティングは単一層での連結ネットワークによって提供される実質的に均一な組成を有する。一態様によれば、接着促進プライマーを最初に装置にコーティングして硬化した後、潤滑コーティング溶液混合物を硬化プライマーに適用する。硬化コーティング18は、水和して、医療処置において使用するために滑らかにしなければならない。水誘導時間(water induction time)、すなわちコーティングを水和するのに要する時間は、コーティング処方物によって変化する。したがって、本明細書で用いられる「潤滑コーティング」は、親水性化合物を水和してコーティングを使用のために滑らかにする前または後の装置上の完成したコーティングを表すものと理解すべきである。
【0027】
一態様によれば、溶液混合物は、医療装置の表面に接着して潤滑コーティング18の医療装置への接着を向上させる酸官能性アクリレートを含んでなる接着プロモーターを包含する。好ましい接着プロモーターは基材表面(例えば、カテーテルシャフトまたはガイドワイヤーのポリマー表面)に結合し、多官能性重合モノマーまたはポリマーへ架橋もする。したがって、第一の重合開始剤は、好ましくは接着プロモーターに架橋して、接着プロモーターがそれ自身および硬化潤滑コーティング中の架橋し重合した多官能性モノマーまたはポリマーに架橋する。本発明の好ましい接着プロモーターはCognis社製の酸官能性モノアクリレートであるPHOTOMER(登録商標)4173であり、これはポリマー性(詳細には、ポリウレタン)基材層に結合する。用いることができる代替接着プロモーターとしては、Cognis社製の酸官能性アクリレートPHOTOMER(登録商標)4703および4846が挙げられる。接着プロモーターは、一般的には溶液混合物の重量の約0.2%〜約20%であり、さらに具体的には約1%〜約2%である。これらの酸官能性接着プロモーター(と光重合開始剤)のような装置上の反応性プライマー層またはウレタンアクリレートのような他のプライマー化合物を、追加的にまたは代わりに用いて、接着を向上させることができた。接着プロモーターを用いてまたは用いることなく、本発明のコーティング18は装置の表面に接着し、親水性化合物を官能化しあるいは反応によってマトリックスまたは基材ポリマーに化学的に結合させる必要はない。
【0028】
一態様によれば、溶液混合物は、ネットワーク形成親水性化合物(例えば、PVP)とは異なるポリエチレンオキシド(PEO)のような第二の親水性化合物を包含する。第二の親水性化合物は、潤滑コーティングでは実質的に非架橋である。したがって、第二の親水性化合物に優先的に架橋する重合開始剤は溶液混合物には含まれておらず、コーティングの硬化は第二の親水性化合物の架橋をほとんどまたは全く生じない。第二の親水性化合物は、実質的に非架橋である結果として、好ましくは少なくとも最初は一層滑らかなおよび/または水誘導時間が減少した(すなわち、水和処置に対する一層速やかな応答の)コーティングを提供する。例えば、コーティングにおけるポリエチレンオキシド(PEO)のような実質的に非架橋の親水性化合物は、比較的速やかに水和する。具体的には、PVPのような第一の親水性化合物とPEOまたはポリアクリルアミドのような第二の親水性化合物とを組み合わせると、好ましくはe-ビームによる滅菌またはEtO処理の後に改良された迅速な水誘導時間を有するコーティングが提供される。非架橋PEOまたはポリアクリルアミドは、e-ビームおよびEtO滅菌の両方により潤滑コーティングの水誘導時間の増加を好ましく相殺する。PEO、ポリアクリルアミド-アクリル酸共重合体およびポリアクリルアミドなどの様々の適当な親水性化合物を、第二の親水性化合物として用いることができる。一態様によれば、比較的少量の第二の親水性化合物がコーティングに含まれている。例えば、一態様によれば、第二の親水性化合物は、潤滑コーティングにおけるPVPの量の約5重量%に過ぎない。
【0029】
一態様によれば、溶液混合物は塩化ナトリウムのような溶解性のイオン性化合物(すなわち、塩)を包含し、生成する硬化潤滑コーティングは、少なくとも使用目的でコーティングを水和するのに用いられる水和処置の前に塩を(溶解可能に)含んでいる。水誘導時間は、硬化コーティングに塩が存在している結果として塩なしでのコーティングと比較して減少するといえる。
【0030】
