説明

インダクタンス素子

【課題】量産性が良く、磁気飽和を誘発することのない、待機電力不要なインダクタンス調整手段を提供する。
【解決手段】コアケースの巻線部11には、隙間161、162を介してコイル21、22が巻かれている。コアケースには軟磁性のトロイダルコアが収容され、コイル21、22に通電することでトロイダルコア内を一周する磁束が生じる。コイル21への通電電流により磁性体コア内に生じる磁束と、コイル22への通電電流により磁性体コア内に生じる磁束が隙間161、162の直近において互いに逆向きとなる場合にはノーマルモードでのインダクタンスが生じ、互いに同じ向きとなる場合にはコモンモードでのインダクタンスが生じる。隙間はコア磁路長の1/6以上でノーマルモードでのインダクタンスが上昇し、隙間をコア磁路長の5/18以下とすることでコモンモードでのインダクタンス低下を抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟磁性コアに巻線を施したインダクタンス素子に関する。
【背景技術】
【0002】
インダクタンス素子としては、例えば特許文献1には、コモンモードノイズを低減するためのノイズフィルタであって、電流に依存することなくノーマルモードノイズの低減効果の低下を抑制することが可能なノイズフィルタを提供するために、第1部分と第2部分とから構成されて環状をなす第1磁性体コア部と、第1磁性体コア部によって形成される開口部を分割する第2磁性体コア部と、第1部分と第2部分とにそれぞれ巻回された一対の信号線と、第2磁性体コア部に巻回された制御線とを備え、第2磁性体コア部には2つの貫通孔が形成されており、第2磁性体コア部は、2つの貫通孔に挟まれた中足部と、第1部分と第2部分との境界部間に延びる一対の共通部とを有し、制御線は中足部に巻回されているノイズフィルタが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−135225号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1記載の技術により、ノーマルモードノイズに対する磁気飽和を防ぐことはできるが、第1磁性体コア部によって形成される開口部を分割する第2磁性体コア部に2つの貫通孔を設けて、巻線を施す作業が必要となり、実際に量産化する際に障害になるという課題がある。また、常に第2磁性体コア部に巻回された制御線により一定の電力が消費され続けてしまい、待機電力が大きい。また、巻線内径部に磁性コアを挿入するため一定の絶縁距離が必要となるが、同時にコイル巻線部分の巻枠を減らす事になり、コモン・ノーマル共に高特性を得にくい課題がある。
【0005】
従って本発明の目的は、量産性が良く、磁気飽和を誘発することのない、待機電力不要なインダクタンス素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するために、軟磁性を持つ磁性体コア、前記磁性体コアを収容したコアケース、前記コアケースに巻回した2つ以上のコイルを備え、前記2つのコイル間の隙間は、前記コアケースに設けた凸部により前記コイルの端部を規制することで設けられ、前記コイル間の隙間は磁路長の1/6以上、5/18以下である各個の前記コイルに通電した際に前記磁性体コア内に生じる磁路は同一であり、互いに隣接する2つのコイルの双方に使用時通電を行った際に、前記2つのコイル間の隙間における前記磁性体コア内に生じる磁束の向きが互いに逆であることを特徴とするインダクタンス素子を提供する。
【0007】
インダクタンス素子としては、磁性体コアにコイルを施したインダクタンスを有する素子、具体的には、チョークコイル、ノーマルモードチョークコイル、コモンモードチョークコイル、トランス等がある。
【0008】
例えばコモンモードチョークコイルで、コモンモードノイズが発生していない場合は、2つのコイルへの通電により互いに逆向きの磁束が磁性体コア内に生じているため、ノーマルモードノイズに対しては抑制作用がない。
【0009】
しかし、2つのコイルの間を磁路長の1/6以上、5/18以下離すことで、2つのコイルの隙間からの漏洩磁束が生じ、ノーマルモードノイズを抑制するインダクタンスを設定することができる。
【0010】
なお、例えばコモンモードチョークコイルにコイルを追加した場合は3個のコイル、複数回路のコモンモードノイズ対策には2の倍数分のコイルが必要となるため、2つ以上のコイルを備えたインダクタンス素子であっても、本発明はその効力を失わない。
