説明

インダクタンス素子及びそれを用いたスイッチング電源並びにその製造方法

【課題】 安易に素子が斜めにならず、コア脱落防止になるため工程・時間の短縮が図れ、量産性向上と低価格化を実現できるインダクタンス素子を提供する。
【解決手段】 トロイダル磁心と、トロイダル磁心を絶縁収納する中空部を有する有底型ケースと、中空部を挿通するリード部を具備するインダクタンス素子において、リード部は中空部の内壁部に2か所以上の接点を有する第1キンク部と、コア下側出口に落下防止のための第2キンク部を持つことを特徴とする。また、第2キンク部の最大幅/有底型ケースの内径の比が1.2〜1.5倍であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に電子機器に搭載されるスィッチング電源等に用いられるインダクタンス素子で、主に半導体のノイズ抑制・保護に関する。また、それを用いたスイッチング電源およびインダクタンス素子を効率よく得るための製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
主に電子機器に搭載されるスイッチング電源は、FCCIに代表されるようにクラス別のノイズ規制がある。電源のノイズの要因は様々であるが、主に大きな電力をオンオフする半導体周辺で発生し、特に高周波成分は空中を伝わって放射ノイズとして各種電子機器誤動作を招く。このため、各周波数帯に規制値が設けられている。このノイズ対策としては、半導体周辺、主にMOF-FETやダイオードへの対策としては、CRスナバやフェライトビーズに代表される。
ノイズ対策の使い分けとしては、効果とコスト、搭載スペースの兼ね合いによるが、特に性能面では、Co系アモルファスを利用したものが主流である。Co系アモルファスをトロイダル状に成形し、適度な熱処理を施した後、絶縁ケースに収納され、必要によりリードを付けたものが市販されている。このようなインダクタンス素子として特開2000−91142号公報(特許文献1)が挙げられる。特許文献1のインダクタンス素子は絶縁ケースおよびリード共に特殊な構造をとっており脱落防止の観点では有効であるが、特殊な絶縁ケースおよびリードの調整はコストアップの要因となっていた。
【0003】
【特許文献1】特開2000−91142号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
リード付ビーズ型インダクタンス素子の特徴として基盤(実装基板など)に自動搬送する目的があるが、ビーズがリードに対し曲がっているとチャッキング不良やビーズがリードから脱落する不具合が発生し自動搬送の妨げになっていた。
また、磁心と基板面との間には、リードにキンク部を設け、深挿入防止や定位置挿入に役立っているが、このリードキンク部がコア内径と同等以下であるために誤って磁性体が脱落したりすると基板に接触し、はんだ加工時の熱伝導で変形や特性劣化を招いていた。
このように従来のリード付きインダクタンス素子は素子の脱落不良が発生し易いものであった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のインダクタンス素子は、トロイダル磁心と、トロイダル磁心を絶縁収納する中空部を有する有底型ケースと、中空部を挿通するリード部を具備するインダクタンス素子において、リード部は中空部の内壁部に2か所以上の接点を有する第1キンク部とコア下側出口に落下防止のための第2キンク部を持つことを特徴とするものである。
また、第2キンク部の最大幅/有底型ケースの内径の比が1.2〜1.5倍であることが好ましい。また、有底型ケースの形状が外径4〜6mm、内径1〜3mm、高さ4〜10mmであることが好ましい。また、リード部の外径がφ0.5〜1.5mmであることが好ましい。
また、第1キンク部はR形状、三角形状、四角形状の少なくとも一種の折曲部を具備していることが好ましい。また、折曲部のR形状、三角形状、四角形状の少なくとも1種は、その中心点が有底型ケースの内壁部の高さの20〜80%の位置にあることが好ましい。また、リード部と内壁部が面接触する面接触部が折曲部の上下に存在し、面接触部の合計が有底型ケースの高さの30〜70%であることが好ましい。また、リード部はブリッジ形状を具備していることが好ましい。また、有底型ケースの解放部が接着材部で覆われていることが好ましい。また、このようなインダクタンス素子はスイッチング電源に好適である。