一態様によれば、硬化した潤滑コーティングは、治療または診断薬を有する。例えば、溶液混合物に加えられた薬剤は、硬化コーティングに放出可能に含まれており、硬化コーティングが使用中に膨潤(水和)すると、薬剤がそこから溶出する。硬化潤滑コーティングは、様々な薬剤を備えていることができる。抗血小板薬、抗トロンボゲン形成薬、抗凝固薬、抗炎症薬、血管拡張薬などが、バルーン14、外側部材21、ガイドワイヤー 23上、および/またはカテーテルシャフト11のガイドワイヤー管腔13中の潤滑コーティングに添加するのに特に好ましい。アスピリン(アセチルサリチル酸; アセトルサル(acetolsal))のような比較的小さな分子は、潤滑コーティングからの溶出時間が比較的速やかであり、患者の身体の管腔におけるカテーテルおよび/またはガイドワイヤーの初期の導入および前進中にアスピリンの濃縮迅速用量が提供されるので、潤滑コーティングに特に望ましい。医療装置コーティングからの薬剤のより長時間の制御された溶出は従来技術によるコーティングの多くの目的であるが、比較的速やかであり制御されないアスピリンの本発明の潤滑コーティングからの溶出は望ましい。潤滑コーティングの水和時のアスピリンのコーティングからの濃縮放出により、体管腔でのカテーテルの配置の際に抗血小板作用が提供され、カテーテルガイドワイヤー管腔におけるガイドワイヤーの支障がさらに少なくなる。アスピリンは小分子量(例えば、180 g/モル)であるが、ヒルジン(約7,000 g/モル)またはヘパリン(約12,000-約15,000 g/モル)のようなアスピリンより大きな分子量の代替薬剤を本発明のコーティングに代わりに用いることができる。
【0031】
本発明の潤滑コーティングは、抗再狭窄薬および抗炎症薬、抗凝固薬または前治癒(pro-healing)薬など様々の適当な薬剤(小または大分子薬)を備えることができる。この薬剤は、典型的には装置に適用する前の溶液混合物に添加することによって提供され、これは、良好な製造可能性、装置上の薬剤の量および部位に関する制御、およびコーティングの潤滑性の崩壊が最小限になるため、良好な方法である。余り好ましくない方法としては、装置上の硬化コーティングを薬剤の溶液で使用前に膨潤させる方法が挙げられる。
【0032】
図1に例示されている態様によれば、バルーン14上のコーティング28はシャフト上の潤滑コーティング18とは異なる。例えば、バルーン上のコーティング28は潤滑性の少ないまたはシャフト上のコーティングとは異なる治療薬を含む可能性がある潤滑コーティングであってもよい。上記の代替態様によれば、シャフト11上と同じ潤滑コーティング18がバルーン14に提供される。
【0033】
一態様によれば、 バルーン14上の潤滑コーティング28は水誘導時間が比較的短く(速やかに水和し)、動脈疾患の治療および/または再狭窄の予防のためのエベロリムスまたはゾタロリムスのような抗再狭窄薬を包含する。この薬剤は、バルーンの膨張前は薬剤放出潤滑コーティング(agent delivery lubricious coating)28に良好に保存され、薬剤放出潤滑コーティング28による水の取込は速やかに起こるので、バルーン14が膨張すると薬剤が直ちに放出され、所望な部位に十分な用量の薬剤を提供する。典型的には、膨張前のバルーンは折り畳まれており、したがってカテーテルが最初に水和され血管内を前進するときに折り畳み内のコーティングのいくらかを保護する。一態様によれば、バルーン上の薬剤放出潤滑コーティング28は、速やかな水誘導を提供する非架橋の第二の親水性化合物を添加した上記の連結ネットワーク潤滑コーティングの態様である(例えば、架橋PVPおよび架橋トリアクリレートの連結ネットワークにおける非架橋PEO)。上記のように、薬剤は、好ましくはバルーンのコーティング前に潤滑コーティングの溶液混合物に加えられる。薬剤放出潤滑コーティングをその上に有するバルーンを次に折り畳み、あるいは患者の身体の管腔内を前進する目的で低姿勢(low profile configuration)に形成される。
【0034】
一態様によれば、バルーン上のコーティング28は、シャフト上の潤滑コーティング18より潤滑性の少ないコーティングであり、膨張したバルーンが患者の身体の管腔の所望な治療部位から外れるのを防止または阻止する(通常は、「スイカの播種(watermelon seeding)」とよばれる)。バルーン上のコーティング28をシャフト上の潤滑コーティング18より潤滑性の少ないコーティングとして作製する多数の別法がある。例えば、同一成分の一層希薄濃度の溶液を、同じかまたは一層濃縮した溶液をシャフトおよびバルーン上に適用した後に、バルーン上に適用することができる。もう一つの例としては、1種類の親水性ポリマー(例えば、PEO)を組込んでいる溶液を含んでなるコーティングをバルーンに適用することができ、一方、異なる親水性ポリマー(例えば、PVP)を組込んでいる溶液を含んでなるコーティングをシャフトに適用することができる。