【0011】
また、上記説明にあったコモンモードチョークコイルに限らず、例えばコイルに印加された直流重畳電流による磁気飽和を防ぐために、直流重畳電流によって磁性体コア内に生じる磁束を打ち消す方向に発生させるよう、別のコイルに直流電流を印加する、いわゆる磁気バイアスを印加する場合も本発明を適用することができる。
【0012】
また本発明は、上記課題を解決するために、軟磁性を持つ磁性体片を板面に取り付けた磁束調整板をさらに備え、複数の前記隙間のうち、一つの前記隙間と、前記隙間と離れた別の前記隙間とを繋ぐよう、前記コアケースに前記磁束調整板が嵌合されていることを特徴とするインダクタンス素子を提供する。
【0013】
インダクタンスにおける磁性体コアからは若干の漏洩磁束があるため、コアケースに嵌合された磁束調整板により漏洩磁束を誘起し、インダクタンス素子の自己インダクタンスや相互インダクタンスを調整することができる。
【0014】
磁束調整板には磁性体片を粘着により固定するのが望ましい。粘着固定することで、磁性体片を磁束調整板に固定する作業時間を短縮できる。また粘着固定されているので、磁性体片を取り外したり、磁性体片を板面上で切断し、不要な磁性体片の一部を除去することもできる。
【0015】
さらに、磁束調整板を複数の前記隙間のうち、一つの前記隙間と、前記隙間と離れた別の前記隙間とを繋ぐよう、漏洩磁束の経路に沿って磁性体片を配することで、漏洩磁束をさらに誘起し、ノーマルモードのインダクタンスを調整可能とする。
【0016】
また、本発明は、上記課題を解決するために、前記磁束調整板に突起、前記コアケースに係止爪をさらに備え、前記突起と前記係止爪を係合させたインダクタンス素子を提供する。
【0017】
上記着脱可能な機構とすることで、調整したインダクタンスを再度調整することができる。
【0018】
また、本発明は、上記課題を解決するために、前記磁性体片は刃により切断可能であることを特徴とするインダクタンス素子を提供する。
【0019】
カッターや鋏等の刃物を用い、手作業、もしくは切断設備により切断可能な磁性シートを用いることで、目的のインダクタンスに調整するための磁性体片の切除工程での作業性が向上する。
【0020】
また、本発明は、上記課題を解決するために、前記コアケースにおける前記隙間の外周面上、または複数の前記隙間のうち、一つの前記隙間と、前記隙間と離れた別の前記隙間とを繋ぐ仕切板上に前記磁性体片を着脱可能に取り付けたことを特徴とするインダクタンス素子を提供する。
【0021】
漏洩磁束を誘起させるには、磁束調整板を設けずとも、複数の前記隙間のうち、一つの前記隙間と、前記隙間と離れた別の前記隙間とを繋ぐ仕切板上に前記磁性体片を取り付ければよい。漏洩磁束を逆に抑制する場合、例えば、磁束調整板によって過度に漏洩磁束を誘起しすぎた場合などには隙間の外周面上に磁性体片を取り付ければよい。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明のインダクタンス素子の正面図である。
【図2】図1におけるインダクタンス素子のAA線断面図である。
【図3】本発明のインダクタンス素子の組立図である。
【図4】本発明のインダクタンス素子の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の実施形態について、以下説明する。
【0024】
図1は本発明のインダクタンス素子の正面図である。コアケースの巻線部11にはコイル21が巻かれ、コイル21の両端から隙間161、162を介してコイル22も巻かれている。なお、コアケースには軟磁性を有するトロイダルコアが収容されていて、コイル21、22に通電することで軟磁性を有するトロイダルコア内を一周する磁束が生じる、磁路は磁束の経路であるため、同様に軟磁性を有するトロイダルコア内を一周する。コイル21への通電電流により磁性体コア内に生じる磁束と、コイル22への通電電流により磁性体コア内に生じる磁束が隙間161、162の直近において互いに逆向きとなる場合にはノーマルモードでのインダクタンスが生じ、互いに同じ向きとなる場合にはコモンモードでのインダクタンスが生じる。隙間はコア磁路長の1/6以上でノーマルモードでのインダクタンスが上昇し、隙間をコア磁路長の5/18以下とすることでコモンモードでのインダクタンス低下を抑制する。
【0025】