また、本発明のインダクタンス素子の製造方法は、トロイダル磁心と、トロイダル磁心を絶縁収納する中空部を有する有底型ケースと、中空部を挿通するリード部を具備するインダクタンス素子の製造方法において、中空部を有する有底型ケースにトロイダル磁心を収納する工程と、折曲部の最大幅/有底型ケースの内径の比が1.0〜1.2倍の第1キンク部と、最大幅/有底型ケースの内径の比が1.2〜1.5倍の第2キンク部を有するリード部を中空部に挿入する工程と、を具備することを特徴とするものである。
また、折曲部はR形状、三角形状、四角形状の少なくとも一種であることが好ましい。また、中空部に挿入前のリード部はブリッジ形状を具備していることが好ましい。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、安易に素子が斜めにならず、コア脱落防止になるため工程・時間の短縮が図れ、量産性向上と低価格化を実現できるインダクタンス素子を提供できる。また、コア脱落防止が可能であるためスイッチング電源の信頼性をも向上させることができる。また、本発明のインダクタンス素子の製造方法を用いれば本発明のインダクタンス素子を効率よく製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明のインダクタンス素子は、トロイダル磁心と、トロイダル磁心を絶縁収納する中空部を有する有底型ケースと、中空部を挿通するリード部を具備するインダクタンス素子において、リード部は中空部の内壁部に2か所以上の接点を有する第1キンク部と、コア下側出口に落下防止のための第2キンク部を持つことを特徴とするものである。
図1に本発明のインダクタンス素子の一例を示した。図中、1はインダクタンス素子、2は磁心、3はリード部である。本発明のインダクタンス素子は図1に示したように磁心2とリード部3が一体になったものである。
【0008】
まず、トロイダル磁心としては中空形状のものであれば特に限定されるものではないが、アモルファス合金薄帯を巻回したトロイダル磁心であることが好ましい。アモルファス合金としてはCo系アモルファス合金、Fe系アモルファス合金、微細結晶を有するFe系磁性合金など種々のものが適用できる。
磁性薄帯としては、Co系アモルファス合金、Fe系アモルファス合金、微細結晶を有するFe系磁性合金など様々な磁性材料が適用できる。
例えば、Co系アモルファス(非晶質)合金、Fe系アモルファス(非晶質)合金としては次の一般式1を満たすものが好ましい。
一般式1:(M1-aM’a100-bb
式中、MはFe、Coから選ばれる少なくとも1種の元素を、M’はTi、V、Cr、Mn、Ni、Cu、Zr、Nb、Mo、Ta、Wから選ばれる少なくとも1種の元素を、XはB、Si、C、Pから選ばれる少なくとも1種の元素を示し、0≦a≦0.5、10≦b≦35(各数字はat%)となる。ここでM元素はCo又は/及びFeとなり磁束密度や鉄損等の磁気特性に応じて組成比率を調整していく、M’元素は熱安定性、耐食性、結晶化温度の制御のために必要な元素であり、好ましくはCr、Mn、Zr、Nb、Moを用いるのがよく、X元素は非晶質合金を得るのに必要な元素であり、特にBは非晶質化するのに有効な元素であり、Siは非晶質形成を助成すること及び結晶化温度の上昇に有効な元素である。
【0009】
アモルファス合金薄帯の製造方法としては、液体急冷法が好ましく、具体的には、所定の組成比に調整した合金素材を溶融状態から105 ℃/秒以上の冷却速度で急冷することによって得られる。このような液体急冷法により製造された非晶質合金は、薄帯という形状で得られる。これら非晶質合金薄帯の厚みは30μm以下が好ましく、さらに好ましくは8〜20μmであり、薄帯の厚さを制御することにより低損失の磁心を得ることが可能となる。
【0010】
微細結晶を有するFe系磁性合金については、次の一般式2を満たすものが好ましい。
一般式2:Fea Cubc Side
式中、Mは周期律表4a、5a、6a族元素又はMn、Ni、Co、Alから選ばれる少なくとも1種の元素を示し、a+b+c+d+e=100at%、0.01≦b≦4、0.01≦c≦10、10≦d≦25、3≦e≦12、17≦d+e≦30となる。
【0011】