もう一つの例としては、潤滑コーティング28は、結合性の多官能性オリゴマー(またはモノマーまたは高分子量ポリマー)、結合性オリゴマーの架橋のための光架橋剤、および親水性化合物の溶液混合物の反応生成物であって、潤滑性の少ないコーティングの親水性化合物を優先的に架橋するための光架橋剤を含まない、溶液混合物の反応生成物を含んでなることができる。したがって、バルーン上のコーティング28は、第二の光架橋剤を含まないこと以外はシャフト上のコーティング18と同一成分の化合物から形成し、潤滑性の少ないコーティングを生じることができる。コーティング28は、バルーンの基部から末端までのバルーンの全長に沿って伸びているように示されているが、代替態様によれば、コーティング28は、バルーンの長さより短くまたはバルーンの末端を越えて伸びていることもできることを理解すべきである。
【0035】
下記の実施例は、本発明の潤滑コーティング18のための溶液混合物を例示している。下記の実施例で用いられる特定の処方物(それぞれの成分の量は溶液混合物の重量パーセントとして表す)に加えて、表には、本発明のコーティングの製造に用いることができる成分についての例溶液の重量パーセント範囲も示している。
【0036】
【表1】

【0037】
表に示した処方物Aの溶液混合物を、タングステンを詰めたポリウレタンポリマーのポリマー層で被覆された金属コアワイヤーを有するガイドワイヤー上に浸漬コーティングによって適用した。HDPE内側表面を有するカテーテルの内側管状部材のガイドワイヤー管腔内を繰り返し前進および引き抜きを行う試験手順では(内側管状部材は滅菌水が充填され、37℃に保持され、1.25"ループである)、1000サイクルまでの複合サイクル後および24時間後、ガイドワイヤー管腔中のコーティングを施したガイドワイヤーの運動によって生じる生成する摩擦力は低いままであった。複合サイクル後の摩擦力 は、架橋アクリレート中のPEOの潤滑コーティングでのコーティング以外は同一であるガイドワイヤーと比較して低かった(すなわち、イソプロパノール、水、PEO、トリメチロールプロピルトリアクリレート(TMPTA)、ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンおよびベンゾフェノンの溶液混合物であり、PEOはPOLYOX WSR N12Kでありかつ溶液混合物の約1.6重量パーセントであった)。例えば、30サイクル後に、上表に記載の処方物Aをコーティングしたガイドワイヤーの引きまたは押しの際の摩擦力は、比較ガイドワイヤーについて約35〜55 gであったのと比較して約5 gであった。
【0038】
カテーテル10の寸法は、主として用いようとするバルーンおよびガイドワイヤーの大きさ、カテーテルの種類、およびカテーテルを通さなければならない動脈または他の身体の管腔の大きさまたは送達されるステントの大きさによって決定される。典型的には、外側管状部材21は外径が約0.025〜約0.04インチ(0.064〜0.10 cm)であり、通常は約0.037インチ(0.094 cm)であり、外側管状部材21の壁厚みは約0.002〜約0.008インチ(0.0051〜0.02 cm)、典型的には約0.003〜0.005インチ(0.0076〜0.013 cm)の範囲とすることができる。内側管状部材22は、典型的には内径が約0.01〜約0.018インチ(0.025〜0.046 cm)であり、通常は約0.016インチ(0.04 cm)であり、壁厚みは約0.004〜約0.008インチ(0.01〜0.02 cm)である。カテーテル10の全長は、約100〜約150 cmであり、典型的には約143 cmである。好ましくは、バルーン14は、長さが約0.8 cm〜約6 cmであり、膨張作業直径は約2 mm〜約10 mmである。ガイドワイヤー23は、典型的には長さが約190〜約300 cmであり、外径が約0.010〜約0.035インチである。
【0039】
様々なカテーテル成分を、融合結合または接着剤の使用によるなどの通常の結合方法を用いて接合することができる。シャフト11は内側および外側管状部材を有するものとして例示されているが、並んでいる管腔が突き出ている二重管腔押出シャフト(dual lumen extruded shaft)など様々な適当なシャフト形態を用いることができる。また、図1に例示されている態様は、カテーテルの全長に伸びているガイドワイヤー管腔を有するオーバー・ザ・ワイヤー(over-the-wire)型バルーンカテーテルであるが、本発明のコーティング18は、カテーテルまたは他の装置を送達する目的で形成した装置管腔を有するガイドカテーテルまたはカテーテルシャフトの基端から間隔を空けたガイドワイヤー基部ポートを有する迅速交換型バルーンカテーテルなど様々の適当なカテーテルと共に用いることができる。
【0040】