また、コイル21の一端はコアケースに設けた突起である巻回規制部15により規制され、他端も同様にコアケースに設けた突起で規制されている。コイル22両端についても同様に規制されている。
【0026】
また、コイル21の導線の一端は絶縁被覆を除去し、半田めっきなどにより接続端子211としている。接続端子211はコアケースに設けた突起である端子規制部13、14により位置が規制されているため、回路基板への実装の際の位置ずれを規制している。同様にコイル21の導線の他端、コイル22の導線の両端も接続端子とした上で端子規制部により接続端子の位置が規制されている。
【0027】
一方、磁性体片31を取付板3の板面に粘着した磁束調整板を、隙間161と隙間162の間を繋ぐようコアケースに嵌め合わさせる。さらに、取付板3は隙間161、162のコアケース内周面により取付板3の幅方向の位置が規制され、コアケースに設けた突起である取付板規制部12により取付板3の厚み方向の位置が規制されている。なお、取付板3が絶縁体であれば、コイル21とコイル22間の絶縁性が確実に確保できるため、望ましい。
【0028】
図2は図1におけるインダクタンス素子のAA線断面図である。磁性体コア113はコアケース上部111とコアケース下部112により収容されていて、さらにコアケース下部112の底部にはコアケース内周面を繋ぐストッパ121が設けられ、ストッパ121より2本の弾性柱122がコアケース上部に向かうよう立設され、2本の弾性柱122の内側には各々係止爪123が設けられている。
【0029】
一方、取付板は上部に貫通穴32、取付板3両側面下部の係止突起33、幅広の頭部34を設けている。係止突起33はコアケースの係止爪123とにより、一方に 設けた突起に他方に設けたフック部を係合させる構造を備えているため、取付板は繰り返し着脱することが可能である。特に取付板を外す際には、幅広の頭部34を手やピンセットで掴んで引っ張ってもよく、貫通穴32に鉤爪などを引っ掛けて引っ張ってもよい。
【0030】
図3は本発明のインダクタンス素子の組立図である。コイル21の導線の一端の接続端子211、他端の接続端子212は紙面左右すなわちコアケース厚み方向における表裏面に配置されている。コイル22も同様である。
【0031】
磁性体片31、貫通穴32、係止突起33、頭部34を備え、磁性体片31を貫通穴32の下部に設けている磁束調整板は紙面左、すなわちコアケース上部より挿入するが、挿入した際に磁性体片31が磁性体コア中央部に位置するようにすると、磁性体コアからの漏洩磁束を最大限引き出すことができる。
【0032】
また、隙間161、162からの漏洩磁束が多すぎる場合は、図4の本発明のインダクタンス素子の正面図にあるように、例えば隙間161におけるコアケース外周面に磁性体片35を粘着等の手段により取り付けることで、磁性体コアに漏洩磁束を引き戻すことができる。
【0033】
なお、係止突起33とコアケースの係止爪123による係合によらなくとも、磁束調整板をコアケースに粘着するなどの手段により、着脱可能に固定することができる。
【0034】
また、磁性体片としてはフェライト板等を用いてもよいが、例えば磁性粉と柔軟性を持つ結合材を主に含有する磁性シートを用いると、刃物による切断が可能となり、はさみやカッター等で簡単にインダクタンスの調整を行うことができるため望ましい。
【実施例】
【0035】
(実施例1)
図1の構成のインダクタンス素子において、磁束調整板を挿入せず、コイル21およびコイル22を、隙間161の中央部と隙間162の中央部を結ぶ中心線に対してなす角30度すなわち磁路長全体の1/6に渡って巻回規制部15により規制し、インダクタンスを測定したところ、コイル21通電により磁性体コア内に生じる磁束とコイル22通電により磁性体コア内に生じる磁束が互いに同じ向きとなるコモンモードでのインダクタンスは12.4mH、コイル21通電により磁性体コア内に生じる磁束とコイル22通電により磁性体コア内に生じる磁束が互いに反対向きとなるノーマルモードでのインダクタンスは70μHに設定できた。さらに、2Aの直流電流を重畳してノーマルモードでのインダクタンスを測定したところ、直流電流を重畳しない場合のインダクタンスから10%以上低下しなかった。
【0036】
(実施例2)