ここでCuは耐食性を高め、結晶粒の粗大化を防ぐと共に、鉄損や透磁率等の軟磁気特性を改善するのに有効な元素であり、M元素は結晶径の均一化に有効であると共に、磁歪及び磁気異方性の低減、温度変化に対する磁気特性の改善に有効な元素である。微細結晶としては、50〜300オングストロームの結晶粒を合金中に面積比で50%以上、好ましくは90%以上存在することがよい。
微細結晶を有する磁性合金の製造方法としては、液体急冷法により一般式2の合金組成を有する非晶質合金薄帯を得た後、前記非晶質合金の結晶化温度に対し−50〜+120℃、1分〜5時間の熱処理を行い、微細結晶を析出させる方法、又は液体急冷法の急冷温度を制御して微細結晶を直接析出させる方法等により得ることが可能となる。このような方法で微細結晶を有する磁性材料の薄帯を得ることができる。薄帯の板厚については、非晶質合金薄帯と同様に、30μm以下が好ましく、さらに好ましくは8〜20μmである。
【0012】
上記磁性薄帯としては、Co系アモルファス合金が可飽和特性が優れることから好ましい。
磁性薄帯を巻回または積層して巻回体または積層体を形成する。巻回数または積層数は求める磁気特性に応じて適宜増やすものとする。また、必要に応じ、磁性薄帯の表面に絶縁層を設けても良い。巻回体または積層体は、その中心部に中空部を有するように巻回または積層していく。巻回体は磁性薄帯を巻回することにより、その中心部に中空部を有する磁心ができる。積層体の場合は、磁性薄帯を所定の長さで切断することにより磁性薄帯片を製造し、磁性薄帯片の中心部に穴を空けた積層することによりトロイダルの磁心を形成する。
【0013】
トロイダル磁心は絶縁収納する中空部を有する有底型ケースに収納される。図2に有底型ケースを用いたインダクタンス素子の一例を示す。図中、1はインダクタンス素子、2はトロイダル磁心、3はリード部、4は第1キンク部、5は第2キンク部、6は有底型ケース、7は接着材部である。
有底型ケースは図2に示したように、一方を開放部、もう一方を底部とし、トロイダル磁心が収納される外壁部、内壁部を有するものである。外壁部と内壁部の間にトロイダル磁心を収納する。ケース容器は、例えばPBT(ポリブチレンテレフタレート)、PET(ポリエチレンテレフタレート)、LCP(液晶ポリマー)などの絶縁性の材料であることが望ましい。また、内壁部の内側はリード部が挿入できるように中空部になっている。また、有底型ケースの肉厚は0.3〜1mmの範囲であることが好ましい。
本発明では、有底型ケースとリード部を固定するにあたり、リード部に第1キンク部と第2キンク部を設ける。
第1キンク部は、有底型ケースの中空部の内壁に2か所以上の接点を設けた構造を有する。第1キンク部は内壁に2か所以上接していればよいので、2か所折り曲げた乙状の折曲部を有する構造でもよいし、図2に示したような3か所折り曲げた三角形状(山形構造)のものでもよい。また、折曲部の構造としては、図3のR形状(半円型)、図5の四角形状(矩形型)などの構造を適用してもよい。特に内壁部に3か所で接する三角形状、R形状、四角形状であると、一方の内壁部に2か所、反対側の内壁部に1か所接することになるのでバランスがよく、磁心を真直ぐに保つことが容易となる。また、折曲部がR形状または三角形状であると、リード部に磁心を挿入する際に挿入性が向上する。なお、図3〜6では有底型ケース6および接着材部7については省略している。
また、有底型ケースのサイズによっては、例えば、三角形状を2個以上にした複数の折曲部を設けてもよい。
【0014】
また、折曲部のR形状、三角形状、四角形状の少なくとも1種は、その中心点が有底型ケースの内壁部の高さの20〜80%の位置にあることが好ましい。図6に折曲部がR形状の一例を示した。図中、1がインダクタンス素子、4が第1キンク部、9が有底型ケースの内壁部に面接触(線接触)している個所、10が折曲部の中心点である。
【0015】
折曲部の中心点10は、有底型ケースの内壁部の高さLの20〜80%の範囲内にあることが好ましい。特に、一つの折曲部で第1キング部を形成する場合、20%未満(入口側)や80%を超える(出口側)に中心点10が存在すると磁心を固定するバランスが悪くなり、磁心を真直ぐ固定することが難しくなる。
また、リード部と内壁部が面接触する面接触部が折曲部の上下に存在し、面接触部の合計が有底型ケースの高さの30〜70%であることが好ましい。図6に示したように、有底型ケースの内壁部とリード部が面接触していると磁心(ケース)とリード部が安定して真直ぐ固定できるようになる。特に、前述の折曲部の中心点10を有底型ケースの内壁部の高さLの20〜80%の範囲内にすることと組合せると、リード挿入時に磁心が斜めになる確率を下げ、磁心が抜け難い構造とすることができる。