本発明をある種の好ましい態様に関して本明細書で説明しているが、当業者であれば、本発明の範囲から離反することなく様々な修飾および改良を行うことができることを認識するであろう。例えば、カテーテルシャフトまたはガイドワイヤー上のコーティングについて主として説明したが、本発明の潤滑コーティング18は様々な医療装置に提供することができ、使用または組立および加工の際にかなりの摩擦または研磨力が見られる表面での使用に特に適している。さらに、本発明の一態様の個々の特徴を本明細書で説明し、または他の態様ではなくその一態様の図面に示すことができるが、一態様の個々の特徴は別態様の1以上の特徴または複数の態様の特徴と組み合わせることができることは明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
医療装置に適用される溶液混合物の硬化反応生成物を含んでなる潤滑コーティングを有する部分を少なくとも有する医療装置であって、前記溶液混合物が
a) 多官能性モノマーまたはポリマーネットワーク形成化合物、
b) 親水性化合物、
c) 多官能性モノマーまたはポリマーを架橋するための1以上の第一の架橋剤であって、親水性化合物に比較して多官能性モノマーまたはポリマーに優先的に架橋するもの、および
d) 親水性化合物を架橋するための第一の架橋剤とは異なる1以上の第二の架橋剤であって、多官能性モノマーまたはポリマーに比較して親水性化合物に優先的に架橋するものを含んでなり、医療装置上の硬化反応生成物が、前記親水性化合物ネットワークであって、該親水性化合物がそれ自身に架橋しており、かつモノマーまたはポリマーの重合ネットワークと連結してなる、医療装置。
【請求項2】
前記ネットワーク形成化合物がトリアクリレートである、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記ネットワーク形成化合物がエトキシル化トリメチロールプロパントリアクリレートオリゴマーである、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記親水性化合物がポリビニルピロリドンである、請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記親水性化合物ネットワークが、重合モノマーまたはポリマーネットワークに化学結合していない、請求項1に記載の装置。
【請求項6】
前記溶液混合物が、医療装置の表面に接着する酸官能性アクリレートを含んでなる接着プロモーターを含んでなる、請求項1に記載の装置。
【請求項7】
第一の架橋剤が接着プロモーターを架橋して、該接着プロモーターがそれ自身および潤滑コーティング中の重合モノマーまたはポリマーに架橋する、請求項6に記載の装置。
【請求項8】
前記装置が、ポリマー性外層を有する金属製ガイドワイヤーであり、コーティングが、前記ポリマー層とコーティングとの間に反応性プライマーなしでガイドワイヤーのポリマー性外層に直接接着してなる、請求項6に記載の装置。
【請求項9】
前記装置が、接着プロモーターのプライマー層を有する金属表面を有するガイドワイヤーであり、潤滑コーティングがプライマー層に接着してなる、請求項1に記載の装置。
【請求項10】
前記装置が、細長いカテーテルシャフトと遠位シャフト部分のバルーンとを有するバルーンカテーテルであって、シャフトの少なくとも一部分とバルーンの少なくとも一部分とに潤滑コーティングを有する、請求項1に記載の装置。
【請求項11】
第一および/または第二の架橋剤が光架橋剤であり、前記コーティングが光硬化する、請求項1に記載の装置。
【請求項12】
第二の光架橋剤がジアジド化合物である、請求項11に記載の装置。
【請求項13】
前記ジアジド化合物がジアジドスチルベンまたはジアジドスチルベン誘導体である、請求項12に記載の装置。
【請求項14】
第一の光架橋剤がベンゾフェノンおよびベンジルジメチルケタールである、請求項11に記載の装置。
【請求項15】
コーティングが、架橋した親水性化合物とは異なりかつ潤滑コーティング中で実質的に非架橋の第二の親水性化合物を含んでなる、請求項1に記載の装置。
【請求項16】
前記溶液混合物が塩を含んでなり、少なくともコーティングの水和前に前記塩が硬化コーティングに溶解可能に含まれている、請求項1に記載の装置。
【請求項17】
前記溶液混合物が治療薬を含んでなり、前記ネットワークが前記治療薬の存在下で形成され、前記治療薬が潤滑コーティングに放出可能に含まれてなる、請求項1に記載の装置。
【請求項18】
前記治療薬が、潤滑コーティングの水和時にコーティングからの濃縮放出(concentrated release)で比較的速やかに溶出する比較的小さな分子薬剤である、請求項17に記載の装置。