図1の構成のインダクタンス素子において、磁束調整板を挿入せず、コイル21およびコイル22を、紙面上下方向に対してなす角50度すなわち磁路長全体の5/18に渡って巻回規制部15により規制し、インダクタンスを測定したところ、コモンモードでのインダクタンスは12.4mH、ノーマルモードでのインダクタンスを80μHに設定できた。さらに、2Aの直流電流を重畳してノーマルモードでのインダクタンスを測定したところ、直流電流を重畳しない場合のインダクタンスから10%以上低下しなかった。
【0037】
(実施例3)
図1の構成のインダクタンス素子において、磁束調整板を挿入し、コイル21およびコイル22を、紙面上下方向に対してなす角50度で巻回規制部15により規制し、インダクタンスを測定したところ、コモンモードでのインダクタンスは12.4mH、ノーマルモードでのインダクタンスを実施例2よりも10μH高い90μHに調整できた。さらに、2Aの直流電流を重畳してノーマルモードでのインダクタンスを測定したところ、直流電流を重畳しない場合のインダクタンスから10%以上低下しなかった。
【0038】
(実施例4)
実施例2の構成のインダクタンス素子において、実施例2の磁性体コアより断面積を10%削り、ノーマルモードでのインダクタンスを測定したところ、70μHであった。次に磁束調整板を挿入したところ、ノーマルモードでのインダクタンスを80μHに設定することができた。
【0039】
(実施例5)
実施例2の構成のインダクタンス素子において、実施例2の磁性体コアより断面積を5%削り、ノーマルモードでのインダクタンスを測定したところ、75μHであった。次に磁束調整板を挿入したところ、ノーマルモードでのインダクタンスを85μHに設定することができた。さらに磁束調整板を取り外し、磁性体片の一部を切除し、再度磁束調整板を挿入したところ、ノーマルモードでのインダクタンスを80μHに設定することができた。
【0040】
(比較例1)
図1の構成のインダクタンス素子において、磁束調整板を挿入し、コイル21およびコイル22を、紙面上下方向に対してなす角20度すなわち磁路長の1/9に渡って巻回規制部15により規制し、インダクタンスを測定したところ、コモンモードでのインダクタンスは12.4mH、ノーマルモードでのインダクタンスは60μHであった。
【符号の説明】
【0041】
11 巻線部
111 コアケース上部
112 コアケース下部
113 磁性体コア
12 取付板規制部
121 ストッパ
122 弾性柱
123 係止爪
13、14 端子規制部
15 巻回規制部
161、162 隙間
21、22 コイル
211、212 接続端子
3 取付板
31 磁性体片
32 貫通穴
33 係止突起
34 頭部
35 磁性体片

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟磁性を持つ磁性体コア、前記磁性体コアを収容したコアケース、前記コアケースに巻回した2つ以上のコイルを備え、前記2つのコイル間の隙間は、前記コアケースに設けた凸部により前記コイルの端部を規制することで設けられ、前記コイル間の隙間は磁路長の1/6以上、5/18以下である各個の前記コイルに通電した際に前記磁性体コア内に生じる磁路は同一であり、互いに隣接する2つのコイルの双方に使用時通電を行った際に、前記2つのコイル間の隙間における前記磁性体コア内に生じる磁束の向きが互いに逆であることを特徴とするインダクタンス素子。
【請求項2】
軟磁性を持つ磁性体片を板面に取り付けた磁束調整板をさらに備え、複数の前記隙間のうち、一つの前記隙間と、前記隙間と離れた別の前記隙間とを繋ぐよう、前記コアケースに前記磁束調整板が嵌合されていることを特徴とする請求項1記載のインダクタンス素子。
【請求項3】
前記磁束調整板に突起、前記コアケースに係止爪をさらに備え、前記突起と前記係止爪を係合させたことを特徴とする、請求項2に記載のインダクタンス素子。
【請求項4】
前記磁性体片は磁性粉と柔軟性を持つ結合材を主に含有する磁性シートであることを特徴とする、請求項2から3のいずれかに記載のインダクタンス素子。
【請求項5】
前記コアケースにおける前記隙間の外周面上、または複数の前記隙間のうち、一つの前記隙間と、前記隙間と離れた別の前記隙間とを繋ぐ仕切板上に前記磁性体片を着脱可能に取り付けたことを特徴とする、請求項1から4のいずれかに記載のインダクタンス素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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