【0016】
また、コア下側出口に落下防止のための第2キンク部を持つことを特徴とする。第2キンク部はコアの落下防止のためのものであるため有底型ケースの内径より大きければ特に限定されるものではないが
第2キンク部の最大幅/有底型ケースの内径の比が1.2〜1.5倍であることが好ましい。また、第2キンク部は図2等に示したようにR形状であることが好ましい。R形状であれば第2キンク部にばね性を具備させることができるので挿入をスムーズに行うことができる。また、第2キンク部の最大幅/有底型ケースの内径の比が1.2未満ではインダクタンス素子を実装した際や使用中の振動によりコアが落下する確率が高くなる。一方、第2キンク部の最大幅/有底型ケースの内径の比が1.5を超えると磁心にリード部を挿入する際の応力を大きくせねばならず磁心が破損するまたはリード部が折れ曲がるおそれがある。
【0017】
以上のような第1キンク部、第2キンク部を有することにより磁心を真直ぐ保持し、リード挿入時に磁心の破損やリード部が折れ曲がる製造不良、さらには使用時(実装基板に接合後)に振動や衝撃によりコアが落下する不良を防ぐことができる。
【0018】
有底型ケースのサイズは特に限定されるものではないが、有底型ケースの形状が外径4〜6mm、内径1〜3mm、高さ4〜10mmであること、さらにリード部の外径がφ0.5〜1.5mmであることが好ましい。リード外径が0.5mm未満ではコア挿入に折れ曲がり易く、1.5mmを超えると曲げ加工が難しく目的とするキンク部を形成するのが困難になる。本発明のインダクタンス素子は、有底型ケースの中空部に第1キンク部を有するため有底型ケースの内径>リード部外径である必要がある。このとき(有底型ケースの内径−リード部外径)が0.3〜1mmであるとリード部が折れ曲り難く、目的とするキンク部を形成し易くなり製造性が向上する。
【0019】
また、リード部はブリッジ形状を具備していることが好ましい。図1に示したようにリード部3は磁心を垂直に保つためにリード部をコの字(またはU字)状に折り曲げたブリッジ構造を具備していることが好ましい。また、図3等に示したようにコアを搭載しない側にもキンク部8を形成することが好ましい。コアを搭載しない側にもキンク部8を設けることにより、コアの挿入方向を問わなくなるので製造効率が向上する。
【0020】
また、有底型ケースの解放部が接着材部で覆われていることが好ましい。図2に示したように接着材部7により、トロイダル磁心、有底型ケースとリード部を一体的に固定することによりリード部との接合強度を向上させることができる。また、接着材部7は有底型ケースの蓋部の役割も果たすので別途蓋部を設ける必要がない。このため蓋部と有底型ケースを一体にしてから固定する必要がないので蓋部を設けるものと比べてコストダウンを図ることができる。また、キンク部により磁心とケースが一体となっておりケースの解放部を覆う程度で済むため接着剤の使用量も少なくて済む。
【0021】
このようなインダクタンス素子は磁心が斜めにならず、コア脱落防止になるため工程・時間の短縮が図れ、量産性向上と低価格化を実現できる。さらに、同インダクタンス素子はスイッチング電源等の電子機器に好適である。スイッチング電源は、PCやサーバなど様々な分野に使われている。スイッチング電源の運搬や使用中の振動、衝撃により磁心が脱落することを抑制できるのでスイッチング電源の信頼性を大幅に向上させることができる。
【0022】
次にインダクタンス素子の製造方法について説明する。本発明のインダクタンス素子は上記構成を具備していれば製造方法は限定されるものではないが、歩留まり良く得る方法として次の方法が挙げられる。
本発明のインダクタンス素子の製造方法は、トロイダル磁心と、トロイダル磁心を絶縁収納する中空部を有する有底型ケースと、中空部を挿通するリード部を具備するインダクタンス素子の製造方法において、中空部を有する有底型ケースにトロイダル磁心を収納する工程と、折曲部の最大幅/有底型ケースの内径の比が1.0〜1.2倍の第1キンク部と、最大幅/有底型ケースの内径の比が1.2〜1.5倍である第2キンク部を有するリード部を中空部に挿入する工程と、を具備することを特徴とするものである。
【0023】