【請求項19】
前記治療薬がアセチルサリチル酸である、請求項18に記載の装置。
【請求項20】
医療装置の少なくとも一部分に連結ネットワーク潤滑コーティングを有する医療装置であって、前記コーティングが
a) 重合多官能性トリアクリレートのアクリレートネットワークであって、重合多官能性トリアクリレートが、それ自身および架橋酸官能性アクリレート接着プロモーターに架橋してなる、アクリレートネットワーク、および
b) ポリビニルピロリドンの親水性化合物ネットワークであって、ポリビニルピロリドンが、多官能性トリアクリレートと比較して親水性化合物に優先的に架橋する光架橋剤によってポリビニルピロリドン自身に架橋し、かつアクリレートネットワークと連結してなる、親水性化合物ネットワーク
を含んでなる、装置。
【請求項21】
前記装置がポリマーまたは金属の表面を有し、潤滑コーティングにおける接着プロモーターが表面に接着する、請求項20に記載の装置。
【請求項22】
前記装置が、ポリマーまたは金属の表面、および該表面と潤滑コーティングの間の表面にプライマー層を有する、請求項20に記載の装置。
【請求項23】
医療装置に潤滑コーティングを提供する方法であって、
a) 多官能性モノマーまたはポリマー、親水性化合物、モノマーまたはポリマーを架橋するための1以上の第一の架橋剤であって、親水性化合物と比較してモノマーまたはポリマーに優先的に架橋するもの、および親水性化合物を架橋するための1以上の第二の架橋剤であって、第一の架橋剤とは異なりモノマーまたはポリマーと比較して親水性化合物に優先的に架橋するものの溶液混合物を用意し、
b) 溶液混合物のコーティングを医療装置の少なくとも一部分の表面に適用してコーティングを硬化させ、生成する潤滑コーティングが、親水性化合物のネットワークであって、親水性化合物がそれ自身に架橋し、モノマーまたはポリマーの重合ネットワークと連結したものであること
ことを含んでなる、方法。
【請求項24】
第二の架橋剤の量が、前記コーティングの硬化により親水性化合物を所望より少ない程度に架橋するように限定されており、b)の後に前記装置をe-ビームまたはEtO滅菌し、親水性化合物を所望な程度までさらに架橋することを含んでなる、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記硬化の期間が、前記コーティングの硬化により親水性化合物を所望より少ない程度に架橋するように限定されており、b)の後に装置をe-ビームまたはEtO滅菌し、親水性化合物を所望な程度までさらに架橋することを含んでなる、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
前記コーティングの硬化によって親水性化合物がモノマーまたはポリマーに化学結合しない、請求項23に記載の方法。
【請求項27】
前記溶液混合物が、前記医療装置の表面に接着する酸官能性アクリレートを含んでなる接着プロモーターを含んでなる、請求項27に記載の方法。
【請求項28】
b)が、接着プロモーターをそれ自身および多官能性重合モノマーまたはポリマーへの架橋させることを含んでなる、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記溶液混合物が、第二の親水性化合物を優先的に架橋する開始剤を含まず、第二の親水性化合物を含んでなり、前記コーティングの硬化が第二の親水性化合物を架橋せず、第二の親水性化合物は潤滑コーティング中で非架橋である、請求項23に記載の方法。
【請求項30】
前記装置が、遠位端部分を有する細長いカテーテルシャフトと遠位端シャフト部分のバルーンとを有するバルーンカテーテルであり、前記溶液混合物を、前記遠位端部分の内側および/または外側表面に適用した後、前記遠位端部分をカテーテルシャフトに結合させる、請求項23に記載の方法。

【公表番号】特表2010−535581(P2010−535581A)
【公表日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−520105(P2010−520105)
【出願日】平成20年7月28日(2008.7.28)
【国際出願番号】PCT/US2008/071304
【国際公開番号】WO2009/045612
【国際公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【出願人】(591040889)アボット、カーディオバスキュラー、システムズ、インコーポレーテッド (42)
【氏名又は名称原語表記】ABBOTT CARDIOVASCULAR SYSTEMS INC.
【Fターム(参考)】