まず、所定サイズのトロイダル磁心を調製する。トロイダル磁心は前述した通り、Co系アモルファス合金、Fe系アモルファス合金、微細結晶を有するFe系磁性合金などの磁性薄帯を巻回または積層したものを用いる。このとき、磁性薄帯の平均板厚が30μm以下である方が好ましく、30μmを超えると鉄損が大きくなると共に、内径3mm以下に巻回したときに薄帯のばね性により形状を維持するのが困難となる。また、トロイダル磁心を絶縁収納する中空部を有する有底型ケースを用意する。有底型ケースは前述の通り、PBT等の絶縁性樹脂で形成することが好ましい。
また、有底型ケースの中空部に挿入するためのリードを用意する。このリード部は実装基板等に接続するための端子として使えるものである。リード部は、銅線等の導電性の高い金属で形成されていることが好ましい。また、必要により、絶縁被膜が施されていてもよい。また、リード部の先端にはろう付け性を向上させるために金属めっきを施してもよい。
【0024】
リード部には折曲部の最大幅/有底型ケースの内径の比が1.0〜1.2倍の第1キンク部と、最大幅/有底型ケースの内径の比が1.2〜1.5倍である第2キンク部を形成しておくことが好ましい。例えば、第2キンク部であればリード部を有底型ケースに挿入後に折り曲げ加工により形成することも可能であるが、挿入後では磁心に不要な応力が掛かる可能性が高く、割れ等の不具合が発生する可能性が高い。なお、折曲部の最大幅とは各キンク部の有底型ケース内径方向の幅である。
【0025】
第1キンク部はケース内壁部に挿入されるものであるから、折曲部の最大幅/有底型ケースの内径の比が1.2を超えて大きいと固定するという点に関しては十分であるが挿入後に内側から磁心を必要以上に圧迫することになるため磁心の破損や圧迫応力により磁気特性の低下を招く。また、折曲部の最大幅/有底型ケースの内径の比が1.0未満であるとケース内壁部にリードが2か所以上接する構造が取れなくなる。また、固定と挿入性のバランスをとると第1キンク部の折曲部の最大幅/有底型ケースの内径の比は1.0〜1.1の範囲が好ましい。なお、磁心に挿入後は第1キンク部の折曲部の最大幅/有底型ケースの内径の比は1になる。
また、第1キンク部の形状はR形状、三角形状、四角形状の少なくとも一種であることが好ましい。挿入性を考慮するとR形状が好ましい。
【0026】
また、第2キンク部は磁心が落下するのを防止するためのものであるため第2キンク部の折曲部の最大幅/有底型ケースの内径の比は1.2〜1.5の範囲が好ましい。1.2未満でも固定は可能であるが振動や落下等の強い衝撃を受けた時に磁心が抜け落ちる可能性がある。一方、1.5を超えると挿入性が悪くなる。リード部は導電性金属で形成されているためばね性を有している。このため1.5以下であれば弱い挿入圧力のみで磁心を挿入させることができる。1.5を超えると強い挿入圧力が必要であり磁心が破損またはリード部が折れ曲がるといった不具合を低減できる。また、第2キンク部は磁心の落下防止と挿入性を有しないといけないためR形状であることが好ましい。
【0027】
また、リード部は、予めブリッジ状(コの字状)に折り曲げ加工が施されていることが好ましい。また、ブリッジ状のリード部には第2キンク部に対抗側にも同様のキンク部が形成されていることが好ましい。ブリッジ状にして両方に第2キンク部を形成しておけば、どちらのリード部も挿入可能となるため方向を問わなくなり挿入工程の機械化に有利である。
【0028】
また、リード部挿入後は、必要に応じ、有底型ケースの解放部に接着剤を塗布、乾燥する工程を行う。予め蓋部の付いたケースを用いるのであれば接着剤を塗布しなくてもよいが別途蓋部を設けることはコスト負担が大きい。そのため、接着剤により蓋部の代わりを代用させるとコストダウンに効果的である。本発明のインダクタンス素子は第1キンク部および第2キンク部により磁心とリード部が固定されているので接着剤を用いたとしても有底型ケースの解放部を覆うように接着剤を塗布するだけで済む。つまり、樹脂モールドのようにケース全体を接着剤で覆う必要がないのでインダクタンス素子の大型化を防ぐことができる。
【0029】
(実施例)
(実施例1〜6、比較例1〜2)
(Co0.94Fe0.05Cr0.0172Si1513からなる磁性薄帯(厚さ18μm)を巻回しトロイダル磁心(トロイダルコア)を形成した。トロイダル磁心のサイズは外径2.8mmφ、内径2.2mmφ、高さ4.5mmとした。
次にPBT樹脂(ウインテックボリマー製2092)からなるケース容器(最外径4mmφ、最内径1.5mmφ、最高さ6.2mm、容器の肉厚0.3mm)にトロイダル磁心を収納した。また、リード部は外径φ1.0mmの銅線を用いた。
さらに第1キンク及び第2キンク部が図3のようにR形状で高さ(折曲部の最大幅)がケース容器内径のそれぞれ1.0倍、1.2倍の形状にしたリードに差し込み接着剤でケース解放部を接着した実施例1を得た。
【0030】
また、図2のように第1キンク形状が三角形状及び第2キンク部がR形状で高さがケース容器内径のそれぞれ1.0倍、1.2倍である実施例2を作製した。更に第1キンク形状が図4のように四角形状及び第2キンク部がR形状で高さがケース容器内径のそれぞれ1.0倍、1.2倍である実施例3を作製した。実施例2および実施例3についてもケース解放部を接着剤で覆う形状とした。
また、比較例1として実施例1において高さがケース容器内径の0.8倍、1.0倍の比較例1を得た。比較例1は第1キンク部の折曲部の最大幅/有底型ケースの内径の比が1.0未満であるためリード部とケース内壁部に常時2か所以上の接点を維持できない構造である。
また、実施例1〜3および比較例1については、第1キンク部の折曲部がケース内壁部の高さLの40〜60%の位置になるように配置した。
【0031】
各実施例および比較例にかかるインダクタンス素子に関し、リードタイムと、素子とリードの斜め率、脱落力を測定した。加工リードタイムについては実施例1を基準(実施例1のリードタイムを1としたとき)としその比率で記載する。コア脱落力はコアをリード方向に押し込み脱落したときの力を測定した。
【0032】
【表1】

【0033】
表から分かる通り、本実施例はリードタイムが短く素子とリードの斜め率も良く、コア脱落力も強い性能をもつ。比較例1のようにR形状が小さいと斜め率、コア脱落力も弱くなる。実施例1はコア脱落力も強く斜め率も良くリードタイムが短く優位である。実施例2はリードタイムは優れるがコア脱落力斜め率共に実施例1に劣る。実施例3はコア脱落力が優れる物のリードタイムがかかる欠点がある。この結果からすると第1キンク部はR形状であることが好ましいと言える。
【0034】
(実施例4〜8)
次に第1キンク部と第2キンク部のサイズを表2に示すように変えた以外は実施例1と同様のものを作製し、同様の測定を行った。表2にその結果を示す。
【0035】
【表2】

【0036】
表から分かる通り、第1キンクの最大幅/ケース内径の比は1.0〜1.2、第2キンク部の最大幅/ケース内径の比は1.2〜1.5の範囲が好ましいことが分かる。
【0037】
(実施例9〜12)
第1キンク部の折曲部の中心点の位置をケース内壁部高さLとの位置を変えたい以外は実施例1と同様のものを用意し、同様の測定を行った。その結果を表3に示す。
【0038】
【表3】

【0039】
表から分かる通り、第1キンクの折曲部の中心点の位置とケース内壁部高さLとの位置はLに対し20〜80%の範囲が良いことが分かる。
【0040】
(実施例13〜16)
有底型ケースサイズ(トロイダル磁心サイズ含む)およびリード径を変える以外は実施例1と同様のものを作製し、同様の測定を行った。その結果を表4に示す。
【0041】
【表4】

【0042】
表から分かる通り、本実施例は様々なサイズの磁心に適用可能であるが、ケース内径とリード外径の差が0.3〜1.0mmの範囲外であるとややデータが悪くなることが分かった。
【0043】
(実施例1b〜16b、比較例1b)
実施例1〜15、比較例1のインダクタンス素子をプリント基板に実装した状態で衝撃試験を実施し磁心の位置ずれ等の不具合有無を確認した。
衝撃試験の条件はプリント基板に実装した状態にて、加速度 981m/s、作用時間6ms、6面、3回試験後、常温に1〜2時間放置した後に測定した。衝撃試験の結果、磁心の脱落があったものを×、斜めになるなどの位置ずれが確認できたものを△、磁心の脱落および位置ずれが共に確認されなかったものを○とした。その結果を表5に示す。
【0044】
【表5】

【0045】
表から分かる通り、本実施例にかかるスイッチング電源では衝撃試験を行ったとしてもインダクタンス素子の落下は確認されなかった。このため信頼性の高いスイッチング電源を提供することが可能である。また、この振動試験の結果からも第1キンク部はR形状であることが良いことが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明のインダクタンス素子の一例を示す図である。
【図2】本発明のインダクタンス素子の一例を示す断面図である。
【図3】本発明のインダクタンス素子の他の一例を示す断面図である。
【図4】本発明のインダクタンス素子の他の一例を示す断面図である。
【図5】本発明のインダクタンス素子の他の一例を示す断面図である。
【図6】本発明のインダクタンス素子の他の一例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0047】
1…インダクタンス素子
2…トロイダル磁心
3…リード部
4…第1キンク部
5…第2キンク部
6…有底型ケース
7…接着材部
8…第2キンク部に対抗する位置にあるキンク部
9…有底型ケースの内壁部に面接触(線接触)している個所
10…折曲部の中心点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トロイダル磁心と、トロイダル磁心を絶縁収納する中空部を有する有底型ケースと、中空部を挿通するリード部を具備するインダクタンス素子において、リード部は中空部の内壁部に2か所以上の接点を有する第1キンク部と、コア下側出口に落下防止のための第2キンク部を持つことを特徴とするインダクタンス素子。
【請求項2】
請求項1記載のインダクタンス素子において、第2キンク部の最大幅/有底型ケースの内径の比が1.2〜1.5倍であることを特徴とするインダクタンス素子。
【請求項3】
請求項1または請求項2のいずれか1項記載のインダクタンス素子において、有底型ケースの形状が外径4〜6mm、内径1〜3mm、高さ4〜10mmであることを特徴とするインダクタンス素子。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項記載のインダクタンス素子において、リード部の外径がφ0.5〜1.5mmのであることを特徴とするインダクタンス素子。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項記載のインダクタンス素子において、第1キンク部はR形状、三角形状、四角形状の少なくとも一種の折曲部を具備していることを特徴とするインダクタンス素子。
【請求項6】
請求項5記載のインダクタンス素子において、折曲部のR形状、三角形状、四角形状の少なくとも1種は、その中心点が有底型ケース内壁部の高さの20〜80%の位置にあることを特徴とするインダクタンス素子。
【請求項7】
請求項5ないし請求項6のいずれか1項記載のインダクタンス素子において、リード部と内壁部が面接触する面接触部が折曲部の上下に存在し、面接触部の合計が有底型ケースの高さの30〜70%であることを特徴とするインダクタンス素子。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれか1項記載のインダクタンス素子において、リード部はブリッジ形状を具備していることを特徴とするインダクタンス素子。
【請求項9】
請求項1ないし請求項8のいずれか1項記載のインダクタンス素子において、有底型ケースの解放部が接着材部で覆われていることを特徴とするインダクタンス素子。
【請求項10】
請求項1ないし請求項9のいずれか1項記載のインダクタンス素子を搭載したことを特徴とするスイッチング電源。
【請求項11】
トロイダル磁心と、トロイダル磁心を絶縁収納する中空部を有する有底型ケースと、中空部を挿通するリード部を具備するインダクタンス素子の製造方法において、
中空部を有する有底型ケースにトロイダル磁心を収納する工程と、
折曲部の最大幅/有底型ケースの内径の比が1.0〜1.2倍の第1キンク部と、最大幅/有底型ケースの内径の比が1.2〜1.5倍の第2キンク部を有数するリード部を中空部に挿入する工程と、
を具備することを特徴とするインダクタンス素子の製造方法。
【請求項12】
折曲部はR形状、三角形状、四角形状の少なくとも一種であることを特徴とする請求項11記載のインダクタンス素子の製造方法。
【請求項13】
中空部に挿入前のリード部はブリッジ形状を具備していることを特徴とする請求項11または請求項12のいずれか1項に記載のンダクタンス素子の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate